説明

懸濁物質分離装置

【課題】吐出圧が強くて配管系への組込みに適した構造をもつ、懸濁物質分離装置を提供する。
【解決手段】懸濁物質分離装置は、管状の空間を有する旋回塔1と、気泡混入手段とを備える。気泡混入手段は、旋回塔の前段に設けられ、旋回塔に導入する気液混合体11を生成するために液体へ気泡を混入させるものである。旋回塔1の外周側面には、旋回塔内に旋回流を生じるための気液混合体11を導入する気液混合体入口2と、旋回流の回転方向に沿った方向に開設された液体出口3とが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気泡および液体に働く遠心力の差を利用して気液混合体から気泡を分離する装置及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水中から懸濁物質を除去して水を浄化する方法として、微細気泡を懸濁物質に吸着させる方法が知られている。当該方法では、気泡と懸濁物質との間に働く疎水性結合力を利用して、気泡と懸濁物質を吸着させ、気泡の浮力を利用して気泡とともに懸濁物質を浮上させる。これにより、水中から懸濁物質を除去して水を浄化することができる。例えば、特許文献1(特開2006−334545号公報)には、被処理液に微細気泡を導入し、微細気泡を懸濁物質に付着させて、懸濁物質を水中から分離する技術が開示されている(特許文献1の第1図参照)。
【特許文献1】特開2006−334545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述の従来技術には次のような問題があった。すなわち、微細気泡を多く含む液体の出口の方向と微細気泡が少ない液体の出口の方向が、上述した従来技術では気液混合体の旋回流における流れの方向に対して垂直な方向になっている。そのため、それぞれの液体の出口で旋回流の流れが阻害されてしまい、液体の流体抵抗が増加する。このため、上述した技術を配管系への組み込むことは難しかった。
【0004】
この発明は、上述の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、吐出圧が強くて配管系への組込みに適した構造をもつ、懸濁物質分離装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に従った懸濁物質分離装置は、管状の空間を有する旋回塔と、気泡混入手段とを備える。気泡混入手段は、旋回塔の前段に設けられ、旋回塔に導入する気液混合体を生成するために液体へ気泡を混入させるものである。旋回塔の外周側面には、旋回塔内に旋回流を生じるための気液混合体を導入する気液混合体入口と、旋回流の回転方向に沿った方向に開設された液体出口とが設けられている。
このようにすれば、旋回流の流れの方向と液体出口の流れの方向が同一であるため、液体出口における流体抵抗を低減でき、配管系への組み込みに適した構成となる。さらに、気泡発生手段を用いて被処理液体中へ気泡を供給することにより、気泡の疎水性結合力を利用して被処理液体中の懸濁物質を気泡に吸着させることができる。なお、当該吸着の原理は次のようなものである。
【0006】
本発明において、被処理液体の溶媒はたとえば有極性の物質であり、具体例としては水などが挙げられる。一方、懸濁物質はたとえば無極性物質である。この場合、両者には互いに反発しあう力が働く。気泡に含まれる空気も無極性物質とみなすことができる。この時、懸濁物質と気泡との間には、懸濁物質と気泡の界面張力と、界面に働く分子間力により、互いに引き付けあう力が働く。これは疎水性結合力と呼ばれる。この疎水性結合力により、懸濁物質を気泡に吸着させることができる。そして、気泡の移動に伴って懸濁物質を一緒に移動させることができる。
【0007】
その後、気泡の比重と液体の比重が異なることから、旋回塔において旋回運動している気液混合体中の気泡に働く遠心力と液体に働く遠心力の大きさの違いを利用して、気液混合体から気泡と液体を分離することができる。これにより、被処理液体中から懸濁物質を効率よく分離することができる。
【0008】
なお、ここで液体出口から流出する液体とは、気泡の割合が少ない気液混合体の意味で用いており、必ずしも気液混合体から気泡が完全に分離された後の液体に限定されず、旋回塔で分離しきれなかった気泡が液体中にある程度残っていてもかまわない。
【0009】
上記懸濁物質分離装置において、気泡混入手段は、気体と前記液体とを内部に保持する容器と、容器を揺動させる揺動手段とを含んでいてもよい。
【0010】
この場合、容器をたとえば機械的に揺動させることにより、容器に入れられている液体も揺動する。この結果、液面が波立ち、波立った液面で巻き込んだ気泡を利用して液体へ気泡を混入することができる。このようにして、気液混合体を生成することができる。そして、たとえば上記容器を旋回塔の外部に設け、旋回塔と配管で接続しておけば、気泡発生器を別途用意する必要がなく、装置が簡便で小型になる。したがって、本発明による懸濁物質分離装置を配管系に組み込みやすくなる。
【0011】
上記懸濁物質分離装置において、気泡混入手段は、気体と前記液体とを内部に保持する容器と、液体の液面よりも上方から他の液体を落下させる落下手段とを含んでいてもよい。
【0012】
この場合、液体の落下手段により、たとえば自由落下や噴流で放出された液体が液面へ落下する時に巻き込んだ気泡を利用して、液体へ気泡を混入して気液混合体を生成することができる。ここで、液面よりも高い位置から自由落下する液体は、位置エネルギーを有する。この液体の位置エネルギーは、落下に伴って液体の運動エネルギーに変換される。この液体の運動エネルギーを利用して液面を叩くことにより、気泡を巻き込むことができる。
【0013】
なお、液面より下方に設置された液体の落下手段(液体を噴出させるノズルなどの噴出手段)から、液面よりも上方へ液体を吹き上げて、液体が液面に落下する時に気泡を巻き込むようにしてもよい。また、落下手段では、液体を液面に向けて噴出させるノズルなどの部材を用いてもよい。この場合、ノズルなどから噴流として放出される液体は、自由落下する液体に比べて、運動エネルギーが増加している。したがって、液面へ落下した時の気泡の巻き込み量を著しく増加させることができる。
【0014】
上記懸濁物質分離装置において、気泡混入手段は、気体と液体とを内部に保持する容器と、固形物を液体の液面よりも高い位置から落下させる固形物落下手段とを含んでいてもよい。
【0015】
この場合、落下前の固形物は、たとえば旋回塔と配管で接続された容器に入れられた液体の液面に対して高い位置にある状態から液面に落下することになる。そのため、落下前の固形物は大きな位置エネルギーを有する。この固形物の位置エネルギーは、落下に伴って固形物の運動エネルギーへと変換される。この固形物は、上記液体とは異なり、液面に衝突したときに変形や飛散をしない。そのため、固形物が液体を叩いた時に運動エネルギーが散逸されず、液体を液面に落下させる場合より気泡の巻き込み量を増加させることができる。
【0016】
上記懸濁物質分離装置において、気泡混入手段は、旋回塔の気液混合体入口に接続された配管に設けられた屈曲部であってもよい。
【0017】
上記懸濁物質分離装置において、気泡混入手段は、旋回塔の気液混合体入口に接続された配管の内壁に設けられた、液体の流れを阻害する突出部であってもよい。
【0018】
この場合、旋回塔に接続された配管を流れる(循環する)液体が、屈曲部や突出部において流れの剥離を起こしたときに発生するキャビテーション気泡を利用して、気液混合体へ気泡を混入することができる。これにより、旋回塔の外部に設けられ、旋回塔と配管で接続された容器において気体と接する液面を形成するといった装置構成を用いることなく、液体へ気泡を混入する(気液混合体を形成する)ことができる。
【0019】
上記懸濁物質分離装置において、旋回塔の断面形状は円形状であってもよい。この場合、旋回流と旋回塔内壁との流体抵抗を低減できる。このため、より少ない動力で旋回塔内に旋回流を発生させることができる。つまり、懸濁物質分離装置において必要な動力を小さくし、エネルギー効率の高い装置を実現できる。
【0020】
上記懸濁物質分離装置において、旋回塔には、旋回塔に導入される気液混合体の最上位の液面よりも上方に気体除去口が開設されていてもよい。この場合、旋回塔内から、分離された気泡に起因する気体を、上記気体除去口を通じて容易に除去することができる。
【0021】
上記懸濁物質分離装置において、旋回塔には、該旋回塔に導入される気液混合体の最下位の液面よりも下方に排液口が開設されていてもよい。この場合、気液混合体として旋回塔に導入された被処理液体から、気泡と共に分離して旋回塔に溜まった懸濁物質を、排液口を通じて除去することができる。
【0022】
上記懸濁物質分離装置において、旋回塔の高さ方向における気液混合体入口と液体出口との間の距離は、旋回塔の高さの1/4以上であってもよい。
【0023】
この場合、気液混合体入口と液体出口との間の距離を大きくすることにより、気液混合体入口から導入された気液混合体が旋回塔内で旋回する回数を十分多くすることができる。この結果、気液混合体が旋回塔内を十分に旋回することにより、比重の小さい気泡と比重の大きい液体とに効率的かつ確実に分離することができる。
【発明の効果】
【0024】
このように、本発明によれば、配管系へ容易に組込むことができる懸濁物質分離装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付し、その説明は繰返さない。
【0026】
(実施の形態1)
図1は、本発明による懸濁物質分離装置の実施の形態1を示す側面模式図である。図2は、図1に示した懸濁物質分離装置の上面模式図である。図1および図2を参照して、本発明による懸濁物質分離装置を説明する。
【0027】
図1および図2を参照して、本実施の形態1の懸濁物質分離装置6は、図1に示すように、管状の空間を有する旋回塔1と、後述する気液混合体を生成するための液体への気泡混入手段7(図3参照)とから構成される。旋回塔1には、下部側面に気液混合体入口2が形成され、上部側面に液体出口3が形成されている。また、旋回塔1には、上部表面に気体除去口4が形成され、底面に排液口5が形成されている。
【0028】
旋回塔1は、その断面形状が円形状であることが望ましい。これにより、旋回流体と旋回塔1の内壁との間の流体抵抗が減少するため、旋回流12の発生が容易になる。よって少ない流量でも旋回流12を発生させることができる。この場合、気泡と液体に働く遠心力の差を利用して、気液混合体11から気泡14を効率的に分離することができる。
【0029】
なお、旋回塔1の断面形状は、円形状以外の形状、たとえば楕円形であっても構わない。この場合でも、旋回塔1の断面形状が多角形状の場合より旋回流体と旋回塔1の内壁との間の流体抵抗が減少するため、比較的少ない流量でも良好に旋回流を発生させることができる。
【0030】
旋回塔1において、気液混合体入口2(混合体入口配管)は、その中心軸が旋回塔1の側面における接線方向に延びるように開設されている。気液混合体11は、気液混合体入口2を通って旋回塔1へ流入し、旋回塔1内部で旋回流12を生じる。気液混合体入口2が旋回塔1の接線方向に開設されていることにより、旋回塔1へ流入する気液混合体11の流れの向きと、旋回塔1内で旋回する旋回流12の流れの向きとが実質的に同じ方向になる。このため、旋回塔1内部での流体抵抗を低減できるため、より少ない流量で旋回流12を発生させることができる。
【0031】
液体出口3は、図2に示すように、旋回塔1内部での旋回流12の回転方向に沿った向きで形成される。具体的には、液体出口3は旋回塔1の側面における接線方向に開設される。気液混合体11から気泡14を分離した後の液体13は、液体出口3を通って旋回塔1から流出する。つまり、液体出口3は、旋回塔1中での旋回流12の流れの方向(回転方向)に沿った方向(たとえば図2に示すような旋回塔1の側面の接線方向)となる向きに開設されているため、回転している旋回流12を滑らかに液体出口3から流出させることができる。従って、液体出口3での流体抵抗を低減し、液体13を勢いよく液体出口3から配管中へ流出させることができる。このため、配管中への組み込みに適した構造の絵懸濁物質分離装置を得ることができる。
【0032】
なお、液体出口3から流出する液体13とは、気泡の割合が少ない気液混合体の意味であり、必ずしも気液混合体11から気泡14が完全に分離された後の液体13に限定されない。すなわち、ここで液体13には、旋回塔1で分離しきれなかった気泡が液体中にある程度残っている液体も含まれる。
【0033】
また、図2では、気液混合体入口2での液体の流れ方向(気液混合体入口2の中心軸)と液体出口3での液体の流れ方向(液体出口3の中心軸)が同じ方向になるように記載されているが、液体出口3の中心軸の方向は旋回流12の回転方向との成す角度が30°以下、より好ましくは15°以下、さらに好ましくは実質的に0°(上記2つの中心軸が同じ方向)であってもよい。そのため、液体出口3の中心軸の方向は気液混合体入口2の中心軸と同じ方向には限定されない。このようにすれば、配管系への組み込みのための懸濁物質分離装置6の設計の自由度を大きくできる。
【0034】
また、旋回塔1の気液混合体入口2及び液体出口3の取り付け位置は、旋回塔1の側面に接する位置から旋回塔1の中心部側へずれていてもよい。この場合、旋回流の発生に必要な流量が若干増加するものの、気液混合体入口2や液体出口3を旋回塔1へ取り付けたとき時の、懸濁物質分離装置6の機械的強度を十分高く維持することができる。
【0035】
また、気液混合体入口2と液体出口3との間の位置関係は、以下のように規定することが好ましい。すなわち、気液混合体入口2を通り、旋回塔1の底面に対して平行な平面と、液体出口3を通り、旋回塔1の底面に対して平行な平面との間の距離(気液混合体入口2と液体出口3との間の距離)をXとし、旋回塔1の一方の底面と他方の底面との間の距離(旋回塔1の高さ)をHとする。この場合、X≧(H/4)という関係を満たすようにすることが好ましい。
【0036】
上記のようにXの値を大きくすることにより、気液混合体入口2から導入された気液混合体11が、旋回塔1内を旋回して比重の小さい気泡14と比重の大きい液体13に十分に分離されることになる。つまり、比重が大きい液体13が液体出口3から吐き出されるまでに、旋回塔1内部を比較的長時間旋回することができるので、遠心力の差を利用して、液体13と気泡14を効率よく分離することができる。
【0037】
旋回塔1において、気体除去口4は、旋回塔1に導入される液体(気液混合体11)の最上位の液面よりも上方の位置に開設されている。例えば、旋回塔1が直立している場合は、旋回塔1の上側の底面(上壁)に気体除去口4を開設することが望ましい。このとき、気体除去口4が旋回塔1の鉛直上向きの最も高い位置に設けられているため、被処理液体としての気液混合体11から懸濁物質を分離した後に旋回塔1内部に溜まった気体を、気体除去口4を通じて完全に除去することができる。
【0038】
なお、気体除去口4は、旋回塔1の内部に溜まった気体を除去可能な位置に開設されていれば、旋回塔1の側面に開設されていてもよい。例えば、旋回塔1が鉛直方向から斜めに傾いている場合は、旋回塔1の側面の最も上側(たとえば鉛直方向において旋回塔1の最も高くなる位置)に開設されていてもよい。これにより、被処理液体から懸濁物質を分離したときに旋回塔1内部に溜まった気体を完全に除去することができる。
【0039】
排液口5は、旋回塔1に導入される液体(気液混合体11)の最下位の液面よりも下方の位置に開設されている。例えば、旋回塔1が直立している場合は、旋回塔1の下側の底面に開設されていてもよい。このとき、排液口5が旋回塔1の鉛直下向きの最も低い位置に設けられているため、被処理液体を浄化した跡に旋回塔1の内部に溜まっている懸濁物質を、排液口5を通じて、完全に除去することができる。
【0040】
なお、排液口5は、旋回塔1の内部に溜まった懸濁物質を除去可能な位置に開設されていれば、旋回塔1の側面に開設されていても構わない。例えば、旋回塔1が鉛直方向から斜めに傾いている場合は、旋回塔1の側面の最も下側(鉛直方向における旋回塔1の最も下側に位置する部分)に設けられていてもよい。これにより、排液口5を介して被処理液体から分離した懸濁物質を完全に旋回塔1中から除去することができる。
【0041】
次に、図3を参照して、図1および図2に示した懸濁物質分離装置6を構成する気泡混入手段7の一例を説明する。図3は、図1および図2に示した懸濁物質分離装置6を構成する気泡混入手段を説明するための模式図である。
【0042】
図3を参照して、懸濁物質分離装置6は、旋回塔1と、旋回塔1と配管31を介して接続される気泡混入手段7とを備える。気泡混入手段7から旋回塔1の気液混合体入口2に接続された配管には、途中に振動吸収部41とポンプ45とが設置されている。また、旋回塔1の液体出口3と気泡混入手段7とを接続する配管31の途中にも、振動吸収部41が配置されている。振動吸収部41としては、たとえば蛇腹状の配管など気泡混入手段7の振動を旋回塔1に伝えないようにする任意の構成を用いることができる。
【0043】
図3に示した気泡混入手段7では、旋回塔1の外部に設けられた容器21に振動発生部材40を設置している。そして、振動発生部材40により容器21を機械的に揺動させることにより、容器21に入れられている液体22を機械的に揺動させる。この結果、液体22の波立った液面24が気泡14を巻き込む。
【0044】
例えば、上述した懸濁物質分離装置6を洗濯機に適用する場合を考える。この場合、洗濯機の洗濯槽の回転やパルセータの回転に伴って機械的振動が生じると、容器21に保持される液体22自身が機械的に振動する。この振動によって液面24には波が発生するため、波立った液面24から気泡14を液体22中へ巻き込むことができる。このようにして、気泡14を液体22に混入させ、気液混合体11として供給することができる。また、洗濯機の動作に起因する振動を利用して気泡14を液体22に混入させることができるので、特別な振動発生部材40などを別途準備する必要が無く、装置構成を簡略化できる。
【0045】
次に、上述した本発明の懸濁物質分離装置6の動作原理を簡単に説明する。まず、気泡混入手段7を用いて、懸濁物質を含む被処理液体(液体22)に気泡14を混入させて、気液混合体11を形成する。気泡14と懸濁物質の間には疎水性結合力が働くことにより、懸濁物質が気泡14に吸着し、気泡の移動に伴って懸濁物質が一緒に移動する。
【0046】
次に、ポンプ45を動作させることにより、気液混合体11を、気液混合体入口2を通じて旋回塔1に導入する。この結果、旋回塔1内部で気液混合体11の旋回流12が発生する。図1に示したように、旋回運動している気液混合体11に含まれる液体13と気泡14には、それぞれ遠心力が働く。比重が大きい液体13に働く遠心力は大きいため、液体13は遠心力によって旋回流12の外側へ押しやられる。そして、気泡14がほとんど除去された液体13は液体出口3を通じて旋回塔1から流出する。
【0047】
一方、比重が小さい気泡14に働く遠心力は小さいため、気泡14は旋回流12の中心に留まる。液体13と気泡14に働く遠心力の大きさの違いを利用することにより、気液混合体11から気泡14と液体13を効率よく分離することができる。そして、気泡14に付着した懸濁物質が旋回塔1の内部に留まることにより、被処理溶液(気液混合体11)から懸濁物質を効率よく分離することができる。
【0048】
被処理溶液である気液混合体11を繰り返し循環させながら、液体13と気泡14に働く遠心力の差を利用して、旋回塔1内で気泡14に付着した懸濁物質の分離を繰返すことにより、被処理液体を浄化することができる。そして、被処理液体の浄化が充分に行われた後に、旋回塔1への気液混合体11の流入を停止する。そして、旋回塔1内部に留まっている懸濁物質を、旋回塔1内部に残っている液体とともに排液口5から排出する。
【0049】
なお、旋回塔1内部に溜まった気体により、旋回塔1内部での気液混合体11の水面の高さが低下していく場合がある。この場合は、気液混合体11の循環を一旦停止し、気体除去口4を通じて旋回塔1の内部から気体を除去する。その後、気液混合体11の循環を再開することにより、被処理液体の浄化を引き続き行うことができる。
【0050】
ここで、上述した懸濁物質分離装置6において良好な気泡分離性能を得るための、旋回塔1の直径D1と、旋回塔1の高さH1との間の好ましい関係は、筆者らの検討では、1≦(H1/D1)≦8という式を満足することである。例えば、D1=50mmの場合は、H1=50mm以上400mm以下である。この理由としては以下のようなものが挙げられる。すなわち、上述した範囲よりH1が大きい場合は、旋回塔1内部での流体抵抗が大きくなって旋回流を発生させるための動力が増加してしまう。また、上述した範囲よりH1が小さい場合は、旋回塔1内部において旋回流が充分に発達しない。
【0051】
また、旋回塔1の直径D1と、気液混合体入口2の直径D2との好ましい関係は、筆者らの検討では、0.1≦(D2/D1)≦0.25である。例えば、D1=50mmの場合は、D2=5mm以上12.5mm以下である。この理由としては以下のようなものが挙げられる。すなわち、上述した範囲よりD2の値が大きい場合は、気液混合体入口2から流入する気液混合体11のうち、旋回流12の流れの方向と異なる流れの方向をもつ気液混合体11の割合が多くなり、旋回流12の発生を阻害してしまう。また、上述した範囲よりD2の値が小さい場合は、気液混合体入口2を通過する気液混合体11の流体抵抗が著しく増加してしまう。
【0052】
また、旋回塔1の直径D1と、液体出口3の直径D3との好ましい関係は、筆者らの検討では、(D3/D1)≧0.1である。何故ならば、この関係を満たさない(つまり旋回塔1の直径D1の0.1倍よりもD3が小さい場合)は、液体出口3における流体抵抗が著しく増加し、旋回塔1における旋回流の発生を妨げてしまうためである。
【0053】
(実施の形態2)
図4は、本発明による懸濁物質分離装置の実施の形態2を示す模式図である。図4を参照して、本発明による懸濁物質分離装置6を説明する。
【0054】
図4に示した懸濁物質分離装置6は、基本的には図3に示した懸濁物質分離装置と同様の構成を備えるが、気泡混入手段7の構成が異なっている。すなわち、本実施形態の懸濁物質分離装置6における気泡混入手段7は、旋回塔1の外部に設けられた容器21と、旋回塔1から供給される液体を容器21内部の液体の液面に落下させる落下手段としての液体の注入手段25容器21への液体の導入配管)とを備える。容器21では、容器21に入れられている液体の液面24よりも上方に設置された液体の注入手段25から、液体26が放出される。放出された液体26が液面24に落下するときに、液体22には気泡14が巻き込まれる。つまり、気泡混入手段7は、旋回塔1の外部に設けられ、旋回塔1と配管で接続され、内部に液体22と気体23とを保持する容器21と、容器21において液体22の液面24よりも高い位置に設置されている液体の注入手段25とから構成される。このようにしても、図3に示した懸濁物質分離装置6を同様の効果を得ることができる。
【0055】
液体の注入手段25は、液面24よりも高い位置に設置されていることから、液体の注入手段25から放出された液体26は、比較的大きな位置エネルギーを有する。この放出された液体26の位置エネルギーは、放出された液体26の落下に伴って、液体26の運動エネルギーに変換される。この放出された液体26の運動エネルギーを利用して液面24を叩くことにより、液面24から気体を巻き込んで気泡14を発生させることができる。これにより、液体22に気泡14を混入し、気液混合体11を得ることができる。
【0056】
液体の注入手段25から放出される液体26としては、液体を加圧することによって勢いよく放出された噴流状の液体を用いることが好ましい。たとえば、液体の注入手段25を構成する配管の液体突出部にノズルを設置する、および当該配管の経路途中に加圧のためのポンプを設置する、などの構成を採用していもよい。この場合、自由落下する液体の場合と比べて、液体の注入手段25から放出された直後の、放出された液体26の運動エネルギーを大きく増加させることができる。このため、液面24へ落下した時の気体の巻き込み量を増加させることができるので、大量に気泡14を発生させることができる。
【0057】
なお、図4では、液体出口3から流出された液体13を液体の注入手段25へ送液し、全体で液体を循環させているが、このような構成以外の構成を用いてもよい。たとえば、容器21内の液体22を直接液体の注入手段25へ別配管などを介して送液し、容器21内部で液体を循環させてもよい。
【0058】
(実施の形態3)
図5は、本発明による懸濁物質分離装置の実施の形態3を示す模式図である。図5を参照して、本発明による懸濁物質分離装置6を説明する。
【0059】
図5に示した懸濁物質分離装置6は、基本的には図4に示した懸濁物質分離装置6と同様の構成を備えるが、気泡混入手段7の構成が異なっている。なお、本実施形態の懸濁物質分離装置6については、説明を具体的にするため、洗濯機へ応用した場合で説明する。
【0060】
本実施形態の懸濁物質分離装置6における気泡混入手段7では、旋回塔1の外部に設けられた容器21において、固形物落下手段によって液面24上から落下する固形物27が、容器21に入れられている液体22の液面24へ落下する際に、液体22に気泡14を巻き込んでいる。気泡混入手段7は、旋回塔1の外部に設けられ、旋回塔1と配管で接続された容器21と、容器21に入れられている液体22と、容器21に入れられている気体23と、容器21内に設けられた固形物27および当該固形物27を液面24に落下させる固形物落下手段とから構成される。
【0061】
落下前の固形物27は、液面24に対して高い位置にあることから比較的大きな位置エネルギーを有する。この固形物27は、流動して飛散し易い液体とは異なり、液面に落下したときに飛散しないため、固形物27が液面24を叩いた時の運動エネルギーが散逸されず、空気の巻き込み量を増加させることができ、大量の気泡14を気液混合体11へ混入させることができる。
【0062】
ここで、固形物27として、例えば、洗濯槽内の衣類や、洗濯機の洗濯槽の突起物であることが望ましい。例えば、容器21が洗濯槽の回転体であり、固形物27が衣類29である場合を図6に示す。図6は、図5に示した気泡混入手段7の具体例の一例を説明するための模式図である。衣類29は、洗濯槽である容器21の回転に伴い、衣類29に働く重力によって、容器21の壁面から引き離されて落下する。落下前の衣類29は液面24に対して高い位置にあることと、衣類29は水を充分に含んでいるために大きな質量を有することと、液体とは異なり、落下時に飛散しないことから、空気の巻き込み量を増加させることができ、大量の気泡14を発生できる。なお、この場合、固形物落下手段は回転可能な選択槽である容器21および容器21を回転させるためのモータなどの駆動部材により構成される。
【0063】
また、例えば、容器21が洗濯槽内の回転体であり、固形物27が回転する容器21の突起物30である場合を図7に示す。図7は、図5に示した気泡混入手段7の具体例の他の例を説明するための模式図である。容器21が回転方向28に示す向きで回転し、容器の突起物30が液面24に当たることにより、空気を大量に巻き込むことができ、大量の気泡14を発生させることができる。この場合、固形物落下手段は、突起物30が形成された回転可能な容器21および容器21を回転させるためのモータなどの駆動部材により構成される。このようにしても、図3に示した懸濁物質分離装置6を同様の効果を得ることができる。
【0064】
(実施の形態4)
図8は、本発明による懸濁物質分離装置の実施の形態4を構成する気泡混入手段を示す模式図である。図8を参照して、本発明による懸濁物質分離装置を説明する。
【0065】
図8に示した気泡混入手段を備える懸濁物質分離装置は、基本的には図4に示した懸濁物質分離装置6と同様の構成を備えるが、気泡混入手段の構成が異なっている。すなわち、本実施の形態における懸濁物質分離装置の気泡混入手段7では、特別な容器などは設けておらず、旋回塔に液体を循環させるための配管系における屈曲部32で気泡を発生させている。すなわち、配管系を循環する液体が、配管31の屈曲部32で流れの剥離を起こすことによってキャビテーション気泡が発生し、このキャビテーション気泡が液体に混入することで気液混合体を形成している。つまり、気泡混入手段7は、旋回塔1に接続された配管31と、配管31の屈曲部32とから構成される。
【0066】
上述した気泡混入手段7の動作原理は、以下のようなものである。すなわt、配管31内を循環する液体22の流速が大きい場合、液体22の流路が急激に曲げられている場所では、流れが流路の壁面の屈曲に追随できず、壁面近傍の流体の速度ベクトル34の方向が壁面から離れる向きになる。この結果、屈曲部32にて流れの剥離が起こる。流れの剥離が起きている場所では、液体22の静圧が液体22の飽和蒸気圧以下となる。このため、当該部分ではキャビテーションが発生し、気泡14が生成する。これにより、気液混合体11へ気泡14を混入することができる。よって、気体と接する液面がなくても、気液混合体11へ気泡14を混入することができる利点がある。
【0067】
(実施の形態5)
図9は、本発明による懸濁物質分離装置の実施の形態5を構成する気泡混入手段を示す模式図である。図9を参照して、本発明による懸濁物質分離装置を説明する。
【0068】
図9に示した気泡混入手段を備える懸濁物質分離装置は、基本的には図8に示した懸濁物質分離装置と同様の構成を備えるが、気泡混入手段7の構成が異なっている。すなわち、図9に示した気泡混入手段7は、旋回塔1に接続された配管31と、配管31の内壁に設けられた障害物としての突起33とから構成される。気泡14は、配管系を循環する液体が、配管31内壁の突起33で流れの剥離を起こすことによって発生したキャビテーション気泡である。
【0069】
また、図9に示した気泡混入手段7では、配管31内を循環する液体22の流速が大きい場合、配管31の屈曲部に限らず、配管31の内壁に突起33がある場所で液体の流れが突起33の表面形状に追随できない場合が発生する。その場合、突起33の下流側の壁面近傍における液体の流れの速度ベクトル34の方向が、壁面から離れる向きになるため、流れの剥離が起こる。これにより、キャビテーション気泡が発生し、液体22へ気泡14を混入することができる。このようにしても、図8に示した気泡混入手段を備える懸濁物質分離装置と同様の効果を得ることができる。
【0070】
図10は、図9に示した気泡混入手段7の変形例を示す模式図である。図10を参照して、図9に示した気泡混入手段7の変形例を説明する。
【0071】
図10に示した気泡混入手段7は、基本的には図9に示した気泡混入手段7と同様の構成を備えるが、突起33ではなく異なる形状の閉塞物35が形成されている点が異なっている。すなわち、図9に示した突起33は断面形状が三角形状であったが、図10に示した閉塞物35は断面形状が四角形状である。このような気泡混入手段7によっても、図9に示した気泡混入手段7と同様のメカニズムにより、閉塞物35がある箇所でキャビテーション気泡が発生するため、気液混合体11へ気泡14を混入することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、配管系へ懸濁物質分離装置を直接組込む構成を採用する装置、たとえば洗濯機などに特に有利に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明による懸濁物質分離装置の実施の形態1を示す側面模式図である。
【図2】図1に示した懸濁物質分離装置の上面模式図である。
【図3】図1および図2に示した懸濁物質分離装置6を構成する気泡混入手段を説明するための模式図である。
【図4】本発明による懸濁物質分離装置の実施の形態2を示す模式図である。
【図5】本発明による懸濁物質分離装置の実施の形態3を示す模式図である。
【図6】図5に示した気泡混入手段7の具体例の一例を説明するための模式図である。
【図7】図5に示した気泡混入手段7の具体例の他の例を説明するための模式図である。
【図8】本発明による懸濁物質分離装置の実施の形態4を構成する気泡混入手段を示す模式図である。
【図9】本発明による懸濁物質分離装置の実施の形態5を構成する気泡混入手段を示す模式図である。
【図10】図9に示した気泡混入手段7の変形例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0074】
1 旋回塔、2 気液混合体入口、3 液体出口、4 気体除去口、5 排液口、6 懸濁物質分離装置、7 気泡混入手段、11 気液混合体、12 旋回流、13,22,26 液体、14 気泡、21 容器、23 気体、24 液面、25 注入手段、27 固形物、28 回転方向、29 衣類、30 突起物、31 配管、32 屈曲部、33 突起、34 速度ベクトル、35 閉塞物、40 振動発生部材、41 振動吸収部、45 ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の空間を有する旋回塔と、
前記旋回塔の前段に設けられ、前記旋回塔に導入する気液混合体を生成するために液体へ気泡を混入させるための気泡混入手段とを備え、
前記旋回塔の外周側面には、
前記旋回塔内に旋回流を生じるための前記気液混合体を導入する気液混合体入口と、
前記旋回流の回転方向に沿った方向に開設された液体出口とが設けられている、懸濁物質分離装置。
【請求項2】
前記気泡混入手段は、
気体と前記液体とを内部に保持する容器と、
前記容器を揺動させる揺動手段とを含む、請求項1に記載の懸濁物質分離装置。
【請求項3】
前記気泡混入手段は、
気体と前記液体とを内部に保持する容器と、
前記液体の液面よりも上方から他の液体を落下させる落下手段とを含む、請求項1に記載の懸濁物質分離装置。
【請求項4】
前記気泡混入手段は、
気体と前記液体とを内部に保持する容器と、
固形物を前記液体の液面よりも高い位置から落下させる固形物落下手段とを含む、請求項1に記載の懸濁物質分離装置。
【請求項5】
前記気泡混入手段は、前記旋回塔の前記気液混合体入口に接続された配管に設けられた屈曲部である、請求項1に記載の懸濁物質分離装置。
【請求項6】
前記気泡混入手段は、前記旋回塔の前記気液混合体入口に接続された配管の内壁に設けられた、前記液体の流れを阻害する突出部である、請求項1に記載の懸濁物質分離装置。
【請求項7】
前記旋回塔の断面形状は円形状である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の懸濁物質分離装置。
【請求項8】
前記旋回塔には、前記旋回塔に導入される前記気液混合体の最上位の液面よりも上方に気体除去口が開設されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の懸濁物質分離装置。
【請求項9】
前記旋回塔には、前記該旋回塔に導入される前記気液混合体の最下位の液面よりも下方に排液口が開設されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の懸濁物質分離装置。
【請求項10】
前記旋回塔の高さ方向における前記気液混合体入口と前記液体出口との間の距離は、前記旋回塔の高さの1/4以上である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の懸濁物質分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−82819(P2009−82819A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255647(P2007−255647)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】