説明

成分量測定方法

【課題】容器内の混合溶液に含まれる特定成分の総量を高精度に測定することができる成分量測定方法を提供する。
【解決手段】スペクトル取得ステップにおいて、容器10の互いに異なる深さ位置それぞれにおいて、光源20から出力された近赤外光L1が容器10内の混合溶液90に照射され、この照射により生じた光(透過光または拡散反射光)のうち容器10の外部へ出射された光L2のスペクトルが分光センサ30により取得される。濃度算出ステップにおいて、その取得されたスペクトルに基づいて、複数の深さ位置それぞれにおける混合溶液90中の特定成分の濃度が求められる。そして、成分量算出ステップにおいて、その求められた複数の深さ位置それぞれにおける混合溶液90中の特定成分の濃度に基づいて、容器10内の特定成分の総量が算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器内の混合溶液に含まれる特定成分の量を測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
容器内の混合溶液に含まれる特定成分の量を測定する発明が特許文献1〜4に開示されている。これらの文献に開示された測定方法では、容器内の混合溶液に光を照射し、その際に生じる光(透過光または拡散反射光)を受光して、その受光した光の強度またはスペクトルに基づいて混合溶液中の特定成分の総量を求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−113441号公報
【特許文献2】特開2006−292474号公報
【特許文献3】特開2009−36746号公報
【特許文献4】特開平5−273124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜4に開示された測定方法では、容器内の混合溶液に含まれる特定成分の総量を正確に測定することができない場合がある。特に、容器が発酵槽であって特定成分がエタノールである場合や、さらにエタノールの原料が糖質原料である場合には、容器(発酵槽)内の特定成分(エタノール)の総量を正確に測定することはできない。
【0005】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、容器内の混合溶液に含まれる特定成分の総量を高精度に測定することができる成分量測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の成分量測定方法は、容器内の混合溶液に含まれる特定成分の総量を測定する方法であって、(1) 容器の互いに異なる複数の深さ位置それぞれにおいて、容器の外部から容器の内部へ近赤外光を入射させ、この近赤外光が容器内の混合溶液に照射されて生じた光のうち容器の外部へ出射された光を受光して、この受光した光のスペクトルを取得するスペクトル取得ステップと、(2) スペクトル取得ステップにおいて取得されたスペクトルに基づいて、複数の深さ位置それぞれにおける混合溶液中の特定成分の濃度を求める濃度算出ステップと、(3) 濃度算出ステップにおいて求められた複数の深さ位置それぞれにおける混合溶液中の特定成分の濃度に基づいて、容器内の特定成分の総量を算出する成分量算出ステップと、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の成分量測定方法では、容器が発酵槽であり、特定成分がエタノールであってもよい。また、エタノールの原料が糖質原料であってもよい。このとき、濃度算出ステップにおいて、スペクトル取得ステップにおいて取得されたスペクトルを二次微分して得られる二次微分スペクトルにおいて波長帯域1600〜1800nmに現れるピークまたはボトムの強度を求め、予め求めておいた当該ピークまたは当該ボトムの強度と特定成分の濃度との関係を表す検量線に基づいて、エタノールの濃度を算出するのが好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、容器内の混合溶液に含まれる特定成分の総量を高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態の成分量測定方法を適用するのに好適な測定装置1の構成を示す図である。
【図2】容器10の窓11〜13の構成例を示す図である。
【図3】容器10の窓11〜13の構成例を示す図である。
【図4】容器10の窓11〜13の構成例を示す図である。
【図5】スペクトル取得ステップにおいて分光センサ30により取得されたスペクトルを示す図である。
【図6】図5のスペクトルを二次微分して得られる二次微分スペクトルを示す図である。
【図7】図6の二次微分スペクトルのうち波長帯域1600〜1800nmの部分を拡大して示す図である。
【図8】二次微分スペクトルにおける波長1689.92nmでのボトム強度とエタノール濃度との関係を示すグラフである。
【図9】容器10の深さ方向の各位置において測定されたエタノール濃度の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
図1は、本実施形態の成分量測定方法を適用するのに好適な測定装置1の構成を示す図である。測定装置1は、容器10,光源20および分光センサ30を備える。容器10内には混合溶液90が容れられる。本実施形態の成分量測定方法は、容器10内の混合溶液90に含まれる特定成分の総量を測定する方法である。
【0012】
容器10は、光源20から出力される光に対して透明な材料(例えば石英ガラス)からなる窓11〜13を有する。窓11〜13は、容器10の互いに異なる深さ位置に設けられている。光源20は、近赤外光L1を出力して、その光L1を窓11〜13の何れかから容器10の内部に入射させる。光源20は、波長帯域1600〜1800nmを含む近赤外光L1を出力するのが好適である。分光センサ30は、光源20から出力された近赤外光L1が容器10内の混合溶液90に照射されて生じた光(透過光または拡散反射光)のうち容器10の外部へ出射された光L2を受光して、この受光した光のスペクトルを取得する。
【0013】
光源20および分光センサ30の組は窓11〜13それぞれに対応して個別に設けられてもよい。また、1組の光源20および分光センサ30が窓11〜13それぞれに順次に移動して、各窓においてスペクトルを取得するようにしてもよい。
【0014】
図2〜図4それぞれは、容器10の窓11〜13の構成例を示す図である。ここでは窓11〜13のうち代表して窓11の構成を示すが、他の窓12,13についても同様である。
【0015】
図2に示される構成例では、光源20から出力された光L1は窓11を通過して容器10内の混合溶液90に照射され、この照射に伴い混合溶液90で生じた拡散反射光L2は窓11を通過して分光センサ30により受光される。
【0016】
図3に示される構成例では、光源20から出力された光L1は窓11を通過して容器10内の混合溶液90に照射され、この照射光のうち混合溶液90を透過した光L2は窓11を通過して分光センサ30により受光される。
【0017】
図4に示される構成例では、光源20から出力された光L1は窓11を通過して容器10内の混合溶液90に照射され、この照射光のうち混合溶液90を透過して反射部40で反射された光L2は再び混合溶液90および窓11を通過して分光センサ30により受光される。
【0018】
本実施形態の成分量測定方法は、容器10内の混合溶液90に含まれる特定成分の総量を測定する方法であって、スペクトル取得ステップ,濃度算出ステップおよび成分量算出ステップを備える。
【0019】
スペクトル取得ステップでは、容器10の互いに異なる深さ位置に設けられた窓11〜13それぞれにおいて、光源20から出力された近赤外光L1は、容器10の外部から容器10の内部へ入射され、容器10内の混合溶液90に照射される。そして、この照射により生じた光のうち容器10の外部へ出射された光L2は、分光センサ30により受光されてスペクトルが取得される。
【0020】
濃度算出ステップでは、その取得されたスペクトルに基づいて、複数の深さ位置それぞれにおける混合溶液90中の特定成分の濃度が求められる。このとき、取得されたスペクトルを波長で二次微分して得られる二次微分スペクトルに基づいて、複数の深さ位置それぞれにおける混合溶液90中の特定成分の濃度が求められるのが好適である。そして、成分量算出ステップでは、その求められた複数の深さ位置それぞれにおける混合溶液90中の特定成分の濃度に基づいて、容器10内の特定成分の総量が算出される。
【0021】
以下では、容器10が発酵槽であり、混合溶液90中の測定対象である特定成分がエタノールであり、エタノールの原料が糖蜜等の糖質原料である場合について、スペクトル取得ステップ,濃度算出ステップおよび成分量算出ステップそれぞれの具体的な実施例を説明する。
【0022】
図5は、スペクトル取得ステップにおいて分光センサ30により取得されたスペクトルを示す図である。図6は、図5のスペクトルを二次微分して得られる二次微分スペクトルを示す図である。図7は、図6の二次微分スペクトルのうち波長帯域1600〜1800nmの部分を拡大して示す図である。これらの図には、混合溶液中のエタノール濃度が0.24%〜4.4%の範囲内の各値である場合についてスペクトルまたは二次微分スペクトルが示されている。
【0023】
分光センサ30により取得されたスペクトル(図5)は、発酵液特有の形状を有しており、また、混合溶液中のエタノールの濃度に依存した形状を有している。二次微分スペクトル(図6,図7)では、装置や試料の状態および測定条件・環境などの外乱によるノイズが取り除かれている。特に、二次微分スペクトルでは、エタノール濃度に相関のある波長帯域1600〜1800nmに現れるピークまたはボトム(特に波長1689.92nmのボトム)の位置が見やすくなっている。
【0024】
図8は、二次微分スペクトルにおける波長1689.92nmでのボトム強度とエタノール濃度との関係を示すグラフである。同図には、10個の測定値が示されている他、これらの測定値を近似する直線も示されている。ボトム強度yはエタノール濃度xに対して下記(1)式の近似式で表される。濃度算出ステップの処理前に、このような近似式が検量線として求められる。
y=−0.0003x+0.0019 (R2=0.9527) …(1)
【0025】
濃度算出ステップでは、二次微分スペクトルにおいて波長1689.92nmに現れるボトムの強度yが求められ、予め求めておいたボトム強度yとエタノール濃度xとの関係を表す検量線(上記(1)式)に基づいて、エタノールの濃度xが算出される。また、容器(発酵槽)10の互いに異なる複数の深さ位置それぞれにおいてエタノールの濃度が算出されることで、容器10の深さ方向のエタノール濃度分布が得られ、容器10内のエタノールの総量が算出される。
【0026】
図9は、容器10の深さ方向の各位置において測定されたエタノール濃度の一例を示すグラフである。同図には、4個の測定値が示されている他、これらの測定値を近似する直線も示されている。同図に示される例では、エタノール濃度yは深さ位置xに対して下記(2)式の近似式で表される。同図の例では、平均エタノール濃度が5.5%であるので、容器(発酵槽)10内の混合溶液(発酵液)90の量に5.5%を乗じることにより、混合溶液(発酵液)90中のエタノールの総量を求めることができる。
y=−2x+8.5 (R2=0.9524) …(2)
【0027】
仮に唯1点の深さ位置でエタノール濃度を測定する場合、その深さ位置によってエタノール濃度測定値が2%であったり8%であったりして、混合溶液90中のエタノールの総量を正確に求めることができない場合がある。これに対して、本実施例では、複数の深さ位置それぞれにおけるエタノール濃度を求めて、これらに基づいて容器10内の混合溶液90中のエタノールの総量を算出するので、エタノールの総量を高精度に測定することができる。
【0028】
以上のように、本実施形態の成分量測定方法では、スペクトル取得ステップにおいて、容器10の互いに異なる深さ位置それぞれにおいて、光源20から出力された近赤外光L1が容器10内の混合溶液90に照射され、この照射により生じた光(透過光または拡散反射光)のうち容器10の外部へ出射された光L2のスペクトルが分光センサ30により取得される。濃度算出ステップにおいて、その取得されたスペクトルに基づいて、複数の深さ位置それぞれにおける混合溶液90中の特定成分の濃度が求められる。そして、成分量算出ステップにおいて、その求められた複数の深さ位置それぞれにおける混合溶液90中の特定成分の濃度に基づいて、容器10内の特定成分の総量が算出される。このようにすることで、容器10内の混合溶液90に含まれる特定成分の総量が高精度に測定され得る。
【0029】
また、本実施形態の成分量測定方法では、濃度算出ステップにおいて、スペクトル取得ステップにおいて取得されたスペクトルを二次微分して得られる二次微分スペクトルにおいて特定波長帯域に現れるピークまたはボトムの強度が求められ、予め求めておいた当該ピークまたは当該ボトムの強度と特定成分の濃度との関係を表す検量線に基づいて特定成分の濃度が算出されることにより、容器10内の混合溶液90に含まれる特定成分の総量が更に高精度に測定され得る。
【符号の説明】
【0030】
1…測定装置、10…容器、11〜13…窓、20…光源、30…分光センサ、40…反射部、90…混合溶液、L1…入射光、L2…出射光。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内の混合溶液に含まれる特定成分の総量を測定する方法であって、
前記容器の互いに異なる複数の深さ位置それぞれにおいて、前記容器の外部から前記容器の内部へ近赤外光を入射させ、この近赤外光が前記容器内の混合溶液に照射されて生じた光のうち前記容器の外部へ出射された光を受光して、この受光した光のスペクトルを取得するスペクトル取得ステップと、
前記スペクトル取得ステップにおいて取得されたスペクトルに基づいて、前記複数の深さ位置それぞれにおける前記混合溶液中の前記特定成分の濃度を求める濃度算出ステップと、
前記濃度算出ステップにおいて求められた前記複数の深さ位置それぞれにおける前記混合溶液中の前記特定成分の濃度に基づいて、前記容器内の前記特定成分の総量を算出する成分量算出ステップと、
を備えることを特徴とする成分量測定方法。
【請求項2】
前記容器が発酵槽であり、前記特定成分がエタノールである、
ことを特徴とする請求項1に記載の成分量測定方法。
【請求項3】
前記エタノールの原料が糖質原料であり、
前記濃度算出ステップにおいて、前記スペクトル取得ステップにおいて取得されたスペクトルを二次微分して得られる二次微分スペクトルにおいて波長帯域1600〜1800nmに現れるピークまたはボトムの強度を求め、予め求めておいた当該ピークまたは当該ボトムの強度と前記特定成分の濃度との関係を表す検量線に基づいて、前記エタノールの濃度を算出する、
ことを特徴とする請求項2に記載の成分量測定方法。


【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−113617(P2013−113617A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257820(P2011−257820)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】