説明

成形された部材を補強するための繊維ガラスヤーンをベースとする織布

本発明による織布(1)は、高強度ヤーンをベース、特に繊維ガラスヤーンをベースとするものであり、樹脂トランスファ成形(RTM)によって成形される補強部材のために使用されるものであり、緯方向に配置されていて経糸(2)に対して垂直ではない糸(3)を備えて成るものである。当該織布は、T・D/T・Dの比率が0.2〜0.8であることを特徴としており、この場合、Tは経糸(2)番手(線密度)であり、Tは緯糸(3)番手(線密度)であり、Dは単位長さ当たりの経糸(2)の数であり、Dは単位長さ当たりの緯糸(3)の数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、技術的なテキスタイルの分野に関する。より正確には、本発明は、成形によって、より正確には樹脂トランスファ成形(RTM)技術を使用して製造された成形品のための補強部材を形成するために使用されるテキスタイルに関する。
【0002】
本発明は、より正確には多軸補強部材、すなわち少なくとも3つの方向に配向された糸を有する補強部材の生産に関する。
【背景技術】
【0003】
一般的に言えば、RMTを使用することによって得られた部材は、一体的なテキスタイル補強部材の構造によって規定される機械的強度を有している。このことは、何故、いわゆる「多軸」(“multi-axial”)補強部材、すなわち少なくとも3つの好ましい強度方向を有する部材を使用することが好ましいのかという理由である。実際、そのような補強部材は、非方向性補強部材又はそれどころか垂直な経糸及び緯糸の製織によって製造された二方向性補強部材よりも良好な剛性を付与するものである。
【0004】
目下、幾つかのタイプの多軸補強部材が提案されている。特に、特許文献1には、非垂直な経糸及び緯糸を備えて成る織布が開示されている。経糸及び緯糸の非垂直な傾斜は、有杼織機(シャットル織機)の出口におけるオフセット変位巻回(offset winding)によって得られる。この作業を可能にするには、一般に、布が巻き上げられる前に当該布の変形を可能にするために、経糸が緯糸と比較して著しく細いことが必要である。この場合、前記布の2つの層を重ね合わせることによって複数の強化方向を組み合わせ、緯糸を経糸の共通の方向に対して対称に配置することが可能である。この組立体は、次いで、3方向補強部材を得るために比較的に重い経糸を備えて成る布に関連付けられる。これら様々な層から成るアセンブリは、縫製又はボンディングによって得ることができる。
【0005】
しかしながら、このタイプの補強部材は、ある種の欠点を有している。事実、3方向補強部材を生産するには、3つの異なる層を組み立てることが必要であり、これにより、製造は比較的に時間がかかり、ひいては費用がかかってしまう。得られた補強部材は、さらに、比較的に大きい厚さを有しており、このことは後続の成形作業を、特に樹脂拡散問題のために中断させることがあり得る。さらに、こうして得られた補強部材はそれゆえに、複数個の層を備えて成っており、これらの層はそれぞれ所与の軸線に沿った当該層自体の機械的強度に寄与するものである。換言すれば、剛性の方向は、補強部材の厚さにわたって均一ではない。
【0006】
さらに、公知の技術を使用して生産された他のタイプの補強部材は、「交差貼り合わせ」(crossply)と呼ばれている。これらの布は2つのセットのヤーンを重ね合わせることによって得られ、両ヤーンは同じ番手を有していてよく、多方向パーンワインダ(multidirectional pirn winder)によって配置される。より乱れておらず単に重ね合わせられたヤーンのこれら様々なセットは、次いで、マリモと呼ばれる技術を使用する縫製作業によって互いに接合される。これらのいわゆる交差貼り合わせ補強部材は、当該補強部材が、唯一の縫製作業によって関連付けられる異なる配向を有する糸を含有する点において、有用である。それにも拘わらず、これら様々な層が互いに上下に位置付けられるという事実は、剛性の配向が補強部材の厚さにわたって均一ではないということを意味する。さらに、かつ特に、様々な層同士の縫合は、補強部材の変形能力を著しく制限してしまい、ひいては、複雑な幾何学的形状を有する部材又は、より一般的には、スロープ状の著しい中断部を有する部材を生産するために当該層が使用されることを妨げるものである。
【0007】
さらに、特許文献2には、布をベースとする補強部材が開示されており、前記布の緯糸は、経糸に対して非垂直な配向を有している。予め決定された方向における機械的性質を改良することが意図されたこのタイプの補強部材は、変形能力に関しては満足のゆくものではない。
【特許文献1】欧州特許出願公開第0,193,479号明細書
【特許文献2】米国特許第4,055,679号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的のうちの1つは、限られた数の製造段階で生産され得るRMT成形品のための補強部材を提供することである。別の目的は、補強部材であって、当該補強部材自体にわたって分布させられた多軸剛性を有する補強部材を得ることである。さらに別の目的は、高い基本重量を有する補強部材を得ることを可能にし、しかも、これを達成するために必要とされる層の個数は増加されないようにすることである。本発明の別の目的は、高い補剛能力と後続の成形作業中の良好な変形能力とを併せ持つ補強部材を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、繊維ガラスヤーン又は、より一般的には、樹脂トランスファ成形(RTM)によって成形される補強部材のために使用されるアラミド又はカーボン・ヤーンのような高靱性ヤーンをベースとする織布に関する。当該織布は、緯方向において、経糸に対して垂直ではない糸を備えて成っている。
【0010】
本発明によれば、当該織布は、
【数1】

の比率が、0.2〜0.8であり、この場合、
が経糸番手(線密度)であり、
が緯糸番手(線密度)であり、
が単位長さ当たりの経糸の数であり、
が単位長さ当たりの緯糸の数であることを特徴とする。
【0011】
換言すれば、本発明は、補強部材を形成するために、先行技術とは対照的に比較的に高い番手(線密度)を有する経糸を備えて成っている織布を使用することを含むものである。この方式により、緯糸だけでなく経糸も高い番手(線密度)を有する布を製織によって生産することが可能であることが判った。
【0012】
換言すれば、本発明による布は、経方向で、当該布層の基本重量の15〜45%を計上する糸を備えて成っている。これは、欧州特許出願公開第0,193,479号明細書に記載の布のような、垂直ではない緯糸及び経糸を備えた織布に観察される割合よりも、はるかに高い割合を意味する。従来の知見にも拘わらず、そのような布を、経糸と緯糸との間の非垂直な傾斜を得るために有杼織機の出口で変形させることが可能であることが観察された。
【0013】
前記変形は、所定の組織パターンによって、特に綾織群の組織、特に2/2の綾又は3/1の綾が使用される事例において容易化され得る。
【0014】
この方式により、上記のような少なくとも2つの布層同士を関連付けることによって、かつこれらを互いに上下に位置付けることによって、補強部材を生産することが可能である。これら2つの層は、当該2つの層の経糸同士が平行になるように、しかも緯糸同士が1つの層から次の層まで経糸の方向に対して対称な傾斜を有するように、関連付けられている。この方式により、少なくとも3つの方向で有意な剛性を有する補強部材が得られる。互いに重ね合わされた2つの層の経糸がそれぞれ経方向における機械的強度に寄与することに留意することが、重要である。換言すれば、各層は経方向における総合強度に寄与する。換言すれば、経方向における機械的強度は、当該補強部材の厚さにわたって分配されている。
【0015】
同様に、交差貼り合わせタイプの構造とは対照的に、3つの方向に配向された糸は、当該補強部材の外面にアクセスすることが可能であって、ひいては、成形中に樹脂を保持し得るようになっている。
【0016】
実際に、生産したいと考える当該補強部材のタイプに応じて、任意の個数の層を結合することが可能である。したがって、経糸に対する緯糸の傾斜が約60°である、互いに重ね合わされた2つの層同士を結合することが可能である。本事例では、規定された前記
【数2】

の比率は、実質的に0.3〜0.8の範囲となる。該比率は好ましくは約0.5である。換言すれば、当該補強部材の基本的な層のそれぞれにおいて、経糸は、基本的な層の全基本重量の実質的に25〜45%を計上し、好ましくは該基本重量の3分の1を計上する。2つの基本的な層同士が補強部材全体を形成するために関連付けられている場合、各層は、経方向における強度の半分を提供する。したがって、経糸及び緯糸の、60°離間したそれぞれの方向における基本重量は、実質的に同一である。
【0017】
3つの基本的な層同士を、4方向補強部材を形成するために関連付けることも可能である。本事例では、2つの外部の層が、経糸に対して傾斜させられている緯糸を有している。これら2つの外部の層は、経糸及び緯糸が垂直である1つの織布層をサンドイッチ式に挟み込むものである。本事例では、外部の層のそれぞれは、規定された前記
【数3】

の比率が0.2〜0.8であり、実質的には約0.33である。基本的な層の全基本重量からすれば、これは経糸が15〜45%、好ましくは約25%を計上することを意味するに等しい。したがって、もし前記外部の層が45°で配向された緯糸を有しているならば、これにより、対称な4軸補強部材が生産される。このように関連付けられた3つの層は、有利には、当該補強部材の全剛性のおおよそ3分の1を提供する。
【0018】
実際には、層は、異なる方式で、特に縫製又はボンディングによって、当該補強部材を形成するために組み立てられていてよい。ボンディングの好ましい事例では、理想的には、ボンディング剤として成形工程において使用される化学的性質と同じ化学的性質を有する材料が使用される。事実、本事例では、当該補強部材の変形能力は最適化されている。なぜならば、成形中、ボンディング剤は軟化作用を有し、様々な層同士が相互に相対変位することを可能にするからである。
【0019】
本発明の実施の形式及び結果として得られる利点は、添付の図面が参照される以下の実施例の説明から、より明白になるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1に示された布は、繊維ガラスをベースとする経糸(2)及び緯糸(3)の製織によって生産された布(1)である。実際には、経糸のために使用されたヤーン(又は粗糸)(2)は、300〜2400テックスの番手を有している。0.5〜2糸/cmが存在する。緯方向では、使用された糸(又は粗糸)(3)は、より大きい番手、典型的には600〜4800テックスのオーダの番手を有している。おおよそ0.4〜2.5糸/cmが存在する。実際には、センチメートル当たりの糸の数は変形前に確定されたものであり、かつ変形後に得られた糸のセットにおける観測値は、傾斜の角度に依存して三角方程式によって推論される。
【0021】
図1に示された例では、経糸と緯糸とは互いに60°の角度を成しているが、この傾斜は異なっていてよく、補強部材を形成するために関連付けられる層の個数に依存して選択される。
【0022】
したがって、図2に示された例では、補強部材(10)は、関連付けられた2つの相似の層を備えて成っている。これら2つの層(11,12)同士は、その経糸(13,14)の方向が絶対的に同一となる(それゆえ、基準方向としての当該経糸の方向に対して0°を成す)ように接合されている。この方式により、上位の層(11)の緯糸(15)(基準方向に対して−60°)は、経方向(13,14)に関して下位の層(12)の緯糸(16)(基準方向に対して+60°)と対称である。こうして生産されたアセンブリは、互いに60°を成すようにオフセット変位されている3つの方向における対称な3軸構造を有している。
【0023】
図3には、3つの異なる層(21,22,23)によって形成された補強部材の別の実施形態が示されている。外部の層(21,23)は経糸と緯糸とが互いに45°の角度を成すように製織することによって形成されている。これら2つの層(21,23)は、上位の層(21)の緯糸(24)(基準方向に対して−45°)が経糸(26)の共通の方向に関して下位の層(23)の緯糸(25)(基準方向に対して+45°)と対称になるように、配向されている。これら2つの層(21,23)は、従来式の製織、すなわち、縦糸(27)と横糸(28)とが直角(基準方向に対して0°及び90°)を成す製織によって形成された中位の層(22)によって分離されている。
【0024】
特別な実施形態では、上位の層(21)の経糸(26)は1200テックスの番手を有しており、かつ2.55糸/cmが存在する。この方式では、上位の層の経糸(26)は約305g/mの基本重量を有している。緯糸(24)は4800テックスの番手及び1.90糸/cmの密度を有しており、それゆえ、916g/mのオーダの基本重量を計上する。したがって、経糸(26)は、上位の層(21)の基本重量のほぼ4分の1を計上する。下位の層(23)は上位の層(21)と同じ構成を有しているが、45°の対頂角を成すように対称に配向されている。
【0025】
中位の層(22)は、2.50糸/cmの密度を備えた1200番手を有する経糸(27)を備えて成っており、これは300g/mのオーダの経糸基本重量に相当する。緯糸(28)は4800テックスの番手を有しており、かつ1.90糸/cmが存在する。これは912g/mの基本重量に相当する。
【0026】
様々な層(21,22,23)がボンディング剤(30,31)のフィルムによって互いに関連付けられている。ボンディング剤は、典型的には1つの層につき5g/mの割合まで塗布されるエポキシ樹脂粉体又はポリエステル樹脂粉体をベースとする。補強部材の外部の単数又は複数の面は、さらに、前記層(30,31)と同じ樹脂を有していてもよく、これにより、他の補強部材との高温圧接ボンディングが可能になる。
【0027】
補強部材全体(20)は3600g/mのオーダの基本重量を有している。該基本重量は、経糸の方向に対して0°、+45°、+90°及び−45°に配向された糸に関してはおおよそ910g/mである。経方向に対して平行な糸が補強部材の3つの層にわたって分配されていることに留意されたい。
【0028】
本発明が、要求される層の個数は先行技術による解決手段において必要とされる個数よりも少ないとはいえ、幾つかの好ましい方向の剛性を有するという利点を備えていることは、上記説明から明白である。さらに、本発明は、特に高温での予備成形中に、高度に変形可能である。事実、層同士の間のボンディング用樹脂の(120°Cの温度までの)加熱による軟化は、補強部材の層同士が相互に滑り合うことを可能にし、かつ各層は個別に変形可能であり、これにより、全補強部材が容易に変形可能になることが保証される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に従って生産された基本的な層の上面図である。
【図2】図1における層と相似の2つの層によって形成された補強部材の上面図である。
【図3】図1における層と相似である外部の層を有する、3つの層が組み込まれた補強部材の、前記図と相似の図示による図である。
【符号の説明】
【0030】
1 布
2 経糸
3 緯糸
10 補強部材
11,12 層
13,14 経糸
15 緯糸
16 緯糸
21,22,23 層
24 緯糸
25 緯糸
26 経糸
27 経糸
28 緯糸
30,31 ボンディング剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高靭性ヤーン、特に繊維ガラスヤーンをベースとする織布(1)であって、樹脂トランスファ成形(RTM)によって得られる補強部材のために使用されており、かつ緯方向に配置されていて経糸(2)に対して垂直ではない糸(3)を備えて成っている形式のものにおいて、
【数1】

の比率が、0.2〜0.8であり、この場合、
が経糸(2)番手(線密度)であり、
が緯糸(3)番手(線密度)であり、
が単位長さ当たりの経糸(2)の数であり、
が単位長さ当たりの緯糸(3)の数であることを特徴とする織布。
【請求項2】
経糸(2)に対する緯糸(3)の傾斜が30°〜80°であることを特徴とする、請求項1記載の織布。
【請求項3】
組織が綾織タイプ、特に2/2の綾であることを特徴とする、請求項1記載の織布。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項記載の少なくとも2つの織物層によって形成された補強部材(10)であって、前記層が互いに上下に位置付けられた層(11,12)であり、これらの層の経糸(13,14)が、1つの層(11)から別の層(12)まで平行であり、これらの層の緯糸(15,16)が、1つの層から別の層まで、経糸(13,14)の方向に対して対称な傾斜を有している補強部材。
【請求項5】
当該補強部材が、互いに上下に位置付けられた2つの層を備えて成っており、各層は、
【数2】

の比率が0.3〜0.8、好ましくは約0.5であることを特徴とする、請求項4記載の補強部材(10)。
【請求項6】
経糸(13,14)に対する緯糸(15,16)の傾斜が約60°であることを特徴とする、請求項5記載の補強部材(10)。
【請求項7】
当該補強部材が、互いに上下に位置付けられた3つの層(21,22,23)を備えて成っており、このうち2つの層(21,23)は、経糸(26)に対して傾斜させられている緯糸(24,25)を有した請求項1記載の層であり、かつ1つの層(22)は、垂直な経糸(27)及び緯糸(28)を備えた繊維ガラスヤーンをベースとした織布の層であり、前記層(21,23)のそれぞれは、
【数3】

の比率が0.2〜0.8、好ましくは約0.33であることを特徴とする、請求項4記載の補強部材(10)。
【請求項8】
傾斜させられた層(21,23)の緯糸(24,25)が、約45°の傾斜を有していることを特徴とする、請求項7記載の補強部材。
【請求項9】
前記層同士がボンディングによって組み立てられていることを特徴とする、請求項4記載の補強部材。
【請求項10】
ボンディングが、成形工程において使用される化学的性質と同じ化学的性質を有する材料を使用して得られていることを特徴とする、請求項9記載の補強部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−514876(P2007−514876A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544516(P2006−544516)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【国際出願番号】PCT/FR2004/050658
【国際公開番号】WO2005/061769
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(506194450)
【Fターム(参考)】