説明

成形同時転写用ポリエステルフィルム

【課題】 成形性および転写性に優れ、特に深絞り性、被転写体の表面形状への追従性に優れた成形同時転写用ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 ジカルボン酸成分、脂肪族または脂環式のジオール成分および数平均分子量が300〜4000であるポリアルキレンエーテルグリコール成分を主たる構成成分とするポリエステルフィルムであり、当該フィルムの縦および横方向のヤング率が0.1〜3.5GPa、厚み方向の屈折率(nα)が1.49〜1.55であることを特徴とする成形同時転写用ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性および転写性に優れた成形同時転写用ポリエステルフィルムに関し、特に深絞り性、被転写体の表面形状への追従性に優れた成形同時転写用ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、射出成形等において成形と同時に転写印刷するインモールド成型用の転写箔として、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルムや塩化ビニル系樹脂のフィルムをベースフィルムとして用い、ベースフィルムの表面に離型層を設け、さらにその上に印刷層を塗工した積層フィルムが用いられている。
【0003】
インモールド成形転写に用いられる積層フィルムは、成形転写の後に離型層面と印刷層面との間で分離される。すなわち、成形転写の後に印刷層は成型品の表面に接着して製品として取り出され、離型層はベースフィルムに積層した状態で成形後に取り除かれる。
【0004】
このような転写法は、家庭用電化製品、自動車内装品、台所用品、化粧容器、玩具類などに使用されるプラスチック成型品に用いられる。特に、ベースフィルムとしてポリエステルフィルムを用いた転写箔が種々提案されている。例えば、成形応力が特定の範囲のポリエステルフィルム(例えば、特許文献1参照)、イソフタル酸を特定の割合で共重合したフィルム(例えば、特許文系2参照)、特定の面配向度のポリエステルフィルム(例えば、特許文献3参照)などが知られている。
【0005】
ところが近年、上記プラスチック成型品に対して、その意匠性や居住性等に関する消費者ニーズが多様化し、特に深絞り度の高い、立体曲面構造の表面仕上げが望まれる傾向が強くなっている。
【0006】
このような深絞り度が高く複雑な形状の成型品に、上記のようなポリエステルをベースフィルムとするインモールド成形転写用の転写箔を用いると、ポリエステルフィルムの伸びが不十分なために、成形工程においてフィルムの破れが頻発し、転写が事実上不可能となる。したがって、ポリエステルフィルムを用いた転写箔は、底が浅く、かつ単純な形状の金型を用いた成形転写おいてのみ使用されるのが現状である。
【0007】
一方、塩化ビニル系樹脂フィルムをベースフィルムに用いた転写箔の場合は、深絞り度が高く、複雑な形状の成型品に対する成形性は優れているが、ポリエステルフィルムに比べてフィルムの平滑性に劣り、またフィルム表面や内部に存在する粗大異物も多いために、鮮明な転写印刷ができない欠点がある。
【0008】
さらに、成型品の形状は近年多種多様となり、上記の深絞り性を必要とする成形転写の需要は増加の一途をたどっている。転写箔のベースフィルムとしてポリエステルフィルムの平滑性を維持し、かつ塩化ビニル系樹脂フィルムの深絞り性を兼ね備えたフィルムが望まれている。
【0009】
【特許文献1】特開2000−238070号公報
【特許文献2】特開平1−40400号公報
【特許文献3】特開平7−237283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、平滑性と深絞り加工性に優れた成形同時転写用ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意検討を行った結果、特定の構成を有するフィルムによれば、上記実情を容易に解決することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、ジカルボン酸成分、脂肪族または脂環式のジオール成分および数平均分子量が300〜4000であるポリアルキレンエーテルグリコール成分を主たる構成成分とするポリエステルフィルムであり、当該フィルムの縦および横方向のヤング率が0.1〜3.5GPa、厚み方向の屈折率(nα)が1.49〜1.55であることを特徴とする成形同時転写用ポリエステルフィルムに存する。
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリエステルフィルムとは、ジカルボン酸成分、脂肪族または脂環式のジオール成分および数平均分子量が300〜4000であるポリアルキレンエーテルグリコールを主たる成分とするポリエステルフィルムである。ここで言う主たる成分とは、全構成成分中、80重量%以上が上記成分で占められることを意味する。また、構成成分については、例えば、ポリエステルフィルムをアルカリで分解し、クロマトグラフィーにより分析することができる。
【0014】
ジカルボン酸成分は、50モル%以上がテレフタル酸であることが好ましいが、他のジカルボン酸成分が共重合されたものであってもよい。テレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、具体的には、例えば、イソフタル酸、オルトフタル酸、フェニレンジオキシジ酢酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルカルボン酸、4,4’−ジフェニルカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられるが、これらの中でもイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸から選ばれる一種以上が好適である。
【0015】
なお、本発明において、ジカルボン酸成分は、原料の段階では、例えば、炭素数1〜4程度のアルキルエステル等のエステル形成誘導体を含むものとする。
【0016】
脂肪族または脂環式のジオール(以下に述べるポリアルキレンエーテルグリコール成分を除く)としては、50モル%以上がエチレングリコールであることが好ましいが、他の脂肪族または脂環式のジオール成分が共重合されたものであってもよい。エチレングリコール以外の脂肪族および/または脂環式ジオール成分としては、具体的には、例えば、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール等の脂肪族ジオール、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール等が挙げられ、中でも1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールから選ばれる一種以上が好適である。
【0017】
なお、本発明においては、エチレングリコール以外の脂肪族または脂環式ジオール成分は、全ジオール成分の通常30モル%以下、好ましくは5〜30モル%、さらに好ましくは10〜20モル%の範囲である。エチレングリコール以外の脂肪族または脂環式のジオール成分を共重合することにより、柔軟性や透明性が向上する場合があるが、共重合量の量によっては、得られる共重合ポリエステルフィルムの機械的特性が劣る場合がある。
【0018】
本発明のポリエステルフィルム中には、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、さらに、例えば、4,4−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−βーヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−βーヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能成分、トリカルバリル酸、ヘキサントリカルボン酸、トリメリト酸、トリメシン酸、ピロメリト酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,6−ヘキサントリオール、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ジペンタエリスリトール、ポリグリセロール等の3官能以上の多官能成分が共重合されていてもよい。
【0019】
本発明において、ポリエステルフィルムは、ポリアルキレンエーテルグリコールを構成成分として含有する必要があり、当該グリコール成分の数平均分子量は300〜4000、好ましくは400〜3000、さらに好ましくは500〜2000の範囲である。数平均分子量が300未満では、熱安定性が劣ったり、低分子量物が析出したりする。一方、数平均分子量が4000を超えるとフィルムの透明性が劣るために、複雑な絵柄や文字をフィルムを透かして観察することが困難となる。
【0020】
ポリアルキレンエーテルグリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのブロックまたはランダム共重合体などが挙げられるが、これらの中でも、ポリテトラメチレンエーテルグリコールが好ましい。
【0021】
ポリアルキレンエーテルグリコールは、数平均分子量の異なるものを複数併用することもできる。複数併用する場合は、均一に混合して測定した値が前記範囲であればよい。ここで、ポリアルキレンエーテルグリコールの数平均分子量は、ゲルパーミエションクロマトグラフィー等の一般的な方法により測定することができる。
【0022】
ポリアルキレンエーテルグリコールは、共重合ポリエステルフィルム中に5〜35重量%、さらには10〜30重量%の割合で配合すると深絞り度の高い(絞り比が0.2以上)の立体曲面構造の成形体での深絞り加工性が優れたものになるため好ましい。なお、本発明における絞り比とは、インモールド成形転写の際の立体構造を有する成形体において、成形体の深さを成形体開口部の最小長さであり、例えば、成形体開口部が長方形の場合は、成形体の絞り深さを成形体の縦方向長さと横方向長さのうち最小長で除した値、あるいは、成形体開口部が円形の場合は、成形体の絞り深さを成形体の直径で除した値である。ポリアルキレンエーテルグリコールの含有量が5重量%未満では、柔軟性が劣る傾向があるために、成形加工時、特に深絞り成型時に成形追従性の低下やフィルムの破れが発生することがある。一方、35重量%を超えると、柔軟性に優れるものの、フィルムの透明性が劣る傾向があるために、複雑な絵柄や文字を、フィルムを透かして観察することが困難となることがある。
【0023】
本発明のフィルムを構成するポリエステル樹脂は、基本的には、ジカルボン酸成分、ジオール成分、およびポリアルキレンエーテルグリコールによるポリエステル樹脂の慣用の製造法、すなわち、直接重合法またはエステル交換法などにより回分式または連続式に製造される。ここで、ポリアルキレンエーテルグリコールおよび任意で使用する共重合成分は、重縮合反応過程の任意の段階で添加することができる。さらに、本発明のポリエステルは、予め、ジカルボン酸および脂肪族および/または脂環式ジオール成分からなる低重合度のオリゴマーを製造し、当該オリゴマーとポリアルキレンエーテルグリコールとを重縮合することにより得ることもできる。
【0024】
重縮合反応により得られた樹脂は、通常、重縮合反応槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状に抜き出して、水冷しながらもしくは水冷後、カッターで切断されてペレット状とされる。さらに、この重縮合後のペレットを加熱処理して固相重縮合させることにより、さらに高重合度化させるとともに、反応副生物のアセトアルデヒドや低分子オリゴマー等を低減化することもできる。
【0025】
なお、前記製造方法においてエステル化反応は、必要に応じて、例えば、三酸化アンチモン、アンチモン、チタン、マグネシウム、カルシウム等の有機酸塩や有機金属化合物等のエステル化触媒の存在下でなされ、エステル交換反応は、必要に応じて、例えば、リチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、チタン、亜鉛等の有機酸塩や有機金属化合物等のエステル交換触媒の存在下でなされる。
【0026】
また、重縮合反応は、例えば、正燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ポリ燐酸およびこれらのエステルや有機酸塩等の燐化合物の存在下、および、例えば、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等の金属化合物、あるいは、アンチモン、ゲルマニウム、亜鉛、チタン、コバルト等の有機酸塩や有機金属化合物等の重縮合触媒の存在下でなされる。これらの重縮合触媒の中でも、テトラブトキシチタネート、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウムから選ばれる一種以上が好適に使用される。
【0027】
本発明のフィルムを構成するポリエステル樹脂の極限粘度は、通常0.4〜1.5dl/g、好ましくは0.5〜1.2dl/g、さらに好ましくは0.6〜1.0dl/gの範囲である。極限粘度が0.4dl/g未満では、成形性が悪化する傾向がある。一方、極限粘度が1.5dl/gを超えると、フィルムの製膜性の悪化、フィルムの厚み斑等が生じることがある。
【0028】
本発明のフィルムを構成するポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、通常20〜60℃、好ましくは25〜50℃、さらに好ましくは25〜40℃の範囲である。ガラス転移温度が20℃未満では、耐熱寸法安定性が悪化して、フィルムの搬送、局所タルミが発生、保管時にチップの融着の発生が起こることがある。一方、ガラス転移温度が60℃を超えると、柔軟性が劣るために、成形性が悪化する傾向がある。
【0029】
また、フィルムの融点(Tm)は、通常200〜260℃、好ましくは210〜250℃の範囲である。200℃未満では、成形の際の耐熱性が劣る傾向がある。一方、260℃を超えると、特に深絞り成型時に成形追従性が低下する傾向がある。
【0030】
本発明のポリエステルフィルムは、耐ブロッキング性、易滑性等を付与するために、不活性微粒子を含有していることが好ましく、その含有量は、フィルムに対して通常0.01〜1.0重量%、好ましくは0.05〜0.5重量%、さらに好ましくは0.1〜0.3重量%の範囲である。粒子含有量が0.01重量%未満では、透明性に優れるが、易滑性、フィルムの取り扱い性が劣ることがある。一方、粒子含有量が1.0重量%を超えると、易滑性に優れるが、透明性が劣るために、複雑な絵柄や文字を、フィルムを透かして観察することが困難となることがある。
【0031】
本発明で用いる不活性微粒子としては、炭酸カルシウム、シリカ、燐酸カルシウム、カオリン、タルク、酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン等の無機粒子、蓚酸カルシウム、架橋高分子粒子などの有機粒子を挙げることができるが、これらに限定されるものでない。
【0032】
不活性部粒子の平均粒径は、通常0.1〜5.0μm、好ましくは0.2〜4.0μm、さらに好ましくは0.3〜3.0μmの範囲である。平均粒径が0.1μm未満では、透明性に優れるが、易滑性、フィルムの取り扱い性に劣ることがある。一方、5.0μmを超えると、易滑性に優れるが、ツブ状欠陥が発生し、成形体の表面に欠陥が生じるようになることがある。
【0033】
本発明のフィルムを構成するポリエステルに樹脂に粒子を含有させる方法としては、公知の方法を採用し得る。例えば、ポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくは、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコール等に分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めてもよい。また、ベント付き押し出し機を用い、水または沸点200℃以下の有機溶媒中に分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混練り押し出し機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行われる。なお、添加する粒子は、必要に応じ、事前に解砕、分散、分級、濾過等の処理を施してもよい。
【0034】
本発明のポリエステルフィルムは、縦および横方向のヤング率が0.1〜3.5GPaの範囲にある必要があり、ヤング率は、好ましくは0.1〜3.0GPa、さらに好ましくは0.2〜2.5GPaの範囲である。ヤング率が0.1GPa未満では、製品となる成形品の絵柄にゆがみが発生しやすくなるので好ましくない。一方、ヤング率が3.5GPaを超えると、成型時の伸び率が低くなり、深絞り成型時に十分な成形性が得られないという問題が起こりやすい。
【0035】
また、フィルムの厚み方向の屈折率(nα)は、1.49〜1.55の範囲にある必要があり、好ましくは1.49〜1.54、さらに好ましくは1.495〜1.535の範囲である。厚み方向の屈折率(nα)が1.49未満では、成型時の伸び率が低くなり、深絞り成型時に十分な成形性が得られないという問題が起こりやすい。一方、厚み方向の屈折率(nα)が1.55を超えると、製品となる成形品の絵柄にゆがみが発生しやすくなるので好ましくない。
【0036】
本発明のポリエステルフィルムには、接着性、帯電防止、易滑性を付与するために、塗布層を設けてもよい。塗布層を構成する成分としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ポリウレタン等の樹脂およびこれらの樹脂の共重合体などを挙げることができる。かかる樹脂の一種または二種以上の樹脂を同時に含有してもよい。
【0037】
上述の塗布液をフィルムに塗布する方法としては、例えば、正回転ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、カーテンコーター、ファウンテンコーター、キスコーター、キスロールコーター、ビードコーター、浸漬コーター等の塗布装置、スクリーンコーティング、キャストコーティング、含浸機、LB法のような塗布方法を採用することができるが、これらに限定されるものではない。塗布層は、フィルム製造工程内で設けてもよいし、フィルム製造後に塗布してもよい。特に塗布層の均一性や生産効率の点で、フィルム製造工程内で塗布する方法が好ましい。
【0038】
フィルム製造工程内で塗布する方法としては、未延伸シートに塗布液を塗布し、逐次あるいは同時に二軸延伸する方法、一軸延伸されたフィルムに塗布し、さらに先の一軸延伸方向と直角の方向に延伸する方法、あるいは二軸延伸フィルムに塗布し、さらに横および/または縦方向に延伸する方法などがある。
【0039】
塗布層の厚みは、通常0.005〜1.0μmの範囲であり、好ましくは0.01〜0.5μmの範囲である。塗布厚みが0.005μm未満の場合には、塗布ヌケや塗布斑が生じやすくなる。一方、塗布厚みが1.0μmを超えると、フィルム製造時の連続性が悪化することがある。
【0040】
かかる塗布層は、フィルムの片面だけに設けてもよいが、両面に設けることが好ましい。また、片面にのみ塗布した場合、その反対面には、本発明における塗布層以外の塗布層を必要に応じて形成し、本発明のフィルムに他の特性を付与することもできる。
【0041】
なお、塗布剤のフィルムへの塗布性、接着性を改良するため、塗布前にフィルムに化学処理や放電処理を施してもよい。処理効率やコスト、処理の簡便さの観点から、コロナ放電処理を行うことが好ましい。また、本発明のフィルムにおける塗布層の接着性、塗布性などを改良するために、塗布層形成後に塗布層に放電処理を施すこともできる。
【0042】
次に本発明のポリエステルフィルムの製造方法について具体的に説明するが、本発明の構成要件を満足する限り、以下の例示に特に限定されるものではない。
【0043】
すなわち、上述したポリエステル原料を押し出し機に供給し、ポリエステルの融点以上の温度に加熱して溶融させて口金から溶融シートを押し出し、冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る。この場合、シートの平坦性を向上させるため、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高める必要があり、静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。
【0044】
次いで、得られた未延伸シートは二軸方向に延伸して二軸配向される。すなわち、まず、前記未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常20〜100℃、好ましくは30〜80℃の温度範囲で、延伸倍率は、通常2.0〜6.0倍、好ましくは2.5〜4.5倍である。次いで、一段目の方向と直交する方向に延伸を行う。延伸温度は、通常30〜100℃、好ましくは40〜90℃であり、延伸倍率は、通常3.0〜6.0倍、好ましくは3.5〜4.5倍である。なお、一方向の延伸を二段階以上で行う方法も用いることができるが、その場合も、最終的な延伸倍率が上記した範囲に入ることが望ましい。また、前記未延伸シートを面積倍率が10〜40倍になるように同時二軸延伸することも可能である。
【0045】
かくして得られたフィルムには、150〜210℃で1〜600秒間熱処理を行うことが好ましい。さらにこの際、熱処理の最高温度ゾーンおよび/または熱処理出口のクーリングゾーンにおいて、縦および/または横方向に0.1〜20%弛緩する方法が好ましい。また、必要に応じて再縦延伸、再横延伸を付加することも可能である。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、成形性および転写性に優れ、特に深絞り性、被転写体の表面形状への優れた成形同時転写用ポリエステルフィルムを提供することができ、その工業的価値は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、本発明で用いた物性測定法は、下記のとおりである。
【0048】
(1)粒子の平均粒径(μm)
島津製作所製遠心沈降式粒度分布測定装置(SP−CP3型)で測定した等価球形分布における積算体積分率50%の直径(粒径)とした。
【0049】
(2)ガラス転移温度[Tg(℃)]、融点[Tm(℃)]
TA Instrument製差動熱量計(DSC−2920型)を用いて測定した。DSC測定条件は、以下のとおりである。すなわち、試料10mgを窒素気流下で280℃、5分間溶融保持し、次いで液体窒素で急冷した。得られたサンプルを10℃/分の速度で昇温する過程でガラス状態からゴム状態への転移に基づく比熱変化を読み取り、この温度をガラス転移温度(Tg)とし、結晶融解に基づく吸熱ピーク温度を融点(Tm)とした。
【0050】
(3)ポリマーの極限粘度(dl/g)
ポリマー1gをフェノール/テトラクロロエタン(50/50(重量比))の混合溶媒100ml中に溶解させ、ウベローデ型粘度計にて30℃で測定した。
【0051】
(4)フィルムのヤング率(GPa)
(株)インテスコ製引っ張り試験機(2001型)を用いて、温度23℃、湿度50%RHに調節された室内において、長さ(チャック間)300mm、幅20mmの試料フィルムを、10%/分の歪み速度で引っ張り、引っ張り応力−歪み曲線の初期の直線部分を用いて次式によって計算した。
E=Δσ/Δε
(上記式中、Eはヤング率(GPa)、Δσは直線上の2点間の元の平均断面積による応力差(GPa)、Δεは上記2点間の歪み差/初期長さ(−)を表す)
【0052】
(5)フィルム厚み方向の屈折率(nα)
(株)アタゴ製アッベ屈折計4Tを用いて、接眼レンズに偏光板を取り付け、偏光板の向きおよびフィルムの向きをそれぞれ調整し、フィルムの厚み方向の屈折率(nα)を測定した。なお、中間液としてヨードメタンを用いた。
【0053】
(6)転写フィルムとしての適性
ポリエステルフィルムに離型層、印刷層および接着層を形成し、縦50mm、横50mm、最大深さ15mmの金型内部に真空または圧空成形法により予備成形を実施した。成形によるフィルムの破断の頻度により、下記基準で成形性の評価を行った。
○:フィルム破断、クラック発生等なく、均一な厚さで成形される
△:フィルム破断はしないが、局所的にフィルムが極めて薄い部分が存在する
×:フィルムが頻発に破断する
【0054】
印刷評価を、上記の予備成形を実施した後、樹脂を射出し、成形転写を行い、得られた成形品への印刷の図柄のヌケや歪みの状態を以下のように評価した。
○:印刷ヌケ、歪み全くなし
△:印刷ヌケ、歪みほとんどなし
×:印刷ヌケ、歪みあり
【実施例1】
【0055】
テレフタル酸52部、エチレングリコール18部、ポリテトラメチレンエーテルグリコール30部、触媒および助触媒として、テトラブトキシチタネートを0.009部、エチルアシッドフォスフェートを0.025部、酢酸コバルトを0.05部、さらに平均粒径が2.4μmの非晶質微細シリカ粒子1部をエチレングリコールスラリーとして反応器にとり、270℃、400Paでの直接重合法によりポリエステル樹脂を得た。ポリエステル樹脂は、重合槽よりストランド状に抜き出し、これを冷却後、ペレタイザーでカットすることによりペレット形状で回収した。得られたポリエステル樹脂ペレットのガラス転移温度(Tg)は40℃、融点(Tm)は244℃、極限粘度は0.79であった。このペレットを風乾して、ベント付きの2軸スクリューの押し出し機に供給して、250℃、100KPaのベント減圧下で溶融混練りし、スリット状ダイスより20℃の回転冷却ロール上にシート状に押し出し、静電印加冷却法を使用して回転冷却ロールにより急冷して未延伸シートを得、次いで、当該未延伸シートを縦方向に50℃で3.5倍、横方向に70℃で3.5倍延伸した。得られたフィルムを200℃で3秒間熱処理し、厚み35μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの下記特性を表1に示す。
【0056】
(実施例2、3)
テレフタル酸、エチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールを下記表1に記載の構成比とする以外は、実施例1と同様にしてフィルム厚みが35μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0057】
(比較例1、2)
実施例1において、ポリテトラメチレンエーテルグリコールの数平均分子量を表1に記載とする以外は、実施例1と同様にしてフィルム厚みが35μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0058】
(比較例3,4)
実施例1において、延伸条件を変更して、フィルムの厚み方向の屈折率(nα)およびヤング率を本発明の範囲外とすること以外は、実施例1と同様にしてフィルム厚みが35μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0059】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のフィルムは、例えば、成形同時転写用のフィルムとして、好適に利用することができる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分、脂肪族または脂環式のジオール成分および数平均分子量が300〜4000であるポリアルキレンエーテルグリコール成分を主たる構成成分とするポリエステルフィルムであり、当該フィルムの縦および横方向のヤング率が0.1〜3.5GPa、厚み方向の屈折率(nα)が1.49〜1.55であることを特徴とする成形同時転写用ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2006−16537(P2006−16537A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196960(P2004−196960)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000108856)三菱化学ポリエステルフィルム株式会社 (187)
【Fターム(参考)】