説明

成形吸着体および浄水材

【課題】瀘材として粒径の小さな活性炭を採用して吸着能力を高めつつ、成形強度に優れかつ濾過抵抗の低い成形吸着体を提供し、その成形吸着体により吸着能力が高く、かつ、丈夫で取り扱い性の良い浄水材を提供すること。
【解決手段】活性炭を主成分とする瀘材を、繊維状バインダーにて成形してある成形吸着体であって、活性炭が、体積基準モード径が20μm以上100μm以下の微粒子状活性炭であり、繊維状バインダーが、フィブリル化により瀘水度20mL以上100mL以下とした繊維材料を主成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭を主成分とする瀘材を、繊維状バインダーにて成形してある成形吸着体およびその成形吸着体からなる浄水材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の成形吸着体としては、繊維状バインダーとして、フィブリル化したアクリル繊維を用いて、バインダーと活性炭の絡み合いで活性炭相互を結合(接着)させてなる構造のものが知られていた。このような成形吸着体は、繊維状バインダーの樹枝状構造による絡み合いにより活性炭を結合させるために、活性炭の結着力が高く、かつ、繊維状バインダー同士の絡合が強いために、ウエット状成形体における形状保持力が高く、しかもその強度は乾燥させることでさらに形状保持力が向上する。したがって、取り扱い性がよく、その分、生産効率を向上させることができると考えられている。(例えば特許文献1)
【0003】
そして、この成形吸着体は次のようにして製造することができる。すなわち、例えば、粒状の活性炭と、繊維状バインダーとを混合して均一な水性スラリーとして調製し、この液中に成形型を浸漬して型面に固形分を所定量、吸引法により積層して液中から取出し、脱水処理してウエット状成形体とした後、これを成形型より取り出して所定温度に加熱し、バインダーと活性炭の絡み合いを強化させることで活性炭相互を結合させるというものである。(例えば特許文献2)
【0004】
一方、前記活性炭を主成分とする瀘材は、VOC(揮発性有機化合物)吸着能力を有し、粒度の細かいものほど単位重量あたりの外表面積が大きいので、吸着能力の点からは瀘材として好ましいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−312133号公報
【特許文献2】特開2001−239158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、粒径が小さく吸着能力の高い活性炭は、繊維状バインダーにより形成される微小な隙間から脱落しやすく、瀘材の成形吸着体として吸着能力が低下しやすいものとなるばかりでなく、活性炭どうしの間の結合強度が乏しいために、成形吸着体全体の成形強度が前記繊維状バインダーの成形強度のみに頼ることになって、全体として脆く、かつ、成形体強度が低くなりやすい。そこで、成形体密度を上げるなどの方法で成形体強度を高めると、濾過抵抗(通水圧力損失)が大きくなりすぎて、種々の用途に用いる場合に、濾過機能を発揮させることができず、製品化が困難であるという問題があった。そのため、例えば成形吸着体を浄水器等の製品として提供する場合に、湿潤状態での脆化により、水撃に対する耐久力が低下して性能が低下する問題があったり、この耐久力を補うためには成形吸着体以外での補強部材が必要となりコストアップの要因となっていた。更に、成形吸着体の設置スペースの少ない箇所で使用できないとか、大きな水撃や振動の加わる箇所で使用できなないとか、適用場所に制約を伴う等の問題が生じたりしやすかった。
【0007】
また、成形体強度を維持すべく、繊維状バインダーの使用量を増加したり、添加物として繊維状物質を追加したりすると、相対的に活性炭の使用量を減少させることになり、吸着能力の向上が十分期待できなくなるとともに、繊維状バインダーの使用量を増やした場合、瀘材表面を繊維状バインダーが覆ってしまって、前記活性炭の吸着能力を阻害するとともに、成形吸着体の空隙率が低下して、このような成形吸着体を浄水材として用いる場合に、全体としての濾過抵抗を上げてしまうことになるので、やはり、適用場所に制約を伴う等の問題が生じることになる。
【0008】
本発明の目的は、上記実情に鑑み、瀘材として粒径の小さな活性炭を採用して吸着能力を高めつつ、成形強度を高くかつ濾過抵抗の低い成形吸着体を提供し、その成形吸着体により吸着能力が高く、かつ、丈夫で取り扱い性の良い浄水材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔構成〕
上記目的を達成するための本発明の成形吸着体の特徴構成は、活性炭を主成分とする瀘材を、繊維状バインダーにて成形してある成形吸着体として、前記活性炭が、体積基準モード径が20μm以上100μm以下の微粒子状活性炭であり、前記繊維状バインダーが、フィブリル化により瀘水度20mL以上100mL以下とした繊維材料を主成分とするものである点にある。
【0010】
〔作用効果〕
本発明者らは、前記成形吸着体の成形体強度および濾過抵抗が、前記繊維状バインダーの使用量のみならず、前記繊維状バインダーの個々の形状にもよることを見出し、かつ、前記繊維状バインダーの形状に関与してフィブリル化の度合いを適切に設定することによって、微小な瀘材であっても脱落を生じさせにくい状態で、強固にかつ濾過抵抗を低く成形することができることを実験的に明らかにした。つまり、前記繊維状バインダーをフィブリル化により瀘水度20mL以上100mL以下、より好ましくは、瀘水度40mL以上80mL以下とした繊維材料を主成分とするものとしておくことにより、体積基準モード径が20μm以上100μm以下の微粒子状活性炭であっても、脱落を生じさせにくい状態で、強固にかつ濾過抵抗を低く(浄水材として使用する場合の通水性を高く)成形することができることが明らかになった。
【0011】
繊維状バインダーはフィブリル化することによって、繊維の軸の一部が細くほつれて枝分かれするために、枝分かれした繊維が瀘材を保持する役目を担い、瀘材保持能力が向上するとともに、瀘材を保持した繊維は、枝分かれにより嵩張る状態になっている。結果、バインダーが硬化する際、空隙を形成しつつ硬化することになって、全体として濾過抵抗が小さくなる。また、瀘水度20mL以上100mL以下、より好ましくは、濾水度40mL以上80mL以下程度にフィブリル化した繊維は、図2のように繊維の軸部分が残存した状態で枝分かれが生じているので、絡合・硬化時に、隣接する繊維間に強固な結合が形成され、成形吸着体全体として高い成形体強度を発揮するものと考えられる。
【0012】
即ち、このようにして得られる成形吸着体は、高い強度を持ち濾過抵抗が低いという特性に加えて、前記微粒子状活性炭の高いVOC吸着能力を利用しつつ、その微粒子状活性炭の脱落も発生しにくいので、高い吸着性能を長期にわたって発揮することができるようになっている。また、長寿命でかつ耐久性の必要な種々適用箇所で用いることができる取り扱い性の良い成形吸着体とすることができたのである。さらに、成形吸着体の取り扱い性が向上し、成形体強度も高めることができたので、従来では成形困難であった薄肉の成形吸着体や、長尺品、異形断面の成形吸着体であっても、十分耐久性の高い製品として提供することができるようになり、成形吸着体を適用可能な範囲を拡張することができた。
【0013】
尚、繊維状バインダーは、濾水度20mL以下とすると、濾過抵抗の大きな成形吸着体となるため好ましくなく、100mL以上とすると、成形強度が低下する傾向にあるため好ましくないと考えられる。また、微粒子状活性炭は、大きくなると単位重量あたりの吸着能力が低下して本発明の優位性を発揮できず、小さくしすぎると成形吸着体が脆くなったり、濾過抵抗が高くなったりすることから、体積基準モード径を20μm以上100μm以下とすることが好ましい。
【0014】
〔構成〕
また、成形吸着体には前記繊維状バインダーを4質量%〜10質量%含有することが望ましい。
【0015】
〔作用効果〕
つまり、上記成形吸着体において、繊維状バインダーの使用量が少なすぎると、成形吸着体の成形強度の低下を招来するので、成形吸着体に対して4質量%以上含有させておくことが好ましく、繊維状バインダーの使用量が多すぎると、吸着性能が低下する原因となることと、濾過抵抗の悪化の原因となることなどから、10質量%以下としておくことが好ましい。
【0016】
〔構成〕
また、前記微粒子状活性炭が、ヨウ素吸着量900mg/g以上1300mg/g以下
の吸着性能を有するものとすることが望ましい。
【0017】
〔作用効果〕
つまり、前記微粒子状活性炭の吸着能力は高いほど好ましいわけであるが、除去対象物質によって、最適なヨウ素吸着量の微粒子状活性炭を選定する必要がある。例えばクロロホルムの除去にはヨウ素吸着量の低い微粒子状活性炭が適しており、残留塩素の除去にはヨウ素吸着量の大きい微粒子状活性炭が適していることから、微粒子状活性炭のヨウ素吸着量は900mg/g以上1300mg/g以下とすることが好ましい。
【0018】
〔構成〕
また、前記瀘材が粒状活性炭に加え、銀添着粒状活性炭、繊維状活性炭、珪酸チタニウム、ゼオライト、イオン交換繊維から選ばれる少なくとも1種の成分を含有することができる。
【0019】
〔作用効果〕
即ち、成形吸着体は、種々用途にて用いられるが、その用途に応じた特定の除去可能な物質や、要求性能が明らかな場合に、その除去対象物質の除去可能な物質や、要求性能を向上させることができる物質を含有させておくことによって、前記種々用途において有用な成形吸着体としておくことができる。
【0020】
具体的には、銀添着活性炭を含有させておくことにより、抗菌性能を高めることができる。このような成形吸着体は飲用水の浄化等の用途に特に好適に用いることができる。また、珪酸チタニウムやゼオライトを含有させておくことにより、鉛等の金属イオンの除去機能を付与することができる。このような成形吸着体は飲用水の浄化のほか、排水中の金属イオンの除去等の用途に特に好適に用いることができる。
【0021】
また、イオン交換樹脂を含有させておくことにより、鉛等の金属イオンの除去機能を付与することができる。このような成形吸着体は飲用水の浄化のほか、排水中の金属イオンの除去等の用途に特に好適に用いることができるとともに、イオン交換樹脂としては、繊維状のものを選択することができ、このような場合はさらに加えて、成形吸着体の成形体強度を高める効果もある。
【0022】
また、繊維状活性炭を含有させておくことにより、遊離残留塩素を除去する性能を高めることができる。このような成形吸着体は飲用水の浄化のほか、メッキ液ろ過の用途に特に好適に用いることができるとともに、このような場合はさらに加えて、成形吸着体の濾過抵抗を低くする効果もある。
【0023】
〔構成〕
また、前記繊維状バインダーが、アクリル繊維もしくはセルロース繊維からなることが好ましい。
【0024】
〔作用効果〕
繊維状バインダーとしては、従来公知の方法によりフィブリル化できるものであれば、合成品、天然品を問わず幅広く使用可能である。このようなフィブリル化繊維としては、例えば、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、セルロース繊維、アラミド繊維などを挙げることができる。この中で、アクリル繊維は特に成形体強度を高める上で好適に用いることができ、セルロース繊維は、成形体密度を上げる上で好適に用いることができ、さらに、これらを混合して用いてもよく、成形吸着体の好適な成形体強度および濾過抵抗を実現することができる。
【0025】
〔構成〕
前記繊維状バインダーとして使用するアクリル繊維が、平均繊維長0.7mm以上2mm以下であることが好ましく、また、繊維状バインダーが、平均繊維長0.7mm以上2mm以下のアクリル繊維単独または、同アクリル繊維に対し平均繊維長0.2mm以上2mm以下のセルロース繊維の混合体であり、この繊維状バインダーを4質量%〜10質量%含む成形吸着体であることが好ましい。
【0026】
〔作用効果〕
具体的にアクリル繊維としては、平均繊維長0.7mm以上2mm以下のものが好適に用いられる。平均繊維長が短すぎると成形体強度が十分になりにくく、逆に、長すぎると成形作業性が低下するからである。
【0027】
このアクリル繊維にセルロース繊維を混合する場合には、前記セルロース繊維は、平均繊維長0.2mm以上2mm以下としておくことにより、前記アクリル繊維との混和性が高く、かつ、成形作業性を高くすることができるため好適である。(すなわち平均繊維長0.2mm以上だと成形体の強度低下が生じにくく、2mm以下だと成形体の不均一の問題が生じにくいため好適である。)尚、上記成形吸着体において、繊維状バインダーの使用量が少なすぎると、成形吸着体の成形強度の低下を招来するので、成形吸着体に対して4質量%以上含有させておくことが好ましく、繊維状バインダーの使用量が多すぎると、吸着性能が低下する原因となることと、濾過抵抗の悪化の原因となることなどから、10質量%以下としておくことが好ましい。
【0028】
〔構成〕
また、本発明の浄水材の特徴構成は、上述の成形吸着体を、外径10mm以上80mm以下、内径5mm以上30mm以下の中空円筒状に成形してなる点にある。
【0029】
〔作用効果〕
つまり、前記成形吸着体を成形するに、細径長尺の中空円筒状に成形すれば、このような成形吸着体は、蛇口近傍の水道管の内部に装着することができる形態となる。このような形態の成形吸着体としては、従来強度の不十分なもの、あるいは、濾過抵抗の大きすぎるものしか知られていなかったが、本発明の成形吸着体を採用すると、上述の寸法に成形したとしても、十分な強度および通水性を発揮するため、蛇口近傍の水道管に装着する、あるいは、前記成形吸着体を浄水材として内装したユニットを水栓や蛇口に装着する等の形態で家庭用浄水材として、簡易に導入することのできる浄水材を提供することができる。
【0030】
〔構成〕
尚、前記成形吸着体を、成形体密度0.2g/mL以上 0.5g/mL以下で成形することが好ましい。
【0031】
〔作用効果〕
即ち、成形体密度0.2g/mL以上で成形することにより、十分強い成形体強度(破断強力)を有し、かつ、取り扱い性が高く、かつ、耐久性が高い成形吸着体を得ることができ、成形密度0.5g/mL以下で成形することにより、十分低い濾過抵抗を有する成形吸着体を得ることができる。
【0032】
〔構成〕
また、前記成形吸着体を、通水圧力損失が0.1MPa以下で破断強力4N以上に成形してあることが好ましい。
【0033】
〔作用効果〕
即ち、通水圧力損失が0.1MPa以下で破断強力4N以上に成形してあることにより、前記成形吸着体は、一般家庭の水道配管の水圧にて十分通水することができ、かつ、一般家庭の水道管の振動や、衝撃、水撃にも耐える強度を備えるので家庭用の浄水器に用いられる汎用性が高く耐久性に優れた浄水材として好適に用いることができる。
【0034】
尚、通水圧力損失が高すぎる成形吸着体を選択すると、ろ過流量において不十分になりやすく、破断強力の小さすぎる成形吸着体を選択すると、耐久性が悪くなるため、通水圧力損失が0.1MPa以下で破断強力4N以上に成形してあることが好ましい。
【発明の効果】
【0035】
したがって、瀘材として粒径の小さな活性炭を採用して吸着能力を高めつつ、成形体強力が高くかつ濾過抵抗の低い成形吸着体を提供し、その成形吸着体により浄水能力が高く、かつ、丈夫で取り扱い性の良い浄水材を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の成形吸着体の製造工程を示す図
【図2】フィブリル化した繊維(濾水度47〜70mL)の性状を示す顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、本発明の成形吸着体を説明する。尚、以下に好適な実施の形態を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0038】
図1(a)に示すように、瀘材と繊維状バインダーを10質量%含有させた混合材料を用意する。この混合材料を、質量比で20倍〜200倍の水に分散させたスラリーを調製する。この繊維状バインダーは、必要に応じて予め、リファイナー処理や、ビーティング処理を行い、フィブリル化し、濾水度を調整しておく。次に、図1(b)に示すように、前記スラリーに、吸引ポンプに連通接続された吸引成形型を浸漬し、前記吸引ポンプを駆動して、前記吸引成形型に前記スラリーを流動吸引する。すると、図1(c)に示すように、前記吸引成形型の表面に、瀘材と繊維状バインダーとの混合物が抄紙構造で堆積した層状体が得られる。この層状体を乾燥硬化させると、成形吸着体が得られる。
前記活性炭としては、体積基準モード径が20μm以上100μm以下の微粒子状活性炭を主成分とするものが用いられ、前記繊維状バインダーとしては、フィブリル化により瀘水度40mL以上80mL以下とした繊維材料を主成分とするものが用いられる。
【0039】
以下に、前記成形吸着体の具体的な実施例を示すが、それに先立って、以下の実施例において具体的に用いられる材料、および、各物性の測定方法について、まとめて列記しておく。また、以下、実施例1〜7、参考例1〜3、比較例1として、繊維状バインダーの種類、瀘材の種類を種々変更して、成形吸着体を製造して、それぞれの物性を測定した。各実施例、比較例、参考例の結果はまとめて表1に示す。
【0040】
〔繊維状バインダー〕
○アクリル繊維(以下アクリル繊維Aとする。他も同様)
東洋紡社製ビィパル(商品名)
平均繊維長 ;1.03mm
濾水度 ; 47〜70mL
【0041】
○セルロース繊維(市販品、製紙グレード)(セルロース繊維B)
平均繊維長 ;0.3mm
濾水度 ;2〜6mL
【0042】
〔瀘材〕
○微粒子状活性炭(活性炭W)
日本エンバイロケミカルズ社製WHA60/140N(粒状活性炭)
体積基準モード径;225μm
ヨウ素吸着量 ;1100〜1300mg/g
【0043】
○微粒子状活性炭(活性炭A)
日本エンバイロケミカルズ社製TC−20N(粒状活性炭)
体積基準モード径37μm
ヨウ素吸着量900〜1300mg/g
【0044】
○微粒子状活性炭(活性炭B)
日本エンバイロケミカルズ社製TC−50N(粒状活性炭)
体積基準モード径76μm
ヨウ素吸着量900〜1300mg/g
【0045】
○珪酸チタニウム(鉛除去材X)
クラレケミカル社製MAP60/200T
体積基準モード径155μm
【0046】
○繊維状活性炭(ACFH)
アドール社製H15
繊維径13μm
窒素吸着によるBET比表面積1700m2/g
尚、ACF-Hを用いる場合、あらかじめ平均繊維長0.05〜1mmのチョップにカットしておいたものを利用した。
【0047】
〔各物性の測定方法〕
○濾水度
JISP8121「パルプの濾水度試験方法」カナダ標準型に準じた。
【0048】
○成形吸着体密度
乾燥後の重量を見かけ体積で除して求めた。
【0049】
○通水圧力損失
0.06L/min/cm2で通水したときの通水時圧力損失を求めた。表1においては、いずれも1000L通水後においても変化は無かった。
【0050】
○曲げ破断強力
成形吸着体から幅27.5mm、厚さ10mmの試験体を切り出し、3点曲げ試験機に供し、曲げ破断強力を測定した。
・試験条件
試験片27.5mm幅、厚さ10mm
支点間距離70mm 荷重速度20mm/min
【0051】
○耐水撃試験
70℃にて成形吸着体の静圧が0.75MPaとなるように2秒間通水した後、3秒間通水を停止する。これを1サイクルとして連続で10,000回の通水と停止を繰り返す工程を行い、成形吸着体の劣化を観察した。
【0052】
○成形吸着体の除去性能
JIS S3201「家庭用浄水器試験方法」に規定された除去性能の試験水条件で成形吸着体に1,000L通水し、その時の吸着性能(除去率)を評価した。
【0053】
【表1】

【0054】
〔参考例1〕
瀘材としての活性炭Wに、繊維状バインダーとして濾水度47〜70mLのアクリル繊維Aを10質量%含有させた材料を、質量50倍の水に分散させたスラリーを調製した。このスラリーに、吸引ポンプに連通接続された吸引成形型(型枠内径80mmΦ、100mLの筒状金網)を浸漬し、前記吸引ポンプを駆動して、前記吸引成形型に前記スラリーを流動吸引する。すると、前記吸引成形型の表面に、微粒子状活性炭とアクリル繊維Aとの混合物が堆積した層状体が得られる。この層状体を乾燥硬化させたところ、外径Dが80mmΦ、長さ(高さ)Lが10mmの円柱状体で、密度が、0.36g/mL、通水圧力損失が0.014MPa、曲げ破断強力が27.1Nの成形吸着体が得られた。
【0055】
また、この成形吸着体の耐水撃試験結果は、10,000回で、良好であったが、除去性能は除去率60%にとどまり十分とはいえなかった。そのため、瀘材として用いるべき活性炭は、さらに粒子径の細かいものとすることが好ましいことが示唆された。
【0056】
〔比較例1〕
参考例1の繊維状バインダーを、濾水度2〜6mLのセルロース繊維Bに替えて同様に成形吸着体を得た。得られた成形吸着体は、密度が、0.39g/mL、通水圧力損失が0.146MPa、曲げ破断強力が10.8Nとなった。
【0057】
これより、繊維状バインダーとして濾水度47〜70mLのアクリル繊維Aを用いた場合、高い曲げ破断強力と低い通水圧力損失が実現されるのに対して、濾水度2〜6mLのセルロース繊維Bのみを用いた場合、十分な物性が得られていないことがわかる。つまり、繊維状バインダーの濾水度を、瀘水度20mL以上100mL以下としておくことにより、高い曲げ破断強力と低い通水圧力損失が実現されることがわかる。
【0058】
〔参考例2,3〕
参考例1の繊維状バインダーの使用量を、10質量%から4質量%,7質量%と変更して同様に成形吸着体を得た。得られた成形吸着体は、成形体密度は、あまり変らないものの、繊維状バインダーの使用量減少とともに、通水圧力損失が下がり、曲げ破断強力も低下する傾向にあることがわかった。
【0059】
この結果から、繊維状バインダーの使用量は、4質量%以上が好ましいと考えられる。また、成形吸着体密度と通水圧力損失との関係から、繊維状バインダーの使用量は、10質量%以上とすると、通水圧力損失が大きくなりすぎると考えられるので、10質量%以下とすることが望ましいと考えられる。
【0060】
〔実施例1〕
次に、参考例1における瀘材を活性炭Aに替えて同様に成形吸着体を得た。得られた成形吸着体は、密度が、0.41g/mL、通水圧力損失が0.127MPa、曲げ破断強力が24.3Nとなった。
【0061】
この成形吸着体を、耐水撃試験に供したところ、70℃、静圧0.75MPaの条件で10,000回以上の性能を示し、通常、常温・静圧0.75MPaの条件で10,000回の性能が要求される浄水器用の浄水材は勿論のこと、湯水使用可能な環境を提供する浄水材としても利用可能であることがわかった。また、成形吸着体の各種吸着性能を調べたところ、表1に示すようになり、家庭用浄水器に内装する浄水材として好適に用いることができることがわかった。
【0062】
〔実施例2〕
実施例2として、参考例1における瀘材を活性炭Bに替えて同様に成形吸着体を得た。得られた成形吸着体は、密度が、0.37g/mL、通水圧力損失が0.041MPa、曲げ破断強力が29.1Nとなった。
【0063】
表1において実施例1、2を参照すると、瀘材として用いる活性炭のヨウ素吸着量が900mg/g以上1300mg/g以下であっても、微粒子になる程、吸着性能として高い性能を発揮していることがわかる。
【0064】
〔実施例3〕
実施例3として、参考例1における瀘材を活性炭Aと活性炭Wとの等量混合物に替えて同様に成形吸着体を得た。
【0065】
〔実施例4〕
実施例4として、参考例1における瀘材を活性炭Bと活性炭Wとの等量混合物に替えて同様に成形吸着体を得た。
【0066】
実施例3、4より、瀘材として微粒子状活性炭を用いる場合に、比較的粒径の大きなたとえば活性炭Wのような粒状活性炭を混合して用いると、通水圧力損失を低下させつつ、繊維状バインダーの強固な絡合により強度に優れた成形吸着体を製造できることがわかる。
【0067】
〔実施例5〕
実施例5として、参考例1における瀘材を活性炭BとACFHとを質量比58:32で混合した混合物に替えて同様に成形吸着体を得た。
【0068】
実施例5より、前記瀘材に活性炭繊維を含有させておくと、成形吸着体の通水圧力損失を下げながら、遊離残留塩素に対する除去性能を高くすることができることがわかる。
【0069】
〔実施例6〕
実施例6として、参考例1における瀘材を活性炭Bと鉛除去材Xを質量比86:4で混合した混合物に替えて同様に成形吸着体を得た。
【0070】
実施例6より、前記瀘材に鉛除去材Xを含有させるなど、他の機能性を有する補助瀘材を用いると、例えば浄水材として用いる場合の除去対象物質の品目数を増やした成形吸着体を提供することができるようになる。実施例6の成形吸着体は、家庭用品品質表示法による除去対象物質の遊離残留塩素、揮発性有機化合物の代表のクロロホルム、農薬の代表のCAT(2-クロロ-4,6-ビスエチルアミノ-1,3,5-トリアジン)、カビ臭の代表の2-MIB(2-メチルイソボルネオール)、重金属の代表の溶解性鉛において高い吸着性能を有することからJIS S 3201に規定された濁度を除く除去対象物質12品目で高い浄水能力を発揮することがわかる。
このような他の機能性を有する補助瀘材としては、抗菌活性炭としての銀添着活性炭、鉛除去材としての珪酸チタニウム、ゼオライトのほか、イオン交換樹脂、繊維状活性炭をあげることができる。
【0071】
〔実施例7〕
実施例7として、参考例1における繊維状バインダーとしてアクリル繊維Aとセルロース繊維の混合物でビーティング処理により濾水度25〜38mLとしたものを用い、同様に成形吸着体を得た。
【0072】
前記繊維状バインダーとしては、アクリル繊維、セルロース繊維の他にポリエチレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、アラミド繊維など等を単独または複数組み合わせて用いることもできる。尚、アクリル繊維とセルロース繊維とを適宜組み合わせて用いると、成形体の各特性は、各バインダーの単体特性をバインダー比に応じて持ち合わせた特性となる。即ち、前記繊維状バインダーが、アクリル繊維とセルロース繊維とを、混合させてある繊維材料を用いると、配合割合に応じて所望の濾過抵抗および破断強力を備えた成形吸着体が得られることがわかる。
【0073】
尚、前記成形吸着体を浄水材として成形する場合、表1の各実施例のように、曲げ破断強力が4N以上とすることができるような場合は特に、外径Dが10mm以上30mm以下、内径dが5mm以上10mm以下の小径中空円筒状に成形することができる。このように小径かつ長尺に成形することができるようになると、家庭用の浄水器に内装する浄水材として、適用可能な用途を飛躍的に増加させることができた。例えば、小径の一般家庭用の水道カランに内装可能な浄水材を提供することができ、省スペース高機能で付加価値の高い製品を提供することができるようになった。
【0074】
また、特に、参考例2および実施例2、4によると製造方法に関して、前記成形吸着体を、成形体密度0.20g/mL以上0.40g/mL以下で成形してあると、十分な物性でかつ生産性高く製造できる。
【0075】
結果物として、前記成形吸着体を、通水圧力損失0.1MPa以下で破断強力4N以上に成形してあると浄水材として小径かつ長尺に成形することができるようになり、家庭用の浄水器に内装する浄水材として応用範囲が広いので好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の成形吸着体は、例えば、一般家庭の水道管に装着して用いられる浄水器に内装される浄水材等として、水道水の浄化のために好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭を主成分とする瀘材を、繊維状バインダーにて成形してある成形吸着体であって、前記活性炭が、体積基準モード径が20μm以上100μm以下の微粒子状活性炭であり、前記繊維状バインダーが、フィブリル化により瀘水度20mL以上100mL以下とした繊維材料を主成分とするものである成形吸着体。
【請求項2】
前記繊維状バインダーを4質量%〜10質量%含有する請求項1に記載の成形吸着体。
【請求項3】
微粒子状活性炭が、ヨウ素吸着量900mg/g以上1300mg/g以下の吸着性能を有する請求項1または2に記載の成形吸着体。
【請求項4】
瀘材が粒状活性炭に加え、銀添着活性炭、繊維状活性炭、珪酸チタニウム、ゼオライト、イオン交換繊維から選ばれる少なくとも1種の成分を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の成形吸着体。
【請求項5】
繊維状バインダーが、アクリル繊維もしくはセルロース繊維である請求項1〜4のいずれか1項に記載の成形吸着体。
【請求項6】
繊維状バインダーとして使用するアクリル繊維が、平均繊維長0.7mm以上2mm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の成形吸着体。
【請求項7】
前記繊維状バインダーが、平均繊維長0.7mm以上2mm以下のアクリル繊維単独または、同アクリル繊維に対し平均繊維長0.2mm以上2mm以下のセルロース繊維の混合体であり、この繊維状バインダーを4質量%〜10質量%含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の成形吸着体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の成形吸着体を、外径10mm以上80mm以下、内径5mm以上30mm以下の中空円筒状に成形してなる浄水材。
【請求項9】
前記成形吸着体を、成形体密度0.2g/mL以上0.5g/mL以下で成形してある請求項8に記載の浄水材。
【請求項10】
前記成形吸着体を、通水圧力損失0.1MPa以下で破断強力4N以上に成形してある請求項8または9に記載の浄水材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−255310(P2011−255310A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131888(P2010−131888)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(591147694)大阪ガスケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】