説明

成形品の製造方法および成形型の製造方法

【課題】熱垂下成形法により容易かつ簡便に所望形状を有する成形品を得るための手段を提供すること。
【解決手段】成形型成形面上に被成形ガラス素材を、下面周縁部の少なくとも一部が成形面と接触し、かつ下面中央部が成形面と離間した状態になるように配置すること、および、成形型成形面上に配置された被成形ガラス素材に加熱処理を施すことにより、前記被成形ガラス素材の上面を成形して成形品を得る成形品の製造方法。前記成形型として、被成形ガラス素材下面と成形面との離間距離に依存する被成形ガラス素材の予測変形量に基づき決定された成形面形状を有する成形型を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱垂下成形法による成形品の製造方法および熱垂下成形法に使用される成形型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズ用ガラスモールドの成形方法としては、機械的研削研磨法や、機械的研削法や放電加工等の電気的加工法により作成した耐熱性母型を用い、これにガラスブランクスを接触加熱軟化させて母型の面形状を転写する方法等、得ようとする面形状ごとに研削プログラムを用いたり、対応する面形状を有する母型を成形する方法が採用されている。
【0003】
近年、軸対称の非球面レンズ設計を組み入れることにより、薄肉軽量化を図った多焦点眼鏡レンズの需要が増大している。そのため、このような複雑な形状の眼鏡レンズを得るためのモールドの成形法として、熱垂下成形法が提案されている(特開平6−130333号公報(特許文献1)、特開平4−275930号公報(特許文献2)参照)。熱垂下成形法は、ガラス等の熱軟化性物質からなるガラス素材を型の上に載せ、その軟化点以上の温度に加熱することによりガラス素材を軟化させて型と密着させることにより、型形状をガラス素材の上面に転写させて所望の面形状を有する成形品を得る成形法である。
【0004】
熱垂下成形法では、成形型成形面形状、被成形素材形状、成形面と成形素材下面との離間距離、加熱条件等の因子が成形精度に影響し得る。通常、形状制御を容易にするために上記因子中のいくつかを固定し、いくつかを可変とした上で成形条件が決定される。一般には、形状の異なるガラスブランクスと成形型を多数準備し、成形面と被成形ガラス素材の離間距離が所定値(一般に幾何中心部離間距離にて0.1mm〜2.0mm程度)となるようなガラスブランクスと成形型との組み合わせを選択した上で、予備成形を繰り返しガラスブランクスおよび/または成形型の形状に補正を加えた後に実成形が行われる。これは一般に、成形型とブランクスの間隔を極力小さくすることにより、形状制御が容易になるからである。しかし、上記方法では、多数のガラスブランクスや成形型のストックを準備する必要がある、ガラスブランクスと成形型の組み合わせを選択した後の形状補正が煩雑である、等の課題があった。
【0005】
これに対し、本願出願人は、特許文献3において、ガラス素材の上面を成形型成形面に対する略オフセット面に成形することを提案した。特許文献3には、まず所望のガラス素材上面形状に基づき成形型成形面の形状を決定し、決定された成形型成形面形状に基づきガラス素材の形状を決定することが提案されている。
【特許文献1】特開平6−130333号公報
【特許文献2】特開平4−275930号公報
【特許文献3】WO2007/058353 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱垂下成形法の簡便性を高めるアプローチの1つとしては、特許文献3に記載の方法のように成形型成形面形状に基づきガラス素材形状を決定することが挙げられる。一方、他のアプローチとしては、ガラス素材の形状に基づき成形型成形面形状を決定することが考えられる。この方法によれば、単一形状のガラス素材から様々な異なる形状の成形品を得ることが可能となり、熱垂下成形法の簡便性をより一層高めることができる。
【0007】
そこで本発明の目的は、熱垂下成形法により容易かつ簡便に所望形状を有する成形品を得るための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた。その結果、被成形ガラス素材の熱軟化による変形量と、被成形ガラス素材と成形型成形面との離間距離には相関があること、この相関関係を利用することにより被成形ガラス素材の形状から成形型成形面形状を決定できること、を見出し本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]成形型成形面上に被成形ガラス素材を、下面周縁部の少なくとも一部が成形面と接触し、かつ下面中央部が成形面と離間した状態になるように配置すること、および、
成形型成形面上に配置された被成形ガラス素材に加熱処理を施すことにより、前記被成形ガラス素材の上面を成形して成形品を得る成形品の製造方法であって、
前記成形型として、被成形ガラス素材下面と成形面との離間距離に依存する被成形ガラス素材の予測変形量に基づき決定された成形面形状を有する成形型を使用することを特徴とする成形品の製造方法。
[2]前記離間距離に依存する被成形ガラス素材の予測変形量は、離間距離に比例する値である[1]に記載の成形品の製造方法。
[3]複数の同一形状および同一組成の試験用ガラス素材を使用し、各試験用ガラス素材を、試験用成形型成形面上に配置した状態で前記加熱処理と同一加熱条件下でテスト加熱することを、試験用ガラス素材下面と試験用成形型成形面との離間距離を変化させて繰り返すテスト成形により、被成形ガラス素材の総変形量を予測するための式を導出することを含み、該導出される式を用いて成形型成形面の形状を決定する[1]または[2]に記載の成形品の製造方法。
[4]成形型成形面上に被成形ガラス素材を、下面周縁部の少なくとも一部が成形面と接触し、かつ下面中央部が成形面と離間した状態になるように配置すること、および、
成形型成形面上に配置された被成形ガラス素材に加熱処理を施すことにより、前記被成形ガラス素材の上面を成形して成形品を得る成形法に使用される成形型の製造方法であって、
前記成形面形状を、被成形ガラス素材下面と成形面との離間距離に依存する被成形ガラス素材の予測変形量に基づき決定することを特徴とする成形型の製造方法。
[5]前記離間距離に依存する被成形ガラス素材の予測変形量は、離間距離に比例する値である[4]に記載の成形型の製造方法。
[6]複数の同一形状および同一組成の試験用ガラス素材を使用し、各試験用ガラス素材を、試験用成形型成形面上に配置した状態で前記加熱処理と同一加熱条件下でテスト加熱することを、試験用ガラス素材下面と試験用成形型成形面との離間距離を変化させて繰り返すテスト成形により、被成形ガラス素材の総変形量を予測するための式を導出することを含み、該導出される式を用いて成形型成形面の形状を決定する[4]または[5]に記載の成形型の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、同一形状のガラス素材を用いて異なる形状の成形品を得ることが可能となる。これにより、熱垂下成形法におけるガラス素材の製造および管理が容易となり、熱垂下成形法の簡便性を顕著に向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の成形品の製造方法は、成形型成形面上に被成形ガラス素材を、下面周縁部の少なくとも一部が成形面と接触し、かつ下面中央部が成形面と離間した状態になるように配置すること、および、成形型成形面上に配置された被成形ガラス素材に加熱処理を施すことにより、前記被成形ガラス素材の上面を成形して成形品を得る成形品の製造方法であり、前記成形型として、被成形ガラス素材下面と成形面との離間距離に依存する被成形ガラス素材の予測変形量に基づき決定された成形面形状を有する成形型を使用する。
【0012】
本発明の成形品の製造方法において、被成形ガラス素材は、下面周縁部の少なくとも一部が成形型成形面と接触した状態で成形型上に配置される。安定配置のためにはガラス素材が下面周縁部の3点以上で成形型成形面と接触することが好ましく、周縁部全周にわたって成形型成形面と接触することが更に好ましい。
【0013】
図1に、熱垂下成形法の説明図を示す。
通常、熱垂下成形法では、被成形ガラス素材を、ガラス素材下面中央部と成形型成形面が離間した状態となるように成形型上に配置した状態(図1(a))で加熱処理を施す。これにより、被成形ガラス素材の下面は自重により変形し成形型成形面と密着し(図1(b))、成形型成形面形状がガラス素材上面に転写され、その結果、ガラス素材上面を所望形状に成形することができる。
【0014】
本発明者らは、上記のように配置されたガラス素材の加熱による変形量は、「ガラス素材下面と成形型成形面との離間距離(以下、単に「離間距離」ともいう)に依存しない変形量」と「離間距離に依存する変形量」との2成分を含むことを新たに見出した。即ち、ガラス素材下面と成形型成形面との離間距離を変えることによりガラス素材の変形量は変化するが、この変形量の変化と離間距離との間には相関関係がある。従って、「離間距離に依存しない変形量」と「離間距離に依存する変形量」とを独立の項に分離した関係式を導出し、かつ「離間距離に依存しない変形量」を、例えば実験的に決定することにより、同一形状の被成形ガラス素材から、以下の方法により異なる上面形状を有する成形品を得るための成形型成形面形状を決定することが可能となる。
【0015】
[方法1]
ガラス素材下面と成形型成形面との離間距離を決定する→関係式から「離間距離に依存しない変形量」と「離間距離に依存する変形量」の和として予測総変形量を算出する→算出された予測変形量から定まる予測上面形状が所望形状であれば、決定した離間距離でガラス素材を配置できる形状に成形型の成形面を補正する。
【0016】
[方法2]
所望形状の成形品を得ることができる変形量(所望変形量)を決定する→所望変形量を関係式に代入することにより離間距離を算出する→算出された離間距離でガラス素材を配置できる形状に成形型の成形面を補正する。
【0017】
[方法3]
所望形状の成形品を得ることができる変形量(所望変形量)を決定する→ガラス素材と成形型をそれぞれ選択する→選択したガラス素材を選択した成形型上に配置した場合のガラス素材下面と成形型成形面との離間距離を求める→測定された離間距離を関係式に代入することにより予測総変形量を算出する→算出された予測総変形量と所望変形量との差分から関係式により離間距離不足分を算出する→算出された離間距離不足分の補正を成形型の成形面に加える。
【0018】
上記方法1〜3に使用される関係式は、試験用ガラス素材を使用したテスト成形におけるガラス素材の変形挙動から実験的に求めることができる。より詳しくは、関係式は、複数の同一形状および同一組成の試験用ガラス素材を使用し、各試験用ガラス素材を、試験用成形型成形面上に配置した状態で前記加熱処理と同一加熱条件下でテスト加熱することを、試験用ガラス素材下面と試験用成形型成形面との離間距離を変化させて繰り返すことにより導き出すことができる。なお、各試験用ガラス素材の組成および形状にについて、「同一」とは、ガラス素材製造において通常生じ得る程度の差が存在する場合も含むものとする。
【0019】
以下、本発明の成形品の製造方法を、具体的態様に基づき更に詳細に説明する。但し、本発明は下記態様に限定されるものではない。
【0020】
前記関係式は、例えば下記工程1〜4により導出することができる。
(工程1)テスト成形1
離間距離がゼロとなるような成形面形状を有する成形型上に試験用ガラス素材を配置し、実成形で使用する加熱条件と同条件で加熱処理を行う。次いで、加熱処理により発生する変形量を測定する。「変形量」とは、例えば、加熱処理前と加熱処理後における、幾何中心を基準としたサジタルハイト(中心を基準とする鉛直方向高さ)の差分として表すことができる。上記変形量は、例えばタリサーフ(接触式2次元形状測定装置)により測定することができる。
(工程2)テスト成形2
成形型成形面と試験用ガラス素材下面中央部が所定距離をもって離間するような成形面形状を有する成形型上に試験用ガラス素材を配置し変形量を求める工程を、使用する成形型を変えることにより離間距離を変化させて繰り返す。
(工程3)離間距離に依存する変形量算出のための係数決定
下記式1’に前記テスト成形1、2の数値を代入して係数kを求める。
テスト成形2において測定された変形量=テスト成形1において測定された変形量+各測定点における離間距離×k(kは実験的に求められる定数)・・・(式1’)
(工程4)関係式(補正関数)の決定
工程3で求めた係数kを用いて、実成形に使用する成形型成形面形状決定のための関係式(補正関数)を得ることができる。
総変形量=テスト成形1において測定された変形量+成形型成形面とガラス素材下面との離間距離×k・・・(式1”)
例えば、上記式1”の総変形量に所望の変形量を代入することより、所望形状を得るための離間距離を決定することができる。また、離間距離を決定すれば総変形量(予測総変形量)を算出することができる。
【0021】
その後、以下の工程5および6を得て成形品を得ることができる。
(工程5)成形型成形面形状補正
被成形ガラス素材形状と工程4で求めた離間距離や予測総変形量から成形面形状が決定できる。決定された成形面形状となるように成形型成形面に形状補正を加える。
(工程6)実成形
被成形ガラス素材を工程5で形状補正を加えた成形型成形面上に配置し加熱処理を施す。工程4で求めた式1”から求められる予測変形量と同一または近似する変形量での変形が発生することにより、被成形ガラス素材の上面を所望形状に成形することができる。
上記工程により、例えば4〜5種類程度、更には10〜30種類程度、または更に多種の異なる面形状を有する成型品を同一形状のブランクスから製造することができる。
以下に、上記各工程を更に詳細に説明するが、本発明は下記態様に限定されるものではない。
【0022】
(工程1)テスト成形1
前述の通り、成形型成形面上に離間状態で配置されたガラス素材の加熱による変形量は、「離間距離に依存しない変形量」と「離間距離に依存する変形量」との2成分を含み、例えば、
離間距離に依存しない変形量CA+離間距離に依存する変形量CB・・・(式a)
として表すことができる。テスト成形1は、離間距離に依存しない変形量CAを求めるための工程であり、離間距離がゼロとなるような成形面形状を有する成形型上に試験用ガラス素材を嵌合配置し、実成形で使用する加熱条件と同条件で加熱処理を行い離間距離ゼロでの変形量を測定する。ガラス素材を、ガラス素材下面と一致または略一致する形状を有する成形面上にガラス素材を配置することによりガラス素材下面と成形面を嵌合させることができる。
【0023】
(工程2)テスト成形2
工程2は、離間距離に依存する変形量CBを求めるための工程であり、テスト成形1で使用したガラス素材と同一組成かつ同一形状の新たな試験用ガラス素材を、ガラス素材下面が成形型成形面と離間した状態になるように成形型上に配置し、工程1と同条件下で加熱処理を施す。成形型成形面の加工曲率半径を変化させることにより離間距離を変えることができる。離間距離は、ガラス素材下面の幾何中心から成形型成形面までの鉛直方向距離として、例えば0.2mm、0.5mm、1.0mmと3通り設定することができるが、設定する離間距離および設定数は良好な成形精度が得られる範囲で適宜変更することができる。ガラス素材下面における離間距離は、測定位置において異なり、例えば図1に示すように、上面が凹面、下面が凸面のガラス素材を、凹面形状を有する成形型成形面上に配置する場合、中心部から周縁部に向かって離間距離は小さくなる。例えば幾何中心から0.1mm〜4mmピッチ程度、例えば2mmピッチ程度でガラス素材下面の複数点において離間距離と加熱後の変形量を測定することが好ましい。このように複数点で測定を行い得られたデータを平均化し離間距離と変形量との相関を求めることにより、信頼性の高い補正関数を得ることができる。具体的には、例えば図2に示すようにガラス素材と成形型のノッチ部分を合わせてガラス素材を配置し、ノッチ方向を基準の0°方向とし、0°方向に直交する方向を90°方向として、それぞれの方向において測定することができる。前述の工程1における変形量測定も、同様の理由から複数点で行うことが好ましい。なお、連続式電気炉を使用し加熱処理を行う場合、上記0°方向または90°方向のいずれか一方を炉内での進行方向とすることが好ましい。連続式電気炉内には温度分布があり、一般に進行方向では温度変化があり進行方向に直交する方向における温度変化は少ない。2方向での測定値を平均化することにより、温度分布による影響を低減し信頼性の高いデータを得ることができる。
【0024】
例えば、下記表1に示す4種のガラス素材を使用し、幾何中心における離間距離を0mm、0.2mm、0.5mm、1.0mmと変化させてガラス素材上面のタリサーフにより測定した変形量((加熱処理後のDepth測定値)―(加熱処理前のDepth測定値);以下、「Depth変化量」ともいう)を、幾何中心からの半径方向距離に対してプロットしたグラフを図3に示す。測定は、図2に示す2方向において合計38点行った。なお、下記4種のガラス素材は、ガラス組成は同一であり、いずれも法線方向に等厚であった。
【0025】
【表1】

【0026】
図3に示すように、離間距離ゼロの場合にも加熱前後でDepth変化が発生している。本発明者らは、この離間距離ゼロでのDepth変化量が、離間状態におけるDepth変化量に含まれるガラス素材固有の値であると考えた。そこで離間状態でのDepth変化量から離間距離ゼロでのDepth変化量を差し引き差分を求め、各測定点における離間距離と上記差分との関係をプロットしたところ、図4に示すように幾何中心における離間距離にかかわらず直線関係が得られた。この結果から、離間状態における変形量は、上記式aに示すように、「離間距離に依存しない変形量CA」と「離間距離に依存する変形量CB」との和として表すことができることがわかり、更にCBは離間距離に比例する値として表すことができることもわかる。本態様では、下記工程3および4によりCBを求めるための関係式を導き出すことができる。
【0027】
(工程3)離間距離に依存する変形量算出のための係数決定
上記の通り、離間状態における変形量は、離間距離に依存しない変形量CAと離間距離に依存する変形量CBの和として表すことができ、更にCBは離間距離tに比例する値として表すことができる。そこで離間距離に基づき実成形における被成形ガラス素材の総変形量を予測するための関係式としては、下記式1を用いることができる。
総変形量=CA+CB=CA+(t×k)・・・(式1)
上記kは実験的に求められる係数である。工程3では、下記式1’に前記テスト成形1、2において得た測定値を代入して係数kを求める。kは、ガラス素材等により変化するが、例えば図3および図4に示す態様では1.013〜1.225程度となる。D1613について、k=1.1196であった。
テスト成形2において測定された変形量=テスト成形1において測定された変形量(離間距離ゼロでの変形量)+各測定点における離間距離×k・・・(式1’)
【0028】
(工程4)関係式(補正関数)の決定
工程3で求めたkを使用することにより、下記式1”により成形型成形面の補正関数を得ることができる。
総変形量(予測値または所望値)=テスト成形1において測定された変形量+成形型成形面とガラス素材下面との離間距離×k・・・(式1”)
上記式1”を使用し成形型成形面形状を決定する方法としては、前述の方法1〜3を用いることができる。なお、離間距離の測定または決定は、ガラス素材下面上の複数点について行うことが好ましい。例えば図1に示すように、幾何中心における離間距離n0から一定間隔(n1、n2、n3、…)で行うことができる。具体的には、ガラス素材下面の幾何中心から周縁部まで1〜3mm間隔で15〜20点程度行うことや、0.1〜4mm間隔で9〜400点程度行うことが好適である。
【0029】
(工程5)成形型成形面形状補正
実成形で成形されるガラス素材の形状と工程4で求めた離間距離や予測総変形量から成形面形状を決定することができる。実成形で使用する成形型に対し、決定された成形面形状となるように成形型成形面に形状補正を加える。形状補正は研削、研磨等の公知の加工方法によって行うことができる。ただし、実成形用に選択した成形型が、工程4で決定された成形面形状を有する場合は補正を加えずそのまま実成形に使用することもできる。
【0030】
(工程6)実成形
工程6では、被成形ガラス素材を工程5で形状補正を加えた成形型成形面上に配置し加熱処理を施す。被成形ガラス素材が、工程4で設定した予測変形量と同一または近似する変形量で変形すれば、被成形ガラス素材の上面を所望形状に成形することができる。
【0031】
前記試験用ガラス素材は、実成形で使用されるガラス素材と同一のガラス組成を有するものを使用することが成形型成形面の形状補正精度を高める上で好ましい。更に、同様の理由から、試験用ガラス素材は、実成形で使用されるガラス素材と外形が同一または略同一であることが好ましい。ガラス素材の外径は、特に限定されるものではないが、例えば60〜90mm程度である。
【0032】
本発明において使用されるガラス素材の厚さも特に限定されるものではないが、例えば鉛直方向または法線方向において2〜10mm程度である。ガラス素材は、鉛直方向または法線方向において厚みが異なるガラスであってもよいが、等厚であることが好ましい。中でも、法線方向に等厚のガラス素材はWO2007/058353 A1に記載されているように形状制御が容易であり特に好ましい。
【0033】
試験用ガラス素材の厚みが実成形で使用されるガラス素材と異なる場合には、離間距離に依存しない変形量の成分は、下記式2により求めることが好ましい。
離間距離に依存しない変形量=テスト成形(離間なし)における変形量×厚み変化比率CC・・・(式2)
(厚み変化比率CC=実成形に使用するガラス素材の厚み/試験用ガラス素材の厚み)
ここで厚み変形比率を求めるためのガラス素材厚みは、鉛直方向における厚みであってもよく、法線方向における厚みであってもよいが、鉛直方向または法線方向に等厚のガラス素材を使用する場合は該方向における厚みについて厚み変化比率を算出することが好ましい。
【0034】
更に、試験用ガラス素材の厚みが実成形で使用されるガラス素材と異なる場合、離間距離に依存する変形量の成分は、下記式3により求めることが好ましく、総変形量を上記式2と下記式3を組み合わせて求めることが更に好ましい。
【0035】
離間距離に依存する変形量=[CD+(実成形での離間距離)−(テスト成形(離間)での離間距離)]×厚み変形比率CC×k・・・(式3)
ここで、CD=[ [(テスト成形(離間)での上面変形量)−(テスト成形(離間なし)での上面変形量)]×実成形での下面幾何中心における離間距離+(テスト成形(離間なし)での上面変形量)]+実成形での下面幾何中心における離間距離
【0036】
本発明の成形品の製造方法において使用されるガラス素材のガラス組成および形状は特に限定されるものではなく、所望の成形品に応じて決定することができる。試験用ガラス素材としては、例えば球面屈折力のみを含み乱視屈折力を含まない形状を有するガラス素材が好適である。
【0037】
被成形ガラス素材としては、比較的大きな曲率半径(例えば下面の曲率半径が1607〜1613mm)、中程度の曲率半径(例えば下面の曲率半径が128〜222mm)、比較的小さな曲率半径(例えば下面の曲率半径が89〜95mm)のいずれも使用可能である。曲率半径が大きいガラス素材に対しては予測変形量から離間距離を算出する算出点を増加することにより、成形面補正精度を高めることができる。ガラス素材の詳細については、例えばWO2007/058353 A1等を参照できる。また加熱処理の条件等の詳細についても、WO2007/058353 A1等を参照できる。
【0038】
更に本発明は、成形型成形面上に被成形ガラス素材を、下面周縁部の少なくとも一部が成形面と接触し、かつ下面中央部が成形面と離間した状態になるように配置すること、および、成形型成形面上に配置された被成形ガラス素材に加熱処理を施すことにより、前記被成形ガラス素材の上面を成形して成形品を得る成形法に使用される成形型の製造方法に関する。本発明の成形型の製造方法では、成形型の成形面形状を、被成形ガラス素材下面と成形面との離間距離に依存する被成形ガラス素材の予測変形量に基づき決定する。本発明の成形型の製造方法の詳細は、先に本発明の成形品の製造方法について述べた通りである。また、成形型の素材、加工方法等の詳細は、WO2007/058353 A1等を参照できる。
【0039】
本発明の成形品の製造方法は、注型重合により眼鏡レンズを得るための眼鏡レンズ用鋳型または鋳型の一部を製造する方法として好適である。前記加熱処理により上面が成形されたガラス素材は、そのままの状態で、または周縁部など一部を除去して眼鏡レンズ用鋳型として使用することができる。また本発明により製造される成形型は、上記製造方法において好適に使用することができる。例えば眼鏡レンズの形状種類は1種類の製品ごとに平均度数屈折力について40種、乱視屈折力について8種あり、合計320種類にもなる、さらに累進屈折力レンズでは加入屈折力について14種類が処方値のパラメータとして加わり1製品で4480種類にもなる。このように膨大な種類の形状に応じた形状を有するガラス素材や成形型を保管および管理することは容易ではない。また眼鏡レンズの形状に応じてガラス素材や成形型に対しトライアルアンドエラーを繰り返し形状補正を加えていくことはきわめて煩雑である。これに対し、本発明によれば、先に説明したように、テスト成形により得られた測定値を基礎データとして求められた補正関数により成形型の成形面形状を決定することができる。これにより熱垂下成形法の簡便性を顕著に高めることができる。例えば、ある形状のガラス素材(試験用ガラス素材)についてテスト成形を行い係数kを求めれば、試験用ガラス素材と同一形状を有する被成形ガラス素材については式1”により、試験用ガラス素材と形状の異なる被成形用ガラス素材については式2や式3により、成形型成形面形状を決定することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づき更に説明する。但し本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0041】
(比較例)
加熱条件および成形すべき成形品の面形状を決定した。保管されている成形型の中から使用する成形型を選択した。被成形ガラス素材として表1に示すD222を選択し、被成形ガラス素材の上面が所望の面形状に収束するまで選択した成形型の成形面形状に補正を加えながらテスト成形を繰り返した。テスト成形回数は4回であった。
【0042】
(実施例)
図3および4に示す測定により得られたD1613について求めた定数k(k=1.1196)を使用し、被成形ガラス素材として表1に示すD222を選択し、前述の式2および式3を使用し成形面形状を決定した。D1613の法線方向における厚さは6.002mm、D222の法線方向における厚さは6.110mmであった。比較例で選択した成形型と同一面形状を有する成形型の成形面を、決定された成形面形状に補正した。
【0043】
実施例および比較例における補正量を図5に示す。図5中、「評価位置」とは、成形型成形面上における幾何中心からの距離である。図5に示すように、実施例と比較例ではほぼ同等の補正値が得られた。この結果から、本発明によれば、ある形状を有するガラス素材を使用してテスト成形を行えば、以降は成形テストを行うことなく補正値を得ることができることがわかる。このように本発明によればトライアルアンドエラーによる補正を行うことなく、成形型成形面の形状を決定できるため、熱垂下成形法により所望形状の成形品を容易かつ簡便に得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の製造方法は、眼鏡レンズ用鋳型の製造方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】熱垂下成形法の説明図である。
【図2】ガラス素材変形量の測定方向の説明図である。
【図3】表1に示す4種のガラス素材の加熱前後の変形量を示す。
【図4】表1に示す4種のガラス素材の離間距離に依存する変形量を示す。
【図5】実施例および比較例における成形型補正値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型成形面上に被成形ガラス素材を、下面周縁部の少なくとも一部が成形面と接触し、かつ下面中央部が成形面と離間した状態になるように配置すること、および、
成形型成形面上に配置された被成形ガラス素材に加熱処理を施すことにより、前記被成形ガラス素材の上面を成形して成形品を得る成形品の製造方法であって、
前記成形型として、被成形ガラス素材下面と成形面との離間距離に依存する被成形ガラス素材の予測変形量に基づき決定された成形面形状を有する成形型を使用することを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項2】
前記離間距離に依存する被成形ガラス素材の予測変形量は、離間距離に比例する値である請求項1に記載の成形品の製造方法。
【請求項3】
複数の同一形状および同一組成の試験用ガラス素材を使用し、各試験用ガラス素材を、試験用成形型成形面上に配置した状態で前記加熱処理と同一加熱条件下でテスト加熱することを、試験用ガラス素材下面と試験用成形型成形面との離間距離を変化させて繰り返すテスト成形により、被成形ガラス素材の総変形量を予測するための式を導出することを含み、該導出される式を用いて成形型成形面の形状を決定する請求項1または2に記載の成形品の製造方法。
【請求項4】
成形型成形面上に被成形ガラス素材を、下面周縁部の少なくとも一部が成形面と接触し、かつ下面中央部が成形面と離間した状態になるように配置すること、および、
成形型成形面上に配置された被成形ガラス素材に加熱処理を施すことにより、前記被成形ガラス素材の上面を成形して成形品を得る成形法に使用される成形型の製造方法であって、
前記成形面形状を、被成形ガラス素材下面と成形面との離間距離に依存する被成形ガラス素材の予測変形量に基づき決定することを特徴とする成形型の製造方法。
【請求項5】
前記離間距離に依存する被成形ガラス素材の予測変形量は、離間距離に比例する値である請求項4に記載の成形型の製造方法。
【請求項6】
複数の同一形状および同一組成の試験用ガラス素材を使用し、各試験用ガラス素材を、試験用成形型成形面上に配置した状態で前記加熱処理と同一加熱条件下でテスト加熱することを、試験用ガラス素材下面と試験用成形型成形面との離間距離を変化させて繰り返すテスト成形により、被成形ガラス素材の総変形量を予測するための式を導出することを含み、該導出される式を用いて成形型成形面の形状を決定する請求項4または5に記載の成形型の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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