説明

成形回路部品の製造方法

【課題】触媒に含まれる貴金属の省資源化を図ると共に、導電性回路を形成する部分に無電解めっきを十分析出させることができる。
【解決手段】第1の基体1を粗化して、ポリ乳酸等からなる被覆材3を部分的に被覆して第2の基体2を形成し、触媒を付与する。被覆材3は疎水性を維持するため、水洗浄で完全に除去できる。次に被覆材3で被覆されていない部分1bに、浴組成が酸性または中性の無電解めっきを行なって導電性回路5を形成し、その後にアルカリ性溶液でこの被覆材を加水分解して除去する。被覆材3は耐酸性であるため、酸性または中性の無電解めっき液で溶解しない。また無電解めっき後に被覆材3を除去するため、被覆材3で被覆されていない部分1bに付与された触媒が、アルカリ性溶液によって脱落するという従来の問題は生じない。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、絶縁材からなる基体の表面を被覆材で部分的に被覆し、この被覆材で被覆されていない部分にめっき層を形成する成形回路部品の製造方法に関し、特に被覆材に加水分解性の材料を使用し、この被覆材の表面に残存する触媒を、めっき前に水洗除去すると共に、めっき層を形成した後に被覆材を除去する成形回路部品の製造方法に関する。
【0002】
従来より絶縁材からなる基体の表面を被覆材で部分的に被覆し、この被覆材で被覆されていない部分に、めっき層を形成する成形回路部品の製造方法が各種存在するが、これらの製造方法において、この被覆材を簡単に溶出して除去できる製造方法が提案されている。例えば、基体の表面を粗化し、その粗化した表面を水溶性の高分子材料であるポリビニルアルコール系樹脂からなる被覆材で部分的に被覆し、触媒を付与した後に被覆材を水洗除去し、被覆材で被覆されていなかったために触媒が付着した基体の表面部分に、無電解めっきを行って導電性回路を形成する成形回路部品の製造方法がある(例えば特許文献1及び2参照。)。
【0003】
また基体の表面を粗化し、その粗化した表面を加水分解性の高分子材料であるポリ乳酸等からなる被覆材で部分的に被覆し、触媒を付与した後に被覆材をアルカリ性溶液で加水分解して除去し、被覆材で被覆されていなかったために触媒が付着した部分に、無電解めっきを行って導電性回路を形成する成形回路部品の製造方法がある(例えば特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開平11−145583号公報(1〜4頁)
【特許文献2】特開2000−80480号公報(1〜8頁)
【特許文献3】特開2002−344116号公報(1〜4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに上述した従来の製造方法には、次の改善すべき問題があった。すなわち上記特許文献1あるいは2に記載の方法においては、被覆材として、水溶性のポリビニルアルコール系樹脂等の高分子材料を使用しているため、触媒付与の工程において、この被覆材の表面が膨潤して親水性となり、その結果、被覆材の表面に付着した触媒が、洗浄しても除去できないという問題があった。このため、後工程において被覆材を溶解除去するときに、触媒も一緒に溶解液に混入し、溶解液の廃却と共に、混入した触媒も廃棄されていた。しかるに触媒には、パラジウムや金等の希少金属が用いられるため、これらの貴重な貴金属に対する省資源化が、強く求められる。
【0005】
また上記特許文献3に記載の方法においては、被覆材としてポリ乳酸や脂肪族ポリエステル等の加水分解性の高分子材料を使用し、触媒を付与した後に、加水分解を促進するためアルカリ性溶液を用いて被覆材を除去するが、この被覆材の除去工程において、被覆材で被覆されていない基体の表面部分、すなわち導電性回路を形成する部分に付与された触媒までもが、このアルカリ性溶液の洗浄効果によって脱落し、その結果、この導電性回路を形成する部分に、無電解めっきが十分析出しないという問題がある。
【0006】
さらに上述した特許文献1〜3の手段では、いずれも被覆材を除去後に無電解めっきを行なっているため、いわゆる通常行なわれるバレルめっき(すなわち基体を容器内にバラバラな状態で投入し、容器をめっき浴槽内で回転させる。)では、無電解めっきの初期段階において、触媒付与面が互いに擦れ合って触媒が脱落し、このためめっき未着不良がしばしば生ずるという問題がある。
【0007】
そこで本願発明の目的は、触媒に含まれる貴重な貴金属の省資源化と、導電性回路を形成する部分に無電解めっきを十分析出させることができる、成形回路部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明による成形回路部品の製造方法の特徴は、被覆材として、触媒液によって膨潤することなく疎水性を維持する加水分解性の高分子樹脂を使用すること、この被覆材は耐酸性を有するので、この被覆材で被覆した後の無電解めっきを酸性または中性のいずれかの浴組成でおこなうこと、被覆材の溶解除去を、導電性回路を形成する部分に無電解めっきを形成した後に行うこと、及び触媒付与後に、被覆材の表面に付着した触媒を洗い落とす水洗工程を設けて、この洗い落とした触媒の回収を容易にすることにある。
【0009】
すなわち本願発明による成形回路部品の製造方法は、絶縁体からなる第1の基体を成形する第1の工程と、この第1の基体の表面を粗化する第2の工程と、この粗化した第1の基体の表面に、ポリグリコール酸、若しくはポリ乳酸の単体、またはポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合体、若しくは共重合体からなる被覆材を、部分的に被覆して第2の基体を形成する第3の工程とを備えている。またこの製造方法は、上記第2の基体の表面に触媒を付与する第4の工程と、この第2の基体の被覆材の表面に残存する上記触媒を、水洗除去する第5の工程を備えている。そしてこの製造方法は、上記第2の基体の表面であって、上記被覆材で被覆されていない部分に、浴組成が酸性または中性のいずれかの第1の無電解めっきをする第6の工程と、この第2の基体の表面に被覆された被覆材を除去する第7の工程とを備えている。
【0010】
上記第6の工程と第7の工程との間に、上記第1の無電解めっきの表面に、浴組成が酸性または中性のいずれかの第1の電解めっきを積層する第8の工程を備えてもよい。
【0011】
あるいは上記第7の工程の後に、上記第1の無電解めっきの表面に、浴組成が酸性、中性、またはアルカリ性のいずれかの1の第2の電解めっきを積層する第9の工程を備えてもよい。
【0012】
あるいは上記第7の工程の後に、上記第1の無電解めっきの表面に、浴組成が酸性、中性、またはアルカリ性のいずれかの1の第2の無電解めっきを積層する第10の工程を備えてもよい。
【0013】
また上記第6の工程と第7の工程との間に、上記第1の無電解めっきの表面に、上記第1の電解めっきに替えて、浴組成が酸性または中性のいずれかの第3の無電解めっきを積層する第11の工程を備えてもよい。
【0014】
また上記第8の工程である第1の電解めっきを行い、次に第7の工程である被覆材の除去を行った後で、上記第1の電解めっきの表面に、浴組成が酸性、中性、若しくはアルカリ性のいずれかの1の第3の電解めっき、または第4の無電解めっきのいずれかを積層する第12の工程を備えてもよい。
【0015】
ここで上述した第8の工程以降の工程番号、電解めっき番号、及び無電解めっき番号は、いずれも各工程、各電解めっき、及び各無電解めっきに関して、それぞれ相互に区別するためのものであって、必ずしも本願発明による成形回路部品の製造工程の時系列的な順番を示すものではない。
【0016】
また「絶縁体からなる第1の基体」は、平板状のものに限らず、3次元的な立体形状のものであってもよく、表裏面等の相異なる面を開口孔で連結したものも含む。「絶縁体」としては、熱可塑性樹脂が望ましいが、熱硬化性樹脂であってもよい。かかる樹脂としては、例えば芳香族系液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルポリスルホン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、ポリアミド、変性ポリフェニレンオキサイド樹脂、ノルボルネン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂が該当する。
【0017】
ここで「粗化する」とは、第1の基体の表面に小さな凹凸を形成し、無電解めっき層の密着性を向上し、親水性を付与するためのエッチングを意味するが、本発明では、湿式のエッチングを意味する。ここで湿式のエッチングとは、例えば、NaOHやKOH等のアルカリ金属水酸化物の水溶液、アルコール性ナトリウム、アルコール性カリウム等のアルカリ金属アルコラートの水溶液、またはジメチルホルムアミド等の有機溶剤を使用して、これらの液を第1の基体の表面に塗布したり、これらの液中に第1の基体を浸漬したりすることを意味する。
【0018】
「ポリグリコール酸」とは、例えば、株式会社クレハ製の図9に示す構造式のものが該当する。「ポリ乳酸」とは、例えば、三井化学株式会社製のレイシア♯H-100J/Fが該当する。「脂肪族ポリエステル」とは、例えば、ポリヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、脂肪族多価塩基酸とからなる脂肪族ポリエステル、ヒドロキシカルボン酸や脂肪族多価アルコールから選ばれた複数種のモノマー成分と、脂肪族多価塩基酸から選ばれる複数種のモノマー成分とからなるランダム共重合体やブロック共重合体などが該当する。
【0019】
このポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合量、共重合量は、混合体又は共重合体の全量に対して1〜10重量%程度がよい。アルカリ分解促進剤を、混合体全量に対して1〜100重量%程度、混合してもよい。また必要に応じてアルカリ分解促進剤、有機無機充填剤、着色剤などの、合成樹脂に使用できる汎用の添加剤を混合してもよい。
【0020】
「部分的に被覆する」とは、後工程において導電性回路を形成すべき部分を残して、選択的に被覆するということを意味している。「第2の基体」とは、第1の基体と、この第1の基体の表面に部分的に被覆した被覆材との両方からなる部材を意味する。
【0021】
「水洗除去」とは、疎水性を維持している被覆材の表面に付着している触媒を、水洗によって洗い流すことを意味する。この水洗に際しては、pH7以上の中性からアルカリ組成の洗浄水を使用し、例えば15〜70℃の洗浄水に、第2の基体を5〜120秒間浸して攪拌したり、100〜170℃の洗浄水の蒸気を、第2の基体に高圧で噴き付けたりすることが該当する。「浴組成」とは、無電解めっき液のpH(水素イオン濃度)を意味しており、「浴組成が酸性または中性」とは、無電解めっき液、または電解めっき液のpHが7以下であることを意味する。なお本願発明においては、無電解めっきの「浴組成」が、7〜7.5程度の弱アルカリ性であっても、酸性または中性の浴組成と同様に作用するが、無電解めっき液の劣化を早めるため注意が必要である。
【発明の効果】
【0022】
被覆材として、加水分解によって容易に除去でき、かつ触媒液によって膨潤することなく疎水性を維持できる、ポリグリコール酸、若しくはポリ乳酸の単体、またはポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合体、若しくは共重合体を使用することによって、触媒付与の際に、触媒が被覆材に強固に密着することを防止できる。
【0023】
そして触媒付与後に水洗浄の工程を設けることによって、被覆材の疎水性の表面に付着した触媒を、容易かつ確実に除去できるので、この洗浄水に洗い出された触媒を容易に分離回収可能となり、高価な貴金属の省資源化が可能となる。
【0024】
また上記被覆材は耐酸性を有するので、無電解めっき若しくは電解めっきを、酸性または中性のいずれかの浴組成で行なうことによって、この被覆材の溶解等を防止して、導電性回路を精密に形成することができる。
【0025】
さらに被覆材の溶解除去を、導電性回路を形成する部分に、無電解めっきを形成した後に行うことによって、無電解めっき前に被覆材の溶解除去をする従来手法の問題点、すなわち被覆材の除去に用いるアルカリ性の溶解液によって、被覆材で被覆されていない第1の基体の表面に付与した触媒までもが脱落してしまうという問題を回避できるので、無電解めっきを十分に析出させることができる。
【0026】
また被覆材を除去した後は、被覆材の溶解等を考慮する必要がくなるため、浴組成が酸性、中性、またはアルカリ性のいずれであっても、この被覆材の除去前に行った電解めっき、または無電解めっきに重ねて、さらに電解めっき、または無電解めっきを積層することができる。
【0027】
また無電解めっき、または電解めっきの上に、重ねて無電解めっき、または電解めっきを積層することによって、成形回路の厚みや強度等を増大させることができる。また材質の異なるめっきを積層することによって、成形回路に半田付け性の向上等、他の有用な特性を付与することができる。
【0028】
また被覆材の溶解除去を、無電解めっきを形成した後に行うことによって、無電解めっきの際には、導電性回路を形成する部分の周囲を、被覆材の壁で取囲まれた状態にすることができる。このためバレルめっきを行なう場合にも、被覆材の壁によって、触媒付与が付与された導電性回路を形成する部分が、相互に擦れ合うことを回避でき、めっきの未着不良が生じることが防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1〜図8を参照しつつ、本発明による成形回路部品の製造方法の具体例を説明する。さて図1に示すように、第1の工程として、絶縁体からなる熱可塑性樹脂を射出成形して、ブロック形状の第1の基体1を形成する。ここで熱可塑性樹脂としては、芳香族系液晶ポリマーを使用する。次に図2に示すように、第2の工程として、第1の基体1の全表面をエッチングにより粗化する。このエッチングは、苛性ソーダまたは苛性カリを所定濃度、例えば45重量%に溶解したアルカリ性水溶液を、所定温度、例えば50〜90℃に加熱し、第1の基体1を所定時間、例えば30分浸漬して行う。このエッチングによって図2の部分的拡大図に示すように、全ての表面が凹凸の粗面1aとなる。
【0030】
次に図3に示すように、第3の工程として、第1の基体1の粗面1aに、被覆材3を部分的に被覆して、第2の基体2を形成する。被覆材3としては、ポリ乳酸の単体を使用するが、これに限らず、ポリグリコール酸の単体、またはポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合体、若しくは共重合体を使用してもよい。これらの樹脂は、アルカリ水溶液で加水分解する性質を有し、酸性水溶液に対して耐性を示す性質がある。被覆の方法としては、射出成形金型内に、表面を粗化した第1の基体1をセットして、この第1の基体の粗面1aのうち、所定の導電性回路が形成されるべき部分を金型等で覆い、その部分以外のキャビティ内にポリ乳酸樹脂を注入することにより、この第1の基体に被覆材3を一体的に形成する。なお被覆材3の厚さは、0.1〜1mmが望ましく、0.3〜0.5mmが、さらに望ましい。
【0031】
次に図4に示すように、第4の工程として、第2の基体2の全表面に、パラジウム、金などによる触媒4を付与する。触媒の付与は公知の方法で行うが、例えば、錫、パラジウム系の混合触媒液に、第2の基体2を浸漬した後、塩酸、硫酸などの酸で活性化し、表面にパラジウムを析出させる。または、塩化第1錫等の比較的強い還元剤を表面に吸着させ、金などの貴金属イオンを含む触媒溶液に浸漬し、表面に金を析出させる。液の温度は15〜23℃で5分間浸漬すれば良い。
【0032】
第2の基体2の表面のうち、被覆材3で被覆されていない露出部分、すなわち所定の導電性回路が形成されるべき部分は、上記第2の工程のエッチングにより、粗面化されて親水性になっているため、触媒4が強固に付着する。一方被覆材3の表面3aは、上述したように、第2の工程のエッチングによっても、膨潤することなく疎水性を維持しているため、触媒4は、強固には付着しない。
【0033】
そこで図5に示すように、第5の工程として、触媒4を付与した第2の基体2を水洗浄すると、被覆材3の表面3aに残存するこの触媒は、全て脱落除去できる。一方所定の導電性回路が形成されるべき部分は、上述したように、触媒4が強固に付着しているため、水洗浄によっても、触媒が脱落することはない。なおこの水洗浄は、第2の基体2を、温度15〜25℃の水槽に浸して、5〜30秒間、ワークを遥動して行なう。
【0034】
次に図6に示すように、第6の工程として、第2の基体2の表面であって、被覆材3で被覆されていない部分に、浴組成が酸性の第1の無電解めっきである無電解ニッケルめっきを行い、導電性回路5を形成する。この無電解ニッケルめっきは、例えば、pH4.7、温度90℃の酸性浴に、35分間浸漬して行なう。なお第1の無電解めっきとして、上記無電解ニッケルめっきに替えて、浴組成を中性にして、無電解金めっきを行なってもよい。また上記第1の無電解めっきである無電解ニッケルめっきの後に、この無電解ニッケルめっきの上に、浴組成を中性にして、第3の無電解めっきとして、重ねて無電解金めっきを行なってもよい(第11の工程に相当する。)。
【0035】
なお無電解ニッケルめっき、または無電解金めっきは、それぞれ酸性または中性の浴組成で行なうため、上述したように耐酸性を有する被覆材3は、めっき液に溶解することはなく、導電性回路5を精密に形成することができる。
【0036】
次に図7に示すように、第7の工程として、第2の基体2の表面を被覆した被覆材3を除去する。上述したように被覆材3のポリ乳酸等は、酸性水溶液に対して耐性を示すが、アルカリ水溶液では簡単に加水分解するので、第2の基体2を、濃度2〜15重量%、温度25〜70℃の苛性アルカリ(NaOH、KOHなど)水溶液中に、1〜120分程度浸漬して、被覆材3を除去する。したがって手作業によるマスク除去に比べ作業効率が著しく向上する。かかる場合、被覆材3で被覆されていない部分は、既に、無電解ニッケルめっき等による導電性回路5が形成されているので、この部分の触媒が、この被覆材を加水分解するアルカリ性の溶液によって脱落するという従来の問題点とは、全く無縁となる。
【0037】
さて図8に示すように、上述した第6の工程(第1の無電解めっき)と、第7の工程(被覆材の除去)との間に、この第1の無電解めっきを形成した導電性回路5の表面に、浴組成が酸性または中性の第1の電解めっきを行なって、二次めっき層6を形成する第8の工程を挿入することができる。例えば電解銅めっきを行う場合、酸性の硫酸銅浴の浴組成は、CuSO・5HO(75g)/lHSO(190g)/lCl(60ppm)/添加剤(適量)とする。また陽極材料を含リン銅として、浴温度は25℃に設定し、陰極電流密度を2.5A/dm2とする。
【0038】
このように第7の工程の前,すなわち被覆材3の除去前に、浴組成が酸性または中性の第1の電解めっきを行なう第8の工程を挿入しても、この被覆材3は、耐酸性を有するので、電解銅めっき液に溶解することはなく、無電解めっきを形成した導電性回路5の表面上に、正確に二次めっき層6を形成することができる。
【0039】
また第7の工程によって被覆材3を除去した後に、上述した第1の無電解めっきである無電解ニッケルめっきによる導電性回路5の表面に、さらに第2の電解めっき(第9の工程に相当する。)や、第2の無電解めっき(第10の工程に相当する。)を行うこともできる。また第7の工程によって被覆材3を除去した後に、上述した第1の無電解めっきの上に第3の無電解めっき(第11の工程に相当する。)を積層した導電性回路5の表面に、さらに第2の電解めっき(第9の工程に相当する。)や、第2の無電解めっき(第10の工程に相当する。)を行うこともできる。また第7の工程によって被覆材3を除去した後に、上述した第1の電解めっき(第8の工程に相当する。)による二次めっき層6の表面に、さらに第3の電解めっきや第4の無電解めっき(第12の工程に相当する。)を行うこともできる。
【0040】
かかるいずれの場合にも、アルカリ性溶液で加水分解する被覆材3は、既に除去されているため、めっきの浴組成は、酸性または中性のみならず、アルカリ性であってもよい。また被覆材3で覆われていなかった部分には、すでに第1の無電解めっき等が形成してあるため、従来のような、この部分に付与した触媒が、アルカリ性の溶液で脱落するという問題とは、全く無縁となっている。
【0041】
なお第7の工程によって被覆材3を除去した後においては、第1の無電解めっき、第3の無電解めっき若しくは第1の電解めっきの上に、重ねて積層する第2若しくは第3の電解めっき、または第2若しくは第4の無電解めっきの材質は、下層のめっきと同種の金属に限らず、異種金属であってもよい。
【実施例】
【0042】
次のようにして成形回路部品を製作して、本願発明の作用効果を確認した。
(1) ポリプラスチックス株式会社製の「ベクトラ♯C820」を射出成形して、第1の基体を成形した。
(2) 第1の基体を、70℃、45%重量濃度の苛性ソーダ水溶液に、40分間浸漬して、表面を粗化した。
(3) 粗面化した第1の基体の表面を、導電性回路を形成する部分を残して、三井化学株式会社製の「レイシア♯H-100J/F」を射出成形して被覆し、第2の基体を成形した。
(4) 第2の基体を、40℃のパラジウムのコロイド触媒液に、5分間浸漬して、触媒を付与した。
(5) 触媒の付与後に、第2の基体を、20℃の純水に浸漬し、30秒間遥動した。この水洗によって、被覆材の表面に残存する触媒が確実に水洗除去できることを確認した。
(6) 浴組成がpH4.7の90℃の酸性浴にて、第1の無電解めっきである無電解ニッケルめっきを行なった。析出速度は、1μm当たり3.5〜4分に設定した。
(7) 無電解ニッケルめっきを行なった第2の基体を、70℃、10%重量濃度の苛性ソーダ水溶液に浸漬して、60分間揺動した。これにより被覆材は、加水分解され、完全に除去された。
(8) 無電解ニッケルめっきのピーリング強さは、1N/cmであり、十分な密着強度が確保できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明による成形回路部品の製造方法は、触媒に含まれる貴重な貴金属の省資源化と、導電性回路を形成する部分に無電解めっきを十分析出させることができるため、電子機器等に関する産業に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】第1の基体の断面図である。
【図2】表面を粗化した第1の基体の断面図である。
【図3】被覆材で被覆した第2の基体の断面図である。
【図4】触媒を付与した第2の基体の断面図である。
【図5】水洗浄後の第2の基体の断面図である。
【図6】無電解ニッケルめっきによる導電性回路を形成した第2の基体の断面図である。
【図7】被覆材を除去した第2の基体の断面図である。
【図8】無電解ニッケルめっきによる導電性回路の表面に、電解銅めっきを形成した第2の基体の断面図である。
【図9】ポリグリコール酸の化学構造式である。
【符号の説明】
【0045】
1 第1の基体
1a 粗面
1b 被覆材で被覆されていない部分
1c 被覆材で被覆された部分
2 第2の基体
3 被覆材
3a 被覆材の表面
4 触媒
5 導電性回路(第1の無電解めっき)
6 二次めっき層(第1の電解めっき)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体からなる第1の基体を成形する第1の工程と、
上記第1の基体の表面を粗化する第2の工程と、
上記粗化した第1の基体の表面に、ポリグリコール酸、若しくはポリ乳酸の単体、またはポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合体、若しくは共重合体からなる被覆材を、部分的に被覆して第2の基体を形成する第3の工程と、
上記第2の基体の表面に触媒を付与する第4の工程と、
上記第2の基体の被覆材の表面に残存する上記触媒を、水洗除去する第5の工程と、
上記第2の基体の表面であって、上記被覆材で被覆されていない部分に、浴組成が酸性または中性のいずれかの第1の無電解めっきをする第6の工程と、
上記第2の基体の表面に被覆された被覆材を除去する第7の工程とを備える
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記第6の工程と第7の工程との間に、上記第1の無電解めっきの表面に、浴組成が酸性または中性のいずれかの第1の電解めっきを積層する第8の工程を備える
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、上記第7の工程の後に、上記第1の無電解めっきの表面に、浴組成が酸性、中性、またはアルカリ性のいずれかの1の第2の電解めっきを積層する第9の工程を備える
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。
【請求項4】
請求項1において、上記第7の工程の後に、上記第1の無電解めっきの表面に、浴組成が酸性、中性、またはアルカリ性のいずれかの1の第2の無電解めっきを積層する第10の工程を備える
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。
【請求項5】
請求項1、3、または4のいずれかの1において、上記第6の工程と第7の工程との間に、上記第1の無電解めっきの表面に、浴組成が酸性または中性のいずれかの第3の無電解めっきを積層する第11の工程を備える
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。
【請求項6】
請求項2において、上記第7の工程の後に、上記第1の電解めっきの表面に、浴組成が酸性、中性、若しくはアルカリ性のいずれかの1の第3の電解めっき、または第4の無電解めっきのいずれかを積層する第12の工程を備える
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−62609(P2009−62609A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288509(P2007−288509)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000175504)三共化成株式会社 (28)
【Fターム(参考)】