説明

成形型

【課題】プリプレグを積層した積層体を硬化させる際にしわが生じにくい成形型を提供する。
【解決手段】成形型100は、プリプレグを積層した円筒形状の積層体を硬化させる際に使用する成形型であって、積層体の内側に位置する芯型10と、積層体30の外側に位置し、複数の部分表面型21〜27からなる表面型20と、を備えている。各部分表面型21〜27は、積層体の周方向に並んで外周面全体を覆うとともに、周方向を繊維方向とする繊維の量と軸方向を繊維方向とする繊維の量が異なる繊維強化樹脂によって形成されており、各部分表面型21〜27は、軸方向に比べて周方向における熱膨張率が芯型10の熱膨張率に近くなるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料成形品を製造する際に使用する成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の胴体の外側は、スキンパネルと呼ばれる薄い部材により形成されている(例えば、特許文献1参照)。近年、繊維強化樹脂複合材料(以下、単に「複合材料」と称す。)を用いてこのスキンパネルを従来に比べはるかに広い範囲で一体に成形する技術が開発されている。例えば、大型航空機の胴体の中央付近ではスキンパネルは円筒形状を有しているが、この円筒形状のスキンパネルを継ぎ目なしに一体に形成するのである。
【0003】
上述した円筒形状のスキンパネルを製造するには、円筒形状の芯型(一般的に「マンドレル」と呼ばれている。)の外表面にプリプレグを積層し、積層したプリプレグ(以下、「積層体」と称す。)全体を円筒形状にする。なお、「プリプレグ」とは炭素繊維等の織物もしくは一方向材に半硬化の熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂等)を含浸させたシート状の材料である。その後、この積層体に圧力と熱を加えて硬化する。この硬化の際、積層体の表面に滑らかな面を持つ板状の表面型(一般に「カールプレート」と呼ばれている。)を密着させて、表面型の滑らかな面を転写することによりスキンパネルの表面を滑らかに成形する。このように表面を滑らかに成形するのは、スキンパネルの外表面は気流に接する面であり、高い平滑度が求められているからである。
【0004】
ただし、大型航空機のスキンパネルは直径が5〜10mと非常に大きいことから、単一の表面型で成形を行うことは実質的に不可能で、現実には断面が円弧形状(部分円形状)の内部表面を有する部分表面型を複数組み合わせて成形型を構成している。ところが、成形型を複数の部分表面型で構成する場合には、積層体を硬化させる際の熱により熱硬化性樹脂が一時期粘度低下を起こすために、部分表面型の端縁が圧力により押されて積層体に沈み込むという問題が生じる。
【0005】
この問題への対策としては、あらかじめ硬化された複合材料の繋ぎ部材(一般に、「プリキュアストリップ」と呼ばれている。)を用いる方法が提案されている。つまり、図3(a)に示すように、部分表面型201同士のつなぎ目に対応して、部分表面型201と積層体202との間に繋ぎ部材203を挿入し、圧力と熱を加えて硬化させる。そうすると、図3(b)に示すように、繋ぎ部材203が積層体202に沈み込んで部分表面型201のつなぎ目に対応する部分が平滑に形成される。このとき、繋ぎ部材203はあらかじめ硬化したものであり硬いことから、部分表面型201が繋ぎ部材203に沈み込むこともない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009−526697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
表面型の材料としては局部変形しにくく変形したとしても元の形状に戻りやすい等の理由から複合材料を用いるのが好ましいのに対し、芯型の材料としてはメンテナンスが楽で熱劣化しにくく、耐久性のある金属を用いるのが好ましい。このように、芯型と部分表面型とで異なる材料を選定した場合には、新たな問題が生じる。例えば、図3(c)を参照して説明すると、芯材204が熱膨張の少ないインバー合金で形成され、部分表面型201が複合材料で形成されている場合、高温の熱を加えると両者の熱膨張率の違いから、部分表面型201は芯型204に比べて大きく膨張する。この部分表面型201と芯型204の熱膨張量の差によって、部分表面型201が積層体202の表面を繋ぎ部材203に向かって周方向に引っ張ることにより、繋ぎ部材203の両側でしわ205が生じてしまうのである。このしわ205の深さが大きいと、スキンパネルの強度が落ちて破損の原因になりかねない。
【0008】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであって、プリプレグを積層した積層体を硬化させる際に、しわが生じにくい成形型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであって、本発明に係る成形型は、プリプレグを積層した円筒形状の積層体を硬化させる際に使用する成形型であって、前記積層体の内側に位置する芯型と、前記積層体の外側に位置し、複数の部分表面型からなる表面型と、を備え、前記各部分表面型は、前記積層体の周方向に並んで外周面全体を覆うとともに、周方向を繊維方向とする繊維の量と軸方向を繊維方向とする繊維の量が異なる繊維強化樹脂によって形成されており、前記各部分表面型は、軸方向に比べて周方向における熱膨張率が前記芯型の熱膨張率に近くなるように構成されている。かかる構成によれば、各部分表面型の周方向における熱膨張率が芯型の周方向における熱膨張率に近くなるため、両者の熱膨張率の差によって生じるしわの発生を抑えることができる。
【0010】
また、上記の成形型において、前記芯型はインバー合金によって形成されており、前記各部分表面型は周方向を繊維方向とする繊維の量が軸方向を繊維方向とする繊維の量よりも多くなるように構成してもよい。かかる構成によれば、インバー合金によって形成されることで芯型の熱膨張率が小さくなるが、部分表面型は周方向を繊維方向とする繊維の量と軸方向を繊維方向とする繊維の量の割合をコントロールすることにより、周方向における部分表面型の熱膨張率を芯型の熱膨張率に近づけることができる。
【0011】
また、上記の成形型において、前記軸方向を繊維方向とする繊維の量が1に対し前記周方向を繊維方向とする繊維の量が2〜5であることが望ましい。かかる構成によれば、部分表面型は運用に必要な強度を有しつつも、周方向における熱膨張率を低く抑えることができる。また、熱膨張率をコントロールできる。
【0012】
また、上記の成形型において、前記各部分表面型は、内在する繊維の繊維方向が周方向のみの一方向材と、内在する繊維の繊維方向が周方向及び軸方向の織物材とを所定の割合で積層して形成してもよい。かかる構成によれば、周方向を繊維方向とする繊維の量が軸方向を繊維方向とする繊維の量よりも多い部分表面型を容易に製造することができる。
【0013】
また、上記の成形型において、前記積層体は、実際の厚み寸法から強度上必要とされる厚み寸法を引いた強度マージンが周方向位置によって異なっており、前記各部分表面型は、互いのつなぎ目が、前記積層体のうちの周辺よりも前記強度マージンが大きい周方向位置に位置するように配置されていてもよい。かかる構成によれば、各部分表面型は互いのつなぎ目が、積層体の強度マージンが大きい部分に位置しているため、上記境界部分に対応する位置で若干のしわが発生したとしても、積層体の強度低下の影響を小さく抑えることができる。
【0014】
また、上記の成形型において、前記積層体は、実際の厚み寸法から強度上必要とされる厚み寸法を引いた強度マージンが周方向位置によって異なっており、前記各部分表面型は、互いのつなぎ目の1つが、前記積層体のうちの最も前記強度マージンの大きい周方向位置に位置するように配置されていてもよい。かかる構成によれば、積層体にしわが発生したとしても、その位置の強度マージンが非常に大きければ、積層体の強度低下による影響を小さく抑えることができる。
【0015】
また、上記の成形型において、前記積層体は航空機の胴体部に形成されるものであって、前記表面型は、5〜8枚の部分表面型によって構成されており、前記部分表面型は、前記胴体部の頂部に位置する部分を中心に左右対象に配置されていてもよい。かかる構成によれば、部分表面型が適切な大きさに形成されて取り扱いやすい。
【0016】
また、本発明に係る熱膨張率調整方法は、繊維強化樹脂を材料とする部材の熱膨張率調整方法であって、所定の方向を繊維方向とする繊維の量を増減させて当該所定の方向における熱膨張率を調整する。また、本発明に係る部材は、上記の熱膨張率調整方法によって調整された、繊維強化樹脂を材料とする部材である。
【発明の効果】
【0017】
上記のように、本発明に係る成形型によれば、周方向における各部分表面型の熱膨張率が芯型の熱膨張率に近いため、プリプレグを積層した積層体を硬化させる際にしわが生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る成形型の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る成形型の断面図である。
【図3】従来の成形型における部分成形型の境界部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る成形型の実施形態について図を参照しながら説明する。以下では、全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同じ符号を付して、重複する説明は省略する。
【0020】
[成形型の概要]
まず、図1及び図2を参照しながら、本実施形態に係る成形型100の概要について説明する。なお、本実施形態に係る成形型100は、大型航空機の胴体部のスキンパネルを成形するものである。また、このスキンパネルは、直径が約6mで軸方向長さが約7mの円筒形状を有するものとする。図1は、本実施形態に係る成形型100の使用状態を示した斜視図である。また、図2は、本実施形態に係る表面型20を積層体30に取り付けた状態の断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る成形型100は、芯型10と、表面型20とを備えている。以下、これらの各構成要素について順に説明する。
【0021】
芯型10は、プリプレグを積層した積層体(硬化後は成形品であるスキンパネル)30の内側に位置する型である。上述したように、この芯型10は一般に「マンドレル」と呼ばれている。図1及び図2に示すように、本実施形態に係る芯型10は、円筒形状を有しており、回転可能に構成されている。この芯型10は、熱耐久性に優れ、低熱膨張特性を有するインバー合金によって形成されている。ここで、「インバー合金」とは、鉄にニッケルを34〜36%合金したものであって、熱膨張率が非常に低い金属である。インバー合金の熱膨張率(CTE)は、2.0〜2.5×10−6/℃程度である。また、図2に示すように、芯型10の表面には軸方向に延びる溝11が形成されており、この溝にはプリプレグ製のストリンガ31が挿入される。ストリンガ31は、航空機の胴体部において軸方向の曲げ荷重を受ける棒状の補強部材であって、スキンパネルと一体となって、いわゆるワンピースバレル(OPB)を構成する。
【0022】
表面型20は、プリプレグを積層した積層体(硬化後は成形品であるスキンパネル)30の外側に位置する型である。上述したように、この表面型20は一般に「カールプレート」と呼ばれている。図2に示すように、本実施形態に係る表面型20は、7枚の部分表面型21〜27によって構成されており、各部分表面型21〜27が積層体30の周方向に並んで積層体30の表面全体を覆っている。別の言い方をすれば、表面型20は7枚の部分表面型21〜27に分割されている。なお、部分表面型としては一定の形状(内周面の断面が円弧形状)を有する剛性の高いものを使用するのが一般的であるが、本実施形態では平板形状から湾曲形状へ弾性変形することができるものを使用する。部分表面型21〜27の詳細については後述する。
【0023】
ここで、成形品であるスキンパネルの成型方法について説明する。まず、芯型10の表面の溝11にストリンガ31を埋め込み、その状態で芯型10を回転させながら芯型10の表面にプリプレグを積層して積層体30全体を円筒形状に形成する。なお、プリプレグを積層する枚数は積層する位置によって異なる。例えば、プリプレグが積層される枚数が12枚程度である部分もあれば、強度低下が著しい開口部(例えばドアの取付部分に相当する部分)では補強する必要性から100枚程度のプリプレグが積層される。
【0024】
その後、部分表面型21〜27を積層体30の表面に周方向に並べて取り付ける。このとき、図2に示すように、各部分表面型21〜27同士のつなぎ目に対応する位置であって、部分表面型21〜27と積層体30の間に繋ぎ部材40(プリキュアストリップ)を挿入する。その後、図1において二点鎖線で示すように、帯状のバッグフィルム41を各部分表面型21〜27のつなぎ目等に貼ることで積層体30を密閉した後、真空引きする。その上で、芯型10及び表面型20全体をバッグフィルム(図示せず)でさらに覆って、真空引きする。
【0025】
続いて、バッグフィルムにより一体に固定された芯型10、積層体30、および表面型20(部分表面型21〜27)をオートクレーブ(高温高圧釜)に入れて、高温の熱と高い圧力を同時に加えて積層体を硬化させる。このとき積層体30は表面型20によって押さえつけられた状態で変形するため、積層体30の表面に存在していた凹凸及び起伏がなくなり、積層体30の表面が滑らかに成形される。なお、上記の硬化の工程を経て、ストリンガは積層体30(成形品)に接着される。以上が、本発明の実施形態に係る成形型100の概要である。
【0026】
[部分表面型の詳細]
次に、本実施形態に係る部分成形型21〜27についてさらに詳細に説明する。表面型20を構成する7枚の部分表面型21〜27は、厚みが1.5mm程度であり、可撓性を有している。また、部分表面型21〜27は、周方向を繊維方向とする繊維の量が軸方向を繊維方向とする繊維の量よりも多い炭素繊維強化樹脂(以下、「CFRP」と称す。)により形成されている。CFRPの炭素繊維は繊維方向への変形を抑制する役割を果たしている。これは、外力を受けたことによる変形の場合だけでなく、熱を加えられたことによる変形の場合にも当てはまる。つまり、炭素繊維はその繊維方向における熱膨張率を抑えることができ、本実施形態に係る部分表面型21〜27は、周方向における熱膨張率が軸方向における熱膨張率よりも小さくなるように形成されている。
【0027】
ここで、本実施形態に係る部分表面型21〜27の製造方法を説明する。まず、繊維クロス材強化樹脂プリプレグ(以下、「織物材」というときはこのプリプレグを意味する。)および周方向のみを繊維方向とする繊維一方向材強化樹脂プリプレグ(以下、「一方向材」というときはこのプリプレグを意味する。)を組み合わせて合計10枚程度積層する。なお、本実施形態では、各プリプレグの繊維は炭素繊維とし、樹脂はエポキシ樹脂もしくはビスマレイミド樹脂とする。続いて、積層したプリプレグを真空バッグで包んで真空引きし、その状態で熱と圧力を加えて硬化する。その後、硬化後のプリプレグ(成形品)を真空バッグから取り出して、所定の寸法に裁断する。以上により、部分表面型21〜27が完成する。なお、ここで示したプリプレグの積層枚数等は、あくまでも一例であって、これに限定されない。
【0028】
本実施形態では、織物材における軸方向を繊維方向とする繊維の量を1とすると、織物材における周方向を繊維方向とする繊維の量は1であり、一方向材における周方向を繊維方向とする繊維の量は2であり、一方向材における軸方向を繊維方向とする繊維の量はゼロである。そうすると、上記の製造方法で製造された部分表面型21〜27は、全体として軸方向を繊維方向とする繊維の量が1に対し周方向を繊維方向とする繊維の量が3であるということになる。このとき、周方向の熱膨張率は2.5×10−6/℃であり、従来の織物材のみから形成された部分表面型(従来例)の周方向の熱膨張率が5.0×10−6/℃であることからすれば、芯型10の周方向の熱膨張率である2.0〜2.5×10−6/℃に近い値である。
【0029】
なお、軸方向を繊維方向とする繊維の量が1に対し周方向を繊維方向とする繊維の量が7である部分表面型(参考例)は、周方向の熱膨張率が1.5×10−6/℃と低くなるが、軸方向の強度が比較的低いことから割れやすく、運用の面では多少の問題がある。このように、軸方向を繊維方向とする繊維の量に対する周方向を繊維方向とする繊維の量を多くすればその分周方向の熱膨張率が小さくなるが、周方向を繊維方向とする繊維の量の割合を多くし過ぎると、軸方向を繊維方向とする繊維の量が少なくなって運用上好ましくない。そのため、部分表面型21〜27に用いるCFRPとしては、軸方向を繊維方向とする繊維の量が1に対し周方向を繊維方向とする繊維の量が2〜5であることが望ましい。以上の内容をまとめたのが下表である。
【0030】
【表1】

【0031】
上記の表の「積層順」の欄において、単に「0」と記載されているのは周方向を繊維方向とする一方向材を示しており、「(0.90)」と記載されているのは織物材を示している。また、「s」と記載されているのは残り半分はこれまでの順と対象となる順に積層するという意味である。例えば、参考例の場合では、はじめに織物材を1枚積層した後、一方向材を連続して3枚積層する。そして残りの半分は、さらに一方向材を連続して3枚積層した後、最後に織物材を1枚積層するということを表している。また、「繊維量比率」は、周方向を繊維方向とする繊維の量と軸方向を繊維方向とする繊維の量の比を表している。
【0032】
上述のように、本実施形態によれば、部分表面型21〜27の周方向における熱膨張率を芯型10の周方向における熱膨張率に近づけることができる。そのため、積層体30を硬化させる際において、芯型10と部分表面型21〜27の周方向における熱膨張量の差(位置ずれ)を小さく抑えることができる。これにより、繋ぎ部材40の周辺にしわが発生するのを抑え、又は、しわが発生したとしてもその大きさを小さく抑えることができる。なお、繊維強化樹脂に関しては、所定の方向の「強度」を高めるためにその方向の繊維量を増やすという手法は従来から知られているが、本実施形態ではこれとは異なり周方向の「熱膨張率」を小さくするために周方向の繊維量を増やすという手法を採用している。このような手法が可能であるのは、本実施形態の部分表面型21〜27では周方向に比べて軸方向における熱膨張の許容範囲が大きいからである。つまり、上述のしわの問題は各部分表面型21〜27同士のつなぎ目の近傍で生じるが、軸方向にはこのつなぎ目が存在しないことから、しわの問題は生じ得ず、軸方向における熱膨張はある程度許容されるのである。また、芯型10に積層体30を積層する際に、完全に密着させることができずに、若干着膨れ状態で積層されることもしわ発生の要因となりやすいが、前記部分表面型を使用すれば、着膨れ量を引きずることがないために分散することも可能となる。
【0033】
[部分表面型の配置]
次に、本実施形態に係る部分成形型21〜27の配置について説明する。ここでは初めに、積層体30を硬化して得られる本実施形態に係る成形品(スキンパネル)について説明する。本実施形態に係る成形品は、厚み寸法が全周において均一ではなく周方向位置によって異なる。各周方向位置における厚み寸法は、その位置において必要となる強度を考慮して決定される。例えば、要求される強度が比較的低い部分では厚み寸法が2mm程度であるのに対し、高い強度が要求されるドアの取付部分などは厚み寸法が20mm程度である。成形品は航空機の一部であることから、重量を抑えるために必要以上に厚み寸法が大きくならないように形成される。ただし、そのような成形品であっても、強度上必要とされる厚み寸法と実際の厚み寸法との差が他の部分に比べて大きい部分は存在する。例えば、ある位置において強度上20mmの厚み寸法が必要であり、これに隣接する位置では強度上10mmの厚み寸法が必要であるとする。この場合、両位置の境界は階段状に形成されるのではなく、スロープ状に滑らかに形成される。そうすると、このスロープ状に形成された部分は、強度上必要とされる厚み寸法に比べ実際の厚み寸法が比較的大きい部分であるといえる。
【0034】
本実施形態では、実際の厚み寸法から強度上必要とされる厚み寸法を引いたものを「強度マージン」と定義し、各部分表面型21〜27を互いのつなぎ目が積層体30のうちの強度マージンが大きい部分に位置するよう配置している。なお、最適な部分表面型21〜27の配置は成形品によって異なり、本実施形態で示す部分表面型21〜27の寸法や配置はあくまでも一例に過ぎない。
【0035】
以下では、基準周方向位置、構成枚数、及び周方向寸法の観点から図2を参照して本実施形態に係る部分表面型21〜27の配置について説明する。説明の便宜上、図2に示す各部分表面型21〜27を頂部から時計回りで順に、第1部分表面型21、第2部分表面型22、第3部分表面型23、第4部分表面型24、第5部分表面型25、第6部分表面型26、及び第7部分表面型27と呼ぶこととする。さらに、図2における積層体30の頂部は、機体胴体の頂部にあたるものとする。以下、「積層体の頂部」というときは、成形品であるスキンパネルの頂部(機体胴体の頂部)に相当する部分を意味するものとする。
【0036】
基準周方向位置とは、各部分表面型21〜27を配置する際に基準となる周方向位置のことである。本実施形態では、積層体30の頂部を基準周方向位置としている。具体的には、第1部分表面型21を基準周方向位置である積層体30の頂部に配置している。さらに積層体30の頂部を基準にして、第2部分表面型22と第7部分表面型27、第3部分表面型23と第6部分表面型26、及び第4部分表面型24と第5部分表面型25を相対的に配置している。このように積層体30の頂部を基準周方向位置としたのは、成形品であるスキンパネルはほぼ左右対象の形状を有しており、強度マージンも左右対称の分布となっているからである。なお、本実施形態では、基準周方向位置を覆うようにして第1部分表面型21を配置しているが、例えば第1部分表面型21と第2部分表面型22のつなぎ目が基準周方向位置に位置するように配置してもよい。さらに、積層体30の頂部を基準周方向位置とせずに、積層体30の強度マージンが最も高い部分を基準周方向位置とし、例えば第1部分表面型21と第2部分表面型22のつなぎ目が、上記の基準周方向位置に位置するように配置してもよい。
【0037】
構成枚数とは、表面型20を構成する部分表面型21〜27の枚数のことである。本実施形態では、構成枚数は7枚である。構成枚数にかかわらず表面型20全体として周方向における熱膨張量は一定であるから、部分表面型21〜27の枚数が増えてつなぎ目が増えれば、つなぎ目1つあたりの熱膨張量は小さくなる。そのため、構成枚数が多ければ、積層体30にしわが生じにくくなる。ただし、構成枚数が多くなり過ぎれば、部分表面型21〜27を積層体30に取り付ける作業の負担が増え、また、部分表面型21〜27の周方向寸法が小さくなりすぎる結果、実質的に積層体30に取り付けることができなくなる場合も生じる。以上の点を考慮すれば、積層体30の直径が6m程度である場合、5〜8枚の部分表面型で表面型20を構成するのが望ましい。
【0038】
周方向寸法とは、各部分表面型21〜27の周方向寸法のことである。本実施形態では、周方向寸法は一律ではない。具体的には、第2部分表面型22と第7部分表面型27、第3部分表面型23と第6部分表面型26、及び第4部分表面型24と第5部分表面型25は同じ周方向寸法であるが、これら以外は互いに異なる周方向寸法を有している。本実施形態では、各部分表面型21〜27の周方向寸法が一律であることにこだわらずに、各部分表面型21〜27同士のつなぎ目が強度マージンの高い部分により精度よく位置できるように各部分表面型21〜27を配置している。ただし、各部分表面型21〜27の取付作業の負担を考慮すれば、各部分表面型21〜27の周方向寸法が同じ程度である(所定範囲内にある)のが望ましい。本実施形態では、各部分表面型21〜27の周方向寸法は2.5〜3.0mである。
【0039】
以上が本実施形態に係る成形型100である。本実施形態に係る成形型100によれば、各部分成形型21〜27の周方向における熱膨張率が芯型10の周方向における熱膨張率に近いため、成形品にしわが発生しにくい。さらに、しわが発生したとしても、しわが発生する部分は強度マージンが大きいことから、積層体の強度低下の影響を小さく抑えることができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について図を参照して説明したが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、以上では、部分表面型21〜27が可撓性を有している場合について説明したが、部分表面型が一定の形状を有しているものであっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、プリプレグを積層した積層体を硬化させる際にしわが生じにくい成形型を提供することができるため、成形型の技術分野において有益である。
【符号の説明】
【0042】
10 芯型
20 表面型
21〜27 部分表面型
30 積層体
40 繋ぎ部材
100 成形型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリプレグを積層した円筒形状の積層体を硬化させる際に使用する成形型であって、
前記積層体の内側に位置する芯型と、
前記積層体の外側に位置し、複数の部分表面型からなる表面型と、を備え、
前記各部分表面型は、前記積層体の周方向に並んで外周面全体を覆うとともに、周方向を繊維方向とする繊維の量と軸方向を繊維方向とする繊維の量が異なる繊維強化樹脂によって形成されており、
前記各部分表面型は、軸方向に比べて周方向における熱膨張率が前記芯型の熱膨張率に近くなるように構成されている、成形型。
【請求項2】
前記芯型はインバー合金によって形成されており、前記各部分表面型は周方向を繊維方向とする繊維の量が軸方向を繊維方向とする繊維の量よりも多い、請求項1に記載の成形型。
【請求項3】
前記軸方向を繊維方向とする繊維の量が1に対し前記周方向を繊維方向とする繊維の量が2〜5である、請求項1又は2に記載の成形型。
【請求項4】
前記各部分表面型は、内在する繊維の繊維方向が周方向のみの一方向材と、内在する繊維の繊維方向が周方向及び軸方向の織物材とを所定の割合で積層して形成されている、請求項3に記載の成形型。
【請求項5】
前記積層体は、実際の厚み寸法から強度上必要とされる厚み寸法を引いた強度マージンが周方向位置によって異なっており、
前記各部分表面型は、互いのつなぎ目が、前記積層体のうちの周辺よりも前記強度マージンが大きい周方向位置に位置するように配置されている、請求項1乃至4のうちいずれか一の項に記載の成形型。
【請求項6】
前記積層体は、実際の厚み寸法から強度上必要とされる厚み寸法を引いた強度マージンが周方向位置によって異なっており、
前記各部分表面型は、互いのつなぎ目の1つが、前記積層体のうちの最も前記強度マージンの大きい周方向位置に位置するように配置されている、請求項1乃至4のうちいずれか一の項に記載の成形型。
【請求項7】
前記積層体は航空機の胴体部に形成されるものであって、
前記表面型は、5〜8枚の部分表面型によって構成されており、
前記部分表面型は、前記胴体部の頂部に位置する部分を中心に左右対象に配置されている、請求項5又は6に記載の成形型。
【請求項8】
繊維強化樹脂を材料とする部材の熱膨張率調整方法であって、所定の方向を繊維方向とする繊維の量を増減させて当該所定の方向における熱膨張率を調整する、熱膨張率調整方法。
【請求項9】
請求項8に記載の熱膨張率調整方法によって調整された、繊維強化樹脂を材料とする部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−135967(P2012−135967A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290402(P2010−290402)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】