説明

成形材料および最終成形品

【課題】 本発明の目的は、金型転写性、成形加工性に優れた成形材料を提供すること。
【解決手段】 本発明は、熱硬化性液状樹脂組成物から得られる、DSCにおける発熱量から求められる未反応率が30%〜70%である成形材料である。本発明の成形材料は、単一成形体であることが好ましい。また本発明は、上記成形材料から得られる、DSCにおける発熱量から求められる未反応率が20%以下である最終成形品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性液状樹脂組成物から得られる成形材料および最終成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やデジタルカメラなどの各種電気電子機器の小型化が進んでいる。これら電気電子機器には半導体とレンズが一体化した電子部品が組み込まれている。このような電子部品に用いられるレンズは、低価格化、加工性の観点から材質はガラスよりもプラスチックが多く使用されている。
【0003】
近年、上記電子部品の回路基板への実装は、一般に260℃前後とされているリフロー炉を通す方法が主流となってきているため、プラスチックレンズ用樹脂として、耐熱性の高い熱硬化性樹脂組成物が特に注目されている(特許文献1)。
ところで、レンズは、その性能を発揮するために、設計通りに金型のレンズ形状を転写していることが重要である。しかし、熱硬化性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂組成物に比べて成形時の変形量(収縮量)が非常に大きい。そのため、硬化に伴う材料収縮により金型転写性が低下し、目的とする形状の成形品が得られにくい特徴がある。
また、成形加工性においても優れることが不良率低減、低価格化の観点で重要である。熱硬化性樹脂組成物においては、その粘度が非常に低いために、例えば熱可塑性樹脂組成物の成形などで用いられる一般の金型などを使用すると、パーティングラインの僅かな隙間や、エジェクターピン外周部などの摺動部に低粘度の樹脂が入ってしまい安定した連続成形ができないのが現状である。オーバーフローを設けた金型に関する公知文献(特許文献2)や、上下の金型の対向方向に変形可能な弾性変形部材を備えた圧縮成形用金型(特許文献3)も存在するが、これらは上記の課題を解決するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−292779
【特許文献2】特開2008−238701
【特許文献3】特開2009−083422
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、このような状況の下、熱硬化性液状樹脂組成物を用いても、金型転写性および安定した成形加工性に優れた成形材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、熱硬化性液状樹脂組成物から得られる、DSCにおける発熱量から求められる未反応率が30%〜70%である成形材料が、金型転写性、成形加工性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、熱硬化性液状樹脂組成物から得られる、DSCにおける発熱量から求められる未反応率が30%〜70%である成形材料(請求項1)である。また本発明は、単一成形体である請求項1記載の成形材料(請求項2)である。
【0008】
また本発明は、請求項1記載の成形材料から得られる、DSCにおける発熱量から求められる未反応率が20%以下である最終成形品(請求項3)である。また本発明は、厚み
が3mm以下であること特徴とする請求項1記載の成形材料(請求項4)である。
【0009】
また本発明は、光学部品である請求項2記載の最終成形品(請求項5)である。また本発明は、レンズ部品である請求項5記載の最終成形品(請求項6)である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱硬化性液状樹脂組成物を使用して、金型転写性に優れる成形材料を安定して得ることができるため、耐熱性に優れたプラスチック製光学部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例で用いた金型 本発明の実施例に用いた金型について説明する。図1に示すとおり、凸金型、凹金型の2対よりなる簡易金型である。両金型ともに材質は任意であるが、本金型においては、HRC硬度が58の鋼材で作られている。凸金型と凹金型のクリアランス(摺動部の隙間)は、約5μmである。凸金型を凹金型にはめ込んだ場合、内部は直径約30mm、高さ約1.5mmの円柱状の空間が存在するようにできている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の熱硬化性液状樹脂組成物から得られる成形材料の未反応率は、示差走査熱量測定(DSC:Differential scanning calorimetry)により求めることができる。未反応率の求め方としては、まず、全く未反応状態にある熱硬化性液状樹脂組成物を完全に硬化させた時の発熱量(X)を求める。一方で、本発明の成形材料のDSC測定により、この成形材料をさらに完全に硬化させる際の発熱量(Y)を求める。(Y)を(X)で除することにより、未反応率が算出される。本発明の成形材料の未反応率は30%−70%であるが、好ましくは35%−65%である。未反応率が30%未満では、組成物中の反応が進み過ぎていることにより、金型転写性が低下する傾向があり、70%を越えると、成形材料表面のタック感(べと付き感、接着性)が強すぎて、埃が付きやすい等の問題が発生するし、取り扱いが困難となる傾向があるので成形加工性の観点からも好ましくない。
【0013】
本発明の成形材料は、単一成形体であることが好ましい。単一成形体とは、任意の成形加工方法を用いて、成形用金型に熱硬化性液状樹脂組成物のみを充填させて得られた成形体を意味するものであり、他の樹脂組成物や異種材料との積層体、あるいは繊維系充填剤に熱硬化性液状樹脂組成物を含浸させた成形体を示すものではない。なお、ここでいう熱硬化性液状樹脂組成物には、無機充てん材や、カップリング材、老化防止剤など、通常、一般的に用いられる添加剤を含んでもよい。
【0014】
本発明のDSCにおける発熱量から求められる未反応率が30%〜70%である熱硬化性液状樹脂組成物のみを用いた成形材料は、更に熱を加えて加工することにより、DSCにおける発熱量から求められる未反応率が20%以下とする最終成形品として使用することができる。本発明における最終成形品とは、出荷することが可能な程度まで硬化した、未反応率が20%以下である硬化物をいう。
【0015】
最終成形品の未反応率は20%以下であるが、15%以下であると、優れた金型転写性を維持した成形材料の形状においてもより安定するため好ましい。本発明の成形材料から最終成形品に至る加工方法や加工回数については、最終成形品の未反応率が20%以下であれば特に制限はされない。
【0016】
本発明の成形材料の寸法形状は特に限定されないが、特に厚み方向については、3mm以下であることが成形材料全体の反応率を均一化しやすい傾向があるので好ましい。
【0017】
本発明の成形材料を得る方法は特に限定されず、通常知られた射出成形、プレス成形、圧縮成形、真空成形、トランスファー成形、押出成形、注型成形などが挙げられる。特に材料充填時の速度、圧力、などの成形条件に制約はなく、得られる成形材料が本発明にあるDSCにおける発熱量から求められる未反応率が30%〜70%である範囲に入っていれば、金型温度、硬化時間についても任意に設定することができる。
【0018】
本発明にあるDSCにおける発熱量から求められる未反応率が30%〜70%にある成形材料を、更に熱を加えて加工することにより、未反応率が20%以下にある最終成形品を得る方法においても特にその成形方法は限定されず、先に挙げた成形方法を任意に組み合わせることができる。具体的な成形方法としては、射出成形で得られた成形材料をプレス型に投入しプレス成形にて最終成形品を得る方法、プレス成形でラグビーボール状のプリフォームに似た成形材料を得て、トランスファー成形機により最終成形品を得る方法、シート成形により得られたシート状の予備成形品としての成形材料をプレス型に投入し、厚み1μm以下の最終成形品を得る方法などが挙げられる。
【0019】
本発明の成形方法により得られる最終成形品は家電用品、家庭用品、車両部品、光学部品、医療品、通信部材、機能性フィルム、など様々な分野で用いることができるが、特に光学部品として好適に用いることができる。光学部品としては、特にレンズ部品がその優れた特長を発揮することができ、具体的な用途としては、撮影レンズ、ファインダーレンズ、焦点板などのカメラ用レンズ、プロジャクターレンズ、コピー機の読み取りレンズ、FAXの読み取りレンズ、スキャナーの読み取りレンズ、レーザービームプリンターのFθレンズ、投射テレビレンズ、CDやDVDや次世代DVDレコーダーの光ピックアップレンズ、CDやDVDや次世代DVDレコーダーの対物レンズなどのOA機器用レンズ、サングラス、近視用レンズ、遠視用レンズ、老眼用レンズ、ファッションレンズ、水中眼鏡レンズなどのメガネ用途レンズ、ハードレンズ、ソフトレンズなどのコンタクト用途レンズ、LEDなどの封止レンズなどが挙げられる。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明の実施例および比較例を示すが、本発明は以下によって限定されるものではない。
・未反応率の算出方法
未反応であるシリコーン系熱硬化性液状樹脂組成物(23℃における粘度:1.0Pa・s)を示差走査熱量測定:DSC(島津製作所製)を用いて、40℃から250℃までの温度範囲で10℃/minの条件で昇温させ、組成物が硬化するのに必要な発熱量(X)を先に求めた。次に同じシリコーン系熱硬化性液状樹脂組成物から得られた成形材料を、40℃から250℃までの温度範囲で10℃/minの条件で昇温させたときの発熱量(Y)を求め、(X)に対する(Y)の割合を未反応率とした。
・金型転写性の評価
図1に示される金型内で硬化させた最終成形品の表面について、金型表面自身に付いている数μmの研磨溝(研磨跡)が最終成体表面に転写されているかを顕微鏡にて確認し、転写されているものは○を、転写されていないものは、×の判定を行った。
【0021】
(実施例1〜3)
シリコーン系熱硬化性液状樹脂組成物:S−1(23℃における粘度:1.0Pa・s)を用い、射出成形機:型閉力40tの液状射出成形機(ソディックプラステック製)を用い、φ30×厚み約2mmの成形材料(円柱成形品)を得た。表1に各成形材料の未反応率を示した。
【0022】
【表1】

【0023】
(実施例4〜6)
更に、実施例1〜3で得られた成形材料を、図1に示す金型内に投入し、上から約1kgの荷重を加え、金型温度140℃、硬化時間120秒で硬化反応を進め最終成形品を得た。最終成形品表面の転写性と未反応率を表2に示した。
【0024】
【表2】

【0025】
(比較例1〜3)
実施例1と同様のシリコーン系液状熱硬化性樹脂組成物(S−1)を用い、射出成形にてφ30×厚み約2mmの成形材料(円柱成形品)を得た(比較例1)。尚、比較例1の未反応率は20%であった。
次に、比較例1の成形材料、およびシリコーン系液状熱硬化性樹脂組成物(S−1)自身を図1に示す金型内に投入し、金型温度140℃、硬化時間120秒で硬化を行い最終成形品を得た。最終成形品表面の金型転写性と未反応率を表3に示した。
【0026】
【表3】

【0027】
表2の実施例4〜6に示したように樹脂組成物の未反応率が本発明の範囲内の成形材料を用いると、最終成形品の表面の金型転写性は良好な傾向を示した。一方で、比較例2のように未反応率が本発明の範囲外である成形材料(比較例1)を用いると、金型表面を転写しきれていなかった。また、比較例3のように成形材料を介さずに、直接金型内に樹脂組成物を投入し、目的とする最終成形品を得ようとした場合は、凹型と凸型の摺動部からの樹脂の漏れ出し、及び樹脂組成物の急激な硬化により、金型表面は転写されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性液状樹脂組成物から得られる、DSCにおける発熱量から求められる未反応率が30%〜70%である成形材料。
【請求項2】
単一成形体である請求項1記載の成形材料。
【請求項3】
請求項1記載の成形材料から得られる、DSCにおける発熱量から求められる未反応率が20%以下である最終成形品。
【請求項4】
厚みが3mm以下であること特徴とする請求項1記載の成形材料。
【請求項5】
光学部品である請求項2記載の最終成形品。
【請求項6】
レンズ部品である請求項5記載の最終成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2011−93994(P2011−93994A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248182(P2009−248182)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】