説明

成形済みインサート本体を伴った切削工具インサート

【解決手段】 切削工具には、砥粒刃先を含む少なくとも1つの砥粒先端と、インサート本体とを含めることができる。前記インサート本体には成形可能な材料が含まれ、当該成形可能な材料は前記砥粒先端の一部に接着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2006年3月6日付けで出願された同時係属米国仮特許出願第60/779,532号「成形済みインサート本体を伴った切削工具インサート(Cutting Tool Insert with Molded Insert Body)」の優先権を主張するものであり、この参照によりその開示内容の全体が本明細書に組み込まれるものとする)。
【0002】
本明細書に記載する説明は、全般的に成形済みインサート本体を有した切削工具インサートと、切削工具インサートを製造する方法とに関する。
【背景技術】
【0003】
機械加工、切削、のこ引き(ソーイング)、またはドリリング用の切削工具には、超硬合金またはセラミックス(例えばSiやTiC−Alの複合材料)など従来の材料を含む着脱可能なインサート(刃先交換チップ)が提供されることが多い。図1A、1B、および1Cには、ネジまたは他のクランプ機構14により切削工具ホルダー(保持具)15に強固に保持されロックされた従来のインサート10が示めされている。インサートは、機械加工作業ではワークピース(被加工物)に接触して保持され、最終的に交換が必要な程度まで損耗するため、これらのインサートは、当該機械切削工具システムの使い捨て部分である。
【0004】
前記切削工具インサート10には、基板材料を有したインサート本体13と、超砥粒材料であってよい砥粒刃先12とを含めることができ、前記インサート13は一般に、事前製作された組み立て式のタングステンカーバイド(炭化タングステン)系超硬合金で製作される。前記超砥粒刃先12は、ろう付け工程により、前記インサート本体13の角部(コーナー)に、縁部(エッジ)に、中央外周に、あるいは当該インサート本体13に接触させて、取り付けることができる。ろう付けは、多くの場合切削力および熱に耐える十分な結合力をもたらし、また小さな砥粒刃先を取り付ける上で好都合である。次に、クランプ14またはウェッジで、当該切削工具インサート10を前記切削工具ホルダー15に固定できる。次いでこの切削工具ホルダーを切削機に固定し、または当該切削機に(ウェッジを)押し込む。
【0005】
先行技術のろう付け工程は、確かに超砥粒インサートを製造する際の材料コストを削減するが、この工程、特にろう付け作業自体は、労力を要しコスト高なことが多い。
【0006】
「複合工具(Compound Tool)」と題された米国特許第2,944,323号(「’323特許」)(この参照によりその全体を本明細書に組み込まれるものとする)では、超硬合金切削要素および工具本体を有する切削工具を一体的に形成する方法について開示している。具体的にいうと、’323特許は、鋳造、成形、およびダイプレスなど種々の工程により、超硬合金切削要素を工具本体に係止する方法について開示している。ただし、この’323特許に説明された切削要素は、ステライト(Stellite)などの超硬合金に限定される。超硬合金の切削工具は、150fpm(45m/s)未満の切削速度で使用される。それより高い切削速度で操作すると、切削ゾーンの温度が急上昇してしまう。そのような超硬合金切削工具の高温硬度(高温における硬度)は限られており、最高550℃の切削温度にしか使用できない(例えば「機械加工および工作機械の基礎(Fundamentals of Machining and Machine tools)」(Geoffrey BoothroydおよびWinston A.Knight著、Marcel Dekker社、1989年)を参照)。
【0007】
切削工程中に生じる熱は、刃先から離れる方向へ散逸させなければならない。前記’323特許では、ある方法、すなわち工具およびそれに隣接した工具本体を通じて刃先から離れる方向へ熱を伝導する方法について開示している。ただし、ろう付け、溶接、その他の熱を使った結合工程でインサート本体に取り付けられた砥粒先端から成る超砥粒またはセラミックの切削工具に前記方法を応用した場合にはある制限があり、それは、砥粒先端およびインサート本体の結合部が軟化して最終的に分離してしまう可能性が増大することである。
【0008】
そのため、従来の工具インサートおよびろう付けした工具インサートの欠点を克服する切削工具インサートと、それを作製する方法とが必要とされている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態には、切削工具インサートが含まれる。この切削工具インサートには、少なくとも1つの砥粒刃先を含んだ少なくとも1つの砥粒先端と、その上に成形されたインサート本体材料とが含まれる。前記砥粒先端には、本明細書で説明するように、例えば超砥粒材料または他の材料を含めることができる。例えば、前記砥粒先端には、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、炭化物、セラミックス、酸化物、窒化物、あるいはこれらの複合材料、積層体、または混合物を含めることができる。この砥粒先端は、変形不可能なものであってよい。この砥粒先端は、前記成形される材料より高い硬度を有することができる。
【0010】
切削工具の実施形態には、切削工具インサートを含めることができ、その場合、前記切削工具インサートには、少なくとも1つの砥粒刃先を含んだ少なくとも1つの砥粒先端と、インサート本体とが含まれる。前記インサート本体には、成形可能な材料を含めることができ、当該成形可能な材料は前記砥粒先端の一部に接着可能である。切削工具ホルダーを含めてもよく、その場合、当該切削工具ホルダーは、前記切削工具インサートを受容する。
【0011】
切削工具インサートの付加的な実施形態には、砥粒刃先を伴った少なくとも1つの砥粒先端と、成形した金属インサート本体とを含めることができる。成形工程には、鋳造、金属粉末の射出成形および焼結、金属粉末のプレスおよび焼結、またはプラスチック成形の工程を含めることができ、これらはすべて当業者に公知のものである。前記金属には、鉄合金、非鉄合金、金属に結合された複合材料、そのような複合材料の炭化物、および金属マトリックス複合材料を含めることができる。
【0012】
本発明のさらに別の実施形態には、少なくとも1つの砥粒先端と、成形したセラミックインサート本体とを含めることができる。成形工程は、鋳造、セラミック粉末の射出成形および焼結、セラミック粉末のプレスおよび焼結、またはプラスチックの成形および焼結の工程を有してよく、これらはすべて当業者に公知のものである。そのセラミック材料には、酸化物セラミックス、非酸化物セラミックス、ガラス、および強化セラミックマトリックス複合材料を含めることができる。
【0013】
一部の実施形態では、前記成形可能な材料に、炭化物材料を含めることができる。
【0014】
一部の実施形態では、前記インサート本体に、構造強化用構成要素、熱的構成要素、物理化学的構成要素、またはこれらの混合物をさらに含めることができる。他の実施形態では、切削工具インサートに、摩擦化学体(トライボケミカル・ボディ)をさらに含めることができる。
【0015】
一部の実施形態において、前記高分子材料はインサート本体であってよく、当該高分子材料には、成形可能な樹脂、金属樹脂混合物、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、またはこれらの混合物を含めることができる。さらに他の実施形態では、前記高分子材料に、無機材料および樹脂性材料の複合材料または化合物を含めることができる。
【0016】
さらに他の実施形態では、前記切削工具に前記少なくとも1つの砥粒先端を含めることができ、この砥粒先端は、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、超砥粒、炭化物、セラミックス、酸化物、窒化物、あるいはこれらの複合材料、積層体、または混合物から選択可能である。他の実施形態では、前記少なくとも1つの砥粒先端は、約1000を超えるビッカース硬さを有してよい。
【0017】
特定の実施形態では、前記少なくとも1つの砥粒先端は、さらに、突出部、凹部、これらの混合物、または前記砥粒先端をインサート本体に固定する上で役立つ他の幾何学的形状を含む。
【0018】
前記実施形態の前記少なくとも1つの砥粒先端または前記切削工具インサートにはコーティングが含まれ、このコーティングには、金属、セラミックス、酸化物、有機樹脂、あるいはこれらの任意の積層体、複合材料、または混合物を含めることができる。
【0019】
いくつかの前記実施形態の前記切削工具インサートには、砥粒刃先を伴った砥粒先端と、成形済みインサート本体と、摩擦化学(tribochemical:TC)体またはインサート(本明細書では「TCインサート」および「TC体」が同義的に使われる)とを含めることができる。この摩擦化学体を前記インサート本体内に配置すると、前記切削工具インサートの損耗、摩擦、および/または化学的挙動を修正することができる。この摩擦化学的構成要素は、前記砥粒先端の少なくとも1つの表面に隣接してよい。
【0020】
方法の実施形態には、砥粒刃先を有する少なくとも1つの砥粒先端を提供する工程と、インサート本体を成形するため成形可能な材料を提供する工程と、前記少なくとも1つの砥粒先端と前記成形可能な材料をインサート成形して、切削工具インサートを成形する工程とを含めることができる。
【0021】
一部の実施形態では、前記材料に、成形可能な樹脂、金属樹脂混合物、金属粉末、金属、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、セラミック樹脂、またはこれらの混合物を含めることができる。さらに他の実施形態では、前記材料に、無機材料および樹脂性材料の複合材料または化合物、金属マトリックス複合材料、またはセラミック/ガラスマトリックス複合材料を含めることができる。一部の実施形態では、前記成形可能な材料は、高分子材料、セラミック材料、炭化物材料、金属材料、またはこれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0022】
特定の実施形態では、前記インサートをインサート成形する工程に、前記インサート本体を成形すると同時に前記インサート本体を前記砥粒先端に固定する工程を含めることができる。さらに他の実施形態では、インサート成形が方法に含まれ、そのインサート成形には、射出成形、トランスファー成形、常温圧縮成形(コールドプレス)、加熱、鋳造、または焼結のうち少なくとも1つの工程が含まれ、これらはすべて当業者に公知のものである。さらに他の実施形態では、最高約1500℃の温度でインサート成形を実施することができる。特定の実施形態には、最高約250トン/インチの圧力でのインサート成形も含まれる。
【0023】
一部の実施形態では、前記切削工具インサートを、インサート成形後に加熱できる。さらに他の実施形態では、前記切削工具インサートを、インサート成形後に冷却できる。
【0024】
一部の実施形態には、インサート成形前に前記少なくとも1つの砥粒先端をコーティングする工程を含めることができ、一部の実施形態には、前記切削工具インサートを研削する工程を含めることができる。
【0025】
一部の実施形態には、粉末を金型成形して高分子、金属、セラミック、または複合材料のインサート本体を成形する工程を含めることができる。この成形工程の後に、結合剤除去工程および焼結工程を行ってもよい。前記インサート本体からの結合剤除去には、例えば(これに限定されるものではないが)前記結合剤を酸化させるため真空焼成、空気中焼成および当業者に公知の他の結合剤除去法を含めることができる。
【0026】
他の実施形態では、切削工具に、砥粒刃先を含む少なくとも1つの砥粒先端と、インサート本体とを含めることができる。前記インサート本体には成形可能な材料を含めることができ、この成形可能な材料は、高分子材料、セラミック材料、炭化物材料、金属材料、複合材料、またはこれらの混合物を含有してよい。実施形態において、前記成形可能な材料は、前記砥粒先端の一部または全体に接着可能である。前記インサート本体には、構造強化用構成要素、熱的構成要素、物理化学的構成要素、またはこれらの混合物をさらに含めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本明細書で説明する特定の方法論、システム、または材料は場合により異なる可能性があるため、これらの方法、システム、および材料の説明を読む前に、これらに本開示が限定されるものではないことを理解すべきである。また言うまでもなく、本説明で使用する用語は、特定のバージョンまたは実施形態のみ説明することを目的としたものであり、範囲を限定するよう意図したものではない。例えば、本明細書および添付の請求項において単数形扱いしている名称は、別段の断りがない限り、複数形も含む。また、本明細書における表現「を有する(含有する)」は、「を含む(これに限定されるものではないが)」を意味するよう意図している。特に別段の定義がない限り、本明細書で使用するすべての科学技術用語は、当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。
【0028】
本明細書における用語「インサート(刃先交換チップ)」とは、超砥粒、セラミック、および/または炭化物(タングステンカーバイドなど)、あるいはそれに代わる切削材料のピースで、インサート本体内に保持されたものをいい、成形または材料除去用の器具に使用され、損耗時に廃棄または交換される。図1A〜1Cに示した例は先行技術の切削工具で、インサート10にはインサート本体13および砥粒刃先12が含まれ、当該インサート10は、ネジまたは他のクランプ機構14により切削工具ホルダー15内に強固に保持され機械的にロックされている。
【0029】
本明細書における用語「切削工具ホルダー」とは、旋削、フライス加工、中ぐり(ボーリング)、切削、またはドリリングの用途に利用できるよう、(1つまたは複数の)インサートをしっかり定位置に保持する剛体をいう(例えば、前記切削工具ホルダー15が前記切削工具インサート10を受容する図1Bおよび1Cを参照)。
【0030】
図2A〜2Cを参照すると、本発明は、全体としてインサート20に関し、このインサート20は、砥粒刃先を伴った砥粒先端22と、インサート本体23とを含む。本発明は、米国特許出願第10/690,761号「Cutting Tool Inserts and Methods to Manufacture」(切削工具インサートおよびその作製方法)の開示内容の全体を、参照により本明細書に組み込むものとする。図2Aおよび2Bは、前記砥粒先端22の一部の上にインサート成形された材料のインサートである前記インサート本体23も含めて前記インサート20を例示したものである。特に、図2Aおよび2Bは、黒色樹脂体の刃先を備えた砥粒先端の2つのスタイルを例示しており、どちらもエッジを研磨してあり使用準備が整っている。図2Bの円形凹部は、金型エジェクトピン(押し出し棒)25の圧痕である。図2Cは、研削作業前の成形済みインサート20を2つの砥粒先端22とともに例示したものである。
【0031】
図3に示した一実施形態では、成形切削工具インサート50に切削ブランク(材)55を含めることができ、この切削ブランク55はさらに突出部57を含むことができる。突出部57は、切削ブランクの側部から突出した隆起または複数の側部を伴った突起であってよい。この突出部57を前記インサート本体60に埋め込むことで、前記切削ブランク55の前記インサート本体60への接着度をさらに強化することができる。
【0032】
図4に示した代替実施形態では、成形済み切削工具インサート70に切削ブランク75を含めることができ、この切削ブランク75はさらに陥凹部77を含むことができる。インサート本体80の材料が前記陥凹部77に入り込むことで、前記切削ブランク75の前記インサート本体への接着度をさらに高めることができる。
【0033】
再び図2A〜2Cを参照すると、刃先を伴った砥粒ブランク22は、炭化物、セラミックス、または超砥粒、例えば窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタンなどの炭化チタン−アルミナ系セラミックス、溶融酸化アルミニウム、セラミック酸化アルミニウム、熱処理酸化アルミニウム、アルミナジルコニア、酸化鉄、炭化タンタル、酸化セリウム、ガーネット、超硬合金(WC−Coなど)、合成および天然のダイヤモンド、酸化ジルコニア、立方晶窒化ホウ素、これらの材料の積層体、混合物、および複合材料を含む(これに限定されるものではないが)、のこ引き、機械加工、切削、またはドリリングの用途に使用可能な任意の材料を含んでよい。これらの材料は、単結晶または焼結多結晶体の形態であってよい。前記砥粒ブランクは、ワークピース材料より変形性が低く(より硬質)、または耐摩耗性が高い任意の材料であってよい。前記砥粒ブランクは、約1000を超えるビッカース硬さを有することが好ましい。当該技術分野で周知の焼結技術を使用すると、前記砥粒ブランク22を作製することができる。前記砥粒ブランク22およびインサート本体23は、相互にいかなる幾何学的構成および配向を有してもよい。
【0034】
一実施形態において、前記砥粒先端22は、前記インサート本体23と実質的に同様な厚さを有してよい。この組み合わせにより、前記砥粒先端22の頂部および底部のエッジを使用できるようになる。この砥粒先端22は、その上方層および下方層に砥粒材を伴った単結晶、焼結多結晶体、または積層体の形態であってよい。
【0035】
多結晶ダイヤモンド(polycrystalline diamond:PCD)または多結晶立方晶窒化ホウ素(polycrystalline cubic boron nitride:PCBN)を含む砥粒成形体または砥粒ブランクも砥粒先端22に利用でき、これらはダイヤモンドイノベーションズインク(Diamond Innovations Inc.)を含むいくつかの業者から商標名COMPAX(登録商標)およびBZN(登録商標)がそれぞれ市販されている。PCDおよびPCBNの成形体には、約5体積%〜90体積%の適切な結合マトリックスが含まれる。結合マトリックスは、コバルト、鉄、ニッケル、プラチナ、チタン、クロム、タンタル、銅、シリコン、これらの合金若しくは混合物、および/またはこれらの炭化物、ホウ化物、窒化物、または混合物といった金属であってよい。前記マトリックスは、CBNにはアルミニウム、ダイヤモンドにはコバルトなど、再結晶または成長のための触媒を付加的に含んでよい。
【0036】
前記成形体は、厚さ約0.1mm〜約15mmのPCBNディスクであってよい。別の実施形態において、このPCBN成形体の厚さは、約1.6mm〜約6.4mmであってよい。この成形体の成形は、放電加工(Electro Discharge Machining:EDM)、放電研削(Electro Discharge Grinding:EDG)、研削、レーザー、プラズマ、およびウォータージェットを含む当該技術分野で周知の工程により行うことができる。切削ピースの構造は、事前に決定し、またコンピュータで制御して厳しい公差を保つことができる。
【0037】
一実施形態では、砥粒ウォータージェットによりPCBNブランクを成形できる。本発明の別の一実施形態では、PCBNブランクに対し、所定のコンピュータ制御パターンに基づき表面上の選択した位置でレーザーエッチングでき、例えば、2つの側部が頂角約80°の三角形を形成して約5.0mmの刃先長をなし、残りの直線状の側部が後で前記インサート本体の嵌合形状とかみ合わせできるようジグザグ形状を形成する多角形形状を成形することができる。
【0038】
一部の実施形態において、砥粒先端22は、長さ27(図2B)が0.5mm〜25.4mm、角度が20〜90°の砥粒刃先を任意の基準平面上に有してよい。第2の実施形態では、前記砥粒先端22は厚さ約0.5mm〜7mmであってよい。砥粒先端22は、円形、オーバル、八角形、六角形、環形状の一部または全部、または複数エッジなど、切削工具に使用するための任意サイズであってよい。
【0039】
前記インサート20には、インサート本体23を形成する材料が含まれる。このインサート本体23は、砥粒刃先を伴った砥粒先端22に接触させてインサート成形したものであっても、あるいは砥粒刃先を伴った前記砥粒先端22の一部であってもよい。インサート成形は、予備成形した金属、砥粒、超砥粒その他の固体インサートの周囲に、プラスチックその他の流動性材料を金型成形する工程として定義される(http://www.npd−solutions.com/injectmoldglos.html)。インサート成形中、前記インサート本体23は成形されると同時に硬化する。前記砥粒先端22には、前記インサート本体23への固定をさらに強める幾何学的形状(特徴)24を付加的に含めることができる。前記インサート本体には、チップフローの制御、識別、表示などに関しインサートを固定するための穴または凹部を含めてよい。このインサート本体23の成形および硬化は、化学反応により、または冷却して前記砥粒先端22に取り付けることにより永久的に生じるものであってよい。硬化またはキュアリング中、化学反応は、前記インサート本体23の材料内で、また当該インサート本体材料と前記砥粒先端22との間で起こる。任意選択で、前記インサート本体23を前記砥粒先端22に接着する際、接着剤またはろう付け金属または他の中間層は不要となる。
【0040】
前記インサート本体23の材料は、一部の実施形態において、任意の(1)熱可塑性材料または熱硬化性樹脂材料などの成形可能な高分子材料、(2)鉄合金、非鉄合金、または純粋な金属を含む成形可能な金属化合物、(3)酸化セラミックスまたは非酸化セラミックスを含む成形可能なセラミック化合物、または(4)有機、金属、またはセラミックのマトリックス複合材料を含む成形可能な複合材料であってよい。
【0041】
一実施形態において、前記インサート本体23の材料は熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂であってよく、例えばポリエーテルイミド、ポリアミド、またはフェノールのタイプの樹脂であってよい。さらに、前記インサート本体23の高分子材料は、成形可能な樹脂、金属樹脂混合物、またはこれらの混合物であってよい。高分子材料には、無機材料および樹脂性材料の複合材料または化合物、例えば充填樹脂を含めることもできる。前記インサート本体23の成形済み材料は、切削作業に伴う力および熱が前記インサート20に加わった場合、刃先を伴った前記砥粒先端22を強固に保持する。このインサート本体23の成形済み材料の強度および剛性は、当該インサートに亀裂が生じるのを回避する上で役立つ。これにより、前記インサート本体23を形成する材料は、例えば切削作業中、十分な強度を備えた前記砥粒先端を保持する上で十分な耐熱性、延性、および強度を有する。
【0042】
任意選択で、刃先を伴った前記砥粒先端は、接着剤や金属ろうなどいかなる中間層もなく前記インサート本体材料に接着する。理論に制約されることは不本意であるが、前記インサート本体材料は、主に化学結合と、次に分散力、ファンデルワールス相互作用、水素結合など(これに限定されるものではないが)の相互作用と、そして前記インサート本体材料と、前記砥粒先端の表面形状との機械的かみ合わせとの任意の組み合わせにより前記砥粒先端に接着可能である。前記砥粒先端は、インサート成形工程における冷却などの工程中に当該砥粒先端の周囲で前記インサート本体が収縮することにより、前記インサート本体に接着可能である。
【0043】
別の実施形態には、刃先を伴った砥粒先端の1若しくはそれ以上の表面をコーティングする工程、またはインサートの1若しくはそれ以上の表面をコーティングする工程が含まれる。例えば、インサート成形の前に、前記砥粒先端の1若しくはそれ以上の表面にコーティングを施すことができる。あるいは、インサート成形後に、インサートの1若しくはそれ以上の表面をコーティングすることができる。前記コーティングには、金属、セラミックス、酸化物、炭素、樹脂、あるいはこれらの任意の積層体、複合材料、または混合物を含めることができる。前記コーティングは、耐摩耗性、インサートの識別、耐酸化性を強化し、または化学物質による腐食等を低減するよう作用する。
【0044】
一部の実施形態では、雲母等の天然鉱物、炭素繊維(カーボンファイバー)、または滑石(タルク)などのセラミック粉末を流動性材料に加えて、硬度、耐熱性、研削性、および強度を調整することができる。他の実施形態では、材料に色素を含めることにより、例えば異なるインサートを識別することができる。例えば、菱形(ダイヤモンド形)のインサートは赤色に、円形のインサートは青色にできる。
【0045】
別の実施形態における方法では、インサート成形による切削工具インサートの成形を目的としていることが一般的である。まず、可能性として砥粒先端および成形可能な材料が提供される。インサート本体を形成するその材料は、切削ブランクを伴った砥粒先端の一部の上からインサート成形されて、インサートを形成する。インサート成形とは、一般に、プラスチック粉末、金属粉末、セラミック粉末、またはこれらの混合物を有する粉末または固体/流体混合物などの流動性材料を、金型内と、その金型内に成形前に配置されたインサートピース(この場合、砥粒先端)の一部の周囲とに導入する、任意の成形工程をいう。前記砥粒先端を伴った前記金型内では、冷却と、熱化学的な収縮および硬化とが起こる。これにより、前記砥粒先端の取り付けおよび前記インサート本体の作製の双方が達成され、インサートが形成(成形)される。任意選択で、接着剤や金属ろうなどの中間層を要すことなく取り付けが行われる。さらに、前記成形可能な樹脂材料を提供することにより、前記砥粒先端に対する適合、接触、湿潤、接着が達成され、接着による取り付けがもたらされる。前記砥粒先端には、任意数の幾何学的形状(特徴)24を加えて(図2を参照)、取り付け態様を改善することができる。前記インサートは、射出成形、圧縮成形、鍛造、および鋳造など(これに限定されるものではないが)、いかなる成形工程によっても生成可能である。
【0046】
インサート成形用の流動性材料は、応力により形状変化するが、砥粒先端を変形させることはない。この流動性材料は、約250トン/インチ未満の圧力または応力、および約15000℃未満の温度で砥粒先端に適合することもできる。この流動性材料は、金型を充填して前記切削工具用のインサート本体形状を形成する。また、前記切削工具インサートを構成し金型内に保持される砥粒先端に対して適合し、これを湿潤し、またはこれに接触する。圧力下で流れることにより、通常、金型への接触またはその充填が改善され、金型の充填は促進される。
【0047】
金型が圧力下で過熱または冷却されると、前記流動性材料は熱化学的に、熱的に、および/または表面張力により、全方向に均一および同時に収縮し、これにより前記砥粒先端を締め付け、および/またはこれに接着する。前記流動性材料は、前記砥粒先端の材料に化学的に接着して結合強度をより高めるよう設計できる。前記流動性材料は、砥粒先端の特定の材料と化学的に反応するよう選択することができる。例えば、メラミンフェノール樹脂の高分子材料は、その前駆体が、前記インサート成形工程におけるキュアリング中、前記砥粒先端材料としてダイヤモンドを含む切削ブランクと化学的に反応するよう選択することができる。前記流動性材料は、熱化学反応および/または表面張力(すなわち焼結)反応により硬度が向上し、熱安定性が高まる。
【0048】
鋼製金型など、いかなる従来の金型も前記インサートの成形に利用できる。金型には、菱形の空洞など、切削インサートに望ましいいかなる形状も利用できる。また、金型の形状、サイズ、または厚さは場合に応じて変更でき、望ましい切削工具ホルダーの形状またはサイズに対応させることができる。金型は、単一または複数の砥粒先端を受容できる。一実施形態では、まず砥粒先端が金型内に配置され、その後その金型内へ材料が導入される。次いで前記成形に加熱またはコールドプレスのどちらかが行われ、あるいはその双方が行われて、切削ブランクを伴った砥粒先端とインサート本体とを含むインサートの硬質複合材料が成形されて、インサートが成形される。
【0049】
別の実施形態では、金型にピンを含めることができ、作業者またはロボットが、当該金型の構成に応じて、前記ピンに砥粒先端または切削ブランクを落とし若しくは配置することができる。前記金型には、バネ構造を含むピン(pins−on−springs)を含めることにより、圧力下で溶融材料を射出する前に砥粒先端をクランプ式に固定し保持することもできる。金型は、溶融材料の流れおよび金型空洞の充填を制御するためのランナーおよびゲートを有してもよい。
【0050】
図5を参照すると、摩擦化学体(トライボケミカル・ボディ)91を伴った切削工具インサート90の一部が図示されている。この切削工具インサートには、砥粒刃先93を伴った砥粒先端92と、成形済みインサート本体94と、摩擦化学体95とを含めることができる。前記摩擦化学体95を前記インサート本体94内に配置すると、当該切削工具インサート90の損耗、摩擦、および/または化学的挙動を修正し、また当該切削工具インサート90の耐用期間を延長することができる。この摩擦化学的構成要素は、前記砥粒先端92の少なくとも1つの表面に隣接してよい。
【0051】
活性摩擦化学(tribochemical:TC)インサートは、前記砥粒先端と同じ態様で当該切削インサート内に成形できる。前記TCインサートは、当該切削工具インサートの切削性能を修正する化学的特徴、損耗に関する特徴、熱的特徴、摩擦に関する特徴、または幾何学的特徴を有する。前記TCインサートは、前記成形済みインサート本体を損耗から保護し、当該切削工具インサートの寿命を延ばすことができる。この寿命延長は、前記成形済み本体より耐損耗性が高いTCインサートに前記砥粒先端を当接させることにより得られる。その材料は、前記成形済みインサート本体より耐損耗性が高い任意の材料であってよい。超砥粒の場合、前記TCインサートは、いかなる従来のWC材料、硬化鋼、セラミック、または同様な材料であってもよい。同様に、前記TCインサートは、前記インサート本体より不活性な材料から成る場合、腐食から前記インサート本体を保護することが可能である。
【0052】
高分子インサート本体の場合、耐腐食性TCインサートは、金属、より不活性な高分子、およびセラミックなどの材料であってよい。また前記TCインサートは、切削時に生じる破片および小片(チップ)を、前記成形済みインサート本体から遠ざけるよう物理的に方向付ける、溝などの(これに限定されるものではないが)構成要素であってもよい。適切な耐損耗性/耐薬品性と溝形チップブレーカ構造とを備えた、当該技術分野で周知の材料を含めてもよい。同様に、前記TCインサートは、当業者に(本明細書において以下)公知のように種々の固体・液体潤滑剤を切削用途に取り入れることにより、潤滑効果の利点をもたらすことができる。
【0053】
図6を参照すると、成形済み切削工具インサートを製造する方法100の実施形態には、作業者またはロボットが、金型のピン、底面、および壁の中の加熱された空洞内に砥粒先端を配置したのち前記金型を閉じる工程105を含めることができる。加温された圧力下の成形可能な材料を前記金型内に射出して(110)、空気を押し出し若しくは減圧装置を使用することができる。任意選択で、真空焼成または空気中焼成または当業者に同等に知られた他の工程などの結合剤除去工程を使用して、結合剤材料を除去できる。材料は、最高約1500℃の温度、および約250トン/インチ未満の圧力で成形できる(115)。成形可能なプラスチックの場合は、約5トン/インチ未満の圧力および約300℃未満の温度が好ましい。成形可能な金属の場合は、約25トン/インチ未満の圧力および約1500℃未満の温度が好ましい。加温された粘性材料は、前記砥粒先端の上および周囲に流れ込む。当該砥粒先端は、一般に、金型充填中、その金型のピン、バネ、および空洞壁を使って流体力に抗して保持される。前記加温された材料は、次いで充填または加圧による締め付けで空隙がすべて排除され、適合性の高い接触が改善されてそれ以降の硬化による体積変化が最小限に抑えられる。前記加温された材料は、前記金型の高温壁、輻射、または他の方法によりさらに加熱され、加熱および/または圧力により活性化する化学反応を経て、重合により硬化し収縮する。また、前記加温された材料は、前記金型内で冷却し、化学反応なしで硬化させることもできる。冷却および/または硬化に十分な時間が経過した後、前記金型は開けられ、前記金型本体に入れておいたピンにより部品が押し出される(120)。次に、この新しい部品すなわちインサートを、周囲温度になじませるなど任意の標準冷却工程を使って冷却する(125)。次いで新しい砥粒先端を前記金型内に配置し、上記の工程を繰り返す。
【0054】
代替実施形態では、任意選択で、1大気圧以上の圧力下でUV照射または加熱を行うことにより、金型外で、インサート成形した本体に付加的な硬化、キュアリング、アニーリング、焼き戻しが行われる。
【0055】
代替実施形態では、金属射出成形など、金属−樹脂、セラミック−樹脂、または金属−樹脂−セラミックの成形を使って成形済みインサートを作製する。金属射出成形には、金属および/またはセラミックの微粉末をプラスチック結合剤と混合して当該金属粉末の流動性を高める工程が含まれる。砥粒先端は通常通り金型内に配置され、金属、樹脂、および結合剤化合物が、加熱および加圧下で、前記金型内の前記砥粒先端の周囲へ押し込まれる。前記樹脂が硬化、冷却、および/または収縮した後、前記成形済みインサートを溶剤抽出または蒸発によりプラスチックから剥がすと、多孔質の金属−砥粒先端インサートが得られる。そのインサート本体を炉で焼結し、緻密な硬質インサートを形成する。代替実施形態では、流動性金属粉末混合物を使って成形済みインサートを作製することができ、その場合、金型充填は重力により達成される。各部品はコールドプレスされて非緻密で非硬質な緑色の本体を形成したのち、炉で焼結されて収縮および硬化し、また収縮応力および砥粒先端との接着が生じる。あるいは、ホットプレス(加熱加圧成形)で充填した金型と同じ金型でキュアリングを行うこともできる。
【0056】
代替実施形態では、砥粒先端を低温金型内に配置し、金属粉末を加え、前記金型を閉じて熱および圧力を上昇させ、前記砥粒先端の周囲で前記金属粉末を焼結させることにより、ホットプレスで成形済みインサートを作製することができる。
【0057】
成形済み切削工具インサートに仕上げ研削、研磨、あるいはさらに機械加工を施すと、形状の凹凸や粗さなどを取り除くことができ、切削工具ホルダーへの嵌入に役立つ。このインサート成形は、ワイヤー放電加工(Wire Electro Discharge Machining:WEDM)、フライス加工、レーザー切削、または研削を含む(これに限定されるものではないが)任意の工程を使って行える。例えば、前記インサートは、ホーニング、面取り、ワイパー(仕上げ刃)(切削ノーズ半径が複数)、すくい角、逃げ角などにより(これに限定されないが)当該技術分野で公知の種々の形状に研削できる。本発明の別の一実施形態では、切削工具インサート本体の内部またはその表面に、チップブレーカパターン、位置合わせ用の穴、または面取りを設けることができる。またインサート本体には、無電解ニッケルクロム硬質コーティング、またはそれに続きPVDまたはCVDによるセラミック硬質コーティングを施して当該インサートを保護することができる。
【0058】
成形済みインサート本体に構造強化用構成要素など付加的な構成要素を含めると、強度、強靱性、または耐変形性を向上させることができる。上記のように、成形済みマトリックスは高分子、金属、またはセラミックであってよく、強化用構成要素を含んでよい。本明細書における用語「構造強化用構成要素」には、粒子、ウィスカー、またはフィラメントなどの強化用構成要素が含まれる(これに限定されるものではないが)。これらの粒子、ウィスカー、またはフィラメントは、複合材料を強化する上で一般に使用され、当業者に公知のもののいずれであってもよい。これらの強化用構成要素は、ガラス、セラミック、金属、合金、ナノ粒子、または高分子でできたものであってよい。また当技術分野で知られているように、当該マトリックスへの接着度を増減させるようコーティングし、あるいは処理してよい。前記強化用構成要素は、連続的であっても不連続的であってもよい。前記強化用構成要素は、約1体積%〜約50体積%の濃度で前記インサート本体に含めることができる。その他の濃度も可能で、当業者に公知のとおりである。
【0059】
成形済みインサート本体には、当該インサートの熱特性を修正するための熱的構成要素を付加的に含めてもよい。本明細書における用語「熱的構成要素」には、別の材料の熱特性を修正するため使用できる当業者に公知の材料が含まれる。前記熱的構成要素は、当該マトリックス体の熱伝導率を増減させることができる。この熱的構成要素には、粒子、ウィスカー、またはフィラメントを含めることができる。この熱的構成要素は、当該本体内で連続的であっても離散的に分布したものであってもよい。この熱的構成要素により成形済み本体の熱伝導率を低めると、刃先、砥粒先端、または切削作業で生じるチップ(切り屑)の温度を上げることができる。この構成要素を追加すると、インサート工具ホルダーおよび他の機械的構成要素に分布する熱エネルギーを低減することができる。この熱的構成要素は、約1体積%〜約50体積%の濃度で前記インサート本体に含めることができる。その他の濃度も可能で、当業者に公知のとおりである。
【0060】
本発明で採択される方法は、切削インサートの耐熱性を高めるものである。これにより熱エネルギー分配が効果的に変化し、結果的に熱エネルギーのより多くの割合が被削材またはチップに向かう。これにより、砥粒先端のインサート本体への付着が、より高速の切削でも確実に保たれる。
【0061】
成形済みインサート本体は、切削作業の化学的態様または物理的態様を修正する添加剤をさらに有し、この添加剤については、用語「物理化学的構成要素」により本明細書で説明する。インサート本体の物理化学的構成要素には、先端またはインサート本体における摩擦力を軽減することが当該技術分野で知られている液体または固体の潤滑剤を含めることができる。当該本体には、切削力を低減し、切削または研削の加速剤として当業者に知られている化学修飾剤などの(これに限定されるものではないが)物理化学的構成要素を含めることができる。これらの化学修飾剤には、硫黄、リン、塩素、フッ素、または当該技術分野で公知の他の切削加速剤を含めることができる。
【0062】
旋削、フライス加工、中ぐり(ボーリング)、のこ引き(ソーイング)、およびドリリングの用途に使用される多様な切削工具ホルダーに取り付け可能ないかなる形状、サイズ、または厚さのインサートも、作製することができる。本発明の結合済みインサートには、複数の砥粒先端(インサート形状にのみ制限される)を含めることができ、外部クランプ、本体ウェッジ、または材料固定具による拘束は不要である。
【0063】
以下の例は、単に本発明を説明する上で一助となる手順を表したもので、本発明はこれらの例により制限されるものではない。
【0064】
例1 熱硬化性メラミンフェノール樹脂を使って上述の方法により菱形のCNUA43切削インサートを成形した(Plencoグレード0641ガラス繊維(グラスファイバー)および鉱物充填)。バネを装架したピンを含む硬質の鋼製金型を使用した。砥粒先端の材料はHTM 2100である(Diamond Innovations Inc.)。HTM 2100は、約1.5〜2mmの焼結タングステンカーバイド(炭化タングステン)に結合した0.5〜1mmの硬質PCBN複合材料を含有する。80度の台形切削ブランクに対し、当該切削ブランクにおいて半径0.008インチでEDM切削し、流動性樹脂の密閉部とした。キュアリング可能(硬化可能)な樹脂と十分接触させて接着剤の付着を改善するよう、前記切削ブランクを作製した。金型を有する空洞内に前記切削ブランクを配置し、小型ピンにより位置付けた。次に、予熱した樹脂を前記金型内へと加圧し、前記切削ブランクを覆うように流し込んだ。前記金型を密閉し、圧力を高めた。前記金型を加熱し、時間をかけて金型を完全に充填し、空気を抜き、高温の熱硬化性樹脂を収縮させキュアリングし/硬化させた。次に、成形したピースを冷却し、研削により、面取り25度×0.005インチ、中程度のホーニングでCNGA432インサート内へ組み込んだ。エッジ(刃先)は驚くほど良好に研削され、切り屑が軟質プラスチックおよび非粘着性プラスチックであることから砥石車をクリーニングまたはドレッシングする必要性が低いため、最低限のホイール損耗、少ない力で高速の研削工程が行われた。前記プラスチックによる前記砥粒切削先端の付着は、驚くほど良好であった。
【0065】
上記の成形済みインサート30ピースについて、標準的な炭化物および鋼鉄のインサートと比較し、ホイールあたりの部品数、1分間あたりの部品数、および研削力の機械研削評価を行った(Agathon CombiマシンおよびEcoDressシステム)。前記30ピースは、すべて切削ブランクの損失なく、切削ブランクが動くことなく、あるいは欠損または寸法の問題なく研削された。
【0066】
上記の成形済みインサートは、150sfpm、0.004ipr、および0.010インチdocで冷間圧延したグレード1018の鋼板の外径旋削において評価された。20回のパスで、わずかな浸食が前記プラスチックに見られた。前記切削ブランクには、動きも、落ちも、また欠損もなかった。前記プラスチックは、溶融、軟化、弱化、または亀裂を呈さず、あるいは前記砥粒切削先端を放出しなかった。
【0067】
以下の切削試験では、従来のインサートと比較した前記成形済みインサートの能力を示している。
【0068】
上記の成形済みインサートは、高Cr鋼鉄タイプ52100のずぶ焼入れした鋼製ディスクの面削りにおいて評価した。前記成形済みインサートは、通常の損耗で22パスを達成し、同じHTM 2100切削ブランク材料を使い、標準的な炭化物材料をろう付けしたインサートは、同じレベルの損耗状態になるまでにわずか16パス達成したのみであった。これらの切削試験では、従来のインサートと比較した前記成形済みインサートの実用性を実証している。
【0069】
例2 表1は、鋼鉄の切削測定値(インチ単位)を、前記インサート切削ブランクの0.001インチの側面摩耗で除算した値の表として切削工具性能を例示したものである。PCBN複合材料の砥粒刃先およびメラミンフェノール樹脂を充填したものから作製した本発明のインサートを、ろう付けしたインサートと比較し、硬質52100鋼鉄および切り欠き硬質4340鋼鉄の連続面削りで試験した。切削ブランクの付着に関する問題は、どの場合でも見られなかった。インサート性能を決定したのは、成形済み本体の材料ではなく、前記切削ブランクの材料であった。
【表1】

【0070】
例3 上記で研削したプラスチック成型インサートを、Diamond Innovations,Inc.の標準的な溶解法により約2ミクロンの無電解ニッケルで金属化した。この無電解ニッケルコーティングは、導電性が確認された。機械加工試験では、金属硬質コーティングが前記プラスチックの「硬質シェル(外郭構造)」として作用し、高温のチップによる前記プラスチックの浸食を防いだ。
【0071】
例4 例1と同じスタイルのHTM 2100砥粒刃先をカルボニル鉄の8ミクロン微粉末と混合し、850℃で3分間、黒鉛金型内でホットプレスした。前記インサートを研削し、前記焼結金属への前記砥粒の優れた付着により、亀裂および欠損のない砥粒刃先を作製した。これは、流動性金属散剤でのインサート成形が実現可能なことを示している。
【0072】
本開示の実施形態は、数多くの利点をもたらすことができる。例えば、本明細書で説明する成形切削工具インサートは、金属切削中、鋼鉄または炭化物を含んだ標準的な切削工具インサートより低温であり、これは本明細書で説明する前記プラスチック材料のインサートの断熱性によるものである。さらに、前記刃先の確実な取り付けにより、チップによる衝撃が前記インサート本体に伝わることはない。
【0073】
また、本明細書で説明した成形済みインサート本体は、より硬質な炭化物、または軟鋼と比べ、研削を容易にする。これにより、生産速度の向上、砥石車の損耗低減、および(部品数/時間および高コスト砥石車(ホイール)に対する部品数/ホイールに関する)研削機械能力の改善を含めた組立加工業者のコスト削減といった改善が可能になる。また、精密な切削または嵌装を必要とせず前記インサートアセンブリ(組み立て品)の加工にかかる労力が最低限で済むため、製造工程も短縮される。
【0074】
前記インサート成形作業の完全な自動化により、コスト削減および効率化も可能である。また、前記接着樹脂が刃先周囲で化学的に収縮して結合を確実にするため、著しい間隙または不適合も生じない。さらに、前記成形プラスチックインサートは、切削中、高温にならない。鋼鉄および炭化物と異なり、プラスチックは断熱材であるため、より多くの熱がインサート内に残り、そのインサートを使った切削工具はより低温を保てる。
【0075】
インサートを金型成形するもう1つの利点は、本明細書で説明するように、一部の実施形態で、インサート本体と砥粒刃先とを結合(接合)させるため、事前製造した固体(非流動性)取り付け部材のろう付けおよび/または圧入に通常必要とされた寸法精度が、不要になることである。本発明の材料は流動性であるため形状変化して砥粒刃先に適合し接触することから、より高速で精度の低い手段で砥粒刃先を切削できるようになる。
【0076】
切削工具インサートをこの方法で金型成形する別の利点は、一部の実施形態において、機械的な取り付け(圧入など)方法でろう付けの流れを損ない若しくは刃先を破損する心配なく、フィン形状、歯形状、鋭い形状、コーナー形状など複雑な形状に砥粒刃先を成形できるようになることである。そのような複雑な形状を使用すると、インサート本体への砥粒刃先の取り付けを改善することができる。
【0077】
別の利点は、流動性の成形可能な(特に、密に充填された)プラスチックの研削が、切削工具の従来材料である軟鋼または硬質炭化物と比べ、大幅に容易なことである。これは、砥石車を早期に鈍化させることなく、インサート研削中に、チップブレーカや冷却水路などの微細形状をインサートに設けられることを示唆している。そのような形状は、インサート本体の成形に組み入れることもできる。一体的に成形されるこれらの幾何学的形状としては、穴、キー溝、位置合わせピン、面取り、テーパー、ギア歯、凹部、数(番号)、ロゴなどがある(これに限定されるものではないが)。
【0078】
以上に開示した特徴および機能等の変形形態またその代替形態は、他の多くの異なるシステムまたはアプリケーションへと望ましい態様で組み込み可能なことが理解されるであろう。現時点で予測または予期できない種々の代替形態、変更(修正)形態、変形形態、または改良形態が今後作成される可能性があり、これらの形態は、以下の請求項に包含されるよう意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1A】図1Aは、先行技術の切削工具インサートを示した図である。
【図1B−1C】図1B〜1Cは、先行技術の切削工具構成の上面図および側面図である。
【図2A−2C】図2A〜2Cは、本開示の実施形態に従ってインサート成形した種々の切削工具インサートの上面図である。
【図3】図3は、突出部を含む切削ブランクを伴った切削工具インサートの実施形態である。
【図4】図4は、凹部を含む切削ブランクを伴った切削工具インサートの実施形態である。
【図5】図5は、摩擦化学体を含む切削工具の一実施形態である。
【図6】図6は、例示的な切削工具インサート製造工程を例示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具インサートであって、
砥粒刃先を備えた少なくとも1つの砥粒先端と、
インサート本体であって、成形可能な材料を有する前記インサート本体と
を有し、
前記成形可能な材料は前記砥粒先端の一部に接着するものである
切削工具インサート。
【請求項2】
請求項1記載の切削工具インサートにおいて、前記成形可能な材料は、高分子材料を含有するものである。
【請求項3】
請求項1記載の切削工具インサートにおいて、前記成形可能な材料は、セラミック材料を含有するものである。
【請求項4】
請求項1記載の切削工具インサートにおいて、前記成形可能な材料は、炭化物材料を含有するものである。
【請求項5】
請求項1記載の切削工具インサートにおいて、前記成形可能な材料は、金属材料を含有するものである。
【請求項6】
請求項1記載の切削工具インサートにおいて、前記インサート本体は、構造強化用構成要素、熱的構成要素、物理化学的構成要素、またはこれらの混合物をさらに有するものである。
【請求項7】
請求項1記載の切削工具インサートにおいて、この切削工具インサートは、さらに、
前記切削工具インサートの耐用期間が延長するように位置付けられた摩擦化学体(トライボケミカル・ボディ)を有するものである。
【請求項8】
請求項1記載の切削工具インサートにおいて、前記少なくとも1つの砥粒先端は、超砥粒材料を含有するものである。
【請求項9】
請求項1記載の切削工具において、前記少なくとも1つの砥粒先端は、セラミック材料を含有するものである。
【請求項10】
請求項1記載の切削工具において、前記少なくとも1つの砥粒先端は、炭化物材料を含有するものである。
【請求項11】
請求項1記載の切削工具において、前記少なくとも1つの砥粒先端は、突出部、凹部、またはこれらの組み合わせをさらに有するものである。
【請求項12】
請求項1記載の切削工具において、前記少なくとも1つの砥粒先端または前記切削工具インサートはコーティングをさらに有し、このコーティングは、金属、セラミック、酸化物、有機樹脂、或いはこれらの積層体、複合材料、または混合物を有するものである。
【請求項13】
方法であって、
砥粒刃先を有する少なくとも1つの砥粒先端を提供する工程と、
インサート本体を成形するための成形可能な材料を提供する工程と、
前記少なくとも1つの砥粒先端と前記成形可能な材料をインサート成形して、切削工具インサートを成形する工程と
を有する方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法において、前記成形可能な材料は、高分子材料、セラミック材料、炭化物材料、金属材料、またはこれらの混合物からなる群から選択されるものである。
【請求項15】
請求項13記載の方法において、前記成形可能な材料は、構造強化用構成要素、熱的構成要素、物理化学的構成要素、またはこれらの混合物をさらに有するものである。
【請求項16】
請求項13記載の方法において、前記切削工具インサートをインサート成形する工程は、前記インサート本体を成形すると同時に前記インサート本体を前記砥粒先端に固定する工程を有するものである。
【請求項17】
請求項13記載の方法において、前記成形可能な材料をインサート成形する工程は、射出成形、トランスファー成形、鋳造、常温圧縮成形(コールドプレス)、加熱、焼結、または結合剤除去のうち少なくとも1つの工程をさらに有するものである。
【請求項18】
請求項13記載の方法において、この方法は、さらに、
インサート成形後に前記切削工具インサートを加熱する工程を有するものである。
【請求項19】
請求項13記載の方法において、この方法は、さらに、
前記切削工具インサートをコーティングする工程を有するものである。
【請求項20】
請求項13記載の方法において、この方法は、さらに、
インサート成形前に、前記少なくとも1つの砥粒先端をコーティングする工程を有するものである。
【請求項21】
請求項13記載の方法において、この方法は、さらに、
前記切削工具インサートを研削する工程を有するものである。
【請求項22】
切削工具インサートであって、
砥粒刃先を有する少なくとも1つの砥粒先端と、
インサート本体であって、
高分子材料、セラミック材料、炭化物材料、金属材料、複合材料、またはこれらの混合物を含有する成形可能な材料であって、前記砥粒先端の一部に接着するものである前記成形可能な材料と、
構造強化用構成要素、熱的構成要素、物理化学的構成要素、またはこれらの混合物を有する添加剤と
を有するインサート本体と
を有する切削工具インサート。

【図1A】
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【図1B−1C】
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【図2A−2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−529432(P2009−529432A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558508(P2008−558508)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【国際出願番号】PCT/US2007/063418
【国際公開番号】WO2007/103939
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(504174825)ダイヤモンド イノベーションズ、インク. (12)
【Fターム(参考)】