説明

成形用プレコートアルミニウム板および容器形状成形品

【課題】優れた成形性、放熱性及び明度を有するメタリック外観を備えた成形用プレコートアルミニウム板を提供する。
【解決手段】アルミニウム(Al)板2の一方側面に形成された第一皮膜3と、Al板2の他方側面に形成された第二皮膜6とを備える成形用プレコートAl板1であって、第一皮膜3は、Tgが25〜100℃のポリエステル樹脂をメラミン系硬化剤又はイソシアネート系硬化剤にて架橋反応させた架橋ポリエステル樹脂4と、メタリック顔料5とを含み、波長が3〜30μmの赤外線の積分放射率が25℃の温度において0.6以上、ゲル分率が50%以上、第二皮膜6は、Tgが0〜80℃のポリエステル樹脂をメラミン系硬化剤又はイソシアネート系硬化剤にて架橋反応させた架橋ポリエステル樹脂7と、添加剤8とを含み、波長が3〜30μmの赤外線の積分放射率が25℃の温度において0.6以上、ゲル分率が50%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に産業用電子機器、民生用電子機器、自動車用電装品等に使用される、アルミニウム板を素材とした成形用プレコートアルミニウム板および容器形状成形品に係り、特にLED照明などの照明機器などに好適な優れたメタリック外観と可視光反射性、成形性、放熱性を兼ね備えた、成形用プレコートアルミニウム板および容器形状成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、環境にやさしい照明機器として、LEDを採用したLED照明機器が相次いで商品化されている。LEDの寿命や発光効率を高めるには、放熱性を高くして、効率よく熱を外部へ逃がす必要がある。一口にLED照明機器と言っても、液晶テレビに採用される様なLEDバックライトや電球型のLED照明などがある。
【0003】
LEDバックライトには、放熱性を高くするための放熱板が用いられている。かかる放熱板は、図5(a)に示すように、金属板を曲げ加工を主体として製造されている。
一方、LED照明は、白熱電球と類似した形状となるようにダイキャストによって製造した容器が製造されている。かかる容器は、外周部に複数のフィンや凹凸などを設けて表面積を大きくすることにより放熱性を高め、ヒートシンクとして機能するように設計されている場合もある。LED照明を白熱電球や蛍光灯並に普及させるためには、生産性を高める必要がある。生産性を高めるためにはダイキャストではなく、板のプレス品にすることが望ましい。ヒートシンクとして機能するように設計された前記した容器は、形状が円筒に近くなることから、図5(b)に示すように、金属板を絞り加工して製造する方が望ましい。なお、図5(b)に示すような絞り加工で製造したカバーは密閉性が高いので、電磁波シールド性が高く、家庭等の室内で利用される民生用電子機器にも好適に用いることができる。
【0004】
熱伝導性が良く、絞り加工を可能とする加工性を有する安価な素材としてアルミニウム(本明細書においてはアルミニウム合金を含む。以下同じ。)板がある。アルミニウム板の表面には自然酸化皮膜が形成されるため耐食性に優れているが、さらに潤滑性、耐疵付き性、耐指紋性、導電性等の所望の機能を付与するためアフターコート法やプレコート法により樹脂皮膜を形成することが多くなっている。なお、アフターコート法とは、アルミニウム板を所定の形状にプレス成形した後、個別に樹脂皮膜を形成する方法であり、プレコート法とは、アルミニウム板を所定の形状にプレス成形する前に、あらかじめアルミニウム板の表面に樹脂皮膜を形成しておく方法である。なお、生産性を上げ、コストを低減する場合、プレコート法によるのが好ましい。プレコート法によれば、アルミニウム板の表面にあらかじめ特定の樹脂皮膜を形成し、プレス成形機で連続して成形品を製造することができるので大量生産に向いているからである。
【0005】
LED照明の容器の場合、生産性を上げ、コストを低減するためプレコート法によってあらかじめ表面に樹脂皮膜を形成したプレコートアルミニウム板を用いる必要がある。また、樹脂皮膜の機能として前記したように放熱性が要求される。さらに、絞り加工は変形量の大きい加工であるので、樹脂皮膜はこれに追従できるものでなくてはならない。
【0006】
従来のプレコートアルミニウム板としては、例えば、特許文献1〜4に記載のものがある。
特許文献1には、所定の算術平均粗さRaを有するアルミニウム板の少なくとも一面に、所定の耐食性皮膜と所定の樹脂皮膜とを形成し、その表面抵抗値を規定することで導電性を向上させつつ、その他の要求性能も満足したプレコートアルミニウム板が開示されている。
特許文献1のプレコートアルミニウム板によれば、洗浄の不要な速乾性プレス油での連続成形を可能とし、プレス油を洗浄する工程を省略して製造コストを下げるための潤滑性、外観品質を向上させるための耐疵付き性および耐指紋性、帯電防止やアースを確保するための導電性等の機能が樹脂皮膜によって付与されるため、例えば、ノートパソコンに搭載されるスリム型の光ディスクドライブ装置のカバー等に好適に用いることができる旨、記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、プレコート法によって形成された樹脂皮膜中に所定の硬さの軟質ビーズを添加して樹脂皮膜にクッション性を持たせたプレコートアルミニウム板が開示されている。
特許文献2のプレコートアルミニウム板によれば、当該プレコートアルミニウム板と接触する相手物を疵付け難いため、例えば、スロットインタイプの光ディスクドライブ装置に使用されるカバーとして好適に用いることができる旨、記載されている。つまり、当該カバーの内面に樹脂皮膜が配置されるようにすることにより、光ディスクが接触した場合であっても、摩擦によって光ディスクが疵付いてしまうのを防止することができる旨が記載されている。
【0008】
また、特許文献3には、アルミニウム板の表面に形成された熱硬化樹脂の分子間架橋状態として、プレコート皮膜のゲル分率の値を220℃の加熱処理を行った前後で比較した場合に、当該加熱処理後のゲル分率の値が、前記加熱処理前のゲル分率の値から連続的に減ずるようにし、220℃の前記加熱処理を10分間行った時点における当該加熱処理前のゲル分率の値からの減少幅が10%未満であるように制御することによって、高い絞り加工性を満足させたプレコートアルミニウム板が開示されている。
特許文献3のプレコートアルミニウム板によれば、深絞り加工やしごき加工を行っても、皮膜の剥離、亀裂、白化が生じることが無く、成形性に優れているので、例えば、スリム型光ディスクドライブ装置などの産業用電子機器や、民生用電子機器、車載用電子機器等のカバーとして好適に用いることができる旨、記載されている。
【0009】
そして、特許文献4には、アルミニウム板の片面または両面に熱可塑性樹脂フィルムを設け、この熱可塑性樹脂フィルムの上に熱硬化性樹脂塗膜層を設けたプレコートアルミニウム板が開示されている。
特許文献4のプレコートアルミニウム板によれば、熱可塑性樹脂フィルムが脱脂剤に接触することはなく、耐薬品性に優れた熱硬化性樹脂塗膜層により保護されるため、絞り加工あるいはしごき加工の際の成形加工性が良好な状態で、熱可塑性樹脂フィルムの脱脂処理における変色が防止でき、かつ、印刷性能についても向上させることができる旨、記載されている。そのため、例えば、電解コンデンサーのケースに好適に用いることができる旨、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−313684号公報
【特許文献2】特許第4134237号公報
【特許文献3】特開2006−305841号公報
【特許文献4】特許第4003915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1〜4のプレコートアルミニウム板を用いて絞り加工を行い、LED照明の容器を製造する場合、以下のような問題点がある。
【0012】
特許文献1および特許文献2のプレコートアルミニウム板は、光ディスクドライブ装置のカバーに用いられることを想定したものであり、曲げ加工による筐体製作を前提としたものである。したがって、絞り加工の様な変形量の大きい加工に対しては樹脂皮膜の変形が追従できず、樹脂皮膜に割れや剥離が生じるものと考えられる。
【0013】
また、特許文献3のプレコートアルミニウム板は、絞り加工を想定したものであるが、LED照明の容器のヒートシンクとしての機能に要求される放熱性や可視光反射性が考慮されておらず、LEDの寿命や発光効率低下の原因になるおそれがある。また、民生品として要求される外観をまったく想定していないため、外観が実用に耐えられない。
【0014】
特許文献4のプレコートアルミニウム板は、熱可塑性樹脂をベース樹脂とした熱可塑性樹脂フィルムをアルミニウム板の表面にラミネートしたフィルムラミネート材であるため、耐熱性については自ずと限界がある。
【0015】
熱可塑性樹脂として、例えば、ナイロンに代表されるポリアミド系樹脂をベース樹脂にする場合は、アルミニウム板との密着性は良く、優れた成形性も得られるが、高温環境では比較的短時間で、熱によりベース樹脂が黄変色あるいは褐変色しやすいという問題がある。
【0016】
また、熱可塑性樹脂として、PET等の飽和ポリエステル系樹脂をベース樹脂にする場合は、アルミニウム板との密着性は良く、優れた成形性を示し、高温環境でも、容易にはベース樹脂が熱変色しない特長があるが、ベース樹脂は加水分解し易いため、高温湿潤雰囲気下での耐久性に劣る傾向がある。
【0017】
さらに、熱可塑性樹脂として、ポリエチレンやポリプロピレンに代表されるポリオレフィン系樹脂をベース樹脂にすると、ベース樹脂は原則炭素と水素だけから構成されており、窒素や酸素が含まれない。従って、エステル結合、ウレタン結合、アミド結合といった化学結合の起点となる水酸基やカルボキシル基、イソシアネート基、アミノ基といった官能基が無いため、アルミニウム板との接着性に劣ることとなる。
【0018】
また、特許文献4のプレコートアルミニウム板は、LED照明の容器のヒートシンクとしての機能に要求される放熱性や可視光反射性、外観もまったく考慮されていない。
【0019】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、曲げ加工主体で形成されるLEDバックライトの様な成形品へ適用できるのはもちろんのこと、LED電球のヒートシンクの板化などを想定した、優れた絞り加工性(成形性)を有し、LEDの寿命と発光効率を高める程度に必要な優れた放熱性(赤外線放射性)を有するとともに、民生機器、特に照明機器として要求される、優れた明るさと可視光反射性を有するメタリック外観を兼ね備えた成形用プレコートアルミニウム板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
請求項1に係る成形用プレコートアルミニウム板は、アルミニウム板と、前記アルミニウム板の一方側面に形成された第一皮膜と、前記アルミニウム板の他方側面に形成された第二皮膜とを備える成形用プレコートアルミニウム板であって、前記第一皮膜は、ガラス転移温度が25乃至100℃のポリエステル樹脂をメラミン系硬化剤またはイソシアネート系硬化剤にて架橋反応させた架橋ポリエステル樹脂と、メタリック顔料とを含み、波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率が25℃の温度において0.6以上であり、ゲル分率が50%以上を満たし、前記第二皮膜は、ガラス転移温度が0乃至80℃のポリエステル樹脂をメラミン系硬化剤またはイソシアネート系硬化剤にて架橋反応させた架橋ポリエステル樹脂と、添加剤とを含み、波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率が25℃の温度において0.6以上、ゲル分率が50%以上を満たすことを特徴とする。
【0021】
この様な構成によれば、アルミニウム板の一方側面および他方側面それぞれに形成された第一皮膜および第二皮膜がともに、所定のガラス転移温度を有するポリエステル樹脂をメラミン系硬化剤またはイソシアネート系硬化剤にて架橋反応させた架橋ポリエステル樹脂を含んでいるため、優れた絞り加工性(成形性)を有する。第一皮膜が、絞り加工などによって形成される容器形状成形品の外面(すなわち製品外面)となるようにし、使用するポリエステル樹脂のガラス転移温度の下限値を第二皮膜と比べて高めにすることにより、成形性と洗浄時を含めた耐疵付性(洗浄耐久性)を両立することができる。なお、第二皮膜は、使用するポリエステル樹脂のガラス転移温度の上限値を第一皮膜と比べて低めにすることで、成形性に優れたものとすることができる。
そして、第一皮膜、第二皮膜ともに樹脂皮膜のゲル分率が50%以上であることにより、樹脂皮膜の架橋密度が高くなり、樹脂皮膜中に添加したメタリック顔料や添加剤が洗浄工程で脱落するのを防止することができる。また、耐薬品性、耐熱性、耐加水分解性等が向上し、また、洗浄工程での皮膜の耐久性が向上する。
【0022】
また、第一皮膜は、メタリック顔料を含むため、可視光を効率よく反射できる(可視光反射性)明るいメタリック表面(メタリック外観)を有することができる。また同じく第一皮膜は、波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率が25℃の温度において0.6以上を満たすため、その表面から熱を赤外線に変換して放出することに優れる。そのため、LED素子が温まりにくくなり、LEDの寿命や発光効率を高めることが可能となる。一方、絞り加工後に内面となる第二皮膜も、添加剤を含み、波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率が25℃の温度において0.6以上を満たすため、容器の内部で発生する熱を効率よく吸収することにより、LED素子の温度上昇を抑制することができる。
【0023】
請求項2に係る成形用プレコートアルミニウム板は、前記第一皮膜において、前記メタリック顔料がアルミニウムペーストであり、このアルミニウムペーストの含有率が3乃至30質量%であることを特徴とする。この様な構成にすれば、第一皮膜のメタリック外観がいっそう優れるとともに、可視光反射性もいっそう優れたものになる。また、メタリック顔料が熱伝導率の高いアルミニウムペーストであるため、皮膜の熱伝導性が良好となり放熱効果に寄与する。さらに、成形性も良好となる。
【0024】
請求項3に係る成形用プレコートアルミニウム板は、前記第一皮膜において、前記アルミニウムペーストの含有率が5乃至20質量%であり、膜厚が15μm以下であることを特徴とする。この様な構成にすれば、比較的薄膜で優れた外観、可視光反射性が得られるため経済性に優れる。
【0025】
請求項4に係る成形用プレコートアルミニウム板は、前記第二皮膜において、前記添加剤が、カーボンブラック、グラファイト、酸化チタン、シリカ、アルミナ、樹脂ビーズ、アルミニウムペーストから選ばれた少なくとも1種類以上を含み、その含有率が5乃至70質量%であり、膜厚が15μm以下であることを特徴とする。この様な構成にすれば、目視に直接さらされない絞り加工内面側は特段優れた外観や可視光反射性が要求されないため、放熱特性重視や経済性重視、生産性重視など多様な目的に合わせて皮膜をカスタマイズすることができる。
【0026】
請求項5に係る容器形状成形品は、前記成形用プレコートアルミニウム板が用いられ、前記第一皮膜が外面、前記第二皮膜が内面となる様に成形された容器形状成形品であることを特徴とする。この様な構成にすれば、内面外面とも優れた成形性を有するため、曲げ加工はもとより絞り加工を含めて多様な形状の容器を成形することができる。また熱源に近い内面側では効率よく熱を吸収し、外面側では効率よく熱を放出できるため、容器としては優れた放熱性を有することになる。さらに製品外面として目視にさらされる外面側は明るく美しいメタリック外観を有し、可視光反射性にも優れた、LED電球のヒートシンクに最適な容器形状成形品が得られる。なお、LED電球のヒートシンクは本発明の容器形状成形品の適用用途の一つであって、本用途だけに限定されるものではない。同様に容器形状成形品も絞り加工によるものに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0027】
請求項1乃至4に係る発明によれば、アルミニウム板の一方側面に設けられた第一皮膜および他方側面に設けられた第二皮膜がともに、プレコート皮膜の柔軟性を適度に得ることができ、成形用プレコートアルミニウム板の絞り加工性(成形性)を向上させることができる。そのため、絞り加工やしごき加工のような変形の大きい成形に追従できる成形用プレコートアルミニウム板の提供が可能となる。また第一皮膜、第二皮膜ともに優れた放熱性(赤外線放射性)を有しており、特に第一皮膜は優れたメタリック外観と可視光反射特性をあらかじめ有しており、これらの表面機能がプレス加工によって損なわれることなく維持されるため、得られた容器状成形品はその後の後処理を施すことなくこれらの機能を有した高機能容器が得られる。
【0028】
請求項5に係る発明によれば、得られた容器形状成形品は、照明器具に好適な、優れたメタリック外観と可視光反射特性を有しており、また、優れた放熱性(赤外線放射性)を機能として有した、LED電球のヒートシンクに好適な容器状成形品を得ることができる。LED電球のヒートシンクには複雑なフィン形状を有するダイキャスト成形品が多いが、本発明の容器を使用すれば板材のプレス品に置き換えることができるのできわめて生産性が向上する。さらに表面処理についてもアルミニウム板にあらかじめ連続処理されているので、成形後に塗装やアルマイトといったバッチ処理を行うのに比べてきわめて生産性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る成形用プレコートアルミニウム板の構成を模式的に示す部分断面図である。
【図2】本発明に係る容器形状成形品の一例を示す斜視図である。
【図3】実施例において供試材を絞り加工、および、しごき加工することで、有底円筒容器を作製する工程を示す断面模式図である。
【図4】温度実測用の模擬LED電球を説明する透視図である。
【図5】(a)は、曲げ加工による箱型筐体(容器)の模式図であり、(b)は、絞り加工による箱型筐体(容器)の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、適宜図面を参照して、本発明に係る成形用プレコートアルミニウム板および容器形状成形品を実施するための形態について具体的に説明する。
【0031】
≪成形用プレコートアルミニウム板≫
図1に示すように、本発明に係る成形用プレコートアルミニウム板1は、アルミニウム板2と、アルミニウム板2の一方側面に形成された第一皮膜3と、アルミニウム板2の他方側面に形成された第二皮膜6とを備えており、絞り加工等の用途に用いることができる。以下、各構成について説明する。
【0032】
<アルミニウム板>
本発明でいうアルミニウム板2は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるものであり、本発明で用いられるアルミニウム板(アルミニウム板またはアルミニウム合金板)2としては、特に制限されるものではなく、製品形状や成形方法、使用時に求められる強度等に基づいて選択することができる。一般的には、非熱処理型のアルミニウム板、すなわち、1000系の工業用純アルミニウム板、3000系のAl−Mn系合金板、5000系のAl−Mg系合金板が好適に使用することができる。特に、しごき加工を伴う深い容器形状の筐体を製作する場合には、JIS H4000に規定されるA1050、A1100、A3003、A3004等のアルミニウム板が推奨される。また、比較的浅い容器形状の筐体を作製する場合で、強度が重視されるような場合には、JIS H4000に規定されるA5052やA5182等のアルミニウム板が推奨される。調質、板厚についても、目的に応じて種々のものを選定して使用することができる。また、後記するように、アルミニウム板2に、反応型下地処理、塗布型下地処理、陽極酸化処理、電解エッチング処理、脱脂処理等を施してもよい。
【0033】
<第一皮膜>
第一皮膜3は、ガラス転位温度が25乃至100℃のポリエステル樹脂を、メラミン系硬化剤またはイソシアネート系硬化剤にて架橋反応させた架橋ポリエステル樹脂4と、この架橋ポリエステル樹脂4中に分散されたメタリック顔料5とを含むメタリック樹脂皮膜で構成されており、波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率が25℃の温度において0.6以上、ゲル分率が50%以上を満たす。
【0034】
[架橋ポリエステル樹脂]
架橋ポリエステル樹脂4は、第一皮膜3の主成分(ベース樹脂)となるものであり、ガラス転位温度が25乃至100℃のポリエステル樹脂を、メラミン系硬化剤またはイソシアネート系硬化剤を使用し、分子間架橋反応させる。
【0035】
熱硬化反応による分子間架橋を行わないものとして、熱可塑性樹脂をベース樹脂とするフィルムラミネート材もあるが、前記従来技術で説明したとおり、熱可塑性樹脂をベース樹脂にするものは、様々な点で実用上の問題が生じる。しかし、熱硬化反応等による分子間架橋を行う樹脂を架橋ポリエステル樹脂4に選定すると、この樹脂は、もともと分子間架橋するための官能基を有しているため、アルミニウム板2との密着性に優れる。また、架橋されることで、耐薬品性や耐熱性が高くなると共に、耐加水分解性についても向上させることが可能となる。
なお、アルミニウム板塗装用の樹脂としてはポリエステル樹脂のほかに、エポキシ樹脂やフッ化ビニリデン樹脂、アクリル系樹脂、シリコンポリエステル系樹脂などが広く知られているが、成形性、耐光性、コストなどを総合的に考えると本発明には適当でない。
【0036】
ポリエステル樹脂としては、多価アルコールと多塩基酸を縮合重合させることによって得られた飽和ポリエステル樹脂を用いるのが望ましい。このうち、多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール等の二価アルコールや、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の三価アルコール、さらには、四価以上のアルコール類等を用いることができる。また、多塩基酸としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等の二塩基酸や、無水トリメリット酸等の三塩基酸、さらには、四価以上の多塩基酸等を用いることができる。これらの多価アルコールおよび多塩基酸は、一種類もしくは二種類以上同時に使用して縮合重合させてもよい。また、これらの成分を組み合わせることにより、ポリエステル樹脂のガラス転移温度を変化させることができる。
【0037】
ガラス転移温度は樹脂の転移温度の一つであり、一般に、ガラス転移温度以上の温度での樹脂は柔らかいゴム状、ガラス転移温度以下の温度での樹脂は硬いガラス状とされる。従って、深絞り加工やしごき加工のような変形の大きい加工に第一皮膜3が追従するためには、理論上はガラス転移温度を加工温度以下にすることが必要となる。しかし実際には、高分子物質は、分子量に幅があり、分子内に枝分かれ構造が生じる等、一次構造は均一ではなく、分子同士の配列等、高次構造もミクロに見ると均一とはいえない。したがって、ガラス転移温度はあくまで代表値であり、ある程度幅をもった温度範囲で徐々に転移が生じる。また、ポリエステル樹脂は、ガラス転移温度以下のガラス状であっても、一部の状態(架橋反応をさせない熱可塑性樹脂の状態で結晶化を促進させた状態)を除き、比較的高い伸びがあるため、ある程度の範囲であれば、高いガラス転移温度を有する樹脂を架橋ポリエステル樹脂4としても、成形は可能である。逆に、ガラス転移温度が低すぎる樹脂を架橋ポリエステル樹脂4にした場合には、第一皮膜3が柔らかくなりすぎて、疵が入りやすくなる。
【0038】
本発明において、容器形状成形品の外面となることを想定している第一皮膜3に含まれる架橋ポリエステル樹脂4は、そのガラス転移温度は、25〜100℃の範囲であることが必要である。ガラス転移温度が25℃未満では、第一皮膜3が柔らかくなりすぎて疵が入りやすく、一方、100℃を超えると、プレコートアルミニウム板1の成形性が低下し、成形可能な形状が限定されてしまう。なお、ガラス転移温度は、25〜80℃であることが望ましく、25〜65℃であることがより望ましい。なお、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量分析法(DSC法)によって測定されたものをいう。
【0039】
また、前記のポリエステル樹脂だけでは、架橋反応は起きない。本発明で要求される架橋反応を起こすためには、ポリエステル樹脂が有する水酸基やカルボキシル基と反応する硬化剤を添加するか、ポリエステル樹脂自体に、硬化剤と同様の働きをする成分が生成するように、化学反応を利用してポリエステル樹脂を改質することが必要である。これらの水酸基やカルボキシル基と反応する官能基としては、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基等があり、これらの官能基を3個以上有する物質を硬化剤として添加することで、容易に架橋反応を促進することが可能である。このような硬化剤としては、ポリイソシアネート化合物や、メラミン化合物、エポキシ化合物、アミノ化合物、フェノール化合物、ウレア化合物等が挙げられる。なお、本発明のように、ベース樹脂としてポリエステル樹脂を使用する場合、その硬化剤は、メラミン系硬化剤またはイソシアネート系硬化剤であることが望ましい。これらの硬化剤は、塗料化が容易であり、常温での保存性と焼付け温度での即反応性を兼ね備えるだけでなく、焼付けにより変色が起こりにくい等の利点がある。
【0040】
[メタリック顔料]
メタリック顔料5は、第一皮膜3をメタリックに着色し、可視光反射性を確保するためのものであり、かつ、第一皮膜3に対して波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率が25℃の温度において0.6以上を確保するためのものであり、第一皮膜3の架橋ポリエステル樹脂4中に含有させる。
前記の条件、すなわち、波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率が25℃の温度において0.6以上、が適う限りにおいて、メタリック顔料5の種類、大きさ、形態、添加量等は特に制限されるものではない。
この目的に好適なメタリック顔料5の具体例としては、アルミニウムペースト、銀ペースト、アルミニウムや銀を蒸着またはめっきなどの方法によって処理した各種微粒子などが挙げられる。
経済的な観点からアルミニウム系のものが望ましく、第一皮膜3の熱伝導率を高めて放熱性をアシストする観点から、アルミニウムを表面処理した各種微粒子よりもアルミニウムペーストの方がより望ましい。これにより色調や可視光反射特性が安定する。
【0041】
[メタリック顔料の望ましい含有率:3乃至30質量%]
メタリック顔料5の含有率についても、特に制限は無いが、第一皮膜3に占める比率が3質量%未満では、第一皮膜3が素材であるアルミニウム板2を隠蔽する力が低下するため、圧延ロール目が見えてしまい、外観性が低下する。また同じくアルミニウム板2が隠蔽されていないため、波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率が25℃の温度において0.6以上という条件を確保するのが難しくなる。一方、30質量%を超えた場合も、第一皮膜3の赤外線放射率がかえって低下し、波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率が25℃の温度において0.6以上という条件を確保するのが難しくなる。これは含有率が高くなり過ぎると、第一皮膜3の表面に露出するアルミニウムが多くなり、素材であるアルミニウム板2が露出しているのと同じ様な状態になるためである。すなわち、素材であるアルミニウム板2を隠蔽させつつ、隠蔽している第一皮膜3の表面に露出するアルミニウムペーストの含有量が一定以下となる状態を確保しやすい、3乃至30質量%の場合、波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率が25℃の温度において0.6以上という条件を確保しやすくなる。なお、アルミニウムペーストの含有量は5乃至20質量%であることがより望ましい。
【0042】
[第一皮膜のゲル分率:50%以上]
本発明では、第一皮膜3のゲル分率を50%以上とする。ゲル分率は、熱硬化性樹脂皮膜の架橋反応度の目安となるパラメーターであるため、本来ならば架橋ポリエステル樹脂4単独のゲル分率を議論するべきであるが、第一皮膜3は、架橋ポリエステル樹脂4のほかにメタリック顔料5を必須成分として含むため、架橋ポリエステル樹脂4のベース樹脂のみのゲル分率を厳密に測定することは難しい。したがって、本発明では、第一皮膜3のゲル分率にて代用し、このゲル分率で規定することとする。
【0043】
第一皮膜3のゲル分率を50%以上とすれば、第一皮膜3を形成する架橋ポリエステル樹脂4の架橋密度が高く、使用環境で求められる耐薬品性、耐熱性、耐加水分解性に優れた第一皮膜3を得ることができる。なお、これらの効果を向上させるため、ゲル分率は、65%以上であることが望ましい。さらに、ゲル分率が75%以上となれば、耐薬品性、耐熱性、加水分解性がさらに高まるため、より望ましい。なお、ゲル分率は、大きければ大きいほど望ましいと考えられるため、ゲル分率の上限値は、特に規定する必要はない。また、ゲル分率を50%以上とするため、塗膜を焼き付ける際の焼付温度は、150〜285℃程度とするのが望ましい。
【0044】
ゲル分率の測定方法は、JIS K6796に準拠した方法で行うことができる(ただし、抽出溶剤はキシレンではなく、2−ブタノン(MEK(メチルエチルケトン))を使用する)。すなわち、沸騰させた2−ブタノン中に成形用プレコートアルミニウム板1の供試材を60分間浸漬し、浸漬前後における成形用プレコートアルミニウム板1の質量変化を測定する。その後、第一皮膜3のみを完全溶解させたアルミニウム板2の質量を測定することで、第一皮膜3だけの質量変化を計算し、2−ブタノンへ溶出しなかった成分は架橋反応しているとの仮定のもとで、その比率をゲル分率として算出する。なお、後記する第二皮膜6のゲル分率も同様にして測定することができる。
【0045】
[第一皮膜の波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率:25℃の温度において0.6以上]
本発明において、第一皮膜3は、波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率が25℃の温度において0.6以上とする。放射率は、物体表面からの赤外線放射能を黒体表面からの赤外線放射能で割った比例係数であり、特定の温度における特定波長の光に対して定義される。取り得る数値は0(白体)から1(黒体)の範囲であり、数字が大きいほど赤外線放射能が大きい。これをある範囲の波長領域で積分したのが積分放射率である。プランクの放射式によれば、本発明の実施温度領域である室温付近、より具体的には0乃至100℃の実用温度領域で発生し得る赤外線の波長は、波長領域が3乃至30μmの範囲に集中している。言い換えると、この波長領域の範囲から外れる波長領域の赤外線は無視してよい。この様な理由により、本発明においては、25℃における3乃至30μmの波長領域の赤外線に限定している。
【0046】
第一皮膜3の波長が3乃至30μmにおける赤外線の積分放射率が0.6未満であると、第一皮膜3の表面から赤外線として熱を放出する能力が低下し、製品を冷却する能力が不足する。なお、前記した波長における赤外線の積分放射率は0.7以上であることが望ましく、0.8以上であることがさらに望ましい。
【0047】
第一皮膜3に対する、波長が3乃至30μmにおける赤外線の積分放射率の放射率は、市販されている簡易放射率計を使用して測定することができるほか、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)などを用いて測定することができる。
【0048】
[第一皮膜の望ましい膜厚:15μm以下]
本発明において、第一皮膜3の膜厚は15μm以下であることが望ましい。後述するとおり本発明では第一皮膜3や第二皮膜6の形成方法を特に限定するものではないが、塗布量が均一となるとともに、作業が簡便なロールコータを使用するのが望ましい。一般的なロールコータで、1コートで塗装できる皮膜厚さは、おおよそ1〜20μm程度とされるが、本発明のようにすぐれた外観が求められる用途において、複数のロットにわたって安定した外観を確保するためには皮膜厚さは15μm以下にとどめておくことが望ましい。これにより外観に優れた皮膜を、1コートで経済的に形成することが可能となる。
【0049】
[その他]
第一皮膜3には、本発明の所望する効果を奏する範囲で、少量のメタリック以外の着色剤や、様々な機能を付与する添加剤を含有させることができる。
例えば、成形性を更に向上させるため、例えば、ポリエチレンワックス、カルナウバワックス、マイクロクリスタリンワックス、ラノリン、テフロン(登録商標)ワックス、シリコーン系ワックス、グラファイト系潤滑剤、モリブデン系潤滑剤等の潤滑剤を、1種または2種以上含有させることができる。また、電子機器等で要求されるアース確保を目的とした導電性を付与するための導電性微粒子として、例えば、ニッケル微粒子をはじめとする金属微粒子、金属酸化物微粒子、導電性カーボン、グラファイト等を、1種または2種以上含有させることができる。さらには、防汚性が要求される場合には、フッ素系化合物やシリコーン系化合物を含有させてもよい。それ以外に抗菌剤、防カビ剤、脱臭剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防錆顔料、体質顔料などを、本発明の所望する効果を奏する限り、含有させることができる。
【0050】
<第二皮膜>
第二皮膜6は、ガラス転位温度が0乃至80℃のポリエステル樹脂を、メラミン系硬化剤またはイソシアネート系硬化剤にて架橋反応させた架橋ポリエステル樹脂7と、この架橋ポリエステル樹脂7中に分散された添加剤8とを含むものである。この第二皮膜6は、波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率が25℃の温度において0.6以上、ゲル分率が50%以上を満たす。
【0051】
[架橋ポリエステル樹脂]
架橋ポリエステル樹脂7は、第二皮膜6の主成分となるものであり、ガラス転位温度が0乃至80℃のポリエステル樹脂を、メラミン系硬化剤またはイソシアネート系硬化剤を使用し、分子間架橋反応させる。
【0052】
ポリエステル樹脂であることの必要性、分子間架橋を行うことの必要性と利点、ポリエステル樹脂の成分として利用できる多価アルコールと多塩基酸の例、およびガラス転移温度の説明については、第一皮膜3に使用する架橋ポリエステル樹脂4の説明と同様であるため、省略する。
【0053】
本発明において、容器形状成形品とした際に内面となることを想定している第二皮膜6に含まれる架橋ポリエステル樹脂7は、そのガラス転移温度は、0〜80℃の範囲であることが必要である。第一皮膜3は容器形状成形品の製品外面となるため、ガラス転移温度が25℃未満では、皮膜が柔らかくなりすぎて疵が入りやすくなる課題があったが、容器形状成形品の製品内面となる第二皮膜6は耐疵付性をそれほど考慮しなくてよいため、25℃未満であっても使用できる。但し、0℃未満となると表面のタック感が強くなり、成形用プレコートアルミニウム板をコイルとして巻き取るのが困難となるため、0℃以上である必要がある。80℃を超えると、成形用プレコートアルミニウム板1の加工性が低下し、成形可能な形状が限定されてしまう。特に、製品内面となる第二皮膜6は、回路基板などが隣接するため、加工を受けた皮膜が脱落すると故障の原因となる。この点で製品外面となる第一皮膜3よりはガラス転位温度の上限を低くするのが望ましい。なお、ガラス転移温度は、25〜80℃であることが望ましく、25〜65℃であることがより望ましい。
【0054】
[添加剤]
添加剤8は、第二皮膜6に対して波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率が25℃の温度において0.6以上を確保するためのものであり、第二皮膜6の架橋ポリエステル樹脂7中に含有させる。
【0055】
前記の条件、すなわち波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率が25℃の温度において0.6以上、が適う限りにおいて、添加剤8の種類、大きさ、形態、添加量等は特に制限されるものではない。
この目的に好適な添加剤8の具体例としては、カーボンブラック、グラファイト、酸化チタン、シリカ、アルミナ、樹脂ビーズ、アルミニウムペーストなどが挙げられ、これらを少なくとも1種類以上含ませることができる。
【0056】
[添加剤の望ましい含有率:5乃至70質量%]
添加剤8の含有率についても、特に制限は無いが、第二皮膜6に占める比率が5質量%未満では、波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率が25℃の温度において0.6以上を満たすための膜厚が厚くなり経済的でなくなる。一方、70質量%を超えると、第二皮膜6がもろくなり成形性が低下する。よって、含有率は、5乃至70質量%が望ましい。なお、5乃至60質量%であることがより望ましい。
【0057】
[第二皮膜のゲル分率:50%以上]
本発明では、第二皮膜6のゲル分率を50%以上とする。この様に数値を限定する理由は、第一皮膜3のゲル分率の限定理由と同様であるので省略する。ゲル分率の対象を架橋ポリエステル樹脂7ではなく第二皮膜6とすることや、測定方法についても同様であるので省略する。
【0058】
第二皮膜6のゲル分率の望ましい範囲は65%以上であり、さらに望ましい範囲は75%以上である。ゲル分率は、大きければ大きいほど望ましいと考えられるため、ゲル分率の上限値は、特に規定する必要はない。また、ゲル分率を50%以上とするため、塗膜を焼き付ける際の焼付温度は、150〜285℃程度とするのが望ましい。
【0059】
[第二皮膜の波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率:25℃の温度において0.6以上]
本発明において、第二皮膜6は、波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率が25℃の温度において0.6以上とする。第二皮膜6の波長が3乃至30μmにおける赤外線の積分放射率が0.6未満であると、第二皮膜6の表面で赤外線として熱を吸収する能力が低下し、製品を冷却する能力が不足する。なお、前記した波長における赤外線の積分放射率は0.7以上であることが望ましく、0.8以上であることがさらに望ましい。
【0060】
[第二皮膜の望ましい膜厚:15μm以下]
本発明において、第二皮膜6の膜厚は15μm以下であることが望ましい。第一皮膜3と比較すると第二皮膜6は外観に対する要求は厳しくないが、本発明のように優れた放熱性が求められる用途において、複数のロットにわたって安定した赤外線の積分放射率を確保するためには皮膜厚さは15μm以下にとどめておくことが望ましい。これにより放熱性に優れた皮膜を、1コートで経済的に形成することが可能となる。
【0061】
[その他]
第二皮膜6には、本発明の所望する効果を奏する範囲で、着色剤や、様々な機能を付与する添加剤を含有させることができる。
例えば、成形性を更に向上させるため、第一皮膜3で説明した様な潤滑剤を含有させることができる。また、電子機器等で要求されるアース確保を目的とした導電性を付与するため、第一皮膜3で説明した導電性微粒子を含有させることができる。それ以外に、酸化防止剤、防錆顔料、体質顔料などを、本発明の所望する効果を奏する限り、含有させることができる。
【0062】
以上、本発明の最良の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で変更することができる。
例えば、アルミニウム板2の表面に、下地処理により、下地処理皮膜(図示省略)を設けてもよい。
【0063】
<下地処理>
アルミニウム板2の表面は、第一皮膜3との密着性や第二皮膜6との密着性、および耐食性を高めるため、下地処理を施すことが望ましい。望ましい下地処理としては、Cr、ZrまたはTiを含有する従来公知の反応型下地処理皮膜および塗布型下地処理皮膜を利用することができる。即ち、リン酸クロメート皮膜、クロム酸クロメート皮膜、リン酸ジルコニウム皮膜、酸化ジルコニウム皮膜、リン酸チタン皮膜、塗布型クロメート皮膜、塗布型ジルコニウム皮膜等を適宜使用することができる。これらの皮膜に有機成分を組み合わせた有機無機ハイブリッド型の下地処理皮膜でもよい。なお、近年、環境対応の流れから六価クロムを嫌う傾向があり、六価クロムを含まないリン酸クロメート皮膜や、リン酸ジルコニウム皮膜、酸化ジルコニウム皮膜、リン酸チタン皮膜、塗布型ジルコニウム皮膜等を使用するのが望ましい。
【0064】
なお、本発明では下地処理皮膜の膜厚として、下地処理皮膜成分中に含まれるCr、ZrまたはTiのアルミニウム板2への付着量(金属Cr、金属Zrまたは金属Ti換算値)を、例えば、従来公知の蛍光X線法を用いて、比較的、簡便かつ定量的に測定することができるため、生産性を阻害することなく成形用プレコートアルミニウム板1の品質管理を行うことできる。なお、下地処理皮膜の付着量としては、金属Cr、金属Zrまたは金属Ti換算値で10〜50mg/m2であることが望ましい。付着量が10mg/m2未満では、アルミニウム板2の全面を均一に被覆することができず、第一皮膜3や第二皮膜6との密着性、および耐食性が低下する。また、50mg/m2を超えると、成形用プレコートアルミニウム板1を成形した際に、下地処理の皮膜自体に割れが生じやすくなる。
【0065】
また、生産性を考慮しない場合には、アルミニウム板2の表面に陽極酸化処理や電解エッチング処理等の従来公知の処理を行うこともできる。これらの処理を行うと、アルミニウム板2の表面に微細な凹凸が形成されるため、第一皮膜3との密着性や第二皮膜6との密着性が大きく向上する。
【0066】
さらに、耐食性をそれほど求めず簡易な方法で済ませたい場合には、アルミニウム板2の表面を脱脂処理のみ行う手法でもかまわない。脱脂の手法としては、有機系薬剤による脱脂、界面活性剤系薬剤による脱脂、アルカリ系薬剤での脱脂、酸系薬剤による脱脂等、従来公知の方法を用いることができる。但し、有機系薬剤や界面活性剤系薬剤の場合には、脱脂能力がやや劣るため、アルカリ系薬剤や酸系薬剤による脱脂の方が生産性はよくなる。アルカリ系薬剤の脱脂能力は、使用するアルカリの主成分、濃度、処理温度によってコントロールできるが、脱脂能力を強くした場合には、多くのスマットが発生するため、その後の水洗を十分に行わないと、かえって第一皮膜3や第二皮膜6の密着性が低下する場合もある。また、アルミニウム板2に、添加元素としてマグネシウムを多く含む品種を使用する場合には、アルカリ系薬剤では、マグネシウムが表面に残って第一皮膜3との密着性や第二皮膜6との密着性が低下する場合がある。そのため、この場合には、酸系薬剤を使用または併用することが望ましい。
【0067】
≪容器形状成形品≫
図2に示すように、本発明に係る容器形状成形品10は、本発明の成形用プレコートアルミニウム板1を使用し、第一皮膜3が容器形状成形品10の外面、第二皮膜6が容器形状成形品10の内面となるように成形されることを特徴とする。この様な構成にすれば、内面、外面とも絞り加工に追従する、優れた絞り加工性(成形性)を有するとともに、熱源に近い内面側では効率よく熱を吸収し、外面側では効率よく熱を放出できるため、容器としては優れた放熱性を有することになる。さらに製品外面として目視にさらされる外面側は明るく美しいメタリック外観を有し、可視光反射性にも優れた、LED電球のヒートシンクに最適な容器形状成形品が得られる。
【0068】
本発明に係る容器形状成形品10は、LED電球への適用を視野に入れた構成としているが、用途を特に制限しているわけではなく、成形性、放熱性に優れるため、電子機器を中心に多様な用途へ適用することができる。加工形状は用途に応じて円筒深絞り形状、角筒絞り形状だけでなく、曲げ加工による箱型筐体(図5(a)参照)としても良い。また容器は有底形状に限定されるわけではなく、穴空き形状でも良い。
【0069】
≪成形用プレコートアルミニウム板の製造方法≫
次に、成形用プレコートアルミニウム板1の製造方法の一例について、適宜、図1を参照して説明する。
成形用プレコートアルミニウム板1の製造方法としては、アルミニウム板2の一方側面に第一皮膜3を形成し、アルミニウム板2の他方側面に第二皮膜6を形成できればよく、特に制限されるものではない。
【0070】
第一皮膜3は、架橋ポリエステル樹脂4の元となるポリエステル樹脂、メラミン系硬化剤またはイソシアネート系硬化剤、およびメタリック顔料5を含む塗料を、従来公知の方法にてアルミニウム板2の一方側面上に塗布した後、加熱により架橋反応させることによって形成することができ、同様に第二皮膜6は、架橋ポリエステル樹脂7の元となるポリエステル樹脂、メラミン系硬化剤またはイソシアネート系硬化剤および添加剤8を含む塗料を、従来公知の方法にてアルミニウム板2の他方側面上に塗布した後、加熱により架橋反応させることによって形成することができる。
【0071】
塗料を塗布する順序は特に指定は無く、第一皮膜3用の塗料を一方側面に塗布後、第二皮膜6用の塗料を他方側面に塗布してもよく、第二皮膜6用の塗料を他方側面に塗布後、第一皮膜3用の塗料を一方側面に塗布してもよく、あるいは、第一皮膜3用の塗料、第二皮膜6用の塗料をそれぞれ、一方側面および他方側面に同時に塗布しても良い。また、架橋反応を進めるための加熱も、第一皮膜3用の塗料、第二皮膜6用の塗料をそれぞれ塗布した後に逐一加熱しても良いし、第一皮膜3用の塗料、第二皮膜6用の塗料を両方塗布した後、同時に加熱しても良い。なお、第一皮膜3、第二皮膜6のゲル分率を50%以上とするため、塗料を焼き付ける際の焼付温度を、150〜285℃程度とするのが望ましい。
【0072】
ここで、塗料の塗布は、はけ、ロールコータ、カーテンフローコータ、ローラーカーテンコータ、静電塗装機、ブレードコータ、ダイコータ等、いずれの手段で行ってもよいが、特に、塗布量が均一となるとともに、作業が簡便なロールコータを使用するのが望ましい。ロールコータで塗布する場合、第一皮膜3、第二皮膜6の膜厚の制御は、アルミニウム板2の搬送速度、ロールの回転方向と回転速度、ロール間の押し付け圧(ニップ圧)等を適宜調整することによって行うが、通常の場合、1回の塗布作業によって塗布できる第一皮膜3、第二皮膜6の厚さは、1〜20μmとなるのが一般的である。しかし、本発明における第一皮膜3および第二皮膜6は、それぞれ優れた外観や優れた放熱性が求められる。これらの特性を複数のロットにわたって安定して性能確保するためには、第一皮膜3、第二皮膜6の厚さは15μmを上限とするのが望ましい。
【実施例】
【0073】
次に、本発明の成形用プレコートアルミニウム板および容器形状成形品について、本発明の要件を満たす実施例と、本発明の要件を満たさない比較例と、を対比させて具体的に説明する。
【0074】
[第一実施例]
第一実施例では、成形用プレコートアルミニウム板について検討した。
成形用プレコートアルミニウム板の検討にあたり、素材として使用したアルミニウム板は、合金番号A1100−H24の板厚0.3mm材を使用した。これを弱アルカリ脱脂剤にてアルカリ脱脂した後、下地処理としてリン酸クロメート処理を施した。リン酸クロメート処理の条件はクロム付着量で20mg/m2とした。また、使用したアルミニウム板の機械的性質は、引張強さ130MPa、耐力120MPa、伸び8%であった。
【0075】
次に、リン酸クロメート処理を施したアルミニウム板に対し、まず一方側面に、表1中の第一皮膜用塗料欄に記載された成分の塗料をバーコーターで塗布した後、架橋反応が促進しない程度の100℃で60秒間仮乾燥を行い、次に他方側面に、表1中の第二皮膜用塗料欄に記載された成分の塗料をバーコーターで塗布した後、焼付温度を表1に示すように変更させて塗料を加熱することによって成形用プレコートアルミニウム板を製造し、No.1〜44に係る供試材とした。ここで、第一膜厚および第二膜厚が25μmとなるNo.40については1回の塗装で皮膜を形成するのが困難であるため、まず10μmバーコーターで塗装して焼付けした後、残りの15μmをバーコーターで塗装して再度焼き付けることを、一方側面、他方側面それぞれについて実施した。
【0076】
なお、No.41は、特許文献1に記載の導電性に特長のある供試材であり、皮膜構造の特徴としては、本発明で挙げるメタリック顔料が含まれておらず、シリカは含まれており、皮膜厚保さが非常に薄いことが挙げられる。No.42は、特許文献2に記載の光ディスクへのキズ防止性に特長のある供試材であり、皮膜の特徴としては、本発明で挙げるメタリック顔料が含まれておらず、架橋ウレタンビーズが含まれており、ベース皮膜がエポキシ系である点が挙げられる。No.43は、特許文献3に記載の絞り加工性に特長のある供試材であり、皮膜構造の特徴としては、本発明で挙げるメタリック顔料および添加剤を含まない点が挙げられる。No.44は、特許文献4に記載のフィルムをラミネートした供試材であり、その特徴としては、芳香族ナイロンをベース樹脂としたフィルムをラミネートした点が挙げられる。
なお、No.44は、特許文献4に記載の芳香族ナイロンをベース樹脂としたフィルムをラミネートした供試材であるため、皮膜形成方法は他の例の様に塗料をバーコーター塗装する方法ではなく、フィルムを貼り付ける方法とした。また、焼付温度の代わりにフィルムをアモルファス化させるための再加熱急冷処理の温度を表1に記載した。
【0077】
ここで、表1に示すベース樹脂欄に記載されたポリエステルメラミンは、ポリエステル系樹脂にメラミン系硬化剤を配合したもの、ポリエステルイソシアネートは、ポリエステル系樹脂にイソシアネート系硬化剤を配合したもの、エポキシウレアは、エポキシ系樹脂にウレア系硬化剤を配合したもの、エポキシフェノールは、エポキシ系樹脂にフェノール系硬化剤を配合したもの、エポキシアクリルは、分子内架橋型アクリル変性エポキシ樹脂を使用したものである。フィルムをラミネートした供試材であるNo.44は、使用したフィルムの成分である芳香族ナイロンをベース樹脂欄に記載した。また、表1に示すガラス転移温度は、前記の各樹脂におけるガラス転移温度であり、ベース樹脂の溶剤成分を乾燥させた後、示差走査熱量分析法(DSC法)によって測定したものである。
【0078】
また、表1に示す添加剤は、白色顔料としての酸化チタン、黒色顔料としてのカーボンブラック、無機微粒子としてのシリカとアルミナ、有機微粒子としての架橋アクリルビーズ、架橋ウレタンビーズ、アルミニウムペーストなどを必要に応じて使用した。
なお、メタリック顔料の含有率および添加剤の含有率は、それぞれの皮膜のベース樹脂とメタリック顔料または添加剤とを含めた乾燥樹脂皮膜の質量に占める割合(質量%)とした。
【0079】
(外観)
以上のようにして製造した供試材について、まずは第一皮膜の外観を目視で評価し、素材となるアルミニウムの圧延ロール目が見えない場合を良好(○)、圧延ロール目が見える隠蔽不足の場合を不良(×)と評価した。
【0080】
外観評価後、製造した供試材における必要物性を測定した。すなわち、第一皮膜、第二皮膜ともに、25℃における波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率、皮膜のゲル分率を測定した。
なお、25℃における波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率の測定方法、ゲル分率は以下のようにして測定して評価した。
【0081】
(波長が3乃至30μmにおける赤外線の積分放射率の放射率の測定)
波長が3乃至30μmにおける赤外線の積分放射率の放射率は、市販されている簡易放射率計(D and S社製D&S Model AE)を使用して25℃の温度条件下で測定した。なお、この簡易放射率計の測定波長領域は3乃至30μmとなっているため、表示される数値が本発明で定義している積分放射率となる。
第一皮膜および第二皮膜ともに、波長が3乃至30μmにおける赤外線の積分放射率の放射率(表2中において単に「赤外線放射率」と記載)が25℃の温度において0.6以上であるものを良好、0.6未満であるものを不良と評価した。
【0082】
(ゲル分率の測定)
ゲル分率は、第一皮膜と第二皮膜とを別々に測定する必要があるため、耐水研磨紙を使用して測定しようとする面の裏面に形成された皮膜を除去した。すなわち、第一皮膜を有する試験材は、耐水研磨紙で供試材の第二皮膜を研磨除去し、これを10cm×10cmに切り出して作製した。同様に、第二皮膜を有する試験材は、供試材の第一皮膜を研磨除去し、これを10cm×10cmに切り出して作製した。
作製した各試験材は、80℃にて60分間乾燥させた後、初期質量(a)を測定し、次に、沸騰させたMEK(メチルエチルケトン)中に試験材を60分間浸漬して未架橋成分を溶出させた後、150℃にて60分間乾燥させて皮膜中の残存MEKを乾燥し、抽出後質量(b)を測定した。最後に、発煙硝酸中にて皮膜を完全に溶解し、アルミニウム板だけの質量(c)を測定した。ここで、(a)−(c)がもともとのプレコート皮膜のみの質量であり、(b)−(c)が架橋している皮膜質量とみなせるため、次式で表せるゲル分率が、皮膜の架橋度を表すこととなる。
ゲル分率(%)=((b)−(c)/(a)−(c))×100
第一皮膜および第二皮膜ともに、ゲル分率が50%以上であるものを良好、50%未満のものを不良と評価した。
【0083】
また、前記した供試材について、成形性と、成形後の洗浄工程に対する耐久性(洗浄耐久性)について評価した。成形性と洗浄耐久性は、以下のようにして評価した。
【0084】
(成形性)
図3に示す工程により、供試材の成形性を調べた。
まず、円筒ブランク打ち抜きの後、絞り加工を行った。次に、再絞り加工にて、12mmφ×15mmLの円筒絞り成形品(中間成形品)を得た。さらに、中間成形品に、円筒側壁部の板厚減少率が20%となるようにしごきを加え、トリミングをして最終10mmφ×20mmLの円筒容器形状に加工し、最終成形品を得た。ここまでの工程で、第一皮膜が円筒容器形状の外面、第二皮膜が内面となる様に表裏面を設定した。この時点で得られた最終成形品での皮膜状態を評価した結果を、表2中の成形性とした。なお、プレス油には脂肪酸エステルと界面活性剤を主成分とする水系エマルジョンワックスを使用した。また、加工は室温(35℃)のみにて行った。
皮膜状態の評価は、成形性については、皮膜剥離などの異状が無い場合を良好(○)、剥離が生じた場合を不良(×)と評価した。この様な判定を最終成形品外面にあたる第一皮膜と、最終成形品内面にあたる第二皮膜それぞれについて実施した。
【0085】
(洗浄耐久性)
塩素系洗浄剤としてトリクレンを使用し、これを1リットル沸騰させた。各供試材について20個の前記最終成形品を作製し、沸騰トリクレン中に10分間浸漬した後、取り出して外観を確認した。各供試材について作製した20個の最終成形品について、皮膜の溶解、皮膜の剥離、皮膜の変色、皮膜のキズ、皮膜同士のくっつき等の表面異常が0個である場合を洗浄耐久性が良好(○)、表面異常が1個でもある場合を洗浄耐久性が不良(×)と評価した。
【0086】
表1に、第一皮膜用塗料の条件(ベース樹脂の樹脂系とガラス転移温度(℃)およびメタリック顔料の種類と含有率(質量%))および第二皮膜用塗料の条件(ベース樹脂の樹脂系とガラス転移温度(℃)および添加剤の種類と含有率(質量%))、焼付温度(℃)、第一皮膜の乾燥膜厚(μm)、および第二皮膜の乾燥膜厚(μm)を示す。
また、表2に、第一皮膜特性(外観、ゲル分率(%)、赤外線放射率)、第二皮膜特性(ゲル分率(%)、赤外線放射率)、第一皮膜の性能(成形性、洗浄耐久性)、第二皮膜の性能(成形性、洗浄耐久性)を示す。
なお、表1および表2中における下線部は、本発明の要件または効果を有さないことを示す。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
表1および表2に示すように、供試材No.1(以下、単にNo.1などという。)およびNo.41〜44は、第一皮膜に必須成分であるメタリック顔料を含まない比較例であるが、赤外線放射率が本発明の要件を満たさなかった。また、メタリック顔料を含有しないため、圧延ロール目が見える結果となり、第一皮膜の外観が隠蔽不足となった。なおフィルムラミネート材の比較例であるNo.44は、ゲル分率の測定において皮膜が溶解せずに剥離した。
【0090】
No.2、No.7、No.8は、第一皮膜の赤外線放射率が本発明の要件を満たさない比較例である。これらは第一皮膜の隠蔽力も不足しており、圧延ロール目が透けて見える外観となった。
【0091】
No.10は、第一皮膜のベース樹脂のガラス転移温度が本発明の要件を満たさない比較例であるが、洗浄耐久性試験で第一皮膜に、成形品同士が接触したキズが生じた。
【0092】
No.15は、第一皮膜、第二皮膜のゲル分率が本発明の要件を満たさない比較例であるが、洗浄耐久性試験で第一皮膜、第二皮膜の両方とも溶解した。
【0093】
No.19〜21は、第一皮膜のベース樹脂の種類が本発明の要件を満たさない比較例であるが、成形性試験にて第一皮膜に剥離が生じた。
【0094】
No.43およびNo.44は、第二皮膜そのものが無い比較例であるが、第二皮膜の赤外線放射率が本発明の要件を満たさなかった。
【0095】
No.22は、第二皮膜に必須成分である添加剤を含まない比較例であるが、赤外線放射率が本発明の要件を満たさない結果となった。
【0096】
No.23およびNo.41は、第二皮膜の赤外線放射率が本発明の要件を満たさない比較例である。
【0097】
No.35は、第二皮膜のベース樹脂のガラス転移温度が本発明の要件を満たさない比較例であるが、成形性試験にて第二皮膜に剥離が生じた。
【0098】
No.36〜38およびNo.42は、第二皮膜のベース樹脂の種類が本発明の要件を満たさない比較例であるが、成形性試験にて第二皮膜の剥離が生じた。
【0099】
前記以外の供試材は、本発明の要件を満足する実施例であるが、すべての結果において良好であった。ただし、本発明の構成要件はすべて満たすが、No.40については第一皮膜、第二皮膜ともに1回の塗装で皮膜形成することが困難であったため、生産性およびコストを考慮すると皮膜厚さは15μm以下であることが望ましい。
【0100】
[第二実施例]
第二実施例では、容器形状成形品について検討した。
容器形状成形品の検討にあたって図4に示す温度実測用の模擬LED電球20を作製した。模擬LED電球20は次のようにして作製した。
【0101】
まず、市販されている4.1WのLED電球を購入して解体し、LED11が点灯する状態でLED11、LED基板12および回路13一式をとりだした。これを、本発明の要件を満たす赤外線放射率を有する第一皮膜および第二皮膜を成形して作製した円筒容器10に、LED11が外、回路13が中になる様にはめ込んで固定し、温度実測用の模擬LED電球20を作製した。
【0102】
ここで、円筒容器10は、弱アルカリ脱脂後リン酸クロメート処理を施した、板厚1mmのA1100−Oに、第一皮膜と第二皮膜を第一実施例と同様な方法により設けたNo.45〜No.57に係る成形用プレコートアルミニウム板を使用して作製した。ここで、焼付温度は260℃とした。なお、円筒容器10は、No.45〜No.57のそれぞれについて、第一皮膜が外面、第二皮膜が内面となる様に円筒深絞り加工を施し、直径55mmφ、長さ55mmLとなるようにした。
円筒容器の天面部14には、直径10mmφの穴部15をあけて電源コード16を通したのち、シール剤にて埋めて穴部15を密閉した。また、LED基板12を直径53mmφのアルミニウム製の固定板17に貼り付けて、これをLED11の回路13が円筒容器10内に収まるようにして(つまり、LED11が外側を向くようにして)円筒容器10の開口部18にはめ込んで開口部18を固定した。
【0103】
温度測定は、4個あるLED11のうちの1個の表面に熱電対19の先端部を接触させた状態にて電球を点灯させ、温度変化を観察し、最高到達温度T1を測定した。なお、熱電対19の先端部が温度測定部位となっており、これにより温度を測定することができる。
比較材として第一皮膜、第二皮膜をともに有していないアルミニウム素板を使用した円筒容器(No.45)を用い、これを用いた場合の比較材温度測定値T0とした。そして、ΔT(ΔT=T1−T0)を冷却効果と定義した。冷却効果ΔTの値が小さいほど(すなわち、ΔTが負の値の場合は絶対値が大きいほど)、供試材の放熱性が優れていると評価することができる。第二実施例においては、ΔTが−5℃以下の場合を良好、ΔTが−5℃よりも高い場合を不良と評価した。
実験に用いた第一皮膜および第二皮膜の構成と赤外線放射率、LEDの到達温度T1(℃)および冷却効果ΔT(℃)を表3に示す。
なお、表3中における下線部は、本発明の要件または効果を有さないことを示す。
【0104】
【表3】

【0105】
なお、No.45、No.46、No.50は、第一皮膜および第二皮膜のうちの少なくとも一方が形成されていないものであるが、便宜上、外面の赤外線放射率を表3中の第一皮膜の赤外線放射率の欄に記載し、内面の赤外線放射率を表3中の第二皮膜の赤外線放射率の欄に記載した。
【0106】
表3に示すように、No.49およびNo.52〜No.57は、本発明の実施例である。これらの実施例は、冷却効果ΔTが−5℃以下の温度となり、良好な効果が得られることを確認した。
一方、No.46は、第一皮膜が無い比較例であり、No.47とNo.48は、第一皮膜の赤外線放射率が本発明の要件を満たさない比較例であり、No.50は、第二皮膜が無い比較例であり、No.51は、第二皮膜の赤外線放射率が本発明の要件を満たさない比較例である。これら、第一皮膜または第二皮膜のどちらか一方の赤外線放射率が本発明の要件を満たさない場合は、冷却効果ΔTが−5℃よりも高い温度となり、効果が不十分であった。
【0107】
このように、本発明の要件を満たすようにすれば、成形性、外観性状、洗浄耐久性、赤外線放射率(放熱性)に優れた成形用プレコートアルミニウム板および容器形状成形品となることがわかる。
【0108】
以上、本発明に係る成形用プレコートアルミニウム板および容器形状成形品について発明を実施するための形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されることなく、その技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈しなければならない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて改変・変更等することができることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0109】
1 成形用プレコートアルミニウム板
2 アルミニウム板
3 第一皮膜
4 架橋ポリエステル樹脂
5 メタリック顔料
6 第二皮膜
7 架橋ポリエステル樹脂
8 添加剤
10 容器形状成形品


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板と、前記アルミニウム板の一方側面に形成された第一皮膜と、前記アルミニウム板の他方側面に形成された第二皮膜とを備える成形用プレコートアルミニウム板であって、
前記第一皮膜は、ガラス転移温度が25乃至100℃のポリエステル樹脂をメラミン系硬化剤またはイソシアネート系硬化剤にて架橋反応させた架橋ポリエステル樹脂と、メタリック顔料とを含み、波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率が25℃の温度において0.6以上であり、ゲル分率が50%以上を満たし、
前記第二皮膜は、ガラス転移温度が0乃至80℃のポリエステル樹脂をメラミン系硬化剤またはイソシアネート系硬化剤にて架橋反応させた架橋ポリエステル樹脂と、添加剤とを含み、波長が3乃至30μmの赤外線の積分放射率が25℃の温度において0.6以上、ゲル分率が50%以上を満たす
ことを特徴とする成形用プレコートアルミニウム板。
【請求項2】
前記第一皮膜は、前記メタリック顔料がアルミニウムペーストであり、このアルミニウムペーストの含有率が3乃至30質量%であることを特徴とする請求項1に記載の成形用プレコートアルミニウム板。
【請求項3】
前記第一皮膜は、前記アルミニウムペーストの含有率が5乃至20質量%であり、膜厚が15μm以下であることを特徴とする請求項2に記載の成形用プレコートアルミニウム板。
【請求項4】
前記第二皮膜は、前記添加剤が、カーボンブラック、グラファイト、酸化チタン、シリカ、アルミナ、樹脂ビーズ、アルミニウムペーストから選ばれた少なくとも1種類以上を含み、その含有率が5乃至70質量%であり、膜厚が15μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の成形用プレコートアルミニウム板。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の成形用プレコートアルミニウム板が用いられ、前記第一皮膜が外面、前記第二皮膜が内面となる様に成形された容器形状成形品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−213021(P2011−213021A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84643(P2010−84643)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】