説明

成形用型からの成形品取り出し方法

【課題】 成形された光学素子(成形品)を吸着させて成形用型から取り出す際に、吸着ハンドに振動を与えることにより、型部材の内側面と光学素子との接触(密着)面との引掛かりを無くし、前記光学素子(成形品)を、確実・容易に取り出す方法を提供する。
【解決手段】 成形用型の開放時に、吸着具を設けた移送ハンドを用いて、キャビティから成形品を吸着・搬出する、成形品取り出し方法において、成形品に吸着した前記吸着具に対して、低周波の振動を与えて、前記キャビティの、成形品の抜き方向に沿う壁面と成形品との密着状態を解除すると共に、前記吸着具の成形品抜き方向の誤差を、前記振動によって吸収することで、成形品の抜き出し動作を確保すること特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば、上下分割型の成形用型で、プリズムなどの高精度な多面体光学素子をプレス成形する場合に、プレス成形の後に、成形された光学素子(成形品)を、吸引作用により吸着し、搬出する際に用いる、成形用型からの成形品取り出し方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、研削、研磨による光学素子の加工方法に代わり、加熱軟化させたガラス素材を、成形用型内で直接プレス成形する方法が注目されている。通常、この種の成形には、胴型内で、上下型部材により、前記ガラス素材に形成し、その後、冷却を行い、前記型部材を分解したり、場合によっては、上下型部材のどちらかを、形成された光学素子より引き離し、その後、前記光学素子を取り出す方法が用いられている。
【0003】この種の取り出し方法として、特開昭63−297229号公報には、金型冷却機構を備えた真空チャックが、下型部材の上方に進入して、該下型部材を冷却し、ベローズを介して、真空チャックのホルダーに取り付けられた吸着盤を、成形品に接触させ、真空吸引により、成形品を取り出す形式のものが開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、プリズムのような多面体成形を必要とするような成形において、成形後、転移温度以下の光学素子(成形品)は、図2R>2に示すように、その側面が、非常に小さい抜き勾配(例えば、1°)で、型部材の内壁面に密着した状態になっている。また、図6に示すような形状の場合、抜き勾配を側面の型に形成するのは非常に困難である。それ故、従来の取り出し方法では、成形後の光学素子を吸着盤で吸着し、取り出す際に、抜き型方向の精度を良くして引き上げないと、型部材の内側面に光学素子が引掛かり、吸着盤から、光学素子が外れてしまい、吸着ミスになり易いという問題があった。
【0005】本発明は、上記事情に基づいてなされたもので、成形された光学素子(成形品)を吸着させて成形用型から取り出す際に、吸着ハンドに振動を与えることにより、型部材の内側面と光学素子との接触(密着)面との引掛かりを無くし、前記光学素子(成形品)を、確実・容易に取り出す方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】このため、本発明では、成形用型の開放時に、吸着具を設けた移送ハンドを用いて、キャビティから成形品を吸着・搬出する、成形品取り出し方法において、成形品に吸着した前記吸着具に対して、低周波の振動を与えて、前記キャビティの、成形品の抜き方向に沿う壁面と成形品との密着状態を解除すると共に、前記吸着具の成形品抜き方向の誤差を、前記振動によって吸収することで、成形品の抜き出し動作を確保すること特徴とする。
【0007】この場合、本発明の実施の形態として、前記振動の方向成分が、成形品抜き方向に対して水平および垂直方向の両成分を含んでいること、特に、前記振動の振幅が0.1mm〜0.5mmであること、また、前記成形品は、前記キャビティからの抜き勾配が0.1°〜5°であること、更に、要すれば、前記吸着具に対する前記振動は、前記キャビティへのプレフォームの装填時にも付与されることが、それぞれ、有効である。
【0008】
【発明の実施の形態】(第1の実施の形態)次に、本発明に係わる第1の実施の形態について、図面を参照して、具体的に説明する。図1、図2は、本発明の方法で採用する吸着ヘッドの要部を示す一部断面図、図4〜図7R>7は取り出し手順を示す説明図である。ここで、符号2はハンド先端に取り付けられたベースブロックであり、3はベースブロック2に取り付けられた吸着部(吸着盤)を有した吸着ノズルであり、4はこのノズル3を上下方向に往復動作させる駆動源である。そして、本発明では、特に、ベースブロック2を振動させる振動発生装置1が、そのベースブロック2に取り付けられている。
【0009】ここでは、プレス成形後、成形用型(胴型(図示せず)内にある上下型部材7、8からなる)を開放し、上型部材7を引き上げ、まず、左右移動のための駆動源(図示せず)により、胴型の側面開口(図示せず)から、吸着ノズル3を光学素子(成形品)G’上に移動させ、また、真空源(図示せず)からの吸引力を吸着ノズル3の先端(吸着部)に与えた状態で、駆動源4の駆動で、吸着ノズル3を降下させ、その吸着部に、成形後、転移温度以下の光学素子G’を吸着させる。
【0010】次に、振動発生装置1の働きで、ベースブロック2、吸着ノズル3が、数十〜数ヘルツの低周波振動(振幅約0.1mm〜0.5mm)を受ける。この際、前記振動の方向成分は、成形品抜き方向に対して、水平および垂直方向の両成分を含んでいる。これにより、下型部材8のキャビティの、光学素子G’の抜き方向に沿う内壁面と光学素子G’との密着状態を解除する。なお、前記振動は、吸引力との関係で、光学素子G’が吸着ノズルから外れない程度とする。
【0011】上述の振動を与えつつ、駆動源4の反対方向の駆動により吸着ノズル3を上昇させ、光学素子G’を下型部材8より取り出す。この時、吸着ノズル3の成形品抜き方向の誤差(これは、駆動源4の動作方向と、成形用型、特に、下型部材の抜き型方向とのセッティング誤差)を、前記振動によって吸収するので、光学素子と成形用型との引掛かりを回避することができ、確実・容易に光学素子G’を取り出すことができる。
【0012】なお、この実施の形態では、下型部材8から光学素子G’を取り出す際に、振動発生装置1を駆動したが、成形品に近似したガラスゴブ(ガラスプレフォーム)Gを下型部材8のキャビティに装填する際にも、ガラスゴブGを吸着ノズル3で吸着・保持した状態で、振動を与えるように、駆動してもよい(図4および図5を参照)。
【0013】ここでのガラスゴブは、例えば、その素材として、転移温度が500℃以下のSK12などを採用するとよい。また、ガラスゴブG自体も、最終成形品にかなり高い精度で近似する形態に成形されていることが好ましく、そのために、事前にプレス成形されるが、この際にも、上述の振動発生装置付きの吸着装置を用いると良い。
【0014】(第2の実施の形態)図3は、本発明に係わる第2の実施の形態における吸着ヘッド3の要部を示す断面図である。ここでの吸着ヘッド3は、第1の実施の形態における吸着ノズルの吸着部に、ポリイミド樹脂のような耐熱樹脂製の吸着先端部5を、変形可能なゴムのような弾性体のコネクタ6を介して、連結した構成になっている。その他の構成および使用態様は、第1の実施の形態と同じである。
【0015】この実施の形態では、吸着ヘッド3に振動を与えた際でも、弾性体のコネクタ6が変形するので、与える振動の振幅が安定していなくても、吸着先端部が光学素子表面に密着・保持できるため、吸着ヘッド3から光学素子(成形品)が外れることが、より回避できる。
【0016】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の取り出し方法によれば、その吸着具(ハンド)に振動を与えることで、抜き勾配の少ない、成形用型を用いて、プリズムのような、鉛直な側面を有する多面体の光学素子(成形品)のプレス成形において、吸着ミスを起こすことなく、しかも、安定して、成形後の光学素子を確実・容易に取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる第1の実施の形態における、光学素子取り出し方法に適用される吸着ハンドの要部の一部断面図である。
【図2】同じく、使用態様を示す要部の一部断面図である。
【図3】本発明に係わる第2の実施の形態における、光学素子取り出し方法に適用される吸着ハンドの要部の一部断面図である。
【図4】本発明の吸着具の使用態様を順次説明するための最初のステップを示す斜視図である。
【図5】同じく、第2のステップを示す斜視図である。
【図6】同じく、第3のステップ(プレス成形)を示す斜視図である。
【図7】同じく、第4のステップ(取り出し)を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 振動発生装置
2 ベースブロック
3 吸着ノズル
4 駆動源
5 吸着先端部(吸着盤)
6 コネクタ
7 上型部材
8 下型部材
G ガラスゴブ(ガラスプレフォーム)
G’ 光学素子(成形品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 成形用型の開放時に、吸着具を設けた移送ハンドを用いて、キャビティから成形品を吸着・搬出する、成形品取り出し方法において、成形品に吸着した前記吸着具に対して、低周波の振動を与えて、前記キャビティの、成形品の抜き方向に沿う壁面と成形品との密着状態を解除すると共に、前記吸着具の成形品抜き方向の誤差を、前記振動によって吸収することで、成形品の抜き出し動作を確保すること特徴とする、成形用型からの成形品取り出し方法。
【請求項2】 前記振動の方向成分が、成形品抜き方向に対して水平および垂直方向の両成分を含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の成形用型からの成形品取り出し方法。
【請求項3】 前記成形品は、前記キャビティからの抜き勾配が0.1°〜5°であり、前記振動の振幅が0.1mm〜0.5mmであることを特徴とする、請求項1あるいは2に記載の成形用型からの成形品取り出し方法。
【請求項4】 前記吸着具に対する前記振動は、前記キャビティへのプレフォームの装填時にも付与されることを特徴とする、請求項1ないし3の何れか1項に記載の成形用型からの成形品取り出し方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2002−160928(P2002−160928A)
【公開日】平成14年6月4日(2002.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−359570(P2000−359570)
【出願日】平成12年11月27日(2000.11.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】