説明

成形用織編物及びこれを用いてなるフィルター

【課題】目ずれが発生し難いと共に寸法安定性及び耐久性などに優れ、成型製品に好適に使用しうる成型用織編物と、この成型用織編物を用いてなるフィルターとを提供する。
【解決手段】経緯方向の少なくとも一方で初期目ずれ応力が8〜20N/mmである成型用織編物。アルキレンテレフタレート単位を主体とする融点220℃以上のポリエステルAを芯部に、融点がポリエステルAより30℃以上低いポリエステルBを鞘部に配した芯鞘型複合繊維から構成される糸条を用いてなる成型用織編物が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初期目ずれ応力が高く成形製品に好適な成形用織編物、並びにこの成形用織編物を用いたフィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
低融点のポリマーを鞘部に配し熱処理することで当該鞘部を溶融させうる複合繊維がこれまでに多数提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、芯成分としてポリエチレンテレフタレート(PET)を、鞘成分としてテレフタル酸成分及びイソフタル酸成分を共重合したPET系共重合体を配したポリエステル系熱接着性複合繊維を用いてなる織物が開示されている。また、特許文献2には、高融点モノフィラメントと低融点モノフィラメントとが組み合わされ、かつ低融点モノフィラメントの表面が露出している融着糸を用いて熱融着させた織物が開示されている。
【特許文献1】特許第3459952号公報
【特許文献2】特開2004−149964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の織物は、いずれもフィルターやインテリア製品などの成形製品の基布として使用しうるものであるが、いくつかの問題点が存する。
【0005】
すなわち、特許文献1記載の繊維においては、PET系共重合体が非晶性であって明確な結晶融点を示さないため、ガラス転移点以上の温度で軟化が始まる。したがって、鞘成分を溶融させる目的で織物を熱処理すると、繊維が収縮し、得られる製品の至る箇所で目ずれが発生するという問題がある。例えば、得られる製品をフィルターとして高温雰囲気下で使用すると、接着強力が低下するのに伴い目ずれが発生し、ときには変形する場合さえある。
【0006】
また、特許文献2記載の融着糸は、芯鞘繊維などの高価な繊維を使用することなく、効果的に布帛の目崩れを防止することを目的とするものである。しかしながら、この融着糸を使用して、成形製品を作製する場合、上記発明同様に目ずれが発生するという問題がある。また、得られる布帛に一定以上の寸法安定性や耐久性などを具備させるには、布帛の厚みや目付けを増やさなければならず、例えば、ティーパック、コーヒーフィルター、茶こしといった飲料用フィルターを作製した場合、厚みが増えすぎてしまい実用にそぐわないという問題が生ずる。
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであり、目ずれが発生し難いと共に寸法安定性及び耐久性などに優れ、成形製品に好適に使用しうる成形用織編物と、この成形用織編物を用いてなるフィルターとを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために検討した結果、本発明に達した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)経緯方向の少なくとも一方で初期目ずれ応力が8.0〜20.0N/mmであることを特徴とする成形用織編物。
(2)アルキレンテレフタレート単位を主体とする融点220℃以上のポリエステルAを芯部に、融点がポリエステルAより30℃以上低いポリエステルBを鞘部に配した芯鞘型複合繊維から構成される糸条を用いてなることを特徴とする上記(1)記載の成形用織編物。
(3)ポリエステルBが、テレフタル酸成分、エチレングリコール成分を含有し、1,4−ブタンジオール成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分の少なくとも一成分を共重合した共重合ポリエステルである上記(2)記載の成形用織編物。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の成形用織編物を用いてなるフィルター。
【発明の効果】
【0010】
本発明の成形用織編物は、所定の初期目ずれ応力を有しているため、組織点での目ずれが生じ難い。また、本発明の成形用織編物は優れた寸法安定性及び耐久性などを有する。
【0011】
したがって、本発明の成形用織編物は、成形用の織編物として好適であり、中でもフィルターに最も適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の成形用織編物は、各種の成形製品に適用できるものである。成形製品としては、例えば、ティーパック、コーヒーフィルター、茶こしなどの飲料用フィルター、掃除機、エアコン、空気清浄機などに取り付けられる家電用フィルター、衣服、芯地などの衣料製品、クッション、カーテンなどのインテリア製品及び建築資材、土木資材、基板などの産業資材といったものがあげられるが、本発明の成形用織編物の用途は、これらに限定されるものでなく、広く成形製品全般に適用できるものである。
【0014】
本発明の成形用織編物は、組織点での目ずれが生じ難い。具体的には、JIS L1096 8.21.3(ピン引掛け法)を準用して測定される初期目ずれ応力が、経緯方向の少なくとも一方で8.0〜20.0N/mmであることが必要であり、経緯両方向で当該範囲を満足することが好ましい。ここで、初期目ずれ応力とは、試料に金属製ピンを差し込み、織物引張試験機に取り付けた後、抵抗力20.0N時の伸び(ON)を求め、下記(1)式にて算出するものである。初期目ずれ応力は、織編物の経緯方向について測定されるものである。
【0015】
【数1】

【0016】
初期目ずれ応力が8.0N/mm未満になると、成形製品としての使用に耐えられない。例えば、織編物を上記の家電用フィルターに適用した場合、一般には、定期的にフィルターを掃除するが、その際ブラシなどで織編物の表面を擦ると、組織点で目ずれが生じてしまう。一方、20.0N/mmを超えると、成形製品の可撓性が低減し用途が限られてしまう。
【0017】
本発明において、初期目ずれ応力を所定の範囲とすることは、織編物の組織点において接着強力を高めることにより可能である。組織点とは、織編物において糸条を交錯させる部位を指し、織物では経緯糸を交錯させる部位、編物ではループを交錯させる部位を指す。このような場合、例えば、低融点の合成繊維から構成される糸条を用いてなる織編物を熱処理することにより、組織点における接着強力を高めることができる。このときの熱処理温度としては、当該合成繊維を溶融させうる程度が好ましく、これにより、繊維間を融着させ組織点における接着強力を高めることができる。
【0018】
具体的に、上記の合成繊維を構成するポリマーとしては、繊維間を融着させうるものであればどのようなものでも採用できるが、織編物の耐久性や生産コストを考慮してポリエステルが好ましく採用できる。また、使用するポリマーは単独でもよいが、溶融したポリマーは一般的に剛直なものであり、繰り返しの曲げに対して繊維間の融着が外れ易い傾向にあるところ、かかる剛直性を緩和する観点から、融着に寄与しやすいポリマーだけを用いるのではなく、融着に寄与し難いポリマーも同時に使用することが好ましい。この場合、繊維中における各ポリマーの配置としては、特に限定されるものでないが、好ましくは、融着に寄与しやすいポリマーをできるだけ繊維断面の外側部分に配置させる。
【0019】
以上の点を考慮し、本発明に用いうる合成繊維として、高融点のポリエステル(ポリエステルA)を芯部に、低融点のポリエステル(ポリエステルB)を鞘部に配した芯鞘型複合繊維を採用することが好ましい。
【0020】
ここで、ポリエステルAを形成するポリエステルとしては、実質的に融着に寄与しない高融点のポリエステルであればどのようなものでも使用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)及びポリトリメチレンテレフタレート(PTT)などのポリアルキレンテレフタレートを主体とするポリエステルがあげられ、これらを単独、又は混合、あるいは共重合して用いることができる。
【0021】
また、ポリエステルAには、本発明の効果を損なわない範囲であれば、共重合成分として、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、ナフタレンギカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン2酸、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトン、リン酸などの酸成分、グリセリン、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリメチルプロパン、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、2,2−ビス{4−(β−ヒドロキシ)フェニル}プロパンのエチレンオキシド付加体などを共重合させてもよい。さらに、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ポリエステルA中に酸化防止剤、艶消し剤、着色剤、滑剤、結晶核剤などの添加剤を含有させてもよい。
【0022】
そして、ポリエステルAの融点としては、220℃以上が好ましく、220〜280℃がより好ましい。ポリエステルAの融点が220℃未満になると、芯鞘型複合繊維から構成される糸条の乾熱処理後の強度保持率が低くなる傾向にあり、また安定して紡糸することが困難になる場合もあり、好ましくない。加えて、織編物を得た後、高温下で使用すると、寸法安定性が低下する傾向にもあり、好ましくない。
【0023】
一方、ポリエステルBを形成するポリエステルとしては、実質的に融着に寄与しうる低融点のポリエステルであればどのようなものでも使用できる。例えば、テレフタル酸成分、エチレングリコール成分を含有し、1,4−ブタンジオール成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分の少なくとも一成分を共重合した共重合ポリエステルがあげられる。特にテレフタル酸成分、脂肪族ラクトン成分、エチレングリコール成分及び1,4−ブタンジオール成分からなる共重合ポリエステルは、比較的結晶化速度が速く、紡糸時や熱接着加工後の冷却の点からも好ましい。なお、脂肪族ラクトン成分としては、炭素数4〜11のラクトンが好ましく、特に好ましいラクトンとしては、ε−カプロラクトン(ε−CL)があげられる。
【0024】
また、ポリエステルB中にもその効果を損なわない範囲であれば、酸化防止剤、艶消し剤、着色剤、滑剤、結晶核剤などの添加剤を含有させてもよい。
【0025】
さらに、ポリエステルBは、結晶性を有していることが好ましい。これにより、繊維製造工程において繊維を十分に熱処理することができ、糸条の乾熱処理後の強度保持率や収縮率を所望の範囲にすることができる。
【0026】
ポリエステルBの融点としては、ポリエステルAより30℃以上低いことが好ましい。ポリエステルAとの融点の差が30℃未満であると、ポリエステルBを溶融させる際、熱処理温度を高温に設定せざるを得ない場合があり、その結果、芯鞘型複合繊維を劣化させてしまうことがあるため好ましくない。なお、ポリエステルBの具体的な融点としては130℃〜200℃が、ガラス転移点としては20〜80℃が、結晶開始温度としては90〜130℃がそれぞれ好ましい。
【0027】
また、上記芯鞘型複合繊維における芯部と鞘部との質量比率(芯:鞘)としては、40:60〜80:20が好ましい。芯部の比率が最終的に得られる織編物の耐久性に大きく影響するため、上記の範囲が好ましく、特に50:50〜80:20が好ましい。芯部の比率が40%未満になると、糸条の乾熱処理後の強度保持率が低いものとなる傾向にあり、一方、80%を超えると、溶融成分たるポリエステルBの絶対量が不足するため、織編物の組織点において繊維間を十分に接着できない傾向にあり、いずれも好ましくない。
【0028】
そして、上記芯鞘型複合繊維の単糸繊度としては、特に限定されるものでないが、1.1〜56.0dtexが好ましい。
【0029】
さらに、上記芯鞘型複合繊維の形状としては、長・短繊維のいずれでもよく、また、断面形状としても、特に限定されるものでなく、通常の丸断面の他、三角断面形状などの多角形断面形状、又は断面の最外周の一部が突起を形成しているような異形断面形状のものでもよい。
【0030】
本発明においては、このように芯鞘型複合繊維が好ましく採用できるが、具体的な使用態様としては、当該芯鞘型複合繊維をモノフィラメント糸として直接的に用いてもよく、紡績糸やマルチフィラメント糸のように繊維を複数本束ねた状態にしてから用いてもよい。そして、糸条の形状としても、特に限定されるものでなく、例えば、フラット糸、撚糸、混繊糸、仮撚糸などの形態の他、長・短繊維を複合させた糸条などが採用できる。
【0031】
また、上記糸条の物性としては、乾熱処理後の強度保持率として60.0%以上が好ましく、70.0%以上がより好ましい。乾熱処理後の強度保持率が60.0%未満になると、成形用織編物の強度も必然的に劣ることとなり、ひいては織編物の耐久性も低下するので、好ましくない。例えば、飲料用フィルターへ適用した場合、破れ、裂け、破裂などの原因となり、また、家電用フィルターへ適用した場合、繰り返して使用するうちに破裂、綻び、擦り切れなどが発生する傾向にある。
【0032】
ここで、乾熱処理とは、温度をポリエステルBの融点より10℃高い温度にて、無荷重で15分間乾熱処理することをいう。また、乾熱処理後の強度保持率とは、JIS L1013 8.5.1に準じて、定速伸長形の試験機を用いて、つかみ間隔25cmで乾熱処理前後の糸条の強度を測定した後、下記(2)式にて算出するものである。
【0033】
【数2】

【0034】
さらに、上記の糸条においては、収縮率として20.0%以下が好ましく、15.0%以下がより好ましい。収縮率が20.0%を超えると、成形用織編物から構成される成形製品の寸法安定性が低下する傾向にあるばかりでなく熱処理により繊維径が増加し、薄いフィルターなどの成形製品を得難くなる傾向にあり、好ましくない。
【0035】
ここで、収縮率とは、前述した乾熱処理の前後で糸長を測定し、下記(3)式にて算出するものである。なお、糸長は、0.049cN/dtexの荷重を掛けた状態で測定するものとする。
【0036】
【数3】

【0037】
本発明の成形用織編物においては、このように上記糸条が好ましく採用できるが、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記糸条中に芯鞘型複合繊維以外の繊維を含ませてもよい。ここで、芯鞘型複合繊維以外の繊維としては、例えば、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、綿、羊毛、レーヨン、アセテートなどがあげられ、混繊、交絡、合撚、引き揃えなどの手段を採用して含ませることができる。なお、芯鞘型複合繊維以外の繊維を糸条中ではなく、例えば糸条間又は成形用織編物表面に付着させるなどして成形用織編物中に含ませてもよいことは指摘するまでもない。
【0038】
次に、本発明の成形用織編物を製造する方法について説明する。
【0039】
本発明の成形用織編物では、経緯方向の少なくとも一方で初期目ずれ応力が所定の範囲を満足し、かつ成形製品に好適でありさえすれば、どのような組成、構成を有する繊維及び糸条を用いてもよいし、織編物の構造もどのような態様であっても何ら差し支えない。ただ、成形用としてより広い範囲の製品に適用したい場合や織編物の各種物性をより優れたものにしたい場合は、上記の糸条を使用して織編物を得るのが好ましいことは、前述のとおりである。
【0040】
本発明において好ましく用いられる芯鞘型複合繊維は、一般的に複合紡糸装置を用いて製造することができる。具体的には、引取速度1000〜4500m/分で溶融紡糸した後、延伸して得ることができる。この場合、延伸倍率として、1.5〜2.0倍が好ましく、延伸時の熱処理温度として、130〜170℃が好ましい。
【0041】
引取速度については、繊維の生産効率の観点から1000m/分以上が好ましく、糸切れ抑制の観点から4500m/分以下が好ましい。延伸については、紡糸した繊維を一旦捲き取った後に延伸機に供給するか、あるいは、紡糸に引き続き、延伸ローラを介して直接延伸してから捲き取ることもできる。
【0042】
芯鞘型複合繊維を得た後は、この繊維を用いて糸条を作製する。糸条の形状としては前述のように任意でよく、装置、製造条件としては、公知技術を準用する。なお、糸条として長繊維からなるフラット糸を作製する場合は、繊維を作製と同時に糸条も作製するのが一般的であり、このフラット糸を原料とする撚糸、混繊糸、仮撚糸などは、一般にフラット糸に所定の加工を行うことで得ることができる。
【0043】
糸条を得た後は、この糸条を用いて生機を作製する。具体的には、生機が織物の場合は織機を用い、編物の場合は編機を用いる。この場合、目的に応じて当該糸条以外の糸条を併用してもよい。
【0044】
生機を得た後は、芯鞘型複合繊維の鞘部に配されたポリエステルBの融点以上の温度で熱処理して、本発明の成形用織編物を得ることができる。この熱処理は、織編物の組織点において繊維間を融着させて組織点における接着強力を高め、もって初期目ずれ応力を所定の範囲にすることを目的とするものである。
【0045】
本発明の成形用織編物は、以上の方法で得ることができるが、製造方法としてはこれに限定されず、種々の方法で得ることができる。
【0046】
本発明の成形用織編物は、前述のように広く成形製品全般に適用できるものであるが、所定の初期目ずれ応力を有しているところ、フィルターに好適である。具体的なフィルターの例示は、前述のとおりである。
【実施例】
【0047】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、各種物性値の測定は下記に準じた。
1.融点
パーキンエルマー社製DSC−2型(示差走査熱量計)を用いて、昇温速度20℃/分で測定した。
2.極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒とし、濃度0.5g/dl、温度20℃で測定した。
【0048】
(実施例1)
ポリエステルAとして、融点が256℃、極限粘度0.64のPETを用い、ポリエステルBとして、PETに1,4−ブタンジオールを50モル%共重合した共重合ポリエステル(極限粘度:0.78、融点:181℃、ガラス転移点:48℃)を用いた。そして、ポリエステルAを芯部にポリエステルBを鞘部に配すると共に、芯鞘質量比率(芯:鞘)が50:50となるようにして、通常の複合紡糸装置より紡糸温度280℃、紡糸速度3000m/分で溶融紡糸し、未延伸糸を得た。
【0049】
そして、得られた未延伸糸を一旦巻き取り、延伸倍率1.85倍、熱処理温度150℃の条件で延伸し、芯鞘型複合繊維からなる28dtexのモノフィラメント糸を得た。
【0050】
得られたモノフィラメント糸を経緯糸に適用し、生機密度として経糸密度が97本/2.54cm、緯糸密度が95本/2.54cmであり、織物組織が平組織である生機をレピア織機にて製織した。次いで、この生機を順次、精練、プレセット、染色及び乾燥した。その後、織物の熱セットと繊維間の融着とを目的に190℃でファイナルセットした。以上のようにして本発明の成形用織編物を得た。
【0051】
(実施例2)
芯鞘質量比率(芯:鞘)を80:20に変更する以外は、実施例1と同様にしてモノフィラメント糸を得た。その後、得られたモノフィラメント糸を用いて実施例1と同様にして平織物を得た。
【0052】
(実施例3)
経糸にPETからなる33dtexのモノフィラメント糸を、緯糸に実施例1で使用したモノフィラメント糸を適用し、実施例1と同規格で製織した。その後、得られた生機を実施例1と同様に加工し、本発明の成形用織編物を得た。この織編物における初期目ずれ応力は、経方向が8.2N/mmであり、緯方向は8.0N/mmであった。
【0053】
(参考例1)
延伸時の延伸倍率を1.7倍、熱処理温度を120℃に変更する以外は実施例1と同様にしてモノフィラメント糸を得、その後、得られたモノフィラメント糸を用いて実施例1と同様にして本発明の成形用織編物を得た。
【0054】
(参考例2)
芯鞘質量比率(芯:鞘)を20:80に変更する以外は、実施例1と同様にしてモノフィラメント糸を得た。その後、得られたモノフィラメント糸を用いて実施例1と同様にして平織物を得た。
【0055】
(比較例1)
ポリエステルBとして、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとを共重合させてなるPBT(極限粘度:0.85、融点:228℃、ガラス転移点:25℃)を用いる以外は、実施例1と同様にしてモノフィラメント糸を得た。その後、得られたモノフィラメント糸を用いて実施例1と同様にして織編物を得た。
【0056】
(比較例2)
芯鞘質量比率(芯:鞘)を90:10に変更する以外は、実施例1と同様にしてモノフィラメント糸を得た。その後、得られたモノフィラメント糸を用いて実施例1と同様にして織編物を得た。
【0057】
結果を下記表1にまとめた。
【0058】
【表1】

【0059】
表1から明らかなように、実施例1、2にかかる織編物は、初期目ずれ応力が所定の範囲を満足するものであり、耐久性に優れることが実証できた。また、糸条の収縮率が低いことから織編物は寸法安定性に優れていることが実証でき、フィルターなど成形製品に好適であることも証明できた。
【0060】
なお、実施例3にかかる織編物も実施例1、2にかかる織編物と同様、初期目ずれ応力が所定の範囲を満足するものであり、耐久性に優れるものであった。
【0061】
他方、参考例1は、糸条作製の際、延伸倍率や熱処理条件が好適でないことから、糸条の収縮率が高くなり、結果、織編物の寸法安定性が劣ることとなった。参考例2は、鞘型複合繊維における芯部の質量比率が低いことから、糸条の乾熱処理後の強度保持率が低いものとなり、結果、織編物の耐久性が劣ることとなった。
【0062】
これに対し、比較例1にかかる織編物では、芯鞘型複合繊維におけるポリエステルBの融点が高く、繊維の鞘部を十分に溶融させることができなかったため、織編物の初期目ずれ応力を所定のものにすることができなかった。また、比較例2にかかる織編物では、芯鞘型複合繊維における鞘部の質量比率が低いため、繊維間を十分に接着できず、同じく織編物の初期目ずれ応力を所定のものにすることができなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
経緯方向の少なくとも一方で初期目ずれ応力が8.0〜20.0N/mmであることを特徴とする成型用織編物。
【請求項2】
アルキレンテレフタレート単位を主体とする融点220℃以上のポリエステルAを芯部に、融点がポリエステルAより30℃以上低いポリエステルBを鞘部に配した芯鞘型複合繊維から構成される糸条を用いてなることを特徴とする請求項1記載の成型用織編物。
【請求項3】
ポリエステルBが、テレフタル酸成分、エチレングリコール成分を含有し、1,4−ブタンジオール成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分の少なくとも一成分を共重合した共重合ポリエステルである請求項2記載の成型用織編物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の成型用織編物を用いてなるフィルター。


【公開番号】特開2008−280636(P2008−280636A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124561(P2007−124561)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】