説明

成形素材固定具

【課題】 真空成形を行う際に、成形素材を成形型に確実に固定し、成形素材に傷を付けない成形素材固定具を提供する。
【解決手段】 断面コ字状のインサートパネル11と、インサートパネル11の形状に沿って断面凹形状にインサートパネル11を被覆する被覆部12と、を備え、被覆部12には、第1接触部12aと第2接触部12bとで溝13を形成するとともに、第1接触部12aとインサートパネル11との間に空洞14を形成する。成形型2の型面に被せた成形素材3の端部3aを成形型2の端部2aに重ね合わせた状態で、成形型2および成形素材3の各端部2a,3aを成形素材固定具1で挟み、真空パック4内に収納して、全体を加熱するとともに、真空パック4内を真空排気することにより、空洞14が膨張して成形素材3の端部3aを成形型2の端部2aに確実に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空成形を行うに際し、成形型の端部にシート状の成形素材の端部を合わせた状態で成形型および成形素材の各端部を挟むことで、成形素材を成形型に固定する成形素材固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂などのシート状の素材を成形する方法として、真空成形方法が知られており、この真空成形方法を用いて、車両のインストルメントパネルやコンソールなどの各種成形品が成形されている(例えば、特許文献1)。
真空成形方法は、熱可塑性のシート状の成形素材を加熱して型面に被せて、成形素材と型面との間に存在する空気を吸引することで型面に成形素材を密着させて成形素材を成形する方法である。
【0003】
このような真空成形方法は、例えば次のように行なわれる。図6はシート状の成形素材を成形する準備段階を示した斜視図であり、図7はシート状の成形素材を成形する段階を示した断面図である。
先ず、シート状の成形素材3を、図6に示したように、略方形状の上枠101と、上枠101と同形の下枠102とで挟む。次に、複数の万力103で上枠101と下枠102との縁部を複数箇所挟む。その後、シート状の成形素材3を熱変形温度まで加熱して軟化させるとともに、転写したい形を有する成形型104に成形素材3を被せる。そして、図7に示すように、シート状の成形素材3と型面との間の空気を吸引して、成形型104の型面に成形素材3を密着させて成形を行っていた。
【0004】
また、次のように、成形素材3を成形型2に固定して真空成形が行なわれている。
図8は、シート状の成形素材3を成形型2に固定する形態を示した斜視図である。図8に示すように、シート状の成形素材3を成形型2に被せ、シート状の成形素材3の端部3aと成形型2の端部2aとを合わせて金属製のクリップ105で留め、クリップ105の柄105aを脱着して、真空成形を行なっていた。
【0005】
【特許文献1】特開2003−117993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図7に示したように、上枠101と下枠102とでシート状の成形素材3を挟んで、万力103で挟掴した場合には、シート状の成形素材3を成形型104に確実に固定することができず、成形素材3と成形型104との位置ズレが生じる。
また、図8に示したように、クリップ105でシート状の成形素材3と成形型2とを固定する場合には、クリップ105の柄105aを取り外して真空成形を行っていたので、柄105aの脱着工程と、真空成形後にクリップ105を外すために柄105aの装着工程が必要となり、手間がかかってしまう。
さらには、クリップ105は金属製であるので、クリップ105を成形型2および成形素材3の各端部2a,3aに装着したり脱着したりする際にシート状の成形素材3に傷が付くと、成形品の商品価値を低下させてしまう。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、真空成形を行う際に、成形素材を成形型に確実に固定し、成形素材に傷を付けない成形素材固定具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、本発明の構成によれば、真空成形を行うに際して、重なり合う成形型の端部と成形素材の端部とを挟んで上記成形素材を上記成形型に固定する成形素材固定具において、断面コ字状のインサートパネルと、インサートパネルを被覆し断面凹形状に形成した被覆部とを備え、この被覆部が、成形素材の端部に接触する第1接触部と、第1接触部と間隙を介して対向配置されて、成形型の端部に接触する第2接触部と、第1接触部とインサートパネルとの間に形成した空洞と、を備えており、第1接触部と第2接触部とで形成される溝に、重なり合う成形型の端部と成形素材の端部とを入れて、真空排気可能な領域内で真空排気することにより、空洞を膨張させて成形素材の端部を成形型の端部に固定するようにした成形素材固定具により、達成される。
この構成によれば、成形型の型面に被せた成形素材の端部を成形型の端部に合わせた状態で、成形型および成形素材の各端部を、成形素材固定具で挟んだ後に、成形型および成形素材とともに真空排気可能な領域に収納し該領域を真空排気することで、被覆部の空洞が膨張する。よって、被覆部の第1接触部が成形素材を押圧するので、成形型の端部に成形素材の端部を確実に固定することができる。
また、真空排気可能な領域を大気圧に戻すことで、被覆部内の空洞はもとの大きさの状態に戻る。よって、成形素材および成形型の各端部から容易に取り外すことができる。これにより、成形素材固定具の装着や脱着により成形素材に傷が付くことなく、成形品の商品価値を低下させない。
【0009】
本発明による成形素材固定具において、好ましくは、前記第1接触部には複数の第1突起が一様に設けられている。この構成によれば、成形素材および成形型の各端部を成形素材固定具で挟むことで、第1接触部と成形素材との位置ズレを確実により防止することができる。
【0010】
本発明による成形素材固定具において、好ましくは、前記第1突起は、前記成形素材および前記成形型の各端部を前記溝の中に入れた際に、上記成形素材の端部と平行になるように傾斜している。この構成によれば、成形素材および成形型の各端部を成形素材固定具で挟むことで、第1突起が倒れることにより、第1接触部と成形素材との位置ズレを確実により防止することができる。
【0011】
本発明による成形素材固定具において、好ましくは、前記第2接触部には複数の第2突起が一様に設けられている。この構成によれば、成形素材および成形型の各端部を成形素材固定具で挟むことで、第2突起で第2接触部と成形型との位置ズレをより確実に防止することができる。
【0012】
本発明による成形素材固定具において、好ましくは、前記被覆部は、耐熱性の軟質材で成形されている。この構成によれば、真空排気可能な領域に収納して高温に加熱しても被覆部が変性したり変形したりしないので、熱変形温度が高い成形素材の成形も行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の成形素材固定具によれば、成形素材の端部と成形型の端部とを重なり合わせた状態で、成形素材固定具で成形型および成形素材の各端部を挟んだ後に、成形型および成形素材とともに真空排気可能な領域に収納して真空排気することで、被覆部内の空洞が膨張する。よって、被覆部の第1接触部が成形素材を押圧するので、成形素材を成形型の端部に確実に固定することができる。従って、成形素材と成形型との位置ズレを防止することができる。
また、成形素材および成形型の各端部への装着および脱着も容易に且つ短時間に行うことができ、また成形素材に傷を付けないので成形品の商品価値を低下させない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は本発明の実施形態に係る成形素材固定具1の斜視図、図2は図1のA−A線に沿う断面図、図3は成形素材固定具1を成形型2および成形素材3の各端部2a,3aに装着した状態を示す斜視図である。
成形素材固定具1は、成形型2の型面に被せたシート状の成形素材3の端部3aを成形型2の端部2aに重ね合わせた状態で、各端部2a,3aを挟んで、成形素材3の端部3aを成形型2の端部2aに固定する固定具である。
【0015】
成形素材固定具1は、図2に示すように、断面コ字状のインサートパネル11と、インサートパネル11の形状に沿うように軟質材でインサートパネル11を被覆した断面凹形状の被覆部12とからなる。具体的には、インサートパネル11は、例えば一枚の金属板を、上部11aと下部11bとが対向するように、中間部11cの両端でそれぞれ略90度折り曲げて成る。
また、被覆部12は、上部11a,下部11bおよび中間部11cのそれぞれの周りを軟質材で被覆して成形される。ここで、上部11aの周りのうち上部11aの下側を被覆する第1接触部12aと、下部11bの周りのうち下部11bの上側を被覆する第2接触部12bにより、溝13を形成する。つまり、第1接触部12aと第2接触部12bとは間隙を介して対向配置されて、溝13を形成する。この溝13に、成形型2の端部2aおよび成形素材3の端部3aを入れた際に、すなわち、成形素材固定具1が端部2a,3aを挟んだ際に、第1接触部12aは成形素材3の端部3aの上面と接触し、第2接触部12bは、成形型2の端部2aの下面と接触する。
【0016】
また、被覆部12のうちの第1接触部12aとインサートパネル11の上板11aとの間には、図2に示すように、所定の大きさの空洞14が設けられている。なお、第1接触部12aと上板11aとの間に空洞14を設ける場合の他に、第2接触部12bと下板11bとの間にも同様の空洞を設けてもよい。
【0017】
さらには、第1接触部12aには、第2接触部12b側に、複数の第1突起12cが一様に設けられている。すなわち、第1接触部12aには、溝13の深さ方向に複数列、該深さ方向に垂直な方向に複数行、第1突起12cが設けられている。第1突起12cは、波型形状であることが好ましい。すなわち、成形素材固定具1が成形型2および成形素材3の各端部2a,3aを合わせた状態で各端部2a,3aを挟んだ際に、成形素材3の端部3aと平行になるように第1突起12cが傾斜していることが好ましい。
また、第2接触部12bには、第1接触部12a側に、複数の第2突起12dが一様に設けられている。すなわち、第2接触部12bには、溝13の深さ方向に複数列、該深さ方向に垂直な方向に複数行、第2突起12dが設けられている。第2突起12dは、四角錐などの略角錐形状であることが好ましいが、他の形状であってもよい。
【0018】
以上のように構成された成形素材固定具1の使用形態について次に説明する。
図4(A)〜(D)は、成形素材固定具1が成形型2および成形素材3の各端部2a,3aを挟んで、成形素材3を成形する一連の工程を示した概略図である。
先ず、図4(A)に示すように、成形型2の型面にシート状の成形素材3を被せて、成形型2の端部2aに成形素材3の端部3aを重ね合わせる。
【0019】
次に、図4(B)に示すように、成形型2の端部2aおよび成形素材3の端部3aに成形素材固定具1を装着する。すなわち、成形素材固定具1の溝13に成形型2の端部2aおよび成形素材3の端部3aを入れることになる。そのとき、軟質材で成形された被覆部12のうち、溝13を形成している第1接触部12aの第1突起12cが倒されて成形素材3の表面に平行になりつつ、空洞14が矢印で示すように潰される。
【0020】
そして、成形素材固定具1で成形素材3が成形型2の端部2aに固定された状態で、軟質材などで真空排気可能な領域を形成した真空パック4内に、成形型2および成形素材3を収納する。そして、図4(C)に示すように、真空排気可能な領域を形成する真空パック4の吸引口4aから図の矢印で示した方向に吸引して、真空パック4内を真空排気するとともに、図示しない加熱手段で成形素材3を熱変形温度まで加熱する。
図5は図4(C)に示した工程での成形素材固定具1の部分斜視図である。真空パック4内が真空排気されて減圧されるため、成形素材固定具1の被覆部12内に形成された空洞14が、図4(C)に矢印で示すように膨張する。これにより、被覆部12の第1接触部12aが、成形素材3の端部3aを押圧する。従って、成形素材固定具1で、成形型2の端部2aに対する成形素材3の端部3aの位置ズレをさらに防止することができる。
また、図4(C)に示すように、成形素材3は成形型2の型面に押し当てられて密着するので、成形素材3が型面の形状に成形される。
【0021】
最後に、成形型2に成形素材3が密着した状態でかつ端部2a,3aが成形素材固定具1に挟まれた状態で真空パック4から取り出し、図4(D)に示すように、成形素材固定具1を端部2a,3aから取り外した後に成形素材3を成形型2から外す。このとき、成形素材固定具1の周りは減圧状態から大気圧状態になっているので、成形素材固定具1の空洞14の膨らみは、もとの状態、つまり図4(B)の工程での膨らみと同程度になっている。従って、成形素材固定具1を端部2a,3aから容易に取り外すことができる。
【0022】
以上説明したように、重なり合う成形型2の端部2aと成形素材3の端部3aとを成形素材固定具1で挟んで、成形素材固定具1を装着した後に、成形型2および成形素材3とともに真空排気可能な領域内に収納して真空排気することで、被覆部12内の空洞14が膨張する。よって、被覆部12の第1接触部12aが成形素材3の端部3aを押圧するので、成形素材3を成形型2の端部2aに確実に固定することができ、成形素材3と成形型2との位置ズレを防止することができる。
また、成形素材固定具1は真空排気可能な領域内に収納した状態で加熱されるので、シリコンゴム等の耐熱性の軟質材で成形されるが、別に他の軟質材で成形してもよい。
【0023】
以上説明した本発明を実施するための最良の形態は、本発明を具体化する場合の一例であって、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々変更が可能である。
例えば、第1接触部12aに設けられる第1突起12cや第2接触部12bに設けられる第2突起12dは、波型形状や、角錐形状に限らず、それぞれ他の形状でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明を実施形態に係る成形素材固定具の斜視図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】成形素材固定具を成形型および成形素材の各端部に装着した状態を示す斜視図である。
【図4】(A)〜(D)は、成形素材固定具が成形型および成形素材の各端部を挟んで、成形素材を成形する一連の工程を示した断面図である。
【図5】図4(C)に示した工程での成形素材固定具の部分斜視図である。
【図6】従来の真空成形を行うに際しての準備段階を示した斜視図である。
【図7】図6に続く成形素材を成形する段階を示した断面図である。
【図8】図6とは異なる、従来の真空成形を行う際の成形素材を成形型に固定する形態を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0025】
1 成形素材固定具
2 成形型
2a,3a 端部
3 成形素材
4 真空パック
4a 吸引口
11 インサートパネル
11a 上部
11b 下部
11c 中間部
12 被覆部
12a 第1接触部
12b 第2接触部
12c 第1突起
12d 第2突起
13 溝
14 空洞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空成形を行うに際して、重なり合う成形型の端部と成形素材の端部とを挟んで上記成形素材を上記成形型に固定する成形素材固定具において、
断面コ字状のインサートパネルと、該インサートパネルを被覆し断面凹形状に形成した被覆部とを備え、
上記被覆部が、上記成形素材の端部に接触する第1接触部と、上記第1接触部と間隙を介して対向配置されて、上記成形型の端部に接触する第2接触部と、上記第1接触部と上記インサートパネルとの間に形成した空洞と、を備えており、
上記第1接触部と上記第2接触部とで形成される溝に、重なり合う上記成形型の端部と上記成形素材の端部とを入れて、真空排気可能な領域内で真空排気することにより、上記空洞を膨張させて上記成形素材の端部を上記成形型の端部に固定することを特徴とする、成形素材固定具。
【請求項2】
前記第1接触部には複数の第1突起が一様に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の成形素材固定具。
【請求項3】
前記第1突起は、前記成形素材および前記成形型の各端部を前記溝の中に入れた際に、上記成形素材の端部と平行になるように傾斜していることを特徴とする、請求項2に記載の成形素材固定具。
【請求項4】
前記第2接触部には複数の第2突起が一様に設けられていることを特徴とする、請求項1〜3に記載の成形素材固定具。
【請求項5】
前記被覆部は、耐熱性の軟質材で成形されていることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載の成形素材固定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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