説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】エアロゾルデポジション法においてレーザーを利用してエアロゾル流の粒子濃度を測定するに際し、レーザー通過面に浮遊粒子が付着するのを防止し、これによって経時的に安定な粒子濃度測定を可能にする成膜装置及び成膜方法を提供すること。
【解決手段】エアロゾル発生部と、エアロゾルを被処理物に吹き付ける噴射ノズルと、噴射ノズル及び被処理物が内部に配置されるチャンバと、噴射したエアロゾル流にレーザーを発出する手段と、発出されたレーザーを受光する手段と、受光したレーザーの強度に基づいてエアロゾル流の粒子濃度を算出する手段と、を備えた成膜装置において、さらに、レーザー発光素子からエアロゾル流に至るまでのレーザー光路上に透光性部材を備え、当該透光性部材の、チャンバ内に浮遊する材料粒子が付着し得る面に対して、透光性の光熱変換手段を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゾルデポジション法を利用した成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電アクチュエータ等として用いられるセラミックス薄膜を形成する方法として、近年、エアロゾルデポジション法が注目されている。この方法は、気体中にセラミックス微粒子を分散してなるエアロゾルをノズルから噴射し、高速で基板表面に吹き付けることによって、当該基板上で微粒子を粉砕し堆積させてセラミックス薄膜を形成するものである。当該方法はセラミックス微粒子の常温衝撃固化現象を利用し、従来のセラミックス薄膜形成法において実施されていた1000℃以上での焼結プロセスを不要とするものである。そのため、寸法精度を考慮した薄膜設計を行う必要がなくなり、また、微粒子の破砕によって緻密なナノ結晶組織が形成されるので、きわめて平滑な表面を持つセラミックス薄膜を製造することができる。
【0003】
エアロゾルデポジション法においては、成膜を実施している過程において、エアロゾル発生装置での微粒子の減少や、微粒子同士の凝集による凝集巨大粒子の形成、エアロゾル供給管や噴射ノズル等の目詰まりなど種々の要因によって、ノズルから噴射されるエアロゾル流の粒子濃度にムラが生じることがある。しかしながらエアロゾル流の粒子濃度にムラがあると、得られるセラミックス薄膜の膜厚にもムラが生じ、その性能に悪影響を与えることになる。セラミックス薄膜の膜厚、ひいては性能を均一に維持するには、エアロゾル流の粒子濃度をリアルタイムで測定し、その結果に応じてエアロゾルの発生条件や、吹き付け条件等を制御することが望まれる。
【0004】
一般にエアロゾルの粒子濃度は、レーザー回折・散乱法に基づいた粒度分布測定装置を利用して、エアロゾルによって回折、散乱された光の強度に基づいて算出できることが知られている。具体的な測定方法として、特許文献1では、セル中を流れるエアロゾルにレーザーを照射して得られる回折、散乱光強度を測定し、その測定結果と、既知濃度のエアロゾルを測定対象として予め得た回折、散乱光強度測定結果との関係を用いて、エアロゾルの粒子濃度を求めることが記載されている。
【0005】
このような測定方法を利用して、特許文献2では、エアロゾルデポジション法において噴射されたエアロゾルの自由流に対してレーザーを投光し、これによって回折、散乱された光を受光し、受光した光の輝度に基づいて、当該エアロゾル自由流の流れに影響を及ぼすことなく、エアロゾル流の粒子濃度をリアルタイムに測定することが記載されている。
【特許文献1】特開2000−46722号公報
【特許文献2】特開2005−49228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エアロゾルデポジション法においては、エアロゾル流として基板表面に吹き付けられたセラミックス微粒子のすべてが薄膜形成のために消費されるわけではない。セラミックス微粒子の多くは基板表面に衝突した後、薄膜の形成に寄与せずに反発し、チャンバ内の雰囲気中に浮遊することになる。チャンバ内で浮遊している微粒子は、チャンバの壁面や、チャンバ内に設置されている各種部材に接触すると、これに付着する場合も多い。
【0007】
レーザーを利用してエアロゾル流の粒子濃度を測定する際に、レーザーの光路上に位置するチャンバ壁面や各種部材に上述の浮遊微粒子が付着すると、この付着した微粒子によってレーザーの一部が回折・散乱して、エアロゾル流による回折・散乱光の強度についての正確な測定が阻害される。すなわち、付着微粒子によってレーザーの一部がエアロゾル流に到達する前に回折・散乱してしまうので、レーザー発光装置の発光素子が発出したレーザーの強度と比較して、エアロゾル流に実際に照射されるレーザーの強度が低減することになる。エアロゾルデポジション法の進行に伴い付着微粒子量は増加していくので、時間の経過と共に、エアロゾル流に実際に照射されるレーザーの強度が低下していく。エアロゾル流の粒子濃度は回折、散乱された光の強度に基づいて測定されるものであるから、照射レーザー強度の経時的な低下は、エアロゾル流の粒子濃度の正確な測定を困難にする。
【0008】
そこで本発明は、エアロゾルデポジション法においてレーザーを利用してエアロゾル流の粒子濃度を測定するに際し、レーザー発光装置の発光素子からエアロゾル流に至るまでのレーザー光路上に位置する部材におけるレーザー通過面に浮遊微粒子が付着するのを防止し、これによって経時的に安定な粒子濃度測定を可能にする成膜装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記現状に鑑みてなされたものであり、本発明に係る成膜装置は、キャリアガスに材料粒子を分散させてエアロゾルを発生させるエアロゾル発生部と、前記エアロゾル発生部に接続されて前記エアロゾルをエアロゾル流として被処理物に吹き付ける噴射ノズルと、前記噴射ノズル及び前記被処理物が内部に配置されるチャンバと、レーザー発光素子を有し、前記噴射ノズルが噴射したエアロゾル流に向けてレーザーを発出するレーザー発出手段と、前記レーザー発出手段によって発出されたレーザーを受光する受光手段と、前記受光手段が受光したレーザーの強度に基づいて、前記エアロゾル流の粒子濃度を算出する算出手段と、を備え、さらに、前記レーザー発光素子から前記エアロゾル流に至るまでのレーザー光路上に位置する透光性部材を備え、前記透光性部材の、前記チャンバ内に浮遊する材料粒子が付着し得る面に対して、透光性の光熱変換手段を設けたことを特徴とする。
【0010】
前記透光性光熱変換手段とは、そこに照射された光のエネルギーを熱に変換するものである。本発明において、透光性光熱変換手段はレーザー発光素子からエアロゾル流に至るまでのレーザー光路上に位置するので、レーザーが当該光熱変換手段を通過することになるが、光熱変換手段は通過するレーザーの一部を熱に変換して熱を発生させる。
【0011】
一般的に、微粒子が浮遊している気体に温度勾配がある場合、当該微粒子は高温側から低温側に向かって自然と移動していく、いわゆる熱泳動という現象が知られている。本発明では、レーザーの通過によって光熱変換手段が発熱するために、当該手段の温度が周辺温度よりも高くなる。そうすると、熱泳動現象のために浮遊材料粒子が当該光熱変換手段の近傍に近寄り難くなり、結果として浮遊材料粒子が光熱変換手段に接触することがなくなる。これによって、光熱変換手段が設けられたレーザー通過面に対して浮遊材料粒子が付着するのを防止することができる。
【0012】
本発明によると、エアロゾル流の粒子濃度測定のためにレーザーを発出している全時間を通じて光熱変換手段が発熱していることになるので、レーザー通過面への浮遊材料粒子の付着を効率よく防止することが可能である。よって、エアロゾル流の粒子濃度を経時的に安定して測定することが可能になる。
【0013】
さらに本発明では、レーザー通過面への浮遊材料粒子の付着を防止するためにヒーター等の加熱手段や、エアー吐出手段等を設ける必要がなく、また、レーザー通過面に付着した材料粒子を除去するためにワイパー等の電動手段を設ける必要もないので、成膜装置の構成を簡素化することができる。
【0014】
本発明において前記レーザー発出手段のレーザーを発出するレーザー発出面が前記チャンバの外部に配置されている場合には、前記チャンバの壁面の、前記レーザー光路上に位置する部分を構成する透光性部材に光熱変換手段を設けてもよい。
【0015】
この場合レーザー発出面がチャンバの外部に配置されているので、レーザー発出面自体に浮遊材料粒子が付着することはなく、さらにチャンバの壁面の、レーザー光路上に位置する部分には透光性光熱変換手段が設けられることになるので、上述した熱泳動現象によってチャンバ壁面のレーザー通過面に浮遊材料粒子が付着することを防止できる。
【0016】
本発明において前記レーザー発出手段のレーザーを発出するレーザー発出面が前記チャンバの内部に配置されている場合には、前記レーザー発出面を構成する透光性部材に光熱変換手段を設けてもよい。
【0017】
この場合チャンバ内部に位置するレーザー発出面に透光性光熱変換手段が設けられることになるので、上述した熱泳動現象によって当該レーザー発出面に浮遊材料粒子が付着することを防止できる。
【0018】
同様に、本発明において前記レーザー発出手段のレーザーを発出するレーザー発出面が前記チャンバの内部に配置されている場合には、前記レーザー発出面を透光性の遮蔽部材で覆い、この遮蔽部材に光熱変換手段を設けてもよい。
【0019】
この場合レーザー発出面は透光性の遮蔽部材によって浮遊材料粒子から隔離されているので、レーザー発出面自体に浮遊材料粒子が付着することはなく、さらに当該遮蔽部材の、レーザー光路上に位置する部分には透光性光熱変換手段が設けられるので、上述した熱泳動現象によって遮蔽部材のレーザー通過面に浮遊材料粒子が付着することを防止できる。
【0020】
さらに、本発明は成膜方法に係るものであってもよく、当該成膜方法は、キャリアガスに材料粒子を分散させてエアロゾルを発生させるエアロゾル発生工程と、発生したエアロゾルを、チャンバの内部に配置された噴射ノズルからエアロゾル流として噴出させて、前記チャンバの内部に配置された被処理物に吹き付けることにより、前記材料粒子の膜を前記被処理物上に形成する膜形成工程と、前記噴射ノズルから噴射された前記エアロゾル流に向けて、レーザー発光素子を有するレーザー発出手段によってレーザーを発出する発出工程と、前記発出工程において発出されたレーザーを受光する受光工程と、前記受光工程において受光されたレーザーの強度に基づいて、前記エアロゾル流の粒子濃度を算出する算出工程と、を含み、前記レーザー発光素子から前記エアロゾル流に至るまでのレーザー光路上に位置する透光性部材の、前記チャンバ内に浮遊する材料粒子が付着し得る面に対して、透光性の光熱変換手段を設け、この光熱変換手段を通過するレーザーの一部を熱に変換して熱を発生させることによって、前記透光性部材におけるレーザー通過面への前記材料粒子の付着を防止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の成膜装置及び成膜方法によれば、エアロゾルデポジション法においてレーザーを利用してエアロゾル流の粒子濃度を測定するに際し、レーザー発光素子からエアロゾル流に至るまでのレーザー光路上に位置する部材におけるレーザー通過面に浮遊材料粒子が付着するのを防止し、これによって経時的に安定な粒子濃度測定を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下では本発明の第1実施形態を、図1、図2を参照しつつ具体的に記載する。
【0023】
図1は、本発明の第1実施形態におけるエアロゾルデポジション法を利用した成膜装置を概略的に示している。この成膜装置は、キャリアガスに材料粒子を分散させてエアロゾルを発生させるエアロゾル発生部10と、内部で成膜を行うためのチャンバ20を備えている。エアロゾル発生部10は内部に材料粒子が収納され、キャリアガスを導入することができるように構成されている。エアロゾル発生部10の上部にはエアロゾル供給管11の一端が挿入されている。エアロゾル供給管11の他端には噴射ノズル21が接続されている。
【0024】
前記材料粒子を構成する材料としては、エアロゾルデポジション法に使用できるものであれば特に限定されず、例えば、圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)や、アルミナ等の無機粉体、樹脂等の有機粉体を使用することができる。本形態では、前記材料粒子を構成する材料としてセラミックスを用いる。
【0025】
前記材料粒子の粒径としても、エアロゾルデポジション法に使用可能な粒径であればよいが、例えば、数μm〜数十μm程度のものでよい。
【0026】
前記キャリアガスとしては、エアロゾルデポジション法に使用できるものであれば特に限定されず、例えば、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスや、窒素、空気、酸素等を使用することができる。
【0027】
チャンバ20の内部には、被処理物である基板23を取り付けるための基板ホルダー24と、その下方に噴射ノズル21が配置されている。基板ホルダー24は矩形板状に形成されており、基板ホルダー移動機構25によって水平姿勢でチャンバ20の天井からつり下げられ、その下面側に基板23を保持することができるようになっている。基板ホルダー移動機構25は制御装置からの指令に応じて駆動できるようになっており、これによって基板ホルダー24は水平面内において、前後方向及び左右方向に移動することができる。
【0028】
チャンバ20には、ブースターポンプ、ロータリーポンプ等が接続されており、その内部を減圧できるように構成されている。
【0029】
本発明で用いられる基板23の材料としては特に限定されず、例えば、金属、シリコン、半導体、樹脂等であってよい。
【0030】
噴射ノズル21は、上下にスリット状の開口を有し、かつ内部に空洞を有する筒状のものであるが、下部にある開口は上述のようにエアロゾル供給管11の他端に接続されており、エアロゾルの導入開口となっている。上部にある開口は、そこからエアロゾル流22を噴射する射出開口であり、当該射出開口は、基板ホルダー24の下面に保持された基板23の、セラミックス薄膜を形成すべき表面に向けられている。図1では、射出開口は、エアロゾル流22を基板23に対して垂直方向に噴射するような向きで配置されているが、基板23に対して斜め方向に噴射するような向きに配置されてもよい。噴射ノズル21の内部の空洞は、導入開口から射出開口に向けて、横断面積が減少するよう、当該空洞の内壁にはテーパ部が設けられている。
【0031】
エアロゾル発生部10では、超音波加振装置を配置して振動を加えたり、内部に巻き上げガスを導入してサイクロン流を生成させたり、床部から流動ガスを供給したりすることによって、キャリアガスに材料粒子を分散させ、エアロゾルを発生させる。ここで、チャンバ20の内圧をエアロゾル発生部10の内圧と比較して低圧にすると、その差圧によって、エアロゾル発生部10内のエアロゾルは、エアロゾル供給管11に吸い込まれ、これを経由して噴射ノズル21に供給される。なお、エアロゾル供給管11の途中には、キャリアガスの総量を調整できるようにキャリアガスを補充するガス補充管が接続されてもよい。
【0032】
前記導入開口から噴射ノズル21の内部に進入したエアロゾルは、前記テーパ部の存在によって通過する横断面積が減少するので加速がされたうえで、前記射出開口から、エアロゾル流22として基板23に吹き付けられる。基板23の表面に衝突した材料粒子は破砕し、堆積することによって、セラミックス薄膜が形成される。エアロゾル流22の吹き付け時に基板ホルダー24を水平面内で少しずつ移動させることによって、基板23の全面にセラミックス薄膜を形成することができる。なお、噴射ノズル21の射出開口と基板23とのあいだにマスクを設置して、基板23上の任意の位置に任意の形状でセラミックス薄膜が形成されるようにしてもよい。
【0033】
このように噴射ノズル21から噴射された材料粒子はセラミックス薄膜を形成するのであるが、吹き付けられた材料粒子のすべてが薄膜形成のために消費されるのではなく、基板23の表面に衝突した後、薄膜を形成することなく反発して、チャンバ20の内部に浮遊している材料粒子も多数存在する。浮遊材料粒子は、上述したブースターポンプ、ロータリーポンプ等の吸引力によってチャンバ20の外部に順次排出されるが、排出される前にチャンバの壁面や、チャンバ内に配置されている各種部材に接触すると、これに付着してしまう。
【0034】
チャンバ20の外部には、エアロゾル流22の粒子濃度を測定することを目的として、レーザー発出手段たるレーザー照射機31が配置される。レーザー照射機31は、それが発出するレーザー41をエアロゾル流22に照射することができ、かつそれによって回折・散乱された光を後述の受光手段が受光できるような位置に配置されればよい。図1ではエアロゾル流22に対してレーザー41が垂直に交差するようにレーザー照射機31を配置しているが、斜めに交差するように配置してもよい。ただし、粒子速度の測定を伴う場合には斜めに交差する必要がある。
【0035】
レーザー照射機31は、内部に、例えば半導体レーザー素子によって構成されるレーザー発光素子31aを有し、外面にレーザー発出面31bを有する。
【0036】
レーザー照射機31はエアロゾル流22にレーザー41を照射するが、そのレーザー光路上には、チャンバ20の壁面が存在する。当該壁面がレーザーの通過を妨害しないよう、チャンバ20の壁面のうち少なくともレーザー光路上に位置する部分は透光性部材51によって構成されている。透光性部材51は図1のようにチャンバ20の壁面においてレーザー41を通過させるための透過窓として設けられたものであってもよいし、チャンバ20の壁面全体が透光性部材によって構成されていてもよい。本形態では透光性部材51として透過窓が形成されている。透光性部材としては、レーザーが透過する性質を有するものであればよく、ガラス、樹脂等からシート状に成形されたものを用いることができる。
【0037】
図2は、透光性部材(透過窓)51近傍を示す拡大断面図である。透光性部材51の、チャンバ20の内部にある面は、透光性の光熱変換手段たる光熱変換材料製のシート(以下、光熱変換シートと言う)52によって被覆されている。当該光熱変換シート52は、少なくともレーザー光路上に位置する部分を被覆するように設けられており、色材と色材を分散させるために色材を溶解させた無色透明のバインダ材料から構成される。前記色材はその吸収ピークをレーザー光の波長領域と一致させることが発熱効率の面で望ましく、顔料系の色材はレーザー光を散乱させやすいため、染料系の色材の方が望ましい。前記バインダ材料は、ガラス、ポリスチレン、低密度ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリアセタールなどの無色透明なものが望ましい。そして、光熱変換シート52は、透光性の接着剤や粘着テープ等を用いて壁面に貼付することによって設けてもよいし、光熱変換シート52自体が粘着性を有する場合にはこれを直接、壁面に貼付したりすることによって設けてもよいし、色材が溶解した溶融状態のバインダ材を壁面に塗布し乾燥することによって設けてもよい。具体的には、レーザー照射機31が波長633nmのレーザーを発出するヘリウムネオンガスレーザである場合において、溶剤として酢酸エチル70gを用い、これに色材であるアシッドブルー9を0.1g、バインダ材であるポリエステル樹脂(ユニチカ:UE−3600)を30g溶融させて、色材をバインダ材に分散させ、これをシート状に塗付し溶剤を揮発させることで形成する。
【0038】
本発明は熱泳動現象を利用してレーザー通過面への浮遊材料粒子の付着を防止するものであるので、レーザー41が光熱変換シート52を通過することによる光熱変換シート52の温度上昇は高くなるほど好ましい。具体的には、光熱変換シート52の温度がレーザー通過によって、周囲温度よりも20〜30℃以上高くなることが好ましく、50℃以上高くなることがより好ましい。光熱変換シート52の上昇温度は、レーザー41の強度及び波長や、光熱変換シート52の種類及び厚み等の調整によって容易に制御することが可能である。ただし、光熱変換シート52を通過したレーザー41の強度が粒子濃度の測定が不能となる程度まで劣化しないよう、レーザー照射機31からの発出を制御する必要がある。
【0039】
図1、図2では、光熱変換シート52をチャンバ20の内部に配置している状態を示しているが、本実施形態ではチャンバ20の壁面内側のレーザー通過面が加熱されれば効果を達成できるので、透光性部材51が伝熱性を有する場合には、光熱変換シート52はチャンバ20の外側壁面を被覆するように配置してもよい。さらに、光熱変換シート52を別途設けるのではなく、透光性部材51そのものを、光熱変換機能を有する透光性材料で形成してもよい。
【0040】
レーザー発光素子31aが放出したレーザー41は、レーザー発出面31bを通過することでレーザー照射機31から発出され、さらに、チャンバ20の壁面を構成する透光性部材51、及びその表面に設けられた光熱変換シート52を通過してチャンバ20の内部に進入し、そのまま直進してエアロゾル流22を照射する。レーザー41が光熱変換シート52を通過する際、光熱変換シート52は、これを通過するレーザーの一部を熱に変換して熱を発生させることになる。
【0041】
光熱変換シート52のレーザー通過面はレーザーの通過によって熱を帯びることになるので、熱泳動現象のために、チャンバ20の内部に浮遊している材料粒子は、光熱変換シート52のレーザー通過面の近傍に近寄り難くなり、結果として光熱変換シート52のレーザー通過面に接触することがなくなる。このため、エアロゾル流22に実際に照射されるレーザー41の強度が、レーザー通過面に対する浮遊材料粒子の付着によって、成膜の進行に伴い経時的に低下していくのを回避することができる。本発明では、レーザーを発出している全時間を通じて、特別の装置を設けることなく、レーザー通過面への浮遊材料粒子の付着を防止できるので、きわめて効率が良い。
【0042】
本発明におけるレーザーは粒子濃度測定のほか、レーザー通過面への浮遊材料粒子の付着防止をも目的とするものであるから、エアロゾルデポジション法を実施している間は常に、粒子濃度を測定していない時にあっても、レーザーの発出を継続するほうが好ましい。また、エアロゾルデポジション法を開始する(すなわち、チャンバ20内を減圧にしてエアロゾルを噴射ノズル21から噴射させる)前に、レーザの発出を開始するほうが、浮遊材料粒子の付着防止には効果的である。
【0043】
光熱変換シート52によって透過されエアロゾル流22に照射されたレーザー41は、エアロゾル流22中の材料粒子によって回折・散乱される。つまり、エアロゾル流22を通過した後のレーザーは回折・散乱光42となるが、回折・散乱光42は、チャンバ20の壁面に設けられた回折・散乱光用の透過窓を通過してチャンバ20の外部に達した後、受光手段32によって検出される。
【0044】
受光手段32は、チャンバ20の外側で、レーザー照射機31が配置された位置とはチャンバ20を挟んで反対側に設置されている。受光手段32はレーザー41の直進方向において回折・散乱光42を検出するとともに、レーザー41の直進方向に対して斜めの方向にある少なくとも1箇所で、回折・散乱光42を検出する。粒子濃度の計測に際しては回折・散乱光の総量の強度を測定することが必要であるから、より正確な粒子濃度の測定を可能とするには、斜め方向での検出地点は、レーザー41の直進方向からの角度を種々変更して複数設置したほうが好ましい。ただし、回折・散乱光はレーザーの直進方向近傍で検出されるものが大部分を占めており、側方や後方への散乱光の強度は総強度と比較すると無視できる程度のものであるから、これらを受光するための受光手段は設けなくともよい。受光手段32としては光センサ素子や、カメラ等を用いることができる。
【0045】
図1、図2では受光手段32はチャンバ20の外部に設置しているが、チャンバ20の内部に設置してもよい。さらに、エアロゾル流22通過後の回折・散乱光42の光路上に位置する透光性部材に浮遊材料粒子が付着することを防止するために、当該透光性部材に、上述のような光熱変換シートを設けてもよいし、また、ヒーター等の加熱手段や、浮遊材料粒子をふき飛ばすためにエアー吐出手段等を設けてもよい。また、当該透光性部材に一度付着した材料粒子を拭き取るために、ワイパー等の電動手段を設けてもよい。
【0046】
受光手段32で検出された回折・散乱光の出力は、算出手段34に伝達される。そこでA−D変換器によってデジタル化された後、複数存在する光強度データが積算され、その積算データが算出される。また、算出手段34には、あらかじめ、同じ材質の粒子群を分散質とする複数種の既知濃度のエアロゾルについて回折・散乱光の強度を実測して導出した回折・散乱光の強度とエアロゾルの粒子濃度との関係式が記憶されており、当該関係式に、前記積算データを当てはめることによってエアロゾル流22の粒子濃度が直ちに算出される。
【0047】
本発明ではエアロゾル流22の粒子濃度をリアルタイムに算出することができるので、エアロゾルデポジション法を実施している最中にあっても、測定された粒子濃度の結果を利用して、形成されるセラミックス薄膜の膜厚の均一化、ひいては品質の向上を図ることができる。具体的には、リアルタイムで測定されたエアロゾル流22の粒子濃度を、エアロゾル発生部10内でエアロゾルを発生させる際の条件や、前記ガス補充管によるガス補充量にフィードバックして、エアロゾル流22の粒子濃度が大きく変動しないように調整することもできるし、また、エアロゾル流22を基板に吹き付ける際の条件にフィードバックして、エアロゾル22の粒子濃度の変動による影響を相殺するように調整することもできる。すなわち、エアロゾル発生条件の調整は、例えば、前記巻き上げガスや前記流動ガスの流量の調節、前記超音波加振装置による振動の振動数の調節、エアロゾル発生部10への材料粒子の補充等により達成することができる。吹き付け条件の調整は、例えば、エアロゾル発生部10とチャンバ20との差圧の調節によるエアロゾル流22の噴射速度の変更、基板23の移動速度の調節、噴射ノズル21の射出開口と基板23間の距離の調節、基板23に対するエアロゾル流22の吹き付け角度の調節等により達成することができる。また、リアルタイムで測定されたエアロゾル流22の粒子濃度に異常が生じた場合には、製造を直ちに中止して製品に何らかの欠陥が生じるのを事前に防止することもできる。
【0048】
本発明では、エアロゾル流22の粒子濃度の測定と並行して、エアロゾル流22の粒度分布や、流速についても測定できるような構成としてもよい。
(第2実施形態)
以下では本発明の第2実施形態を、図3、図4を参照しつつ具体的に記載する。
【0049】
図3は、本発明の第2実施形態におけるエアロゾルデポジション法を利用した成膜装置を概略的に示している。図4は、レーザー照射機31の先端部近傍を示す拡大断面図である。
【0050】
第2実施形態では、レーザー照射機31がチャンバ20の内側に配置されるとともに、光熱変換シート52はレーザー発出面31bを被覆するように配置される。すなわち第2実施形態では、レーザー照射機31のカバーレンズ31cが、レーザー光路上に位置する透光性部材であり、チャンバ20の内部に浮遊する材料粒子の付着を防止すべき部材に該当することになる。また、チャンバ20の壁面には透過窓を設けていない。その他の構成は、図1で示した第1実施形態と同様である。
【0051】
本形態は、光熱変換シート52をレーザー照射機31のレーザー発出面31bの外面に直接設けるという極めて簡便な手法のみで構成することができ、チャンバ20の外部でのレーザー照射機31の設置場所を省略できるので成膜装置全体のサイズをコンパクトにすることもできる。
【0052】
この構成によって、レーザー発出面31bに対して浮遊材料粒子が付着するのを防止することができるので、エアロゾル流22に実際に照射されるレーザー41の強度が経時的に減少していくのを回避することができる。
【0053】
図2では、光熱変換シート52がレーザー発出面31bを被覆している状態を示しているが、本実施形態ではレーザー発出面31bが加熱されればよいので、カバーレンズ31cが伝熱性を有する場合には、光熱変換シート52はカバーレンズ31cの内側面を被覆するように配置してもよい。さらに、光熱変換シート52を別途設けるのではなく、カバーレンズ31cそのものを、光熱変換機能を有する透光性材料で形成してもよい。
(第3実施形態)
以下では本発明の第3実施形態を、図5、図6を参照しつつ具体的に記載する。
【0054】
図5は、本発明の第3実施形態におけるエアロゾルデポジション法を利用した成膜装置を概略的に示している。図6は、レーザー照射機31の先端部近傍を示す拡大断面図である。
【0055】
第3実施形態では、第2実施形態と同様にレーザー照射機31がチャンバ20の内側に配置されているが、レーザー発出面31bを含むレーザー照射機31の頭部を取り囲むように、透光性の遮蔽部材53が設置されている。遮蔽部材53は、レーザーが透過する性質を有するものであればよく、ガラス、樹脂等から成形されたものを用いることができる。遮蔽部材53は、材料粒子が浮遊しているチャンバ20内の雰囲気とレーザー発出面31b周囲の雰囲気とを区分し、浮遊材料粒子が、遮蔽部材53によって囲まれたレーザー発出面31b周囲の雰囲気内に侵入しないように、レーザー照射機31の頭部に嵌合してその周囲を密封できるような形状に成形されている。これを設けることによって、チャンバ20内の浮遊材料粒子がレーザー発出面31bに付着するのを阻止することができ、かつ微細な浮遊材料粒子がレーザー照射機31の内部に入り込んで正常な作動を阻害するのを防止することができる。
【0056】
また、遮蔽部材53は、図5、図6のようにレーザー発出面31bを含むレーザー照射機31の頭部のみを取り囲むように構成するのではなく、レーザー照射機31全体を取り囲むように構成してもよい。
【0057】
さらに、光熱変換シート52が、遮蔽部材53の外面(チャンバ20内の、材料粒子が浮遊している雰囲気中に位置している面)のうち少なくともレーザーが通過する面を被覆するように配置される。その他の構成は、図3、図4で示した第2実施形態と同様である。この構成によって、遮蔽部材53のレーザー通過面に浮遊材料粒子が付着するのを防止することができ、エアロゾル流22に実際に照射されるレーザー41の強度が経時的に減少していくのを回避することができる。
【0058】
図5、図6では、光熱変換シート52が遮蔽部材53の外面を被覆している状態を示しているが、本実施形態では遮蔽部材53の外面側が加熱されればよいので、遮蔽部材53を構成する部材が伝熱性を有する場合には、光熱変換シート52が遮蔽部材53の内面を被覆するように配置してもよい。さらに、光熱変換シート52を別途設けるのではなく、遮蔽部材53を構成する部材そのものを、光熱変換機能を有する透光性材料で形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1実施形態による成膜装置の概略図
【図2】図1における透光性部材51近傍を示す拡大断面図
【図3】本発明の第2実施形態による成膜装置の概略図
【図4】図3におけるレーザー照射機31の先端部近傍を示す拡大断面図
【図5】本発明の第3実施形態による成膜装置の概略図
【図6】図5におけるレーザー照射機31の先端部近傍を示す拡大断面図
【符号の説明】
【0060】
10 エアロゾル発生部
11 エアロゾル供給管
20 チャンバ
21 噴射ノズル
22 エアロゾル流
23 基板
24 基板ホルダー
25 基板ホルダー移動機構
31 レーザー照射機
31a レーザー発光素子
31b レーザー発出面
31c カバーレンズ
32 受光手段
34 算出手段
41 レーザー発光素子31aからエアロゾル流22に至るまでのレーザー
42 回折・散乱光
51 透光性部材
52 光熱変換シート
53 遮蔽部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアガスに材料粒子を分散させてエアロゾルを発生させるエアロゾル発生部と、
前記エアロゾル発生部に接続されて前記エアロゾルをエアロゾル流として被処理物に吹き付ける噴射ノズルと、
前記噴射ノズル及び前記被処理物が内部に配置されるチャンバと、
レーザー発光素子を有し、前記噴射ノズルが噴射したエアロゾル流に向けてレーザーを発出するレーザー発出手段と、
前記レーザー発出手段によって発出されたレーザーを受光する受光手段と、
前記受光手段が受光したレーザーの強度に基づいて、前記エアロゾル流の粒子濃度を算出する算出手段と、を備えた成膜装置であって、
さらに、前記レーザー発光素子から前記エアロゾル流に至るまでのレーザー光路上に位置する透光性部材を備え、
前記透光性部材の、前記チャンバ内に浮遊する材料粒子が付着し得る面に対して、透光性の光熱変換手段を設けたことを特徴とする、成膜装置。
【請求項2】
前記レーザー発出手段のレーザーを発出するレーザー発出面が、前記チャンバの外部に配置され、
前記透光性部材が、前記チャンバの壁面の、前記レーザー光路上に位置する部分を構成する部材である、請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記レーザー発出手段のレーザーを発出するレーザー発出面が、前記チャンバの内部に配置され、
前記透光性部材が、前記レーザー発出面を構成する部材である、請求項1記載の成膜装置。
【請求項4】
前記レーザー発出手段のレーザーを発出するレーザー発出面が、前記チャンバの内部に配置され、
前記透光性部材が、前記レーザー発出面を覆う透光性の遮蔽部材である、請求項1記載の成膜装置。
【請求項5】
キャリアガスに材料粒子を分散させてエアロゾルを発生させるエアロゾル発生工程と、
発生したエアロゾルを、チャンバの内部に配置された噴射ノズルからエアロゾル流として噴出させて、前記チャンバの内部に配置された被処理物に吹き付けることにより、前記材料粒子の膜を前記被処理物上に形成する膜形成工程と、
前記噴射ノズルから噴射された前記エアロゾル流に向けて、レーザー発光素子を有するレーザー発出手段によってレーザーを発出する発出工程と、
前記発出工程において発出されたレーザーを受光する受光工程と、
前記受光工程において受光されたレーザーの強度に基づいて、前記エアロゾル流の粒子濃度を算出する算出工程と、を含む成膜方法であって、
前記レーザー発光素子から前記エアロゾル流に至るまでのレーザー光路上に位置する透光性部材の、前記チャンバ内に浮遊する材料粒子が付着し得る面に対して、透光性の光熱変換手段を設け、この光熱変換手段を通過するレーザーの一部を熱に変換して熱を発生させることによって、前記透光性部材におけるレーザー通過面への前記材料粒子の付着を防止することを特徴とする、成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−240092(P2008−240092A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84006(P2007−84006)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】