説明

戸袋引込防止装置

【課題】 利用者の手などが側扉と戸袋との隙間から戸袋の内側へと進入しても、引き込まれるのを防止することができる戸袋引込防止装置を提供する。
【解決手段】 スライド式の扉の戸袋引込防止装置において、前記戸袋3と前記スライド式の側扉1との間への進入物を前記戸袋3の外部へと能動的に排除する排除手段を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の側扉(スライドドア)等に、利用者の手などが引き込まれるのを防止する戸袋引込防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図8は従来の鉄道車両の側扉の斜視図、図9は従来の鉄道車両の側扉と戸袋を示す模式図である。
【0003】
これらの図に示すように、鉄道車両の側扉100の先端部にはゴム101が装着され、下部には車(図示なし)が設けられ、上部の中央部には窓102が設けられている。この側扉100が開かれると戸車収納用レール103に導かれて、戸袋104に収容されるようになっている。また、側扉100の戸袋104への出入口にはゴム105が設けられている。
【0004】
また、開閉する装置に物体が挟まれたことを検知する挟み込み検知装置は種々開発されている(下記特許文献1〜3)。
【特許文献1】特開2006−064594号公報
【特許文献2】特開2003−220837号公報
【特許文献3】特開2002−004714公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、スライドドアが開扉する際に体の一部などを接触させることは殆どないが、鉄道車両の場合、混雑した列車などでは、側扉に利用者の身体の一部が接触してしまう可能性が高い。その状態で側扉が開扉されると、側扉と戸袋の間に利用者の手などが引き込まれる恐れがある。引き込まれると、(1)利用者の身体の一部に傷害を負う。(2)引き抜けないことで、列車の運行に支障を生ずる。
【0006】
上記に対する解決すべき課題は、現在の側扉が利用者の手などを引き込みやすい構造である点にある。しかし、側扉と戸袋の間の隙間をなくす(狭くする)ことは、側扉のたわみ等を考慮すると構造上限界があるため、隙間があっても引き込まれない(引き込み難い)構造とするのが望ましい。
【0007】
仮に引き込まれてしまった場合でも、乗客が気が付いて容易に引き抜ければ良いのだが、側扉が開く方向に引き込まれるため、摩擦もあって引き抜き難い。したがって、側扉と身体の一部等との間の摩擦を小さくする必要がある。
【0008】
また、現在、引き込まれていることを検知するセンサはないため、引き込みが発生すると、処置が遅れるために遅延が増大する。また、検知できても傷害を負う可能性があるといった問題があった。
【0009】
本発明は、上記状況に鑑みて、側扉と戸袋との隙間から戸袋の内側へと利用者の手などが進入しても、引き込まれるのを防止することができる戸袋引込防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕スライド式の扉の戸袋引込防止装置において、前記戸袋と前記スライド式の扉との間への進入物を前記戸袋の外部へと能動的に排除する排除手段を具備することを特徴とする。
【0011】
〔2〕上記〔1〕記載の戸袋引込防止装置において、前記排除手段が前記戸袋の出入口に配置される回転機構からなることを特徴とする。
【0012】
〔3〕上記〔2〕記載の戸袋引込防止装置において、前記回転機構が円筒形状のコロであることを特徴とする。
【0013】
〔4〕上記〔2〕記載の戸袋引込防止装置において、前記回転機構がエンドレス式の移動ベルトであることを特徴とする。
【0014】
〔5〕上記〔2〕記載の戸袋引込防止装置において、前記排除手段が前記戸袋の車内側のみに配置されることを特徴とする。
【0015】
〔6〕上記〔2〕記載の戸袋引込防止装置において、前記排除手段が前記スライド式の扉に配置される回転機構からなることを特徴とする。
【0016】
〔7〕上記〔6〕記載の戸袋引込防止装置において、前記回転機構が円筒形状のコロであることを特徴とする。
【0017】
〔8〕上記〔6〕記載の戸袋引込防止装置において、前記回転機構がエンドレス式の移動ベルトであることを特徴とする。
【0018】
〔9〕上記〔6〕記載の戸袋引込防止装置において、前記回転機構が円筒形状のコロ及びエンドレス式の移動ベルトであることを特徴とする。
【0019】
〔10〕上記〔6〕記載の戸袋引込防止装置において、前記排除手段が前記スライド式の扉の車内側のみに配置されることを特徴とする。
【0020】
〔11〕上記〔1〕〜〔10〕の何れか一項記載の戸袋引込防止装置において、前記排除手段が前記スライド式の扉の移動によって駆動される駆動源を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、側扉と戸袋との隙間から戸袋の内側へと利用者の手などが進入しても、引き込まれるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の戸袋引込防止装置は、戸袋とスライド式の扉との間への進入物を戸袋の外部へと能動的に排除する排除手段を具備する。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
図1は本発明の第1実施例を示す戸袋引込防止装置の模式図、図2はその戸袋内部を示す斜視図である。
【0025】
これらの図に示すように、鉄道車両の側扉1は戸車用レール2に沿って戸袋3に収容される。その側扉1が収容される戸袋3の出入口の車内側にはゴム4とその奥に円筒形状のコロ5が配置されている。側扉1が戸袋3へ引き込まれる際には、図2に示すように、右側の戸袋3の円筒形状のコロ5は駆動制御装置8によって制御される駆動源6から駆動機構7を介して時計回りに回転するように駆動させる。これに対して左側の戸袋3の円筒形状のコロ5は反時計回りに回転するように駆動させる。したがって、側扉1と戸袋3の隙間に利用者の手などが進入して来ると、それを戸袋3の外側に押し出すように作用するので、戸袋3への引込を防止することができる。
【0026】
上記実施例では、戸袋側に戸袋3への引込を防止する円筒形状のコロ5を配置するようにしたが、以下に示すように、側扉側に円筒形状のコロ5を配置して、戸袋3への引込を防止するようにしてもよい。
【0027】
また、上記実施例では、円筒形状のコロ5は車内側にのみ配置するようにしたが、必要に応じて側扉の車外側や戸袋の車外側にも配置するようにしてもよい。
【0028】
図3は本発明の第2実施例を示す戸袋引込防止装置の模式図、図4はその戸袋内部を示す斜視図である。
【0029】
これらの図に示すように、鉄道車両の側扉11は戸車用レール12に沿って戸袋13に収容される。その側扉11が収容される戸袋13の出入口の車内側にはゴム14とその背後にエンドレス式の移動ベルト15が配置されている。側扉11が戸袋13へ引き込まれる際には、図4に示すように、右側の戸袋13のエンドレス式の移動ベルト15を駆動制御装置18によって制御される駆動源16から駆動機構17を介してロッド状の回転体15Aが時計回りに回転するように駆動させる。これに対して左側の戸袋13のエンドレス式の移動ベルト15はロッド状の回転体15Bが反時計回りに回転するように駆動させる。したがって、側扉11と戸袋13の隙間に利用者の手などが進入して来ると、それを戸袋13の外側に押し出すように作用するので、戸袋13への引込を防止することができる。
【0030】
上記実施例では、戸袋側に戸袋13への引込を防止するエンドレス式の移動ベルト15を配置するようにしたが、以下に示すように、側扉側にエンドレス式の移動ベルト15を配置して、戸袋13への引込を防止するようにしてもよい。
【0031】
また、上記実施例では、エンドレス式の移動ベルト15は車内側にのみ配置するようにしたが、必要に応じて側扉の車外側や戸袋の車外側にも配置するようにしてもよい。
【0032】
図5は本発明の第3実施例を示す戸袋引込防止装置の模式図、図6はその側扉を示す斜視図である。
【0033】
これらの図に示すように、鉄道車両の側扉21,21′は戸車用レール31,31′に沿って戸袋32,32′に収容される。その側扉21,21′の車内側の面22,22′には円筒形状のコロ23,23′やエンドレス式の移動ベルト24を配置するようにしている。そして、側扉21,21′が戸袋32,32′へ引き込まれる際には、図5に示すように、左側の側扉21の円筒形状のコロ23やエンドレス式の移動ベルト24は、駆動制御装置28によって駆動される駆動源27から駆動機構25を介して時計回りに回転するように駆動させる。これに対して左側の側扉21′の円筒形状のコロ23′やエンドレス式の移動ベルト(図示なし)は反時計回りに回転するように駆動させる。したがって、側扉21,21′と戸袋32,32′の隙間に利用者の手などが進入して来ると、それを戸袋32,32′の外側に押し出すように作用するので、戸袋32,32′への引込を防止することができる。なお、26は円筒形状のコロ23の間に配置される窓である。
【0034】
また、上記実施例では、円筒形状のコロ23,23′及びエンドレス式の移動ベルト24を設けるようにしているが、何れかを選択して用いるようにしてもよい。つまり、円筒形状のコロ23,23′のみとしてもよいし、エンドレス式の移動ベルト24のみを設けるようにしてもよい。なお、エンドレス式の移動ベルト24を配置する場合には窓26に考慮して配置する。
【0035】
なお、回転機構である円筒状のコロ23,23′は短めの円筒形状のコロを複数個配置するようにしてもよい。また、それ以外にも種々の変形が可能である。
【0036】
また、上記した実施例の駆動制御装置8,18,28は図示していない車掌スイッチ等のドア「開」指令の出力によって動作するように構成している。
【0037】
図7は本発明の他の実施例を示す戸袋引込防止装置の駆動系の構成図であり、図7(a)はその鉄道車両の側扉の平面図、図7(b)−1〜図7(b)−4はその駆動系の模式図である。
【0038】
図7(a)に示すように、鉄道車両の側扉41にラック42を設ける場合〔図7(b)−3,図7(b)−4参照)には、側扉の略幅一杯に配置する。
【0039】
(1)まず、図7(b)−1に示すように、戸袋51にはラック52を配置し、側扉53にはこのラック52に噛み合うように、歯車を有するコロ54を複数個配置する。すると、側扉53に設けられた歯車を有するコロ54は矢印Aのように回転しながら、戸袋51に収納されることになる。したがって、コロ54は戸挟みを解消する方向に回転しているので、戸挟みを防止することができる。
【0040】
(2)次に、図7(b)−2に示すように、戸袋51にはラック52を配置し、側扉53にはこのラック52に噛み合うように、歯車を有するコロ55を配置する。この歯車を有するコロ55の回転によってエンドレス式の移動ベルト56が駆動され、そのエンドレス式の移動ベルト56の終端部にある円筒形状のコロ57が回転する。この円筒形状のコロ57は矢印Bのように戸挟みを解消する方向に回転しているので、戸挟みを防止することができる。
【0041】
(3)次に、図7(b)−3に示すように、戸袋61にはその入口近傍に、歯車を有するコロ63が連結されるピニオン歯車62が配置される。側扉64にはそのピニオン歯車62に噛み合うようにラック65が配置されている。したがって、ラック65が配置された側扉64が戸袋61内へと移動すると、ピニオン歯車62は矢印Aのように回転し、その回転により歯車を有するコロ63が矢印Bのように回転する。この歯車を有するコロ63は、戸挟みを解消する方向に回転しているので、戸挟みを防止することができる。
【0042】
(4)次に、図7(b)−4に示すように、戸袋71にはその入口近傍に、歯車を有するコロ74と連結するエンドレス式の移動ベルト73と、それを駆動するピニオン歯車72が配置されている。側扉75にはそのピニオン歯車72に噛み合うようにラック76が配置されている。したがって、ラック76が配置された側扉75が戸袋71内へと移動すると、ピニオン歯車72は矢印Aのように回転し、その回転により歯車を有するコロ74が矢印Bのように回転する。この歯車を有するコロ74は、戸挟みを解消する方向に回転しているので、戸挟みを防止することができる。
【0043】
上記したいずれの駆動系も、側扉の動きに従った駆動源を備えている。
【0044】
また、上記実施例では、鉄道車両の戸袋引込防止装置について述べたが、一般的なスライド式の扉を有するものにも適用できる。例えば、エレベータや、遊園地の乗物などは子供の手が挟まる恐れがあるので、本発明の適用は広く、かつ、その効果は著大である。
【0045】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の戸袋引込防止装置は、スライド式の扉の戸袋への利用者の手などの引込み防止装置として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1実施例を示す戸袋引込防止装置の模式図である。
【図2】本発明の第1実施例を示す戸袋引込防止装置の戸袋内部を示す斜視図である。
【図3】本発明の第2実施例を示す戸袋引込防止装置の模式図である。
【図4】本発明の第2実施例を示す戸袋引込防止装置の戸袋内部を示す斜視図である。
【図5】本発明の第3実施例を示す戸袋引込防止装置の模式図である。
【図6】本発明の第3実施例を示す戸袋引込防止装置の側扉を示す斜視図である。
【図7】本発明の他の実施例を示す戸袋引込防止装置の駆動系の構成図である。
【図8】従来の鉄道車両の側扉の斜視図である。
【図9】従来の鉄道車両の側扉と戸袋を示す模式図である。
【符号の説明】
【0048】
1,11,21,21′41,53,64,75 鉄道車両の側扉
2,12,31,31′ 戸車用レール
3,13,32,32′,51,61,71 戸袋
4,14,33,43, ゴム
5,23,23′,57 円筒形状のコロ
6,16,27 駆動源
7,17,25 駆動機構
8,18,28 駆動制御装置
15,24,56,73 エンドレス式の移動ベルト
15A,15B ロッド状の回転体
22,22′ 側扉の車内側の面
26 窓
42,62,72 ピニオン歯車
52,65,76 ラック
54,55,63,74 歯車を有するコロ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライド式の扉の戸袋引込防止装置において、前記戸袋と前記スライド式の扉との間への進入物を前記戸袋の外部へと能動的に排除する排除手段を具備することを特徴とする戸袋引込防止装置。
【請求項2】
請求項1記載の戸袋引込防止装置において、前記排除手段が前記戸袋の出入口に配置される回転機構からなることを特徴とする戸袋引込防止装置。
【請求項3】
請求項2記載の戸袋引込防止装置において、前記回転機構が円筒形状のコロであることを特徴とする戸袋引込防止装置。
【請求項4】
請求項2記載の戸袋引込防止装置において、前記回転機構がエンドレス式の移動ベルトであることを特徴とする戸袋引込防止装置。
【請求項5】
請求項2記載の戸袋引込防止装置において、前記排除手段が前記戸袋の車内側のみに配置されることを特徴とする戸袋引込防止装置。
【請求項6】
請求項2記載の戸袋引込防止装置において、前記排除手段が前記スライド式の扉に配置される回転機構からなることを特徴とする戸袋引込防止装置。
【請求項7】
請求項6記載の戸袋引込防止装置において、前記回転機構が円筒形状のコロであることを特徴とする戸袋引込防止装置。
【請求項8】
請求項6記載の戸袋引込防止装置において、前記回転機構がエンドレス式の移動ベルトであることを特徴とする戸袋引込防止装置。
【請求項9】
請求項6記載の戸袋引込防止装置において、前記回転機構が円筒形状のコロ及びエンドレス式の移動ベルトであることを特徴とする戸袋引込防止装置。
【請求項10】
請求項6記載の戸袋引込防止装置において、前記排除手段が前記スライド式の扉の車内側のみに配置されることを特徴とする戸袋引込防止装置。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか一項記載の戸袋引込防止装置において、前記排除手段が前記スライド式の扉の移動によって駆動される駆動源を具備することを特徴とする戸袋引込防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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