説明

所与の標的に対してアフィニティーを有するhNGALおよび類縁タンパク質のムテイン

本発明は、検出可能なアフィニティーで所与の非天然リガンドに結合する、ヒトリポカリン2(hNGAL)および類縁タンパク質に由来する新規のムテインに関する。本発明はまた、このようなムテインをコードする対応する核酸分子、およびそれらを生成させる方法にも関する。本発明はさらに、このようなムテインを産生する方法に関する。さらにまた、本発明は、このようなリポカリンムテインを含む医薬組成物のほか、該ムテインの各種の使用も対象とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その内容が、参照により、すべての目的についてのその全体において本明細書に組み込まれる、2008年6月24日に出願された米国仮出願第61/075,175号の優先権による利益を主張する。
【0002】
本発明は、検出可能なアフィニティーで所与の非天然リガンドに結合する、ヒトリポカリン2(hNGAL)および類縁タンパク質に由来する新規のムテインに関する。本発明はまた、このようなムテインをコードする対応する核酸分子、およびそれらを生成させる方法にも関する。本発明はさらに、このようなムテインを産生する方法に関する。さらにまた、本発明は、このようなリポカリンムテインを含む医薬組成物のほか、該ムテインの各種の使用も対象とする。
【背景技術】
【0003】
リポカリンは、多くの生物において、可溶性に乏しいか、または化学的に感受性のビタミン、ホルモン、および代謝物(レチノイド、脂肪酸、コレステロール、プロスタグランジン、ビリベルジン、フェロモン、味物質、付臭剤など)の輸送または保存に用いられる、小型でかつ頑健な分泌性タンパク質の多様なファミリーである(Akerstroemら編(2006年)、「Lipocalins」、テキサス州、ジョージタウン、Landes Bioscience社;Pervaiz,S.およびBrew,K.(1987)、FASEB J.、1巻、209〜214頁)。かつて、リポカリンは、主に輸送タンパク質として分類されていたが、今日では、各種の生理学的機能を果たすことが明らかである。これらには、レチノール輸送、嗅覚、フェロモンのシグナル伝達、およびプロスタグランジンの合成における役割が含まれる。リポカリンはまた、免疫反応の調節、および細胞ホメオスタシスの媒介にも関与している(例えば、Flower,D.R.(1996年)、Biochem.J.、318巻、1〜14頁;およびFlower,D.R.ら(2000年)、Biochim.Biophys.Acta、1482巻、9〜24頁において総説されている)。
【0004】
リポカリンは、全体的な配列保存のレベルが極めて低く、配列同一性は20%未満であることが多い。これとは極めて対照的に、それらの全体的な折り畳みパターンは、高度に保存されている。リポカリン構造の中心部分は、自身に近接する形で折り返され、連続的に水素結合してβバレルを形成する、逆平行の8本のストランドによる単一のβシートからなる。βバレルの一方の端部は、その底部を横切るN末端ペプチドセグメントのほか、βストランドを連結する3つのペプチドループにより、立体障害的に閉鎖されている。βバレルの他方の端部は溶媒に対して開口しており、4つのペプチドループにより形成される標的結合部位を包含する。その他の点では固定的なリポカリン骨格にあって、ループがこのような多様性を有するために、各々が、サイズ、形状、および化学的特徴の異なる標的に適合しうる、各種の異なる結合方式がもたらされる(例えば、Flower,D.R.(1996年)、前出;Flower,D.R.ら(2000年)、前出;およびSkerra,A.(2000年)、Biochim.Biophys.Acta、1482巻、337〜350頁において総説されている)。
【0005】
ヒト体内において見出されるリポカリンファミリーの10〜12のメンバーのうち、ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(hNGAL)(Kjeldsenら(2000年)、Biochim.Biophys.Acta、1482巻、272〜283頁)(リポカリン2(Lcn2)としても知られ、より近年では、シデロカリンの別名(Goetzら(2002年)、Mol.Cell、10巻、1033〜1043頁)でも知られる)は、特定の細菌のシデロフォアに結合するFe3+イオンを除去することにより、細菌感染に対する生得的免疫防御における役割を果たす。
【0006】
このようなシデロフォアは、限界的な鉄濃度に応答して、病原性細菌により分泌される、極めて強力な鉄キレート化剤であり(SchaibleおよびKaufmann(2004年)、Nat.Rev.Microbiol.、2巻、946〜953頁)、ヒト体液中で発生すると、細菌による、特化された移入システムを介する鉄の取込みを可能とする(BraunおよびBraun(2002年)、Curr.Opin.Microbiol.、5巻、194〜201頁;Fischbachら(2006年)、Nat.Chem.Biol.、2巻、132〜138頁)。好中球は、感染部位における抗微生物戦略として、hNGALを放出すると考えられる。実際、対応するノックアウトマウスでは、hNGALの生理学的関与性が裏付けられており、そこでは、エンテロバクチンを介する鉄移入に依拠する細菌の増殖を制限するのに、このリポカリンが本質的であることが示された(Floら(2004年)、Nature、432巻、917〜921頁)。
【0007】
hNGAL(Lcn2とも称する;SWISS−PROTデータバンク受託番号:P80188)は、大腸菌に特徴的な、カテコレート型のシデロフォアであるFe3+・エンテロバクチン(またはエンテロケリン)に対する強力な結合活性を有する、178アミノ酸の糖タンパク質である(Raymondら(2003年)、Proc.Natl.Acad.Sci.U S A、100巻、3584〜8頁)。hNGALは、ヒト血漿に豊富なタンパク質であり、その正常濃度は約80μg/Lであり、細菌感染時には10倍まで上昇する可能性があり(XuおよびVenge(2000年)、Biochim.Biophys.Acta、1482巻、298〜307頁)、そのNが連結された単一のグリコシル化部位は、折り畳みに不要である(Colesら(1999年)、J.Mol.Biol.、289巻、139〜157頁)。他のリポカリンと比較して、hNGALは、極めて大型のポケットを示す。その内部では、正に帯電した側鎖のクラスターが、解離定数(KD)0.4nMの、負に帯電した第二鉄のシデロフォアに対する驚くべきアフィニティーを付与し(Goetzら、前出)、これにより、細菌による取込みシステムとの効果的な競合が可能となる。hNGALはまた、化学的に類縁であり、炭疽菌に由来する、バチリバクチン(Abergelら(2006年)、Proc.Natl.Acad.Sci.U S A、103巻、18499〜18503頁)、また、サイズおよび形状が同等のシデロフォア類であり、結核菌に由来する、カルボキシマイコバクチン(Holmesら(2005年)、Structure、13巻、29〜41頁)とも、安定的な複合体を形成するので、このリポカリンによるリガンド認識は、かなり特異的である。しかし、hNGALは、炭疽菌の毒性に極めて重要なシデロフォアであるペトロバクチン(Abergelら、前出)、またはサルモネラ属種および肺炎桿菌により生成されるサルモケリンなど、C−グリコシル化されたエンテロバクチン類似体(Fischbachら、前出)には結合しない。ヒトLcn2に対する動物の相同体は、ラットα2ミクログロブリン類縁タンパク質(A2m;SWISS−PROTデータバンク受託番号:P31052)、およびマウス24p3/ウテロカリン(24p3;SWISS−PROTデータバンク受託番号:P11672)である。
【0008】
非共有結合的相互作用を介してそれらの対応する標的に選択的に結合するタンパク質は、バイオテクノロジー、医療、生物学的解析のほか、生物科学および生命科学一般において、試薬として極めて重要な役割を果たす。抗体、すなわち免疫グロブリンは、このクラスのタンパク質の顕著な例である。リガンド/標的の認識、リガンド/標的に対する結合、および/またはリガンド/標的の分離を伴うこのようなタンパク質に対する多岐にわたる必要にもかかわらず、今日用いられているのは、ほぼ免疫グロブリンだけである。明確なリガンド結合特徴を有する他のタンパク質、例えば、レクチンの適用は、依然として特殊な場合に制約されている。
【0009】
リポカリンファミリーのメンバーが、明確なリガンド結合特性を有するタンパク質に関する研究対象となったのは、ごく近年のことである。PCT出願公開第WO99/16873号は、オオモンシロチョウのビリン結合タンパク質の結合ポケットを包含する円筒形のβバレル構造の端部に配置され、また、このタンパク質の直鎖状ポリペプチド配列内における、アミノ酸位置28〜45、58〜69、86〜99、および114〜129を含むセグメントに対応する、4つのペプチドループの領域内において突然変異したアミノ酸の位置を有するリポカリンファミリーのポリペプチドについて開示している。
【0010】
PCT出願公開第WO00/75308号が、ジゴキシゲニンに特異的に結合するビリン結合タンパク質のムテインについて開示する一方、国際特許出願第WO03/029463号および同第WO03/029471号は、それぞれ、ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(hNGAL)、およびアポリポタンパク質Dのムテインに関する。リポカリン変異体のリガンドアフィニティー、リガンド特異性のほか、折り畳み安定性を、さらに改善および微調整するため、さらなるアミノ酸残基の置換など、リポカリンファミリーの異なるメンバーを用いる各種の手法が提起されている(Skerra,A.(2001年)、Rev.Mol.Biotechnol.、74巻、257〜275頁;Schlehuber,S.およびSkerra,A.(2002年)、Biophys.Chem.96巻、213〜228頁)。PCT出願公開第WO2006/56464号は、ナノモル範囲の低濃度においてCTLA−4に対する結合アフィニティーを有する、ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンのムテインについて開示している。
【0011】
PCT出願公開第WO2005/19256号は、異なる標的リガンドまたは同じ標的リガンドに対して少なくとも1つの結合部位を有する、涙液リポカリンのムテインについて開示し、ヒト涙液リポカリンのこのようなムテインを発生させる方法を提供している。このPCT出願によれば、結合アフィニティーを有するムテインを発生させるために、涙液リポカリンの一次配列内にある特定のアミノ酸ストレッチ、特に、成熟ヒト涙液リポカリンのアミノ酸7〜14、24〜36、41〜49、53〜66、69〜77、79〜84、87〜98、および103−110を含むループ領域を突然変異誘発にかける。結果として得られるムテインは、選択されたリガンドに対してナノモル範囲の結合アフィニティー(KD)を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の参考文献で開示されるリポカリンムテインは、タンパク質様の標的高分子に優先的に結合するように選択され、低分子に結合するようには選択されていない。したがって、この分野でなされた進歩にもかかわらず、高度の結合アフィニティー、例えば、ナノモル範囲のアフィニティーで低分子に結合するように特異的に適合させたhNGALムテインが得られれば望ましいであろう。このようなムテインによれば、診断的適用および治療的適用におけるhNGALムテインの適性がさらに改善されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
独立請求項の特徴を有するhNGALのムテイン、または類縁タンパク質のムテインにより、この目的が達成される。
【0014】
第1の態様において、本発明は、ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(hNGAL)、ラットα2ミクログロブリン類縁タンパク質(A2m)、およびマウス24p3/ウテロカリン(24p3)からなる群から選択されるタンパク質に由来するムテインであって、hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置33、36、41、52、54、68、70、79、81、134、136、および138に対応する配列位置のうちのいずれかにおいて、少なくとも1つの突然変異させたアミノ酸残基を包含し、検出可能なアフィニティーで所与の標的に結合するムテインを提供する。
【0015】
これに関して、本発明は、ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(hNGAL)、ラットα2ミクログロブリン類縁タンパク質(A2m)、およびマウス24p3/ウテロカリン(24p3)を、これら上述の12の配列位置のうちの1または複数の箇所において突然変異誘発にかけることにより、事前に規定された低分子量の標的に対して十分な程度に親和的に結合するムテインが提供されるという驚くべき知見に基づくことが注目される。
【0016】
これに関してはまた、現代医療において、金属キレート錯体など、低分子量の化合物が、医療目的、例えば、放射免疫療法(RIT)の目的で、また、診断的目的、例えば、in vivoイメージングで、ますます大きな役割を果たしていることも注目される(KenanovaおよびWu(2006年)、Expert Opin.Drug Deliv.、3巻、53〜70頁)。このような目的で、腫瘍特異的な細胞表面マーカーを指向する抗体(または疾患に関連する受容体に特異的なペプチド)を、これまでのところ、強力な合成キレート化剤、特に、DOTA(1,4,7,10−テトラ−アザシクロドデカン−N,N’,N’’,N’’’−四酢酸)およびDTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)、またはこれらの誘導体と化学的にコンジュゲートさせ(Milenicら(2004年)、Nat.Rev.Drug Discov.、3巻、488〜499頁)、次いで、Y3+またはLu3+など、希土類元素の放射性核種、または類似の3価金属イオン、例えば、In3+またはBi3+によりこれらを帯電させる。放射性核種とコンジュゲートさせた、CD20を指向する2つの抗体である、Zevalin(登録商標)およびBexxar(登録商標)が、非ホジキンリンパ腫の治療について承認されており、多くの抗体およびそれらのフラグメントが、現在、薬物動態および腫瘍ターゲティングを改善するためのタンパク質操作にかけられている(KenanovaおよびWu、前出)。
【0017】
核医学用ヒト化抗体の主要な障害は、循環時間が長いことであり、これにより、RITにおける造影コントラストが低下し、腫瘍特異性が制約される。この問題を回避するため、キレート化された放射性核種から、腫瘍ターゲティング抗体を結合解除する、いわゆるプレターゲティング戦略が開発されている(Changら(2002年)、Mol.Cancer Ther.、1巻、553〜563頁)。これにより、第1段階における、抗体による位置特定および循環からのクリアランスという緩徐な過程の後、第2段階において、低分子の放射性積載物の迅速かつ特異的な送達が可能となる。まず、ビオチニル化された放射性核種のキレートと共に、抗体−ストレプトアビジンコンジュゲートを適用し、その後、エピトープペプチドとコンジュゲートしたキレート錯体と共に、二特異性抗体を適用した。さらに、金属キレートに直接的に結合しうるモノクローナル抗体が開発された(Le Doussalら(1990年)、Cancer Res.、50巻、3445〜3452頁;Corneillieら(2003年)、J.Am.Chem.Soc.、125巻、3436〜3437頁;Corneillieら(2003年)、J.Am.Chem.Soc.、125巻、15039〜15048頁)。
【0018】
しかし、理想的な系となると、遺伝子融合戦略を用いて、ターゲティングペプチド/タンパク質のモジュール(例えば、天然の受容体リガンド、抗体フラグメント(KenanovaおよびWu、前出)、または代替的な結合タンパク質(Skerra(2007年)、Curr.Opin.Biotechnol.、18巻、295〜304頁;Skerra(2007年)、Curr.Opin.Mol.Ther.、9巻、336〜344頁)に容易に結合させうる、頑健な折り畳み特性を有する単一のポリペプチド鎖を含む、低分子金属キレートに特異的な結合タンパク質であろう。hNGAL、ラットα2ミクログロブリン類縁タンパク質(A2m)、およびマウス24p3/ウテロカリン(24p3)のムテインは、このような標的低分子に対する高度の結合アフィニティーを有する、このようなタンパク質を提供する。
【0019】
本明細書で用いられる「ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン」もしくは「hNGAL」または「リポカリン2」もしくは「Lcn2」という用語は、SWISS−PROTデータバンク受託番号:P80188を有する成熟hNGALを指す。ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンのアミノ酸配列を、配列番号1に示す。本出願で用いられる「ラットα2ミクログロブリン類縁タンパク質」または「A2m」、および「マウス24p3/ウテロカリン」または「24p3」という用語は、それぞれ、SWISS−PROTデータバンク受託番号:P31052およびP11672を有する成熟A2mまたは24p3を指す。
【0020】
所与の標的は、任意の所望の非天然標的/リガンドでありうる。「非天然リガンド」という用語は、生理学的条件下においては天然の成熟hNGALに結合しない、任意の化合物を指す。標的(リガンド)は、免疫学的ハプテン、例えば、金属キレート化剤などの有機低分子、または、例えば、2〜約25、もしくは約30、もしくは約35アミノ酸の長さのペプチド(下記を参照されたい)の特徴を示す、遊離形態またはコンジュゲート形態にある任意の化合物でありうる。
【0021】
本明細書で用いられる「有機分子」または「有機低分子」という用語は、少なくとも2つの炭素原子を含むが、7または12以下の回転可能な炭素結合を含むことが好ましく、分子量が100〜2000ドルトン、好ましくは100〜1000ドルトンの範囲にあり、また場合によって、1つまたは2つの金属原子を包含する有機分子を指す。
【0022】
標的分子に関して本明細書で用いられる「ペプチド」という用語は、2〜40、2〜35、2〜30、2〜25、2〜20、2〜15、または2〜10のアミノ酸残基を有するジペプチドまたはオリゴペプチドを指す。ペプチドは、天然ペプチドの場合もあり、合成ペプチドの場合もあり、また、(20種類の天然のL−アミノ酸のほかに)D−アミノ酸、非天然アミノ酸、およびアミノ酸類似体を含みうる。
【0023】
本発明のhNGALムテイン(またはラットα2ミクログロブリン類縁タンパク質(A2m)およびマウス24p3/ウテロカリン(24p3)のムテイン)は、突然変異したアミノ酸配列の配列位置以外に、野生型(天然)のアミノ酸配列も含みうる。他方、本明細書で開示されるリポカリンムテインはまた、それらの突然変異が、該ムテインの結合活性および折り畳みを妨げない限りにおいて、突然変異誘発にかける配列位置以外におけるアミノ酸の突然変異も含有しうる。このような突然変異は、確立された標準的な方法(Sambrook,J.ら(1989年)、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第2版、ニューヨーク州、コールドスプリングハーバー、Cold Spring Harbor Laboratory Press社)を用いて、DNAレベルにおいて極めて容易に達成することができる。アミノ酸配列の可能な変化は、挿入または欠失のほか、アミノ酸置換である。このような置換は保存的である、すなわち、アミノ酸残基は、化学的に類似のアミノ酸残基により置換される。保存的置換の例は、以下の群:1)アラニン、セリン、およびトレオニン;2)アスパラギン酸およびグルタミン酸;3)アスパラギンおよびグルタミン;4)アルギニンおよびリシン;5)イソロイシン、ロイシン、メチオニン、およびバリン;ならびに6)フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンのメンバー間における置換である。他方、アミノ酸配列内にはまた、非保存的変化も導入することが可能である。加えて、それらの欠失または挿入の結果、安定的に折り畳まれた/機能的なムテインがもたらされる限りにおいて、単一のアミノ酸残基を置換する代わりに、hNGALの一次構造による1または複数の連続するアミノ酸を挿入するかまたは欠失させることもまた可能である。
【0024】
アミノ酸配列のこのような変更には、特定の制限酵素に応じた切断部位を組み込むことにより、突然変異したリポカリン遺伝子またはその部分のサブクローニングの簡略化を目的とする、単一アミノ酸の複数位置に対する指向突然変異誘発が含まれる。加えて、これらの突然変異はまた、所与の標的に対するリポカリンムテインのアフィニティーをさらに改善する目的で組み込むこともできる。さらに、突然変異は、折り畳みの安定性、血清中における安定性、タンパク質耐性、または水溶性を改善するなど、ムテインの特定の特徴を調節するか、または必要な場合、凝集傾向を低下させる目的で導入することもできる。例えば、天然のシステイン残基を他のアミノ酸に突然変異させて、ジスルフィド架橋形成を防止することができる。しかし、また、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ヒドロキシエチルデンプン(HES)、ビオチン、ペプチド、またはタンパク質など、他の化合物とコンジュゲートさせるため、または非天然のジスルフィド結合を形成するための新規の反応基を導入する目的で、他のアミノ酸配列位置をシステインに意図的に突然変異させることも可能である。hNGALムテインのアミノ酸配列内にシステイン残基を導入するこのような突然変異の例示的な可能性には、hNGALの野生型配列の配列位置14、21、60、84、88、116、141、145、143、146、または158に対応する配列位置のうちの少なくとも1カ所におけるシステイン(Cys)残基の導入が含まれる。例えば、各々のhNGALムテインの血清半減期を延長する目的で、アミノ酸位置14、21、60、84、88、116、141、145、143、146、および/または158のうちのいずれかの側鎖において生成されるチオール部分を用いて、該ムテインをPEG化またはHES化することができる。
【0025】
本発明の一実施形態において、ムテインは、hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置33、36、41、52、54、68、70、79、81、134、136、および138に対応する配列位置のうちの、任意の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11カ所、または12カ所すべてにおいて突然変異させたアミノ酸残基を包含する。
【0026】
本発明のさらなる実施形態において、ムテインは、hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置42、48、49、55、75、77、80、および127に対応する配列位置のうちのいずれかにおいて、少なくとも1つの突然変異させたアミノ酸残基をさらに包含する。このようなムテインは、例えば、hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置33、36、41、42、48、49、52、54、55、68、70、75、77、79、80、81、127、134、136、および138に対応する配列位置のうちのいずれかにおいて、少なくとも9つの突然変異させたアミノ酸残基を包含しうる。本発明の一実施形態において、ムテインは、上記で列挙した配列位置のうちの、任意の少なくとも10、14、15カ所、または20カ所すべてにおいて突然変異させたアミノ酸残基を包含する。ムテインは、hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置43、44、46、47、50、51、59、65、78、86、87、98、99、103、107、110、および111に対応する配列位置のうちのいずれかにおいて、少なくとも1つの突然変異させたアミノ酸残基をさらに含みうる。このようなムテインは、例えば、hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置33、36、41、42、43、44、46、47、48、49、50、51、52、54、55、59、65、68、70、75、77、78、79、80、81、86、87、98、99、103、107、110、111、127、134、136、および138に対応する配列位置のうちのいずれかにおいて、少なくとも9つの突然変異させたアミノ酸残基を包含しうる。
【0027】
本発明の一実施形態において、ムテインは、上記で列挙した配列位置のうちの、任意の少なくとも10、14、15、20、22、24、26、28、29、30、31、32、33、35カ所、または37カ所すべてにおいて突然変異させたアミノ酸残基を包含する。
【0028】
本発明のまたさらなる実施形態において、ムテインは、hNGALの野生型配列のうちの配列位置65、71、73、74、116、125、および135に対応する配列位置のうちの少なくとも1カ所において、成熟hNGALの野生型アミノ酸配列に対してさらなるアミノ酸置換を包含する。
【0029】
さらに別の実施形態において、本発明のムテインは、Glu28→His、Cys87→Ser、およびThr145→Alaからなる群から選択されるアミノ酸置換のうちの1つまたは複数をさらに包含しうる。
【0030】
本発明のリポカリンムテインは、検出可能なアフィニティーで、すなわち、少なくとも200nMの解離定数により、所望の標的に結合することが可能である。一部の実施形態では、所与の標的に対する、少なくともまた100、20、1nM以下の解離定数により所望の標的に結合するリポカリンムテインが好ましい。所望の標的に対するムテインの結合アフィニティーは、フルオレセイン滴定、競合ELISA、または表面プラズモン共鳴(Biacore)など多くの方法により測定することができる。
【0031】
複合体形成は、結合パートナーの濃度、競合物質の存在、緩衝液系のイオン強度など、多くの因子に依存することは当業者にとっては容易に明らかであろう。選択および濃縮は一般に、所望の標的との複合体において、少なくとも200nMの解離定数を有するリポカリンムテインの単離を可能とする条件下において実施される。しかし、洗浄ステップおよび溶出ステップは、様々な厳密性の下で実施することができる。反応速度特徴に関する選択もまた可能である。例えば、標的からの緩徐な解離、または、言い換えれば、低値のkoff速度を示すムテインとの標的の複合体形成を促進する条件下において選択を実施することができる。代替的に、選択は、ムテインと標的との迅速な複合体形成を促進する条件下、または、言い換えれば、高値のkon速度に見合う条件下において選択を実施することができる。
【0032】
本発明のhNGALムテインは、単量体タンパク質として存在することが典型的である。しかし、また、本発明のリポカリンムテインが、自発的に二量体化またはオリゴマー化しうることも可能である。例えば、より迅速な拡散、およびより良好な組織透過のために、一部の適用には、安定的な単量体を形成するリポカリンムテインの使用が好ましい可能性もあるが、他の場合においては、安定的なホモ二量体または多量体が、所与の標的に対するアフィニティーおよび/またはアビディティーの(さらなる)上昇をもたらしうるので、このような多量体を形成するリポカリンムテインの使用が有利な可能性もある。さらに、リポカリンムテインのオリゴマー形態は、解離速度がより緩徐な場合もあり、血清半減期が延長される場合もある。
【0033】
本発明の一実施形態によれば、ムテインは、有機低分子に結合する。有機低分子は、金属キレート化剤の場合もあり、金属キレート化剤を含有するカルボキシ基またはアミノ基などの薬剤の場合もある。このようなキレート化剤の非限定的な例は、少数の例示的な例だけを挙げれば、エチレン−ジアミン−四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、1,4,7,10−テトラ−アザシクロドデカン−N,N’,N’’,N’’’−四酢酸(DOTA)、または2−メチル−6−(p−イソチオシアナトベンジル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−四酢酸(1B4M−DOTA)、2−(p−イソチオシアナトベンジル)−5,6−シクロヘキサノ−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−四酢酸(CHX−DOTA)、2−(p−イソチオシアナトベンジル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−四酢酸(C−DOTA)、および1,4,7,10−テトラアザ−N−(1−カルボキシ−3−(4−ニトロフェニル)プロピル)−N’,N’’,N’’’−トリス(酢酸)シクロドデカン(PA−DOTA)など、これらの誘導体(例えば、Chappell,L、「Synthesis and evaluation of novel bifunctional chelating agents based on 1,4,7,10−tetraazacyclododecane−N,N’,N’’,N’’’−tetraacetic acid for radiolabeling proteins」、Nuclear Medicine and Biology、30巻、6号、581〜595頁を参照されたい)である。DTPA、DOTA、またはこれらの誘導体は、例えば、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、インジウム(In)、ルテチウム(Lu)、およびビスマス(Bi)からなる群から選択される金属イオンと錯化しうる。DTPA誘導体は、例えば、米国特許第5,124,471号、同第5,286,850号、同第5,434,287号で説明される、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)系列のアミノ酸を含めたシクロヘキシル−DTPAでありうる。本発明のムテインにより結合されうるキレート化剤の別の例は、米国特許第5,756,825号で説明されるヒドロキサム酸ベースの二官能性キレート化剤である。別の例は、p−SCN−Bz−HEHA(1,4,7,10,13,16−ヘキサアザシクロ−オクタデカン−N,N’,N’’,N’’’,N’’’’,N’’’’’−六酢酸)(Dealら、J.Med.Chem.、42巻、2988頁、1999年)と称するキレート化剤であり、225Acなど、放射性核種の有効なキレート化剤である。
【0034】
これに関して、本発明を用いて任意のキレート化剤に結合しうるムテインを生成させ、該キレート化剤を所与の放射性核種に錯化させうることが注目される。物理的特性および化学的特性などの特徴、ならびに放射線照射の性質が、放射性核種の治療適性の決定因子である。細胞傷害性の放射性核種は、3群の放射性化学物質:ハロゲン(ヨウ素、211At)、金属(90Y、67Cu、213Bi、212Bi)、および遷移元素(186Re)に分類することができる。放射性核種は、4種類の細胞傷害性薬剤:純粋なβ線放射体(67Cu、90Y)、α線放射体(213Bi、211At)、γ線を放射するβ線放射体(177Lu、186Re、131I)、ならびに、125Iおよび67Gaを含めた、オージェ放射体および内部転換により崩壊する放射性核種にさらに類別することができる。これらの放射性核種のうちのいずれかと錯体を形成するキレート化剤に結合するムテインの使用が、本発明では意図される(例えば、Yuliya S.JhanwarおよびChaitanya Divgi、「Current Status of Therapy of Solid Tumors」、Journal of Nuclear Medicine、46巻、1号(増刊号)、141S〜150S頁、2005年を参照されたい)。
【0035】
所与の標的として用いうる低分子の純粋に例示的な別の例は、[4+2]ディールス−アルダー反応の遷移状態類似体として関心が見出されている、ノルボルネンハプテンなどのハプテンである(例えば、Xuら、Science、1999年、286巻、2345〜2348;またはHilvertら、J.Am.Chem.Soc.、1989年、111巻、9261〜9262頁を参照されたい)。それに対しては、免疫反応(これは、抗体の生成を意味する)もまた発生しうる、すべての可能な低分子に対してアフィニティーを有するムテインの生成に対する本発明の適性を示すため、実施例16では、このようなハプテンを用いた。したがって、ここでもまた、所与の標的が任意のハプテンでありうることが注目される。
【0036】
代替的に、本発明の別の実施形態において、本発明のムテインは、ペプチド、例えば、2〜40、2〜35、2〜30、2〜25、2〜20、2〜15、または2〜10アミノ酸の長さのペプチドにも結合しうる。ペプチドは、例えば、アンジオテンシン(アンジオテンシンI〜IV)、ナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNP、CNP)、バソプレッシンペプチド、オキシトシンペプチド、またはオピオイドペプチド(エンケファリン、エンドルフィン、ダイノルフィン)などの天然ペプチドの場合もあり、合成ペプチドの場合もある。
【0037】
本発明の一実施形態によれば、hNGALのムテインは、50nM以下のKDにより、DOTAまたはシクロヘキシル−DTPAなどのキレート化剤に結合する。
【0038】
DOTAまたはシクロヘキシル−DTPAなどのキレート化剤に結合する、本発明のhNGALムテインは、Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Trp79→Ala、Leu;Arg81→Met;Lys134→Ser;Thr136→SerおよびTyr138→Leuからなる群から選択される、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12カ所のアミノ酸置換を、成熟hNGALのアミノ酸配列に対して含みうる。一般に、このようなムテインは、200nM以下、100nM以下、20nM以下、もしくは1nMのKDにより、さらにまたはそれ未満のピコモル範囲にあるKDにより、シクロヘキシル−DTPAに結合する。したがって、本発明はまた、900pM以下、600pM以下、500pM以下、250pM、100pM以下、60pM以下、または40pM以下のKDによりシクロヘキシル−DTPAに結合するhNGALムテインも包含する。ムテイン−リガンド複合体のKD値を決定するのに適する方法は当業者に知られており、これには、フルオレセイン滴定、競合ELISA、等温滴定熱量測定(ITC)などの熱量測定法、および表面プラズモン共鳴が含まれる。このような方法の例は、以下で詳述される(例えば、実施例を参照されたい)。
【0039】
これに関して、各々のムテインおよびそのリガンドにおける複合体形成は、各々の結合パートナーの濃度、競合物質の存在、用いられる緩衝液系のpHおよびイオン強度、また、解離定数KDの決定に用いられる実験方法(例えば、少数を挙げるにとどめれば、フルオレセイン滴定、競合ELISA、または表面プラズモン共鳴)、さらにまたは、該実験データの評価に用いられる数学的アルゴリズムなど、多くの異なる因子により影響されることもまた注目される。
【0040】
したがって、本明細書で与えられるKD値(各々のムテインおよびそのリガンドにおいて形成される複合体の解離定数)は、所与のリガンドに対する特定のリポカリンムテインのアフィニティーを決定するのに用いられる方法および実験セットアップに応じ、特定の実験範囲内で変化しうることもまた、当業者には明らかである。これは、例えば、KD値が表面プラズモン共鳴(Biacore)により決定されたのか、または競合ELISAにより決定されたのかに応じて、KDの測定値または許容範囲に若干の偏差が生じうることを意味する。
【0041】
本発明の具体的な実施形態において、このようなムテインは、Leu42→Pro;Pro48→Leu;Gln49→Leu;Ile55→Thr;Lys75→Met;Asp77→Glu;Ile80→Thr;およびSer127→Glnからなる群から選択されるアミノ酸置換を、成熟hNGALの野生型アミノ酸配列に対してさらに包含する。
【0042】
本発明の一実施形態において、シクロヘキシル−DPTAに結合するhNGALムテインは、アミノ酸置換:Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Trp79→AlaまたはLeu;Arg81→Met;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leuを包含する。このようなムテインは、Leu42→Pro;Pro 48→Leu;Gln49→Leu;Ile55→Thr;Lys75→Met;Asp77→Glu;Ile80→Thr;およびSer127→Glnからなる群から選択される1または複数のアミノ酸置換を、成熟hNGALの野生型アミノ酸配列に対してさらに包含しうる。
【0043】
別の実施形態において、hNGALムテインは、アミノ酸置換:
(a)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Trp79→Ala;Arg81→Met;Lys134→Ser;およびTyr138→Leu;
(b)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Trp79→Leu;Arg81→Met;Lys134→Ser;およびTyr138→Leu;または
(c)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Trp79→Leu;Arg81→Met;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu
を、成熟hNGALの野生型アミノ酸配列に対して包含する。
【0044】
このような実施形態において、ムテインは、Leu42→Pro、Pro48→Leu、Gln49→Leu、Ile55→Thr、Lys75→Met、Asp77→Glu、Ile80→Thr、およびSer127→Glnからなる群から選択されるアミノ酸置換を、成熟hNGALの野生型アミノ酸配列に対してさらに包含しうる。ムテインは、Arg43→Pro、Glu44→Val、Glu44→Met、Lys46→Pro、Asp47→Glu、Lys50→Leu、Met51→Leu、Lys59→Arg、Asn65→Asp、Tyr78→His、Gly86→Ser、Ser87→Pro、Ser87→Phe、Lys98→Glu、Ser99→Asn、Leu103→Ile、Leu107→Phe、Val110→Met、およびVal111→Alaからなる群から選択されるアミノ酸置換を、成熟hNGALの野生型アミノ酸配列に対してさらに包含しうる。
【0045】
本発明の一実施形態において、ムテインは、アミノ酸置換:
(a)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Trp79→Ala;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Lys134→Ser;およびTyr138→Leu;
(b)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Lys134→Ser;およびTyr138→Leu;
(c)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Ser127→Gln;Lys134→Ser;およびTyr138→Leu;
(d)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Trp79→Leu;Ile80→Thr;Arg81→Met;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu;
(e)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Trp79→Leu;Ile80→Thr;Arg81→Met;Ser127→Gln;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu;
(f)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Asp77→Glu;Trp79→Leu;Ile80→Thr;Arg81→Met;Ser127→Gln;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu;
(g)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Leu42→Pro;Pro48→Leu;Gln49→Leu;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ile55→Thr;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Lys75→Met;Asp77→Glu;Trp79→Leu;Ile80→Thr;Arg81→Met;Ser127→Gln;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu;
(h)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Leu42→Pro;Arg43→Pro;Glu44→Val;Lys46→Pro;Asp47→Glu;Pro48→Leu;Gln49→Leu;Lys50→Leu;Met51→Leu;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ile55→Thr;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Lys75→Met;Asp77→Glu;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Ser127→Gln;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu;
(i)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Leu42→Pro;Arg43→Pro;Glu44→Val;Lys46→Pro;Asp47→Glu;Pro48→Leu;Gln49→Leu;Lys50→Leu;Met51→Leu;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ile55→Thr;Asn65→Asp;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Lys75→Met;Asp77→Glu;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Lys98→Glu;Val110→Met;Ser127→Gln;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu;
(j)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Leu42→Pro;Arg43→Pro;Glu44→Val;Lys46→Pro;Asp47→Glu;Pro48→Leu;Gln49→Leu;Lys50→Leu;Met51→Leu;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ile55→Thr;Asn65→Asp;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Lys75→Met;Asp77→Glu;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Gly86→Ser;Ser127→Gln;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu;
(k)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Leu42→Pro;Arg43→Pro;Glu44→Met;Lys46→Pro;Asp47→Glu;Pro48→Leu;Gln49→Leu;Lys50→Leu;Met51→Leu;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ile55→Thr;Asn65→Asp;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Lys75→Met;Asp77→Glu;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Gly86→Ser;Ser87→Pro;Ser99→Asn;Leu107→Phe;Ser127→Gln;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu;
(l)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Leu42→Pro;Arg43→Pro;Glu44→Val;Lys46→Pro;Asp47→Glu;Pro48→Leu;Gln49→Leu;Lys50→Leu;Met51→Leu;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ile55→Thr;Lys59→Arg;Asn65→Asp;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Lys75→Met;Asp77→Glu;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Ser127→Gln;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu;
(m)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Leu42→Pro;Arg43→Pro;Glu44→Val;Lys46→Pro;Asp47→Glu;Pro48→Leu;Gln49→Leu;Lys50→Leu;Met51→Leu;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ile55→Thr;Asn65→Asp;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Lys75→Met;Asp77→Glu;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Ser87→Phe;Ser127→Gln;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu;または
(n)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Leu42→Pro;Arg43→Pro;Glu44→Val;Lys46→Pro;Asp47→Glu;Pro48→Leu;Gln49→Leu;Lys50→Leu;Met51→Leu;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ile55→Thr;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Lys75→Met;Asp77→Glu;Tyr78→His;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Leu103→Ile;Leu107→Phe;Val111→Ala;Ser127→Gln;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu
を、成熟hNGALの野生型アミノ酸配列に対して含む。
【0046】
前述の実施形態のうちのいずれかにおいて、ムテインは、Glu28→His、Cys87→Ser、およびThr145→Alaからなる群から選択される1つ、2つ、または3つすべてのアミノ酸置換を、成熟hNGALの野生型アミノ酸配列に対してさらに包含しうる。
【0047】
ムテインは、配列番号2〜10、および28〜34に記載の配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有しうる。
【0048】
シクロヘキシル−DPTAに結合するhNGALムテインは、配列番号2〜10、もしくは28〜34に記載のアミノ酸配列、またはこれらのフラグメントもしくは変異体のうちのいずれか1つを含む場合もあり、本質的にこれからなる場合もあり、これからなる場合もある。一実施形態において、本発明によるムテインは、配列番号8、9、10、もしくは28〜34に記載のアミノ酸配列、またはこれらのフラグメントもしくは変異体を含む場合もあり、本質的にこれからなる場合もあり、これからなる場合もある。この点において、本明細書で開示されるムテインのすべては、N末端またはC末端において、ペンタヒスチジンタグ、ヘキサヒスチジンタグ、またはStrepタグ(登録商標)などのアフィニティータグに連結しうることが注目される。したがって、本出願はまた、このようなタグを備える、顕示的および包括的に説明されるすべてのムテインも包含する。
【0049】
本発明のムテインとの関係で本発明において用いられる「フラグメント」という用語は、N末端および/またはC末端において短縮された、すなわち、N末端および/またはC末端のアミノ酸のうちの少なくとも1つを欠く、全長の成熟hNGALに由来するタンパク質またはペプチドに関する。このようなフラグメントは、成熟hNGALの一次配列のうちの好ましくは少なくとも10、より好ましくは20、最も好ましくは30以上の連続アミノ酸を含み、通常、成熟hNGALに対するイムノアッセイにおいて検出可能である。
【0050】
本発明で用いられる「変異体」という用語は、例えば、置換、欠失、挿入、または化学修飾を介するアミノ酸配列の修飾を含む、タンパク質またはペプチドの誘導体に関する。このような修飾は、タンパク質またはペプチドの機能性を低下させないことが好ましい。このような変異体には、1または複数のアミノ酸が、それらの各々のD−立体異性体により、または、例えば、オルニチン、ヒドロキシプロリン、シトルリン、ホモセリン、ヒドロキシリシン、ノルバリンなど、20種類の天然アミノ酸以外のアミノ酸により置換されたタンパク質が含まれる。しかし、このような置換はまた、保存的な場合もある、すなわち、アミノ酸残基は、化学的に類似のアミノ酸残基により置換される。保存的置換の例は、以下の群:1)アラニン、セリン、およびトレオニン;2)アスパラギン酸およびグルタミン酸;3)アスパラギンおよびグルタミン;4)アルギニンおよびリシン;5)イソロイシン、ロイシン、メチオニン、およびバリン;6)フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンのメンバー間における置換である。
【0051】
本発明の範囲にはまた、それらの免疫原性に関して変更された上記のムテインも含まれる。
【0052】
細胞傷害性のT細胞は、クラスI主要組織適合性複合体(MHC)分子と会合した抗原提示細胞の細胞表面上において、ペプチド抗原を認識する。MHC分子に結合するペプチドの能力は、対立遺伝子特異的であり、それらの免疫原性と相関する。所与のタンパク質の免疫原性を低下させるためには、タンパク質中におけるどのペプチドが、所与のMHC分子に結合する可能性を有するかを予測する能力が、大きな価値を有する。MHCクラスI分子に対する所与のペプチド配列の結合を予測するのに、潜在的なT細胞エピトープを同定するコンピュータスレディング法を用いる手法が、既に説明されている(Altuviaら(1995年)、J.Mol.Biol.、249巻、244〜250頁)。
【0053】
このような手法はまた、本発明のムテインにおける潜在的なT細胞エピトープを同定し、その意図する使用に応じ、その予測される免疫原性に基づき、特定のムテインを選択するのにも用いることができる。さらに、T細胞エピトープを含有すると予測されているペプチド領域をさらなる突然変異誘発にかけ、これらのT細胞エピトープを低減するかまたは消失させ、これにより免疫原性を最小化することも可能である。遺伝子操作された抗体からの、両親媒性エピトープの除去については説明されており(Mateoら(2000年)、Hybridoma、19巻、6号、463〜471頁)、本発明のムテインに適合させることができる。
【0054】
このようにして得られたムテインは、免疫原性が最小化されており、以下で説明される治療的適用および診断的適用などの治療的適用および診断的適用においてそれらを用いるのに望ましい。
【0055】
一部の適用では、本発明のムテインをコンジュゲートの形で用いることもまた有用である。したがって、本発明はまた、少数の示唆的な例だけを挙げれば、酵素標識、着色標識、細胞増殖抑制剤、光活性化することが可能であり、光力学療法において用いるのに適する標識、ハプテン、ジゴキシゲニン、ビオチン、化学療法用金属、および金コロイドからなる群から選択されうるコンジュゲーションパートナーとコンジュゲートするリポカリンムテインも対象とする。ムテインはまた、有機薬物分子ともコンジュゲートしうる。コンジュゲーションは、当技術分野で知られる任意の従来の結合法を用いて実施することができる。
【0056】
一般に、本明細書に記載のhNGALムテインを、化学反応、物理反応、光学反応、または酵素反応において検出可能な化合物またはシグナルを直接的または間接的に発生させる、任意の適切な化学物質または酵素により標識することが可能である。物理反応であり、また、同時に光学反応/マーカーでもある例は、照射時における蛍光の発光である。アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、またはβ−ガラクトシダーゼが、発色反応生成物の形成を触媒する酵素標識(また、同時に、光学標識)の例である。一般に、抗体に対して広く用いられるすべての標識(もっぱら、免疫グロブリンのFc部分における糖部分と共に用いられる標識を除く)もまた、本発明のムテインに対するコンジュゲーションに用いることができる。本発明のムテインはまた、例えば、所与の細胞、組織、もしくは内臓に対する治療的に活性な薬剤の標的送達に適するか、または、細胞の選択的ターゲティング、例えば、周囲の正常細胞に影響を与えることのない、腫瘍細胞の選択的ターゲティングに適する、任意のこのような薬剤ともコンジュゲートさせることができる。このような治療的に活性な薬剤の例には、放射性核種、毒素、有機低分子、および治療用ペプチド(細胞表面受容体のアゴニスト/アンタゴニストとして作用するペプチド、または所与の細胞標的上におけるタンパク質結合部位について競合するペプチドなど)が含まれる。適切な毒素の例には、百日咳毒素、ジフテリア毒素、リシン、サポリン、シュードモナス属外毒素、カリチアマイシンもしくはその誘導体、タキソイド、メイタンシノイド、ツブリシン、またはドラスタチン類似体が含まれるがこれらに限定されない。ドラスタチン類似体は、アウリスタチンE、モノメチルアウリスタチンE、アウリスタチンPYE、およびアウリスタチンPHEでありうる。細胞増殖抑制剤の例には、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、5−フルオロウラシル、タキソテール(ドセタキセル)、パクリタキセル、アントラサイクリン(ドキソルビシン)、メトトレキサート、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、ダカルバジン、シクロホスファミド、エトポシド、アドリアマイシン、カンプトテシン、コンブレタスタチンA−4類縁化合物、スルホンアミド、オキサジアゾリン、ベンゾ[b]チオフェン、合成スピロケタールピラン、モノテトラヒドロフラン化合物、キュラシンおよびキュラシン誘導体、メトキシエストラジオール誘導体、およびレウコボリンが含まれるが、これらに限定されない。本発明のリポカリンムテインはまた、アンチセンスの核酸分子、低分子干渉RNA、マイクロRNA、またはリボザイムなど、治療的に活性な核酸ともコンジュゲートさせることができる。このようなコンジュゲートは、当技術分野でよく知られる方法により産生することができる。
【0057】
一実施形態において、本発明のムテインはまた、本発明のムテインを、体内における所望の部位または領域に送達する目的で、具体的な身体部位を標的とするターゲティング部分に結合させることもできる。このような修飾が望ましい1つの例は、血液脳関門の通過である。血液脳関門を越えさせる目的で、本発明のムテインを、この関門を越える能動輸送を促進する部分と結合させることができる(Gaillard PJら(2005年)、「International Congress Series」、1277巻、185〜198頁;またはGaillard PJら(2005年)、Expert Opin Drug Deliv.、2巻、2号、299〜309頁)。このような部分は、例えば、2B−TransTM(オランダ、ライデン、to−BBB technologies BV社製)の商標名で市販されている。本発明のムテインを結合させうる他の例示的なターゲティング分子には、所望の標的分子に対するアフィニティーを有する抗体、抗体フラグメント、またはリポカリンムテインが含まれる。ターゲティング部分の標的分子は、例えば、細胞表面抗原でありうる。細胞表面抗原は、例えば、癌細胞など、細胞または組織の種類に特異的でありうる。このような細胞表面タンパク質の例示的な例は、HER−2、または、NEU−2などのプロテオグリカンである。
【0058】
上記で示した通り、一部の実施形態において、本発明のムテインは、その血清半減期を延長する部分とコンジュゲートさせることができる(この点に関しては、CTLA−4に対する結合アフィニティーを有するヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンのムテインに関してこのようなコンジュゲーション戦略を説明しているPCT出願公開第WO2006/56464号もまた参照されたい)。血清半減期を延長する部分は、少数だけを挙げれば、ポリアルキレングリコール分子、ヒドロキシエチルデンプン、パルミチン酸などの脂肪酸分子(VajoおよびDuckworth(2000年)、Pharmacol.Rev.52巻、1〜9頁)、免疫グロブリンのFc部分、免疫グロブリンのCH3ドメイン、免疫グロブリンのCH4ドメイン、アルブミンまたはそのフラグメント、アルブミン結合ペプチド、またはアルブミン結合タンパク質であるトランスフェリンでありうる。アルブミン結合タンパク質は、アルブミンに対する結合活性を有する細菌のアルブミン結合タンパク質、抗体、ドメイン抗体を含めた抗体フラグメント(例えば、米国特許第6,696,245号を参照されたい)、またはリポカリンムテインでありうる。したがって、本発明のリポカリンムテインの半減期を延長するのに適するコンジュゲーションパートナーには、アルブミン(Osbornら(2002年)、J.Pharmacol.Exp.Ther.、303巻、540〜548頁)、またはアルブミン結合タンパク質、例えば、連鎖球菌プロテインGのアルブミン結合ドメイン(Konig,T.およびSkerra,A.(1998年)、J.Immunol.Methods、218巻、73〜83頁)の1つなど、細菌のアルブミン結合ドメインが含まれる。コンジュゲーションパートナーとして用いうるアルブミン結合ペプチドの他の例は、例えば、米国特許出願第2003/0069395号;またはDennisら(Dennisら(2002年)、J.Biol.Chem.、277巻、35035〜35043頁で説明される通り、Cys−Xaa1−Xaa2−Xaa3−Xaa4−Cysのコンセンサス配列[式中、Xaa1は、Asp、Asn、Ser、Thr、またはTrpであり;Xaa2は、Asn、Gln、His、Ile、Leu、またはLysであり;Xaa3は、Ala、Asp、Phe、Trp、またはTyrであり;Xaa4は、Asp、Gly、Leu、Phe、Ser、またはThrである]を有するペプチドである。
【0059】
他の実施形態では、アルブミン自体またはアルブミンの生物学的に活性なフラグメントを、本発明のリポカリンムテインのコンジュゲーションパートナーとして用いることができる。「アルブミン」という用語は、ヒト血清アルブミンまたはウシ血清アルブミンもしくはラットアルブミンなど、すべての哺乳動物アルブミンを含む。アルブミンまたはそのフラグメントは、米国特許第5,728,553号;または欧州特許出願EP0330451号、および同第EP0361991号で説明される通り、組換え法により産生することができる。タンパク質安定化剤として用いられる組換えヒトアルブミン(Recombumin(登録商標))は、例えば、Novozymes Delta社(英国、ノッティンガム)から市販されている。
【0060】
アルブミン結合タンパク質が抗体フラグメントである場合、それは、ドメイン抗体でありうる。ドメイン抗体(dAb)は、生物物理的特性およびin vivoにおける半減期に対する精密な制御を可能とすることで、製品の安全性および有効性の最適なプロファイルを創出するように操作される。ドメイン抗体は、例えば、Domantis社(英国、ケンブリッジ;および米国、マサチューセッツ州)から市販されている。
【0061】
本発明のムテインの血清半減期を延長するための部分としてトランスフェリンを用いる場合、該ムテインを、非グリコシル化トランスフェリンのN末端もしくはC末端、またはこれらの両方と遺伝子融合させることができる。非グリコシル化トランスフェリンの半減期は14〜17日間であり、トランスフェリン融合タンパク質の半減期も同様に延長される。トランスフェリンキャリアーはまた、高度のバイオアベイラビリティー、生体内分布、および循環安定性も提供する。この技法は、BioRexis社(米国、ペンシルベニア州、BioRexis Parmaceutical社)から市販されている。タンパク質安定化剤として用いられる組換えヒトトランスフェリン(DeltaFerrinTM)もまた、Novozymes Delta社(英国、ノッティンガム)から市販されている。
【0062】
本発明のムテインの血清半減期を延長する目的で免疫グロブリンのFc部分を用いる場合は、Syntonix Pharmaceuticals社(米国、マサチューセッツ州)から市販されているSynFusionTM法を用いることができる。このFc融合法を用いることにより、より長時間にわたり作用する生物医薬の創出が可能となり、これらの医薬は、例えば、抗体のFc領域に連結されて、薬物動態、可溶性、および産生効率を改善する、ムテインの2つのコピーからなりうる。
【0063】
本発明のムテインの半減期を延長するさらに別の代替法は、本発明のムテインのN末端またはC末端に、長く、構造化されない、可撓性のグリシンに富む配列(例えば、約20〜80のグリシン残基が連続するポリグリシン)を融合させることである。例えば、WO2007/038619で開示されるこの手法はまた、「rPEG」(組換えPEG)とも称されている。
【0064】
コンジュゲーションパートナーとしてポリアルキレングリコールを用いる場合、該ポリアルキレングリコールは、置換する場合もあり、非置換の場合もある。それはまた、活性化されたポリアルキレン誘導体でもありうる。適切な化合物の例は、WO99/64016、米国特許第6,177,074号、または米国特許第6,403,564号においてインターフェロンとの関連で説明されるか、または、PEG修飾されたアスパラギナーゼ、PEG−アデノシン脱アミノ化酵素(PEG−ADA)、もしくはPEG−スーパーオキシドジスムターゼ(例えば、Fuertgesら(1990年)、「The Clinical Efficacy of Poly(Ethylene Glycol)−Modified Proteins」、J.Control.Release、11巻、139〜148頁を参照されたい)など、他のタンパク質について説明されるポリエチレングリコール(PEG)分子である。このようなポリマー、好ましくはポリエチレングリコールの分子量は、例えば、分子量が約10,000ドルトン、約20,000ドルトン、約30,000ドルトン、または約40,000ドルトンのポリエチレングリコールを含めた、約300〜約70,000ドルトンの範囲でありうる。さらに、例えば、米国特許第6,500,930号または同第6,620,413号で説明される通り、デンプンまたはヒドロキシエチルデンプン(HES)など、炭水化物オリゴマーおよび炭水化物ポリマーを、血清半減期延長の目的で本発明のムテインとコンジュゲートさせることができる。
【0065】
上記部分のうちの1つを本発明のhNGALムテインとコンジュゲートさせる場合、アミノ酸側鎖に対するコンジュゲーションが有利でありうる。適切なアミノ酸側鎖は、hNGALのアミノ酸配列内において天然の場合もあり、突然変異誘発により導入される場合もある。突然変異誘発により適切な結合部位を導入する場合、1つの可能性は、適切な位置における、システイン残基によるアミノ酸置換である。一実施形態において、このような突然変異には、hNGALの野生型配列の配列位置14、21、60、84、88、116、141、145、143、146、または158に対応する配列位置のうちの少なくとも1カ所におけるCys残基の導入が含まれる。以下では、これらの位置のうちのいずれかにおいて新たに創出されるシステイン残基を用いて、ムテインを、PEGまたはその活性化誘導体など、ムテインの血清半減期を延長する部分とコンジュゲートさせることができる。
【0066】
別の実施形態において、上記の部分のうちの1つを、本発明のムテインとコンジュゲートさせるのに適するアミノ酸側鎖をもたらすためには、突然変異誘発により人工アミノ酸を導入することができる。一般に、このような人工アミノ酸は、所望の部分に対してより反応的であり、したがって、これに対するコンジュゲーションを容易にするようにデザインされる。人工tRNAを介して導入されうるこのような人工アミノ酸の1つの例は、パラ−アセチル−フェニルアラニンである。
【0067】
本明細書で開示されるムテインを様々に適用する場合、それらを融合タンパク質の形態で用いるのが有利でありうる。一部の実施形態において、本発明のhNGALムテインは、そのN末端またはそのC末端において、タンパク質、タンパク質ドメイン、またはシグナル配列および/もしくはアフィニティータグなどのペプチドと融合する。
【0068】
医薬に適用する場合、本発明のムテインは、そのin vivoにおける血清半減期を延長する融合パートナーと融合させることができる(ここでもまた、CTLA−4に対する結合アフィニティーを有するヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンのムテインに関して、適切な融合パートナーが説明されているPCT公報WO2006/56464を参照されたい)。上記で説明したコンジュゲートと同様に、融合パートナーは、少数だけを挙げれば、免疫グロブリンのFc部分、免疫グロブリンのCH3ドメイン、免疫グロブリンのCH4ドメイン、アルブミン、アルブミン結合ペプチド、またはアルブミン結合タンパク質でありうる。ここでもまた、アルブミン結合タンパク質は、アルブミンに対する結合活性を有する細菌のアルブミン結合タンパク質、またはリポカリンムテインでありうる。したがって、本発明のリポカリンムテインの半減期を延長するのに適する融合パートナーには、アルブミン(Osborn,B.L.ら(2002年)、前出、J.Pharmacol.Exp.Ther.、303巻、540〜548頁)、またはアルブミン結合タンパク質、例えば、連鎖球菌プロテインGのアルブミン結合ドメイン(Konig,T.およびSkerra,A.(1998年)、J.Immunol.Methods、218巻、73〜83頁)の1つなど、細菌のアルブミン結合ドメインが含まれる。Cys−Xaa1−Xaa2−Xaa3−Xaa4−Cysのコンセンサス配列[式中、Xaa1は、Asp、Asn、Ser、Thr、またはTrpであり;Xaa2は、Asn、Gln、His、Ile、Leu、またはLysであり;Xaa3は、Ala、Asp、Phe、Trp、またはTyrであり;Xaa4は、Asp、Gly、Leu、Phe、Ser、またはThrである]を有する、Dennisら、前出(2002年);または米国特許出願第2003/0069395号で説明されるアルブミン結合ペプチドはまた、融合パートナーとしても用いることができる。アルブミン自体またはアルブミンの生物学的に活性なフラグメントはまた、本発明のリポカリンムテインの融合パートナーとしても用いることができる。「アルブミン」という用語は、ヒト血清アルブミンまたはウシ血清アルブミンもしくはラット血清アルブミンなど、すべての哺乳動物アルブミンを含む。アルブミンまたはそのフラグメントの組換え生成物は当技術分野でよく知られており、例えば、米国特許第5,728,553号、欧州特許出願第EP0330451、または同第EP0361991号で説明されている。
【0069】
融合パートナーは、他の分子に対する酵素活性または結合アフィニティーなど、新たな特性を、本発明のリポカリンムテインに付与しうる。適切な融合タンパク質の例は、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、プロテインG、プロテインAのアルブミン結合ドメイン、抗体フラグメント、オリゴマー化ドメイン、結合特異性が同じであるかまたは異なるリポカリンムテイン(「デュオカリン」の形成を結果としてもたらす;Schlehuber,S.およびSkerra,A.(2001年)、「Duocalins,engineered ligand−binding proteins with dual specificity derived from the lipocalin fold」、Biol.Chem.、382巻、1335〜1342頁を参照されたい)、または毒素である。
【0070】
特に、結果として得られる融合タンパク質の両方の「構成要素」が共に、所与の治療標的上において作用するように、本発明のリポカリンムテインを、個別の酵素活性部位と融合させることが可能でありうる。リポカリンムテインの該結合ドメインを、疾患を引き起こす標的に結合させ、これにより、該酵素ドメインが、該標的の生物学的機能を消失させることを可能とする。
【0071】
また、組換えタンパク質の容易な検出および/または精製も可能とする、Strepタグ(登録商標)もしくはStrepタグ(登録商標)II(Schmidt,T.G.M.ら(1996年)、J.Mol.Biol.、255巻、753〜766頁)、mycタグ、FLAGタグ、His6タグ、またはHAタグなどのアフィニティータグ、あるいはグルタチオン−S−トランスフェラーゼなどのタンパク質が、好ましい融合パートナーのさらなる例である。最後に、緑色蛍光タンパク質(GFP)または黄色蛍光タンパク質(YFP)など、発色特性または蛍光発光特性を有するタンパク質もまた、本発明のリポカリンムテインに適する融合パートナーである。
【0072】
本明細書で用いられる「融合タンパク質」という用語はまた、シグナル配列を含有する、本発明によるリポカリンムテインも含む。ポリペプチドのN末端におけるシグナル配列は、このポリペプチドを、特定の細胞内コンパートメント、例えば、大腸菌のペリプラズム、または真核細胞の小胞体に方向づける。当技術分野では、多数のシグナル配列が知られている。大腸菌のペリプラズム内へのポリペプチドの分泌に好ましいシグナル配列は、OmpAシグナル配列である。
【0073】
本発明はまた、本明細書で説明されるムテインをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子(DNAおよびRNA)にも関連する。遺伝子コードの縮重により、特定のコドンを、同じアミノ酸を指定する他のコドンにより置換することが可能となるので、本発明は、本発明のムテインをコードする特定の核酸分子に限定されず、機能的なムテインをコードするヌクレオチド配列を含むすべての核酸分子を包含する。
【0074】
したがって、本発明はまた、hNGALの直鎖状ポリペプチド配列のアミノ酸配列位置33、36、41、52、54、68、70、79、81、134、136、および138のうちのいずれかに対する少なくとも1つのコドンにおける突然変異を含めた、本発明によるムテインをコードする核酸配列も包含する。
【0075】
本明細書で開示される本発明はまた、実験的な突然変異誘発について示される配列位置以外のさらなる突然変異を含む、hNGALムテインをコードする核酸分子も包含する。このような突然変異は、例えば、ムテインの折り畳み効率、血清中における安定性、熱安定性、またはリガンド結合アフィニティーの改善に寄与する場合、許容されるか、または有利であるとさらにわかることが多い。
【0076】
本出願で開示される核酸分子は、この核酸分子の発現を可能とするように、調節配列(または複数の調節配列)と「作動可能に連結(operably linked)」されていてもよい。
【0077】
DNAなどの核酸分子は、それが、転写および/または翻訳の調節に関する情報を含有する配列エレメントを含み、このような配列が、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に「作動可能に連結」される場合、「核酸分子を発現させうる」か、または「ヌクレオチド配列の発現を可能とする」と称する。作動可能な連結とは、調節配列エレメントと、発現される配列とが、遺伝子発現を可能とする形で接続される連結である。遺伝子発現に必要な調節領域の正確な性質は種間で変化しうるが、一般に、これらの領域は、原核生物において、プロモーター自体、すなわち転写の開始を誘導するDNAエレメント、ならびに、RNAに転写されると、翻訳開始のシグナルを発するDNAエレメントの両方を含有するプロモーターを含む。このようなプロモーター領域は通常、原核生物における−35/−10ボックスおよびシャイン−ダルガーノエレメント、または、真核生物におけるTATAボックス、CAAT配列、および5’キャッピングエレメントなど、転写および翻訳の開始に関与する、5’側非コード配列を包含する。これらの領域はまた、エンハンサーエレメントまたはリプレッサーエレメントのほか、天然ポリペプチドを宿主細胞の特定のコンパートメントにターゲティングするための、翻訳されたシグナル配列およびリーダー配列も包含しうる。
【0078】
加えて、3’側非コード配列は、転写終結、ポリアデニル化などに関与する調節エレメントも含有しうる。しかし、これらの終結配列は、特定の宿主細胞では十分に機能的でなく、その場合、それらを、該細胞内において機能的なシグナルにより置換することができる。
【0079】
したがって、本発明の核酸分子は、調節配列、好ましくはプロモーター配列を包含しうる。別の好ましい実施形態において、本発明の核酸分子は、プロモーター配列および転写終結配列を含む。適切な原核生物プロモーターは、例えば、tetプロモーター、lacUV5プロモーター、またはT7プロモーターである。真核細胞内における発現に有用なプロモーターの例は、SV40プロモーターまたはCMVプロモーターである。
【0080】
本発明の核酸分子はまた、プラスミド、ファージミド、ファージ、バキュロウイルス、コスミド、または人工染色体など、ベクターまたは他の任意の種類のクローニング用媒体の一部でもありうる。
【0081】
一実施形態において、核酸分子は、ファスミド内に含まれる。ファスミドベクターとは、M13もしくはf1など、溶原性ファージの遺伝子間領域、または対象のcDNAに融合したその機能的部分をコードするベクターを指す。細菌宿主細胞へのこのようなファージミドベクターおよび適切なヘルパーファージ(例えば、M13K07、VCS−M13、またはR408)の重複感染後、完全なファージ粒子が生成され、これにより、コードされる異種cDNAを、該ファージ表面上において提示される、それに対応するポリペプチドと物理的に連結することが可能となる(例えば、Kay,B.K.ら(1996年)、「Phage Display of Peptides and Proteins―A Laboratory Manual」、第1版、ニューヨーク州、ニューヨーク、Academic Press社;Lowman,H.B.(1997年)、Annu.Rev.Biophys.Biomol.Struct.、26巻、401〜424頁;またはRodi,D.J.およびMakowski,L.(1999年)、Curr.Opin.Biotechnol.10巻、87〜93頁において総説されている)。
【0082】
このようなクローニング用媒体は、上記で説明した調節配列、および本発明のリポカリンムテインをコードする核酸配列以外に、発現に用いられる宿主細胞に適合可能な種に由来する複製配列および制御配列のほか、形質転換細胞またはトランスフェクト細胞に選択可能な表現型を付与する選択マーカーも包含しうる。当技術分野では、多数の適切なクローニングベクターが知られており、市販されている。
【0083】
本発明のリポカリンムテインをコードするDNA分子、また、特に、このようなリポカリンムテインのコード配列を含有するクローニングベクターは、該遺伝子の発現が可能な宿主細胞内に入れて形質転換することができる。形質転換は、標準的な技法を用いて実施することができる(Sambrook,J.ら(1989年)、前出)。
【0084】
したがって、本発明はまた、本明細書で開示される核酸分子を含有する宿主細胞も対象とする。
【0085】
形質転換された宿主細胞は、本発明の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列の発現に適する条件下において培養される。適切な宿主細胞は、大腸菌または枯草菌など、原核細胞の場合もあり、出芽酵母、メタノール資化酵母、SF9昆虫細胞もしくはHigh5昆虫細胞、哺乳動物の不死化細胞株(例えば、HeLa細胞またはCHO細胞)、または哺乳動物の初代細胞など、真核細胞の場合もある。
【0086】
本発明はまた、本発明のムテインを産生する方法であって、遺伝子操作法により、該ムテインをコードする核酸から出発して、該ムテイン、該ムテインのフラグメント、または該ムテインの融合タンパク質、および別のポリペプチドを産生する方法にも関する。方法は、in vivoで実施することができ、例えば、ムテインを、細菌宿主生物または真核宿主生物内で産生し、この宿主生物またはその培養物から単離することができる。また、例えば、in vitroにおける翻訳系を用いることにより、in vitroにおいてタンパク質を産生することも可能である。
【0087】
in vivoにおいてムテインを産生する場合は、本発明のムテインをコードする核酸を、組換えDNA法により、適切な細菌宿主生物または真核宿主生物内に導入する(上記で既に概括した)。この目的では、まず、確立された標準的な方法(Sambrook,J.ら(1989年)、前出)を用いて、本発明のムテインをコードする核酸分子を含むクローニングベクターにより、宿主細胞を形質転換する。次いで、宿主細胞を、異種DNAの発現を可能とし、したがって、対応するポリペプチドの合成を可能とする条件下において培養する。その後、細胞または培地からポリペプチドを回収する。
【0088】
一態様において、本発明は、本発明のムテインを生成させる方法であって、
(a)hNGALタンパク質をコードする核酸分子を、hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置33、36、41、52、54、68、70、79、81、134、136、および138に対応する配列位置のうちの任意の少なくとも1カ所をコードするヌクレオチドトリプレットにおいて突然変異誘発にかける結果、1または複数のムテイン核酸分子を得るステップと、
(b)適切な発現系において、(a)で得られた1または複数のムテイン核酸分子を発現させるステップと、
(c)選択および/または単離により、所与の標的に対する検出可能な結合アフィニティーを有する1または複数のムテインを濃縮するステップと
を含む方法に関する。
【0089】
本明細書で用いられる「突然変異誘発」という用語は、hNGAL(SWISS−PROTデータバンクエントリー:P80188)の所与の配列位置にある天然のアミノ酸が、各々の天然ポリペプチド配列中におけるこの特定の位置には存在しない少なくとも1つのアミノ酸により置換されうるように、実験条件を選択することを意味する。「突然変異誘発」という用語はまた、1または複数のアミノ酸の欠失または挿入による、配列セグメントの長さの(付加的)修飾も包含する。したがって、例えば、選択された配列位置における1つのアミノ酸が、3カ所にわたるランダムな突然変異により置換され、野生型タンパク質の各々のセグメントの長さと比較して、2つのアミノ酸残基の挿入がもたらされる場合は、本発明の範囲内にある。このような挿入または欠失は、本発明において突然変異誘発にかけうるペプチドセグメントのいずれかにおいて、互いから独立した形で導入することができる。本発明の例示的な一実施形態では、複数カ所の突然変異の挿入を、選択されたリポカリン骨格のループAB内に導入することができる(参照によりその全体において本明細書に組み込まれる、国際特許出願第WO2005/019256号を参照されたい)。「ランダムな突然変異」という用語は、突然変異時において、特定の配列位置に所定の単一のアミノ酸(突然変異)が存在せず、所定の配列位置に、少なくとも2つのアミノ酸が、特定の確率で組み込まれうることを意味する。
【0090】
本発明で選択されるペプチドセグメントの突然変異誘発の開始位置としては、hNGALのコード配列が用いられる。列挙されたアミノ酸位置を突然変異誘発させる場合、当業者は、部位指向突然変異誘発を行うのに確立された各種の標準的な方法(Sambrook,J.ら(1989年)、前出)を自由に用いることができる。一般に用いられる技法は、所望の配列位置において縮重塩基組成を保有する合成オリゴヌクレオチドの混合物を用いるPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)による突然変異の導入である。例えば、突然変異時において、コドンNNKまたはNNS(ここで、N=アデニン、グアニン、またはシトシン、またはチミン;K=グアニンまたはチミン;S=アデニンまたはシトシン)を用いることにより、20種類のアミノ酸すべてにアンバー終止コドンを加えた組込みが可能となるのに対し、コドンVVSは、ポリペプチド配列の選択された位置への組込みから、アミノ酸Cys、Ile、Leu、Met、Phe、Trp、Tyr、Valを除外するので、該コドンによる組込みが可能なアミノ酸の数は12に制限される;例えば、コドンNMS(ここで、M=アデニンまたはシトシン)は、選択された配列位置における組込みから、アミノ酸Arg、Cys、Gly、Ile、Leu、Met、Phe、Trp、Valを除外するので、該コドンを用いることにより、選択される配列位置において可能なアミノ酸の数は11に制約される。この点では、セレノシステインまたはピロリシンなど、他のアミノ酸(通常の20種類の天然アミノ酸以外のアミノ酸)に対するコドンもまた、ムテインの核酸に組み込みうることが注目される。Wang,L.ら(2001年)、Science、292巻、498〜500頁;またはWang,L.およびSchultz,P.G.(2002年)、Chem.Comm.1巻、1〜11頁により説明される通り、通常は終止コドンとして認識されるUAGなどの「人工」コドンを、他のまれなアミノ酸、例えば、o−メチル−L−チロシン、またはp−アミノフェニルアラニンを挿入する目的で用いることも可能である。
【0091】
例えば、イノシン、8−オキソ−2’デオキシグアノシン、または6(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)−3,4−ジヒドロ−8H−ピリミジノ−1,2−オキサジン−7−オン(Zaccoloら(1996年)、J.Mol.Biol.、255巻、589〜603頁)など、塩基対の特異性を低下させたヌクレオチド構成要素の使用は、選択された配列セグメントに突然変異を導入するための別の選択肢である。
【0092】
さらなる可能性は、いわゆるトリプレットによる突然変異誘発である。この方法は、その各々が1つのアミノ酸をコードする異なるヌクレオチドトリプレットの混合物を用いる(Virnekas B、Ge L、Pluckthun A、Schneider KC、Wellnhofer G、Moroney SE、1994年、「Trinucleotide phosphoramidites:ideal reagents for the synthesis of mixed oligonucleotides for random mutagenesis」、Nucleic Acids Res、22巻、5600〜5607頁)。
【0093】
各々のポリペプチドの選択された領域内に突然変異を導入する1つの可能な戦略は、その各々が、突然変異させる、対応する配列セグメントのうちの1つに部分的に由来する、4つのオリゴヌクレオチドの使用に基づく。これらのオリゴヌクレオチドを合成する場合、すべての天然アミノ酸をコードするコドンがランダムに生じ、ついには、リポカリンペプチドのライブラリーが結果として生成されるように、当業者は、核酸構成要素の混合物を用いて、突然変異させるアミノ酸位置に対応するヌクレオチドトリプレットを合成することができる。例えば、第1のオリゴヌクレオチドは、(突然変異させる位置を除く)その配列において、リポカリンポリペプチドの最N末端位置にある、突然変異させるペプチドセグメントに対するコード鎖に対応する。したがって、第2のオリゴヌクレオチドは、ポリペプチド配列において後続する、第2の配列セグメントに対する非コード鎖に対応する。第3のオリゴヌクレオチドは、対応する第3の配列セグメントに対するコード鎖に対応する。最後に、第4のオリゴヌクレオチドは、第4の配列セグメントに対する非コード鎖に対応する。ポリメラーゼ連鎖反応は、第1および第2の各オリゴヌクレオチドにより実施することができ、また、必要な場合、第3および第4の各オリゴヌクレオチドにより別個に実施することができる。
【0094】
各種の既知の方法により、これら両方の反応の増幅産物を、選択された位置において突然変異が導入された、第1〜第4の配列セグメントの配列を含む単一の核酸と組み合わせることができる。この目的で、両方の産物を、例えば、隣接するオリゴヌクレオチドのほか、第2の配列セグメントと第3の配列セグメントとの間の配列をもたらす、1または複数の媒介核酸分子を用いる、新たなポリメラーゼ連鎖反応にかけることができる。配列内における、突然変異誘発に用いられるオリゴヌクレオチドの数および配置を選択する場合、当業者は、多数の代替法を自由に用いることができる。
【0095】
上記で定義した核酸分子は、ライゲーションにより、リポカリンポリペプチドをコードする核酸の5’側および3’側における逸失配列ならびに/またはベクターと連結することができ、既知の宿主生物内においてクローニングすることができる。ライゲーションおよびクローニングについては、多くの確立された手順を用いることができる(Sambrook,J.ら(1989年)、前出)。例えば、クローニングベクターの配列内にも存在する、制限エンドヌクレアーゼの認識配列を、合成オリゴヌクレオチドの配列に操作することができる。したがって、各々のPCR産物の増幅および酵素的切断の後では、対応する認識配列を用いて、結果として得られるフラグメントを容易にクローニングすることができる。
【0096】
突然変異誘発に選択されるタンパク質をコードする遺伝子内におけるより長い配列セグメントはまた、既知の方法により、例えば、エラー率が上昇する条件下においてポリメラーゼ連鎖反応を用いることにより、化学的突然変異誘発により、または細菌の突然変異株を用いることにより、ランダム突然変異にもかけることができる。このような方法はまた、リポカリンムテインの標的のアフィニティーまたは特異性をさらに最適化するのにも用いることができる。実験的な突然変異誘発セグメント以外で生じる可能性のある突然変異は、許容されることが多いか、または、例えば、それらが、リポカリンムテインの折り畳みの効率または折り畳みの安定性の改善に寄与する場合、有利であると分かる可能性がある。
【0097】
本発明の一実施形態によれば、上記の方法は、hNGALタンパク質をコードする核酸分子を、上記に表示されるhNGALの配列位置のうちのいずれかをコードする、少なくとも9、10、11、または12すべてのヌクレオチドトリプレットにおいて突然変異誘発にかけるステップを包含する。
【0098】
さらなる一実施形態において、方法は、核酸分子を、hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置42、48、49、55、75、77、80、および127に対応する配列位置のうちのいずれかをコードする、少なくとも1つのヌクレオチドトリプレットにおいて突然変異誘発にかけるステップをさらに包含する。方法は、核酸分子を、hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置43、44、46、47、50、51、59、65、78、86、87、98、99、103、107、110、および111に対応する配列位置のうちのいずれかをコードする、少なくとも1つのヌクレオチドトリプレットにおいて突然変異誘発にかけるステップをさらに包含しうる。
【0099】
本発明のさらに別の実施形態において、方法は、核酸分子を、hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置33、36、41、42、48、49、52、54、55、68、70、75、77、79、80、81、127、134、136、および138に対応する配列位置のうちの少なくとも任意の9カ所をコードするヌクレオチドトリプレットにおいて突然変異誘発にかけるステップをさらに包含する。
【0100】
またさらなる実施形態において、方法は、核酸分子を、hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置33、36、41、42、43、44、46、47、48、49、50、51、52、54、55、59、65、68、70、75、77、78、79、80、81、86、87、98、99、103、107、110、111、127、134、136、および138に対応する配列位置のうちの少なくとも任意の9カ所をコードするヌクレオチドトリプレットにおいて突然変異誘発にかけるステップを包含する。
【0101】
本発明の方法によれば、ムテインは、hNGALをコードする核酸から出発して得られる。組換えDNA法により、このような核酸を突然変異誘発にかけ、適切な細菌宿主生物または真核宿主生物に導入する。抗体様特性を有するリポカリンムテイン、すなわち、所与の標的に対してアフィニティーを有するムテインを生成させる、当技術分野で知られる任意の適切な技法を用いて、hNGALの核酸ライブラリーを得るステップを実施することができる。このような組合せ方法の例は、例えば、国際特許出願第WO99/16873号、同第WO00/75308号、同第WO03/029471号、同第WO03/029462号、同第WO03/029463号、同第WO2005/019254号、同第WO2005/019255号、同第WO2005/019256号、または同第WO2006/56464号において詳細に説明されている。これらの特許出願各々の内容は、参照によりその全体において組み込まれる。適切な宿主内において突然変異誘発を受けた核酸配列の発現後において、所与の標的に結合する複数のリポカリンムテイン各々の遺伝情報を保有するクローンを、得られたライブラリーから選択することができる。これらのクローンの選択には、ファージディスプレイ(Kay,B.K.ら(1996年)、前出;Lowman,H.B.(1997年)、前出;またはRodi,D.J.およびMakowski,L.(1999年)、前出において総説されている)、コロニースクリーニング(Pini,A.ら(2002年)、Comb.Chem.High Throughput Screen.、5巻、503〜510頁において総説されている)、リボソームディスプレイ(Amstutz,P.ら(2001年)、Curr.Opin.Biotechnol.、12巻、400〜405頁において総説されている)、もしくはWilson,D.S.ら(2001年)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98、3750〜3755頁において報告されているmRNAディスプレイ、またはWO99/16873、WO00/75308、WO03/029471、WO03/029462、WO03/029463、WO2005/019254、WO2005/019255、WO2005/019256、もしくはWO2006/56464において具体的に説明されている方法など、よく知られた技法を用いることができる。
【0102】
本開示によれば、上記方法の別の実施形態において、ステップ(c)は、
(i)所与のリガンドとして、免疫学的ハプテン、ペプチド、タンパク質、もしくは多糖、核酸分子(例えば、DNAまたはRNA)など、別の高分子、または例えば、全ウイルス粒子もしくはウィロイドの特徴を示す、遊離形態またはコンジュゲート形態の化合物からなる群から選択される化合物を供給するステップと、
(ii)前記リガンドと、前記リガンドに対する結合アフィニティーを有するムテインとの複合体の形成を可能とするために、複数のムテインを前記リガンドと接触させるステップと、
(iii)結合アフィニティーを有さないかまたは実質的に有さないムテインを除去するステップと
をさらに含む。
【0103】
本発明の具体的な実施形態において、リガンドは、金属キレート化剤など、有機低分子でありうる。
【0104】
本発明の一実施形態において、ステップ(c)における選択は、競合的条件下において実施される。本明細書で用いられる競合的条件とは、ムテインの選択が、ムテインおよびhNGALの所与の非天然リガンド(標的)を、該標的に対するムテインの結合と競合するさらなるリガンドの存在下において接触させる少なくとも1つのステップを包含することを意味する。このさらなるリガンドは、標的の生理学的リガンドの場合もあり、標的自体の過剰の場合もあり、本発明のムテインにより認識されるエピトープに対する少なくとも1つの重複エピトープに結合し、これにより、該ムテインの標的結合に干渉する、標的に対する他の任意の非生理学的リガンドの場合もある。代替的に、さらなるリガンドは、ムテインの結合部位とは異なるエピトープを、アロステリック効果により標的に複合体化させることによって、該ムテインの結合と競合する。
【0105】
溶原性M13ファージを用いるファージディスプレイ法(Kay,B.K.ら(1996年)、前出;Lowman,H.B.(1997年)、前出;またはRodi,D.J.およびMakowski,L.(1999年)、前出に総説がある)の実施形態は、本発明において用いられうる選択法の例として与えられる。本発明のムテインを選択するのに用いうるファージディスプレイ法の別の実施形態は、Brodersら(Brodersら(2003年)、「Hyperphage.Improving antibody presentation in phage display」、Methods Mol.Biol.、205巻、295〜302頁)により説明される、ハイパーファージ法である。f1など他の溶原性ファージも、T7などの溶菌性ファージも用いることができる。例示的な選択法では、N末端においてシグナル配列、好ましくはOmpAシグナル配列を有し、また、C末端においてファージM13のカプシドタンパク質pIII、または該ファージカプシド内に組み込むことが可能なそのフラグメントを有する融合タンパク質として、突然変異させたリポカリン核酸配列の発現を可能とするM13ファージミドを産生する。融合タンパク質を産生するには、野生型配列のアミノ酸217〜406を含むファージカプシドタンパク質のC末端フラグメントであるΔpIIIを用いることが好ましい。一実施形態においては、位置201においてシステイン残基を逸失するか、またはこれが別のアミノ酸により置換されたpIIIのC末端フラグメントがとりわけ好ましい。
【0106】
したがって、本発明のさらなる実施形態は、所与のリガンドの結合について少なくとも1つのムテインを選択する目的で、複数のhNGALムテインをコードし、3’端における突然変異誘発から生じる核酸を、M13ファミリーの線維状バクテリオファージのコートタンパク質pIII、またはこのコートタンパク質のフラグメントをコードする遺伝子と作動可能に融合させるステップを伴う。
【0107】
融合タンパク質は、融合タンパク質またはその一部の固定化、検出、および/または精製を可能とするアフィニティータグなどのさらなる成分を含みうる。さらに、停止コドンは、リポカリンまたはそのムテインをコードする配列領域と、ファージカプシド遺伝子またはそのフラグメントとの間に位置することが可能であり、その場合、該停止コドン、好ましくは、アンバー停止コドンは、適切なサプレッサー菌株において翻訳される際に、少なくとも部分的にアミノ酸に翻訳される。
【0108】
例えば、本明細書に記載の、現在はpTlc27とも呼ばれるファスミドベクターpTLPC27を用いて、hNGALムテインをコードするファージミドライブラリーを調製することができる。2つのBstXI制限部位を用いて、hNGALムテインをコードする本発明の核酸分子を、ベクター内に挿入する。ライゲーション後、大腸菌XL1−Blueなどの適切な宿主菌株を、結果として得られる核酸混合物により形質転換して、多数の独立クローンをもたらす。所望の場合、ハイパーファージミドライブラリーを調製するための各ベクターを作製することができる。
【0109】
その後、機能的ファージミドを産生する目的で、液体培養物において、結果として得られるライブラリーに、適切なM13ヘルパーファージまたはハイパーファージを重複感染させる。組換えファージミドが、コートタンパク質pIIIまたはそのフラグメントとの融合体として、その表面上においてリポカリンムテインを提示する一方、該融合タンパク質のN末端シグナル配列は、通常切断されて除去される。他方、それはまた、ヘルパーファージにより供給される天然のカプシドタンパク質pIIIの1または複数のコピーも保有し、したがって、レシピエント、一般には、FプラスミドまたはF’プラスミドを保有する細菌株に感染することが可能である。ハイパーファージディスプレイの場合、ハイパーファージミドは、それらの表面上において、感染性のコートタンパク質pIIIとの融合体としてのリポカリンムテインを提示するが、天然のカプシドタンパク質は提示しない。ヘルパーファージまたはハイパーファージによる感染時または感染後には、例えば、アンヒドロテトラサイクリンを添加することにより、リポカリンムテインとカプシドタンパク質pIIIとの融合タンパク質の遺伝子発現を誘導することができる。得られるファージミドの実質的部分が、それらの表面上において、少なくとも1つのリポカリンムテインを提示するように、誘導条件を選択する。ハイパーファージディスプレイの場合、誘導条件は、リポカリンムテインおよびカプシドタンパク質pIIIからなる3〜5つの融合タンパク質を保有するハイパーファージミド集団を結果としてもたらす。ポリエチレングリコールによる沈殿など、ファージミドを単離する各種の方法が知られている。単離は、6〜8時間のインキュベーション時間後において生じることが典型的である。
【0110】
次いで、単離されたファージミドを、それらのコート内における融合タンパク質としての、所望の結合活性を有するムテインを保有するこれらのファージミドに対する少なくとも一時的な固定化を可能とする形態において提示される、所望の標的とのインキュベーションによる選択にかけることができる。例えば、標的を、血清アルブミンなどのキャリアータンパク質とコンジュゲートさせ、このキャリアータンパク質を介して、タンパク質結合表面、例えば、ポリスチレンに結合させうることは、当業者に知られる各種の実施形態の内にある。このような標的の固定化には、ELISA法に適するマイクロ滴定プレート、またはいわゆる「イムノスティック」を用いうることが好ましい。代替的に、ビオチンなど、他の結合基との標的のコンジュゲートも用いることができる。次いで、この基に選択的に結合する表面、例えば、ストレプトアビジン、ニュートラビジン、またはアビジンによりコーティングしたマイクロ滴定プレートまたは常磁性粒子上に、標的を固定化することができる。標的を免疫グロブリンのFc部分に融合させる場合もまた、固定化は、表面、例えば、プロテインAまたはプロテインGによりコーティングしたマイクロ滴定プレートまたは常磁性粒子により達成することができる。
【0111】
表面上に存在する非特異的なファージミド結合部位は、ELISA法について知られるブロッキング溶液により飽和化させることができる。次いで、ファージミドを、生理学的緩衝液の存在下において、表面上に固定化された標的と接触させることが典型的である。複数回の洗浄により、結合しなかったファージミドを除去する。次いで、表面上に残存するファージミド粒子を溶出させる。溶出には、複数の方法が可能である。例えば、プロテアーゼの添加により、または酸、塩基、洗浄剤、もしくはカオトロピック塩の存在下において、または中程度の変性条件下において、ファージミドを溶出させることができる。好ましい方法は、pH2.2の緩衝液を用いる溶出であり、その後、溶出物を中和化させる。代替的に、ファージミドに対する結合について固定化された標的と競合する目的で、遊離標的の溶液を添加することもでき、対象の標的に特異的に結合する免疫グロブリンまたはリガンド結合する天然タンパク質と競合させることにより、標的特異的ファージミドを溶出させることもできる。
【0112】
その後、大腸菌細胞に、溶出したファージミドを感染させる。代替的に、溶出したファージミドから核酸を抽出し、別の形における配列解析、増幅、または細胞の形質転換に用いることもできる。このようにして得られる大腸菌クローンから出発して、上記の方法によるM13ヘルパーファージまたはハイパーファージによる重複感染を介して、再度新規のファージミドまたはハイパーファージミドを産生し、このようにして増幅されるファージミドを、今一度固定化した標的上における選択にかける。十分に濃縮された形態における本発明のムテインを伴うファージミドを得るためには、複数の選択サイクルが必要となることが多い。後続の機能的解析において、被験対象となるクローンの少なくとも0.1%が、所与の標的に対して検出可能なアフィニティーを有するムテインを生成するように、選択サイクルの数を選択することが好ましい。サイズ、すなわち、用いられるライブラリーの複雑性に応じて、この目的には、2〜8サイクルが必要とされることが典型的である。
【0113】
選択されたムテインを機能的に解析するために、大腸菌株に、選択サイクルから得られたファージミドを感染させ、対応する二本鎖ファスミドDNAを単離する。このファスミドDNAから出発し、または、該ファージミドから抽出した一本鎖DNAからも出発し、当技術分野で知られる方法により、本発明の選択されたムテインの核酸配列を決定することができ、また、該核酸配列からアミノ酸配列を推定することができる。hNGALムテイン全体の突然変異領域または突然変異配列を、別の発現ベクター上においてサブクローニングし、適切な宿主生物内において発現させることができる。例えば、現在はまたpTlc26とも呼ばれるベクターpTLPC26を用いて、大腸菌TG1株などの大腸菌株内において発現させることができる。このようにして産生されるhNGALのムテインは、各種の生化学的方法により精製することができる。例えば、pTlc26により産生されるhNGALムテインは、それらのC末端においてアフィニティーペプチドであるStrepタグII(Schmidtら、前出)を保有し、したがって、ストレプトアビジンによるアフィニティークロマトグラフィーにより精製しうることが好ましい。
【0114】
選択はまた、他の方法によって実施することもできる。多くの対応する実施形態が、当業者に知られているか、または文献において説明されている。さらに、方法の組合せも適用することができる。例えば、「ファージディスプレイ」により選択されるか、または少なくともこれにより濃縮されるクローンを、さらに「コロニースクリーニング」にかけることができる。この手順は、標的に対する検出可能な結合アフィニティーを有するhNGALムテインの産生に関して、個々のクローンを直接単離しうるという利点を有する。
【0115】
「ファージディスプレイ」法または「コロニースクリーニング」法における宿主生物として大腸菌を用いるのに加えて、他の細菌株、酵母、または昆虫細胞もしくは哺乳動物細胞もまた、この目的で用いることができる。上記のランダムライブラリーからのhNGALムテインの選択にさらに加えて、標的に対してある程度の結合活性を既に保有するムテインを、標的に対するアフィニティーまたは特異性に関して、反復後において最適化する目的で、限定的な突然変異誘発を含めた発展的方法も適用することができる。
【0116】
所与の標的に対してアフィニティーを有するムテインを選択したら、その後、より高度の熱安定性、血清中における安定性の改善、熱力学的安定性、可溶性の改善、単量体挙動の改善、熱変性、化学変性、タンパク質溶解、または洗浄剤などに対する耐性の改善など、さらにより高度のアフィニティーを有する変異体、または特性の改善された変異体を選択する目的で、このようなムテインを別の突然変異誘発にかけることもさらに可能である。より高度なアフィニティーを目的とする場合、in vitroにおける「アフィニティー成熟」として考えうる、このさらなる突然変異誘発は、合理的なデザインまたはランダムな突然変異に基づく部位特異的な突然変異により達成することができる。より高度のアフィニティーまたは特性の改善を得るために可能な別の方法は、リポカリンムテインの選択された範囲の配列位置にわたる点突然変異を結果としてもたらすエラープローンPCRの使用である。エラープローンPCRは、Zaccoloら(1996年)、J.Mol.Biol.、255巻、589〜603頁により説明されるプロトコールなど、任意の既知のプロトコールにより実施することができる。このような目的に適する他のランダム突然変異誘発の方法には、Murakamiら(2002年)、Nat.Biotechnol.、20巻、76〜81頁により説明されるランダム挿入/欠失(RID)による突然変異誘発、またはBittkerら(2002年)、Nat.Biotechnol.、20巻、1024〜1029頁により説明されるランダム非相同組換え(NRR)が含まれる。所望の場合、アフィニティー成熟はまた、ジゴキシゲニンに対して高度のアフィニティーを有するビリン結合タンパク質のムテインを得た、WO00/75308;またはSchlehuberら(2000年)、J.Mol.Biol.、297巻、1105〜1120頁に記載の手順によっても実施することができる。アフィニティーを改善するさらなる手法は、位置飽和突然変異誘発の実施である。この手法では、アミノ酸の交換/突然変異が、4つのループセグメントのいずれかの内にある単一の位置だけに導入される、「小型の」核酸ライブラリーを作製することができる。次いで、これらのライブラリーを、さらなるパニングのラウンドなしに、直接、選択ステップ(アフィニティースクリーニング)にかける。この手法により、所望の標的の結合改善に寄与する残基の同定が可能となり、該結合に重要な「ホットスポット」の同定が可能となる。
【0117】
一実施形態において、ムテインを修飾する上記の方法は、hNGALの野生型配列の配列位置14、21、60、84、88、116、141、145、143、146、または158に対応する配列位置のうちの任意の少なくとも1カ所においてCys残基を導入するステップと、hNGALの野生型配列の配列位置14、21、60、84、88、116、141、145、143、146、または158に対応する配列位置のうちの任意の少なくとも1カ所において導入されたCys残基のチオール基を介して、前記ムテインの血清半減期を改変することが可能な部分を結合させるステップとをさらに包含する。前記ムテインの血清半減期を改変することが可能な部分は、ポリアルキレングリコール分子およびヒドロキシエチルデンプンからなる群から選択することができる。
【0118】
さらなる態様において、本発明は、本発明の上記において詳述された方法により得ることができるか、または得られるhNGALの所与の非天然リガンドに対して検出可能な結合アフィニティーを有するhNGALムテインを対象とする。
【0119】
本発明の一部のhNGALムテインでは、Cys 76とCys 175との間における天然のジスルフィド結合が除去される。したがって、このようなムテイン(または分子内のジスルフィド結合を含まない他の任意のhNGALムテイン)は、還元的なレドックス環境を有する細胞コンパートメント内、例えば、グラム陰性菌の細胞質中において産生することができる。
【0120】
本発明のリポカリンムテインが、分子内のジスルフィド結合を含む場合は、新生ポリペプチドを、適切なシグナル配列用いて、酸化的なレドックス環境を有する細胞コンパートメントに方向づけることが好ましい場合がある。このような酸化的環境は、グラム陽性菌の細胞外環境において、または真核細胞の小胞体内腔において、大腸菌などグラム陰性菌のペリプラズムによりもたらされる場合があり、通常、構造的なジスルフィド結合の形成に好都合である。
【0121】
しかしまた、宿主細胞、好ましくは大腸菌の細胞質ゾル中において、本発明のムテインを産生することも可能である。この場合、ポリペプチドは、可溶性の折り畳まれた状態で直接得ることもでき、封入体の形態で回収された後、in vitroにおいて復元することもできる。さらなる選択肢は、酸化的な細胞内環境を有する特異的な宿主菌株の使用であり、これにより、細胞質ゾル中におけるジスルフィド結合の形成を可能としうる(Venturiら(2002年)、J.Mol.Biol.、315巻、1〜8頁)。
【0122】
しかし、本発明のムテインは必ずしも、遺伝子操作だけを用いて生成させるか、または産生することが可能なわけではない。そうではなく、リポカリンムテインはまた、メリフィールド固相ポリペプチド合成などの化学合成により得ることもでき、in vitroにおける転写および翻訳により得ることもできる。例えば、分子モデリングを用いて有望な突然変異を同定し、次いで、in vitroにおいて望ましい(意図される)ポリペプチドを合成し、所与の標的に対する結合活性を探索することが可能である。固相および/または溶液相においてタンパク質を合成する方法は、当技術分野でよく知られている(例えば、Lloyd−Williamsら(1997年)、「Chemical Approaches to the Synthesis of Peptides and Proteins」、ボカラトン、CRC Press社;Fields,GBおよびColowick(1997年)、「Solid−Phase Peptide Synthesis」、サンディエゴ、Academic Press社;またはBruckdorferら(2004年)、Curr.Pharm.Biotechnol.、5巻、29〜43頁に総説がある)。
【0123】
別の実施形態において、本発明のムテインは、当業者に知られる十分に確立された方法を用いて、in vitroにおける転写/翻訳により産生することができる。
【0124】
本発明はまた、少なくとも1つの本発明のhNGALムテイン、またはその融合タンパク質もしくはコンジュゲート、および、場合によって、薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物にも関する。
【0125】
本発明によるリポカリンムテインは、タンパク質性薬物に治療上有効な、任意の非経口経路または非経口以外の経路(経口経路)を介して投与することができる。非経口の適用方法は、例えば、注射溶液、注入溶液、または滴下剤の形態における、例えば、皮内、皮下、筋肉内、または静脈内における注射法および注入法のほか、例えば、エアゾール混合物、スプレー、または粉末の形態におけるエアゾールの導入および吸入を含む。非経口以外の送達方式は、例えば、丸薬、錠剤、カプセル、溶液、もしくは懸濁液の形態における、例えば、経口送達方式、または、例えば、座薬の形態における、例えば、直腸内送達方式である。本発明のムテインは、所望に応じて、薬学的に許容される従来の非毒性の賦形剤または担体、添加剤、および媒体を含有する製剤により、全身投与することもでき、局所投与することもできる。
【0126】
本発明の一実施形態において、薬剤は、哺乳動物、特に、ヒトに非経口投与される。対応する投与方法には、例えば、注射溶液、注入溶液、または滴下剤の形態における例えば、皮内、皮下、筋肉内、または静脈内における注射法および注入法のほか、例えば、エアゾール混合物、スプレー、または粉末の形態におけるエアゾールの導入および吸入が含まれるがこれらに限定されない。血清半減期が比較的短い化合物の場合なら、静脈内注入および/または注射と皮下注入および/または注射とを組み合わせると、最も好都合であるかもしれない。医薬組成物は、水溶液の場合もあり、水中油エマルジョンの場合もあり、油中水エマルジョンの場合もある。
【0127】
この点において、本明細書で説明されるムテインの経皮送達には、MeidanおよびMichniak(2004年)、Am.J.Ther.、11巻、4号、312〜316頁において説明される経皮送達法、例えば、イオントフォレーシス、ソノフォレーシス、またはマイクロ針増強送達も用いうることが注目される。非経口以外の送達方式は、例えば、丸薬、錠剤、カプセル、溶液、もしくは懸濁液の形態における経口投与、または、例えば、座薬の形態における直腸内投与である。本発明のムテインは、薬学的に許容される従来の各種の非毒性の賦形剤または担体、添加剤、および媒体を含有する製剤により、全身投与することもでき、局所投与することもできる。
【0128】
望ましい予防効果または治療応答を達成するのに適用されるムテインの用量は、広範な限界値内で変化しうる。それは、例えば、選択されるリガンドに対する化合物のアフィニティーのほか、in vivoにおける、ムテインとリガンドとの複合体の半減期にも依存する。さらに、最適用量は、ムテインまたはその融合タンパク質もしくはそのコンジュゲートの生体内分布、投与方式、治療される疾患/障害の重症度のほか、患者の治療状態にも依存する。例えば、局所適用用の軟膏中において用いられる場合は、高濃度のhNGALムテインを用いることができる。しかし、望ましい場合、ムテインはまた、持続放出製剤、例えば、リポソームによる分散剤、または、PolyActiveTMまたはOctoDEXTMなど、ハイドロゲルベースのポリマーマイクロスフェア中において施すこともできる(Bosら、「Business Briefing:Pharmatech 2003」、1〜6頁を参照されたい)。
【0129】
したがって、本発明のムテインは、薬学的に許容される成分のほか、確立された調製方法も用いて、組成物に調合することができる(GennaroおよびGennaro(2000年)「Remington:The Science and Practice of Pharmacy」、第20版、ペンシルベニア州、フィラデルフィア、Lippincott Williams & Wilkins社)。医薬組成物を調製するには、薬学的に不活性な無機賦形剤または有機賦形剤を用いることができる。例えば、丸薬、粉末、ゼラチンカプセル、または坐剤を調製するには、例えば、ラクトース、滑石、ステアリン酸およびその塩、脂肪、蝋、固体または液体のポリオール、天然油および硬化した油を用いることができる。使用前に溶液またはエアゾール混合物に再構成するための溶液、懸濁液、エマルジョン、エアゾール混合物、または粉末を製造するのに適する賦形剤には、水、アルコール、グリセロール、ポリオール、およびこれらの適切な混合物のほか、植物油が含まれる。
【0130】
医薬組成物はまた、例えば、充填剤、結合剤、保湿剤、潤滑剤、安定化剤、防腐剤、乳化剤などの添加剤、またさらに、デポ効果を達成するための溶媒または可溶化剤または薬剤も含有しうる。後者は、融合タンパク質を、リポソームおよびマイクロカプセルなど、徐放系もしくは持続放出系、または標的送達系内に組み込みうるということである。
【0131】
製剤は、細菌を保持するフィルターを介する濾過、または使用直前に滅菌水または他の滅菌媒体中に溶解または分散させうる滅菌の固体組成物の形態内に滅菌剤を組み込むことを含めた、多数の手段により滅菌することができる。
【0132】
本発明のムテイン、またはその融合タンパク質もしくはコンジュゲートは、多くの適用において用いることができる。一般に、このようなムテインは、Fc部分のグリコシル化に特異的に依拠する適用を除き、抗体が用いられるすべての適用において用いることができる。
【0133】
したがって、本発明の別の態様では、本発明のhNGALムテインを用いて、所与の非天然のhNGALリガンドに結合させ、かつ/またはこれを検出することができる。このような使用は、適切な条件下において、ムテインを、所与のリガンドを含有することが疑われる試料と接触させ、これにより、該ムテインと該所与のリガンドとの複合体の形成を可能とするステップと、適切なシグナルにより、複合体化したムテインを検出するステップとを含みうる。
【0134】
検出可能なシグナルは、上記で説明した標識によりもたらすこともでき、結合、すなわち、複合体の形成自体に起因する物理的特性の変化によりもたらすこともできる。1つの例は、そのうちの一方が金箔などの表面上に固定化される結合パートナーの結合時においてその値が変化する、プラズモン表面共鳴である。
【0135】
本明細書で開示されるhNGALムテインはまた、所与の非天然hNGALリガンドの分離にも用いることができる。このような使用は、適切な条件下において、ムテインを、前記リガンドを含有すると推測される試料と接触させ、これにより、該ムテインと該所与のリガンドとの複合体の形成を可能とするステップと、該試料からムテイン/リガンド複合体を分離するステップとを含みうる。
【0136】
所与の非天然リガンドを検出するためのムテインの使用、ならびに所与のリガンドを分離するためのムテインの使用のいずれにおいても、ムテインおよび/または標的を、適切な固相上において固定化することができる。
【0137】
本発明のhNGALムテインはまた、事前に選択された部位を、化合物の標的とするのに用いることもできる。このような一実施形態では、hNGALムテインを、生物または組織内における事前に選択された部位に対する薬学的に活性な化合物のターゲティングであって、
a)該ムテインを前記化合物とコンジュゲートさせるステップと、
b)ムテイン/化合物複合体を、該事前に選択された部位に送達するステップと
を含む標的化にも用いることができる。
【0138】
このような目的で、複合体の形成を可能とするために、ムテインを対象の複合体と接触させる。次いで、ムテインおよび対象の化合物を含む複合体を、事前に選択された部位に送達する。これは、例えば、ムテインを、選択される標的に対する結合アフィニティーを有する抗体、抗体フラグメント、またはリポカリンムテインもしくはリポカリンムテインフラグメントなどのターゲティング部分に結合させることにより達成することができる。
【0139】
この使用は、薬物を、該薬物により治療されることが推測される、感染した身体部分、組織、または内臓など、生物内において事前に選択された部位に(選択的に)送達するのに特に適するが、これに制約されない。ムテインと対象化合物との複合体の形成のほか、ムテインはまた、ムテインと化合物とのコンジュゲートをもたらすように、該所与の化合物と反応させることもできる。上記の複合体と同様に、このようなコンジュゲートも、事前に選択された標的部位に対する化合物の送達に適しうる。ムテインと化合物とのこのようなコンジュゲートはまた、ムテインと化合物とを互いに対して共有結合させるリンカーも包含しうる。場合によって、このようなリンカーは、血流中において安定であるが、細胞内環境においては切断可能である。
【0140】
したがって、本明細書で開示されるムテイン、およびその誘導体は、抗体またはそれらのフラグメントと同様に、多くの分野で用いることができる。所与のムテインの標的またはこの標的のコンジュゲートもしくは融合タンパク質の固定化または分離を可能とする支持体に対する結合にそれらを用いることに加えて、ムテインは、酵素、抗体、放射性物質、または生化学活性もしくは明確な結合特徴を有する他の任意の基による標識化にも用いることができる。このように用いることにより、それらの各々の標的、またはそれらのコンジュゲートもしくは融合タンパク質を検出することもでき、それらと接触させることもできる。例えば、本発明のムテインは、確立された分析方法(例えば、ELISAまたはウェスタンブロット)または顕微鏡法もしくは免疫センサー法による化学構造の検出に用いることができる。この場合、検出シグナルは、適切なムテインコンジュゲートまたは融合タンパク質を用いて直接的に発生させることもでき、抗体を介して、結合したムテインの免疫化学的検出により間接的に発生させることもできる。
【0141】
本発明のムテインについての可能な多数の適用はまた、医療においても存在する。診断法および薬物送達におけるそれらの使用に加え、例えば、組織特異的または腫瘍特異的な細胞表面分子に結合する、本発明の突然変異体ポリペプチドを生成させることができる。このようなムテインは、例えば、「腫瘍イメージング」用のコンジュゲート形態において、または融合タンパク質として用いることもでき、癌治療に直接用いることもできる。
【0142】
したがって、本発明はまた、所与の非天然リガンドまたは標的との複合体形成のための、本発明のhNGALムテインの使用にも関与する。
【0143】
さらなる態様において、本発明はまた、医薬組成物の製造のための、本発明によるムテインの使用も包含する。このようにして得られる医薬組成物は、放射免疫療法(RIT)において用いるのに適する場合もあり、in vivoイメージングに用いるのに適する場合もある。医薬組成物は、単剤療法として用いることもでき、組合せ療法として用いることもできる。
【0144】
さらに別の態様において、本発明は、本発明によるムテインを含む診断用キットまたは解析用キットを特徴とする。
【0145】
本発明の別の態様は、放射免疫療法(RIT)により対象を治療する方法であって、本発明のムテイン、または本発明のムテインを含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与するステップを包含する方法に関する。対象は、このような治療に適し、また、例えば、癌または別の細胞増殖性障害でありうる疾患または障害に罹患している場合がある。
【0146】
このような治療を必要とする対象は、少数の例示的な例だけを挙げれば、ヒト、イヌ、マウス、ラット、ブタ、カニクイザルなどのサルなどの哺乳動物でありうる。
【0147】
さらに別の態様において、本発明は、対象のin vivoイメージング方法であって、前記対象に、本発明のムテイン、または本発明のムテインを含む医薬組成物を投与するステップを包含する方法を特徴とする。対象は、上記の通りに定義することができる。
【0148】
本発明は、以下の非限定的な実施例、および付属の図面によりさらに例示される。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】hNGALについてデザインされるランダムライブラリーの概略表示と併せて、エンテロバクチンと複合体化されたhNGALの3次元構造を示す図である。
【図2】Me・DTPA結合活性を有するhNGAL変異体の特性を示す図である。
【図3】Me・DTPA結合活性を有するhNGAL変異体の結晶構造を示す図である。
【図4】放射免疫療法またはin vivoイメージングのプレターゲティングに、Me・DTPA結合活性を有するhNGAL変異体を適用する可能性を示す図である。
【図1A】エンテロバクチンと複合体化されたヒトhNGAL(PDBエントリー:1L6M、鎖A、完全リガンドを含有する;Roland Strong博士のご厚意による)の3次元構造を示す図である。ポリペプチド骨格をライトグレーのリボンとして示す一方、天然リガンドを黒色で示す。初期「天然」ライブラリーにおいてランダム化された側鎖は、グレーで示す。
【図1B】12のアミノ酸位置33、36、41、52、54、68、70、79、81、134、136、および138に対し、同時的なランダム突然変異誘発を行うためのアセンブリーPCR戦略の概略表示を示す図である。フラグメント(a)をもたらす縮重オリゴデオキシヌクレオチドP1およびP2、また、フラグメント(b)をもたらす縮重プライマーP3およびP4と共に、NGALの構造遺伝子を、PCRにおける鋳型として用いた。ランダム化された位置を、明色のバーで示す。両方のフラグメントを単離し、組み合わせて、PCRプライマーP5およびP6により実施される次回の増幅において適用した。2つの異なるBstXI制限部位を、ファージディスプレイのためのプラスミドベクターであるpNGAL35上において遺伝子カセットをサブクローニングするのに用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(hNGAL)、ラットα2ミクログロブリン類縁タンパク質(A2m)、およびマウス24p3/ウテロカリン(24p3)からなる群から選択されるタンパク質に由来するムテインであって、hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置33、36、41、52、54、68、70、79、81、134、136、および138に対応する配列位置のうちのいずれかにおいて、少なくとも1つの突然変異させたアミノ酸残基を含み、検出可能なアフィニティーで所与の標的に結合するムテイン。
【請求項2】
前記配列位置のうちの、任意の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11カ所、または12カ所すべてにおいて突然変異させたアミノ酸残基を含む、請求項1に記載のムテイン。
【請求項3】
hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置42、48、49、55、75、77、80、および127に対応する配列位置のうちのいずれかにおいて、少なくとも1つの突然変異させたアミノ酸残基をさらに含む、請求項1または2に記載のムテイン。
【請求項4】
hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置43、44、46、47、50、51、59、65、78、86、87、98、99、103、107、110、および111に対応する配列位置のうちのいずれかにおいて、少なくとも1つの突然変異させたアミノ酸残基をさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のムテイン。
【請求項5】
hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置33、36、41、42、48、49、52、54、55、68、70、75、77、79、80、81、127、134、136、および138に対応する配列位置のうちのいずれかにおいて、少なくとも9つの突然変異させたアミノ酸残基を含む、請求項3に記載のムテイン。
【請求項6】
hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置33、36、41、42、43、44、46、47、48、49、50、51、52、54、55、59、65、68、70、75、77、78、79、80、81、86、87、98、99、103、107、110、111、127、134、136、および138に対応する配列位置のうちのいずれかにおいて、少なくとも9つの突然変異させたアミノ酸残基を含む、請求項4に記載のムテイン。
【請求項7】
前記配列位置のうちの、任意の少なくとも10カ所において突然変異させたアミノ酸残基を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のムテイン。
【請求項8】
前記配列位置のうちの、任意の少なくとも14または15カ所において突然変異させたアミノ酸残基を含む、請求項7に記載のムテイン。
【請求項9】
前記配列位置のうちの、20カ所すべてにおいて突然変異させたアミノ酸残基を含む、請求項5に記載のムテイン。
【請求項10】
前記配列位置のうちの、少なくとも22、24、26、28、29、30、31、32、33、35カ所、または37カ所すべてにおいて突然変異させたアミノ酸残基を含む、請求項8に記載のムテイン。
【請求項11】
Glu28→His、Cys87→Ser、およびThr145→Alaからなる群から選択されるアミノ酸置換のうちの1つまたは複数をさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のムテイン。
【請求項12】
hNGALの野生型配列の配列位置14、21、60、84、88、116、141、145、143、146、または158に対応する配列位置のうちの少なくとも1カ所においてCys残基が導入される、請求項1から11のいずれか一項に記載のムテイン。
【請求項13】
hNGALの野生型配列の配列位置65、71、73、74、116、125、および135に対応する配列位置のうちの少なくとも1カ所において、成熟hNGALの野生型アミノ酸配列に対してさらなるアミノ酸置換を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載のムテイン。
【請求項14】
有機低分子またはペプチドに結合する、請求項1から13のいずれか一項に記載のムテイン。
【請求項15】
有機低分子が、金属キレート化剤または薬剤である、請求項14に記載のムテイン。
【請求項16】
有機低分子が、ジエチレントリアミン五酢酸(DPTA)、1,4,7,10−テトラ−アザシクロドデカン−N,N’,N’’,N’’’−四酢酸(DOTA)、またはこれらの誘導体である、請求項15に記載のムテイン。
【請求項17】
DTPA、DOTA、またはこれらの誘導体が、金属イオンと錯化する、請求項16に記載のムテイン。
【請求項18】
金属が、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、インジウム(In)、ルテチウム(Lu)、およびビスマス(Bi)からなる群から選択される、請求項17に記載のムテイン。
【請求項19】
DTPA誘導体が、シクロヘキシル−DTPAである、請求項16から18のいずれか一項に記載のムテイン。
【請求項20】
ムテインが、50nM以下のKDによりシクロヘキシル−DTPAに結合する、請求項19に記載のムテイン。
【請求項21】
Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Trp79→Ala、Leu;Arg81→Met;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leuからなる群から選択される、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12カ所のアミノ酸置換を、成熟hNGALの野生型アミノ酸配列に対して含む、請求項19または20に記載のムテイン。
【請求項22】
アミノ酸置換:
(a)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Trp79→Ala;Arg81→Met;Lys134→Ser;およびTyr138→Leu;
(b)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Trp79→Leu;Arg81→Met;Lys134→Ser;およびTyr138→Leu;または
(c)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Trp79→Leu;Arg81→Met;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu
を、成熟hNGALの野生型アミノ酸配列に対して含む、請求項21に記載のムテイン。
【請求項23】
Leu42→Pro、Pro48→Leu、Gln49→Leu、Ile55→Thr、Lys75→Met、Asp77→Glu、Ile80→Thr、およびSer127→Glnからなる群から選択されるアミノ酸置換を、成熟hNGALの野生型アミノ酸配列に対してさらに含む、請求項21または22に記載のムテイン。
【請求項24】
Arg43→Pro、Glu44→Val、Glu44→Met、Lys46→Pro、Asp47→Glu、Lys50→Leu、Met51→Leu、Lys59→Arg、Asn65→Asp、Tyr78→His、Gly86→Ser、Ser87→Pro、Ser87→Phe、Lys98→Glu、Ser99→Asn、Leu103→Ile、Leu107→Phe、Val110→Met、およびVal111→Alaからなる群から選択されるアミノ酸置換を、成熟hNGALの野生型アミノ酸配列に対してさらに含む、請求項21から23のいずれか一項に記載のムテイン。
【請求項25】
アミノ酸置換:
(a)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Trp79→Ala;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Lys134→Ser;およびTyr138→Leu;
(b)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Lys134→Ser;およびTyr138→Leu;
(c)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Ser127→Gln;Lys134→Ser;およびTyr138→Leu;
(d)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu;
(e)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Ser127→Gln;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu;
(f)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Asp77→Glu;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Ser127→Gln;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu;
(g)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Leu42→Pro;Pro48→Leu;Gln49→Leu;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ile55→Thr;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Lys75→Met;Asp77→Glu;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Ser127→Gln;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu;
(h)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Leu42→Pro;Arg43→Pro;Glu44→Val;Lys46→Pro;Asp47→Glu;Pro48→Leu;Gln49→Leu;Lys50→Leu;Met51→Leu;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ile55→Thr;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Lys75→Met;Asp77→Glu;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Ser127→Gln;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu;
(i)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Leu42→Pro;Arg43→Pro;Glu44→Val;Lys46→Pro;Asp47→Glu;Pro48→Leu;Gln49→Leu;Lys50→Leu;Met51→Leu;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ile55→Thr;Asn65→Asp;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Lys75→Met;Asp77→Glu;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Lys98→Glu;Val110→Met;Ser127→Gln;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu;
(j)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Leu42→Pro;Arg43→Pro;Glu44→Val;Lys46→Pro;Asp47→Glu;Pro48→Leu;Gln49→Leu;Lys50→Leu;Met51→Leu;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ile55→Thr;Asn65→Asp;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Lys75→Met;Asp77→Glu;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Gly86→Ser;Ser127→Gln;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu;
(k)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Leu42→Pro;Arg43→Pro;Glu44→Met;Lys46→Pro;Asp47→Glu;Pro48→Leu;Gln49→Leu;Lys50→Leu;Met51→Leu;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ile55→Thr;Asn65→Asp;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Lys75→Met;Asp77→Glu;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Gly86→Ser;Ser87→Pro;Ser99→Asn;Leu107→Phe;Ser127→Gln;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu;
(l)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Leu42→Pro;Arg43→Pro;Glu44→Val;Lys46→Pro;Asp47→Glu;Pro48→Leu;Gln49→Leu;Lys50→Leu;Met51→Leu;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ile55→Thr;Lys59→Arg;Asn65→Asp;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Lys75→Met;Asp77→Glu;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Ser127→Gln;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu;
(m)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Leu42→Pro;Arg43→Pro;Glu44→Val;Lys46→Pro;Asp47→Glu;Pro48→Leu;Gln49→Leu;Lys50→Leu;Met51→Leu;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ile55→Thr;Asn65→Asp;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Lys75→Met;Asp77→Glu;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Ser87→Phe;Ser127→Gln;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu;または
(n)Val33→Gln;Leu36→Arg;Ile41→Ala;Leu42→Pro;Arg43→Pro;Glu44→Val;Lys46→Pro;Asp47→Glu;Pro48→Leu;Gln49→Leu;Lys50→Leu;Met51→Leu;Tyr52→Thr;Thr54→Gln;Ile55→Thr;Ser68→Ala;Leu70→Arg;Lys75→Met;Asp77→Glu;Tyr78→His;Trp79→Leu;Ile 80→Thr;Arg81→Met;Leu103→Ile;Leu107→Phe;Val111→Ala;Ser127→Gln;Lys134→Ser;Thr136→Ser;およびTyr138→Leu
を、成熟hNGALの野生型アミノ酸配列に対して含む、請求項23または24に記載のムテイン。
【請求項26】
Glu28→His、Cys87→Ser、およびThr145→Alaからなる群から選択されるアミノ酸置換を、成熟hNGALの野生型アミノ酸配列に対してさらに含む、請求項22から25のいずれか一項に記載のムテイン。
【請求項27】
配列番号2〜10、および28〜34に記載の配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項19から26のいずれか一項に記載のムテイン。
【請求項28】
選択される標的分子に対する結合アフィニティーでターゲティング部分とコンジュゲートする、請求項1から27のいずれか一項に記載のムテイン。
【請求項29】
ターゲティング部分が、抗体、抗体フラグメント、リポカリンムテイン、およびリポカリンムテインのフラグメントからなる群から選択される、請求項28に記載のムテイン。
【請求項30】
有機分子、酵素標識、放射性標識、着色標識、蛍光標識、発色標識、発光標識、ハプテン、ジゴキシゲニン、ビオチン、金属錯体、金属、金コロイドからなる群から選択される標識にコンジュゲートする、請求項1から29のいずれか一項に記載のムテイン。
【請求項31】
そのN末端および/またはそのC末端において、タンパク質、タンパク質ドメイン、またはペプチドと融合する、請求項1から29のいずれか一項に記載のムテイン。
【請求項32】
その血清半減期を延長する部分とコンジュゲートする、請求項1から29のいずれか一項に記載のムテイン。
【請求項33】
血清半減期を延長する部分が、ポリアルキレングリコール分子、ヒドロエチルデンプン、免疫グロブリンのFc部分、免疫グロブリンのCH3ドメイン、免疫グロブリンのCH4ドメイン、アルブミン結合ペプチド、およびアルブミン結合タンパク質からなる群から選択される、請求項32に記載のムテイン。
【請求項34】
ポリアルキレングリコールが、ポリエチレン(PEG)またはその活性化誘導体である、請求項33に記載のムテイン。
【請求項35】
その融合パートナーが、その血清半減期を延長するタンパク質ドメインである、請求項31に記載のムテイン。
【請求項36】
タンパク質ドメインが、免疫グロブリンのFc部分、免疫グロブリンのCH3ドメイン、免疫グロブリンのCH4ドメイン、アルブミン結合ペプチド、またはアルブミン結合タンパク質である、請求項35に記載のムテイン。
【請求項37】
アルブミン結合タンパク質が、細菌のアルブミンドメインまたはリポカリンムテインである、請求項33または36に記載のムテイン。
【請求項38】
細菌のアルブミン結合ドメインが、連鎖球菌プロテインGのアルブミン結合ドメインである、請求項37に記載のムテイン。
【請求項39】
アルブミン結合ペプチドが、式Cys−Xaa1−Xaa2−Xaa3−Xaa4−Cys[式中、Xaa1は、Asp、Asn、Ser、Thr、またはTrpであり;Xaa2は、Asn、Gln、His、Ile、Leu、またはLysであり;Xaa3は、Ala、Asp、Phe、Trp、またはTyrであり;Xaa4は、Asp、Gly、Leu、Phe、Ser、またはThrである]を有する、請求項33または36に記載のムテイン。
【請求項40】
請求項1から39のいずれか一項または請求項65に記載のムテインをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子。
【請求項41】
その発現を可能とするように調節配列に作動可能に連結されている、請求項40に記載の核酸分子。
【請求項42】
ベクター内に含まれる、請求項40または41に記載の核酸分子。
【請求項43】
ファージミドベクター内に含まれる、請求項40または41に記載の核酸分子。
【請求項44】
請求項40から43のいずれか一項に記載の核酸分子を含有する宿主細胞。
【請求項45】
請求項1から39のいずれか一項に記載のムテインを生成させる方法であって、
(a)hNGALタンパク質をコードする核酸分子を、hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置33、36、41、52、54、68、70、79、81、134、136、および138に対応する配列位置のうちの任意の少なくとも1カ所をコードするヌクレオチドトリプレットにおいて突然変異誘発にかける結果、1または複数のムテイン核酸分子を得るステップと、
(b)適切な発現系において、(a)で得られた1または複数のムテイン核酸分子を発現させるステップと、
(c)選択および/または単離により、所与の標的に対する検出可能な結合アフィニティーを有する1または複数のムテインを濃縮するステップと
を含む方法。
【請求項46】
核酸分子を、前記配列位置のうちのいずれかをコードする、少なくとも9、10、11、または12すべてのヌクレオチドトリプレットにおいて突然変異誘発にかけるステップをさらに含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
核酸分子を、hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置42、48、49、55、75、77、80、および127に対応する配列位置のうちのいずれかをコードする、少なくとも1つのヌクレオチドトリプレットにおいて突然変異誘発にかけるステップをさらに含む、請求項45または46に記載の方法。
【請求項48】
核酸分子を、hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置43、44、46、47、50、51、59、65、78、86、87、98、99、103、107、110、および111に対応する配列位置のうちのいずれかをコードする、少なくとも1つのヌクレオチドトリプレットにおいて突然変異誘発にかけるステップをさらに含む、請求項45から47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
核酸分子を、hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置33、36、41、42、48、49、52、54、55、68、70、75、77、79、80、81、127、134、136、および138に対応する配列位置のうちの、任意の少なくとも9カ所をコードするヌクレオチドトリプレットにおいて突然変異誘発にかけるステップをさらに含む、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
核酸分子を、hNGALの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置33、36、41、42、43、44、46、47、48、49、50、51、52、54、55、59、65、68、70、75、77、78、79、80、81、86、87、98、99、103、107、110、111、127、134、136、および138に対応する配列位置のうちの、任意の少なくとも9カ所をコードするヌクレオチドトリプレットにおいて突然変異誘発にかけるステップをさらに含む、請求項48に記載の方法。
【請求項51】
ムテイン、前記ムテインのフラグメントまたは前記ムテインの融合タンパク質、および別のポリペプチドを、前記ムテインをコードする核酸から出発して、遺伝子操作方法により産生する、請求項1から39のいずれか一項に記載のムテインの産生方法。
【請求項52】
ムテインが、細菌宿主生物または真核宿主生物において産生され、この宿主生物またはその培養物から単離される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
請求項1から39のいずれか一項または請求項65に記載の少なくとも1つのムテインを含む医薬組成物。
【請求項54】
所与の標的に結合させる/所与の標的を検出するための、請求項1から39のいずれか一項に記載のムテインの使用であって、
(a)前記ムテインを、前記標的を含有すると推測される被験試料と接触させるステップと、
(b)適切なシグナルにより、前記ムテイン/標的複合体を検出するステップと
を含む使用。
【請求項55】
化合物を事前に選択された部位にターゲティングするための、請求項1から39のいずれか一項に記載のムテインの使用であって、
(a)前記ムテインを、前記化合物と接触させるステップと、
(b)前記ムテイン/標的複合体を、前記事前に選択された部位に送達するステップと
を含む使用。
【請求項56】
所与の標的との複合体を形成するための、請求項1から39のいずれか一項または請求項65に記載のムテインの使用。
【請求項57】
医薬組成物を製造するための、請求項1から39のいずれか一項または請求項65に記載のムテインの使用。
【請求項58】
医薬組成物が、放射免疫療法(RIT)において用いられるか、またはin vivoイメージングに用いられる、請求項57に記載の使用。
【請求項59】
医薬組成物が、単剤療法または組合せ療法として用いられる、請求項57または58に記載の使用。
【請求項60】
請求項1から39のいずれか一項または請求項65に記載のムテインを含む診断用キットまたは解析用キット。
【請求項61】
哺乳動物における放射免疫療法(RIT)のための方法であって、前記哺乳動物に、有効量の、請求項1から39のいずれか一項または請求項65に記載のムテインを投与するステップを含む方法。
【請求項62】
哺乳動物におけるin vivoイメージングのための方法であって、前記哺乳動物に、有効量の、請求項1から39のいずれか一項または請求項65に記載のムテインを投与するステップを含む方法。
【請求項63】
請求項1から39のいずれか一項または請求項65に記載のムテインを修飾する方法であって、hNGALの野生型配列の配列位置14、21、60、84、88、116、141、145、143、146、または158に対応する配列位置のうちの任意の少なくとも1カ所においてCys残基を導入するステップと、hNGALの野生型配列の配列位置14、21、60、84、88、116、141、145、143、146、または158に対応する配列位置のうちの任意の少なくとも1カ所において導入されたCys残基のチオール基を介して、前記タンパク質の血清半減期を改変することが可能な部分を結合させるステップとを含む方法。
【請求項64】
前記タンパク質の血清半減期を改変することが可能な部分が、ポリアルキレングリコール分子およびヒドロキシエチルデンプンからなる群から選択される、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
ムテインが、所与の標的に、1μM以下、100μM以下、1μM以下、500nM、200nM以下、100nM以下、50nM以下、10nM以下、または1nM以下のKDにより結合する、請求項1から39のいずれか一項に記載のムテイン。

【図2】Me・DTPA結合活性を有するhNGAL変異体の特性を示す図である。
【図2A】StrepタグIIによるアフィニティー精製およびゲル濾過後における、組換えによる野生型hNGAL(レーン1、4)、および変異体Tb7.N9(レーン2、5)のほか、C26(レーン3、6)に対するSDS−PAGE解析を示す図である。レーン1〜3は、2−メルカプトエタノールにより還元された試料を示す。非還元性条件下において、電気泳動の運動性がわずかながら増強されたことは、各場合において一重のジスルフィド結合が適正に形成されていることを示す。
【図2B】ELISAにおける結合活性を示す図である。StrepタグIIに対して特異的な抗体により捕捉された精製hNGAL変異体によりマイクロ滴定プレートをコーティングし、Y・DTPA−DIG(低分子)コンジュゲートの希釈系列と共にインキュベートした後で、抗DIG Fab/APおよびpNPP基質により検出した(シグナル強度は、mOD/分単位で与えられる)。このアッセイにおいて、組換えによる野生型hNGALが示したシグナルは、無視できるものであった(図示しない)。最後の成熟ステップに由来するhNGAL変異体であるC26(挿入図を参照されたい)は、著明な低密度(2.5対10μg/mlの捕捉抗体濃度による、100対250nM)で固定化したことに留意されたい。
【図2C】競合ELISAにおけるhNGAL変異体C26の金属キレート結合活性を示す図である。このELISAのセットアップは、パネル(B)で示したセットアップと同様であったが、可変濃度の遊離Me・Bn−CHX−A’’−DTPA−トリスキレート錯体、または(比較としての)Fe3+・エンテロバクチンの存在下におけるトレーサーとして、固定濃度のY・DTPA−RNアーゼ−DIG(タンパク質)コンジュゲートを用いた。
【図2D】Biacore測定器上で測定された、hNGAL変異体C26についての、リアルタイムにおける反応速度解析を示す図である。アミン化学反応により、Y・DTPA−RNアーゼコンジュゲートを、CM5センサーチップに結合させ(ΔRU=240)、様々な濃度で、精製されたhNGAL変異体C26を適用した。各場合において、測定されたシグナルをグレーの線で示す一方、曲線近似は黒色の線で示す。この曲線セットから決定される反応速度定数を、表3に列挙する(実施例13)。
【図2E】流速25μl/分のBiacore測定器上で測定された、hNGAL変異体CL31についての、リアルタイムにおける反応速度解析を示す図である。アミン化学反応により、Y・DTPA−RNアーゼコンジュゲートを、CM5センサーチップに結合させ(ΔRU=300)、表示される様々な濃度で、精製されたhNGAL変異体CL31を適用した。各場合において、測定されたシグナルをグレーの線で示す一方、曲線近似は黒色の線で示す。
【図3】ポリペプチド骨格を有する、Y・DTPA−トリスキレートと複合体化させたhNGAL変異体Tb7.N9の結晶構造を、ライトグレーのリボンとして示す一方、結合したY3+・DTPAリガンドは、2Fo−Fc電子密度(配位子であるDTPA、およびY3+に配位する1つの水分子の周囲の1σ軌道、ならびにY3+イオンの周囲の4σ軌道を輪郭とする)を含めた黒色のスティックによるモデルとして示す。結合した金属キレート錯体との接触距離である半径4Å以内に、8本のβストランド各々において少なくとも1つずつの、全体で15の残基:Gln33、Arg36、Thr52、Gln54、Val66、Ala68、Arg70、Asp77、Tyr78(骨格を介してだけ)、Leu79、Met81、Phe83、Tyr106、Phe123、およびThr136が見出されている。これらの残基の側鎖は、残基Ser134、および金属に結合する水への架橋を形成する、水素結合した水分子と共に、グレーのスティックとして示す。
【図4】放射免疫療法またはin vivoイメージングのプレターゲティングに、Me・DTPA結合活性を有するhNGAL変異体を適用する可能性を示す図である。図4(A)は、(i)本発明による、Me・DTPA結合活性を有するNGALムテイン(黒色)、および(ii)腫瘍標的に対する特異性を有する、抗体/フラグメント、または代替的な結合タンパク質(例えば、別のリポカリンムテイン)を含む、二特異性融合タンパク質またはコンジュゲートが、血流に適用されることを示す。図4(B)は、融合タンパク質が腫瘍において蓄積される一方で、結合しなかった融合タンパク質は腎臓を経て消失することを示す。図4(C):放射性核種−DTPA複合体を血流に適用することを示す図である。図4(D):放射性核種−DTPA複合体に、腫瘍に結合した融合タンパク質が結合する一方で、過剰な複合体は腎臓により迅速に排出されることを示す図である。図4(E):結合した放射性核種の局所的な崩壊により、腫瘍内における効果的な細胞死がもたらされ、また、バイスタンダー効果も活用されることを示す図である。図4(D*):Me・DTPA複合体の2価形を適用することにより、アビディティー効果を介して腫瘍部位においてより堅固な結合がもたらされ、これにより、放射性核種の半減期の延長が可能となることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0150】
Me・DTPA錯体コンジュゲートの調製
1mlの100mM NaHCO3(>99.5%;ドイツ、カールスルーエ、Carl Roth GmbH & Co社製)、pH8.3中で溶解させた、最大10個のLys側鎖のほか、共有結合するその遊離アミノ末端を示す、365ナノモル(5mg)のウシ膵臓リボヌクレアーゼA(RNアーゼA;スイス、ブックス、Fluka Chemie社製)を、撹拌しながら4℃で一晩にわたり、10μl DMSO中に1.8マイクロモル(1.28mg)のp−SCN−Bn−CHX−A’’−DTPA([(R)−2−アミノ−3−(4−イソチオシアナトフェニル)プロピル]−trans−(S,S)−シクロヘキサン−1,2−ジアミン−五酢酸・3HCl;テキサス州、ダラス、Macrocyclics社製)溶液と反応させた。これらの条件下においては、ESI−MS(QtoF Ultima Global;ドイツ、エシュボーン、Waters GmbH社製)により定量化された、タンパク質1分子当たり1つの活性化DTPA基を反応させることが典型的である。同様に、150ナノモル(10mg)のウシ血清アルブミン(BSA;ドイツ、ミュンヘン、Sigma−Aldrich社製)を、750ナノモル(528μg)のp−SCN−Bn−CHX−A’’−DTPAと結合させた。過剰な試薬を除去し、緩衝液を交換するため、0.1M酢酸アンモニウム(>99.9%;Sigma−Aldrich社製)/酢酸、pH5により、PD−10カラム(ドイツ、フライブルク、Amersham Pharmacia Biotech社製)上におけるゲル濾過を実施した(Wuら、Bioorg Med Chem、5巻、1925〜1934頁(1997年))。次いで、同じ酢酸アンモニウム緩衝液中におけるTbCl3(または、YCl3、LuCl3、GdCl3、InCl3)(すべて、Sigma−Aldrich社製)の等モル溶液(キャリアータンパク質に対して)を添加し、室温で10分間にわたるインキュベーション後、結果として得られるコンジュゲートを、−80℃で保存した。この手運を用いて、重量測定法により調製されたTbCl3溶液(λEx=295nm、λEm=545nm;FluoroMax−3;フランス、ロンジュモー、Jovin Yvon社製)による、ゲル濾過されたDTPA−RNアーゼ試料の蛍光滴定を介して確認された、平均化学量論比1:1:1のMe・DTPA−RNアーゼコンジュゲートを得、これにより、飽和化が達成されるまで、十分に検出可能なTb発光の増大が示された。
【0151】
まず、4℃で一晩にわたり、10μl DMSO中に915ナノモルのp−SCN−Bn−CHX−A’’−DTPAを、970μlの100mM NaHCO3、pH8.3中に溶解させた183ナノモルのキャリアータンパク質と反応させ、次いで、室温で1時間にわたり、20μl DMSO中に366ナノモルのジゴキシゲニン−3−O−メチルカルボニル−ε−アミノカプロン酸−N−ヒドロキシ−スクシンイミドエステル(DIG−NHS;ドイツ、マンハイム、Roche Diagnostics社製)を添加した後、上記の通り、ゲル濾過および金属イオンとの錯体形成を実施することにより、DTPAおよびジゴキシゲニン(DIG)との、RNアーゼ(またはBSA)の二重コンジュゲートを調製した。
【0152】
室温で一晩にわたり、100μLの100mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス;>99.9%;ドイツ、ダルムシュタット、AppliChem社製)/HCl、pH8.0中に528μg(750ナノモル)のp−SCN−Bn−CHX−A’’−DTPAをインキュベートし(チオ尿素の形成を達成し)、227μg(750ナノモル)のY3+を添加し、結果として7.5mMの最終リガンド濃度をもたらすことにより、Y−DTPA−トリスコンジュゲートを調製し、hNGAL変異体と共結晶化させた。
【0153】
100μl DMF中に2マイクロモルのp−NH2−Bn−CHX−A’’−DTPA([(R)−2−アミノ−3−(4−アミノフェニル)プロピル]−trans−(S,S)−シクロヘキサン−1,2−ジアミン−五酢酸・4HCl;Macrocyclics社製)を溶解させ、1.7μL(12マイクロモル)のジイソプロピルエチルアミン(Fluka社製)を添加し、室温で一晩にわたり2マイクロモルのDIG−NHSと反応させることにより、DIG−NHSとのMe・DTPAの直接的なコンジュゲートを調製した。10μlのこの溶液を、980μlの酢酸アンモニウム緩衝液により希釈し、同じ緩衝液中に200ナノモルのYCl3またはTbCl3を10μl添加した。
【実施例2】
【0154】
突然変異体hNGALファージディスプレイライブラリーの構築
単一の不対チオール側鎖を除去するアミノ酸置換であるCys87Ser(Goetzら(2000年)、Biochemistry、39巻、1935〜1941頁)のほか、合致しない突出を伴う2つの固有のBstXI制限部位を導入するGln28HisおよびThr145Alaも保有する、クローニングされたcDNA(Breustedtら(2006年)、Biochim.Biophys.Acta、1764巻、161〜173頁)に基づき、hNGAL変異体の組合せライブラリーを発生させ、これにより、突然変異誘発させた中心遺伝子カセットの一方向クローニングを可能とした。公表された戦略(Besteら(1999年)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、96巻、1898〜1903頁;Skerra,A.(2001年)、J.Biotechnol.、74巻、257〜275頁)に従い、2段階で、この領域に対する突然変異誘発およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるアセンブリーを実施した。第1に、それぞれ、アミノ酸位置33/36/41、52/54、68/70/79/81、および134/136/138を対象とする、縮重オリゴデオキシヌクレオチドの対であるP1:5’−CAA TTC CAT GGG AAG TGG TAT YNS GTA GGT YNS GCA GGG AAT GCA NNS CTC AGA GAA GAC AAA GAC CCG CA−3’(配列番号11);およびP2:5’−GTG ACA TTG TAG CTC TTA TCT TCT TTC AGC TCA TAG ATS NRG GCS NNC ATC TTT TGC GGG TCT TTG TCT TC−3’(配列番号12)のほか;P3:5’−AAG AGC TAC AAT GTC ACA NNS GTC NNS TTT AGG AAA AAG AAG TGT GAC TAC NNS ATC NNS ACT TTT GTT CCA GGT TCC C−3’(配列番号13);およびP4:5’−GCC AGC TCC TTG GTT CTC CCS NRG AGS NRG ATS NNG AAG TAC TCC CTG TTT TGA G−3’(配列番号14)を用いて、2つのDNAフラグメントを個別に増幅した。第2に、結果として得られる両方のPCR産物を、2つのフランキングプライマーであるP5:5’−CCA GGA CAA CCA ATT CCA TGG GAA GTG G−3’(配列番号15);およびP6:5’−GTT CCG AAG CCA GCT CCT TGG TTC TC−3’(配列番号16)の存在下で混合した後、数サイクルにわたるPCRにより、全長中心遺伝子カセットのアセンブリーおよび増幅を実施した。説明される通り(Schlehuberら(2000年)、J.Mol.Biol.、297巻、1105〜1120頁)に、Taq DNAポリメラーゼ(ドイツ、ザンクトレオン−ロート、Fermentas MBI社製)を用いて、すべてのPCRステップを実施した。Thermo Fisher Scientific社(ドイツ、ウルム)からHPLCグレードのオリゴデオキシヌクレオチドを購入し、必要に応じて、尿素PAGEによりさらに精製した。BstXI(ドイツ、マンハイム、Promega社製)により、結果として得られるDNAライブラリーを切断し、遺伝子発現ベクターpASK75(Skerra(1994年)、Gene、151巻、131〜135頁)に基づき、OmpAシグナルペプチド、T7タグ、修飾された成熟hNGALからなる融合タンパク質に続き、アンバーコドン、および線維状バクテリオファージM13の遺伝子IIIによるコートタンパク質のC末端フラグメント、すなわち、ビリン結合タンパク質について既に説明された(Besteら、前出;Skerra、前出)フラグメントと同様のフラグメントをコードする、ファージミドベクターpNGAL35上でクローニングした。大腸菌XL1−Blue(Bullockら(1987年)、Biotechniques、5巻、376〜378頁)に、6μgのPCR産物および56μgの消化されたプラスミドDNAによるライゲーション混合物を電気穿孔させた後で、約6.5×1010個の形質転換体を得た。
【実施例3】
【0155】
ファージディスプレイおよびコロニースクリーニングによる、金属キレート錯体Y・p−NH2−Bn−CHX−A’’−DTPAに対してアフィニティーを有するhNGAL変異体の選択
組換えファージミドを産生するため、pNGAL35ライブラリーにより形質転換した大腸菌XL1−Blueの培養物に、VCS−M13ヘルパーファージ(オランダ、アムステルダムズイドースト、Stratagene社製)を感染させ、これを介して、公表されたプロトコール(Besteら、前出;Schlehuberら、前出)に従い、25μg/Lのアンヒドロテトラサイクリン(ベルギー、ゲール、Acros社製)により、hNGAL−pIII融合タンパク質の生合成を誘導した。
【0156】
各パニングサイクルにつき、PBS(4mM KH2PO4、16mM Na2HPO4、115mM NaCl、pH7.4)中に約1012個の組換えファージミドを、100μg/mlのTb・DTPA−RNアーゼコンジュゲートによりコーティングし、1.2mlのブロッキング緩衝液(0.1%(v/v)のTween 20[ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート;AppliChem社製]、および2%(w/v)BSAを含有するPBS)により2時間にわたりブロッキングした、ImmunoSticks(ドイツ、ヴィースバーデン、Nunc社製)と共に、1時間にわたりインキュベートした。PBS/T(0.1%(v/v)のTween 20を含有するPBS)による8回の洗浄ステップの後、結合したファージミドを、0.1Mグリシン/HCl、pH2.2により15分間にわたり溶出させた後、0.5Mトリス塩基により即時に中和させた。次回のパニング前に、ファージミドを滴定および再増幅した。7サイクル後、酸により溶出させたファージミドは、1回目のサイクル後に観察されたファージミド数と比較して1000倍濃縮された。
【0157】
最後のパニングステップに由来するファージミド調製物のプールを用いて、突然変異させた遺伝子カセットを、OmpAシグナルペプチド、C末端のStrepタグII(SchmidtおよびSkerra(2007年)、Nat.Protoc.2巻、1528〜1535頁)を有するhNGALコード領域に続く、アンバーストップコドンのほか、連鎖球菌属プロテインGに由来するアルブミン結合ドメイン(ABD)遺伝子(Schlehuberら、前出)による融合体をコードするプラスミドpNGAL38上において、BstXIを介してサブクローニングした。次いで、フィルターサンドイッチによるコロニースクリーニングアッセイを実施し、これにより、親水性フィルター膜上に播種され、ヒト血清アルブミン(HSA)によりコーティングされた第2の基底膜上において機能的に捕捉された生細胞コロニーから、hNGAL−ABD融合タンパク質を放出させる(Schlehuberら、前出)。PBS/T中に150nMのTb・DTPA−BSA−DIG(または対応するRNアーゼコンジュゲート)により、1時間にわたり、この膜をプローブした後、公表されているプロトコールに従い、抗DIG Fab/アルカリホスファターゼ(AP)コンジュゲート(Roche Diagnostics社製)、および発色性染色により現像した。この膜上における強い発色シグナルによりスポットを同定したら、第1のフィルターから対応するコロニーを採取して増殖させ、プラスミドの単離、および/または第2のコロニースクリーンにおける対照比較を行った。このステップでは、金属イオンにより帯電させないDTPAコンジュゲートを陰性対照として用い、また、微量金属イオン汚染から生じるエラーシグナルを回避するため、高純度の0.1M酢酸アンモニウム緩衝液(>99.9%)、pH7.1を用いた。
【0158】
次いで、選択されたhNGAL変異体Tb7(配列番号2)のアフィニティーを改善するため、以下に記載の通りに、対応するBstXIカセットをエラープローンPCRにかけた後、ファージミドディスプレイを行った。この場合、1011個の組換えファージミドを、第1のサイクルでは25μg/mlのTb・DTPA−RNアーゼコンジュゲートにより、また、第2〜4のサイクルでは10μg/mlのTb・DTPA−RNアーゼコンジュゲートによりコーティングしたImmunoSticksと共に、1時間にわたりインキュベートした。
【0159】
hNGAL変異体Yd5(配列番号9)をアフィニティー成熟させるため、対応するBstXIカセットをエラープローンPCR(以下を参照されたい)にかけた後、ファージミドディスプレイであるが、これを制限的なオフレート条件下において行った。この目的で、1012個のファージミドを、10μg/mlのY・DTPA−RNアーゼコンジュゲートによりコーティングしたImmunoSticksと共に、室温で1時間にわたりインキュベートした。8回にわたる洗浄ステップの後、該スティックを、室温で30分間にわたり、PBS中500μMの遊離金属キレート錯体Y・p−NH2−Bn−CHX−A’’−DTPA溶液800μLと共にインキュベートし、競合を達成した。PBSによる、さらに3回にわたる洗浄ステップの後、上記の酸性条件下において、結合した残りのファージミドを溶出させた。この場合、合計で3回にわたる選択サイクルを実施した。
【0160】
ある程度のアフィニティー成熟ステップを行うため、突然変異誘発させたhNGALライブラリーをコロニースクリーンに直接適用したが、Tb/Y・DTPA−RNアーゼ−DIGコンジュゲートの濃度を、50nMから5nMに低下させることにより、厳密性を上昇させる条件下において行った。厳密性をさらに上昇させるため、20nM〜1nMの濃度において、厳密に1価のTb/Y・DTPA−DIG低分子コンジュゲートを適用した。最後に、第2の膜を、まず、10nM Y・DTPA−DIGと共に1時間にわたり、また、次いで、PBS/Tによる3回にわたる洗浄後において、10μMの遊離錯体であるY・p−NH2−Bn−CHX−A’’−DTPAと共にインキュベートした後、上記の通り、洗浄、検出、および染色することにより、競合コロニースクリーンを実施した。
【実施例4】
【0161】
エラープローンPCRによるhNGALの突然変異誘発
dNTP類似体を有するpNGAL15(Zaccoloら(1996年)、J.Mol.Biol.、255巻、589〜603頁)上においてクローニングされた、Tb7をコードする遺伝子のPCRにより、第2世代の突然変異体ライブラリーの構築を実施した。20μlの反応混合物は、10ngの鋳型DNA、25μMずつのdNTP類似体である8−オキソ−dGTP(8−オキソ−2’デオキシグアノシン−5’−三リン酸)およびdPTP(6−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)−3,4−ジヒドロ−8H−ピリミド−[4,5−c][1,2]−オキサジン−7−オン−5’−三リン酸)(いずれも、カリフォルニア州、サンディエゴ、TriLink社製)、500μMの従来型dNTP、0.5μMのフランキングプライマーであるP5およびP6、2mMのMgCl2、および2.5ユニットのTaq DNAポリメラーゼを含有した。1分間にわたる92℃、1.5分間にわたる55℃、および5分間にわたる72℃の温度による10サイクルを実施した。次いで、同じ条件下においてはあるが、類似体は伴わず、20サイクルを用いて、容量100μl中における、上記に由来する5μlの試料により、再増幅を実施した。
【0162】
50μMのdPTP、50μMの8−オキソ−dGTP、1ユニットの9°Nm DNAポリメラーゼ(ドイツ、フランクフルトアムマイン、New England Biolabs社製)の存在下で、プライマーP5およびP6を用いるエラープローンPCRにより、変異体Yd5のランダム化を同様に実施し、その後、上記の通り、再増幅を行った。突然変異体の9°Nm DNAポリメラーゼは、野生型の該酵素と比較して1〜5%のプルーフリーディングエキソヌクレアーゼ活性を有する(Southworthら(1996年)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、93巻、5281〜5285頁)が、これを適用して、トランスバージョン頻度を増強した。
【0163】
PCR産物は、アガロースゲル電気泳動(SambrookおよびRussel、前出)により精製し、BstXIにより切断し、pNGAL35上でサブクローニングして、ファージディスプレイにより選択した。
【実施例5】
【0164】
第1のhNGAL変異体におけるアミノ酸サブセットを標的ランダム突然変異誘発
位置79および80をランダム化するため、pNGAL15−Tb7を鋳型として用いて、上記の通りのTaq DNAポリメラーゼによるPCRにおいて、プライマーP5(配列番号15)およびmut79back:5’−GGA ACC TGG AAC AAA AGT CAT SNN SNN GTA GTC AC A CTT CTT−3’(配列番号17)を適用した。プライマーmut79for:5’−GAC TTT TGT TCC AGG TTC C−3’(配列番号18)およびP6(配列番号16)を用いて、第2のPCRフラグメントを発生させた。上記でさらに説明した通り、フランキングプライマーP5(配列番号15)およびP6(配列番号16)を用いて、両方のフラグメントをアセンブリングした。位置125および127をランダム化するため、pNGAL15−Tb7.N9を鋳型として用いるPCRにおいて、プライマーP5(配列番号15)およびmut127back:5’−GCC AGC TCC TTG GTT CTC CCG AGG AGG GTG ATG GAG AAG TAC TCC CTG TTT TGS NNA ACS NNC TTG AAG AAC ACC−3’(配列番号19)を適用した。プライマーP5(配列番号15)およびP6(配列番号16)による再増幅を介して、PCR産物を全長まで伸長させた。位置77および136をランダム化するため、pNGAL15−Tb7.N9.N34を鋳型として用いるPCRにおいて、プライマーP5(配列番号15)およびmut77back:5’−GGA ACC TGG AAC AAA AGT CAT GGT CAG GTA SNN ACA CTT CTT TTT CCT AAA CCT G−3’(配列番号20)を適用した。プライマーmut79for(配列番号18)およびmut136back:5’−GCC AGC TCC TTG GTT CTC CCG AGG AGS NNG ATG GAG AAG TAC TCC CT−3’(配列番号21)を用いて、第2のPCRフラグメントを作製した。ここでもまた、プライマーP5およびP6(配列番号15および16)を用いて、2つのフラグメントをアセンブリングした。
【0165】
位置33、54、および136を同時にランダム化するため、pNGAL15−Tb7.N9.N34を鋳型として用いるPCRにおいて、mut33for:5’−CAA TTC CAT GGG AAG TGG TAT NNS GTA GGT CGG GCA GGG−3’(配列番号22)、およびmut54back:5’−CTT CTT TCA GCT CAT AGA TSN NGG CGG TCA TCT TTT GCG G−3’(配列番号23)を適用した。プライマーmut136for:5’−ATC TAT GAG CTG AAA GAA G−3’(配列番号24)およびmut136back(配列番号21)を用いて、第2のPCRフラグメントを増幅させた。ここでもまた、フランキングプライマーP5(配列番号15)およびP6(配列番号15および16)を用いて、両方のPCRフラグメントをアセンブリングした。いずれの場合も、変異誘発させたDNAフラグメントを、次に行うコロニースクリーニング用にpNGAL38にサブクローニングした。
【実施例6】
【0166】
可溶性タンパク質の産生および精製
組換えhNGALおよびその変異体は、いずれも、成熟hNGALタンパク質およびC末端におけるStrepタグIIとのOmpAシグナルペプチドの融合体をコードし、後者は、突然変異させた遺伝子カセットを一方向サブクローニングするための、2つの合致しないBstXI制限部位を保有する、それぞれ、野生型hNGALおよびその変異体のための、プラスミドpNGAL14(Breustedtら、前出)およびpNGAL15による、アクリジニウムオレンジを用いてそのエピソームから取り出した大腸菌BL21株(StudierおよびMoffat(1986年)、J.Mol.Biol.189巻、113〜130頁)またはTG1−F株のsupE遺伝子型(大腸菌K12 TG1(Gibson(1984年)、「Studies on the Epstein−Barr virus genome」、英国、Cambridge University)の誘導体)中におけるペリプラズム分泌を介して産生した。StrepタグII(SchmidtおよびSkerra、前出)により該可溶性タンパク質をアフィニティー精製した後、PBS緩衝液を用いるSuperdex 75 HR 10/30カラム(Amersham社製)上におけるサイズ除外クロマトグラフィー(SEC)を実施した。タンパク質の純度は、SDS−PAGE(FlingおよびGregerson(1986年)、Anal.Biochem.、155巻、83〜88頁)により確認し、タンパク質の濃度は、野生型NGAL(配列番号1)には29,930M-1cm-1、また、その変異体であるTb7(配列番号2)、Tb7.14(配列番号4)、Tb7.N9(配列番号6)、Yd5(配列番号9)、およびC26(配列番号10)には21,680M-1cm-1の計算による減衰係数を用いて、280nmにおける吸収を測定することにより決定した(Gillおよびvon Hippel(1981)Anal Biochem.182巻、319〜326頁)。
【実施例7】
【0167】
ELISAによるMe・DTPA基に対する結合活性の測定
C末端においてStrepタグII(SchmidtおよびSkerra、前出)を保有するhNGAL変異体を選択的に捕捉するため、96ウェルのMaxiSorpポリスチレンマイクロ滴定プレート(Nunc社製)を、4℃で一晩にわたり、PBS中に5〜10μg/mLのStrepMAB−Immo(ドイツ、ゲッティンゲン、IBA社製)50μlによりコーティングし、室温で1時間にわたり、PBS/T中1%(w/v)のBSAによりブロッキングした。PBS/Tによる3回にわたる洗浄ステップの後で、精製されたhNGAL変異体の250nM溶液50μLを、1時間にわたり、すべてのウェルに適用した。洗浄後、Me・DTPA−RNアーゼ−DIGコンジュゲートの希釈系列50μLを添加し、1時間にわたりインキュベートした。ウェルを再度洗浄し、PBST中において1:1000に希釈した抗DIG Fab/APコンジュゲート50μLにより、1時間にわたり、結合したコンジュゲートを検出した後、100mMトリス/HCl、pH8.8、100mM NaCl、5mM MgCl2中0.5mg/mlのp−ニトロフェニルホスフェート100μlの存在下においてシグナルを発生させた。405nmにおける吸収の時間経過であるΔA/Δtを、SpectraMax 250リーダー(カリフォルニア州、サニーベール、Molecular Devices社製)により測定し、KaleidaGraphソフトウェア(ペンシルベニア州、リーディング、Synergy software社製)により、データを式
ΔA=ΔAmax×[L]tot/(KD+[L]tot
[式中、[L]totは、適用したリガンドコンジュゲートの濃度を表し、KDは、解離定数である(VossおよびSkerra(1997年)、Protein Eng.、10巻、975〜982頁)]により近似した。代替的に、同様の方式で競合ELISAを実施し、0.016〜100nMの範囲で濃度を変化させる遊離Me・p−NH2−Bn−CHX−A’’−DTPAキレート錯体の存在下において、固定濃度2.5〜5nMのMe・DTPA−RNアーゼ−DIGコンジュゲートを適用した。この場合、データを、さらなるパラメータとして曲線の傾きp(ヒル係数)を伴うS字形曲線の式
ΔA=(ΔAmax−ΔAmin)/(1+([L]totfree/KDp)+ΔAmin
により近似した。
【0168】
代替的に、定常状態におけるアッセイ成分濃度をさらに低下させるため、蛍光光度法用のAP基質を用いた。この場合、5μg/mlのStrepMAB−Immo 50μlにより黒色のMaxisorp 96ウェルマイクロプレート(Nunc社製)をコーティングした後、精製されたhNGAL変異体の100nM溶液、および固定濃度2,5nMのY・DTPA−RNアーゼ−DIGを適用した。製造元により提供される緩衝液中に1mMのAtttoPhos(Roche社製)50μlを添加することにより、シグナルを発生させた。FluoroMax−3マイクロプレートリーダー上において反応速度蛍光測定を実施し(λEx=430nm、λEm=535nm)、上記の通りに評価した。
【実施例8】
【0169】
表面プラズモン共鳴(SPR)によるMe・DTPA基に対する結合活性の測定
ランニングバッファーとしてPBS/t(0.005%(v/v)Tween 20を含有するPBS)を用いるBIAcore Xシステム(スウェーデン、ウプサラ、BIAcore社製)上で、hNGAL変異体のリアルタイム解析を実施した。標準的なアミン結合化学反応を用いて、10mMの酢酸Na、pH5.0中において5〜27μg/mlのMe・DTPA−RNアーゼコンジュゲート溶液を、CM5チップ上に固定化し、結果として、リガンド密度240〜1800共鳴単位(RU)を得た。濃度0.5〜500nMの精製されたhNGAL変異体を、5〜25μl/分の流速で適用した。エタノールアミンにより活性化および遮断された対照チャネルについて測定された、対応するシグナルを差し引くことにより、センサーグラムを補正した。反応速度データの評価は、BIAevaluationソフトウェアV 3.0(Karlssonら(1991年)、J.Immunol.Methods、145巻、229〜240頁)による全体的近似により実施した。代替的に、適用されたタンパク質濃度に対して、会合相(200秒以後)の終端におけるプラトー値をプロットし、ELISAにおける場合(上記を参照されたい)と同様に近似し、平衡解離定数(KD)を決定した。
【実施例9】
【0170】
hNGAL変異体の結晶化
100mM NaCl、10mMトリス/HCl、pH8.0に対する透析後において、10kDaカットオフのUltrafree濃縮器(ミネソタ州、ビレリカ、Millipore社製)を用いて、hNGAL変異体Tb7.14(配列番号4)およびTb7.N9(配列番号6)を、それぞれ18および25mg/mlまで濃縮し、0.45mmのCostar Spin−X遠心分離ユニット(ニューヨーク州、コーニング、Corning社製)により滅菌濾過した。いずれのタンパク質とも、ハンギングドロップ蒸気拡散法(Mc Pherson、「Crystallization of biological macromolecules」、ニューヨーク州、コールドスプリングハーバー、Cold Spring Harbor Larboratory Press社)を用いて結晶化させた。Tb7.14を結晶化させるには、アポタンパク質の1μl溶液を、2M (NH42SO4、200mM Li2SO4、100mMトリス/HCl、pH7.0を含む1μlのレザバー溶液と混合した。20℃で6週間後において、非対称格子当たり3つずつの分子を伴う空間群P4112の結晶が得られた。若干過剰量のY・DTPA−トリス(1.6mM)を添加した後において、最終タンパク質濃度22mg/mL(1.1mM)のTb7.N9(配列番号6)が結晶化された。この場合、1μlのタンパク質/リガンド溶液を、1μlの水により希釈し、22%(w/v)のPEG 3350、100mMビス−トリス/HCl、pH5.5を含む1μlのレザバー溶液と混合した。20℃で1週間後において、非対称格子当たり2本ずつのタンパク質鎖を伴う空間群P4112の結晶が得られた。液体窒素中において凍結させる前に、2つのhNGAL変異体による結晶を、それぞれ、30および20%(v/v)のグリセロールを補充した、対応する沈殿溶液中に浸漬した。
【実施例10】
【0171】
データの収集およびモデルの構築
Tb7.14(配列番号4)アポタンパク質およびTb7.N9(配列番号6)−リガンド複合体についての結晶回折データを、BESSY(ドイツ、ベルリン)ビームラインの、それぞれ、14.1および14.2により収集した(表1)。
【0172】
【表1】
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【0173】
MOSFLMによりデータを加工し、SCALAによりスケーリングし、また、TRUNCATEにより縮約化した(CCP4(1994年)、Acta Crystallogr.D、50巻、760〜763頁)。Tb7.14アポタンパク質の分子置換は、非対称格子の3つの分子すべてを有する野生型のシデロカリンhNGALの構造(Holmesら(2005年)、Structure、13巻、29〜41頁)(PDBエントリー1X71)を用いて、プログラムEPMR(Kissingerら(2001年)、Acta Crystallogr.D:Biol.Crystallogr.、57巻、1474〜1479頁)により実施した。次いで、Tb7.14(配列番号4)の精密化モデルを用いて、プログラムMOLREP(CCP4、前出)により、リガンド結合したTb7.N9(配列番号6)の分子置換を実施した。
【0174】
プログラムO(Jonesら(1991年)、Acta Crystallogr.A、47巻、110〜119頁)により、原子モデルを構築した。Tb7.14(配列番号4)では、分子1の残基Ser3〜Leu42、Pro48〜Gly178、分子2の残基Ser3〜Ala41、Gln49〜Asp177、および分子3の残基Thr4〜Leu42、Pro48〜Asp177に電子密度が存在した(分解能2.5Åのとき)。Tb7.N9(配列番号6)では、分子1の残基Asp6〜Ala40、Arg43〜Asp177、および分子2の残基Leu7〜Ala40、Leu42〜Gly178に電子密度が存在した(分解能2.0Åのとき)。In・DTPA錯体(CSDエントリーMOQVOD)の結晶構造に基づき、Insight II(カリフォルニア州、サンディエゴ、Accelrys社製)を用いて、リガンドY・DTPA−トリスをモデル化し、PRODRG(Schuttelkopfおよびvan Aalten(2004年)、Acta Crystallogr.D:Biol.Crystallogr.、60巻、1355〜1363頁)を用いて、対応するトポロジーパラメータおよび精密化パラメータを発生させた。いずれの結晶構造もCNS(Brungerら(1998年)、Acta Crystallogr.D:Biol.Crystallogr.54巻、905〜921頁)により精密化し、水分子を添加した。NQ−Flipper(WeichenbergerおよびSippl(2006年)、Bioinformatics、22巻、1397〜1398頁)により、アスパラギン残基およびグルタミン残基のロータマーを確認した。PROCKECK(Laskowskiら(1993年)、J.Appl.Cryst.、26巻、283〜291頁)およびWHAT_CHECK(Hooftら(1996年)、Nature、381巻、272頁)により、精密化された構造モデルを検証した。DSSP(KabschおよびSander(1983年)、Biopolymers、22巻、2577〜2637頁)を用いて二次構造エレメントを割り当て、PISA(KrissinelおよびHenrick(2007年)、J.Mol.Biol.、372巻、774〜797頁)によりタンパク質−リガンド間の接触面を計算した。PyMOL(DeLano(2002年)、「The PyMOL Molecular Graphics System」、米国、カリフォルニア州、サンカルロス、DeLano Scientific社)により分子グラフィックスおよび構造重合せを行う一方で、LIGPLOT(Wallaceら(1995年)、Protein Eng.、8巻、127〜134頁)によりタンパク質−リガンド間相互作用のダイアグラムを作製した。
【実施例11】
【0175】
リポカリンランダムライブラリーからの、Me・DTPA特異性を有するリポカリン変異体の選択
その天然リガンドであるエンテロバクチン(Goetzら、前出)およびそのクローニングされたcDNA(Breustedtら、前出)と複合体化したhNGALについての既知の結晶構造に基づき、本発明者らは、結合ポケット内における12のアミノ酸位置に対するコドンを特異的にランダム化することにより、組合せライブラリーを構築した(図1、表2)。
【0176】
3つの正に帯電した側鎖であるR81、K125、およびK134(Goetzら、前出)のうちの2つを含めた、リガンドポケットの底部にあり、天然の鉄シデロフォア錯体に近接する残基を、標的突然変異誘発に優先的に選択した。これらの位置は、βバレルの下方部分における疎水性残基の封入に影響を与えることなく、可能な限り深く空隙に達する、小型側鎖および大型側鎖の置換を共に許容すると予測された。
【0177】
【表2】
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【0178】
この戦略であれば、リガンドとしての昆虫リポカリンおよび有機分子について既に示された(Besteら、前出;Schlehuberら、前出)のと同様に、リガンドポケットを効果的に再整形して、より低分子のDTPA金属キレート錯体に対する新たな特異性を達成すると予測できるだろう。
【0179】
既に開発されたPCRによるアセンブリー戦略(Besteら、前出;Skerra(2001年)、前出)に適切な改変を加えてこれに従い、hNGALの一次配列の大部分にわたり広がる、これらの位置に対するランダム突然変異誘発の調整を実現した。この目的で、まず、所望の位置に縮重NNSコドンを有するオリゴデオキシヌクレオチドを用いて、各々が全体で4つのランダム化された残基のクラスターによる1対(#1:33、36、41;#2:52、54;#3:68、70、79、81;#4:134、136、138)を含む、2つの遺伝子セグメントを個別に増幅した。結果として得られる2つのPCR産物(NGAL遺伝子の中央部において短い重複を包含した)を単離、混合し、次いで、2つの固有のBstXI制限部位(上記を参照されたい)をもたらすフランキングプライマーを用いて、わずか数サイクルにわたる別の増幅においてアセンブリングした。線維状のファージディスプレイに適するファスミドベクター上における一方向クローニング(Skerra(2001年)、前出)の後、約6.5×1010個の個別の形質転換体による多様な分子ライブラリーを得た。
【0180】
このライブラリーを用いて、固定化されたリガンドによりコーティングされたImmunoSticks上におけるパニングを介し、Me・DTPA特異的なhNGAL変異体を濃縮した。この目的で、化学的に反応性のイソチオシアン酸基を伴うリガンド誘導体であるp−SCN−Bn−CHX−A’’−DTPAを、非特異的な結合活性を欠く頑健なキャリアータンパク質として用いられるリボヌクレアーゼA(Schlehuberら、前出)に共有結合させ、遷移金属イオンTb3+により帯電させた。このランタニドは、(i)その分子環境に強く依存する発光挙動を示し(Martiniら(1993年)、Eur.J.Biochem.、211巻、467〜473頁;Corneillieら、前出;HandlおよびGillies(2005年)、Life Sci.、77巻、361〜371頁)、これは、タンパク質−DTPAコンジュゲートの適正な帯電を分析するのに有用であり、また、(ii)その半径が、903+111In3+、および177Lu3+など、治療的または診断的に重要な放射性同位元素(Goldenberg(2002年)、J.Nucl.Med.、43巻、693〜713頁;Boermanら(2002年)、J.Nucl.Med.、44巻、400〜411頁;Corneillieら、前出;KenanovaおよびWu、前出)とさほど異ならないので、これを、最初の選択実験のモデルイオンとして選択した。
【0181】
7サイクルにわたりファージミドディスプレイパニングを行った後、濃縮されたhNGAL変異体遺伝子のプールを別のプラスミド上においてサブクローニングし、フィルターサンドイッチによるコロニースクリーン(Schlehuberら、前出)にかけた。この実験において、hNGAL変異体は、細菌のアルブミン結合ドメイン(ABD)との融合体として大腸菌の生菌コロニーから分泌され、ヒト血清アルブミン(HSA)によりコーティングされたフィルター基底膜に即座に結合した。Tb・DTPAおよびジゴキシゲニン基を伴うRNアーゼ二重コンジュゲートの結合について、機能的に固定化されたhNGAL変異体をプローブした。抗DIG Fab/APコンジュゲートによるシグナル発生後、特異的なリガンド結合活性を有する複数のクローンを同定した。選択された16のクローンに対する配列解析により、これらのうちの7つが同一の配列を有し、これをTb7(配列番号2)と名付けた(表2)が、残りのクローンも極めて類似の配列を示し、Tb7と比較して、最大で4アミノ酸の変化であった。
【実施例12】
【0182】
Me・DTPAキレート錯体に対する、選択されたhNGAL変異体のアフィニティーおよび特異性
hNGAL変異体を、適切な発現ベクターにサブクローニングし、内因性エンテロバクチンを欠く大腸菌株BL21のペリプラズム(Goetzら、前出)中における可溶性タンパク質として産生した。C末端におけるStrepタグIIによる、該ペリプラズムタンパク質抽出物からの精製(SchmidtおよびSkerra、前出)、およびサイズ除外クロマトグラフィーにより、野生型タンパク質の組換えの場合(Breustedtら、前出)と同様に、1Lの振とうフラスコ培養物当たり0.5〜3mgのタンパク質がもたらされた。クーマシー染色されたSDS−PAGEにより決定された純度は、95%を超えた(図2)。
【0183】
これもまた選択手順において用いられた、Tb・DTPA−RNアーゼAコンジュゲートについて、まず、ELISAにより結合活性を調べた(「材料と方法」を参照されたい)。変異体Tb7が、見かけのアフィニティーが低濃度のナノモル範囲(74.5±7.8nM)にある強力で金属依存的なシグナル(図2)を示したのに対し、野生型のhNGALは、測定可能な結合活性を示さなかった。
【実施例13】
【0184】
hNGAL変異体であるTb7のアフィニティー成熟によるMe・DTPA結合の改善
hNGAL変異体であるTb7のコード領域から出発して、デオキシヌクレオチド類似体(Zaccoloら、前出)の存在下における中心遺伝子カセット(アミノ酸位置25〜29および141〜145における2つのBstXI制限部位により挟み込まれる)に対するエラープローンPCRにより、第2世代のライブラリーを構築した後、より厳密な条件(上記を参照されたい)下において、4サイクルにわたりファージミドディスプレイおよびコロニースクリーニングを行った。Tb・DTPA結合について最も強いシグナルをもたらすコロニースクリーンに由来する10クローンに対するDNA配列決定により、それらのうちの9つが、位置65、71、73、74、75、116、または135における1つまたは2つのさらなる置換と共に、アミノ酸置換Ile80Thrを保有することが示された。3つの変異体であるTb7.1(Lys75Asp/Ile80Thr)(配列番号3)、Tb7.14(Ile80Thr)(配列番号4)、およびTb7.17(Phe71Ser/Lys73Glu/Ile80Thr)(配列番号5)は、ここでもまた、大腸菌BL21株内における可溶性タンパク質として発現させた。上記と同様の精製後において、ELISAにより、それらのリガンド結合特性を調べた(データは示さない)。これらの3つの変異体は、飽和時において、Tb7よりいくぶんか強いシグナル強度を示したが、Tb−DTPA錯体の結合についてのそれらの50%最大濃度値は約15nMであり、したがって、それほど改善されたわけではなかった。
【0185】
第2段階では、位置79/80、125/127、および77/136のほか、33/54/136におけるアミノ酸セットについて、逐次的な形で飽和突然変異誘発を実施した。これまでに同定されている有望な変異体の突然変異パターンに従い、また、野生型のhNGAL構造のほか、その変異体であるTb7.14(配列番号4;以下を参照されたい)の結晶構造にも基づく分子モデル構築を用いることにより、位置を選択した。この目的で、所望の位置(上記を参照されたい)において完全な縮重コドン(またはアンチコドン)配列を保有する合成オリゴデオキシヌクレオチドの対を用いて、元のライブラリーの構築に対する戦略と同様の、PCRによるアセンブリー戦略を適用した。結果として得られる分子ライブラリーは、組合せの複雑性が低度であったので、前回と同様、直接コロニースクリーニングアッセイにかけたが、選択時にはより低度のリガンド濃度を用いた。位置77/136および33/54/136を突然変異誘発するため、Y・DTPA−DIGコンジュゲートを標的として適用する(すなわち、Tb3+から、医学的により重要なY3+に転換させる)一方、Tb・DTPA−RNアーゼ−DIGコンジュゲートにより、位置79/80および125/127における選択を実施した。
【0186】
各々に対するランダム突然変異誘発の後、基準としてのそのリガンドアフィニティー、ペリプラズム内における可溶性の発現収量、およびゲル濾過時における安定的な単量体の形成により、結果として得られる最良のクローンを選択した。この手順では、結合活性が改善された(最大で約30倍)3つの有望な変異体が続いて出現した:Tb7.N9(A79L/I80T)(配列番号6)、Tb7.N9.N34(S127Q)(配列番号7)、およびYd5(D77E/T136S)(配列番号9)(表2)。最後の変異体Yd5が、最良の結合活性を示し、KD値は3.5nMであった(以下および表3を参照されたい)。
【0187】
【表3】
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【0188】
第3段階では、Yd5(配列番号9)ベースの、全中枢コードカセットに対してさらなるエラープローンPCR突然変異誘発を実施した後、競合的条件を用いることにより、解離反応速度を緩徐化する方向で、ファージディスプレイの選択を実施した。この目的で、ImmunoSticksに吸着させたY・DTPA−RNアーゼ標的によりパニングを実施し、洗浄後、結合したファージミドを、競合物質としての遊離金属キレート錯体であるY・p−NH2−Bn−CHX−A’’−DTPAの500μM溶液の存在下で、30分間にわたりインキュベートした後、さらに3回の洗浄ステップを実施し、最後に酸により溶出させた。3サイクルにわたりファージミドを選択した後、hNGAL変異体の濃縮プールをサブクローニングし、コロニースクリーニングアッセイにかけ、ここでもまた競合的条件を適用した。モル濃度が約1000倍である非標識リガンドの存在下においても強い染色シグナルをもたらす16の変異体を配列決定した。こうして、変異体C26(配列番号10)を単離したが、これは、5カ所のさらなる突然変異(L42P/P48L/Q49L/I55T/K75M)を示し、その大半はループ#1に存在した。
【実施例14】
【0189】
競合ELISAおよび表面プラズモン共鳴による、選択されたhNGAL変異体の生化学的な特徴付け
Tb7のアフィニティー成熟から得られるhNGAL変異体を、大腸菌内において、可溶性タンパク質として、振とうフラスコのスケールで産生し、前回と同様に、StrepタグIIおよびSECにより精製した。選択されたすべての変異体が、優れた発現特徴を示し、ペリプラズム中における細胞抽出物から、安定的で完全な単量体タンパク質(図2A)として精製され、振とうフラスコ培養物1リットル当たり0.5〜3mgの最終収量を示した。
【0190】
まず、マイクロ滴定プレートに捕捉されたhNGAL変異体を用いて、ELISAにより結合活性を比較し、Y・DTPA−DIGコンジュゲートの濃度を変化させながらそれらをインキュベートし、抗DIG Fab/APコンジュゲートにより検出した(図2B)。T7bから出発してその最も新たに改善された誘導体に至るすべての変異体が、双曲線状の飽和曲線を示したのに対し、野生型のhNGALは、金属キレート錯体に対する結合活性を示さなかった(図示しない)。飽和曲線の振幅が増大する一方、50%最大リガンド濃度(見かけのKD値である74±8nM(Tb7)、10.8±1.2nM(Tb7.N9)、5.0±0.7nM(Yd5)、0.43±0.06nM(C26)に対応する)は、in vitroにおけるアフィニティー成熟が経過するにつれて低下した。
【0191】
Tb3+およびY3+のほか、他の3価金属イオンも用いて、遊離リガンド競合物質としてのTb・DTPA−RNアーゼおよびMe・p−NH2−Bn−CHX−A’’−DTPAによりコーティングしたマイクロ滴定プレートを用いる競合ELISAにおいて、低分子の可溶性キレートリガンドに対するhNGAL変異体の結合活性をさらに調べた。これらの測定は、Tb3+/Y3+により帯電させたキレート複合体、とりわけ、アフィニティー成熟から得られる変異体Tb7.N9、Yd5、およびC26の場合に、良好な阻害曲線を示した。これに対し、固定化されたリガンドに対するTb7の結合活性は、適正な競合効果をもたらすにはおそらく低度に過ぎた。最後の変異体であるC26は、異なる金属イオンを用いてより完全に解析された(図2C)。遊離金属キレートの50%最大濃度から推定されるそのKD値は、2.7±0.03nM(Y3+)、3.6±0.24nM(Gd3+)、2.9±0.17nM(Tb3+)、9.4±0.33nM(Lu3+)、44.7±2.5nM(In3+)、および95±7nM(Bi3+)であった。したがって、操作されたhNGAL変異体、とりわけC26が、低分子の金属キレートリガンドに対して強力な結合活性を示すのに対し、選択時におけるキャリアータンパク質として用いられたRNアーゼの関連は、さほどの役割を果たさない。
【0192】
最後に、Y−DTPA−RNアーゼAコンジュゲートを共有結合させたBiacore CM−5チップを用い、精製された組換えタンパク質を適用するSPRにより、hNGAL変異体を解析した(表3)。ここでもまた、野生型のhNGALが著明な結合活性を示さなかったのに対し、Tb7については、中程度の結合シグナルが得られた(図示しない)。しかし、in vitroにおけるアフィニティー成熟の異なる段階において単離されたその誘導体は、固定化された標的に対するアフィニティーの上昇を示し、Ya6およびYd5について約3nMのより高値がもたらされた。これは、親のリポカリンムテインTb7を約30倍上回る改善を示す(KD=75〜100nM)。KD値の改善は主に、リガンド解離の緩徐化から生じる。この点において、アフィニティーが高値である2つの変異体は異なり、Yd5が、著明に長い解離半減期(約200秒間)を示す。競合的選択実験から得られる変異体C26が、金属キレートリガンドに対して282pMものアフィニティーを示したことは注目に値する(図2D)。
【実施例15】
【0193】
Me・DTPA結合活性を有するhNGAL変異体に対する結晶構造解析
hNGAL変異体であるTb7.14(配列番号4)およびTb7.N9(配列番号6)を、X線結晶構造解析にかけ、後者は、リガンドであるY・DTPA−トリスと複合体化させた。予測される通り、いずれのタンパク質も、その側面にαヘリックスを結合させた、8本のストランドによる逆平行βバレルを含む、典型的なリポカリンの折り畳みを示す(図3)。リポカリンのβバレルについて構造的に保存されている(Skerra(2000年)、前出)、Tb7.14およびTb7.N9の58の互いに同等な骨格位置(各々が鎖Aに由来するCα原子28〜37、52〜58、63〜69、77〜84、91〜94、106〜113、118〜124、133〜139)を重ね合わせた結果、0.31Åの標準偏差(r.m.s.d.)が得られた。分子置換に用いられてきたトレンカム−3,2−ホポ(PDBエントリー1X71)と複合体化させたTb7.14およびhNGALの鎖Aについてのr.m.s.d.が0.24Å(Cα原子7〜40および49〜177について)であったのに対し、Tb7.14の非対称格子の鎖A/BおよびA/C相互間のr.m.s.d.は、それぞれ0.43Åおよび0.35Åであった。Tb7.14の鎖A、およびエンテロバクチン(PDBエントリー:1L6M)と複合体化させたhNGALの鎖Aについてのr.m.s.d.が0.26Åであったのに対し、Tb7.N9の対応するr.m.s.d.は、若干高値であり、0.31Åであった。Tb7.N9の非対称格子内における鎖AおよびB相互間のr.m.s.d.は、0.58Åであった。Tb7.14およびTb7.N9の側鎖の立体構造を比較したところ、大きな変化が示されたのは、残基Gln33、Arg36、Gln49、Gln54、およびThr136だけについてであった。Arg36の側鎖は、そのグアニジニウムのNH1原子と、結合したDTPAのカルボン酸酸素(O2)との間において水素結合(3.3Å)を形成する。
【0194】
Tb7.N9との複合体において、結合したY・DTPA−トリスは、βバレルの開口側にある裂け目の一方の側に横たわり、その容量の約3分の1を満たす。空隙の残りの部分は、水素結合のネットワークを形成する9つの水分子により占められる。アミノ酸とランタニドイオンとは、直接には接触しない。該DTPA誘導体が、Y3+の9つの配位部位のうちの8つを満たすのに対し、9つ目の部位は、水分子(HOH9)により占められる。この水分子は、DTPAのカルボン酸基のうちの2つと水素結合の距離にあり(HOH9−LIG O1:2.9Å;HOH9−LIG O9:3.0Å)、また、結晶構造解析により定義された別の水分子(金属イオン周囲の第2殻にある)とも水素結合の距離にあり(HOH143:2.6Åの距離)、この水分子自体も、Ser134に水素結合する(HOH143−Ser134 OG:2.9Å)。
【0195】
キレート錯体の全体は、シクロヘキサン環およびベンジル側鎖を含めたその炭化水素基と共に、βストランドB、C、およびD上において隣接する疎水性ストレッチの方向に配向している(図3)。Y3+に配位する水分子を含めた極性のカルボン酸基は、βストランドG、H、およびAの方向を指し、ここに、水分子により満たされた(野生型hNGALの場合なら、以前は天然のシデロフォアにより占められていた)ギャップが形成される。
【0196】
予測されるキラリティーを示す電子密度により良好に定義される(BrechbielおよびGansow(1992年)、J.Chem.Soc.Perkin Trans、1巻、1173〜1178頁)、配位子のDTPA部分は、In3+・DTPA錯体の低分子結晶構造において既に見られている(Maeckeら(1989年)、J.Nucl.Med.、30巻、1235〜1239頁)のと同様に、金属イオンが、捕捉された野球ボールを表す、野球グラブとして説明することができる。Y3+イオンには、9つの原子が配位している。それらのうちの8つが、8座のキレート化配位子に由来し、5つがそのカルボン酸酸素(距離2.3〜2.5Å)に由来し、3つがそのアミン窒素(距離2.5〜2.7Å)に由来するのに対し、1つは、結合水の酸素(距離約2.7Å)である。天然のhNGALエンテロバクチン複合体の場合と同様、金属イオンとタンパク質側鎖との間には、直接の配位的接触が存在するわけではない。該DTPA誘導体のベンジル側鎖から突出するチオ尿素基と、コンジュゲートしたトリス部分とは、リポカリンの裂け目の外側に配向する。チオ尿素基の原子N4と、Asp77の2つのカルボン酸酸素との間には、2つの水素結合が存在する(OD1:距離3.4Å;OD2:距離2.9Å)。末端のトリスヒドロキシメチル基は、電子密度において部分的に定義されるに過ぎない(図3)。
【0197】
アポTb7.14およびTb7.N9 Y・DTPA−トリス複合体の結晶構造に由来する、個別に精密化されたタンパク質鎖を、エンテロバクチンと複合体化させた野生型のhNGALと構造的に重ね合わせると、16という多数のアミノ酸変化にもかかわらず、全体の折り畳みは、極めて良好に保存されていることが示される。特に、βバレル自体、その閉口端における短いループ、その側面に結合したαヘリックス、また、該ポリペプチド鎖のN末端およびC末端における多少とも可撓性の伸長部分さえも、ほぼ見分けがつかない(図3)。3つのタンパク質が、非同型空間群において結晶化され、したがって、近傍では結晶充填を異にするが、リポカリンファミリーの間で構造的に保存されている58カ所のCα位置のセット(Skerra(2000年)、前出)は、それぞれ、0.256、0.440、0.290、0.371、および0.386Åのr.m.s.d.値を示す。
【0198】
DTPAを結合させるためのリガンドポケットを再整形する目的で導入した側鎖置換の大半を保有する、βバレルの開口端にある4つのループのセットが、野生型のタンパク質と比較してそれらの形状を大部分において保持していたことは、さらにいっそう驚くべきことである。とりわけ、ループ#2、#3、および#4(βストランドC/D、E/F、およびG/Hを連結する)は、立体構造が変化しないことを示した(ループ全体としての、個別のわずかなシフトを除く)。約1.2Åの最大シフトは、アポTb7.14構造の鎖Cのループ#2の先端のCα位置73について見られるが、これは、結晶充填効果を反映する可能性が高い。
【0199】
これに対し、やや長いΩ型のループ#1は、3つの異なる結晶構造の間で、顕著な骨格の可撓性を示す。とりわけ、アポTb7.14骨格の鎖AおよびCの場合、残基46の領域では、野生型のhNGALとほぼ同一であるのに対し、残基41の周囲では著明な偏差が生じている。しかし、鎖Bの場合、残基40と49との間のセグメント全体が、ほぼ5Åシフトしている(骨格の場合)。Tb7.N9 DTPA複合体の2本の鎖の場合、このシフトはさらにより重大で、個別に異なっており、鎖Bの場合、残基44の周囲で310ヘリックスが1回転していると考えられる。アポTb7.14のX線構造では、このループの残基43〜47(鎖A)、42〜48(鎖B)、および43〜47(鎖C)に電子密度が存在せず、このループが、この構造のほか、DTPA複合体の構造においても結晶による接触を形成しないことは注目に値する。したがって、ループ#1の立体構造は、分子環境によるだけでなく、金属キレートリガンドの存在によっても影響されると考えられる。結合したDTPAリガンドとのより密接な相互作用をもたらし、また、おそらくは、より高度のアフィニティーももたらす骨格の立体構造変化を達成するためには、将来の突然変異研究がループ#1に焦点を合わせるべきことを、この挙動は示唆する。
【0200】
Y・DTPA−トリスは、天然のリガンドであるエンテロバクチンより深くhNGALの空隙底部において結合し、元のランダムライブラリーにおいてランダム化された12残基のほぼ中央部に位置する。ジエチレントリアミノ部分は、βストランドCおよびD上の残基と主に相互作用し、ここで、シクロヘキサン環が、疎水性残基であるVal66、Leu79、およびMet81を背景に集塊するのに対し、ベンジル側鎖は、Arg70とLeu79との間に挟まれ、そのトリス置換基と共に溶媒中に突出する。空隙の全体は、空隙底部の残基Val111、Val121、およびPhe123によるストレッチを除き、野生型のhNGALと同様(Goetzら、前出)、正に帯電する。結合したエンテロバクチンとのカチオンπ相互作用に関与すると説明された(Goetzら、前出)、正に帯電した3つの側鎖のうちの1つである、hNGALのArg71が、Met81により置換されていることは、注目に値する。Lys134は、Serにより置換され、これにより、金属イオンのほか、DTPAカルボン酸基のうちの2つ、および配位する水分子にも空間をもたらし、より遠隔の残基であるLys125は、全体として負に帯電した金属キレート錯体との一般的な静電相互作用に寄与しうる。
【0201】
変異体Tb7.14におけるAlaの1つと比較して、位置79における残基Leuのより大型の側鎖は、DTPAのフェニルチオ尿素基に対するファンデルワールス接触の改善をもたらす。新規の側鎖であるThr80のOG1(表2を参照されたい)と、Thr67のOG1との間のさらなる水素結合は、βバレルの外側におけるストランドC/Dの対合を局所的に安定化させる。Y・DTPA−トリスの包埋表面積は586Å2であり、これは、hNGALに結合したエンテロバクチンの場合とほぼ同じ包埋表面積である。
【0202】
結合した金属キレート錯体との接触距離である半径4Å以内に、8本のβストランド各々において少なくとも1つずつの、全体で15の残基:Gln33、Arg36、Thr52、Gln54、Val66、Ala68、Arg70、Asp77、Tyr78(骨格を介してだけ)、Leu79、Met81、Phe83、Tyr106、Phe123、およびThr136が見出されている。エンテロバクチンと比較して配位子のサイズが小型であるにもかかわらずこれが可能であるのは、それが、リポカリン空隙内により深く包埋されているためである。他方、4つのループとはほとんど接触が見られない。これらの残基のうち、9つの位置が、初期のhNGALランダムライブラリーにおける突然変異誘発を受けていた(表2を参照されたい)。置換Asp77Gluが、アフィニティー成熟の後期段階で見出されたのに対し、hNGALの元の残基に対応するのは、接触する側鎖のうちの4つの側鎖である66、83、106、および123だけである。それらが、Y・DTPA複合体内における同じロータマーを依然として示していることは興味深い。これらのわずかな残存物を別にすれば、操作されたリポカリンの場合におけるY3+・DTPA錯体に対する結合方式は、hNGALによるFe3+・エンテロバクチンに対する結合方式とまったく異なっている。
【0203】
アフィニティー成熟過程の中間段階において、hNGAL変異体について2つの結晶構造が得られたが、本発明者らによる最終的な変異体であるC26に至る途上で得られたさらなる突然変異の少なくとも一部は、それらに基づいて理解することができる。本発明者らによるスクリーニング実験において繰り返し見出された置換Ile80Thrは、上述のLeu79とMet81との間の極めて重要な位置において生じる。その側鎖は、βバレルの外側に提示され、hNGALにおける元の残基と比較するとわずかにシフトしていると考えられ、したがって、その置換は、骨格形状における局所的な変化に影響を及ぼしうる。置換Ser127Glnは、ループ#4の先端で生じ、結合したリガンドとは極めて隔たっており、これは、アフィニティーに対するその効果が小さいことと符合する(表3)。変異体C26について同定された5つのさらなる側鎖置換(42、48、49、55、75)のうち、3つは、ループ#1に位置しており、これは、大幅な立体構造変化をもたらし、このループを該リガンドに近づける可能性がある。位置55における側鎖は、βバレルの外側で生じるが、位置80の場合と同様、Ile残基がThrにより置換され、これは、DTPAリガンドに接触する近傍のGln54に対して、骨格を介した同様の影響を及ぼしうる。さらに、MetによるLys75の置換は、3つの連続するLys残基によるストレッチの最後の位置であるループ#2の先端で生じ、したがって、DTPA基の側鎖との相互作用に影響を及ぼしうる。
【実施例16】
【0204】
ヘキサクロロノルボルネンハプテンに対するアフィニティーを有するhNGAL変異体の生成
実施例2で得られたhNGALライブラリーを用いて、ヘキサクロロノルボルネンハプテンに対するアフィニティーを有するムテインを生成させた。より詳細に述べると、用いられたヘキサクロロノルボルネンハプテンは、ヘキサクロロノルボルネンN−(CH25−COOHであり、その合成は、Hilvertら、J.Am.Chem.Soc.1989年、111巻、9261〜9262頁により報告されており(Hilvertらの図1における化合物2)、これは、[4+2]ディールス−アルダー反応に関する遷移状態類似体を表す(また、Xuら、Science、1999年、286巻、2345〜2348頁も参照されたい)。該hNGALムテインの生成は、上記の実施例3で説明した実験手順に本質的に従い実施され、ヘキサクロロノルボルネンハプテンに対する結合活性を有するムテインを、ELISAにより単離および特徴付けした。これらのELISA実験では、KDが少なくともマイクロモル単位であるムテインが生成されたことを示すシグナルが、選択されたhNGALムテインについて得られた(データは示さない)。また、このデータは、予備的なものではあるが、hNGALの直鎖状ポリペプチド配列のわずか12のアミノ酸残基33、36、41、52、54、68、70、79、81、134、136、および138を突然変異誘発にかけることにより、抗体様の特性(これは、例えば、選択された任意のハプテンに対する結合アフィニティーを有することを意味する)を有するhNGALムテインを生成させるのに本発明が適することも示す。
【実施例17】
【0205】
ファージディスプレイおよびコロニースクリーニングによる、金属キレート錯体Y・p−NH2−Bn−CHX−A’’−DTPAに対するhNGAL変異体C26のアフィニティー成熟
hNGALの変異体であるC26のループ1(配列番号10)をランダム化するため、pNGAL15−C26プラスミドDNAを鋳型として用いて、上記の通り、Taq DNAポリメラーゼによるPCRにおいて、プライマーNGAL26(配列番号25:5’−CCC AGG ACT CCA CCT CAG ACC−3’)およびL1Mback(配列番号26:5’−TGG GGC TGC ATT CCC TGC−3’)を適用した。プライマーL1Mfor(配列番号27:5’−GCA GGG AAT GCA GCT CCA NNS NNS NNS NNS NNS CTG CTA NNS NNS ACC GCC TAG ACT TAT GAG C−3’)およびP6(配列番号16)を用いて、第2のPCRフラグメントを生成させた。フランキングプライマーNGAL26(配列番号25)およびP6(配列番号16)を用いて、両方のフラグメントをアセンブリングした。該PCR産物を、pNGAL35上でサブクローニングし、ファージミドディスプレイにより選択した。
【0206】
実施例3で説明した通り、ファージディスプレイパニングを実施したが、競合的条件およびImmunoSticksに吸着させたY・DTPA−RNアーゼ標的を用いた。8回にわたる洗浄後、第1のサイクルでは30分間にわたり、第2のサイクルでは3時間にわたり、また、第3のサイクルでは24時間にわたり、競合物質としての遊離金属キレート錯体であるY・p−NH2−Bn−CHX−A’’−DTPAの400μM溶液の存在下において、結合したファージミドをインキュベートした後、さらに3回にわたる洗浄ステップを実施し、最後に酸により溶出させた。3サイクルにわたりファージミドを選択した後、濃縮されたhNGAL変異体のプールをサブクローニングし、実施例3と同様にコロニースクリーニングアッセイにかけ、ここでも競合的条件を適用した。モル濃度が約1000倍である非標識リガンドの存在下において強い染色シグナルをもたらす変異体を、配列決定した。この方式で、変異体L1(配列番号28)を単離したが、これは、表4に記載される6つのさらなる突然変異(R43P/E44V/K46P/D47E/K50L/M51L)を示す。
【0207】
Y・DTPA−RNアーゼ Aコンジュゲートを共有結合させたBiacore CM−5チップを用い、また、精製された組換えタンパク質を適用して、実施例8と同様、SPRにより新規のhNGAL変異体であるL1を解析した。測定による解離速度定数2.11×10-4-1が、hNGAL変異体C26と比較して3.4倍改善される一方、測定による結合速度定数2.96×105-1-1は、10分の1に低下し、713pMのKDが結果として得られた。
【0208】
次いで、50μMのdPTP、50μMの8−オキソ−dGTP、および1単位の9°Nm DNAポリメラーゼの存在下において、鋳型として、それぞれ、C26およびL1をコードするプラスミドDNA、また、プライマーP5(配列番号15)およびP6(配列番号16)を用いるエラープローンPCRにより、hNGAL変異体のさらなるランダム化を実施した後、実施例4で説明した通りに再増幅した。2つの鋳型に関して1:1で混合したファージディスプレイライブラリーを調製し、競合的条件下において、上記の通り、Y・DTPA−RNアーゼ標的に対するパニングに用いた。3サイクルにわたりファージミドを選択した後、濃縮されたhNGAL変異体のプールをサブクローニングし、コロニースクリーニングアッセイにかけ、ここでも競合的条件を適用した。強い染色シグナルをもたらす6つの変異体を、配列決定した。これらの変異体のすべては、見かけ上はL1の直接的な誘導体であり、C26の誘導体ではなかった。これらのうち、クローンCL31(配列番号31)を、最も有望なhNGAL変異体として単離したが、これは、表4に列挙される通り、L1と比較して、6つのさらなる突然変異(V44M/N65D/G86S/S87P/S99N/L107F)を示す。
【0209】
対応する可溶性タンパク質の調製およびSPR解析の後、変異体CL31は、4.46×105-1-1の結合速度定数、1.06×10-4-1の解離速度定数、および金属キレートリガンドに対する237pMのアフィニティーで、パラメータの明白な改善を示した(図2E)。したがって、複合体形成の後、CL31は、親のリポカリンムテインであるC26(16分)より著明に長い解離半減期(約1.8時間)を示す。他の選択された変異体も、同様の結合活性を示した(データは示さない)。
【0210】
【表4】
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【0211】
本明細書で例示的に説明された本発明は、本明細書で具体的に開示されていない1または複数のエレメント、1または複数の限定の不在下において実施することが適切でありうる。したがって、例えば、「含む」、「包含する」、「含有する」などの用語は、拡大的に、また、限定なしに読まれるものとする。加えて、本明細書で用いられる用語および表現は、説明を目的として用いられているものであり、限定を目的として用いられているものではなく、また、このような用語および表現の使用において、示され、また、説明される特徴の同等物、またはその部分を除外する意図はなく、主張される本発明の範囲内では様々な改変が可能であると認識される。したがって、本発明は、好ましい実施形態および任意選択の特徴により具体的に開示してきたが、当業者が、本明細書で実施される本発明に対して改変および変更を行うことは可能であり、また、このような改変および変更は、本発明の範囲内にあると考えられることを理解されたい。本明細書では、本発明を、広範かつ一般的に説明してきた。一般的な開示内に該当する、より限定された種分類および亜属分類の各々もまた、本発明の部分を形成する。これには、除外される物質が本明細書で具体的に列挙されているかどうかに関わらず、属から任意の対象物質を除外する条件または否定的限定を伴う、本発明の一般的説明が含まれる。加えて、本発明の特徴または態様が、マーカッシュ群との関係で説明される場合、本発明はまた、マーカッシュ群の任意の個々のメンバーまたはメンバーの亜群との関係でも説明されることを、当業者は認めるであろう。本発明のさらなる実施形態は、以下の特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−525354(P2011−525354A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−514065(P2011−514065)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057925
【国際公開番号】WO2009/156456
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(510334686)テクニッシュ ウニヴェルジテート ミュンヘン (1)
【Fターム(参考)】