説明

所望材料の均一な層の堆積

(i)少なくとも1種のキャリヤーガス中に懸濁された所望材料のアモルファス固体粒子の連続流れを当該粒子のTgより低い平均流れ温度にて用意する工程、(ii)この流れを加熱帯域に送って平均流れ温度を前記粒子のTgより高くする工程であって、前記材料の加熱に起因する化学変換は加熱が実質的に起こらない工程、(iii)加熱流れを少なくとも1つの配送路を通じて、加熱帯域への流れの添加速度に実質的に等しい速度にて排出させる工程であって、キャリヤーガスが加熱帯域及び配送路を通過する際に熱力学的相変化を受けない工程、及び(iv)前記加熱された流れの温度より低い温度にある受容体表面を前記加熱された流れの排出フローに暴露して前記所望材料の粒子を堆積させることを含む、表面への薄い皮膜の堆積。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して堆積技術に関し、特に、微粒子状材料の流れを受容体上に送達することにより均一な薄い皮膜を生じさせる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
堆積技術は、典型的には、流体中に溶解及び/又は分散された機能材料を受容体(一般に基材等としても知られている)上に堆積させる技術と定められる。
【0003】
溶射又はプラズマ堆積方法は、金属及び非金属原料固体粒子を溶融又は可塑状態に加熱し、そしてこれらの加熱粒子を基材上に推進させてコーティングを形成させることを伴う。加熱源は、典型的には、燃焼炎、プラズマジェット、又は2本の消耗ワイヤ間で発せられたアークである。基材は、適当な冷却装置により比較的低い温度に保つことができる。溶射のための方法及び装置はよく知られており、たとえばFauchais等により「クオバディス溶射(Quo Vadis Thermal spraying)」,J. of Thermal Spray Technology,(2001)10:44〜46において概説されている。溶射のための方法及び装置は、たとえば米国特許第4,869,936号、第5,080,056号、第5,198,308号、第5,271,967号、第5,312,653号及び第5,328,763号にも記載されている。
【0004】
現在の工業的実施において、溶射又はプラズマ堆積により金属、セラミック又は複合材のコーティングを堆積させるために用いられる粉末は、直径が5〜50ミクロンの範囲内にある粒子から成る。炎又はプラズマ中での短い滞留時間の間、粒子は急速に加熱されて、スプレー状の部分的に又は完全に溶融した滴を形成する。これらの粒子が基材表面に到達した時に生じる大きい衝撃力が、強い粒子−基材密着性を促進し、ほとんどいかなる所望材料の緻密なコーティングの形成も促進する。コーティングの厚さは25ミクロンから数ミリメートルに及び、コーティングは比較的高い堆積速度にて形成される。
【0005】
一般的に、溶射コーティングに用いられる従来の粉末は、ボールミリング、機械的ブレンディング、高温反応、及び、時には、バインダーを用いる噴霧乾燥、を伴う一連の工程により製造される。溶射法における粉末送達システムは、5〜25ミクロンの範囲内の粒子サイズを有する粉末集塊の場合に働くように設計されており、従来の粉末における構成成分粒又は粒子の最小サイズは典型的には1〜0.5ミクロンの範囲内にある。対照的に、ナノ構造化材料の場合に、構成成分粒又は粒子のサイズは、1〜100ナノメートルの範囲内にある。かくして、合成ナノ粒子粉末は、一般的に、従来の溶射コーティング法における直接使用に適していない。
【0006】
米国特許第6025034号は、再処理されたナノ粒子粉末の供給物、ナノ粒子液体懸濁液及び有機金属液体が金属、セラミック及びそれらの複合材のナノ構造化コーティングの製作のための溶射堆積法において用いられる方法に関する。この方法は、基本的には、ミクロンサイズの固体又は液体粒子をそれらの供給材料から発生させてそれらが慣用の溶射装置中に直接的に供給され得るようにする超音波撹拌に頼る。3〜30ナノメートルの範囲内の典型的粒子サイズを有するナノ粒子粉末供給物の場合において、ゆるく凝集した粉末は適当な溶媒中に超音波撹拌により分散されて、コロイド懸濁液又はスラリーを形成する。次いで、このナノ粒子懸濁液又はスラリーは、液体ケロシン燃料と共に、液体供給物として高速酸素燃料(HVOF)ガンの燃焼帯域中に直接導入される。その代わりに、懸濁液又はスラリーは、プラズマ又はHVOFガンのガス供給物中にエーロゾルの形態で導入される。この方法の特徴は、粒子がガンノズルから短い距離で急速に熱くなり、そしてほとんど即時に超音速範囲にある気流の速度を達成することである。場合によっては、ナノ粒子は、基材上に凝縮する前に気化する。この場合において、当該方法は、事実上非常に高速の化学蒸着法になる。別の実施態様において、液体有機金属化学物質前駆体がプラズマ溶射装置の燃焼炎中に直接注入されることによりナノ粒子の合成、ナノ粒子の溶融及び基材上へのナノ粒子のクエンチングが単一操作で行われる。この手法については、(1)金属、セラミック及びそれらの複合材に制限され、(2)ミクロンサイズの液体粒子のスケールにて行われる方法は凝離領域の気孔率、サイズ及び組成などのコーティングのナノ構造の詳細、並びに欠陥レベルについて限られた制御しか与えることができないという2つの重大な制約があることが明らかになっている。
【0007】
WO98/36888には、単相粉末粒子を製造する液相法であって、超音波エーロゾル発生器を使用して液体供給物をエーロゾル化し、次いで熱分解炉に通過させて粒子を形成する液相法が教示されている。平均粒子サイズ範囲は、0.1〜4ミクロンである別の実施態様において、この公報には、第1相粉末粒子を前駆体液体供給物の超音波処理によって生成させ、続いて第2相材料でコーティングして複合粒子を製造することが教示されている。平均被膜厚は、1〜100nmである。しかしながら、この公報は、ナノメートルサイズの固体粒子ではなく、熱分解炉への供給物としてキャリヤーガス中に懸濁された超音波処理で発生された液滴のみに関し、またこの方法により発生された粒子のコーティングのみに関する。
【0008】
Leivo等は、「溶射フルオロポリマーPVDF、ECTFE、PFA及びFEP被膜の性質(Properties of Thermally Sprayed Fluoropolymer PVDF, ECTFE, PFA and FEP Coatings)」,Progress in Organic Coatings,(2004),49:69〜73において、慣用のフレーム溶射法及びプラズマ溶射法によるフルオロポリマーの高品質コーティングについて述べている。かかる溶射法は優れている。何故なら慣用の静電粉末コーティング方法とは違ってそれらは後熱処理が必要とされない一段階法であるからである。しかしながら、供給粉末は、粒子のサイズ及び分布に関して特定の要件を満たさねばならない。たとえば、ポリマーについての所望サイズ範囲は、50〜200ミクロンである。より微細な粒子は、この方法の高温領域においてそれらは容易に過熱しそして燃えるため望ましくない。
【0009】
物理蒸着法及び化学蒸着法もまた、独特の化学的、物理的、電気的及び光学的性質を有する薄い皮膜及びナノ構造化材料並びにそれらからの有用なデバイスを生じさせる慣用の熱的堆積方法である。非常に広範囲の金属、無機化合物及び有機化合物が、これらの方法により、特定の反応性ガス又は非反応性ガスのどちらかの制御濃度でもって、真空又は近真空中で堆積され得る。物理蒸着(PVD)では、原料物質は、真空環境中で気化を引き起こし、蒸気プルーム(「蒸気煙」)を生じるような温度に加熱されて、基材の表面上への堆積によって薄い皮膜を形成する。かかる方法は、よく知られている(たとえば米国特許第2,447,789号及び欧州特許第0 982 411号)。場合によっては、米国特許第6,337,102号におけるように、蒸気は、キャリヤーガスと一緒に真空蒸着室中に運ばれ、そして最終的に基材表面に運ばれる。PVD方法における皮膜形成は、蒸気凝縮により起こると一般的に考えられている。
【0010】
分子蒸気からの皮膜形成に加えて、分子のクラスターから薄い皮膜を集成することもできる。中性又はイオン化クラスタービーム蒸着(NCBD又はICBD)によりSi基材上に高真空下で堆積されたAlq3の薄い皮膜の光ルミネセンス特性が、最近、Kim等により「イオン化クラスタービーム蒸着、中性クラスタービーム蒸着及び熱蒸発により成長されたAlq3皮膜の特性決定及びルミネセンス特性(Characterization and Luminescence Properties of Alqs films Grown by Ionized Cluster Beam Deposition, Neutral Cluster Beam Deposition and Thermal Evaporation)」,Thin Solid Films(2001)78〜81:398〜399に報告された。かかる方法は、所望皮膜を生成させるために、蒸着室において高真空条件を用いねばならない。
【0011】
典型的化学蒸着(CVD)法は、気体状反応体が分解し再結合して所望の薄い皮膜を形成する(加熱された基材が分解及び反応を容易にする)蒸気輸送機構を用いる。米国特許第6,013,318号、第5,997,956号、第5,863,604号、第5,858,465号、第5,652,021号及び第6,368,665号は、燃焼化学蒸着法又は制御雰囲気化学蒸着法に関する。これらの方法は、開放雰囲気蒸着法、一般的に大気圧蒸着法である。これらの方法は、慣用のCVD法における場合のように基材をチャンバー又は炉中に閉じ込める必要はないため、ほとんどいかなる大きさの基材を被覆するのに適する。CVDのために蒸気を発生させるのに用いられる一つの一般的方法は、キャリヤーガスを加熱された液体試薬に通気することである。他の方法は、たとえば米国特許第5,278,138号に記載されているように、エーロゾル(典型的には0.1と10ミクロンの間の滴直径を有する)を形成させるために液体試薬のアトマイゼーションを伴う。CVD法は蒸気供給物を用いるけれども、たとえば米国特許第6,652,967号に並びにP.Han及びT.Yoshidaにより「熱プラズマ堆積過程中のクラスター輸送に対する熱泳動効果の数値調査(Numerical investigation of thermophoretic effects on cluster transport during thermal plasma deposition process)」,J. Applied Physics,(2002)91:1814〜1818に記載されているように、ナノメートルサイズの粒子を、反応生成物として形成し、標的表面上に堆積させることができる。
【0012】
米国特許出願公開第2005/0208220号には、有機材料を表面上へ気化させて皮膜を形成させる方法であって、流動化粉末化形態のある量の有機材料を用意し;粉末化有機材料を計量し、かかる流動化粉末の流れを透過性部材上に誘導し;流動化粉末の流れが透過性部材を通過する際にフラッシュ気化するように透過性部材を加熱し;気化した有機材料を集めそしてそれをマニホールドに通して当該有機材料を表面上に誘導して皮膜を形成させることを含む方法が開示されている。別の実施態様において、有機材料は、超臨界溶媒中の該有機材料の溶液の蒸発又は急速膨張により流動化粉末化形態で用意され、次いでフラッシュ気化される。この方法は本質的にはPVD法であり、そして流動化粉末の制御計量、そのフラッシュ気化、及び皮膜を形成させるべき基材上への真空(たとえば1トル又はそれ以下の圧力)下での蒸気の制御堆積に非常に頼る。また、基材が周囲大気圧に又は周囲大気圧付近にある場合のかかる方法の適用性は不明であるが、しかし問題がありそうである。すなわち、気化速度に依存して、フラッシュ気化を達成することは不可能でないとしても困難であろうし、また、いったん蒸気が形成されると、蒸気は基材へのその飛行中に粒子に変換することができ、かかる変換は最終デバイスにおける皮膜の性能に悪影響を及ぼし得る。
【0013】
米国特許第4,734,227号には、高温で固体材料を超臨界流体溶液に溶解し、次いでこの溶液を短いオリフィスを有する加熱ノズルを通じて比較的低い圧力の領域中に急速膨張させることによって固体皮膜を堆積させる方法が記載されている。この方法では、基材に向けて分子スプレーを生じさせ、基材上に固体の薄い皮膜を堆積させる。膨張に伴う急激な冷却に因るオリフィスの起こり得る目詰まりを防止するために、ノズルの加熱が必要とされる。別の実施態様において、溶液及びノズルの温度を、溶質(好ましくはポリマーである)の融点より高く同時に溶媒の臨界点より高い温度に高め、そして溶液を、膨張中に溶質が液体状態のノズル内の溶液から析出するような圧力に維持し、その結果、ポリマーはノズルから排出されると繊維を形成する。この場合におけるノズルの高温加熱は、膨張中の冷却により引き起こされる起こり得る目詰まりを防止するためにのみならず、ポリマーの固体粒子が形成してノズルを目詰まりさせるのを防止するためにも必要とされる。かくして、加熱ノズルは、超臨界溶液流れのノズルオリフィスの通過中に固体粒子が形成するのを完全に防止するために、かかる方法において一般的に用いられる。
【0014】
米国防衛特許公開第1839号には、加熱ノズル及び膨張室を用いる回分法において、溶媒が一般的な圧力下でその蒸気形態で存在する温度にノズル及び膨張室の両方が加熱される方法を開示する。この場合における膨張室の加熱は、溶媒が凝縮して溶質を再溶解するのを防止するためである。また、この公報は主に高分子ワックス粒子のミクロン化に関し、コーティングまたは皮膜を生じさせるための受容体上への高分子ワックス粒子の堆積に関するものではない。
【0015】
米国特許第5,171,613号は、コーティング材料及び超臨界流体で基材をコーティングするための吹付装置であって、基材上の最終的なコーティングに悪影響を及ぼし得るコーティング混合物の望ましくない早期冷却を防止するために改良された吹付装置に関する。用いられる噴霧温度は、コーティング材料、用いられる超臨界流体、及びコーティング混合物中の超臨界流体の濃度の関数である。最低噴霧温度は、一般的に、超臨界流体の臨界温度であるか又はそれよりもわずかに低い。最高温度は、コーティング混合物がその温度にある間にコーティング混合物の諸成分が有意には熱分解されないところの最高温度である。超臨界流体が超臨界二酸化炭素流体である場合、噴霧ノズルから排出される超臨界流体が固体二酸化炭素及び存在する周囲の水蒸気(周囲の吹付環境中の高い湿度に因る)を凝縮する点まで冷却し得る故、噴霧組成物は、好ましくは、アトマイゼーション前に加熱される。最低噴霧温度は、31℃である。最高温度は、コーティング混合物中の諸成分の熱安定性により決定される(典型的には35℃〜90℃である)。この方法における噴霧ノズルは、先に形成された固体粒子の堆積効率を改善するためにでもコーティングのミクロ構造を変えるためにでもなく、主としてコーティング混合物を吹き付ける際の羽状噴霧パターンを維持するために加熱される。
【0016】
米国特許第5,639,441号には、2種の流体の不混和性混合物(それらの一方はその超臨界状態にある)を膨張させて、6.5ミクロンより小さい平均直径を有する液滴又は固体粒子の気体系分散体を形成する方法が記載されている。この公報の特許請求の範囲には、皮膜を形成するべき基材上へのこれらの粒子の堆積が記載されているが、しかしこれを成し遂げる方法についての詳細を提供しない。
【0017】
米国特許出願公開第2005/0221018号には、粒子発生のための超臨界媒質の反溶媒性質に基づく圧縮流体系連続被覆法が開示されている。この公報には、膨張ノズルの下流に位置する受容表面上に所望材料を堆積させるための多数の手法が想定されている。それらの手法としては、受容基材上に機能材料をコーティングするために膨張ノズルを通じての超音速流れを直接用いる手法、ノズル排出物と相互作用して粒子をコーティング面に偏向させるために追加的電磁又は静電手段を用いる手法、及び排出流れの運動量又は温度のどちらかを制御するために追加的流通手段を用いる手法が挙げられる。
【0018】
超臨界流体の膨張に基づくコーティング技術に関する重大な困難性は、1〜500nmの範囲内の粒子は表面上に堆積させることが困難であることである。何故ならそれらの極端に低い質量がそれらを膨張ガス中に同伴されたままにさせるからである。米国特許出願公開第2005/0211018号には、所望粒子の堆積速度を増加させる特定のコロナ帯電方法が教示されている。米国特許第6,756,084号にも、固体溶質粒子を基材上に堆積させて皮膜を形成させるための静電気帯電方法が開示されている。しかし、これらの方法は依然として問題がある。すなわち、帯電効率及び堆積効率は低粒子サイズにおいて特に低く、高性能緻密皮膜は得るのが非常に困難であり、またかかる静電法は小さい間隙を横切る高電圧点放電からもたらされる気体状媒質のイオン化に頼るので、傷つきやすい材料は非常に容易に損傷され得る。
【0019】
特に、有機発光素子(OLED)、有機光電池、電気ポンプ型レーザー及び有機電界効果トランジスター(OFET)などの有機電子機器に向けた応用のための薄い有機皮膜の形成に関して、多数の概説記事がかかる主題に取り組んできた(たとえば、Stephen R.ForrestのChem. Rev(1997),97:1793〜1896、Hooks、Fritz及びWardのAdv. Mater.(2001)13,227、G.Witte及びC.WollのJournal of Materials Research(2004)19(7):1889〜1916)。有機分子は、原子とは違って顕著な形状異方性を有する。従って、薄い有機皮膜の構造は、分子の位置及びその分子配向を含む多数の因子により定められる。分子はまた、基材と接触したときに変形し得る。また、多くの有機化合物は多形性を示す。堆積材料と基材との結合相互作用の程度も、薄い有機皮膜の構造(配向対アモルファス)を決定する際に影響を及ぼす。また、長い多環芳香族系の場合に、蒸着皮膜において長距離秩序を観察することはまれでない(G.Witte及びC.Woell,Phase Transitions(2003)76(4−5):291〜305)。局所的な分子秩序(すなわち短距離)が、他の状況では生じないがアモルファス皮膜においては、強い分子間双極子−双極子相互作用がある場合に生じ得る(たとえばM.A.Baldo等,Chemical Physics Letters,2001 347:297〜303参照)。興味深いことに、逆の状況、すなわち短距離無秩序(アモルファスドメイン)に重ね合わさった長距離秩序は、まだ観測されていないようである。かかる皮膜は、アモルファスドメインサイズに依存するサイズ閉じ込めにより変調される独特な光学的、熱的又は機械的性質を示すと期待される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
従って、所望材料の再現可能な高品質の堆積を達成するために、キャリヤーガスの流れで運ばれる粒子サイズが1〜500nmの範囲内にある固体粒子を堆積させる改良方法が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
一実施態様によれば、本発明は、表面への所望材料の薄い皮膜の堆積方法であって、
(i)少なくとも1種のキャリヤーガス中に懸濁された所望材料の500nm未満の体積重みつき平均粒子直径を有するアモルファス固体粒子の連続流れを当該所望材料の固体粒子のガラス転移温度より低い平均流れ温度にて用意する工程、
(ii)(i)で用意した流れを加熱帯域に送り、この流れを加熱帯域で加熱して平均流れ温度を所望材料の固体粒子のガラス転移温度より高くする工程であって、所望材料の加熱に起因する所望材料の化学変換が実質的に起こらない工程、
(iii)加熱された流れを、加熱帯域から少なくとも1つの配送路を通じて、工程(ii)における加熱帯域への流れの添加速度に実質的に等しい速度にて排出させる工程であって、キャリヤーガスが加熱帯域及び配送路を通過する際に熱力学的相変化を受けない工程、及び
(iv)加熱された流れの温度より低い温度にある受容体表面を加熱された流れの排出フローに暴露して所望材料の粒子を堆積させて、受容体表面上に所望材料の薄い均一な層を形成させる工程、
を含む方法に関する。
【0022】
様々な実施態様によれば、本発明は、超微小粒子の機能材料の堆積を可能にする技術、受容体上における機能材料の高速で正確で均一な堆積を可能にする技術;マスクと併用された場合に受容体上における超微小のフィーチャー(features)の生成を可能にする技術;キャリヤー流体中に分散された1種又はそれ以上のナノメートルサイズの機能材料の混合物を用いて受容体の高速で正確で精密なコーティングを可能にする技術;流体中に分散された1種又はそれ以上のナノメートルサイズの機能材料の混合物を用いて受容体の高速で正確で精密なコーティングを可能にする技術であって、ナノメートルサイズの機能材料が連続的に生成される技術;流体中に分散された1種又はそれ以上のナノメートルサイズの機能材料の混合物を用いて受容体の高速で正確で精密なコーティングを可能にする技術であって、1又は2以上の混合装置を含む容器中でナノメートルサイズの機能材料が流体中の分散体として連続的に生成される技術;及び改善された材料堆積能力を有する受容体の高速で正確で精密なコーティングを可能にする技術を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
固体状態の材料は、それらの構成成分の配置について様々な秩序度を有することが知られている。高度に秩序化した固体は結晶性であり、それらの結晶は様々なサイズ及び形状を有し得る。結晶性固体は、鋭い融点を有する。高度に無秩序な固体は、アモルファスである。それらは、一般的にガラス質固体と呼ばれる。高度に無秩序な固体は液体の分子構造を有するが、固体に似た性質(たとえば粘度、熱膨張、比熱、等)を有する。ある意味では、高度に無秩序な固体は、液体の分子運動が冷却に因り停止された冷却液体である。アモルファス材料が加熱された場合、それらの性質は、或る温度を超えると液体様になり始める。これは、一般にガラス転移温度(Tg)と呼ばれる。ある範囲にわたる温度の更なる増加につれて、該材料はますます一層液体様になり、最終的にはその融点において完全に溶融する。ガラス転移温度と溶融温度の間の状態において、固体は、非常に高い粘度を有する液体のように挙動する。
【0024】
本発明によれば、キャリヤーガス中に懸濁された所望物質のアモルファス固体粒子は、当該固体粒子をそれらのTgを超える温度に加熱し、そしてこの加熱された流れより低い温度にある受容体表面に当該流れを誘導した後に、均一な薄い皮膜を形成するように堆積できるということが予期せぬことに見出された。本発明の方法に用いられるかかる粒子についての体積平均粒子直径は、500nm未満、より好ましくは100nm未満、最も好ましくは10nm未満である。皮膜厚がたとえば10マイクロメートル未満、好ましくは1マイクロメートル未満、より好ましくは0.5マイクロメートル未満であるところのより高いコーティング表面平滑性及びより高品質の皮膜をコートする能力にとって、より小さい粒子サイズが望ましい。また、粒子はそれらのバルクよりも低い温度にてそれらの表面において溶融し始めることが知られている(たとえば、P.Tibbits等,J. Vac. Sci. Technol.(1991)A9(3):1937参照)。同様な現象はまた、本発明において用いられるナノスケール粒子の有効ガラス転移温度を低下させる可能性があり、コーティング用途において、より大きいサイズの粒子を用いる方法に必要とされ得るよりも低い加熱温度にて本方法を有効にし得る。また、粒子の溶融挙動は、接触する基材により有意に影響される(たとえば、V.Storozhev,Surface Science(1998)397:170〜178参照)。
【0025】
本発明の方法は、たとえば医薬、農業、食品、化学、画像形成(写真及び印刷、特にインクジェット印刷を含む)、化粧品、電子機器(電子表示装置用途、特にカラーフィルターアレイ及び有機発光ダイオード表示装置を含む)、データ記録、触媒、ポリマー(ポリマー充填剤用途を含む)、殺生物剤、爆薬及びミクロ構造/ナノ構造の構築物の用途(これらの用途はすべて、連続小粒子状材料コーティング方法の使用から利益を得ることができる)における使用のために、広く様々な材料のコーティングの作製に適用可能である。本発明に従ってコートする所望物質の材料は、有機(金属−有機を含む)、無機、ポリマー、オリゴマー、セラミック、金属−セラミック、金属、合成及び/又は天然ポリマー、並びに先に挙げたこれらのものの複合材料などのタイプのものであることができる。被覆される材料は、所望形態が堆積皮膜またはコーティングの形態であるところのたとえば着色剤(染料及び顔料を含めて)、農業用化学薬剤、商業用化学薬剤、ファインケミカル、医薬的に有用な化合物、食品アイテム、栄養素、殺生物剤、写真用化学薬剤、爆薬、化粧品、保護剤、金属コーティング前駆体又は他の工業用物質であり得る。有機材料は、本発明に従うコーティング用途における使用に特に好ましい機能材料である。
【0026】
キャリヤーガスは、空気、CO2、CO、不活性ガス(N2、He,Ar、Xeのような)又はそれらの適当な混合物であり得る。加えて、当該技術において知られた広く様々な圧縮流体、特に超臨界流体(たとえばCO2、NH3、H2O、N2O、エタン等)が、それらの膨張状態で、かかる選択のために考慮することができ、超臨界CO2が一般的に好ましい。同様に、広く様々な一般的に用いられるキャリヤー溶媒(たとえばエタノール、メタノール、水、メチレンクロライド、アセトン、トルエン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン等)もまた、少量成分として存在することができる。かかる溶媒のいずれも所望材料の堆積の間に気体状態にあるように意図されるので、より低い温度においてより高い揮発性を有する溶媒がより望ましい。
【0027】
本発明において使用できる所望の粒子を含有した気体フローの連続供給源には、制限がないが、例えばキャリヤーガスを固体粒子と混合する任意の適当に設計されたノズル(たとえば、溶射又は粉末コーティング用途に有用な噴霧ノズル、バリスチックエーロゾルマーキングシステムにおいて噴射剤ガスとマーキング材料とを組み合わせるための米国特許第6,511,149号に記載されたモジュール、及びエーロゾル発生器又は濃縮器の出口)から出るフローが挙げられる。好ましい実施態様によれば、キャリヤーガス中に懸濁された所望物質の粒子の流れは、超臨界溶液の急速膨張(RESS)型システム又は超臨界反溶媒(SAS)型システムなどの超臨界流体系粒子形成システムの最終膨張ノズルから、一層好ましくはSAS型システム(たとえば、本願と同一の出願人に譲渡された米国特許出願公開第2005/0221018号及び米国特許出願公開第2005/0218076号に記載されているような)から得ることができる。
【0028】
SAS型方法を用いる場合、流れは、粒子形成容器中で圧縮流体反溶媒との接触によっての溶液からの所望物質の析出並びに当該容器から膨張ノズルを通じての粒子及び圧縮流体の排出により、実質的に定常状態の条件下で調製できる。公知のSAS型方法におけるように、本発明のかかる実施態様における使用のための溶媒は、所望材料を溶解する能力、圧縮流体反溶媒との混和性、毒性、コスト及び他の因子に基づいて選択できる。次いで、溶媒/溶質溶液を粒子形成容器中で圧縮流体反溶媒と接触させる。その際の温度及び圧力は制御され、圧縮流体は、圧縮流体中への溶媒の急速抽出によって溶媒からの溶質の析出を開始するように、溶媒に対するその溶解性及び所望粒子状材料の相対的不溶性(溶媒へのその溶解性と比較して)に基づいて選択される。堆積させるべき機能材料は、圧縮流体への又は圧縮流体とキャリヤー溶媒の混合物への溶解性よりもキャリヤー溶媒への溶解性が比較的高い。これによって、キャリヤー溶媒中の機能材料の溶液が粒子形成容器中に添加される導入点の付近で高い過飽和帯域の生成が可能となる。当該技術において知られた広く様々な圧縮流体、特に超臨界流体(たとえばCO2、NH3、H2O、N2O、エタン等)を、かかる選択において考慮することができ、超臨界CO2が一般的に好ましい。同様に、広く様々な一般的に用いられるキャリヤー溶媒(たとえばエタノール、メタノール、水、メチレンクロライド、アセトン、トルエン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン等)を考慮することができる。結局のところ、圧縮流体及びキャリヤー溶媒の両方が気体状態にあるように意図されるので、より低い温度においてより高い揮発性を有するキャリヤー溶媒がより望ましい。機能材料の相対的溶解性は、粒子形成容器中の圧力及び温度の適切な選択によっても調整できる。
【0029】
供給材料は、容器中に導入されると、キャリヤー溶媒及びその中に含まれる所望物質が圧縮流体中に分散され、圧縮流体中への溶媒の抽出及び所望物質の粒子の析出が可能となるように、容器内容物と十分に混合されるべきである。この混合は、導入点におけるフローの速度によって、あるいは供給物の別の供給物上への若しくは表面上への衝突によって、又は回転ミキサーなどの装置による若しくは超音波振動による追加的エネルギーの供給によって達成できる。粒子形成容器の全内容物ができる限り均一に近い粒子濃度に維持されることが望ましい。また、供給物導入点の近くの不均一な空間帯域は最低限に抑えられるべきである。不十分な混合法は、粒子特性の劣った制御をもたらし得る。従って、高撹拌領域への供給物の導入及び総体的によく混合されたバルク領域の維持が好ましい。溶媒/所望物質溶液と圧縮流体反溶媒とを、粒子形成容器中で、第1溶媒/溶質供給物流れが圧縮流体中に米国特許出願公開第2005/0218076号に記載されているような回転撹拌機の作用により分散されるように、かかる成分の供給物流れを粒子形成容器の高撹拌帯域に導入することにより接触させることが最も好ましい。この同時係属出願に記載されているように、回転撹拌機のインペラーの表面から1インペラー直径の距離以内で容器中に供給物流れを導入することにより可能となる効果的なミクロ及びメソ混合並びにその結果として起こる諸供給物流れ成分の接触は、100ナノメートル未満、好ましくは50ナノメートル未満、最も好ましくは10ナノメートル未満の体積重みつき平均直径でもって、粒子形成容器中の所望物質の粒子の析出を可能にする。加えて、粒子について狭いサイズ頻度分布を得ることができる。たとえば体積重みつきサイズ頻度分布の尺度、すなわち変動係数(分布の標準偏差で割った分布の平均直径)は、典型的には50%又はそれ以下であるが、20%未満の変動係数でも可能である。それ故、サイズ頻度分布は単分散であり得る。プロセス条件は粒子形成容器において制御することができ、また必要であれば、所望に応じて粒子サイズを変動するように変えることができる。かかる実施態様に従って用いることのできる好ましい混合装置としては、例えば同時に導入された銀及びハロゲン化物塩の溶液供給物流れの反応によりハロゲン化銀粒子を析出させるための写真用ハロゲン化銀乳剤技術における使用のために以前に開示されたタイプの回転撹拌機が挙げられる。かかる回転撹拌機としては、たとえばタービン、船用プロペラ、円板及び当該技術において知られた他の混合インペラー(たとえば米国特許第3,415,650号、米国特許第6,513,965号、米国特許第6,422,736号、米国特許第5,690,428号、米国特許第5,334,359号、米国特許第4,289,733号、米国特許第5,096,690号、米国特許第4,666,669号、欧州特許第1156875号、国際公開第0160511号参照)が挙げられる。本発明の一つの特定の実施態様において用いることのできる混合装置としては、Research Disclosure,Vol.382,1996年2月号,項目38213に並びに米国特許第6,422,736号に開示されたタイプの混合装置も挙げられる。
【0030】
本発明において用いられる所望の粒子を含有した気流の個々の供給源(source)に関係なく、流れの圧力及び温度は、本発明に従って後続の加熱手段に通す前に、いずれの溶媒も実質的にその気体状態または蒸気状態にあると同時に粒子温度がそのTgより低いように維持されることが好ましい。意図する用途に依存して、供給源流れ圧力(source stream pressure)は数気圧から非常に高真空に及ぶことができ、供給源流れフロー速度(source stream flow velocity)は超音速から亜音速の範囲にあることができる。しかしながら、本発明は、近大気圧にある且つ亜音速の流速にあるキャリヤー流体中に同伴される微粒子状材料の効果的コーティングを可能にすることにおいて特に優れている。
【0031】
次いで、フロー流れ(flow stream)は、加熱手段により加熱される。加熱手段としては、例えば電熱器、加熱壁熱交換器、充填床加熱器、マイクロ波ヒーター、プラズマ炎、レーザービーム及び直接混合される不活性熱ガスなど(これらに限定されない)のあらゆる適切な加熱装置が挙げられる。このフローの圧力及び温度は、いずれの溶媒も実質的にその気体状態または蒸気状態にあると同時に加熱手段の出口において粒子をそのTgより高い温度に加熱するように維持されることが好ましい。しかしながら、下流で作られるコーティングに対する悪影響を回避するために、粒子温度は、粒子又は周囲の気体状材料の化学的変性が実質的に起こらないようにする値より低いままにあることが好ましい。好ましい実施態様において、流れの温度はまた、懸濁粒子が加熱帯域から出る際に懸濁粒子がそれらの融点より低くなるように維持される。用いられる特定の加熱手段に依存して、加熱帯域におけるフロー流れの滞留時間は、数分から数ナノ秒に及び得る。
【0032】
加熱手段からの流出物は、次に、加熱帯域への流れの添加速度に実質的に等しい速度にて、フロー配送手段を通過する。この配送手段としては、制限なしに、所望態様で受容体上へ流出物のフローを誘導するように加熱手段と直接連通した適切に設計された単一導管又は多導管、開口及びスロットが挙げられるが、これらに限定されない。本発明によれば、キャリヤーガスは加熱帯域及び配送路を通過する際に熱力学的相変化を受けない。そのため本発明は超臨界流体膨張弁の加熱と区別される。配送手段はまた、経時的にフローの配送を制御するための弁又はシャッターを含んでもよい。
【0033】
被覆されるべき受容体表面は、配送手段の下流に、好ましくは、所望の材料堆積効率及びコーティング品質を達成するべき実験的に決定された距離及び温度において位置する。受容体表面は、加熱流れの温度より低い、好ましくは所望材料粒子のガラス転移温度より低い温度にある。受容体表面の温度に関係なく、配送手段と受容体表面の間の距離は、所望材料粒子が受容体表面と接触する前にそれらのTgより低く冷却されるような程度まで加熱流れの過度の冷却が起こらないように維持されることが好ましい。好ましい実施態様において、受容体表面は、配送手段の出口から5cm以内に、一層好ましくは3cm以内に、最も好ましくは1cm以内に維持される。ナノ粒子の温度が機能材料粒子のTgより高いこと及び受容体表面の温度がかかるTgより低いことを要件とすることにより、受容体表面に付着する粒子の親和性は高められる。従って、本発明のかかる実施態様は、機能材料のナノ粒子が受容体表面に達するとすぐに薄い皮膜が形成するのを容易にする。
【0034】
上記の要件に従って、配送手段から出るフローを、周囲温度にある受容基材上に機能材料をコーティングするために直接使用できる。しかしながら、一層好ましくは、堆積表面は、衝突気流温度より低い温度に堆積表面を保つために積極的に冷却される。多層コーティングの場合において、堆積表面温度はまた、最終的な複合皮膜構造における界面へのいかなる悪影響も軽減するために、下にある層における材料のTgに又はTgより低く保たれるべきである。特に、堆積表面の温度は、異なる材料の層間の密着性を高める又は同様な材料の層間の凝集性を改善するように制御できる。積極的な冷却は、受容体表面の下に若しくは移動基材、たとえばロール・ツー・ロール(roll-to-roll)ウェブコーティング表面に又はそれらの組合わせに対して、慣用の冷却プラテンを密接な熱的接触状態に保つことにより達成できる。化学的に妨害しない冷たい環境ガス(environmental gas)を用いることによって、実用的冷却速度を達成するのを促進できる。一つの好ましい実施態様において、堆積表面は、機能材料のTgより実質的に低く、且つ加熱流れ中に存在するいずれの成分有機溶媒の沸点よりも高い温度に保たれる。かかる条件は、皮膜形成における溶媒分子の役割を実質的に軽減する。
【0035】
主たる堆積メカニズムに依存して、堆積効率の改善のために堆積表面における空間温度勾配を最大限に高めることが有利な場合がある。たとえば、かかる条件は、ナノ粒子の熱泳動堆積を改善することが知られている。熱泳動の現象は、小さい粒子を熱い表面から冷たい表面に向かって動かす(たとえば、Zheng F.のAdv. in Coll. & Interface Sci.(2002)97:253〜276参照)。個々の用途に依存して、10℃/mmより大から105℃/mmより大の温度勾配が望ましいであろう。別の好ましい実施態様において、堆積粒子をアモルファスに実質的に保つために堆積材料を急速に冷却することができる。個々の用途に依存して、好ましい冷却速度は、10℃/secより大から106℃/secより大に及ぶことができる。
【0036】
本発明のある具体的実施態様において、受容体表面上に所望材料の薄い均一な層を形成させるために、受容体表面を、加熱流れの排出フローに対して移動させることができる。かかる相対的移動は、たとえば、堆積帯域を通過する連続移動基材を受容体表面として用いることにより及び/又は受容体表面に対してフロー配送手段を移動させることにより達成できる。堆積表面における界面温度及び温度勾配を管理する所望速度にて堆積帯域中に入りそして出るように受容体表面を移動させることも有利であり得る。移動速度は、ガスフローと衝突の幾何学的特徴と周囲温度とを考慮して有益的に決定できる。代わりに、温度を所望範囲に維持しながら、堆積帯域への基材の多数回の暴露をもたらして所望のコーティング厚または皮膜厚を生じさせるために、シャッター型装置を用いることができる。配送手段からの排出物と相互作用させて機能材料のフローをコーティング面に偏向させそして材料堆積速度を高めるために、追加的電磁又は静電手段を用いることもできる。この電磁又は静電手段としては、静電誘導、コロナ帯電、電荷注入又は摩擦帯電などの静電法が挙げられる。
【0037】
本発明は、薄い材料皮膜を、圧力の周囲又は近周囲(たとえば、周囲の10パーセント以内)条件において、10nm未満、好ましくは5nm未満更に一層好ましくは0.5nm未満の平均表面粗さで堆積させるのを可能にする(平均表面粗さは、平均平面からの表面フィーチャーの絶対値の算術平均として、WYCO NT1000により算出される)。追加的フロー手段を、堆積用フロー流れの運動量又は温度のどちらかを制御するために同様に使用してもよい。被覆面を、粒子堆積効率を高めるために、堆積前又は堆積中のどちらかにて処理(一様に又はパターン状に)することもできる。たとえば、被覆面を、堆積する粒子の付着性を改善するために、プラズマ又はコロナ放電に曝すことができる。同様に、被覆面は、比較的高い若しくは低い伝導性(電気的、熱的、等)の領域又は比較的高い若しくは低い疎液性(たとえば疎水性、疎脂肪性、疎油性、等)の領域又は比較的高い若しくは低い透過性の領域を有するように予めパターン化されていてもよい。或るウェブコーティング用途または移動表面から成る用途において、より精密な下流アプリケーターノズルも想定される。これらの下流アプリケーターノズルを通じてのフローは、好ましくは亜音速である。
【0038】
ウェブ又は連続コーティング用途のためのさらなる特徴は、溶媒蒸気及びコートされなかった粒子の封じ込めである。これは、コーティングステーションを収容する囲いにより達成できる。代わりに、不活性ガスのカーテンにより、密封界面(sealing interface)を与えることもできる。かかる設備は、そのような用途のための高度にコンパクトな装置を可能にする。或る用途においては、加熱又は特定の雰囲気への暴露のような追加的なコーティング後処理能(post-coating processing capabilities)を有することが有利な場合がある。同様に、適当な多層皮膜構造体を生じさせるために、多数のコーティングアプリケーターを配列することもできる。製造スケールプロセスの更なる側面は、加工用流体の再循環である。これは、凝縮による排出流れからのキャリヤー溶媒蒸気の分離(コートされなかった粒子を捕捉しそして再溶解させるためにも用いることのできる過程)を伴う。次いで、排出流れを、再圧縮し、圧縮流体として再循環させることができる。
【実施例】
【0039】
例1(対照)
所望の気体状フロー流を発生させるために、米国特許出願公開第2005/0218076号に開示されたタイプのSAS型粒子生成法を用いた。公称1800mlのステンレス鋼製粒子形成容器に、ドラフト管並びに下部及び上部インペラーを含む米国特許第6,422,736号に開示されたタイプの直径4cmの撹拌機を取り付けた。温度を90℃に及び圧力を300barに調整しながら且つ毎分2775回転にて撹拌しながら、CO2を粒子形成容器に添加した。次いで、先端に200μmオリフィスを有する供給口を通じて60g/minにてCO2、及び100μm先端を通じて3g/minにてtert−ブチル−アントラセンジナフチレン(TBADN:有機発光ダイオードに用いられる機能材料)の0.1wt%アセトン溶液の添加を開始し、そしてこの過程を定常状態に達するようにした。CO2供給口及び溶液供給口は、溶液供給流及びCO2供給流の両方が下部インペラーの1インペラー直径以内の高撹拌帯域に導入されるように、この混合機用の導入管について開示されているように下部インペラーの近くに位置していた。米国特許出願公開第2005/0218076号に開示されているように、かかる方法は、典型的には10nm未満のサイズを有する粒子の形成をもたらすことが分かった。
【0040】
粒子形成容器の出口は、第1背圧調整器に連結されていた。ステンレス鋼プレフィルター(0.5μm粒子についてその公称濾過効率は90%であった)が、第1背圧調整器の上流に設置されていた。第1調整器の出力は、フローを第2背圧調整器へ送る前に該フローを90℃に加熱する圧縮フロー加熱器に連結されていた。圧縮フロー混合物は第2調整器の下流にて2bar未満の圧力まで膨張し、そしてその温度は58℃であった。TBADNのTgは130℃であり、そしてバルクTBADN粉末の融点は290℃である。アセトンの沸点は、1barにおいて約56℃である。次いで、フローを、中心コアと当該フローが通過するところの当該中心コアを取り囲む外側の環状螺旋通路とを有する環状熱交換器に通過させた。この熱交換器は、当該熱交換器の下流に置かれたステンレス鋼製スロットと直接連通していた。スロットは、幅が203μmでそして長さが2.54cmであった。この実験では上記熱交換器を作動させなかった。実験の間、周囲圧下でスロットを出る気体状フローの平均温度は43℃であった。被覆用基材は、スロットから7.62mm離した。基材の下側は、10℃に維持された。所定の速度にてスロットの下方で被覆用基材を前後に移動させることができた。排出された材料のフローは衝突後に基材に対して公称上平行に移動し、次いで、フローを助けるために低い吸引レベル(周囲より5トル未満小さい)を有するベントに進んだ。
【0041】
上記の系が温度及び圧力の定常状態条件に達した後、最初に酸化インジウムスズ(ITO)の40nm皮膜そして次いでN,N′−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N′−ジフェニル−ベンジジン(NPB)(有機発光ダイオードに用いられる正孔輸送材料であり、慣用の真空蒸着法によって堆積させた)の84nmオーバーレイ皮膜でプレコートされた2.5インチ×2.5インチのスライドガラスを被覆用基材として被覆面上に置いた。この表面を10ft/minの速度にてコーティングスロットの下に300回通した。次いで、得られたコーティングを様々な特性決定方法に付してその特徴を解明した。最初に、堆積表面上に縁を慎重に生成させた。次いで、コーティングを真空下で2nm厚の金皮膜で被覆し、そして非接触光学プロフィルメーター(Veeco InstrumentsからのWYCO NT1000)を使用して垂直走査インターフェロメトリーにより10倍の表面倍率にて調べた。図1は、試料表面の三次元ディスプレーを示す。信号の低い方のレベルは、ITO皮膜表面に対応する。高い方のレベルは、NPB層及びその表面上のTBADNの薄い不連続堆積物に対応する。かくして、フロー流が第2調整器の下流でTBADN粒子のTgより高く加熱されない場合、TBADNの不連続なコーティングがその下方のNPB皮膜上に形成される。
【0042】
例2(本発明)
周囲圧下でスロットを出る気体状フローの温度が193℃(生成したTBADN粒子のTgより高い)になるように熱交換器を作動させたこと以外は、例1において用いた手順を繰り返した。次いで、得られたコーティングを様々な特性決定方法に付してその特徴を解明した。最初に、堆積表面上に縁を慎重に生成させた。次いで、コーティングを真空下で2nm厚の金皮膜で被覆し、そして非接触光学式表面形状測定装置(non-contacting profilometer)(Veeco InstrumentsからのWYCO NT1000)を使用して垂直走査干渉法により10倍の表面倍率にて調べた。図2Aは、試料表面の三次元ディスプレーを示す。信号の低い方のレベルは、ITO皮膜表面に対応する。高い方のレベルは、NPB層及びその表面上のTBADNの薄い連続堆積物に対応する。図2Bは、堆積表面上に慎重に生成された縁の近くの計器信号を示す。信号の低い方のレベルは、ITO皮膜表面に対応する。高い方のレベルは、堆積層に対応する。それは、100.8nmの公称層厚、及びやはり連続的である層を示す。その下にある有機層(NPB)の厚さを差し引くと、16.3nmのTBADN皮膜厚が求められる。この16.3nm厚の層の平均表面粗さは、平均平面からの表面フィーチャーの絶対値の算術平均としてWYCO NT1000により算出して0.39nmであった。図2Cは皮膜の高角度X線回折パターンであり、この回折パターンは当該皮膜のアモルファス性を示している。図2Dは、皮膜の低角度X線回折パターンであり、ブラックの法則に基づいて5.8nmの間隔でもって明確な秩序(1.5の2シータにおいてピーク)を示している。かかる間隔は、更に、10nm未満のサイズの粒子から皮膜が形成されていることを示している。かくして、高度に構造化されたナノ薄さの皮膜が生成される。
【0043】
例3(本発明)
コーティングスロットにおけるフローの温度を222℃に維持し、基材をコーティングスロットの下に360回通したこと以外は、例2において用いた手順を繰り返した。スライドガラス上に得られたコーティングも、干渉法により同様に調べた。下にあるNPB層の厚さ(84nm)を差し引くと、TBADN皮膜厚は、図3から28nmであると算定された。表面粗さは、0.34nmであった。
【0044】
例4(本発明)
コーティングスロットにおけるフローの温度を250℃に維持し、基材をコーティングスロットの下に400回通したこと以外は、例2において用いた手順を繰り返した。スライドガラス上に得られたコーティングも、干渉法により同様に調べた。下にあるNPB層の厚さ(84nm)を差し引くと、TBADN皮膜厚は、図4から79nmであると算定された。表面粗さは、0.97nmであった。
【0045】
例5(本発明)
粒子形成容器の温度を55℃に維持し、CO2及びアセトン溶液のフロー速度がそれぞれ100g/min及び5g/minであり、基材を2.5ft/minにてコーティングスロットの下に120回通し、そして基材の下側を0℃に維持したこと以外は、例4において用いた手順を繰り返した。次いで、NPB被覆スライドガラス上に得られたコーティングをX線回折により調べた。皮膜についての高角度X線回折パターンは、有機皮膜に因る結晶相が存在しないことを示した。しかしながら、皮膜についての低角度X線回折パターン(図5)は、2.47nmの長距離秩序間隔(やはり、10nmより小さいサイズを有する粒子から形成された皮膜を示している)に対応するピークを示した。
【0046】
例6(本発明)
CO2フロー速度=40g/min、TBADNの0.01質量%アセトン溶液のフロー速度=2g/min、粒子形成容器中の圧力=250bar、コーティングスロットを出るフローの温度=310℃、コーティングスロットの寸法:幅607μm及び長さ7.62cm、コーティングスロットと被覆用基材の間の間隙=762μm、スロットの下における被覆用基材の通過の回数=216、被覆用基材の速度=2.5ft/min、被覆用基材の下側の温度=40℃、そして基材はITOの50nm皮膜のみでもってプレコートされたスライドガラスであったこと以外は、例2において用いた手順を繰り返した。スライドガラス上に得られたコーティングも、干渉法により同様に調べた。図6Aは、皮膜厚が51.4nmであったことを示している。皮膜表面の粗さは、0.43nmであると求められた。図6Bは、皮膜のX線回折(XRD)プロットである。XRDは、金属金層及びIn23結晶質構造を有するITO層についての結晶ピーク、並びにそれらに加えて24度の2シータを中心としたアモルファス(アモルファスガラスと通常関連する)を検出した。TBADN皮膜の結晶化度に因るピークは検出されなかった。TBADN皮膜に因る長距離周期性に因るピークは検出されなかった。かくして、皮膜はアモルファスであることが判った。
【0047】
例7(本発明)
コーティングスロットにおけるフローの温度を250℃に維持し、基材がITOの50nm厚の皮膜で部分的にプレコートされたスライドガラスであり、そして基材をコーティングスロットの下に300回通したこと以外は、例2において用いた手順を繰り返した。スライドガラス上に得られたコーティング干渉法により同様に調べた。TBADN皮膜の厚さは、ガラス上において0.31nmの表面粗さでもって14nmそしてITO上において0.34nmの表面粗さでもって13nmであると算定された。
【0048】
かくして、開示された方法は、無機(たとえばITO、ガラス)及び有機(たとえばNPB)表面上に有機材料の高品質の均一な連続的な超薄いアモルファス皮膜を高い堆積速度にて与える、ということが分かる。かかる皮膜はまた、有機表面上に堆積された場合、長距離周期性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、例1において得られた試料表面の三次元ディスプレーを示す。
【図2A】図2Aは、例2において得られた試料表面の三次元ディスプレーを示す。
【図2B】図2Bは、例2において得られた試料表面上に慎重に生成させた縁の近くのWYCO NT1000計器の信号を示す。
【図2C】図2Cは、例2において得られた皮膜の高角度X線回折パターンを示す。
【図2D】図2Dは、例2において得られた皮膜の低角度X線回折パターンを示す。
【図3】図3は、例3において得られた試料表面上に慎重に生成させた縁の近くのWYCO NT1000計器の信号を示す。
【図4】図4は、例4において得られた試料表面上に慎重に生成させた縁の近くのWYCO NT1000計器の信号を示す。
【図5】図5は、例5において得られた皮膜の低角度X線回折パターンを示す。
【図6A】図6Aは、例6において得られた試料表面上に慎重に生成させた縁の近くのWYCO NT1000計器の信号を示す。
【図6B】図6Bは、例6において得られた皮膜のX線回折パターンを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面への所望材料の薄い皮膜の堆積方法であって、
(i)少なくとも1種のキャリヤーガス中に懸濁された所望材料の500nm未満の体積重みつき平均粒子直径を有するアモルファス固体粒子の連続流れを当該所望材料の固体粒子のガラス転移温度より低い平均流れ温度にて用意する工程、
(ii)(i)で用意した流れを加熱帯域に送り、当該流れを加熱帯域で加熱して平均流れ温度を前記所望材料の固体粒子のガラス転移温度より高くする工程であって、前記所望材料の加熱に起因する前記所望材料の化学変換が実質的に起こらない工程、
(iii)加熱された流れを前記加熱帯域から少なくとも1つの配送路を通じて、工程(ii)における前記加熱帯域への流れの添加速度に実質的に等しい速度にて排出させる工程であって、キャリヤーガスが加熱帯域及び配送路を通過する際に熱力学的相変化を受けない工程、及び
(iv)前記加熱された流れの温度より低い温度にある受容体表面を前記加熱された流れの排出フローに暴露して前記所望材料の粒子を堆積させて、前記受容体表面上に前記所望材料の薄い均一な層を形成させる工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記所望材料が有機化合物を含み、少なくとも1種のキャリヤーガス中に懸濁された所望材料の固体粒子の前記連続流れを超臨界流体に基づく方法により生成させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
超臨界流体が前記超臨界流体に基づく方法において反溶媒として用いられ、(ii)において加熱帯域に送られる少なくとも1種のキャリヤーガス中に懸濁された所望材料の粒子の前記連続流れが、粒子形成容器中での前記超臨界流体反溶媒との接触による溶液からの前記所望物質の析出並びに前記容器から膨張ノズルを通じてのこれらの粒子及び超臨界流体の排出により、実質的に定常状態の条件下で調製される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
超臨界流体が、少なくとも二酸化炭素を含有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記超臨界流体に基づく方法において生成される所望材料の粒子の粒子サイズ分布の変動係数が50%未満である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記所望材料の粒子が100ナノメートル未満の体積重みつき平均直径を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記所望材料の粒子が10ナノメートル未満の体積重みつき平均直径を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
工程(iv)において堆積された均一な層が、1マイクロメートル未満の厚さを有する連続皮膜である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記連続皮膜がアモルファスである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記受容体表面が有機材料から作られており、当該受容体表面上に堆積されたアモルファス皮膜が長距離秩序を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記受容体表面が、エレクトロルミネセンス素子を作製するために用いられる有機化合物を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記長距離秩序についての間隔の大きさが1nmを超える、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記皮膜が、圧力の周囲又は近周囲条件にて堆積される、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記皮膜が、平均平面からの表面フィーチャーの絶対値の算術平均としてWYCO NT1000により算出された場合に、5nm未満平均表面粗さを有する、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記皮膜が、平均平面からの表面フィーチャーの絶対値の算術平均としてWYCO NT1000により算出された場合に、0.5nm未満の平均表面粗さを有する、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記平均流れ温度が前記所望材料の融点温度より低く維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記所望物質が、有機エレクトロルミネセンス素子を作製するために用いられる化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記受容体表面が、前記所望材料の固体粒子のガラス転移温度より低い温度にある、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記受容体表面が前記配送路の出口から3cm以内に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記受容体表面を前記加熱流れの排出フローに対して移動させて前記受容体表面上に前記所望材料の薄い均一な層を形成させる、請求項1に記載の方法。

【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図1】
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【図2A】
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【公表番号】特表2008−542546(P2008−542546A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−514891(P2008−514891)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際出願番号】PCT/US2006/021423
【国際公開番号】WO2006/130817
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】