扁平レーヨン繊維、その製造方法及びこれを用いた繊維集合体
【課題】繊維同士の密着性は低く解繊し易く、比較的嵩もあり、製造コストも安い扁平レーヨン繊維、その製造方法及びこれを用いた繊維集合体を提供する。
【解決手段】本発明の扁平レーヨン繊維(1)は、断面(2)形状が扁平であり、繊維側面の長さ方向にはタテ筋(4)が形成されており、繊維断面から観察すると外周部に襞(2b,2c)が形成されている部分があり、繊維断面(2)内部には空洞がつぶれて密着された部分(3)を含む。この扁平レーヨン繊維は、ビスコースを含む紡糸液をノズルから紡糸浴中に押し出し再生するレーヨン繊維の紡糸工程において、ビスコースを含む紡糸液からの発泡により繊維内部にセル状空洞部を形成し、乾燥時に前記セル状空洞部の内壁を密着させることにより扁平化させて製造する。本発明の繊維集合体は、前記の扁平レーヨン繊維を20質量%以上含有するものである。
【解決手段】本発明の扁平レーヨン繊維(1)は、断面(2)形状が扁平であり、繊維側面の長さ方向にはタテ筋(4)が形成されており、繊維断面から観察すると外周部に襞(2b,2c)が形成されている部分があり、繊維断面(2)内部には空洞がつぶれて密着された部分(3)を含む。この扁平レーヨン繊維は、ビスコースを含む紡糸液をノズルから紡糸浴中に押し出し再生するレーヨン繊維の紡糸工程において、ビスコースを含む紡糸液からの発泡により繊維内部にセル状空洞部を形成し、乾燥時に前記セル状空洞部の内壁を密着させることにより扁平化させて製造する。本発明の繊維集合体は、前記の扁平レーヨン繊維を20質量%以上含有するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生セルロースを用いた扁平レーヨン繊維、その製造方法及びこれを用いた繊維集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
再生セルロースを用いたレーヨン繊維は、ビスコースレーヨンとして知られている。断面が扁平のレーヨンについても従来から提案されており、特許文献1にはエポキシ化合物を紡糸液に添加することにより扁平レーヨンを得ることが提案されている。特許文献2にはオレイン酸又はその塩を添加することで竹節状かつ断面三角形の中空レーヨンを得ることが提案されている。特許文献3にはビスコースの熟成度(ホッテンロート価)と炭酸ナトリウムの添加量を調整することにより、ストロー状の中空部を持つか、又は竹節状かつ中空部がふくらみを持つ中空レーヨンを得ることが提案されている。特許文献4には明確な製造方法は記載されていないが、スリット孔ノズルを使用したと思われる方法で扁平かつ緻密構造のレーヨン繊維が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭46−7810号公報
【特許文献2】特開昭53−143722号公報
【特許文献3】特開平11−172520号公報
【特許文献4】特表2008−546917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1〜2に提案のレーヨン繊維は、添加物を使用しているため、本来のレーヨンの特徴が失われる場合がある。また、特許文献1〜3に提案のレーヨン繊維は、繊維側面の表面が平滑であるために、乾燥すると水素結合により繊維同士が密着するという問題がある。特許文献4に提案の発明は、スリット孔ノズルが詰まり易く生産性に問題があり、コストが高い問題がある。この問題は、特許文献1にも記載されている。加えて、特許文献4に提案の発明は、繊維内部が緻密構造であり、嵩が高くないという問題もある。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、繊維同士の密着性は低く解繊し易く、比較的嵩もあり、製造コストも安い扁平レーヨン繊維、その製造方法及びこれを用いた繊維集合体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の扁平レーヨン繊維は、断面形状が扁平であるレーヨン繊維であって、前記レーヨン繊維側面の長さ方向にはタテ筋が形成されており、前記繊維断面から観察すると外周部に襞が形成されている部分があり、前記繊維断面内部には空洞がつぶれて密着された部分を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の扁平レーヨン繊維の製造方法は、ビスコースを含む紡糸液をノズルから紡糸浴中に押し出し再生するレーヨン繊維の紡糸工程において、ビスコースを含む紡糸液からの発泡により繊維内部にセル状空洞部を形成し、乾燥時に前記セル状空洞部の内壁を密着させることにより扁平化させることを特徴とする。
【0008】
本発明の繊維集合体は、前記の扁平レーヨン繊維を20質量%以上含有するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の扁平レーヨン繊維は、側面の長さ方向にはタテ筋が形成されており、繊維断面から観察すると外周部に襞が形成されている部分があり、繊維表面が平滑でないことから、例えばカード用原綿、不織布、織編物等の繊維集合体に適用しても繊維同士の密着性は低く解繊し易く、繊維同士の自己接着を生ずることがない作用効果を奏する。また、繊維内部にはセル状空洞部がつぶれて密着された部分を含むことにより、比較的嵩もあり、製造コストも安い扁平レーヨン繊維を提供できる。
【0010】
本発明の繊維集合体は、前記扁平レーヨンを含んでおり、乾燥時及び湿潤時において嵩高な繊維集合体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維を示す模式的斜視図である。
【図2】図2は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(倍率:1000倍)で観察した写真である。
【図3】図3は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の側面を透過型光学顕微鏡(倍率:160倍)で観察した写真である。
【図4】図4は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の側面を走査型電子顕微鏡(SEM)(倍率:500倍)で観察した写真である。
【図5】図5は、従来の扁平レーヨン繊維の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(倍率:1000倍)で観察した写真である。
【図6】図6は、従来の扁平レーヨン繊維の側面を走査型電子顕微鏡(SEM)(倍率:500倍)で観察した写真である。
【図7】図7は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維を用いた不織布の幅方向(CD)の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(倍率:100倍)で観察した写真である。
【図8】図8は、従来の扁平レーヨン繊維を用いた不織布の幅方向(CD)の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(倍率:100倍)で観察した写真である。
【図9】図9は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の湿潤時の繊維断面をマイクロスコープ(倍率:1000倍)で透過光観察した写真である。
【図10】図10は、従来の扁平レーヨン繊維の湿潤時の繊維断面をマイクロスコープ(倍率:1000倍)で透過光観察した写真である。
【図11】図11は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の湿潤時の繊維断面を透過型光学顕微鏡(倍率:640倍)で観察した写真である。
【図12】図12は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の湿潤状態から再乾燥して自己復元した繊維断面を透過型光学顕微鏡(倍率:640倍)で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のレーヨン繊維は、断面形状が扁平であり、側面の長さ方向にはタテ筋が形成されており、断面から観察すると外周部に襞(ひだ)が形成されている部分があり、繊維断面内部には空洞がつぶれて密着された部分を含む。扁平形状は様々な形状を含み、不定形のものも含む。本発明のレーヨン繊維は湿式紡糸法により形成されるため、画一的な断面形状にするのは困難である。このレーヨン繊維は、好ましい例として、紡糸工程においてビスコース液を紡糸浴に押し出した時の発泡により繊維内部にセル状空洞部を形成し、乾燥時に前記セル状空洞部の内壁を密着させることにより扁平化させて得る。前記発泡の方法としては、特に限定されず、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の従来の発泡剤を用いてガスを発生させる方法が挙げられる。例えば、原料ビスコースに炭酸ナトリウムを特定量添加し、紡糸浴(ミューラー浴)中の硫酸と反応させて炭酸ガスを発生させる。このとき炭酸ガスを中間体ビスコース繊維内に閉じ込めるため、繊維表層を早めに緻密化させる。
【0013】
本発明の扁平レーヨン繊維は、繊維側面の長さ方向にタテ筋が形成されている。このタテ筋は、レーヨンを製造する際に中間体繊維から紡糸浴に脱溶媒及び/又は脱水する際に形成される。従来の表面が平滑な扁平レーヨン繊維は、繊維内部で炭酸ガスを積極的に発生させることにより繊維表層を薄く形成しつつ脱溶媒がなされるため、繊維側面のタテ筋は形成されず平滑な繊維表面となる点で本発明の扁平レーヨン繊維とは異なる。
【0014】
本発明の扁平レーヨン繊維は、繊維断面内部には空洞がつぶれて密着された部分を含む。繊維内部における空洞がつぶれて密着された部分の確認は、透過型光学顕微鏡を用いて繊維側面を任意に観察することにより確認することができる。前記扁平レーヨン繊維の繊維断面において形成される空洞がつぶれて密着された部分は、完全に密着した部分、及び一部に空洞が残存した部分も含む(以下、併せて線状空洞部ともいう)。この線状空洞部は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて繊維断面を任意に観察することにより確認することができる。前記線状空洞部は、従来の扁平中空レーヨン繊維と比較して空洞部がほとんど潰れており、その繊維断面積に対する線状空洞部の面積の比(扁平中空率ともいう)は、8%以下であることが好ましい。この線状空洞部を含むことにより、スリット孔ノズルを使用した緻密な内部構造を有する扁平レーヨン繊維に比べて、嵩の高い繊維集合体を形成することができる。このような線状空洞部は、例えば、発泡剤によるガスの発生量を調整して、繊維内部に形成される空洞の大きさを抑え、繊維表層(肉厚)の比較的厚い繊維を形成することにより得ることができる。
【0015】
また、本発明の扁平レーヨン繊維は、湿潤時において前記線状空洞部が開口して膨潤する性質を有する(以下、湿潤扁平レーヨン繊維ともいう。)。上記性質を有することにより、湿潤時に単繊維の嵩が増加するため、従来のレーヨン繊維集合体で認められる湿潤による嵩の低下が少ない点で好ましい。湿潤時における繊維内部の空洞部開口状態の確認は、マイクロスコープを用いて繊維断面を任意に透過光観察することにより確認することができる。具体的には、湿潤時の繊維断面観察は、以下のように行うことができる。
(1)乾燥した状態のレーヨン繊維を束状にし、1mmφの孔を形成した金属製プレートに通すことで孔内に繊維束を充填し、余分な繊維を切断する。
(2)次いで、繊維束に水を約200%含ませてマイクロスコープを用いて透過光観察する。
【0016】
前記開口した空洞部を有する湿潤扁平レーヨン繊維は、その中空率は、15〜40%であることが好ましい。より好ましい中空率は、20〜35%である。上記範囲を満たすことにより、乾燥時の扁平化と湿潤時の中空扁平化を両立することができ、従来のスリット孔ノズルを使用した緻密な内部構造を有する扁平レーヨン繊維に比べて、嵩の高い繊維集合体を形成することができる。湿潤時の中空率は、拡大写真から単繊維15本を任意に選び、単繊維の輪郭を紙面に転写したものを切り抜き、単繊維の断面全体と中空部分の紙面質量をそれぞれ測定して、中空部/断面全体の質量比をそれぞれ算出し、平均した。なお、前述した乾燥前(扁平化前)のレーヨン繊維は、前記湿潤扁平レーヨン繊維とほぼ同様の中空率を有していると考えられる。
【0017】
また、本発明の扁平レーヨン繊維は、湿潤時に前記線状空洞部が開口した後に乾燥状態にすると、ほぼ元の繊維断面形状に自己復元する性質を有する。すなわち、湿潤により開口した空洞部は、乾燥状態に戻すことにより完全に塞がる及び/又は少し口が開き気味の線状空洞部を形成する。本発明の扁平レーヨン繊維は、このような性質を有することにより、湿潤・乾燥の状態変化を繰り返しても、扁平断面形状に由来する乾燥時の特性(嵩高性や風合い)を維持することができる。なお、湿潤状態から乾燥状態への繊維断面形状の変化、繊維断面における線状空洞部の湿潤時開口状態及び再乾燥による扁平化状態は、以下の方法で確認することができる。
(1)乾燥した状態の扁平レーヨン繊維を平行に揃えた繊維束を、溶融したパラフィン(融点60〜70℃)に浸漬した後に引き上げてパラフィンを固化させ、繊維束を包含したパラフィン柱を作製する。
(2)ミクロトーム(大和光機工業株式会社製、PR−50)を使用して、繊維軸に対して垂直方向にパラフィン柱を切断し、厚み5〜10μmのパラフィン柱切片を作製する。
(3)卵白グリセリンを塗布したスライドガラス上にパラフィン柱切片を乗せた後、スライドガラスを加熱してパラフィンを溶融させる。
(4)次いで、溶融パラフィンをキシレンで洗浄除去して繊維束切片とする。
(5)繊維束切片に水を滴下後、カバーガラスをかけてプレパラートを作製し、透過型光学顕微鏡下で湿潤時の繊維断面形状を観察する。
(6)上記プレパラートを105℃で10分間乾燥し、透過型光学顕微鏡下で再乾燥時の繊維断面形状を観察する。
【0018】
本発明の扁平レーヨン繊維側面には、セル状空洞部の隔壁部の痕跡を有していることが好ましい。より好ましくは、前記隔壁部痕跡、すなわちセル状空洞部の隔壁部に由来する凸状部が形成されている。また、より好ましくは、前記隔壁部痕跡は繊維表面において網状に形成されており、さらに隔壁部に由来する凸状部が網状に形成されていることが好ましい。また、隔壁部痕跡は、扁平部(扁平面)とその側端部からなる繊維側面において、側端部の一方又は両方に、繊維軸方向に連続又は非連続で形成していることが好ましい。すなわち、中間体ビスコース繊維に形成されるセル状空洞部(非連続中空部)間の隔壁部は、乾燥により空洞部がつぶれても隔壁部の痕跡は観察される。繊維側面にセル状空洞部の隔壁部の痕跡が形成されると、繊維同士の自己接着を生ずることがない点で好ましく、その痕跡が隔壁部に由来する凸状部であると、その効果がさらに顕著となる。前記網状の隔壁部痕跡(隔壁部に由来する凸状部)とは、主として繊維内部に形成される中空竹節状及び/又は独立気泡状の空洞部を構成する隔壁部の配置に由来するものをいう。
【0019】
本発明の扁平レーヨン繊維は、セル状空洞部がつぶれて密着し隔壁部痕跡が形成される際に、繊維軸方向にもゆがみが生じ易く、また隔壁部の厚みが繊維軸方向で異なることから、各々の繊維断面において、扁平形状は様々な形状を含み、不定形となって形成されることが好ましい。このような繊維断面形状を形成することにより、繊維集合体としたときに、嵩高性を得ることができる。
【0020】
前記扁平レーヨン繊維断面の扁平比は、長辺/短辺の倍率で2.5倍以上が好ましく、さらに好ましくは2.9〜12倍、さらにより好ましくは、3〜9.2倍の範囲である。この範囲であれば、扁平レーヨン繊維を含む繊維集合体としたときに、嵩高な繊維集合体を得やすい。
【0021】
次に、本発明の扁平レーヨン繊維を得るための製造方法について説明する。ビスコースを含む紡糸液をノズルから紡糸浴中に押し出し再生するレーヨン繊維の紡糸工程において、ビスコースを含む紡糸液からの発泡により繊維内部にセル状空洞部を形成し、乾燥時に前記セル状空洞部の内壁を密着させることにより扁平化させて得ることができる。ビスコース中に炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の発泡剤を添加することにより、紡糸浴中で反応してガスを発生し、セル状空洞部を得ることができる。発泡剤は、添加時の取扱い性及び紡糸浴中の硫酸との反応性から炭酸ナトリウムであることが好ましい。
【0022】
具体的には、ビスコースを含む紡糸液(ビスコース液)としては、セルロースが7〜10質量%、水酸化ナトリウムが5〜8質量%、二硫化炭素が2〜3.5質量%のビスコース原液に、炭酸ナトリウムをセルロースに対して30〜42質量%になるように添加して調整するとよい。このとき、必要に応じて、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)、二酸化チタンなどの添加剤を使用することもできる。前記において、炭酸ナトリウムの添加量を特定量とすることにより、紡糸浴(ミューラー浴)中の硫酸と反応させて炭酸ガスを発生させるが、このとき繊維表層を早めに緻密化させ、繊維内に炭酸ガスを閉じ込める。これにより繊維内部にセル状空洞部を形成することができる。炭酸ナトリウムの添加量は、セルロースに対して33〜42質量%であることがより好ましく、35〜40質量%であることがさらにより好ましい。炭酸ナトリウムの添加量を上記範囲内とすることにより、炭酸ガスの発生を少なくして、繊維内部に形成されるセル状空洞部のサイズが小さくなり、繊維の表面から空洞部までの距離、すなわち繊維表層(肉厚)が大きく、空洞部内壁が平滑な繊維断面形状となり、セル状空洞部が潰れたときに内壁を密着しやすい。
【0023】
前記紡糸液(ビスコース液)の熟成度(ホッテンロート価)は、5〜10であることが好ましく、より好ましくは6〜9である。ホッテンロート価が上記範囲未満であると、延伸時の単繊維切れが多くなる傾向にある。ホッテンロート価が上記範囲より大きくなると、繊維表層の凝固が遅くなるため、セル状空洞部のサイズが大きく形成されて繊維表面が平滑化するか、あるいは繊維内部から炭酸ガスが抜けて空洞部が形成されないことにより、目的とする扁平形状の繊維が得られない傾向にある。上記ホッテンロート価を有するビスコース液は、慣用のビスコース液に所定量の炭酸ナトリウムを添加することで得ることができる。前記ホッテンロート価は、次のようにして測定する。ビスコース液20gに水30gを加えて均一に撹拌した溶液に、10%塩化アンモニウム水溶液を滴下して手早くかき混ぜる。この操作を繰り返し、撹拌棒から滴下させたビスコース液の跡が液面に5秒間残る状態を終点とし、終点に至るまでに要した10%塩化アンモニウム水溶液の量(ml)をホッテンロート価とする。
【0024】
紡糸浴(ミューラー浴)としては、硫酸を95〜130g/リットル、硫酸亜鉛を10〜17g/リットル、芒硝を290〜370g/リットル、温度を45〜60℃とすることが好ましい。より好ましい硫酸濃度は、100〜120g/リットルである。特に、硫酸濃度を上記範囲内とすることにより、炭酸ガスの発生を少なくして、繊維内部に形成されるセル状空洞部のサイズが小さくなり、繊維の表面から空洞部までの距離、すなわち繊維表層(肉厚)が大きく、空洞部内壁が平滑な繊維断面形状となり、セル状空洞部が潰れたときに内壁を密着しやすい。
【0025】
紡糸条件として、本発明の断面が扁平なレーヨン繊維は、通常の円形ノズルを用いても製造することができる。通常の円形ノズルを用いるので、扁平ノズルを使用する場合に比べて、繊度の調整が容易である。紡糸ノズルの選定は、目的とする生産量にもよるが、直径0.05〜0.12mmの円形ノズルを1000〜20000ホール有するものが好ましい。
【0026】
前記紡糸ノズルを用いて、ビスコース液を紡糸浴中に押し出し紡糸し、凝固再生することで糸条を形成し、延伸する。紡糸速度は、35〜70m/分の範囲が好ましい。また、延伸率は、25〜50%が好ましく、39〜50%であることがより好ましい。ここで延伸率とは、延伸前の糸条の長さを100%としたとき、延伸後の糸条の長さが何%伸びたかを示すものである。倍率で示すと、延伸前が1、延伸後は1.25〜1.50倍となることが好ましく、1.39〜1.50倍になることがより好ましい。
【0027】
上記のようにして得られたレーヨン繊維糸条を所定の長さにカットし、精練処理を行う。精練工程は、通常の方法で、熱水処理,水硫化処理、漂白、酸洗い及び油剤付与の順で行うとよい。
【0028】
その後、必要に応じて圧縮ローラーや真空吸引等の方法で余分な油剤、水分を繊維から除去した後、乾燥処理を施して本発明の扁平レーヨン繊維を得る。前記乾燥時にセル状空洞部はつぶれて内壁は密着する。前記乾燥処理は、温度50〜120℃、0.05〜15時間で行うことが好ましい。より好ましい乾燥処理条件は、温度70〜110℃、0.1〜8時間である。乾燥処理の温度及び時間を上記範囲とすることにより、セル状空洞部が潰れたときに内壁間の密着性が高い扁平レーヨンが得られる。
【0029】
本発明の扁平レーヨン繊維は、扁平繊維化率が80〜100%が好ましい。より好ましくは、90〜100%であり、最も好ましくは、100%である。扁平繊維化率が80%未満であると、トウ、不織布、織編物等の繊維集合体において、扁平断面形状に由来する特性(嵩高性や風合い)が損なわれることがある。
【0030】
本発明の扁平レーヨン繊維の繊度は、0.8〜6.0dtexであることが好ましい。より好ましくは0.9〜4.0dtexであり、さらにより好ましくは0.9〜3.3dtexである。繊度が0.8dtex未満であると、延伸時の単繊維切れが発生しやすい傾向にある。繊度が6.0dtexを越えると、セル状空洞部の形成が不安定となり、目的とする扁平形状の繊維が得られにくくなる場合がある。
【0031】
本発明の扁平レーヨン繊維は、例えば、トウ、フィラメント、不織布等の長繊維状、或いは湿式抄紙用原綿、エアレイド不織布用原綿、カード用原綿等などの短繊維状の形態で提供され、繊維集合体を形成することが好ましい。前記繊維集合体としては、例えば、トウ、フィラメント、紡績糸、中綿(詰め綿)、紙、不織布、織編物が挙げられる。本発明の繊維集合体は、前記扁平レーヨン繊維を含むことにより、繊維間の密着が低く、解繊性が良好であることから、均一な繊維集合体が得られる。また、繊維自体が嵩高性を有することから、嵩高な繊維集合体が得られる。本発明の繊維集合体において、前記扁平レーヨン繊維は20質量%以上含有することが好ましい。より好ましくは、30質量%以上であり、さらにより好ましくは、50質量%以上である。
【0032】
本発明の繊維集合体として、例えば紡績糸とした場合、前記扁平レーヨン繊維単独、またはその他の再生セルロース繊維、コットン、麻、ウール、アクリル、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン等の他の繊維と混紡、複合することが好ましい。このような紡績糸は、扁平レーヨン繊維の嵩高い特性を活かしたバルキー糸として用い、衣料等に用いることができる。また、前記扁平レーヨン繊維は比較的硬い風合いを有するので、シャリ感のある衣料等に用いることができる。
【0033】
本発明の繊維集合体として、例えば、不織布とした場合、前記扁平レーヨン繊維単独、またはその他の再生セルロース繊維、コットン、麻、ウール、アクリル、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン等の他の繊維と混綿して用いることができる。不織布の形態としては、例えば、湿式不織布(湿式抄紙)、エアレイド不織布、水流交絡不織布、ニードルパンチ不織布などが挙げられる。特に、水流交絡不織布のように高圧水で交絡処理を施しても、嵩高性を維持しており、好ましい。このような不織布は、前記扁平レーヨン繊維の湿潤時の嵩高い特性を活かして、例えば、ウェットティッシュ、対人及び/又は対物用ワイパー等のウェットシート、水解シート等に用いることができる。また、乾燥時にも嵩高い特性を有するので、化粧パフ、吸収体等の衛生シートに用いることができる。
【0034】
本発明の扁平レーヨン繊維は、水分を繊維内に取り込み易く、且つその水分を保持し易い性状を有する。これは、従来のレーヨン繊維は、セルロースが膨潤して水分を繊維内に取り込むだけであるが、本発明の扁平レーヨン繊維は湿潤時(水分付与時)にセルロースが膨潤するとともに、繊維中心付近で中空部が復元・形成されて中空部の内部にも水分が取り込まれ、また吸収された水分は繊維中空部にも保持されるためと推定される。本発明の扁平レーヨン繊維における保水量は、14g/g以上であることが好ましい。より好ましくは、15〜20g/gである。また、本発明の扁平レーヨン繊維における水分保持量は、1.4g/g以上であることが好ましい。より好ましくは、1.6〜3.0g/gである。このように、本発明の扁平レーヨン繊維は、優れた吸水性及び吸水保持性を有するので、例えば、ウェットティッシュ、ウェットワイパー、フェイスマスクなど対人及び/又は対物用の薬液等が含浸されて使用される湿潤シートに用いると、シート中に取り込んだ薬液等を保持することができ、好ましい。また、吸水保持性が高いので、例えば、液体の芳香剤、消臭剤等の吸液芯材、加湿器フィルター等にも好適である。なお、本発明において、扁平レーヨン繊維における保水量及び水分保持量は、下記のように測定したものである。
【0035】
[保水量]
(1)前処理として105℃で2時間乾燥したレーヨン繊維の試料原綿10gを秤量する。
(2)2リットルのビーカーを準備し、1リットルのイオン交換水(20〜25℃)を入れる。
(3)試料原綿10gをビーカーの液面に落とし、試料原綿が完全に沈降してから3分間放置する。
(4)10メッシュの金網(線径0.6mm、目開き1.9mm)上に乗せた内径92mmのポリエチレン製の円筒内に、ビーカー内の水及び試料原綿を移した直後に、円筒内試料原綿上に、5g/cm2の荷重下となるように水を充填して質量318gに調整した円筒形のガラス容器(外径90mm)を乗せて、1分間放置する。
(5)保水後の試料原綿の質量(W1)を測定し、下記式で保水量(g/g)を算出する。
保水量={W1−試料原綿質量(10g)}/試料原綿質量(10g)
【0036】
[水分保持量]
(1)上記保水後の試料原綿を、日立二槽式電気洗濯機PS-TB42型(日立ホーム&ライフソリューション株式会社製)の脱水槽に投入し、脱水機で3分間除水を行う。
(2)除水後の試料原綿の質量(W2)を測定し、下記式により水分保持量を算出する。
水分保持量={W2−試料原綿質量(10g)}/試料原綿質量(10g)
【0037】
本発明の扁平レーヨン繊維は、従来のレーヨン繊維や扁平ノズルから紡糸して得られる従来の扁平レーヨン繊維に比べて、乾燥時と湿潤時における厚み及び比容積が大きく、乾燥・湿潤時の厚み及び比容積の差が小さくすなわち嵩減少が小さく、嵩高である。特に、本発明の扁平レーヨン繊維を水流交絡不織布に用いるとよい。本発明の扁平レーヨン繊維が嵩高となる理由は、湿潤時(水分付与時)にセルロースが膨潤するとともに、繊維中心付近で中空部が復元・形成されて中空部の内部にも水分が取り込まれるので、繊維膨潤が大きいためと推定される。本発明の扁平レーヨン繊維における不織布質量に対して400%湿潤後の比容積減少率は、7.5%以下であることが好ましい。より好ましくは、6.5%以下である。このように、本発明の扁平レーヨン繊維は、乾燥時及び湿潤時の嵩高性に優れるので、例えば、ウェットティッシュ、ウェットワイパー、フェイスマスクなど対人及び/又は対物用の薬液等が含浸されて使用される湿潤シートに用いると、肌触りが良好であり、好ましい。なお、本発明において、比容積減少率は、以下の式で求めたものをいう。
比容積減少率(%)={乾燥時不織布比容積−湿潤時不織布比容積/乾燥時不織布比容積}×100
比容積(cm3/g)={1960Pa[20gf/cm2]荷重時厚み(mm)/乾燥時目付(g/m2)}×1000
【0038】
本発明の扁平レーヨン繊維は、繊維ウェブを作製し、水流交絡処理を行った時の交絡力が従来のレーヨン繊維や扁平ノズルから紡糸して得られる従来の扁平レーヨン繊維に比べて高い傾向にある。特に、本発明の扁平レーヨン繊維は、5〜20%の伸長時応力(低伸長時モジュラスともいう。)が大きい傾向にある。また、この傾向は、湿潤時(例えば、100%湿潤時)の水流交絡不織布においても同様である。本発明の扁平レーヨン繊維が水流交絡において交絡力が高いのは、繊維断面が扁平形状であること、及び繊維側面においてセル状空洞部の隔壁部痕跡及び/又は隔壁部由来の凸状部が形成されているので、引き抜き時に繊維間の抵抗が大きく交絡が解けにくいからと考えられる。前記水流交絡不織布は、本発明の扁平レーヨン繊維が少なくとも20質量%含むことが好ましい。より好ましい含有量は、30質量%以上である。
【0039】
以下、図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維を示す模式的斜視図である。この扁平レーヨン繊維1の断面2は扁平であり、断面2の外周部は凹凸形状2aとなっており、この凹凸が大きくなっている部分が襞2b,2cを形成している。この繊維断面2の内部は空洞がつぶれて密着された部分3を含む。扁平レーヨン繊維1の側面の長さ方向にはタテ筋4が形成されている。さらに、扁平レーヨン繊維1の側面には、セル状空洞部の隔壁部痕跡5が網状に形成されている。
【0040】
図2は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。断面は不定形であるが、基本は扁平である。図3は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の側面を透過型光学顕微鏡で観察した写真である。空洞部と隔壁部が観察される。図4は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の側面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。扁平レーヨン繊維の側面には、セル状空洞部の隔壁部痕跡が網状に形成されていることが観察できる。
【0041】
図5は、従来の扁平レーヨン繊維の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。この繊維は前記した特許文献4の出願人であるドイツのケルハイム社製品の繊維である。繊維断面に空洞の痕跡は見られず、緻密構造である。図6は、図5の扁平レーヨン繊維の側面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。側面にタテ筋は観察されるが、セル状空洞部の隔壁部痕跡は観察されない。
【0042】
図7は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維を用いた不織布の機械(MD)方向の不織布断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。本発明の繊維集合体(不織布)は、繊維間に空間を有しており、嵩高であることが確認できる。図8は、従来の扁平レーヨン繊維を用いた不織布の機械(MD)方向の不織布断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。従来の扁平レーヨン繊維を用いた不織布は、繊維同士が密接しており、嵩高性にも劣っていることが確認できる。
【0043】
図9は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の湿潤時の繊維断面をマイクロスコープで透過光観察した写真である。本発明の扁平レーヨン繊維は、湿潤時において繊維内部における空洞がつぶれて密着された部分(線状空洞部)が膨潤により開口して、より嵩高になっていることが確認できる。図10は、従来の扁平レーヨン繊維の湿潤時の繊維断面をマイクロスコープで透過光観察した写真である。従来の扁平レーヨン繊維は、単に膨潤するだけであることが確認できる。
【0044】
図11は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の湿潤時の繊維断面を透過型光学顕微鏡で観察した写真である。本発明の扁平レーヨンは、湿潤時において繊維内部における空洞がつぶれて密着された部分(線状空洞部)が膨潤により開口して、より嵩高になっていることが確認できる。図12は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の湿潤後再乾燥させた時の繊維断面を透過型光学顕微鏡で観察した写真である。本発明の扁平レーヨン繊維は、湿潤状態から再乾燥することにより、開口が閉じて自己復元することが確認できる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。なお、下記の実施例で添加量を単に%と表記した場合は、質量%を意味する。
【0046】
[測定方法]
(1)繊度:JIS L 1015にしたがって測定した。
(2)扁平比:扁平比の測定方法は次のとおりとした。すなわち、正量繊度と繊維断面短辺から、以下手順により断面の長辺/短辺比率を求め、扁平比とした。
(a)繊維断面の短辺を測定する。このとき、少なくとも3箇所の短辺を測定して平均値を算出する。
(b)正量繊度から真円換算の繊維断面積を求め、これを短辺で除算した値を繊維断面の長辺とする。
(c)長辺/短辺の比を求め、繊維断面の扁平比とする。
(備考)
(i)正量繊度(単位:dtex)の測定はJIS L 1015の方法による。
(ii)真円換算の繊維断面積は、レーヨンの繊維比重を1.5として次式により算出した。
繊維断面積(μm2)=正量繊度(dtex)×100/1.5
(iii)繊維断面:短辺の測定は、以下の方法による。繊維30本の断面をマイクロスコー
プで拡大観察し、繊維断面の長辺軸に垂直方向の巾を測定し、これを平均した値を繊維断面短辺とした。長さの単位はμmである。
(3)扁平繊維化率:繊維30本の繊維断面をマイクロスコープで拡大観察し、繊維断面の長辺軸に垂直方向の巾(長さの単位はμm)を測定し、前記(2)と同様の手順により扁平比を求め、次式により得られる値を扁平繊維化率とした。
扁平繊維化率(%)=(扁平比2.5以上の繊維本数/30本)×100
(4)強度及び伸度:JIS L 1015 8.7.1(標準時試験)及びJIS L 1015 8.7.2(湿潤時試験)に準じ、定速緊張形試験機(つかみ間隔20mm、引張速度20mm/min)を用いて、標準時(乾)及び湿潤時(湿)における扁平レーヨン繊維の切断したときの荷重及び伸びを測定し、強度及び伸度とした。
【0047】
(実施例:繊維A〜G)
1.繊維A
[ビスコース液の調製]
原料ビスコースとしてセルロース含有量:8.6質量%、水酸化ナトリウム含有量:5.9質量%、二硫化炭素:2.7質量%を含むものを用意した。また、炭酸ナトリウム(株式会社トクヤマ,ソーダ灰ライト):22質量%、EDTA(ナガセケムテックス株式会社,クレワット−N):0.17重量%を加え、ペラ式攪拌機で溶解して作製した水溶液を添加液とした。上記で得られた添加液を原料ビスコースに炭酸ナトリウムがセルロースに対して38質量%となるように添加し、混合機にて攪拌混合を行い、ビスコース液を得た。得られたビスコース液のホッテンロート価は、7.9であった。
【0048】
[紡糸条件]
得られたビスコース液を、2浴緊張紡糸法により、紡糸速度65m/分、延伸率50%で紡糸して、繊度1.7dtexの繊維を得た。第1浴(紡糸浴)の組成は、硫酸120g/L、硫酸亜鉛15g/L、硫酸ナトリウム330g/L含むミューラー浴(50℃)を用いた。また、ビスコース液を吐出する紡糸口金には、孔径0.06mmのホールを4000個有するノズルを用いた。紡糸中、単糸切れ等の不都合は生じず、ビスコース液の紡糸性は良好であった。
【0049】
[精練条件]
上記のようにして得られたビスコースレーヨンの糸条を、38mmにカットし、精練処理を行った。精練工程は、通常の方法で、熱水処理,水硫化処理、漂白、酸洗い及び油剤付与の順で行った。漂白は、次亜塩素酸ソーダ水溶液(0.03質量%)を用いて実施した。油剤付与後、圧縮ローラーで余分な油剤を繊維から落とした後、乾燥処理(60℃、7時間)を施して、繊維Aを得た。繊維Aの繊度は約1.7dtexであった。
【0050】
2.繊維B
炭酸ナトリウムがセルロースに対して35質量%となるように原料ビスコースに添加液を添加してビスコース液を作製した以外は繊維Aと同様にして繊維Bを得た。得られたビスコース液のホッテンロート価は、8.3であった。
【0051】
3.繊維C
繊維Aと同様の処理により繊度が約0.9dtexの繊維Cを得た。
【0052】
4.繊維D
繊維Aと同様の処理により繊度が約2.2dtexの繊維Dを得た。
【0053】
5.繊維E
紡糸速度を40m/分とした以外は繊維Aと同様にして繊度が約3.3dtexの繊維Eを得た。
【0054】
6.繊維F
セルロース含有量8.5質量%、水酸化ナトリウム含有量6.2質量%の原料ビスコースを使用してビスコース液を作製した以外は繊維Aと同様にして繊維Fを得た。得られたビスコース液のホッテンロート価は、7.8であった。
【0055】
7.繊維G
セルロース含有量8.5質量%、水酸化ナトリウム含有量5.4質量%の原料ビスコースを使用してビスコース液を作製した以外は繊維Aと同様にして繊維Gを得た。得られたビスコース液のホッテンロート価は、8.0であった。
【0056】
8.繊維H
セルロース含有量8.5質量%、水酸化ナトリウム含有量6.4質量%の原料ビスコースに、セルロースに対して炭酸ナトリウムが33質量%となるように添加液を添加してビスコース液を作製した以外は繊維Aと同様にして繊維Hを得た。得られたビスコース液のホッテンロート価は、8.4であった。
【0057】
(比較例:繊維I〜K)
9.繊維I
セルロース含有量8.5質量%、水酸化ナトリウム含有量5.4質量%の原料ビスコースに、セルロースに対して炭酸ナトリウムが44質量%となるように添加液を添加してビスコース液を作製した以外は繊維Aと同様にして繊維Iを得た。得られたビスコース液のホッテンロート価は、7.5であった。
【0058】
10.繊維J
セルロースに対して炭酸ナトリウムが28質量%となるように原料ビスコース液に添加液を添加してビスコース液を作製した以外は繊維Aと同様にして繊維Jを得た。得られたビスコース液のホッテンロート価は、8.6であった。
【0059】
11.繊維K(普通レーヨン)
添加液を添加しなかった以外は繊維Aと同様にして、繊維Kを得た。
【0060】
12.繊維L(普通レーヨン)
添加液を添加しなかったこと以外は、繊維Dと同様にして、繊維Lを得た。
【0061】
13.繊維M(従来の扁平レーヨン)
従来の扁平レーヨン繊維として、ケルハイム社製「バイロフト」(繊度2.4dtex、繊維長25mm)を参考例として用意した。
【0062】
繊維A〜Kの繊度、強度、伸度、扁平繊維化率及び扁平比を上記のように測定し、その結果を下記表1にまとめて示した。
【0063】
【表1】
【0064】
表1から明らかなとおり、実施例の繊維A〜Hは、炭酸ナトリウムの添加量がセルロースに対して33〜38%のビスコース液を用い、所定の硫酸濃度を有する紡糸浴を用いて紡糸することで、扁平比2.9〜9.2、かつ扁平繊維化率の高い繊維を得ることができた。特に、繊維A〜Gは扁平繊維化率が80%以上の繊維を得ることができた。繊維Hは、炭酸ナトリウムの添加量が対セルロース33%と若干少ないため、発泡が小さく、扁平繊維化率が低い傾向であった。得られた繊維A〜Hは、いずれも図1〜4に示す形状をしていた。すなわち、断面形状は扁平であり、繊維側面の長さ方向にはタテ筋が形成されており、断面から観察すると外周部に襞が形成されている部分があり、繊維断面内部には空洞がつぶれて密着された部分を含んでいた。線状空洞部の扁平中空率は、1.8〜7.2%であった。
【0065】
これに対して比較例の繊維Iは、通常の方法で、炭酸ナトリウムをセルロースに対して44%添加したビスコース液を紡糸して得られた繊維であり、扁平繊維化率は100%であったが、扁平比は15.3であり、繊維側面は平滑に近い状態であった。
【0066】
また、比較例の繊維Jは、炭酸ナトリウムの添加量がセルロースに対して28%と少ないビスコース液を紡糸して得られた繊維であり、繊維化時に空洞が形成されず、レギュラーレーヨンと大差のない形状となった。扁平繊維化率は0%であった。
【0067】
実施例の繊維A〜Hは、湿潤状態にしたところ、繊維断面において空洞がつぶれて密着された部分が膨潤して開口していることが確認できた。繊維Aの湿潤時の中空率は29.1%であり、繊維Dの湿潤時の中空率は25.8%であった。一方、参考例の繊維Mは、単に膨潤するだけであって、繊維内部においては何の変化もなかった。
【0068】
[不織布の作製]
繊維A、D(実施例)、繊維K、L(比較例)、繊維M(参考例)を準備した。各繊維をそれぞれセミランダムカードで解繊して目付約100g/m2のカードウェブを作製した。次いで、ノズル孔径0.13mmのオリフィスが1mm間隔で配置されたノズルから、ウェブ表面から3MPa、5MPa、ウェブ裏面から5MPaの水圧で水流を噴射した後、自然乾燥させて、水流交絡不織布を作製した。また、繊維D50質量%と、ポリエステル繊維(東レ(株)製、商品名403D、繊度1.45dtex、繊維長38mm)50質量%を混合し、その他は上記と同様の条件で水流交絡不織布を作製した。
【0069】
得られた不織布の物性は、以下の方法で測定し、その結果を下記表2に示した。
[測定方法]
(1)目付:JIS L 1913に準じて測定した。
(2)厚み:大栄化学精機社製の不織布厚み計を使用して、1960Pa(20gf/cm2)荷重下で厚みを測定した。なお、湿潤時の厚みは、不織布質量に対して約400%の水を含浸させて測定した。
(3)比容積:次式により算出した。
比容積(cm3/g)={1960Pa[20gf/cm2]荷重時厚み(mm)/乾燥時目付(g/m2)}×1000
(4)比容積減少率:次式により算出した。
比容積減少率(%)={乾燥時不織布比容積−湿潤時不織布比容積/乾燥時不織布比容積}×100
【0070】
【表2】
【0071】
本発明の扁平レーヨン繊維を用いた不織布は、乾燥時と湿潤時における厚み及び比容積の差が小さくすなわち嵩減少が小さく、嵩高い。一方、普通レーヨン繊維を用いた不織布及び従来の扁平レーヨン繊維を用いた不織布は、湿潤時の嵩減少が大きく、嵩自体も小さいものであった。また、本発明の扁平レーヨン繊維は、ポリエステル繊維と混綿しても湿潤時の嵩高性が良好であった。
【0072】
上記繊維D(実施例)、繊維M(参考例)及び繊維L(比較例)をそれぞれ構成繊維とする水流交絡不織布の乾燥時及び湿潤時(水分率100%)における不織布強伸度を下記のように測定し、その結果を下記表3に示した。
【0073】
[不織布の強伸度]
不織布強伸度は、JIS L 1913に準じて、試料(巾50mm、長さ150mm)、把持間隔100mm、引張速度300mm/分の条件で測定した。
【0074】
【表3】
【0075】
本発明の扁平レーヨンを用いた不織布は、従来の扁平レーヨン繊維及び普通レーヨンを用いた織布に比べて、5〜20%の伸長時応力(低伸長時モジュラス)が大きい傾向にあることが確認できた。
【0076】
繊維D(実施例)、繊維L(比較例)、繊維M(参考例)の保水量及び水分保持量を下記のように測定し、その結果を下記表4に示した。
【0077】
[保水量]
(1)前処理として105℃で2時間乾燥したレーヨン繊維の試料原綿10gを秤量した。
(2)2リットルのビーカーを準備し、1リットルのイオン交換水(20〜25℃)を入れた。
(3)試料原綿10gをビーカーの液面に落とし、試料原綿が完全に沈降してから3分間放置した。
(4)10メッシュの金網(線径0.6mm、目開き1.9mm)上に乗せた内径92mmのポリエチレン製の円筒内に、ビーカー内の水及び試料原綿を移した直後に、円筒内試料原綿上に、5g/cm2の荷重下となるように水を充填して質量318gに調整した円筒形のガラス容器(外径90mm)を乗せて、1分間放置した。
(5)保水後の試料原綿の質量(W1)を測定し、下記式で保水量(g/g)を算出した。
保水量={W1−試料原綿質量(10g)}/試料原綿質量(10g)
【0078】
[水分保持量]
(1)上記保水後の試料原綿を、日立二槽式電気洗濯機PS−TB42型(日立ホーム&ライフソリューション株式会社)の脱水槽に投入し、脱水機で3分間除水を行った。
(2)除水後の試料原綿の質量(W2)を測定し、下記式により水分保持量を算出した。
水分保持量=(W2−試料原綿質量(10g))/試料原綿質量(10g)
【0079】
【表4】
【0080】
本発明の扁平レーヨン繊維は、従来の扁平レーヨン繊維及び普通レーヨンに比べて、保水量及び水分保持料が大きい傾向にあることが確認できた。
【0081】
[不織布の作製]
繊維A(実施例)、繊維K(比較例)を準備した。パラレルカード機を用いて解繊し、繊維A100質量%のカードウェブ、繊維A50質量%と繊維K50質量%の混綿カードウェブ、及び繊維K100質量%のカードウェブを作製した(目付は約120g/m2)。次いで、ノズル孔径0.13mmのオリフィスが1mm間隔で配置されたノズルから、ウェブ表面から3MPa、5MPa、ウェブ裏面から5MPaの水圧で水流を噴射して、水流交絡不織布を作製した。また、繊維D又は繊維L50質量%と、ポリエステル繊維(東レ(株)製、商品名403D、繊度1.45dtex、繊維長38mm)50質量%を混合し、その他は上記と同様にして水流交絡不織布を作製した。
【0082】
得られた不織布の剛軟度を、JIS L 1096カンチレバー法に準じて測定し、その結果を下記表5に示した。
【0083】
【表5】
【0084】
本発明の扁平レーヨン繊維を用いた不織布は、風合いが硬い(コシが高い)傾向にあり、普通レーヨン繊維50質量%混綿でも風合いが硬い(コシが高い)ことが確認できた。また、本発明の扁平レーヨン繊維にポリエステル繊維を混綿しても、普通レーヨン繊維に比べて風合いが硬い(コシが高い)傾向にあることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の扁平レーヨン繊維は、例えば、トウ、フィラメント、紡績糸、中綿(詰め綿)、紙、不織布、織編物などの繊維集合体に用いることができる。また、本発明の繊維集合体は、嵩高糸(バルキー糸)、衣料、化粧パフ,吸収体等の衛生材料、フェイスマスク、ウェットティッシュ,対人及び/又は対物ワイパー等のウェットシート、水解性シート、ドライワイパー、フィルター、加湿器用フィルターなどの繊維製品に用いることができる。
【符号の説明】
【0086】
1 扁平レーヨン繊維
2 扁平レーヨン繊維の断面
2a 外周部の凹凸形状部
2b,2c 襞(ひだ)部
3 繊維内部の空洞がつぶれて密着された部分
4 繊維側面のタテ筋
5 繊維側面に網状に形成されたセル状空洞部の隔壁部痕跡
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生セルロースを用いた扁平レーヨン繊維、その製造方法及びこれを用いた繊維集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
再生セルロースを用いたレーヨン繊維は、ビスコースレーヨンとして知られている。断面が扁平のレーヨンについても従来から提案されており、特許文献1にはエポキシ化合物を紡糸液に添加することにより扁平レーヨンを得ることが提案されている。特許文献2にはオレイン酸又はその塩を添加することで竹節状かつ断面三角形の中空レーヨンを得ることが提案されている。特許文献3にはビスコースの熟成度(ホッテンロート価)と炭酸ナトリウムの添加量を調整することにより、ストロー状の中空部を持つか、又は竹節状かつ中空部がふくらみを持つ中空レーヨンを得ることが提案されている。特許文献4には明確な製造方法は記載されていないが、スリット孔ノズルを使用したと思われる方法で扁平かつ緻密構造のレーヨン繊維が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭46−7810号公報
【特許文献2】特開昭53−143722号公報
【特許文献3】特開平11−172520号公報
【特許文献4】特表2008−546917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1〜2に提案のレーヨン繊維は、添加物を使用しているため、本来のレーヨンの特徴が失われる場合がある。また、特許文献1〜3に提案のレーヨン繊維は、繊維側面の表面が平滑であるために、乾燥すると水素結合により繊維同士が密着するという問題がある。特許文献4に提案の発明は、スリット孔ノズルが詰まり易く生産性に問題があり、コストが高い問題がある。この問題は、特許文献1にも記載されている。加えて、特許文献4に提案の発明は、繊維内部が緻密構造であり、嵩が高くないという問題もある。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、繊維同士の密着性は低く解繊し易く、比較的嵩もあり、製造コストも安い扁平レーヨン繊維、その製造方法及びこれを用いた繊維集合体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の扁平レーヨン繊維は、断面形状が扁平であるレーヨン繊維であって、前記レーヨン繊維側面の長さ方向にはタテ筋が形成されており、前記繊維断面から観察すると外周部に襞が形成されている部分があり、前記繊維断面内部には空洞がつぶれて密着された部分を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の扁平レーヨン繊維の製造方法は、ビスコースを含む紡糸液をノズルから紡糸浴中に押し出し再生するレーヨン繊維の紡糸工程において、ビスコースを含む紡糸液からの発泡により繊維内部にセル状空洞部を形成し、乾燥時に前記セル状空洞部の内壁を密着させることにより扁平化させることを特徴とする。
【0008】
本発明の繊維集合体は、前記の扁平レーヨン繊維を20質量%以上含有するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の扁平レーヨン繊維は、側面の長さ方向にはタテ筋が形成されており、繊維断面から観察すると外周部に襞が形成されている部分があり、繊維表面が平滑でないことから、例えばカード用原綿、不織布、織編物等の繊維集合体に適用しても繊維同士の密着性は低く解繊し易く、繊維同士の自己接着を生ずることがない作用効果を奏する。また、繊維内部にはセル状空洞部がつぶれて密着された部分を含むことにより、比較的嵩もあり、製造コストも安い扁平レーヨン繊維を提供できる。
【0010】
本発明の繊維集合体は、前記扁平レーヨンを含んでおり、乾燥時及び湿潤時において嵩高な繊維集合体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維を示す模式的斜視図である。
【図2】図2は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(倍率:1000倍)で観察した写真である。
【図3】図3は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の側面を透過型光学顕微鏡(倍率:160倍)で観察した写真である。
【図4】図4は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の側面を走査型電子顕微鏡(SEM)(倍率:500倍)で観察した写真である。
【図5】図5は、従来の扁平レーヨン繊維の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(倍率:1000倍)で観察した写真である。
【図6】図6は、従来の扁平レーヨン繊維の側面を走査型電子顕微鏡(SEM)(倍率:500倍)で観察した写真である。
【図7】図7は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維を用いた不織布の幅方向(CD)の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(倍率:100倍)で観察した写真である。
【図8】図8は、従来の扁平レーヨン繊維を用いた不織布の幅方向(CD)の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(倍率:100倍)で観察した写真である。
【図9】図9は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の湿潤時の繊維断面をマイクロスコープ(倍率:1000倍)で透過光観察した写真である。
【図10】図10は、従来の扁平レーヨン繊維の湿潤時の繊維断面をマイクロスコープ(倍率:1000倍)で透過光観察した写真である。
【図11】図11は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の湿潤時の繊維断面を透過型光学顕微鏡(倍率:640倍)で観察した写真である。
【図12】図12は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の湿潤状態から再乾燥して自己復元した繊維断面を透過型光学顕微鏡(倍率:640倍)で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のレーヨン繊維は、断面形状が扁平であり、側面の長さ方向にはタテ筋が形成されており、断面から観察すると外周部に襞(ひだ)が形成されている部分があり、繊維断面内部には空洞がつぶれて密着された部分を含む。扁平形状は様々な形状を含み、不定形のものも含む。本発明のレーヨン繊維は湿式紡糸法により形成されるため、画一的な断面形状にするのは困難である。このレーヨン繊維は、好ましい例として、紡糸工程においてビスコース液を紡糸浴に押し出した時の発泡により繊維内部にセル状空洞部を形成し、乾燥時に前記セル状空洞部の内壁を密着させることにより扁平化させて得る。前記発泡の方法としては、特に限定されず、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の従来の発泡剤を用いてガスを発生させる方法が挙げられる。例えば、原料ビスコースに炭酸ナトリウムを特定量添加し、紡糸浴(ミューラー浴)中の硫酸と反応させて炭酸ガスを発生させる。このとき炭酸ガスを中間体ビスコース繊維内に閉じ込めるため、繊維表層を早めに緻密化させる。
【0013】
本発明の扁平レーヨン繊維は、繊維側面の長さ方向にタテ筋が形成されている。このタテ筋は、レーヨンを製造する際に中間体繊維から紡糸浴に脱溶媒及び/又は脱水する際に形成される。従来の表面が平滑な扁平レーヨン繊維は、繊維内部で炭酸ガスを積極的に発生させることにより繊維表層を薄く形成しつつ脱溶媒がなされるため、繊維側面のタテ筋は形成されず平滑な繊維表面となる点で本発明の扁平レーヨン繊維とは異なる。
【0014】
本発明の扁平レーヨン繊維は、繊維断面内部には空洞がつぶれて密着された部分を含む。繊維内部における空洞がつぶれて密着された部分の確認は、透過型光学顕微鏡を用いて繊維側面を任意に観察することにより確認することができる。前記扁平レーヨン繊維の繊維断面において形成される空洞がつぶれて密着された部分は、完全に密着した部分、及び一部に空洞が残存した部分も含む(以下、併せて線状空洞部ともいう)。この線状空洞部は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて繊維断面を任意に観察することにより確認することができる。前記線状空洞部は、従来の扁平中空レーヨン繊維と比較して空洞部がほとんど潰れており、その繊維断面積に対する線状空洞部の面積の比(扁平中空率ともいう)は、8%以下であることが好ましい。この線状空洞部を含むことにより、スリット孔ノズルを使用した緻密な内部構造を有する扁平レーヨン繊維に比べて、嵩の高い繊維集合体を形成することができる。このような線状空洞部は、例えば、発泡剤によるガスの発生量を調整して、繊維内部に形成される空洞の大きさを抑え、繊維表層(肉厚)の比較的厚い繊維を形成することにより得ることができる。
【0015】
また、本発明の扁平レーヨン繊維は、湿潤時において前記線状空洞部が開口して膨潤する性質を有する(以下、湿潤扁平レーヨン繊維ともいう。)。上記性質を有することにより、湿潤時に単繊維の嵩が増加するため、従来のレーヨン繊維集合体で認められる湿潤による嵩の低下が少ない点で好ましい。湿潤時における繊維内部の空洞部開口状態の確認は、マイクロスコープを用いて繊維断面を任意に透過光観察することにより確認することができる。具体的には、湿潤時の繊維断面観察は、以下のように行うことができる。
(1)乾燥した状態のレーヨン繊維を束状にし、1mmφの孔を形成した金属製プレートに通すことで孔内に繊維束を充填し、余分な繊維を切断する。
(2)次いで、繊維束に水を約200%含ませてマイクロスコープを用いて透過光観察する。
【0016】
前記開口した空洞部を有する湿潤扁平レーヨン繊維は、その中空率は、15〜40%であることが好ましい。より好ましい中空率は、20〜35%である。上記範囲を満たすことにより、乾燥時の扁平化と湿潤時の中空扁平化を両立することができ、従来のスリット孔ノズルを使用した緻密な内部構造を有する扁平レーヨン繊維に比べて、嵩の高い繊維集合体を形成することができる。湿潤時の中空率は、拡大写真から単繊維15本を任意に選び、単繊維の輪郭を紙面に転写したものを切り抜き、単繊維の断面全体と中空部分の紙面質量をそれぞれ測定して、中空部/断面全体の質量比をそれぞれ算出し、平均した。なお、前述した乾燥前(扁平化前)のレーヨン繊維は、前記湿潤扁平レーヨン繊維とほぼ同様の中空率を有していると考えられる。
【0017】
また、本発明の扁平レーヨン繊維は、湿潤時に前記線状空洞部が開口した後に乾燥状態にすると、ほぼ元の繊維断面形状に自己復元する性質を有する。すなわち、湿潤により開口した空洞部は、乾燥状態に戻すことにより完全に塞がる及び/又は少し口が開き気味の線状空洞部を形成する。本発明の扁平レーヨン繊維は、このような性質を有することにより、湿潤・乾燥の状態変化を繰り返しても、扁平断面形状に由来する乾燥時の特性(嵩高性や風合い)を維持することができる。なお、湿潤状態から乾燥状態への繊維断面形状の変化、繊維断面における線状空洞部の湿潤時開口状態及び再乾燥による扁平化状態は、以下の方法で確認することができる。
(1)乾燥した状態の扁平レーヨン繊維を平行に揃えた繊維束を、溶融したパラフィン(融点60〜70℃)に浸漬した後に引き上げてパラフィンを固化させ、繊維束を包含したパラフィン柱を作製する。
(2)ミクロトーム(大和光機工業株式会社製、PR−50)を使用して、繊維軸に対して垂直方向にパラフィン柱を切断し、厚み5〜10μmのパラフィン柱切片を作製する。
(3)卵白グリセリンを塗布したスライドガラス上にパラフィン柱切片を乗せた後、スライドガラスを加熱してパラフィンを溶融させる。
(4)次いで、溶融パラフィンをキシレンで洗浄除去して繊維束切片とする。
(5)繊維束切片に水を滴下後、カバーガラスをかけてプレパラートを作製し、透過型光学顕微鏡下で湿潤時の繊維断面形状を観察する。
(6)上記プレパラートを105℃で10分間乾燥し、透過型光学顕微鏡下で再乾燥時の繊維断面形状を観察する。
【0018】
本発明の扁平レーヨン繊維側面には、セル状空洞部の隔壁部の痕跡を有していることが好ましい。より好ましくは、前記隔壁部痕跡、すなわちセル状空洞部の隔壁部に由来する凸状部が形成されている。また、より好ましくは、前記隔壁部痕跡は繊維表面において網状に形成されており、さらに隔壁部に由来する凸状部が網状に形成されていることが好ましい。また、隔壁部痕跡は、扁平部(扁平面)とその側端部からなる繊維側面において、側端部の一方又は両方に、繊維軸方向に連続又は非連続で形成していることが好ましい。すなわち、中間体ビスコース繊維に形成されるセル状空洞部(非連続中空部)間の隔壁部は、乾燥により空洞部がつぶれても隔壁部の痕跡は観察される。繊維側面にセル状空洞部の隔壁部の痕跡が形成されると、繊維同士の自己接着を生ずることがない点で好ましく、その痕跡が隔壁部に由来する凸状部であると、その効果がさらに顕著となる。前記網状の隔壁部痕跡(隔壁部に由来する凸状部)とは、主として繊維内部に形成される中空竹節状及び/又は独立気泡状の空洞部を構成する隔壁部の配置に由来するものをいう。
【0019】
本発明の扁平レーヨン繊維は、セル状空洞部がつぶれて密着し隔壁部痕跡が形成される際に、繊維軸方向にもゆがみが生じ易く、また隔壁部の厚みが繊維軸方向で異なることから、各々の繊維断面において、扁平形状は様々な形状を含み、不定形となって形成されることが好ましい。このような繊維断面形状を形成することにより、繊維集合体としたときに、嵩高性を得ることができる。
【0020】
前記扁平レーヨン繊維断面の扁平比は、長辺/短辺の倍率で2.5倍以上が好ましく、さらに好ましくは2.9〜12倍、さらにより好ましくは、3〜9.2倍の範囲である。この範囲であれば、扁平レーヨン繊維を含む繊維集合体としたときに、嵩高な繊維集合体を得やすい。
【0021】
次に、本発明の扁平レーヨン繊維を得るための製造方法について説明する。ビスコースを含む紡糸液をノズルから紡糸浴中に押し出し再生するレーヨン繊維の紡糸工程において、ビスコースを含む紡糸液からの発泡により繊維内部にセル状空洞部を形成し、乾燥時に前記セル状空洞部の内壁を密着させることにより扁平化させて得ることができる。ビスコース中に炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の発泡剤を添加することにより、紡糸浴中で反応してガスを発生し、セル状空洞部を得ることができる。発泡剤は、添加時の取扱い性及び紡糸浴中の硫酸との反応性から炭酸ナトリウムであることが好ましい。
【0022】
具体的には、ビスコースを含む紡糸液(ビスコース液)としては、セルロースが7〜10質量%、水酸化ナトリウムが5〜8質量%、二硫化炭素が2〜3.5質量%のビスコース原液に、炭酸ナトリウムをセルロースに対して30〜42質量%になるように添加して調整するとよい。このとき、必要に応じて、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)、二酸化チタンなどの添加剤を使用することもできる。前記において、炭酸ナトリウムの添加量を特定量とすることにより、紡糸浴(ミューラー浴)中の硫酸と反応させて炭酸ガスを発生させるが、このとき繊維表層を早めに緻密化させ、繊維内に炭酸ガスを閉じ込める。これにより繊維内部にセル状空洞部を形成することができる。炭酸ナトリウムの添加量は、セルロースに対して33〜42質量%であることがより好ましく、35〜40質量%であることがさらにより好ましい。炭酸ナトリウムの添加量を上記範囲内とすることにより、炭酸ガスの発生を少なくして、繊維内部に形成されるセル状空洞部のサイズが小さくなり、繊維の表面から空洞部までの距離、すなわち繊維表層(肉厚)が大きく、空洞部内壁が平滑な繊維断面形状となり、セル状空洞部が潰れたときに内壁を密着しやすい。
【0023】
前記紡糸液(ビスコース液)の熟成度(ホッテンロート価)は、5〜10であることが好ましく、より好ましくは6〜9である。ホッテンロート価が上記範囲未満であると、延伸時の単繊維切れが多くなる傾向にある。ホッテンロート価が上記範囲より大きくなると、繊維表層の凝固が遅くなるため、セル状空洞部のサイズが大きく形成されて繊維表面が平滑化するか、あるいは繊維内部から炭酸ガスが抜けて空洞部が形成されないことにより、目的とする扁平形状の繊維が得られない傾向にある。上記ホッテンロート価を有するビスコース液は、慣用のビスコース液に所定量の炭酸ナトリウムを添加することで得ることができる。前記ホッテンロート価は、次のようにして測定する。ビスコース液20gに水30gを加えて均一に撹拌した溶液に、10%塩化アンモニウム水溶液を滴下して手早くかき混ぜる。この操作を繰り返し、撹拌棒から滴下させたビスコース液の跡が液面に5秒間残る状態を終点とし、終点に至るまでに要した10%塩化アンモニウム水溶液の量(ml)をホッテンロート価とする。
【0024】
紡糸浴(ミューラー浴)としては、硫酸を95〜130g/リットル、硫酸亜鉛を10〜17g/リットル、芒硝を290〜370g/リットル、温度を45〜60℃とすることが好ましい。より好ましい硫酸濃度は、100〜120g/リットルである。特に、硫酸濃度を上記範囲内とすることにより、炭酸ガスの発生を少なくして、繊維内部に形成されるセル状空洞部のサイズが小さくなり、繊維の表面から空洞部までの距離、すなわち繊維表層(肉厚)が大きく、空洞部内壁が平滑な繊維断面形状となり、セル状空洞部が潰れたときに内壁を密着しやすい。
【0025】
紡糸条件として、本発明の断面が扁平なレーヨン繊維は、通常の円形ノズルを用いても製造することができる。通常の円形ノズルを用いるので、扁平ノズルを使用する場合に比べて、繊度の調整が容易である。紡糸ノズルの選定は、目的とする生産量にもよるが、直径0.05〜0.12mmの円形ノズルを1000〜20000ホール有するものが好ましい。
【0026】
前記紡糸ノズルを用いて、ビスコース液を紡糸浴中に押し出し紡糸し、凝固再生することで糸条を形成し、延伸する。紡糸速度は、35〜70m/分の範囲が好ましい。また、延伸率は、25〜50%が好ましく、39〜50%であることがより好ましい。ここで延伸率とは、延伸前の糸条の長さを100%としたとき、延伸後の糸条の長さが何%伸びたかを示すものである。倍率で示すと、延伸前が1、延伸後は1.25〜1.50倍となることが好ましく、1.39〜1.50倍になることがより好ましい。
【0027】
上記のようにして得られたレーヨン繊維糸条を所定の長さにカットし、精練処理を行う。精練工程は、通常の方法で、熱水処理,水硫化処理、漂白、酸洗い及び油剤付与の順で行うとよい。
【0028】
その後、必要に応じて圧縮ローラーや真空吸引等の方法で余分な油剤、水分を繊維から除去した後、乾燥処理を施して本発明の扁平レーヨン繊維を得る。前記乾燥時にセル状空洞部はつぶれて内壁は密着する。前記乾燥処理は、温度50〜120℃、0.05〜15時間で行うことが好ましい。より好ましい乾燥処理条件は、温度70〜110℃、0.1〜8時間である。乾燥処理の温度及び時間を上記範囲とすることにより、セル状空洞部が潰れたときに内壁間の密着性が高い扁平レーヨンが得られる。
【0029】
本発明の扁平レーヨン繊維は、扁平繊維化率が80〜100%が好ましい。より好ましくは、90〜100%であり、最も好ましくは、100%である。扁平繊維化率が80%未満であると、トウ、不織布、織編物等の繊維集合体において、扁平断面形状に由来する特性(嵩高性や風合い)が損なわれることがある。
【0030】
本発明の扁平レーヨン繊維の繊度は、0.8〜6.0dtexであることが好ましい。より好ましくは0.9〜4.0dtexであり、さらにより好ましくは0.9〜3.3dtexである。繊度が0.8dtex未満であると、延伸時の単繊維切れが発生しやすい傾向にある。繊度が6.0dtexを越えると、セル状空洞部の形成が不安定となり、目的とする扁平形状の繊維が得られにくくなる場合がある。
【0031】
本発明の扁平レーヨン繊維は、例えば、トウ、フィラメント、不織布等の長繊維状、或いは湿式抄紙用原綿、エアレイド不織布用原綿、カード用原綿等などの短繊維状の形態で提供され、繊維集合体を形成することが好ましい。前記繊維集合体としては、例えば、トウ、フィラメント、紡績糸、中綿(詰め綿)、紙、不織布、織編物が挙げられる。本発明の繊維集合体は、前記扁平レーヨン繊維を含むことにより、繊維間の密着が低く、解繊性が良好であることから、均一な繊維集合体が得られる。また、繊維自体が嵩高性を有することから、嵩高な繊維集合体が得られる。本発明の繊維集合体において、前記扁平レーヨン繊維は20質量%以上含有することが好ましい。より好ましくは、30質量%以上であり、さらにより好ましくは、50質量%以上である。
【0032】
本発明の繊維集合体として、例えば紡績糸とした場合、前記扁平レーヨン繊維単独、またはその他の再生セルロース繊維、コットン、麻、ウール、アクリル、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン等の他の繊維と混紡、複合することが好ましい。このような紡績糸は、扁平レーヨン繊維の嵩高い特性を活かしたバルキー糸として用い、衣料等に用いることができる。また、前記扁平レーヨン繊維は比較的硬い風合いを有するので、シャリ感のある衣料等に用いることができる。
【0033】
本発明の繊維集合体として、例えば、不織布とした場合、前記扁平レーヨン繊維単独、またはその他の再生セルロース繊維、コットン、麻、ウール、アクリル、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン等の他の繊維と混綿して用いることができる。不織布の形態としては、例えば、湿式不織布(湿式抄紙)、エアレイド不織布、水流交絡不織布、ニードルパンチ不織布などが挙げられる。特に、水流交絡不織布のように高圧水で交絡処理を施しても、嵩高性を維持しており、好ましい。このような不織布は、前記扁平レーヨン繊維の湿潤時の嵩高い特性を活かして、例えば、ウェットティッシュ、対人及び/又は対物用ワイパー等のウェットシート、水解シート等に用いることができる。また、乾燥時にも嵩高い特性を有するので、化粧パフ、吸収体等の衛生シートに用いることができる。
【0034】
本発明の扁平レーヨン繊維は、水分を繊維内に取り込み易く、且つその水分を保持し易い性状を有する。これは、従来のレーヨン繊維は、セルロースが膨潤して水分を繊維内に取り込むだけであるが、本発明の扁平レーヨン繊維は湿潤時(水分付与時)にセルロースが膨潤するとともに、繊維中心付近で中空部が復元・形成されて中空部の内部にも水分が取り込まれ、また吸収された水分は繊維中空部にも保持されるためと推定される。本発明の扁平レーヨン繊維における保水量は、14g/g以上であることが好ましい。より好ましくは、15〜20g/gである。また、本発明の扁平レーヨン繊維における水分保持量は、1.4g/g以上であることが好ましい。より好ましくは、1.6〜3.0g/gである。このように、本発明の扁平レーヨン繊維は、優れた吸水性及び吸水保持性を有するので、例えば、ウェットティッシュ、ウェットワイパー、フェイスマスクなど対人及び/又は対物用の薬液等が含浸されて使用される湿潤シートに用いると、シート中に取り込んだ薬液等を保持することができ、好ましい。また、吸水保持性が高いので、例えば、液体の芳香剤、消臭剤等の吸液芯材、加湿器フィルター等にも好適である。なお、本発明において、扁平レーヨン繊維における保水量及び水分保持量は、下記のように測定したものである。
【0035】
[保水量]
(1)前処理として105℃で2時間乾燥したレーヨン繊維の試料原綿10gを秤量する。
(2)2リットルのビーカーを準備し、1リットルのイオン交換水(20〜25℃)を入れる。
(3)試料原綿10gをビーカーの液面に落とし、試料原綿が完全に沈降してから3分間放置する。
(4)10メッシュの金網(線径0.6mm、目開き1.9mm)上に乗せた内径92mmのポリエチレン製の円筒内に、ビーカー内の水及び試料原綿を移した直後に、円筒内試料原綿上に、5g/cm2の荷重下となるように水を充填して質量318gに調整した円筒形のガラス容器(外径90mm)を乗せて、1分間放置する。
(5)保水後の試料原綿の質量(W1)を測定し、下記式で保水量(g/g)を算出する。
保水量={W1−試料原綿質量(10g)}/試料原綿質量(10g)
【0036】
[水分保持量]
(1)上記保水後の試料原綿を、日立二槽式電気洗濯機PS-TB42型(日立ホーム&ライフソリューション株式会社製)の脱水槽に投入し、脱水機で3分間除水を行う。
(2)除水後の試料原綿の質量(W2)を測定し、下記式により水分保持量を算出する。
水分保持量={W2−試料原綿質量(10g)}/試料原綿質量(10g)
【0037】
本発明の扁平レーヨン繊維は、従来のレーヨン繊維や扁平ノズルから紡糸して得られる従来の扁平レーヨン繊維に比べて、乾燥時と湿潤時における厚み及び比容積が大きく、乾燥・湿潤時の厚み及び比容積の差が小さくすなわち嵩減少が小さく、嵩高である。特に、本発明の扁平レーヨン繊維を水流交絡不織布に用いるとよい。本発明の扁平レーヨン繊維が嵩高となる理由は、湿潤時(水分付与時)にセルロースが膨潤するとともに、繊維中心付近で中空部が復元・形成されて中空部の内部にも水分が取り込まれるので、繊維膨潤が大きいためと推定される。本発明の扁平レーヨン繊維における不織布質量に対して400%湿潤後の比容積減少率は、7.5%以下であることが好ましい。より好ましくは、6.5%以下である。このように、本発明の扁平レーヨン繊維は、乾燥時及び湿潤時の嵩高性に優れるので、例えば、ウェットティッシュ、ウェットワイパー、フェイスマスクなど対人及び/又は対物用の薬液等が含浸されて使用される湿潤シートに用いると、肌触りが良好であり、好ましい。なお、本発明において、比容積減少率は、以下の式で求めたものをいう。
比容積減少率(%)={乾燥時不織布比容積−湿潤時不織布比容積/乾燥時不織布比容積}×100
比容積(cm3/g)={1960Pa[20gf/cm2]荷重時厚み(mm)/乾燥時目付(g/m2)}×1000
【0038】
本発明の扁平レーヨン繊維は、繊維ウェブを作製し、水流交絡処理を行った時の交絡力が従来のレーヨン繊維や扁平ノズルから紡糸して得られる従来の扁平レーヨン繊維に比べて高い傾向にある。特に、本発明の扁平レーヨン繊維は、5〜20%の伸長時応力(低伸長時モジュラスともいう。)が大きい傾向にある。また、この傾向は、湿潤時(例えば、100%湿潤時)の水流交絡不織布においても同様である。本発明の扁平レーヨン繊維が水流交絡において交絡力が高いのは、繊維断面が扁平形状であること、及び繊維側面においてセル状空洞部の隔壁部痕跡及び/又は隔壁部由来の凸状部が形成されているので、引き抜き時に繊維間の抵抗が大きく交絡が解けにくいからと考えられる。前記水流交絡不織布は、本発明の扁平レーヨン繊維が少なくとも20質量%含むことが好ましい。より好ましい含有量は、30質量%以上である。
【0039】
以下、図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維を示す模式的斜視図である。この扁平レーヨン繊維1の断面2は扁平であり、断面2の外周部は凹凸形状2aとなっており、この凹凸が大きくなっている部分が襞2b,2cを形成している。この繊維断面2の内部は空洞がつぶれて密着された部分3を含む。扁平レーヨン繊維1の側面の長さ方向にはタテ筋4が形成されている。さらに、扁平レーヨン繊維1の側面には、セル状空洞部の隔壁部痕跡5が網状に形成されている。
【0040】
図2は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。断面は不定形であるが、基本は扁平である。図3は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の側面を透過型光学顕微鏡で観察した写真である。空洞部と隔壁部が観察される。図4は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の側面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。扁平レーヨン繊維の側面には、セル状空洞部の隔壁部痕跡が網状に形成されていることが観察できる。
【0041】
図5は、従来の扁平レーヨン繊維の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。この繊維は前記した特許文献4の出願人であるドイツのケルハイム社製品の繊維である。繊維断面に空洞の痕跡は見られず、緻密構造である。図6は、図5の扁平レーヨン繊維の側面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。側面にタテ筋は観察されるが、セル状空洞部の隔壁部痕跡は観察されない。
【0042】
図7は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維を用いた不織布の機械(MD)方向の不織布断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。本発明の繊維集合体(不織布)は、繊維間に空間を有しており、嵩高であることが確認できる。図8は、従来の扁平レーヨン繊維を用いた不織布の機械(MD)方向の不織布断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。従来の扁平レーヨン繊維を用いた不織布は、繊維同士が密接しており、嵩高性にも劣っていることが確認できる。
【0043】
図9は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の湿潤時の繊維断面をマイクロスコープで透過光観察した写真である。本発明の扁平レーヨン繊維は、湿潤時において繊維内部における空洞がつぶれて密着された部分(線状空洞部)が膨潤により開口して、より嵩高になっていることが確認できる。図10は、従来の扁平レーヨン繊維の湿潤時の繊維断面をマイクロスコープで透過光観察した写真である。従来の扁平レーヨン繊維は、単に膨潤するだけであることが確認できる。
【0044】
図11は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の湿潤時の繊維断面を透過型光学顕微鏡で観察した写真である。本発明の扁平レーヨンは、湿潤時において繊維内部における空洞がつぶれて密着された部分(線状空洞部)が膨潤により開口して、より嵩高になっていることが確認できる。図12は、本発明の一実施例における扁平レーヨン繊維の湿潤後再乾燥させた時の繊維断面を透過型光学顕微鏡で観察した写真である。本発明の扁平レーヨン繊維は、湿潤状態から再乾燥することにより、開口が閉じて自己復元することが確認できる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。なお、下記の実施例で添加量を単に%と表記した場合は、質量%を意味する。
【0046】
[測定方法]
(1)繊度:JIS L 1015にしたがって測定した。
(2)扁平比:扁平比の測定方法は次のとおりとした。すなわち、正量繊度と繊維断面短辺から、以下手順により断面の長辺/短辺比率を求め、扁平比とした。
(a)繊維断面の短辺を測定する。このとき、少なくとも3箇所の短辺を測定して平均値を算出する。
(b)正量繊度から真円換算の繊維断面積を求め、これを短辺で除算した値を繊維断面の長辺とする。
(c)長辺/短辺の比を求め、繊維断面の扁平比とする。
(備考)
(i)正量繊度(単位:dtex)の測定はJIS L 1015の方法による。
(ii)真円換算の繊維断面積は、レーヨンの繊維比重を1.5として次式により算出した。
繊維断面積(μm2)=正量繊度(dtex)×100/1.5
(iii)繊維断面:短辺の測定は、以下の方法による。繊維30本の断面をマイクロスコー
プで拡大観察し、繊維断面の長辺軸に垂直方向の巾を測定し、これを平均した値を繊維断面短辺とした。長さの単位はμmである。
(3)扁平繊維化率:繊維30本の繊維断面をマイクロスコープで拡大観察し、繊維断面の長辺軸に垂直方向の巾(長さの単位はμm)を測定し、前記(2)と同様の手順により扁平比を求め、次式により得られる値を扁平繊維化率とした。
扁平繊維化率(%)=(扁平比2.5以上の繊維本数/30本)×100
(4)強度及び伸度:JIS L 1015 8.7.1(標準時試験)及びJIS L 1015 8.7.2(湿潤時試験)に準じ、定速緊張形試験機(つかみ間隔20mm、引張速度20mm/min)を用いて、標準時(乾)及び湿潤時(湿)における扁平レーヨン繊維の切断したときの荷重及び伸びを測定し、強度及び伸度とした。
【0047】
(実施例:繊維A〜G)
1.繊維A
[ビスコース液の調製]
原料ビスコースとしてセルロース含有量:8.6質量%、水酸化ナトリウム含有量:5.9質量%、二硫化炭素:2.7質量%を含むものを用意した。また、炭酸ナトリウム(株式会社トクヤマ,ソーダ灰ライト):22質量%、EDTA(ナガセケムテックス株式会社,クレワット−N):0.17重量%を加え、ペラ式攪拌機で溶解して作製した水溶液を添加液とした。上記で得られた添加液を原料ビスコースに炭酸ナトリウムがセルロースに対して38質量%となるように添加し、混合機にて攪拌混合を行い、ビスコース液を得た。得られたビスコース液のホッテンロート価は、7.9であった。
【0048】
[紡糸条件]
得られたビスコース液を、2浴緊張紡糸法により、紡糸速度65m/分、延伸率50%で紡糸して、繊度1.7dtexの繊維を得た。第1浴(紡糸浴)の組成は、硫酸120g/L、硫酸亜鉛15g/L、硫酸ナトリウム330g/L含むミューラー浴(50℃)を用いた。また、ビスコース液を吐出する紡糸口金には、孔径0.06mmのホールを4000個有するノズルを用いた。紡糸中、単糸切れ等の不都合は生じず、ビスコース液の紡糸性は良好であった。
【0049】
[精練条件]
上記のようにして得られたビスコースレーヨンの糸条を、38mmにカットし、精練処理を行った。精練工程は、通常の方法で、熱水処理,水硫化処理、漂白、酸洗い及び油剤付与の順で行った。漂白は、次亜塩素酸ソーダ水溶液(0.03質量%)を用いて実施した。油剤付与後、圧縮ローラーで余分な油剤を繊維から落とした後、乾燥処理(60℃、7時間)を施して、繊維Aを得た。繊維Aの繊度は約1.7dtexであった。
【0050】
2.繊維B
炭酸ナトリウムがセルロースに対して35質量%となるように原料ビスコースに添加液を添加してビスコース液を作製した以外は繊維Aと同様にして繊維Bを得た。得られたビスコース液のホッテンロート価は、8.3であった。
【0051】
3.繊維C
繊維Aと同様の処理により繊度が約0.9dtexの繊維Cを得た。
【0052】
4.繊維D
繊維Aと同様の処理により繊度が約2.2dtexの繊維Dを得た。
【0053】
5.繊維E
紡糸速度を40m/分とした以外は繊維Aと同様にして繊度が約3.3dtexの繊維Eを得た。
【0054】
6.繊維F
セルロース含有量8.5質量%、水酸化ナトリウム含有量6.2質量%の原料ビスコースを使用してビスコース液を作製した以外は繊維Aと同様にして繊維Fを得た。得られたビスコース液のホッテンロート価は、7.8であった。
【0055】
7.繊維G
セルロース含有量8.5質量%、水酸化ナトリウム含有量5.4質量%の原料ビスコースを使用してビスコース液を作製した以外は繊維Aと同様にして繊維Gを得た。得られたビスコース液のホッテンロート価は、8.0であった。
【0056】
8.繊維H
セルロース含有量8.5質量%、水酸化ナトリウム含有量6.4質量%の原料ビスコースに、セルロースに対して炭酸ナトリウムが33質量%となるように添加液を添加してビスコース液を作製した以外は繊維Aと同様にして繊維Hを得た。得られたビスコース液のホッテンロート価は、8.4であった。
【0057】
(比較例:繊維I〜K)
9.繊維I
セルロース含有量8.5質量%、水酸化ナトリウム含有量5.4質量%の原料ビスコースに、セルロースに対して炭酸ナトリウムが44質量%となるように添加液を添加してビスコース液を作製した以外は繊維Aと同様にして繊維Iを得た。得られたビスコース液のホッテンロート価は、7.5であった。
【0058】
10.繊維J
セルロースに対して炭酸ナトリウムが28質量%となるように原料ビスコース液に添加液を添加してビスコース液を作製した以外は繊維Aと同様にして繊維Jを得た。得られたビスコース液のホッテンロート価は、8.6であった。
【0059】
11.繊維K(普通レーヨン)
添加液を添加しなかった以外は繊維Aと同様にして、繊維Kを得た。
【0060】
12.繊維L(普通レーヨン)
添加液を添加しなかったこと以外は、繊維Dと同様にして、繊維Lを得た。
【0061】
13.繊維M(従来の扁平レーヨン)
従来の扁平レーヨン繊維として、ケルハイム社製「バイロフト」(繊度2.4dtex、繊維長25mm)を参考例として用意した。
【0062】
繊維A〜Kの繊度、強度、伸度、扁平繊維化率及び扁平比を上記のように測定し、その結果を下記表1にまとめて示した。
【0063】
【表1】
【0064】
表1から明らかなとおり、実施例の繊維A〜Hは、炭酸ナトリウムの添加量がセルロースに対して33〜38%のビスコース液を用い、所定の硫酸濃度を有する紡糸浴を用いて紡糸することで、扁平比2.9〜9.2、かつ扁平繊維化率の高い繊維を得ることができた。特に、繊維A〜Gは扁平繊維化率が80%以上の繊維を得ることができた。繊維Hは、炭酸ナトリウムの添加量が対セルロース33%と若干少ないため、発泡が小さく、扁平繊維化率が低い傾向であった。得られた繊維A〜Hは、いずれも図1〜4に示す形状をしていた。すなわち、断面形状は扁平であり、繊維側面の長さ方向にはタテ筋が形成されており、断面から観察すると外周部に襞が形成されている部分があり、繊維断面内部には空洞がつぶれて密着された部分を含んでいた。線状空洞部の扁平中空率は、1.8〜7.2%であった。
【0065】
これに対して比較例の繊維Iは、通常の方法で、炭酸ナトリウムをセルロースに対して44%添加したビスコース液を紡糸して得られた繊維であり、扁平繊維化率は100%であったが、扁平比は15.3であり、繊維側面は平滑に近い状態であった。
【0066】
また、比較例の繊維Jは、炭酸ナトリウムの添加量がセルロースに対して28%と少ないビスコース液を紡糸して得られた繊維であり、繊維化時に空洞が形成されず、レギュラーレーヨンと大差のない形状となった。扁平繊維化率は0%であった。
【0067】
実施例の繊維A〜Hは、湿潤状態にしたところ、繊維断面において空洞がつぶれて密着された部分が膨潤して開口していることが確認できた。繊維Aの湿潤時の中空率は29.1%であり、繊維Dの湿潤時の中空率は25.8%であった。一方、参考例の繊維Mは、単に膨潤するだけであって、繊維内部においては何の変化もなかった。
【0068】
[不織布の作製]
繊維A、D(実施例)、繊維K、L(比較例)、繊維M(参考例)を準備した。各繊維をそれぞれセミランダムカードで解繊して目付約100g/m2のカードウェブを作製した。次いで、ノズル孔径0.13mmのオリフィスが1mm間隔で配置されたノズルから、ウェブ表面から3MPa、5MPa、ウェブ裏面から5MPaの水圧で水流を噴射した後、自然乾燥させて、水流交絡不織布を作製した。また、繊維D50質量%と、ポリエステル繊維(東レ(株)製、商品名403D、繊度1.45dtex、繊維長38mm)50質量%を混合し、その他は上記と同様の条件で水流交絡不織布を作製した。
【0069】
得られた不織布の物性は、以下の方法で測定し、その結果を下記表2に示した。
[測定方法]
(1)目付:JIS L 1913に準じて測定した。
(2)厚み:大栄化学精機社製の不織布厚み計を使用して、1960Pa(20gf/cm2)荷重下で厚みを測定した。なお、湿潤時の厚みは、不織布質量に対して約400%の水を含浸させて測定した。
(3)比容積:次式により算出した。
比容積(cm3/g)={1960Pa[20gf/cm2]荷重時厚み(mm)/乾燥時目付(g/m2)}×1000
(4)比容積減少率:次式により算出した。
比容積減少率(%)={乾燥時不織布比容積−湿潤時不織布比容積/乾燥時不織布比容積}×100
【0070】
【表2】
【0071】
本発明の扁平レーヨン繊維を用いた不織布は、乾燥時と湿潤時における厚み及び比容積の差が小さくすなわち嵩減少が小さく、嵩高い。一方、普通レーヨン繊維を用いた不織布及び従来の扁平レーヨン繊維を用いた不織布は、湿潤時の嵩減少が大きく、嵩自体も小さいものであった。また、本発明の扁平レーヨン繊維は、ポリエステル繊維と混綿しても湿潤時の嵩高性が良好であった。
【0072】
上記繊維D(実施例)、繊維M(参考例)及び繊維L(比較例)をそれぞれ構成繊維とする水流交絡不織布の乾燥時及び湿潤時(水分率100%)における不織布強伸度を下記のように測定し、その結果を下記表3に示した。
【0073】
[不織布の強伸度]
不織布強伸度は、JIS L 1913に準じて、試料(巾50mm、長さ150mm)、把持間隔100mm、引張速度300mm/分の条件で測定した。
【0074】
【表3】
【0075】
本発明の扁平レーヨンを用いた不織布は、従来の扁平レーヨン繊維及び普通レーヨンを用いた織布に比べて、5〜20%の伸長時応力(低伸長時モジュラス)が大きい傾向にあることが確認できた。
【0076】
繊維D(実施例)、繊維L(比較例)、繊維M(参考例)の保水量及び水分保持量を下記のように測定し、その結果を下記表4に示した。
【0077】
[保水量]
(1)前処理として105℃で2時間乾燥したレーヨン繊維の試料原綿10gを秤量した。
(2)2リットルのビーカーを準備し、1リットルのイオン交換水(20〜25℃)を入れた。
(3)試料原綿10gをビーカーの液面に落とし、試料原綿が完全に沈降してから3分間放置した。
(4)10メッシュの金網(線径0.6mm、目開き1.9mm)上に乗せた内径92mmのポリエチレン製の円筒内に、ビーカー内の水及び試料原綿を移した直後に、円筒内試料原綿上に、5g/cm2の荷重下となるように水を充填して質量318gに調整した円筒形のガラス容器(外径90mm)を乗せて、1分間放置した。
(5)保水後の試料原綿の質量(W1)を測定し、下記式で保水量(g/g)を算出した。
保水量={W1−試料原綿質量(10g)}/試料原綿質量(10g)
【0078】
[水分保持量]
(1)上記保水後の試料原綿を、日立二槽式電気洗濯機PS−TB42型(日立ホーム&ライフソリューション株式会社)の脱水槽に投入し、脱水機で3分間除水を行った。
(2)除水後の試料原綿の質量(W2)を測定し、下記式により水分保持量を算出した。
水分保持量=(W2−試料原綿質量(10g))/試料原綿質量(10g)
【0079】
【表4】
【0080】
本発明の扁平レーヨン繊維は、従来の扁平レーヨン繊維及び普通レーヨンに比べて、保水量及び水分保持料が大きい傾向にあることが確認できた。
【0081】
[不織布の作製]
繊維A(実施例)、繊維K(比較例)を準備した。パラレルカード機を用いて解繊し、繊維A100質量%のカードウェブ、繊維A50質量%と繊維K50質量%の混綿カードウェブ、及び繊維K100質量%のカードウェブを作製した(目付は約120g/m2)。次いで、ノズル孔径0.13mmのオリフィスが1mm間隔で配置されたノズルから、ウェブ表面から3MPa、5MPa、ウェブ裏面から5MPaの水圧で水流を噴射して、水流交絡不織布を作製した。また、繊維D又は繊維L50質量%と、ポリエステル繊維(東レ(株)製、商品名403D、繊度1.45dtex、繊維長38mm)50質量%を混合し、その他は上記と同様にして水流交絡不織布を作製した。
【0082】
得られた不織布の剛軟度を、JIS L 1096カンチレバー法に準じて測定し、その結果を下記表5に示した。
【0083】
【表5】
【0084】
本発明の扁平レーヨン繊維を用いた不織布は、風合いが硬い(コシが高い)傾向にあり、普通レーヨン繊維50質量%混綿でも風合いが硬い(コシが高い)ことが確認できた。また、本発明の扁平レーヨン繊維にポリエステル繊維を混綿しても、普通レーヨン繊維に比べて風合いが硬い(コシが高い)傾向にあることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の扁平レーヨン繊維は、例えば、トウ、フィラメント、紡績糸、中綿(詰め綿)、紙、不織布、織編物などの繊維集合体に用いることができる。また、本発明の繊維集合体は、嵩高糸(バルキー糸)、衣料、化粧パフ,吸収体等の衛生材料、フェイスマスク、ウェットティッシュ,対人及び/又は対物ワイパー等のウェットシート、水解性シート、ドライワイパー、フィルター、加湿器用フィルターなどの繊維製品に用いることができる。
【符号の説明】
【0086】
1 扁平レーヨン繊維
2 扁平レーヨン繊維の断面
2a 外周部の凹凸形状部
2b,2c 襞(ひだ)部
3 繊維内部の空洞がつぶれて密着された部分
4 繊維側面のタテ筋
5 繊維側面に網状に形成されたセル状空洞部の隔壁部痕跡
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が扁平であるレーヨン繊維であって、
前記レーヨン繊維側面の長さ方向にはタテ筋が形成されており、前記繊維断面から観察すると外周部に襞が形成されている部分があり、
前記繊維断面内部には空洞がつぶれて密着された部分を含むことを特徴とする扁平レーヨン繊維。
【請求項2】
前記レーヨン繊維は、紡糸工程においてビスコースを含む紡糸液からの発泡により繊維内部にセル状空洞部を形成し、乾燥時に前記セル状空洞部の内壁を密着させることにより扁平化させる請求項1に記載の扁平レーヨン繊維。
【請求項3】
前記レーヨン繊維の側面には、前記セル状空洞部の隔壁部痕跡が形成されている請求項1又は2に記載の扁平レーヨン繊維。
【請求項4】
前記レーヨン繊維断面の扁平比は、長辺/短辺の倍率で2.5倍以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の扁平レーヨン繊維。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の扁平レーヨン繊維を製造する方法であって、
ビスコースを含む紡糸液をノズルから紡糸浴中に押し出し再生するレーヨン繊維の紡糸工程において、ビスコースを含む紡糸液からの発泡により繊維内部にセル状空洞部を形成し、乾燥時に前記セル状空洞部の内壁を密着させることにより扁平化させることを特徴とする扁平レーヨン繊維の製造方法。
【請求項6】
前記ビスコースを含む紡糸液は、ビスコース中のセルロースに対する炭酸ナトリウムの含有量が30〜42質量%であり、紡糸浴中の硫酸濃度が95〜130g/リットルである請求項5に記載の扁平レーヨン繊維の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の扁平レーヨン繊維を20質量%以上含有する繊維集合体。
【請求項1】
断面形状が扁平であるレーヨン繊維であって、
前記レーヨン繊維側面の長さ方向にはタテ筋が形成されており、前記繊維断面から観察すると外周部に襞が形成されている部分があり、
前記繊維断面内部には空洞がつぶれて密着された部分を含むことを特徴とする扁平レーヨン繊維。
【請求項2】
前記レーヨン繊維は、紡糸工程においてビスコースを含む紡糸液からの発泡により繊維内部にセル状空洞部を形成し、乾燥時に前記セル状空洞部の内壁を密着させることにより扁平化させる請求項1に記載の扁平レーヨン繊維。
【請求項3】
前記レーヨン繊維の側面には、前記セル状空洞部の隔壁部痕跡が形成されている請求項1又は2に記載の扁平レーヨン繊維。
【請求項4】
前記レーヨン繊維断面の扁平比は、長辺/短辺の倍率で2.5倍以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の扁平レーヨン繊維。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の扁平レーヨン繊維を製造する方法であって、
ビスコースを含む紡糸液をノズルから紡糸浴中に押し出し再生するレーヨン繊維の紡糸工程において、ビスコースを含む紡糸液からの発泡により繊維内部にセル状空洞部を形成し、乾燥時に前記セル状空洞部の内壁を密着させることにより扁平化させることを特徴とする扁平レーヨン繊維の製造方法。
【請求項6】
前記ビスコースを含む紡糸液は、ビスコース中のセルロースに対する炭酸ナトリウムの含有量が30〜42質量%であり、紡糸浴中の硫酸濃度が95〜130g/リットルである請求項5に記載の扁平レーヨン繊維の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の扁平レーヨン繊維を20質量%以上含有する繊維集合体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−57289(P2012−57289A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175166(P2011−175166)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000002923)ダイワボウホールディングス株式会社 (173)
【出願人】(591264267)ダイワボウレーヨン株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000002923)ダイワボウホールディングス株式会社 (173)
【出願人】(591264267)ダイワボウレーヨン株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
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