説明

扁平銅粒子

【課題】粒子の充填密度が高くなり、またペーストにしたときの粘度の制御が容易な扁平銅粒子を提供すること。
【解決手段】本発明の扁平銅粒子は、平面視において、略直線状の複数の辺によって画定される輪郭を有し、かつ隣り合う辺のなす角がすべて60度以上180未満である扁平体かなり、平均粒径Diaが0.05〜0.5μmであることを特徴とする。この扁平銅粒子は、第1の還元工程と、その後に行われる第2の還元工程とを含む方法によって好適に製造される。第1の還元工程においては還元剤として還元糖又はヒドラジンを用い、第2の還元工程においては還元剤として水素還元標準電位E0が−1.11〜−1.24Vである還元剤を2種以上用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扁平な形状をした銅粒子に関する。本発明の扁平銅粒子は、例えばプリント配線板の回路形成や、セラミックコンデンサの外部電極の電気的導通確保のために用いられる銅ペーストの原料として特に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品等の電極や回路を形成する方法として、導電性材料である銅粉をペーストに分散させた導電性ペーストを基板に印刷した後、該ペーストを焼成又はキュアリングし硬化させて回路を形成する方法が知られている。
【0003】
この導電性ペーストに含まれる銅粒子としては、これまで略球形の形状をしたものが用いられてきた。近年では、プリント配線板のビアホールの穴埋め性の向上や、形成する導体の形状の精度の向上の点から、フレーク状の粒子も用いられている。フレーク銅粒子は比表面積が大きく、粒子どうしの接触面積が大きくなるので、電気抵抗を減少させ、導体形状の精度を上げるのに有効である。
【0004】
従来、フレーク状の銅粒子は、例えば球形の銅粒子をボールミル等で機械的に変形させて製造していた(例えば特許文献1参照)。また、このような機械的な方法に代えて、化学的にフレーク状の銅粒子を製造する方法も提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−119501号公報
【特許文献2】特開2005−314755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の機械的な方法でフレーク状の銅粒子を製造した場合、得られる粒子の大きさを一定に揃えることは容易でなく、また粒径の小さな粒子を製造することには限界があった。また、製造に長時間を有し、また歩留りも下がるので、製造経費を抑えることが容易でなかった。一方、特許文献2に記載の化学的な方法によれば、特許文献1に記載の技術よりも高い歩留りで、粒径の小さなフレーク状の粒子を製造することができる。しかし、反応によって生成する粒子の形状や大きさを精密にコントロールするのには限界があった。
【0007】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術の銅粒子よりも各種の特性が一層向上した扁平銅粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、平面視において、略直線状の複数の辺によって画定される輪郭を有し、かつ隣り合う辺のなす角がすべて60度以上180未満である扁平体からなり、
平均粒径Diaが0.05〜0.5μmであることを特徴とする扁平銅粒子を提供することで前記の課題を解決したものである。
【0009】
また本発明は、前記の扁平銅粒子の好適な製造方法として、
水溶性銅化合物を含む水溶液に還元剤を添加して銅の還元を行う還元工程を有する扁平銅粒子を製造する方法において、
還元工程が第1の還元工程と、その後に行われる第2の還元工程とを含み、
第1の還元工程において還元剤として還元糖又はヒドラジンを用い、
第2の還元工程において還元剤として、水素還元標準電位E0が−1.11〜−1.24Vである還元剤を2種以上用いることを特徴とする扁平銅粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の扁平銅粒子は、粒子の分散性及びアスペクト比の均一性に優れ、充填密度が高くなる。また、ペーストにしたときに粘度の制御が容易になる。また、該ペーストを用いて形成された導体は、その表面粗さが従来のものよりも低くなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施例1で得られた扁平銅粒子の走査型電子顕微鏡像である。
【図2】図2は、実施例2で得られた扁平銅粒子の走査型電子顕微鏡像である。
【図3】図3は、実施例3で得られた扁平銅粒子の走査型電子顕微鏡像である。
【図4】図4は、実施例4で得られた扁平銅粒子の走査型電子顕微鏡像である。
【図5】図5は、比較例1で得られた銅粒子の走査型電子顕微鏡像である。
【図6】図6は、比較例2で得られた銅粒子の走査型電子顕微鏡像である。
【図7】図7は、比較例3で得られた銅粒子の走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の銅粒子は、その形状が扁平であることによって特徴付けられる。具体的には、対向する略平坦な2つの面を有し、該面の大きさ(横断長さ)が厚みに比べて大きくなっている板状の形状をしている。銅粒子を平面視した場合、この板状の形状は、略直線状の複数の辺によって画定される輪郭を有する形状になっている。例えば多角形の輪郭を有する形状になっている。
【0013】
扁平銅粒子の板面を平面視した場合、該板面を画定する辺のうち、隣り合う二辺のなす角は60度以上180度未満になっており、好ましくは80度以上160度以下、更に好ましくは100度以上120度以下になっている。本発明の扁平銅粒子は、その板面を画定する辺における隣り合う二辺がなすすべての角部においてこの角度を満たしている。尤も、すべての角部が同じ角度であることは要しない。扁平銅粒子がこのような形状を有していることで、該粒子からなる銅粉は形状の揃ったものとなり、粒子の充填密度が高くなる。またペーストにしたときの粘度の制御が容易になる。なお「平面視」とは、本発明の扁平銅粒子をその板面と直交する方向からみたときの状態のことである。
【0014】
粒子の充填密度を一層高める観点から、本発明の扁平銅粒子は、その板面が三角形以上、特に六角形以上の多角形の形状をしていることが好ましい。この場合、該多角形は正多角形であることを要しないが、形状が正多角形に近づくほど好ましい。
【0015】
本発明の銅粒子は、扁平であるにもかかわらずその大きさが小さいこと、つまり微粒であることによっても特徴付けられる。具体的には、扁平銅粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、画像解析して算出された板面の平均粒径Diaが0.05〜0.5μmという微粒のものであり、好ましくは0.1〜0.45μm、更に好ましくは0.15〜0.4μmである。本発明の銅粒子がこのような微粒のものであることによって、該粒子が扁平なものであることとの相乗効果で、粒子の充填密度が一層高くなる。
【0016】
前記の画像解析による平均粒径Diaは、SEMを用い5000倍〜20000倍に拡大して直接観察して得られるSEM像に基づき、個々の銅粒子(測定サンプル数は10個以上)の最大横断長を実測し、測定サンプル数で平均することで求められる。
【0017】
本発明の扁平銅粒子における板面の平均粒径が前記の範囲であるのに対して、該粒子の厚み、すなわち2つの対向する板面間の距離は、板面の平均粒径よりも小さくなっている。具体的には、好ましくは0.01〜0.1μm、更に好ましくは0.02〜0.08μmになっている。したがって、粒径/厚みで定義されるアスペクト比は、好ましくは2〜25、更に好ましくは5〜10になっている。扁平銅粒子の厚みは、SEMによる直接観察で測定される実測値を平均して(測定サンプル数10個以上)求められる。
【0018】
本発明の扁平銅粒子は、好ましくは後述する方法によって製造され、該方法によって製造された扁平銅粒子は粒度分布がシャープなものになる。粒度分布の尺度としては例えばSD/D50の値を用いることができる。ここで、SDは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法で得られた粒度分布の標準偏差(μm)であり、D50はレーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径(μm)である。本発明の扁平銅粒子は、このSD/D50の値が、好ましくは0.4以下、更に好ましくは0.38以下、一層好ましくは0.35以下になっている。粒度分布がこのようなシャープなものであることによって、本発明の扁平銅粒子は、粒子の充填密度が一層高くなる。
【0019】
なお、前記の粒度分布の式であるSD/D50における分母のD50の値そのものは、0.1〜0.4μm、特に0.25〜0.35μmであることが好ましい。D50は、本発明の扁平銅粒子の凝集粒径の代表値であり、この値が先に述べた平均粒径Diaに近づくほど、該粒子の凝集の程度が低いことを意味する。本発明の扁平銅粒子の平均粒径Diaは、上述のとおり0.05〜0.3μmなので、この値とD50の値である0.1〜0.4との比較から明らかなように、本発明の扁平銅粒子は凝集の程度が小さいと言える。このことによっても本発明の扁平銅粒子は特徴付けられる。
【0020】
本発明の扁平銅粒子の粒度分布がシャープであることは、該粒子のアスペクト比の分布もシャープであることを意味する。アスペクト比が粒径/厚みで定義されることは上述のとおりであるところ、粒径の変動に比べて厚みの変動の幅は小さいので、粒度分布がシャープであれば、結果としてアスペクト比の分布もシャープになる。具体的には、アスペクト比の分布は、標準偏差σで表して、好ましくは4以下、更に好ましくは2以下になっている。アスペクト比の分布がシャープであることは、本発明の扁平銅粒子を用いてペーストを製造した場合、該ペーストの粘度の制御が容易になるという点から有利である。また該ペーストを用いて形成された導体の表面粗さが一層低くなるという点でも有利である。
【0021】
本発明の扁平銅粒子が後述する方法によって製造される場合、該粒子はその結晶子径が、機械的に製造された扁平銅粒子に比べて大きくなる。結晶子径が大きいことは、耐焼結性が向上する観点から有利である。具体的には、本発明の扁平銅粒子を用いてペーストを製造し、該ペーストを用いて導体を形成する場合、その導体を焼結する工程が行われる。耐焼結性が低い銅粒子を用いると、該粒子の熱収縮に起因して導体の寸法安定性が損なわれやすいが、耐焼結性の高い本発明の扁平銅粒子を用いることで、焼結に起因する寸法安定性の変化を抑制することが可能になる。この観点から、本発明の扁平銅粒子における結晶子径は、20nm以上であることが好ましく、25nm以上であることが更に好ましい。扁平銅粒子の結晶子径は、例えば該粒子のX線回折によって測定される回折角のピークの半価幅から求めることができる。
【0022】
本発明の扁平銅粒子は、銅のみから構成されていてもよく、あるいは銅及びそれ以外の元素を少量含んでいてもよい。他の元素を含有させることで、扁平銅粒子の各種の特性を向上させることができる。例えばホウ素を好ましくは1〜50ppm、更に好ましくは10〜40ppm含有させることで、耐酸化性が向上するという有利な効果が奏される。更に、粒子サイズを均一化することができ、また微粒化することもできる。微粒化できることは、本発明の扁平銅粒子を用いて調製されたペーストの粘度制御のしやすさの点から有利である。なおppmは、重量基準の百万分率のことである。
【0023】
ホウ素に加えて、又はホウ素に代えて、本発明の扁平銅粒子はリンを含有していてもよい。リンを含有させることで、扁平銅粒子の耐酸化性を向上させることができる。尤も、多量のリンを含有させることは銅粒子の電気伝導性の低下の一因となることから、本発明の扁平銅粒子におけるリンの含有量は、10〜200ppm、特に50〜180ppmであることが好ましい。
【0024】
本発明の扁平銅粒子にホウ素やリンを含有させるためには、例えば後述する製造方法において、リン含有の化合物を添加したり、銅イオンの還元剤としてホウ素含有の還元剤を用いたりすればよい。また本発明の扁平銅粒子におけるホウ素やリンの含有量は、例えばICP発光分析装置によって測定することができる。
【0025】
耐酸化性を一層向上させる観点から、本発明の扁平銅粒子は、その表面が有機化合物によって処理されていてもよい。例えば、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物又はシランカップリング剤等で扁平銅粒子の表面を処理することで、該粒子の耐酸化性が一層向上する。これら各種の有機化合物の詳細については、例えば本出願人の先の出願に係る特開2005−314755号公報に記載されている。
【0026】
次に、本発明の扁平銅粒子の好適な製造方法について説明する。本製造方法では、水溶性銅化合物を含む水溶液に還元剤を添加して銅の還元を行うという化学的方法で扁平銅粒子を得る。先に述べた特許文献1に記載されているような機械的な方法は、本製造方法では採用していない。本製造方法では、還元工程を2段階で行う。すなわち、還元工程が、第1の還元工程と、その後に行われる第2の還元工程とを含んでいる。
【0027】
本製造方法においては、先ず水溶性銅化合物を含む水溶液(以下「銅含有水溶液」とも言う。)を調製する。水溶性銅化合物としては、例えば硫酸銅、硝酸銅、酢酸銅又はこれらの水和物等を用いることができる。これらの銅化合物のうち、硫酸銅五水和物及び硝酸銅は、水溶性が高く、水溶液中での銅濃度を高くすることができ、また粒度の均一性の高い扁平銅粒子が得られやすいので好適に用いられる。
【0028】
銅含有水溶液は、水100重量部に対して銅化合物を好ましくは10重量部〜50重量部、更に好ましくは20重量部〜40重量部含む。この範囲の割合で銅化合物が含まれていることで、粒径の均一性の高い扁平銅粒子が得られやすくなる。
【0029】
銅含有水溶液には銅(II)イオンの錯化剤が含まれていることが好ましい。水溶液中に錯化剤が共存することで、銅(II)イオンを首尾良く還元することができる。錯化剤としては例えば、アミノ酸、酒石酸等を用いることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。アミノ酸としては例えば、アミノ酢酸、アラニン、グルタミン酸等を用いることができる。これらのアミノ酸のうちアミノ酢酸を用いると、粒径の均一性の高い扁平銅粒子が得られやすいので好ましい。
【0030】
銅含有水溶液は、これに含まれる銅1モルに対して錯化剤を好ましくは0.005モル〜10モル、更に好ましくは0.01モル〜5モル含む。この範囲の割合で錯化剤が含まれていることで、微粒でかつ結晶子径の大きな扁平銅粒子を得ることができるので好ましい。また、扁平銅粒子のアスペクト比も大きくなるので好ましい。
【0031】
銅含有水溶液は、水に銅化合物及び必要に応じ錯化剤を溶解することにより調製される。銅化合物及び錯化剤の水への溶解方法及び溶解順序に特に制限はない。銅化合物及び錯化剤の溶解方法としては例えば、水を攪拌した状態にしておき、これに銅化合物及び錯化剤を添加して攪拌する方法が挙げられる。銅含有水溶液の調製の際の液温は、均一な粒径の扁平銅粒子を得る観点から、好ましくは50℃〜90℃、更に好ましくは60℃〜80℃である。
【0032】
このようにして得られた銅含有水溶液に塩基性化合物を添加して酸化第二銅(CuO)を生成させる。このために用いられる塩基性化合物としては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物及びアンモニアが挙げられる。生成した酸化第二銅は微小な固体状粒子の状態で液中に懸濁している。
【0033】
銅含有水溶液への塩基性化合物の添加方法としては例えば、銅含有水溶液を攪拌した状態にしておき、これに塩基性化合物の水溶液を添加して攪拌する方法が挙げられる。このときの液温は好ましくは50℃〜90℃、更に好ましくは60℃〜80℃とすることができる。液温がこの範囲内にあると、一次粒子の凝集が少ない粒径の均一性の高い扁平銅粒子が得られやすいので好ましい。
【0034】
塩基性化合物の銅含有水溶液への添加量は、銅化合物1当量に対する塩基性化合物の量が、好ましくは1.05当量〜1.5当量、更に好ましくは1.1当量〜1.3当量となるような量とする。塩基性化合物の添加量をこの範囲内にすることで、粒径の均一性の高い扁平銅粒子が得られやすいので好ましい。銅化合物及び塩基性化合物の当量とは、それぞれ酸としての当量及び塩基としての当量をいう。
【0035】
銅含有水溶液への塩基性化合物の添加によって酸化第二銅が生成した後も液の攪拌を継続させて熟成を行うことが好ましい。熟成は10分〜60分、特に20分〜40分行うことが好ましい。熟成によって酸化第二銅が十分に生成し、それによって粒度の均一性の高い扁平銅粒子が得られやすいので好ましい。
【0036】
このようにして酸化第二銅が生成したら、次に第1の還元工程を行う。本還元工程においては、液を攪拌しながら還元剤を添加することで、液中に含まれている酸化第二銅を酸化第一銅(Cu2O)に還元する。したがって、本還元工程において用いられる還元剤は、酸化第二銅を酸化第一銅に還元する作用を有するものである。この還元剤としては、例えば、還元糖及びヒドラジン等を用いることができる。還元剤は、単独で又は2種を以上組み合わせて用いることができる。還元糖としては例えば、グルコース、フルクトース、ラクトース等を用いることができる。これらの還元糖のうち、グルコースは還元反応を制御しやすいので好ましく用いられる。
【0037】
本還元工程においては、液中に含まれる銅1モルに対して還元剤を好ましくは0.1モル〜3モル、更に好ましくは0.3モル〜1.5モル添加する。還元剤の添加量がこの範囲内であると、酸化第二銅の酸化第一銅への還元反応が十分に行われ、その結果、目的とする扁平銅粒子はその一次粒子の凝集が起こりにくくなるので好ましい。
【0038】
本還元工程によって酸化第二銅が酸化第一銅へ還元した後も、液の攪拌を継続させて熟成を行うことが好ましい。熟成は10分〜60分、特に20分〜40分行うことが好ましい。熟成によって酸化第一銅が十分に生成し、目的とする扁平銅粒子はその一次粒子の凝集が起こりにくくなるので好ましい。
【0039】
第1の還元工程が完了したら、引き続き第2の還元工程を行う。本還元工程においては、液を攪拌しながら還元剤を添加することで、液中に含まれている酸化第一銅を銅に還元する。したがって、本還元工程において用いられる還元剤は、酸化第一銅を銅に還元する作用を有するものである。この還元剤として、本発明においては2種以上の還元剤を組み合わせて用いる。この還元剤としては、水素還元標準電位E0が−1.11〜−1.24Vであるものを用いる。このような還元剤を2種以上組み合わせて用いることで、酸化第一銅を適切な速度で還元することができ、目的とする扁平銅粒子、特に六角形の扁平銅粒子を首尾良く得ることができることが、本発明者らの検討の結果判明した。用いることのできる還元剤としては、例えばヒドラジン(−1.11V);水素化ホウ素ナトリウム(−1.24V)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(−1.24V)、水素化トリエチルホウ素リチウム(−1.24V)、水素化ホウ素リチウム(−1.24V)、水素化ホウ素亜鉛(−1.24V)、水素化トリアセトキシホウ素ナトリウム(−1.24V)等の金属水素化物;ジメチルアミンボランやジエチルアミンボラン等のアミンボラン;などが挙げられる。括弧内の数値は水素還元標準電位E0である。これらの還元剤のうち、ヒドラジンとその他の還元剤の組み合わせを用いることが好ましく、ヒドラジンと水素化ホウ素化合物との組み合わせ、又はヒドラジンとアミンボランとの組み合わせを用いることが更に好ましい。
【0040】
第2の還元工程において用いる2種以上の還元剤のうちの1種としてヒドラジンを用いる場合、ヒドラジンは、液中に含まれる銅1モルに対して好ましくは1モル〜10モル、更に好ましくは3モル〜7モル添加する。ヒドラジン以外の還元剤に関しては、液中に含まれる銅1モルに対して、該還元剤の合計量で表して、好ましくは0.01モル〜1.1モル、更に好ましくは0.03モル〜1.0モル添加する。ヒドラジンとヒドラジン以外の1種又は2種以上の還元剤との添加の比率は、モル数で表して、ヒドラジン/ヒドラジン以外の還元剤の合計量=好ましくは1〜1000、更に好ましくは100〜700とする。これらの還元剤の使用量をこの範囲内に設定することで、目的とする扁平銅粒子、特に六角形の扁平銅粒子を一層首尾良く得ることができる。
【0041】
本還元工程においては、ヒドラジンとヒドラジン以外の還元剤とを同時に液中に添加することが好ましい。また、ヒドラジン及びヒドラジン以外の還元剤は液中に一括添加してもよく、あるいは逐次添加してもよい。目的とする扁平銅粒子を一層首尾良く得る観点からは、一括添加を行うことが好ましい。いずれの添加方法であっても、液温は50℃〜90℃、特に60℃〜80℃に設定することが好ましい。液温が該範囲内にあると、一次粒子の凝集が少ない粒径の均一性の高い扁平銅粒子が得られやすいので好ましい。
【0042】
本還元工程によって酸化第一銅が銅へ還元した後も、液の攪拌を継続させて熟成を行うことが好ましい。熟成は20分〜120分、特に40分〜90分行うことが好ましい。熟成によって還元が十分に進行し、目的とする扁平銅粒子はその一次粒子の凝集が起こりにくくなるので好ましい。
【0043】
第2の還元工程において、還元剤として水素化ホウ素化合物を用いる場合には、それに起因して、還元で生成する扁平銅粒子中にはホウ素が微量含まれることになる。このホウ素の作用によって、本発明の扁平銅粒子は、先に述べたとおり、耐熱性が向上するという有利な効果を奏する。更に、その粒子サイズが均一化され、また微粒化されるという有利な効果を奏する。
【0044】
生成した扁平銅粒子は、ヌッチェ等を用いた濾過によって液から分離される。次いで純水での洗浄を1回又は複数回行う。その後、必要に応じ、オレイン酸等の有機化合物を含むメタノール溶液等で洗浄することで表面処理を行う。
【0045】
以上の製造方法においては、いずれかの工程においてリン化合物を添加して、目的とする扁平銅粒子がリンを含有するようにしてもよい。扁平銅粒子がリンを含有することによって、該粒子の耐酸化性が向上し、また銅の結晶子径を大きくすることが容易になる。リン化合物の添加の時期としては、例えば(i)銅含有水溶液に塩基性化合物を添加する前、(ii)銅含有水溶液に塩基性化合物を添加するのと同時又はその後であって、かつ第1の還元工程の前、(iii)第1の還元工程において還元剤を添加するのと同時又はその後であって、かつ第2の還元工程の前、(iv)第2の還元工程において還元剤を添加するのと同時又はその後、のいずれか1つの時期又は2つ以上の時期が挙げられる。特に(i)の時期にリン化合物を添加すると、目的とする扁平銅粒子、特に六角形の扁平銅粒子を一層首尾良く得ることができるので好ましい。
【0046】
リン化合物としては、水の存在下で、オルトリン酸イオン、ピロリン酸イオン、メタリン酸イオン等のリン酸イオンの生成が可能な化合物を用いることが好ましい。そのようなリン化合物として例えば、リン酸、ピロリン酸等のポリリン酸、トリメタリン酸等のメタリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム等のポリリン酸塩、トリメタリン酸ナトリウム、トリメタリン酸カリウム等のメタリン酸塩等が挙げられる。これらのリン化合物のうち、リン酸三ナトリウムを用いると、角の鋭い扁平銅粒子、特に角の鋭い六角形の扁平銅粒子を首尾良く得ることができる。
【0047】
本製造方法において添加されるリン化合物の合計量は、P(リン)に換算した量で表して、銅1モルに対し好ましくは0.001モル〜3モル、更に好ましくは0.01モル〜1モルである。リン化合物の添加量がこの範囲内であると、目的とする扁平銅粒子の電気伝導性を損なわずに、その耐酸化性が高くなりやすく、かつ銅の結晶子径を大きくしやすいので好ましい。
【0048】
以上の方法によって目的とする扁平銅粒子が得られる。このようにして得られた扁平銅粒子は例えば導電性ペーストの原料として好適に用いられる。この導電性ペーストは、本発明の扁平銅粒子と樹脂とを含むものである。この樹脂としては例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等が挙げられる。この導電性ペーストにおける銅粒子としては、本発明の扁平銅粒子のみを用いてもよく、あるいは該扁平銅粒子と球形等の他の形状の銅粒子とを組み合わせて用いてもよい。本発明の扁平銅粒子と球他の形状の銅粒子とを組み合わせて用いることで、ペーストの粘度調整を精密に行うことが容易になる。
【0049】
このようにして得られた導電性ペーストは、例えば、プリント配線板の回路形成、セラミックコンデンサの外部電極等の電気的導通確保、EMI対策のために好適に使用される。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「重量%」を意味する。
【0051】
〔実施例1〕
70℃の純水6リットルに、硫酸銅五水和物4kg、アミノ酢酸120g、リン酸三ナトリウム50gを添加して攪拌を行った。これに更に純水を注いで液量を8Lに調整し、このまま30分攪拌を続け、銅含有水溶液を得た。次に、この水溶液を攪拌した状態で、該水溶液に25%の水酸化ナトリウム溶液5.8kgを添加して液中に酸化第二銅を生成させた。引き続き30分攪拌した後、グルコース1.5kgを添加して第1の還元反応を行い、酸化第二銅を酸化第一銅に還元させた。引き続き30分攪拌した後、液を攪拌した状態でヒドラジン一水和物1kg及び水素化ホウ素ナトリウム3gを一括添加して第2の還元反応を行い、酸化第一銅を銅に還元させた。引き続き1時間攪拌を行って反応を終了させた。反応終了後、得られたスラリーを、ヌッチェを用いて濾過し、次いで純水及びメタノールで洗浄し、更に乾燥して目的とする扁平銅粒子を得た。この銅粒子のSEM像を図1に示す。同図から明らかなように、得られた銅粒子は、各辺が略直線の六角板状をしていることが確認された。
【0052】
〔実施例2〜4〕
以下の表1に示す条件で製造を行う以外は実施例1と同様にして銅粒子を得た。得られた銅粒子のSEM像を、図2(実施例2)、図3(実施例3)、図4(実施例4)に示す。
【0053】
〔比較例1〕
70℃の純水6Lに、硫酸銅五水和物4kg、アミノ酢酸120g、リン酸三ナトリウム50gを添加して攪拌を行った。これに更に純水を注いで液量を8Lに調整し、このまま30分攪拌を続け、銅含有水溶液を得た。次に、この水溶液を攪拌した状態で、該水溶液に25%の水酸化ナトリウム溶液5.8kgを添加して液中に酸化第二銅を生成させた。引き続き30分攪拌した後、グルコース1.5kgを添加して第1の還元反応を行い、酸化第二銅を酸化第一銅に還元させた。引き続き30分攪拌した後、液を攪拌した状態でヒドラジン一水和物を一括添加し、1時間攪拌を続けて反応を終了させた。反応終了後、得られたスラリーを、ヌッチェを用いて濾過し、次いで純水及びメタノールで洗浄し、更に乾燥して目的とする銅粒子を得た。得られた銅粒子のSEM像を、図5に示す。
【0054】
〔比較例2〕
本比較例では、機械的な処理によって扁平銅粒子を製造した。すなわち、平均粒径5μmの球形銅粒子(三井金属鉱業株式会社製)を用い、これを遊星ボールミルで72時間粉砕して扁平銅粒子を得た。メディアとして、直径1mmのステンレス製ビーズを用いた。溶媒にエタノールを用いて180分間粉砕を行った。得られた銅粒子のSEM像を、図6に示す。
【0055】
〔比較例3〕
本比較例では、一般的な製造方法に従い球形の銅粒子を製造した。すなわち硫酸銅五水和物4kg及びアミノ酢酸120gを水に溶解し、8リットルの銅塩の水溶液を得た。これに25%の苛性ソーダを5分かけて5リットル添加し、酸化第二銅スラリーを得た。この液に、グルコース1.5kgを添加して酸化第一銅を得た。更に、水和ヒドラジン1kgを5分かけて添加し、該銅粒子を得た。得られた銅粒子のSEM像を、図7に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた銅粒子について、平均粒径Dia、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒径D50、アスペクト比を上述の方法で測定した。また、SD/D50及びアスペクト比の分布を上述の方法で測定した。また、銅粒子の結晶子径を上述の方法で測定した。更に、銅粒子に含まれるホウ素及びリンの量を上述の方法で測定した。更に、チキソ比及び酸化開始温度を以下の方法で測定した。これらの結果を以下の表2に示す。
【0058】
〔チキソ比〕
E型粘度計(東機産業株式会社製)を用い、1回転/10回転での粘度の比率を求め、これをチキソ比とした。チキソ比は、その値が大きいほど粘性が高いことを示す。
【0059】
〔酸化開始温度〕
熱分析装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製)を用いて熱重量測定(TG)を行い、重量の変化温度を酸化開始温度とした。
【0060】
【表2】

【0061】
表2及び図1〜図7に示す結果から明らかなように、各実施例で得られた銅粒子は六角板状の微粒のものであることが判る。また、結晶子径が大きいことが判る。第2の還元工程で特定の還元剤の組み合わせを用いなかった比較例1の銅粒子は、輪郭が丸みを帯びたものになった。一般的な製法で得られた比較例3の銅粒子は球状であり、図7に示すように、隣り合う辺のなす角がすべて60度以上180未満になっていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視において、略直線状の複数の辺によって画定される輪郭を有し、かつ隣り合う辺のなす角がすべて60度以上180未満である扁平体からなり、
平均粒径Diaが0.05〜0.5μmであることを特徴とする扁平銅粒子。
【請求項2】
平面視において六角形の輪郭を有する請求項1記載の扁平銅粒子。
【請求項3】
ホウ素を1〜50ppm含む請求項1又は2記載の扁平銅粒子。
【請求項4】
リンを10〜200ppm含む請求項1ないし3のいずれかに記載の扁平銅粒子。
【請求項5】
アスペクト比(粒径/厚み)が2〜25である請求項1ないし4のいずれかに記載の扁平銅粒子。
【請求項6】
水溶性銅化合物を含む水溶液に還元剤を添加して銅の還元を行う還元工程を有する扁平銅粒子を製造する方法において、
還元工程が第1の還元工程と、その後に行われる第2の還元工程とを含み、
第1の還元工程において還元剤として還元糖又はヒドラジンを用い、
第2の還元工程において還元剤として、水素還元標準電位E0が−1.11〜−1.24Vである還元剤を2種以上用いることを特徴とする扁平銅粒子の製造方法。
【請求項7】
水溶性銅化合物を含む水溶液に塩基性化合物を添加して酸化第二銅を生成させ、次いで
生成した酸化第二銅を第1の還元工程において酸化第一銅に還元させ、
酸化第一銅を第2の還元工程において銅に還元する請求項6記載の扁平銅粒子の製造方法。
【請求項8】
第2の還元工程で用いる還元剤が、ヒドラジンとヒドラジン以外の還元剤の1種又は2種以上であり、これらすべての還元剤を一括添加する請求項6又は7記載の扁平銅粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−41592(P2012−41592A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182494(P2010−182494)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】