手動式移動棚の駆動装置
【課題】操作ハンドルの回転力を駆動輪に伝達する回転力伝達機構において、操作ハンドルの回転角度に応じて周期的に減速比を変化させ、重量のある移動棚を移動させる際の負荷を低減させ、使用者が軽く操作できる手動式移動棚の駆動装置を提供する。
【解決手段】移動棚1の下端で各レール2に対応した位置に、駆動輪と単又は複数の従動輪を設け、移動棚の前面中段に設けた操作ハンドル6の回転力を駆動輪に伝達する回転力伝達機構7を備え、該回転力伝達機構は大小のスプロケット又は歯付きプーリからなる一対の回転体8,9と、両回転体に巻回するチェーン又はタイミングベルトからなる無端索体10とからなり、操作ハンドルで回転駆動する小径の回転体8を非円形とするとともに、無端索体の弛みを防止するための弛み防止手段11を備えてなる。
【解決手段】移動棚1の下端で各レール2に対応した位置に、駆動輪と単又は複数の従動輪を設け、移動棚の前面中段に設けた操作ハンドル6の回転力を駆動輪に伝達する回転力伝達機構7を備え、該回転力伝達機構は大小のスプロケット又は歯付きプーリからなる一対の回転体8,9と、両回転体に巻回するチェーン又はタイミングベルトからなる無端索体10とからなり、操作ハンドルで回転駆動する小径の回転体8を非円形とするとともに、無端索体の弛みを防止するための弛み防止手段11を備えてなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手動式移動棚の駆動装置に係わり、更に詳しくは操作ハンドルを回転させて横方向へ移動させた移動棚と隣接する移動棚間に通路を形成する方式の手動式移動棚の駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から手動によって回転駆動される車輪を有する複数台の移動棚を、それらの出入面に対して直交する方向に敷設したレールに沿って移動可能に配置し、移動棚の移動でそれらの間に所定幅の通路が形成される手動式移動棚装置は各種提供されている。そして、各移動棚の正面に設けた操作ハンドルを使用者が操作し、操作ハンドルの回転力を駆動伝達系を介して車輪を回転駆動して所定の移動棚間又は側端部に配置した固定棚と移動棚間に通路を形成し、その通路内に使用者が入って該通路に面した出入面から書籍やファイル等の物品を出し入れするのである。
【0003】
そして、特許文献1には、移動棚の台車において、車輪の回転軸と手動にて回転させる動力軸とを減速機構にて連係させ、前記動力軸の前端部に大径のスプロケットを固定するとともに、移動棚の前面パネル中段に設けた操作ハンドルの駆動軸に小径のスプロケットを連係し、この両スプロケットにチェーンを巻回し、操作ハンドルを回転させることにより、該回転と同方向に車輪を回転させて移動させる構造となっている。このように、操作ハンドルから車輪まで回転力を伝達する際に、何段階かの減速機構で操作ハンドルを軽く回転させることができるようにしているが、移動棚に書籍や部品等の重量物を収納している場合には操作ハンドルの回転が重くなる。特に、移動棚の動きは始めには比較的大きな力を必要とする。従来のスプロケットとチェーンからなる回転力伝達機構は、操作ハンドルに常に一定の負荷をかけるようになっているが、使用者が操作ハンドルを回転させる際には回転角度に応じて力を入れ易い場合と、入れ難い場合が周期的に生じる。
【0004】
ここで、前記操作ハンドルの駆動軸に小径のスプロケットを固定すると、車輪の回転力が直に操作ハンドルに伝達するので、移動棚が慣性移動中、若しくは地震等で移動棚が移動すると、操作ハンドルが回転して使用者の手に反動が伝わり、また予期せず身体に衝突するといったことが生じる。そこで、従来から、特許文献2に開示されるように、操作ハンドルとスプロケットの間にはクラッチ機構によって連係させ、車輪を起点とする回転力が操作ハンドルに伝達しないようにしている。具体的には、前記クラッチ機構は、スプロケットを固定したカム車と、操作ハンドルを固定した爪取付円盤とを同軸にそれぞれ独立回転可能に取付け、前記カム車の円筒部の内周面に90°間隔で係合部を突設し、前記操作ハンドルを自重で垂下させた状態において、前記爪取付円盤の上部両側に左右対称となしてそれぞれ爪の一端を枢着するとともに、両爪を前記カム車の円筒部内に位置させた構造である。そして、前記操作ハンドルを回転させることにより、垂れ下がった一方の前記爪が回転方向直近の係合部に係合してカム車を回転駆動し、即ちスプロケットを回転駆動するのである。それから、操作ハンドルに回転力を加えている間は、前記爪と係合部の係合が維持されて回転力がスプロケットに伝達される。また、任意の回転位置で操作ハンドルから手を離せば、前記爪と係合部の係合が解除されて該操作ハンドルの自重により該操作ハンドルが垂下した初期状態に復帰する。
【特許文献1】特開2002−101973号公報
【特許文献2】実開昭56−150444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
操作ハンドルを回転させて重量のある移動棚を手動で移動させる場合、理想的には回転力伝達機構において、移動棚の動き始めの負荷が最大のときに、負荷を軽減させるように減速比を最大にし、また操作ハンドルの力を入れ難い回転角度のときにも減速比を大きくし、そして力が入れ易い回転角度のときや、慣性力で移動棚が移動しているときに、減速比を小さくするように調整できることが好ましい。しかし、機械的な回転力伝達機構では、全ての場合に理想的な減速比に設定することは不可能である。また、使用者の体格の違いでも操作ハンドルにおける力の入れ易い、力の入れ難い回転角度は異なるのである。
【0006】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、操作ハンドルの回転力を駆動輪に伝達する回転力伝達機構において、操作ハンドルの回転角度に応じて周期的に減速比を変化させ、重量のある移動棚を移動させる際の負荷を低減させ、使用者が軽く操作できる手動式移動棚の駆動装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前述の課題解決のために、複数のレールに沿って複数の移動棚が互いに移動可能に配置され、隣接する移動棚が相対的に移動することによって、それらの間に所定幅の通路が形成される手動式移動棚装置であって、移動棚の下端で各レールに対応した位置に、駆動輪と単又は複数の従動輪を設け、移動棚に設けた操作ハンドルの回転力を前記駆動輪に伝達する回転力伝達機構を備え、該回転力伝達機構は大小のスプロケット又は歯付きプーリからなる一対の回転体と、両回転体に巻回するチェーン又はタイミングベルトからなる無端索体とからなり、前記操作ハンドルで回転駆動する小径の回転体を非円形とするとともに、前記無端索体の弛みを防止するための弛み防止手段を備えてなる手動式移動棚の駆動装置を構成した。
【0008】
そして、前記操作ハンドルの軸部と小径回転体との間に双方向クラッチ機構を介装し、該操作ハンドルに何れかの方向に回転力を加えているときにのみ、該双方向クラッチ機構が連係して該操作ハンドルの回転力を小径回転体に伝達するようにした(請求項2)。
【0009】
ここで、前記小径回転体は、外形が回転方向に180°周期の非円形であり、前記双方向クラッチ機構も前記操作ハンドルと小径回転体との連係状態が回転方向に180°周期で実現し、前記操作ハンドルと小径回転体との連係状態で該小径回転体の外形における操作ハンドルに対する位置関係が常に一定であることが好ましい(請求項3)。
【0010】
また、前記小径回転体の外形が、長径と短径を有する楕円形であることがより好ましい(請求項4)。
【0011】
更に、前記操作ハンドルと小径回転体との連係状態で、該操作ハンドルの向きに対して前記小径回転体の短径のなす角度αが±45°以内であるとより好ましい(請求項5)。
【発明の効果】
【0012】
以上にしてなる請求項1に係る発明の手動式移動棚の駆動装置は、移動棚に設けた操作ハンドルの回転力を、移動棚の下端に設けた駆動輪に伝達する回転力伝達機構として、大小のスプロケット又は歯付きプーリからなる一対の回転体と、両回転体に巻回するチェーン又はタイミングベルトからなる無端索体とからなり、前記操作ハンドルで回転駆動する小径の回転体を非円形とするとともに、前記無端索体の弛みを防止するための弛み防止手段を備えてなる構成を採用したことにより、操作ハンドルの回転角度に応じて周期的に減速比が変化するようにできるので、操作ハンドルで回転駆動する小径の回転体と該操作ハンドルとの連係時における相対的回転角度を最適に設定することにより、重量のある移動棚を移動させる際の負荷を低減させ、使用者が軽く操作できるようになるのである。また、小径の回転体を非円形とした場合でも、弛み防止手段にて無端索体の弛みを防止するので、回転体と無端索体との間で歯飛びを防止できる。
【0013】
請求項2によれば、前記操作ハンドルの軸部と小径回転体との間に双方向クラッチ機構を介装し、該操作ハンドルに何れかの方向に回転力を加えているときにのみ、該双方向クラッチ機構が連係して該操作ハンドルの回転力を小径回転体に伝達するようにしたので、移動棚が慣性移動中、若しくは地震等で移動棚が移動する際に、車輪を起点とする回転力が操作ハンドルに伝達しないので、不意に操作ハンドルが回転することがないのである。
【0014】
請求項3によれば、小径回転体の外形と、双方向クラッチ機構における操作ハンドルと小径回転体との連係状態とが、共に回転方向に180°周期を有していることから、操作ハンドルと小径回転体との連係状態で該小径回転体の外形における操作ハンドルに対する位置関係を常に一定にすることができ、それにより使用者が操作ハンドルを回転操作する際に、力の入れ易い回転角度で大きな回転トルクを生じさせ、力の入れ難い回転角度では小さな回転トルクにすることができ、使用者が平均的に軽く操作できるようになるのである。
【0015】
請求項4によれば、小径回転体の外形が、長径と短径を有する楕円形であるので、操作ハンドルの回転時の負荷が180°周期で連続的に変化し、違和感のない操作が可能である。
【0016】
請求項5によれば、操作ハンドルと小径回転体との連係状態で、該操作ハンドルの向きに対して前記小径回転体の短径のなす角度αが±45°以内としたので、最も力を入れ易い押し下げ時に大きな回転トルクを生じさせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。図1は本発明に係る手動式移動棚の駆動装置の全体斜視図、図2〜図6は駆動装置の概略を示し、図7〜図15はその詳細を示し、図中符号1は移動棚、2はレール、3は通路、4は駆動輪、5は従動輪、6は操作ハンドル、7は回転力伝達機構、8は小径回転体、9は大径回転体、10は無端索体、11は弛み防止手段、12は双方向クラッチ機構をそれぞれ示している。
【0018】
先ず、本発明に係る手動式移動棚は、複数のレール2,…に沿って複数の移動棚1が互いに移動可能に配置され、隣接する移動棚1,1が相対的に移動することによって、それらの間に所定幅の通路3が形成されるものである。そして、移動棚1の下端で各レール2,…に対応した位置に、駆動輪4と単又は複数の従動輪5を設け、移動棚1の前面中段に設けた操作ハンドル6の回転力を前記駆動輪4に伝達する回転力伝達機構7を備え、該回転力伝達機構7は大小のスプロケット又は歯付きプーリからなる一対の回転体8,9と、両回転体に巻回するチェーン又はタイミングベルトからなる無端索体10とからなり、前記操作ハンドル6で回転駆動する小径の回転体8を非円形とするとともに、前記無端索体10の弛みを防止するための弛み防止手段11を備えてなることを特徴としている。ここで、前記弛み防止手段11は無端索体10に弾性的に張力を加える方式を採用している。
【0019】
更に詳しくは、前記移動棚1は、台車13に手動によって回転駆動される駆動輪4と該駆動輪4と同径の従動輪5を設け、台車13の上部には複数の支柱14,…で多段に棚板15,…が保持された通常構造の収容部16を設け、該収容部16の少なくとも前面側には前面パネル17を有している。そして、前記前面パネル17の中段には前記操作ハンドル6を設け、該操作ハンドル6の軸部と双方向クラッチ機構12を介して前記小径回転体8が連結され、また前記大径回転体9は前記台車13の前端部に設けている。ここで、前記双方向クラッチ機構12、小径回転体8及び大径回転体9は、前記前面パネル17の背面に位置している。前記大径回転体9には、動力軸18が固定され、前記駆動輪4には回転軸19が固定され、該動力軸18と回転軸19とを歯数が異なるスプロケットとチェーンからなる図示しない減速機構によって連係させている。
【0020】
従って、前記操作ハンドル6を回転すると、前記両スプロケット8,9とチェーン10とによって、操作ハンドル6の回転方向と同一回転方向に前記動力軸18が回転し、更に減速機構を介して回転軸19、駆動輪4が同一回転方向に回転し、もって移動棚1を同方向に移動するのである。つまり、前記操作ハンドル6を右回りに回転させると移動棚1は右方向に移動し、操作ハンドル6を左回りに回転させると移動棚1は左方向に移動するのである。
【0021】
本実施形態では、前記小径回転体8及び大径回転体9はスプロケットで構成し、前記無端索体10はチェーンで構成しているので、今後は小径回転体をスプロケット8、大径回転体をスプロケット9、無端索体をチェーン10として説明する。しかし、回転体として歯付きプーリ、無端索体としてタイミングベルトを用いても良い。
【0022】
実際には、前記回転力伝達機構7は、移動棚1の前面側の支柱14,14に取付けられた支持板20に前記スプロケット9以外の部品を取付けて構成する。そして、前記前面パネル17で機構部を隠蔽し、前記操作ハンドル6のみを前面側へ露出するのである。ここで、前記収容部16の奥行幅が広い場合には、図2及び図3に示すように、両側の支柱14,14の中間にも支柱14を設け、前記支持板20は中段位置で両側端の支柱14,14間に渡した横桟20Aに上端部を取付けるとともに、下端部を前記台車13の上面に取付け、また前記スプロケット9は、その動力軸18が中間支柱14を避けるために従動輪5側に寄せて設けている。一方、前記収容部16の奥行幅が狭い場合には、図5及び図6に示すように、両側端の支柱14,14の間に前記支持板20の上部を直接取付け、下端部は前記同様に台車13の上面に取付け、この場合、前記スプロケット9は左右中央部に設けている。何れの場合にも、前記支持板20及びそれに設けた機構部を隠蔽するように、両側端の支柱14,14を利用して前記前面パネル17を取付けている。
【0023】
次に、各部の詳細を更に説明する。図4、図7〜図12に示すように、前記操作ハンドル6は、その軸部21とスプロケット8(小径回転体)との間に双方向クラッチ機構12を介装して前記支持板20の上部に取付けられ、該操作ハンドル6に何れかの方向に回転力を加えているときにのみ、該双方向クラッチ機構12が連係して該操作ハンドル6の回転力をスプロケット8に伝達するようにしている。
【0024】
具体的には、前記支持板20の上部に取付けた固定板22に突設した支軸23に、前記スプロケット8を固定したカム車24と、操作ハンドル6の軸部21に固定した爪取付円盤25とを同軸にそれぞれ独立回転可能に取付け、前記カム車24の円筒部26の内周面に180°間隔で係合部27,27を突設し、前記操作ハンドル6を自重で垂下させた状態において、前記爪取付円盤25の上部両側に左右対称となしてそれぞれ爪28,28の一端を枢着するとともに、両爪28,28を前記カム車24の円筒部26内に位置させた構造である。
【0025】
図9に示すように、前記爪取付円盤25の上部両側に、前記爪28,28の一端部を水平な枢軸29,29にてそれぞれ枢着し、各爪28の遊端には前記係合部27の段部へ当止する当止部30と該当止部30よりも僅かに基端側にローラ31が両側から突出するように回動可能に設けている。前記枢軸29にて自重により垂れ下がった爪28は、前記操作ハンドル6の回転に伴う爪取付円盤25の回転によりローラ31が前記円筒部26の内面又は前記円筒部26の内部まで延びた前記軸部21の外周に摺接する。
【0026】
そして、前記操作ハンドル6を回転させることにより、垂れ下がった一方の前記爪28が回転方向直近の係合部27の段部に係合してカム車24を回転駆動し、即ちスプロケット8を回転駆動するのである。それから、操作ハンドル6に回転力を加えている間は、前記爪28と係合部27の係合が維持されて回転力がスプロケット8に伝達される。また、任意の回転位置で操作ハンドル6から手を離せば、前記爪28と係合部27の係合が解除されて該操作ハンドル6の自重により該操作ハンドル6が垂下した初期状態に復帰する。
【0027】
ここで、前記スプロケット8(小径回転体)は、外形が回転方向に180°周期の非円形であり、前記双方向クラッチ機構12も前記操作ハンドル6とスプロケット8との連係状態が回転方向に180°周期で実現し、前記操作ハンドル6とスプロケット8との連係状態で該スプロケット8の外形における操作ハンドル6に対する位置関係が常に一定であるようにしている。具体的には、前記スプロケット8の外形は、図2、図5、図9及び図10に示すように、長径と短径を有する楕円形である。また、前記双方向クラッチ機構12は、図9、図11及び図13に示すように、前記カム車24の係合部27,27が互いに回転角度が180°だけ離れた位置に形成している。図9に示すように、スプロケット8の長径の方向にカム車24の係合部27,27が位置しているが、スプロケット8とカム車24は固定されているので、この位置関係は一定である。
【0028】
前記弛み防止手段11は、前記スプロケット8,9にチェーン10を巻回した場合、前記スプロケット9は円形であるが、スプロケット8は楕円形であるため、回転に伴いチェーン10が張ったり、緩んだりする。チェーン10が緩むと、歯飛びが発生したり、チェーン10が蛇行して支持板20等を擦り、異音が発生する。そのため、常時チェーン10を張った状態にしておくため、チェーン10の途中部に弾性的に張力を加える必要がある。本実施形態の弛み防止手段11は、図2、図3、図5及び図6に示すように、前記支持板20に横設したガイド部材32の両端部に横方向スライド可能に摺動部材33,33を設け、両摺動部材33,33を側方へ突出する方向に圧縮コイルばね34で弾性付勢し、前記各摺動部材33でチェーン10を外側へ押し広げ、常時張力を加えている。尚、歯付きプーリとタイミングベルトを用いる場合には、タイミングベルト自体に弾力性があれば、非円形のスプロケット8による弛みを防止できる。つまり、タイミングベルト自体の伸縮機能が弛み防止手段11となる。
【0029】
図13及び図14は、前記双方向クラッチ機構12を介して前記操作ハンドル6と前記スプロケット8が連係する機構を示している。図13(a)及び図14の中心の図は、クラッチ機構が解除され、操作ハンドル6が自重で垂れ下がった状態を示し、図13(b)及び図14の左側の図は操作ハンドル6を右回転させ、一方の爪28が下側に位置した係合部27に係合し、クラッチ機構が連係した状態を示している。また、図14の右側の図は、操作ハンドル6を左回転させて他方の爪28が下側の係合部27に係合した状態を示している。ここで、図14に示すように、前記操作ハンドル6とスプロケット8との連係状態で、該操作ハンドル6の向きに対して前記スプロケット8の短径のなす角度αが±45°以内になるように設定している。
【0030】
尚、前記移動棚1が停止時におけるスプロケット8とカム車24の回転状態はランダムである。従って、停止状態の移動棚1を移動させるために、前記操作ハンドル6を一方向に回転させた際に爪28と係合部27が係合する位置もランダムである。そのため、操作ハンドル6に最も力を入れ易い回転角度から駆動力を加えて移動を開始するように設定することは不可能である。
【0031】
通常、使用者が操作ハンドル6を回転操作して移動棚1を移動させる際に一定のリズムが存在することがわかる。図15は、前記スプロケット8が円形の場合(従来機構)において、無意識に操作ハンドル6を連続的に右回転させたときの移動棚1の移動速度を、時間を横軸として1周期(1回転)だけ示したものである。この図15(a)は、操作ハンドル6が上向き状態から押し下げて横向きになるときに台車は加速され、下向きを超えるまで惰性で移動し、下向きから上向きになるまで減速することを示し、これから操作ハンドル6を回転させたとき、力の入れ易い状態と入れ難い状態が交互に現れ、1回転で1周期の変化となる。一方、前記スプロケット8が楕円形の場合(発明機構)において、トルク計付きのモータを操作ハンドル6の代わりに軸部21に連結し、一定の回転数(移動速度一定)の条件のもと、モータの駆動部負荷の変化を時間経過で計測したのが図15(b)である。図15(b)において、1回転における回転角度を操作ハンドル6の向きで示してあり、1回転で負荷の極大、極小が2回ずつ現れ、即ち180°周期で負荷の極大と極小が現れる。
【0032】
図15(a)と対応させれば、手動で操作ハンドル6を回転させる際に、操作ハンドル6が右横向きの加速時に、スプロケット8を楕円形とすることにより、負荷を軽減することができることがわかる。この加速時には操作ハンドル6に力を加え易い状態であり、このときに負荷が少なくなることにより、トルクを増大させて十分な加速を行ってもハンドル操作が軽くなる。また、負荷が極小になる回転角度がもう一つあり、それは操作ハンドル6を左横向きから上向きに至るときで、操作ハンドル6に力を加え難い回転角度に対応するので、この状態で弱い力でも負荷を軽減できるので、ハンドル操作が軽く、弱い力でも十分に大きなトルクを発生できる。
【0033】
そこで、本発明の効果を確認するために、無作為で抽出した20人の使用者に、スプロケット8が円形の従来機構の手動式移動棚と、スプロケット8が楕円形の発明機構の手動式移動棚を、実際に使ってみた後の評価を集計したのが表1である。ここで、従来機構と発明機のスプロケット8の歯数は一致させている。評価は、5段階とし、数字が小さいほうが、ハンドル操作がより軽く感じたことを示している。この表1の結果、従来機構は評価が3と4に集中しているのに対し、発明機構では表が2と3に集中し、従来機より発明機構の方がハンドル操作が有意に軽いという結果が得られた。
【0034】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る手動式移動棚の全体斜視図である。
【図2】本発明の手動式移動棚の駆動装置の概略を示す部分正面図である。
【図3】同じく横断面図である。
【図4】同じく縦断面図である。
【図5】収納部の奥行幅が狭い手動式移動棚の駆動装置の概略を示す部分正面図である。
【図6】同じく横断面図である。
【図7】操作ハンドルとスプロケット及び双方向クラッチ機構との関係を示す部分断面図である。
【図8】同じく操作ハンドルとスプロケット及び双方向クラッチ機構との関係を示す縦断面図である。
【図9】図7のX−X線断面図である。
【図10】図7のY−Y線断面図である。
【図11】双方向クラッチ機構のカム車と爪との関係を示す部分斜視図である。
【図12】楕円形のスプロケットを示す斜視図である。
【図13】双方向クラッチ機構の動作原理を示し、(a)は操作ハンドルとスプロケットの連係が解除された状態の部分縦断面図、(b)は操作ハンドルとスプロケットが連係された状態の部分縦断面図である。
【図14】双方向クラッチ機構の動作原理を示した説明図であり、中央の図は操作ハンドルとスプロケットの連係が解除された状態、左側の図は右回転において操作ハンドルとスプロケットが連係された状態、右側の図は左回転において操作ハンドルとスプロケットが連係された状態を示している。
【図15】実験結果を示すグラフであり、(a)は円形のスプロケットを用いて操作ハンドルを回転操作したときの時間に対する台車速度の計測結果、(b)は楕円形のスプロケットを用いて操作ハンドルの代わりにモータで一定の回転数で回転操作したときの時間に対する駆動部負荷の計測結果である。
【符号の説明】
【0036】
1 移動棚、 2 レール、
3 通路、 4 駆動輪、
5 従動輪、 6 操作ハンドル、
7 回転力伝達機構 8 スプロケット(小径回転体)、
9 スプロケット(大径回転体)、10 チェーン(無端索体)、
11 弛み防止手段、 12 双方向クラッチ機構、
13 台車、 14 支柱、
15 棚板、 16 収容部、
17 前面パネル、 18 動力軸、
19 回転軸、 20 支持板、
21 軸部、 22 固定板、
23 支軸、 24 カム車、
25 爪取付円盤、 26 円筒部、
27 係合部、 28 爪、
29 枢軸、 30 当止部、
31 ローラ、 32 ガイド部材、
33 摺動部材、 34 圧縮コイルばね。
【技術分野】
【0001】
本発明は、手動式移動棚の駆動装置に係わり、更に詳しくは操作ハンドルを回転させて横方向へ移動させた移動棚と隣接する移動棚間に通路を形成する方式の手動式移動棚の駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から手動によって回転駆動される車輪を有する複数台の移動棚を、それらの出入面に対して直交する方向に敷設したレールに沿って移動可能に配置し、移動棚の移動でそれらの間に所定幅の通路が形成される手動式移動棚装置は各種提供されている。そして、各移動棚の正面に設けた操作ハンドルを使用者が操作し、操作ハンドルの回転力を駆動伝達系を介して車輪を回転駆動して所定の移動棚間又は側端部に配置した固定棚と移動棚間に通路を形成し、その通路内に使用者が入って該通路に面した出入面から書籍やファイル等の物品を出し入れするのである。
【0003】
そして、特許文献1には、移動棚の台車において、車輪の回転軸と手動にて回転させる動力軸とを減速機構にて連係させ、前記動力軸の前端部に大径のスプロケットを固定するとともに、移動棚の前面パネル中段に設けた操作ハンドルの駆動軸に小径のスプロケットを連係し、この両スプロケットにチェーンを巻回し、操作ハンドルを回転させることにより、該回転と同方向に車輪を回転させて移動させる構造となっている。このように、操作ハンドルから車輪まで回転力を伝達する際に、何段階かの減速機構で操作ハンドルを軽く回転させることができるようにしているが、移動棚に書籍や部品等の重量物を収納している場合には操作ハンドルの回転が重くなる。特に、移動棚の動きは始めには比較的大きな力を必要とする。従来のスプロケットとチェーンからなる回転力伝達機構は、操作ハンドルに常に一定の負荷をかけるようになっているが、使用者が操作ハンドルを回転させる際には回転角度に応じて力を入れ易い場合と、入れ難い場合が周期的に生じる。
【0004】
ここで、前記操作ハンドルの駆動軸に小径のスプロケットを固定すると、車輪の回転力が直に操作ハンドルに伝達するので、移動棚が慣性移動中、若しくは地震等で移動棚が移動すると、操作ハンドルが回転して使用者の手に反動が伝わり、また予期せず身体に衝突するといったことが生じる。そこで、従来から、特許文献2に開示されるように、操作ハンドルとスプロケットの間にはクラッチ機構によって連係させ、車輪を起点とする回転力が操作ハンドルに伝達しないようにしている。具体的には、前記クラッチ機構は、スプロケットを固定したカム車と、操作ハンドルを固定した爪取付円盤とを同軸にそれぞれ独立回転可能に取付け、前記カム車の円筒部の内周面に90°間隔で係合部を突設し、前記操作ハンドルを自重で垂下させた状態において、前記爪取付円盤の上部両側に左右対称となしてそれぞれ爪の一端を枢着するとともに、両爪を前記カム車の円筒部内に位置させた構造である。そして、前記操作ハンドルを回転させることにより、垂れ下がった一方の前記爪が回転方向直近の係合部に係合してカム車を回転駆動し、即ちスプロケットを回転駆動するのである。それから、操作ハンドルに回転力を加えている間は、前記爪と係合部の係合が維持されて回転力がスプロケットに伝達される。また、任意の回転位置で操作ハンドルから手を離せば、前記爪と係合部の係合が解除されて該操作ハンドルの自重により該操作ハンドルが垂下した初期状態に復帰する。
【特許文献1】特開2002−101973号公報
【特許文献2】実開昭56−150444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
操作ハンドルを回転させて重量のある移動棚を手動で移動させる場合、理想的には回転力伝達機構において、移動棚の動き始めの負荷が最大のときに、負荷を軽減させるように減速比を最大にし、また操作ハンドルの力を入れ難い回転角度のときにも減速比を大きくし、そして力が入れ易い回転角度のときや、慣性力で移動棚が移動しているときに、減速比を小さくするように調整できることが好ましい。しかし、機械的な回転力伝達機構では、全ての場合に理想的な減速比に設定することは不可能である。また、使用者の体格の違いでも操作ハンドルにおける力の入れ易い、力の入れ難い回転角度は異なるのである。
【0006】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、操作ハンドルの回転力を駆動輪に伝達する回転力伝達機構において、操作ハンドルの回転角度に応じて周期的に減速比を変化させ、重量のある移動棚を移動させる際の負荷を低減させ、使用者が軽く操作できる手動式移動棚の駆動装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前述の課題解決のために、複数のレールに沿って複数の移動棚が互いに移動可能に配置され、隣接する移動棚が相対的に移動することによって、それらの間に所定幅の通路が形成される手動式移動棚装置であって、移動棚の下端で各レールに対応した位置に、駆動輪と単又は複数の従動輪を設け、移動棚に設けた操作ハンドルの回転力を前記駆動輪に伝達する回転力伝達機構を備え、該回転力伝達機構は大小のスプロケット又は歯付きプーリからなる一対の回転体と、両回転体に巻回するチェーン又はタイミングベルトからなる無端索体とからなり、前記操作ハンドルで回転駆動する小径の回転体を非円形とするとともに、前記無端索体の弛みを防止するための弛み防止手段を備えてなる手動式移動棚の駆動装置を構成した。
【0008】
そして、前記操作ハンドルの軸部と小径回転体との間に双方向クラッチ機構を介装し、該操作ハンドルに何れかの方向に回転力を加えているときにのみ、該双方向クラッチ機構が連係して該操作ハンドルの回転力を小径回転体に伝達するようにした(請求項2)。
【0009】
ここで、前記小径回転体は、外形が回転方向に180°周期の非円形であり、前記双方向クラッチ機構も前記操作ハンドルと小径回転体との連係状態が回転方向に180°周期で実現し、前記操作ハンドルと小径回転体との連係状態で該小径回転体の外形における操作ハンドルに対する位置関係が常に一定であることが好ましい(請求項3)。
【0010】
また、前記小径回転体の外形が、長径と短径を有する楕円形であることがより好ましい(請求項4)。
【0011】
更に、前記操作ハンドルと小径回転体との連係状態で、該操作ハンドルの向きに対して前記小径回転体の短径のなす角度αが±45°以内であるとより好ましい(請求項5)。
【発明の効果】
【0012】
以上にしてなる請求項1に係る発明の手動式移動棚の駆動装置は、移動棚に設けた操作ハンドルの回転力を、移動棚の下端に設けた駆動輪に伝達する回転力伝達機構として、大小のスプロケット又は歯付きプーリからなる一対の回転体と、両回転体に巻回するチェーン又はタイミングベルトからなる無端索体とからなり、前記操作ハンドルで回転駆動する小径の回転体を非円形とするとともに、前記無端索体の弛みを防止するための弛み防止手段を備えてなる構成を採用したことにより、操作ハンドルの回転角度に応じて周期的に減速比が変化するようにできるので、操作ハンドルで回転駆動する小径の回転体と該操作ハンドルとの連係時における相対的回転角度を最適に設定することにより、重量のある移動棚を移動させる際の負荷を低減させ、使用者が軽く操作できるようになるのである。また、小径の回転体を非円形とした場合でも、弛み防止手段にて無端索体の弛みを防止するので、回転体と無端索体との間で歯飛びを防止できる。
【0013】
請求項2によれば、前記操作ハンドルの軸部と小径回転体との間に双方向クラッチ機構を介装し、該操作ハンドルに何れかの方向に回転力を加えているときにのみ、該双方向クラッチ機構が連係して該操作ハンドルの回転力を小径回転体に伝達するようにしたので、移動棚が慣性移動中、若しくは地震等で移動棚が移動する際に、車輪を起点とする回転力が操作ハンドルに伝達しないので、不意に操作ハンドルが回転することがないのである。
【0014】
請求項3によれば、小径回転体の外形と、双方向クラッチ機構における操作ハンドルと小径回転体との連係状態とが、共に回転方向に180°周期を有していることから、操作ハンドルと小径回転体との連係状態で該小径回転体の外形における操作ハンドルに対する位置関係を常に一定にすることができ、それにより使用者が操作ハンドルを回転操作する際に、力の入れ易い回転角度で大きな回転トルクを生じさせ、力の入れ難い回転角度では小さな回転トルクにすることができ、使用者が平均的に軽く操作できるようになるのである。
【0015】
請求項4によれば、小径回転体の外形が、長径と短径を有する楕円形であるので、操作ハンドルの回転時の負荷が180°周期で連続的に変化し、違和感のない操作が可能である。
【0016】
請求項5によれば、操作ハンドルと小径回転体との連係状態で、該操作ハンドルの向きに対して前記小径回転体の短径のなす角度αが±45°以内としたので、最も力を入れ易い押し下げ時に大きな回転トルクを生じさせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。図1は本発明に係る手動式移動棚の駆動装置の全体斜視図、図2〜図6は駆動装置の概略を示し、図7〜図15はその詳細を示し、図中符号1は移動棚、2はレール、3は通路、4は駆動輪、5は従動輪、6は操作ハンドル、7は回転力伝達機構、8は小径回転体、9は大径回転体、10は無端索体、11は弛み防止手段、12は双方向クラッチ機構をそれぞれ示している。
【0018】
先ず、本発明に係る手動式移動棚は、複数のレール2,…に沿って複数の移動棚1が互いに移動可能に配置され、隣接する移動棚1,1が相対的に移動することによって、それらの間に所定幅の通路3が形成されるものである。そして、移動棚1の下端で各レール2,…に対応した位置に、駆動輪4と単又は複数の従動輪5を設け、移動棚1の前面中段に設けた操作ハンドル6の回転力を前記駆動輪4に伝達する回転力伝達機構7を備え、該回転力伝達機構7は大小のスプロケット又は歯付きプーリからなる一対の回転体8,9と、両回転体に巻回するチェーン又はタイミングベルトからなる無端索体10とからなり、前記操作ハンドル6で回転駆動する小径の回転体8を非円形とするとともに、前記無端索体10の弛みを防止するための弛み防止手段11を備えてなることを特徴としている。ここで、前記弛み防止手段11は無端索体10に弾性的に張力を加える方式を採用している。
【0019】
更に詳しくは、前記移動棚1は、台車13に手動によって回転駆動される駆動輪4と該駆動輪4と同径の従動輪5を設け、台車13の上部には複数の支柱14,…で多段に棚板15,…が保持された通常構造の収容部16を設け、該収容部16の少なくとも前面側には前面パネル17を有している。そして、前記前面パネル17の中段には前記操作ハンドル6を設け、該操作ハンドル6の軸部と双方向クラッチ機構12を介して前記小径回転体8が連結され、また前記大径回転体9は前記台車13の前端部に設けている。ここで、前記双方向クラッチ機構12、小径回転体8及び大径回転体9は、前記前面パネル17の背面に位置している。前記大径回転体9には、動力軸18が固定され、前記駆動輪4には回転軸19が固定され、該動力軸18と回転軸19とを歯数が異なるスプロケットとチェーンからなる図示しない減速機構によって連係させている。
【0020】
従って、前記操作ハンドル6を回転すると、前記両スプロケット8,9とチェーン10とによって、操作ハンドル6の回転方向と同一回転方向に前記動力軸18が回転し、更に減速機構を介して回転軸19、駆動輪4が同一回転方向に回転し、もって移動棚1を同方向に移動するのである。つまり、前記操作ハンドル6を右回りに回転させると移動棚1は右方向に移動し、操作ハンドル6を左回りに回転させると移動棚1は左方向に移動するのである。
【0021】
本実施形態では、前記小径回転体8及び大径回転体9はスプロケットで構成し、前記無端索体10はチェーンで構成しているので、今後は小径回転体をスプロケット8、大径回転体をスプロケット9、無端索体をチェーン10として説明する。しかし、回転体として歯付きプーリ、無端索体としてタイミングベルトを用いても良い。
【0022】
実際には、前記回転力伝達機構7は、移動棚1の前面側の支柱14,14に取付けられた支持板20に前記スプロケット9以外の部品を取付けて構成する。そして、前記前面パネル17で機構部を隠蔽し、前記操作ハンドル6のみを前面側へ露出するのである。ここで、前記収容部16の奥行幅が広い場合には、図2及び図3に示すように、両側の支柱14,14の中間にも支柱14を設け、前記支持板20は中段位置で両側端の支柱14,14間に渡した横桟20Aに上端部を取付けるとともに、下端部を前記台車13の上面に取付け、また前記スプロケット9は、その動力軸18が中間支柱14を避けるために従動輪5側に寄せて設けている。一方、前記収容部16の奥行幅が狭い場合には、図5及び図6に示すように、両側端の支柱14,14の間に前記支持板20の上部を直接取付け、下端部は前記同様に台車13の上面に取付け、この場合、前記スプロケット9は左右中央部に設けている。何れの場合にも、前記支持板20及びそれに設けた機構部を隠蔽するように、両側端の支柱14,14を利用して前記前面パネル17を取付けている。
【0023】
次に、各部の詳細を更に説明する。図4、図7〜図12に示すように、前記操作ハンドル6は、その軸部21とスプロケット8(小径回転体)との間に双方向クラッチ機構12を介装して前記支持板20の上部に取付けられ、該操作ハンドル6に何れかの方向に回転力を加えているときにのみ、該双方向クラッチ機構12が連係して該操作ハンドル6の回転力をスプロケット8に伝達するようにしている。
【0024】
具体的には、前記支持板20の上部に取付けた固定板22に突設した支軸23に、前記スプロケット8を固定したカム車24と、操作ハンドル6の軸部21に固定した爪取付円盤25とを同軸にそれぞれ独立回転可能に取付け、前記カム車24の円筒部26の内周面に180°間隔で係合部27,27を突設し、前記操作ハンドル6を自重で垂下させた状態において、前記爪取付円盤25の上部両側に左右対称となしてそれぞれ爪28,28の一端を枢着するとともに、両爪28,28を前記カム車24の円筒部26内に位置させた構造である。
【0025】
図9に示すように、前記爪取付円盤25の上部両側に、前記爪28,28の一端部を水平な枢軸29,29にてそれぞれ枢着し、各爪28の遊端には前記係合部27の段部へ当止する当止部30と該当止部30よりも僅かに基端側にローラ31が両側から突出するように回動可能に設けている。前記枢軸29にて自重により垂れ下がった爪28は、前記操作ハンドル6の回転に伴う爪取付円盤25の回転によりローラ31が前記円筒部26の内面又は前記円筒部26の内部まで延びた前記軸部21の外周に摺接する。
【0026】
そして、前記操作ハンドル6を回転させることにより、垂れ下がった一方の前記爪28が回転方向直近の係合部27の段部に係合してカム車24を回転駆動し、即ちスプロケット8を回転駆動するのである。それから、操作ハンドル6に回転力を加えている間は、前記爪28と係合部27の係合が維持されて回転力がスプロケット8に伝達される。また、任意の回転位置で操作ハンドル6から手を離せば、前記爪28と係合部27の係合が解除されて該操作ハンドル6の自重により該操作ハンドル6が垂下した初期状態に復帰する。
【0027】
ここで、前記スプロケット8(小径回転体)は、外形が回転方向に180°周期の非円形であり、前記双方向クラッチ機構12も前記操作ハンドル6とスプロケット8との連係状態が回転方向に180°周期で実現し、前記操作ハンドル6とスプロケット8との連係状態で該スプロケット8の外形における操作ハンドル6に対する位置関係が常に一定であるようにしている。具体的には、前記スプロケット8の外形は、図2、図5、図9及び図10に示すように、長径と短径を有する楕円形である。また、前記双方向クラッチ機構12は、図9、図11及び図13に示すように、前記カム車24の係合部27,27が互いに回転角度が180°だけ離れた位置に形成している。図9に示すように、スプロケット8の長径の方向にカム車24の係合部27,27が位置しているが、スプロケット8とカム車24は固定されているので、この位置関係は一定である。
【0028】
前記弛み防止手段11は、前記スプロケット8,9にチェーン10を巻回した場合、前記スプロケット9は円形であるが、スプロケット8は楕円形であるため、回転に伴いチェーン10が張ったり、緩んだりする。チェーン10が緩むと、歯飛びが発生したり、チェーン10が蛇行して支持板20等を擦り、異音が発生する。そのため、常時チェーン10を張った状態にしておくため、チェーン10の途中部に弾性的に張力を加える必要がある。本実施形態の弛み防止手段11は、図2、図3、図5及び図6に示すように、前記支持板20に横設したガイド部材32の両端部に横方向スライド可能に摺動部材33,33を設け、両摺動部材33,33を側方へ突出する方向に圧縮コイルばね34で弾性付勢し、前記各摺動部材33でチェーン10を外側へ押し広げ、常時張力を加えている。尚、歯付きプーリとタイミングベルトを用いる場合には、タイミングベルト自体に弾力性があれば、非円形のスプロケット8による弛みを防止できる。つまり、タイミングベルト自体の伸縮機能が弛み防止手段11となる。
【0029】
図13及び図14は、前記双方向クラッチ機構12を介して前記操作ハンドル6と前記スプロケット8が連係する機構を示している。図13(a)及び図14の中心の図は、クラッチ機構が解除され、操作ハンドル6が自重で垂れ下がった状態を示し、図13(b)及び図14の左側の図は操作ハンドル6を右回転させ、一方の爪28が下側に位置した係合部27に係合し、クラッチ機構が連係した状態を示している。また、図14の右側の図は、操作ハンドル6を左回転させて他方の爪28が下側の係合部27に係合した状態を示している。ここで、図14に示すように、前記操作ハンドル6とスプロケット8との連係状態で、該操作ハンドル6の向きに対して前記スプロケット8の短径のなす角度αが±45°以内になるように設定している。
【0030】
尚、前記移動棚1が停止時におけるスプロケット8とカム車24の回転状態はランダムである。従って、停止状態の移動棚1を移動させるために、前記操作ハンドル6を一方向に回転させた際に爪28と係合部27が係合する位置もランダムである。そのため、操作ハンドル6に最も力を入れ易い回転角度から駆動力を加えて移動を開始するように設定することは不可能である。
【0031】
通常、使用者が操作ハンドル6を回転操作して移動棚1を移動させる際に一定のリズムが存在することがわかる。図15は、前記スプロケット8が円形の場合(従来機構)において、無意識に操作ハンドル6を連続的に右回転させたときの移動棚1の移動速度を、時間を横軸として1周期(1回転)だけ示したものである。この図15(a)は、操作ハンドル6が上向き状態から押し下げて横向きになるときに台車は加速され、下向きを超えるまで惰性で移動し、下向きから上向きになるまで減速することを示し、これから操作ハンドル6を回転させたとき、力の入れ易い状態と入れ難い状態が交互に現れ、1回転で1周期の変化となる。一方、前記スプロケット8が楕円形の場合(発明機構)において、トルク計付きのモータを操作ハンドル6の代わりに軸部21に連結し、一定の回転数(移動速度一定)の条件のもと、モータの駆動部負荷の変化を時間経過で計測したのが図15(b)である。図15(b)において、1回転における回転角度を操作ハンドル6の向きで示してあり、1回転で負荷の極大、極小が2回ずつ現れ、即ち180°周期で負荷の極大と極小が現れる。
【0032】
図15(a)と対応させれば、手動で操作ハンドル6を回転させる際に、操作ハンドル6が右横向きの加速時に、スプロケット8を楕円形とすることにより、負荷を軽減することができることがわかる。この加速時には操作ハンドル6に力を加え易い状態であり、このときに負荷が少なくなることにより、トルクを増大させて十分な加速を行ってもハンドル操作が軽くなる。また、負荷が極小になる回転角度がもう一つあり、それは操作ハンドル6を左横向きから上向きに至るときで、操作ハンドル6に力を加え難い回転角度に対応するので、この状態で弱い力でも負荷を軽減できるので、ハンドル操作が軽く、弱い力でも十分に大きなトルクを発生できる。
【0033】
そこで、本発明の効果を確認するために、無作為で抽出した20人の使用者に、スプロケット8が円形の従来機構の手動式移動棚と、スプロケット8が楕円形の発明機構の手動式移動棚を、実際に使ってみた後の評価を集計したのが表1である。ここで、従来機構と発明機のスプロケット8の歯数は一致させている。評価は、5段階とし、数字が小さいほうが、ハンドル操作がより軽く感じたことを示している。この表1の結果、従来機構は評価が3と4に集中しているのに対し、発明機構では表が2と3に集中し、従来機より発明機構の方がハンドル操作が有意に軽いという結果が得られた。
【0034】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る手動式移動棚の全体斜視図である。
【図2】本発明の手動式移動棚の駆動装置の概略を示す部分正面図である。
【図3】同じく横断面図である。
【図4】同じく縦断面図である。
【図5】収納部の奥行幅が狭い手動式移動棚の駆動装置の概略を示す部分正面図である。
【図6】同じく横断面図である。
【図7】操作ハンドルとスプロケット及び双方向クラッチ機構との関係を示す部分断面図である。
【図8】同じく操作ハンドルとスプロケット及び双方向クラッチ機構との関係を示す縦断面図である。
【図9】図7のX−X線断面図である。
【図10】図7のY−Y線断面図である。
【図11】双方向クラッチ機構のカム車と爪との関係を示す部分斜視図である。
【図12】楕円形のスプロケットを示す斜視図である。
【図13】双方向クラッチ機構の動作原理を示し、(a)は操作ハンドルとスプロケットの連係が解除された状態の部分縦断面図、(b)は操作ハンドルとスプロケットが連係された状態の部分縦断面図である。
【図14】双方向クラッチ機構の動作原理を示した説明図であり、中央の図は操作ハンドルとスプロケットの連係が解除された状態、左側の図は右回転において操作ハンドルとスプロケットが連係された状態、右側の図は左回転において操作ハンドルとスプロケットが連係された状態を示している。
【図15】実験結果を示すグラフであり、(a)は円形のスプロケットを用いて操作ハンドルを回転操作したときの時間に対する台車速度の計測結果、(b)は楕円形のスプロケットを用いて操作ハンドルの代わりにモータで一定の回転数で回転操作したときの時間に対する駆動部負荷の計測結果である。
【符号の説明】
【0036】
1 移動棚、 2 レール、
3 通路、 4 駆動輪、
5 従動輪、 6 操作ハンドル、
7 回転力伝達機構 8 スプロケット(小径回転体)、
9 スプロケット(大径回転体)、10 チェーン(無端索体)、
11 弛み防止手段、 12 双方向クラッチ機構、
13 台車、 14 支柱、
15 棚板、 16 収容部、
17 前面パネル、 18 動力軸、
19 回転軸、 20 支持板、
21 軸部、 22 固定板、
23 支軸、 24 カム車、
25 爪取付円盤、 26 円筒部、
27 係合部、 28 爪、
29 枢軸、 30 当止部、
31 ローラ、 32 ガイド部材、
33 摺動部材、 34 圧縮コイルばね。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレールに沿って複数の移動棚が互いに移動可能に配置され、隣接する移動棚が相対的に移動することによって、それらの間に所定幅の通路が形成される手動式移動棚装置であって、移動棚の下端で各レールに対応した位置に、駆動輪と単又は複数の従動輪を設け、移動棚に設けた操作ハンドルの回転力を前記駆動輪に伝達する回転力伝達機構を備え、該回転力伝達機構は大小のスプロケット又は歯付きプーリからなる一対の回転体と、両回転体に巻回するチェーン又はタイミングベルトからなる無端索体とからなり、前記操作ハンドルで回転駆動する小径回転体を非円形とするとともに、前記無端索体の弛みを防止するための弛み防止手段を備えてなることを特徴とする手動式移動棚の駆動装置。
【請求項2】
前記操作ハンドルの軸部と小径回転体との間に双方向クラッチ機構を介装し、該操作ハンドルに何れかの方向に回転力を加えているときにのみ、該双方向クラッチ機構が連係して該操作ハンドルの回転力を小径回転体に伝達する請求項1記載の手動式移動棚の駆動装置。
【請求項3】
前記小径回転体は、外形が回転方向に180°周期の非円形であり、前記双方向クラッチ機構も前記操作ハンドルと小径回転体との連係状態が回転方向に180°周期で実現し、前記操作ハンドルと小径回転体との連係状態で該小径回転体の外形における操作ハンドルに対する位置関係が常に一定である請求項2記載の手動式移動棚の駆動装置。
【請求項4】
前記小径回転体の外形が、長径と短径を有する楕円形である請求項1〜3何れかに記載の手動式移動棚の駆動装置。
【請求項5】
前記操作ハンドルと小径回転体との連係状態で、該操作ハンドルの向きに対して前記小径回転体の短径のなす角度αが±45°以内である請求項4記載の手動式移動棚の駆動装置。
【請求項1】
複数のレールに沿って複数の移動棚が互いに移動可能に配置され、隣接する移動棚が相対的に移動することによって、それらの間に所定幅の通路が形成される手動式移動棚装置であって、移動棚の下端で各レールに対応した位置に、駆動輪と単又は複数の従動輪を設け、移動棚に設けた操作ハンドルの回転力を前記駆動輪に伝達する回転力伝達機構を備え、該回転力伝達機構は大小のスプロケット又は歯付きプーリからなる一対の回転体と、両回転体に巻回するチェーン又はタイミングベルトからなる無端索体とからなり、前記操作ハンドルで回転駆動する小径回転体を非円形とするとともに、前記無端索体の弛みを防止するための弛み防止手段を備えてなることを特徴とする手動式移動棚の駆動装置。
【請求項2】
前記操作ハンドルの軸部と小径回転体との間に双方向クラッチ機構を介装し、該操作ハンドルに何れかの方向に回転力を加えているときにのみ、該双方向クラッチ機構が連係して該操作ハンドルの回転力を小径回転体に伝達する請求項1記載の手動式移動棚の駆動装置。
【請求項3】
前記小径回転体は、外形が回転方向に180°周期の非円形であり、前記双方向クラッチ機構も前記操作ハンドルと小径回転体との連係状態が回転方向に180°周期で実現し、前記操作ハンドルと小径回転体との連係状態で該小径回転体の外形における操作ハンドルに対する位置関係が常に一定である請求項2記載の手動式移動棚の駆動装置。
【請求項4】
前記小径回転体の外形が、長径と短径を有する楕円形である請求項1〜3何れかに記載の手動式移動棚の駆動装置。
【請求項5】
前記操作ハンドルと小径回転体との連係状態で、該操作ハンドルの向きに対して前記小径回転体の短径のなす角度αが±45°以内である請求項4記載の手動式移動棚の駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−18123(P2008−18123A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193716(P2006−193716)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(000139780)株式会社イトーキ (833)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(000139780)株式会社イトーキ (833)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]