説明

手延べ風麺類の製造方法

【課題】手延べ麺類の様な滑らかさおよび粘弾性を有し、茹で伸びも遅い麺類を機械製麺により製造し得る手延べ風麺類の製造方法を提供すること。
【解決手段】手延べ風麺類を機械製麺するに際して、原料穀粉に対して、加水量を25〜45質量%とし、且つ増粘剤としてグアーガムおよび/またはキサンタンガムを0.2〜2.5質量%、水溶液またはゲルの形態で添加するとともに、麺生地のpHが6.3〜7.5の範囲になるようにpH調整剤を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手延べ麺類の様な滑らかさおよび粘弾性を有する麺類を機械製麺により製造し得る手延べ風麺類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、麺類の製造を行うにあたり、品質上、硬さや弾力性をつけたい時、特に冷麦や素麺の場合、高蛋白小麦粉を配合するか、添加剤としてグルテン、卵白粉、増粘剤等を添加して配合補強して、麺の製造を行っている。例えば、特許文献1には、麺類の品質改良剤として、キサンタンガム、ローカストビーンガムおよびタラガムの3種の増粘多糖類を併用することが提案されている。
しかし、グルテンは少量の添加では弾力強化には不十分であるし、卵白粉の添加では硬さのみで粘弾性に欠け、増粘剤の添加ではやや滑らかさは出るが、硬さや茹で伸びの防止に問題がある等、品質上において一長一短があった。
【0003】
一方、麺原料にアルギン酸/アルギン酸塩、アルカリ剤を用いて麺生地のpHを弱酸性〜弱アルカリ性に調整し、常法に従って圧延して麺帯として、麺線に切り出した後、α化し、次いで酸液処理して麺線のpHを酸性域に調整した、LL麺を製造する方法が知られている(例えば特許文献2〜4参照)。しかし、特許文献2〜4に記載されている方法は、いずれも、α化処理した後、酸液処理して麺線のpHを酸性域にすることを必須とし、しかもLL麺、即席麺に限られる技術である。
また、小麦粉に、小麦タンパク、かんすいを添加した手延素麺が提案されている(特許文献5参照)。しかし、この技術は素麺の即席麺製品であり、しかも小麦タンパクの使用量が多く、製造コストが高くなるのみならず、他の麺類には適用が難しいと考えられる。また、特許文献6には、かんすいを加えることにより減塩を可能にした手延べ麺が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−107934号公報
【特許文献2】特公平7−79646号公報
【特許文献3】特開平6−209730号公報
【特許文献4】特開平6−217722号公報
【特許文献5】特開2007−189942号公報
【特許文献6】特開2002−112721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、手延べ麺類の様な滑らかさおよび粘弾性を有し、茹で伸びも遅い麺類を機械製麺により製造し得る手延べ風麺類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく種々検討した結果、手延べ風麺類を機械製麺するに際して、原料穀粉に、増粘剤として特定量のグアーガムおよび/またはキサンタンガムを水溶液またはゲルの形態で添加するとともに、加水量および麺生地のpHを特定の範囲内とすることにより、得られた麺類の食感が、pH調整をしない場合に比べて滑らかさと粘弾性が増し、またグルテンや卵白粉、上記以外の増粘剤を添加した場合では得られない手延べ法で製される麺類独特の粘弾性が得られ、茹で上がり時の同一歩留りにおける食感についても粉っぽさがなくなり、茹で伸びも遅くなることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、手延べ風麺類を機械製麺するに際して、原料穀粉に対して、加水量を25〜45質量%とし、且つ増粘剤としてグアーガム及び/またはキサンタンガムを0.2〜2.5質量%、水溶液またはゲルの形態で添加するとともに、麺生地のpHが6.3〜7.5の範囲になるようにpH調整剤を添加することを特徴とする手延べ風麺類の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の手延べ風麺類の製造方法によれば、手延べ麺類の様な滑らかさおよび粘弾性を有し、茹で伸びも遅い麺類を機械製麺により製造することができ、また茹で上がり時の同一歩留りにおける食感についても粉っぽさのない麺類が得られる。また配合的にも、従来使用していた添加物類を少なくすることができるため、製造コストを安価にすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の手延べ風麺類の製造方法をその好ましい実施形態について説明する。
本発明で用いられる原料穀粉としては、麺類の製造に通常使用される穀粉類、例えば、小麦粉(薄力粉、中力粉、強力粉等)、そば粉、大麦粉等の他、澱粉類(馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、米澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉およびこれらの化工品)等を使用することができ、これらの中から麺類の種類等に応じて適宜選択される。
【0010】
本発明においては、上記原料穀粉に、麺生地のpHが6.3〜7.5、好ましくは6.7〜7.3の範囲になるようにpH調整剤を添加する。
pH調整剤としては、通常食品に使用され、アルカリ性を呈するpH調整剤、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、焼成カルシウム、ポリリン酸塩、縮合リン酸塩等が挙げられ、これらの中から1種または2種以上を使用することができる。
麺生地のpHが6.3未満であると、滑らかさや粘弾性といった食感の改善効果が十分ではなく、また麺生地のpHが7.5を超えると、得られる麺類の粘弾性は増すものの、滑らかさに劣り、また茹でた際に茹で溶けが生じやすくなってしまう。
【0011】
また、本発明においては、上記原料穀粉に、さらに特定の増粘剤を特定量添加する。この特定の増粘剤の添加により、得られる麺類の食感に滑らかさがさらに増し、良好な品質の麺類を得ることができる。
上記特定の増粘剤は、グアーガムおよび/またはキサンタンガムであり、それぞれ単独で用いてもよく、またグアーガムとキサンタンガムを併用してもよい。
これら増粘剤の添加量は、原料穀粉(穀粉類と澱粉類の総量)に対し、外割で0.2〜2.5質量%、好ましくは0.3〜2.3質量%である。
これら増粘剤の添加量が0.2質量%未満であると、増粘剤の添加効果が十分に奏されず、また増粘剤の添加量が2.5質量%を超えて添加しても効果は変わらないだけでなく、製麺時の作業性が低下するため好ましくない。
【0012】
上記特定の増粘剤は、粉末等の固形形態で原料穀粉に添加するのではなく、予め水等に溶解して水溶液の形態かゲルの形態で添加することが必要である。これら増粘剤の添加は、麺生地を調製する際に原料穀粉に加えられる水に添加することにより、原料穀粉に添加されるようにしてもよい。上記水溶液またはゲルにおける上記特定の増粘剤の濃度は、特に制限されるものではなく、上記特定の増粘剤を製麺時の加水の一部または全量に溶解させればよい。
上記特定の増粘剤を粉末等の固形形態で原料穀粉に添加すると、原料穀粉にpH調整剤を添加してpHを6.3〜7.5の範囲に調整した生地では、その増粘剤の添加効果が十分に奏されなくなるため好ましくない。
【0013】
本発明においては、麺原料として、上記の原料穀粉、pH調整剤および増粘剤(グアーガムおよび/またはキサンタンガム)の他に、麺類の製造に通常使用される添加物、例えば、卵粉、油脂類、乳化剤、食塩等の無機塩類、小麦蛋白、酵素剤等を麺類の種類等に応じて適宜配合することができる。
【0014】
本発明において、麺原料への加水量は、原料穀粉(穀粉類と澱粉類の総量)に対して、25〜45質量%である。
加水量が25質量%未満であると、得られる麺類に滑らかさや粘性が低下し、また加水量が45質量%を超えると、作業性の点で問題が生じる可能性がある。
【0015】
本発明において、製麺(生地の調製、麺帯の作製、麺帯の圧延、麺線の切り出し等)は機械製麺により行われる。この機械製麺は、麺類の製造に通常使用されている装置を用いて常法によって実施できる。
【0016】
本発明の手延べ風麺類の製造方法は、製造対象の麺類の種類に制限されるものではないが、麺線が比較的細い、冷麦、素麺、日本そばの製造に適用して特に有効である。また、麺線の太いうどんでも有効であるが、特に、原料穀粉として蛋白や澱粉質の弱い国内産の小麦(群馬内麦、九州内麦、青森内麦等)を用いた場合に有効である。
本発明の手延べ風麺類の製造方法で得られる麺類は、生麺、乾麺のいずれであってもよいが、粘弾性が増して品質が向上し、茹で伸びを遅くすることができるため、特に生麺(非α化麺)やこれを乾燥処理した乾麺(半乾燥麺を含む)であることが好ましい。また、これらの生麺(非α化麺)や乾麺は、冷凍耐性が優れることから、冷凍処理して冷凍麺としても好ましい。これらの生麺の乾燥処理や、生麺(非α化麺)および乾麺の冷凍処理は、常法によって実施できる。
なお、日本そばは通常、手延べ法で製造されることはないが、本発明の手延べ風麺類の製造方法で得られる日本そばは、あたかも手延べ法で製造された手延べ麺類の様な滑らかさを有する。
【実施例】
【0017】
次に実施例および比較例等を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0018】
実施例1〜9、対照例1および比較例1〜8(素麺の製造例)
小麦粉(「特飛龍」商品名、日清製粉株式会社製) 80質量部および馬鈴薯澱粉(「なかしゃり」商品名、斜里町農業協同組合製)20質量部からなる原料穀粉に、食塩4質量部と、表1に示す所定量のpH調整剤と、増粘剤として表1に示す所定量のグアーガム(「ネオソフトG」商品名、太陽化学株式会社製)、キサンタンガム(「KELTROL F 」商品名、Cpkelco 社製)またはアルギン酸(「キミカアシッド」商品名、株式会社キミカ製)を水36質量部に溶解した水溶液とを添加した後、 横型ミキサーにて10分間混捏して、表1に示すpH値の麺生地を調製した。得られた麺生地を麺帯とし、 最終麺帯の厚さを1.0mmになるよう圧延し、 切刃#30丸で麺線を切り出し、生素麺を得た。得られた生素麺を38℃で8時間乾燥し、水分14%の乾燥素麺とした。 (ただし、比較例5ではグアーガムを水に溶解せずに、粉末の形態で添加した。)
この乾燥素麺を熱湯で1分30秒間茹で上げて水で冷却し、ざる素麺の状態で10名のパネラーにより表2に示す評価基準に従って官能評価を行った。 その評価結果を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
実施例10〜13、対照例2および比較例9(日本そばの製造例)
小麦粉(「雅」商品名、日清製粉株式会社製) 70質量部およびそば粉(「亀寿月」商品名、日穀製粉株式会社製)30質量部からなる原料穀粉に、食塩1質量部と、表3に示す所定量のpH調整剤と、グアーガム(「ネオソフトG」商品名、太陽化学株式会社製)1質量部を水32質量部に溶解した水溶液とを添加した後、 横型ミキサーにて10分間混捏して、表3に示すpH値の麺生地を調製した。得られた麺生地を麺帯とし、 最終麺帯の厚さを1.3mmになるよう圧延し、 切刃#20角で麺線を切り出し、生日本そばを得た。得られた生日本そばを35℃で一昼夜乾燥し、水分14%の乾麺の日本そばを得た。
この乾麺の日本そばを熱湯で4分30秒間茹で上げて水で冷却し、ざるそばの状態で10名のパネラーにより表2に示す評価基準に従って官能評価を行った。 その評価結果を表3に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
実施例14〜16、対照例3および比較例10〜11(うどんの製造例)
小麦粉(「北翠」商品名、日清製粉株式会社製) 100質量部に、食塩3質量部と、表4に示す所定量のpH調整剤と、グアーガム(「ネオソフトG」商品名、太陽化学株式会社製)0.5質量部を水33質量部に溶解した水溶液とを添加した後、 横型ミキサーにて10分間混捏して、表4に示すpH値の麺生地を調製した。得られた麺生地を麺帯とし、 最終麺帯の厚さを3.0mmになるよう圧延し、 切刃#10角で麺線を切り出し、生うどんを得た。
得られた生うどんを熱湯で17分間茹で上げて水で冷却し、ざるうどんの状態で10名のパネラーにより表2に示す評価基準に従って官能評価を行った。 その評価結果を表4に示す。
【0024】
【表4】

【0025】
尚、本発明において、麺生地のpH値は、混捏終了後、得られた麺生地10gに蒸留水90gを加えてホモゲナイザーカップに取り、 ホモゲナイザーにて9000回転/分で3分間攪拌後、pHメーターで測定した値である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手延べ風麺類を機械製麺するに際して、原料穀粉に対して、加水量を25〜45質量%とし、且つ増粘剤としてグアーガムおよび/またはキサンタンガムを0.2〜2.5質量%、水溶液またはゲルの形態で添加するとともに、麺生地のpHが6.3〜7.5の範囲になるようにpH調整剤を添加することを特徴とする手延べ風麺類の製造方法。
【請求項2】
麺類が生麺または乾麺である、請求項1記載の手延べ風麺類の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の製造方法で製造される手延べ風麺類。