説明

打設コンクリートの異常圧開放装置

【課題】本発明の目的とするところは、コンクリートの圧力が異常圧に達するときにコンクリートを流出させて異常圧を下げるためにシャッターの開放を瞬時に行うことができる打設コンクリートの異常圧開放装置を提供することにある。
【解決手段】注入管の側面に形成されたコンクリートの流出口に対して開閉可能に設けられたシャッターを閉塞状態にロックするロック板16を形成し、ロックピン18の係合によりロック状態が保たれるようにした。また、受圧板31が、コンクリートの異常圧を受けたときは後退し、連結板33を介して押し上げられた揺動アーム21は反時計方向に回動して、ロックピン18の係合状態を解除する方向にロックピン18を引上げる。すると、ロックピン18がロック板16との係合状態から抜き出され、シャッターは瞬時にアンロック状態となって一気に開放されて、コンクリートの流出を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削したトンネルの内壁面にコンクリートを覆工するために用いられるセントルにおける打設コンクリートの異常圧開放装置に関する。
【背景技術】
【0002】
掘削したトンネルの内壁面に覆工コンクリートを打設する工事においてセントルが用いられ、セントルの外周面と掘削された内壁面との間にコンクリートを流し込んでアーチ状のコンクリート壁を形成することが一般に行われている。このコンクリートの流し込みのためにセントルの一部に打設口を設けて、その打設口を介してコンクリートポンプから圧送されるコンクリートを流し込んでいる。
【0003】
ところが、コンクリートポンプから注入管内を圧送されるコンクリートは脈動を伴っており、そのコンクリートがセントルの外周面に流し込まれると、コンクリートが部分的に硬化したり、混和されている砂、砂利及びコンクリート等が分離して流れが悪くなったりすることがある。そのため一部が塊となることもある。すると、コンクリートの円滑な流れが阻害され、コンクリートポンプの圧送圧力が打設口付近に直接的にかかり、セントルを局部的に撓ませることもあり、場合によってはセントルの一部を破壊する事態にまで至ることがある。
【0004】
そのような問題を解決するために、特許文献1に開示されているコンクリート打設口装置では、図7(a)に示すように、コンクリートの流し込みが完了した時点でセントルを閉じる蓋体71を、コンクリートの流し込みの際はコンクリート注入管の側壁72の一部を形成するように開放している。そして、その蓋体71にコンクリートの圧力が所定圧力以上となって作用したとき、蓋体71は、揺動ブラケット73を介して伝わる圧縮スプリング74の付勢力に抗して、開放側へ回動するようになっており、更に回動されると、図7(b)に示すように、開口部が開口してコンクリートの流出が可能となる。そして所定圧力以上となった異常圧は開放されるようになっている。また、他の実施例として、圧縮スプリングの替わりに引張スプリングを用いる例も開示されている。
【0005】
また、特許文献2に開示されている生コン注入時のセントルの変形防止構造においては、図8(a)に示すように、生コン注入管81にスプリング82の付勢力により付勢された開閉蓋体83が設けられ、生コンの注入圧がその付勢力に勝ったとき開閉蓋体83が開放されて生コンが流出するようになっている。また、図8(b)に示すように、セントル84にスプリング82の付勢力により付勢された開閉窓85が設けられ、生コンの注入圧がその付勢力に勝ったとき開閉窓85が開放されて生コンが流出するようになっている。
【特許文献1】特開平11−125097号公報([図2]を参照)
【特許文献2】特開2003−56295号公報([図1][図2]を参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1又は2に開示されている装置は、いずれもコンクリートの注入圧が上昇した時の圧力を受けた蓋体が圧縮スプリングの付勢力に抗して開くことによって、コンクリートの流出を許容して異常圧を開放し、異常圧によってセントルが歪んだり破壊されたりすることがないような構造になっている。
【0007】
ところが、圧縮スプリングの付勢力等を設定する場合、コンクリートの異常圧と蓋体の開度との関係において、蓋体が十分に開く位置に回動したときの付勢力と異常圧とをほぼ同等とするか、蓋体が少しでも開く位置に回動したときの付勢力と異常圧とをほぼ同等とするかが問題となる。仮に蓋体が十分に開く位置に回動したときの条件で設定すれば、コンクリートの圧力が異常圧に達する前に蓋体が開き、コンクリートの一部が漏れることになる。また、コンクリートポンプによる圧送は脈動を伴うことが多く、その脈動に同期して蓋体が開閉方向に揺動するようになる。一方、蓋体が少しでも開く位置に回動したときの条件で付勢力を設定すれば、蓋体はコンクリートの脈動の影響を受け難いが、コンクリートの圧力が異常圧に達した時、コンクリートの流出は開口部が狭いために遅々として進まず、そのためコンクリートの異常圧の低下も時間を要するものとなる。
【0008】
本発明は、このような問題に着目してなされたものであり、その目的とするところは、コンクリートの圧力が異常圧に達するときにコンクリートを流出させて異常圧を下げるためにシャッターの開放を瞬時に行うことができる打設コンクリートの異常圧開放装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するために請求項1に記載の打設コンクリートの異常圧開放装置の発明は、トンネルの内壁面とセントルとの間に注入管内を圧送してコンクリートを打設する際、注入されるコンクリートの圧力が異常圧となったときにシャッターを開放してコンクリートを流出させる装置において、注入コンクリートの圧力を受けて進退が可能な受圧部と、その受圧部の進退の動きを揺動アームを介して受ける受圧調節部と、その揺動アームに連結されて前記シャッターをロック又はアンロック状態にするロック部とで構成されることを特徴とするものである。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、受圧部においてコンクリートの異常圧を受けたとき、受圧部は後退する。その際、その後退の移動量は揺動アームを介して受圧調節部に伝わり、受圧調節部の調節作用を受けて、所定圧力よりも高い圧力のときに受圧部の後退量が大きくなる。すると、揺動アームの動きに伴いロック部がシャッターのアンロック方向に移動して、やがてはシャッターのロック状態が瞬時にアンロック状態に切り替わることになる。そのため、シャッターは閉塞状態から一気に開放されてコンクリートの速やかな流出が可能となる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の打設コンクリートの異常圧開放装置において、前記シャッターは、前記注入管に形成されたコンクリートの流出口に対して開閉可能に、その外周の一部が支軸を介して回動可能に前記注入管の外壁に連結され、その支軸と反対側の外周には、前記ロック部により前記シャッターを閉塞状態にロックする被ロック部が形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、シャッターは、ロック部が作用して被ロック部においてロックされ、注入管に形成されたコンクリートの流出口を閉塞する位置に留まるようになっている。そのため、受圧部にコンクリートの脈動が作用しても、その被ロック部のロックは解除されることがない。ところが、受圧部に異常圧が作用すれば、被ロック部のロックは解除され、コンクリートの圧力を受けるシャッターは支軸を中心として短時間に回動して流出口が開放される。そのため、異常圧となったコンクリートは一気に流出することが可能となり、コンクリートの異常圧はセントルに悪影響を及ぼす間もなく瞬時に下がることになる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の打設コンクリートの異常圧開放装置において、前記受圧部は、前記注入管の開口部に設けられた筒状体に遊嵌される受圧板が、その裏面において連結板を介して前記揺動アームに回動可能に連結され、一方、前記揺動アームは前記注入管の外面に設けられた支軸において揺動可能に支持され、その支軸を挟んで前記連結板とは反対側の揺動アームの一部には、前記受圧調節部の付勢力を受ける付勢力受部が形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、注入管内のコンクリートの圧力が高まれば、受圧部は揺動アームを介して受圧調節部からの付勢力に抗して徐々に後退することになる。そのとき、揺動アームに連結されているロック部はシャッターの被ロック部においてアンロック方向に移動するが、ロック状態は保たれたままなので、シャッターは注入管に形成された孔を閉塞してロックされた状態にある。そして、コンクリートの圧力が高まり異常圧に達すると、コンクリートの圧力を受ける受圧部は更に後退して揺動アームを動かすので、ついにロック部は被ロック部に対するロックを解除することになる。その時点で、シャッターはコンクリート圧に押されて一気に開放され、コンクリートは瞬時に流出することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の打設コンクリートの異常圧開放装置において、前記受圧調節部は、ねじ付軸と、そのねじ付軸に外嵌され前記付勢力受部に当接するフランジを有するフランジ付円筒体と、前記ねじ付軸に螺合されるフランジ付ナットと、そのフランジ付円筒体とフランジ付ナットとの間に装着される圧縮スプリングとで構成され、前記ねじ付軸のフランジ付ナットが螺合される側の端部は、前記注入管の外面に設けられた板状体に係合されたセッティングボルトに当接して位置決めされ、一方、前記フランジ付円筒体のフランジは、前記揺動アームの前記付勢力受部の両側に形成されたフランジ受部により位置決めされていることを特徴とするものである。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、付勢力の微調節が、ねじ付軸を回転してフランジ付ナットに対して締め込んだり緩めたりすることにより、容易にできる。また、ねじ付軸の一端がセッティングボルトに当接して位置決めされ、フランジ付円筒体のフランジが揺動アームのフランジ受部により位置決めされており、受圧調節部は簡単な構造で位置決めされている。また、セッティングボルトを外すか低位置に下げることにより、揺動アームは受圧調節部の付勢力から開放される。すると、揺動アームの端部に連結されているロック部はシャッターのロックには関わらない状態に留まることが可能となり、注入管に対するシャッターの初期セット又はリセットが容易に行われる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1又は2に記載の打設コンクリートの異常圧開放装置において、前記受圧部は、前記セントルに形成された開口部に設けられた筒状体に遊嵌される受圧板が、その裏面において連結板を介して前記揺動アームに回動可能に連結して形成され、一方、前記揺動アームは前記セントルの外面に設けられた支軸において揺動可能に支持されており、その支軸を挟んで前記連結板とは反対側の揺動アームの一部には、前記受圧調節部の付勢力を受ける付勢力受部が形成されていることを特徴とするものである。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、受圧部がセントルに形成された開口部に設けられた筒状体に遊嵌されているので、セントルとトンネルの内壁面との間に注入されたコンクリートの圧力が何らかの原因で上昇し異常圧となったとき、受圧部はその異常圧力の作用を直接受けることができる。そのため、異常圧に伴い揺動アームが作動した時、その動きを受けて注入管のシャッターのロック状態を瞬時に解除することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、コンクリートの圧力が異常圧に達するときに、コンクリートを流出させて異常圧を下げるために、シャッターの開放を瞬時に行うことができる打設コンクリートの異常圧開放装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した打設コンクリートの異常圧開放装置の実施形態を図1〜5を用いて説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態の打設コンクリートの異常圧開放装置10は、トンネルの内壁面7に沿って、コンクリートが打設される空間8を介して配置されるセントル4の壁面に形成された注入口4aに連通するように、セントル4に固着された注入口部1に一体的に連結されている。略角筒状に形成された注入口部1には、注入口部1の外面に軸5を介して蓋体2が回動可能に支持され、蓋体2の蓋板2aが、コンクリートが注入される際は注入口部1の一内壁を形成し、注入が完了したときは蓋体2の回動によって注入口4aを塞ぐようになっている。その蓋体2の回動は、蓋体2の蓋板2aとは反対側の面に設けられたブラケット2bのピン2cに一端を回動可能に支持される公知のターンバックル3の伸縮により行われる。ピン2cとは反対側のターンバックル3の端部は、セントル4に設けられたブラケット6のピン6aにより回動可能に支持されている。
【0022】
図1、2に示すように、異常圧開放装置10には、角筒状の注入管11の一側面に形成された図示しないコンクリート流出用の流出口を開閉するシャッター15が設けられている。シャッター15は軸受ボス17と、軸受ボス17の外周に固着された内側板15aと、内側板15aに直交する方向に延出して内側板15aと同一幅に形成された側板15bと、その側板15bの外面に軸受ボス17の中心軸に直交する方向の外方に向かって延出して形成された被ロック部であるロック板16とで構成されている。ロック板16は板状体に形成され、その中心部にはロック部をなすロックピン18が係合される係合孔16aが穿孔されている。また、軸受ボス17、内側板15a及び側板15bの端部に連結された一対の側板15cが対向して配置され、シャッター15が全体として軸受ボス17を含む箱状をなすように形成されている。シャッター15が開放されコンクリートが流出する際、コンクリートの流れを案内する一対の案内板13が設けられ、その第1案内板13aは注入管11の一つの内壁11bと一体に形成され、他方の第2案内板13bは内壁11bに対向する内壁11cと一体に形成されている。軸受ボス17に形成された孔17aが回動可能に嵌合される軸13cは、第1案内板13aと第2案内板13bとの間に連結されている。
【0023】
注入管11の一つの内壁を形成する内壁11cの一部が第2案内板13bと反対側に延長されて底板14bを形成している。その底板14bに立設されかつ注入管11の側面に直交して結合されて一対の板状体よりなるブラケット14が形成され、その底板14bとは反対側の端部近傍に支軸14aが設けられ、揺動アーム21を回動可能に支持している。一方、この一対の板状体よりなるブラケット14の内側には後述する受圧調節部を構成する圧縮スプリング28等が収容される。
【0024】
注入管11の内壁11bに直交する方向で一つの内壁をなす内壁11aは第1案内板13aと第2案内板13bとの間に位置しており、その内壁11aの外面には、外方へ延出された一対の板状体からなりロック部の一部を構成するロックピン案内部19が形成されている。そのロックピン案内部19のそれぞれの板状体には、ロックピン18を案内する案内孔19aが穿孔されている。
【0025】
注入管11の内壁11bに形成された開口部32aの周縁に固着されて筒状体32が形成されている。その筒状体32の内部には盤状体の受圧板31が進退自在に遊嵌されている。受圧板31は、その裏面において略T字状をなす連結板33の底板33aにねじ止めされ、連結板33に形成された孔33bが揺動アーム21に設けられた軸34に回動可能に嵌合されることで、揺動アーム21に連結されている。
【0026】
揺動アーム21は一対の板状体21aからなり、二本のピン21bにより二ヶ所で板状体21aが相互に連結され一体化されている。図2において、揺動アーム21の右側の端部近傍には一対の板状体21aの間に軸18cが架設され、その軸18cには、ロック部の一部を構成するロックピン18に固着された連結板18aが孔18bにおいて回動可能に支持されている。前述の通り、揺動アーム21には支軸14a及び軸34が設けられているが、図2に示す揺動アーム21の左側端部近傍のピン21bと支軸14aの間において、揺動アーム21の下部には外方に凸の曲面状の付勢力受部22が形成され、その付勢力受部22の両側にはフランジ受部23が形成されている。このフランジ受部23は、後述するフランジ付円筒体25のフランジ25aが、図2において左右に動く範囲を制限するために形成されている。
【0027】
受圧調節部20は、ねじ付軸24と、そのねじ付軸24に外嵌されフランジ付円筒体25と、ねじ付軸24に螺合されるフランジ付ナット26と、そのフランジ付円筒体25とフランジ付ナット26との間に装着される圧縮スプリング28とで構成されている。なお、フランジ付ナット26のフランジ26aは矩形状をなしており、その対向する2辺間の距離がブラケット14の内側の距離よりもわずかに短く形成され、フランジ付ナット26がブラケット14の内側において回転できないようになっている。ねじ付軸24の一端には六角穴付頭部24aが形成され、その反対側でフランジ付ナット26が螺合される側の端部24bは、円錐状に形成され、底板14bに係合されるセッティングボルト27の円錐状凹部を有する先端部27aに当接して位置決めされる。また、ねじ付軸24は揺動アーム21の一対の板状体21aの間に挿通されることで、板状体21aに直交する方向の位置決めがされる。フランジ付ナット26のフランジ26aとフランジ付円筒体25のフランジ25aとの間の圧縮スプリング28は圧縮されれば付勢力を発現して、その圧縮量に応じてフランジ25aが揺動アーム21の付勢力受部22を押圧することになる。付勢力受部22に当接するフランジ25aで一端を動作制限される圧縮スプリング28の常態の付勢力の設定は、六角穴付頭部24aにスパナを挿してねじ付軸24を回転し、ねじ付軸24のねじ部に螺合しているフランジ付ナットを上下させて、フランジ25aとフランジ26aとの間隔を変化させて行われる。
【0028】
次に図3、4を用いて、コンクリートの圧力が異常圧となったときの、異常圧開放装置10の作動の状況を説明する。図4に示すように、コンクリートの圧力を受けた受圧板31は上方に後退し、その動きに伴い、連結板33及び軸34を介して受圧板31が揺動アーム21を押し上げる。すると支軸14aにおいて回動可能に支持されている揺動アーム21は、図4において反時計方向に回動するため、揺動アーム21の右側端部近傍に位置する軸18cは連結板18aを介してロックピン18を案内孔19a及び係合孔16aから引き抜くように動く。一方、反時計方向に回動する揺動アーム21の付勢力受部22がフランジ25aを押圧するが、圧縮スプリング28の付勢力もその押圧量に応じて強くなり、やがては、コンクリートの異常圧に対応する付勢力にまで高まる。その時点になり、揺動アーム21の反時計方向の動きに伴い引抜方向に移動していたロックピン18の先端は、係合孔16aとの係合状態から外れて、シャッター15のロック状態を瞬時に開放することになる。すると、図3に示すようにシャッター15は図示しないコンクリートの圧力に押されて一気に開放され、注入管11の一側面に形成された図示しないコンクリート流出用の流出口を最大限に開口するので、コンクリートは一気に流出して異常圧を瞬時に下げることができる。異常圧が開放された後は、図5を用いて後述するように、シャッター15を閉じてロックピン18をリセットすることになる。
【0029】
なお、受圧板31がコンクリートの圧力を受けて揺動アーム21を介して圧縮スプリング28の付勢力に抗して後退して、その動きに伴いロックピン18が案内孔19a及び係合孔16aから引き抜かれる方向に移動しても、その移動量が一定量以下であれば、シャッター15のロック状態が解かれることはない。それは、ロックピン18の先端が係合孔16aとの係合状態を解く位置に達しない内は、シャッター15が軸13cを中心に回動し得ないからである。従って、コンクリートの圧送時に脈動が発生し、受圧板31が細かな進退を繰り返しても、シャッター15はコンクリート流出用の流出口を閉じた状態でロックされている。
【0030】
図5は、ロックピン18がロックピン案内部19から完全に抜き出され、シャッター15を回動させてロック板16を、ロックピン案内部19を構成する二枚の板状体の間に自在にセットできる状況を示している。図からも明らかなように、固定ナット27bに対して緩められたセッティングボルト27が最下位の位置にあるので、セッティングボルト27の先端部27aによって端部24bが位置決めされ、ねじ付軸24のねじ部も同時に最も低い位置にあり、そのねじ部に螺合するフランジ付ナット26も低い位置にある。従って、受圧調節部20の上部のフランジ25aは、圧縮スプリング28が圧縮状態から開放されて自然長若しくは自然長に近い長さとなっていても、付勢力受部22に当接しない位置にあるか、当接しても弱い押圧力しか及ぼさない。すると、揺動アーム21を反時計方向に回動することが容易になり、揺動アーム21を回動して、揺動アーム21の反対側に連結するロックピン18をロックピン案内部19から完全に抜き出すことが自在となる。なお、セッティングボルト27の位置を変えることなく、工具等を用いて揺動アーム21を反時計方向に回動すれば、ロックピン18をロックピン案内部19から抜き出すことができることは言うまでもない。
【0031】
従って、上記実施形態の打設コンクリートの異常圧開放装置によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、受圧板31においてコンクリートの圧力を受けたとき、受圧板31は後退するが、圧力が圧縮スプリング28の設定圧力よりも高い異常圧になったときに受圧板31の後退量が最も大きくなる。そして、その受圧板31の最大の後退量に近くなったとき、ロックピン18によるシャッター15のロック状態が瞬時に解除されるようにした。そのため、シャッター15が一気に開放されてコンクリートの速やかな流出が可能となるので、打設コンクリートの異常圧を速やかに開放することができる。
【0032】
(2)上記実施形態では、シャッター15は、ロックピン18と係合孔16aとの係合状態が解かれない限りロックされ、注入管11に形成されたコンクリートの流出口を閉塞する位置に留まるようになっている。そのため、コンクリートの圧送時の脈動より受圧板31が細かな進退を繰り返したとしても、シャッターは回動せずコンクリートの流出口を閉じたままのロック状態を保つことができる。
【0033】
(3)上記実施形態では、注入管11内のコンクリートの圧力が異常圧まで高まれば、その圧力を直接受ける受圧板31が揺動アーム21を介して圧縮スプリング28の付勢力に抗して徐々に後退することになるようにした。そのため、注入管11内のコンクリートの圧力が高まり異常圧に達したとき、ロックピン18と係合孔16aとの係合が解除されシャッター15のロックを瞬時に解除することになる。従って、シャッター15が一気に開放され、コンクリートの瞬時の流出を可能として、注入管11内のコンクリートの異常圧を短時間に開放することができる。
【0034】
(4)上記実施形態では、圧縮スプリング28の付勢力の微調節が、ねじ付軸24の正転及び逆転により容易にできる。従って、注入されるコンクリートの圧力についての異常圧力をどのように設定しても、その圧力に対応する圧縮スプリング28の付勢力の調節を容易に行うことができる異常圧開放装置を提供できる。
【0035】
(第2の実施形態)
次に、本発明を具体化した打設コンクリートの異常圧開放装置の第2の実施形態を、第1実施形態と異なる部分を中心に図6を用いて説明する。
【0036】
本実施形態は、受圧部が、セントル4に形成された開口部62aにおいてコンクリートの圧力を受圧板61によって受けるようになっており、かつ、受圧部、揺動アーム21及び受圧調節部60等に対してシャッターが近接して設けられていない点が第1の実施形態とは大きく異なる。また、細部においては、ロックピン18に連結するロックワイヤ68を用いており、連結板33の代わりに連結板63を用いている点、及びセッティングボルト27を用いていない点が異なる。
【0037】
図6に示すように、受圧調節部60の構成が受圧調節部20の構成と異なる部分は、前述したようにセッティングボルト27を用いない点とブラケット64がセントル4及び筒状体62の外周に固着されるためブラケット14とは形状が異なる点にある。セッティングボルト27を用いない本実施形態においては、ねじ付軸24の先端はセントル4に形成された位置決め穴4bに当接して位置決めされるようになっている。
【0038】
前述のように、セントル4の内側に注入されたコンクリートの圧力を受けるために筒状体62は開口部62aの周縁に固着されており、受圧調節部60はセッティングボルト27を用いないものの、セントル4の位置決め穴4bに位置決めされて立設状態になっている。そのため、受圧板61を揺動可能に揺動アーム21の軸34に嵌合するための連結板63は連結板33に比べて高さが高くなっている。
【0039】
そして、本実施形態における打設コンクリートの異常圧開放装置10aでは、受圧部、受圧調節部60及び揺動アーム21が構成される部分とは離れて、注入管11の一側面に形成されたコンクリート流出用の流出口を開閉するシャッター15をロック又はアンロック状態にするロック部が設けられている。そのため、ロックピン18に連結してロックピン18を案内孔19a及び係合孔16aから引き抜く方向に移動させるためのロックワイヤ68が、連結板68aに連結されている。このロックワイヤ68はシャッター15のロック部が設けられた部分に揺動アーム21の動きを伝達するため、方向変換部65により張設方向を変える必要があり、例えば図6に示すように、方向変換プーリー65aにより直角方向にロックワイヤ68の張設方向を変換している。方向変換プーリー65aはセントル4に固着されたブラケット65cに設けられた軸65bに回動可能に支持されている。なお、本実施形態におけるロックピン18は、図示しないスプリングを用いて、ロックピン18が案内孔19a及び係合孔16aに留まることができる方向に、弱い付勢力をかけられている。そのため、ロックワイヤ68が弛んでセットされることが防止される。
【0040】
なお、本実施形態においては、セッティングボルト27を用いずに、ねじ付軸24の先端を位置決め穴4bに当接させるようにしたが、このようにセッティングボルト27に代わる高さ張設装置を用いることがあってもよい。
【0041】
そして、この第2実施形態においては、第1の実施形態の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(5)上記実施形態では、受圧部がセントル4に形成された開口部62aにおいてコンクリートの圧力を受圧板61によって直接受けることができるようにした。そのため、セントル4とトンネルの内壁面との間においてコンクリートの圧力が異常圧となることが懸念される個所に開口部62aを形成して、その周縁部に筒状体62を形成して受圧部を設ければ、注入されたコンクリートの部分的な異常圧によってセントル4が歪んだり破壊されたりすることを防止できる。
【0042】
(変更例)
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、シャッター15を注入管11の一側面のコンクリートの流出口に対して開閉可能に設けたが、シャッター15をセントル4に形成したコンクリートの流出口に対して開閉可能に設けてもよい。
・上記実施形態では、注入管11を四角筒状体としたが、注入管11の形状はこれに限らず、円筒状体であっても、四角以外の多角形筒状体であってもよい。
・上記実施形態では、揺動アーム21において支軸14aを挟んで受圧板31の連結板33と付勢力受部22とを配置し、付勢力受部22に対して圧縮スプリングの付勢力が作用するようにした。しかし、揺動アーム21において支軸14aの一方の側に受圧板31の連結板33及び付勢力受部22を配置して、付勢力受部22に対して引張スプリングの付勢力が作用するようにしてもよい。
・上記実施形態では、ロックピン18を円柱状体としたが、ロックピン18は多角柱状体又は板状体であってもよい。
・上記実施形態では、ロックピン18の軸心の方向をシャッター15を回動可能に支持する軸13cの軸心方向と平行にしたが、軸13cの軸心方向に直交する方向としてもよい。その際、ロック板16を構成する板状体の平面部の方向を軸13cの軸心方向に対して平行にすることが望ましい。
・上記実施形態では、被ロック部を係合孔16aを有するロック板16としたが、係合孔16aを設けず、シャッター15のロック状態において、ロックピン18を、シャッター15が開放する方向の側のロック板16の外周に当接させて、シャッター15の回動を阻止するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態を示す平面図。
【図2】そのA矢視図を示す一部断面図。
【図3】シャッターが開放された状態を示す平面図。
【図4】そのB矢視図を示す一部断面図。
【図5】ロックピンがロックピン案内部から引き抜かれた状態を示す一部断面図。
【図6】本発明の第2実施形態を示す一部断面図。
【図7】従来技術を示す模式的図であって、(a)は蓋体の作動前の状態を示し、(b)は蓋体の作動後の状態を示す。
【図8】従来技術を示す一部斜視図であって、(a)はその一実施例を示し、(b)は他の実施例を示す。
【符号の説明】
【0044】
4…セントル、7…内壁面、11…注入管、14a…支軸、15…シャッター、18a,33,63,68a…連結板、20,60…受圧調節部、21…揺動アーム、21a…板状体、22…付勢力受部、23…フランジ受部、24…ねじ付軸、24b…端部、25…フランジ付円筒体、25a,26a…フランジ、26…フランジ付ナット、27…セッティングボルト、28…圧縮スプリング、31,61…受圧板、32,62…筒状体、32a,62a…開口部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの内壁面とセントルとの間に注入管内を圧送してコンクリートを打設する際、注入されるコンクリートの圧力が異常圧となったときにシャッターを開放してコンクリートを流出させる装置において、注入コンクリートの圧力を受けて進退が可能な受圧部と、その受圧部の進退の動きを揺動アームを介して受ける受圧調節部と、その揺動アームに連結されて前記シャッターをロック又はアンロック状態にするロック部とで構成されることを特徴とする打設コンクリートの異常圧開放装置。
【請求項2】
前記シャッターは、前記注入管に形成されたコンクリートの流出口に対して開閉可能に、その外周の一部が支軸を介して回動可能に前記注入管の外壁に連結され、その支軸と反対側の外周には、前記ロック部により前記シャッターを閉塞状態にロックする被ロック部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の打設コンクリートの異常圧開放装置。
【請求項3】
前記受圧部は、前記注入管の開口部に設けられた筒状体に遊嵌される受圧板が、その裏面において連結板を介して前記揺動アームに回動可能に連結され、一方、前記揺動アームは前記注入管の外面に設けられた支軸において揺動可能に支持され、その支軸を挟んで前記連結板とは反対側の揺動アームの一部には、前記受圧調節部の付勢力を受ける付勢力受部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の打設コンクリートの異常圧開放装置。
【請求項4】
前記受圧調節部は、ねじ付軸と、そのねじ付軸に外嵌され前記付勢力受部に当接するフランジを有するフランジ付円筒体と、前記ねじ付軸に螺合されるフランジ付ナットと、そのフランジ付円筒体とフランジ付ナットとの間に装着される圧縮スプリングとで構成され、前記ねじ付軸のフランジ付ナットが螺合される側の端部は、前記注入管の外面に設けられた板状体に係合されたセッティングボルトに当接して位置決めされ、一方、前記フランジ付円筒体のフランジは、前記揺動アームの前記付勢力受部の両側に形成されたフランジ受部により位置決めされていることを特徴とする請求項3に記載の打設コンクリートの異常圧開放装置。
【請求項5】
前記受圧部は、前記セントルに形成された開口部に設けられた筒状体に遊嵌される受圧板が、その裏面において連結板を介して前記揺動アームに回動可能に連結して形成され、一方、前記揺動アームは前記セントルの外面に設けられた支軸において揺動可能に支持されており、その支軸を挟んで前記連結板とは反対側の揺動アームの一部には、前記受圧調節部の付勢力を受ける付勢力受部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の打設コンクリートの異常圧開放装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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