説明

抄紙作業性向上剤及びそれを用いた抄紙作業性向上方法

【課題】紙や板紙を製造する工程において、水系のpHが中性・塩基性条件下のみならず、酸性条件下においても、優れた汚れ付着防止効果と、優れた剥離性向上効果の両方を発揮しうる抄紙作業性向上剤及びそれを用いた抄紙機の抄紙作業性向上方法を提供する。
【解決手段】本発明の抄紙作業性向上剤は、ノニオン界面活性剤としての構成部分を有する酸性界面活性剤と、アミノ基含有ポリマーと、ノニオン界面活性剤とを有効成分として含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙や板紙等を製造する抄紙工程において、製造装置や製造用具等に付着する汚れを防止したり洗浄したりするとともに、湿紙の剥離性を向上させることができる、抄紙作業性向上剤及びそれを用いた抄紙作業性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルプや紙の製造工程では、ピッチと呼ばれる古紙由来の粘着物や、樹木由来の粘着性天然樹脂や、使用薬品由来の粘着物等に起因する汚れが抄紙製造装置(例えば洗浄機、チェスト、流送配管、ファンポンプ、ロールなど)や、用具(例えば、ワイヤー、フェルトなど)に付着し、作業性を低下させるという問題が発生している。特に、紙や板紙等を製造する抄紙工程においては、粘着物由来の汚れが抄紙製造装置や用具へ付着することにより、製品の品質に悪影響を与えるのみならず、湿紙が粘着物に捕られて穴が開いたり、プレスロールや用具からの紙離れが悪くなって断紙したりして、生産性低下の原因となっている。
【0003】
また、昨今においては、製紙資源の有効活用のために古紙が多く使用されており、このことが粘着性の汚れ付着の問題をさらに顕著化する要因となっている。さらには、近年における抄紙機の高速化により、湿紙の製造装置・用具からの剥離時において断紙する問題も生じており、粘着性の汚れ付着の問題が生じていない抄紙機においても、湿紙の剥離性の向上が求められている。
【0004】
従来、粘着性の汚れ付着を防止するための薬剤としては、アミノ基含有ポリマーが用いられている。例えば、ポリオキシアルキレン脂肪族アミン、有機ホスホン酸及び非イオン界面活性剤を有効成分とする汚れ防止剤(特許文献1)や、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩、ポリオキシアルキレン高級脂肪族アミン及び1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸を有効成分としたピッチ抑制剤(特許文献2)や、ポリエーテルエステルアミドとポリオキシアルキル化ポリアミドとを含有する汚れ付着防止剤(特許文献3)等である。その他、アミノ基含有ポリマーを用いない例としては、フタル酸ジアルキルエステル及びアジピン酸ジアルキルエステルを含有する洗浄剤が提案されている(特許文献4)。
【0005】
一方、紙離れ性をよくするための剥離剤としては、ノニオン界面活性剤がよく用いられている。例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルと水溶性ポリマーとを有効成分とした剥離剤(特許文献5)等である。
【0006】
さらに、本発明者は、汚れ付着防止効果と剥離性向上効果の両方の効果を兼ね備えた抄紙作業性向上剤として、酸性界面活性剤とアミノ基含有ポリマーとの混合物を有効成分とする抄紙作業性向上剤を開発している(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−279081号公報
【特許文献2】特許第4151048号公報
【特許文献3】特開2008−240227号公報
【特許文献4】特開2005−187980号公報
【特許文献5】特許4002590号公報
【特許文献6】特開2010−209479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献6の抄紙作業性向上剤は、水系のpHが中性や塩基性条件下での使用では、汚れ付着防止効果及び剥離性向上効果に優れているものの、酸性条件下において使用した場合には、それらの効果が低下するという問題があった。
【0009】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、紙や板紙を製造する工程において、水系のpHが中性や塩基性の条件下のみならず、酸性条件下においても、優れた汚れ付着防止効果と、優れた剥離性向上効果の両方を発揮しうる抄紙作業性向上剤及びそれを用いた抄紙機の抄紙作業性向上方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を行った結果、酸性界面活性剤とアミノ基含有ポリマーとの混合物に、ノニオン界面活性剤をさらに配合すれば、水系のpHが中性及び塩基性の条件下のみならず、酸性の条件下でも優れた汚れ付着防止効果と優れた剥離性向上効果の双方を発揮できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の抄紙作業性向上剤は、下記一般式(1)又は(2)で表される酸性界面活性剤の少なくとも1種と、アミノ基含有ポリマーと、下記一般式(3)乃至(5)で表されるノニオン界面活性剤の少なくとも1種と、を有効成分として含有することを特徴とする。
【0012】
【化1】

【0013】
ただし、上記一般式(1)〜(5)において、R1及びRは炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、nは1〜100の整数であり、Xは下記一般式(6)〜(11)のいずれかの官能基を示し、EOはオキシエチレン基を示し、POはオキシプロピレン基を示し、aとcの和は0〜100の整数であり、bは0〜100の整数であり、a、b及びcは同時に0とはならない。
【化2】

【化3】

上記一般式(7)において、Rは炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示し、l、mはともに1以上の整数を示す。
【化4】

【化5】

【化6】

上記一般式(10)において、R1は炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、nは1〜100の整数を示す。
【化7】

上記一般式(11)において、Rは炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、nは1〜100の整数を示す。
【0014】
本発明の抄紙作業性向上剤に含まれている酸性界面活性剤は、ノニオン界面活性剤に相当する部分(すなわち、「RO(AO)−」や「RCOO(AO)−」)に、ポリカルボン酸基や、硫酸基や、リン酸基からなる多価酸が酸性基を残しつつエステル結合されている。このため、アミノ基含有ポリマーと混合されることにより、ポリイオンコンプレックスとして複合化されていると推定される。
また、本発明者らは、このようなポリイオンコンプレックスを形成していると推定される酸性界面活性剤とアミノ基含有ポリマーとの混合物に、さらにノニオン界面活性剤を配合した抄紙作業性向上剤を用いれば、水系のpHが中性(pH=6.5)・塩基性(pH=11.0)・酸性(pH=3.0)のすべての条件下での適用において、優れた汚れ付着防止効果及び剥離性向上効果を奏することを確認している。
【0015】
本発明の抄紙作業性向上剤に含有される酸性界面活性剤の具体例として、例えばポリオキシアルキレンアルキルエーテルのポリカルボン酸モノエステル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルのポリカルボン酸モノエステル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルのポリカルボン酸モノエステル及びポリオキシアルキレン脂肪酸エステルのポリカルボン酸モノエステル等が挙げられ、これらを単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0016】
また、本発明の抄紙作業性向上剤に含有されるアミノ基含有ポリマーの具体例として、例えばポリアミドポリアミン、ポリアミドポリアミン−エピクロルヒドリン樹脂、ポリアルキルアミン及びポリアルキルアミン−エピクロルヒドリン樹脂等が挙げられ、これらを単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
さらに、本発明の抄紙作業性向上剤に含有されるノニオン界面活性剤の具体例として、例えばポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル及びポリオキシアルキレン脂肪酸エステル等が挙げられ、これらを単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。これらのノニオン界面活性剤は、本発明の抄紙作業性向上剤に含有させるために、水や親水性溶媒に溶解した状態のものを添加することが望ましい。
【0018】
また、本発明の抄紙作業性向上剤のpHは、6以上12未満とされていることが好ましい。抄紙作業性向上剤のpHが6未満では酸性界面活性剤が過剰となり、剥離性向上効果が低減することがある。また、抄紙作業性向上剤のpHが12以上ではアルカリ性が強いため、ハンドリングに注意を要する。特に好ましいのは抄紙作業性向上剤のpHが6.3以上11未満であり、最も好ましいのは、pHが6.5以上10未満である。
【0019】
さらに、本発明の抄紙作業性向上剤は、固形分重量比で、(酸性界面活性剤):(アミノ基含有ポリマー)が10:1〜1:10の範囲であり、且つ(酸性界面活性剤とアミノ基含有ポリマーの総和):(ノニオン界面活性剤)が15:1〜15:20の範囲において、特に優れた汚れ付着防止効果及び特に優れた剥離性向上効果を示す。さらに好ましいのは(酸性界面活性剤):(アミノ基含有ポリマー)が6:1〜1:6の範囲であって(酸性界面活性剤とアミノ基含有ポリマーの総和):(ノニオン界面活性剤)が5:1〜5:6の範囲であり、最も好ましいのは(酸性界面活性剤):(アミノ基含有ポリマー)が5:1〜1:1の範囲であって(酸性界面活性剤とアミノ基含有ポリマーの総和):(ノニオン界面活性剤)が3:1〜1:1の範囲である。
【0020】
本発明の抄紙作業性向上方法は、本発明の抄紙作業性向上剤を抄紙機及び/又は該抄紙機の用具に接触させることを特徴とする。その接触方法については特に限定はないが、噴霧したり、掛け流したり、浸漬したりする方法等が挙げられる。中でも、抄紙機及び/又は該抄紙機の用具に噴霧する方法が容易である。
【0021】
ここで、抄紙機とは、ワイヤーパート、プレスパート及びドライヤーパートを有する連続する一連の装置群及び付属設備を指し、例えば、洗浄機、チェスト、流送配管、ファンポンプ、ロール等の装置が挙げられる。また、抄紙機の用具とは、前記装置で使用される、ワイヤー、フェルト等が挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明の抄紙作業性向上剤の含有成分である酸性界面活性剤は、前述した一般式(1)又は(2)で表される酸性界面活性剤を単独で、又はこれらを2種以上を混合して用いることができる。一般式(1)で表される酸性界面活性剤は、炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を有するアルコール類(又はフェノール類)に、炭素数2〜4のオキシアルキレンを1〜100モルの任意の割合で付加させてグリコール誘導体とし、このグリコール誘導体をポリカルボン酸モノエステル化、あるいは硫酸モノエステル化、あるいはリン酸モノエステル(又はジエステル化)させた化合物である。
【0023】
一方、一般式(2)で表される酸性界面活性剤は、炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を有するカルボン酸(例えば、直鎖カルボン酸や安息香酸等の芳香族カルボン酸)に、炭素数2〜4のオキシアルキレンを1〜100モルの任意の割合で付加させてグリコール誘導体とし、このグリコール誘導体をポリカルボン酸モノエステル化、あるいは硫酸モノエステル化、あるいはリン酸モノエステル(又はジエステル化)させた化合物である。
【0024】
これらの酸性界面活性剤の中でも、好ましいのはポリカルボン酸モノエステルである。こうしたポリカルボン酸モノエステルは、前述したグリコール誘導体と酸無水物とを反応させることにより、容易に調製することができる。酸無水物としては、例えばコハク酸無水物、マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物等を用いることができる。
【0025】
また、本発明の抄紙作業性向上剤の含有成分であるアミノ基含有ポリマーは、前述した酸性界面活性剤と反応して四級アンモニウム塩となり、ポリイオンコンプレックスを形成していると推定される。アミノ基含有ポリマーとしては、ポリアミドポリアミン、ポリアミドポリアミン−エピクロルヒドリン樹脂、ポリアルキルアミン、ポリアルキルアミン−エピクロルヒドリン樹脂等を用いることができる。これらのアミノ基含有ポリマーの中でも、ポリアミドポリアミン、ポリアミドポリアミン−エピクロルヒドリン樹脂は特に好ましい。
【0026】
また、アミノ基含有ポリマーとして用いられるポリアミドポリアミンとしては、ジエチレントリアミンやテトラエチレンテトラミンやテトラエチレンペンタミンやイミノビスプロピルアミン等のポリアルキレンポリアミン類と、シュウ酸やマロン酸やコハク酸やグルタル酸やアジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、又は、フタル酸やイソフタル酸やテレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸とを、脱水縮合反応させて得られるポリアミドポリアミン等が挙げられる。
【0027】
また、前述したポリアミドポリアミン−エピクロルヒドリン樹脂は、前述のポリアミドポリアミンを、さらにエピクロルヒドリンで架橋することにより、容易に得ることができる。
【0028】
さらに、前述したポリアルキルアミンとしては、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン等のアルキレンジアミン類や、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン等のポリアルキレンポリアミン類等が挙げられる。
【0029】
また、前述したポリアルキルアミン−エピクロルヒドリン樹脂としては、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン等のアルキレンジアミンや、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン等のポリアルキレンポリアミン類を、エピクロルヒドリンで架橋反応させることによって得られる、ポリアルキルアミン−エピクロルヒドリン樹脂等が挙げられる。
【0030】
さらに、アミノ基含有ポリマーは、単独あるいは2種以上混合して用いることもできる。
【0031】
また、本発明の抄紙作業性向上剤の構成成分であるノニオン界面活性剤は、一般式(3)乃至(5)で表されるノニオン界面活性剤を単独で、又はこれらを2種以上混合して用いることができる。一般式(3)で表されるノニオン界面活性剤は、酸化エチレン(1〜100モル)や酸化プロピレン(1〜100モル)を任意の割合で付加させたポリオキシアルキレングリコールである。
【0032】
一般式(4)で表されるノニオン界面活性剤は、炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を有するアルコール類(又はフェノール類)に、酸化エチレン(1〜100モル)や酸化プロピレン(1〜100モル)を任意の割合で付加させたグリコール誘導体である。
【0033】
一般式(5)で表されるノニオン界面活性剤は、炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を有するカルボン酸(例えば、直鎖カルボン酸や安息香酸等の芳香族カルボン酸)に、酸化エチレン(1〜100モル)や酸化プロピレン(1〜100モル)を任意の割合で付加させてグリコール誘導体である。
【0034】
本発明の抄紙作業性向上剤の含有成分である酸性界面活性剤は、ノニオン界面活性剤に相当する部分(すなわち、「RO(AO)−」や「RCOO(AO)−」)に、ポリカルボン酸基や、硫酸基やリン酸基からなる多価酸が酸性基を残しつつエステル結合されている。このため、アミノ基含有ポリマーと混合されることにより、ポリイオンコンプレックスとして複合化されていると推定される。これにより、複合化前において無電荷だったアミノ基含有ポリマーは、複合化後にはアミノ基が電離してカチオン電荷を有するアミノ基含有ポリマーとなる。また、複合化前においてカチオン電荷を有していたアミノ基含有ポリマーは、複合化後には更に大きなカチオン電荷を有するアミノ基含有ポリマーとなる。
【0035】
本発明の抄紙作業性向上剤は、酸性界面活性剤とアミノ基含有ポリマーとの混合物に、ノニオン界面活性剤を混合することにより、容易に調製することができる。混合は常温で行なうこともできる。また、混合方法についても特に制限はなく、酸性界面活性剤とアミノ基含有ポリマーとの混合物にノニオン界面活性剤を加えても良いし、ノニオン界面活性剤に酸性界面活性剤とアミノ基含有ポリマーとの混合物を加えても良い。また、本発明の抄紙作業性向上剤は水で薄めると白濁することから、ポリイオンコンプレックスの状態は維持されていると考えられる。
【0036】
本発明の抄紙作業性向上剤は、抄紙機におけるワイヤーパート、プレスパートの用具およびロール等の装置表面に接触させることによって、粘着物汚れの付着防止、湿紙の穴あき防止、断紙の防止、用具又はロールからの湿紙の剥離性向上、抄紙機部品の摩耗低下といった、生産性向上の効果を得ることができる。
【0037】
本発明の抄紙作業性向上剤の添加方法や添加量は、パルプの種類及び紙の種類、工程の条件、ピッチの発生状況等に応じて適宜選択すればよいが、抄紙機におけるワイヤーパート、プレスパートの用具およびロール等の装置表面に該抄紙作業性向上剤を直接噴霧する方法や、既存のシャワーラインに圧入し、シャワー水で希釈して添加する方法を用いることができ、その場合の抄紙作業性向上剤の使用形態としては、濃厚液として使用しても良いが、水で希釈して用いることもできる。水で希釈する場合の本発明の抄紙作業性向上剤の濃度(酸性界面活性剤、アミノ基含有ポリマー及びノニオン活性剤を合わせた固形分重量)は、0.00001重量%以上とすることが好ましい。0.00001重量%より小さい場合は、粘着物汚れの付着防止効果や剥離性向上効果が低くなる。
【0038】
また、抄紙作業性向上剤を水で希釈する場合の方法としては、濃厚液に水を加えて混合してもよいし、水に濃厚液を加えて混合してもよい。また、混合器等を用いて流水中に定量混合してもよい。
【0039】
また、本発明の抄紙作業性向上剤は、抄紙機の操業中又は停止中に、用具およびロール等の装置表面に接触させることが効果的である。この場合において、接触は連続的又は間欠的に行うことができる。
【0040】
また、本発明の抄紙作業性向上剤は、印刷・情報用紙、塗工紙、新聞用紙、衛生用紙、板紙、段ボール原紙等、パルプ原料を使用して紙を製造するいかなる抄紙機に対しても、用いることができる。さらに、本発明の抄紙作業性向上剤の効果を損なわない範囲において、他の工程添加剤(例えば、消泡剤、スケールコントロール剤、スライムコントロール剤及び他のピッチコントロール剤等)を配合・併用してもよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。また、特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【0042】
(実施例1)
実施例1では、酸性界面活性剤としてのポリオキシアルキレン(EO12、PO3)アルキル(C10)エーテルモノコハク酸エステルと、アミノ基含有ポリマーとしてのジエチレントリアミン−アジピン酸縮合物(平均分子量2,000、50%水溶液)と、ノニオン界面活性剤としてのポリオキシアルキレン(EO12、PO35)グリコールを混合して調製した。ここで「(EO12、PO3)」とは、エチレンオキサイドが12個結合しており、ポリプロピレンオキサイド単位が3個結合していることを示し、「(C10)」とは、アルキル基が直鎖で炭素数10個からなることを示す(以下同様)。調製方法の詳細は以下のとおりである。
【0043】
まず、酸性界面活性剤としてのポリオキシアルキレン(EO12、PO3)アルキル(C10)エーテルモノコハク酸エステルを以下のようにして調製した。
温度計、冷却器及び撹拌機を備えた1000ml四つ口フラスコに、ポリオキシアルキレン(EO12、PO3)アルキルエーテル(C10)843g(1モル)と無水コハク酸120g(1.2モル)を仕込み、100℃で5時間反応を行った。こうして、ポリオキシアルキレン(EO12、PO3)アルキルエーテル(C10)モノコハク酸エステル(酸性界面活性剤1)を得た。酸性界面活性剤1のエステル化率を中和滴定法により測定したところ、97%であった。
【0044】
得られた酸性界面活性剤1の10gを、水80gに溶解した後、常温撹拌下のジエチレントリアミンーアジピン酸縮合物(平均分子量2,000、50%水溶液)10gの中に加え、均一な溶液となるまで撹拌を継続し、ポリイオンコンプレックス1を得た。
【0045】
こうして得られた常温撹拌下のポリイオンコンプレックス1の91gに、ノニオン界面活性剤のポリオキシアルキレン(EO12、PO35)グリコール9gを加え、均一な溶液となるまで撹拌を継続し、実施例1の抄紙作業性向上剤を得た。
【0046】
(実施例2〜38)
実施例2〜38では、まず表1に示す酸性界面活性剤1〜12のいずれかと、下記表1に示すアミノ基含有ポリマー1〜5のいずれかを混合することによって、表2に示すポリイオンコンプレックス1〜21を得た。その後、得られたポリイオンコンプレックス1〜21のいずれかと、下記表1に示すノニオン界面活性剤1〜8のいずれかを混合することによって、表3に示す実施例2〜38の抄紙作業性向上剤を得た。各実施例の組み合わせ及び混合割合は、下記表2並びに表3に示すとおりである。また、酸性界面活性剤2〜6は、実施例1において調製した酸性界面活性剤1と同様の方法により、対応するポリオキシアルキレンアルキルエーテルと対応するカルボン酸無水物との反応によって調製した。また、酸性界面活性剤7は、対応するポリオキシアルキレンアルキルエーテルと対応するクロル硫酸との反応によって調製した。さらに、酸性界面活性剤8は、対応するポリオキシアルキレンアルキルエーテルとオキシ塩化リンとの反応によって調製した。また、酸性界面活性剤9〜11は、対応する脂肪酸ポリオキシアルキレンと、対応するカルボン酸無水物との反応によって調製した。さらに、酸性界面活性剤12は安息香酸ポリオキシアルキレンと無水コハク酸との反応によって調製した。尚、酸性界面活性剤2〜6及び酸性界面活性剤9〜12製造における原料の仕込み比はグリコール誘導体:酸無水物=1モル:1.2モルとし、酸性界面活性剤7における原料の仕込み比はグリコール誘導体:クロル硫酸=1モル:1.2モルとし、酸性界面活性8製造における原料の仕込み比はグリコール誘導体:オキシ塩化リン=1モル:1.2モルとした。
【0047】

【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
(比較例1〜14)
比較例1〜8では、表2に示したポリイオンコンプレックスIC-1、 IC-2、 IC-5、IC-6、IC-7、 IC-13、 IC-16、 IC-20をそのまま用いた。また、比較例9〜14では、下記表4に示す薬剤(比較例9ではN-1、比較例10ではN-3、比較例11ではN-4、比較例12ではN-5、比較例13ではN-7、比較例14ではN-8)を用い、表4に示す水分及び各薬剤の割合で混合することにより調製した。
【0051】
【表4】

【0052】
−評 価−
以上のようにして得られた実施例1〜37及び比較例1〜14の抄紙作業性向上剤について粘着物付着防止試験を行い、また、実施例1〜38及び比較例1〜14の抄紙作業性向上剤について湿紙剥離性向上試験を行なった。
【0053】
(1)粘着物付着防止試験
白板紙中層用パルプを用い、紙パルプ技術協会発行の「紙パルプ試験方法」に記載のJ.TAPPI紙パルプ試験法No.11「パルプピッチの金網付着量試験方法」に従い、粘着物の付着防止効果について評価を行った。
供試パルプスラリーのpHは、硫酸バンドまたは5%苛性ソーダによりpH3.0、6.5、11.0に調整し、温度は50℃にて試験を行った。抄紙作業性向上剤はパルプスラリー100重量部に対し、0.01、0.05、0.1重量部添加し、粘着物の付着防止効果を評価した。評価は次式で表される付着防止率で行なった。
抄紙作業性向上剤未添加時の粘着物付着量:Amg
抄紙作業性向上剤添加時の粘着物付着量:Bmg
付着防止率=(A−B)/A×100(%)
【0054】
その結果、表5に示すように、比較例1〜8では、供試パルプスラリーのpHが6.5と11.0の場合には優れた付着防止率を示すが、そのpHが3.0の場合には付着防止率が大幅に低下した。また、比較例9〜14では、いずれのpHにおいても付着防止率は極めて低かった。
これに対し、実施例1〜37では、比較例に比べて、すべてのpH値(pH=3.0、6.5、11.0)で極めて優れた付着防止率を示した。
【0055】
【表5】

【0056】
(2)湿紙剥離性向上試験
所定の抄紙作業性向上剤を水で2,000倍に希釈し、硫酸バンドまたは5%苛性ソーダによりpH3.0、6.5、11.0に調整することにより、抄紙作業性向上剤溶液を得た。坪量40gの新聞紙を2×10cmの長方形に切り取り、一方の端から2×5cmの部分を得られた所定の抄紙作業性向上剤溶液に1分間浸漬した。次いで、浸漬部分をセラミック溶射板の上に載せ、その上に、新聞用紙を生産している抄紙機で使用しているピックアップフェルトを載せた。そして、ピックアップフェルトの上から、重さ5kgの真鍮製クーチロールにて前後往復で3回プレスし、湿紙の脱水を行った。
次いで、引張り試験機(レオテック社製FUDOH RHEO METER)に、セラミック溶射板と、抄紙作業性向上剤溶液に浸漬されていない新聞紙の一端とを取り付け、湿った新聞紙がセラミック溶射板から剥がれる時の剥離力を測定した。なお、抄紙作業性向上剤溶液に替えて水を用いた場合の剥離力をブランクとした。ブランクの剥離力を100とした時の抄紙作業性向上剤添加時の剥離力の割合を次式にて表し、この値によって剥離力の評価を行なった(この値が、小さいほど、ブランクに対する剥離力が小さく、湿紙剥離性向上効果が高いこととなる)。
水浸漬時の剥離力(ブランク):Ag
抄紙作業性向上剤溶液浸漬時の剥離力:Bg
剥離力=(B/A)×100
【0057】
その結果、表6に示すように、比較例1〜8の剥離力は、抄紙作業性向上剤溶液のpHが6.5と11.0の場合には、ブランクである水浸漬の場合の5〜6割程度となり、優れた剥離性向上効果を有すが、そのpHが3.0の場合は、その剥離力は水浸漬の場合の7〜8割程度となり、剥離性が低下した。また、比較例9〜14の剥離力は、いずれのpHにおいても水浸漬の場合と同じか、1割程度低くなったに過ぎなかった。
これに対し、実施例1〜38の剥離力は、すべてのpH値(pH=3.0、6.5、11.0)で水浸漬の場合の5〜6割程度となり、実施例1〜38は優れた剥離性向上効果を有することが分かった。
【0058】
【表6】

【0059】
上記の通り、本発明の抄紙作業性向上剤及びそれを用いた抄紙機の抄紙作業性向上方法は、紙や板紙を製造する工程において、水系のpHが中性・塩基性条件下のみならず、酸性条件下においても、優れた汚れ付着防止効果と、優れた剥離性向上効果の両方を発揮できることが明らかになった。
【0060】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の抄紙作業性向上剤は、印刷・情報用紙、塗工紙、新聞用紙、衛生紙、板紙、段ボール原紙など、パルプ原料を使用して紙を製造できる全ての抄紙機における、金属製、繊維製、セラミック製、プラスチック製などの構成部材に適用することができる。具体的には、フェルト、ワイヤー、ロール、サクションボックスなどの抄紙機の金属製の部材や布製の部材などが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)又は(2)で表される酸性界面活性剤の少なくとも1種と、
アミノ基含有ポリマーと、
下記一般式(3)乃至(5)で表されるノニオン界面活性剤の少なくとも1種と、を有効成分として含有することを特徴とする抄紙作業性向上剤。
【化1】

ただし、上記一般式(1)乃至一般式(5)においてR1及びRは炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、nは1〜100の整数であり、Xは下記一般式(6)〜(11)のいずれかの官能基を示し、EOはオキシエチレン基を示し、POはオキシプロピレン基を示し、aとcの和は0〜100の整数であり、bは0〜100の整数であり、a、b及びcは同時に0とはならない。
【化2】

【化3】

上記一般式(7)において、Rは炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示し、l、mは、ともに1以上の整数を示す。
【化4】

【化5】

【化6】

上記一般式(10)において、R1は炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、nは1〜100の整数を示す。
【化7】

上記一般式(11)において、Rは炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、nは1〜100の整数を示す。
【請求項2】
前記酸性界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのポリカルボン酸モノエステル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルのポリカルボン酸モノエステル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルのポリカルボン酸モノエステル及びポリオキシアルキレン脂肪酸エステルのポリカルボン酸モノエステルの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の抄紙作業性向上剤。
【請求項3】
前記アミノ基含有ポリマーが、ポリアミドポリアミン、ポリアミドポリアミン−エピクロルヒドリン樹脂、ポリアルキルアミン及びポリアルキルアミン−エピクロルヒドリン樹脂の少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載の抄紙作業性向上剤。
【請求項4】
前記ノニオン界面活性剤が、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル及びポリオキシアルキレン脂肪酸エステルの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の抄紙作業性向上剤。
【請求項5】
pHが6以上12未満とされていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の抄紙作業性向上剤。
【請求項6】
固形分重量比で、(酸性界面活性剤):(アミノ基含有ポリマー)が10:1〜1:10であり、且つ(酸性界面活性剤とアミノ基含有ポリマーの総和):(ノニオン界面活性剤)が15:1〜15:20の範囲である請求項1乃至5のいずれか1項記載の抄紙作業性向上剤。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の抄紙作業性向上剤を抄紙機及び/又は該抄紙機の用具に接触させることを特徴とする抄紙作業性向上方法。

【公開番号】特開2013−60673(P2013−60673A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198134(P2011−198134)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】