説明

把持装置

【課題】 本発明は、慎重な取り扱いが必要なレンズなどの光学部品にキズや歪みなどを与えることなく確実に移送出来る手段を提供し、さらに生産設備のコスト及び生産タクトを減少させる空気式把持装置を提供する。
【解決手段】 対象物把持部を伸縮性のあるバルーンで構成し、バルーンへの加減圧により把持部を膨張収縮させ、部品の外縁部を保持する。部品の外形によく馴染む把持部は保持力を保ちながらも部品等を傷つけることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被把持対象物をバルーンの気圧の加減により把持する空気式把持装置に関し、特にレンズなどの光学部品を把持し移送できる空気式把持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開2000−70276号公報
【特許文献2】特開平10−277979号公報
【特許文献3】特開平4−183588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、光学部品は小型化、樹脂化が進み先端が細い金属製の把持ジグが一般的に用いられている。金属性の把持ジグでレンズを保持する場合、誤って鋭利な把持ジグの先端がレンズ表面に接触することがある。このような場合、レンズ表面にキズを与え要求される光学特性を満たさなくなる。また、レンズ外周部を把持する場合でもガラスレンズに比べやわらかい樹脂レンズなどでは歪ませる恐れある。そこで、周知の事実である特開2000−70276号公報のような吸着式把持ジグが用いられる。
【0004】
ここで吸着式把持ジグについて図1を用いて簡単に概要を述べる。図1は吸着式把持ジグの概要図である。図1において1は加減圧機構で吸着力をコントロールする。また2は1で加圧または減圧された空気圧を3の吸着部に伝達するパイプである。3は被対象物表面を空気圧により吸着する吸盤である。4は被対象物である。吸着式把持ジグには被対象物の脱着が要求される。
【0005】
次にその原理について述べる。1で減圧すると外部から空気を吸い込む力が働く事になる。この吸い込む力を利用して、1に取り付けたパイプ2と、パイプ2の一方に取り付けた吸盤3によって、把持対象物4を吸着できる。1の吸い込む力を加圧などにより解放すれば把持対象物4を吸盤から外すことが出来る。このような吸着式把持ジグは金属性の把持ジグでレンズを保持する時のリスクは低減できるがレンズ面を吸盤のなどで把持するためレンズ面を汚す恐れがあるだけでなく、粒子などの異物が吸盤に付着していた場合、表面コート薄膜に障害を与えることなどがあり要求される光学特性を満たさない。また、把持ジグで吸着した後に検査が必要となり生産タクトが長くなり生産コストが上がる。
【0006】
そこで特開平10−277979号公報や特開平4−183588号公報などの部品供給装置が提案されている。
【0007】
特開平10−277979号公報は部品供給位置近傍と被部品供給位置近傍との間で分割フィンガを移動自在に構成し、この分割フィンガを、開位置と閉位置との間でそれぞれ移動自在である複数のフィンガ部にて構成し、この複数のフィンガ部の開閉移動によって上記分割フィンガの内側に構成される部品保持空間を拡大・縮小自在に構成し上記分割フィンガの閉位置状態では上記部品保持空間を挿入された供給部品との間に隙間ができる大きさに設定し上記部品保持空間内の空気を吸引するバキューム動作と上記部品保持空間内に送風するエアーブロー動作とを選択的に行うことができるバキューム・エアーブロー手段を設けたものである。
【0008】
特開平4−183588号公報はフィンガの内側にバルーンを配置しバルーンを膨張収縮することで対象物の把持及び脱力を得ている。しかしながら、近年、光学機器は従来に比べて、よりコンパクト化、軽量化がはかられ、構成される部品や部材おいては狭小空間に高密度で配置される。
【0009】
このような条件で複数の光学部品を隣接して配置する場合、特開平10−277979号公報や特開平4−183588号公報の様な部品供給装置では把持対象物を他の光学部品に隣接させ配置する際、フィンガが他の光学部品接触し傷や汚れなどの重要な欠陥を招く恐れがある。さらに、光学機器を構成する光学部品には円形状のレンズや板形状のミラーや6面体形状のプリズムなど様様な形状をした光学部品が混在する。このような場合、把持には複数のフィンガ形状が必要となり部品形状が変わる度にフィンガ交換が必要となり、生産設備コスト増加及び生産タクトが増加し生産コストが上がる。さらに、特開平10−277979号公報では部品保持空間内にエアーブローを送風するため脱力は向上するが部品加工設備が近くにある場合、区間を漂う微小金属粉などの異物が製品に混入する恐れがあり設備を間仕切りで仕切るなどの措置が必要となり設備コストが増える。
【0010】
また、回折レンズのようなガラスや樹脂面に微小な溝をきった光学部品には微小溝の深部に異物を混入させることがあり光学的性能を満たさなくなる。微小溝の深部に異物が混入した場合、表面の膜を著しく傷つける恐れがあるため修復が出来ず部材のロスが生じ生産コストが上がる。
【0011】
そこで本発明は、これらの問題点を解決し、慎重な取り扱いが必要なレンズなどの光学部品にキズや歪みなどを与えることなく確実に移送出来る手段を提供し、さらに生産設備コスト及び生産タクトを減少させる空気式把持装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の把持機構により慎重な取り扱いが必要なレンズなどの光学部品にキズや歪みなどを与えることなく移送することが可能となった。さらに、バルーン表面に凹凸をつけることで滑り止め効果が働き確実に把持することができ安定した移送が可能となった。よって把持後の検査をなくすことができ生産タクトが短くなり生産コストが下がった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を示す把持装置について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【実施例】
【0014】
図2は本発明把持ジグの構成図である。図2において5は加減圧機構で空気圧をコントロールする。またパイプ6は加減圧機構5で加圧または減圧された空気圧を把持バルーン7に伝達するパイプである。把持バルーン7は被対象物を空気圧により把持するバルーンである。8は把持対象物である。把持ジグには被対象物の脱着が要求される。
【0015】
次に、その原理について述べる。加減圧機構5で加圧するとバルーンに空気が送り込まれバルーンは膨張する。この膨張力を利用して、加減圧機構5に取り付けたパイプ6と、パイプ6の一方、二股に分岐されたパイプそれぞれに取り付けられたバルーンの膨張力によって、把持対象物8に着力を働かすことができ掴むことができる。7の把持バルーンに送り込む空気圧を減圧しバルーンを収縮させれば把持対象物8に脱力を働かすことができ解放することが出来る。この原理により「発明が解決しようとする課題」の欄で述べたような問題点が解決する。
【0016】
ここで、その点についてレンズを把持する時を例に説明する。レンズ側面を把持するのでレンズ表面に傷や汚れを付ける心配がない。万が一誤ってレンズ表面にバルーンが接触してもシリコン製やゴム製のものなら傷は付かない。さらに、バルーンの膨張収縮を利用するため、レンズ側面形状にフィットした状態で適度な力で把持するので歪みや応力を与えにくい。よって本発明により慎重な取り扱いが必要なレンズなどの光学部品にキズや歪みなどを与えることなく移送することが可能となる。なお、本実施例ではバルーンを2個としているがドーナツ形状などの場合は1個でも同様の効果がある、またバルーンを3個以上にしても同様の効果が望める。また、分岐パイプを用いているがバルーンに空気を送り込めれば分岐パイプでなくても同様の効果が得られる。尚、ここでは空気を用いて説明しているが、窒素や油等、他の気体及び液体でも同様の効果が得られる。
【0017】
(実施例2) 図3は本発明把持ジグの構成図である。図3において5は加減圧機構で空気圧をコントロールする。また6は5で加圧または減圧された空気圧を7の把持バルーンに伝達するパイプである。7は被対象物を空気圧により把持する把持バルーンである。8は把持対象物である。把持ジグには被対象物の脱着が要求される。
【0018】
次に、その原理について述べる。5で加圧すると把持バルーン7に空気が送り込まれバルーンは膨張する。この膨張力を利用して、5に取り付けたパイプ6と、パイプ6の一方、二叉に分岐されたパイプそれぞれに取り付けられたバルーンの膨張力によって、把持対象物8に着力を働かすことができ掴むことができる。5のバルーンに送り込む空気圧を減圧しバルーンを収縮させれば把持対象物8に脱力を働かすことができ解放することが出来る。
【0019】
しかしながら、フィンガレスの場合、把持バルーンを把持対象物に沿わせることが困難であるため、フィンガ有りの場合に比べて把持力や脱力が著しく低下する。そこでより確実な把持や脱力を実現するには図3(a)の3A-A‘断面を表した図3(b)のような滑り止め17を把持バルーンに形成することで可能となる。17の滑り止めは図3(b)の3B−3B’断面を表した図3(c)に示すようにバルーン表面に凹凸をつけている。これにより把持対象物と把持バルーンの摩擦力が増加しフィンガレスでも確実な把持が可能である。さらに表面に凹凸をつけることにより把持対象物とバルーンの間に微小な空間が出来、密着状態にならいため脱力も向上する。
【0020】
よって本発明により慎重な取り扱いが必要なレンズなどの光学部品にキズや歪みなどを与えることなく確実に移送することが可能となる。なお、本実施例では把持バルーンを2個としているがドーナツ形状などの場合は1個でも同様の効果がある、また把持バルーンを3個以上にしても同様の効果が望める。また、分岐パイプを用いているが把持バルーンに空気を送り込めれば分岐パイプでなくても同様の効果が得られる。そして、空気を用いて説明しているが他の気体及び液体でも同様の効果が得られる。さらに、滑り止めについてはバルーン表面に凹凸をつけることで説明したがバルーン表面の摩擦を大きくすることでも同様の効果が得られる。また、滑り止めを3A-3A’断面と説明しているが把持バルーンの表面で被対象物と接触する部分またはバルーン全表面でも問題ない。
【0021】
(実施例3) 本発明における実機での付加機構について述べる。フィンガレスの場合、把持対象物に把持バルーンを沿わせることが出来ないため対象物の把持力は部品の表面粗さなどのバラツキに左右されることがある。このような場合、バルーンへの圧力を微調整しなければならない。しかも量産現場では簡便な方法で速やかに調整できることが要求される。そこで図4のような圧力調整機構を付加する必要がある。
【0022】
次に図4の圧力調整機構について説明する。図4は圧力調整機構を示した構成図である。図4(a)は加減圧機構の圧力調整機構で表面に空けられた穴と蓋で構成され穴の開閉度合いにて圧力を調整する。加圧にしたいときには穴を全閉にし、減圧したいときには穴を全開にすればより穴の全閉から全開までの調節で圧力を調整できる。図4(b)はパイプの圧力調整機構で表面に空けられた穴と蓋で構成され穴の開閉度合いにて圧力を調整する。加圧にしたいときには穴を全閉にし、減圧したいときには穴を全開にすればより穴の全閉から全開までの調節で圧力を調整できる。図4(c)はバルーンの圧力調整機構で表面に空けられた穴と蓋で構成され穴の開閉度合いにて圧力を調整する。加圧にしたいときには穴を全閉にし、減圧したいときには穴を全開にすればより穴の全閉から全開までの調節で圧力を調整できる。これらの方法により圧力の調整が可能であり圧力を調整することで被対象物の脱力、着力の調整が可能となる。なお、本実施例では蓋を用いたが穴を開閉できるものならたとえ指でも同様の効果が得られる。
【0023】
(実施例4) 次に本発明における安全機構について述べる。対象物にバルーンをそぐわすことが出来ないため対象物の把持力は部品の表面粗さなどのバラツキに左右されることがある。このような場合、把持力を高めようと、ついついバルーンに圧力を過剰な加圧や減圧をしてしまうことが想定される。そこで図5のような安全機構を付加することで部品の破壊やストレスを防止することが出来る。
【0024】
次に図5の安全機構について説明する。図5は安全機構を示した構成図である。原理は実施例3と類似している。実施例3との相違点は蓋が図5に示すような構成となっていることである。穴を図5のような安全弁で閉塞すればよい。安全弁はバネで支持されており一定の圧力を超えると(バネの力を超えると)穴を解放する。これにより過剰な加圧または減圧時に安全性を確保できる。なお、本実施例ではバネを用いたが弾性体でも同様の効果が得られる。
【0025】
(実施例5) 本発明におけるその他の実機での付加機構について述べる。量産現場では装置は常に同様な状態であることが望まれる。バルーンにおいても例外ではなく温度差による圧力変化および自然漏洩による圧力変化を極力低減することが望まれる。そこで前記実施例1〜4で圧力を加圧また減圧する媒体として理想的な気体は窒素ガスである。窒素ガスは空気と比べて熱膨張率が低いため温度差による圧力変化が少なく自然漏洩が軽減できる。さらに水分除去効果があるので金属部品の劣化も防止できる。よって圧力の安定性を保ち量産現場でも使用可能な把持機構が構築できる。
【0026】
また、重量な把持対象物などの扱いが要求される場合には媒体として油が有効である。油を使用すると同じ圧力を必要とする時、空気機構よりコンパクトにできる。よって利便性が高い把持機構を構築可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
CD、DVD、BluRay、HDDVDなどの光情報記録再生装置、それを具備したビデオカメラやカーナビゲーションシステムやパソコンやオーディオなどのAV機器およびカメラや顕微鏡などの光学機器に用いる光学部品や精密部品などの把持に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】吸着式把持ジグの概要図
【図2】実施例1の把持機構の構成図
【図3】実施例2の把持機構の構成図
【図4】実施例3の空気圧調整機構の構成図
【図5】実施例4の安全機構の構成図
【符号の説明】
【0029】
1 加減圧機構
2 パイプ
3 吸盤
4 把持対象物
5 加減圧機構
6 パイプ
7 把持バルーン
8 把持対象物
9、11、13 蓋
10、12、14、15 穴
16 安全弁
17 滑り止め

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズなどの光学部品の把持装置であって、少なくとも一組の対向する伸縮自在のバルーンからなる把持部と、前記把持部に接続され、内部圧力の加減により前記バルーンを伸縮させて、対向する前記バルーン間の距離を増減させるための加減圧調整部とを備えたことを特徴とする把持装置。
【請求項2】
前記バルーンにおける把持対象物との当接面に、滑り止め加工を施したことを特徴とする請求項1記載の把持装置。
【請求項3】
前記把持部と加減圧調整部とを接続する連結部に穴と蓋で構成され、穴の開閉度合いより圧力を微調整するための機構を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の把持装置。
【請求項4】
前記加減圧調整部に弾性体で連結された穴と蓋で構成され、穴の開閉度合いにより過剰加圧及び減圧を防止する機構を設けたことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれかの把持装置。
【請求項5】
前記把持部と前記加減圧調整部とを接続する連結部に弾性体で連結された穴と蓋で構成され、穴の開閉度合いにより過剰加圧及び減圧を防止する機構を設けたことを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項記載の把持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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