説明

抑制剤の組み合わせの使用、樹脂組成物、反応性樹脂モルタル、2成分モルタル組成物、2成分モルタル組成物の化学固定用途への使用、並びに2成分モルタル組成物を収容するパトローネ、カートリッジ、及び薄膜袋

【課題】ラジカル重合可能な化合物をベースにして樹脂組成物と反応性樹脂モルタルの反応性とゲル化時間の設定のために立体障害のあるフェノール誘導体と5−ピリミジノール誘導体との混合物の使用を記載している。
【解決手段】更に阻害剤組成物を含む樹脂組成物、この樹脂組成物を含む反応性樹脂モルタルおよび本発明による反応性樹脂モルタルと改善した保管安定性と低温硬化特性を有する2成分モルタル組成物を記載している。本発明による樹脂組成物は特に種々の地下のボ−リング穴内の構造物部分の化学固定のために特に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抑制剤の組み合わせ使用、特に、反応性およびゲル化時間の調整のための、合成樹脂(特に、ラジカル重合可能な化合物)をベースとしたモルタル材(Mortelmassen)への、立体障害フェノール誘導体と組み合わされる5-ピリミジノール誘導体の使用、及び、組み合わせられたこれらの抑制剤を含む樹脂組成物、並びに、このような樹脂組成物を含有する反応性樹脂モルタル(A成分)とラジカル重合可能な化合物に対応する硬化物質を含む硬化剤(B成分)とからなる2成分モルタル組成物(Zweikomponenten-Moertelsystem)に関する。更に本発明は建築分野で使用される有機結合材としての樹脂組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカル重合可能な化合物をベースとした樹脂組成物の使用は種々の分野において、中でも建築分野において以前から知られている。固定化技術の分野では、ポリマコンクリート用の有機結合材として樹脂組成物の使用が盛んになってきた。このような状況下で、アンカーボルトの固定のための、ラジカル重合可能な化合物をベースとした樹脂組成物を含む反応性樹脂モルタル(A成分)と、硬化物質を含む硬化剤(B成分)とよりなる2成分モルタル組成物における反応性樹脂モルタルとしての樹脂組成物の使用が特に重要な問題となっている。この場合、A成分、B成分の一方又は両方に無機の添加剤または染料のような通常の他成分を含むこともできる。A成分とB成分との混合によって、その後にラジカルの生成によって反応が進行し、有機結合材が硬化して熱硬化した高分子となる。
【0003】
ラジカル開始剤の生成の促進し重合反応を促進することのできる化合物、いわゆる促進剤を含む樹脂組成物は、重合反応抑制力を有する化合物、すなわち安定化剤の添加を必要とする。この安定化剤は、重合反応そのもの及びそれによって保管中に発生しうるラジカル重合可能な化合物の好ましくない事前の重合を、生成したラジカルを捕捉することによって抑制するのに供されるものである。安定化剤としては通常の種々の化合物が使用され、これらの化合物はラジカル硬化可能な化合物に20ppm〜1000ppm添加される。これらの化合物のいつくかは、ゲル化時間の調整のためにも使用され、すなわち促進剤を含む樹脂組成物またはこの樹脂組成物を含む反応性樹脂モルタルと、硬化剤との混合後の重合開始を遅延するために使用できる。ただし、安定化剤の量は、特に促進剤を使用した場合には、目的とするゲル化時間に応じて、明らかに5000ppmおよびそれ以上に増加しなくてはならない。これに関連してこのようなゲル化時間遅延の目的に用いられる化合物を、安定化剤と機能的な区別して、抑制剤と呼ぶ。この種の抑制剤として通常はヒドロキノン、p−メトキシフェノール、4−tert−ブチルブレンツカテキン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールまたは2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、もしくは、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPOL)のような安定なニトロキシラジカルが使用される。
【0004】
フェノール化合物、中でも、例えばヒドロキノン、ブレンツカテキン、及び、これらをアルキル置換した誘導体(例えば、4−tert−ブチルブレンツカテキン、メチルヒドロキノンなど)のような、その反応性ゆえに、反応性樹脂の前記事前の重合の抑制ための抑制剤として特にふさわしい化合物は、空中の酸素によって不活性化するという欠点を持っており、このことは、被抑制物質の保管中に抑制作用を徐々に損なうことになる。この不活性化はアルカリ性の媒体、例えばセメントのようなアルカリ性に作用する充填剤の存在下においていっそう高まり、このことは無機の充填材を有するモルタル材、または無機−有機の混合モルタルにあっては問題になることがある。抑制剤の不活性化は結果としてゲル化時間が認容できないレベルまで短くなり、樹脂又はモルタル材は、使用前の保管中にゲル化時間の大きなドリフトを生じることになる。
【0005】
そのようなゲル化時間のドリフトを防止するために、特許文献1には、安定化剤として本来優れている4−tert−ブチルブレンツカテキンをピペリジニル−N−オキシルまたはテトラヒドロピロール−N−オキシルのような安定なニトロキシラジカルに置換することが提案されている。これらはある程度ゲル化時間を安定させる。しかし、これらの抑制剤は低温において重合反応の過度の抑制をもらし、これらの抑制剤を含有する反応性樹脂は空中の酸素によって表面が強く抑制されることが示されており、このことは硬化のロバスト性の低下に繋がる。更に、ニトロキシラジカルを抑制剤とした場合には、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂におけるポリマー性メチレンジフェニルジイソシアネートのようなラジカル硬化反応が可能なエチレン性の不飽和化合物の生成の際の初期段階でわずかな酸が含有されることもあり、この酸は、ニトロキシラジカルの不均衡化およびそれによる不活性化に繋がることが推測される。
【0006】
2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールおよび2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノールのような立体障害フェノールはゲル化時間のドリフトに関して明らかに安定した挙動を示し、室温において適度に重合反応を抑制する。しかしながら、低温においては、このような抑制剤を用いて硬化した樹脂の品質は不満足なものであり、従ってそのような抑制剤によって反応を抑制された反応性樹脂を用いて固定したアンカーボルトの引き抜き強度も不満足なものとなる。更に、樹脂の安定化のために使用される多数の化合物は、ゲル化時間の調整のための手段としてはふさわしいものではないことが確認されている。なぜなら、これらの樹脂は、ゲル化時間の調整に要求される場合のように大量に用いられる場合には遅延剤として機能し、すなわち、重合反応を不完全なものとし、ひいては、製品の機械的特性を大きく損なってしまうからである。これらの樹脂は本来、樹脂の安定に、すなわち保存安定性に供されるものである。
【0007】
不満足な硬化速度と低温での硬化の問題の解決のために特許文献2は、4−tert−ブチルブレンツカテキンの活性度の高いtert−ブチル基を、活性度の低い基で置換し、それによって、わずかなゲル化時間のドリフトがあっても十分な反応抑制性能を有するとともに、低温での硬化においても2成分系の反応性樹脂の性能ならびにロバスト性を高めることを提案している。
【0008】
ブレンツカテキンおよびその誘導体は低温においてもゲル化時間の調整に非常に有効な抑制剤であるが、しかし、自己酸化の傾向が強く、この傾向は、アルカリ性雰囲気中でさらに高まり、従ってゲル化時間のドリフトも同様に大きくなってしまう。
【0009】
したがって、これらの公知の解決方法のどれもが反応性樹脂の満足すべきゲル化時間安定性には繋がらず、このことは、なかでもセメントまたは他のアルカリ性または酸性に反応する物質の存在下で充填材として用いられる場合、または、反応性樹脂モルタルの残留酸濃度が高い場合は、顕著にあらわれ、そして、低温での満足すべき硬化を同時に達成しようとする場合にはなおさらである。
【0010】
3−ピリジノール化合物および5−ピリミジノール化合物の抑制剤としての使用が、従来から公知の抑制剤に対比して、同等の抑制挙動を呈し、かつ、同等のモルタル材の硬化後耐荷重性能を付与することができ、しかもそれによる欠点もないことが、発明者によって示された。ただし、これらの化合物の製造は比較的高価であり、その結果、その大量の導入は、特にマスプロ製品にあっては、極めて非経済的である。それゆえに、3−ピリジノール化合物および5−ピリミジノール化合物と同等の特性を有し製造においてはより効率的な生産が可能な抑制剤が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】独国特許出願公開第19531649号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1935860号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、特にラジカル硬化可能な化合物よりなる合成樹脂(とりわけ、セメントあるいは他のアルカリ性または酸性の充填材とともに充填され、及び/又は、高い残留酸濃度を有する化合物を含有する合成樹脂)をベースとした前記反応性樹脂のフリーラジカル重合に用いられる抑制剤において、酸に対して安定であり、保管中のゲル化時間の安定性も確保されており、しかも、モルタル材の硬化において、例えば特許文献1、2に開示されている抑制剤と同等の反応性、ロバスト性、および硬化品質を、低温下でも確実に実現することのできる抑制剤を提供することである。
【0013】
従来の抑制剤を、ヒドロキシル基に対してパラの位置で置換されたピリミジノール化合物によって代替する場合、僅かのゲル化時間のドリフトがあっても満足すべき抑制剤品質を確保でき、更に、対応するモルタル材の高性能と高ロバスト性とを低温においても実現可能できることがわかった。さらに、立体障害フェノールを添加すれば、低温(−5℃)における性能レベルをいくらか高めることができ、しかも、その有利な特性を損ねることなく、高価なピリミジノール化合物の量を明らかに低減できることもわかった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、本発明の主題は、請求項1に従う抑制剤組成物の使用であり、また、この発明のその他の主題は、請求項8に従う、前記抑制剤組成物を含有する樹脂組成物、請求項17に従う、前記樹脂組成物を含有する反応性樹脂モルタルであり、請求項18に従う2成分モルタル組成物であり、更に、請求項22に従う、2成分モルタル組成物の化学固定用途への使用、及び、請求項23に従う、2成分モルタル組成物を収容するパトロ−ネ、カートリッジまたは薄膜袋である。従属する請求項はこれらの対応する発明の好ましい実施態様に関する。
【0015】
確実な理論に基づくものではないが、フェノール化合物それ自身は、ゲル化時間及び性能レベル(耐荷重性能)に有利な効果を示さないが、ピリミジノール化合物の存在下で還元される系の高耐荷重性能及び高ロバスト性等の有利な効果を損なうことなく、ピリミジノール化合物を再生し、それによってピリミジノールの使用量を減量することができることがわかった。この場合、ピリミジノール化合物は、反応性を決定している主抑制剤であり、フェノール化合物はゲル化時間を決定し、副抑制剤と呼ぶ。
【0016】
この発明の中では各用語は以下を意味する。
【0017】
樹脂組成物:樹脂生成における反応性組成物よりなる組成物(ベース樹脂)であり、ラジカル重合可能な化合物、必要に応じて、化合物の生成のための触媒、反応性希釈剤、促進剤ならびに安定化剤、場合によってはその他の反応性希釈剤を含む。この用語は、「有機結合剤」と同義なものとして使用する。
【0018】
反応性樹脂モルタル:樹脂組成物と無機の添加剤とよりなる組成物であって、
「A成分」と同義なものとして使用する。
【0019】
硬化物質:ベース樹脂の重合(硬化)をもたらす物質である。
【0020】
硬化剤:硬化物質と無機の添加材の組成物。「B成分」と同義なものとして使用する。
【0021】
促進剤:重合反応(硬化)を促進することのできる化合物であって、ラジカル開始剤の生成を促進することに供される。
【0022】
安定化剤:重合反応(硬化)を抑制することのできる化合物であって、重合反応、および、使用する前の保管中のラジカル重合可能な化合物の好ましくない重合を回避することに役立つ。これらの化合物は、通常はゲル化時間に影響を及ぼさないほど僅かの量だけ添加される。
【0023】
抑制剤:重合反応(硬化)を抑制する能力のある化合物であって、硬化物質の添加後に直接的に重合反応を遅延させることに供される。これらの化合物を通常はゲル化時間に影響する量を添加する。
【0024】
反応性希釈剤:液体または粘性の少ないラジカル重合可能な化合物であって、これら化合物は樹脂組成物を希釈し、しかもそれによってその塗布使用に必要な粘性を与え、ベース樹脂との反応が可能な官能基を有し、重合(硬化)の際には硬化した材料(モルタル)の主要部分になる。
【0025】
モルタル材:反応性樹脂モルタルと、硬化物質を含む硬化剤とを混合することによって得られ、化学的固定材として直接使用することができる。
【0026】
2成分モルタル組成物:A成分である反応性樹脂モルタルとB成分である硬化剤とを含む組成物を意味し、その際に両成分が反応しないように分離して保管され、その結果、反応性樹脂モルタルの硬化は、硬化剤との混合後に初めて起こる。
【0027】
本発明の主題は、したがってラジカル重合可能な化合物をベースとした樹脂組成物の反応性とゲル化時間との調整のための、下記化1に示す化合物(I)と、下記化2に示す化合物(II)との組み合わせの使用である。
【0028】
【化1】

【0029】
【化2】

ただし、化1及び化2に示す化学式において、R1およびR2はそれぞれ、相互に独立であって、水素あるいは、分岐鎖または直鎖C1〜C20のアルキル基であり、Xは、−OR3または−NR32(ただし、R3は、分岐鎖または直鎖C1〜C20のアルキル基あるいは、C2〜C4のアルキレンオキシド基)であり、Rは、水素、分岐鎖または直鎖C1〜C18のアルキル基、あるいは、−OR3または−NR32(ただし、R3は、分岐鎖または直鎖C1〜C20のアルキル基)であり、R’は水素あるいは、分岐鎖または直鎖C1〜C18のアルキル基であり、R”は、分岐鎖または直鎖C1〜C18のアルキル基である。
【0030】
化1の化学式の基Xは、電子供給基であり、この基は直接または共役または超共役を介して、芳香環に電子密度の高い部分を移動させ、それによって、水素移動のため、遊離ラジカル、好ましくはラジカル重合の際に用いられるアルキルラジカルによってOH基を活性化することができる、同時に、5-ピリミジノール化合物の溶解性に寄与することができる。なぜなら、5-ピリミジノール化合物は、その高い極性ゆえに、平均以下の極性を示すメタクリレート樹脂中では十分には溶解しないからである。本発明において、Xは、−OR3または−NR32を示し、R3は、分岐鎖又は直鎖C1〜C20のアルキル基であり、特に好ましくは分岐鎖又は直鎖C1〜C8のアルキル基であり、さらに一層好ましくはメチルまたはn−オクチルである。
【0031】
化1の化学式の基R1およびR2は、好ましくは互いに独立であり、水素、もしくは、分岐鎖または直鎖C1〜C8のアルキル基であり、特に好ましくは水素またはメチルである。
【0032】
化1の化学式に示す化合物(I)は、特に好ましくは化3の化学式に示す化合物(I−1)(2−(ジメチルアミノ)ピリミジン−5−オール)、化4の化学式に示す化合物(I−2)(2−(ジメチルアミノ)−4,6−ジメチルピリミジン−5−オール);Me2N−PymOH)、又は、化5の化学式に示す化合物(I−3)(4,6−ジメチル−2−(オクチルオキシ)ピリミジン−5―オール;C8O−PymOH)である。
【0033】
【化3】

【0034】
【化4】

【0035】
【化5】

【0036】
化2の化学式の基Rは水素、分岐鎖または直鎖C1〜C18のアルキル基もしくは−OR3または−NR32(ただし、R3は、分岐鎖または直鎖C1〜C20のアルキル基)であり、R’は、水素あるいは分岐鎖または直鎖C1〜C18のアルキル基であり、R”は、分岐鎖または直鎖C1〜C18のアルキル基である。Rは、好ましくはメチルまたはメチルオキシ基であり、そして、R’及びR”は、好ましくはメチル基、イソ−プロピル基またはtert−ブチル基である。
【0037】
特に好ましくは、化2の化学式に示す化合物(II)は、下記化6の化学式に示す化合物(II−1)(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール;BHT)、または化7の化学式に示す化合物(II−2)(2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール;TBA)である。
【0038】
【化6】

【0039】
【化7】

【0040】
化合物(I)と化合物(II)との組み合わせとして、下記の化8、化9及び化10にそれぞれ示す組み合わせ(III−1)、(III−2)又は(III−3)とするのがさらに好ましい。すなわち、これらの組み合わせは、それぞれ、化合物(I−1)と化合物(II−1)との組み合わせ、化合物(I−2)と化合物(II−2) との組み合わせ、もしくは、化合物(I−3)と化合物(II−1)との組み合わせであり、化合物名を記載するならば、2−(ジメチルアミノ)ピリミジン−5−オールと2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールとの組み合わせ(III−1)、2−(ジメチルアミノ)−4,6−ジメチルピリミジン−5−オールと2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソールとの組み合わせ(III−2)、または、4,6−ジメチル−2−(オクチルオキシ)ピリミジン−5−オールと2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールとの組み合わせ(III−3)が好ましく、中でも、組み合わせ(III−3)がもっとも好ましい。
【0041】
【化8】

【0042】
【化9】

【0043】
【化10】

【0044】
本発明にしたがえば、抑制剤として機能する、化合物(I)と化合物(II)とのモル比は、化合物(I):化合物(II)が1:1〜1:10となるようにするのがよい。多くの場合にこの比は1:50までにさえも達してしまうことがあるが、当業者であれば、どの程度、主抑制剤の化合物(I)を副抑制剤の化合物(II)で希釈、すなわち置換すればよいは、容易に手間をかけずに見つけ出すことができる。
【0045】
これらの組み合わせによってゲル化時間を延長することができ、同時に低温(−5℃)での耐荷重性能を向上させることができる。しかもさらに有利な作用として、高価なピリミジノールの量を明白に減らせることができる。
【0046】
本発明の他の主題は、少なくとも1種のラジカル重合可能な化合物と、場合によっては少なくとも1種の反応性希釈剤と、反応性及びゲル化時間の調整のための助剤とを含む樹脂組成物であり、この、反応性及びゲル化時間の調整のための助剤は上記のように、前記化1に示す化合物(I)と、前記化2に示す化合物(II)との組み合わせたものでる。化合物(I)と化合物(II)との好適なものとしては、前述の形態を参照されたい。
【0047】
反応性とゲル化時間の調整のための前記助剤は、ラジカル重合可能な化合物に対して、好ましくは100ppm〜2.0重量%、より好ましくは500ppm〜1.5重量%、更に好ましくは1000ppm〜1.0重量%とする。
【0048】
本発明に係るラジカル重合可能な化合物としては、当業者にはすでに知られているように、エチレン性不飽和化合物、環モノマー、炭素−炭素三重結合を有する化合物、チオールイン樹脂/チオールエン樹脂が適している。
【0049】
これらの化合物の中でも、スチロ−ルおよびその誘導体、(メタ)アクリレート、ビニルエステル、不飽和ポリエステル、ビニルエーテル、アリルエーテル、イタコネート、ジシクロペンタジエン化合物、不飽和の脂肪を含む、エチレン性不飽和化合物の基が好ましく、その中でも特に、不飽和のポリエステル樹脂およびビニルエステル樹脂が適しており、例えば、特許文献1、および特許文献2、及び、国際特許公開WO10/108939号明細書の中に記載されている。ビニルエステル樹脂はその加水分解安定性と優れた機械的特性ゆえにもっとも好ましい。
【0050】
例えば、本発明による樹脂組成物で使用できる適切な不飽和ポリエステルは、M. Malik et al. in J. M. S.-Rev. Macromol. Chem. Phys., C40 (2 and 3), p. 139-165 (2000) により分類されているように、以下のカテゴリーに分類される:
【0051】
(1)オルソ系樹脂:これらは、無水フタル酸、無水マレイン酸またはフマル酸、および、1,2‐プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3‐プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコールまたは水素化ビスフェノールAなどのグリコールをベースとする;
【0052】
(2)イソ系樹脂:これらは、イソフタル酸、無水マレイン酸またはフマル酸およびグリコールから生成される。これらの樹脂は、オルソ系樹脂よりも高い割合で反応性希釈剤を含有していてもよい;
【0053】
(3)ビスフェノールA‐フマレート:これらは、エトキシ化ビスフェノールAおよびフマル酸をベースとする;
【0054】
(4)HET酸系樹脂(ヘキサクロロ‐エンド‐メチレン‐テトラヒドロフタル酸系樹脂):これらは、不飽和ポリエステル樹脂の生成時にクロリン/臭素を含有する無水物またはフェノールから得られる樹脂である。
【0055】
これらの樹脂類の他に、さらに、いわゆる「ジシクロペンタジエン系樹脂(DCPD系樹脂)」を不飽和ポリエステル樹脂として分類することができる。DCPD系樹脂類は、シクロペタジエンとのディールス・アルダー反応による上記いずれかの樹脂タイプの変成によって得られるか、または代替的に二塩基酸、例えばマレイン酸とジシクロペンタジエニルとの第1反応、および続いて不飽和ポリエステル樹脂の通常の生成による第2反応によって得られ、後者はDCPD系マレイン酸樹脂である。
【0056】
不飽和ポリエステル樹脂は、好ましくは、500〜10,000ダルトンの範囲、さらに好ましくは、500〜5,000ダルトンの範囲、さらにより好ましくは750〜4,000ダルトンの範囲の分子量Mnを有する(ISO13885−1による)。不飽和ポリエステル樹脂は、0〜80mgKOH/g樹脂、好ましくは、5〜70mgKOH/g樹脂の範囲の酸価を有する(ISO2114−2000)。DCPD樹脂は不飽和ポリエステル樹脂として使用される場合、酸価は、好ましくは、0〜50mgKOH/g樹脂である。
【0057】
本発明によれば、ビニルエステル樹脂は、少なくとも1つの(メタ)アクリレート末端基を有するオリゴマーまたはポリマーであり、したがって、いわゆる(メタ)アクリレート官能化樹脂であり、これらにはウレタン(メタ)アクリレート樹脂およびエポキシ(メタ)アクリレートも含まれる。
【0058】
末端位置にのみ不飽和基を有するビニルエステル樹脂は、例えば、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリルアミドによる、例えば、エポキシオリゴマーまたはエポキシポリマー(例えば、ビスフェノールA‐ジグリシジルエーテル、フェノールノボラック型のエポキシド、またはテトラブロモビスフェノールAをベースとしたエポキシドオリゴマー)の、置換によって得られる。好ましいビニルエステル樹脂は、(メタ)アクリレート官能化樹脂、および、メタクリル酸またはメタクリルアミド、好ましくはメタクリル酸によるエポキシオリゴマーまたはエポキシポリマーの置換により得られる樹脂である。このような化合物の例は、米国特許出願公開第3297745号明細書、米国特許出願公開第3772404号明細書、米国特許出願公開第4618658号明細書、英国特許出願公開第2217722号明細書、独国特許出願公開第3744390号明細書および独国特許出願公開第4131457号明細書により既知である。
【0059】
この関係で米国特許出願公開第2011071234号明細書を参照されたい。これにより、同明細書の内容は本明細書に組み込まれるものとする。
【0060】
ビニルエステル樹脂は、好ましくは、500〜3,000ダルトンの範囲、より好ましくは500〜1,500ダルトンの範囲の分子量Mnを有する(ISO13885−1による)。ビニルエステル樹脂は、0〜50mgKOH/g樹脂、好ましくは0〜30mgKOH/g樹脂の範囲の酸価を有する(ISO2114−2000による)。
【0061】
ビニルエステル樹脂としては、2〜10、有利には、2〜4のエトキシ化度を有するエトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、二官能性、三官能性またはそれよりも多数官能性のウレタン(メタ)アクリレートリゴマーまたはこれらの硬化可能な成分の組成物が、特に適している。
【0062】
独国特許出願公開第2312559号明細書に記載されているような、ジイソシアネートまたはポリイソシアネート、及びヒドロキシアルキルメチルアクリレートよりなる公知の反応性物質、米国特許3629187号明細書に記載されているような、ジイソシアネート及び2,2−プロパンビス[3−(4−フェノキシ)−1,2ヒドロキシプロパン−1−メタクリレート]よりなる添加物質、欧州特許出願公開44352号明細書に記載されているような、イソシアネートと、メタクリロイルアルキルエーテル、−アルコキシベンゼンまたは−アルコキシシクロアルカンとよりなる添加物質が特に好ましい。この関連で、独国特許出願公開第2312559号明細書、独国特許出願公開第19902685号明細書、欧州特許出願公開第0684906号明細書、独国特許出願公開第4111828号明細書、独国特許出願公開第19961342号明細書を参照されたい。自明のことであるが対応するモノマーよりなる組成物も使用することができる。
【0063】
本発明により使用できるすべての樹脂は、専門家により既知の方法で、例えば、より少ない酸価数、塩基の価数または無水物の価数を達成するために変更を加えることができ、また、柔らかい材料を基材に混ぜることにより、より柔らかくすることもできる。
【0064】
さらに、樹脂は、国際特許出願公開第2010/108939号明細書(イタコン酸エステル)に記載のように、例えば過酸化物などのラジカル抑制剤によって重合化することができるさらに別の反応基、例えば、イタコン酸、シトラコン酸およびアリル基などによって誘導された反応基を含んでいてもよい。
【0065】
樹脂組成物は、少なくとも1種のラジカル重合可能な化合物を、樹脂組成物に対して10〜90重量%、好ましくは30〜70重量%含んでいる。
【0066】
樹脂組成物は必要に応じて溶媒を含むことができる。その溶媒は反応性の系に対して不活性なものとすることもでき、あるいは、いわゆる反応性希釈剤として、硬化反応中に重合に関与するものとすることもできる。
【0067】
本発明の好ましい実施形態では、必要に応じて、樹脂組成物に、さらに他の低粘性のラジカル重合可能な化合物を反応性希釈剤として含有させ、このことによって、樹脂組成物の粘度を、樹脂として機能するラジカル重合可能な化合物の粘度に調整することができる。反応性希釈剤は、樹脂組成物に対して、10〜90重量%、好ましくは30〜70重量%の量を添加してもよい。
【0068】
好適な反応性希釈剤が、特許文献1、2に記載されている。樹脂組成物は、反応性希釈剤として好ましくは(メタ)アクリル酸エステルを含み、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ブタンジオール1,2−ジ(メタ)アクリレート、トリメチロ−ルプロパントリ(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、エチルトリグリコール(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ブタンジオール1,4−ジ(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、エタンジオール1,2−ジ(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコ−ルモノ(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートおよび/またはトリシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA-(メタ)アクリレート、ノボラクエポキシド(メタ)アクリレート、ジ−[((メタ)アクリロイルマレオイル]−トリシクロ−5.2.1.02.6−デカン、ジシクロペンテニルオキシエチルクロトネート、3−(メタ)アクリロイル−オキシメチル−トリシクロ−5.2.1.02.6−デカン、3−メタシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートおよびデカリル−2−(メタ)アクリレートからなる群から選ばれた(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。
【0069】
基本的に、他の一般的なラジカル重合可能な化合物を単独で、または(メタ)アクリル酸エステルとの組成物として、例えば、スチロール、α‐メチルスチロール、tert‐ブチルスチロールなどのアルキル化スチロール、ジビニルペンゾールおよびアリル化合物を使用することもできる。
【0070】
ラジカル重合可能な化合物を示すために使用される命名「(メタ)アクリル・・/(メチル)アクリル」は、これらの表示によって「メタクリル・・/・・メタクリル・・」‐ならびに「アクリル・・/・・アクリル・・」‐化合物が含まれていることを意味する。
【0071】
本発明の好ましい実施態様では、樹脂組成物は反応を事前に促進させる形態で存在し、すなわち、この樹脂組成物は硬化物質のための促進剤を含んでいる。硬化物質のための好ましい促進剤は、芳香族アミンおよび/または銅、コバルト、マンガン、錫、バナジウムあるいはセリウムの塩である。特に促進剤としてN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジイソプロパノールp−トルイジン、N,N−ジイソプロピリデン−p−トルイジン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジイソピロール−m−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−キシリデン、N−メチル−N−ヒドロキシエチル−p−トルイジン、コバルトオクトエ−ト、コバルトナフテネート、バナジウム(IV)-アセチルアセトネート、バナジウム(V)-アセチルアセトネートが有利であることが明らかになっている。
【0072】
促進剤は、本発明では樹脂組成物に対して100ppm〜5重量%、好ましくは1000ppm〜2.5重量%の量が含まれる。
【0073】
本発明の他の主題は、ここに記載した樹脂組成物、有機結合材のほかに充填材およびまたはその他の通常の添加物のような無機の添加材料を含む反応性樹脂モルタルである。
【0074】
反応性樹脂モルタル内の樹脂組成物の割合は、反応性樹脂モルタルに対して、好ましくは10〜60重量%であり、より好ましくは20〜30重量%である。
【0075】
充填材としては通常の充填材、好ましくは石英、ガラス、砂、ケイ砂、石英粉、陶器、コランダム、セラミック、タルク、珪酸、(例えば、発熱性の珪酸)、シリケ−ト、粘土、ニ酸化チタン、チョ−ク、重晶石、長石、玄武岩、水酸化アルミニウム、花崗岩または砂岩のような好ましくは鉱物性または鉱物類似の充填材、架橋合成高分子のようなポリマー充填材、石膏、生石灰またはセメント(例えば、泥質土セメントまたはポルトランドセメント)のような水中で凝固できる充填材、アルミニウムのような金属、煤、更に木材、鉱物性のまたは有機繊維など、粉末として、粒形の、形のある物体の形で添加できる2以上成分の混合物も使用できる。充填材は任意の形で存在でき、例えば、粉末または微粉として例えば円筒形、環形、玉形、小板形、棒状、鞍状、結晶状または更に繊維状(微小繊維状の充填材)として存在できて、適当な基本粒は好ましくは10mmの最高直径を持っている。充填材はそれぞれの成分内で好ましくは900重量%以下の、特に好ましくは3〜850重量%、なかでもより好ましくは5〜70重量%で存在する。しかしながら球形の不活性材料が好ましく、その効果は極めて大きい。
【0076】
その他の考えうる添加剤は、場合によっては有機的に後処理した発熱性の珪酸、ベントナイト、アルキルセルロースおよびメチルセルロ−ス、ヒマシ油の誘導体またはそのようなチクソトロピ−剤、フタル酸エステル、セバチン酸エステルのような軟化剤、安定化剤、静電防止剤、増粘剤、柔軟剤、硬化触媒、粘弾性助剤、湿潤剤、染料または特に顔料のような発色助剤、例えば、それらの完全混合などから好ましい管理のための成分の種々の着色のため、またはこれら2以上の成分の混合が可能である。反応性のない希釈剤(溶媒)はそれぞれの成分(反応性樹脂モルタル、硬化剤)に対して好ましくは30重量%までの量で、例えば1〜20重量%の量で低アルキルケトンのような、例えばアセトン、低ジアルキル−低アルカノイルアミド、ジメチルアセトアミド、低アルキルベンセン、キシレンまたはトルエン、フタル酸エステルまたはパラフィンまたは水のような形で存在する。
【0077】
本発明の他の主題は、A成分としての前記反応性樹脂モルタルと、B成分としての硬化剤とを含む2成分のモルタル組成物であって、この硬化剤は、反応性樹脂モルタルとは、反応しないよう空間的に分離して保管される。硬化剤は、硬化物質として好ましくは過酸化物を含む。不飽和のポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂の硬化のために使用される、当業者に公知の全ての過酸化物は、添加することができる。そのような過酸化物は、有機および無機の過酸化物を含み、液状または固体であってもよく、過酸化水素も使用することができる。ふさわしい過酸化物の例は、式−OC(O)O−のペルオキソ炭酸塩、式−C(O)OO−のペルオキシエステル、式−C(O)OOC(O)−のジアシルペルオキシド、式−OO−のジアルキルペルオキシドなどである。これらは、オリゴマーまたはポリマーとして存在するものとすることができる。好適な過酸化物の一連の例は、例えば米国特許出願公開第2002/0091214号明細書の段落[0018]、国際特許出願公開第02051879号明細書、欧州特許出願公開第1221449号明細書の中に記載されている。
【0078】
好適には、前記過酸化物は、有機過酸化物の群から選ばれる。好ましい有機過酸化物としては、tert−ブチルヒドロ過酸化物のような第三級アルキルヒドロ過酸化物、およびクメンヒドロ過酸化物のような他のヒドロ過酸化物、(tert−ブチルペルエステル、ベンゾイル過酸化物、ペルアセテ−ト、過酸安息香酸塩、(ジ)ペルオキシエステルを含むラウリル過酸化物のような)過酸エステルまたは過酸、ペルオキシジエーテルのようなペルエーテル、メチルエチルケトンエポキサイドのようなペルケトンである。硬化剤として使用した過酸化物はしばしばtert−ペルエステルまたはtert−ヒドロ過酸化物、すなわち直接に−O−O−アシル−または−OOH基に結合しているtert−炭素原子を有するペルオキシ化合物である。しかしこれらの過酸化物と他の過酸化物との混合物も本発明にしたがって使用できる。その過酸化物は混合した過酸化物であることもできて、これはすなわち、1分子中に2種の異なった過酸化物を有するユニットを示す過酸化物である。硬化のためにはベンゾイル過酸化物(BPO)が好ましく使用される。
【0079】
硬化物質は、適宜、水や、例えばフタレート(国際特許出願公開0205187号明細書)のような液化して作用する非反応性のない希釈剤、または不活性な充填剤(石英砂と粘土が好ましい)によって鈍感化することができる。
【0080】
発明によれば、過酸化物は、樹脂組成物に対して0.1〜10重量%、好ましくは1〜6重量%の量を加えるのが好ましい。
【0081】
2成分モルタル組成物のB成分は、好ましくは更に無機の添加剤を含み、これらの添加剤は、A成分に加えることができるものとした添加剤とすることができる。
【0082】
2成分モルタル組成物の特に好ましい実施形態では、A成分は、反応性樹脂モルタルの他に、付加的にもう1つの水硬性の、または重縮合可能な無機化合物を含有し、B成分は硬化物質の他にさらに水を含有する。このようなモルタル材は、独国特許出願公開第4231161号明細書に詳述されている。この場合、有利には水硬性の、または重縮合可能な無機化合物としてA成分は、セメント、例えばポルトランドセメントまたはアルミン酸塩セメントであり、酸化鉄なしの、または酸化鉄に乏しいセメントが特に好ましい。水硬性の無機化合物は、石こうとして、またはセメントと混合して使用することができる。重縮合可能な無機化合物として、珪酸塩の重縮合可能な化合物、特に、溶解可能な、溶解した、及び/又は、多孔質の二酸化珪素を含有した材料を使用することができる。
【0083】
2成分モルタル組成物は、例えば、複数チャンバ‐カートリッジなどの複数チャンバ‐ユニットの異なる容器内に反応を禁止するように分離したA成分およびB成分を含む。このような複数チャンバ‐カートリッジから、2つの成分は機械的な押圧力の作用によって、またはガス圧の作用下に押し出され、混合される。別の可能性は、2成分モルタル組成物を2成分カプセルとしてまとめ、これをドリル孔に挿入したあと固定部材をインパクトレンチ等により固定することによって破壊し、同時にモルタル材の2つの成分を混合することである。有利には、カートリッジシステムまたは注入システムを使用し、この場合、2つの成分が別個の容器から押し出され、スタティックミキサ内を案内され、そこで一様に混合され、次いでノズルを介して、有利には直接にドリル孔内に放出される。
【0084】
本発明による樹脂組成物、反応性樹脂モルタルならびに2成分モルタル組成物は、例えば、ポリマーコンクリ−トとして、合成樹脂をベースとする被覆材として、あるいは、低温で硬化する道路標識として、コンクリートを即固化するような建築領域に特に用いられる。特にアンカーボルト、鉄筋、螺子などのような固定材の化学的固定に適しており、特に、ドリル穴での使用、特に、種々の基盤、中でもコンクリ−ト、多孔コンクリ−ト、タイル製品、石灰砂石、砂石、天然石など鉱物質の基盤のドリル穴での使用に適している。
【0085】
フェノール性の抑制剤で反応が抑制される樹脂組成物、及び、反応性樹脂モルタルに対して、本発明による系は、長い保存期間の後にも安定したゲル化時間を有し、すなわちゲル化時間は、後の使用に際しても容認できないような短い値にドリフトすることはない。安定なニトロキシラジカルによって抑制されている樹脂組成物及び反応性樹脂モルタルに比較して本発明による系は低温においても良好な硬化を示す。
【0086】
以下の実施例は発明の更なる説明に有用である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0087】
実施例と比較例とによって製造したモルタル材のゲル化時間と耐荷重性能を以下に比較する。
【0088】
a)ゲル化時間の測定
[実施例1]
【0089】
A成分;
反応性樹脂モルタルの作成のために、976.1gのメタクリレート樹脂に対して、4.06gの2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール(TBA)と、2.89gの2-(ジメチルアミノ)−4,6−ジメチルピリミジン−5−オール(Me2N−PymOH)とを加え、一様な溶液が得られるまで攪拌する。この配合は、約1:1の抑制剤比率に対応する。引き続き真空中で72.4gの発熱性珪酸(Aerosil R202(登録商標);Evonik Degussa GmbH製)482.68gと、アルミン酸塩セメントと、868.82gの石英砂F32とをディゾルバーを使って、一様なペーストになるまで樹脂溶液中に分散させた。
【0090】
B成分;
メタクリレート樹脂のための硬化剤として、ベンゾイル過酸化物の40%水分散液10重量%と、脱ミネラル化された水14重量%とを混ぜて、次いで、その中に40μmの平均粒径を有する石英砂53重量%と、平均粒径0.8μmを有する粘土22重量%とを分散させ、更に1重量%の発熱性の珪酸を加えて濃縮した。
[比較例1]
【0091】
比較として、反応性樹脂モルタルに用いられる抑制剤が4.06gの2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール(TBA)である点だけが実施例と異なる、反応性樹脂モルタル(A成分)と硬化剤(B成分)とを作成した。
[比較例2]
【0092】
比較として、反応性樹脂モルタルに用いられる抑制剤が0.33gの2−(ジメチルアミノ)−4,6−ジメチルピリミジン−5−オール(Me2N−PymOH)である点だけが実施例と異なる、反応性樹脂モルタル(A成分)と硬化剤(B成分)を作成した。
【0093】
実施例1、比較例1、比較例2のそれぞれの配合に対してゲル化時間を測定した。その際、表1に示す量が抑制剤の量(A成分に対する量)となるよう調整を行った。表1には、用いた抑制剤の量とともに測定結果を示す。
【0094】
2成分樹脂組成物のA成分とB成分とよりなる組成物のゲル化時間の測定は、市販の装置(GELNORM(登録商標) Gel Timer)で25℃の温度で行なった。このために、A成分とB成分とが容積比3:1で混合され、混合直後にシリコーン槽で25℃に調整され、試料の温度が測定されるようにした。試料自体は試験管に挿入されており、試験管はシリコーン槽に沈めたエアジャケット内で温度調整される。
【0095】
試料の熱発生を時間的に追跡した。その評価はDIN16945、第1ページ、およびDIN16916にしたがって行なった。ゲル化時間は10Kだけ上昇するのに要する時間であり、ここでは25℃から35℃に到達するまでの時間である。
【0096】
【表1】

a : A成分に対する量
* : 2−(ジメチルアミノ)−4,6−ジメチルピリミジン−5−オール
**: 2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール
【0097】
表1から、室温における抑制剤を組み合わせて用いられた本発明の樹脂配合の室温におけるゲル化時間は、抑制剤の量が1.32*10-4mol/gの場合には、抑制剤を単独で用いた場合の樹脂配合に対して同等のゲル化時間であることがわかる。1:1の組み合わせ抑制剤の量を2倍にした場合、ゲル化時間は約4倍に延ばせるのに対して、単独で用いられる抑制剤の量を2倍にした場合には、ゲル化時間は単に約2倍にしかなっていない。このことは明らかにゲル化時間の調整において両抑制剤の相乗効果が存在することを示している。
【0098】
b)耐荷重性能の測定
[実施例2]
【0099】
反応性樹脂モルタルに加える抑制剤が、2.1gの2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)(9.76mol/g)と、2.41gの4,6−ジメチル−2−(オクチルオキシ)ピリミジン−5−オール(C8O-PymOH)(9.74mol/g)とであることだけが実施例1と異なるよう試料を作成した。この量は、両抑制剤のモル比BHT:C8O−PymOHが1:1であることに対応する。
【0100】
[実施例3]
反応性樹脂モルタルに加える抑制剤が、2.38gの2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)と、0.27gの4,6−ジメチル−2−(オクチルオキシ)ピリミジン−5−オール(C8O-PymOH)とであることだけが実施例1と異なるよう試料を作成した。この量は、両抑制剤のモル比BHT:C8O−PymOHが10:1であることに対応する。
【0101】
[比較例3]
反応性樹脂モルタルに加える抑制剤が、3.07gの2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)のみであることだけが実施例1と異なるよう試料を作成した。
【0102】
[比較例4]
反応性樹脂モルタルに加える抑制剤が、9.84gの4,6−ジメチル−2−(オクチルオキシ)ピリミジン−5−オール(C8O−PymOH)のみであることだけが実施例1と異なるよう試料を作成した。
【0103】
硬化された物質の耐荷重性能を測定するためにM12のアンカーボルトを使用する。このアンカーボルトは、14mmの直径および73mmの穿孔深さを有するコンクリートのドリル孔内に本発明による2成分反応性樹脂で固定される。堅固なアンカーボルトを使用して、狭い部分で支持されたアンカーボルトの中心を引き抜くことによって平均耐荷重を算出する。それぞれ3本のアンカーボルトを固定し、24時間の硬化後に耐荷重性能を測定する。このように測定された耐荷重性能は、これらの平均値が、表2に示されている。
【0104】
【表2】

1:室温で乾燥し、清潔にしたドリル穴の中で、室温にて固定、硬化
2:同様のドリル穴で、−5℃で固定、硬化
3:同様のドリル穴で、+40℃で固定、硬化
4:同様のドリル穴で、24時間、室温で固定、硬化したあと、24時間80℃に加熱し、更に80℃で引き抜きを実行
* :2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール
**:4,6−ジメチル−2−(オクチルオキシ)ピリミジン−5−オール
【0105】
上表から明らかのように、本発明による1:1と10:1の比率で抑制剤を組み合わせて配合した2成分樹脂配合の、40℃と80℃とにおける耐荷重性能は、抑制剤を単独で配合した樹脂配合と同等の値を示している。−5℃では、抑制剤を組み合わせて用いた場合の2成分樹脂配合は、抑制剤を単独で用いた場合の配合よりも高い耐荷重性能を示している。さらに、C8O−PymOHの比率を低下させBHTの比率を上げたモル比1:10の組み合わせ配合でも、耐荷重性能はモル比1:1よりも僅かに大きいだけであることも明らかとなった。
【0106】
これらの実施例は、必要な効果に応じて抑制剤の組み合わせを適宜選択することによりゲル化時間を延ばしたり耐荷重性能を高めたりすることができるという驚くべき事実を証明した。これに加えて、抑制剤の有利な効果を損なうことなく、高価な抑制剤の量を安価な副抑制剤によって低減できることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合可能な化合物をベースとした樹脂組成物の反応性とゲル化時間との調整のための、下記化1に示す化合物(I)と、下記化2に示す化合物(II)との組み合わせの使用
【化1】

【化2】

[化1及び化2において、R1およびR2はそれぞれ、相互に独立であって、水素あるいは、分岐鎖または直鎖C1〜C20のアルキル基であり、Xは、−OR3または−NR32(ただし、R3は、分岐鎖または直鎖C1〜C20のアルキル基あるいは、C2〜C4のアルキレンオキシド基)であり、Rは、水素、分岐鎖または直鎖C1〜C18のアルキル基、−OR3あるいは−NR32(ただし、R3は、分岐鎖または直鎖C1〜C20のアルキル基)であり、R’は水素あるいは、分岐鎖または直鎖C1〜C18のアルキル基であり、R”は、分岐鎖または直鎖C1〜C18のアルキル基である]。
【請求項2】
前記化1において、R1およびR2はそれぞれ、相互に独立であって、水素あるいは、分岐鎖または直鎖C1〜C8のアルキル基である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記化1において、R1およびR2はそれぞれ、相互に独立であって、水素またはメチルである、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記化合物(I)が、2−(ジメチルアミノ)ピリミジン−5−オール、2−(ジメチルアミノ)−4,6−ジメチルピリミジン−5−オールまたは4,6−ジメチル−2−(オクチルオキシ)ピリミジン−5−オールである、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記化合物(II)が、2,6−tert-ブチル−4−メチルフェノールまたは2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソールである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記、化合物(I)と化合物(II)との組み合わせが、2−(ジメチルアミノ)ピリミジン−5−オールと、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールとの組み合わせ(III−1)、2−(ジメチルアミノ)−4,6−ジメチルピリミジン−5−オールと、2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソールとの組み合わせ(III−2)、または、4,6−ジメチル−2−(オクチルオキシ)ピリジン−5−オールと、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールとの組み合わせ(III−3)である、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
化合物(I)の、化合物(II)に対するモル比が、1:1〜1:10である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
の化合物の使用。
【請求項8】
少なくとも1種のラジカル重合可能な化合物と、反応性とゲル化時間の調整のための助剤(c)とを含有し、前記助剤(c)は、下記化1に示す化合物(I)と、下記化2に示す化合物(II)とを組み合わせたものである樹脂組成物
【化1】

【化2】

[化1及び化2において、R1およびR2はそれぞれ、相互に独立であって、水素あるいは、分岐鎖または直鎖C1〜C20-アルキル基であり、Xは、−OR3または−NR32(ただし、R3は、分岐鎖または直鎖C1〜C20−アルキル基あるいは、C2〜C4−アルキレンオキシド基)であり、Rは、水素、分岐鎖または直鎖C1〜C18−アルキル基、−OR3あるいは−NR32(ただし、R3は、分岐鎖または直鎖C1〜C20−アルキル基)であり、R’は水素あるいは、分岐鎖または直鎖C1〜C18−アルキル基であり、R”は、分岐鎖または直鎖C1−C18−アルキル基である] 。
【請求項9】
前記化1において、R1およびR2はそれぞれ、相互に独立であって、水素あるいは、分岐鎖または直鎖C1−C8−アルキル基である、請求項8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記化1において、R1およびR2はそれぞれ、相互に独立であって、水素またはメチルである、請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記化合物(I)が、2−(ジメチルアミノ)ピリミジン−5−オール、2−(ジメチルアミノ)−4,6−ジメチルピリミジン−5−オールまたは4,6−ジメチル−2−(オクチルオキシ)ピリミジン−5−オールである、請求項10に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記化合物(II)が、2,6−tert-ブチル−4−メチルフェノールまたは2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソールである、請求項8〜11のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記助剤(c)が、2−(ジメチルアミノ)ピリミジン−5−オールと、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチル−フェノールとの組み合わせ(III−1)、2−(ジメチルアミノ)−4,6−ジメチルピリミジン−5−オールと、2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソールとの組み合わせ(III−2)、または、4,6−ジメチル−2−(オクチルオキシ)ピリジン−5−オールと、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールとの組み合わせ((III−3)である、請求項12に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
化合物(I)の、化合物(II)に対するモル比が、1:1〜1:10である、請求項8〜13のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
樹脂組成物が更に硬化物質のための促進剤を含む、請求項8〜14のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
反応性希釈剤を含有する請求項8〜15のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項17】
請求項8〜15のいずれか1項に記載の樹脂組成物と無機の添加剤とを含む反応性樹脂モルタル。
【請求項18】
A成分としての、請求項16に記載の反応性樹脂モルタルと、A成分とは反応しないよう離された、B成分としての、硬化剤とを含む2成分モルタル組成物。
【請求項19】
前記硬化剤が硬化物質として無機または有機の過酸化物を含む、請求項18に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項20】
前記硬化剤が無機の添加剤を含む、請求項18または19に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項21】
A成分が、反応性樹脂モルタルの他に、水硬性の、または重縮合可能なもう1つの無機化合物を付加的に含有し、B成分が硬化物質の他にさらに水を含有する、請求項18〜20のいずれか1項に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項22】
請求項18〜21のいずれか1項に記載の2成分モルタル組成物の化学固定用途への使用。
【請求項23】
請求項18〜21のいずれか1項に記載の2成分モルタル組成物を収容するパトロ−ネ、カートリッジまたは薄膜袋であって、内部に前記反応性樹脂モルタルまたは硬化剤を収容する、互いに分離した2以上のチャンバを備えることを特徴とするパトロ−ネ、カートリッジまたは薄膜袋。

【公開番号】特開2012−255152(P2012−255152A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−131028(P2012−131028)
【出願日】平成24年6月8日(2012.6.8)
【出願人】(591010170)ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト (339)
【住所又は居所原語表記】Feldkircherstrasse 100, 9494 Schaan, LIECHTENSTEIN
【Fターム(参考)】