投射型画像表示装置
【課題】投射型画像表示装置において、ダイクロイック膜の色分離特性の低下を抑えつつ、投射画像のコントラストを向上させる装置を提供する。
【解決手段】投射型画像表示装置は、入射光を互いの波長帯域が異なる複数の光に分離する色分離面を有する色分離素子と、前記色分離素子により分離された光が入射する光変調素子と、前記色分離素子と投射光学系との間に配置され、前記光変調素子により変調された光の光路を偏光方向に応じて分離して、前記投射光学系へと導く偏光分離素子と、前記色分離素子と前記光変調素子との間に配置された位相差板を有し、前記色分離面の法線と前記光変調素子の法線とに平行な断面において、前記位相差板の光学軸と前記色分離面の法線とは、実質的に、平行あるいは垂直である。
【解決手段】投射型画像表示装置は、入射光を互いの波長帯域が異なる複数の光に分離する色分離面を有する色分離素子と、前記色分離素子により分離された光が入射する光変調素子と、前記色分離素子と投射光学系との間に配置され、前記光変調素子により変調された光の光路を偏光方向に応じて分離して、前記投射光学系へと導く偏光分離素子と、前記色分離素子と前記光変調素子との間に配置された位相差板を有し、前記色分離面の法線と前記光変調素子の法線とに平行な断面において、前記位相差板の光学軸と前記色分離面の法線とは、実質的に、平行あるいは垂直である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源からの光を色分離する投射型画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な方式で画像の表示を行う投射型画像表示装置(液晶プロジェクタ)が提案されている。特許文献1には、偏光分離素子と、クロスダイクロイックプリズムを用いて、光源からの光を複数の波長帯域の光に分離し、それら分離した光を各波長帯域の光に対応した反射型の画像表示素子(光変調素子)に照射する構成が開示されている。反射型の画像表示素子に照射された光は、画像信号に応じてその偏光状態が変えられて反射され、再びクロスダイクロイックプリズム、偏光分離素子を介してスクリーンに投射される。
【0003】
特許文献1は、クロスダイクロイックプリズムのダイクロイック膜により生じる位相差によって、投射画像のコントラストが低下するのを抑えるために、ダイクロイック膜によって生じる位相差が15度以下になるように、ダイクロイック膜を設計している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−237565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のダイクロイック膜では、ダイクロイック膜の色分離特性が低下してしまうという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の投射型画像表示装置は、
入射光を互いの波長帯域が異なる複数の光に分離する色分離面を有する色分離素子と、
前記色分離素子により分離された光が入射する光変調素子と、
前記色分離素子と投射光学系との間に配置され、前記光変調素子により変調された光の光路を偏光方向に応じて分離して、前記投射光学系へと導く偏光分離素子と、
前記色分離素子と前記光変調素子との間に配置された位相差板を有し、
前記色分離面の法線と前記光変調素子の法線とに平行な断面において、前記位相差板の光学軸と前記色分離面の法線とは、実質的に、平行あるいは垂直であることを特徴とする。
【0007】
なお、投射光学系が一体に設けられた又は取り外し可能に装着される画像投射装置も本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ダイクロイック膜の色分離特性の低下を抑えつつ、投射画像のコントラストを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例1、2の投射型画像表示装置の構成概略図
【図2】ダイクロイック膜の各偏光の透過率と位相差特性を示す図
【図3】ダイクロイック膜で生じる偏光変化を説明する図
【図4】本発明の位相差板についての説明図
【図5】本発明の実施例1のダイクロイック膜で生じる位相差の入射角度特性を示す図
【図6】本発明の実施例1の位相差補償の入射角度特性を示す図
【図7】本発明の実施例2のダイクロイック膜の各偏光の透過率と位相差特性を示す図
【図8】本発明の実施例2の各位相差板の位相差の入射角度特性を示す図
【図9】本発明の実施例2の位相補償後の各色光に対する位相差の入射角度特性を示す図
【図10】本発明の実施例3の投射型画像表示装置の構成概略図
【図11】本発明の実施例3の位相差板についての説明図
【図12】本発明の実施例3の各位相差板の位相差の入射角度特性を示す図
【図13】本発明の実施例3の位相補償後の各色光に対する位相差の入射角度特性を示す図
【図14】本発明の実施例4の投射型画像表示装置の構成概略図
【図15】本発明の実施例5の投射型画像表示装置の構成概略図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を、添付の図面に基づいて説明する。
【0011】
《実施例1》
図1は、本発明の実施例1の投射型画像表示装置100の構成概略図である。光源1から出射された照明光2(太い実線)は、照明光学系3を介して、偏光分離素子4に入射する。偏光分離素子4は、第1偏光(P偏光)を透過し、第2偏光(S偏光)を反射させる。照明光2は、複数の波長帯域の光を含む光である。尚、偏光分離素子4に入射する光は、偏光分離素子4よりも光源1側に配置された不図示の偏光変換素子により、偏光方向がほぼ揃えられている。
【0012】
偏光分離素子4を透過した照明光2は、クロスダイクロイックプリズム5によって複数の波長帯域の光に分離される。ダイクロイック膜5aは、青の波長帯域の光を反射させ、赤と緑の波長帯域の光を透過させる特性である。ダイクロイック膜5bは、赤の波長帯域の光を反射させ、青と緑の波長帯域の光を透過させる特性である。つまり、照明光2のうち青の波長帯域の光は、ダイクロイック膜5aにより反射され、赤の波長帯域の光はダイクロイック膜5bにより反射される。緑の波長帯域の光はダイクロイック膜5a、ダイクロイック膜5b両者を透過する。その結果、照明光2は、図1に細い実線で示した赤の波長帯域の光6r、緑の波長帯域の光6g、青の波長帯域の光6bに分離される。そして、各波長帯域の光6r、6b、6g(以下、色光とも言う)は、各色光に対応した画像表示素子8r、8g、8b(光変調素子)を照明する。
【0013】
画像表示素子8r、8g、8bは、照明光2の偏光状態を画像信号に応じて変えて(変調して)反射させる素子である。画像表示素子8r、8g、8bにより反射された画像光9r、9g、9b(細い破線)は、再びクロスダイクロイックプリズム5に入射する。青の波長帯域の画像光9bは、ダイクロイック膜5bを透過し、ダイクロイック膜5aによって反射され偏光分離素子4側へ射出される。赤の波長帯域の画像光9rは、ダイクロイック膜5aを透過し、ダイクロイック膜5bにより反射され偏光分離素子4側へ射出される。緑の波長帯域の画像光9gは、ダイクロイック膜5a、ダイクロイック膜5bを両方透過して偏光分離素子4側へ射出される。
【0014】
以上のように画像光9r、9g、9bは、ダイクロイック膜5a、ダイクロイック膜5bにより合成され、合成画像光10(図1の太い破線)としてクロスダイクロイックプリズム5から出射する。出射した合成画像光10は、偏光分離素子4によって投射光学系12に導かれ、スクリーン(投射面)上に投射される。尚、偏光分離素子4と、クロスダイクロイックプリズム5と、位相差板7r、7g、7bを色分離合成光学系とする。
【0015】
一般的に、ダイクロイック膜を透過または反射する光は、透過または反射の際に、位相差が生じてしまう。これにより、ダイクロイック膜は、入射光の偏光状態を変化させてしまうので、本来なら画像表示素子8r、8g、8bにより変調された光のうち、偏光分離素子4を透過して光源側へと戻されるべき光(戻り光)が、投射光学系12側へ導かれてしまう。この光(漏れ光)が、投射画像のコントラストを低下させてしまう。
【0016】
位相差の生じ方は、ダイクロイック膜の層数や材質や厚みに依存する。ダイクロイック膜が、入射光に与える位相差の例を図2に示す。図2は、青の波長帯域の光を反射し、赤および緑の波長帯域を透過するダイクロイック膜の分光透過率と分光透過位相差特性である。図2の横軸は波長[nm]、左側の縦軸は、透過率が100%のときを1として正規化したときの透過率である。図中の太い実線がS偏光透過率(左軸)、細い実線がP偏光透過率(左軸)、破線が透過位相差[deg](右軸)を示している。尚、図2の右側の軸の位相差[deg]は、ダイクロイック膜に対して入射したP偏光とS偏光、それぞれに生じる位相変化の差である。図2からダイクロイック膜の透過帯域(510nmよりも長波長側、660nmよりも短波長側)においては、ダイクロイック膜で生じる位相差は、波長が長くなるのに対して滑らかに低減する。ただし、入射偏光が、ダイクロイック膜で生じる位相差により受ける影響は、入射光の方位角に依存する。
【0017】
図3(a)、(b)を用いて、ダイクロイック膜に入射する方位角が異なる場合における偏光状態の変化について説明する。尚、図3においては、入射光の偏光の振動方向は、ダイクロイック膜に入射する前に偏光板や偏光変換素子等により、x方向に揃えられているものとして説明する。
【0018】
まず、図3(a)に示すように、ダイクロイック膜5aに対する入射光2Aが、図中z軸と平行な場合(xz面と平行な場合)には、入射光2Aの偏光方向は、ダイクロイック膜を基準に定義される入射面内で振動するP偏光である。よって、入射光2Aは、偏光の状態を保ってダイクロイック膜5aを透過する。
【0019】
一方、図3(b)に示すように、入射光2Bが、xz面の外から入射する場合、ダイクロイック膜に対するP偏光断面、S偏光断面(入射面に垂直な断面)それぞれに成分をもつ。この結果、ダイクロイック膜5aで生じる位相差の影響を受け、ダイクロイック膜5aを透過する際に、その偏光状態が変化してしまう。
【0020】
図3(a)、(b)では入射光の偏光の振動方向としてx方向を想定しているが、入射光の偏光の振動方向がy方向であっても、xz面から外れて入射する入射光は、ダイクロイック膜5aを透過する際に、その偏光状態が変化してしまう。
【0021】
さらに、z軸となす角度が同じ入射光であっても、入射光の方位角(αの角度)によって、ダイクロイック膜5aとなす角度が変化するため、入射光の受ける位相差は同じではない。図3(c)に示すように、y軸に対して非対称な偏光状態の変化が光路の往路と復路で生じる。その結果、偏光分離素子4での検光の際に漏れ光を生じ、投射画像のコントラストが低下してしまう。尚、図3(a)、(b)、(c)では、透過光を例に説明を行ったが、反射光についても同様である。
【0022】
ダイクロイック膜で生じる位相差は、特許文献1に開示されているように、設計によりダイクロイック膜の位相差が小さくなるように制御することで、漏れ光を抑制する事が可能である。しかし、高品位な画像表示を行うためには、所望の波長帯域において入射偏光に対する色分離特性の変化が少なく、かつ、透過領域で高い透過率、反射領域で高い反射率を持つ高性能なダイクロイック膜が必要となる。透過領域と反射領域の比を高めて色分離特性を向上させるためには積層膜数を増大する必要があるが、積層膜数が増大すると反対に位相差は増大する傾向がある。そうすると製造時の誤差やばらつきにより位相差が大きく変動することになる。そのため色分離特性と位相差特性を両立する設計は非常に難しく、また製造難易度も高いものになってしまう。
【0023】
本発明者は、ダイクロイック膜を構成する繰り返し周期の積層膜の部分を、微細構造に基づく構造異方性と捉えることにより、ダイクロイック膜は、その光学軸が、ダイクロイック膜の面法線方向に傾いた位相差板と見なすことができることを見出した。
【0024】
これに基づき、本発明の投射型画像表示装置100(図1)は、クロスダイクロイックプリズム5と画像表示素子8r、8g、8bとの間に、位相差板7r、7g、7bを配置する。さらに、位相差板7r、7g、7bの光学軸が、ダイクロイック膜5aまたは5bの面法線方向と、実質的に、垂直または平行となるように設定している。これにより、光がダイクロイック膜5aまたは5bを透過または反射する際に生じる位相差を適切に補償して、漏れ光を抑制することができる。
【0025】
前述したとおり、ダイクロイック膜の屈折率異方性を1軸性の屈折率楕円体を用いて近似すると、ダイクロイック膜は、常光屈折率n0と異常光屈折率neのうち光学軸である異常光屈折率neが、面法線方向である位相差板と見なせる。よって、ダイクロイック膜で生じる位相差を補償する補償板としての位相差板7gの屈折率異方性は、ダイクロイック膜で生じる位相差をキャンセルするような屈折率異方性を有していればよい。具体的には、位相差板7gの常光屈折率n0と異常光屈折率ne(光学軸)の大小関係が、ダイクロイック膜を近似した際の常光屈折率n0と異常光屈折率neの大小関係と同じである場合には、以下のように設定する。ダイクロイック膜の異常光屈折率ne(光学軸)の方向と位相差板7gの異常光屈折率ne(光学軸)の方向とが、実質的に、垂直になるよう設定する。また、位相差板7gの常光屈折率n0と異常光屈折率neの大小関係が、ダイクロイック膜を近似した際の常光屈折率n0と異常光屈折率neの大小関係と異なる場合には、以下のように設定する。ダイクロイック膜の異常光屈折率ne(光学軸)の方向と位相差板7gの異常光屈折率ne(光学軸)との方向が、実質的に、平行になるよう設定する。これにより、ダイクロイック膜5aで発生した位相差を、位相差板7gが相殺する作用が働く。本明細書において、屈折率異方性が異なるとは、上述の関係を満足することである。
【0026】
つまり、位相差板7gの光学軸が、ダイクロイック膜の光学軸、つまりダイクロイック膜の面法線と成す角度が、実質的に、垂直あるいは平行となるように位相差板7gの光学軸を設定することで、ダイクロイック膜で発生してしまった位相を補償することができる。
【0027】
以上の説明は、位相差板7r、7g、7bを代表して位相差板7gを用いて説明したが、位相差板7r、7bについても同様である。
【0028】
光学軸の方向は、エリプソメトリーやポラリメータなどの装置で解析することが可能である。
【0029】
より詳細に、図4(a)、(b)を用いて説明する。尚、図4(a)、(b)では、簡略化のために緑の波長帯域の光路を抜き出して表示しているが、他の波長帯域の光路についても同じである。
【0030】
位相差板7gの光学軸の方向cは、ダイクロイック膜5aの面法線mとクロスダイクロイックプリズム5の出射面法線n(あるいは、入射面法線n)とに平行な断面内にある。画像表示素子の法線とダイクロイック膜5aの面法線mとに平行な断面内にあると言い換えてもよい。そして、位相差板7gの光学軸の方向cを、ダイクロイック膜の面法線mに対して、垂直(図4(a))または平行(図4(b))になるように設定する。
【0031】
図4(a)では、位相差板7gの光学軸の方向cを、ダイクロイック膜5aの面法線mと垂直になるよう設定している。図4(b)では、位相差板7gの光学軸の方向cをダイクロイック膜5aの面法線mと平行になるよう設定している。図4(a)、(b)のように位相差板7gの光学軸を適切に設定することで、ダイクロイック膜5aで生じる入射方位によって非対称な位相差を補償し、偏光状態が変化してしまうことを抑えることができる。
【0032】
図5は、図2に示した特性のダイクロイック膜において生じる位相差Δ[deg]と入射角度[deg]の関係を示す。使用した波長は、532nmである。横軸は、ダイクロイック膜の法線に対する光の入射角度である。縦軸は、位相差Δ[deg]である。太い破線は、ダイクロイック膜で生じる位相差である。実線は、太い破線で示したダイクロイック膜により受ける位相差に対し、位相差板として最適な補償の位相差特性である。長い破線は、水晶からなる位相差板を図4(a)の構成で用いた場合の位相差特性(補償特性)である。理想的には、P偏光とS偏光の位相差が、入射角度に依らず、常に360度であることが好ましい。しかし、実際には図5の太破線で示すようなP偏光とS偏光の位相差が生じてしまう。そこで、それを補償するための理想的な特性が実線である。そして、本発明の1枚の位相差板を配置した場合の特性が細い破線である。
【0033】
図5に実線で示した最適な補償特性と図5に長破線で示した位相差特性との差を図6に実線で示す。図6の矢印は、参照すべき縦軸を指している。図6の横軸は、光線の入射角度[deg]、縦軸は位相差[deg]である。図6の破線は、位相差板を用いない場合(位相差板により補償を行う前)にダイクロイック膜で生じる位相差である。これに対応する位相差[deg]は、図6の右側の軸である。図6から、光学軸の方向cが、本発明のように傾いた位相差板7gを用いることで、ダイクロイック膜で生じる位相差が打ち消されていることがわかる。図4(b)の構成においても、同様の効果が得られる。
【0034】
尚、図6の一点鎖線は、互いに特性の異なる位相差板を2枚用いた場合の理想的な補償特性と位相差板の位相差特性との差である。2枚の位相差板を用いることで、45度以外の入射角度でも位相差が低減されている。これについては実施例2で説明する。
【0035】
以上の説明のとおり、画像表示素子とクロスダイクロイックプリズムの間に、光学軸の方向cが適当に設定された位相差板を設けることで、ダイクロイック膜により受ける位相差を補償することができる。これにより、入射光の偏光状態の変化を小さく抑え、漏れ光を抑制し、投射画像のコントラストを向上させることができる。
【0036】
また、本発明の他の効果として、ダイクロイック膜の構造を複雑にする必要がないので、ダイクロイック膜の設計や製造の難度を低減することができる点が挙げられる。
【0037】
《実施例2》
では、実施例2の投射型画像表示装置の構成について説明する。光学系の概略は図1と同じである。光源1には中心波長がそれぞれ640[nm]、532[nm]、460[nm]の3つの固体発光光源を用いる。中心波長が640[nm]の赤色光、中心波長が532[nm]の緑色光、及び460[nm]の青色光の各波長分布の半値幅は30nm以下であることが好ましい。
【0038】
また、光源1から発せられる光が非偏光光の場合には、偏光変換素子などを用いて直線偏光に揃える必要があるが、光源1から発せられる光が偏光光の場合には、偏光変換素子は必要ない。
【0039】
また、偏光分離素子4は、微細金属格子からなるワイヤーグリッド偏光子である。ワイヤーグリッドは、光入射面にそのピッチが可視光波長以下の周期的な凹凸構造を有する素子である。
【0040】
また、クロスダイクロイックプリズムや画像表示素子等の光学系は、偏光分離素子4の透過側あるいは反射型のいずれに配置してもよい。実施例1、2においては、照明光学系3からの光が、偏光分離素子4を通過する際に生じる非点収差を抑制するために、クロスダイクロイックプリズムと画像表示素子を、偏光分離素子4の透過側に配置している。これにより、偏光分離素子4により反射された反射光が、投射光学系12へと導かれるので、非点収差が抑制される。
【0041】
表1、表2にダイクロイック膜5a、5bの膜の構成を示す。また、図7(a)、(b)にダイクロイック膜5a、5bの分光透過率および分光透過位相差を示す。太い実線が、S偏光透過率(左軸)、細い実線がP偏光透過率(左軸)、破線が透過位相差Δ[deg](右軸)を示している。
【0042】
ダイクロイック膜5aは、中心波長460[nm]の光を反射し、中心波長532[nm]、640[nm]の光を透過する特性を示す。ダイクロイック膜5bは、中心波長460[nm]、532[nm]の光を透過し、中心波長640[nm]の光を反射する特性を示す。
【0043】
表3に実施例2の位相差板7r、7g、7bの構成を示す。表3の軸角度[deg]は、位相差板の光学軸の設定角度を表す。青色用の位相差板7bと緑色用の位相差板7gの光学軸は、ダイクロイック膜5aの面法線を基準としたときの傾斜角度である。位相差板7rの光学軸の軸角度は、ダイクロイック膜5bの面法線を基準としたときの傾斜角度である。
【0044】
図8(a)、(b)、(c)に、実施例2の位相差板の位相差の入射角度特性を破線で示す。図8(a)、(b)、(c)はそれぞれ、位相差板7r、7g、7bに対応し、実線は、ダイクロイック膜5a、5bに対する最適な位相補償特性である。
【0045】
図8(a)、(b)、(c)に実線と破線で示した2つの位相差曲線の差を図9に示す。図9の実線が緑色光(緑の波長帯域の光)、破線が赤色光(赤の波長帯域の光)、一点鎖線が青色光(青の波長帯域の光)の位相差である。ダイクロイック膜への入射角度が45度付近における位相差が、位相差板の光学軸を本発明のように設定することにより、小さく抑えられている。この結果、ダイクロイック膜で生じる位相差を抑制し、位相差板を配置しない場合に比べて、漏れ光を1/4以下に低減させることが出来た。入射光束のFno(Fナンバー)を4.0とした場合、位相差板の効果により、位相差板を配置しない場合に比べ、コントラストは40:1から200:1に上昇した。
【0046】
《実施例3》
実施例3の投射型画像表示装置について図10を用いて説明する。実施例1と異なる点は、第1の位相差板7r、7g、7bとクロスダイクロイックプリズム5の間に、第2の位相差板13r、13g、13bを配置している点である。
【0047】
図11に、第1の位相差板7gと第2の位相差板13gを配置した投射型画像表示装置(図10)の構成の一部を示す。分かりやすくするために、クロスダイクロイックプリズムの2つのダイクロイック膜のうち一方のみを示している。図11のxz断面内において、第1の位相差板7gの光学軸の方向c1と第2の位相差板13gの光学軸の方向c2は、互いに直交する。
【0048】
このように、光学軸の方向が異なる2枚の位相差板を組み合わせることにより、図6の一点鎖線で示したように、更に高い補償効果を得る事が出来る。位相差板の枚数が多ければ多いほど、より精度の高い補償ができる。
【0049】
実施例3において、第1の位相差板7gの光学軸と第2の位相差板13gの光学軸の関係は、ダイクロイック膜を近似した光学軸と第1の位相差板7gの光学軸の関係と同じである。第1の位相差板7gの常光屈折率n0と異常光屈折率ne(光学軸)の大小関係と第2の位相差板13gの常光屈折率n0と異常光屈折率neの大小関係が同じ場合は、以下のように設定するのが好ましい。第1の位相差板7gの異常光屈折率neと第2の位相差板13gの異常光屈折率neの方向が、互いに直交するよう設定する。第1の位相差板7gの常光屈折率n0と異常光屈折率neの大小関係と第2の位相差板13gの常光屈折率n0と異常光屈折率neの大小関係が異なる場合は、以下のように設定するのが好ましい。第1の位相差板7gの異常光屈折率neと第2の位相差板13gの異常光屈折率neの方向が、互いに平行になるよう設定する。これにより、第1の位相差板7gで発生した位相差を、第2の位相差板13gが相殺する作用をもつので、より精度の良い位相補償効果を得ることができる。
【0050】
また、第2の位相差板13gの光学軸の方向c2と第1の位相差板の光学軸の方向c1とは、必ずしも互いに直交する必要はなく、異なっていればよい。理由は、それぞれの位相差板の屈折率異方性によっては、厳密に直交せずとも1枚のみの位相差板を配置した場合に比べて、位相差を補償する効果が得られるからである。
【0051】
以上の説明に置いて、緑の波長帯域の光路に配置された位相差板7g、位相差板13gを例に挙げて説明したが、赤の波長帯域の光路に配置された位相差板7r、位相差板13r、青の波長帯域の光路に配置された位相差板7b、位相差板13bも同様である。
【0052】
表4(a)、(b)、(c)に、実施例3の位相差板7r、13rと7g、13g、並びに7b、13bの構成を示す。軸角度の定義は、表3と同じである。
【0053】
図12(a)、(b)、(c)に、図8と同様に、図10に示す構成において、入射角度[deg]に対する位相差[deg]を示す。図12(a)、(b)、(c)は、それぞれ赤、緑、青の光路に対応する。実線は、ダイクロイック膜において生じる位相差を補正するのに、最適な補償特性である。破線は、それぞれの光路に配置された2枚の位相差板の入射角度に対する位相補償特性である。実線、破線ともに、2枚の位相差板の位相差の総和である。
【0054】
図13に、図12に実線と破線で示した2つの位相差曲線の差を、それぞれの色光について示す。図9に比べ、赤(破線)、青(一点鎖線)の波長帯域で位相差がより小さく抑えられていることがわかる。
【0055】
実施例3において、2枚の位相差板を用いてダイクロイック膜で生じる位相差を補償した。この2枚の位相差板に加えて、画像表示素子の液晶分子などで生じる位相差の補償のために、上記以外の特性の位相差板を追加しても良い。これにより、更にコントラストを高めることができる。
【0056】
《実施例4》
本発明の他の形態を図14に示す。図14において、図1の構成と異なる点は、色分離素子がクロスダイクロイックプリズムではなく、複数のダイクロイックプリズムで構成される点である。図14のような構成とすることで、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、図14に示した形態の他の効果としては、ダイクロイック膜の面法線方向が同じ方向に統一されるため、位相補償がより行いやすくなる点が挙げられる。
【0057】
《実施例5》
本発明の他の形態を図15に示す。図1の構成と異なる点は、位相差板7gをダイクロイック膜とクロスダイクロイックプリズムを構成する角柱状プリズムとの間に配置した点である。図15のような構成とすることで、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、図15に示した形態の他の効果としては、ダイクロイック膜5a、5bそれぞれに対して最適化した位相差板を配置することができるので、より高いコントラストを得ることができる点が挙げられる。もちろん、青、赤の光路に配置する位相差板を、図15のようにしても、同様の効果が得られる。
【0058】
尚、上記各実施例において、位相差板の光学軸の方向cは、ダイクロイック膜の面法線mに対して厳密に平行または垂直となるように設定する必要はない。位相差板の光学軸の方向cが、ダイクロイック膜の面法線mに対して平行または垂直とは、光学軸の方向cとダイクロイック膜の面法線mとが成す角度θが、下記の条件式(1)を満足する範囲を含む。
0≦θ≦10[deg]・・・(式1A)または
80≦θ≦90[deg]・・・(式1B)
式1Aと式1Bの2つの範囲を持つのは、光学軸の方向cと面法線mが平行な場合と、垂直な場合があるためである。角度θが式1A、式1Bの範囲1から外れると、ダイクロイック膜で生じる位相差を補償する効果が低下するため、角度θは、式1A、または、式1Bを満たすことが好ましい。
【0059】
より好ましくは、角度θは以下の式を満足するのが良い。
0≦θ≦5[deg]・・・(式2A)または
85≦θ≦90[deg]・・・(式2B)
また、位相差板の光学軸の方向cは、ダイクロイック膜の面法線mとプリズム入出射面の面法線nの両方を含む面内に厳密に含まれる必要はない。好ましくは、ダイクロイック膜の面法線mとプリズムの入出射面の面法線の両方を含む面から5度以内であればよい。
【0060】
また、上記の位相差板を第1の位相差板とし、ダイクロイック膜と画像表示素子との間にさらに第2の位相差板が挿入される場合についても、第2の位相差板の光学軸の方向cは、ダイクロイック膜の面法線mに対して厳密に平行または垂直に設定する必要はない。
【0061】
また、位相差板の材質としては様々なものを用いることができる。例えば、液晶分子を所望の方向へと配向させたものや、高分子フィルムを延伸した位相差フィルムなどでも良い。また、結晶材料の屈折率異方性を利用して、所望の軸角度で切り出ししたものや、波長以下の微細な周期構造による構造複屈折を利用した位相差板であっても良く、位相差板の材質や製法には限定されない。
【0062】
また、位相差板の与える位相差は、ダイクロイック膜で生じる位相差を補償するように位相差を付与することが好ましい。ダイクロイック膜の膜厚あるいは膜総数が増えれば、入射光に付与されてしまう位相差も増えるので、位相板の位相差も大きくすればよい。
【0063】
また、位相差板は、赤、緑、青の波長帯域の光路のうち、いずれか1つの色光の光路に配置すれば本発明の効果を得ることができる。より好ましくは、すべての色光の光路に配置するのがよい。これにより、より漏れ光を低減し、高いコントラストを得ることができる。
【0064】
また、画像表示素子は反射型の画像表示素子に限られず、透過型の画像表示素子であってもよい。例えば、偏光分離手段と透過型の画像表示素子との間にダイクロイックミラーが配置されているような投射型画像表示装置において、ダイクロイックミラーと透過型の画像表示素子との間に、位相差板を配置すればよい。そして、位相差板の光学軸は、ダイクロイックミラーの色分離面の面法線mと、透過型の画像表示素子の法線とを含む面内に、光学軸の方向が面法線mと垂直あるいは平行にすればよい。これにより、高コントラストな投射型画像表示装置を提供できる。
【0065】
また、光源の種類が変わっても、ダイクロイック膜の面法線mに対して、平行あるいは垂直な方向に光学軸を有する位相差板を、ダイクロイックプリズムと画像表示素子との間に配置すれば、漏れ光の低減効果が得られる。例えば、赤、緑、青の波長帯域の幅は光源の種類によって異なるが、どのような光源を用いても良い。赤、緑、青の波長帯域の光を含む光源を用いてもよいし、赤、緑、青の3色の固体発光光源を組み合わせ、ダイクロイックミラー等の色合成素子を用いて光路を合成して使用しても良い。より好ましくは、各色の波長帯域における波長分布の半値幅が、30nm以下の光源を用いることが好ましい。このような光源としては、レーザやLEDなどの固体発光光源がある。位相差に波長分散(波長に依存する位相差のズレ)があるため、波長帯域が広いと最適値からのズレが増えていくが、使用する波長帯域が狭いほど、最適値からのズレが低減し、より精度よく補償できるからである。また、帯域幅のより狭い光源を用いることで、ダイクロイック膜の設計や製造も容易にできる。また、色分離の際にも、使用波長帯域外の光の反射が生じるのを抑え、ゴースト光を生じにくくなる。
【0066】
また、各実施例において、画像表示素子により反射された画像光を最終的に投射光学系側へと導くとともに、不要光を光源側へと戻す偏光分離素子4の種類を、ワイヤーグリッド型の偏光子としたが、これに限られない。例えば、プリズムのある面に薄膜を積層したタイプや、異方性屈折率の層を積層したタイプでも良い。ただし、ワイヤーグリッドに代表される、周期構造を用いた偏光分離素子を使用する場合は、消光比や角度特性が、薄膜を積層した偏光分離素子よりも漏れ光が抑えられるため、より好ましい。
【0067】
また、画像表示素子へ入射する光束のうち、ダイクロイック膜の同一点に入射する光束の入射角度があまりに大きい場合には、全入射角度域全域で補償を行うことが困難になってくる。そのため、一定の位相補償効果を得るためには、光束の入射角度は20度以下であることが好ましい。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【符号の説明】
【0072】
5 クロスダイクロイックプリズム
5a、5b ダイクロイック膜
7r、7g、7b 位相差板
8r、8g、8b 画像表示素子
100 投射型画像表示装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源からの光を色分離する投射型画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な方式で画像の表示を行う投射型画像表示装置(液晶プロジェクタ)が提案されている。特許文献1には、偏光分離素子と、クロスダイクロイックプリズムを用いて、光源からの光を複数の波長帯域の光に分離し、それら分離した光を各波長帯域の光に対応した反射型の画像表示素子(光変調素子)に照射する構成が開示されている。反射型の画像表示素子に照射された光は、画像信号に応じてその偏光状態が変えられて反射され、再びクロスダイクロイックプリズム、偏光分離素子を介してスクリーンに投射される。
【0003】
特許文献1は、クロスダイクロイックプリズムのダイクロイック膜により生じる位相差によって、投射画像のコントラストが低下するのを抑えるために、ダイクロイック膜によって生じる位相差が15度以下になるように、ダイクロイック膜を設計している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−237565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のダイクロイック膜では、ダイクロイック膜の色分離特性が低下してしまうという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の投射型画像表示装置は、
入射光を互いの波長帯域が異なる複数の光に分離する色分離面を有する色分離素子と、
前記色分離素子により分離された光が入射する光変調素子と、
前記色分離素子と投射光学系との間に配置され、前記光変調素子により変調された光の光路を偏光方向に応じて分離して、前記投射光学系へと導く偏光分離素子と、
前記色分離素子と前記光変調素子との間に配置された位相差板を有し、
前記色分離面の法線と前記光変調素子の法線とに平行な断面において、前記位相差板の光学軸と前記色分離面の法線とは、実質的に、平行あるいは垂直であることを特徴とする。
【0007】
なお、投射光学系が一体に設けられた又は取り外し可能に装着される画像投射装置も本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ダイクロイック膜の色分離特性の低下を抑えつつ、投射画像のコントラストを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例1、2の投射型画像表示装置の構成概略図
【図2】ダイクロイック膜の各偏光の透過率と位相差特性を示す図
【図3】ダイクロイック膜で生じる偏光変化を説明する図
【図4】本発明の位相差板についての説明図
【図5】本発明の実施例1のダイクロイック膜で生じる位相差の入射角度特性を示す図
【図6】本発明の実施例1の位相差補償の入射角度特性を示す図
【図7】本発明の実施例2のダイクロイック膜の各偏光の透過率と位相差特性を示す図
【図8】本発明の実施例2の各位相差板の位相差の入射角度特性を示す図
【図9】本発明の実施例2の位相補償後の各色光に対する位相差の入射角度特性を示す図
【図10】本発明の実施例3の投射型画像表示装置の構成概略図
【図11】本発明の実施例3の位相差板についての説明図
【図12】本発明の実施例3の各位相差板の位相差の入射角度特性を示す図
【図13】本発明の実施例3の位相補償後の各色光に対する位相差の入射角度特性を示す図
【図14】本発明の実施例4の投射型画像表示装置の構成概略図
【図15】本発明の実施例5の投射型画像表示装置の構成概略図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を、添付の図面に基づいて説明する。
【0011】
《実施例1》
図1は、本発明の実施例1の投射型画像表示装置100の構成概略図である。光源1から出射された照明光2(太い実線)は、照明光学系3を介して、偏光分離素子4に入射する。偏光分離素子4は、第1偏光(P偏光)を透過し、第2偏光(S偏光)を反射させる。照明光2は、複数の波長帯域の光を含む光である。尚、偏光分離素子4に入射する光は、偏光分離素子4よりも光源1側に配置された不図示の偏光変換素子により、偏光方向がほぼ揃えられている。
【0012】
偏光分離素子4を透過した照明光2は、クロスダイクロイックプリズム5によって複数の波長帯域の光に分離される。ダイクロイック膜5aは、青の波長帯域の光を反射させ、赤と緑の波長帯域の光を透過させる特性である。ダイクロイック膜5bは、赤の波長帯域の光を反射させ、青と緑の波長帯域の光を透過させる特性である。つまり、照明光2のうち青の波長帯域の光は、ダイクロイック膜5aにより反射され、赤の波長帯域の光はダイクロイック膜5bにより反射される。緑の波長帯域の光はダイクロイック膜5a、ダイクロイック膜5b両者を透過する。その結果、照明光2は、図1に細い実線で示した赤の波長帯域の光6r、緑の波長帯域の光6g、青の波長帯域の光6bに分離される。そして、各波長帯域の光6r、6b、6g(以下、色光とも言う)は、各色光に対応した画像表示素子8r、8g、8b(光変調素子)を照明する。
【0013】
画像表示素子8r、8g、8bは、照明光2の偏光状態を画像信号に応じて変えて(変調して)反射させる素子である。画像表示素子8r、8g、8bにより反射された画像光9r、9g、9b(細い破線)は、再びクロスダイクロイックプリズム5に入射する。青の波長帯域の画像光9bは、ダイクロイック膜5bを透過し、ダイクロイック膜5aによって反射され偏光分離素子4側へ射出される。赤の波長帯域の画像光9rは、ダイクロイック膜5aを透過し、ダイクロイック膜5bにより反射され偏光分離素子4側へ射出される。緑の波長帯域の画像光9gは、ダイクロイック膜5a、ダイクロイック膜5bを両方透過して偏光分離素子4側へ射出される。
【0014】
以上のように画像光9r、9g、9bは、ダイクロイック膜5a、ダイクロイック膜5bにより合成され、合成画像光10(図1の太い破線)としてクロスダイクロイックプリズム5から出射する。出射した合成画像光10は、偏光分離素子4によって投射光学系12に導かれ、スクリーン(投射面)上に投射される。尚、偏光分離素子4と、クロスダイクロイックプリズム5と、位相差板7r、7g、7bを色分離合成光学系とする。
【0015】
一般的に、ダイクロイック膜を透過または反射する光は、透過または反射の際に、位相差が生じてしまう。これにより、ダイクロイック膜は、入射光の偏光状態を変化させてしまうので、本来なら画像表示素子8r、8g、8bにより変調された光のうち、偏光分離素子4を透過して光源側へと戻されるべき光(戻り光)が、投射光学系12側へ導かれてしまう。この光(漏れ光)が、投射画像のコントラストを低下させてしまう。
【0016】
位相差の生じ方は、ダイクロイック膜の層数や材質や厚みに依存する。ダイクロイック膜が、入射光に与える位相差の例を図2に示す。図2は、青の波長帯域の光を反射し、赤および緑の波長帯域を透過するダイクロイック膜の分光透過率と分光透過位相差特性である。図2の横軸は波長[nm]、左側の縦軸は、透過率が100%のときを1として正規化したときの透過率である。図中の太い実線がS偏光透過率(左軸)、細い実線がP偏光透過率(左軸)、破線が透過位相差[deg](右軸)を示している。尚、図2の右側の軸の位相差[deg]は、ダイクロイック膜に対して入射したP偏光とS偏光、それぞれに生じる位相変化の差である。図2からダイクロイック膜の透過帯域(510nmよりも長波長側、660nmよりも短波長側)においては、ダイクロイック膜で生じる位相差は、波長が長くなるのに対して滑らかに低減する。ただし、入射偏光が、ダイクロイック膜で生じる位相差により受ける影響は、入射光の方位角に依存する。
【0017】
図3(a)、(b)を用いて、ダイクロイック膜に入射する方位角が異なる場合における偏光状態の変化について説明する。尚、図3においては、入射光の偏光の振動方向は、ダイクロイック膜に入射する前に偏光板や偏光変換素子等により、x方向に揃えられているものとして説明する。
【0018】
まず、図3(a)に示すように、ダイクロイック膜5aに対する入射光2Aが、図中z軸と平行な場合(xz面と平行な場合)には、入射光2Aの偏光方向は、ダイクロイック膜を基準に定義される入射面内で振動するP偏光である。よって、入射光2Aは、偏光の状態を保ってダイクロイック膜5aを透過する。
【0019】
一方、図3(b)に示すように、入射光2Bが、xz面の外から入射する場合、ダイクロイック膜に対するP偏光断面、S偏光断面(入射面に垂直な断面)それぞれに成分をもつ。この結果、ダイクロイック膜5aで生じる位相差の影響を受け、ダイクロイック膜5aを透過する際に、その偏光状態が変化してしまう。
【0020】
図3(a)、(b)では入射光の偏光の振動方向としてx方向を想定しているが、入射光の偏光の振動方向がy方向であっても、xz面から外れて入射する入射光は、ダイクロイック膜5aを透過する際に、その偏光状態が変化してしまう。
【0021】
さらに、z軸となす角度が同じ入射光であっても、入射光の方位角(αの角度)によって、ダイクロイック膜5aとなす角度が変化するため、入射光の受ける位相差は同じではない。図3(c)に示すように、y軸に対して非対称な偏光状態の変化が光路の往路と復路で生じる。その結果、偏光分離素子4での検光の際に漏れ光を生じ、投射画像のコントラストが低下してしまう。尚、図3(a)、(b)、(c)では、透過光を例に説明を行ったが、反射光についても同様である。
【0022】
ダイクロイック膜で生じる位相差は、特許文献1に開示されているように、設計によりダイクロイック膜の位相差が小さくなるように制御することで、漏れ光を抑制する事が可能である。しかし、高品位な画像表示を行うためには、所望の波長帯域において入射偏光に対する色分離特性の変化が少なく、かつ、透過領域で高い透過率、反射領域で高い反射率を持つ高性能なダイクロイック膜が必要となる。透過領域と反射領域の比を高めて色分離特性を向上させるためには積層膜数を増大する必要があるが、積層膜数が増大すると反対に位相差は増大する傾向がある。そうすると製造時の誤差やばらつきにより位相差が大きく変動することになる。そのため色分離特性と位相差特性を両立する設計は非常に難しく、また製造難易度も高いものになってしまう。
【0023】
本発明者は、ダイクロイック膜を構成する繰り返し周期の積層膜の部分を、微細構造に基づく構造異方性と捉えることにより、ダイクロイック膜は、その光学軸が、ダイクロイック膜の面法線方向に傾いた位相差板と見なすことができることを見出した。
【0024】
これに基づき、本発明の投射型画像表示装置100(図1)は、クロスダイクロイックプリズム5と画像表示素子8r、8g、8bとの間に、位相差板7r、7g、7bを配置する。さらに、位相差板7r、7g、7bの光学軸が、ダイクロイック膜5aまたは5bの面法線方向と、実質的に、垂直または平行となるように設定している。これにより、光がダイクロイック膜5aまたは5bを透過または反射する際に生じる位相差を適切に補償して、漏れ光を抑制することができる。
【0025】
前述したとおり、ダイクロイック膜の屈折率異方性を1軸性の屈折率楕円体を用いて近似すると、ダイクロイック膜は、常光屈折率n0と異常光屈折率neのうち光学軸である異常光屈折率neが、面法線方向である位相差板と見なせる。よって、ダイクロイック膜で生じる位相差を補償する補償板としての位相差板7gの屈折率異方性は、ダイクロイック膜で生じる位相差をキャンセルするような屈折率異方性を有していればよい。具体的には、位相差板7gの常光屈折率n0と異常光屈折率ne(光学軸)の大小関係が、ダイクロイック膜を近似した際の常光屈折率n0と異常光屈折率neの大小関係と同じである場合には、以下のように設定する。ダイクロイック膜の異常光屈折率ne(光学軸)の方向と位相差板7gの異常光屈折率ne(光学軸)の方向とが、実質的に、垂直になるよう設定する。また、位相差板7gの常光屈折率n0と異常光屈折率neの大小関係が、ダイクロイック膜を近似した際の常光屈折率n0と異常光屈折率neの大小関係と異なる場合には、以下のように設定する。ダイクロイック膜の異常光屈折率ne(光学軸)の方向と位相差板7gの異常光屈折率ne(光学軸)との方向が、実質的に、平行になるよう設定する。これにより、ダイクロイック膜5aで発生した位相差を、位相差板7gが相殺する作用が働く。本明細書において、屈折率異方性が異なるとは、上述の関係を満足することである。
【0026】
つまり、位相差板7gの光学軸が、ダイクロイック膜の光学軸、つまりダイクロイック膜の面法線と成す角度が、実質的に、垂直あるいは平行となるように位相差板7gの光学軸を設定することで、ダイクロイック膜で発生してしまった位相を補償することができる。
【0027】
以上の説明は、位相差板7r、7g、7bを代表して位相差板7gを用いて説明したが、位相差板7r、7bについても同様である。
【0028】
光学軸の方向は、エリプソメトリーやポラリメータなどの装置で解析することが可能である。
【0029】
より詳細に、図4(a)、(b)を用いて説明する。尚、図4(a)、(b)では、簡略化のために緑の波長帯域の光路を抜き出して表示しているが、他の波長帯域の光路についても同じである。
【0030】
位相差板7gの光学軸の方向cは、ダイクロイック膜5aの面法線mとクロスダイクロイックプリズム5の出射面法線n(あるいは、入射面法線n)とに平行な断面内にある。画像表示素子の法線とダイクロイック膜5aの面法線mとに平行な断面内にあると言い換えてもよい。そして、位相差板7gの光学軸の方向cを、ダイクロイック膜の面法線mに対して、垂直(図4(a))または平行(図4(b))になるように設定する。
【0031】
図4(a)では、位相差板7gの光学軸の方向cを、ダイクロイック膜5aの面法線mと垂直になるよう設定している。図4(b)では、位相差板7gの光学軸の方向cをダイクロイック膜5aの面法線mと平行になるよう設定している。図4(a)、(b)のように位相差板7gの光学軸を適切に設定することで、ダイクロイック膜5aで生じる入射方位によって非対称な位相差を補償し、偏光状態が変化してしまうことを抑えることができる。
【0032】
図5は、図2に示した特性のダイクロイック膜において生じる位相差Δ[deg]と入射角度[deg]の関係を示す。使用した波長は、532nmである。横軸は、ダイクロイック膜の法線に対する光の入射角度である。縦軸は、位相差Δ[deg]である。太い破線は、ダイクロイック膜で生じる位相差である。実線は、太い破線で示したダイクロイック膜により受ける位相差に対し、位相差板として最適な補償の位相差特性である。長い破線は、水晶からなる位相差板を図4(a)の構成で用いた場合の位相差特性(補償特性)である。理想的には、P偏光とS偏光の位相差が、入射角度に依らず、常に360度であることが好ましい。しかし、実際には図5の太破線で示すようなP偏光とS偏光の位相差が生じてしまう。そこで、それを補償するための理想的な特性が実線である。そして、本発明の1枚の位相差板を配置した場合の特性が細い破線である。
【0033】
図5に実線で示した最適な補償特性と図5に長破線で示した位相差特性との差を図6に実線で示す。図6の矢印は、参照すべき縦軸を指している。図6の横軸は、光線の入射角度[deg]、縦軸は位相差[deg]である。図6の破線は、位相差板を用いない場合(位相差板により補償を行う前)にダイクロイック膜で生じる位相差である。これに対応する位相差[deg]は、図6の右側の軸である。図6から、光学軸の方向cが、本発明のように傾いた位相差板7gを用いることで、ダイクロイック膜で生じる位相差が打ち消されていることがわかる。図4(b)の構成においても、同様の効果が得られる。
【0034】
尚、図6の一点鎖線は、互いに特性の異なる位相差板を2枚用いた場合の理想的な補償特性と位相差板の位相差特性との差である。2枚の位相差板を用いることで、45度以外の入射角度でも位相差が低減されている。これについては実施例2で説明する。
【0035】
以上の説明のとおり、画像表示素子とクロスダイクロイックプリズムの間に、光学軸の方向cが適当に設定された位相差板を設けることで、ダイクロイック膜により受ける位相差を補償することができる。これにより、入射光の偏光状態の変化を小さく抑え、漏れ光を抑制し、投射画像のコントラストを向上させることができる。
【0036】
また、本発明の他の効果として、ダイクロイック膜の構造を複雑にする必要がないので、ダイクロイック膜の設計や製造の難度を低減することができる点が挙げられる。
【0037】
《実施例2》
では、実施例2の投射型画像表示装置の構成について説明する。光学系の概略は図1と同じである。光源1には中心波長がそれぞれ640[nm]、532[nm]、460[nm]の3つの固体発光光源を用いる。中心波長が640[nm]の赤色光、中心波長が532[nm]の緑色光、及び460[nm]の青色光の各波長分布の半値幅は30nm以下であることが好ましい。
【0038】
また、光源1から発せられる光が非偏光光の場合には、偏光変換素子などを用いて直線偏光に揃える必要があるが、光源1から発せられる光が偏光光の場合には、偏光変換素子は必要ない。
【0039】
また、偏光分離素子4は、微細金属格子からなるワイヤーグリッド偏光子である。ワイヤーグリッドは、光入射面にそのピッチが可視光波長以下の周期的な凹凸構造を有する素子である。
【0040】
また、クロスダイクロイックプリズムや画像表示素子等の光学系は、偏光分離素子4の透過側あるいは反射型のいずれに配置してもよい。実施例1、2においては、照明光学系3からの光が、偏光分離素子4を通過する際に生じる非点収差を抑制するために、クロスダイクロイックプリズムと画像表示素子を、偏光分離素子4の透過側に配置している。これにより、偏光分離素子4により反射された反射光が、投射光学系12へと導かれるので、非点収差が抑制される。
【0041】
表1、表2にダイクロイック膜5a、5bの膜の構成を示す。また、図7(a)、(b)にダイクロイック膜5a、5bの分光透過率および分光透過位相差を示す。太い実線が、S偏光透過率(左軸)、細い実線がP偏光透過率(左軸)、破線が透過位相差Δ[deg](右軸)を示している。
【0042】
ダイクロイック膜5aは、中心波長460[nm]の光を反射し、中心波長532[nm]、640[nm]の光を透過する特性を示す。ダイクロイック膜5bは、中心波長460[nm]、532[nm]の光を透過し、中心波長640[nm]の光を反射する特性を示す。
【0043】
表3に実施例2の位相差板7r、7g、7bの構成を示す。表3の軸角度[deg]は、位相差板の光学軸の設定角度を表す。青色用の位相差板7bと緑色用の位相差板7gの光学軸は、ダイクロイック膜5aの面法線を基準としたときの傾斜角度である。位相差板7rの光学軸の軸角度は、ダイクロイック膜5bの面法線を基準としたときの傾斜角度である。
【0044】
図8(a)、(b)、(c)に、実施例2の位相差板の位相差の入射角度特性を破線で示す。図8(a)、(b)、(c)はそれぞれ、位相差板7r、7g、7bに対応し、実線は、ダイクロイック膜5a、5bに対する最適な位相補償特性である。
【0045】
図8(a)、(b)、(c)に実線と破線で示した2つの位相差曲線の差を図9に示す。図9の実線が緑色光(緑の波長帯域の光)、破線が赤色光(赤の波長帯域の光)、一点鎖線が青色光(青の波長帯域の光)の位相差である。ダイクロイック膜への入射角度が45度付近における位相差が、位相差板の光学軸を本発明のように設定することにより、小さく抑えられている。この結果、ダイクロイック膜で生じる位相差を抑制し、位相差板を配置しない場合に比べて、漏れ光を1/4以下に低減させることが出来た。入射光束のFno(Fナンバー)を4.0とした場合、位相差板の効果により、位相差板を配置しない場合に比べ、コントラストは40:1から200:1に上昇した。
【0046】
《実施例3》
実施例3の投射型画像表示装置について図10を用いて説明する。実施例1と異なる点は、第1の位相差板7r、7g、7bとクロスダイクロイックプリズム5の間に、第2の位相差板13r、13g、13bを配置している点である。
【0047】
図11に、第1の位相差板7gと第2の位相差板13gを配置した投射型画像表示装置(図10)の構成の一部を示す。分かりやすくするために、クロスダイクロイックプリズムの2つのダイクロイック膜のうち一方のみを示している。図11のxz断面内において、第1の位相差板7gの光学軸の方向c1と第2の位相差板13gの光学軸の方向c2は、互いに直交する。
【0048】
このように、光学軸の方向が異なる2枚の位相差板を組み合わせることにより、図6の一点鎖線で示したように、更に高い補償効果を得る事が出来る。位相差板の枚数が多ければ多いほど、より精度の高い補償ができる。
【0049】
実施例3において、第1の位相差板7gの光学軸と第2の位相差板13gの光学軸の関係は、ダイクロイック膜を近似した光学軸と第1の位相差板7gの光学軸の関係と同じである。第1の位相差板7gの常光屈折率n0と異常光屈折率ne(光学軸)の大小関係と第2の位相差板13gの常光屈折率n0と異常光屈折率neの大小関係が同じ場合は、以下のように設定するのが好ましい。第1の位相差板7gの異常光屈折率neと第2の位相差板13gの異常光屈折率neの方向が、互いに直交するよう設定する。第1の位相差板7gの常光屈折率n0と異常光屈折率neの大小関係と第2の位相差板13gの常光屈折率n0と異常光屈折率neの大小関係が異なる場合は、以下のように設定するのが好ましい。第1の位相差板7gの異常光屈折率neと第2の位相差板13gの異常光屈折率neの方向が、互いに平行になるよう設定する。これにより、第1の位相差板7gで発生した位相差を、第2の位相差板13gが相殺する作用をもつので、より精度の良い位相補償効果を得ることができる。
【0050】
また、第2の位相差板13gの光学軸の方向c2と第1の位相差板の光学軸の方向c1とは、必ずしも互いに直交する必要はなく、異なっていればよい。理由は、それぞれの位相差板の屈折率異方性によっては、厳密に直交せずとも1枚のみの位相差板を配置した場合に比べて、位相差を補償する効果が得られるからである。
【0051】
以上の説明に置いて、緑の波長帯域の光路に配置された位相差板7g、位相差板13gを例に挙げて説明したが、赤の波長帯域の光路に配置された位相差板7r、位相差板13r、青の波長帯域の光路に配置された位相差板7b、位相差板13bも同様である。
【0052】
表4(a)、(b)、(c)に、実施例3の位相差板7r、13rと7g、13g、並びに7b、13bの構成を示す。軸角度の定義は、表3と同じである。
【0053】
図12(a)、(b)、(c)に、図8と同様に、図10に示す構成において、入射角度[deg]に対する位相差[deg]を示す。図12(a)、(b)、(c)は、それぞれ赤、緑、青の光路に対応する。実線は、ダイクロイック膜において生じる位相差を補正するのに、最適な補償特性である。破線は、それぞれの光路に配置された2枚の位相差板の入射角度に対する位相補償特性である。実線、破線ともに、2枚の位相差板の位相差の総和である。
【0054】
図13に、図12に実線と破線で示した2つの位相差曲線の差を、それぞれの色光について示す。図9に比べ、赤(破線)、青(一点鎖線)の波長帯域で位相差がより小さく抑えられていることがわかる。
【0055】
実施例3において、2枚の位相差板を用いてダイクロイック膜で生じる位相差を補償した。この2枚の位相差板に加えて、画像表示素子の液晶分子などで生じる位相差の補償のために、上記以外の特性の位相差板を追加しても良い。これにより、更にコントラストを高めることができる。
【0056】
《実施例4》
本発明の他の形態を図14に示す。図14において、図1の構成と異なる点は、色分離素子がクロスダイクロイックプリズムではなく、複数のダイクロイックプリズムで構成される点である。図14のような構成とすることで、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、図14に示した形態の他の効果としては、ダイクロイック膜の面法線方向が同じ方向に統一されるため、位相補償がより行いやすくなる点が挙げられる。
【0057】
《実施例5》
本発明の他の形態を図15に示す。図1の構成と異なる点は、位相差板7gをダイクロイック膜とクロスダイクロイックプリズムを構成する角柱状プリズムとの間に配置した点である。図15のような構成とすることで、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、図15に示した形態の他の効果としては、ダイクロイック膜5a、5bそれぞれに対して最適化した位相差板を配置することができるので、より高いコントラストを得ることができる点が挙げられる。もちろん、青、赤の光路に配置する位相差板を、図15のようにしても、同様の効果が得られる。
【0058】
尚、上記各実施例において、位相差板の光学軸の方向cは、ダイクロイック膜の面法線mに対して厳密に平行または垂直となるように設定する必要はない。位相差板の光学軸の方向cが、ダイクロイック膜の面法線mに対して平行または垂直とは、光学軸の方向cとダイクロイック膜の面法線mとが成す角度θが、下記の条件式(1)を満足する範囲を含む。
0≦θ≦10[deg]・・・(式1A)または
80≦θ≦90[deg]・・・(式1B)
式1Aと式1Bの2つの範囲を持つのは、光学軸の方向cと面法線mが平行な場合と、垂直な場合があるためである。角度θが式1A、式1Bの範囲1から外れると、ダイクロイック膜で生じる位相差を補償する効果が低下するため、角度θは、式1A、または、式1Bを満たすことが好ましい。
【0059】
より好ましくは、角度θは以下の式を満足するのが良い。
0≦θ≦5[deg]・・・(式2A)または
85≦θ≦90[deg]・・・(式2B)
また、位相差板の光学軸の方向cは、ダイクロイック膜の面法線mとプリズム入出射面の面法線nの両方を含む面内に厳密に含まれる必要はない。好ましくは、ダイクロイック膜の面法線mとプリズムの入出射面の面法線の両方を含む面から5度以内であればよい。
【0060】
また、上記の位相差板を第1の位相差板とし、ダイクロイック膜と画像表示素子との間にさらに第2の位相差板が挿入される場合についても、第2の位相差板の光学軸の方向cは、ダイクロイック膜の面法線mに対して厳密に平行または垂直に設定する必要はない。
【0061】
また、位相差板の材質としては様々なものを用いることができる。例えば、液晶分子を所望の方向へと配向させたものや、高分子フィルムを延伸した位相差フィルムなどでも良い。また、結晶材料の屈折率異方性を利用して、所望の軸角度で切り出ししたものや、波長以下の微細な周期構造による構造複屈折を利用した位相差板であっても良く、位相差板の材質や製法には限定されない。
【0062】
また、位相差板の与える位相差は、ダイクロイック膜で生じる位相差を補償するように位相差を付与することが好ましい。ダイクロイック膜の膜厚あるいは膜総数が増えれば、入射光に付与されてしまう位相差も増えるので、位相板の位相差も大きくすればよい。
【0063】
また、位相差板は、赤、緑、青の波長帯域の光路のうち、いずれか1つの色光の光路に配置すれば本発明の効果を得ることができる。より好ましくは、すべての色光の光路に配置するのがよい。これにより、より漏れ光を低減し、高いコントラストを得ることができる。
【0064】
また、画像表示素子は反射型の画像表示素子に限られず、透過型の画像表示素子であってもよい。例えば、偏光分離手段と透過型の画像表示素子との間にダイクロイックミラーが配置されているような投射型画像表示装置において、ダイクロイックミラーと透過型の画像表示素子との間に、位相差板を配置すればよい。そして、位相差板の光学軸は、ダイクロイックミラーの色分離面の面法線mと、透過型の画像表示素子の法線とを含む面内に、光学軸の方向が面法線mと垂直あるいは平行にすればよい。これにより、高コントラストな投射型画像表示装置を提供できる。
【0065】
また、光源の種類が変わっても、ダイクロイック膜の面法線mに対して、平行あるいは垂直な方向に光学軸を有する位相差板を、ダイクロイックプリズムと画像表示素子との間に配置すれば、漏れ光の低減効果が得られる。例えば、赤、緑、青の波長帯域の幅は光源の種類によって異なるが、どのような光源を用いても良い。赤、緑、青の波長帯域の光を含む光源を用いてもよいし、赤、緑、青の3色の固体発光光源を組み合わせ、ダイクロイックミラー等の色合成素子を用いて光路を合成して使用しても良い。より好ましくは、各色の波長帯域における波長分布の半値幅が、30nm以下の光源を用いることが好ましい。このような光源としては、レーザやLEDなどの固体発光光源がある。位相差に波長分散(波長に依存する位相差のズレ)があるため、波長帯域が広いと最適値からのズレが増えていくが、使用する波長帯域が狭いほど、最適値からのズレが低減し、より精度よく補償できるからである。また、帯域幅のより狭い光源を用いることで、ダイクロイック膜の設計や製造も容易にできる。また、色分離の際にも、使用波長帯域外の光の反射が生じるのを抑え、ゴースト光を生じにくくなる。
【0066】
また、各実施例において、画像表示素子により反射された画像光を最終的に投射光学系側へと導くとともに、不要光を光源側へと戻す偏光分離素子4の種類を、ワイヤーグリッド型の偏光子としたが、これに限られない。例えば、プリズムのある面に薄膜を積層したタイプや、異方性屈折率の層を積層したタイプでも良い。ただし、ワイヤーグリッドに代表される、周期構造を用いた偏光分離素子を使用する場合は、消光比や角度特性が、薄膜を積層した偏光分離素子よりも漏れ光が抑えられるため、より好ましい。
【0067】
また、画像表示素子へ入射する光束のうち、ダイクロイック膜の同一点に入射する光束の入射角度があまりに大きい場合には、全入射角度域全域で補償を行うことが困難になってくる。そのため、一定の位相補償効果を得るためには、光束の入射角度は20度以下であることが好ましい。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【符号の説明】
【0072】
5 クロスダイクロイックプリズム
5a、5b ダイクロイック膜
7r、7g、7b 位相差板
8r、8g、8b 画像表示素子
100 投射型画像表示装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光を互いの波長帯域が異なる複数の光に分離する色分離面を有する色分離素子と、
前記色分離素子により分離された光が入射する光変調素子と、
前記色分離素子と投射光学系との間に配置され、前記光変調素子により変調された光の光路を偏光方向に応じて分離して、前記投射光学系へと導く偏光分離素子と、
前記色分離素子と前記光変調素子との間に配置された位相差板を有し、
前記色分離面の法線と前記光変調素子の法線とに平行な断面において、前記位相差板の光学軸と前記色分離面の法線とは、実質的に、平行あるいは垂直であることを特徴とする投射型画像表示装置。
【請求項2】
前記位相差板は第1の位相差板であり、
前記第1の位相差板と前記光変調素子との間に更に、第2の位相差板を有し、
前記色分離面の法線と前記光変調素子の法線とに平行な断面において、前記第2の位相差板の光学軸と前記色分離面の法線は、互いに平行あるいは垂直であることを特徴とする請求項1に記載の投射型画像表示装置。
【請求項3】
前記色分離面の屈折率異方性を1軸性の屈折率楕円体を用いて近似したとき、
前記位相差板の常光屈折率n0と光学軸である異常光屈折率neの大小関係が、前記色分離面の常光屈折率n0と異常光屈折率neの大小関係と同じである場合は、前記色分離面の光学軸の方向と前記位相差板の光学軸の方向とが、実質的に、垂直になるよう設定し、前記位相差板の常光屈折率n0と光学軸である異常光屈折率neの大小関係が、前記色分離面の常光屈折率n0と異常光屈折率neの大小関係と異なる場合は、前記色分離面の光学軸の方向と前記位相差板の光学軸の方向とが、実質的に、平行になるよう設定することを特徴とする請求項1または2に記載の投射型画像表示装置。
【請求項4】
複数の光源を有し、
前記光源から出射する光の波長分布の半値幅は、30nm以下であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載の投射型画像表示装置。
【請求項5】
前記光変調素子へ入射する光束のうち、前記色分離素子の同一点に入射する光束の入射角度は20度以下であることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載の投射型画像表示装置。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか1項に記載の投射型画像表示装置と、
前記光変調素子から出射した画像光を投射面に投射する投射光学系を有することを特徴とする投射型画像表示装置。
【請求項1】
入射光を互いの波長帯域が異なる複数の光に分離する色分離面を有する色分離素子と、
前記色分離素子により分離された光が入射する光変調素子と、
前記色分離素子と投射光学系との間に配置され、前記光変調素子により変調された光の光路を偏光方向に応じて分離して、前記投射光学系へと導く偏光分離素子と、
前記色分離素子と前記光変調素子との間に配置された位相差板を有し、
前記色分離面の法線と前記光変調素子の法線とに平行な断面において、前記位相差板の光学軸と前記色分離面の法線とは、実質的に、平行あるいは垂直であることを特徴とする投射型画像表示装置。
【請求項2】
前記位相差板は第1の位相差板であり、
前記第1の位相差板と前記光変調素子との間に更に、第2の位相差板を有し、
前記色分離面の法線と前記光変調素子の法線とに平行な断面において、前記第2の位相差板の光学軸と前記色分離面の法線は、互いに平行あるいは垂直であることを特徴とする請求項1に記載の投射型画像表示装置。
【請求項3】
前記色分離面の屈折率異方性を1軸性の屈折率楕円体を用いて近似したとき、
前記位相差板の常光屈折率n0と光学軸である異常光屈折率neの大小関係が、前記色分離面の常光屈折率n0と異常光屈折率neの大小関係と同じである場合は、前記色分離面の光学軸の方向と前記位相差板の光学軸の方向とが、実質的に、垂直になるよう設定し、前記位相差板の常光屈折率n0と光学軸である異常光屈折率neの大小関係が、前記色分離面の常光屈折率n0と異常光屈折率neの大小関係と異なる場合は、前記色分離面の光学軸の方向と前記位相差板の光学軸の方向とが、実質的に、平行になるよう設定することを特徴とする請求項1または2に記載の投射型画像表示装置。
【請求項4】
複数の光源を有し、
前記光源から出射する光の波長分布の半値幅は、30nm以下であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載の投射型画像表示装置。
【請求項5】
前記光変調素子へ入射する光束のうち、前記色分離素子の同一点に入射する光束の入射角度は20度以下であることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載の投射型画像表示装置。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか1項に記載の投射型画像表示装置と、
前記光変調素子から出射した画像光を投射面に投射する投射光学系を有することを特徴とする投射型画像表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−61460(P2013−61460A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199436(P2011−199436)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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