説明

投射型表示装置

【課題】コヒーレント性を有する光源を使用した場合に簡易にスペックルノイズを低減することのできる投射型表示装置を提供する。
【解決手段】コヒーレント性を有する光源によって画像を表示させる投射型表示装置において、2枚の透光性基板間に挟持された液晶層からなる液晶素子を配置し、該液晶層は自発分極を有するスメクチック相液晶からなり、液晶層間に電圧を印加することによって液晶層を透過する光の位相および/または偏光状態を時間的に変化させることでコヒーレント性を解消し、かつ、安定してスペックルノイズを低減することができるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投射型表示装置に係り、特に、コヒーレント性を有する光源を使用した投射型表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
データプロジェクタあるいは背面投射型テレビジョン受像機のようなスクリーンに投影画像を表示する表示装置の光源としては、従来超高圧水銀(UHP)ランプが使用されてきたが、光源寿命の観点からレーザが提案されている。また、UHPランプはその性質から赤色の波長である645nm近傍の波長帯域がブロードなスペクトルとなるため、赤色光源としてレーザを使用し、青色、緑色波長帯にはUHPランプを使用する併用型の光源も提案されている。
【0003】
しかし、レーザを光源とした投射型表示装置では、投影画像中にレーザ光のコヒーレント性に起因する粒上のスペックルノイズが発生し、投影画像の画質が劣化するという問題がある。
【0004】
そこで、スペックルノイズを低減した投射型表示装置として、光源となるレーザ光から発射する光の光路中に拡散素子を配置し、この拡散素子を人の目で認識できる速さより高速に回転・振動させる形態をなす無スペックル・ディスプレイ装置が提案されている(特許文献1)。このように拡散素子を機械的に動作させることによってコヒーレント性を有するレーザ光を空間的に位相がずれた状態を発生し、スペックルノイズを解消することができる。
【0005】
また、拡散素子等を機械的に振動させる作用なしにスペックルノイズを解消する装置として、半導体レーザダイオードから発射された光の光路中に、複合液晶膜を配置し、この複合液晶膜に電圧を印加して、入射する光の位相を変化させる画像表示装置が提案されている(特許文献2)。同様に、スペックルノイズを解消するものとして、ニオブ酸リチウムなどの不規則な分極反転ドメインを形成した強誘電性基体(結晶)に電極を形成した電気光学素子に電圧を印加することで、誘電性基体の屈折率を時間的に変化させる光学装置が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−208089号公報
【特許文献2】特開2005−338520号公報
【特許文献3】国際公開第99/049354号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の無スペックル・ディスプレイ装置の構成では、拡散素子を回転または振動させるためにモータまたはコイルを含む駆動装置を必要とするため、装置が大型化するばかりか、機械的な振動によりノイズが発生するなど信頼性にも問題があった。
【0008】
また、特許文献2は、液晶レンズ(複合液晶膜)に用いられる液晶の屈折率異方性を利用して印加する電圧によって透過する光の位相を変調させるので、例えば、ネマチック液晶で構成されている場合、スペックルノイズを十分に低減できるように、変化させる位相量(リタデーション値:「屈折率異方性」と「液晶膜の厚さ」と、の積)を大きくしなければならない。その場合、位相量を大きくするために液晶膜の厚さを大きくしなければならず、そのために、液晶膜の厚さが大きくなるにつれて応答速度が遅くなるという問題があった。さらに、ネマチック液晶では、人の目で認識できる速さより高速に位相を変調するための十分な応答速度が得られない、という問題もあった。
【0009】
また、特許文献3も、強誘電性基体に印加する電圧によって透過する光の位相を変調させるので、変化させる位相量を大きくするためには、同様に強誘電性基体を厚くしなければならず、また、この強誘電性基体中に不規則に形成したドメインに直流電圧を重畳した交流電圧を制御して加える必要がある。さらに無機結晶を用いるため、加工等の作製に困難性があるという問題があった。
【0010】
本発明は、従来技術のかかる問題を解決するためになされたものであり、コヒーレント性を有する光源を使用した場合に、簡易的な構成によって、スペックルノイズを安定して低減することができる、信頼性の高い投射型表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、コヒーレント光を発光する光源を少なくとも一つ含む光源部と、前記光源部が発光した光を変調して画像光を生成する画像光生成部と、前記画像光を投射する投射部とを備える投射型表示装置であって、前記光源部と前記画像光生成部との間の光路中に、透過する光に対して位相および/または偏光状態を時間的に変化させる液晶素子が配置され、前記液晶素子は、少なくとも複数の透明基板の対向するそれぞれの面に透明電極を有し、前記透明電極間には、電圧印加時に自発分極を有するスメクチック相からなる液晶を有する液晶層が挟持され、前記透明電極を介して前記液晶層に交流電圧を印加する投射型表示装置を提供する。
【0012】
また、前記液晶層の界面は、配向処理がされていない上記の投射型表示装置を提供する。
【0013】
また、記液晶層の界面は、前記液晶を配向する配向膜を有する上記の投射型表示装置を提供する。
【0014】
また、前記配向膜は、配向方向が少なくとも2つ以上の異なるパターンを有する上記の投射型表示装置を提供する。
【0015】
また、前記光源部と前記液晶素子との間の光路中および/または、前記液晶素子と前記画像光生成部との間の光路中に、入射する光を散乱させて出射する光散乱素子が一つ以上配置された上記の投射型表示装置を提供する。
【0016】
また、前記液晶素子と前記画像生成部との間の光路中に散乱光を集光する集光レンズが配置される上記の投射型表示装置を提供する。
【0017】
また、前記液晶は、カイラルスメクチックC相液晶である上記の投射型表示装置を提供する。
【0018】
また、前記液晶は、Iso−N()−SmCの相転移系列を持つ上記の投射型表示装置を提供する。
【0019】
また、前記液晶素子は、前記液晶層が複数層重ねられて構成される上記の投射型表示装置を提供する。
【0020】
また、複数の前記液晶層のうち、第1の液晶層に印加する交流電圧の位相と第2の液晶層に印加する交流電圧の位相と、が異なる上記の投射型表示装置を提供する。
【0021】
また、前記液晶層に印加する電圧が0.01〜25Vrms/μmである上記の投射型表示装置を提供する。
【0022】
また、前記液晶層に印加する電圧の周波数が70〜2000Hzである上記の投射型表示装置を提供する。
【0023】
さらに、前記液晶素子は、前記透明電極が複数の領域を有し、前記複数の領域に印加する、電圧および/または周波数が異なる上記の投射型表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、コヒーレント性を有する光源を使用した場合に、簡易にスペックルノイズを安定して低減する効果を有する投射型表示装置を提供できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1の実施形態に係る投射型表示装置の構成概念図。
【図2】液晶素子の断面模式図。
【図3】(a)散乱性を有する光学素子に入射する光の散乱状態を示す模式図。(b)透過した光の半値全幅を示すグラフ。
【図4】第2の実施形態に係る投射型表示装置の構成概念図。
【図5】第3の実施形態に係る投射型表示装置の構成概念図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る投射型表示装置10の構成の例を示す模式図である。発光手段であるコヒーレント性を有する光(以下、「コヒーレント光」という。)を発する光源として、例えば半導体レーザや固体レーザなどの、少なくとも1つのレーザ11から出射された光はコリメータレンズ12によって略平行光となるように集光され、偏光子13を透過する。なお、少なくとも1つのレーザを含む光源を、まとめて光源部という。レーザ11は、例えば、半導体レーザは直線偏光の光を出射するが、製造ばらつきや使用環境温度変化により、その偏光方向にばらつきや時間的変動を有する場合がある。偏光子13は、この光の偏光状態を一定にするためのものである。
【0027】
偏光子13を通過した光は、液晶素子20によって、透過する光の位相および/または偏光状態を時間的に変化させることにより空間的な光干渉性を平均化して出射するものである。ここで、位相および/または偏光状態が時間的に変化する、というのは、コヒーレント光が液晶素子20に入射するとき、時間Tのときに液晶素子20を透過する光の位相変化量φおよび/または偏光状態が、時間T(T≠T)のときに液晶素子20を透過する光の位相変化量φおよび/または偏光状態と、異なる状態がある場合に相当する。そして、液晶素子20を透過し、時間的に位相および/または偏光状態が平均化された光は、集光レンズ14により、画像光生成部である空間光変調器15に集光される。なお、レーザ11から出射する光は、ファイバなどを用いて導光されることで散乱される光でもよく、この場合、投射型表示装置10は、コリメータレンズ12、偏光子13を含まない構成としてもよい。
【0028】
また、空間光変調器15としては、典型的には透過型液晶パネルが使用可能であるが、反射型の液晶パネルやデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)などを使用してもよい。また、これに限らず、空間変調器15として、透過型液晶パネルや反射型の液晶パネルを用いる場合、入射する光の時間的変化を抑制するために偏光状態を揃えることが好ましい。このとき、液晶素子20に入射する直線偏光の方向が、液晶素子20の液晶分子の異常光屈折率方向または常光屈折率方向に一致するようにしてもよく、液晶素子20と空間変調器15との間の光路中に、図示しない偏光変換素子を配置してもよい。このように空間光変調器15に入射した光は、画像信号に応じて変調され、投影レンズ16によってスクリーン17などに投影される。この投影レンズのように光を投射(投影)する機能を有する素子(レンズ)を投射部という。なお、光源は、1つのレーザ光源のみを使用する構成であっても、異なる波長の光を出射するレーザ光源を複数配置する構成であってもよく、さらに、コヒーレント光を発しない光源と、コヒーレント光を発するレーザ光源とを組み合わせて用いる構成であってもよい。
【0029】
次に、本実施形態に係る投射型表示装置に用いる液晶素子20の具体的構成を、図2の断面模式図の例を用いて説明する。液晶素子20は、2枚の透光性基板21a、21bのそれぞれ一方の面に透明電極22a、22bを有し、互いの透明電極面を対向させて略平行に配置し、透光性基板間に液晶が充填された液晶層23を有する。なお、透光性基板21a、21bは、平坦な基板であったり、凹凸を有するものであったりしてもよく、また、液晶層23には光を散乱させ得る微粒子などが添加されていてもよい。また、透光性基板21a、21bの周りには液晶をシールするためにシール材24を有する。そして、液晶層23に交流電圧を印加するために、透明電極22a、22bに対して電圧を供給する配線が施され、電源25に接続される。また、透明電極21a、21b上には透明電極同士の短絡を防ぐ目的で、図示しない絶縁膜、または一定の配向を制御する目的で、配向膜のいずれか、または両方を有してもよい。
【0030】
透光性基板21a、21bは、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート等を用いるのでもよいが、耐久性等の点からガラス基板が好適である。透明電極22a、22bとしては、Au、Al等からなる金属膜を用いることができるが、ITO、SnO等からなる膜を用いる方が金属膜に比べ、光の透過性がよく、機械的耐久性が優れているため、好適である。
【0031】
シール材24は、液晶層23の液晶が透光性基板21a、21b間から漏れ出さないようにするためのものであり、確保すべき光学的有効領域の外周に設けられる。シール材24用の材料としては、エポキシ、アクリル等の樹脂系接着剤が取り扱い上好ましいが、加熱またはUV光の照射によって硬化させるのでもよい。また、所望のセル間隔を得るためにガラスファイバ等のスペーサを数%混入させるのでもよい。
【0032】
なお、透光性基板21a、21bの各基板面のうち液晶層23と接しない基板面上に図示しない反射防止膜を設けると、光の利用効率が改善するため、好適である。係る反射防止膜として誘電体多層膜、波長オーダーの薄膜等を用いることができるが、その他の膜でもよい。これらの膜は、蒸着法やスパッタリング法等を用いて形成することができるが、その他の方法で形成するものでもよい。
【0033】
また、絶縁膜を形成する場合には、SiO、ZrO、TiO等の無機材料を用いて、スパッタリング等によって真空成膜する方法、ゾルゲル法によって化学的に成膜する方法等を用いることができる。なお、液晶分子を配向させる場合、ポリイミド、ポリビニルアルコール(PVA)等の膜をラビングする方法、特定方向に偏光したUV光等を、光反応性官能基を有する化学物質に照射して光配向させる方法、SiO等を斜め蒸着する方法、ダイヤモンドライクカーボン等へイオンビーム照射する方法等によって作製された配向膜の表面に液晶を接触させることによって設定することができる。絶縁膜、配向膜は透明電極同士の短絡を防いだり、液晶層が長時間の通電駆動により焼付く(image sticking)ことを防いだりできるため、都合が良い。
【0034】
上記に説明するように、本発明に係る投射型表示装置に用いる液晶素子20は、入射するコヒーレント光に対して光の位相および/または偏光状態を時間的に変化させて透過することにより、スペックルパターンの時間的な変化を発現させる機能を有する。これによって投射された画像は、スペックルノイズが減少した状態で観測される。この液晶素子20の液晶層23に用いる液晶としては、自発分極を有するスメクチック相液晶を用い、液晶層23に交流電圧を印加することで自発分極の方向が高速反転することにより誘起される、高速位相変調モードを用いているところに特徴がある。本願発明において用いられる位相変調モードはディスプレイなどに用いられるネマチック液晶を用いた系とは異なり交流電圧の周波数に応答して透過する光の位相および/または偏光状態を高速で変調できる。このため、本特性を用いることにより人の目で認識できる速さより高速に位相および/または偏光状態を変調することでスペックルノイズを効果的に低減できる。
【0035】
また、本願発明に係る投射型表示装置に用いる液晶素子20は、液晶分子の配向を規制する配向膜を有しない構成では、液晶層23に交流電圧を印加しない場合(以下、「電圧非印加時」という。)において、液晶分子がランダムに様々な方向を向いている。そのため、液晶層23に交流電圧を印加したとき(以下、「電圧印加時」という。)、コヒーレント光が液晶素子20で高速変調されて透過する光の位相および/または偏光状態も時間的にランダムパターンとなる。したがって、レーザから発射するコヒーレント光のコヒーレント性をより効果的に低減することが可能なので、スペックルノイズを効果的に減少させることができる。
【0036】
また、液晶素子20は、これに限らず、配向膜を有するものであってもよい。液晶素子20が配向膜を有する構成では、電圧非印加時において、液晶分子を略一軸に配向させることができる。配向膜を有しない構成ではスメクチック液晶特有であるフォーカルコニック組織由来の粒界によって、透過する光が散乱する場合があり、一方で、配向膜を有する構成にすることで、透過する光の散乱を抑制することができる場合があり、これによって、後述する光利用効率を高めることができる。なお、液晶素子20が配向膜を有する構成においても、液晶素子20に交流電圧を印加することで透過する光の位相および/または偏光状態を高速変調することが可能であり、スペックルノイズを低減させる効果を有する。このように、液晶素子20は、配向膜を有する構成であっても、配向膜を有しない構成であってもよく、所望の効果に合わせて適宜、設定することができる。
【0037】
また、液晶素子20が配向膜を有する構成であるとき、電圧非印加時に、液晶分子の配向状態が略一軸となる配向領域が、少なくとも2つ以上の異なるパターンを有する構成であってもよい。この場合、電圧印加時に液晶素子20を透過する光が高速変調されるとともに、透過する光の位相および/または偏光状態も、配向領域に応じて2つ以上の位相および/または偏光状態パターンが得られるので、スペックルノイズを効果的に減少させることができる。なお、この場合も、上記の説明のように、各領域は略一軸配向状態となっているため光利用効率を高くすることができる。ここで、領域の平面パターンとしてはストライプ状のパターンや市松模様のパターン、同心円状のパターン等を与えることができるが、これに限定されるものではない。
【0038】
また、投射型表示装置10は、液晶素子20へ入射する光を、光軸が略同一で、開口数NAが小さい複数の収束光または平行光とするための、図示しない複数光生成部が、レーザ11と液晶素子20との間の光路中に備わっていてもよい。この場合、液晶層23は、複数光生成部で生成されたこれら複数の光の位相および/または偏光状態を時間的に変調させることによって、液晶層23より擬似的に複数の、位相および/または偏光状態の異なる発光源を生成させる。そして、集光レンズ14は、液晶層23を出射する複数の、位相および/または偏光状態の異なる発光源毎の光を効率よく取り込むとともに、入射するこれらの光を平行光または収束光とする複数のレンズ構造を有するものを用いることができる。この場合、例えば集光レンズ14は、一体化されたアレイ型の集光レンズとすることが好ましく、ここでは出射側集光レンズアレイと定義する。そして、出射側集光レンズアレイに含まれる個々のレンズの構造、焦点距離および液晶層23との間隔などは、所望の機能を実現できるよう適宜設計されるとよい。
【0039】
また、液晶素子20に入射する光を複数光にする(図示しない)複数光生成部は、例えば、一体化されたアレイ型の集光レンズとすることができ、ここでは入射側集光レンズアレイと定義する。入射側集光レンズアレイは、例えば、縦横長さ比が9:16の矩形状の集光レンズを縦16個×横9個のアレイ状に並べ、光軸と略直交する平面の外形が正方形のものとすることができ、以下、この構造を有する場合について説明する。
【0040】
レーザ11から出射した光は、略平行光となった後、複数光生成部(入射側集光レンズアレイ)で集光される焦点位置近傍に配置された液晶層23に入射する。ここで、入射側集光レンズアレイに含まれる個々のレンズは、焦点距離が比較的長い収束光を生成する開口数NAinが0.1以下のものを利用するとよい。このとき、液晶層23には縦16個×横9個の疑似的な発光源が生成されるため、これらの疑似的な発光源に1:1対応した出射側集光レンズアレイも縦横長さ比9:16の矩形状集光レンズを縦16個×横9個に並べた構成とすればよい。
【0041】
ここで、入射側集光レンズアレイと液晶素子20とが空気を介して配置された場合、出射側集光レンズアレイの個々の集光レンズの開口数NAoutは光取込角の半角θとNAout=sinθで関係付けられる。そのため、NAout>NAinの関係を有し、液晶層23により位相および/または偏光状態が時間的に変調された光を効率よく取り込むNAoutとなるように出射側集光レンズアレイの焦点距離を設定するとよい。具体的には、θ=15°(取り込み角30°)〜40°(取り込み角80°)に相当するNAout=0.26〜0.64とすることが好ましい。なお、入射側集光レンズアレイと液晶素子20とが屈折率n>1の接着剤などの透明媒体を介して配置される場合であっても、出射側集光レンズアレイが所望の焦点距離を有するようにNAoutを設定するとよい。
【0042】
さらに、出射側集光レンズアレイの光出射側に出射光全体をカバーする、図示しない単一の集光レンズを配置してもよい。この場合、出射側集光レンズアレイの個々の集光レンズの主光線が空間変調器15に集まるようにすることで効率よく空間光変調器15に集光できる。また、出射側集光レンズアレイを後述する一対の凸レンズアレイからなる、所謂フライアイレンズとすることにより、出射側集光レンズアレイ毎の出射光の空間光量分布が平均化されるため、空間光変調器15の照射光の光量分布が均一化された投射画像が得られる。
【0043】
また、液晶素子20は、液晶層23が1層で構成されているが、これに限らず、2層以上の液晶層が重なるように配置され、各液晶層に電圧を印加できる構成であってもよい。この場合、複数の液晶層によって、さらに入射する光の位相および/または偏光状態の時間的変化を大きくすることができ、スペックルノイズを大きく低減できる効果を得ることができる。さらに、複数の液晶層が重なるように配置される場合、各液晶層に対して印加する電圧の大きさ、交流電圧の周波数および位相を任意に設定することができる。例えば、液晶層毎に印加する交流電圧の位相が異なるように電源25により駆動する方法を用いることで、入射する光の位相および/または偏光状態の時間変化の間隔が小さくなり、スペックルパターンをより高速に変化させることができる。また、印加する交流電圧の位相は時間的に等間隔に変化させることにより、スペックルノイズを低減できるため効果が増すため好ましい。
【0044】
さらに、液晶素子20は、液晶層23が1層で構成されている場合でも、光が入射する有効領域内で、液晶に電圧を印加できる領域が2つ以上あって、各領域に独立に電圧を印加する構成であってもよい。このとき、各領域の液晶に印加する交流電圧の大きさ、該交流電圧の周波数、該交流電圧の位相のうち、いずれか1つ、またはいずれか2つ、若しくは全てが2つ以上の領域で異なるように、電源25により駆動する方法を用いる構成であってもよい。この場合、液晶素子20を透過する光について、領域毎に透過する光の位相および/または偏光状態を独立して時間的に変調することができるので、スペックルノイズをより効果的に低減させることができる。ここで、領域の平面パターンとしてはストライプ状のパターンや市松模様のパターン、同心円状のパターン等を与えることができるが、これに限定されるものではない。
【0045】
また、液晶素子20に用いられる透光性基板21a、21bは、凹凸構造を有するものでもよく、この凹凸構造により光を散乱させるものでも構わない。この場合、該透光性基板と液晶の界面での液晶分子の運動による微視的な屈折率変調により液晶素子20を透過する光の位相および/または偏光状態を効果的に変化させることができる。凹凸の形状としては格子形状、ストライプ形状などのパターンを与えることができるが、これに限定されるものではない。
【0046】
また、液晶素子20に用いられる液晶層23には光を散乱させ得る微粒子などが添加されていてもよく、この微粒子により光を散乱させるものでも構わない。該微粒子と液晶の界面での液晶分子の運動による微視的な屈折率変調により液晶素子20を透過する光の位相および/または偏光状態を効果的に変化させることができる。用いられる微粒子の材質としてはSiO、プラスチックなどが考えられ、形状としては球状、針状のものが考えられるがこれに限定されるものではない。
【0047】
次に、具体的に液晶層23を形成する材料およびモードについて説明する。印加電圧に応じて高速に位相および/または偏光状態変調ができる、本位相変調モードおよび/または偏光状態変調モードを発現する材料としては、例えば、強誘電液晶組成物として、自発分極を有するカイラルスメクチック(SmC)相液晶が挙げられ、このカイラルSmC相液晶は、螺旋ピッチの構造を有する。そして、このカイラルSmC相液晶を対向配置させた配向膜付き基板間に封入させたものとして、以下の2つモードを例示する。1つは、この螺旋ピッチよりも狭い間隔の空間に封入することで、電圧非印加時において強誘電性を発現させた表面安定化強誘電性液晶(Surface Stabilized Ferroelectric Liquid Crystal=SSFLC)モードである。もう1つは、この螺旋ピッチよりも十分に広い間隔(厚さ)の空間に封入することで、カイラルSmC相液晶の螺旋構造が残るように配向させたDHFLC(Deformed Helix Ferroelectric Liquid Crystal)モードがある。
【0048】
DHFLCモードは、自発分極の方向が螺旋周期に沿って回転しているため、打ち消し合う。したがって、初期状態(電圧非印加時)では、強誘電性が見かけ上キャンセルされる。一方、電圧印加時には、螺旋構造の連続的な歪みが生じるとともに自発分極が発現するモードである。本願発明に係る投射型表示装置の液晶素子20の液晶層23は、入射する光に対して、印加電圧に応じて高速に位相および/または偏光状態を変調することができれば、上記モードのうちいずれの状態でも利用することができる。
【0049】
また、DHFLCモードと同様に自発分極の特性を利用するものとして、Twisted FLCや、τ−Vminモードも利用できる。
【0050】
また、カイラルスメクチックC(SmC)相液晶を、配向処理を行った配向膜付きの基板によって何らかの配向を施してできる反強誘電性液晶も利用できる。この場合も、自発分極の方向は層内でランダムであるので、電圧非印加時には強誘電性が見かけ上キャンセルされるが、電圧印加にともない強誘電相への相転移が起こり、自発分極が発現するモードである。また、カイラルスメクチックA(SmA)相液晶を用いたelectroclinicモードを利用するものであってもよい。
【0051】
また、カイラルスメクチックC相液晶以外に、相構造として層法線から傾きを有するヘキサチック相液晶としてSmI相液晶、SmF相液晶がある。さらに、SmI相液晶およびSmF液晶が3次元秩序を有する相として、クリスタルJ,G,K,H相液晶があり、SmI相液晶およびSmF相液晶を含むこれらの液晶相は、不斉点の導入で強誘電性を示すことが知られており、同様に利用できる。
【0052】
このように、液晶層23には、自発分極を有するスメクチック相を有する液晶組成物が用いられるが、電圧非印加時には必ずしも強誘電性を示している必要はなく、所望の電圧印加により自発分極を有すればこの範疇に含まれる。また、高分子安定化などにより、液晶/ポリマー複合化されているものや結晶であっても同様に利用できる。この他に、強誘電性を示す側鎖型高分子液晶も同様に利用できる。この場合、高分子安定化や高分子量化は、液晶相の安定化をもたらすので、使用温度範囲が広く安定する効果を有する。
【0053】
液晶層23に用いられるスメクチック相液晶組成物の自発分極(Ps)の値は、上限、下限ともとくに制限はないが、入射するコヒーレント光の位相および/または偏光状態を時間的に変調させるために外部電場に対して応答が良いものが好ましく、一般的に自発分極の絶対値が大きい組成物が好まれる。また、自発分極が大きい組成物ほど駆動電圧を低減できる効果もあるので、自発分極の絶対値は、常温(25℃)で10nC/cm以上が好ましく、20nC/cm以上がより好ましく、40nC/cm以上であることがさらに好ましい。
【0054】
次に、液晶層23に用いられるスメクチック相液晶組成物の自発分極の、温度特性について説明する。一般的に、カイラルスメクチックC相が発現することによって得られる強誘電液晶組成物は、棒状液晶分子が液晶層の層方向からの傾きによって発現する間接型強誘電体であって、分子分極とこの傾き角によって自発分極の値が決まる。多くの場合、スメクチックC相を示す液晶組成物は、スメクチックC相温度領域より高温側においてスメクチックA相に転移するが、このときの相転移は、二次相転移であり、液晶層の厚さ方向を基準としたときの傾き角は、温度の上昇にともなって0°に徐々に近づくので、自発分極も温度の上昇にともなって0に近づく。
【0055】
一方、スメクチックC相から(カイラル)ネマチック相に転移する場合、このときの相転移は、一次相転移であり、傾き角は転移点で有限値から0まで急激に変化ため、相転移温度付近でも自発分極は0ではない一定の値を保持する。即ち、カイラルスメクチック相液晶組成物のうち、相転移系列であるIso−N()−SmA−SmCを持つ液晶組成物に対して、スメクチックA相を持たないIso−N()−SmCを持つ液晶組成物は、スメクチックC相を発現する上限の温度付近おいても、自発分極が0付近とはならないので、交流電圧を印加することで入射するコヒーレント光に対して、高速での位相および/または偏光状態の時間的変調が可能となる。
【0056】
ここで、Iso−N()−SmA−SmCを持つ液晶組成物は、Iso−N()−SmCを持つ液晶組成物に対して、配向膜に対する配向性は良好である。また、本願発明に係る投射型表示装置に用いる液晶素子が配向膜を含まない構成である場合、これらの液晶組成物いずれも用いることができるが、上記の理由で、Iso−N()−SmCを持つ液晶組成物が高温においても、0ではない自発分極を有するので好ましい。
【0057】
次に、液晶層23の厚さ(セルギャップ)としては、十分な位相変調量および/または大きな偏光状態の変化を確保するため1μm以上あると好ましい。また、スペックルノイズ低減には、入射するコヒーレント光に対して、時間的に変化する位相の量および/または偏光状態の変化が大きくなるほど効果的であり、そのため一般に液晶層23のセルギャップは厚い方が好ましいが、厚さが増すことにより印加する電圧を大きくしなければならないことから200μm以下が好ましい。さらに、上記の螺旋構造が確実に残るとともに、印加する電圧を抑制できる効果を得るためには、この間隔(厚さ)が、5μm以上、かつ、100μm以下であると、より好ましい。
【0058】
また、液晶層23に印加する交流電圧の周波数は、70〜2000Hzにおいて使用することが好ましい。また、入射する光に対し、時間的に十分に大きい位相および/または偏光状態の変化が得られるとともに、低周波駆動とすることによってスペックルノイズ低減に必要となる印加電圧を低くするため、70〜1000Hz程度で駆動するのがより好ましい。また、この範囲の周波数で駆動するとき、必要な電圧としては、0.01〜25Vrms/μm、好ましくは0.02〜20Vrms/μm、より好ましくは0.03〜15Vrms/μm程度である。
【0059】
次に、液晶素子20の光利用効率について説明する。液晶素子20の光利用効率についての詳細については後述するように、液晶素子20の透過率と、液晶素子20を透過する光の全光量のうち所定の光学系に取り込まれる光量の割合を乗じたもの、で定義される。上記の説明のように、液晶素子20が配向膜を有する場合、透過する光の散乱を抑制することができ、これにより光利用効率を高めることができる。光利用効率については、液晶層23を直進方向に透過する直進光成分と、直進光成分とは異なる散乱光成分と、に分けて考えることが可能であり、後者の散乱光成分の割合が大きくなることで、光利用効率を低下させる原因となり得る。ここで、散乱光の散乱角と光利用効率に係る累積光量を以下に定義する。
【0060】
図3(a)は、散乱性を有する光学素子100に、直進する(レーザ)光が入射するとき、光学素子100を透過する光の様子を示す模式図である。具体的に、図3(a)は、光学素子100から、入射する光の直進方向(=光軸)に十分に離れた距離Lにおいて、光軸と直交する平面に含まれる直線A−A´を示したものである。ここで、直線A−A´と光軸との交点を基準点Oする。そして、光軸と光学素子100を散乱透過する光の光線と、がなす角度をθとする。ここで、基準点Oを基準として、角度θで散乱された光と直線A−A´との交点までの距離をW(θ)とすると、散乱された光は、直線A−A´上で、W(θ)=L×tanθの位置に照射される。そして、このとき、θを変数としてA−A´に照射される位置の光強度をP(θ)とする。
【0061】
ここで、光学素子100を透過した光の強度分布、つまりθとP(θ)との関係が、正規分布を示すとき、散乱角をφとすると、φは、半値全幅(FWHM)を満たす角度で定義することができる。また、図3(b)は、光学素子100を透過した光の強度分布が、正規分布であるときの分布を示す図である。ここで、図3(a)において、基準点OからW(θ)=L×tanθ離れた位置における光の強度P(θ)は、図3(b)に示す正規分布に基づいて導くことができる。また、P(θ)について、P(0)の値の半分の値、即ち、P(θ)=P(0)/2を満たすθをθとすると、半値全幅は2θとなる。そして、前述のように散乱角φも、半値全幅(FWHM)を満たす角度として定義したので、散乱角φ=2θとなる。なお、この散乱角φは、図3(a)においてθ=φとしたときに、A−A´を含む平面内の照射領域のうち、2θ(=2φ)に含まれる光量の割合がおよそ95%となる角度に相当する。
【0062】
しかしながら、液晶素子20のように、液晶素子20を透過する光が、入射する光の直進方向と略一致する直進光成分とそれ以外の散乱光成分と、に分けて考えられる場合、光強度が必ずしも正規分布とはならない。そのため、液晶素子20を透過する光の光利用効率を考える場合、散乱角φのみで規定することができないので、以下に定義する累積光量に基づき、光利用効率を考える。
【0063】
まず、累積光量は、図3(a)において、角度2θ以内に含まれる光量として定義する。即ち、前述のようにθは任意の値であるので、θの値が大きくなると、累積光量は増加する。また、この場合、累積光量は、θの値に関わらず、入射する光の直進方向に透過する直進光成分の光量を概ね含むことになる。つまり、θ=0であったとしても、このときの累積光量は、液晶素子20を直進透過する直進光成分として考えることができる。そして、θの値が0よりも大きくなると、累積光量は増加するが、増加分は散乱光成分と考えることができる。具体的には、直進光成分とは液晶素子20において、入射する光の進行方向と略一致する方向の光の成分を指す。例えば、液晶素子20にφ2mmの平行光を入射した際、液晶素子20を透過する光のうち、光軸上のφ2mmの領域では、距離に関わらず一定の光量を示すが、これを直進光成分として考えることができる。
【0064】
次に、このときの光利用効率について考える。液晶素子20を透過した光は、その光学系の限界角度である取り込み角ψ内にて利用されるものと考えるとき、取り込み角ψよりも大きい角度の光は、その光学系において利用される対象とならない。なお、取り込み角ψは全角で表される角度である。したがって、光利用効率は、液晶素子20の透過率と、液晶素子20を透過する光の全光量のうち、取り込み角ψ以内含まれる光量の割合を乗じたもので定義することができる。そのため、光利用効率を上げるには、液晶素子20の透過率が高いことが好ましく、また、取り込み角ψが大きいことが好ましく、取り込み角ψが散乱角φよりも大きいことがより好ましい。
【0065】
また、光学系において、取り込み角ψは、ψ=10°〜60°の範囲で与えられることが多い。そのため、液晶素子20の光利用効率を高めるために、液晶素子20の透過率としては、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上であればさらに好ましい。また、光学系の取り込み角ψ以内の累積光量が、液晶素子20の出射光の全光量の70%以上の割合で含まれていることが好ましく、液晶素子20の出射光の全光量の80%以上の割合で含まれていることがより好ましく、液晶素子20の出射光の全光量の90%以上の割合で含まれていることが、さらに好ましい。また、光学系の取り込み角ψは、値が小さい方が装置の小型化等に有利であることから、光学系の取り込み角ψ内に必要な一定の累積光量を与える液晶素子20の2θは、60°以下が好ましく、20°以下が好ましく、10°以下であれば、さらに好ましい。
【0066】
次に、スペックルノイズの指標となるスペックルコントラストCについて説明する。このスペックルコントラストは、(3)式で表されるように、画素の明るさの平均値となる(2)式に対する、画素の明るさ標準偏差σとなる(1)式で示されるものである。ここでNは全画素数を表し、Iは各画素に対する明るさ、Iavrは全画素の明るさの平均を示すものである。このスペックルコントラストCが低い値になるにつれて投射される画像で観察されるスペックルノイズが低減されるものである。以下、本願発明の液晶素子を配置した投射型表示装置は、このスペックルコントラストによって評価する。なお、スペックルコントラストは、12%以下であればよく、また、10%以下であれば好ましく、また、8%以下であればより好ましい。
【0067】
【数1】

【0068】
【数2】

【0069】
【数3】

【0070】
(第2の実施形態)
図4は、本実施形態に係る投射型表示装置30の構成模式図を示すものであり、投射型表示装置30を構成する各光学部品等のうち、投射型表示装置10を構成する光学部品等と同じものは、同じ番号を付して説明の重複を避ける。投射型表示装置30は、光源であるレーザ11から表示対象となるスクリーン17の間の光路中において、偏光子13と液晶素子20との間の光路中に光散乱素子31、液晶素子20と集光レンズ14との間の光路中に光散乱素子32が配置されて構成される。また、光散乱素子31、32いずれも配置されていてもよいが、光散乱素子31または光散乱素子32いずれか一方が配置されていてもよく、液晶素子20に積層される構成を有するものであってもよい。
【0071】
光散乱素子31、32は、一定の散乱能を有する静的な散乱素子であり、例えば時間的に散乱能が変化しない散乱板を用いることができるが、これに限らず、入射する光を均質的に散乱するものであればよく、例えば、高分子分散型液晶やコレステリック液晶で構成されてもよい。また、散乱角は、第1の実施の形態において説明した定義に基づき与えられるが、光散乱素子31、32の散乱角の上限は、30°以下であることが好ましく、10°以下であるとより好ましく、5°以下であると更に好ましい。このように、本実施形態に係る投射型表示装置30のように少なくとも1つの光散乱素子(光散乱素子31および/または光散乱素子32)と液晶素子20とを組み合わせて用いると、液晶素子20で位相および/または偏光状態が時間的に変調された光が、光散乱素子により、複雑に重ね合わされることで液晶素子20のみの場合よりも大きなスペックルノイズ低減効果を得ることができる。
【0072】
(第3の実施形態)
図5は、本実施形態に係る投射型表示装置40の構成模式図を示すものであり、投射型表示装置40を構成する各光学部品等のうち、投射型表示装置30を構成する光学部品等と同じものは、同じ番号を付して説明の重複を避ける。投射型表示装置40は、液晶素子20を透過して位相および/または偏光状態が時間的に変調された光が、空間光変調器15において画像を形成する領域内の光強度が均一に照射されるように、集光レンズ14と空間光変調器15との間の光路中に、光量均一化手段41を備える。なお、投射型表示装置40は、光散乱素子31、32を備えるものを示すが、第1の実施形態に係る投射型表示装置10のように、これらを備えないものであってもよい。
【0073】
光量均一化手段41としては、ロッドインテグレータ42と集光レンズ43との組み合わせが考えられる。例えば、ロッドインテグレータ42は、少なくとも光の出射面が、空間光変調器15の画像を形成する面(以下、「画像形成面」という)と相似形となるガラスブロックを有し、このガラスブロックに入射する光がその側面で全反射して導波した後出射する。また、ロッドインテグレータ42の側面から漏れる光の損失を低減するために側面に反射膜や保護膜が形成されていてもよい。そして、ロッドインテグレータを出射した光が、空間光変調器15の画像形成面に結像するように、開口数および焦点距離が設定された集光レンズ43が配置される。なお、液晶素子20で位相および/または偏光状態が時間的に変調されて進行する光の散乱角が狭い場合は、集光レンズ43を配置しなくてもよい。つまり、この場合、ロッドインテグレータ42の端部を出射する光を、直接、空間光変調器15に入射してもよい。
【0074】
また、他の光量均一化手段41として、空間光変調器15の画像形成面と相似形となる一対の凸レンズアレイと集光レンズとの組み合わせにより構成されるものであってもよい。なお、凸レンズアレイは、最小単位のレンズで定義される単位レンズが、2次元的に配置されて構成される。このとき、一方の凸レンズアレイの単位レンズを出射する光が、空間光変調器15の画像形成面に結像するように、他方の凸レンズアレイの単位レンズが配置された所謂フライアイレンズとしてもよい。この場合、それぞれの単位レンズの光軸のずれを、空間光変調器15の画像形成面で一致させるように、凸レンズアレイの光出射部に集光レンズを配置するとよい。
【0075】
また、空間光変調器15が偏光依存性を有する場合、光量均一化手段41へ入射する光が、偏光状態の均一性を保たない光であるとき、特定の直線偏光の光に変換することで利用する光の損失を抑えることができる。この構成として、例えば、一対の凸レンズアレイの間の光路中に、アレイ状に配置された偏光ビームスプリッタと、光が入射する領域のうち特定の領域のみに1/2波長板を有する、空間分割1/2波長板と、を配置することで、特定の直線偏光の光に変換して出射することができる。このような構成においては、空間光変調器15が、入射する光に対して偏光依存性を有する液晶素子などから構成される場合、とくに、光利用効率を高くすることができるので有効である。
【実施例】
【0076】
(実施例1)
本実施例では、まず、液晶素子の作製方法について説明する。厚さが約0.525mmの2枚の石英ガラスからなる透明基板上のそれぞれ一方の面に、透明電極となるシート抵抗値約75Ω/□のITOを成膜し、その上に、SiOを主成分とする絶縁膜を約50nm成膜した。一対の透明基板を、絶縁膜が形成された面を対向させて、スペーサを混入させたシール材によって透明基板の外周をシールし、約50μmのセルギャップを設けた。なお、上記のITO、絶縁膜はこのシール材の部分に設けない。
【0077】
次に、スメクチック相液晶組成物であるFelix017/100a(AZエレクトロニックマテリアル社)をシール材に設けた図示しない注入口から注入し、封止材によって注入口を封止して液晶素子を作製した。この状態では、絶縁膜の界面には配向処理がされていないので、液晶分子の配向はランダムになっている。また、液晶素子は電極取り出し部分を設け、挟持された液晶層に電圧を印加できる構造を有し、電極取り出し部分より外部電源に接続できる。なお、該スメクチック相液晶組成物は強誘電性を示し、この強誘電性液晶組成物の比抵抗値は2.6×1012Ω・cm、自発分極の値は室温(25℃)で47nC/cmである。
【0078】
実際に作製した液晶素子に位相変調モードおよび/または偏光状態変調モードとなる電圧を印加してスペックル低減効果の確認を行った。具体的には、図5に示す投射型表示装置において、光源11として波長約532nmのコヒーレント光を出射する固体レーザを使用し、また、光散乱素子31として散乱角5°となる拡散板を用いた。そして、作製した液晶素子に約60Vrms、100Hzの矩形交流電圧を印加した状態でスクリーン17に投射された画像をデジタルカメラによって撮影した。デジタルカメラの撮影はスクリーン面に対して略垂直となる角度からスクリーンの中央付近の約1.5cm四方の正方形領域を撮影し、縦方向200ピクセル×横方向200ピクセル=40000ピクセルの画素数において、各画素の明るさを0〜255の256段階で分析し、画素明るさ平均Iavrが110になるときのスペックルコントラストCを測定した。
【0079】
このときのスペックルコントラストCは約10.8%であり、スペックル低減効果を確認することができた。また、このとき、2θ=20°以内における累積光量は80%となり、位相変調モードおよび/または偏光状態変調モードを用いることで高い光利用効率を得ることができる。
【0080】
(実施例2)
実施例2では、実施例1と同様の製法に基づいて作製した液晶素子を、光の進行方向に2つ並べて積層した。そして、作製した液晶素子に約60Vrms、100Hzの矩形交流電圧を、2つの液晶素子の間で位相を90degずらした状態で印加し、実施例1と同様の条件において、画素明るさ平均Iavrが110になるときのスペックルコントラストCを測定した。
【0081】
このときのスペックルコントラストCは約8.1%であり、複数層の液晶素子に位相をずらして矩形交流電圧を印加することで、より大きなスペックル低減効果を確認することができた。なお、このとき、2θ=20°以内における累積光量は55%であった。
【0082】
(実施例3)
実施例3では、実施例1と同様、図5に示す投射型表示装置において、光散乱素子32として散乱角10°となる拡散板を用い、これを、実施例1と同様の製法に基づいて作製した液晶素子に積層した。そして、作製した液晶素子に約60Vrms、100Hzの矩形交流電圧を印加し、実施例1と同様に画素明るさ平均Iavrが110になるときのスペックルコントラストCを測定した。
【0083】
このときのスペックルコントラストCは約7.9%であり、また、このとき、2θ=20°以内における累積光量は76%となった。このように、散乱角10°の拡散板を液晶素子に積層することで、2θ=20°以内における累積光量の損失を抑えることで光利用効率を上げることができるとともに、スペックル低減効果が上げることができる。
【0084】
(実施例4)
実施例4では実施例1と同様の製法に基づいて液晶素子を作製したが、実施例1で成膜した絶縁膜の代わりに、ポリイミドを成膜し、ラビングにより一軸方向に配向処理を行った配向膜を形成した。また、セルギャップを約17μmとした。作製した液晶素子を2層並べて積層した。また、光散乱素子31、32として散乱角5°の拡散板を、積層した2つの液晶素子の前後にさらに積層した。そして、作製した液晶素子に約30Vrms、100Hzの矩形交流電圧を、2つの液晶素子の間で位相を90degずらした状態で印加し、実施例1と同様の条件において、画素明るさ平均Iavrが110になるときのスペックルコントラストCを測定した。
【0085】
このときのスペックルコントラストCは約7.8%であり、また、このとき、2θ=20°以内における累積光量は90%となった。本結果より液晶分子を一軸に配向させる配向膜を形成した液晶素子に加え、光散乱素子を積層することで、2θ=20°以内における累積光量を大幅に高め、高い光利用効率を得ることができる。
【0086】
(実施例5)
実施例5では実施例4と同様の製法に基づいて、配向膜を有する液晶素子を3つ作製した。そして、作製した3つの液晶素子を積層し、光散乱素子32として散乱角10°の拡散板をさらに、作製した液晶素子に積層した。そして、作製した液晶素子に、約30Vrms、100Hzの矩形交流電圧を、1層目の液晶素子に対して2層目の液晶素子を60deg、1層目の液晶素子に対して3層目の液晶素子を120degずらした状態で印加し、実施例1と同様の条件において、画素明るさ平均Iavrが110になるときのスペックルコントラストCを測定した。
【0087】
このときのスペックルコントラストCは約7%であり、また、このとき、2θ=20°以内における累積光量は80%となった。このように、液晶素子を3層積層して印加する矩形交流電圧の各々の液晶素子に印加する電圧の位相をずらすことで高いスペックル低減効果と光利用効率が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上のように、本発明に係る光ヘッド装置は、コヒーレント性を有する光源を使用した場合に、簡便にかつ、安定してスペックルノイズを低減することができるという効果を有する投射型表示装置を提供することができるものである。
【符号の説明】
【0089】
10、30、40 投射型表示装置
11 レーザ
12 コリメータレンズ
13 偏光子
14、43 集光レンズ
15 空間光変調器
16 投影レンズ
17 スクリーン
20、 液晶素子
21a、21b 透光性基板
22a、22b 透明電極
23 液晶層
24 シール材
25 電源
31、32 光散乱素子
41 光量均一化手段
42 ロッドインテグレータ
100 光学素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コヒーレント光を発光する光源を少なくとも一つ含む光源部と、前記光源部が発光した光を変調して画像光を生成する画像光生成部と、前記画像光を投射する投射部とを備える投射型表示装置であって、
前記光源部と前記画像光生成部との間の光路中に、透過する光に対して位相および/または偏光状態を時間的に変化させる液晶素子が配置され、
前記液晶素子は、少なくとも複数の透明基板の対向するそれぞれの面に透明電極を有し、前記透明電極間には、電圧印加時に自発分極を有するスメクチック相からなる液晶を有する液晶層が挟持され、前記透明電極を介して前記液晶層に交流電圧を印加する投射型表示装置。
【請求項2】
前記液晶層の界面は、配向処理がされていない請求項1に記載の投射型表示装置。
【請求項3】
前記液晶層の界面は、前記液晶を配向する配向膜を有する請求項1に記載の投射型表示装置。
【請求項4】
前記配向膜は、配向方向が少なくとも2つ以上の異なるパターンを有する請求項3に記載の投射型表示装置。
【請求項5】
前記光源部と前記液晶素子との間の光路中および/または、前記液晶素子と前記画像光生成部との間の光路中に、入射する光を散乱させて出射する光散乱素子が一つ以上配置された請求項1〜4いずれか1項に記載の投射型表示装置。
【請求項6】
前記液晶素子と前記画像生成部との間の光路中に散乱光を集光する集光レンズが配置される請求項1〜5いずれか1項に記載の投射型表示装置。
【請求項7】
前記液晶は、カイラルスメクチックC相液晶である請求項1〜6いずれか1項に記載の投射型表示装置。
【請求項8】
前記液晶は、Iso−N()−SmCの相転移系列を持つ請求項1〜7いずれか1項に記載の投射型表示装置。
【請求項9】
前記液晶素子は、前記液晶層が複数層重ねられて構成される請求項1〜8いずれか1項に記載の投射型表示装置。
【請求項10】
複数の前記液晶層のうち、第1の液晶層に印加する交流電圧の位相と第2の液晶層に印加する交流電圧の位相と、が異なる請求項9いずれか1項に記載の投射型表示装置。
【請求項11】
前記液晶層に印加する電圧が0.01〜25Vrms/μmである請求項1〜10いずれか1項に記載の投射型表示装置。
【請求項12】
前記液晶層に印加する電圧の周波数が70〜2000Hzである請求項1〜11いずれか1項に記載の投射型表示装置。
【請求項13】
前記液晶素子は、前記透明電極が複数の領域を有し、前記複数の領域に印加する、電圧および/または周波数が異なる請求項1〜12いずれか1項に記載の投射型表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−123308(P2012−123308A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275790(P2010−275790)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】