説明

投射装置およびホログラム記録媒体

【課題】スペックルを目立たなくさせることができ、且つ照明領域内の明るさのムラの発生を効果的に抑制でき、且つ光利用効率を向上可能とする。
【解決手段】投射装置20は、走査デバイス65により、ホログラム記録媒体55上をコヒーレント光で走査して、ホログラム記録媒体55で拡散されたコヒーレント光を結像光学系70に入射して、この結像光学系70でコヒーレント光を収束光に変えて、被照明領域LZを照明する。ホログラム記録媒体55には、第1および第2の開口絞りの情報が記録され、また、ホログラム記録媒体55は、散乱板から照射された光のうち、第1の開口絞りを通過した光の像を再生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コヒーレント光を照射する光源を用いた投射装置およびホログラム記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
光学式投射装置(プロジェクタ)では、光源から照射された光でスクリーンを均一に照明することが重要である。スクリーンの均一照明を実現する手法として、フライアイレンズを用いた液晶3板式やDMD(Digital Micromirror Device)用のインテグレータロッド方式などが提案されている。
【0003】
ところが、これらの方式では、液晶ディスプレイの形状に合わせて矩形照明を行う際の構成レンズの焦点距離によって決定される光学配置の制約が大きく、設計自由度が低い上に、部品点数も多いという問題がある。
【0004】
また、インテグレータロッド方式では、ロッド端面にゴミや傷が存在すると、像としてマイクロディスプレイ上に結像してしまうため、端面の清浄さを保つことが必要となる。
【0005】
一方、光学式プロジェクタでは一般に、高圧水銀ランプなどの白色光源からなる照明装置を用いて液晶ディスプレイ等の空間光変調器を照明し、得られた変調画像をレンズでスクリーン上に拡大投影する方式を採用している。
【0006】
ところが、高圧水銀ランプなどの高輝度放電ランプは、寿命が比較的短く、光学式プロジェクタなどに用いた場合、頻繁にランプ交換を行う必要がある。そこで、レーザなどのコヒーレント光源を用いる方式も提案されている。例えば、産業界で広く利用されている半導体レーザは、高圧水銀ランプなどの高輝度放電ランプに比べてはるかに長寿命である。また、単一波長の光を生成可能な光源であるため、ダイクロイックミラーなどの分光装置が不要になり、装置全体を小型化できるという利点もある。
【0007】
ところで、レーザ光などのコヒーレント光源を用いる方式には、スペックルの発生といった新たな問題が生じている。スペックル(speckle)は、レーザ光などのコヒーレント光を散乱面に照射したときに現れる斑点状の模様であり、スクリーン上に発生すると斑点状の輝度ムラ(明るさのムラ)として観察され、観察者に対して生理的な悪影響を及ぼす要因になる。コヒーレント光を用いた場合にスペックルが発生する理由は、スクリーンなどの散乱反射面の各部で反射したコヒーレント光が、その極めて高い可干渉性ゆえに、互いに干渉し合うことによって生じるものとされている。たとえば、下記の非特許文献1には、スペックルの発生についての詳細な理論的考察がなされている。
【0008】
このように、コヒーレント光源を用いる方式では、スペックルの発生という固有の問題が生じるため、スペックルの発生を抑制するための技術が提案されている。たとえば、下記の特許文献3には、レーザ光を散乱板に照射し、そこから得られる散乱光を空間光変調器に導くとともに、散乱板をモータによって回転駆動することにより、スペックルを低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−282083号公報
【特許文献2】特開2008−224760号公報
【特許文献3】特開平6−208089号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Speckle Phenomena in Optics, Joseph W. Goodman, Roberts & Co., 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したとおり、コヒーレント光源を用いた投射装置において、スペックルを低減する技術が提案されているが、これまでに提案された手法では、スペックルを効率的かつ十分に抑制することはできていない。たとえば、前掲の特許文献3に開示されている方法では、レーザ光を散乱板に照射して散乱させてしまうため、一部のレーザ光は映像表示に全く貢献することなく浪費されてしまう。また、スペックル低減のために散乱板を回転させる必要があるが、そのような機械的な回転機構は比較的大型の装置となり、また、電力消費も大きくなる。更に、散乱板を回転させたとしても、照明光の光軸の位置は変わらないため、スクリーン上での拡散に起因して発生するスペックルを十分に抑制することはできない。
【0012】
ところで、コヒーレント光は、レーザ光に代表されるように、優れた直進性を有するとともに、非常にエネルギ密度の高い光として照射され得る。したがって、実際に開発される照明装置としては、このようなコヒーレント光の特性に対応して、コヒーレント光の光路が設計されていることが好ましい。
【0013】
本件発明者らは、以上の点を踏まえて鋭意研究を重ね、その結果として、コヒーレント光で光変調器を照明した状態で、光変調器で生成される変調画像を投射させる投射装置を発明するにいたった。また、本件発明者らは、さらに研究を進め、コヒーレント光で光変調器を照明する際に、照明領域内に明るさが突出して明るくなる領域が生じることを安定して防止し得るように、当該照明装置を改善することができた。すなわち、本発明は、スペックルを目立たなくさせることができ、且つ照明領域内の明るさのムラの発生を効果的に抑制でき、且つ光利用効率を向上可能な投射装置およびホログラム記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様では、コヒーレント光を拡散し得るホログラム記録媒体と、
コヒーレント光が前記ホログラム記録媒体上を走査するように、前記ホログラム記録媒体にコヒーレント光を照射する照射装置と、
前記照射装置から前記ホログラム記録媒体の各位置に入射されて拡散されたコヒーレント光によって照明される光変調器と、
前記光変調器で生成される変調画像を拡散面に投射する投射光学系と、
前記ホログラム記録媒体と前記光変調器との間に配置され、前記ホログラム記録媒体の各点で拡散された拡散光を収束させて前記光変調器を照明する結像光学系と、を備え、
前記ホログラム記録媒体は、前記結像光学系から前記拡散面の方向に向かって順に配置される第1の開口絞りおよび第2の開口絞りの情報を記録することを特徴とする投射装置が提供される。
また、本発明の一態様では、コヒーレント光を拡散し得るホログラム記録媒体と、
光源から照射されたコヒーレント光が前記ホログラム記録媒体上を走査するように、前記ホログラム記録媒体にコヒーレント光を導光する照射制御装置と、
前記照射制御装置から前記ホログラム記録媒体の各位置に入射されて拡散されたコヒーレント光によって照明される光変調器と、
前記光変調器で生成される変調画像を拡散面に投射する投射光学系と、
前記ホログラム記録媒体と前記光変調器との間に配置され、前記ホログラム記録媒体の各点で拡散された拡散光を収束させて前記光変調器を照明する結像光学系と、を備え、
前記ホログラム記録媒体は、前記結像光学系から前記拡散面の方向に向かって順に配置される第1の開口絞りおよび第2の開口絞りの情報を記録する投射装置が提供される。
また、本発明の一態様では、照射装置から照射されたコヒーレント光が走査される記録領域を備え、この記録領域で該コヒーレント光を拡散させて光変調器に導光可能なホログラム記録媒体であって、
前記記録領域は、前記光変調器で生成される変調画像を拡散面に投射する投射光学系から、前記拡散面の方向に向かって順に配置される第1の開口絞りおよび第2の開口絞りの情報を記録するホログラム記録媒体が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スペックルを目立たなくさせることができ、且つ照明領域内の明るさのムラの発生を効果的に抑制でき、且つ光利用効率を向上可能な投射装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る投射装置20の概略構成を示すブロック図。
【図2】ホログラム記録媒体55に散乱板6の像を干渉縞として形成する様子を説明する図。
【図3】図2の露光工程を経て得られたホログラム記録媒体55に形成された干渉縞を用いて散乱板6の像を再生する様子を説明する図。
【図4】走査デバイス65の走査経路を説明する図。
【図5】ミラーデバイス66を二軸方向に回動させる例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから適宜変更したり、誇張してある。
【0018】
図1は本発明の一実施形態に係る投射装置20の概略構成を示すブロック図である。図1の投射装置20は、光学素子50と、照射装置60と、結像光学系70と、光変調器30と、投射光学系80とを備えている。本明細書では、光学素子50と照射装置60を合わせたものを照明装置40と呼ぶ。
【0019】
照射装置60は、コヒーレント光が光学素子50の表面を走査するように、光学素子50にコヒーレント光を照射する。照射装置60は、コヒーレント光を放射するレーザ光源61と、レーザ光源61から放射されたコヒーレント光を光学素子50の表面上で走査させる走査デバイス65とを有する。本明細書では、照射装置60からレーザ光源61を除いた構成部分を照射制御装置と呼ぶ。
【0020】
光学素子50は、光変調器30の位置に重ねて設けられる被照明領域LZに第1の開口絞りの像を再生し得るホログラム記録媒体55を有する。ホログラム記録媒体55の詳細については後述する。ホログラム記録媒体55には、走査デバイス65にて反射されたコヒーレント光が入射される。ホログラム記録媒体55には干渉縞が記録されており、コヒーレント光が入射されると、干渉縞で回折されたコヒーレント光が発散光(拡散光)となって放射される。
【0021】
走査デバイス65は、入射されたコヒーレント光の反射角度を可変させて、反射されたコヒーレント光がホログラム記録媒体55上を走査するようにしている。
【0022】
ホログラム記録媒体55上の各点に入射されたコヒーレント光は、拡散光となって、結像光学系70に入射される。結像光学系70は、ホログラム記録媒体55と光変調器30の間に配置されて、ホログラム記録媒体55で拡散したコヒーレント光を収束させて光変調器30に導く作用を行なう。結像光学系70は、両面が凸形状のフィールドレンズ71や、ホログラム記録媒体55側が凸形状で光変調器30側が平坦なフィールドレンズ71等で構成される。
【0023】
このような結像光学系70を設けることで、ホログラム記録媒体55上の任意の位置で拡散されたコヒーレント光は、結像光学系70にて収束光となり、光変調器30の位置に設けられる被照明領域LZに入射される。これにより、ホログラム記録媒体55で拡散されたコヒーレント光のほぼすべてで被照明領域LZを照明でき、被照明領域LZの照明強度をより向上できる。
【0024】
光変調器30としては、例えばDMD(Digital Micromirror Device)などのMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子からなる反射型のマイクロディスプレイを用いることができる。上述した特許文献2に開示された装置でも、DMDが光変調器30として利用されている。
【0025】
この他、光変調器30としては、透過型の液晶パネルを用いることも可能であるが、結像光学系70を通過するコヒーレント光は、平行光ではなく液晶パネル内での光路長が様々に異なるため、液晶パネルへの光線入射角度によっては、コントラストが下がるおそれがある。この意味からも、本実施形態の光変調器30としては、DMDなどの反射型のマイクロディスプレイを用いるのが望ましい。
【0026】
光変調器30の入射面は、照明装置40がコヒーレント光を照射する被照明領域LZと同一の位置で、かつ同一の形状および大きさであることが好ましい。この場合、照明装置40からのコヒーレント光を、拡散スクリーン15への映像の表示に高い利用効率で利用することができるからである。
【0027】
光変調器30で生成された変調画像を拡散スクリーン15に投射する投射光学系80は、例えば複数枚のレンズ群で構成されたプロジェクションレンズ81を有し、光変調器30で生成された変調画像は、プロジェクションレンズ81で屈折されて拡散スクリーン15上に変調画像を投射する。プロジェクションレンズ81の径や、プロジェクションレンズ81と光変調器30との距離や、プロジェクションレンズ81と拡散スクリーン15との距離によって、拡散スクリーン15に投影される変調画像のサイズを調整することができる。図1の拡散スクリーン15は、透過型であり、投射された変調画像光を拡散する。なお、拡散スクリーン15は、反射型でもよい。
【0028】
図1では省略しているが、拡散スクリーン15で拡散された変調画像を、不図示のハーフミラーに入射して、このハーフミラーで、拡散スクリーン15で拡散された変調画像光の一部を反射させて変調画像の虚像を形成して、この虚像を外光とともにハーフミラーを介して観察者が視認できるようにしてもよい。これにより、ヘッドアップディスプレイ装置を実現できる。この場合、ハーフミラーとして、例えば、車両のフロントガラスを用いることができ、観察者は運転席に座って前方を向くことで、フロントガラスを通して車外の景色を見ながら、虚像を視認できる。あるいは、ハーフミラーの代わりに、ホログラム記録媒体55やプリズムを用いてもよい。
【0029】
光変調器30では、種々の変調画像を生成可能であり、光変調器30で変調画像を生成して、その変調画像を被照明領域LZで照明することで、種々の変調画像を拡散スクリーン上に投射することができる。
【0030】
本実施形態では、被照明領域LZを照明するために、ホログラム記録媒体55を含む光学素子50を用いている。ホログラム記録媒体55は、例えばフォトポリマーを用いた反射型の体積型ホログラムである。図2はホログラム記録媒体55に第1および第2の開口絞り10,11の像を干渉縞として形成する様子を説明する図である。
【0031】
図2に示すように、ホログラム記録媒体55に第1および第2の開口絞り10,11の像を干渉縞として形成する際には、光変調器30の位置に第1の開口絞り10が置かれ、投射光学系80の入射瞳の位置に第2の開口絞り11が置かれ、第2の開口絞り11よりも拡散スクリーン15側に散乱板6または光源が置かれる。以下では、第2の開口絞り11よりも拡散スクリーン15側に散乱板6を置いた例を説明する。
【0032】
散乱板6からの散乱光は、第2の開口絞り11を通過する。散乱板6は、第2の開口絞り11の各点からの光の照明強度分布が第1の開口絞り10の全域で均一になるような散乱光を照射する。ここで、光の照明強度分布の測定方法としては、例えば、CCDセンサ等を用いて第1の開口絞り10での照明強度分布を直接測定する方法や、レンズ系を通して第1の開口絞り10の像をCCDセンサ等に結像させることにより照明強度分布を測定する方法や、第1の開口絞り10にスクリーンを配置してスクリーン上の照明強度分布をカメラ等で測定する方法等を挙げることができる。
【0033】
第1の開口絞り10の径は、結像光学系70の口径よりも小さくしている。これは、結像光学系70は、入射されたコヒーレント光を収束させて第1の開口絞り10に導くためである。一方、第1の開口絞り10の径と第2の開口絞り11の径との大小関係は、任意である。ただし、第2の開口絞り11の径を小さくすることで、第2の開口絞り11の位置に置かれる投射光学系80の口径を小さくすることができ、投射光学系80の小型化を図れる。
【0034】
第1の開口絞り10の形状は、光変調器30の形状と同じである。例えば、光変調器30が矩形であれば、第1の開口絞り10も矩形である。第1の開口絞り10のサイズは、光変調器30のサイズと同じか、若干大きい。よって、第1の開口絞り10は、光変調器30の相似形である。第1開口絞り10のサイズが光変調器30のサイズと同じ、または、ほぼ同等な相似形であり、光変調器30の位置に第1の開口絞り10が置かれることにより、光変調器30の形状に合わせて照明ができるため、光利用効率を向上させることができる。これは、ホログラム記録媒体55には第1の開口絞り10を通過した光の情報のみ記録されているため、結像光学系70を通してホログラム記録媒体55を再生した際に、第1開口絞り10の元々配置されていた平面においてビームの輪郭が第1開口絞り10の形状となるからである。
【0035】
一方、第2の開口絞り11の形状は、例えば円形であるが、半円や矩形でもよい。第2の開口絞り11のサイズは、投射光学系80の入射瞳の領域と同じか、または入射瞳の領域の一部である。投射光学系80の入射瞳以下に第2開口絞り11のサイズを制限することで、必要十分な領域のみに光を集めることができるため、投射光学系80に効率よく光を入射させることができる。
【0036】
図2に示すように、ホログラム記録媒体55は、実物の散乱板6からの散乱光を物体光Loとして用いて作製される。図2は、ホログラム記録媒体55の母材となる、感光性を有するホログラム感光材料58に、互いに干渉性を有するコヒーレント光からなる参照光Lrと物体光Loとを露光した状態を示す。
【0037】
参照光Lrとしては、例えば、特定波長域のレーザ光を発振するレーザ光源61からのレーザ光が用いられる。参照光Lrは、レンズからなる集光素子7を透過してホログラム感光材料58に入射される。図2に示す例では、参照光Lrを形成するためのレーザ光が、集光素子7の光軸と平行な平行光束として、集光素子7へ入射する。参照光Lrは、集光素子7を透過することによって、それまでの平行光束から収束光束に整形(変換)され、ホログラム感光材料58へ入射する。この際、収束光束Lrの焦点位置FPは、ホログラム感光材料58を通り過ぎた位置にある。すなわち、ホログラム感光材料58は、集光素子7と、集光素子7によって集光された収束光束Lrの焦点位置FPと、の間に配置される。
【0038】
一方、物体光Loは、例えばオパールガラスからなる散乱板6からの散乱光として、ホログラム感光材料58に入射する。図2の例では、作製されるべきホログラム記録媒体55が反射型であり、物体光Loは、参照光Lrと反対側の面からホログラム感光材料58へ入射する。物体光Loは、参照光Lrと干渉性を有することが前提である。したがって、例えば、同一のレーザ光源61から発振されたレーザ光を分割させて、分割された一方を上述の参照光Lrとして利用し、他方を物体光Loとして使用することができる。
【0039】
図2に示す例では、散乱板6の板面への法線方向と平行な平行光束が、散乱板6へ入射して散乱され、そして、散乱板6を透過した散乱光が第2の開口絞り11と第1の開口絞り10を順に通過した後、結像光学系70を通過して、物体光Loとしてホログラム感光材料58へ入射される。この方法によれば、通常安価に入手可能な等方散乱板6を散乱板6として用いた場合に、散乱板6からの物体光Loを、ホログラム感光材料58に概ね均一な光量分布で入射させることができる。またこの方法によれば、散乱板6による散乱の度合いにも依存するが、ホログラム感光材料58の各位置に、散乱板6の出射面6aの全域から概ね均一な光量で物体光Loが入射しやすくなる。
【0040】
以上のようにして、参照光Lrおよび物体光Loがホログラム記録材料58に露光されると、参照光Lrおよび物体光Loが干渉してなる干渉縞が生成され、この光の干渉縞が、何らかのパターン例えば、体積型ホログラムでは、一例として、屈折率変調パターンとして、ホログラム記録材料58に記録される。その後、ホログラム記録材料58の種類に対応した適切な後処理が施され、ホログラム記録媒体55が得られる。
【0041】
このように、本実施形態では、散乱板6からの散乱光(物体光)を、第2の開口絞り11と第1の開口絞り10を順に通過させて、結像光学系70を介してホログラム記録媒体55に導くため、ホログラム記録媒体55には、第1の開口絞り10と第2の開口絞り11の情報を記録することができる。すなわち、散乱板6は、第2の開口絞り11の各点からの光の照明強度分布が第1の開口絞り10の全域で均一になるような散乱光を発生するため、このような第1および第2の開口絞り10,11の情報がホログラム記録媒体55に記録される。よって、ホログラム記録媒体55を再生すると、散乱板6からの散乱光を絞り込んだ第1の開口絞り10の像を再生することができる。この像は、光変調器30の照明光となる。
【0042】
ここで、ホログラム記録媒体55に、第1および第2の開口絞り10,11の情報を記録するということは、絞りという空間的に何もない箇所を通過する光の情報を記録することであり、上述したインテグレータロッド方式のように、ロッド端面のゴミや傷によって記録情報が変化することもなく、簡易かつ精度よくホログラム記録媒体55への記録を行うことができる。よって、ホログラム記録媒体55の再生時に、より均一な照明強度分布で光変調器30を照明でき、表示品質を向上できる。
【0043】
図3は図2の露光工程を経て得られたホログラム記録媒体55に形成された干渉縞を用いて散乱板6の像を再生する様子を説明する図である。図3に示すように、図2のホログラム感光材料58にて形成されたホログラム記録媒体55は、露光工程で用いられたレーザ光と同一波長の光であって、露光工程における参照光Lrの光路を逆向きに進む光によって、そのブラッグ条件が満たされるようになる。すなわち、図3に示すように、露光工程時におけるホログラム感光材料58に対する焦点FPの相対位置(図2参照)と同一の位置関係をなすようにしてホログラム記録媒体55に対して位置する基準点SPから発散し、露光工程時における参照光Lrと同一の波長を有する発散光束は、再生照明光Laとして、ホログラム記録媒体55にて回折され、結像光学系70にて収束された後に、第1の開口絞り10に対応する光変調器30の位置に第1の開口絞り10の再生像5を生成する。
【0044】
この際、第1の開口絞り10の再生像5を生成する再生光、すなわち再生照明光Laをホログラム記録媒体55で回折してなる光Lbは、露光工程時に散乱板6からホログラム感光材料58へ向かって進んでいた物体光Loの光路を逆向きに進む光として、第1の開口絞り10があった場所に設けられる被照明領域LZの各点を再生する。
【0045】
図3に示すように、ホログラム記録媒体55の再生時には、図2の第1の開口絞り10の位置に光変調器30が置かれ、第2の開口絞り11の位置に投射光学系80が置かれる。なお、第1の開口絞り10の位置は、光変調器30の位置から光軸方向の前後に多少ずれて配置されてもよい。
【0046】
ホログラム記録媒体55の記録時には、図2に示したように、第1の開口絞り10を通過した物体光Loが、それぞれ、ホログラム感光材料58に入射するように拡散している。すなわち、ホログラム感光材料58上の各位置には、散乱板6の出射面6aからの物体光Loが入射し、結果として、出射面6aより出射し、第2の開口絞り11と第1の開口絞り10の両方を通過した光の情報がホログラム記録媒体55の各位置に記録されている。このため、図3に示された、再生照明光Laとして機能する基準点SPからの発散光束をなす各光は、それぞれ単独で、ホログラム記録媒体55の各位置に入射して互いに同一の輪郭を有した散乱板6の像5を、光変調器30の位置(被照明領域LZ)に再生することができる。
【0047】
ホログラム記録媒体55で拡散された光は、結像光学系70により収束されて、被照明領域LZの方向に進行するため、無駄な散乱光を効果的に抑制できる。したがって、ホログラム記録媒体55に入射される再生照明光Laのほとんどを、被照明領域LZを照明するために有効利用できる。
【0048】
次に、図2のような構成で干渉縞が形成されるホログラム記録媒体55からなる光学素子50にコヒーレント光を照射する照射装置60の構成について説明する。図1〜図3に示された例において、照射装置60は、コヒーレント光を生成するレーザ光源61と、このレーザ光源61からのコヒーレント光の進行方向を変化させる走査デバイス65と、を有する。
【0049】
レーザ光源61は、単色のレーザ光源でもよいし、発光色の異なる複数のレーザ光源でもよい。例えば、赤、緑、青の複数のレーザ光源を用いて構成してもよい。複数のレーザ光源61を用いる場合は、各レーザ光源61からのレーザ光が走査デバイス65上の同一点を照射するようにする。これにより、ホログラム記録媒体55は、各レーザ光源61の照明色が混ざり合った再生照明光で照明されることになる。この場合、各レーザ光源からのコヒーレント光は、走査デバイス65の入射角度に応じた反射角度で反射されて、ホログラム記録媒体55上に入射され、ホログラム記録媒体55から別個に回折されて、被照明領域LZ上で重ね合わされて合成色になる。例えば、赤、緑、青の複数のレーザ光源を用いて構成して場合には白色になる。あるいは、各レーザ光源ごとに、別個の走査デバイス65を設けてもよい。
【0050】
なお、例えば白色で照明する場合は、赤緑青以外の色で発光するレーザ光源、例えば、黄色で発光するレーザ光源を別個に設けた方が、より白色に近い色を再現できる場合もある。したがって、照射装置60内に設けるレーザ光源の種類や数は、特に限定されるものではない。
【0051】
光変調器30にてカラーの変調画像を形成する場合には、種々の実現手法が考えられる。光変調器30がLCOSなどで構成されていて、各画素ごとにカラーフィルタを有する場合には、被照明領域LZを白色光とすることで、光変調器30で生成される変調画像をカラー化することができる。
【0052】
あるいは、例えば、赤色の変調画像を生成する光変調器30と、緑色の変調画像を生成する光変調器30と、青色の変調画像を生成する光変調器30とを近接配置し、これら3つの光変調器30のそれぞれを照明する3つの被照明領域LZを、順次にホログラム記録媒体55からの拡散光で照明するようにしてもよい。これにより、3つの光変調器30で生成された3色の変調画像が合成されて、カラーの変調画像を生成可能となる。このような時分割駆動の代わりに、3つの光変調器30で同時に生成した3色の変調画像をプリズム等を用いて合成して、カラーの変調画像を生成してもよい。
【0053】
上述した投射光学系80は、主には、光変調器30の変調画像を拡散スクリーン15に投影するために設けられている。拡散スクリーン15を設けることで、スペックルが重ねられて平均化される結果、スペックルが目立たなくなる。
【0054】
走査デバイス65は、コヒーレント光の進行方向を経時的に変化させ、コヒーレント光の進行方向が一定とはならないよう種々の方向へ向ける。この結果、走査デバイス65で進行方向を変化させられるコヒーレント光が、光学素子50のホログラム記録媒体55の入射面上を走査するようになる。
【0055】
図4は走査デバイス65の走査経路を説明する図である。
【0056】
本実施形態に係る走査デバイス65は、一つの軸線RA1を中心として回動可能な反射面66aを有する反射デバイス66を含んでいる。反射デバイス66は、一つの軸線RA1を中心として回動可能な反射面66aとしてのミラーを有したミラーデバイスを有する。このミラーデバイス66は、ミラー66aの配向を変化させることによって、レーザ光源61からのコヒーレント光の進行方向を変化させるようになっている。この際、図3に示すように、ミラーデバイス66は、概ね、基準点SPにおいてレーザ光源61からコヒーレント光を受けるようになっている。
【0057】
ミラーデバイス66で進行方向を最終調整されたコヒーレント光は、基準点SPからの発散光束の一光線をなし得る再生照明光La(図3参照)として、光学素子50のホログラム記録媒体55へ入射し得る。結果として、照射装置60からのコヒーレント光がホログラム記録媒体55上を走査するようになり、且つ、ホログラム記録媒体55上の各位置に入射したコヒーレント光が同一の輪郭を有した散乱板6の像5を同一の位置(被照明領域LZ)に再生するようになる。
【0058】
図4に示すように、反射デバイス66は、一つの軸線RA1に沿ってミラー66aを回動させるように構成されている。図4に示された例では、ミラー66aの回動軸線RA1は、ホログラム記録媒体55の板面上に定義されたXY座標系(つまり、XY平面がホログラム記録媒体55の板面と平行となるXY座標系)のY軸と、平行に延びている。そして、ミラー66aが、ホログラム記録媒体55の板面上に定義されたXY座標系のY軸と平行な軸線RA1を中心として回動するため、照射装置60からのコヒーレント光の光学素子50への入射点IPは、ホログラム記録媒体55の板面上に定義されたXY座標系のX軸と平行な方向に往復動するようになる。すなわち、図4に示された例では、照射装置60は、コヒーレント光がホログラム記録媒体55上を直線経路に沿って走査するように、光学素子50にコヒーレント光を照射する。
【0059】
ミラーデバイス66等で構成される走査デバイス65は、上述したように、少なくとも軸線RA1回りに回動可能な部材であり、例えば、MEMSなどを用いて構成される。走査デバイス65は、周期的に回動運動を行うが、人間が直接観察する液晶表示装置などの用途では、1周期1/30秒程度、表示したい画面の種類に応じてそれ以上に高速にコヒーレント光で走査できれば、その回動周波数には特に制限はない。
【0060】
なお、実際上の問題として、ホログラム記録媒体55を作成する際、ホログラム記録材料58が収縮する場合がある。このような場合、ホログラム記録材料58の収縮を考慮して、照射装置60から光学素子50に照射されるコヒーレント光の入出射角度が調整されることが好ましい。したがって、コヒーレント光源61で生成するコヒーレント光の波長は、図2の露光工程で用いた光の波長と厳密に一致させる必要はなく、ほぼ同一となっていてもよい。
【0061】
また、同様の理由から、光学素子50のホログラム記録媒体55へ入射する光の進行方向も、基準点SPからの発散光束に含まれる一光線と厳密に同一の経路を取っていなくとも、被照明領域LZに像5を再生することができる。実際に、図3および図4に示す例では、走査デバイス65をなすミラーデバイス66のミラー(反射面)66aは、必然的に、その回動軸線RA1からずれる。したがって、基準点SPを通過しない回動軸線RA1を中心としてミラー66aを回動させた場合、ホログラム記録媒体55へ入射する光は、基準点SPからの発散光束をなす一光線とはならないことがある。しかしながら、実際には、図示された構成の照射装置60からのコヒーレント光によって、被照明領域LZに重ねて像5を実質的に再生することができる。
【0062】
ところで、走査デバイス65は、必ずしもコヒーレント光を反射させる部材である必要はなく、反射ではなく、コヒーレント光を屈折や回折等を行わせて、コヒーレント光を光学素子50上で走査させてもよい。
【0063】
(本実施形態の作用効果)
次に、以上の構成からなる投射装置20の作用および効果について説明する。
【0064】
本実施形態に係る投射装置20は、走査デバイス65により、ホログラム記録媒体55上をコヒーレント光で走査して、ホログラム記録媒体55で拡散されたコヒーレント光を結像光学系70に入射して、この結像光学系70でコヒーレント光を収束光に変えて、被照明領域LZを照明する。これにより、ホログラム記録媒体55で拡散されたコヒーレント光のうち、被照明領域LZの照明に利用されないコヒーレント光の割合を低減でき、被照明領域LZの照明強度の向上が図れる。
【0065】
ホログラム記録媒体55を記録する際には、光変調器30の位置に第1の開口絞り10を置き、かつ結像光学系70の入射瞳の位置に第2の開口絞り11を置き、第2の開口絞り11よりもスクリーン側に散乱板6を置く。そして、散乱板6からの散乱光(物体光)を第2の開口絞り11に入射し、第2の開口絞り11の各点からの物体光が第1の開口絞り10の全域を照射するようにする。第1の開口絞り10を通過した物体光は、結像光学系70を経てホログラム記録媒体55に入射される。これにより、ホログラム記録媒体55には、第1および第2の開口絞り10,11の情報を記録できる。
【0066】
このようなホログラム記録媒体55に再生光を照射した場合には、ホログラム記録媒体55で拡散されたコヒーレント光を結像光学系70で収束させて、第1の開口絞り10の位置(被照明領域)に置かれる光変調器30の全域を照明することができる。この照明は、第1の開口絞り10の像を再生したものであり、散乱板6の像を再生したものではない。すなわち、本実施形態では、光学系内の実物体の像をホログラム記録媒体55で再生するのではなく、散乱板6から照射された光のうち第1の開口絞り10を通過した光の情報を再生する。したがって、従来のインテグレータロッド方式のように、ロッド端面のゴミや傷等の影響を受けずに、高品質の投影画像が得られる。
【0067】
また、本実施形態によれば、光変調器30で変調されたコヒーレント光のすべてを第2の開口絞り11を通過させることができ、光の利用効率を向上できる。
【0068】
また、第2の開口絞り11の径を小さくすることで、投射光学系80の口径を小さくでき、投射光学系80の小型化を図れる。
【0069】
さらに、本実施形態では、結像光学系70の焦点距離等によって、ホログラム記録媒体55の位置が制約されることがない。これは例えば、ホログラム記録媒体55を、あらかじめ再生時に設置したい位置に置いて配置記録しておけば、元々の所望の光線情報を再生できるためである。これにより、設計の自由度が広がる。
【0070】
このように、本実施形態では、走査デバイス65、ホログラム記録媒体55を含む光学素子50、および光変調器30を用いて変調画像を生成するため、例えば通常の液晶表示装置を用いて変調画像を生成する場合と比べて、変調画像を生成するまでのハードウェア構成を大幅に小型化できる。また、本実施形態では、走査デバイス65でホログラム記録媒体55上をコヒーレント光で走査させ、かつ拡散スクリーン15に変調画像を投射するため、コヒーレント光を用いながらも、スペックルを目立たせなくすることができ、高品質の画像表示が可能な投射装置20を実現できる。また、拡散スクリーン15を設けることで、視野角を広げることも可能となる。
【0071】
走査デバイス65は、ホログラム記録媒体55上の各位置に、当該位置でのブラッグ条件を満たす入射角度で、対応する特定波長のコヒーレント光を入射させる。この結果、各位置に入射したコヒーレント光は、それぞれ、ホログラム記録媒体55に記録された干渉縞による回折により、被照明領域LZの全域を重ねて照明する。すなわち、照射装置60からホログラム記録媒体55の各位置に入射したコヒーレント光はそれぞれ、光学素子50で拡散されて(拡げられて)、被照明領域LZの全域に入射するようになる。
【0072】
このようにして、照射装置60は、被照明領域LZをコヒーレント光で照明する。例えば、レーザ光源61がそれぞれ異なる色で発光する複数のレーザ光源61を有する場合は、被照明領域LZは、第1の開口絞り10を通過した各色の光の情報が再生される。したがって、これらレーザ光源61が同時に発光する場合は、被照明領域LZは3色が混ざり合った白色で照明されることになる。
【0073】
本実施形態では、以下に説明するように、スペックルを目立たせずに被照明領域LZ上に光像を形成することができる。
【0074】
前掲の非特許文献1によれば、スペックルを目立たなくさせるには、偏光・位相・角度・時間といったパラメータを多重化し、モードを増やすことが有効であるとされている。ここでいうモードとは、互いに無相関なスペックルパターンのことである。例えば、複数のレーザ光源61から同一のスクリーンに異なる方向からコヒーレント光を投射した場合、レーザ光源61の数だけ、モードが存在することになる。また、同一のレーザ光源61からのコヒーレント光を、単位時間毎に異なる方向からスクリーンに投射した場合、人間の目で分解不可能な時間の間にコヒーレント光の入射方向が変化した回数だけ、モードが存在することになる。そして、このモードが多数存在する場合には、光の干渉パターンが無相関に重ねられて平均化され、結果として、観察者の目によって観察されるスペックルが目立たなくなるものと考えられている。
【0075】
上述した照射装置60は、コヒーレント光がホログラム記録媒体55上を走査するように、光学素子50にコヒーレント光を照射する。また、照射装置60からホログラム記録媒体55内の任意の位置に入射したコヒーレント光は、被照明領域LZの全域を照明するが、当該被照明領域LZを照明するコヒーレント光の照明方向は互いに異なる。そして、コヒーレント光が入射するホログラム記録媒体55上の位置が経時的に変化するため、被照明領域LZへのコヒーレント光の入射方向も経時的に変化する。
【0076】
上述したように、本実施形態では、コヒーレント光は、ホログラム記録媒体55上を連続的に走査する。これに伴って、照射装置60から光学素子50を介して被照明領域LZに入射されるコヒーレント光の入射方向も連続的に変化する。ここで、光学素子50から被照明領域LZへのコヒーレント光の入射方向が僅か(例えば0.数°)だけ変化すれば、被照明領域LZ上に生じるスペックルのパターンも大きく変化し、無相関なスペックルパターンが重畳されることになる。加えて、実際に市販されているMEMSミラーやポリゴンミラー等の走査デバイス65の周波数は通常数百Hz以上であり、数万Hzにも達する走査デバイス65も珍しくない。
【0077】
以上のことから、本実施形態によれば、被照明領域LZの各位置において時間的にコヒーレント光の入射方向が変化していき、且つ、この変化は、人間の目で分解不可能な速さである。したがって、仮に被照明領域LZにスクリーンを配置したとすると、各入射角度に対応して生成されたスペックルが重ねられ平均化されて観察者に観察されることから、スクリーンに表示されている映像を観察する観察者に対して、スペックルを極めて効果的に目立たなくさせることができる。本実施形態の場合は、被照明領域LZの位置に重ねて光変調器30を配置し、この光変調器30から投射光学系80を介して拡散スクリーン15に投射しているが、この場合も同様であり、拡散スクリーン15上で発生するスペックルが重ねられて平均化されるため、拡散スクリーン15上で発生するスペックルは目立たなくなる。
【0078】
上述したように、本発明の実施形態では、走査デバイス65を用いて、コヒーレント光をホログラム記録媒体55上で走査させ、ホログラム記録媒体55で回折されたコヒーレント光を被照明領域LZの全域に入射させるという、きわめて簡易な構成で、照明装置40を実現できる。
【0079】
(本実施形態のその他の特徴)
前掲の非特許文献1には、スクリーン上に生じたスペックルの程度を示すパラメータとして、スペックルコントラスト(単位%)という数値を用いる方法が提案されている。このスペックルコントラストは、本来は均一の輝度分布をとるべきテストパターン映像を表示した際に、スクリーン上に実際に生じる輝度のばらつきの標準偏差を、輝度の平均値で除した値として定義される量である。このスペックルコントラストの値が大きければ大きいほど、スクリーン上のスペックル発生程度が大きいことを意味し、観察者に対して、斑点状の輝度ムラ模様がより顕著に提示されていることを示す。
【0080】
加えて、上述してきた本実施形態によれば、次の利点を享受することもできる。
【0081】
上述してきた本実施形態によれば、スペックルを目立たなくさせるための光学素子50が、照射装置60から照射されるコヒーレント光のビーム形態を整形および調整するための光学部材としても機能し得る。したがって、光学系を小型且つ簡易化することができる。
【0082】
また、上述してきた本実施形態によれば、ホログラム記録媒体55の特定位置に入射するコヒーレント光が、被照明領域LZ内の全域に、第1の開口絞り10を通過した各色の光の情報を生成する。このため、ホログラム記録媒体55で回折された光をすべて照明用に利用することが可能となり、レーザ光源61からの光の利用効率の面においても優れる。
【0083】
(0次光の回避)
照射装置60からのコヒーレント光の一部は、ホログラム記録媒体55で回折されることなく当該ホログラム記録媒体55を透過する。このような光は0次光と呼ばれる。0次光が被照明領域LZに入射してしまうと、周囲と比較して明るさ(輝度)が急激に上昇する点状領域、線状領域、面状領域等の異常領域が被照明領域LZ内に発生してしまう。
【0084】
体積型のホログラム記録媒体55(以下、体積反射型ホロ)を用いる場合、特に体積反射型ホログラムの場合は0次光が進行する方向には被照明領域LZは配置されないため、0次光を比較的容易に回避できる。また、体積透過型のホログラム記録媒体55(以下、体積透過型ホロ)を用いる場合は、入射光と出射光が干渉しないよう、記録角度を選択すれば0次光を分離することができる。配置上の問題で0次光の光路と1次光の光路を分離できない場合は、回折効率を極力高くし、0次光の影響をできるだけ抑えるようにするのが望ましい。
【0085】
(反射型と透過型のホログラム記録媒体55)
反射型ホロは、透過型ホロに比べて、波長選択性が高い。すなわち、反射型ホロは、異なる波長に対応した干渉縞を積層させても、所望の層のみで所望の波長のコヒーレント光を回折させることができる。また、0次光の影響を除去しやすい点でも、反射型ホロは優れている。
【0086】
一方、透過型ホロは、回折可能なスペクトルが広く、レーザ光源61の許容度が広いが、異なる波長に対応した干渉縞を積層させると、所望の層以外の層でも所望の波長のコヒーレント光が回折されてしまう。よって、一般には、透過型ホロは、積層構造にするのが困難である。
【0087】
(照射装置60)
上述した形態では、照射装置60が、レーザ光源61と走査デバイス65とを有する例を説明した。走査デバイス65は、コヒーレント光の進行方向を反射によって変化させる一軸回動型のミラーデバイス66からなる例を示したが、これに限られない。走査デバイス65は、図5に示すように、ミラーデバイス66のミラー(反射面66a)が、第1の回動軸線RA1だけでなく、第1の回動軸線RA1と交差する第2の回動軸線RA2を中心としても回動可能となっていてもよい。図5に示された例では、ミラー66aの第2の回動軸線RA2は、ホログラム記録媒体55の板面上に定義されたXY座標系のY軸と平行に延びる第1回動軸線RA1と、直交している。そして、ミラー66aが、第1軸線RA1および第2軸線RA2の両方を中心として回動可能なため、照射装置60からのコヒーレント光の光学素子50への入射点IPは、ホログラム記録媒体55の板面上で二次元方向に移動可能となる。このため、一例として図5に示されているように、コヒーレント光の光学素子50への入射点IPが円周上を移動するようにすることもできる。
【0088】
また、走査デバイス65が、二以上のミラーデバイス66を含んでいてもよい。この場合、ミラーデバイス66のミラー66aが、単一の軸線を中心としてのみ回動可能であっても、照射装置60からのコヒーレント光の光学素子50への入射点IPを、ホログラム記録媒体55の板面上で二次元方向に移動させることができる。
【0089】
なお、走査デバイス65に含まれるミラーデバイス66aの具体例としては、MEMSミラー、ポリゴンミラー、ガルバノスキャナ等を挙げることができる。
【0090】
また、走査デバイス65は、反射によってコヒーレント光の進行方向を変化させる反射デバイス、すなわち、本実施形態において、一例として上述してきたミラーデバイス66以外のデバイスを含んで構成されていてもよい。例えば、走査デバイス65が、屈折プリズムやレンズ等を含んでいていてもよい。
【0091】
そもそも、走査デバイス65は必須ではなく、照射装置60の光源61が、光学素子50に対して変位可能(移動、揺動、回転)に構成され、光源61の光学素子50に対する変位によって、光源61から照射されたコヒーレント光がホログラム記録媒体55上を走査するようにしてもよい。
【0092】
さらに、照射装置60の光源61が、線状光線として整形されたレーザ光を発振する前提で説明してきたが、これに限られない。とりわけ、上述した形態では、光学素子50の各位置に照射されたコヒーレント光は、光学素子50によって、被照明領域LZの全域に入射するようになる光束に整形される。したがって、照射装置60の光源61から光学素子50に照射されるコヒーレント光は精確に整形されていなくとも不都合は生じない。このため、光源61から発生されるコヒーレント光は、発散光であってもよい。また、光源61から発生されるコヒーレント光の断面形状は、円でなく、楕円等であってもよい。さらには、光源61から発生されるコヒーレント光の横モードがマルチモードであってもよい。
【0093】
なお、光源61が発散光束を発生させる場合、コヒーレント光は、光学素子50のホログラム記録媒体55に入射する際に、点ではなくある程度の面積を持った領域に入射することになる。この場合、ホログラム記録媒体55で回折されて被照明領域LZの各位置に入射する光は、角度を多重化されることになる。言い換えると、各瞬間において、被照明領域LZの各位置には、或る程度の角度範囲の方向からコヒーレント光が入射する。このような角度の多重化によって、スペックルをさらに効果的に目立たなくさせることができる。
【0094】
さらに、図1では、走査デバイス65で反射されたコヒーレント光を直接に光学素子50に入射させる例を示したが、走査デバイス65と光学素子50の間に集光レンズを設けて、この集光レンズでコヒーレント光を平行光束にして光学素子50に入射するようにしてもよい。このような例では、ホログラム記録媒体55を作製する際の露光工程において、参照光Lrとして、上述した収束光束に代えて、平行光束を用いることになる。このようなホログラム記録媒体55は、より簡単に作製および複製することができる。
【0095】
(光学素子50)
上述した形態において、光学素子50が、フォトポリマーを用いた反射型の体積型ホログラム55からなる例を示したが、これに限られない。また、光学素子50は、銀塩材料を含む感光媒体を利用して記録するタイプの体積型ホログラムを含んでもよい。さらに、光学素子50は、透過型の体積型ホログラム記録媒体55を含んでいてもよいし、レリーフ型(エンボス型)のホログラム記録媒体55を含んでいてもよい。
【0096】
ただし、レリーフ(エンボス)型ホログラムは、表面の凹凸構造によってホログラム干渉縞の記録が行われる。しかしながら、このレリーフ型ホログラムの場合、表面の凹凸構造による散乱が、光量ロスの原因となるほか、意図しない新たなスペックル生成要因となる可能性があり、この点において体積型ホログラムの方が好ましい。体積型ホログラムでは、媒体内部の屈折率変調パターン(屈折率分布)としてホログラム干渉縞の記録が行われるため、表面の凹凸構造による散乱による影響を受けることはない。
【0097】
もっとも、体積型ホログラムでも、銀塩材料を含む感光媒体を利用して記録するタイプのものは、銀塩粒子による散乱が光量ロスの原因となるほか、意図しない新たなスペックル生成要因となる可能性がある。この点において、ホログラム記録媒体55としては、フォトポリマーを用いた体積型ホログラムの方が好ましい。
【0098】
また、図2に示す記録工程では、いわゆるフレネルタイプのホログラム記録媒体55が作成されることになるが、レンズを用いた記録を行うことにより得られるフーリエ変換タイプのホログラム記録媒体55を作成してもかまわない。ただ、フーリエ変換タイプのホログラム記録媒体55を用いる場合には、像再生時にもレンズを使用してもよい。
【0099】
また、ホログラム記録媒体55に形成されるべき縞状パターン、例えば屈折率変調パターンや凹凸パターンは、現実の物体光Loおよび参照光Lrを用いることなく、予定した再生照明光Laの波長や入射方向、並びに、再生されるべき像の形状や位置等に基づき計算機を用いて設計されてもよい。このようにして得られたホログラム記録媒体55は、計算機合成ホログラムとも呼ばれる。また上述した変形例のように波長域の互いに異なる複数のコヒーレント光が照射装置60から照射される場合には、計算機合成ホログラムとしてのホログラム記録媒体55は、各波長域のコヒーレント光にそれぞれ対応して設けられた複数の領域に平面的に区分けされ、各波長域のコヒーレント光は対応する領域で回折されて像を再生するようにしてもよい。
【0100】
(照明方法)
上述した形態において、照射装置60が光学素子50上でコヒーレント光を一次元方向に走査可能とするように構成され、且つ、光学素子50のホログラム記録媒体55が各位置に照射されたコヒーレント光を二次元方向に拡散するように構成され、これにより、照明装置40が二次元的な被照明領域LZを照明する例を示した。ただし、既に説明してきたように、このような例に限定されることはなく、例えば、照射装置60が光学素子50上でコヒーレント光を二次元方向に走査可能とするように構成され、且つ、光学素子50のホログラム記録媒体55が各位置に照射されたコヒーレント光を二次元方向に拡散するように構成され、これにより、図5に示したように、照明装置40が二次元的な被照明領域LZを照明してもよい。
【0101】
また、既に言及しているように、照射装置60が光学素子50上でコヒーレント光を一次元方向に走査可能とするように構成され、且つ、光学素子50のホログラム記録媒体55が各位置に照射されたコヒーレント光を一次元方向に拡散するように構成され、これにより、照明装置40が一次元的な被照明領域LZを照明するようにしてもよい。この態様において、照射装置60によるコヒーレント光の走査方向と、光学素子50のホログラム記録媒体55の拡散方向と、が平行となるようにしてもよい。
【0102】
さらに、照射装置60が光学素子50上でコヒーレント光を一次元方向または二次元方向に走査可能とするように構成され、且つ、光学素子50のホログラム記録媒体55が各位置に照射されたコヒーレント光を一次元方向に拡散するように構成されていてもよい。この態様において、光学素子50が複数のホログラム記録媒体55を有し、各ホログラム記録媒体55に対応した被照明領域LZを順に照明していくことによって、照明装置40が二次元的な領域を照明するようにしてもよい。この際、各被照明領域LZが、人間の目では同時に照明されているかのような速度で、順に照明されていってもよいし、あるいは、人間の目でも順番に照明していると認識できるような遅い速度で、順に照明されていってもよい。
【0103】
なお、本明細書では、光学素子50と、照射装置60内の走査デバイス65と、中間光学系70とを合わせたものを投射制御装置90と呼ぶ。
【0104】
本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0105】
10 第1の開口絞り、11 第2の開口絞り、15 拡散スクリーン、20 投射装置、30 空間光変調器、40 照明装置、50 光学素子、55 ホログラム記録媒体、58 ホログラム感光材料、60 照射装置、61 光源、65 走査デバイス、66 ミラーデバイス(反射デバイス)、66a ミラー(反射面)、70 結像光学系、80 投射光学系、81 プロジェクションレンズ、LZ 被照明領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コヒーレント光を拡散し得るホログラム記録媒体と、
コヒーレント光が前記ホログラム記録媒体上を走査するように、前記ホログラム記録媒体にコヒーレント光を照射する照射装置と、
前記照射装置から前記ホログラム記録媒体の各位置に入射されて拡散されたコヒーレント光によって照明される光変調器と、
前記光変調器で生成される変調画像を拡散面に投射する投射光学系と、
前記ホログラム記録媒体と前記光変調器との間に配置され、前記ホログラム記録媒体の各点で拡散された拡散光を収束させて前記光変調器を照明する結像光学系と、を備え、
前記ホログラム記録媒体は、前記結像光学系から前記拡散面の方向に向かって順に配置される第1の開口絞りおよび第2の開口絞りの情報を記録することを特徴とする投射装置。
【請求項2】
前記ホログラム記録媒体は、前記第2の開口絞りの各点からの光の照明強度分布が前記第1の開口絞りの全域で均一になり得る拡散特性を持つ光源または散乱部材を用いて記録されることを特徴とする請求項1に記載の投射装置。
【請求項3】
前記第1の開口絞りは前記光変調器の位置に配置され、
前記第2の開口絞りは前記投射光学系の入射瞳に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の投射装置。
【請求項4】
前記第1の開口絞りの形状と前記光変調器の形状とは相似形であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の投射装置。
【請求項5】
前記第2の開口絞りは、前記投射光学系の入射瞳の領域と同じか、または該入射瞳の領域の一部であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の投射装置。
【請求項6】
前記ホログラム記録媒体は、体積型ホログラムであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の投射装置。
【請求項7】
前記ホログラム記録媒体は、計算機合成ホログラムであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の投射装置。
【請求項8】
前記ホログラム記録媒体は、表面レリーフ型のホログラフィックディフューザであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の投射装置。
【請求項9】
前記光変調器は、空間光変調器であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の投射装置。
【請求項10】
前記空間光変調器は、前記照射装置からのコヒーレント光を透過または反射させて変調画像を生成することを特徴とする請求項9に記載の投射装置。
【請求項11】
前記空間光変調器は、反射型のマイクロミラーデバイスを有するマイクロディスプレイであることを特徴とする請求項9に記載の投射装置。
【請求項12】
前記照射装置は、
コヒーレント光を放射する光源と、
前記光源から放射された前記コヒーレント光の進行方向を変化させて、該コヒーレント光を前記光学素子上で走査させる走査デバイスと、を有することを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の投射装置。
【請求項13】
コヒーレント光を拡散し得るホログラム記録媒体と、
光源から照射されたコヒーレント光が前記ホログラム記録媒体上を走査するように、前記ホログラム記録媒体にコヒーレント光を導光する照射制御装置と、
前記照射制御装置から前記ホログラム記録媒体の各位置に入射されて拡散されたコヒーレント光によって照明される光変調器と、
前記光変調器で生成される変調画像を拡散面に投射する投射光学系と、
前記ホログラム記録媒体と前記光変調器との間に配置され、前記ホログラム記録媒体の各点で拡散された拡散光を収束させて前記光変調器を照明する結像光学系と、を備え、
前記ホログラム記録媒体は、前記結像光学系から前記拡散面の方向に向かって順に配置される第1の開口絞りおよび第2の開口絞りの情報を記録することを特徴とする投射装置。
【請求項14】
照射装置から照射されたコヒーレント光が走査される記録領域を備え、この記録領域で該コヒーレント光を拡散させて光変調器に導光可能なホログラム記録媒体であって、
前記記録領域は、前記光変調器で生成される変調画像を拡散面に投射する投射光学系から、前記拡散面の方向に向かって順に配置される第1の開口絞りおよび第2の開口絞りの情報を記録することを特徴とするホログラム記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−64871(P2013−64871A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203535(P2011−203535)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】