説明

抗アレルギー剤

【課題】アレルギー症状を引き起す原因物質が鼻腔、眼、咽喉などの粘膜と接触しないようにする有効な手段を提供すること。
【解決手段】本発明は、アポラクトフェリンを含む抗アレルギー剤を提供する。この抗アレルギー剤は、眼科用製品、鼻腔用製品、口腔用製品などに用いられ得る。また、アレルギー予防に用いられ得る製品(例えば、マスク)に処理を施すことによっても用いられ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルギー剤に関する。
【背景技術】
【0002】
花粉症は、花粉に起因するアレルギー性疾患であるとされている。花粉症の症状としては、発作性のくしゃみ、鼻水、むず痒さなどの鼻腔外鼻道粘膜(鼻腔粘膜)における鼻炎症状、眼粘膜(特に、眼瞼結膜)の掻痒感などといった諸症状が具体的に挙げられる。咽喉粘膜における炎症、咳なども挙げられる。
【0003】
実状では、居住環境の至る所に遊離して存在するアレルゲンで感作、発症している患者では、抗ヒスタミン剤などの副作用も有し得る対症療法剤を用いた、一時的な解決策に依存せざるを得ない。このため、これを使用し続けない限り発症を繰り返すことになり、財政的にも、肉体的にも大きな負担を強いられ、そして使用を中止するとリバウンドによる症状の悪化も懸念されるという問題を抱えている。
【0004】
花粉症などのアレルギー性疾患に対して、諸症状を抑えるために、様々な薬剤が提案されている。また、花粉症などのアレルギー性疾患の対策としては、アレルゲンとの接触を避けることもまた挙げられる。したがって、アレルギー症状を引き起す原因物質が鼻腔、眼、咽喉などの粘膜と接触しないようにする有効な手段が求められている。
【0005】
ラクトフェリンは、生体中で鉄運搬作用を担うトランスフェリンファミリーの鉄結合糖タンパク質であり、1960年に単離された。ラクトフェリンの機能については、殺菌または静菌作用、免疫機能の調節作用、有用な腸内細菌の保護および育成、フリーラジカル(含活性酸素)の抑制などに関する多くの研究が実施されており、特に、殺菌または静菌作用は効果が明確であることから研究が進んでいる。その殺菌または静菌の機序は、ラクトフェリンが細菌やウイルスの細胞膜にとりついて、細胞膜を壊すことによって直接的に菌を殺す、またはラクトフェリンが細菌の成長や維持に必要な鉄を奪い取り、細菌を鉄欠乏の状態にして、細菌の生存を抑制するという作用によると考えられる。
【0006】
ラクトフェリンは、約690個の鎖状アミノ酸からなり、その三次元構造には2つの鉄結合ポケットがあり、当該ポケットに鉄が1個ずつ結合する。このポケットに鉄が100%結合したものを「ホロラクトフェリン」、そして鉄が結合していないものを「アポラクトフェリン」という。通常のウシ由来ラクトフェリンは、ポケットの15〜20%に鉄が入り込んでいるので、その粉末や溶液はピンク色をしており、鉄の結合度が高くなればなるほど赤みが増す。他方、鉄を取り除いたアポラクトフェリンは白色をしており、外観で容易に見分けがつく。アポラクトフェリンは、通常のラクトフェリンよりも求鉄性が高くなっており、抗菌または静菌効果が格段に高い。
【0007】
ラクトフェリンは、フリーの鉄を結合・固定するために、抗酸化物質としても分類される。この求鉄作用が大きなアポラクトフェリンは、ラクトフェリンよりも抗酸化物質としての能力が高い。
【0008】
アポラクトフェリンは上述したような有用な性質を有するので、種々の分野において利用されている。例えば、眼科用組成物、化粧品などのように、アポラクトフェリンを利用した種々の組成物が知られている(特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−137817号公報
【特許文献2】特開2007−277153号公報
【特許文献3】特開2008−63303号公報
【特許文献4】国際特許出願公開第2008/032847号公報
【特許文献5】特開2006−188446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、アレルギー症状を引き起す原因物質が鼻腔、眼、咽喉などの粘膜と接触しないようにする有効な手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、アポラクトフェリンを含む抗アレルギー剤を提供する。
【0012】
本発明はまた、アポラクトフェリンを有効成分として含有するアレルギー予防用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アレルギー症状を引き起す原因物質との接触を防止し得る、抗アレルギー剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】NaClを添加した場合のアポラクトフェリンのスギ花粉に対する結合定数を示すグラフである。
【図2】CaCl2を添加した場合のアポラクトフェリンのスギ花粉に対する結合定数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(アポラクトフェリン)
アポラクトフェリンとは、ラクフェリン分子中に結合されている鉄が遊離した糖蛋白分子である。本発明で使用するアポラクトフェリンは特に限定されないが、以下の特性を有することが好ましい。
【0016】
アポラクトフェリンは、その分子中の鉄結合度が5%以下、好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下であることが好ましい。ここで、鉄結合度とは、アポラクトフェリンのモル数に対する鉄のモル数の割合をいう。鉄結合度は、分光分析によりアポラクトフェリンの吸光度を測定すること、あるいは原子吸光分析や誘導結合プラズマ(ICP)分光分析によりアポラクトフェリン中の鉄量を直接測定することによって決定され得る。本発明においては、鉄結合度は、アポラクトフェリン粉末を純水に溶解して1w/v%溶液とし、これを470nmの吸光度で測定して求めたものをいう。
【0017】
アポラクトフェリンは、1w/v%の濃度でアポラクトフェリンを含む水溶液を調製した場合に、該水溶液中の総陽イオン濃度が5mM以下であることが好ましい。総陽イオン濃度の決定は、アポラクトフェリン粉末を0.1N塩酸に溶解して0.1w/v%溶液を調製し、原子吸光光度法によって各陽イオン量を測定することにより各陽イオンの濃度を求め、これらを合算する。総陽イオン濃度は、アポラクトフェリン粉末に不純物として含有される塩(イオン)に相当し得る。上記の0.1N塩酸によって、ラクトフェリンに結合しているイオンではなく、その粉末に混入している塩のみが溶け出され得るためである。総陽イオン濃度が、より好ましくは、3mM以下であり、さらに好ましくは、1mM以下であるアポラクトフェリンが、用いられ得る。
【0018】
アポラクトフェリンは、通常、ラクトフェリンを含有する水溶液のpHを、酸性側に調節して、ラクトフェリン分子が有する2価の鉄イオンを解離させることにより、製造され得る。
【0019】
アポラクトフェリンの原料となるラクトフェリンは、乳汁(例えば、牛乳)などの哺乳動物の分泌液または脱脂乳、ホエイ(乳清)などの乳汁加工物からの分離精製(例えば、カチオン交換樹脂に吸着させた後、高濃度塩類溶液で脱離させる方法、電気泳動による分離法、アフィニティークロマトグラフィーによる分離法など)を利用することによって得られたものであってもよい。さらに遺伝子組換えした種々の細胞(微生物、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞などを含む)、植物、動物などにより産生されたものであってもよい。ラクトフェリンは、医薬品、試薬などとして市販されているものであってもよい。ラクトフェリンは、好ましくは、天然物に由来し、より好ましくは、乳清由来のものである。牛乳または脱脂乳から乳製品(例えば、チーズ、カゼインなど)を製造する際に発生する副産物として得られるホエイは、ラクトフェリンの供給源として好適に用いられ得る。
【0020】
アポラクトフェリンは、好適には、例えば、ラクトフェリン含有液を限外濾過する際に該液に酸を添加し、ラクトフェリンに結合している鉄イオンを解離させることによって製造され得る。ここで用いられ得る酸としては、例えば、クエン酸、塩酸、リン酸、リンゴ酸、または(0.4M以上の)酢酸が挙げられるが、クエン酸が好ましい。あるいは、アポラクトフェリンは、例えば、カチオン交換膜とアニオン交換膜とが張り合わさった構造を有する複合イオン交換膜であるバイポーラ膜とカチオン交換膜とが交互に配列されて、これらの膜により仕切られた酸室と塩基室とを有する電気透析装置を使用することによっても、好適に製造され得る(例えば、特許文献5)。この場合、酸としては、電気透析装置での製造工程の間に産生される塩酸が用いられる。
【0021】
アポラクトフェリンの製造において、調節される酸性側のpHは、好ましくは0.5〜3であり、より好ましくは1〜3、または1.5〜2.5である。pHが中性に近い場合(例えば、5.5)では、得られるアポラクトフェリンの抗菌性が弱くなることがある。ラクトフェリンを含有する水溶液のpH調整剤としては、上記酸だけでなく、フタル酸、グリシンなども用いられ得る。これらのpH調整剤は、ラクトフェリンを含有する水溶液に、そのpHを上記の値に調節するに適切な量で添加される。
【0022】
ラクトフェリンを含有する水溶液のpHを酸性側へ調節する際の温度は、蛋白の変性を考慮すると高温でないほうが好ましい。通常5℃〜60℃、より好ましくは10℃〜35℃であり、さらにより好ましくは室温または10〜28℃である。
【0023】
本発明に用いられるアポラクトフェリンは、例えば、以下のように製造され得るがこれに限定されない。アポラクトフェリンの製造には、マイクローザUFラボテスト機(LX−22001;旭化成ケミカルズ株式会社)に、同社製のUFモジュールであるLOV(中空糸モジュール:膜内径0.8mm、有効膜面積41m、膜素材:ポリアクリロニトリル、公称分画分子量:50,000)を組み込んだ限外濾過装置が用いられ得る。鉄結合度が約20%のラクトフェリン溶液を0.1Mクエン酸で、以下に説明するように処理し得る。まず、上記ラクトフェリン溶液を装置の供給タンクに投入し、循環および逆方向循環によって該溶液を液量が半減するまで濃縮し得る(このとき、UF膜の入口および出口の圧力、循環液流量は、それぞれ0.12MPa、0.08MPa、15L/分であり得る)。次いで、ラクトフェリン水溶液の代わりにクエン酸溶液をタンクに投入し、循環および逆方向循環によってラクトフェリンをクエン酸で処理し、次いで、8MΩ・cm以上の純水をタンクに投入し、循環および逆方向循環によって、非透過の濃縮液中に残存する酸を除去し得る。なお、循環液の温度は、製造工程を通して10〜28℃の範囲内であり得る。クエン酸処理のpHは2〜3であり得る。
【0024】
本発明に用いられるアポラクトフェリンは、アポラクトフェリンとして市販されているものを上記の鉄結合度および総陽イオン濃度を有するように改質してもよい。
【0025】
市販品としては、株式会社アップウェル製のアポラクトフェリン(商品名:アップウェルエクストラ)が好適に用いられ得る。
【0026】
アポラクトフェリンの製造の際に、通常、アポラクトフェリンは水溶液の形態で得られ得る。水溶液の形態を用いても、あるいは溶媒を除去して粉末化した形態を用いてもよい。
【0027】
(抗アレルギー剤およびアレルギー予防用組成物)
アポラクトフェリンは、アレルゲン(例えば、スギ花粉、ブタクサ花粉、イヌアレルゲン、ネコアレルゲン、およびダニアレルゲン)との結合能を有するアレルゲン結合剤、または花粉などのアレルゲンとの接触を防止し得る抗アレルギー剤として利用可能である。アポラクトフェリンは、アレルギーの予防(これは、症状の発症の防止および症状の抑制を含み得る)に有効な成分として利用され得る。アレルギーとしては、特に、スギ花粉、ブタクサ花粉などの花粉に起因する花粉症、イヌアレルギー、ネコアレルギー、またはダニアレルギーの予防に有用であり得るがこれに限定されない。アポラクトフェリンは、アレルギーの予防に有効な量で組成物に含まれ得る。アポラクトフェリンをアレルギーの予防に有効な成分として含む組成物を、本明細書中では、アレルギー予防用組成物ともいう。アポラクトフェリンを含む抗アレルギー剤は、任意の公知のアレルギー症状抑制剤と併用してもよく、アレルギー予防用組成物は、任意の公知のアレルギー症状抑制剤をさらに含み得る。
【0028】
アレルギー予防用組成物は、溶液の形態であっても、あるいは溶媒を除去して固形化した形態(例えば、粉末(例えば、凍結乾燥による))であってもよい。固形化した形態の場合、用時溶解してもよい。
【0029】
アポラクトフェリンを含む抗アレルギー剤またはアレルギー予防用組成物は、例えば、眼科用製品、鼻腔用製品、口腔用製品などに用いられ得る。
【0030】
本発明において、「眼科用製品」とは、眼科的に適用または投与され得る任意の製品または組成物をいう。特に、投与時に直接眼に投与され得る薬剤組成物をいう。眼科用製品は、その剤型、形態が特に制限されるものではなく、例えば点眼剤(水溶性点眼剤、懸濁性点眼剤、およびゲル基剤点眼剤を含み得る)、洗眼剤、眼軟膏剤、ゲル剤、用時溶解により液状となる固形製剤などが挙げられる。これらの中でもより好ましくは、点眼剤および洗眼剤の形態である。特に、点眼剤が好ましい。コンタクトレンズ装用時の点眼剤も含まれる。
【0031】
本発明において、「鼻腔用製品」とは、鼻腔内に適用または投与され得る任意の製品または組成物をいう。特に、投与時に直接鼻腔の粘膜に投与され得る薬剤組成物をいう。鼻腔用製品は、その剤型、形態が特に制限されるものではなく、例えば、点鼻剤(水溶性、懸濁性、およびゲル基剤性を含み得る)、洗鼻剤、鼻軟膏剤、ゲル剤、用時溶解により液状となる固形製剤などが挙げられる。点鼻剤には、ガスの圧力により噴霧されるスプレー剤、吸入式噴霧剤などが含まれる。
【0032】
本発明において、「口腔用製品」とは、口腔および咽喉への適用が可能である任意の形態をとり得る。口腔用製品の剤型としては、ローション剤、乳剤、スプレー剤、ゲル剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤、用時溶解により液状となる固形製剤などが挙げられる。用時に希釈される形態でもあり得る。口腔用製品は、医薬品、医薬部外品、口腔用製剤などとして使用できる。より具体的には、うがい薬、洗口剤、スプレー、トローチなどが挙げられる。
【0033】
アポラクトフェリンを含む抗アレルギー剤またはアレルギー予防用組成物は、アレルギー予防に利用され得る製品(例えば、マスク)、衣類(例えば、外套、帽子)などに、溶液状にして塗布し、次いで乾燥するなどの処理を施すことによっても用いられ得る。
【0034】
アポラクトフェリンの組成物中の含有量は、用途に依存し得るが、該組成物中に、アポラクトフェリンは、例えば0.01〜10、好ましくは0.05〜5、より好ましくは0.1〜1の濃度(単位はw/v%)となるように含有または添加され得る。
【0035】
眼科用製品、鼻腔用製品、および口腔用製品には、その目的、製品の種類などに応じて、適切な成分または添加物を適切な量で配合され得る。
【0036】
眼科用製品、鼻腔用製品、または口腔用製品のような製品の成分または添加物として、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、酢酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムなどの電解質が用いられ得る。アポラクトフェリンと花粉との結合には、例えば、アポラクトフェリン1mg/mL(1w/v%)の溶液の場合、電解質が、好ましくは合計量で50〜250mM、より好ましくは合計量で100〜200mM共存することが好ましいものであり得る。この量は、通常、眼科用製品、鼻腔用製品、または口腔用製品のような製品中に含有され得る総電解質量に相当し得る。
【0037】
眼科用製品、鼻腔用製品、または口腔用製品の成分または添加物として、さらに、尿素、グルコース、ホウ酸、クエン酸、酢酸、酒石酸、コハク酸、グリセリン、マレイン酸、硫酸、リン酸、ヒブロメロースなどもまた挙げられる。
【0038】
眼科用製品、鼻腔用製品、または口腔用製品は、常法により、固形状、液状、軟膏状などに調製することができる。製剤の調製に使用する添加剤としては、固形状製剤の場合は、結晶セルロースなどの賦形剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、PVPなどの結合剤、ステアリン酸マグネシウム、硬化ヒマシ油、タルクなどの滑沢剤、防腐剤などが使用され得、液状製剤の場合は、界面活性剤、溶解補助剤、緩衝剤など、さらに保存剤、香料、色素、防腐剤などが使用され得、軟膏状製剤の場合は、軟膏基剤、界面活性剤、溶解補助剤、緩衝剤など、さらに保存剤、香料、色素、防腐剤などが使用され得る。なお、これらの成分は単独または相互に混合して使用され得る。
【0039】
眼科用製品は、通常、成人に対して1回当たり適量を1回〜数回、両眼に滴下、噴霧、洗眼などすることにより投与され得る。鼻腔用製品は、通常、成人に対して1回当たり適量を1回〜数回、両鼻腔に滴下、噴霧、塗布などすることにより投与され得る。口腔用製品の適用は、通常、成人に対して1回当たり適量を1回〜数回、口腔および咽喉への滴下、噴霧、含ませてうがいした後に吐き出すなどにより行われ得る。アレルギー予防用組成物は、アレルギーの発症前に予防的に適用することが望ましいが、発症後の症状悪化の防止のためにも用いられ得る。
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
(調製例1:アポラクトフェリンの製造)
マイクローザUFラボテスト機(LX−22001;旭化成ケミカルズ株式会社)に、同社製のUFモジュールであるLOV(中空糸モジュール:膜内径0.8mm、有効膜面積41m、膜素材:ポリアクリロニトリル、公称分画分子量:50,000)を組み込んだ限外濾過装置を用いて、以下のようにアポラクトフェリンを製造した。
【0042】
50mg/mLのラクトフェリン(タツア酪農協同組合株式会社製;鉄結合度は約20%)溶液を10kg用いた。アポラクトフェリンの製造工程において、ラクトフェリンを0.1Mクエン酸で処理した。まず、上記ラクトフェリン溶液を装置の供給タンクに投入し、10分間循環させた後、5秒間逆方向に循環させて、溶液を濃縮した。このとき、UF膜の入口および出口の圧力、循環液流量を、それぞれ0.12MPa、0.08MPa、15L/分と設定した。この操作を非透過の濃縮液が半減するまで繰り返した(これを1ラウンドとする)。次いで、ラクトフェリン溶液の代わりにクエン酸溶液をタンクに投入し、上と同様の操作を2ラウンド行った。次いで、8MΩ・cm以上の純水をタンクに投入し、上記の操作を5ラウンド行い、非透過の濃縮液中に残存する酸を除去した。なお、循環液の温度は、製造工程を通して10〜28℃の範囲内であり、pHは2〜3であった。
【0043】
上記製造工程により、40kgの濃縮液を得た。次いで、濃縮液を凍結乾燥し、9.5gの白色粉末を得た。
【0044】
各酸処理により得られた粉末がアポラクトフェリンであることおよびアポラクトフェリンの純度を、粉末を純水に溶解後、BIOXYTECH(登録商標)Lacto f EIATM(OXIS International Inc. 米国・オレゴン)を用いて抗体定量を行うことにより決定した。
【0045】
アポラクトフェリン粉末の鉄結合度は2.70%であった。鉄結合度は、粉末を純水に1w/v%の濃度になるように溶解し、次いで、アポラクトフェリンに結合している鉄量を470nmの吸光度で測定することにより決定した。ここで、鉄結合度は、鉄結合度(%)=(1w/v%溶液中の鉄モル数/1w/v%溶液中のアポラクトフェリンモル数)×100によって算出した。
【0046】
この鉄結合度2.70%のアポラクトフェリンの総陽イオン濃度は3.2mMであった。総陽イオン濃度を以下のように測定した。アポラクトフェリンの凍結乾燥粉末に0.1N塩酸を加え、0.1w/v%アポラクトフェリン溶液を調製し、原子吸光光度法によってNa、K、Ca、Mg、およびCuについて測定することにより、これらの各陽イオンの濃度を求め、合計したものを総陽イオン濃度と換算した。
【0047】
(調製例2:アーモンド抽出物)
株式会社デルタ・インターナショナル(東京)から購入したカリフォルニア産アーモンドの種皮および仁を一緒に細かく裁断し凍結乾燥機で乾燥させ、十分に乾燥を終えた後、粉砕機で粉砕した。粉砕サンプル1gを100mLのビーカーに測り取り、20〜25℃の超純水20mLを入れ、超音波で約5分処理した後、4℃にて一晩攪拌した。撹拌後の液状物を、4℃にて20分間、3000rpmで遠心分離し、上清を回収した。この遠心分離による沈澱を10mLの超純水で洗い、もう一度、同条件で遠心分離を行い、上清を回収した。回収した2つの上清を合わせて凍結乾燥、粉末化した(以下、「アーモンド水抽出物」)。
【0048】
抽出のために、20〜25℃の超純水の代わりに95℃の熱水を用いたことおよび撹拌時間を一晩ではなく1時間にしたこと以外は、同様にして、アーモンド熱水抽出物を調製した。
【0049】
(調製例3:摘果ぶどう抽出物)
摘果ぶどう(品種:巨峰)を福岡県久留米市のぶどう園にて採取し、実および皮部分を一緒に細かく裁断し凍結乾燥機で乾燥させ、十分に乾燥を終えた後、粉砕機で粉砕した。粉砕サンプル1gを100mLのビーカーに測り取り、20〜25℃の超純水20mLを入れ、超音波で約5分処理した後、4℃にて一晩攪拌した。攪拌後の液状物を、4℃にて20分間、3000rpmで遠心分離し、上清を回収した。この遠心分離による沈澱を10mLの超純水で洗い、もう一度、同条件で遠心分離を行い、上清を回収した。回収した2つの上清を合わせて凍結乾燥、粉末化した(以下、「摘果ぶどう(実)水抽出物」)。
【0050】
摘果ぶどうの実および皮部分の代わりに枝部分を用いたこと以外は、同様にして、摘果ぶどう(枝)水抽出物を調製した。
【0051】
抽出のために、20〜25℃の超純水の代わりに95℃の熱水を用いたことおよび撹拌時間を一晩ではなく1時間にしたこと以外は、同様にして、摘果ぶどう(実)熱水抽出物および摘果ぶどう(枝)熱水抽出物を調製した。
【0052】
(実施例1:アポラクトフェリンと花粉との結合)
日本スギ花粉(生化学バイオビジネス株式会社から購入)、すなわち、日本スギ(Cryptomeria japonica)の成熟雄花から採取した花粉を、分子間相互作用定量水晶天秤(QCM)装置「AFFINIXQ」(型番:QCM2000;株式会社イニシアム)の専用センサーチップに、100μg/mL濃度で1μL滴下し、十分に風乾した後に、超純水でチップを洗浄した。日本スギ花粉を固定したチップを上記装置に装着し、8mLの超純水、あるいは50mM、100mM、150mM、200mM、250mMのNaClあるいはCaCl2の水溶液を入れた試験容器に挿入した。次いで、調製例1で製造したアポラクトフェリンの凍結乾燥物を超純水で1mg/mLとしたアポラクトフェリン溶液8μLを、試験容器に添加した。装置のディスプレイ上でチップ上のスギ花粉とアポラクトフェリンとの結合が安定になったことを確認し、上記アポラクトフェリン溶液8μLを更に添加した。この操作を更に3回繰り返し、日本スギ花粉とアポラクトフェリンとの相互作用を示す平衡曲線(吸着曲線)を作成した。次に、上記測定過程において、花粉を結合させていない当該専用センサーチップについて同様の測定を行い、ブランクとして先の測定値より差し引いた。結果は、装置に内蔵した専用測定解析ソフトウェアで解析し、解離定数の逆数として結合定数を算出した。
【0053】
図1および図2はそれぞれ、NaClを添加した場合のアポラクトフェリンのスギ花粉に対する結合定数、CaCl2を添加した場合のアポラクトフェリンのスギ花粉に対する結合定数を示すグラフである。いずれの図とも、縦軸に結合定数(1/M)を示し、横軸に塩添加濃度(mM)を示す。
【0054】
これらの結果より、アポラクトフェリンは、スギ花粉と十分な結合性を有することが分かった。さらに、塩類(電解質)を溶液中に溶解して共存させることで、結合性が増強され得ることが観察された。
【0055】
(実施例2:アポラクトフェリンと花粉抗原との結合)
専用センサーチップに、日本スギ花粉の代わりに、スギ花粉抗原SBP(生化学バイオビジネス株式会社から購入)を固定し、そしてアポラクトフェリン溶液を添加する前の試験容器には超純水を入れたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。スギ花粉抗原SBPは、日本スギ(Cryptomeria japonica)花粉を炭酸水素ナトリウム溶液により抽出および精製して得られる糖タンパク質で主要アレルゲンである、Cryj 1およびCryj 2を含む。実施例1の8mLの超純水を試験容器に入れた場合のスギ花粉の結果を比較に用いた。
【0056】
この結果を以下の表1に示す。アポラクトフェリンが、スギ花粉の抗原タンパク質と結合していることが分かった。
【0057】
【表1】

【0058】
(実施例3)
不織布マスク(ディスポーザーマスク;ケンコーコム社製;ポリプロピレン100%;W175×H94)を集塵機(株式会社千代田テクノル社製;MODEL: TH-D5101)の吸入口に固定した。吸入口を被覆する部分(被覆部)以外にはガムテープで目張りした。不織布マスクを固定した集塵機を、日本スギ花粉(生化学バイオビジネス株式会社から購入)1gを入れた1m×1m×1mの6面体アクリルボックスに入れ、電源コード部分を除いて密閉した。集塵機を30分間稼働した。稼動終了後、被覆部上に付着したスギ花粉をマスクから振動によるふるい落としで回収し、秤量した。付着していた花粉量(質量)をアクリルボックスに入れた1gで除して、花粉捕捉率とした。なお、マスクから回収したスギ花粉にマスクの繊維が混入していないかを、回収プレート上の無作為に抽出した3箇所について、顕微鏡下で確認を行った。
【0059】
次に、0.1gのアポラクトフェリンを3mLの純水で溶解し、外部環境と接する側のマスク表面上を均一に塗布し、乾燥機で50℃にて3時間乾燥させた。比較のために、0.1gの小麦粉(薄力粉;ニップン社製)を3mLの純水で溶解したものを同様に塗布および乾燥することで処理したマスクもまた用いた。これらのアポラクトフェリン処理マスクおよび小麦粉処理マスクも同様にして、上記の花粉試験に供した。
【0060】
それぞれの花粉捕捉率は、未処理(塗布なし)マスク 10.3%;アポラクトフェリン処理マスク 31.5%;および小麦粉処理マスク 19.2%であった。アポラクトフェリン処理マスクにはスギ花粉の捕捉効果があることが観察された。
【0061】
(実施例4:アポラクトフェリンと抗原との結合)
専用センサーチップに、日本スギ花粉の代わりに、スギ花粉抗原SBP(Purified Sugi Basic Protein;Japanese Cedar Pollen Allergen;生化学バイオビジネス株式会社から購入)、ブタクサ花粉(Ragweed pollen;株式会社ビオスタから購入)、イヌアレルゲン粗抽出物(株式会社東京環境アレルギー研究所から購入)、ネコ粗抽出物(株式会社東京環境アレルギー研究所から購入)、およびダニ(Dp)粗抽出物(株式会社東京環境アレルギー研究所から購入)のいずれかを50μg/ml(スギ花粉抗原SBP、ブタクサ花粉)または10μg/ml(イヌアレルゲン粗抽出物、ネコ粗抽出物、およびダニ粗抽出物)で固定し、そしてアポラクトフェリン溶液を添加する前の試験容器には超純水を入れたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0062】
この結果を以下の表2に示す。アポラクトフェリンが、スギ花粉抗原SBP、ブタクサ花粉、イヌアレルゲン粗抽出物、ネコ粗抽出物およびダニ粗抽出物との十分な結合能を有していることが分かった。
【0063】
【表2】

【0064】
(比較例1:各種乳由来タンパク質と抗原との結合)
アポラクトフェリン溶液の代わりに、カルシウムカゼネート(株式会社アップウェルより購入)、ラクトペルオキシダーゼ(タツア・ジャパン株式会社より購入)、カゼインタンパク質加水分解物(HCP105:軽度に加水分解したカゼインタンパク質;分子量10000-20000が30-40%;タツア・ジャパン株式会社より購入)を超純水で1mg/mLとした溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様の操作を行った。
【0065】
この結果を以下の表3〜5に示す。各種乳由来タンパク質が、スギ花粉抗原SBP、ブタクサ花粉、イヌアレルゲン粗抽出物、ネコ粗抽出物およびダニ粗抽出物との結合能を有していることが分かった。しかし、アポラクトフェリンよりも結合能は低かった。
【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
【表5】

【0069】
(比較例2:アーモンド抽出物または摘果ぶどう抽出物と抗原との結合)
アポラクトフェリン溶液の代わりに、調製例2で調製したアーモンド抽出物(水抽出物または熱水抽出物)あるいは調製例3で調製した摘果ぶどう(実または枝)抽出物(水抽出物または熱水抽出物)を超純水で1mg/mLとした溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様の操作を行った。
【0070】
この結果を以下の表6〜11に示す。アーモンド抽出物または摘果ぶどう抽出物は、スギ花粉抗原SBP、ブタクサ花粉、イヌアレルゲン粗抽出物、ネコ粗抽出物、およびダニ粗抽出物との結合能を有していないことが分かった。
【0071】
【表6】

【0072】
【表7】

【0073】
【表8】

【0074】
【表9】

【0075】
【表10】

【0076】
【表11】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、花粉症に加え、イヌ、ネコ、およびダニなどのアレルギーの予防に有用な種々の製品が得られ得る。特に、アポラクトフェリンは人体に安全に適用可能であり、また、抗菌作用があり、眼球の濡れ性・膜安定性に優れるので、眼科用製品、そして鼻腔用製品または口腔用製品としても有用であり得る。アレルギー予防に利用され得る製品(例えば、マスク)、衣類(例えば、外套、帽子)などへも適用され得る。このように、アポラクトフェリンは、アレルギー予防のために広範な利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アポラクトフェリンを含む抗アレルギー剤。
【請求項2】
アポラクトフェリンを有効成分として含有するアレルギー予防用組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−93893(P2011−93893A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220332(P2010−220332)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(506307809)株式会社アップウェル (9)
【Fターム(参考)】