説明

抗ウィルス性塗料組成物および塗装物

【課題】各種用途、特に建材向け用途における塗膜耐久性、塗膜外観等、塗膜の要求物性および塗料として貯蔵安定性、現場塗装作業適性を備え、かつ、優れた抗ウィルス性を有する塗膜を形成できる抗ウィルス性塗料組成物および該塗料の乾燥塗膜を有する塗装物を提供する。
【解決手段】抗ウイルス性塗料組成物は、カルシウムおよび/またはマグネシウムの酸化物および/または水酸化物を有する抗ウィルス性成分と塗料樹脂成分を含有する。抗ウィルス性成分には、ドロマイトを焼成し、その一部を水和して得たものが用いられる。塗装物は、基材上に前記抗ウィルス性塗料組成物を塗布し乾燥して得られた塗膜を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウィルス性を有する塗膜を形成するための抗ウィルス性塗料組成物およびこの抗ウィルス性塗料組成物からなる塗膜を有する塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、病院、養護施設等の建物、備品、医療機器等に保健衛生の観点から、抗菌剤、消毒剤が使用されているが、衛生観念の広範な普及により、一般の公共施設のみならず一般家庭まで、広範囲の生活環境において各種建材、備品等に抗菌性、抗ウイルス性が期待されるようになっている。
例えば、クマザサ抽出成分を有する抗ウィルス剤(例えば、特許文献1参照)や、抗ウィルス性金属成分を含有する無機酸化物微粒子からなる抗ウィルス剤(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0003】
また、鉱物原料としてのドロマイト由来の抗ウィルス剤が、プラスチックへの添加剤、水性分散体として、散布用、マスク、フィルターへの応用等が知られている(例えば、特許文献3,4参照)。
しかしながら、水性媒体に分散させた状態からの直接散布や、布地、不織布等への含浸と異なる、塗膜として長期間に渡って抗ウィルス性が期待される用途、例えば、建材等に適した塗料組成物は知られていない。
【特許文献1】特開2004−323430号公報
【特許文献2】特開2003−221304号公報
【特許文献3】国際公開第2005/013695号パンフレット
【特許文献4】特開2005−036091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、各種用途、特に建材向け用途における、塗膜耐久性、塗膜外観等、塗膜の要求物性および塗料として貯蔵安定性、現場塗装作業適性を備え、かつ、優れた抗ウィルス性を有する塗膜を形成できる抗ウィルス性塗料組成物および該塗料の乾燥塗膜を有する塗装物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は第一に、カルシウムおよび/またはマグネシウムの酸化物および/または水酸化物を有する抗ウィルス性成分と塗料(結着)樹脂成分を含有することを特徴とする抗ウィルス性塗料組成物を提供する。
【0006】
本発明は第二に、基材表面に前記した抗ウィルス性塗料組成物の乾燥塗膜を有することを特徴とする塗装物品を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、各種用途、特に建材用途における塗膜耐久性、塗膜外観等、塗膜の要求物性および塗料として貯蔵安定性、現場塗装作業適性を備え、且つ、優れた抗ウィルス性を有する塗膜を形成可能な抗ウィルス性塗料組成物および該塗料の乾燥塗膜を有する塗装物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の抗ウイルス性塗料組成物は、抗ウィルス性成分と塗料(結着)樹脂成分を必須成分として含有するものである。
【0009】
本発明に用いられる抗ウィルス性成分は、カルシウムおよび/またはマグネシウムの酸化物および/または水酸化物を主成分とする粉末を含むものである。
このカルシウムおよび/またはマグネシウムの酸化物および/または水酸化物の粉末は、例えばドロマイトなどの炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムとを含む炭酸塩鉱物からなるもので、この炭酸塩鉱物を焼成し、その一部を水和し、さらにこれを粉砕して得られた粒径1〜60μmの粉末である。
【0010】
この抗ウイルス性成分の組成は、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどを含むものであり、これらの成分によって抗ウイルス性を発揮するものである。
この抗ウイルス性成分に関しては、WO2005/013695号パンフレットに詳しく記載されている。
【0011】
前記抗ウィルス性成分の製造について、ドロマイト(苦灰石)を原料とする場合により説明する。
まず、ドロマイトを、大気下で700〜1300℃、好ましくは700〜1100℃、14〜15時間かけて焼成(か焼)することにより、酸化カルシウムおよび酸化マグネシウムを主成分とする焼成物を得る。次いで、この焼成物が未だ高温の間に水をかけ、その一部を水和(消化)して一部水和物となし、さらにこれを粉砕する。この一部水和物の水分含有量は3〜7質量%の範囲が好ましい。
この抗ウイルス性成分には、例えば、バリエールP−0、バリエールP−2(商品名、用瀬電機製)などが好ましく用いられる。
【0012】
本発明に用いられる塗料樹脂成分としては、水性樹脂、ラッカータイプの熱可塑性樹脂、二液硬化型樹脂、活性エネルギー線硬化型樹脂等の各種塗料用樹脂を用いることができる。
水性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、セルロース等が好ましく用いられる。
【0013】
用途別には、例えば、天井、壁材用途には、例えば、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂等のラッカータイプの熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
プラスチック部材、各種建材の着色剤用途には、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂とポリイソシアネートの組み合わせ等の2液硬化型樹脂が好ましく用いられる。
【0014】
建具、家具、造作材用途には、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート系オリゴマー、不飽和ポリエステル、反応性希釈剤等の活性エネルギー線硬化型樹脂が好ましく用いられる。
【0015】
抗ウィルス性成分の効果を充分に発揮させるためには、抗ウィルス性成分が塗膜表面により多く表面に露出することが好ましいが、消毒液等の場合と異なり、永続的に塗膜としての機能を果たすためには結着成分としての塗料樹脂成分の存在が不可欠である。
塗料不揮発分中における塗料樹脂成分(固形分)の含有量は、1〜30質量%であることが好ましい。1質量%未満では塗膜を形成しにくく、30質量%を越えると抗ウィルス性の発現が困難となる。
【0016】
塗膜適性の観点から、不揮発分中における抗ウィルス性成分の含有量は、2〜40質量%であることが好ましい。2質量%未満では抗ウィルス性の発現が困難となり、40質量%を越えるとコストの上昇と、塗工作業性が劣る傾向となる。
また、塗料樹脂成分(固形分)に対する抗ウィルス性成分の含有量は、50〜500質量%であることが好ましい。50質量%未満では抗ウィルス性の発現が困難となり、500質量%を越えるとコストの上昇と、塗工作業性が劣る傾向となる。
【0017】
本発明の塗料組成物には、抗ウィルス性成分、塗料樹脂成分の他に、必要に応じて、着色顔料成分、体質顔料成分等の固形分を含有することが出来る。
【0018】
着色顔料成分としては、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、アゾ顔料等がある。塗料中の含有量は、0.1〜30質量%である。
【0019】
体質顔料成分としては、タルク、炭酸カルシウム、長石、マイカ、クレー等がある。
【0020】
本発明の抗ウイルス性塗料組成物には、他に、分散剤、消泡剤、レベリング剤、潤滑剤、防黴剤、防腐剤、ワックス類等の添加剤を用いることができる。更に、別種の抗ウィルス性成分を併用しても良い。
【0021】
本発明の抗ウイルス性塗料組成物の製造方法は、溶媒または水等に分散剤、消泡剤、樹脂を配合し、充分に攪拌混合をおこない、後に顔料分である炭酸カルシウム、酸化チタン等、抗ウィルス性成分であるカルシウムおよび/またはマグネシウムの酸化物および/または水酸化物の粉末を添加し、各種の撹拌機を用いて5℃〜45℃の液温範囲で混合することによって調製できる。
【0022】
本発明の抗ウィルス性塗料組成物は、各種用途に適用可能であるが、例えば、天井、壁材、建具、家具、造作材、プラスチック部材、階段、床材等の建材用途に好ましく用いられる。
【0023】
基材としては、例えば、建材用途では、ナラ、カバ、ブナ、メープル等の木質材、ポリプロピレン、ポリエチレン等のフィルム、ケイ酸カルシウム板、ロックウール材等の無機材に対して好ましく適用できる。
【0024】
塗工方法としては、例えば、天井材、壁材、床材等の建材用途の場合、ロールコーター、カーテンフローコーター、スプレー吹き付け、グラビアロール印刷で塗工できる。
【0025】
本発明の塗装物は、上述の抗ウイルス性塗料組成物を上記基材上に上記塗工方法によって塗布し、常温または加熱乾燥して得られた塗膜を有するものである。この塗膜の厚さは、1〜200μm程度とされる。また、この塗膜においては、粉末状の抗ウイルス性成分が塗膜表面から露出していることが必要である。
このような塗膜を有する塗装物は、したがって優れた抗ウイルス性を発揮する。
【0026】
ここでの塗膜の抗ウィルス性は、細胞に感染したウィルスを駆除する機能ではなく、塗膜に接したウィルスに直接作用して、そのウィルスの感染価を減少させる機能で評価される。すなわち、あらかじめ感染価の分っているウイルスを塗膜に一定時間接触させた後、一定条件で、発育鶏卵に接種して孵卵を続行することにより、そのウイルス感染価を調べ、その感染価の減少する程度を計測することによって、評価できる。
【0027】
ウィルス増殖の有無については、例えば、トリインフルエンザウィルスは赤血球を凝集する能力を有しているので、上記の条件で培養した後のウィルスを鶏赤血球浮遊液と反応させ、鶏赤血球の凝集の有無から判定することができる。
【0028】
以下、具体例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。部および%は特に断らない限り質量部、質量%を表すものとする。
【0029】
(実施例塗料の調製)
塗料樹脂として、アクリル系樹脂(ボーンコート889:不揮発分50%、大日本インキ社製)、抗ウィルス性成分剤(バリエールP−2:用瀬電機社製)、炭酸カルシウム、消泡剤(BYK024:BYK社製)、水を配合し、上記の製造方法の手順で下記表1の配合で実施例塗料1〜7を調製した。
【0030】
【表1】

【0031】
(比較例塗料の調製)
抗ウィルス剤を含有しない他は、実施例塗料1と同様に比較例塗料1を調製した。
【0032】
(評価)
得られた実施例塗料1〜7および比較例塗料1を用いて、以下の試験基板を作成し、後述の評価方法に従って、抗ウィルス性および塗工作業適性、塗膜概観を評価した。
【0033】
被塗布基材として、鋼板表面にエポキシ樹脂をプライマーとして予め塗布した、225mm×300mm、厚さ0.3mmのプライマー鋼板を使用し、実施例塗料および比較例塗料を、スプレー塗装で塗料換算(wet)50g/m塗布し、230℃、45秒の条件で乾燥し、塗膜を有する試験基板を得た。
【0034】
(抗ウィルス性評価方法)
被検ウィルスとして、トリインフルエンザウィルスA/whistling swan/Simane/499/83(H5N3)株を用い、滅菌リン酸緩衝食塩液(PBS;pH7.2)で10倍希釈して試験用ウィルス液を調製した。
【0035】
50mm×50mmに裁断した前記試験基板を、9cmシャーレに置き、塗膜上に、前記ウィルス液を0.2ml滴下し、ウィルス液の上から、30mm×30mmの滅菌したポリエチレンフィルムを被せ、シャーレの蓋をし、4℃で30分間経過後、90μlウィルス液を採取し、上記PBSで10倍階段希釈して、10日目発育鶏卵の尿腔に注射針を用いて接種した。
【0036】
接種後3日間37℃で孵卵を続行した後、尿膜腔液を採取し、試験管内で0.5%鶏赤血球浮遊液と混合して、鶏赤血球凝集の有無によってウィルス増殖の有無を判定した。ウィルス力価(鶏胎児50%感染量(EID50/0.2ml))の算出は、Reed and Muenchの方法によった(参照文献:Reed, L,J,.Muench,H. :A simple method of estimating fifty percent endpoints. Am.J.Hyg.27, 493−497(1938))。
【0037】
抗ウィルス性の目安は、
ウィルス力価が1/10000程度以上の場合(◎)、
ウィルス力価が1/1000〜1/10000程度の場合(○)、
ウィルス力価が1/1000〜1/10程度の場合(△)、
ウィルス力価が1/10程度以下の場合(×)
とした。
【0038】
(塗工作業適性)
塗工機で通常の条件で塗工可能な場合を(○)とし、温度、速度等の調整で塗工可能であるが工業的に適さない場合を(△)とした。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
塗布基材を、無機不燃材料である天井用ロックウールに変え、実施例塗料2、7および比較例塗料1を300g/m(wet)で塗布し、試験基材を得た。
実施例1と同様に、抗ウィルス性および塗料適性、塗膜物性を評価した。塗膜外観については、通常の天井板の状態を(○)とし、レベリング性がやや劣る状態を(△)とした。結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、抗ウィルス性を有する塗料組成物を提供し、建材等を始め、抗ウィルス性を有することが好ましい各種用途への展開が可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムおよび/またはマグネシウムの酸化物および/または水酸化物を含む抗ウィルス性成分と塗料樹脂成分を含有することを特徴とする抗ウィルス性塗料組成物。
【請求項2】
前記抗ウィルス性成分が、ドロマイトを焼成し、その一部を水和して得られたものである請求項1に記載の抗ウィルス性塗料組成物。
【請求項3】
不揮発分中における塗料樹脂成分の含有量が1〜30質量%である請求項1または2に記載の抗ウィルス性塗料組成物。
【請求項4】
不揮発分中における抗ウィルス性成分の含有量が2〜40質量%である請求項1〜3の何れかに記載の抗ウィルス性塗料組成物。
【請求項5】
前記塗料樹脂成分に対する抗ウィルス性成分の含有量が50〜500質量%である請求項1〜4の何れかに記載の抗ウィルス性塗料組成物。
【請求項6】
前記塗料樹脂成分が水性塗料樹脂である請求項1〜5のいずれかに記載の抗ウィルス性塗料組成物。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の抗ウィルス性塗料組成物を基材上に塗布してなる塗膜を有することを特徴とする塗装物。

【公開番号】特開2007−106876(P2007−106876A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298721(P2005−298721)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】