説明

抗ウイルスフェイスマスクおよびフィルター材

酸性ポリマー、特にCarbopol型もしくはGantrez型の酸性ポリマーが付着された繊維性基材、特に不織布ポリプロピレンもしくはポリエステルであるフィルター材を含むフェイスマスク。そのマスクは、吸気もしくは呼気に対して抗ウイルス活性を有する。そのようなマスクに好適なフィルター材、およびそれを製造する方法についても記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害なウイルスに汚染されている吸気、および有害なウイルスに感染している患者が吐き出した汚染空気から、そのようなウイルスを除去し中和することができる口用および/または鼻用エアフィルターという新規な器具に関する。特に、本発明は、フェイスマスク形のそのような器具に関する。本発明はまた、そのような器具に使用するのに適した新規フィルター材にも関する。
【背景技術】
【0002】
過去100年、3度のインフルエンザの世界的流行に見舞われており、その中で1918年の「スペイン風邪」が、医科学で認知されているあらゆる感染症の中で最も世界的に流行した(Oxford, J. S., 2000)。これらの世界的流行を引き起こした3種の株は、インフルエンザウイルスA型に属し、他の2型(BおよびC)とは異なって、この型は、非常に多様な動物(家禽、ブタ、ウマ、ヒトおよび他の哺乳動物)に感染する。インフルエンザAウイルスは、経済的にも、および医学的にも世界的な問題の原因となり続けている(Hayden, F. G. & Palese, P., 2000)。現在の世界の関心は、トリインフルエンザA H5N1ウイルスであり、1997年中国で初めて鳥類に感染する能力が実証され、以来、他の東南アジア、ヨーロッパ、およびアフリカ諸国に伝播していった(Enserink, M, 2006,Guan, Y.ら, 2004,Peiris, J. S.ら, 2004)。2003年〜2004年、東南アジアの鳥類で徐々に流行した際、世界保健機関は、鳥類で重大な疾患を引き起こすその能力について記録した。H5N1は、急速に変異し病原性が高い。H5N1が、他のトリインフルエンザウイルスと共存すると、鳥類で同時感染の可能性が増大する。そのような事象は、新規なサブタイプを出現させる「混合容器」に、鳥種間での伝染を容易にする十分なトリの遺伝子を提供し、それがインフルエンザの流行の開始を特徴付けるものである(WHO概況報告書)。
【0003】
現在市場に出ている多くの抗インフルエンザ生成物(ワクチンおよび治療)によって、別の世界的流行が発生しないように制御し防止するために多くのことがなされている。目下、インフルエンザ感染に対しては、アマンタジンが主要な抗ウイルス化合物であるが、その活性はインフルエンザAウイルスに限定される。ザナミビル(リレンザ)およびオセルタミビル(タミフル)などの抗ノイラミニダーゼ阻害薬は、インフルエンザAおよびB感染の治療に使用するための認可を受けている新規なクラスの抗ウイルス剤である(Carr, J.ら, 2002)。世界的流行におけるこれらの抗ウイルス剤の役割は、製造にかかる時間および費用、さらに現在供給が限られているために限定されるであろう。H5N1の世界的流行が懸念されるという近年のニュースにより、鳥種間でウイルスが伝染するあらゆる機会を防止する必要が生じている。
【0004】
有害なウイルスおよび/または他の微生物によって汚染された空気を吸入することは、ヒト、特に感染しているヒトもしくは動物のために働く保健従事者などが感染する一般的経路である。感染患者が吐き出した空気が汚染源である。現在、いわゆる「トリインフルエンザ」H5N1ウイルスによる感染の危険性は特に関心が高い。好適なフィルター材を組み込んだマスクは、種から種へのウイルス伝染を防止するバリアとして使用するのに理想的であろう。
【0005】
そのようなウイルスおよび/または他の微生物を除去すると考えられるエアフィルターは知られている。そのようなフィルターの一タイプは、繊維基材もしくは粒子基材の繊維もしくは粒子の表面上および/またはバルク中に、関心あるウイルスおよび/または他の微生物を捕獲し、かつ/または中和する物質を付着させたものを含む。そのようなフィルターの開示例を以下に列挙する。
【0006】
米国特許第3,871,950号(特許文献1)および米国特許第4,181,694号(特許文献2)は、主として水性媒体を濾過するために、限外濾過膜に使用されるアクリロニトリルポリマー中空繊維を開示している。米国特許第4,856,509号(特許文献3)は、マスクの選択部分がクエン酸など、ウイルスを破壊する薬剤を含むフェイスマスクを開示している。米国特許第5,767,167号(特許文献4)は、ウイルスなどの微生物捕獲用濾材に好適なエアロゲルフォームを開示している。米国特許第5,783,502号(特許文献5)は、抗ウイルス分子、特にカチオン性基、たとえば四級アンモニウムカチオン性炭化水素基を布に結合させた布基材を開示している。米国特許第5,851,395号(特許文献6)は、シアル酸(環中にカルボン酸置換基を有する9炭素単糖類)をベースとするウイルス捕獲物質を付着させたフィルター材を含むウイルスフィルターを開示している。米国特許第6,182,659号(特許文献7)は、ストレプトコックス・アガラクチア(Streptococcus agalactiae)培養産物をベースとするウイルス除去フィルターを開示している。米国特許第6,190,437号(特許文献8)は、「ヨウ素樹脂」を含浸させた担体基材を含む、空気からウイルスを除去するエアフィルターを開示している。米国特許第6,379,794号(特許文献9)は、アクリルラテックスを含浸させた、ガラスおよび他の高弾性率繊維をベースとするフィルターを開示している。米国特許第6,551,608号(特許文献10)は、熱可塑性物質と共に、少なくとも一種の抗ウイルス剤を焼結することによって製造した、多孔質熱可塑性材料基材と抗ウイルス物質を開示している。米国特許第7,029,516号(特許文献11)は、ポリアクリル酸などの酸性ポリマーを付着させた不織布ポリプロピレンベースを含む、液体から粒子を除去するフィルター系を開示している。米国特許出願公開第2004/0250683号(特許文献12)は、アクリルポリマーであってよい酸性物質を付着させた繊維網を含むフィルター材を開示している。米国特許出願公開第2005/0247608号(特許文献13)は、様々な抗ウイルス性ポリマー、主としてカチオン性ポリマーで処理しうるフィルターブロックを開示している。
【0007】
国際公開第2001/07090号(特許文献14)は、反応性表面を有する基材と、その表面にある微生物を誘引するためのカチオン性基を含むポリマーとを含む、微生物を除去するフィルターを開示している。国際公開第2002/058812号(特許文献15)は、マイクロカプセル化した殺生物剤を備えたエアフィルターを開示している。国際公開第2003/039713号(特許文献16)は、ウイルスに対する効果を含め、抗病原性効果を有するとされるフィルター材であって、酸性基であってよいペンダント型官能基を含むポリマー網で、部分的にコートした繊維性基材をベースとするフィルター材を開示している。国際公開第2005/070242号(特許文献17)は、ウイルスなどの粒子を捕える電荷が付与されるように処理した繊維製吸入フィルターを開示している。
【0008】
英国特許出願公開第2035133号(特許文献18)は、その表面に非水溶性ポリマー、好ましくはPVAを有するメンブレンフィルターを開示している。ガスマスクカートリッジ中に、そのようなフィルター材を使用することが示唆されている。
【0009】
特開2001−162116号(特許文献19)は、繊維性基材に、銀−有機ヨード系抗菌剤を結合させるために自己架橋型アクリル樹脂を使用した抗菌性濾材を開示している。特開2005−198676号(特許文献20)は、抗ウイルスフェイスマスクにクエン酸を結合させるために、水硬化型樹脂エマルジョンを使用することを開示している。
【0010】
Journal of Virology: Sept. 1968, p878-885; March 1970, p 313-320 and p 321-328非特許文献1)中の3つの論文には、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、およびポリアセタールカルボン酸を含む、様々なポリカルボン酸の抗ウイルス活性が開示されている。その中で報告されている抗ウイルス活性は、細胞媒介効果であると考えられ、「PMAA(ポリメタクリル酸)は、細胞外の状態ではウイルス粒子を不活化させなかった」という結論が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第3,871,950号
【特許文献2】米国特許第4,181,694号
【特許文献3】米国特許第4,856,509号
【特許文献4】米国特許第5,767,167号
【特許文献5】米国特許第5,783,502号
【特許文献6】米国特許第5,851,395号
【特許文献7】米国特許第6,182,659号
【特許文献8】米国特許第6,190,437号
【特許文献9】米国特許第6,379,794号
【特許文献10】米国特許第6,551,608号
【特許文献11】米国特許第7,029,516号
【特許文献12】米国特許出願公開第2004/0250683号
【特許文献13】米国特許出願公開第2005/0247608号
【特許文献14】国際公開第2001/07090号
【特許文献15】国際公開第2002/058812号
【特許文献16】国際公開第2003/039713号
【特許文献17】国際公開第2005/070242号
【特許文献18】英国特許出願公開第2035133号
【特許文献19】特開2001−162116号
【特許文献20】特開2005−198676号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Journal of Virology: Sept. 1968, p878-885; March 1970, p 313-320 and p 321-328
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
「トリインフルエンザ」による危険性が認知されていることを特に考慮して、引き続きそのようなフィルターを改善する必要がある。本発明者らは、吸気から有害なウイルスおよび/または他の微生物を除去し、かつそれを中和するレベルの上昇を促進しうるフィルター材を同定し、改善された鼻用および/または口用フィルターに、そのような材料を使用できるようにした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1態様によれば、使用者の口と鼻を覆ってその使用者の顔に密着して接触させる(sealingly contact)のに好適な形状の通気性マスクであって、使用者の顔の所定の位置にマスクを保持する手段を具備し、かつフィルター材層を一層もしくは複数層を含み、該フィルター材は使用者の吸気および/または呼気が該フィルター材を通過するように配置されており、前記フィルター材が、酸性ポリマーを配合した通気性基材を含む、マスクが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
フェイスマスク全体の形状は、フェイスマスクの分野において一般的な従来形であってよく、使用者の顔の所定の位置にマスクを保持する手段としては、例えば、使用者の頭部の後ろに通す一本もしくは複数の弾性紐が挙げられうる。
【0016】
通気性基材としては、繊維性基材が挙げられ、この基材は織布材もしくは不織布材であってよい。織布材の例には、天然および合成繊維、例えば、綿、セルロース、羊毛、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド(例えば、ナイロン)、レーヨン、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、ポリスチレン、ポリビニル、および繊維に加工可能な他のあらゆる合成ポリマーが含まれる。不織布材の例には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン、PETおよび、PLAが含まれる。本発明には不織布が好ましい。そのような材料は、不織布シートもしくはパッドの形態であってよい。
【0017】
本明細書に記載したタイプの酸性ポリマーは、ポリエステル材に良好に粘着することが分っているので、不織布ポリエステルが好ましい通気性基材である。酸性ポリマーがポリエステル基材から目に見えるほど剥がれ、または擦り減るという傾向は少ないと思われる。ポリエステル繊維およびその繊維から作製した布はよく知られている。本明細書で使用される「ポリエステル」という用語は、エステル基によって連結された単位を有するポリマーである人造繊維の一般名である。織布および不織布繊維の製造に使用される一般的なポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートであり、
−[−O.CO−C−CO.O−CH−CH−]
単位を含む。
【0018】
使用可能な繊維性基材のグレードは、適切な通気性を得るために実地によって決定でき、快適な重さのマスクを提供する密度は、フェイスマスク業界では公知でありうる。
【0019】
外科用マスクなどに従来から使用されているタイプの不織布ポリプロピレンは、シート形態で広く入手することができる。不織布ポリプロピレンの好適なグレードには、外科用フェイスマスクなどに通常使用される公知のグレードが含まれる。本発明で使用するのに適していることが判明している典型的な不織布ポリプロピレン材の重量は、10〜40g/mであるが、他の好適な材料重量も経験的に決定することができる。
【0020】
本発明で使用するのに適していることが判明している典型的な不織布ポリエステル材の重量は、10〜200g/mであるが、この範囲の上限に近づくほど、フェイスマスクとして使用するには、材料は幾分重いと思われる。例えば、重量が20〜100g/m、例えば約60g/mの材料が好ましい。そのような材料は市販されている。他の好適な材料も経験的に決定することができる。
【0021】
あるいは、基材は、他の形態であってもよく、連続気泡フォーム(open-cell foam)など、例えば、鼻用エアプラグのエアフィルターにも使用されているポリウレタンフォームなどであってもよい。
【0022】
酸性ポリマーは、そのような材料中を通過する空気中のウイルスを捕獲し中和するのに有効であることが判明している。特定の作用理論に限定されないが、基材表面に接触すると、ウイルスはポリマーと相互作用し、捕捉され、そして酸性ポリマーの局所的な低pH環境(例えば、約pH2.8〜5)がウイルスを不活化し、それによってそれらを中和すると考えられる。本発明のフィルター材は、この方式で、風邪、インフルエンザ、SARS、RSV、トリインフルエンザの原因ウイルスおよび変異したこれらの血清型に対して有効でありうる。
【0023】
本明細書で使用する「酸性ポリマー」という用語には、その主鎖に沿って、例えば側基として酸性基を有するポリマーが含まれる。好適な酸性基は、カルボン酸基である。酸性ポリマーは、架橋していても、または線状であってよい。一般的に、本出願には、架橋結合していない、例えば線状ポリマーが好ましい。これは、とりわけ、架橋ポリマーに比べて、架橋結合していない線状構造は、より利用可能な−COOH基を提供できるからであり、さらに架橋結合していないポリマーは、溶解しやすく、従って本明細書に開示する調製方法で使用するのが容易だからである。
【0024】
酸性ポリマーは、ポリ−(カルボン酸)ポリマーを含んでよい。
【0025】
ポリ−(カルボン酸)ポリマーは、典型的には、その構造中に−COOH基、または誘導体基、例えば、酸無水物基、容易に切断可能なカルボン酸エステル基、もしくは容易に切断されて−COOH基を生じる塩化−COOH基を含むポリマーである。
【0026】
ポリ−(カルボン酸)ポリマーは、その−COOH基(または誘導体基)がその主鎖に直接結合していてもよいし、あるいはそのポリマーは、いわゆるグラフトポリマーまたは樹状ポリマーであってよく、その際、−COOH(または誘導体)基は主鎖から枝分れした側鎖に結合していている。
【0027】
例えば、ポリ−(カルボン酸)ポリマーは、その構造中に
−[−CR.COOH−]−
単位[式中、Rは、好ましくは水素であり、またはRはC1−3アルキル、C1−3アルコキシ、もしくはC1−3ヒドロキシアルキルであってよい]を含んでよい。
【0028】
そのようなポリ−(カルボン酸)ポリマーの一種は、その構造中に
−[−CR−CR.COOH−]−
単位[式中、RおよびRは、独立して好ましくは水素であり、またはC1−3アルキルもしくはC1−3アルコキシであってもよい]を有するポリマーを含む。例えば、そのようなポリマーには、ポリ−(カルボキシビニル)ポリマー、例えば、式CR=CR.COOH(式中、置換基は先に定義した通りである)で表されるモノマー化合物のポリマーが含まれうる。そのようなポリマーには、アクリル酸もしくはメタクリル酸ポリマー、すなわちポリアクリル酸もしくはポリメタクリル酸、例えば、線状ポリアクリル酸および線状ポリメタクリル酸のホモポリマーおよびコポリマーが含まれうる。そのようなポリマーの一例は、カルボキシポリメチレンである。市販のポリアクリル酸の一例は、分子量が約30,000のGood-Rite(商標)K-702という材料である。市販のポリアクリル酸の一例は、そのナトリウム塩として、同様に分子量が約30,000のGood-Rite(商標)K-765という材料である。ポリアクリル酸ポリマーは、合成ポリマーとして分類される商品名Carbomer(商標)で市販されており、そうではなくても乳剤安定剤としても水性増粘剤としても使用されている。
【0029】
この種のポリマーは、例えば、米国特許第2,798,053号に「1モル当たり一個を超えるアルケニルエーテル基(grouping)を含む多価アルコールのポリアルケニルポリエーテル(親多価アルコールは少なくとも4個の炭素原子と少なくとも3個のヒドロキシル基を含む)と、一定の比率で共重合したカルボキシルモノマー、例えば、アクリル酸、マレイン酸、または無水物など」として開示されている。
【0030】
架橋ポリ(カルボン酸)ポリマーの例には、例えばペンタエリスリトール、スクロース、またはプロピレンのアリルエーテルと架橋しているアクリル酸のホモポリマーが含まれ、例えば、B.F.Goodrich Company から商品名「Carbopol」で購入できる材料、例えば、具体的なCarbopolには、Carbopol 934、940、980、1382、Carbopol ETD 2020、ETD 2050、Ultrez 20および21が含まれる。
【0031】
そのようなポリ−(カルボン酸)ポリマーの別のタイプは、その構造中に隣り合う
−[−CR.COOH−]−
単位(Rは先に定義した通りである)を含んでよく、例えば、典型的に−[−CH.COOH−CH.COOH−]−単位、および/またはそのような単位の塩もしくはエステル、または隣接する炭素原子上のCOOH基が環化して−CH.CO−O−CO.CH−環系を形成していてもよい無水物形態のそのような単位(そのような誘導体は加水分解されて、その対応する遊離酸を形成しやすい)を含むマレイン酸成分をベースとするポリマーである。
【0032】
そのようなポリ−(カルボン酸)ポリマーの一つのタイプは、隣接するポリマー鎖の炭素原子上にカルボン酸基対を有する単位を含んでよい。例えば、そのようなポリマーは、その構造中に
−[−CR−CR−CR.COOH−CR.COOH−]−
[式中、R、R、R、R、R、およびRは、独立して(好ましくは)水素、またはC1−3アルキルもしくはC1−3アルコキシであり、好ましくはRおよびRは水素であり、Rは水素であり、Rはメトキシであり、RおよびRは水素である]単位、あるいはその構造中にCOOH基を保持するその誘導体、または加水分解されてCOOH基になりやすい基を含んでよい。そのようなポリ−(カルボン酸)ポリマーは、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸とのコポリマーをベースとするポリマーである。そのようなポリマーは、商品名ガントレッツ(Gantrez(商標))で市販されている。
【0033】
そのようなポリマーの一例は、その構造中に
−[−CH−CH.OCH−CH.COOH−CH.COOH−]−
単位を含む。
【0034】
そのようなポリマーは、線状ポリマーまたは架橋結合したポリマーでありうる。この種の線状で架橋結合していないポリマーは、商品名Gantrez(商標)S(CAS#25153−4−69)で市販されており、例えば、分子量が約700,000のGantrez(商標)S-96、分子量が約1,200,000のGantrez(商標)S-97がある。そのようなGantrezポリマーが好ましい。実験では、水に24時間浸漬した後でさえ、そのようなGantrezポリマーを含むフィルター材は、ウイルスを死滅させるのに適したpH3.5未満に、その表面pHを保持していることが判明した。
【0035】
この種の架橋結合ポリマーもまた、商品名Gantrez(商標)で市販されている。
【0036】
そのような酸の誘導体の一例は、無水物、すなわち2個の隣り合う−COOH基が環化して、−CH.CO−O−CO.CH−環系を形成している無水物であり、そのような無水物は、加水分解されて、その対応する遊離酸を形成しやすい。そのようなポリマーは、商品名Gantrez(商標)AN(CAS#9011−16−9)、例えば、Gantrez(商標)AN-119、Gantrez(商標)AN-903、Gantrez(商標)AN-139、Gantrez(商標)AN-169で市販されている。
【0037】
誘導体の別の例は、部分塩、例えば、遊離−COOH基の一部が、第I族もしくは第II族金属、例えばそれぞれナトリウムもしくはカルシウムの金属塩、または混合されたナトリウム−カルシウム塩に変換されている部分塩である。そのようなポリマーは、商品名Gantrez(商標)MS、例えば、Gantrez(商標)MS-955(CAS#62386−95−2)で市販されている。
【0038】
そのような酸の別の誘導体例は、遊離COOH基の一部がC1−6アルキル、例えばエチルもしくはn−ブチルでエステル化されている部分エステルである。そのようなポリマーは、商品名Gantrez(商標)ES、例えば、Gantrez(商標)ES-225(CAS#25087−06−03)またはGantrez(商標)ES-425(CAS#25119−68−0)で市販されている。典型的には、この第2のタイプのポリマーの分子量は、200,000〜2,000,000の範囲である。
【0039】
この種の他のポリ−(カルボン酸)ポリマーには、C10−30アクリル酸アルキルと、式RC=CR−COOR[式中、R、R、R、およびRのそれぞれは、水素またはC1−5アルキル、特にメチル、エチル、もしくはプロピルから独立して選択される]の一種もしくは複数のモノマー化合物とのコポリマーが含まれる。そのようなモノマー化合物の例には、アクリル酸およびメタクリル酸のエステルが含まれる。
【0040】
他の好適なポリ−(カルボン酸)ポリマーには、式RC=CR−COOR[式中、R、R、RおよびRのそれぞれは、水素またはC1−5アルキル、特にメチル、エチル、もしくはプロピルから独立して選択される]の化合物をベースとするアニオンポリマーが含まれる。そのようなポリマーの例は、Rohm GmbH & Coから商品名「Eudragit」で入手できる、カルボン酸官能基を有するエチルアクリレートおよびメタクリル酸をベースとするポリマーである。具体的グレードには、Eudragit L100-55、L30-D-55、L100、S100、およびFS30Dが含まれる。
【0041】
他の好適な酸性ポリマーは、スルホン酸基など、他の酸基を含むポリマーでありうる。スルホン酸基を含む酸性ポリマーの例は、アクリル酸もしくはメタクリル酸とスルホン酸とのコポリマー、例えば、線状コポリマーである。スルホン酸基を含むそのようなポリマーは、それらの塩、例えば、それらのナトリウム塩の形で使用してよい。アクリル酸とスルホン酸のコポリマーの一例は、商品名Good-Rite(商標)K-776で市販されている。他の酸性ポリマーは、アクリル酸とスルホン酸のコポリマーを含みうる。例えば、酸性ポリマーは、マレイン酸のコポリマーおよびターポリマー、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)(「polyAMPS」)、およびアクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸のコポリマーを含みうる。
【0042】
ポリスチレンスルホン酸が好適でありうる。例えば、分子量が約120,000のFlexan(商標)IIの名で入手できる、ナトリウム塩形の市販のポリスチレンスルホン酸が好適でありうる。
【0043】
他の好適な酸性ポリマーには、ポリビニルホスホン酸が含まれると考えられる。
【0044】
本明細書の目的に有用であることが分っている酸性ポリマーは、分子量が30,000〜2,000,000の範囲であることが判明しているが、分子量が重要であるとは思われず、これは単に例示的な範囲でありうる。
【0045】
追加の材料、例えば、フィルター材の特性および抗ウイルス効果を最適化する追加の物質も本フィルター材に配合してよい。
【0046】
例えば、酸性ポリマーは、基材材料の繊維に酸性ポリマーの被膜を形成しやすくする可塑剤材料と組み合わせて使用しうる。特に可塑剤材料は、上記の式RC=CR−COORの化合物をベースとするアニオンポリマー、例えば、上記「Eudragit」ポリマーと組み合せて使用しうる。好適な可塑剤には、クエン酸トリエチル、およびフタル酸ジエチルまたはフタル酸ジブチルが含まれる。可塑剤を使用する場合、酸性ポリマー重量の約1〜20wt%の可塑剤比率が適切であろう。
【0047】
例えば、本フィルター材には、一種もしくは複数の有機カルボン酸、好ましくは固体のそのような酸が配合されうる。そのような固体カルボン酸の例には、サリチル酸、フマル酸、安息香酸、グルタル酸、乳酸、クエン酸(これが好ましい)、マロン酸、酢酸、グリコール酸、リンゴ酸、アジピン酸、コハク酸、アスパラギン酸、フタル酸、酒石酸、グルタミン酸、ピログルタミン酸、グルコン酸、およびそれらの2種もしくはそれ以上の混合物が含まれる。
【0048】
例えば、先に概説した従来技術から、クエン酸などの酸を抗ウイルス剤として使用すること、およびそのような酸の存在が、フィルター材の抗ウイルス活性を増強しうることが知られている。しかし、今までに、先に述べた、例えばポリプロピレンもしくはポリエステルなどのフィルター基材材料にクエン酸を付着することは、クエン酸と基材間の接着が不十分なため、困難であることが分っている。有利なことに、本発明で使用するタイプの酸性ポリマーが、そのような基材とそのような酸の結合を増強するように作用しうることが判明した。
【0049】
典型的には、フィルター材中の酸性ポリマー:有機酸の重量比は、10:1〜1:1、好ましくは3:1〜1:1、例えば、2+/−0.25:1の範囲であってよい。
【0050】
例えば、フィルター材には、一種もしくは複数の界面活性剤が配合されうる。界面活性剤は、フィルター材の濡れ(wetting)を促進することができる。ウイルスなどの空中浮遊(airborne)病原体は、小さな水滴内に担持されており、従ってフィルター材の濡れを高めることによって、フィルター材上での病原体と活性物質との効果的な接触が促進さられることが分っている。さらに界面活性剤は、ウイルス膜および細菌膜の破壊に有効であることが知られている。イオン界面活性剤は酸性ポリマーをゲル化させる傾向がありうるので、非イオン界面活性剤が好ましい。好ましい非イオン界面活性剤は、界面活性剤のTween(商標)またはPolysorbate(商標)ファミリーから選択される。
【0051】
典型的には、フィルター材中の酸性ポリマー:界面活性剤の重量比は、10:1〜1:1であってよく、好ましくは3:1〜1:1、例えば、2+/−0.25:1の範囲であってよい。
【0052】
一般に、病原体に対して高い効果を得るためには、基材に酸性ポリマーを多量にロードする(load)ことが望ましいが、これは、多くロードしすぎるとフィルター材を通る空気の通過を妨害しうるという欠点とバランスを取るべきであることが判明している。
【0053】
フェイスマスクを通過する空気中の、適切なウイルス不活化量を達成するためには、適切な吸気率もしくは呼気率という透過性とあいまって、前記フィルター材の基材上の、前記酸性ポリマーと、もしも存在するのであれば任意のカルボン酸と、もしも存在するのであれば任意の界面活性剤との総ロード量(total loading)が、20〜50g/m、特に25〜45g/mの範囲であることが好ましい。本明細書に述べる典型的な1平方メートル当たりの重量の基材に関し、これは、前記フィルター材の基材上の、前記酸性ポリマーと、もしも存在するのであれば任意のカルボン酸と、もしも存在するのであれば任意の界面活性剤との総ロード量が、(基材自体が出発時100%重量として)5〜60wt%、典型的には10〜30wt%であることに相当しうる。
【0054】
例えば、本フィルター材には、一種もしくは複数の金属塩、例えば、銀、亜鉛、鉄、銅、スズの塩、およびそれらの混合物から選択された金属塩が配合されうる。そのような塩は、抗菌活性を有しうる。これらは、無機塩、例えば塩化物、硝酸塩もしくは硫酸塩など、鉱酸などの無機塩、または有機塩などであってよい。この種の金属塩の一例は塩化亜鉛である。
【0055】
例えば、フィルター材には、一個もしくは複数の抗菌剤化合物が配合されうる。好適なそのような化合物の例には、四級アンモニウム化合物(例えば、塩化ベンザルコニウム、セトリミド)、フェノール化合物(例えば、トリクロサン、安息香酸)ビグアニド系(例えば、クロルヘキシジン、アレキシジン)およびそれらの混合物が含まれる。
【0056】
全体的に好ましいフィルター材は、下記単位:
−[−CH−CH.OCH−CH.COOH−CH.COOH−]−
を構造中に含む線状酸ポリマー、特にGantrez(商標)S-97を、クエン酸および非イオン界面活性剤、特にTween 20またはPolysorbate 20と共に含み、線状酸ポリマー、クエン酸および非イオン界面活性剤は、不織布ポリエステル繊維性基材に本明細書に記載した比率で付着されている。
【0057】
ある種の酸性ポリマーは、既知のタイプの安定剤の存在によって恩恵を受けうる。例えば、Gantrez(商標)ポリマーは、安定剤としてEDTA二ナトリウム塩の存在により恩恵を受けうる。
【0058】
本発明のフェイスマスクで使用するために本明細書に開示されている特定のフィルター材は、それ自体新規でありうる。
【0059】
従って、本発明の別の態様では、本発明のフェイスマスクで使用するのに好適なフィルター材が提供される。
【0060】
そのようなフィルター材の好ましいタイプ、特徴、および実施形態は上述のとおりである。
【0061】
そのようなフィルター材の特定の一つのタイプは、(上述したように)線状酸性ポリマーである酸性ポリマーを付着させた繊維性基材を含む。
【0062】
そのようなフィルター材の別の特定のタイプは、(上述したように)その構造中に隣り合う
−[−CR.COOH−]−
単位(式中、Rは先に定義した通りである)を含むポリ−(カルボン酸)ポリマーを含む酸性ポリマーを付着させた繊維性基材を含む。これらの具体的タイプは、例えば、典型的には、−[−CH.COOH−CH.COOH−]−単位、および/またはそのような単位の塩もしくはエステル、または隣接する炭素原子上のCOOH基が環化されて−CH.CO−O−CO.CH−を形成していてもよい無水物形態のそのような単位(そのような誘導体は加水分解されて、その対応する遊離酸を形成しやすい)を含むマレイン酸成分をベースとするポリマーである。
【0063】
そのようなフィルター材の別のあるタイプには、(上述したように)有機カルボン酸とともに酸性ポリマーを付着させた繊維性基材が含まれる。
【0064】
本発明のこの態様の特に好ましいフィルター材には、下記単位:
−[−CH−CH.OCH−CH.COOH−CH.COOH−]−
を構造中に含む線状酸ポリマー、特にGantrez(商標)S-97が、クエン酸および非イオン界面活性剤、特にTween 20またはPolysorbate 20と共に表面に付着された、上記の不織布ポリプロピレンまたは特にポリエステル繊維性基材が含まれる。
【0065】
このフィルター材では、上記に説明した理由により、前記フィルター材の基材上の、前記酸性ポリマーと、もしも存在するのであれば任意のカルボン酸と、もしも存在するのであれば任意の界面活性剤との総ロード量は、20〜50g/m、特に25〜45g/mの範囲であることが好ましい。
【0066】
そのようなフィルター材は、例えば他のタイプのエアフィルター系で独立した有用性を有するであろう。
【0067】
本明細書に記載したフィルター材は、様々な方式で作製することができ、その際、通気性基材と酸性ポリマーとを併用する。
【0068】
一方法では、酸性ポリマーは、基材材料上の、例えばその繊維上の完全被膜または部分的被膜として、通気性基材上に付着されうる。
【0069】
別の方法では、酸性ポリマーは通気性基材の材料中に、例えばその繊維中に組み込まれうる。これは、繊維形成プロセス、例えば、不織布材を形成するためのスパンボンド法およびメルトブロー法の間に行ってよい。
【0070】
別の方法では、本発明のフィルター材は、公知の電界紡糸法(electrospinning)によって作製することができ、その際、溶液または溶融物の形で、ポリマーの帯電液体ジェットを形成し、接地したコレクター繊維上に付着させる。
【0071】
例えば本発明のフェイスマスク用の本発明のフィルター材を製造するための好ましい製造工程では、酸性ポリマーを液体ビヒクル中に配合し、次いで得られた液体組成物で基材材料を湿らせ、そして液体ビヒクルが蒸発させ、それによって基材に酸性ポリマーを付着させる。
【0072】
そのような得られた液体組成物を本明細書では、「ローディング溶液」という。
【0073】
液体ビヒクルは水性であってよく、例えば、水、または水とアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール)の混合物(misture)であってよい。酸性ポリマーは、液体ビヒクル中に溶解しまたは懸濁させてよい。ローディング溶液には、例えば、液体ビヒクルに溶解しまたは懸濁させて、任意の追加の物質、例えば、上記の固体カルボン酸、界面活性剤、金属塩、抗菌剤化合物、安定剤などを配合してよい。このローディング溶液を必要に応じて好適なpH、例えば、pH2〜3、典型的には約2.5に調整してもよい。例えば、水酸化ナトリウムなどのアルカリ、またはクエン酸塩、例えば、クエン酸ナトリウムなどの緩衝剤をローディング溶液に加えてそのようなpHを実現してもよい。
【0074】
基材は、そのように形成した分散液で単純に基材材料をコーティングすることにより、例えばローディング溶液中に基材を浸漬することにより湿らせることができる。あるいは、基材材料にローディング溶液をスプレーしてもよい。便宜のため、工業規模ではスプレーすることが好ましい。次いで、湿らせた基材を乾燥してよく、例えば周囲空気中で、またはトンネル乾燥機で蒸発させてよい。そのようなトンネルの好適な乾燥温度は100℃未満である。
【0075】
フィルター材を作製する方法で使用するのに好適なローディング溶液は、本発明のさらなる態様である。
【0076】
例えば、そのようなローディング溶液は、Gantrez S-97などの酸性ポリマーを0.5〜10wt%、典型的には1〜5wt%、有機カルボン酸を0〜4.0wt%、例えばクエン酸を1〜2wt%、および界面活性剤を0〜4.0wt%、例えばPolysorbateまたはTween 20などの界面活性剤を1〜2wt%含む液体ビヒクルで作製することができる。
【0077】
Gantrez S-97などのGantrez酸を含むローディング溶液は、Gantrez酸用のローディング溶液(soluton)中に安定剤が存在することによって恩恵を受けうる。好適な安定剤は、100ppmのEDTA二ナトリウム塩である。
【0078】
従って、フィルター材は、ローディング溶液で通気性基材を湿らせ、そこから液体ビヒクルを蒸発させ、それによって基材上にローディング溶液中の物質を付着させる方法によって得られる、もしくは得られた生成物であってよい。
【0079】
国際公開第03/039713号は、繊維表面上でモノマーを重合させることによって、繊維性基材にその酸性ポリマーコーティングを形成する方法を開示している。既に形成されているポリマーを溶液または懸濁液から繊維性基材上に付着させる上記の方法が好ましい。なぜなら、国際公開第93/039713号の方法では、繊維表面に微量の望ましくないモノマーが残りうるからである。
【0080】
本発明のフィルター材の利点は、それらの抗ウイルス活性が、口用および/または鼻用フィルターが、軽量形で作製できるようなものであってよいということである。さらに、本発明のフィルター材は、本明細書に記載したウイルスなどの病原体に迅速に有効でありうる。
【0081】
典型的には、フィルター材は、シート形もしくはパッド形であってよく、一般的に上記のフェイスマスクで使用するのに好適な、繊維性基材の出発シートもしくはパッドの形状に対応する。そのようなシート形もしくはパッド形材料は、公知の方法で一般的に公知の形のフェイスマスクに好適な形に製造することができる。
【0082】
フェイスマスクは、成型/折畳みなど、公知のマスク製造方法を使用して、そのような材料から作製することができる。従って、本発明の別の態様では、本明細書に記載するフィルター材を提供するステップ、および前記フィルター材からフェイスマスクを形成するステップを含む、フェイスマスクを作製する方法が提供される。
【0083】
本発明のフェイスマスクは、そのようなシート形もしくはパッド形フィルター材の層を1層、2層、3層、またはそれ以上の層含んでよい。シート形の本発明のフィルター材は、使用者の顔に装着するのに好適な凸形状に容易に適合させることができる。フェイスマスクは、一もしくは複数のさらなる材料の層をさらに含んでよく、例えば、前記フィルター材を裏打ちする一層、または前記フィルター材を挟み込む二つの層を場合により一もしくは複数のさらなる層と共にさらに含んでよい。そのようなさらなる材料の層は、該マスクを使用したとき、前記フィルター材と使用者の皮膚の間にそのさらなる材料の層が位置するようにフェイスマスク中に配置することができ、それによって使用者の皮膚への刺激が低減される。
【0084】
そのようなさらなる材料は織布材もしくは不織布材であってよい。織布材の例には、例えば、綿、セルロース、羊毛、ポリオレフィン、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、ポリスチレン、ポリビニル、および繊維に加工可能な他の任意の合成ポリマーのような、天然および合成繊維が含まれる。不織布材の例には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン、PET、およびPLAが含まれる。本発明には、不織布が好ましい。そのような材料は、不織布シート形もしくはパッド形であってよい。不織布ポリプロピレンの好適なグレードには、外科用フェイスマスクなどに通常使用されている公知のグレードが含まれる。あるいは、基材は、例えば鼻用エアプラグのエアフィルターにも使用されるような連続気泡フォーム、例えばポリウレタンフォームの形であってよい。
【0085】
このさらなる材料に好適な材料は、外科用マスクなどに従来より使用されているタイプのポリエステル、セルロース、または不織布ポリプロピレンである。
【0086】
例えば、本発明のフェイスマスクは、酸性ポリマーを付着させたポリエステル材を含むフィルター材と、前記フィルター材と使用者の皮膚の間になるように配置させた不織布ポリプロピレン材のさらなる層とを含みうる。フィルター材とさらなる材料の層は、例えば超音波溶接によって、例えばそれぞれの端部周囲を例えば一緒に溶接してよい。
【0087】
一般的には、本発明のフェイスマスクは、流体抵抗ASTM F 1862、濾過効率−N95レスピレータもしくは粒子濾過(ASTM F 1215−89)および細菌濾過(ASTM F2101−01)、差圧(Delta−P)試験、16CFR1610、NFPAおよびCPSC規格に適合する燃焼性の規格に適合するものである。
【0088】
典型的には、本発明のフェイスマスクの濾過(fltering)面積は185cm+/−20%である。規定の流量について、マスクの初期圧力損失は、以下の仕様を満たすものである。
【表1】

【0089】
本発明のフィルター材は、鼻プラグなどの他のタイプの呼吸用エアフィルターにも使用しうる。本発明のフィルター材を組み込むそのようなフィルターは、一般的に従来形をしていてよい。
【0090】
従って、本発明の別の態様では、空気から空中浮遊病原体、特にウイルス、例えば、H5N1ウイルスなどのインフルエンザウイルスを除去する方法であって、そのようなウイルスに汚染されていると考えられる空気を、フェイスマスクに、または本発明の一もしくは複数のフィルター材の層、特にフェイスマスクの一部を含むフィルター材層に通すステップを含む方法が提供される。
【0091】
次に、単なる一例として添付の図面を用いて本発明を説明する。
【0092】
図1および2には、そのような本発明のフィルター材を含む、吸気もしくは呼気のための口用および/または鼻用フィルターを示す。フィルター10(全体)は、従来形の紐(13)によって使用者(12)の鼻および口を覆って取り付けられる、パッド(11)を含む概ね従来形の構築物である。パッド(11)は、内側ポリエステル繊維パッド(視認できない)に縫い付けられた本発明のフィルター材の外層(14)を含み、外層(14)は、呼吸による吸気もしくは呼気の流れを妨害する位置にある。
【0093】
図3、4および5には、そのような本発明のフィルター材を含む、呼吸による吸気もしくは呼気のための代替の口用および/または鼻用フィルターを示す。フィルター20(全体)は、開口部(22)を有するフレキシブルな成型外側構造物(21)を含む概ね従来形の構築物であり、従来形の紐(24)によって使用者(23)の顔に取り付けられる。フィルター材は、本発明のフィルター材からなる外層とポリエステル繊維からなる内層を含むパッド(25)として提供され、そのフィルター材層とポリエステル繊維層とが組み合わされた成形層を開口部(22)に押し込むことにより、開口部(22)を通る吸気もしくは呼気の流れを妨害する位置に配置される。
【0094】
図9に関して、これは、図1〜5のマスクの好適な層状構築物を示す。フィルター材からなる層91、使用時使用者の皮膚に当てられる不織布ポリプロピレン材からなる内層92、および同様に不織布ポリプロピレン材からなる任意の外層93がある。複数の層91、92、93があってよい。
【0095】
本発明のフィルター材として好適な材料は、まず、酸性ポリマーと任意の追加の物質を含むローディング溶液を調製するステップ、この溶液で通気性基材材料を湿らせるステップ、次いでローディング溶液中の溶媒ビヒクルを蒸発させて、最初にそのビヒクルに溶解または分散されていた前記ポリマーと前記任意の物質を基材上に付着させるステップによって調製しうる。
【実施例】
【0096】
ローディング溶液の例を以下に示す。
【0097】
(例1)
酸性ポリマー: Carbopol ETD 2020 2%w/w
有機カルボン酸: クエン酸 1%w/w
100%にするための水
(例2)
酸性ポリマー: Carbopol ETD 2020 1%w/w
有機カルボン酸: クエン酸 1%w/w
100%にするための水
(例3)
酸性ポリマー: Carbopol ETD 2020 2%w/w
100%にするための水
(例4)
酸性ポリマー: Carbopol 980 1.5%w/w
有機カルボン酸: クエン酸 1%w/w
金属塩: 塩化亜鉛0.5%
100%にするための水
(例5)
酸性ポリマー: Eudragit L50 D55 10%w/w
有機カルボン酸: 酒石酸 0.5%
可塑剤: クエン酸トリエチル 1.0w/w
100%にするための水
(例6)
酸性ポリマー: Carbopol ETD 2020 1.5%w/w
有機カルボン酸: クエン酸 0.5%w/w
抗菌剤化合物: トリクロサン 0.2%w/w
100%にするための水
外科用マスクに使用される従来形のタイプの不織布ポリプロピレンからなる各サンプルを、これらの溶液のそれぞれでコートし、サンプルから余分な液体を除去し、次いで風乾させた。上記溶液を使用するこの手順によって、基材材料上に約10%w/wの酸性ポリマーが付着した。
【0098】
インビトロ試験データ
トリのNIBRG−14インフルエンザH5N1ウイルスに対する5種のマスク材のインビトロ効力を調査するために研究を実施した。Carbopol ETD 2020(本明細書では「ETD」と省略する)を0、1または2%、およびクエン酸(0、0.5または1%)を含むローディング溶液を使用して、マスク材をコートした。2%ETDと0.5または1%クエン酸のローディング溶液でコートしたマスク材により、60分間ウイルスを処理すると、非コートマスク材と比較してウイルス力価の減少が観察された。この研究では、96.8〜99.9%のウイルス力価の減少が観察された。記載の研究は、英国医薬品安全性試験実施基準(Good Laboratory Practice)1999年命令第3106号、医薬品安全性試験実施基準(法改正など)規則2004年命令第994号、および医薬品安全性試験実施基準(1997年改定)のOECD原則を遵守して行った。
【0099】
略語
CDC 疾病管理センター
HA 赤血球凝集素
HAアッセイ 赤血球凝集アッセイ
MDCK細胞 Madin−Darbyイヌ腎臓細胞
PBS リン酸緩衝食塩水
PPE 個人用保護具
vCPE ウイルスの細胞変性効果
(v/v) 容量/容量
材料および方法
マスク基材材料は、Freudenberg社製ポリプロピレン(70〜100%)基準Vilmed VS,3440から製造した。4種のマスク材および1種の対照材を使用した。各試験品および対照品は、以下のようなローディング溶液で処理したマスク基材材料である。
【0100】
試験品1:1%ETD 2020ローディング溶液でコート。
【0101】
試験品2:1%ETD 2020+0.5%クエン酸ローディング溶液でコート。
【0102】
試験品3:2%ETD 2020ローディング溶液でコート。
【0103】
試験品4:2%ETD 2020+1%クエン酸ローディング溶液でコート。
【0104】
対照品:未コートマスク材ローディング溶液。
【0105】
クエン酸は、VWR社製カタログ番号:100242ID番号:1008100であった。
【0106】
CARBOPOL ETD 2020は、Noveon社製カタログ番号:CBPETD2020であった。
【0107】
対照品
殺ウイルスアッセイで利用された対照:
細胞のみの対照:ウイルスに感染していない細胞。これは、vCPE(ウイルスの細胞変性効果)の陰性対照であった。細胞の質の指標でもある。
【0108】
ウイルスのみの対照:標準感染培地による1/10(v/v)希釈のウイルスに感染させた細胞。これは、vCPE用の陽性対照であった。
【0109】
抗ウイルス対照:pH3.5のクエン酸緩衝液で前処理したウイルスに感染させた細胞。これは、試験品と比較するための陽性対照であった。
【0110】
殺ウイルス対照の細胞を、新たに作成した細胞感染培地と共にインキュベートした。
【0111】
細胞およびウイルス
この研究で使用した細胞はMDCK細胞であり、Retroscreen Virology社細胞バンクから供給された。
【0112】
この研究で使用されたウイルスは、トリNIBRG−14インフルエンザH5N1ウイルスであり、Retroscreen Virology 社のウイルス貯蔵所からアリコート番号800で供給された。
【0113】
希釈したトリのNIBRG−14インフルエンザH5N1ウイルスの力価は、4.72−log10 TCID50/mlであった(殺ウイルスアッセイから得た対照ウイルス力価の平均値によって決定した)。
【0114】
殺ウイルスアッセイで使用する前に、蒸留水でストックウイルスを1/10(v/v)で希釈した。
【0115】
手順
MDCK細胞の調製
MDCK細胞(100μl/ウェル)を、約5×10細胞/mlの密度で96ウェルプレートに播種した。細胞を37℃、5%COで約24時間インキュベートした。プレートは、PBS(100μl/ウェル)で2回洗浄し、使用前に標準感染培地(100μl/ウェル)をどちらの殺ウイルスアッセイにも加えた。
【0116】
殺ウイルスアッセイ
殺ウイルスアッセイ手順の概要を以下に列挙する。
【0117】
1)反応:試験品にウイルスを加え60分間放置する。
【0118】
2)停止:感染培地で反応を停止させ、フィルターからウイルス溶液を回収した。
【0119】
3)力価測定:96ウェルプレートのMDCK細胞について回収したウイルスを10倍で力価測定した。
【0120】
4)インキュベーション:細胞を3日間インキュベートした。
【0121】
5)終点決定:vCPEを観察しHAを実施した。
【0122】
殺ウイルスアッセイで使用した96ウェルプレートの典型的なプレートレイアウトおよび細胞毒性アッセイを図6に示す。
【0123】
1)上記のように細胞を作製した。
【0124】
2)6ウェルプレート中の各試験品または対照品(二つ組)に、蒸留水で1/10(v/v)希釈した希釈トリNIBRG−14インフルエンザH5N1ウイルス200μlを加え、シェーカー(300MoT/分)により室温で60分間インキュベートした。1.8mlの感染培地を添加することによって、反応を停止させた。6ウェルプレートの新規なウェルにウイルス溶液を回収した。
【0125】
3)クエン酸緩衝液対照用の手順の実施では、7mlのビジュー(bijou)中のクエン酸緩衝液(pH3.5)360μlに、蒸留水による1/10(v/v)希釈のウイルス40μlを加え、5分後、3.6mlの細胞感染培地を添加することによって反応を停止させた。
【0126】
4)ウェル(96ウェルプレート中のMDCK細胞)の第一列に、上清(111μl)またはウイルスのみの対照(感染培地で1/10(v/v)希釈)を加えた。全ての上清およびウイルスのみの対照を四つ組播種し、プレートで10倍づつ下げて力価測定した。
【0127】
5)プレートを37℃+5%COで1時間インキュベートした。次いで、プレートをPBSで2回洗浄した。
【0128】
6)感染培地100μlを各ウェルに加え、プレートを37℃+5%COで3日間インキュベートした。
【0129】
7)感染後3日目に、vCPEについてプレートを採点し、Retroscreen Virology Ltd. SOP VA018−02に従って上清でHAを実施した。
【0130】
凝集を観察してウイルスの存在を確認した。
【0131】
Karber計算
log TCID50力価は、Karber計算を使用して算出し、Retroscreen Virology Ltd. SOP VA023−02に従って実施した。
【0132】
結果
ウイルス力価の減少
トリインフルエンザNIBRG−14 H5N1ウイルスに対して60分間の接触時間で各試験品または対照品の殺ウイルス活性を評価した。ウイルス力価は、MDCK細胞での力価測定によって測定し、ウイルスは赤血球凝集アッセイによって検出し、結果を下表1に示す。
【0133】
対照品は、試験品用の対照として使用した。殺ウイルスアッセイには、陽性対照として未処理ウイルスを使用した。
【0134】
結果:試験品および対照品で60分間処理した後の、トリインフルエンザA NIBRG−14 H5N1ウイルスの回収、算出logおよび減少率を下表に示す。
【表2】

【0135】
*実際の値は負であるが、アッセイのばらつき内である。
【0136】
試験品および対照品で60分間処理した後の、トリインフルエンザA NIBRG−14 H5N1ウイルスの回収、算出減少率を図7のグラフに示す。
【0137】
試験品および対照品で60分間処理した後の、トリインフルエンザA NIBRG−14 H5N1ウイルスの回収、算出log減少を図8のグラフに示す。
【0138】
結論
試験品2(ローディング溶液1%ETD 2020+0.5%クエン酸)、3(ローディング溶液2%ETD 2020)、および4(ローディング溶液2%ETD 2020+1%クエン酸)により処理後、トリインフルエンザA NIBRG−14 H5N1ウイルスのウイルス力価の減少が観察された。試験品1(ローディング溶液1%ETD 2020)で処理後には、ウイルスの減少は観察されなかった。
【0139】
この研究では、以下のマスク材コーティング組成物および組合せを互いに比較した。各マスクは、ETD 2020(0、1または2%)とクエン酸(0、0.5または1%)から構成されたローディング溶液を使用してコートしたポリプロピレン(70〜100%)から製造した。
【0140】
コートしたマスク材と未コートマスク材とを比較した。コートしたマスク材および未コートマスク材を比較すると、ローディング溶液(2%ETDおよび0.5もしくは1%クエン酸)によりマスク材をコーティングすると、ウイルス力価が有意に減少する(99.9%)ことが観察された。ローディング溶液(1%ETDおよび0.5%クエン酸)によりマスク材をコーティングした場合もウイルス力価が減少する。ローディング溶液(1%ETD)によりコーティングしても、ウイルス力価が減少するように見えなかった。
【0141】
さらなるローディング溶液の例
1)「8%固形分」
【表3】

【0142】
2)「6%固形分」
【表4】

【0143】
3)「4%固形分」
【表5】

【0144】
*Gantrezは、12〜14.4wt%固形分(すなわち表示上13.2wt%)という供給業者の使用に従って供給されている。
【0145】
**Gantrezポリマー含むローディング溶液には、EDTA二ナトリウム塩100ppmが、Gantrezポリマーの安定剤として含まれていた。
【0146】

実験では、固形分12%まで、すなわち上記のような比例配分に基づく比率の固形分を含むローディング溶液を作製し、使用可能であることが分かった。これらの実験に基づき、固体含有量が比例的に多いまたは少ないローディング溶液も適していると考えられる。
【0147】
標準的な市販の機械を使用してスプレーまたは浸漬することによってポリプロピレンもしくはポリエステル不織布に塗布し、続いてトンネル乾燥機で湿った布を乾燥するために、上掲のローディング溶液を160kgバッチで調製した。
【0148】
さらなる実験
様々な酸性ポリマーの抗ウイルス効果を調査するために、以下に記述するような実験をさらに実施した。上記のコーティング手順に類似したコーティング手順を使用して、上の実験で使用したようなポリプロピレン材を様々な量の酸性ポリマーでコートした。
【0149】
異なる投与量レベル、異なる曝露時間でのCarbopol ETD2020とクエン酸の効果
以下のローディング溶液を使用した。
【表6】

【0150】
上記のような不織布ポリプロピレンの見本をこれらのローディング溶液で処理し乾燥させた。インフルエンザA(香港株)を含む0.2mlの水に、処理した見本(2.54cm×2.54cm)を様々な時間(0.5分、1.0分、5分、60分)曝露した。次いで、その溶液を溶出させ、ウイルス活性を試験した。ロードされた3枚の全ての見本が以下のようにウイルスを死滅させるという結果が示された。その際、Log減少力価/mlを掲載する。3のLog減少は、99.9%ウイルス死滅に相当する。
【表7】

【0151】
従って、掲載した酸性ポリマーを付着したポリプロピレン見本は全て、ウイルス力価で3以上のLog減少をもたらしたことが分る。
【0152】
異なる酸性ポリマーと界面活性剤の効果
以下のローディング溶液を使用した。
【表8】

【0153】
* 未処理ポリプロピレン対照に対するLogウイルス力価の減少として抗ウイルス活性を測定する。
【0154】
上記のような不織布ポリプロピレン見本をこれらのローディング溶液で処理し、上記のように乾燥させた。処理した見本を3日間インキュベーションした後、インフルエンザA(香港株)に1分間の暴露時間で曝露した。Log(TCID50/0.1ml)Avg(n=2)を測定した。
【0155】
従って、掲載した酸性ポリマーを付着したポリプロピレン見本は全て、ウイルス力価を減少させたことが分る。
【0156】
クエン酸およびTween 20界面活性剤と、異なる酸性ポリマーとの効果
以下のローディング溶液を使用した。
【表9】

【0157】
上表の結果は、掲載したローディング溶液を使用してポリプロピレン見本(swathe)に付着されたことが判明したローディング溶液の成分量をwt%で示す。
【0158】
上記のような不織布ポリプロピレン見本をこれらのローディング溶液で処理し、上記のように乾燥させた。処理した見本をインフルエンザAに1分間の曝露時間で曝露した。平均Log減少(「ALR」)および平均%減少(A%R)(n=2)を測定し、下表を作成した。
【表10】

【0159】
投入したウイルス対照の力価は106.25であった。TCID50≦0.5log10で全試験物質が中和された。
【0160】
これらの結果は、ウイルスと本発明のフィルター材の接触によって達成できるウイルスの中和レベルを示すものである。
【0161】
ポリエステル基材
ポリエステル基材材料を使用し、さらなる実験を実施した。
【0162】
ポリエステル材
使用したポリエステル材は、その供給業者によって、100%ポリエステル−180gsm(機械的接着のニードルパンチ法)90015356−NT MSQ 180G/M2 BLANC LZE MM 不織布と明示されている、100%ポリエステル繊維から製造された知的財産権で保護されている不織布である。180、80および70g/mという様々な重量の材料が実験で使用された。布色は、白色または(黒色と白色繊維の混合物によって得られた)無煙炭グレイであった。白布は、幅450、480、560、670および930mm、各+/−10mmで入手することができた。グレイの布は、幅450、560、および930mm、各+/−10mmで入手することができた。この布は、配送時汚染がないように保護されたロールで入手することができた。布は、鉛、水銀、カドミウム、クロム、ニッケル、ポリブロモジフェニル類、ポリブロモジフェニルエーテル類、天然ラテックス、タンパク質、シリコーン、フタル酸類およびホルムアルデヒドといった望ましくない物質を含まず、さもなければEU Directive 2002/95/ECを満たしていた。
【0163】
ローディング
180g/mの材料に、上記の「4%固形分」ローディング溶液をスプレーし、入口温風温度が180℃を超えないトンネル乾燥機を通過させることによって乾燥させた。次いで、成形したマスクの外層として、そのように形成したフィルター材を使用し、マスクが世界標準規格N95およびEP標準規格を確実に満たすように内層材を決定した。マスクは全て、粒子濾過および通気性について試験するNIOSHに合格した。さらに、ロードされた層は、表面pH2.5〜2.8を示し、表面でインフルエンザウイルス(10PFU香港株200μL)に1分間曝露すると、未処理マスクと比較して最大の抗ウイルス活性が示された。例示的な結果を下表に示す。
【表11】

【0164】
* 両NIOSH基準の合格限界。
【0165】
前記の「6%固形分」ローディング溶液を使用し、さらなる実験を実施したが、そのローディング溶液は、より軽量のポリエステル材にスプレーしまたは浸漬することによって塗布した。結果を以下に要約する。
【表12】

【0166】
* マスクはNIOSH N95の要件に合格した。
【0167】
固形分25〜45gmをローディング溶液中にロードして固形分35gmとなるようにローディング条件を設定した。過剰なローディング溶液は、必要に応じてローラーにより絞り出すことができた。
【0168】
ローディング溶液中に色素、典型的には青色を含めることが好都合であることが判明した。布に付着する色素の色によって、ローディング溶液を塗付したことが分るからである。このポリエステル材を使用すると、ポリプロピレンよりも高い固形分のローディング%が得られることが示された。ポリプロピレンに比べて、ロードされたポリエステル材は、より優れた視覚的外観を備え、べた付くことも、または滑りやすいこともなく、付着した物質が剥離するという視覚的外観も少ない。このロードされた材料は、未包装状態で9週間貯蔵したとき安定であり、ほんのわずかな変色しか示さないことが分かった。当技術分野で公知の従来法でこのロードされた材料をマスクシェルに成形した。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】使用中の口用および鼻用フィルターの斜視図である。
【図2】使用者に取り付けられていない図1のフィルターを示す図である。
【図3】使用中の口用および鼻用フィルターの別の構築物の斜視図である。
【図4】図3のフィルターの正面図である。
【図5】図3のフィルターの分解図である。
【図6】典型的な96ウェルプレートのレイアウトを示す図である。
【図7】ウイルス力価の減少率を示すグラフである。
【図8】ウイルス力価のlog減少率を示すグラフである。
【図9】図1〜5のフェイスマスク材の断面図である。
【符号の説明】
【0170】
10:フィルタ
11:パッド
12:使用者
13:紐
14:外層
20:フィルタ
21:外側構造物
22:開口部
23:使用者
24:紐
91:フィルタ材層
92:内層
93:外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の口と鼻を覆ってその使用者の顔に密着して接触させるのに好適な形状の通気性マスクであって、使用者の顔の所定の位置にマスクを保持する手段を具備し、かつフィルター材層を一層もしくは複数層を含み、該フィルター材は使用者の吸気および/または呼気が該フィルター材を通過するように配置されており、前記フィルター材が、酸性ポリマーを配合した通気性基材を含むマスク。
【請求項2】
前記通気性基材が繊維性基材を含む、請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
前記通気性基材が不織布ポリエステルを含む、請求項2に記載のマスク。
【請求項4】
前記通気性基材が不織布ポリプロピレンを含む、請求項3に記載のマスク。
【請求項5】
前記酸性ポリマーがポリ−(カルボン酸)ポリマーを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のマスク。
【請求項6】
前記ポリ−(カルボン酸)ポリマーが、その構造中に下記単位:
−[−CR.COOH−]−
[式中、Rは水素であるか、またはRはC1−3アルキル、C1−3アルコキシ、もしくはC1−3ヒドロキシアルキルであってよい]を含む、請求項5に記載のマスク。
【請求項7】
前記酸性ポリマーが、アクリル酸もしくはメタクリル酸ポリマーを含む、請求項6に記載のマスク。
【請求項8】
前記酸性ポリマーが、アリルエーテルで架橋されたアクリル酸ホモポリマーを含む、請求項7に記載のマスク。
【請求項9】
前記ポリ−(カルボン酸)ポリマーが、その構造中に隣り合う下記単位:
−[−CR.COOH−]−
を含む、請求項6に記載のマスク。
【請求項10】
前記酸性ポリマーが、−[−CH.COOH−CH.COOH−]−単位、および/またはそのような単位の塩もしくはエステル、または隣接する炭素原子上のCOOH基が環化して−CH.CO−O−CO.CH−環系を形成している無水物形態のそのような単位を含むマレイン酸成分をベースとする、請求項9に記載のマスク。
【請求項11】
前記酸性ポリマーが、その構造中に下記単位:
−[−CH−CH.OCH−CH.COOH−CH.COOH−]−
を含む、請求項10に記載のマスク。
【請求項12】
前記酸性ポリマーが、Gantrez(商標)S-97を含む、請求項11に記載のマスク。
【請求項13】
前記酸性ポリマーが、アクリル酸もしくはメタクリル酸とスルホン酸とのコポリマーを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のマスク。
【請求項14】
前記酸性ポリマーが線状酸性ポリマーである、請求項1〜13のいずれか一項に記載のマスク。
【請求項15】
前記フィルター材に、一種もしくは複数の有機カルボン酸が配合されている、請求項1〜14のいずれか一項に記載のマスク。
【請求項16】
前記有機カルボン酸がクエン酸である、請求項15に記載のマスク。
【請求項17】
前記フィルター材中の酸性ポリマー:有機酸の重量比が、10:1〜1:1の範囲である、請求項15または16に記載のマスク。
【請求項18】
前記フィルター材中の酸性ポリマー:有機酸の重量比が、2+/−0.25:1の範囲である、請求項17に記載のマスク。
【請求項19】
前記フィルター材に、一種もしくは複数の界面活性剤が配合されている、請求項1〜18のいずれか一項に記載のマスク。
【請求項20】
前記界面活性剤が非イオン界面活性剤である、請求項19に記載のマスク。
【請求項21】
前記フィルター材中の酸性ポリマー:界面活性剤の重量比が、10:1〜1:1の範囲である、請求項19または20に記載のマスク。
【請求項22】
前記フィルター材中の酸性ポリマー:界面活性剤の重量比が、2+/−0.25:1の範囲である、請求項21に記載のマスク。
【請求項23】
前記フィルター材の基材上の、前記酸性ポリマーと、もしも存在するのであれば任意のカルボン酸と、もしも存在するのであれば任意の界面活性剤との総ロード量が、20〜50g/mの範囲である、請求項1〜22のいずれか一項に記載のマスク。
【請求項24】
前記フィルター材の基材上の、前記酸性ポリマーと、もしも存在するのであれば任意のカルボン酸と、もしも存在するのであれば任意の界面活性剤との総ロード量が、25〜45g/mの範囲である、請求項23に記載のマスク。
【請求項25】
前記フィルター材が、下記単位:
−[−CH−CH.OCH−CH.COOH−CH.COOH−]−
を構造中に含む線状酸ポリマーを、クエン酸および非イオン界面活性剤と共に含み、線状酸ポリマー、クエン酸および非イオン界面活性剤は不織布ポリエステル繊維性基材に付着されており、前記フィルター材中の酸性ポリマー:有機酸:界面活性剤の重量比の比率が、2+/−0.25:1:1の範囲である、請求項1に記載のマスク。
【請求項26】
前記フィルター材を裏打ちする一層であるか、または前記フィルター材を挟み込む二つの層である一以上のさらなる材料の層を含み、該さらなる材料の層は、該マスクを使用したときに該さらなる材料の層が前記フィルター材と使用者の皮膚の間に位置するようにフェイスマスクに配置されている、請求項1〜25のいずれか一項に記載のフェイスマスク。
【請求項27】
線状酸性ポリマーである酸性ポリマーが付着された繊維性基材を含む、請求項1〜26のいずれか一項に記載のフェイスマスクに使用するのに好適なフィルター材。
【請求項28】
酸性ポリマーが付着された繊維性基材を含む、請求項1〜26のいずれか一項に記載のフェイスマスクに使用するのに好適なフィルター材であって、該酸性ポリマーがその構造中に隣り合う下記単位:
−[−CR.COOH−]−
[式中、Rは水素であるか、またはRはC1−3アルキル、C1−3アルコキシ、もしくはC1−3ヒドロキシアルキルであってよい]を含む、フィルター材。
【請求項29】
前記酸性ポリマーが、−[−CH.COOH−CH.COOH−]−単位、および/またはそのような単位の塩もしくはエステル、または隣接する炭素原子上のCOOH基が環化して−CH.CO−O−CO.CH−環系を形成していてもよい無水物形態のそのような単位[ただし、そのような誘導体は加水分解されて、その対応する遊離酸を形成しやすい]を含むマレイン酸成分をベースとするものである、請求項28に記載のフィルター材。
【請求項30】
酸性ポリマーが有機カルボン酸と共に付着された繊維性基材を含む、請求項1〜26のいずれか一項に記載のフェイスマスクに使用するのに好適なフィルター材。
【請求項31】
下記単位:
−[−CH−CH.OCH−CH.COOH−CH.COOH−]−
を構造中に含む線状酸ポリマーを、クエン酸および非イオン界面活性剤と共に含み、それらが不織布ポリエステル繊維性基材に付着されている、請求項27〜30のいずれか一項に記載のフィルター材であって、前記フィルター材中の酸性ポリマー:有機酸:界面活性剤の重量比の比率が、2+/−0.25:1:1の範囲である、フィルター材。
【請求項32】
前記フィルター材の基材上の、前記酸性ポリマーと、もしも存在するのであれば任意のカルボン酸と、もしも存在するのであれば任意の界面活性剤との総ロード量が、20〜50g/mの範囲である、請求項27〜31のいずれか一項に記載のフィルター材。
【請求項33】
請求項27〜32のいずれかに一項に記載のフィルター材を提供するステップ、および前記フィルター材からフェイスマスクを形成するステップを含む、フェイスマスクの製造方法。
【請求項34】
酸性ポリマーを液体ビヒクルに配合し、得られた液体組成物で前記基材材料を湿らせ、前記液体ビヒクルを蒸発させて前記酸性ポリマーを基材に付着させた状態にする、請求項27〜32のいずれか一項に記載のフィルター材の製造方法。
【請求項35】
前記液体組成物が、前記酸性ポリマーを0.5〜6.0wt%、有機カルボン酸を0〜3.0wt%、および界面活性剤を0〜3.0wt%、例えば界面活性剤を1〜2wt%含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記液体組成物中の酸性ポリマー:有機酸:界面活性剤の重量比が、2+/−0.25:1:1の範囲である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
液体ビヒクルに配合された酸性ポリマーを含む、請求項34〜36のいずれか一項に記載の方法で使用するのに好適な液体組成物。
【請求項38】
前記液体組成物が、前記酸性ポリマーを0.5〜6.0wt%、有機カルボン酸を0〜3.0wt%、および界面活性剤を0〜3.0wt%、例えば界面活性剤を1〜2wt%含む、請求項37に記載の液体組成物。
【請求項39】
前記液体組成物中の酸性ポリマー:有機酸:界面活性剤の重量比が、2+/−0.25:1:1の範囲である、請求項38に記載の液体組成物。
【請求項40】
空気から空中浮遊病原体、特にウイルスを除去する方法であって、請求項27〜32のいずれか一項に記載の一層もしくは複数層のフィルター材の層に、そのようなウイルスに汚染されていると考えられる空気を通すステップを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−543632(P2009−543632A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519965(P2009−519965)
【出願日】平成19年7月16日(2007.7.16)
【国際出願番号】PCT/EP2007/057298
【国際公開番号】WO2008/009651
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(397009934)グラクソ グループ リミテッド (832)
【氏名又は名称原語表記】GLAXO GROUP LIMITED
【住所又は居所原語表記】Glaxo Wellcome House,Berkeley Avenue Greenford,Middlesex UB6 0NN,Great Britain
【出願人】(597173680)スミスクライン ビーチャム コーポレーション (157)
【Fターム(参考)】