説明

抗ウイルス分子に対して耐性を示すB型肝炎の遺伝子型解析および表現型解析方法

本発明は、HBVゲノム増幅産物を調製する方法であって、患者から得られる同じ増幅産物を使用して、その遺伝子型、表現型、複製能力を分析することによって、抗ウイルス剤に対して耐性を示すHBV種を評価することを可能とする方法を提供する。本発明の方法により、in vivo複製と比較して最も近接なin vitro 複製能力が得られることが保障され、薬剤の感受性および複製能力を評価する場合において、ウイルスゲノムに存在する全ての変異の影響が考慮に入っていることを確実なものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断および治療目的での、B型肝炎ウイルス(HBV)の分析に関する。より具体的には、本発明は、HBVの遺伝変異性および機能変異性を試験するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
B型肝炎ウイルスに対するワクチンが存在するにもかかわらず、このウイルスの慢性感染症が、世界中の環境衛生の問題となっている。現在、世界全体で、20億人がHBVに感染しており、4億5千万人がこのウイルスの慢性的なキャリアである。HBVの慢性感染症は、肝硬変および肝細胞癌などの重篤な合併症と関連している。肝細胞癌は、世界で最も一般的な8つの癌の1つである。
【0003】
慢性的なHBV感染に対する幾つかの認可された治療法が存在する:約40%の慢性キャリアを治療することができる免疫刺激剤であるアルファ-インターフェロン、および、ウイルス複製阻害剤であるヌクレオシドアナログ。現在、2つのアナログが使用されている:ラミブジン(Lamivudine)およびアデフォビル(Adefovir)。これらのヌクレオシドアナログは、HBVのウイルス性ポリメラーゼの特異的な阻害剤であるが、最初に開発されたヒト免疫不全ウイルス(HIV)などの他のウイルスのポリメラーゼについても特異的である。しかしながら、HIVに対する治療の場合のように、これらの化合物は、迅速に、HBVの耐性種の出現に直面してしまい、ラミブジンの治療では2から3年後に50%から65%の耐性が生じ、アデフォビルの治療では2年後に2から3%の耐性が生じる。後者の製品についての耐性の比率は低いにもかかわらず、残念ながら、この医薬産物とのウイルスの応答は変わりやすいようであり、幾人かの患者では、この薬剤に弱く応答し、または全く応答しないようである。
【0004】
10以上の、HBVに対する臨床試験中のまたは前臨床開発段階の新規の抗ウイルス剤が存在する。しかしながら、マーケットで販売されている前記2つの分子に関しては、治療に対する耐性が既に現れている。
【0005】
HIVに関しては、それ故、患者の治療を回避するウイルス種の耐性を評価することは、迅速に必要であろう。この耐性は、ポリメラーゼ内の既知の変異と関連しているかもしれず、遺伝子型解析手法によって分析し、および/または、細胞発現システム内での表現型解析によって直接的に評価することができる。
【0006】
現在の抗ウイルス剤に対して耐性であるHBVウイルス種の遺伝子型解析のための様々な方法が知られている。
【0007】
最も面倒であり古典的な方法は、文献中に記載されている変異を表すウイルスの領域をダイレクトシークエンシングに供することである。この配列決定では、患者に含まれる主要な集団を分析できるのみである。これらの方法に関しては、耐性に関与するポリメラーゼ領域(ラミブジン耐性の原因である主な変異(L180MおよびM2041またはM204V)、およびアデフォビル耐性の原因である新規の変異A181Vが位置するCドメイン、または、アデフォビル耐性の原因である変異N236Tが位置するポリメラーゼのDドメイン(Angus et al., 2003; Villeneuve et al., 2003)など)を増幅するための様々なサブゲノムPCR手法が、存在する。
【0008】
より最近は、サブゲノム断片増幅後に、遺伝子プロファイルを求めることができるLine Probeアッセイ(INNO-LiPA、Innogenetics)などの、特異的なプローブを用いたディファレンシャルハイブリダイゼーション手法が開発された(Lok et al., 2002)。ディファレンシャルハイブリダイゼーションと類似の原則に基づいて、同じチップ上で、所定の変異について探索することができるチップが開発工程にある(BioMerieux/Affimetrix)。
【0009】
しかしながら、Tenovirなどの現在臨床開発中の薬剤について、新たに出現した耐性に関連する変異体が既に報告されている(Sheldon; 44th ICAAC Meeting: Washington, DC, Oct 30-Nov 2, 2004)。ある場合においては、既に報告されている変異体は、交差耐性を誘導することができ、例えば、L180Mおよび/もしくはM204V変異により、ラミブジンと、Telbivudeine、Entecavir(Tenney et al., 2004)またはEmtricitabineなどのヌクレオシドアナログとの間の交差耐性を誘導することができる(Delaney, (ICAR), (AASLD, 2004))。これらの新規の変異体および観察された交差耐性の出現は、遺伝子型解析アッセイは、常に適応させねばならず、最終的には、HIVに関しては、観察された変異体の機能として、耐性についての実質的な遺伝子型解析を推測することができるアルゴリズムを開発する必要がある。これらのアルゴリズムは、また、新規の薬剤および潜在的な新規の耐性変異体の出現とともに発展させなければならない。
【0010】
しかしながら、全てのこれらの手法は、患者に由来するサブゲノムHBV DNA断片の増幅に基づくものであるから、これらは、HBV遺伝子の全体の増幅が必要である表現型解析アッセイ、およびこれらのウイルスの複製能力を分析するための試験とは相容れない。
【0011】
表現型解析試験および複製能力試験の開発には、幾らかの技術的問題点を解決することが求められる。
【0012】
最初の困難な点は、in vitroでHBVを産生することである。このウイルスは、1.1ユニットのウイルスゲノムに対応する長さのプレゲノムRNA(pgARN)の合成を必須とする逆転写工程を介して複製する。この工程は、少なくとも1.1ゲノムサイズに相当する転写ユニット(例えばダイマー)でのみ、または、スーパーコイルドDNA(cccDNA)の形態での細胞核中のHBVの天然の状態である環状DNAでのみ可能である。
【0013】
他のウイルス感染と異なり(例えば、HIV)、表現型解析試験に使用しうるHBV-感染可能な細胞ラインモデルは存在しない(Gripon et al., 2002)。
【0014】
HBVを産生するための様々な方法が、細胞システムで開発されてきた。ウイルスのダイマー形態を含むプラスミドコンストラクトが、構築されトランスフェクトされた(Ladner et al., 1997; Sells et al., 1987)。他の方法によれば、ヒト肝癌細胞において安定且つ一過的に発現する強力なプロモーターの制御下で、HBVゲノムを構築することが可能であった。これらのコンストラクトによって、部位特異的変異によってまたはPCRカセットエクスチェンジによって、ウイルス複製に対する特定の変異の影響を研究することが可能となり、例えば、ラミブジン耐性に対する影響を研究することが可能となった(Allen et al, 1998; Bock et al., 2002; Pichoud et al., 1999; Seigneres et al., 2002)。しかしながら、全てのこれらの方法は、治療が失敗している患者に見出される全体的なウイルス集団をトランスファーすることができず、研究することができない実験室レベルのコンストラクトに基づいている。
【0015】
患者の血清を使用した、HBVの表現型耐性を評価することができるために、3つの主な方法が開発された。
【0016】
[方法1:ゲノム全体のPCR増幅およびサザンブロッティングによる検出]
Gunther et al.(Gunter et al., 1995)は、HBVゲノム全体を増幅することができるPCRを報告している。このPCR産物は、いったんin vitroで肝癌細胞ラインへとトランスフェクトし、in celluloで環状にし、ウイルスのための転写マトリクスとした。実際に、このPCRシステムによって、それぞれのプライマーにSap I制限酵素部位を導入することが可能となる。この制限酵素部位は、いったん切断され再ライゲーションされると、細胞内におけるウイルスの天然の状態である完全な環状HBV DNAとなる。
【0017】
血清から、ウイルス集団を増幅する手法によって、患者に存在するウイルスの擬似種の全体の正確なレプリカを得ることが可能となる。
【0018】
しかしながら、この方法は、in vitroでは非常に低い複製レベルをもたらす。実際に、使用するSap I酵素は、切断時に相対的に非効率的であり、in celluloで部分的に環状化を可能とするだけであると考えられている。それ故、この方法は、(Gunther et alによって記載されているように)サザンブロッティングによる可視化によってのみ何とか実施することができ、実際には、ウイルスの複製能力の推定のみが可能となるだけである。得られた複製レベルは、抗ウイルス剤に対する耐性を評価するための遺伝子型解析アッセイを実施するには不十分である。
【0019】
[方法2:強力なプロモーターの下での患者ゲノムのクローニング、サザンブロッティングによる検出]
新規のクローニング方法(Durantel et al., 2004; Yang et al., 2004; WO 2004/029301)によって、通常のPCRまたはマルチプルPCRを用いて、患者に由来するゲノムを増幅し、ヒト肝癌細胞において強力な真核プロモーターを用いて、複製に必要な1.1ゲノム単位のpgRNAを強力に発現することが可能である。HBV転写および複製レベルは、HBVを天然のプロモーターの制御下で合成させるダイマーコンストラクトまたはGuntherの方法を用いて得られたレベルよりも遥かに高い(Durantel et al., 2004; WO 2004/029391)。しかしながら、これらの高い転写レベルは、患者におけるウイルス集団の本当の複製能力を反映していない可能性がある。
【0020】
加えて、これらのクローニング方法は、ゲノム全体のPCR手法よりも複雑で、迅速性に欠け、体系的に、患者における同じ開始ゲノムに必ずしも由来しない断片からなるキメラゲノムの生成をもたらす。特定の遺伝子型(アジアで主要である、Bおよび幾つかのC遺伝子型)については、Durantel et al.によって報告されたクローニング手法は、クローニングのために使用したNco I酵素のための、これらの遺伝子型おける付加的な制限酵素部位の存在によって、複雑である。最終的に、特定の遺伝子型(G遺伝子型)は、この方法を用いても、in vitroで弱い複製を示すことが見出されており、(特に、低い複製能力を有する変異ウイルスについては)サザンブロッティングによってのみ何とか分析することができる。
【0021】
まとめると、これらの方法によって、患者に由来するHBVの寄せ集めのゲノムを強力に発現するベクターの混合物を、苦労して入手することが可能である。ポリメラーゼ遺伝子以外のゲノム部位において変異が存在することの影響は、考慮に入っておらず、この方法では、ウイルス集団の本当の複製能力を評価することは困難である。
【0022】
これらの表現型解析アッセイ(方法1および2)の更なる制限は、実施するのにかかる時間である。ウイルス複製を測定するための手法は、サザンブロッティング(DNA抽出、アガロースゲル上での泳動およびナイロンメンブレンへのトランスファー)、そして、それに続く、リン32を用いたDNAの標識化およびホスホイメージャーによって定量(Durantel et al., 2004)することによって達成される。この手法は、非常に手間がかかり、相対的に感度が低く、そして時間がかかる。そして、多量の細胞培養物が必要であり、結果として、ラージスケールの遺伝子型解析などのサービス活動へと転移可能ではない。更に、放射線活性な物質の使用は、保護用の設備が必要であり、潜在的にハンドリングが危険である。
【0023】
それ故、サザンブロッティングによる可視化は、非常に時間がかかり、試験を3から4週間実施することとなる。この時間の長さは、患者に適用させなければならない治療の判断には向かず、患者において治療が失敗し、肝癌の病状を発症する可能性をもたらすこととなる。
【0024】
[方法3:ゲノム全体のPCR増幅およびリアルタイムPCRによる検出]
幾人かの著者は、より最近、リアルタイムPCRによって、培養して得られたHBVを定量する方法を使用しており、この方法は、サザンブロッティングよりも高感度である(Lada et al., 2004)。それ故、このチームは、Guntherの方法による増幅後に、患者に由来するウイルス用の遺伝子解析アッセイを実施することができている。この分析には、使用する培養形式が原因とする制限があり、多くのサンプルを分析することができない。加えて、トランスフェクトしたHBV DNAと産生したDNAとの間の干渉を避けるために、リアルタイムPCRは、様々な薬剤で処理後の培養上清で実施される。しかしながら、培養上清での分析は最適ではない、なぜならば、特定のHBVウイルス集団に欠陥が生じ、完全で成熟したウイルス粒子を細胞培養中に生じない可能性があるからである。更にその上、この分析は、最初にトランスフェクトした、または、薬物の毒性が生じる場合に細胞によって放出される余剰のDNAによってコンタミが生じる可能性がある。最後に、このチームは、Guntherの方法による増幅後に、クローニング工程を実施し、in vitroでの強力な複製により、1つしかクローンを選択できなかった;それ故、実施した分析は、患者に存在する擬似種の本当の感度を反映していない。
【0025】
これら3つの表現型解析方法に加えて、96穴培地形式で培養し、リアルタイムPCRによるHBV産生を検出した、強力なプロモーター下でのHBVの安定なラインが開示されている(Oral presentation: WE Delaney, Gilead Sciences, Foster City, CA USA at the 17the ICAR, May 2 - May 6, 2004, Tuscon, AZ; ICAR, 2004)。
【0026】
この研究のために、ヒト肝癌細胞ラインを、96穴プレート形式で培養した。この形式は、多くのサンプルを含むハイスループット研究により適合する。一方、著者らは、様々な既知のHBV変異を発現する安定なラインを使用しているが、このラインは、患者に由来していないウイルスを用いて研究室において構築したものである。実際、この分析は、ラミブジンと開発中の他の薬剤との間の交差耐性のin vitro分析のみを表すにすぎない。これらの研究室で作製したコンストラクトは、また、既知の変異における新規の薬剤の迅速なスクリーニングを実施することが可能である。
【0027】
リアルタイムPCRによる、患者に由来するHBVのトランスフェクト後のウイルス産生を定量するための、このタイプの培養形式の使用は、特異性の問題を有する。実際、前記したPCR手法または強力なプロモーター下でのクローニングのための手法(方法1から3)においては、患者に由来するゲノムおよび/またはコンストラクトを、大量にヒト肝癌細胞へと直接トランスフェクトしている。この大量のDNAは、産生したウイルス粒子のリアルタイムPCRによる定量に際して問題となる。それ故、ラージスケールに適合した形式において使用することができるためには、これらの方法は、産生したウイルス粒子のみを分析するための、トランスフェクト可能な余剰DNAを除外することが可能となる方法の開発が必要となる。
【特許文献1】WO 2004/029301
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明の目的は、患者の状態をより良く理解でき、それ故、より効率的に治療を方向づけるように、HBVに感染した患者に由来する生物学的サンプルについて、ウイルスの複製能力ならびに耐性に関する遺伝子型および表現型の測定を行うための、新規で、使用が容易であり、より迅速な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明による方法により、患者に存在する全体的なウイルス群を研究することが可能となり、(現在認可されている、または開発中の異なるフェーズにある)任意の薬剤に対する感受性の差異を評価することによって、疑似種に存在する(既知または未知の)任意の変異が与える影響を分析することができる。更に、薬剤の結果として生じる組み合わせ、および、相乗効果または相加効果についての検査を、研究することができる。
【0030】
本発明は、患者から得られた同じ増幅産物を使用して、遺伝子型(既知の変異の存在)、表現型および複製能力を分析することによって、抗ウイルス剤に対して耐性であるHBV種を評価することを可能とする増幅産物の産生に基づく方法を提供する。この新規の方法は、感度が高く迅速であり、自身のプロモーターの制御下での、患者に由来するウイルスの疑似種を直接研究することが可能となる。HBVの天然のプロモーターを含む増幅産物の使用により、in vivo複製に対して、最も類似したin vitro複製を得ることが保障される。更にその上、当該方法は、任意のキメラウイルスを生じることを避けるものであり、このことにより、薬剤感受性および複製能力を評価する時に、ウイルスゲノムに存在する全ての変異の影響を考慮に入れていることが確実なものとなる。少なくとも、本発明による方法は、現存の研究室における使用により便利であり、最終的には、多数のサンプルを処理する自動機器によってスケールアップすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
[定義]
用語「B型肝炎ウイルス」または「HBV」は、Hepadnaviridae科Orthohepadnavirus属の種のタイプと定義する。HBV核酸は、部分的に、二本鎖および一本鎖の環状DNAである。全体のゲノムの長さは、約3020-3320ヌクレオチド(nt)(フルレングス鎖)、または1700-2800nt(ショートレングス鎖)である。B型肝炎ウイルス(HBV)は、ゲノム配列の相違に基づいて、8つの遺伝子型(A-H)へと分類されている。本明細書で使用する場合、HBVは、任意のサブタイプ、種またはバリアント、例えば、血清型ad、adr、adw、adyw、ar、aywに向けられたものである。本発明との関連では、ヌクレオチド部位は、登録番号X75665でGenBankに寄託されている血清型adrqのHBVゲノム配列(配列番号1)を参照に示される。配列番号1におけるヌクレオチド部位は、Norder et al., 1994によって定義されるのと同じ命名に対応する。
【0032】
本明細書で使用する場合、用語「疑似種」は、患者に存在するHBVウイルスの集団全体を定義する。疑似種は、単一の遺伝子型に感染した個人において、ウイルス集団中のマイナーな遺伝的差異が原因で生じる。この疑似種は、遺伝子型は変わらないが、例えば薬剤処理で、時間経過とともに個体中で変化する。
【0033】
本発明によれば、従来技術の範囲において、一般的な分子生物学、微生物学およびリコンビナントDNA手法を使用することができる。このような手法は、文献に完全に説明されている。例えば、Sambrook, Fritsh & Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York(本明細書においては、「Sambrock et al., 1989」);DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes I and II(D.N. Glover ed. 1985);Oligonucleotide Synthesis(M.J. Gait ed. 1984);Nucleic Acid Hybridization(B.D. Hames & S.J. Higgins eds. (1985));Transcription and Translation (B.D. Hames & S.J. Higgins, ends. (1984)); Animal Cell Culture(R.I. Freshney, ed. (1986));Immobilized Cells and Enzymes(IRL Press, (1986));B. Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning(1984);F.M. Ausubel et al.(eds.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc.(1994)を参照せよ。
【0034】
「核酸分子」は、任意の核酸分子を指す:合成または合成ではない、リコンビナントまたは天然の、直鎖または環状の核酸とすることができる。一本鎖または二本鎖の形態のいずれかとすることができる。これらの核酸分子は、ゲノムDNA、cDNAまたはRNAを含む。特記しない限り、配列は、DNAの非転写鎖(すなわち、mRNAに相同な配列を有する鎖)に沿って、5'から3'方向に配列を記載する通常の慣例に従って、開示する。
【0035】
「プロモーター」または「プロモーター配列」は、細胞内でRNAポリメラーゼが結合し、下流の(3'方向の)コード配列の転写を開始することができるDNA調節領域である。
【0036】
用語「ベクター」、「クローニングベクター」は、DNA配列を導入することができるベヒクルを意味する。好ましくは、本発明によるベクターは、クリーニングした配列(例えば、HBVゲノム増幅物)を増幅および/またはHBV亜集団を選択することを可能とする原核生物または真核生物用ベクターである。DNA配列をベクターへと導入する一般的な方法には、制限酵素部位と呼ばれる特異的な部位(ヌクレオチドの特異的なグループ)でDNAを切断する制限酵素の使用を含む。同じように、ベクターに導入される配列は、制限酵素を使用して、ベクターから取り出すことができる。プラスミドおよび真菌類ベクターを含む多くのベクターが、様々な真核生物および原核生物宿主における複製および/または発現について開示されている。非制限的な例としては、本明細書に開示されたまたは引用された方法または当業者に知られた方法を使用した、pKKプラスミド(Clonetech)、pUCプラスミド、pETプラスミド、pTriexプラスミド(Novagen, Inc., Madison, WI)、pRSETもしくはpREPプラスミド(Invitrogen, San Diego, CA)、またはpMALプラスミド(New England Biolabs, Beverly, MA)、多くの適切な宿主細胞が含まれる。リコンビナントクローニングベクターは、しばしば、クローニングまたは発現のための1つまたは複数の複製システム、宿主における選択のための1つまたは複数のマーカー(例えば、抗生物質耐性)、および1つまたは複数の発現カセットを含む。
【0037】
本明細書で使用する場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、増幅行程においてプライマーとして、または、検出方法におけるプローブとして使用することができる核酸配列を指す。本発明と関連して、これらのオリゴヌクレオチドは、ゲノムDNA分子、cDNA分子、もしくはコードmRNA分子、または対象とする核酸にハイブリダイズすることができる少なくとも10、好ましくは少なくとも15、好ましくは少なくとも20、より好ましくは少なくとも30ヌクレオチド、好ましくは100ヌクレオチド以下、より好ましくは50ヌクレオチド以下、更に好ましくは40ヌクレオチド以下からなる。
【0038】
本明細書で使用する場合、全ての文法形態およびスペル変異形における用語「相同」とは、「共通の進化起源」を有するタンパク質間の関係を指す。このようなタンパク質(およびそのコード遺伝子)は、類似の割合または保存部位での特異的な残基もしくはモチーフの存在に関して、その配列類似性を反映する、配列相同性を有する。従って、全ての文法形態における用語「配列類似性」とは、共通の進化起源を有するまたは有しない核酸またはアミノ酸配列間の同一または一致の程度を指す。特定の実施態様においては、2つのDNA配列は、配列比較アルゴリズム(例えばBLAST、FASTA、DNA Strider等)によって求めた時に、DNA配列の一定の長さにわたって少なくとも約80%、最も好ましくは少なくとも約90または95%のヌクレオチドがマッチする場合、「実質的に相同」であり、または、「実質的に類似」である。実質的に相同性を有する配列は、配列データバンクで利用可能な標準的なソフトウェアを使用して、配列を比較することによって、または、例えば特定のシステムについて定義されるストリンジェントな条件下でのサザンハイブリダイゼーション実験において、同定することができる。
【0039】
核酸分子は、一本鎖形態が適切な温度条件および溶液のイオン強度条件下で(Sambrooket al., supra)、cDNA、ゲノムDNAまたはRNAなどの他の核酸分子に「ハイブリダイズ可能」である。ハイブリダイズ可能な核酸分子の具体的な例は、核酸分子または核酸分子の断片と相補的なオリゴヌクレオチドである。本明細書で使用する場合、第一の配列の全体が、完全に第二の配列とマッチする時に、第一の配列は、第二の配列に「相補的」である。
【0040】
温度条件およびイオン強度条件によって、ハイブリダイゼーションの「ストリンジェンシー」が求まる。ハイブリダイゼーションには、2つの核酸が、相補配列を含むことが必要であるが、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに依存して、塩基間のミスマッチが存在することができる。核酸をハイブリダイズするための適切なストリンジェンシーは、当該業界において良く知られている変数である核酸の長さおよび相補性の程度に依存する。2つのヌクレオチド配列間の類似性または相同性が大きくなればなるほど、これらの配列を有する核酸のハイブリダイゼーションのためのTmの値が大きくなる。核酸のハイブリダイゼーションの相対的な安定性(より高いTm:融解温度に対応)は、以下の順番に減少する:RNA:RNA、DNA:RNA、DNA:DNA。100ヌクレオチド長よりヌクレオチドのハイブリダイゼーションについては、Tmを計算する方程式が得られている(Sambrook et al., supra, 9.50-9.51を参照)。より短い核酸(すなわちオリゴヌクレオチド)を用いたハイブリダイゼーションについては、ミスマッチの位置がより重要であり、オリゴヌクレオチドの長さが、その特異性を決定する(Sambrook et al., supra, 11.7-11.8を参照)。ハイブリダイズ可能な核酸の最小の長さは、少なくとも約10ヌクレオチド、好ましくは少なくとも約15ヌクレオチドであり、より好ましくは、その長さが少なくとも約20ヌクレオチドである。
【0041】
典型的には、低いストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は、55℃のTmで、例えば、5×SSC、0.1% SDS、0.25%ミルク、ホルムアルデヒドを含まない;または、30%ホルムアルデヒド、5×SSC、0.5% SDSに対応する。穏やかなストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は、より高いTmで、例えば、40%ホルムアルデヒド、5×または6×SCCに対応する。高いストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は、最も高いTmで、例えば、50%ホルムアルデヒド、5×または6×SCCに対応する。SCCは、0.15M NaCl、0.015M NaCl-クエン酸である。例えば、「高いストリンジェンシー」は、68℃で0.2×SSC、42℃で50%ホルムアルデヒド、4×SSCのハイブリダイゼーションおよび/または洗浄条件を指すことができる。
【0042】
DNAの「増幅」または「DNAを増幅すること」は、本明細書で使用する場合、DNA配列の混合物中での、特定のDNA配列の濃度の増加と定義する。増幅工程は、US 5,399,491に開示されているTranscription Mediated Amplification(TMA)、例えばLizardi et al.(Lizardi et al., 1998)もしくはZhang et al(Zhang et al., 1998)によって開示されているRolling Circle Amplification(RCA)、またはSaiki et al.(Saiki et al., 1988)およびEP 0 200 362およびEP 0 201 184によって開示されているポリメラーゼ連鎖反応(PCR)手法、または代替的にはPCRに由来する手法、およびin vitroで核酸配列を増幅するのに望ましい任意の他の方法などの、DNAの酵素学的増幅の一般的な方法を使用した任意の方法によって実施することができる。好ましくは、本発明による増幅方法は、PCRである。
【0043】
本明細書で使用する場合、用語「プライマー」は、オリゴヌクレオチドの機能を指す。プライマーは、典型的には標的配列へのハイブリダイゼーション後のオリゴヌクレオチドの伸長によって、標的配列を増幅するために使用されるオリゴヌクレオチドである。
【0044】
用語「増幅産物」は、PCRの産物であり;またはより一般的には増幅手法を使用して合成させたDNAの一部分を意味する。「ゲノムHBV増幅産物」は、HBVゲノムの全体を含み、増幅手法によって生じたDNA配列を意味する。
【0045】
「制限酵素」は、認識部位で結合し、その後で認識配列に対して特定の部位でDNA鎖を切断するエンドヌクレアーゼ(タイプII制限酵素)を意味する。「認識配列」とは、制限考査が、DNA骨格を切断する前に結合する特定のヌクレオチド配列である。認識配列は、一般的に、4から8塩基対長であり、しばしばパリンドローム(すなわち、5'から3'方向へと読んだ場合に、両鎖が同じに読める)であり、認識配列は、DNAの両方の鎖で同じである。「切断部位」は、制限酵素が切断する特異的なヌクレオチド配列である。幾つかの場合においては、切断部位は、パリンドローム制限酵素部位の対称軸に正確に生じ、平滑末端である産物が得られる。幾つかの制限酵素ヌクレアーゼは、それぞれの断片の2つの末端で、短い一本鎖テイルが残るねじれた形の切断(「突出末端」として知られる)を生じる。制限酵素によって生じた突出末端により、任意の直鎖DNAを環状化することができる。
【0046】
認識配列に対する切断部位の位置は、酵素に依存する。例えば、Sap I酵素(IIS型制限酵素)については、切断位置は、以下の認識配列の外側である:
【0047】
【化1】

【0048】
好ましくは、本発明による制限酵素は、認識配列内に含まれる切断部位を有する。従って、本明細書で使用する場合、「制限酵素部位」は、好ましくは、制限酵素のための認識配列からなり、前記酵素の切断部位を含むヌクレオチド配列を意味する。
【0049】
本明細書で使用する場合、用語「遺伝子型解析」とは、HBV種のゲノムまたはサブゲノム配列を求めることを、例えば、具体的な既知の変異の存在を特に求めることを意味する。
【0050】
「表現型解析」とは、1つまたは幾つかの抗ウイルス剤(特には、HBV複製と相互作用する薬剤)に対するHBV種の耐性を求めることを意図する。
【0051】
「患者」は、HBVに感染したようである、または感染したことが知られている哺乳類、好ましくはヒトを意味する。患者は、HBV感染の治療を受けていてもよく、または、治療を受けていなくともよく、または治療の失敗を経験していてもよい。
【0052】
本発明による「生物学的サンプル」は、血液、血清、血漿、または任意の他の生物学的液体とすることができる。サンプルは、また、HBVを含みうる組織の生検とすることもできる。ウイルスの細胞培地またはHBVを保有しうる動物に由来することもできる。
【0053】
[HBVゲノム増幅産物、プライマーおよびキットの調製方法]
本発明の目的は、患者の状態をより良く理解でき、より効率的に治療を方向づけるように、患者から得られた生物学的サンプルから、HBVウイルスの耐性に関する遺伝子型および表現型(すなわち、抗ウイルス剤に対する耐性)ならびに複製能力の測定を実施するための、新規の方法を提供することである。
【0054】
この目的は、耐性に関する遺伝子型解析、表現型解析および複製能力分析について利用できるゲノム増幅産物を得ることによって達成される。これらの増幅産物は、患者から得られるHBV擬似種ゲノム核酸の増幅によって産生される。
【0055】
それ故、本発明は、患者の生物学的サンプルから、遺伝子型解析、表現型解析および複製能力分析に使用することができるHBVゲノム増幅産物を調製する方法であって、
a) 生物学的サンプルからHBV核酸を抽出する工程;
b) 一対のプライマーを用いてHBV核酸を増幅する工程;
(前記プライマーは、
- 完全なHBVゲノムを含む増幅産物を得るように選択され、
- 全てのHBV遺伝子型のHBVゲノムの共通配列内に存在しない、または1つだけ存在する制限酵素部位のコピーを含み、
ここで、前記制限酵素部位は、制限酵素によって、前記制限酵素についての認識配列内で切断される)
c) 増幅産物を、前記制限酵素部位を切断する制限酵素を用いて消化する工程;および
d) 場合によっては、消化した増幅産物を精製する工程
からなる方法を供給する。
【0056】
HBV核酸は、DNAまたはRNAとすることができる。抽出工程a)は、この業界で知られた任意の方法によって実施できる。これらの方法は、沈殿による一般的な方法およびシリカカラムまたはクロマトグラフィーカラムを使用した方法を含む。QiagenのUltrasens viral nucleic acid extraction kitの使用は、この工程のためには理想的である。
【0057】
HBV核酸がRNAである場合、逆転写工程を、増幅前に実施することができる。RNA配列の逆転写は、当業者に容易に知られている。
【0058】
本発明は、HBVゲノム全体を増幅することができ、且つ、細胞内で再環化することを可能とし高い複製レベルをもたらす酵素に特異的な制限酵素部位を2コピー含む増幅産物を産生することができる一対のPCRプライマーの選択に基づく。増幅によって産生した増幅産物は、2つのコピーの前記制限酵素部位(各コピーは、増幅産物の両末端に位置している)を含む二本鎖の直鎖DNAである。本発明によるHBVゲノム増幅産物の産生方法の原理を表す図を、図1および図2に示す。
【0059】
一方では、前記制限酵素部位は、天然において、全ての遺伝子型のHBVゲノムの共通配列中に、1つのみ存在することができる;したがって、プライマーは、前記制限酵素部位を含むHBVゲノムの領域とハイブリダイズするように選択される。他方では、プライマーは、増幅産物中に、全ての遺伝子型のHBVゲノムの共通配列に存在しない制限酵素部位を導入するようにデザインすることができる。
【0060】
本発明によるプライマーは、好ましくは、以下の特徴を有する:
(i) プライマーは、全ての遺伝子型のHBVゲノムの共通配列中に、1つのみ存在する制限酵素部位を1コピー含み、または、プライマーは、全てのHBV遺伝子型のHBV共通配列に天然には存在せず、遺伝子内容を損なうことなく増幅させたHBVゲノムに事後的に生じさせる制限酵素部位を1コピー含む(当業者ならば、プライマーがフォワードプライマーかリバースプライマーであるかに依存して、プライマーが制限酵素部位のセンス配列である配列か、前記制限酵素部位のアンチセンス配列である配列を含みうることは、明らかであろう)
(ii) プライマーは、細胞中で増幅されるDNAの再環化を可能とする制限酵素部位を含む;すなわち、単一の制限酵素部位に特異的な制限酵素部位を用いた、PCR増幅によって産生した直鎖の増幅産物の消化により、再環化を可能とする5'および3’末端を有する増幅産物を産生する。このことは、5'および3’末端が、使用された制限酵素の切断部位に対応する突出末端を有することを意味する。これは、1つの制限酵素部位において切断する酵素を用いてのみ可能となる。
【0061】
制限酵素ならびにその認識および切断部位に関する記述は、公開により利用可能である。例えば、Sambrook et al., (1989)またはRebase(登録商標)(http://rebase.neb.com/rebase/rebase.html)もしくはRestriction Enzymes Web Page(http://internahmed.wustl.edu/divisions.enzymes.INDEXX.HTM)などのデータベースを参照することができる。
【0062】
好ましくは、それぞれのプライマーは、単一コピーの前記制限酵素を含む。プライマーは、1つより多いコピーの制限酵素部位を含み、これらのコピーは、適切な制限酵素を用いた消化により増幅産物から取り除かれる。
【0063】
本明細書で使用する場合、用語「HBV共通配列」または「HBVゲノムの共通配列」は、既知のゲノム配列(好ましくは、全ての既知のHBV遺伝子型の配列)のセットと高い相同性を有するようなヌクレオチドの単一配列または複数の配列を意味する。HBV共通配列は、既知のHBVゲノム配列の配列比較によって、例えば、公に利用可能であるBioEdit Software(Hall, 1999)などの配列比較アルゴリズムによって、当業者により容易に求めることができる。例えば、HBV共通配列は、それぞれのヌクレオチド部位について、ヌクレオチドがそれぞれの遺伝子型の全てのHBVゲノムの少なくとも50%、好ましくは60%に存在するように、コンピューターでデザインしたHBVのゲノム配列とすることができる。1つの実施態様によれば、共通配列は、HBVの1つの遺伝子型に存在するゲノムの大部分の共通配列に対応する。HBV共通配列の例は、遺伝子型AからHについて、それぞれ配列番号2から9で示される。従って、全ての遺伝子型のHBV共通配列は、それぞれの配列が単一のHBV遺伝子型の共通配列である共通配列(遺伝子型AからH、それ故、8つの共通配列)のセットと定義される。他の実施態様によれば、単一の共通配列は、HBVの全ての遺伝子型に見出される大部分のゲノムの共通配列に対応する。
【0064】
プライマーに(そして産生した増幅産物に)含まれる前記制限酵素部位が、全ての遺伝子型のHBVゲノムの共通配列に存在しない場合、前記制限酵素部位は、好ましくは、以下の基準のうち1つまたは複数を満たす:
(i) 全てのHBV配列が実質的に存在していない;
(ii) HBVゲノム配列中に3個を超えるヌクレオチドに変化を導入しない。
【0065】
全ての既知のHBV配列が実質的に存在しない制限酵素部位の導入は、患者の生物学的サンプルから単離したHBV擬似種の最大数のゲノム核酸を増幅し精製することを可能とすることを目的とする。導入した制限酵素部位が、HBV擬似種のゲノムに既に存在する場合、この擬似種について産生させた増幅産物は、3つのコピーの制限酵素部位を含む(2つのコピーは、プライマーによる増幅産物の両端に導入され、1つは内部の制限酵素部位である)。従って、対応する制限酵素を用いたこのような増幅産物の消化によって、HBVゲノムの全長を有することは無い2つの消化産物が産生する。従って、擬似種について、完全なHBVゲノム増幅産物の調製を達成することはできないかもしれない。好ましくは、「全てのHBV配列が実質的に存在しない制限酵素部位」とは、公開された全てのHBV配列中で、または既知のHBV配列のセット中で、40回を超えて、好ましくは30回を越えて、より好ましくは20回を越えて、更により好ましくは10回を越えて見出すことができない制限酵素部位を意味する。
【0066】
同じように、全ての遺伝子型のHBVゲノムの共通配列中で1つしか存在しない制限酵素部位を1コピー含むプライマーの選択により、患者の生物学的サンプルから単離されたHBV擬似種の最大数のゲノム核酸を増幅し精製することが可能となる。
【0067】
好ましくは、プライマーは、HBV「ギャップ(gap)」領域、すなわち、配列番号1のヌクレオチド部位1800から1850によって定義される領域にハイブリダイズすることができる。特に、プライマーは、HBVギャップ領域に相補的なヌクレオチド配列を含み、例えば、プライマーは、HBVギャップ領域全体に、または、少なくとも12の、好ましくは少なくとも15の、より好ましくは少なくとも20のヌクレオチド、もしくは、好ましくは50を超えるヌクレオチド、より好ましくは40を超えるヌクレオチドを含むHBVギャップ領域の断片に相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0068】
HBVギャップ領域は、制限酵素部位を含むが、それらは、再環化が可能であり1つしか存在しない部位ではない。従って、増幅に使用したプライマーが、HBV「ギャップ」領域にハイブリダイズすることができる場合、増幅産物内に、全てのHBV遺伝子型のHBVゲノムの共通配列に存在しない制限酵素部位(好ましくは単一の制限酵素部位)を導入するようにデザインされる。
【0069】
好ましくは、プライマーによって導入された制限酵素部位は、BssH II、Cla I、Mlu I、Nhe I、Not I、PvuI、Rca I、Sun I(BsiW I)およびNar Iからなる群から選択される酵素についての部位である。より好ましくは、BssH II、Cla I、Mlu I、Nhe I、Not I、PvuI、Rca I、Sun I(BsiW I)およびNar Iからなる群から選択される酵素についての部位を、HBVギャップ領域に導入する。
【0070】
好ましい実施態様によれば、一対のプライマーは、Nar I酵素についての制限酵素部位を導入する。好ましくは、一対のプライマーは、Nar Iについての制限酵素部位を、HBVゲノムの「ギャップ」領域へ、すなわち、配列番号1で示されるHBVの配列のヌクレオチド1800から1850によって定義される領域へ導入する。それ故、本発明による好ましい一対のプライマーは、Nar I制限酵素部位(GGCGCC、配列番号41)のヌクレオチド配列およびHBVギャップ領域に相補的なヌクレオチド配列を含むプライマーからなる。
【0071】
一対のプライマーは、以下に示す配列番号42および配列番号43、配列番号44および配列番号45、配列番号11および配列番号12、配列番号14および配列番号15、配列番号18および配列番号19、配列番号22および配列番号23、配列番号26および配列番号27、配列番号30および配列番号31、配列番号34および配列番号35ならびに配列番号38および配列番号39からなる群から選択される配列を有することができる。
【0072】
制限酵素部位を構成するヌクレオチドは、下線で示す。Norder et al. (1994)によって開示された配列またはGenbank X75665で寄託されている配列(配列番号1)と比較して修飾されている塩基を、太字で示す。全てのセンスプライマーに含まれているプレゲノムRNAのATGコドン(太字のイタリック)の「A」は、配列番号1の部位1814に対応する部位に位置する。リバースプライマーにおける対応するアンチセンス「T」も、太字のイタリックで示す。Nは、任意のヌクレオチドA、C、GまたはTを表し、xは、少なくとも3に等しく、好ましくは3から20を含み、より好ましくは4から10を含む整数である。
【0073】
以下のオリゴヌクレオチド配列中の(N)xストレッチは、対応する酵素を用いた制限酵素部位の切断により、増幅産物から取り除かれる。(N)xストレッチは、有利には、増幅を最適化するように定義される。
【0074】
【化2】

【0075】
【化3】

【0076】
【化4】

【0077】
【化5】

【0078】
【化6】

【0079】
【化7】

【0080】
【化8】

【0081】
【化9】

【0082】
【化10】

【0083】
好ましくは、Nar I部位について使用される配列は、以下である:
【0084】
【化11】

【0085】
これらのプライマーは、任意の適した増幅方法、好ましくはPCRで使用することができる。適切な条件(例えば、温度、バッファー)の選択は、当業者の通常の知識の範囲内である。PCR増幅の例は、以下の実施例1に開示する。
【0086】
好ましい実施態様によれば、増幅のために使用するプライマーは、配列番号42および配列番号43または配列番号44および配列番号45の配列を有する。
【0087】
場合によっては、増幅(例えばPCR増幅)後に得られた増幅産物を、消化前に、シリカカラムタイプの一般的な増幅産物精製手法によって精製する。
【0088】
消化工程(c)は、適切な制限酵素、すなわち増幅産物の両端に含まれる制限酵素部位を切断する制限酵素を使用して実施する。消化は、当業者によって、例えば制限酵素の製造業者の取扱説明書に従うことによって、容易に実施することができる。
【0089】
いったん消化すると、増幅産物を、一般的な精製手法によって精製する。例えば、精製工程(d)は、Qiagenのようなタイプのシリカカラムを使用して、または、標準的なフェノール クロロホルム手法を使用して、例えばQuagenのinstance Qiaquick PCR purification Kitを使用して実施することができる。
【0090】
本発明によるHBVゲノム増幅産物を調製する方法により、如何なるキメラウイルスを生じることなく、天然のプロモーター下で複製する、患者に存在する最も代表的なウイルス粒子の集団を得ることが可能となる。これらの点により、これらのウイルスの複製能力の分析が最適なものとなることが保証され、そして、それぞれのゲノム上に存在する全ての変異が表現型解析アッセイによって考慮されることを保証することが可能となる。更にその上、完全なウイルスゲノムが増幅されるという事実により、ウイルスの耐性に関与する領域についての遺伝子型解析アッセイを、容易に実施することが可能となる。
【0091】
加えて、工程(d)で得られた精製した増幅産物を、導入を可能とする任意のベクターへとクローニングすることができる。それ故、本発明によるHBVゲノム増幅産物を調製する方法は、場合によって、工程(d)で得られた増幅産物を、原核生物または真核生物ベクターへクローニングし、クローニングした増幅産物を増幅および/またはウイルスの亜集団の増幅産物を選択し、増幅および/または選択した増幅産物をベクターから抽出および精製することからなる更なる工程(e)を含みうる。それ故、本発明は、更に、本発明のHBVゲノム増幅産物を調製する方法の工程(d)において得ることができる増幅産物を含む、原核生物または真核生物ベクターに関する。
【0092】
このクローニング工程により、第一に、工程(d)で得られた遺伝物質の保存バンクを調製するために、および/または、事後的な工程にこの物質を使用するために、この遺伝物質の増幅を実施することが可能となる。この場合、クローニングされた増幅産物について、増幅産物に存在する制限酵素部位をその先端で切断する酵素を用いて消化し、一般的な手法によってクローニングベクターから取り出すことができる。第二に、クローニング工程によって、患者の生物学的サンプルに存在するウイルスゲノムを個別化し、それにより、存在する各ゲノムの耐性に関する遺伝子型解析および表現型解析の研究を実施することが可能となる。この工程により、また、存在する遺伝子型および表現型の相対的な割合を求めることによって、患者に存在する擬似種の評価を行うことが可能となる。特に、ウイルスの亜集団は、HBV擬似種から単離することができ、例えば、抗ウイルス治療の経過における、前記亜集団の生成(すなわち、治療に対する感受性または耐性の出現)の研究が可能となる。
【0093】
本発明は、更に、場合によっては精製された、本発明のHBVゲノム増幅産物を調製する方法によって得ることができる増幅産物に関する。
【0094】
本発明は、また、本発明によるHBVゲノム増幅産物を調製する方法を実施するために使用することができる一対のプライマーに関する。
【0095】
本発明は、更に、患者の生物学的サンプルに由来するHBVゲノム増幅産物を調製するためのキットであって、
- 前記で定義した、少なくとも一対のプライマー;
- HBV核酸を増幅する手段
を含むキットを提供する。
【0096】
好ましい実施態様によれば、前記の一対のプライマーは、HBV共通配列に天然には存在しない制限酵素部位の、特にBssH II、Cla I、Mlu I、Nhe I、Not I、PvuI、Rca I、Sun I(BsiW I)およびNar Iからなる群から選択される酵素についての部位の(または、これら部位に相補的な)配列を含む。
【0097】
好ましくは、HBV核酸を増幅するための手段は、ポリメラーゼ連鎖反応による増幅のための手段である。
【0098】
[遺伝子型解析の方法]
前記した増幅方法に従って調製したHBVゲノム増幅産物は、有利には、生物学的サンプルに存在するHBV種の遺伝的変異性を評価するのに使用することができる。
【0099】
前記のHBVゲノム増幅産物の調製方法の工程(d)または(e)において得られた増幅産物は、直接的にまたは間接的に、HBVの既知の変異の遺伝子型分析のために使用することができる。例えば、これらの分析は、直接工程(d)または(e)で得られた増幅産物に対して、または、必要であればサブゲノムPCR工程後に、実施することができる。
【0100】
それ故、本発明は、患者の生物学的サンプルに存在するHBV種の遺伝子型を解析する方法であって、前記したHBVゲノム増幅産物を調製する方法によって得られた増幅産物を遺伝子解析することからなる工程を含む方法に関する。
【0101】
遺伝子型の解析は、抗ウイルス剤に対する耐性を有するウイルスと関連しているとして開示されたまたは開示されていなかった変異の存在について探索するために、ダイレクトシークエンシングによって、または、ディファレンシャルハイブリダイゼーション手法(Lok et al., 2002)などの当業者に良く知られた他の手法によって実施することができる。ダイレクトシークエンシングを遺伝子型解析のために使用する場合、前記のHBVゲノム増幅産物の調製方法の工程(d)で得られた増幅産物を直接実施することができる。ディファレンシャルハイブリダイゼーションを遺伝子型解析のために使用する場合、有利には、HBV DNAのサブゲノム断片において実施する。
【0102】
[複製能力および/または耐性に関する表現型解析を求める方法]
本発明による増幅方法で調製されたHBVゲノム増幅産物は、有利には、生物学的サンプル中に存在するHBV種の表現型を求めるのに使用することができる。HBV種の表現型は、1つまたは複数の抗ウイルス剤(特に、in vitroおよび/またはin vivoでHBV複製と相互作用する薬剤)に対する前記種の耐性を求めることを意図するものである。
【0103】
前記のHBVゲノム増幅産物を調製する方法によって得られた増幅産物は、直接的にまたは間接的に、HBVの表現型解析(すなわち、抗ウイルス剤に対する耐性の測定)および複製分析のために使用することができる。有利には、増幅産物は、HBVゲノム増幅産物を調製する方法の工程(e)に従って、ウイルスの亜集団について、クローニングし、増幅および/または選択する。
【0104】
本発明による表現型を解析する方法は、ウイルス複製に影響を与える薬剤の存在下または非存在下における、患者から得られた生物学的サンプルに存在するHBV種の集団または亜集団の複製能力の測定および比較に依存する。
【0105】
この方法は、HBV増幅産物を調製する方法の工程(d)で直接的に得られた、または、更にクローニングして、増幅および/もしくは選択した(工程(e))、本発明によるHBVゲノム増幅産物を用いたHBV複製をサポートする細胞のトランスフェクトを含む。トランスフェクトした細胞は、ウイルス増幅に影響を与えることができる薬剤とともに、または薬剤を用いないで培養する。前記薬剤とともに、または薬剤を用いないで培養したトランスフェクト細胞によって産生されるウイルスDNAおよび/またはタンパク質は、生物学的サンプルに存在するHBV種の耐性に関する表現型を求めるために定量することができる。これらの種の複製能力は、HBV複製に影響を与えることができる薬剤を用いないで培養したトランスフェクト細胞によって産生されるウイルスDNAおよび/またはタンパク質の定量によって求めることができる。
【0106】
それ故、本発明は、患者の生物学的サンプルに存在するであろうHBV種の集団または亜集団の複製能力を求め、および/または、ウイルス複製を妨げる薬剤に対する前記種の耐性を求める方法であって、前記方法が、
a) 場合によっては、HBV複製を妨げることができる薬剤の存在下で、前記のHBVゲノム増幅産物を調製する方法によって得られた増幅産物を、HBV増幅に対して許容であるヒト起源の細胞へとトランスフェクトする工程、
b) 場合によっては、DNAseを用いて前記細胞を処理する工程、
c) 場合によっては、HBV複製を妨げることができる薬剤の濃度を上げて、前記細胞を培養する工程、
d) 前記培養した細胞によって産生されるウイルスDNAおよび/またはタンパク質を抽出する工程、ならびに
e) 抽出したウイルスDNAおよび/またはタンパク質を定量する工程
を含む方法に関する。
【0107】
工程a)は、HBVゲノム増幅産物を調製する方法によって得られる増幅産物をトランスフェクトする工程からなる。前記トランスフェクト工程は、以下に示すように、HBV複製を妨げることができる薬剤の存在下で(または、前記薬剤の濃度を上げて)実施することができる。用語「トランスフェクト」は、外来核酸(例えば、増幅産物または増幅したおよび/もしくは選択した増幅産物)の宿主細胞への導入を意味する。「宿主細胞」は、細胞による物質の産生(例えば、細胞による、遺伝子、DNAもしくはRNA配列、タンパク質または酵素の発現)のために、形はどうであれ、修飾し、形質転換し、増殖し、または使用しもしくは処置した細胞を意味する。宿主細胞は、更に、以下に示すように、スクリーニングまたは他のアッセイのために使用することができる。本明細書で使用する場合は、宿主細胞は、HBV複製を許容する細胞である。前記HBV複製を許容する細胞は、ヒト肝癌細胞ライン、好ましくはHuH7細胞ライン(Hakabayashi et al., 1982)、HepG2細胞(ATCC HB8065)、HepaRG細胞(Gripon et al,. 2002)または一次肝癌細胞とすることができる。トランスフェクトは、当業者によって容易に知られている様々な手法によって実施することができる。例えば、Fugenタイプ(Roche)のリポソーム形態の使用を、トランスフェクトのために使用することができる。細胞を培地に入れ、細胞の配給後24時間、トランスフェクト用試薬の製造者によって推奨された条件下でトランスフェクトすることができる。当業者に容易に知られた、リポフェクタミンもしくは塩化カルシウムなどの他の製品、またはエレクトロポレーション手法などの他の方法を、トランスフェクトのために使用することができる。
【0108】
有利には、本発明による表現型解析/複製能力評価方法は、事後的にハイスループット表現型解析形式でアッセイを実施することを可能とするDNAseを用いた解離および処理工程のポスト-トランスフェクト工程を含む。この処理により、トランスフェクトのために使用され、細胞内へ入らなかったDNAの大部分を取り除くことが可能となる。このDNAは、当該方法の最終的な定量工程の間、特に、リアルタイムPCRを使用する場合に、妨げとなる。処理工程(b)は、トランスフェクト工程(a)後、約60時間で実施することができる。トランスフェクトした細胞が、接着細胞である場合、好ましくは、一般的な手法に従って、細胞の解離をもたらす薬剤、例えばトリプシンを用いて処理する。細胞をペレット状にして、トランスフェクト工程から残渣DNAを取り除くために、DNAseで処理する。工程(b)により、特に細胞を解離する場合、ハイスループット形式のアッセイを実施するのに適切な培養形式での分配のために、細胞を均一化し且つ個別化することができ、
【0109】
トランスフェクトした細胞は、その後、ウイルス複製を妨げることができる(すなわち、ウイルス複製を阻害またはブロックすることができる)薬剤で処理することができる。工程(a)におけるトランスフェクトを、ウイルス複製を妨げることができる薬剤の存在下で、または前記薬剤の濃度を上げて実施した場合、適切な範囲の濃度の同じ薬剤を、適切な範囲の濃度ならば、培養工程(c)のために使用する。好ましくは、前記薬剤は、in vitroで、少なくともHBV複製を妨げることができる。これらの薬剤は、臨床的に使用される医薬製品、または、臨床前もしくは臨床試験中の薬剤、または、HBV複製に影響を与えるようであるより一般的な任意の薬剤とすることができる。HBV複製を妨げることができる薬剤は、ラミブジン(lamivudine)、アデフォビル(adefovir)、エンテカビル(entecavir)、エムトリシタビン(emtricitabine)、クレブジン(clevudine)、テルビブジン(telbivudine)、テノフォビル(tenogovir)、エルブシタビン(elvucitabine)、これらの任意の組み合わせ、および、これらの前記薬剤とHBV複製を妨げるようである他の薬剤との任意の組み合わせからなる群から選択することができる。
【0110】
処理は、細胞を含む培地への、HBV耐性を研究することができる濃度範囲の薬剤の添加から始まる。薬剤を用いたこの処理は、研究する濃度範囲を含む培地を定期的に変えることによって、続けられる。最小の処理期間は、一般的に3日間である。
【0111】
培養工程(c)の間に産生されるウイルスのゲノム物質および/またはウイルスタンパク質を、その後、細胞からまたは培養上清から抽出する。ウイルスDNAおよび/または抽出工程(d)は、当業者に知られている任意の方法に従って実施することができる。
【0112】
ウイルスタンパク質は、当業者に知られた任意の方法によって、例えば、ELISA、RIA等によって定量することができる。特に、HBV種の集団または亜集団の複製能力および/または表現型は、HBe抗原および/またはHBs抗原を定量することによって評価することができる。HBeおよびHBs抗原を定量するための市販のキットを利用することができる。
【0113】
本発明による表現型を解析する方法は、有利には、表現型解析または複製アッセイのためのハイスループット分析を可能とする形式で、ウイルスDNAを抽出する工程を含みうる。
【0114】
HBV DNAを抽出するための迅速で単純な方法は、本発明者らによって開発された。この方法は、使用した培地の形式が何であれ、そして、使用したHBV産生の方法が何であれ実施することができる。この抽出方法により、自身のプロモーターによって産生されるか、または、強力なプロモーターによって調節されるかに関わらず、任意の細胞のタイプ、構成的にHBVを発現するライン、HBVを発現するコンストラクトでトランスフェクトしたラインにおいてウイルスDNA抽出物を得ることが可能となる。この手法は、特に、96穴形式などのハイスループット形式でのリアルタイムPCRによる定量に適している。本発明によって提供される抽出方法は、完全に、培養の間に使用した容器内で直接、液相で実施し、得られた抽出物は、リアルタイムPCRによって直接定量することができる、従って、この方法は、リアルタイムPCRをウイルスDNA定量のために使用する場合に特に有用である。
【0115】
この抽出方法は、
1) DNAseおよびRNAseを用いて、細胞または培養液上清を解離し消化する工程;
2) 消化した細胞または上清をアルカリ化する工程;
3) 中和し、場合によっては、リアルタイムPCRを直接実施するために希釈する工程
からなる工程を含む。
【0116】
抽出は、好ましくは、ウイルスの複製に直接由来するカプシドで包まれた(それ故、ウイルスカプシド内で保護された)HBV DNAを除き、全てのDNAおよびRNAを破損することができる条件下で実施する。例えば、消化工程(1)は、細胞をPBSで洗浄し、抽出バッファー(25mM Tris、0.5mM CaCl2、2.5mM MgCl2、pH 8、0.4mg/ml DNAse、0.4mg/ml RNAse、1% NP40)を、すなわち30mm2当り50μl(96穴形式)で添加することによって実施することができる。DNAseおよびRNAseを用いた処理は、37℃で1時間続けることができる。
【0117】
培養の間に産生し、ウイルスカプシド内で保護されたウイルスDNAは、抽出バッファーのアルカリ化により(例えば、NaOHの添加によって、すなわち50μlの抽出バッファー当り15μlの0.4M溶液で)ウイルスカプシドを変性させることによって、好ましくは、pHを12より大きくして、工程(2)において抽出させる(Newman et al., 2003)。この変性は、例えば37℃で30分間実施することができる。
【0118】
変性工程(2)は、中和バッファー(例えば、15μlの1M Tris(pH 7))を添加することによって停止することができる。
【0119】
本明細書に開示する抽出方法は、非常に迅速であり(2時間未満)、任意の特定の(珍しいまたは高価な)材料または製品を必要としない。
【0120】
1つの実施態様によれば、患者の生物学的サンプルに存在するHBV種の集団または亜集団の複製能力は、HBV複製を妨げることができる薬剤の非存在下で培養した細胞によって産生し、抽出したウイルスDNAを定量することにより求まる。従って、HBV複製を妨げることができる薬剤の非存在下で培養した細胞によって産生したウイルスDNAの定量は、前記生物学的サンプルに存在するHBV種の集団または亜集団の複製能力の指標である。
【0121】
他の実施態様によれば、患者の生物学的サンプルに存在するHBV種の集団または亜集団の、ウイルス複製に影響を与える薬剤に対する耐性または感受性は、更に、HBV複製を妨げることができる高濃度の薬剤の存在下および非存在下で培養した細胞によって産生した抽出ウイルスDNAを定量し比較することにより求まる。
【0122】
好ましくは、複製能力は、前記ウイルス複製に影響を与える薬剤に対する耐性を有さないことが知られているリファレンス種の複製能力と比較する。このようなリファレンス種は、当業者に容易に知られている。適切なリファレンス種の例には、任意の遺伝子型D、全ての既知の変異についての野生型の遺伝子型を有する血清型aywまたは非治療の患者に存在する任意のウイルスを含む。例えば、増幅産物を用いてトランスフェクトした細胞によって産生されるウイルスDNAの測定によって、生物学的サンプルに存在するHBV種の集団または亜集団によるウイルスDNAの産生に対する、HBV複製を妨げることができる薬剤のIC50を求めることが可能となる。このIC50値は、前記HBV複製を妨げる薬剤が、HBV複製を50%阻害する濃度を同定することによって求めることができる。これは、ウイルスDNAおよび/またはタンパク質の量が50%まで減少する濃度を求めることによって、成し遂げることができる。
【0123】
このIC50値は、HBV複製に対して許容であるが、HBV複製を妨げることができる薬剤に対する耐性を有さないリファレンスウイルスでトランスフェクトされたヒト起源の細胞について測定したIC50値と比較することができる。リファレンスウイルスでトランスフェクトした細胞で測定したIC50値と比較して、本発明による増幅産物でトランスフェクトした細胞で測定したIC50値が増加するということは、患者の生物学的サンプル中に、HBV複製を妨げることができる薬剤に耐性を示すHBV種の集団または亜集団の存在を示す。この耐性に関する表現型解析は、複数の抗ウイルス剤を用いて繰り返して、患者が感染しているHBV種の耐性パターンを求めることができる。耐性に関する表現型解析の知識は臨床的な意義を有する、なぜならば、示された耐性のパターンを参考に、患者の治療を適合することが可能であるからである。
【0124】
ウイルスDNAの定量は、当業者に良く知られた、このウイルスを定量する任意の手法によって実施することができる。しかしながら、DNA定量は、好ましくは、遺伝子型が何であれHBVの特異的な定量を可能とするプライマーを用いて、リアルタイムPCRを使用することによって実施される。
【0125】
有利には、リアルタイムPCR手法による定量のための一対のプライマーにより、全ての既知のHBV遺伝子型(AからH)のDNAを定量することが可能となる。このようなプライマーは、好ましくは、以下の特徴を有する:
(i) プライマーは、遺伝子型とは無関係に、HBVゲノム全体の90%に相当する共通配列と100%の相同性を有する;
(ii) プライマーは、1個以内の塩基を例外に、HBVゲノム全体の98%に相補性を有する;および
(iii) プライマーにより、リアルタイムPCR定量が可能となる、すなわち:
(1) プライマーにより、200塩基対より短い長さの増幅産物を増幅することが可能となる;および
(2) プライマーにより、定量を妨げるプライマーダイマーまたは二次DNA構造のダイマーを形成しない。
【0126】
好ましい実施態様によれば、リアルタイムPCRによるDNA定量に使用する一対のプライマーは、以下で定義する配列番号46および配列番号47、配列番号46および配列番号48、ならびに配列番号49および配列番号50からなる群から選択される。
【0127】
最初の塩基の場所は、配列番号1をナンバリングした位置に従って示される:
対A:
センス配列:5'-(254)TCG TGG TGG ACT TCT CTC A-3'(配列番号46)
アンチセンス配列:5'-(393)AAA CGC CGC AGA CAC ATC-3'(配列番号47)
対B:
センス配列:5'-(254)TCG TGG TGG ACT TCT CTC A -3'(配列番号46)
アンチセンス配列:5'- (427)GAG GCA TAG CAG CAG GAT-3'(配列番号48)
対C:
センス配列:5'- (374)TGG ATG TGT CTG CGG CGT T-3'(配列番号49)
アンチセンス配列:5'- (477)GGA CAA ACG GGC AAC ATA-3'(配列番号50)
【0128】
より好ましくは、プライマーは、以下の特徴を有する:
(i) プライマーは、1個以内の塩基を例外に、HBVゲノム全体の98%に相補性を有する;
(ii) プライマーは、エンハンサーI領域の内部の、すなわち、配列番号1で示されるHBVゲノムのヌクレオチド1175から1285の間の領域中のHBVゲノムに位置する;および
(iii) プライマーにより、リアルタイムPCR定量が可能となる、すなわち:
(1) プライマーにより、100塩基対より短い長さの増幅産物を増幅することが可能となる;および
(2) プライマーにより、定量を妨げるプライマーダイマーまたは二次DNA構造のダイマーを形成しない。
【0129】
好ましい実施態様によれば、これらのプライマーは、以下の配列を有する:
センス配列:5'-(1186)GCT GAC GCA ACC CCC ACT-3'(配列番号51)
アンチセンス配列:5'- (1283)AGG AGT TCC GCA GTA TGG-3'(配列番号52)
【0130】
DNAの量は、一般的なDNA染色を使用して、例えば、dsDNAに結合すると蛍光を発するSYBR Green(Molecular Probes)を使用して、増幅の各サイクルの後に測定する。
【0131】
本発明は、更に、HBV核酸を定量するためのキットであって、
- 前記した少なくとも一対のプライマー;
- HBV核酸を増幅するための手段
を含むキットを提供する。
【0132】
好ましい実施態様によれば、前記一対のプライマーは、配列番号46および配列番号47、配列番号46および配列番号48、配列番号49および配列番号50、ならびに配列番号51および配列番号52からなる群から選択される。
【0133】
好ましくは、HBV核酸を増幅するための手段は、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応によって増幅するための手段である。
【0134】
本明細書で提示したリアルタイムPCR定量方法は、同じ効率で全てのHBV遺伝子型を定量することができる。このリアルタイムPCR定量は、約1時間続ける。50%阻害濃度(IC50)は、薬剤無しで得られた複製に関する定量によって計算される。薬剤無しの複製レベルは、患者のウイルス集団のin vitroでの複製能力に対応し、リファレンスの野生型種の複製能力と比較する。
【0135】
これらの新規の開発により、今や、ハイスループット形式で、ウイルス粒子の抽出および3時間より短い時間でのリアルタイムPCRによる定量が可能となった。
【0136】
ウイルス産生を定量するために以前に使用していた手法(サザンブロッティング)は、制限された数のサンプルで、培養でHBV複製の充分なレベルを得るのに2週間より長い期間が必要であった。
【0137】
本発明を、以下の図および実施例により、更に説明する。
【実施例】
【0138】
(実施例1:臨床分離株の増幅の効率)
本発明の方法により、効率的なPCR増幅が可能となる。
【0139】
ゲノム全体の増幅プロトコールは、好ましくは、Roche High Fidelity enzymeを用いて実施され、以下の工程からなる:
+ ホットスタート工程:94℃で3分間;1分後に酵素を添加;
+ 40サイクル:
- 94℃で40秒間
- 55℃で(最初の10サイクル)、そして60℃で(残り10サイクル)、その後62℃で(残り20サイクル)1分30秒間
- 68℃で3分間(各10サイクル後は+2分);
+ 68℃で10分間の工程。
【0140】
このプロトコールは、Nar I部位に特異的なプライマーを用いて実施することができる(センス配列 配列番号44、アンチセンス配列 配列番号45)。
【0141】
(実施例2:ウイルス複製のより良いレベル)
本発明の方法により、方法1(Gunther)よりも良いレベルのウイルス複製が得られる。
【0142】
Nar I部位の導入を用いた実施例1で示すように、本発明による、HBVゲノム全体を増幅する方法により、(方法2とは異なり)キメラゲノムを生じることなく、患者に存在する全体のウイルス集団を得ることを可能とする。このNar I部位の導入が、この領域に含まれる唯一のタンパク質:Xタンパク質に如何なるアミノ酸変異をもたらさないことが証明された。加えて、本発明により増幅されたゲノムは、通常、培養上清においてウイルスタンパク質、例えば、市販のキット(BIO-RAD LaboratoriesのMonolisa Ag HBe and HBs)を市販してアッセイされるHBsおよびHBe抗原を産生する。
【0143】
増幅を実施してから、Nar I酵素を用いた消化およびトランスフェクション後に、得られる複製レベルを調べたところ、本発明による方法で産生されたコンストラクトを用いれば、得られる複製レベルは、Guntherの方法を用いて得られるレベルよりも高いことが見出された。
【0144】
様々な遺伝子型(A、CおよびD)の患者に由来する血清を使用することにより、一般的な培養およびサザンブロットによる可視化からなる形式においては、本発明の方法を用いて増幅させたゲノム全体の複製レベルは、系統的に、Guntherの方法を用いて増幅させたレベルよりも高いことが確認された(図3)。
【0145】
複製の増加は、本発明のウイルス複製定量方法(ハイスループット形式およびリアルタイムPCR)を使用して確認し、産生され培養上清へと遊離するウイルスタンパク質の系統的な増加とも相互に関連していた(表1)。
【0146】
【表1】

【0147】
複製と直接的に相関関係を有するHBe抗原は、新規の方法により、発現が増した。この抗原については、遺伝子型Gに慢性的に感染した患者のように、臨床的にHBeネガティブである患者で検出されるという問題が生じる危険が存在する。
【0148】
それ故、本発明によるHBVゲノム全体を増幅する方法は、Guntherの方法の利点(すなわち、患者に存在する全てのゲノムの増幅)を有したまま、キメラウイルスを生じることなく、特にゲノムのより良好な増幅が得られる。
【0149】
新規の方法を用いた複製では、一般的なGuntherの方法で得られるよりも、2.5倍(遺伝子型D)から7倍(遺伝子型C)高くなった。
【0150】
このより良好な複製に加えて、Nar I部位を用いて実証したように、この複製方法は、Guntherによって使用されたSap I部位よりも、開示されたHBVゲノムにおいて3倍頻度が低い(Nar I酵素については、開示された971配列のうち5個の切断部位であるのに対して、Sap I酵素については16個の切断部位)特徴的な切断部位を導入するという利点を有する。この利点により、HBVの全てのウイルス種を実質的に調べることが可能となり、内部Nar I部位を有するHBVゲノムを得るという危険を著しく制限することができる(Nar I部位についてはゲノムの0.5%であるのに対して、Sap I部位についてはゲノムの1.5%)。
【0151】
(実施例3:ハイスループットを用いた表現型解析アッセイ、遺伝子型解析および複製能力定量)
本発明の方法により、より迅速で、より高感度で、より再現性が高く、患者に由来する多量のサンプルにより容易に適合させることができる表現型解析アッセイを実施することが可能となる。同時に、患者の血清に含まれている擬似種の遺伝子型解析および複製能力の評価を、同じ増幅産物で実施することができる。
【0152】
患者に存在する全てのウイルスゲノムを増幅する新規の方法、および、ハイスループット表現型解析に適した形式で、培養および抽出工程を実施することを可能とする様々な技術的利点により、治療モニタリングしている様々な患者に由来する6つのサンプルの分析を実施した。
【0153】
患者、ウイルス量、進行中の治療、治療モニタリングに関連したデータは、実験の最初には知られていなかった。
【0154】
分析した6つのサンプルに加えて、コントロールを含めた。このコントロールは、リファレンスHBVである、ayw血清型および全ての試験した薬剤について野生型の表現型を有する遺伝子型Dのゲノムである。このゲノムを、プラスミドを使用して分析したサンプルと同じ手法によって増幅させた。
【0155】
[実験方法]
- 1mlの血清に由来するDNAを、QIAamp Ultrasens Virus kit(Quagen)を使用して抽出して、60μlの水に加えた。
- Nar I部位を含む本発明の方法による全ゲノムの増幅を実施し、得られた増幅産物を、シリカカラム(Qiagen kit, Qiaquick purification kit)によって精製した。
【0156】
サブゲノムPCRを、これらの増幅産物に対して実施して、ラミブジンおよびアデフォビルを用いた治療の間において観察される耐性を付与する既知の変異のプロファイルが得られるINNOLiPA分析(Lok et al., 2002)を実施した。加えて、1つのサンプルについては(N°19)、アデフォビルに対する耐性に関与するN236T変異を探索するために(Angus et al., 2003; Villeneuve et al., 2003)、表現型解析および遺伝子型解析(INNOLiPA)について使用したのと同じ増幅産物に、ダイレクトシークエンシングを実施した。INNOLiPA分析については、変異は、HBVポリメラーゼのアミノ酸配列を参照に示される。
【0157】
その後、増幅産物を、Nar I酵素を用いて消化し、前記と同じ方法によって精製した。
【0158】
これらの増幅産物を、25cm2のフラスコへのcm2当り5.2×104の細胞の密度で前日に行った播種を含む培養形式で、cm2当り200から400ng増幅産物でトランスフェクトした。
【0159】
60時間後、細胞をトリプシン処理し、その後DNAseで処理した。トリプシン処理後、細胞を、2倍に濃縮したDNAse Iを含むDNAseバッファー(50mM Tris, 1mM CaCl2, 5mM MgCl2, pH 8, 400μg/mlのDNAse I)を用いて50/50で補った培養培地へと添加し、37℃で45分間インキュベートした。ペレット形成後、細胞を培養培地に添加し、試験すべき薬剤を用いた処理のために使用する最終濃度の半分に対応する容量で、cm2当り6×104の細胞密度で、コラーゲンを用いてコーティングした96穴培養プレート(BioCoat)へと分配した。この容量は、2倍の濃度範囲の試験すべき薬剤(ラミブジンおよびアデフォビル)で完成させた。
【0160】
使用した範囲は、ラミブジンについては100から0.01μMであり、アデフォビルについては100から6.25μMであった。これらの培地を、4日間、これら希釈物を用いて処理した。
【0161】
4日間の処理の最後に、ウイルスDNAを抽出した。
【0162】
この工程を、PBSを用いて細胞を洗浄し、抽出バッファーを、すなわち30mm2当り50μlで(96穴形式)(25mM Tris, 0.5 mM CaCl2, 2.5 mM MgCl2, pH 8, 0.4 mg/ml DNAse, 0.4mg/ml RNAse, 1% NP40)添加した後に実施した。Heidolph Titramaz 1000 plate mixer上で、約1050rpmの回転速度で攪拌させて、溶菌を1時間37℃で継続した。
【0163】
溶菌およびDNAseおよびRNAseを用いた消化の工程後においては、培養の間に産生したウイルスDNAは、ウイルスカプシド内で保護されたままである。その後、このDNAを、NaOHの添加による抽出バッファーをアルカリ化させて(すなわち、50μlの抽出バッファー当り15μlの0.4M溶液)、ウイルスカプシドの変性によって抽出した。この変性を、DNAseを用いた処理の間と同じ攪拌条件下(すなわち、Heidolph Titramaz 1000 plate mixer上で、約1050rpmの回転速度)で、37℃で30分間実施した。
【0164】
その後、この変性工程を、中和バッファー(15μlの1M Tris, pH 7)を添加することによって停止し、このようにして得られた溶液を、希釈して、リアルタイムPCRによる定量に供した。最終希釈率は、最初の抽出バッファーに対して1/5、すなわち96穴方式で170μlの水を添加した。
【0165】
その後、抽出したウイルスDNAを、リアルタイムPCR定量方法によって定量した。
【0166】
HBV産生定量工程は、アッセイに供する細胞溶菌液を精製または濃縮する必要なく、前工程後に直接実施することができる。リアルタイムPCRは、培養形式と同じ形式で、すなわち、Biorad MyiQ装置上の96穴形式で、リアルタイムキットおよびこの装置に適した消耗品(すなわち、iQ(商標)Sybr(登録商標)Green Supermix two-times concentrated PCR mix)を使用して実施することができる。使用したリアルタイムPCRのプロトコールは、ホットスタートによるポリメラーゼの活性化後に最大でも40サイクルの二工程、すなわち、95℃で3分間(装置のホットスタートおよびキャリブレーション)、95℃で15秒間の変性工程、63℃で20秒間のアニーリング工程(定量工程)、および63℃で1分間の最終伸長工程からなる40サイクルのプロトコールである。最終的な反応容量は、12.5μlのiQ(商標)Sybr(登録商標)Green Supermix、1μlの各プライマー(7.5μM、配列番号51および配列番号52)(すなわち、最終濃度300nM)、5.5μlの水および5μlのテストサンプルからなる25μlであった。
【0167】
この定量の総時間は、約1時間である。
【0168】
アッセイした各プレートについては、106から102 HBVコピー/反応の標準曲線を、並行して定量した。この標準曲線は、吸光度アッセイによって求めた既知の濃度のクローン化HBVゲノム(ayw、遺伝子型D)を用いて調製した。
【0169】
これらの条件下、リアルタイム増幅の有効性は、常に、95から105%の間であり、標準曲線は、常に0.99より高い直線性の相関係数を有していた。この直線性は、更にその上、反応当り108から10のコピーの濃度範囲にわたって有効であった。
【0170】
各ポイントについて、n=4で、リアルタイムPCRによって分析した。
【0171】
血清に由来するDNAの抽出から結果が得られるまでの分析の総時間は、10日間であった。
【0172】
[結果]
ラミブジンおよびアデフォビルについてのこれらのサンプルのIC50値(表2)を、リファレンス野生型ウイルス(遺伝子型D、ayw、これらの薬剤についての既知の変異を有さない)を用いて得られたIC50値と比較し、in vitro耐性を求めた。
【0173】
この分析後、これらのサンプルについての臨床データを得て、in vitro表現型解析の結果と比較した(表2)。遺伝子型解析は、INNOLiPAによって、これらの同じサンプルで実施した。この分析のために、サブゲノム増幅産物を産生し、Innogeneticsによって明示したようにハイブリダイズさせた。
【0174】
最終的に、複製能力の評価は、表現型解析の非処理の時点として、すなわち、ラミブジンまたはアデフォビルの非存在下で培養したトランスフェクト細胞によって産生するHBVウイルスDNAとして求めた。このウイルスゲノムのin vitroでの複製は、天然のHBVプロモーターによって行われるので、このin vitroでの複製能力の評価は、in vivoの場合に非常に近接したものである。複製能力の結果を、表2にまとめる。
【0175】
【表2】

【0176】
本発明による表現型解析によって得られたデータは、これらの様々な患者における臨床的観察およびINNOLiPA遺伝子型解析と一致している。遺伝子型解析と表現型解析との間の一致により、共通の増幅産物を使用して2つの分析を実施できるという利点が示されたことに注目すべきである。
【0177】
ラミブジンおよびアデフォビルに対して二重耐性を有するポイント19について、INNOLiPA分析では、アデフォビルに対する感受性を低下させることに関連している前記の変異:A181V(Bartholomeusz et al., 2004)が存在することが示されたが、変異N236Tは存在していない。ダイレクトシークエンシングによる後者の変異についての試験結果は、ネガティブであった。更にその上、この患者においては、ラミブジンに対するより低い耐性は、L180M変異と関連していた。
【0178】
結論として、本明細書に記載のHBVゲノムを増幅する方法および表現型解析を実施するための形式により、多くのサンプルについて、迅速に(10日以内に)、患者に存在するウイルス集団の表現型解析を得ることを可能とする。
【0179】
この分析した集団は、増幅の間に如何なるキメラウイルスを産生することなく、患者に存在する擬似種を反映しており、このことにより、表現型解析について、ゲノムに存在する全ての変異を考慮に入れていることを保障している。
【0180】
この分析は、現在臨床において利用可能な薬剤、または、前臨床開発の薬剤を用いて実施することができ、将来的に利用可能な全ての薬剤を用いて実施することができる。
【0181】
更にその上、表現型解析に使用した増幅産物は、本明細書で開示した試験で行ったように、遺伝子型解析に直接使用することができることに注目すべきである。
【0182】
[参考文献]




【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】図1は、一対のプライマーが、ギャップ領域の外側の任意のHBV領域にハイブリダイズする、本発明によるHBVゲノム増幅産物を調製する方法を図示するものである。
【図2】図2は、一対のプライマーが、HBVギャップ領域にハイブリダイズする、本発明によるHBVゲノム増幅産物を調製する方法を図示するものである。
【図3】図3は、12穴形式およびサザンブロッティングによる分析において、Guntherの方法(Sap I部位を使用)との比較により、本発明の方法の増幅を用いて複製レベルが増幅したことを示す。遺伝子型D、AおよびCは、患者に由来する。Sap:Guntherの方法。Nar:Nar I部位の導入を用いた本発明の方法。矢印および四角:イントラカプシドHBVの緩和した環状形態。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の生物学的サンプルから、HBVゲノム増幅産物を調製する方法であって、
a) 生物学的サンプルからHBV核酸を抽出する工程;
b) 完全なHBVゲノムを含む増幅産物を得るように選択され、且つ、全ての遺伝子型のHBVゲノムの共通配列内に存在しない、または1つだけ存在する制限酵素部位のコピーを含む一対のプライマーを用いてHBV核酸を増幅する工程であって、前記制限酵素部位とは、制限酵素によって、前記制限酵素についての認識配列内で切断される部位である工程;
c) 増幅産物を、前記制限酵素部位を切断する制限酵素を用いて消化する工程;および
d) 場合によっては、消化した増幅産物を精製する工程
からなる工程を含む方法。
【請求項2】
前記プライマーが、配列番号1のヌクレオチド部位1800から1850によって定義されるHBVギャップ領域に相補的なヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記制限酵素部位が、全ての遺伝子型のHBVゲノムの共通配列に存在せず、前記制限酵素部位が、全てのHBV配列が実質的に存在しておらず、および/または、HBVゲノム配列中に3個を超えるヌクレオチドの変化を導入しない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記制限酵素部位が、BssH II、Cla I、Mlu I、Nhe I、Not I、PvuI、Rca I、Sun I(BsiW I)およびNar Iからなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記プライマーが、Nar I制限酵素部位のヌクレオチド配列(配列番号41)およびHBVギャップ領域に相補的なヌクレオチド配列を含む、請求項2から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記プライマー対が、
配列番号42および配列番号43、
配列番号44および配列番号45、
配列番号11および配列番号12、
配列番号14および配列番号15、
配列番号18および配列番号19、
配列番号22および配列番号23、
配列番号26および配列番号27、
配列番号30および配列番号31、
配列番号34および配列番号35ならびに
配列番号38および配列番号39
からなる群から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記プライマー対が、配列番号42および配列番号43である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記プライマー対が、配列番号44および配列番号45である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(d)で得られた増幅産物を、原核生物または真核生物ベクターへクローニングし、クローニングした増幅産物を増幅および/またはウイルスの亜集団の増幅産物を選択し、増幅および/または選択した増幅産物をベクターから抽出することからなる更なる工程(e)を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法によって得られるHBVゲノム増幅産物。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法の工程(d)で得られた増幅産物を含む真核または原核生物ベクター。
【請求項12】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法によって得られる増幅産物を遺伝子型解析することからなる工程を含む、患者の生物学的サンプルに存在するHBV種の遺伝子型を解析する方法。
【請求項13】
患者の生物学的サンプルに存在するであろうHBV種の集団または亜集団の複製能力を求め、および/または、ウイルス複製を妨げることができる薬剤に対する前記種の耐性を求める方法であって、前記方法が、
a) 請求項1から9のいずれか一項に記載の方法によって得られた増幅産物を、場合によっては、HBV複製を妨げることができる薬剤の存在下で、HBV増幅に対して許容であるヒト起源の細胞へとトランスフェクトする工程、
b) 場合によっては、DNAseを用いて前記細胞を処理する工程、
c) 場合によっては、HBV複製を妨げることができる薬剤の濃度を上げて、前記細胞を培養する工程、
d) 前記培養した細胞によって産生されるウイルスDNAおよび/またはタンパク質を抽出する工程、ならびに
e) 抽出したウイルスDNAおよび/またはタンパク質を定量する工程
からなる工程を含む方法。
【請求項14】
前記生物学的サンプルに存在するHBV種の集団または亜集団の複製能力を、HBV複製を妨げることができる前記薬剤の非存在下で培養した細胞によって産生し、抽出したウイルスDNAを定量することによって求める、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ウイルス複製を妨げることができる薬剤に対する、前記生物学的サンプルに存在するHBV種の集団または亜集団の耐性を、HBV複製を妨げることができる前記薬剤の存在下および非存在下で培養した細胞によって産生し、抽出したウイルスDNAを定量し比較することによって求める、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
HBV複製に対して許容であり、前記増幅産物でトランスフェクトしたヒト起源の前記細胞によるウイルスDNAの産生に対する、HBV複製を妨げることができる薬剤のIC50値を、HBV複製に対して許容であるが、HBV複製を妨げることができる薬剤に対する耐性を有さないリファレンスウイルスでトランスフェクトしたヒト起源の他の前記細胞で測定したIC50と比較し、
リファレンスウイルスでトランスフェクトした細胞で測定したIC50値と比較して、増幅産物でトランスフェクトした細胞で測定したIC50値が増加することが、HBV複製を妨げることができる薬剤に耐性を示すHBV種の集団または亜集団の存在を示す、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記in vitroでHBV複製を妨げることができる薬剤が、ラミブジン、アデフォビル、エンテカビル、エムトリシタビン、クレブジン、テルビブジン、テノフォビル、エルブシタビン、これらの組み合わせ、および、これらの前記薬剤とHBV複製を妨げるようである他の薬剤との組み合わせからなる群から選択される、請求項13から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記抽出したウイルスDNAを、
配列番号51および配列番号52、
配列番号46および配列番号48、
配列番号49および配列番号50、ならびに
配列番号46および配列番号47
からなる群から選択される一対のプライマーを使用したリアルタイムPCRによって定量する、請求項13から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
配列番号42および配列番号43、
配列番号44および配列番号45、
配列番号11および配列番号12、
配列番号14および配列番号15、
配列番号18および配列番号19、
配列番号22および配列番号23、
配列番号26および配列番号27、
配列番号30および配列番号31、
配列番号34および配列番号35ならびに
配列番号38および配列番号39
からなる群から選択される一対のプライマー。
【請求項20】
配列番号51および配列番号52、
配列番号46および配列番号48、
配列番号49および配列番号50、ならびに
配列番号46および配列番号47
からなる群から選択される一対のプライマー。
【請求項21】
患者の生物学的サンプルからHBVゲノム増幅産物を調製するためのキットであって、
- 請求項19に記載の少なくとも一対のプライマー;
- HBV核酸を増幅する手段
を含むキット。
【請求項22】
HBV核酸を定量するためのキットであって、
- 請求項20に記載の少なくとも一対のプライマー;
- HBV核酸を増幅するための手段
を含むキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−531036(P2008−531036A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−557612(P2007−557612)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【国際出願番号】PCT/IB2006/000410
【国際公開番号】WO2006/090262
【国際公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(507287146)ユーロフィンズ・ヴァイラリアンス・インコーポレーテッド (1)
【出願人】(507241492)アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム) (9)
【Fターム(参考)】