説明

抗ウイルス性塗料および抗ウイルス性塗料が塗布乾燥された部材

【課題】従来よりも短時間で、かつエンベロープの有無にかかわらずウイルスを不活化することができる抗ウイルス性を有する塗料、および、当該塗料が塗布乾燥された部材を提供する。
【解決手段】一価の銅化合物をウイルスを不活化する有効成分として含むことを特徴とする抗ウイルス性塗料、および、該抗ウイルス性塗料を塗布乾燥してなることを特徴とする繊維構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンベロープの有無に関わらず、様々なウイルスに高い効果を発揮する一価の銅化合物を有効成分として含有する抗ウイルス性を有する塗料およびこの抗ウイルス性塗料が塗布乾燥された部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、病院、養護施設等の建物、備品、医療機器等に、菌やウイルスの感染防止のため、抗菌剤、消毒剤、抗ウイルス剤が使用されている。さらに近年、SARS(重症急性呼吸器症候群)やノロウイルス、鳥インフルエンザなどウイルス感染による死者が報告されている。現在、交通の発達やウイルスの突然変異によって、世界中にウイルス感染が広がる「パンデミック(感染爆発)」の危機に直面している。そのため、一般の公共施設のみならず様々な部材に抗ウイルス性能を付与することが望まれている。
【0003】
ここでウイルスは、脂質を含むエンベロープと呼ばれている膜で包まれているウイルスと、エンベロープを持たないウイルスに分類できる。エンベロープはその大部分が脂質からなるため、エタノール、有機溶媒、石けんなどで処理すると容易に破壊することができる。このため、インフルエンザウイルスのようにエンベロープを持つウイルスは不活化(ウイルスの感染力低下または失活)が容易であるのに対し、ノロウイルスなどのエンベロープをもたないウイルスは上記の処理剤への抵抗性が強いと言われている。
【0004】
これらの問題を解決するものとして、有機系抗ウイルス剤は、特定のウイルスに対してしか効果がなく、さらに効果の持続性についても問題があることから、無機系抗ウイルス剤を用いた塗料が報告されている。例えば、カルシウムやマグネシウムの酸化物または水酸化物を含む抗ウイルス成分を含有する塗料(特許文献1)や、無機酸化物に金属イオンを担持した微粒子を含有する塗料(特許文献2)が報告されている。
【特許文献1】特開2007−106876号公報
【特許文献2】特開2003−221304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カルシウムやマグネシウムの酸化物または水酸化物を用いる方法では、抗ウイルス成分の含有量が塗料樹脂成分に対して50質量%以上と多量でないと抗ウイルス性の発現が困難である。このように多量カルシウムやマグネシウムの酸化物または水酸化物に含有させた場合、塗料の塗布乾燥によって形成される塗膜は硬くなり、使用用途が限られる。また、無機酸化物に金属イオンを担持した微粒子を含有する塗料の場合、金属イオンを他の物質と混合することによって安定化させることが必要であるため、その組成物に含まれる銅イオンの割合が制限されてしまう。つまり、金属イオンの安定剤を含むことが必須となるため、組成物設計の自由度が小さい。また、どちらの方法の塗料にしても、エンベロープを持つインフルエンザのみしかその有効性が示されていない。
【0006】
そこで本発明は、上記課題を解決するために、従来よりも短時間で、かつエンベロープの有無にかかわらずウイルスを不活化することができる抗ウイルス性を有する塗料、および、当該塗料が塗布乾燥された部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、第1の発明は、一価の銅化合物を、ウイルスを不活化する有効成分として含むことを特徴とする抗ウイルス性塗料である。
【0008】
さらに、第2の発明は、上記第1の発明において、一価の銅化合物が塩化物、酢酸物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、酸化物、水酸化物、シアン化物、チオシアン酸塩、またはそれらの混合物であることを特徴とする抗ウイルス性塗料である。
【0009】
さらに、第3の発明は、第2の発明において、一価の銅化合物が、CuCl、Cu(CH3COO)、CuI、CuBr、Cu2O、CuOH、Cu2S、CuCN、およびCuSCNからなる群から少なくとも1種類選択されることを特徴とする抗ウイルス性塗料である。
【0010】
第4の発明は、上記第1から第3のいずれかの発明において、塗料中の不揮発成分の全量に対する一価の銅化合物の含有量が、0.1質量%から60質量%であることを特徴とする抗ウイルス性塗料である。
【0011】
第5の発明は、上記第1から第4のいずれかの発明の抗ウイルス性塗料を塗布乾燥してなることを特徴とする繊維構造体である。繊維構造体は、公知のものを用いることができ、例えば、空調用フィルタ、ネット、網戸用ネット、寝具、衣類、マスクとすることができる。また、本発明の抗ウイルス性塗料は、例えば、フィルムまたはシート、に塗布することもできる。さらに、パネル、建装材、内装材といった成形体に塗布できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の塗料に含まれる一価の銅化合物は、脂質を含むエンベロープと呼ばれる膜で包まれているウイルスや、エンべロープを持たないウイルスなど様々なウイルスが接触した場合に、該接触したウイルスを不活化することができる。したがって本発明によれば、塗布乾燥するだけで様々な製品に高い抗ウイルス性能を付与できる抗ウイルス性塗料、および当該抗ウイルス塗料が塗布乾燥されたことにより抗ウイルス性が付与された製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の抗ウイルス性塗料は、一価の銅化合物を、ウイルスを不活化する有効成分として含むことを特徴とする。
【0014】
有効成分である一価の銅化合物の種類については特に限定されないが、塩化物、酢酸物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、酸化物、水酸化物、シアン化物、チオシアン酸塩、またはそれらの混合物からなることが好ましい。このうち、一価の銅化合物が、CuCl、Cu(CH3COO)、CuI、CuBr、CuO、Cu2S、CuOH、CuCN、およびCuSCNからなる群から少なくとも1種類選択されることが一層好適である。
【0015】
含有される一価の銅化合物の大きさは特に限定されないが、平均の粒子径が500μm以下の微粒子とすることが好ましい。平均粒子径が500μmより大きくなると、単位質量あたりの粒子表面積が小さくなることから、500μm以下である場合に比べて、抗ウイルス効果が低減する場合がある。また、500μm以下である場合に比べて、基体に塗布乾燥させた場合に、表面が本来有する質感を損ねたり、また、一価の銅化合物の基体への固着強度が弱くなるため、摩擦力などにより基体から剥離・脱落しやすくなる。さらに、塗布対象の1つであるフィルターやネットなどの繊維構造体やシート或いはフィルムなどでは、その使用環境や時間の経過により、繊維やシートなどの基材表面に形成した一価の銅化合物を含む塗膜が剥離する場合がある。よって、塗膜の密着強度を考慮すると、一価の銅化合物の平均粒子径は10nm以上1μm以下であることが特に好ましい。
【0016】
本実施形態の塗料は、塗膜形成剤と必要に応じた溶剤とを含有する塗料とすることができる。具体的には、油性塗料、酒精塗料、セルロース塗料、合成樹脂塗料、水性塗料、ゴム系塗料などが挙げられる。なお、本実施形態の塗料について、溶剤に一価の銅化合物および塗膜形成剤が分散または溶解しているときの全塗料に対する一価の銅化合物および塗膜形成剤の割合は特に限定されず、塗料の用途等に応じて適宜変更可能である。また、後述する添加剤や顔料を含む場合も同様に適宜変更可能である。さらに、本実施形態における各成分の混合方法も特に限定されず、例えば公知の方法によって行うことができる。
【0017】
また、本実施形態の塗料は塗膜形成剤としてバインダー成分を含有するようにしてもよい。バインダー成分とは塗料が固まる基になる成分であり、ビヒクルとも呼ばれる。本実施形態において、特に限定されないが、例えば合成樹脂では、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、水溶性樹脂、ビニル系樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、繊維素系樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、天然樹脂としては、ひまし油、亜麻仁油、桐油などの乾性油などを用いることができる。
【0018】
ここで、本実施形態の抗ウイルス性を有する塗料においては、上記一価の銅化合物の含有量は、塗料中の不揮発成分100質量%(全量)に対し、0.1質量%から60質量%の範囲であることが望ましく、10質量%から40質量%であることが一層望ましい。一価の銅化合物の含有量が0.1質量%に満たない場合は、抗ウイルス作用が範囲内にある場合よりも小さくなり、また60質量%を超えると、コストの上昇や塗膜強度の低下の原因となる。
【0019】
また、本発明に用いられる抗ウイルス性塗料には、抗ウイルス性成分およびバインダー成分の他に、必要に応じて溶剤、添加剤、顔料を含んでも良い。
【0020】
溶剤としては、水、メタノール、エタノール、ジ−n−プロピルエーテル、n−ペンテン、ジブチルエーテル、n−ヘキサン、ジエチルエーテル、n−ヘプタン、ジイソブチルケトン、メチルシクロヘキサン、ジイソプロピルケトン、イソブチルクロリド、シクロヘキサン、エチルアミルケトン、酢酸イソブチル、ベンゾニトリル、酢酸イソプロピル、メチルイソブチルケトン、酢酸アミル、酢酸ブチル、酢酸セロソルブ、ジエチルカルボネート、ジエチルケトン、エチルベンゼン、キシレン、ブチルカルビトール、トルエン、酢酸エチル、ダイアセトンアルコール、ベンゼン、クロロホルム、メチルエチルケトン、スチレン、エチルカルビトール、酢酸メチル、アノン、アニソール、セロソルブ、ジエチルアセトアミド、ジエチルカルボネート、ジオキサン、アセトン、メチルイソブチルカルビノール、ニトロベンゼン、アクリロニトリル、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ブタノール、シクロヘキサノール、アセトニトリル、プロピルアルコール、ベンジルアルコール、ブチレンカルボネート、ジメチルホルムアミド、エチレンカルボネート、メチルホルムアミドまたはこれらの混合物などを用いることができる。
【0021】
また、添加剤としては、可塑剤、乾燥剤、硬化剤、皮張り防止剤、平坦化剤、たれ防止剤、防カビ剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、熱線吸収剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、増粘剤、粘性調整剤、安定剤、乾燥調整剤、などがあげられる。さらに、他の抗ウイルス組成物、抗菌組成物、防黴組成物、抗アレルゲン組成物、触媒、反射防止材料、遮熱特性を持つ材料などと混合して使用してもよい。
【0022】
本実施形態の抗ウイルス性を有する塗料では、不活性化できるウイルスについては特に限定されず、ゲノムの種類や、エンベロープの有無等に係ることなく、様々なウイルスを不活化することができる。例えば、ライノウイルス・ポリオウイルス・ロタウイルス・ノロウイルス・エンテロウイルス・ヘパトウイルス・アストロウイルス・サポウイルス・E型肝炎ウイルス・A型、B型、C型インフルエンザウイルス・パラインフルエンザウイルス・ムンプスウイルス(おたふくかぜ)・麻疹ウイルス・ヒトメタニューモウイルス・RSウイルス・ニパウイルス・ヘンドラウイルス・黄熱ウイルス・デングウイルス・日本脳炎ウイルス・ウエストナイルウイルス・B型、C型肝炎ウイルス・東部および西部馬脳炎ウイルス・オニョンニョンウイルス・風疹ウイルス・ラッサウイルス・フニンウイルス・マチュポウイルウス・グアナリトウイルス・サビアウイルス・クリミアコンゴ出血熱ウイルス・スナバエ熱・ハンタウイルス・シンノンブレウイルス・狂犬病ウイルス・エボラウイルス・マーブルグウイルス・コウモリリッサウイルス・ヒトT細胞白血病ウイルス・ヒト免疫不全ウイルス・ヒトコロナウイルス・SARSコロナウイルス・ヒトポルボウイルス・ポリオーマウイルス・ヒトパピローマウイルス・アデノウイルス・ヘルペスウイルス・水痘・帯状発疹ウイルス・EBウイルス・サイトメガロウイルス・天然痘ウイルス・サル痘ウイルス・牛痘ウイルス・モラシポックスウイルス・パラポックスウイルスなどを挙げることができる。
【0023】
本実施形態の抗ウイルス性を有する塗料は、塗布乾燥されることにより、繊維構造体、フィルムやシートのほか、成形体などの様々な形態の表面に一価の銅化合物を含む塗膜が形成された態様とすることができる。本発明の塗料は、公知の方法、例えば、浸漬法、スプレー法、ロールコーター法、バーコーター法、スピンコート法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などの方法で無機基材や有機基材へコーティングすることにより、基材上に塗膜を形成することができる。また、必要に応じて、加熱乾燥などによる溶剤除去や、再加熱、赤外線、紫外線、電子線、γ線などの照射により塗膜を固化させてもよい。なお、本明細書において、乾燥とは、熱を加えて積極的に乾燥させる場合や、自然乾燥させる場合が含まれる。
【0024】
本実施形態の塗料が塗布乾燥されて一価の銅化合物を含む塗膜が形成可能な繊維構造体としては特に限定されないが、例えば織物や不織布などが挙げられ、それらの具体的な応用例としては、マスク、エアコン用フィルター、空気清浄機用フィルター、掃除機用フィルター、換気扇用フィルター、車両用フィルター、空調用フィルター、衣類、寝具や、網戸用ネット、鶏舎用ネットなどのネットが挙げられる。これらの繊維構造体は、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ナイロン、アクリル、ポリテトラフフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、ケブラー、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、レーヨン、キュプラ、テンセル、ポリノジック、アセテート、トリアセテート、綿、麻、羊毛、絹、竹、などの高分子材料や、アルミニウム、鉄、ステンレス、真鍮、銅、タングステン、チタニウムなどの金属からなる繊維で構成されている。
【0025】
また、本実施形態の抗ウイルス性を有する塗料が塗布乾燥される部材は、フィルムやシートとすることもできる。フィルムとしては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリテトラフルオロエチレン、四フッ化エチレン−エチレン共重合体などの樹脂からなるものが挙げられる。また、シートとしては、ポリカーボネート樹脂シート、フィルム塩化ビニルシート、フッ素樹脂シート、ポリエチレンシート、シリコーン樹脂シート、ナイロンシート、ABSシート、ウレタンシートなどの高分子からなるシートやチタニウム、アルミニウム、ステンレス、マグネシウム、真鍮などの金属からなるシートが挙げられる。
【0026】
これらの高分子からなるフィルムやシートの場合、予め、一価の銅化合物を含む塗膜の密着性を高める為に、コロナ処理や大気プラズマ処理、火炎処理などにより親水化されてあればさらに良い。また金属からなるシートでは、表面に付着している圧延用オイルや腐食生成物などを、溶剤や酸、アルカリなどにより除去すれば良い。またシート表面に塗装や印刷などが施されてあっても良い。
【0027】
これらの抗ウイルス性を有する一価の銅化合物を含む塗膜が形成されたシートやフィルムは壁紙や窓、天井、車両用シート、ドア、ブラインド、椅子、ソファー、床材、ウイルスを扱う設備や電車や車などの内装材、病院内などのビル用内装材など、様々な分野に利用できる。
【0028】
さらにまた、本実施形態の抗ウイルス性を有する塗料が塗布乾燥される部材としては、パネルや、建装材、内装材といった成形体とすることもできる。例えば、ABSやポリカーボネート、ナイロン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリエステルなどの高分子からなる成形体が挙げられる。金属の場合では、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、真鍮、ステンレス、チタニウムなどが挙げられる。金属表面には予め電気めっきや無電解めっきなどにより金属の薄膜や塗装、印刷などが施されてあっても良い。筆記具や手すり、吊革、電話機、玩具、ドアノブなどに、本発明の一価の銅化合物を含む塗膜を形成すると、ウイルス感染者が使用した後のそれらの製品や部材に触れても健常者が感染する、といった状況を防ぐことができる。
【実施例】
【0029】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0030】
(抗HA効果による一価の銅化合物における抗ウイルス性評価)
まず、本実施形態の塗料に含まれる、一価の銅化合物の抗ウイルス性を評価した。具体的には、本実施形態で用いる表1に示す一価の銅化合物の粉末を、それぞれPBS(リン酸緩衝水溶液)に10、1質量%となるように調整した懸濁液に、ウイルス液を等量加えることにより抗ウイルス性を評価した。なお、本明細書において、懸濁液濃度とは、懸濁液を構成するヨウ化物や一価の銅化合物と溶媒等の全成分の質量を100%とし、その中の特定成分(例えばヨウ化物や一価の銅化合物)の質量%を意味する。
【0031】
(評価方法)
上記の各MEM懸濁液について、赤血球凝集(HA)の力価(HA価)を定法により、目視にて完全凝集を判定した。対象ウイルスとして、MDCK細胞を用いて培養したインフルエンザウイルス(influenza A/北九州/159/93(H3N2))を用いた。
【0032】
具体的には、まずプラスチック製96穴プレートにウイルス液のPBSでの2倍希釈系列を各々50μL準備した。次に、その各々に対して0.5%ニワトリ血球浮遊液50μLづつを加え、4℃の環境下で60分静置後にHA価を測定した。この時のウイルス液のHA価は256であった。
【0033】
次に、表1に示す各一価の銅化合物について、各々PBSにて懸濁液濃度を10質量%および1質量%に希釈した試料を準備した。2種類の濃度の試料各450μLに、前記のHA価256のウイルス液450μLをそれぞれ加え、マイクロチューブローテーターを用いて攪拌しながら、室温で10分間反応させた。コントロールは、PBS450μLに前記のHA価256のウイルス液450μLを加え、各試料と同様に、マイクロチューブローテーターを用いて10分間攪拌したものとした。
【0034】
その後、超小型遠心機により固形分を沈殿させ、上清を回収しサンプル液とした。このサンプル液のPBSでの2倍希釈系列を各々50μL準備し、その各々に0.5%ニワトリ血球浮遊液を50μL混合し、4℃の環境下で60分静置後にHA価を測定した。測定結果を表2に示した。なお、各一価の銅化合物については試料に等量のウイルス液を加えて評価を行っていることから、反応液中における物質濃度は各々5質量%および0.5質量%となっている。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
表2の結果より、表1に示す全ての一価の銅化合物においてウイルスの不活化効果が見られており、濃度0.5%でHA価が64以下(50%以上のウイルスが不活化)、濃度5%でHA価が16以下(87.5%以上のウイルスが不活化)と、これらの物質の高いウイルス不活化能が確認できた。特にCuCl、CuBr、Cu(CH3COO)の各物質については、本試験でのHA価測定の下限界である99%以上のウイルスを不活化するという、高い効果が確認された。
【0038】
(実施例1)
ポリビニルアルコール(純正化学(株)製、化学用、重合度1500)を加熱しながらイオン交換水に溶解させた。その後、不揮発成分(ポリビニルアルコール+塩化銅(I)粉末)5.0gの量に対して10質量%(0.5g)となるように塩化銅(I)粉末(和光純薬工業株式会社製 和光一級)を加え、更にポリビニルアルコールと塩化銅(I)粉末の加算量が全重量の5.0質量%となるようにイオン交換水を添加した。次に、ビーズミルを用いて塩化銅(I)を平均粒径379nmに粉砕し、実施例1の抗ウイルス性塗料とした。なおここでいう平均粒径とは、体積平均粒子径のことをいう。さらにこの実施例1の抗ウイルス性塗料を、コロナ処理で親水化した厚さ125μmのポリエステルフィルム(東レ(株)製、ルミラー)にバーコーターを用いて塗工し、室温で一晩乾燥させた。
【0039】
(実施例2)
塩化銅(I)粉末を不揮発成分(ポリビニルアルコール+塩化銅(I)粉末)5.0gに対して40質量%(2.0g)とした以外には、実施例1と同様の方法で実施例2の抗ウイルス性塗料を調製し、当該実施例2の塗料を実施例1の場合と同様の方法で塗布乾燥したポリエステルフィルムを作成した。
【0040】
(実施例3)
塩化銅(I)粉末を不揮発成分(ポリビニルアルコール+塩化銅(I)粉末)5.0gに対して0.1質量%(0.005g)とした以外には、実施例1と同様の方法で実施例3の抗ウイルス性塗料を調製し、当該実施例3の塗料を実施例1の場合と同様の方法で塗布乾燥したポリエステルフィルムを作成した。
【0041】
(実施例4)
塩化銅(I)粉末を不揮発成分(ポリビニルアルコール+塩化銅(I)粉末)5.0gに対して0.05質量%(0.0025g)とした以外には、実施例1と同様の方法で実施例4の抗ウイルス性塗料を調製し、当該実施例4の塗料を実施例1の場合と同様の方法で塗布乾燥したポリエステルフィルムを作成した。
【0042】
(実施例5)
塩化銅(I)粉末を不揮発成分(ポリビニルアルコール+塩化銅(I)粉末)5.0gに対して80質量%(4.0g)とした以外には、実施例1と同様の方法で実施例5の抗ウイルス性塗料を調製し、当該実施例5の塗料を実施例1と同様の方法で塗布乾燥したポリエステルフィルムを作成した。
【0043】
(実施例6)
1液型アクリル樹脂塗料(大橋化学工業(株)製、ネオポリナールNo.500)は重量比1:1になるように常温にてシンナーに溶解させた。その後、不揮発成分(アクリル樹脂塗料+塩化銅(I)粉末)5.0gに対して70質量%(3.5g)となるように、ジェットミルで平均粒子径5μmに粉砕した塩化銅(I)粉末を加えた。次に、ホモジナイザーを用いて分散し、実施例6の抗ウイルス性塗料とした。さらにこの実施例6の抗ウイルス性塗料を、厚さ1mmの塩化ビニル板(住友ベークライト(株)社製)にバーコーターを用いて塗工し、70℃で30分乾燥させた。
【0044】
(実施例7)
塩化銅(I)粉末を不揮発成分(アクリル樹脂塗料+塩化銅(I)粉末)5.0gに対して40質量%(2.0g)とした以外は、実施例6と同様の方法で実施例7の抗ウイルス性塗料を調製し、当該実施例7の塗料を実施例6の場合と同様の方法で塗布乾燥した塩化ビニル板を作成した。
【0045】
(実施例8)
塗料を特殊ポリエステル樹脂塗料(大橋化学工業(株)製、ファスタイトNo.140(N))とし、塩化銅(I)粉末を不揮発成分(特殊ポリエステル樹脂塗料+塩化銅(I)粉末)5.0gに対して60質量%(3.0g)とした以外には、実施例6と同様の条件で実施例8の抗ウイルス性塗料を調製し、当該実施例8の塗料を実施例6の場合と同様の方法で塗布乾燥した塩化ビニル板を作成した。
【0046】
(実施例9)
塩化銅(I)粉末を不揮発成分(特殊ポリエステル樹脂塗料+塩化銅(I)粉末)5.0gに対して20質量%(1.0g)とした以外には、実施例8と同様の条件で実施例9の抗ウイルス性塗料を調製し、当該実施例9の塗料を実施例8の場合と同様の方法で塗布乾燥した塩化ビニル板を作成した。
【0047】
(実施例10)
1液型アクリル樹脂塗料(大橋化学工業(株)製、ネオポリナールNo.500)を重量比1:1になるようにシンナーに溶解させた。その後、不揮発成分(アクリル樹脂塗料+よう化銅(I))5.0gに対して70質量%(3.5g)となるように、ジェットミルで平均粒子径170nmに粉砕した市販のよう化銅(I)粉末(和光純薬工業株式会社製 和光一級)を加えた。次に、ホモジナイザーを用いて分散し、実施例10の抗ウイルス性塗料とした。さらにこの実施例10の抗ウイルス性塗料を、厚さ1mmの塩化ビニル板(住友ベークライト(株)社製)にバーコーターを用いて塗工し、70℃で30分乾燥させた。
【0048】
(実施例11)
よう化銅(I)粉末を、不揮発成分(アクリル樹脂塗料+よう化銅(I))5.0gに対して40質量%(2.0g)となるようにした以外は、実施例10と同様の方法で実施例11の抗ウイルス性塗料を調製し、当該実施例11の塗料を実施例10の場合と同様の方法で塗布乾燥した塩化ビニル板を作成した。
【0049】
(実施例12)
塗料を特殊ポリエステル樹脂塗料(大橋化学工業(株)製、ファスタイトNo.140(N))とし、よう化銅(I)粉末を、不揮発成分(特殊ポリエステル樹脂塗料+よう化銅(I))5.0gに対して60質量%(3.0g)となるようにした以外には、実施例10と同様の方法で実施例12の抗ウイルス性塗料を調製し、当該実施例12の塗料を実施例10の場合と同様の方法で塗布乾燥した塩化ビニル板を作成した。
【0050】
(実施例13)
よう化銅(I)粉末を、不揮発成分(特殊ポリエステル樹脂塗料+よう化銅(I))5.0gに対して20質量%(1.0g)となるようにした以外は、実施例12と同様の方法で実施例13の抗ウイルス性塗料を調製し、当該実施例13の塗料を実施例12の場合と同様の方法で塗布乾燥した塩化ビニル板を作成した。
【0051】
(実施例14)
1液型アクリル樹脂塗料(大橋化学工業(株)製、ネオポリナールNo.500)を重量比1:1になるようにシンナーに溶解させた。その後、不揮発成分(アクリル樹脂塗料+酸化銅(I))5.0gに対して70質量%(3.5g)となるように、ジェットミルで平均粒子径430nmに粉砕した市販の酸化銅(I)粉末(和光純薬工業株式会社製 和光一級)を加えた。次に、ホモジナイザーを用いて分散し、実施例14の抗ウイルス性塗料とした。さらにこの実施例14の抗ウイルス性塗料を、厚さ1mmの塩化ビニル板(住友ベークライト(株)社製)にバーコーターを用いて塗工し、70℃で30分乾燥させた。
【0052】
(実施例15)
酸化銅(I)粉末を、不揮発成分(アクリル樹脂塗料+酸化銅(I))5.0gに対して40質量%(2.0g)となるようにした以外は、実施例14と同様の方法で実施例15の抗ウイルス性塗料を調製し、当該実施例15の塗料を実施例14の場合と同様の方法で塗布乾燥した塩化ビニル板を作成した。
【0053】
(実施例16)
塗料を特殊ポリエステル樹脂塗料(大橋化学工業(株)製、ファスタイトNo.140(N))とし、よう化銅(I)粉末を、不揮発成分(特殊ポリエステル樹脂塗料+よう化銅(I))5.0gに対して60質量%(3.0g)となるようにした以外には、実施例15と同様の方法で実施例16の抗ウイルス性塗料を調製し、当該実施例16の塗料を厚さ0.3mmのアルミ板((株)ユーコウ商会製、A1050P)にバーコーターを用いて塗工し、70℃で30分乾燥させた。
【0054】
(実施例17)
酸化銅(I)粉末を、不揮発成分(ポリエステル樹脂塗料+酸化銅(I))5.0gに対して20質量%(1.0g)となるようにした以外は、実施例16と同様の方法で実施例17の抗ウイルス性塗料を調製し、当該実施例17の塗料を実施例16の場合と同様の方法で塗布乾燥したアルミ板を作成した。
【0055】
(比較例1)
ポリビニルアルコールをイオン交換水に5.0質量%となるように溶解させたのち、実施例1と同様の方法により塗工した。
【0056】
(比較例2)
1液型アクリル樹脂塗料は重量比1:1になるようにシンナーに溶解させたのち、実施例6と同様の方法で塗布乾燥した塩化ビニル板を作成した。
【0057】
(比較例3)
特殊ポリエステル樹脂塗料は重量比1:1になるようにシンナーに溶解させたのち、実施例6と同様の方法で塗布乾燥した塩化ビニル板を作成した。
【0058】
(比較例4)
特殊ポリエステル樹脂塗料は重量比1:1になるようにシンナーに溶解させたのち、実施例16と同様の方法で塗布乾燥したアルミ板を作成した。
【0059】
(ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス性評価)
抗ウイルス性は、ノロウイルスの代替ウイルスとして一般によく用いられるネコカリシウイルス(FCV F9株)に対する抗ウイルス性を評価した。まず各サンプル(4cm×4cm)をプラスチックシャーレにいれ、作用ウイルス0.2 mlを添加し、室温で5分間作用させた。このとき試験品の上をフィルムで覆い、ウイルス液と試験品の接触面積を増加させて試験を行った。その後、作用させたウイルス液0.1mlを採取し、MEM培地を使って10倍段階希釈を行い、コンフルエントCrFK細胞に0.1ml接種した。90分間のウイルス吸着後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%COインキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラック数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1ml,Log10);(PFU:plaque-forming units)を算出し、コントロールにおけるウイルス感染価と比較し、ウイルス活性を比較した。
【0060】
(インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス性評価)
次に、インフルエンザウイルス(A/北九州/159/93(H3N2)株)に対する抗ウイルス性を評価した。まず各サンプル(5cm×5cm)をプラスチックシャーレにいれ、作用ウイルス0.1 mlを添加し、室温で60分間作用させた。このとき試験品の上面をPPフィルム(4cm×4cm)で覆うことで、ウイルス液と試験品の接触面積を一定にし、試験を行った。60分間作用させたのち、20mg/mlのブイヨン蛋白液1.9mlを添加し、全体量を2.0mlとした後、ピペッティングによりウイルスを洗い出した。さらに、MEM培地を使って10倍段階希釈を行い、コンフルエントMDCK細胞に0.1ml接種した。90分間のウイルス吸着後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%COインキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラック数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1ml,Log10);(PFU:plaque-forming units)を算出し、コントロールにおけるウイルス感染価と比較し、ウイルス活性を比較した。
【0061】
(コントロール1)
サンプルを添加しないMEM希釈液を用い、ネコカリシウイルスに対するコントロールとした。
【0062】
(コントロール2)
サンプルを添加しないMEM希釈液を用い、インフルエンザウイルスに対するコントロールとした。
【0063】
(膜強度測定)
摩擦試験器にて、試験片の上に10000番の研磨紙を乗せ、加重100gを掛けながら、摩擦紙を左右2cmごとスライドさせることにより、膜の傷を観察した。傷がないものを(○)とし、やや傷がついた状態を(△)、膜が剥がれてしまったものを(×)とした。結果を表1に示す。
【0064】
【表3】



【0065】
以上の結果より、本発明の抗ウイルス塗料及び部材は、エンベロープを持たないネコカリシウイルスに対して、5分という短時間で10質量%で99.9999%以下、0.1質量%でも99.9%以下という高い抗ウイルス効果が認められた。さらにエンベロープを持つインフルエンザウイルスに対しては、60分後には、40質量%で99.995%以下、20質量%で99.98%以下という高い抗ウイルス効果が認められた。また本発明の抗ウイルス性塗料の塗膜を形成させたサンプルは、いずれも膜がはがれたものはなく、膜強度についても充分な結果となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一価の銅化合物を、ウイルスを不活化する有効成分として含むことを特徴とする抗ウイルス性塗料。
【請求項2】
前記一価の銅化合物が、塩化物、酢酸物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、酸化物、水酸化物、シアン化物、チオシアン酸塩、またはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス性塗料。
【請求項3】
前記一価の銅化合物が、CuCl、Cu(CH3COO)、CuI、CuBr、Cu2O、CuOH、Cu2S、CuCN、およびCuSCNからなる群から少なくとも1種類選択されることを特徴とする請求項2に記載の抗ウイルス性塗料。
【請求項4】
塗料中の不揮発成分の全量に対する一価の銅化合物の含有量が0.1質量%から60質量%である請求項1から3のいずれか1つに記載の抗ウイルス性塗料。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の抗ウイルス性塗料を塗布乾燥してなることを特徴とする繊維構造体。


【公開番号】特開2010−168578(P2010−168578A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296172(P2009−296172)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(391018341)株式会社NBCメッシュテック (59)
【Fターム(参考)】