説明

抗ウイルス療法の応答の予測

本出願は、抗ウイルス療法が有効であるかどうかを決定するための方法に関する。特に本出願は、肝臓のウイルス感染がある対象が、インターフェロン(IFN)活性の刺激を含む抗ウイルス療法に応答する可能性を決定するための、miRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pを使用する方法、および前記決定の実施のためのキットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス療法を改善するための治療、および抗ウイルス療法が有効であり得るかどうかを決定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス感染は健康に対する深刻な脅威となり、動物および人間の病的状態の主な原因であることが知られている。例えば、C型肝炎ウイルス(HCV)感染は世界中で慢性肝疾患の主な原因である。C型肝炎の重要および顕著な特徴は、慢性化へのその傾向である。70%を超える感染個体において、HCVは、肝硬変および肝細胞癌をもたらす可能性がある、数十年にわたる持続的感染を確定する。
【0003】
HCV生物学における興味深い仮説は、ウイルスNS3−4Aプロテアーゼはウイルスタンパク質を処理するだけでなく、ウイルス感染を検出しI型インターフェロン(IFN)の転写活性化を誘導する細胞内感覚経路の構成要素を切断および不活性化もすることを提案する。NS3−4Aの標的の1つは、TRIF(IFNβを誘導するTIRドメイン含有アダプター)、TLR3(トール様受容体3)によるエンドソーム中のdsDNA検出とIFNβ誘導の間の本質的関連である。さらに近年、レチノイン酸誘導性遺伝子−I(RIG−I)およびMDA5(helicard)がdsRNAの細胞内センサーとして同定された。両方のセンサーはCardif(IPS−1、MAVS、VISAとしても知られる)を介してシグナル伝達してIFNβ産生を誘導する。CardifはHCVNS3−4Aによって切断および不活性化することができる。dsRNAの細胞内センサーとして同定された2つのRNAヘリカーゼ、RIG−IおよびMDA5はCardifを介して作用し、IFNβ産生を誘導する。
【0004】
I型IFNは、先天性免疫系の重要な構成要素であるだけでなく、CHCに対する現在の療法の最も重要な構成要素でもある。現在の標準的な療法は、週に1回皮下注射されるペグ化IFNα(ペグIFNα)および経口抗ウイルス薬リバビリンの毎日摂取からなる。このレジメンは、約55%の患者において全体的な持続性ウイルス学的著効(SVR)、および遺伝子型間の有意な差を得る。SVRは、治療中の検出可能なHCV RNAの消失、および療法停止後少なくとも6カ月間のその継続的不在として定義される。SVRを得る患者の長期フォローアップのいくつかの試験は、この著効は95%を超える患者において永続的であることを実証する。SVRの確率は治療に対する初期応答に強く依存する。治療第12週後の少なくとも2log10のウイルス負荷の低下として定義される初期ウイルス学的著効(EVR)を示さない患者は、SVRを示さない可能性が高く、これらの患者において治療を停止することができる。他方で、EVRを有する患者には治癒される十分な機会があり、その65%はSVRを得る。治療第4週後の検出不能な血清中のHCV RNAとして定義される迅速なウイルス学的著効(RVR)を有する患者に関して、予後はさらに良い。85%を超える患者がSVRを得る。残念ながら、RVRを示すのは、遺伝子型1を有する患者の20%未満、および遺伝子型2または3を有する患者の約60%である。療法に対する初期応答に重要である宿主因子は現在知られていない。
【0005】
I型IFNは、数百の遺伝子(ISG、インターフェロン刺激遺伝子)の制御によって、それらの強い抗ウイルス効果を発揮する。ISGの転写活性化は、静止細胞中では通常合成されず細胞内で非ウイルス特異的抗ウイルス状態を確立するタンパク質を誘導する。インターフェロンは、Jak−STAT経路を活性化することによって、それらの合成を誘導し、これは、多くのサイトカインおよび増殖因子によって使用される細胞シグナル伝達の典型である。全てのI型IFNは同じ細胞表面受容体(IFNAR)と結合し、受容体関連JanusキナーゼファミリーのメンバーJak1およびTyk2を活性化する。次いでキナーゼは、シグナル伝達性転写因子1(STAT1)およびSTAT2をリン酸化および活性化する。活性化したSTATは核へ移行し、そこでそれらは、ISGのプロモーター中の特異的DNAエレメントと結合する。多くのISGは抗ウイルス活性を有するが、他のISGは脂質代謝、アポトーシス、タンパク質分解および炎症細胞応答に関与する。多くのウイルスの場合と同様に、HCVはおそらく複数レベルでIFN系に干渉する。IFN誘導型Jak−STATシグナル伝達は、HCVタンパク質を発現する細胞およびトランスジェニックマウス中、およびCHCを有する患者の肝生検中で阻害される。in vitroで、HCVタンパク質NS5AおよびE2は、重要な非特異的抗ウイルスタンパク質であるタンパク質キナーゼR(PKR)と結合しそれを不活性化させる。しかしながら、CHCを有する患者において治療に適用するIFNに対する応答に重要である分子機構は現在知られていない(Sarasin−Filipowiczら、2008、PNAS、105(19):7034〜7039)。
【0006】
多くの異なるレベルでIFN経路に干渉するHCVの能力は、慢性感染を確定するHCVの成功が根底にある機構である可能性がある(Gale、M.、Jr.& Foy、E.M.、Nature436、939〜945(2005)。しかしながら、非常に逆説的に、HCVに急性または慢性的に感染したチンパンジーでは、数百のISGが肝臓中で誘導される(7Bigger、C.Bら、J Virol78、13779〜13792(2004))。しかるに、内因性IFN系の活性化にもかかわらず、ウイルスは慢性的に感染した動物から除去されない。チンパンジーで得た結果をヒトに当てはめるのは難しい。これらの種間ではHCV感染のいくつかの重要な病理生物学上の差が存在するからである。HCVに急性感染した大部分のチンパンジーはウイルスを自然に除去する一方で、人間における感染は大抵慢性化状態になる。他方で、慢性的に感染したチンパンジーをIFNで治療することができるのは稀であり、一方で半数を超えるCHCを有する患者が首尾よく治療される。
【0007】
ISGの誘導はCHCを有する多くの患者の前治療肝生検においても見られ、HCV感染は内因性IFN系の活性化をもたらす可能性があることが再度実証された(Chen、Lら、Gastroenterology128、1437〜1444(2005))。特に、ISGの発現が予め高い患者は、低い初期発現を有する患者と比較したとき、療法にあまり応答しない傾向があった(Chen、Lら、Gastroenterology128、1437〜1444(2005))。療法に対するこの示差的応答の原因は理解されていない。
【発明の開示】
【0008】
本発明は、その中で本発明者らが、ペグIFNαを用いた療法前および最中に慢性肝炎を有する患者の肝生検および末梢血単核細胞(PBMC)の対サンプル中の、IFN誘導型シグナル伝達およびISG誘導を調べた試験に基づく。本発明者らは、生化学的および分子学的データと治療に対する応答をさらに関連付けた。本発明者らの作業は、添付の実施例中により詳細に述べる。
【0009】
以前の試験において、本発明者らは、肝臓のウイルス感染がある何人かの対象は、IFNシグナル伝達経路が活性化ISGによる刺激状態であるように、「事前活性化」の状態であることを確定した(Sarasin−Filipowiczら、2008、PNAS、105(19):7034〜7039)。本発明者らは、このような個体は、IFNおよび抗ウイルス薬で後に治療すると、抗ウイルス治療に対してほとんど、全く応答がなかったことを発見している。対照的に、別群の感染対象にはIFN受容体の事前刺激(およびISGの刺激)がなかったようであり、この群は抗ウイルス療法に十分応答した(すなわち、それらは迅速なウイルス学的著効(RVR)を有していた)。さらに、その一部はISG遺伝子であるいくつかの特異的遺伝子の発現レベルに従い、対象が治療に対して低応答者でありRVRを有するかどうか決定することが可能である。言い換えると、本発明者らは、対象が抗ウイルス治療に応答するかどうかをその発現レベルが予想する予後判定遺伝子マーカーである1セットの遺伝子を同定した。
【0010】
ペグIFNαを用いた療法前および最中に慢性肝炎を有する患者の肝生検および末梢血単核細胞(PBMC)の対サンプルを使用するさらなる試験において、本発明者らは患者のマイクロRNA(miR)を調べた。
【0011】
マイクロRNA(miRNA)は、その最終産物が約22ntの機能的RNA分子である非コードRNA遺伝子の1クラスである。それらは一本鎖RNAとして内因的にコードされた不完全なヘアピン前駆体からプロセシングされる。それらは、標的mRNAの3’非翻訳領域(UTR)との塩基対形成を介した翻訳抑制によって働くようである(Griffith−Jonesら、2006、Nucleic Acids Research、Vol.34、D140〜D144)。
【0012】
マイクロRNA(miRNA)の生合成は、複雑な、多ステップのプロセスである。一次miRNA転写産物はRNAポリメラーゼIIによって転写され、かつ数百〜数千ヌクレオチド長(プリmiRNA(pri‐mRNA))の大きさの範囲であってよい。MiRNAは2つのゲノム源に端を発する可能性がある。一部のmiRNAは、タンパク質コード遺伝子のイントロン領域内に位置する。他のmiRNAは、非コードRNAのイントロンまたはエクソン内に位置する。興味深いことに、プリmiRNAは1つのmiRNAをコードすることができるが、数個のmiRNAの群も含有することができる。プリmiRNAは、核リボヌクレアーゼIII(RNaseIII)エンドヌクレアーゼ、Droshaによって後に約70ntのヘアピン(プレ−miRNA(pre‐mRNA))にプロセシングされる。次いでプレ−miRNAは、エクスポリン5/RanGTPによって核から細胞質に輸送される。細胞質中では、第二のRNaseIII、DicerがそのdsRBDタンパク質パートナーと一緒に、ヘアピンのステム領域中のプレ−miRNAを切断し、それによって約21ヌクレオチドのRNA−二本鎖を遊離させる。miRNA二本鎖から、一本の鎖が標的遺伝子の発現を抑制するタンパク質複合体、RNA誘導型サイレンシング複合体(RISC)に入り、一方他の鎖は分解される。鎖の選択は、miRNA二本鎖の局所熱力学的安定性に頼るものである。その5’末端が低い安定性で対形成する鎖がRISC複合体に充填される。RISC複合体に充填されるmiRNAは、標的mRNAの3’非翻訳領域(UTR)との塩基対形成を介した翻訳抑制によって働くようである(Du、T.and Zamore、P.Dら、micro−Primer:the biogenesis and function of microRNA。Development(2005)132、4645〜4652)。現在462のヒトmiRNA配列がmiRBaseに寄託されており(http://microrna.sanger.ac.uk)、この一覧は800台に達することが示唆される。これまでに同定された多数のmiRNAは、それらが生物学的プロセスの制御および微調整において複雑な役割を果たす可能性があることを示唆する。実際、いくつかのmiRNAが、細胞増殖の調節(mir−125bおよびlet−7)、造血B細胞系の運命(mir−181)、B細胞生存(mir−15aおよびmir−16−1)、脳のパターン形成(mir−430)、膵臓細胞のインシュリン分泌(mir−357)、脂肪細胞の発生(mir−375)ならびに筋肉の増殖および分化(miR−1およびmiR−133)に関与している。多くのmiRNAは癌と関係があるゲノム領域中に位置する。例えば、mir−16−1およびmir−15を含有する群は、大部分のB細胞慢性リンパ性白血病において欠失および下方制御される(B−CLL;Calin、G.Aら、MicroRNA−cancer connection:The beginning of a new tale.Cancer Res.(2006)66、7390〜7394)。
【0013】
miRNAは遺伝子制御と関係があるようである。lin−4およびlet−7を含めたいくつかのmiRNAは、標的mRNAの部分的に相補的である3’非翻訳領域(3’UTR)と結合することによって、タンパク質合成を阻害する。植物中で見られるScarecrowのmiRNAを含めた他のmiRNAはsiRNAと同様に働き、完全に相補的なmRNA配列と結合して標的転写産物を破壊する(Grishokら、2001)。
【0014】
科学者達が、これらの分子が真核生物遺伝子の発現の制御において果たす広範囲の役割を理解し始めているので、マイクロRNAに関する研究は増えている。2つの最も理解されているmiRNA、lin−4およびlet−7は、重要なmRNAのファミリーの翻訳を制御することによってC.elegansにおける発生時期を制御する(Pasquinelli、2002中に総説)。数百のmiRNAがC.elegans、ショウジョウバエ、マウス、およびヒトにおいて同定されている。遺伝子発現を制御する分子に関して予想されるように、miRNAレベルは組織相互および発生段階相互で異なることが示されており、さらに、1つの試験は、2つのmiRNAの低い発現と慢性リンパ球性白血病の間の強い相関関係を示し、miRNAと癌の間に存在し得る関連性を示す(Calin、2002)。この分野は歴史が浅いが、miRNAは高等真核生物中の遺伝子発現を制御する際に、転写因子と同程度重要である可能性があると推測される。
【0015】
細胞分化、初期発生、およびアポトーシスのような細胞プロセスおよび脂肪代謝において重要な役割を果たすmiRNAの数例が存在し、lin−4とlet−7の両方がC.elegansの発生中1つの幼虫段階から他の段階への移行を制御する(Ambros、2003)。mir−14およびbantamは、明らかなところ、アポトーシスと関係がある遺伝子の発現を制御することによって細胞死を制御するショウジョウバエのmiRNAである(Brenneckeら、2003、Xuら、2003)。Mir−14は脂肪代謝にも関与している(Xuら、2003)。Lsy−6およびmiR−273は、化学感覚ニューロンの非対称性を制御するC.elegansのmiRNAである(Changら、2004)。細胞分化を制御する別の動物miRNAは、造血細胞の分化を支援するmiR−181である(Chenら、2004)。これらの分子は、知られている機能を有する全範囲の動物miRNAを表す。miRNAの機能の高い理解は、正常発生、分化、細胞間および細胞内伝達、細胞周期、血管新生、アポトーシス、および多くの他の細胞プロセスに貢献する制御ネットワークを間違いなく明らかにするはずである。多くの生物学的機能におけるそれらの重要な役割を考慮すると、miRNAは治療介入または診断分析に関して重要な観点を提供する可能性がある。
【0016】
多量に存在する肝臓特異的miRNAであるmiR−122が、HCVレプリコンを安定して発現する培養ヒト肝癌Huh7細胞中のHCV RNAの有効な複製に重要である(Jopling CL、Yi M、Lancaster AM、Lemon SM、Sarnow P.Science2005;309:1577〜1581)。この観察によって、HCV感染における、および考えられる治療標的としてのmiR−122の役割に対して一層関心が高まった。本明細書で説明するように、現在のCHCの療法はリバビリンと組み合わせてもよいペグ化IFNα(ペグIFNα)からなるが、この治療は約55%の患者のみで持続的ウイルス学的著効を得る(Manns MPら、Lancet2001;358:958〜965;Fried MWら、N EngI J Med2002;347:975〜982)。miR−122およびいくつか他のmiRNAのレベルはHuh7肝癌細胞および初代マウス肝細胞中ではIFNによって制御されること、およびmiRNAはin vitroでHCV RNA複製に対するIFNの少なくともある程度の影響を仲介する可能性があることが近年報告された(Pedersen IMら、Nature2007;449:919〜922)。今日までに実施された全ての実験は、培養細胞中でのHCV複製におけるmiR−122の役割を評価した。慢性C型肝炎(CHC)を有する患者中でのmiR−122の状態を決定するために、本発明者らは、ペグIFNαおよびリバビリンによる治療を施した42人のCHC患者から回収した肝生検におけるmiR−122と他のmiRNAのレベルを比較した。標準として化学的に合成したmiRNAを使用して、定量的PCR(qPCR)により測定を実施した。本発明者らは、一次非応答者(PNR)として分類した、第12週で2log10を超えるウイルス負荷の低下があり療法に応答しなかった患者は、第12週でIFNαに対する強い応答性および検出不能なHCV RNAを有する患者より、有意に低いレベルのmiR−122を有していたことを発見した(完全初期ウイルス学的著効;cEVR)。PNR患者とcEVR患者の間の差は肝線維症の段階と無関係であり、PNR患者中のmiR−122の低下は、生検材料中の肝細胞の低い割合によるものではないことを示した。さらに、群間のmiR−122発現の差はmiR−122レベルを肝細胞特異的アルブミンmRNAに標準化したとき一層明らかであり、miR−122レベルと治療に対する応答の間の直接的な相関関係をさらに支持した。
【0017】
臨床試験は、高いHCVウイルス負荷を有する患者は療法にそれほど応答しないことを示している(Manns MPら、Lancet2001;358:958〜965;Fried MWら、N EngI J Med2002;347:975〜982)。miR−122はHuh7肝癌細胞中でのHCVの複製に重要であるので、本発明者らによる非応答者中の少ないmiR−122の発見は驚くべきであった。本発明者らは、患者の肝臓および血清中のHCV RNAを測定した。miR−122のレベルとHCVウイルス負荷の間の相関関係は観察しなかった。これらの結果はin vitroで得られた結果とは反対で、in vivoでのHCVの複製におけるmiR−122の有意な役割を支持しない(例えば、HCVの治療に関するmiR−122の阻害を提案するWO−A−2007/112754を参照)。非応答者における低いmiR−122のレベルは、miR−122が負の制御を受けるIFN標的遺伝子である可能性を提起する。実際、CHC患者の生検におけるmiR−122の発現は、知られているIFN刺激遺伝子(ISG)の発現と負の相関関係を示す。
【0018】
要約すると、本発明の驚くべき結果は、(i)IFN療法に応答しない患者は一般に応答者より数倍低いレベルのmiR−122を有すること、(ii)ペグIFNαの投与は患者の肝臓中のmiR−122レベルに対して有意な影響がないこと、および(iii)肝内miR−122とHCV RNAレベルの間に相関関係が存在しないことを実証する。これは予想外である。Huh7細胞におけるHCVレプリコンの試験に基づくと、低レベルのmiR−122はウイルス量を低下させ療法に利点を与えるに違いないからである。それにもかかわらず、miR−122のレベルがcEVR患者よりPNR中で有意に低いという発見によって、miR−122は、例えば予め活性化したISGと一緒に(Sarasin−Filipowicz Mら、Proc Natl Acad Sci USA2008、105(19):7034〜7039;Chen Lら、Gastroenterology2005;128:1437〜1444;Asselah Tら、Gut2008;57:516〜524)、CHC患者におけるIFN療法の結果を予想するのに適した便利なマーカーとなる。さらに、本発明の結果は驚くことに、(i)IFN療法に応答しない患者は一般に応答者より数倍高いレベルのmiR−296−5pを有することも実証する。これは、miR−296−5p、およびより一般的にmiRNAを、CHC患者におけるIFN療法の結果を予想するために使用することができることを実証する。
【0019】
これによって本発明者らは、miRNAに基づく方法を開発して、肝臓のウイルス感染に罹患した対象に関する治療レジメンを臨床医が決定するのを、助けることができる可能性があることを理解する。感染個体由来のmiRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベルは、対照(すなわち、ウイルス感染がない対象)からの遺伝子発現と比較することができる。
【0020】
(対照と比較して)低レベルのmiR−122および/または高レベルのmiR−296−5pを有する感染対象は、治療レジメン中のIFNの使用から恩恵を被る可能性はないが(すなわち、これらの個体がRVRを有するとは予想されない)、一方でそのmiR−122および/またはmiR−296−5pのレベルが、対照の発現と比較して大部分は不変であるかまたは高い感染対象は、IFN療法から恩恵を被る可能性がありRVRを有する。当技術分野で知られているin vitroの結果は反対のことを予想したので、本発明者らはこれらの相関関係を得て驚いた。
【0021】
肝臓のウイルス感染がある「応答者」および「非応答者」対象における遺伝子発現レベルの以前の試験が存在しており、例えば、本発明の一部としてその研究を実施した、Chenら(2005)Gastroenterology128、1437〜1444は、非常に広範囲の遺伝子セットを試験して、どれが予後診断マーカーとして働き得るか決定した。さらに本発明者らは、異なるmiRNAを予後診断マーカーとして使用することができるかどうかも評価した。さらに本発明者らは、抗ウイルス治療の前後に得たサンプル中の遺伝子発現およびmiRNAレベルも分析し、この情報を使用して予後診断遺伝子マーカーを同定したが、一方で以前の試験は、治療結果と治療前に得たサンプル中に存在した遺伝子の発現レベルの関連付けのみを試みた。したがって、以下に述べる予後診断遺伝子マーカーの同定をもたらしたデータセットは、以前の試験中のそれより一層完全で確かであると考えられる。
【0022】
したがって、本発明の第一の態様において、肝臓のウイルス感染がある対象が、インターフェロン(IFN)活性の刺激を含む抗ウイルス療法に応答する可能性を決定するための方法であって、miRNAの発現のレベルに関して対象由来のサンプルを分析すること、および対象由来のサンプル中の前記miRNAの発現のレベルと対照サンプル中の前記miRNAのレベルを比較することを含む方法を提供する。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態では、miRNAはmiR122であり、対照サンプル中のmiR−122のレベルと比較した対象由来のサンプル中の低レベルのmiR−122は、対象が前記抗ウイルス療法におそらく応答しないことを示す。
【0024】
前に記載した実施形態と組み合わせることができる、本発明のいくつかの他の実施形態では、miRNAはmiR−296−5pであり、対照サンプル中のmiR−296−5pのレベルと比較した対象由来のサンプル中の高レベルのmiR−296−5pは、対象が前記抗ウイルス療法におそらく応答しないことを示す。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態では、対照サンプル中のそれぞれmiR−122、またはmiR−296−5pのレベルと比較した、対象由来のサンプル中の不変もしくは高レベルのmiR−122および/または不変もしくは低レベルのmiR−296−5pは、それぞれ対象が前記抗ウイルス療法におそらく応答することを示すことができる。
【0026】
本発明の方法は1つのmiRNAの使用のみに限られず、任意のmiRNAの発現レベルとmiR−122および/またはmiR−296−5pのそれの任意の組合せ、または任意の関連miRNA、特に肝臓のウイルス感染がある対象が抗ウイルス療法に応答する可能性に関する予測力を有する任意のmiRNAの組合せも、包含することを理解するべきである。
【0027】
本発明の方法中、抗ウイルス療法は、リバビリンと場合によっては組み合わせたペグ化IFNα(ペグIFNα)であってよい。
【0028】
さらに、本発明のいくつかの実施形態では、ウイルス感染は、B型肝炎ウイルスまたはC型肝炎ウイルス感染である。
【0029】
さらに、本発明の方法中で、肝臓組織をサンプルとして使用することができる。
【0030】
有利なことに、療法に対する対象の応答性を予測するものであり得る遺伝子、例えば以前の試験(Sarasin−Filipowiczら、2008、PNAS、105(19):7034〜7039)に対して何人かの本発明者らによって公開されたいくつかの遺伝子の発現を、本発明の方法中で分析して、予測力を増大することもできる。前記遺伝子の発現は、サンプル中のmRNA遺伝子転写産物の量、または前記mRNAに由来するcDNAの量を測定することによって、または例えば特異的結合分子を使用して、サンプル中の前記遺伝子によってコードされるペプチドまたはポリペプチドの量を測定することによって決定することができる。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態では、対象は哺乳動物、例えば人間である。
【0032】
本発明は、本発明の方法を実施するためのキットであって、前記キットが、対象由来のサンプル中のmiRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pの発現レベルを分析するための手段、および場合によっては、対象由来のサンプル中の前記miRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pの発現レベルと、対照サンプル中の前記miRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベルを比較するための手段を含むキットも包含する。キットは、療法に対する対象の応答性を予測するものであり得る少なくとも1つの遺伝子の発現を分析するための手段であって、療法に対する対象の応答性を予測するものであり得る前記少なくとも1つの遺伝子を代表する分子をターゲティングすることができる1つまたは複数の特異的結合分子を最終的に含み、前記特異的結合分子がオリゴヌクレオチドプローブ、抗体、またはアプタマーである手段、および場合によっては、サンプル中の遺伝子の発現と対照サンプル中の同じ遺伝子の発現を比較するための手段をさらに含むことができる。
【0033】
本発明の方法は、臨床医に非常に有益であろうことは理解されよう。IFNはタンパク質増殖因子であり、IFNを含有する医薬調製物は製造するのに費用がかかる。したがって、適切かつコスト効率の良い方法でIFNが使用されることが確実であることが、臨床医にとって非常に重要である。さらに、コストと無関係に、可能な限り早く肝臓のウイルス感染を除去することが望ましいことが多い。したがって、臨床医がIFNを投与し、およびその後それに有益な効果がないことを発見する場合、それは時間の浪費である(それは別の療法を利用して費やされる可能性はある)。したがって、本発明の方法は臨床医にとって大きな力添えとなる。臨床医は、2つの対象の集団を同定することができるからである。1つの集団は対照と比較して低レベルのmiR−122および/または高レベルのmiR−296−5pを示し、したがっておそらくIFNを用いた治療から恩恵を被らない。対照と比較して正常または高レベルのmiR−122および/または正常または低い発現レベルのmiR−296−5pを有する、もう1つの集団は、IFNを用いた治療から恩恵を被り得る。
【0034】
さらに別の実施形態では、本発明は、インターフェロン(IFN)活性の刺激を含む抗ウイルス療法に対する、肝臓のウイルス感染がある対象の応答に影響を与える方法を提供し、この方法はmiRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベルを調節することを含む。
【0035】
miRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベルは、当技術分野で知られている任意の適切な方法によって制御することができる。このような方法の例は、例えばWO−A−2006/137941、WO−A−2007/021896またはWO−A−2007/090073中で見ることができる。
【0036】
「抗ウイルス療法」によって、本発明者らは、IFN活性の刺激を含むウイルス感染を減らすための任意の治療レジメンを意味する。このようなレジメンは、I型IFN活性を刺激するおよび/またはIFN刺激遺伝子(ISG)を誘導する化合物の使用を含むことができる。この療法はIFN自体または他のIFN受容体アゴニストを用いた治療を含むことができる。例えば、この療法はペグ化IFNα(ペグIFNα)を利用することができる。
【0037】
療法はIFN活性のみの刺激を含むことができる。しかしながら本発明者らは、本発明による方法は、知られている抗ウイルス薬と併せたIFN活性の刺激剤を含む併用療法の使用を含む抗ウイルス療法の、有効性を予想するのに特に有用であることを発見している。多くの抗ウイルス薬が当業者に知られており、本発明の方法を使用して、いくつかの異なる併用療法の有効性を評価することができる。しかしながら本発明者らは、本発明の方法は、抗ウイルス薬リバビリンと併せて使用するIFN活性の刺激剤を用いた療法の、有効性を予想するのに特に有益であることを発見している。
【0038】
一実施形態では、本発明の方法を使用して、抗ウイルス療法剤としてのペグIFNαおよびリバビリンの有用性を予想する。
【0039】
本発明の方法を利用して、B型肝炎ウイルスおよびC型肝炎ウイルス感染を含めた、いくつかの異なる肝臓のウイルス感染のための治療の有効性を評価することができる。一実施形態では、本発明の方法を利用して、C型肝炎ウイルス(HCV)感染のための療法の有効性を評価する。本発明者らは、本発明の方法は、迅速なウイルス学的著効(RVR)を有すると予想される対象とそうではない対象(非RVR)を区別するのに特に有用であることを発見している。
【0040】
本発明に従い使用することができる対象中のmiR−122のレベルを表すサンプルは、前記対象中のmiR−122のレベルに関する情報を与えることができる任意のサンプルを包含する。
【0041】
適切なサンプルの例には、生検、外科手術中に切除したサンプル、血液サンプル、尿サンプル、痰サンプル、脳脊髄液サンプル、およびスワブサンプル(唾液スワブサンプルなど)がある。サンプル源は、どのタイプのウイルス感染を対象が有するかに依存し得ることは理解されるであろう。
【0042】
一実施形態では、サンプルは肝臓組織に由来する。肝臓サンプルは、HCV感染がある対象の評価に方法を適用するとき、特に有益であることが分かっている。本発明者らは、miR−122のレベルを分析することによって、RVRを非RVR対象と区別することができたことを発見して驚いた。
【0043】
適切なサンプルは、組織学的または凍結切片などの組織切片を含むことができる。切片が由来する対象中のmiRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pの発現のレベルを表す情報を与えることができるような形式で、このような切片を調製することができる方法は当業者によく知られており、遺伝子発現の調査時に使用することを目的とする技法を参照して選択されなければならない。
【0044】
対象由来の組織の一部分を含むサンプルの使用は企図されるが、一般に、miRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベルを表すサンプルはこのような組織から得た適切な抽出物を含み、前記抽出物を調べて対象中の前記miRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pの前記レベルに関する情報を与えることができることは好ましい可能性がある。対象中の遺伝子発現に関する情報を与えることができる組織抽出物の生成用に、使用することができる適切なプロトコルは、当業者によく知られている。好ましいプロトコルは、遺伝子発現を調査する方法を参照して選択することができる。
【0045】
肝臓に由来するサンプルの場合、適切な調製ステップは実施例中に開示する。
【0046】
「対照サンプル」によって、本発明者らは、肝臓のウイルス感染に罹患していない個体に由来している対象由来のそれと、同等のサンプルを意味する。対照サンプルを構成する同等の組織または臓器サンプル、またはこのようなサンプル由来の抽出物は、対照サンプル中のmiRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベルに関する情報源として直接使用することはできるが、「理想的な」対照サンプル中のmiRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pの発現レベルに関する情報は参照データの形で与えられ、かつそれが一般に好ましいことは理解されるであろう。このような参照データは、選択した対照組織中のmiRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベルを示す表の形で与えることができる。あるいは参照データは、選択した対照組織中のmiRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベルを示す読み出し可能な情報を含有するコンピュータソフトウェアの形で供給することができる。例えば参照データは、対照組織サンプル中でこのmiRNAの発現がある対象中のmiRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pの発現レベルを少なくとも比較することができるアルゴリズムの形で与えることができる。
【0047】
対照サンプル中のmiRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベルを、対照サンプルを構成する組織または臓器サンプルの処理によって調べる場合、対象由来のサンプルを処理するために使用した同じ方法を使用してこのような処理を行うことが有益である。対象サンプルと対照サンプルのこのような並行処理は、これらの組織中の遺伝子発現の比較を互いに対して標準化する高い信頼度を与える(組織を処理し遺伝子発現を調べた選択方法と関係がある任意の人工物は、対象サンプルと対照サンプルの両方に適用されるからである)。
【0048】
本発明による方法は、少なくともmiR−122のレベルの分析を含むことができる。miR−122のレベルの変化を、抗ウイルス療法の有効性を決定する際に使用することができるという発見は驚くべきである。従来技術中で公開された結果を鑑みると、低レベルのmiR−122が、後のIFN治療に対する乏しい応答と関連し得ることは全く予想外であった。
【0049】
以前の試験中で、本発明者らは、その発現レベルが抗ウイルス療法の結果に関する予後診断マーカーであり得る、異なる遺伝子を同定している。miR−122に関する本発明を前記遺伝子と組み合わせて、さらに一層確かな予想を与えることができる。
【0050】
調べることができるmiRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pの存在、不在および/またはレベルは、一般に適切なプローブ分子を使用して検出される。このような検出は、miRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pの存在、不在および/またはレベルに関する情報を提供し、それによって対象中に存在するmiRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベルと、対照サンプル中に存在するレベルの間の比較を可能にする。プローブは一般に、直接的または間接的に、miRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pと特異的に結合することができる。このようなプローブの結合を次いで評価し、miRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベルと関連付けて、対象と対照の間の有効な予後比較を可能にすることができる。
【0051】
「変化した発現」によって、本発明者らは、前に論じたように、対照と比較したとき、遺伝子発現がサンプル中でいずれも上昇または低下している場合を含める。
【0052】
逆に「不変の発現」によって、本発明者らは、前に論じたように、対照と比較したとき、遺伝子発現がサンプル中で上昇も低下もしていない場合を含める。
【0053】
miRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベル、および遺伝子発現が変化した状態または不変であるかどうかの評価は、通常の統計解析法を使用して行うことができる。
【0054】
標的分子はペプチドまたはポリペプチドであってよい。ペプチドまたはポリペプチドの量は、特異的結合分子、例えば抗体を使用して決定することができる。好ましい場合、サンプル中に存在する特定の標的タンパク質の量は、サンプル中の標的タンパク質の生物活性を参照して評価することができる。この形式での発現の評価および比較は、タンパク質標的が酵素活性を有する場合非常に適切である。サンプル中に存在するタンパク質標的の量の測定に適した技法には、アプタマーおよび抗体系技法、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合免疫アッセイ(ELISA)およびウエスタンブロッティングなどがあるが、これらだけには限られない。
【0055】
本発明の目的での「核酸」または「核酸分子」は、一本鎖または二本鎖型のいずれかのデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーを指すことは理解されるであろう。さらに、文脈が他に必要としない限り、これらの用語は、天然に存在するヌクレオチドと類似した形式で働くことができる、天然ヌクレオチドの知られているアナログを包含すると考えるべきである。
【0056】
さらに、本発明に従い使用するのに適した標的核酸は、「完全長」核酸(例えば、完全長遺伝子転写産物)を含む必要はないが、プローブ分子の特異的結合を可能にするのに十分な長さを時折含む必要があることは理解されるであろう。
【0057】
本発明の方法の一実施形態では、適切なサンプルから得た細胞を溶解し(これはQiagen Ltd.により製造されたバッファーなどの市販の溶解バッファーを使用して実施することができる)、次に(Qiagen Ltd.により製造されたRNeasy midiスピンカラムなど)市販の核酸分離カラムを使用して溶解物を遠心分離にかけるプロセスによって、サンプルを処理してRNA標的分子を単離することができる。RNA抽出のための他の方法は、Chomczynski、P.and Sacchi、N.(1987)Analytical Biochemistry162、156.「Single Step Method of RNA Isolation by Acid Guanidinium Thiocyanate−Phenol−Chloroform Extraction」のフェノールおよびグアニジンイソチオシアネート法の変形を含む。この方法で得たRNAはそれ自体が適切な標的分子になる可能性があり、またはmiR−122のレベルを表す標的分子を生成するための鋳型として働くことができる。
【0058】
選択した遺伝子の発現を評価して一層確かな予想値を得る場合、対象または対照サンプル由来のRNAを、例えばSuperscript System(Invitrogen Corp.)を使用して、cDNA合成の基質として使用することができることが好ましい可能性がある。生成したcDNAは次いでBioArray RNA転写産物標識キット(Enzo Life Sciences Inc.)を使用してビオチニル化cRNAに転換することができ、このcRNAはRNeasy miniキット(Qiagen Ltd)を使用して反応混合物から精製することができる。遺伝子発現を表すmRNAは、mRNAの抽出または精製を必要とせずに、対象または対照サンプル由来の組織において直接測定することができる。例えば、対象とする対象または対照サンプル中に存在しその遺伝子発現を表すmRNAは、このような組織の適切に固定された切片または生検を使用して調べることができる。この種のサンプルの使用は、発現の比較を行うことができる迅速性、ならびにサンプルを生成するために使用することができる比較的安価で簡潔な組織処理の点で利点をもたらすことができる。in situ ハイブリダイゼーション技法は、この種の組織サンプル中での遺伝子発現を調査および比較することができる好ましい方法となる。対象とする組織を処理するための技法であって、対象または対照サンプル中の遺伝子発現を表すRNAの有用性を維持する技法は、当業者によく知られている。しかしながら、対象または対照サンプル中の遺伝子発現を表すmRNAを抽出および回収することができる技法も当業者によく知られており、本発明者らは、このような技法は本発明に従い有利に利用することができることを発見している。対象または対照サンプルから抽出したmRNAを含むサンプルは、本発明の第三の態様の方法中で使用するのに好ましい可能性がある。このような抽出物には、元の組織を含むサンプルの場合より簡単に調べられる傾向があるからである。例えば、遺伝子発現の比較を可能にするのに適した標的分子は、対象由来の組織のサンプル、または対照組織のサンプルから単離した全RNAを含むことができる。さらに、抽出したRNAは容易に増幅して、対象または対照サンプル中の遺伝子発現に関する多大な情報を与えることができる拡大mRNAサンプルを生成することができる。mRNA集団の抽出および増幅に適した技法の例はよく知られており、以下でより詳細に考える。
【0059】
例えば、本発明による使用に適した核酸標的を生成するための核酸の単離および精製法は、Chapter3 of Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology:Hybridization With Nucleic Acid Probes、PartI.Theory and Nucleic Acid Preparation、P.Tijssen、ed.Elsevier、N.Y.(1993)中に詳細に記載される。
【0060】
遺伝子発現の調査および比較前に核酸標的を増幅することが望ましい場合、サンプルが由来する対象または対照組織中の増幅核酸の相対頻度を、維持または調節する方法を使用することが好ましい可能性がある。
【0061】
「定量的」増幅の適切な方法は当業者によく知られている。1つのよく知られている例、定量的PCRは、その量が対照と対象サンプルの間で不変であることが知られている対照配列をいっせいに同時に増幅することを含む。これは、PCR反応を測定するために使用することができる内標準を与える。
【0062】
前述の方法以外に、当業者は、遺伝子転写産物特異的生成物の増幅とシグナル生成を結び付けた任意の技法も、定量化に適している可能性があることを理解しているであろう。好ましい例は、cDNAへのmRNAの初期逆転写を組み込むことによりそれを特異的mRNA転写産物の正確な定量化に適したものにしている、ポリメラーゼ連鎖反応(US4683195および4683202)の好都合な改良点を利用する。さらなる重要な改良点が、反応進行時にリアルタイムで蓄積するPCR産物の測定を可能にする。
【0063】
多くの場合、関連サンプル中の標的分子の存在を示すことができるプローブ分子を使用して、対象または対照サンプル中の遺伝子発現の程度を評価することは好ましい可能性がある。
【0064】
調査する遺伝子発現の(直接または間接)産物を参照して、プローブを選択することができる。適切なプローブの例には、適切な特異性を有するオリゴヌクレオチドプローブ、抗体、アプタマー、および結合タンパク質または小分子がある。
【0065】
オリゴヌクレオチドプローブはプローブとして使用することができる。適切なオリゴヌクレオチドプローブの作製は当業者によく知られている(Oligonucleotide synthesis:Methods and Applications、Piet Herdewijn(ed)Humana Press(2004))。オリゴヌクレオチドおよび修飾オリゴヌクレオチドは、多くの会社から市販されている。
【0066】
本記載の目的で、オリゴヌクレオチドプローブは、1つまたは複数の型の化学結合を介して相補的配列の核酸標的分子と特異的にハイブリダイズすることができる、オリゴヌクレオチドを含むと考えることができる。このような結合は通常は相補的塩基対形成によって、および通常は水素結合形成によって生じる可能性がある。適切なオリゴヌクレオチドプローブは、天然(すなわち、A、G、C、またはT)または修飾塩基(7−デアザグアノシン、イノシンなど)を含むことができる。さらに、この変異がオリゴヌクレオチドプローブとその標的のハイブリダイゼーションに干渉しない限り、ホスホジエステル結合以外の結合を使用して(1つまたは複数の)オリゴヌクレオチドプローブ中の塩基を接合することができる。したがって、適切なオリゴヌクレオチドプローブは、ホスホジエステル結合ではなくペプチド結合によって構成塩基が接合するペプチド核酸であってよい。
【0067】
本明細書で説明するように、マイクロRNA分子(「miRNA」)は一般に21〜22ヌクレオチド長であるが、17および最大25ヌクレオチド長が報告されている。miRNAはそれぞれ長い前駆体RNA分子(「前駆体miRNA」)からプロセシングされる。前駆体miRNAは非タンパク質コード遺伝子から転写される。前駆体miRNAは、動物中でダイサーと呼ばれる酵素によって切断されるステム−ループまたは折返し様構造を、それらが形成するのを可能にする2つの相補領域を有する。ダイサーはリボヌクレアーゼIII様ヌクレアーゼである。プロセシングされるmiRNAは典型的にはステムの一部分である。
【0068】
プロセシングされたmiRNA(「成熟miRNA」とも呼ばれる)は大きな複合体の一部となり、特定の標的遺伝子を下方制御する。動物のmiRNAの例には、標的と不完全に塩基対を形成し、それによって翻訳を停止させる(Olsenら、1999;Seggersonら、2002)miRNAがある。SiRNA分子もダイサーによってプロセシングされるが、ただし長鎖の、二本鎖RNA分子からである。SiRNAは動物細胞において本来見られないが、それらはこのような細胞においてRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)で働いて、mRNA標的の配列特異的切断を誘導することができる(Denliら、2003)。
【0069】
内因性miRNA分子の試験は例えば米国特許出願60/575,743中に記載されている。合成miRNAmiRNAは、miRNAとハイブリダイズするmRNAの翻訳を制御するタンパク質複合体によって、成熟、一本鎖RNAが結合するとき、細胞中で外見上活性がある。内因的に発現されるmiRNAと同じ形式で細胞に影響を与える外因性RNA分子の導入は、内因性成熟miRNAと同じ配列の一本鎖RNA分子が、翻訳制御を容易にするタンパク質複合体によって取り込まれることを必要とする。様々なRNA分子の設計が評価されている。miRNA経路による望ましい一本鎖miRNAの取り込みを最大にする、3つの一般的な設計が同定されている。この3つの設計の少なくとも1つを有しmiRNA配列を有するRNA分子を、合成miRNAと呼ぶ。
【0070】
本発明の合成miRNAは、いくつかの実施形態で、1つのRNAが天然に存在する、成熟miRNAと同一である2つのRNA分子を含む。成熟miRNAと同一であるRNA分子は活性鎖と呼ぶ。相補鎖と呼ぶ第二のRNA分子は、活性鎖と少なくとも部分的に相補的である。活性鎖と相補鎖はハイブリダイズして、細胞中でのmiRNA活性化の直前にタンパク質複合体によって結合した、天然に存在するmiRNA前駆体と類似した合成miRNAと呼ばれる、二本鎖RNAを生成する。合成miRNAの最大活性は、翻訳レベルでの遺伝子発現を制御するmiRNAタンパク質複合体による、活性鎖の最大の取り込みおよび相補鎖の最大の取り込みを必要とする。最適miRNA活性をもたらす分子設計は、相補鎖に対する修飾を含む。
【0071】
2つの設計は相補鎖中の化学修飾を組み込む。第一の修飾は、その5’末端にリン酸またはヒドロキシル以外の化学基を有する相補的RNAの作製を含む。5’の修飾の存在によって相補鎖の取り込みが外見上なくなり、miRNAタンパク質複合体による活性鎖の取り込みを後に助長する。5’の修飾は、NH2、NHCOCH3、ビオチン、およびその他を含めた様々な分子のいずれかであってよい。
【0072】
miRNA経路によって相補鎖の取り込みを有意に低下させる第二の化学修飾戦略は、相補鎖の最初の2〜6ヌクレオチド中に糖修飾を有するヌクレオチドを組み込むことである。第二の設計戦略と一致した糖修飾を第一の設計戦略と一致した5’末端修飾と関連付けて、合成miRNA活性をさらに高めることができることを記さなければならない。
【0073】
第三の合成miRNA設計は、活性鎖と相補的ではない相補鎖の3’末端にヌクレオチドを組み込むことを含む。
【0074】
生成した活性RNAと相補的RNAのハイブリッドは活性鎖の3’末端で非常に安定しているが、活性鎖の5’末端では比較的不安定である。siRNAを用いた試験は、5’ハイブリッドの安定性は、細胞中のmiRNA経路と少なくとも関連があるRNA干渉を促進する、タンパク質複合体によるRNA取り込みの重要な指標であることを示す。相補的RNA鎖中のミスマッチの賢明な使用は、合成miRNAの活性を有意に高める。
【0075】
本明細書で説明する用語「miRNA」は一本鎖分子を一般に指すが、特定の実施形態では、本発明の条件を満たす分子は、部分的(鎖の長さ中10〜50%相補的)、実質的(鎖の長さ中50%を超えてただし100%未満で相補的)、または同じ一本鎖分子の別の領域もしくは別の核酸と完全に相補的である領域または別の鎖も包含する。したがって核酸は、1つまたは複数の相補的または(1つまたは複数の)自己相補的鎖または分子を含む特定配列の「(1つまたは複数の)補体」を含む分子を包含することができる。例えば前駆体miRNAは、最大100%相補的である自己相補的領域を有することができる。
【0076】
合成miRNAは典型的に、二本の鎖、試験中の成熟miRNAと配列が同一である活性鎖、および活性鎖と少なくとも部分的に相補的である相補鎖を含む。活性鎖は生物学的関係がある分子であり、細胞中でmRNA分解または翻訳制御のいずれかによって翻訳を調節する複合体によって優先的に取り込まれるはずである。活性鎖の優先的取り込みには2つの核心を突く結果がある。(1)観察する合成miRNAの活性は劇的に増大する、および(2)相補鎖の取り込みおよび活性化によって誘導される意図しない効果がほぼ消失する。本発明によれば、いくつかの合成miRNA設計を使用して、活性鎖の優先的取り込みを確実にすることができる。
【0077】
相補鎖の5’末端におけるリン酸またはヒドロキシル以外の安定部分の導入は、miRNA経路中のその活性を害する。これは、合成miRNAの活性鎖のみが、細胞中の翻訳を制御するために使用されることを確かにする。5’修飾には、NH2、ビオチン、アミン基、低級アルキルアミン基、アセチル基、2O−Me、DMTO、フルオロセイン、チオール、またはアクリジン、またはこの型の官能性を有する任意の他の基があるが、これらだけには限られない。
【0078】
他のセンス鎖修飾。2’−0Me、NH2、ビオチン、アミン基、低級アルキルアミン基、アセチル基、DMTO、フルオロセイン、チオール、またはアクリジン、または合成miRNAの相補鎖中にこの型の官能性を有する、任意の他の基のようなヌクレオチド修飾の導入は、相補鎖の活性を除去し、miRNAの活性鎖の取り込みを高めることができる。
【0079】
siRNAと同様に(Schwarz、2003)、合成miRNAの活性鎖の5’末端と3’末端の相対的安定性は、miRNA経路による活性鎖の取り込みおよび活性化を外見上決定する。合成miRNAの相補鎖の3’末端中の塩基ミスマッチの戦略的配置による、合成miRNAの活性鎖の5’末端の不安定化は、活性鎖の活性を高め、相補鎖の活性をほぼ除去する。
【0080】
miRNA−1222とも呼ばれるmiR−122、22ヌクレオチドのマイクロRNAは、遺伝子hcrから転写される肝臓特異的非コードポリアデニル化RNAに由来する。hcrのmRNA内のmiR−122の正確な配列、および隣接する二次構造は、哺乳動物種から魚類に遡り保存されている。マウス肝臓中のmiR−122のレベルは胚発生の第17日ごろに半最大値まで増大し、出生前に平均細胞当たり50,000コピーのほぼ最大レベルに達する(それは全miRNAの70%を構成する)(Changら、2004;Lagos−Quintanaら、2002)。それは、組織の分化状態の維持を担う可能性がある遺伝子発現のパターンを確定するのに重要であると考えられる、多くの組織特異的マイクロRNAの1つである(Lagos−Quintanaら、2002;Limら、2005)。
【0081】
本明細書で使用する語句「〜と特異的にハイブリダイズする」は、複合体混合物(全細胞DNAまたはRNAなど)中にその配列が存在するときストリンジェントな条件下で、特定の標的ヌクレオチド配列と優先的にオリゴヌクレオチドプローブが結合、二本鎖形成、またはハイブリダイズすることを指す。一実施形態では、プローブは特定の標的分子のみと結合、二本鎖形成、またはハイブリダイズすることができる。
【0082】
用語「ストリンジェントな条件」は、その下でプローブがその標的部分列と、ただし他の配列とは最小限でハイブリダイズする条件を指す。いくつかの実施形態では、プローブはストリンジェントな条件下でその標的以外の配列とハイブリダイズすることができない。ストリンジェントな条件は配列依存性であり、異なる状況で異なり得る。長い配列は高温で特異的にハイブリダイズする。
【0083】
一般に、定義したイオン強度およびpHでの特定配列に関する熱融点(Tm)より約5℃低い、ストリンジェントな条件を選択することができる。Tmは、標的核酸と相補的なオリゴヌクレオチドプローブの50%が平衡状態で標的核酸とハイブリダイズする、(定義したイオン強度、pH、および核酸濃度下での)温度である。標的核酸は一般に過剰に存在するので、Tmにおいて、平衡状態では50%のプローブが占有される。例えばストリンジェントな条件は、塩濃度がpH7.0〜8.3で少なくとも約0.01〜1.0MのNaイオン濃度(または他の塩)であり、短いプローブ(例えば、10〜50ヌクレオチド)に関する温度が少なくとも約30℃である条件であり得る。ストリンジェントな条件は、ホルムアミドなどの脱安定化剤の添加によって得ることもできる。
【0084】
オリゴヌクレオチドプローブを使用して、適切な代表サンプル中の相補的核酸配列(すなわち、核酸標的)を検出することができる。このような相補的結合は、オリゴヌクレオチドを使用して検出し、それによって特定遺伝子の発現を比較することができる大部分の技法の基礎を形成する。いくつかの適切な技術は多数の遺伝子発現の平行定量化を可能にし、定量的逆転写PCR技術などの種の増幅と定量化をリアルタイムで結び付けた技術、およびアレイ技術などの増幅種の定量化を増幅後に行う技術を含む。
【0085】
アレイ技術は、それぞれのプローブが開示する1つまたは複数の遺伝子、またはmiRNAと優先的にハイブリダイズする複数のオリゴヌクレオチドプローブを用いる、対象または対照サンプルを表すサンプルのハイブリダイゼーションを含む。アレイ技術は、例えばそれらの物理的位置(例えば、Affymetrix Inc.によって市販された二次元アレイ中の格子)によって、または別の特徴(例えば、Illumina IncまたはLuminex Incによって市販された標識ビーズ)との関連によって、特異的オリゴヌクレオチド配列の独自の同定をもたらす。オリゴヌクレオチドアレイは、(例えば、Affymetrix Incによって市販された光誘導型合成により)in situで合成する、または(AgilentまたはApplied Biosystemsによって市販された)接触もしくはインクジェット技術によって事前形成およびスポットすることができる。完全または部分的cDNA配列は、(Clontechによって市販された)アレイ技術用のプローブとして働くこともできることは、当業者には明らかであろう。
【0086】
オリゴヌクレオチドプローブを、サザンブロッティングまたはノーザンブロッティングなどのブロッティング技法中で使用して、(例えば、遺伝子発現を表すcDNAまたはmRNA標的分子によって)遺伝子発現を検出および比較することができる。サザンまたはノーザンブロッティング技法中で使用するのに適した技法および試薬は、当業者にはよく知られているであろう。簡単に言うと、DNA(サザンブロッティングの場合)またはRNA(ノーザンブロッティングの場合)標的分子を含むサンプルを、アクリルアミドまたはアガロースなどのゲル材料を貫通するそれらの能力に従って分離する。ゲルの貫通は毛細管現象によって、または電場の活性によって誘導することができる。標的分子の分離を実施した後、これらの分子を、(例えばベーキングによってまたは紫外線照射によって)膜に固定する前に、薄膜(典型的にはナイロンまたはニトロセルロース)に移す。したがって遺伝子発現は、膜に結合した標的分子とオリゴヌクレオチドプローブのハイブリダイゼーションによって、検出および比較することができる。
【0087】
特定の状況では、遺伝子発現を比較するための伝統的なハイブリダイゼーションプロトコルの使用が問題となる可能性がある。例えばブロッティング技法には、ほぼ同じ分子量の2つ以上の遺伝子産物またはmiRNAを区別する、難点がある可能性がある。このような同様に大きい産物は、ゲルを使用して分離するのが難しいからである。したがって、このような状況では、以下に記載する技法などの別の技法を使用して、遺伝子発現を比較することは好ましい可能性がある。
【0088】
対象中の遺伝子発現および/またはmiRNAのレベルを表すサンプル中の遺伝子発現は、高密度オリゴヌクレオチドアレイ技術によって、適切な核酸サンプル内の全体の転写産物レベルを参照して評価することができる。このような技術は、オリゴヌクレオチドプローブが、例えば共有結合によって固形支持体と結合したアレイを利用する。固形支持体に固定されたオリゴヌクレオチドプローブのこれらのアレイは、遺伝子発現を比較するための本発明の方法およびキット中で使用するのに好ましい要素となる。多数のこのようなプローブをこの形式で結合させて、多数の遺伝子またはmiRNAの発現を比較するのに適したアレイを提供することが可能である。したがって、このようなオリゴヌクレオチドアレイは、2つ以上のmiRNAおよび/または遺伝子の発現を比較することが望ましい実施形態中で、特に好ましい可能性があることは理解されよう。
【0089】
遺伝子発現を表す核酸標的の比較において使用することができる他の適切な方法には、核酸配列ベースの増幅(NASBA);またはローリングサークル型DNA増幅(RCA)があるが、これらだけには限られない。
【0090】
それらを容易に検出することができるように、プローブを標識することは通常望ましい。本発明に従い使用するのに適したプローブまたは標的の標識において使用することができる検出可能成分の例には、分光的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的または化学的手段によって検出可能である任意の組成物がある。適切な検出可能成分には、様々な酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、放射性物質および比色分析用物質がある。これらの検出可能成分は、相反することを示さない限り、本発明の方法中で使用することができる全タイプのプローブまたは標的における取り込みに適している。
【0091】
適切な酵素の例にはホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼがあり、適切な補欠分子族複合体の例にはストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンがあり、適切な蛍光物質の例にはウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセイン イソシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシル、フィコエリスリン、テキサスレッド、ローダミン、緑色蛍光タンパク質などがあり、発光物質の例にはルミノールがあり、生物発光物質の例にはルシフェラーゼ、ルシフェリン、およびエクオリンがあり、適切な放射性物質の例には125I、131I、35S、H、14C、または32Pがあり、適切な比色分析用物質の例にはコロイド金または着色ガラスまたはプラスチック(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックスなど)ビーズがある。
【0092】
このような標識を検出する手段は当業者によく知られている。例えば、放射性標識は、写真用フィルムまたはシンチレーションカウンターを使用して検出することができ、蛍光マーカーは、発光を検出するための光検出器を使用して検出することができる。典型的には酵素標識は、酵素および基質を与えること、および基質に対する酵素の作用によって生成した反応産物を検出することによって検出され、比色標識は着色標識を単に視覚化することによって検出される。
【0093】
本発明の一実施形態では、蛍光標識プローブまたは標的をスキャンすることができ、蛍光はレーザー共焦点スキャナーを使用して検出することができる。
【0094】
標識核酸プローブまたは標的の場合、適切な標識はハイブリダイゼーションの前、最中、または後に実施することができる。一実施形態では、核酸プローブまたは標的はハイブリダイゼーションの前に標識する。蛍光標識も適切であり、および使用時に、それらの核酸標的と核酸プローブのハイブリダイゼーションの定量化は、ハイブリダイズした蛍光標識核酸からの蛍光の定量化による。定量化は、核酸に取り込まれるハプテンと結合する蛍光標識試薬からであってよい。
【0095】
本発明の一実施形態では、ハイブリダイゼーションの分析は、Microarray Analysis Suite(Affymetrix Inc.)などの適切な分析用ソフトウェアを使用して実施することができる。
【0096】
有効な定量化は、アレイ自動走査を可能にする自動ステージを備えることができ、かつ蛍光強度情報の自動測定、記録およびその後の処理用のデータ収集システムを備えることができる、蛍光顕微鏡を使用して実施することができる。このような自動化の適切な配置は従来通りであり、当業者によく知られている。
【0097】
一実施形態では、ハイブリダイズした核酸は、核酸と結合した1つまたは複数の検出可能成分を検出することによって検出する。検出可能成分は、当業者によく知られているいくつかの手段のいずれかによって取り込ませることが可能である。しかしながら、一実施形態では、このような成分は、サンプル核酸(プローブまたは標的)の調製における増幅ステップ中に同時に取り込ませる。したがって、例えば、検出可能成分で標識したプライマーまたはヌクレオチドを使用するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、前記成分で標識した増幅産物を提供し得る。別の実施形態では、蛍光標識ヌクレオチド(例えば、フルオレセイン標識UTPおよび/またはCTP)を使用する転写増幅は、転写される核酸に標識を取り込ませる。
【0098】
あるいは、適切な検出可能成分は、元の核酸サンプル(例えば、対象とする組織由来のmRNA、ポリAmRNA、cDNAなど)に直接、または元の核酸の増幅が終了した後に増幅産物に加えることができる。蛍光標識などの標識と核酸を結合させる手段は当業者によく知られており、例えば核酸のキナーゼ処理、およびサンプルと接合した核酸リンカーと標識(適切なフルオロフォアなど)の後の結合(連結)による、ニックトランスレーションまたは末端標識(例えば、標識RNAを用いる)を含む。
【0099】
本発明の方法はヒト対象に関して使用するのに最適であるが、本発明の方法は、非ヒト動物(例えば、ウマ、イヌ、ウシ、ラクダ)におけるウイルス感染の治療過程を決定する際にも有用であり得ることは理解されよう。
【0100】
以前の試験において、本発明者らは、内因性IFN系は多くの感染患者中で絶えず活性化されることを確定した。さらに、本発明者らは驚くことに、予め活性化されたIFN系がある患者とIFN療法に対する乏しい応答を関連付けた。この発見は直感に反する。活性化した先天性免疫系は、IFNα療法中にウイルスの除去を手助けすると予想されるからである。
【0101】
本発明者らは肝生検中のISG発現を分析し、HCVが驚くことに内因性IFN系を誘導する(阻害しない)患者が存在し、かつ(おそらくTRIFおよび/またはCardifの切断によって)HCVが内因性IFN系を誘導しない患者が存在するが、この違いは慢性感染を維持するHCVの能力に対して全く影響がないとさらに結論付けた。
【0102】
IFN系の事前活性化がない患者において、本発明者らは、ペグIFNα2bが4時間以内に肝臓中で多くのISGの確かな(準)最大上方制御を誘導したことを発見した。驚くことに、このような高いISG発現レベルは、第4週で迅速なウイルス学的著効を後に示さなかった患者の前処理生検において既に存在した。
【0103】
内因性IFN系の事前活性化が、遺伝子型2または3よりHCV遺伝子型1(および4)に感染した患者の肝生検中で一層頻繁に見られたことも発見した。遺伝子型2および3の感染は、遺伝子型1を有する患者の50%未満と比較して、80%を超える患者で治癒することができることはよく知られているので、これは興味深い。内因性IFN系の事前活性化の頻度および程度はHCVの遺伝子型に依存するという本発明者らの発見は、HCVの遺伝子型の異なる治療感受性に関する説明を与える。
【0104】
本発明者らは、これらのデータは、HCVはIFNシグナル伝達に干渉し、それによって療法に対する応答を損なうことを確かにしたことに気付いた。さらに、HCVによるIFNαシグナル伝達の阻害は、内因性IFN系の強い事前活性化が、HCVの自然な除去をもたらさない理由を説明する。本発明者らは、何らかの仮説によって縛られることは望まないが、これは、HCVに感染した肝細胞中で、IFNαが抗ウイルス状態を誘導する可能性はないことを意味すると考える。多くの患者の肝臓中で観察したISGの上方制御は、したがって非感染肝細胞中のみで起こり得る。
【0105】
肝生検中で見られるISGの強い誘導はこのようなモデルと適合性がある。感染肝細胞より多くの非感染肝細胞が存在するからである。IFNβ産生は、Cardifおよび/またはTRIF切断が成功しないウイルスに感染した肝細胞中で起こり得る。Jak−STAT経路のHCV誘導型阻害のため、分泌されるIFNβは、これらの感染肝細胞中で抗ウイルス状態を誘導しないが、非感染状態の近隣細胞中でのみ誘導し得る。
【0106】
「を低減する」によって、本発明者らは、作用物質がISGの発現レベルが対照組織中での発現レベルと著しく異ならないように、ISGの刺激を低減するのに有効であることを意味する。
【0107】
B型肝炎ウイルスおよびC型肝炎ウイルス感染を含めたいくつかの肝臓の異なるウイルス感染の治療において、作用物質を使用することができる。一実施形態では、作用物質を使用してC型肝炎ウイルス(HCV)感染を予防または低減する。
【0108】
本発明に従い使用することができる作用物質の例には、作用物質がIFNαポリペプチドと結合してIFNの機能活性を妨げることができる場合、例えば、抗体および断片およびそれらの誘導体(例えば、ドメイン抗体またはFab)がある。あるいは作用物質は、IFNα受容体(例えば、IFNAR1、IFNAR2a、b、またはc)でアンタゴニストとして作用することによって、IFN系に対する競合阻害剤として作用することができる。あるいは作用物質は、IFN経路中の酵素または他の分子を阻害することができる。あるいは作用物質は、そのmRNAの低減、したがってIFNαポリペプチドの低減をもたらすような形式で、IFNαポリペプチドをコードするmRNAと結合することができる。あるいは作用物質は、それがIFNαポリペプチドをコードする転写mRNAの量の低減をもたらすような形式で、IFNαをコードする核酸配列と結合することができる。例えば作用物質は、IFNα遺伝子のコードまたは非コード領域、またはIFNのDNAの5’または3’と結合して、それによってタンパク質の発現を低減することができる。
【0109】
いくつかの異なるヒトインターフェロンαポリペプチド配列が存在する。コンセンサス配列が決定されている。当業者によって、この情報を使用してIFNαポリペプチドに対する結合作用物質を開発することができる。
【0110】
作用物質がIFNαポリペプチドと結合するとき、その作用物質は、その天然型に正確にフォールディングされたタンパク質によって定義されるエピトープと結合することが好ましい。種間およびさらに遺伝子型間に、ある程度の配列変動性があり得ることは理解されよう。したがって、他の好ましいエピトープは、遺伝子変異体由来の同等の領域を含み得る。さらなるIFNポリペプチド由来の同等の領域は、前述の配列類似性および同一性ツール、およびデータベース検索法を使用して同定することができる。
【0111】
動物に抗原を注射することによって、ポリクローナル血清として抗体を産生することができる。例えば、ポリクローナル抗体は、当業者に知られている技法を使用して、抗原(例えば、IFNαポリペプチドの全体または断片)を動物(例えば、ウサギ)に接種することによって産生することができる。
【0112】
あるいは抗体はモノクローナルであってよい。従来のハイブリドーマ技法を使用してこのような抗体を産生することができる。本発明中で使用するためのモノクローナル抗体を作製するために使用する抗原は、ポリクローナル血清を作製するために使用するのと同一であってよい。
【0113】
その最も簡潔な型で、抗体または免疫グロブリンタンパク質は、γ−免疫グロブリン(IgG)クラスの抗体によって通常例示されるY形状分子である。この分子は、4本のポリペプチド鎖、それぞれ各々約50kDおよび25kDの2本の同一な重鎖(H)および2本の同一な軽鎖(L)からなる。それぞれの軽鎖は、ジスルフィドおよび非共有結合によって重鎖と結合する(H−L)。2本の同一なH−L鎖の組合せは、2本のH鎖間で同様の非共有結合およびジスルフィド結合により互いに結合して、基本の4本の鎖免疫グロブリン構造(H−L)を形成する。
【0114】
軽鎖免疫グロブリンは1つのV−ドメイン(V)および1つの定常ドメイン(C)で構成され、一方で重鎖は1つのV−ドメイン、およびH鎖のアイソタイプに応じて、3つまたは4つのC−ドメイン(C1、C2、C3およびC4)からなる。
【0115】
N末端において、それぞれの軽鎖または重鎖の領域は、配列が大きく異なり、抗原との特異的結合を担う可変(V)ドメインである。抗原に対する抗体特異性は実際、超可変ループまたは相補性決定領域(CDR)として知られるV領域内のアミノ酸配列によって決定される。それぞれH鎖およびL鎖のV領域は3つのこのようなCDRを有し、それは抗体の抗原結合部位を形成する全6個の組合せである。わずかな変異を示し超可変ループを支持する残りのV領域アミノ酸は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。
【0116】
可変ドメイン(C−ドメイン)を超える領域は比較的配列が一定である。本発明による抗体の特徴とする特徴は、VおよびVドメインであることは理解されよう。CおよびCドメインの正確な性質は概して本発明には重要ではないことが、さらに理解されよう。実際、本発明中で使用するのに好ましい抗体は、非常に異なるCおよびCドメインを有する可能性がある。さらに、以下でより完全に論じるように、好ましい抗体機能誘導体は、Cドメインがない可変ドメインを含むことができる(例えば、scFV抗体)。
【0117】
一種で作製される抗体、および特にmAbは、異なる種を治療するために使用するとき、いくつかの重大な欠点を有することが知られている。例えばマウス抗体をヒト中で使用するとき、それらは短い血清中循環半減期を有する傾向があり、治療される患者の免疫系により外来タンパク質として認識される可能性がある。これは望ましくないヒト抗マウス抗体(HAMA)応答の発生をもたらす可能性がある。抗体の頻繁な投与が必要とされるとき、これは特に問題がある。それはそのクリアランスを高め、その治療効果を阻害し、かつ過敏反応を誘導する可能性があるからである。これらの要因がヒト療法におけるマウスモノクローナル抗体の使用を制限し、ヒト化抗体を作製するための抗体操作技術の開発を促す。
【0118】
したがって、IFN活性を低減することができる抗体を、ヒト対象中のHCV感染を治療するための治療剤として使用する場合、したがって、非ヒト起源の抗体およびその断片はヒト化することが好ましい。
【0119】
(例えば、非ヒトハイブリドーマにおいて作製したモノクローナル抗体由来の)V領域配列と、ヒト抗体由来のC領域(および理想的にはV領域由来のFR)配列を接合することによって、ヒト化を実施することができる。生成する「操作」抗体は、それらが由来した非ヒト抗体よりヒト中で免疫原性が低く、したがって臨床用途により適している。
【0120】
ヒト化抗体はキメラモノクローナル抗体であってよく、その中で、組換えDNA技術を使用して、げっ歯類免疫グロブリン定常領域はヒト抗体の定常領域と置換される。次いでキメラH鎖およびL鎖遺伝子を、適切な制御エレメントを含有する発現ベクターにクローニングすることができ、哺乳動物細胞に誘導して完全グリコシル化抗体を産生することができる。この目的に適したヒトH鎖C領域遺伝子を選択することによって、抗体の生物活性を予め決定することができる。このようなキメラ分子を使用して、本発明に従い癌を治療または予防することができる。
【0121】
抗体のさらなるヒト化は、抗体のCDR移植または再形成を含むことができる。このような抗体は、(抗体の抗原結合部位を形成する)非ヒト抗体の重鎖および軽鎖CDRを、ヒト抗体の対応するフレームワーク領域に移植することによって産生される。
【0122】
ヒト化抗体断片は、本発明に従い使用するのに好ましい作用物質となる。IFNαポリペプチドまたはIFN受容体上のエピトープを認識するヒトFAbは、可変鎖ヒト抗体のファージライブラリーをスクリーニングすることによって同定することができる。(例えば、MorphosysまたはCambridge Antibody Technologyによって開発された)当技術分野で知られている技法を利用して、本発明に従い作用物質として使用することができるFabを作製することができる。簡単に言うと、ヒトコンビナトリアルFab抗体ライブラリーを、単鎖Fvライブラリー由来の重鎖および軽鎖可変領域を、Fabディスプレイベクターに移植することによって作製することができる。このライブラリーは2.1×1010の異なる抗体断片を生成することができる。次いでペプチドを「おとり」として使用して、望ましい結合性を有するそのライブラリーから抗体断片を同定することができる。
【0123】
ドメイン抗体(dAb)は、本発明のこの実施形態に従い使用することができる別の好ましい作用物質となる。dAbは抗体の最小の機能的結合単位であり、ヒト抗体の重鎖または軽鎖のいずれかの可変領域に相当する。このようなdAbは、約13kDaの分子量(完全抗体の大きさの約1/10(またはそれ未満)に相当)を有することができる。
【0124】
アプタマーは、本発明の第三または第四の態様の別の好ましい作用物質となる。アプタマーは、特異的、配列依存的な形状をとる核酸分子であり、アプタマーとリガンドの間の鍵と鍵穴の適合に基づいて特異的標的リガンドと結合する。典型的には、アプタマーは、一本鎖もしくは二本鎖DNA分子(ssDNAもしくはdsDNA)のいずれか、または一本鎖RNA分子(ssRNA)を含むことができる。アプタマーを使用して、核酸および非核酸標的の両方と結合することができる。したがって、IFNαを認識しそれによってIFNαの活性または発現を低減する、アプタマーを作製することができる。適切なアプタマーはランダムな配列プールから選択することができ、そこから高親和性で選択した標的分子と結合する特異的アプタマーを同定することができる。望ましい特異性を有するアプタマーを生成および選択するための方法は当業者によく知られており、SELEX(指数関数的増大によるリガンドの系統的進化)法を含む。簡単に言うと、オリゴヌクレオチドの巨大ライブラリーを生成し、in vitro選択およびポリメラーゼ連鎖反応による後の増幅の反復プロセスによる、多量の機能的核酸の単離を可能にする。
【0125】
アンチセンス分子は、患者の治療に使用するための別の好ましい作用物質となる。典型的にはアンチセンス分子は、遺伝子によって生成される相補的核酸配列と特異的に結合することができ、それを不活性化する、その遺伝子を効率よく「オフ」にする一本鎖核酸である。当業者によって理解されるように、それが「センス」配列と呼ばれる遺伝子のmRNAと相補的であるので、この分子は「アンチセンス」と呼ぶ。典型的にはアンチセンス分子は、15〜35塩基長のDNA、RNAまたは化学的類似体である。アンチセンス核酸を実験的に使用してmRNAと結合させ、特異的遺伝子の発現を妨げている。これは、癌、糖尿病および炎症疾患の治療用の薬剤としての「アンチセンス療法剤」の開発につながっている。アンチセンス薬剤は、ヒト治療用途に関してUSFDAによって近年承認されている。したがって、IFNポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列に対するアンチセンス分子を設計することによって、細胞中のIFNαポリペプチドの発現を低減し、それによってIFNα活性を低減し、HCV感染において見られる事前活性化を低減することができる可能性がある。IFNαポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は図8中に与える。
【0126】
短鎖干渉RNAまたはサイレンシングRNAとして知られることもある、低分子干渉RNA(siRNA)は、本発明の第三または第四の態様に従い使用するのに好ましい、さらなる作用物質となる。前述のように、本発明者らは、IFN系の事前活性化は抗ウイルス療法に対する耐性と関係があることを理解した。したがって、IFNα発現を低減することができるsiRNA分子には、HCV感染を治療するための医薬品の調製において多大な有用性があることは明らかである。siRNAは、それによってsiRNAが特異的遺伝子の発現の低減をもたらし、またはこのようなmRNAの翻訳に特異的に干渉し、それによってmRNAによってコードされるタンパク質の発現を阻害することができるRNA干渉経路(RNAi)に関与する、20〜25ヌクレオチド長のRNA分子の1クラスである。siRNAは十分に定義された構造、いずれかの末端に2ntの3’突出部分がある短い(通常21nt)二本鎖のRNA(dsRNA)を有する。それぞれの鎖は、5’リン酸基および3’ヒドロキシル(−OH)基を有する。in vivoでのこの構造は、ダイサー、長いdsRNAまたはヘアピンRNAをsiRNAに転換する酵素によるプロセシングの結果である。siRNAを様々なトランスフェクション法により外から(人為的に)細胞に導入して、対象とする遺伝子の特異的ノックダウンをもたらすこともできる。したがって、その配列が知られているほぼ任意の遺伝子を、適切に調節されたsiRNAとの配列相補性に基づいてターゲティングすることができる。対象とするほぼ任意の遺伝子をノックダウンする能力を考慮すると、siRNAによるRNAiは、基礎生物学と応用生物学の両方において大きな関心を引き起こしている。様々な生物学的経路中で重要な遺伝子を同定するために設計された、多数の大規模なRNAiスクリーニングが存在する。疾患プロセスは多数の遺伝子の活性にも依存するので、いくつかの状況では、siRNAによる遺伝子の活性の抑制は、治療効果をもたらす可能性があると予想される。したがってその発見は、生物医学研究および薬剤開発のための、RNAiの抑制の関心の上昇をもたらしている。近年の治療用RNAiの第I相臨床試験の結果は、siRNAは十分耐性があり適切な薬物動態性を有すること実証する。したがってsiRNAおよび関連RNAi誘導法は、近い将来重要な新クラスの薬剤となる。IFNαポリペプチドをコードする核酸に対して設計したsiRNA分子を使用してIFNαの発現を低減し、したがってIFN系の事前活性化の低減をもたらすことができる。したがって、本発明のこの態様の一実施形態は、作用物質がIFNαポリヌクレオチドに対する相補配列を有するsiRNA分子である実施形態である。
【0127】
このような情報を使用すると、IFNαポリヌクレオチドに対する相補配列を有するsiRNA分子を設計することは簡単であり、十分当業者の能力の範囲内にある。例えば、簡単なインターネット検索によって、siRNA分子を設計するために使用することができる多くのウエブサイトを得る。
【0128】
「siRNA分子」によって、本発明者らは、二本鎖20〜25ヌクレオチド長のRNA分子、およびsiRNA分子を構成する2つの一本RNA鎖のそれぞれを含める。
【0129】
例えば、siRNAはヘアピンRNA(shRNA)の形で使用される。このようなshRNAは、(例えば、約9ヌクレオチドの)スペーサー配列によって連結した2つの相補的siRNA分子を含むことができる。相補的siRNA分子は、それらが一緒に結合するようにフォールディングすることができる。
【0130】
IFNαポリペプチドをコードするRNAまたはDNAを切断することができるリボザイムは、本発明の第三または第四の態様の別の好ましい作用物質となる。
【0131】
「対象」は、脊椎動物、哺乳動物、飼育動物または人間であってよい。治療する対象はヒトであることが好ましい。これが該当するとき、それらがヒト治療(例えば、前に論じたような抗体のヒト化)に最適であるように、作用物質を設計することができる。しかしながら、獣医学の対象となる他の動物(例えば、ウマ、ラクダ、ウシ、イヌまたはネコ)を治療するために、作用物質を使用することも可能であることも理解されよう。
【0132】
本明細書で言及する「薬剤として許容されるビヒクル」は、医薬組成物を配合する際に有用であるとして当業者に知られている任意の生理的ビヒクルである。
【0133】
技術者が本発明の第一の態様の方法を実施するのに必要とする様々な要素を、キットに組み込むことができる。
【0134】
したがって、本発明の態様によれば、肝臓のウイルス感染がある対象が、インターフェロン(IFN)活性の刺激を含む抗ウイルス療法に応答する可能性を決定するためのキットであって、
(i)対象由来のサンプル中のmiRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベルを分析するための手段、および場合によっては、
(ii)サンプル中のmiRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベルと、対照サンプル中の前記miRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベルを比較するための手段を含むキットを提供する。
【0135】
「対象由来のサンプル中のmiRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベルを分析するための手段」によって、本発明者らは、サンプル中のmiRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベルを示す分子をターゲティングすることができる特異的結合分子を含める。いくつかの実施形態では、特異的結合分子はオリゴヌクレオチドプローブ、抗体、アプタマー、または前述の結合タンパク質もしくは小分子である。
【0136】
「サンプル中のmiRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベルと、対照サンプル中の前記miRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベルを比較するための手段」によって、本発明者らは、本発明の第一の態様中の前述の対照サンプルを含める。本発明者らは、前述の対照の参照データも含める。
【0137】
本発明のキットは、
(iii)miRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pの発現レベルを分析するための関連バッファーおよび試薬も含むことができる。
【0138】
キットと共に与えられるバッファーおよび試薬は液体形であってよく、およびいくつかの実施形態では、予め測定したアリコートとして与えることができる。あるいは、バッファーおよび試薬は、希釈用に濃縮(またはさらに粉末形)であってよい。
【0139】
(任意の添付の特許請求の範囲、要約および図面を含めた)本明細書に記載する全ての特徴、および/またはこのように開示する任意の方法またはプロセスの全てのステップは、このような特徴および/またはステップの少なくともいくつかが互いに矛盾する組合せ以外、任意の組合せで前述の態様のいずれかと組み合わせることができる。
【0140】
ここで本発明を、以下の実施例および図面を参照しながらさらに記載する。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】慢性C型肝炎(CHC)を有する患者の肝臓におけるmiR−122発現の図である。(A)miR−122レベルが、完全初期ウイルス学的著効(cEVR)を有する患者中より、ペグIFNα療法に対する一次非応答者(PNR)において有意に低い図である。42人のCHC患者および肝臓疾患がない6人の対照患者の肝臓中のmiR−122の量はRT−qPCRにより測定し、「コピー数/10pgの全RNA」として示す。16人のPNR患者と26人のcEVR患者の間の差は、両側マンホイットニーt検定により測定して統計学的に有意である(p<0.0001)。cEVR患者と対照の間に有意な差は存在しない。 (B)RNase保護アッセイが、PNR患者とcEVR患者の間のmiR−122レベルの差を確認する図である。4人の対照患者および8人のCHC患者(4PNRおよび4cEVR;患者番号、図の上部に示す)由来のRNAを、miR−122(上図)およびlet−7b(中央図)に特異的なプローブを用いて分析した。下図中の棒線は、それぞれの患者に関して定量的ホスファーイメージング(PhosporImaging)によって測定した、miR−122のRNAとlet−7bのRNAの間の相対比(上図および下図中に示した実験と同様の2つの実験からの平均)を表す。PNR患者は、cEVRおよび対照患者より3〜4倍低いmiR−122レベルを示す。 (C)血清中のHCVのRNAレベルは、肝内miR−122発現と相関関係がない図である。血清中ウイルス負荷(1ml当たりの国際単位)は対数目盛でプロットする(y軸)。相関関係は有意ではなく(p=0.35)、相関係数r=0.15である。 (D)肝内HCVのRNAレベルは、miR−122発現と相関関係がない図である。肝内HCVのRNA(全肝臓RNA1μg当たりのコピー数)は対数目盛でプロットする(y軸)。相関関係は有意ではない(p=0.06、相関係数r=−0.29)。 (E)ペグIFNαの投与は、ヒト肝臓中のmiR−122レベルに対して有意な影響がない図である。CHCを有する6cEVR患者および5PNR患者由来の対のヒト肝生検中のMiR−122レベル(コピー数/10pgの全RNA)は、RT−qPCRによって測定した。第一の肝生検は治療開始前に実施した(−ペグIFNα)。第二の生検(+ペグIFNα)は第一のペグIFNα注射後4時間で実施した。ダイアグラムは、それぞれの患者の(線によって結んだ)対の肝臓サンプル中のmiR−122のレベルを示す。
【図2】慢性C型肝炎(CHC)を有する患者の肝臓におけるmiR−296−5p発現の図である。miR−296−5pレベルは、完全初期ウイルス学的著効(cEVR)を有する患者中より、ペグIFNα療法に対する一次非応答者(PNR)において有意に高い。42人のCHC患者および肝臓疾患がない6人の対照患者の肝臓中のmiR−296−5pの量はRT−qPCRにより測定し、「コピー/10pgの全RNA」として示す。16人のPNR患者と26人のcEVR患者の間の差は、両側マンホイットニーt検定により測定して統計学的に有意である(p<0.0001)。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0142】
患者のサンプルおよびC型肝炎治療
2006年10月から2008年3月まで、バーゼル大学病院の外来患者肝臓クリニック参照のCHCを有する患者に、研究目的で彼らの診断用肝生検の一部を使用する許可を求めた。ペグ化IFNα2b(ペグIFNα;Peglntron、Essex Chemie AG、スイス)およびリバビリン(Rebetol、Essex Chemie AG、スイス;体重に基づいた投与:65kg未満、800mg/d;65〜85kg、1g/d;85kg超、1.2g/d)で治療した42人の患者は、繰り返しのRNA抽出に利用可能な十分な肝生検材料を有していた。彼らは全員白色人種であった。この42人の患者の11人は、ペグ化IFNαの最初の注射後4時間で2回目の肝生検を受けることも承諾した。プロトコルはバーゼル大学病院の倫理委員会によって承認され、文書化されたインフォームドコンセントを全患者から得た。血清中のHCV RNAは、Roche Molecular SystemsからのCOBAS AmpliPrep/COBAS Taqman(登録商標)HCV−Testを使用して、治療開始前ならびに治療第4週および第12週に定量化した。Metavirの分類体系によるHCV肝生検の組織学的グレーディングおよびステージングは、バーゼル大学病院の病理学研究所で実施された。非CHC健常対照の組織は局所性病変の超音波ガイド下肝生検を受けた6人の患者から得て、局所性病変外の正常肝臓組織由来の生検に関するインフォームドコンセントを得た。これらの患者は正常肝臓値を有しており、肝臓病変の不在は全対照サンプルに関して組織学的に確認した。
【0143】
肝臓組織およびHuh7細胞における定量化用のmiRNAの選択
miR−122以外に、Huh−7細胞ならびにヒトおよびマウス肝臓サンプルにおけるIFNの影響の定量化および分析用に選択したmiRNAは、Pedersenら、(Pedersen IMら、Nature2007;449:919〜922)によっていずれもINF誘導性として報告された、miR−1、miR−196、miR−296、miR−351、およびmiR−448であった。miR−1を除いたこれらのそれぞれのトランスフェクションは、Huh7細胞中のHCVレプリコンRNAの量を低下させることも報告された(Pedersen IMら、Nature2007;449:919〜922)。HCVレプリコンRNAの収率の低下をもたらすとして報告された別のmiRNAはmiR−431であるが、しかしながら、本発明者らはこのmiRNAを分析しなかった。その定量化のためのApplied Biosystemsからのアッセイが利用可能ではなく、かつ今日までこのmiRNAは、肝臓または肝癌細胞中で発現されるとして同定されていないからである。同様に、miR−30を分析しなかった。それは多数の形(miR−30a、b、c、d、およびe)で存在するが、分析する形がPedersenらによって特定されなかったからである。さらに、このmiRNAの過剰発現はHCV RNAの収率に対して全く影響がなかった(Pedersen IMら、Nature2007;449:919〜922)。Pedersenらによって分析された具体的なmiR−196およびmiR−296の形は示されていないが、本発明者らは定量化用に、miR−196b(ヒト肝癌細胞中で同定した2つのmiR−196特異的クローンはmiR−196aではなくmiR−196bを表す)、およびmiR−296−5p(Pedersenらによっても利用されたApplied Biosystems Taqman(登録商標)マイクロRNAアッセイは、miR−296−3pに関してではなくmiR−296−5pに関して利用可能である)を選択した。miR−196b以外、他の分析したmiRNA(miR−1、miR−296、miR−351、およびmiR−448)を表すクローンは、ヒト肝臓または肝癌細胞から単離しなかった(参照3)。
【0144】
Let−7bおよびmiR−15aを、そのレベルがCHC中でまたはIFN治療によって影響を受けると予想されなかった、対照miRNAとして選択した。
【0145】
RNAの抽出、逆転写、および低分子RNAのリアルタイムqPCR定量化
Huh7およびHuh7.5細胞由来の全および低分子RNA分画を、それぞれトリゾールおよびmirVana(商標)miRNA単離キット(Ambion、Austin、TX)を使用して、かつ製造者のプロトコルに従い抽出した。ヒトまたはマウス肝臓由来の全RNAは、トリゾール試薬中に10〜30mgの凍結組織を均質化することによって単離した。RNA濃度はNanoDrop分光光度計(NanoDrop Technologies、USA)を使用して定量化した。
【0146】
ヒトおよびマウス材料中でのlet−7b、miR−15a、miR−122、miR−1、miR−196b、miR−296−5p、miR−351、およびmiR−448発現の分析用に(マウスおよびヒト中でのこれらのmiRNAの配列は同一である)、Applied Biosystems Taqman(登録商標)マイクロRNAアッセイシステム(Applied Biosystems、Foster City、CA)を使用した。7.5μlの最終体積中、1×RTバッファー、5ngのRNA、50nMのmiRNA特異的RTプライマー、0.25mMの各dNTP、0.25U/μlのRNase阻害剤、および3.33U/μlのMultiScribe RTを含有した逆転写酵素(RT)反応混合物を、16℃で30分間、42℃で30分間、85℃で5分間インキュベートし、次いで4℃に保った。鋳型対照を含まない全てのRT反応は三連で実施した。リアルタイムPCRは、Applied Biosystems Prism7000配列検出システムを使用して実施した。10μlのPCRは、0.67μlのRT産物、1×Taqman Universal PCRマスター混合物、および1μlのプライマー、ならびにTaqman(登録商標)マイクロRNAアッセイのプローブ混合物を含んでいた。反応混合物は、96ウエルの光学プレートにおいて95℃で5分間インキュベートし、次に95℃で15秒および60℃で60秒の40サイクルでインキュベートした。Ct値はデフォルト閾値設定を使用して決定した。閾値サイクル(Ct)は、蛍光が一定の閾値を超える分別サイクル数として定義する。
【0147】
標準化およびmiRNAのコピー数の推定。
それぞれのサンプルに関して決定したCt値を、三連反応から計算したU6RNAに関して得た平均Ctに標準化した。miRNAのコピー数を決定するために、ポリアクリルアミド−ゲル−電気泳動(PAGE)−let−7b、miR−15a、miR−122、miR−1、miR−196b、miR−296−5p、miR−351、およびmiR−448miRNAに対応する精製オリゴヌクレオチド(Microsynth、スイス)を使用して、標準曲線を作製した。1.3aM(反応当たり7コピーに相当)から13pM(反応当たり7×10コピー)までの範囲の合成RNAインプットおよび反応混合物を、前に記載したApplied Biosystems Prism7000を使用して、Taqman(登録商標)マイクロRNAアッセイによって二連で分析した。単離合成miRNAを用いて実施した標準化をさらに検証するために、HeLa細胞またはマウス網膜のいずれかに由来する5ngの全RNAを含有する反応混合物に高濃度(1.3aM〜13pM)の合成miR−122を加え、Taqman(登録商標)マイクロRNAアッセイによって分析した。合成miR−122RNAの添加がない対照反応により測定したところ、MiR−122はHeLaおよびマウス網膜細胞中で発現されない。「担体」RNAの有無の下で得た標準曲線間で、差は観察しなかった(データ示さず)。
【0148】
異なる反応から得たCt値を、適切な標準曲線を使用して、肝臓組織由来の10pgの全RNA当たりまたは1つのHuh7細胞当たりの特異的miRNAの絶対コピー数に変換した。適応があれば、miRNAの回収を肝細胞特異的アルブミンmRNAのレベルにさらに標準化した。ヒトアルブミンRT−qPCRに使用したプライマーはTTGGAAAAATCCCACTGCAT(配列番号1)およびCTCCAAGCTGCTCAAAAAGC(配列番号2)であった。SYBR−PCR反応はSYBRグリーンPCRマスター混合物(Applied Biosystems、Foster City、CA)を使用して実施した。
【0149】
Huh7細胞当たりの個々のmiRNAのコピー数を決定するために、細胞当たりの全RNAの回収を3つの異なる手順によって計算した。最初の2つの手順に関して、製造者(Scharfe System、ドイツ)のプロトコルに従いCASY1細胞計数器を使用して細胞を計数し、知られている数の細胞由来のRNAは、トリゾールまたはmirVanaキットのいずれかを使用して抽出した。第三の手順では、細胞は顕微鏡下で計数し、RNAはトリゾールによって抽出した。3つの全ての手順は、RNA抽出用の異なる数の細胞を使用して三連で実施した。サンプルに32P標識RNAを加えてRNAの回収を測定した。3つの手順は以下の量の細胞当たりの全RNA:13.8+/−3.5pg、14.52+/−2.65pg、および13,98+/−2.37pgをもたらした。14.1pg/細胞の平均値をさらなる計算に使用した。この値は、肝細胞または肝癌細胞中のmiR−122含有量の計算用にChangらにより以前に使用された、細胞当たり25pgのRNAより低い。しかしながらそれは、異なる発生段階のマウスTリンパ球(0.67〜6.82pg/細胞)またはマウスES細胞(20pg/細胞)に関して計算した値の範囲内にある。
【0150】
細胞当たりの低分子RNA(200nt未満)の含有量を決定するために、異なる手順によって得た全Huh7細胞RNAに、mirVana(商標)キットによる分別を施す。1つのHuh7細胞は、1.125pgの低分子RNA(細胞当たり1.05〜1.2pgの範囲の測定値の平均)を含有すると計算した。Brownらにより測定した値と類似したこの値を使用して、細胞当たりのmiRNAコピー数に対する、低分子RNA10pg当たりのmiRNAのコピー数(Brownらにおいて測定したように、Applied Biosystem Taqman(登録商標)アッセイをさらに使用した)を再度計算した。本発明者らは、Applied Biosystem Taqman(登録商標)アッセイによって測定した細胞当たりのmiRNAコピー数の値は、RNase保護アッセイによって測定した値より低い傾向があることを記す(本発明者らの非公開の結果)。これは、Applied Biosystem Taqman(登録商標)システムが、同一の有効性で特異的miRNAの個々の3’末端配列変異体を検出しない事実による(非公開の結果)。
【0151】
RNase保護アッセイによるmiRNAの検出
RNase保護アッセイ(RPA)を、製造者の説明書に従いmirVanamiRNAプローブ構築および検出キット(Ambion)を使用して実施した。RPAプローブの調製に使用したプライマーは、let−7b、TGAGGTAGTAGGTTGTGTGGTTCCTGTCTC(配列番号3)およびmiR−122、TGGAGTGTGACAATGGTGTTTGTCCTGTCTC(配列番号4)であった。簡単に言うと、RPA反応混合物は、5fmol(100,000cpm)の内部標識およびPAGE精製RPAプローブおよび1μgの全肝臓RNAを含有していた。ハイブリダイゼーションは42℃で一晩実施し、RNaseA/T1の消化は37℃において20分であった。保護断片は変性条件下で12%PAGEによって分析し、次にPhosphorlmager(Typhoon、Molecular Dynamics)によって定量化した。
【0152】
ISGmRNAレベルの測定
ヒトまたはマウス肝臓組織から抽出した全RNAを、IFN作用の指標としての「古典的な」ISGmRNA(PKR、OAS1、STAT1およびSOCS1)の定量化に使用した。ランダムヘキサマー(Promega)およびデオキシヌクレオシドトリホスフェートの存在下で、モロニーマウス白血病ウイルス由来逆転写酵素(Promega Biosciences、Inc.、Wallisellen、スイス)によってRNAを逆転写した。反応混合物は、70℃で5分間、次いで37℃で1時間インキュベートし、95℃で5分間加熱することによって停止した。SYBR−PCR反応は、SYBRグリーンPCRマスター混合物(Applied Biosystems)、およびゲノムDNAの増幅を避けるためのエクソン−イントロン接合部に広がるプライマーを使用して実施した。以下のプライマーをマウス(m)遺伝子:リボソームタンパク質L−19(mRPL−19)に使用した。ATCCGCAAGCCTGTGACTGT(配列番号5)およびTCGGGCCAGGGTGTTTTT(配列番号6);mPKR、TGATAACGAAAACAAGGTGGATTG(配列番号7)およびACAAGGCCTATGTAGTTACCAACGA(配列番号8);mOAS1、CACCCAGTGAGGGTCTCCAA(配列番号9)およびCCCTTGAGTGTGGTGCCTTT(配列番号10);mSTAT1、CGGCGCAGAGAGATTTGC(配列番号11)およびAGCTGAAACGACTGGCTCTCA(配列番号12)。ヒト(h)遺伝子のプライマーは、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼであった(hGAPDH);GCTCCTCCTGTTCGACAGTCA(配列番号13)およびACCTTCCCCATGGTGTCTGA(配列番号14)、hPKR、TGATTATCTGCGTGCATTTTGG(配列番号15)およびGCTGAAAGATCACCAGCCATTT(配列番号16);hOAS1、TGATGCCCTGGGTCAGTTG(配列番号17)およびTCGGTGCACTCCTCGATGA(配列番号18);hSOCS1、CCCCTTCTGTAGGATGGTAGCA(配列番号19)およびTGCTGTGGAGACTGCATTGTC(配列番号20);hSTAT1、TCCCCAGGCCCTTGTTG(配列番号21)およびCAAGCTGCTGAAGTTGGTACCA(配列番号22);hIP10、CGATTCTGATTTGCTGCCTTAT(配列番号23)およびGCAGGTACAGCGTACGGTTCT(配列番号24);hUSP18、CTCAGTCCCGACGTGGAACT(配列番号25)およびATCTCTCAAGCGCCATGCA(配列番号26);hIFl27、CCTCGGGCAGCCTTGTG(配列番号27)およびAATCCGGAGAGTCCAGTTGCT(配列番号28)。サイクル閾値(ΔCt)値の差は、対象とする転写産物に関するCt値から、内部対照として働いたhGAPDHまたはmRPL−19に関するCt値を差し引くことによって導いた。全ての反応は、Applied Biosystems Prism7000配列検出システムを使用して二連で実施した。mRNAの発現レベルは、式2―ΔCtを使用して、ΔCt値からのhGAPDHまたはmRPL−19に対して計算した。対の肝生検サンプル中の発現の変化は、式2”(ΔCtB−1−ΔCtB−2)に従い倍数変化として計算した。
【0153】
肝内HCV RNAの定量化
42人のCHCおよび6人の対照患者の生検から単離した1μgの全RNAを、全てのHCV亜型のin vitro定量化用に設計された病原体特異的RTプライマー混合物(HCV用定量化キット、PrimerDesign Ltd、Southampton、UK)を使用して、製造者の説明書に従い逆転写した。HCV RNAは、病原体特異的プライマー/プローブ混合物(PrimerDesign Ltd)およびTaqman(登録商標)Universal PCRマスター混合物(Applied Biosystems、Roche、New Jersey、USAにより製造された)を使用して、製造者の説明書に従い定量化した。蛍光はApplied Biosystems7000配列検出システムのFAMチャンネルによって検出し、1μgの全RNA当たりのHCV RNAのコピー数は、病原体陽性対照鋳型(PrimerDesign Ltd)を使用して得た標準曲線に従い計算した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝臓のウイルス感染がある対象が、インターフェロン(IFN)活性の刺激を含む抗ウイルス療法に応答する可能性を決定するための方法であって、
(a)miRNAの発現のレベルに関して対象由来のサンプルを分析すること、および
(b)対象由来のサンプル中の前記miRNAの発現のレベルと対照サンプル中の前記miRNAのレベルを比較することを含む方法。
【請求項2】
miRNAがmiR122であり、対照サンプル中のmiR−122のレベルと比較した対象由来のサンプル中の低レベルのmiR−122が、対象が前記抗ウイルス療法におそらく応答しないことを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
miRNAがmiR−296−5pであり、対照サンプル中のmiR−296−5pのレベルと比較した対象由来のサンプル中の高レベルのmiR−296−5pが、対象が前記抗ウイルス療法におそらく応答しないことを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
対照サンプル中のそれぞれmiR−122および/またはmiR−296−5pのレベルと比較した、対象由来のサンプル中の不変もしくは高レベルのmiR−122および/または不変もしくは低レベルのmiR−296−5pが、それぞれ対象が前記抗ウイルス療法におそらく応答することを示す、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
抗ウイルス療法が、リバビリンと場合によっては組み合わせてもよいペグ化IFNα(ペグIFNα)を含む、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ウイルス感染がB型肝炎ウイルスまたはC型肝炎ウイルス感染である、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ウイルスがC型肝炎ウイルスである、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
サンプルが肝臓組織を含む、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
療法に対する対象の応答性を予測するものであり得る遺伝子の発現も分析する、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
サンプル中のmRNA遺伝子転写産物の量、または前記mRNAに由来するcDNAの量を測定することによって遺伝子の発現を決定する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
サンプル中の前記遺伝子によってコードされるペプチドまたはポリペプチドの量を測定することによって遺伝子の発現を決定する、請求項9または10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
ペプチドまたはポリペプチドの量を、特異的結合分子を使用して決定する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
対象がヒトである、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれかに記載の方法を実施するためのキットであって、
(i)対象由来のサンプル中のmiRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pの発現レベルを分析するための手段、および場合によっては、
(ii)対象由来のサンプル中の前記miRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベルと、対照サンプル中の前記miRNA、例えばmiR−122またはmiR−296−5pのレベルを比較するための手段を含むキット。
【請求項15】
療法に対する対象の応答性を予測するものであり得る少なくとも1つの遺伝子の発現を分析するための手段であって、療法に対する対象の応答性を予測するものであり得る前記少なくとも1つの遺伝子を代表する分子をターゲティングすることができる1つまたは複数の特異的結合分子を最終的に含み、前記特異的結合分子がオリゴヌクレオチドプローブ、抗体、またはアプタマーである手段、および場合によっては、サンプル中の遺伝子の発現と対照サンプル中の同じ遺伝子の発現を比較するための手段をさらに含む、請求項14に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−525799(P2011−525799A)
【公表日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515400(P2011−515400)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【国際出願番号】PCT/EP2009/058045
【国際公開番号】WO2009/156507
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(502407336)ノバルティス・フォルシュングスシュティフトゥング・ツヴァイクニーダーラッスング・フリードリッヒ・ミーシェー・インスティトゥート・フォー・バイオメディカル・リサーチ (19)
【氏名又は名称原語表記】Novartis Forschungsstiftung Zweigniederlassung Friedrich Miescher Institute for Biomedical Research
【出願人】(504051928)ユニバーシティ ホスピタル バーゼル (2)
【Fターム(参考)】