説明

抗サリバリウスモノクローナル抗体を産出する細胞株、その製造方法、それにより産出されたモノクローナル抗体、およびそれにより産出されたモノクローナル抗体を含むキット

【課題】 サリバリウスに対して高い結合能を有し、かつ他のストレプトコッカス属細菌に対する交叉反応性が低い抗サリバリウスモノクローナル抗体を産出する細胞株を提供する。
【解決手段】 サリバリウスで免疫した哺乳動物の脾臓細胞と、哺乳動物の骨髄腫由来の細胞とを細胞融合して、融合細胞を得る。サリバリウスに対して特異的なモノクローナル抗体を産生する細胞株を融合細胞の中からクローニングする工程において、該融合細胞から産生される抗体を、サリバリウスおよびその他のストレプトコッカス属細菌に対する結合能について免疫測定法により検定することにより、抗サリバリウスモノクローナル抗体産出細胞株を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サリバリウス菌(Streptococcus salivarius、以下単にサリバリウスと記す)に特異的なモノクローナル抗体を産出する細胞株、その製造方法、それにより産出されたモノクローナル抗体、およびそれにより産出されたモノクローナル抗体を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、う蝕あるいは歯周病を調べる際には、その原因菌と思われる細菌を培養することにより、原因菌の存在を半定量的に調べ、診断している。しかしながら、う蝕や歯周病等の感染症の原因となる菌の種類が多いため、感染症への罹患の有無を効率よく調べることは困難である。
【0003】
口腔内の感染症の有無を検査するために、口腔内に常在する細菌の存在量を測定する方法がある。人の口腔内に常在する細菌として、例えばサリバリウスがある。サリバリウスは、通常、口腔内に無害な状態で常在している。口腔内が正常な状態にある場合、歯肉間にはサリバリウス菌しか存在していない。しかし、例えば、歯周病に感染し、歯周病原因菌が増殖すると、歯周病原因菌が増殖した部位におけるサリバリウス菌の存在量が著しく減少する。したがって、口腔内におけるサリバリウス菌の存在量を測定することにより、間接的な感染症への罹患の有無を判定することができる。
【0004】
サリバリウスの存在量を測定するために、一般的には、培養法を利用してサリバリウスの存在量を測定する方法が用いられている。同方法では、サリバリウスを他のミュータンスグループの細菌(例えば、ストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans)やストレプトコッカス・クリセツス(S.cricetus)、ストレプトコッカス・ラッタス(S.rattus)など)と共に生育し、生育したミュータンスグループの細菌集団の中に存在するサリバリウスを同定および検出する。
【0005】
非特許文献1は、培養法を利用したサリバリウスの存在量の測定方法について記載している。非特許文献1に記載の測定法によりサリバリウスの存在量を測定するために、例えば、アピテスト(アピストレップ20;日本ビオメリューバイテック社製)を利用することができる。酵素活性や糖発酵能をテストするための基質が入っている20個のカップそれぞれに菌を接種し、4時間または24時間培養した後に、添加した試薬や指示薬により呈色した色を判定表に従って読み取り、陽性率表または7桁のアピプロフアイルインデックスによって同定する。
【0006】
このように、非特許文献1に記載の従来の検出方法によれば、サリバリウスを検出することができる。
【非特許文献1】武笠英彦ら、「う蝕細菌の分子生物学一研究の成果と展望」、クインテッセンス、1997年4月、p.71−72
【非特許文献2】ハーロー(Harlow)およびレーン(Lane)、「アンティボディーズ:ア ラボラトリー マニュアル(ANTIBODIES: A LABORATORY MANUAL)」、コールド・スプリング・アバー・ラボラトリー(COLD SPRING HARBOR LABORATORY)、米国、1988年
【非特許文献3】コーラー(Koehler)およびミルシュテイン(Milstein)、「カルチャーズ オブ フューズド セルズ シクリーティング アンチボディー オブ プレディファインド スペシフィシティ(cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity)」、ネイチャー(Nature)、英国、1975年、p.256−495
【非特許文献4】コズボール(Kozbor)ら、「ザ プロダクション オブ モノクローナル アンチボディーズ フロム ヒューマン リンフォサイツ(The production of monoclonal antibodies from human lymphocytes)」、イミュノロジー トゥデイ(Immunol. Today)、1983年、p.4−72
【非特許文献5】コート(Cote)ら、「ジェネレーション オブ ヒューマン モノクローナル アンチボディーズ リアクティブ ウィズ セルラー アンチジェンズ(Generation of human monoclonal antibodies reactive with cellular antigens)」、プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・オブ・ザ・ユナイティド・ステイツ・オブ・アメリカ(Proc.Natl.Acad.Sci.)、米国、1983年、p.80−2026
【非特許文献6】コール(Cole)ら、「モノクローナル アンティボディーズ アンド キャンサー セラピー(MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY)」、アラン・アール・リス(Alan R Liss Inc.)、米国、1985年、p.77?96
【非特許文献7】ポール(Paul)・W編、「ファンダメンタル イミュノロジー(FUNDAMENTAL IMMUNOLOGY)」、第2版、レイバン プレス(Ravan Press)、米国、1989年、第7章
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載の従来の検出方法では、培養法を用いるため、菌の検出に時間がかかり、また、操作が煩雑であるという問題がある。また、同検出方法では、サリバリウスを検出することはできるものの、定量することが容易ではないという問題がある。したがって、サリバリウスの定量をより正確かつ簡便に行うことが望まれているが、現在のところそのような方法は提案されていない。
【0008】
サリバリウスを容易に検出することができ、かつ定量的に分析することができる方法として、サリバリウスに対して特異的に結合する抗体を用い、サンドイッチ法によりサリバリウスを定量することが考えられる。サンドイッチ法は、目標とする細菌に特異的に結合する抗体を用い、固相に結合させた抗体と標的の細菌とを反応させ、さらに、標的の細菌に標識した抗体を反応させることにより、標的の細菌を定量することができる方法である。
【0009】
サリバリウスを介してサンドイッチ状に結合できる抗体のペアを得ることは比較的容易である。しかし、モノクローナル抗体を用いる場合、抗体が均一であるため、このモノクローナル抗体の交叉反応性が非常に重要となる。サリバリウスに対するモノクローナル抗体の中には、サリバリウスだけでなく、他のストレプトコッカス属細菌に対しても高い結合能を有する抗体が存在し得る。ここで、他のストレプトコッカス属細菌とは、上記のミュータンスグループの他に、ストレプトコッカス・サングイス(S.sanguis)や、ストレプトコッカス・ゴルドニー(S.gordnii)、ストレプトコッカス・ミティス(S.mitis)、ストレプトコッカス・ソブリヌス(S.Sobrinus)などを含む。これらの他のストレプトコッカス属細菌に対する交叉反応性が高い抗体をサンドイッチ法に用いた場合、他のサリバリウスの正確な定量に支障をきたす恐れがある。従って、他のストレプトコッカス属細菌に対する交叉反応性が低い抗サリバリウスモノクローナル抗体を用いる必要があるが、従来、サリバリウスに対して特異的に結合し、かつ他のストレプトコッカス属細菌に対する交叉反応性が低い抗体は得られていない。
【0010】
それゆえに、本発明の目的は、サリバリウスに対して高い結合能を有し、かつ他のストレプトコッカス属細菌に対する交叉反応性が低い抗サリバリウスモノクローナル抗体を産出する細胞株、その製造方法、それにより産出されたモノクローナル抗体、およびそれにより産出されたモノクローナル抗体を含むキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、サリバリウスに特異的なモノクローナル抗体を産生する細胞株の作製方法であって、サリバリウスで免疫した哺乳動物の脾臓細胞と、哺乳動物の骨髄腫由来の細胞とを細胞融合して、融合細胞を得る工程;およびサリバリウスに対して特異的なモノクローナル抗体を産生する細胞株を該融合細胞の中からクローニングする工程であって、該融合細胞から産生される抗体を、サリバリウスおよびその他のストレプトコッカス属細菌に対する結合能について免疫測定法により検定する工程を包含する。
【0012】
好ましくは、哺乳動物の骨髄腫由来の細胞は、マウス骨髄腫由来P3X63 Ag8.653株の細胞であるとよい。
【0013】
好ましくは、免疫測定法が、酵素免疫測定法(ELISA法)であるとよい。
【0014】
また、免疫した哺乳動物が、マウスまたはラットであってもよい。一例として、免疫した哺乳動物は、BALB/C系統マウスである。
【0015】
また、本発明は、抗サリバリウスモノクローナル抗体を産出する抗サリバリウスモノクローナル抗体産出細胞株であって、上記の抗サリバリウスモノクローナル抗体産出細胞株の作製方法により作製される。
【0016】
好ましくは、細胞株は、受託番号FERM BP−08613号であるとよい。また、好ましくは、細胞株は、受託番号FERM BP−08614号であるとよい。
【0017】
また、本発明は、上記のモノクローナル抗体産出細胞株により産出され、その他のストレプトコッカス属細菌と比べてサリバリウスに対して高い結合能を有する、抗サリバリウスモノクローナル抗体である。
【0018】
好ましくは、抗サリバリウスモノクローナル抗体は、受託番号FERM BP−08613号のモノクローナル抗体産出細胞株により産出されるとよい。また、好ましくは、抗サリバリウスモノクローナル抗体は、受託番号FERM BP−08614号のモノクローナル抗体産出細胞株により産出されるとよい。
【0019】
また、本発明は、サリバリウスを検出するためのキットである。キットは、固相に結合された第1の抗体、および第2の抗体を含み、第1の抗体および第2の抗体のうち少なくとも一方は、本発明の抗サリバリウスモノクローナル抗体産出細胞株により産出された抗サリバリウスモノクローナル抗体であり、第2の抗体は標識されている。好ましくは、上記本発明の抗サリバリウスモノクローナル抗体産出細胞株により産出された抗サリバリウスモノクローナル抗体は、受託番号FERM BP−08613号のモノクローナル抗体産出細胞株により産出された抗サリバリウスモノクローナル抗体、または受託番号FERM BP−08614号のモノクローナル抗体産出細胞株により産出された抗サリバリウスモノクローナル抗体であるとよい。
【0020】
また、第1の抗体はポリクローナル抗体であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、サリバリウスに対して高い結合能を有し、かつ他のストレプトコッカス属細菌に対する交叉反応性が低い抗サリバリウスモノクローナル抗体を産出する細胞株、その製造方法、それにより産出されたモノクローナル抗体、およびそれにより産出されたモノクローナル抗体を含むキットが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について、より具体的に説明する。本発明においては、特に指示のない限り、当該分野で公知である、タンパク質の分離および分析法、ならびに免疫学的手法が採用され得る。これらの手法は、市販の酵素、キット、抗体、標識物質などを使用して行い得る。
【0023】
本発明に係る抗サリバリウスモノクローナル抗体産生細胞株の作製を、以下作製手順に沿って説明する。
【0024】
(免疫)
まず、哺乳動物をサリバリウスで免疫することによって、動物体内で抗体産生細胞を調製する。
【0025】
「哺乳動物」の例として、マウス、ラット、ウシ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、モルモットが挙げられる。哺乳動物は、好ましくはマウスおよびラットであり、より好ましくはマウスである。マウスの例として、A/J系統、BALB/C系統、DBA/2系統、C57BL/6系統、C3H/He系統、SJL系統、NZB系統、CBA/JNCrj系統のマウスが挙げられる。特に、BALB/C系統のマウスは、免疫後に血清中に高い抗体力価を示すので、サリバリウスとの親和性が極めて高いモノクローナル抗体を得ることが可能である。血中抗体力価が、特異的なハイブリドーマの出来易さと関係していることは公知である。また、細胞株の確立後の腹水による抗体大量作製においては、BALB/C系統マウスが一般によく使用される。以上により、BALB/C系統のマウスは、サリバリウスの免疫に好ましい例である。実験動物の齢は、特に限定されないが、代表的には約4週齢〜約12週齢であり、好ましくは約6〜約10週齢、より好ましくは約7週齢のマウスまたはラットである。
【0026】
免疫に用いられるサリバリウスは、人の口腔内から単離してもよいし、市販(例えば、アメリカンタイプカルチャーコレクション、アメリカ合衆国 メリーランド 20852、ロックビル、パークローン ドライブ 12301から入手し得る)のものを用いてもよい。人の口腔内からは、定法に従い、MS寒天培地上でムコイド型のコロニーとして単離され得る。
【0027】
免疫の前に、サリバリウスは、免疫応答を増強させるためにアジュバントと混合され得る。アジュバントの例としては、油中水型乳剤(例えば、不完全フロイントアジュバント)、水中油中水型乳剤、水中油型乳剤、リポソーム、水酸化アルミニウムゲル、シリカアジュバント、粉末ベントナイト、およびタピオカアジュバントの他に、BCG、Propionibacterium acnesなどの菌体、細胞壁およびトレハロースダイコレート(TDM)などの菌体成分;グラム陰性菌の内毒素であるリポ多糖体(LPS)およびリピドA画分;β グルカン(多糖体);ムラミルジペプチド(MDP);ベスタチン;レバミゾールなどの合成化合物;胸腺ホルモン、胸腺ホルモン液性因子およびタフトシンなどの生体成分由来のタンパク質またはペプチド性物質;ならびにそれらの混合物(例えば、完全フロイントアジュバント)などが挙げられる。
【0028】
これらのアジュバントは、投与経路、投与量、投与時期などに依存して免疫応答の増強または抑制に効果を示す。さらにアジュバントの種類によって、抗原に対する血中抗体産生、細胞性免疫の誘導、免疫グロブリンのクラスなどに差が認められる。それゆえ、目的とする免疫応答に応じて、アジュバントを適切に選択することが好ましい。選択されたアジュバントの取扱い、例えばサリバリウスとの混合方法などは当該分野で公知である。
【0029】
哺乳動物の免疫は、当該分野で公知の方法に従って行われる。例えば、抗原であるサリバリウスは、哺乳動物の皮下、皮内、静脈、または腹腔内に注射され得る。免疫応答は、免疫される哺乳動物の種類および系統によって異なるので、免疫スケジュールは、使用される動物に合わせて適切に変更され得る。抗原投与は、最初の免疫の後に、何回か繰り返される。追加免疫は、例えば、最初の免疫から4週間後、6週間後、および半年後に行われ得る。
【0030】
(抗体産生の確認)
免疫後、哺乳動物から採血し、得られた血液をサリバリウス結合活性の存在についてアッセイすることにより、哺乳動物の体内でサリバリウスに対する抗体が産生されていること、および免疫末期にはIgMからIgGへのクラススイッチが起こっていることを確認する(例えば、非特許文献2を参照のこと)。適切なアッセイ方法の例として、酵素免疫測定法(ELISA法)、放射免疫アッセイ法(RIA)、蛍光抗体法が挙げられる。本発明では、サリバリウスに対して高親和性を有する抗サリバリウスモノクローナル抗体を得ることが望ましい。高親和性のモノクローナル抗体産生細胞を得るためには、抗血清の時点で高い抗体価を示している必要がある。
【0031】
(ブースト)
サリバリウス結合性抗体の産生を確認した後、脾臓を肥大させるために、ブースト(免疫原の追加注射)を行い得る。ブーストで投与されるサリバリウスの量は特に限定されないが、好ましくは、最初に免疫されるサリバリウスの量の約4〜5倍の量である。
【0032】
ブーストは、代表的には、サリバリウスと不完全フロイントアジュバントとのエマルジョンを用いて行われる。ただし、最終免疫(細胞融合数日前の免疫原の追加注射)で投与されるサリバリウスとしては、アジュバントを加えず純粋品を用いることが好ましい。投与経路は、皮下、皮内、静脈、または腹腔内それぞれの投与によって、サリバリウスの異なった部位を認識する抗体が得られる可能性があることを考慮して、適宜決定される。
【0033】
(細胞融合)
最終免疫後、免疫した哺乳動物から脾臓細胞を摘出し、骨髄腫由来の細胞株の細胞と細胞融合する。
【0034】
融合細胞の増殖能力は、細胞融合時に用いられる骨髄腫由来の細胞株の種類に依存するので、細胞融合には、増殖能力の優れた細胞株を用いることが好ましい。また、骨髄腫由来の細胞株は、融合する脾臓細胞の由来する哺乳動物と適合性があることが好ましい。骨髄腫由来の細胞株は、新たに調製してもよいし、市販のものを使用してもよい。マウスの骨髄腫由来の細胞株としては、P3X63 Ag8.653、Sp2/O Ag14、FO・1、S194/5.XX0 BU.l、P3/NS1/1 Ag4 1などが挙げられる。抗体の断片を産生せず、かつ融合細胞の増殖能力が優れたものとなるため、P3X63 Ag8.653の使用が好ましい。ラット骨髄腫由来の細胞株としては、210、RCY3.Ag.1.2.3、YB2/0などが挙げられる。
【0035】
細胞融合は、当該分野で公知の方法に従って行われる(非特許文献3〜6などを参照のこと)。細胞融合法の例として、例えば、ポリエチレングリコール法、センダイウイルスを用いた方法、電流を利用する方法などが挙げられる。細胞毒性も比較的少なく、融合操作も容易で再現性が高いため、ポリエチレングリコール法が好ましい。
【0036】
得られた融合細胞は、当該分野で公知の条件に従って増殖させ得る。産生される抗体の結合能に基づいて、所望の融合細胞を選択し得る。
【0037】
(細胞選別およびクローニング)
融合細胞から産生される抗体の結合能は、当該分野で公知の方法に基づいてアッセイされ得る。本発明においては、サリバリウスに高い結合能を有し、他のストレプトコッカス属細菌に対して有意な結合能を有さないか、もしくは低い結合能を有する抗体を産生する融合細胞を得るために、他のストレプトコッカス属細菌に対する結合能に基づく選別を利用して、目的の細胞株をクローニングする。従って、本明細書中で用語「サリバリウスに対して特異的なモノクローナル抗体」とは、サリバリウスに高い結合能を有し、他のストレプトコッカス属細菌に対して結合能を有さないか、もしくは低い結合能を有する抗体を意味する。サリバリウスに高い結合能を有し、他のストレプトコッカス属細菌に対して「結合能を有さない」抗体は、交叉反応性がない。なお、他のストレプトコッカス属細菌は、例えば、ストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans)やストレプトコッカス・クリセツス(S.cricetus)、ストレプトコッカス・ラッタス(S.rattus)などのミュータンスグループの細菌、およびストレプトコッカス・サングイス(S.sanguis)や、ストレプトコッカス・ゴルドニー(S.gordnii)、ストレプトコッカス・ミティス(S.mitis)、ストレプトコッカス・ソブリヌス(S.Sobrinus)などを含む。
【0038】
本明細書において、細菌検査における用語「高い結合能を有する」とは、測定対象とする細菌とその他の細菌とが同濃度で存在する場合に、測定対象とする細菌が、その他の細菌と比較して、有意義な結合能の差異を有する場合である。本明細書では、例えば、ELISA測定において吸光度0.5以上の差異があれば、高い結合能を有していると定義する。
【0039】
抗体の結合能は、抗体産生の確認に関して上述したのと同様に、ELISA法、RIA法、蛍光抗体法などの方法を用いてアッセイされる。簡便に感度よく抗体を検出し得ることから、ELISA法が好ましい。
【0040】
融合細胞のクローニングには、当該分野で公知の方法が用いられ得る。クローニングの方法の例としては、限界希釈法、軟寒天法などが挙げられる。操作も容易で数多くの実績があり、再現性が高いため、限界希釈法が好ましい。細胞融合により得られた多くの融合細胞の中から、効率よく有用な細胞を選択するために、細胞選別は、クローニングの初期の段階から行うことが好ましい。
【0041】
このようにして、望ましい結合能を有する抗体を産生する融合細胞株が最終的に選別される。選別された細胞株は、液体窒素中で半永久的に保存され得る。
【0042】
(抗体の精製)
上記のようにして選別されたモノクローナル抗体産生細胞株を大量培養することにより、サリバリウスに対して特異的なモノクローナル抗体を大量に産生し得る。モノクローナル抗体産生細胞株の大量培養方法として、インビボおよびインビトロでの培養が挙げられる。インビボでの大量培養の例としては、哺乳動物の腹腔内に融合細胞を注射して増殖させ、腹水中に抗体を産生させる方法が挙げられる。インビトロでの培養では、融合細胞が培地中で培養され、抗体が培地中に産生される。
【0043】
大量培養により得られた腹水または培養上清から、当該分野で公知の方法を用いて、本発明のモノクローナル抗体を精製し得る。精製のためには、例えば、DEAE陰イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、硫安分画法、PEG分画法、エタノール分画法などが適宜組み合わせて用いられる。本発明の抗体は、通常、約90%の純度、好ましくは約95%の純度、より好ましくは約98%の純度となるように精製される。
【0044】
(抗体の評価)
任意の2種の抗体の組合せは、サンドイッチ法のために有用である。一方、細菌表面上には、同一のタンパク質が多く存在するため、一種類のモノクローナル抗体を使用してサンドイッチ法をすることも可能である。
【0045】
本発明においては、サリバリウスを検出するためのサリバリウス検出用キットが提供される。サリバリウス検出用キットは、例えば、抗原抗体結合反応に基づいて水性試料中の抗原を検出する免疫クロマトグラフィーを実施するために提供され得る。サリバリウス検出用キットは、固相に結合された第1の抗体と、移動相に含められて用いられる第2の抗体とを含む。
【0046】
固相に結合される第1の抗体としては、サリバリウスに高い結合能を有する限り任意の抗体を使用し得、これは、ポリクローナル抗体であってもよいし、モノクローナル抗体であってもよい。好ましくは、本発明の抗サリバリウスモノクローナル抗体を産出する細胞株作製方法によって産出されるモノクローナル抗体が用いられる。第2の抗体として受託番号FERM BP−08613号、あるいは受託番号FERM BP−08614号の細胞株により産生されるモノクローナル抗体が好適に用いられる。なお、ポリクローナルは、当該分野で公知の方法により作製され得る。
【0047】
移動相として用いられる第2の抗体としては、本発明の抗サリバリウスモノクローナル抗体を産出する細胞株作製方法によって産出されるモノクローナル抗体が用いられる。好ましくは、受託番号FERM BP−08613号、あるいは受託番号FERM BP−08614号の細胞株により産生されるモノクローナル抗体が使用され得る。第2の抗体は、当該分野で公知の方法によって、任意の標識で標識され得る。標識の例としては、酵素標識、色素標識、磁性標識、放射性標識、色の付いた粒子(金コロイド、ラテックスなど)による標識などが挙げられる。
【0048】
サリバリウス検出用キットは、1つまたはそれ以上の容器中に上記第1の抗体および上記第の抗体を含み得る。サリバリウス検出用キットはまた、サリバリウスのサンドイッチアッセイにおける、抗体の使用を教示する説明教材を含み得る。サリバリウス検出用キットは、標識の検出のため、または陽性コントロールおよび陰性コントロールを検出するための適切な試薬、洗浄溶液、希釈緩衝液などを含み得る。
【0049】
上記のように、第1の抗体は、通常、固相に固定化されており、そして第2の抗体は標識されている。サリバリウスの測定にあたっては、まず、第2の抗体を液相でサリバリウスと反応させ、標識−抗体−サリバリウス複合体を形成させる。そして、この複合体を含む反応液を移動相として、固体化された第1の抗体と反応させる。その結果、第1の抗体および第2の抗体は、サリバリウスを介してサンドイッチ状に結合する。従って、サリバリウスが存在する場合にのみ、サリバリウスを介して固相上に標識が固定化される。
【0050】
受託番号FERM BP−08613号および受託番号FERM BP−08614号の細胞株により産生される抗サリバリウスモノクローナル抗体は、サリバリウスに高い結合能を有し、他のストレプトコッカス属細菌には結合能を有しない。
【0051】
本発明による「抗サリバリウスモノクローナル抗体」には、その結合特性を保持した機能性の断片もまた含まれる。抗体の断片は、免疫グロブリンの重鎖、軽鎖、Fab、Fab’、(ab’)2、FabcおよびFvを含み得る。抗体の断片は、インタクトな免疫グロブリンの酵素的または化学的分離によって生じ得る。例えば、F(ab’)2断片は、非特許文献2に記載されたような標準的な方法を用い、pH3.0〜3.5においてペプシンでタンパク質消化することによってIgG分子から得ることができる。Fab断片は、限定的還元によってF(ab’)2断片から、あるいは還元剤の存在下パパイン消化によって全抗体から得ることができる(非特許文献7を参照のこと)。
【0052】
以上のように、本実施形態に係る抗サリバリウスモノクローナル抗体産生細胞株の作製方法によれば、細胞株のクローニングにおいて、融合細胞から産生される抗体のサリバリウス、他のストレプトコッカス種に対する結合能を検定し、目的の細胞を選別する。そのため、細胞融合の後、初期に存在する多くの細胞から、効率よく有用な細胞を選択し得る。そして、サリバリウスに対する高い親和性を達成しながら、特異性の高い抗体を産生する細胞株を作製し得る。
【0053】
また、免疫測定法が酵素免疫測定法(ELISA法)である場合、抗体の結合能を簡便に感度よく検定し得る。哺乳動物の骨髄腫由来の細胞株が、マウス骨髄腫由来P3X63 Ag8.653である場合、抗体の断片を産生せず、さらに得られる融合細胞の増殖能力が特に優れているため、短時間に多くの細胞を検定し得る。
【0054】
免疫する哺乳動物がマウスまたはラットである場合、動物の取り扱い、免疫感作の点で都合がよい。免疫する哺乳動物がBALB/C系統マウスである場合、サリバリウスとの親和性が極めて高いモノクローナル抗体を得ることが可能となる。
本発明のモノクローナル抗体産生細胞株によれば、それを培養することによりサリバリウスに対する高い親和性を有し特異性の高い抗サリバリウスモノクローナル抗体を半永久的に提供し得る。
【0055】
本発明のモノクローナル抗体である、SSa−1抗体とSSa−2抗体とを組み合わせてサンドイッチ法に使用すれば、高特異的なサリバリウス検出キットを提供し得る。
【実施例】
【0056】
以下、本発明のモノクローナル抗体産生細胞株の作製についてさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0057】
<酵素免疫測定法(ELISA法)>
以下の実施例においては、得られた抗血清、培養上清およびモノクローナル抗体の評価は、ELISA法により行なった。その操作法を以下に記載する。
【0058】
(A)抗原(サリバリウス)のコーティング
サリバリウスを、108 細胞/mLの濃度に調製した。マイクロプレート(ポリスチレン製高結合型平底#2580、コスター社製)に抗原溶液を100μL/ウェル注入し、室温で飽和水蒸気中に一晩保存した。実験直前に、アスピレータで抗原溶液を除去した。
(B)ブロッキング
1重量%BSA−PBS−Az(Az:アザイドナトリウム塩)を200μL/ウェル注入し、30分間室温で放置した。その後、アスピレータで1重量%BSA−PBS−Azを除去した。以降の実験を即日に行わないときは、この状態で、飽和水蒸気中に4℃で保存した。
(C)抗体の反応
1重量%BSA−PBS−Azで種々の濃度に希釈した抗体溶液(抗血清、培養上清、精製抗体等)を50μL/ウェル、および1重量%BSA−PBS−Azを50μL/ウェルで注入した。常温で1時間半放置した後、PBSで3回洗浄し、アスピレータで残存するPBSを除去した。
(D)第2抗体の反応
0.2μg/mLのペルオキシダーゼ標識したヤギ由来の抗マウスIgG抗体(KPL社製)を1重量%BSAのPBS溶液に溶解したもの、または0.2μg/mLのペルオキシダーゼ標識したヤギ由来の抗マウスIgM抗体(KPL社製)を1重量%BSAのPBS溶液に溶解したものを50μL/ウェル注入し、常温で30分放置した。PBSで3回洗浄し、さらにアスピレータで残存するPBSを除去した。
(E)基質の反応と停止
O−フェニレンジアミン(生化学用)40mgを10mLのクエン酸−リン酸バッファー(pH5)に溶解し、使用直前に30重量%過酸化水素水4μLを加えた溶液(基質溶液)を100μL/ウェル注入し、室温放置した。約3分後、4N硫酸を25μL/ウェル注入して反応を停止した。
(F)測定
マイクロプレートリーダ(東洋ソーダ社製)を用いて492nmの吸光度を測定した。
なお、本実施例では免疫測定法として酵素免疫測定法を用いたが、他にRIA法、蛍光抗体法等を用いてもよい。
【0059】
(実施例1)
抗サリバリウスポリクローナル抗体を作製し、ELISA法による結合能、および免疫クロマトグラフィーによる測定感度について評価した。
【0060】
(免疫)
本実施例においては、本発明者らの研究所で実績があること、およびモノクローナル抗体産生細胞株確立後の腹水による抗体大量培養においてはBALB/C系統マウスが最もよく使用されることを考慮に入れ、BALB/C系統マウスを免疫に使用した。
【0061】
免疫原であるサリバリウスを、生理食塩濃度リン酸緩衝液(PBS)を用いて108 細胞/mLに調製した。このサリバリウスのPBS溶液に、同体積のアジュバント(ヒト結核死菌含有完全フロイントアジュバント、和光純薬製、H37Rv)を添加し、ホモジナイザで回転数1000rpmで充分に乳化することにより、免疫原を含むアジュバントエマルジョンを得た。
【0062】
生後約7週間の雌のマウス(BALB/C)3匹に、免疫原を合むアジュバントエマルジョンを100μLずつ腹腔内、あるいは皮下に注射した。2週間後、PBSを用いて108 細胞/mLに調製したサリバリウス溶液およびこれと同体積の不完全フロイントアジュバントをホモジナイザで乳化し、このエマルジョンをBALB/Cマウスに前回と同じ部位に100μLずつ注射した。
【0063】
その後、免疫開始より4週間後、6週間後、および半年後に、2週間後の免疫と同じ組成、濃度のサリバリウスを含む不完全フロイントアジュバントエマルジョンを、マウスに100μLずつ前回と同じ部位に注射した。2回目の注射の1週間後と5回目の注射の1週間後にそれぞれ採血し、以下に示す抗体産生を確認した。
【0064】
(抗体産生の確認)
採取した血液から血清を分離し、得られた血清を用いて、酵素免疫測定法(ELISA法)により抗体産生の確認をした。固相としてPBS−Azで調製した108 細胞/mL・サリバリウスを、100μL/ウェルずつ分注し、室温で一晩コートしたマイクロプレートを使用した。第2抗体として、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体、またはペルオキシダーゼ標識抗マウスIgM抗体を使用した。ウェル中での発色により、抗体サンプル中にサリバリウスに結合する抗体が存在することが確認される。
【0065】
その結果、3匹すべてのマウスにおいて抗サリバリウス抗体の産生が認められた。さらに、いずれのマウスにおいても、2回目の注射後に、抗体産生がIgGからIgMへシフトしていることが確認され、5回目の注射後には、IgG/Ig比が300以上でありクラススイッチが充分起こっていることが確認された。
【0066】
(細胞融合)
免疫したマウスの中で特に力価の高かった2匹を選び、脾臓を肥大させるために、最終免疫を行なった。免疫開始から6ヶ月後、免疫原のサリバリウスを、PBSを用いて108 細胞/mLの濃度に調製し、アジュバントを加えずにマウスに100μLずつ注射した。
【0067】
最終免疫後3日を経過したマウスのうち1匹の脾臓細胞を摘出した。平均分子量1,500のポリエチレングリコールを用いて、常法により、脾臓細胞とマウス骨髄腫由来細胞株(P3X63 Ag8.653)とを融合させ、融合細胞を得た。
【0068】
融合細胞を、15重量%のウシ胎児血清(以下、FCS)を含むイシコフ培地で調製したヒポキサンチン/アミノプテリン/チミジン(HAT)培地に浮遊させた後、96ウェルプレート1枚にまいた(200μL/ウェル)。この際、フィーダー細胞(培養開始時に成長因子を供給する細胞)は同じマウス個体の脾臓細胞を用いた。CO2インキュベータ(CO2濃度:5体積%、温度:37℃、湿度:95%)内で培養を開始した。以下の培養では、他に示さない限り、これと同じ条件で培養を行なった。
【0069】
(細胞選別およびクローニング)
1週間後、融合細胞の培養上清を100μL採取した後、融合細胞を含む残りの培養液を4枚の24ウェルプレートに継代し、各ウェルに1mLの15重量%のFCSを含むヒポキサンチン/チミジン(HT)培地を加えた。
【0070】
融合細胞を24ウェルプレートに継代した4日後、細胞培養上清を150μL/ウェルずつ採取した。この培養上清と、培養開始後1週間目に採取した培養上清を用いて、ELISA法により、サリバリウスに対する結合能を測定した。
【0071】
固相として、0.1mg/mL・BSA−PBS−Azで5μg/mLの濃度に調製したサリバリウスを、100μL/ウェルずつ使用した。抗体液として、細胞培養上清を使用した。第2の抗体としてペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体を使用した。
【0072】
2回採取した培養上清のELISA法結果を合わせて、サリバリウスに対して高い結合能を有する、増殖状態の良い20ウェルを確認した。第1段階の選択として、これらのウェルの細胞を、すべて4枚の6ウェルプレートに継代し、各ウェルに4mLの15重量%のFCSを合むHT培地を加えた。
【0073】
第1段階の細胞選別の2日後、培養上清を採取し、ELISA法によりサリバリウスに対する結合能を測定した。
【0074】
固相として、PBS−Azで108 細胞/mLの濃度に調製したサリバリウスを、100μL/ウェルずつ使用した。抗体液として細胞培養上清を使用した。第2抗体として、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体を使用した。
【0075】
この結果、サリバリウスに対して高い結合能を有したウェルを、10ウェル選別した。これらのウェルの細胞を、それぞれ、中フラスコ(容量50mL)に継代した。培地は15重量%のFCSを含むHT培地を45mLずつ加えた。
【0076】
第2段階の選択を受けた細胞の継代3日後、培養上清を採取し、ELISA法によりサリバリウス、他のストレプトコッカス属細菌に対する結合能を測定した。
【0077】
固相として、PBS−Azで108 細胞/mLの濃度に調製したミュータンスを、100μL/ウェルずつ使用した。抗体液として細胞培養上清を使用した。第2抗体として、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体を使用した。細胞培養上清中に、ミュータンスに結合する抗体が存在すると、ウェル上に発色する。
【0078】
同様に、ミュータンス以外の他のストレプトコッカス属細菌(ストレプトコッカス・クリセツス、ストレプトコッカス・ラッタス、ストレプトコッカス・サングイス、ストレプトコッカス・ゴルドニー、ストレプトコッカス・ミティス、ストレプトコッカス・ソブリヌス)に対する結合能を、上記培養上清を用いてELISA法により測定した。
【0079】
サリバリウスに対してのみ結合能を示し、ミュータンスを含む上記の他のストレプトコッカス属細菌に対して結合能を示さないウェルを、2ウェル選別した。
【0080】
上記2ウェルの細胞について、15重量%のFCSを含むHT培地を用いて、1ウェルあたり2個の細胞が含まれる濃度に希釈(限界希釈)し、96ウェルのマイクロプレート各2枚に分注した。フィーダーとして生後4週の雌のマウス(BALB/C)の胸腺細胞を用いて初期増殖を促した。プレートのサイズを上げながら培養を進め、適時細胞培養上清について上記のELISA法によるスクリーニングを繰り返した。サリバリウスに対して高い力価を示し、かつ良好な増殖を示している細胞株を最終的に選別し、200mLの培地中で5×105 細胞/mLの濃度に至るまで培養を進めた。最終的に、サリバリウスに対して高い結合能を有し、かつ他のストレプトコッカス属細菌に対して交叉反応を起こさない株を2株選定した。
【0081】
サリバリウスに対して高い結合能を示した中の1株を細胞株名:SSA−1と命名し、もう1株を細胞株名:SSA−2と命名し、工業技術院生命工学工業技術研究所に平成16年2月9日に寄託した(受託番号:FERM BP−08613号、FERM BP−08614号)。
【0082】
SSA−1株の産生する抗体を、SSa―1抗体と称し、SSA−2株の産生する抗体を、SSa―2抗体と称する。
【0083】
(細胞の保存)
最終的に選別された細胞株は、遠心分離して上清を取り除き、1×107 細胞/mLの濃度でFCS:ジメチルスルフォキシド=9:1(体積比)の溶液1mLに浮遊させ、?80℃で予備凍結した後、液体窒素中に移して長期保存状態にした。
【0084】
(抗体の精製)
選択した2株を、それぞれ、15重量%FCSを含むイシコフ培地で大量培養し、その上清を遠心分離した。また、選択した2株を、それぞれ、雌のBALB/Cマウスの腹腔内に注射して増殖させ、腹水を蓄積させた。蓄積した腹水を採取した。各株の培養上清あるいは腹水を、プロテインA結合ゲル(プロテインAセファロース4FF、ファルマシア製)を用いたアフィニティークロマトグラフィにかけ、以下の条件で各モノクローナル抗体(SSa−1抗体、SSa−2抗体)を精製した。
【0085】
プロテインA結合ゲルを充填したカラムを、結合緩衝液(1.5M グリシン・3M NaCl、pH8.9)で平衡化した。培養上清あるいは腹水を、結合緩衝液で約3倍に希釈した後、平衡化したカラムにアプライした。カラムからの溶出液を280nmでモニターしながら、不純物の溶出が終了するまで、カラムを結合緩衝液で洗浄した。洗浄後、溶出緩衝液(100mMクエン酸、pH4)をカラムにアプライ(線流速:約20cm/時間)し、IgG含有溶出液を回収した。回収したIgG含有溶出液について、吸光光度計で280nmの吸光度を測定し、測定した吸光度を吸光係数で換算することにより、抗体の濃度を決定した。
【0086】
SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動による標準タンパク質との比較から、これらのモノクローナル抗体(SSa−1、SSa−2)の精製分画は、分子量約50,000のH鎖と約25,000のL鎖からなるIgGであることを確認した。なお、電気泳動上で、不純物の混入は検出限界以下であった。
【0087】
(抗体の評価)
上記のアフィニティークロマトグラフィにより精製した2種類のモノクローナル抗体(SSa−1、SSa−2)について、サリバリウスの希釈系列を用いて、ELISA法と同一条件で抗体評価を行った。
【0088】
図1は、SSa−1抗体について、(a)サリバリウス(黒丸)、(b)ミュータンス(白丸)に対する結合能をELISA法により測定した結果を示すグラフである。図2は、SSa−2抗体について、(a)サリバリウス(黒丸)、(b)ミュータンス(白丸)に対する結合能をELISA法により測定した結果を示すグラフである。図1および図2において、縦軸は、波長492nmにおける吸光度を表し、横軸は、各抗体の希釈倍率を表す。
【0089】
図1および図2に示すように、SSa−1抗体およびSSa−2抗体では、×1〜×1/104 希釈液でサリバリウスに対する結合が観察されたのに対し、ミュータンスに対してはいずれの希釈液についても結合は観察されず、SSa−1抗体およびSSa−2抗体によって特異的にサリバリウスを検出し得ることが示された。
【0090】
したがって、本発明の抗サリバリウスモノクローナル抗体産出細胞株作成方法によって、サリバリウスに対して結合能を有し、かつ他のミュータンスに対して交叉反応を示さない細胞株を確実に作成し得ることが示された。
【0091】
(サンドイッチ反応)
ELISA法において、SSa−1抗体をプレートにコートし、サリバリウスを結合させ、酵素ラベルしたSSa−2抗体を反応させた後に余分な抗体を除去し、発色基質を添加してインキュベートしたところ、充分な発色が得られた。つまり、SSa−1抗体と、SSa−2抗体との組合せは、免疫クロマトグラフィーなどのサンドイッチ反応を利用した検査方法に有用であることが確認できた。
【0092】
(免疫クロマトグラフィーにおける検出感度)
常法に従ってSSa−1抗体を濾紙上に固定化し、金コロイド標識したSSa−2抗体を移動相に置いて、免疫クロマトグラフィー装置を作製した。種々の濃度でサリバリウスを含むサンプルをアプライしたところ、この免疫クロマトグラフィー装置の感度は、約106 細胞/mLであった。
【0093】
一般に、健常人の口腔内中のサリバリウスレベルは、約108 〜1010細胞/mLであることが知られている。従って、本発明の抗体を用いて作製された免疫クロマトグラフィー装置は、口腔内中のサリバリウスを検出することが十分に可能である。
【0094】
一方、SSa−2抗体を濾紙上に固定化し、金コロイド標識したSSa−1抗体を移動相に置いた場合についても免疫クロマトグラフィー装置を作製した。その結果、上記の場合と比較してより強い呈色が見られた。
【0095】
(実施例2)
抗サリバリウスポリクローナル抗体を作製し、ELISA法による結合能、および免疫クロマトグラフィーによる測定感度について評価した。
【0096】
(免疫)
免疫原であるサリバリウスを、生理食塩濃度リン酸緩衝液(PBS)を用いて108 細胞/mLに調製した。このサリバリウスのPBS溶液に、同体積のアジュバント(ヒト結核死菌含有完全フロイントアジュバント、和光純薬製、H37Rv)を添加し、ホモジナイザで回転数1000rpmで充分に乳化することにより、免疫原を含むアジュバントエマルジョンを得た。作製したエマルジョンが完全に乳化したことを確認するために、蒸留水に滴下した。エマルジョンが広がらないことを確認し。免疫原の作製を終了した。
【0097】
2匹のウサギ(種:JW)に、約108 細菌/回・匹の免疫原を含むアジュバントエマルジョンを、ウサギ皮内約20箇所に注射(注射針サイズ:26G)した。針を皮内に刺す際、針を皮膚に平行な方向に進め、針の位置が深すぎないよう注意して実施した。
【0098】
1回の免疫注射だけでは抗体産生が十分でないため、2週間ごとにさらに3回免疫した。2回目以降の免疫注射は、1回目の免疫注射と同様に、約108 細菌/回・匹の免疫原を含むアジュバントエマルジョンをウサギ皮内約20箇所に注射(注射針サイズ:26G)した。さらに、合計4回の免疫後、3回の追加免疫を行った。
【0099】
(抗体価の測定)
追加免疫の約1週間後、抗体の産生状況を確認するために部分採血を実施した。部分採血は、免役したウサギの外線耳静脈から注射器(テルモ社製、27G)を用いて行った。まず、免役したウサギの全身を電灯などで予め温めておき、耳静脈が怒張しているのを見きわめた後、免役したウサギを固定箱に入れ、頭および後部を固定後、耳を親指と小指の間に残りの3本の指を台として押え、怒張した外線静脆に注射器を刺して約5mL採血した。これを小試験管に受け、切口を指で軽く抑えて止血した。
【0100】
次に、全採血するために、免役したウサギを採血用固定台に仰向けにして,口輪で頭部を、ひもで四肢を台に固定した。まず、ネンブタール約1mLを、ウサギが眠るまでゆっくり耳朶静脈注射した。麻酔がかかったら前頸部の皮膚をつまんで窓をあけ胸鎖乳頭筋を切断し、気管に沿って無鈎ピンセットで分けた。銀赤色の頸動脈が見えた後、これに沿って走っている迷走神経をピンセットで剥がしてから、約2cmあけて2本のクレンメで頸動脈を挟んだ。クレンメとクレンメの問で頭部側の頸動脈の直径に対して約3分の1をはさみで切った。そして、細いカテーテルを心臓側の頸動脈に挿入し、動脈からカテーテルが抜けないように糸で結んだ。その後、カテーテルの他端を試験管内に入れ、心臓側のクレンメを緩めて血液を逆流させることにより、血液を採取した。
【0101】
その後、採取した血液を37℃の恒温槽に30分間放置した。血液が凝固したところで無菌棒(たとえばガスバーナーの火炎を数回通したガラス棒)で血餅を管壁から剥がし、4℃で一晩放置後、血清を採取した。採取した血清は、フィルター(ミリポア社製、0.22μm)で無菌的に炉過した。そして、血清の最終濃度が0.02%になるようにNaN3を添加した後分注し、4℃で保存した。
【0102】
(サンドイッチ反応)
ELISA法において、抗サリバリウスポリクローナル抗体をプレートにコートしてサリバリウスを結合させ、酵素ラベルしたSSA−1抗体またはSSA−2抗体を反応させた後に余分な抗体を除去し、発色基質を添加してインキュベートしたところ、充分な発色が得られた。つまり、抗サリバリウスポリクローナル抗体と、SSa−1抗体またはSSa−2抗体との組合せは、免疫クロマトグラフィーなどのサンドイッチ反応を利用した検査方法に有用であることが確認できた。
【0103】
(免疫クロマトグラフィーにおける検出感度)
抗サリバリウスポリクローナル抗体を定法に従って濾紙上に固定化し、金コロイド標識したSSa−1抗体、あるいはSSa−2抗体を移動相に置いて、免疫クロマトグラフィー装置を作製した。その結果、抗サリバリウスポリクローナル抗体を第1の抗体として用いた場合においても、実施例1と同様に呈色が認められた。したがって、抗サリバリウスポリクローナル抗体を第1の抗体とし、抗サリバリウスポリクローナル抗体を第2の抗体とした組み合わせにおいてもサリバリウスを検出可能である。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、サリバリウスに対して高い結合能を有し、かつ他のストレプトコッカス属細菌に対する交叉反応性が低い抗サリバリウスモノクローナル抗体を産出する細胞株、その製造方法、それにより産出されたモノクローナル抗体、およびそれにより産出されたモノクローナル抗体を含むキット等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】ELISA法により測定された、抗サリバリウスモノクローナル抗体(SSa−1抗体)のサリバリウスおよびミュータンスに対する結合能を示すグラフ
【図2】ELISA法により測定された、抗サリバリウスモノクローナル抗体(SSa−2抗体)のサリバリウスおよびミュータンスに対する結合能を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サリバリウスに特異的なモノクローナル抗体を産生する細胞株の作製方法であって、
サリバリウスで免疫した哺乳動物の脾臓細胞と、哺乳動物の骨髄腫由来の細胞とを細胞融合して、融合細胞を得る工程;および
サリバリウスに対して特異的なモノクローナル抗体を産生する細胞株を前記融合細胞の中からクローニングする工程であって、該融合細胞から産生される抗体を、サリバリウスおよびその他のストレプトコッカス属細菌に対する結合能について免疫測定法により検定する工程を包含する、抗サリバリウスモノクローナル抗体産出細胞株作製方法。
【請求項2】
前記哺乳動物の骨髄腫由来の細胞が、マウス骨髄腫由来P3X63 Ag8.653株の細胞である、請求項1に記載の抗サリバリウスモノクローナル抗体産出細胞株作製方法。
【請求項3】
前記免疫測定法が、酵素免疫測定法(ELISA法)である、請求項1に記載の抗サリバリウスモノクローナル抗体産出細胞株作製方法。
【請求項4】
前記免疫した哺乳動物が、マウスまたはラットである、請求項1に記載の抗サリバリウスモノクローナル抗体産出細胞株作製方法。
【請求項5】
前記免疫した哺乳動物が、BALB/C系統マウスである、請求項1に記載の抗サリバリウスモノクローナル抗体産出細胞株作製方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法により作製された、抗サリバリウスモノクローナル抗体産出細胞株。
【請求項7】
受託番号FERM BP−08613号である、抗サリバリウスモノクローナル抗体産出細胞株。
【請求項8】
受託番号FERM BP−08614号である、抗サリバリウスモノクローナル抗体産出細胞株。
【請求項9】
請求項6に記載の抗サリバリウスモノクローナル抗体産出細胞株により産出され、その他のストレプトコッカス属細菌と比べてサリバリウスに対して高い結合能を有する、抗サリバリウスモノクローナル抗体。
【請求項10】
請求項7に記載の抗サリバリウスモノクローナル抗体産出細胞株により産出された、抗サリバリウスモノクローナル抗体。
【請求項11】
請求項8に記載の抗サリバリウスモノクローナル抗体産出細胞株により産出された、抗サリバリウスモノクローナル抗体。
【請求項12】
サリバリウスを検出するためのキットであって、
固相に結合された第1の抗体、および第2の抗体を含み、
前記第1の抗体および前記第2の抗体のうち少なくとも一方は、請求項9、請求項10または請求項11に記載の抗サリバリウスモノクローナル抗体であり、
前記第2の抗体は標識されている、キット。
【請求項13】
前記第1の抗体はポリクローナル抗体である、請求項12に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−238747(P2006−238747A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−56524(P2005−56524)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】