説明

抗体単離のためのスタフィロコッカスアウレウス由来のドメインCを含むクロマトグラフィーリガンド

【課題】本発明の一側面は、反復した定置洗浄サイクルに耐えることが可能な、新規なクロマトグラフィーマトリックスを提供することである。
【解決手段】 本発明はスタフィロコッカスプロテインA(SpA)由来のドメインC、またはその機能的フラグメントもしくは変異体を含むクロマトグラフィーリガンドに関する。クロマトグラフィーリガンドは過酷な定置洗浄(CIP)条件に耐える好都合なキャパシティーを提示し、そして抗体のFabフラグメントを結合することが可能である。リガンドはアルギニンまたはシステインのような末端カップリング基を提供されて、ビーズまたは膜のような不溶性キャリアへのカップリングを促進してもよい。本発明は、抗体の単離においてリガンドを使用するプロセス、ならびにアルカリによる洗浄ステップおよび/または再生を含んでいてもよい精製プロトコルに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクロマトグラフィーの分野、より明確には抗体単離における使用に適した新規アフィニティーリガンドに関する。従って、本発明は、そのようなアフィニティーリガンド、本発明に記載のリガンドを含むクロマトグラフィーマトリックス、および本発明に記載のリガンドが使用される抗体単離のプロセスを包含する。
【背景技術】
【0002】
クロマトグラフィーという用語は、1つの相は固定され、他の相は移動する、2つのお互いに混和しない相の接触に基づいた、密接に関連した1群の分離法を包含する。クロマトグラフィーが高い関心の的である一領域はバイオテクノロジー分野、たとえば薬物および診断薬の大規模で経済的な生産である。一般に、タンパク質は細胞内で、または周辺環境への分泌により細胞培養によって生産される。使用される細胞株は生きている微生物であるため、それらは、糖、アミノ酸、成長因子などを含む複合増殖培地で育てられなければならない。細胞に与えられた化合物の混合物から、および他の細胞成分から、たとえばヒトの治療薬としての使用のために十分な純度で所望するタンパク質を分離することは難しい問題を提示する。
【0003】
そのような分離において、第1のステップでは、細胞および/または細胞の破片は通常濾過により除去される。いったん関心のあるタンパク質を含む不純物を除かれた溶液が得られれば、溶液中の他の成分からのその分離はしばしば異なる分離原理に基づいた異なるクロマトグラフィーステップの組み合わせを使用して、しばしば実施される。そうして、そのようなステップは電荷、疎水性の程度、アフィニティー特性、サイズなどに基づいて、混合物からタンパク質を分離する。いくつかの異なるクロマトグラフィーマトリックス、たとえばイオン交換、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、逆相クロマトグラフィー(RPC)、アフィニティークロマトグラフィーおよび固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)のためのマトリックスがこれらの技術のそれぞれに対して利用可能であり、含まれる特有のタンパク質に対する精製スキームの適応を可能にする。医学分野で常に増大する関心の的である例証となるタンパク質は、イムノグロブリンG(IgG)のような抗体としても公知のイムノグロブリンタンパク質である。
【0004】
すべてのプロセス技術におけるように、重要な目的は生産コストを低く保つことである。結果として、改善されたクロマトグラフィー技術が頻繁に提示され、可能な場合、マトリックスは再使用される。しかし、クロマトグラフィーマトリックスのそれぞれの使用は実施したばかりの操作の多少の痕跡を残すことになるため、マトリックスを本来の形状にクリーニングする、および/または回復させるために多くの異なるクリーニングプロトコルが利用可能である。除去が必要であることが一般的に公知の物質は、たとえば、溶出されないタンパク質およびタンパク質凝集物、ならびにウイルス、エンドトキシンなどのような潜在的に危険性のある物質であり、それらは細胞培養物に由来してもよい。最も一般的に使用されるクリーニングはバッファーによる簡単な洗浄である。マトリックスのいっそう効率的なクリーニングの場合、酸および/または塩基による処理が頻繁に使用される。よりいっそう効率的にマトリックスを回復させるために、定置洗浄(Cleaning In Place)(CIP)として公知のアルカリプロトコルが一般的に使用される。標準CIPは、1M NaOH、pH14によるマトリックスの処理を含む。そのような過酷な処理は、先に論じた種類の望ましくない付着物を効率的に除去することになるが、なおその上に多少のクロマトグラフィーマトリックス物質を損なう可能性がある。たとえば、リガンドがタンパク質であるか、タンパク質を基礎にしている多くのアフィニティーマトリックスは標準CIPに耐えられるはずがなく、少なくともそれらの本来の特性を維持できない。アルカリ条件におけるアスパラギンおよびグルタミン残基の構造改変、たとえば脱アミドおよびペプチドバックボーンの開裂はアルカリ溶液中でのタンパク質の処理による活性損失の主要な理由であること、およびアスパラギンが2つの中で最も感受性が高いことは公知である。また、脱アミド速度は高度に特殊であり、コンホメーション依存的であること、およびタンパク質における最も短い脱アミド半減期は、配列‐アスパラギン‐グリシン‐および‐アスパラギン‐セリンに関連していることが公知である。Gulich,Linhult,Nygren,Uhlen and Hober(2000)Journal of Biotechnology 80,169−178を参照されたい。アルカリ条件に対する安定性はタンパク質リガンドの中に工学的に作ることができる。
【0005】
実証されたアルカリ感受性にもかかわらず、プロテインAは抗原に対するイムノグロブリンの親和性に著しく影響を与えることなく、IgGに結合する能力のゆえにアフィニティークロマトグラフィーマトリックスにおいてリガンドとして広範に使用される。公知のようにプロテインAは細菌スタフィロコッカスアウレウス細胞壁の構成物質である。SpAとしても公知のそのようなスタフィロコッカスプロテインはFc領域において抗体に結合可能な、E、D、A、B、およびCとしてN‐末端から順番に示される5つのドメイン、およびいずれの抗体にも結合しないC‐末端領域(または「X」領域)からなる。Janssonら(Jansson,Uhlen and Nygren(1998)FEMS Immunology and Medical Microbiology 20,69−78:“All individual domains of staphylococcal protein A show Fab binding”)は後に、すべての個々のSpAドメインはまた、Fab領域においてある種の抗体に結合することを示している。
【0006】
米国特許第5,151,350号(Repligen)は、プロテインAおよびプロテインA‐様物質をコードする遺伝子のクローニングおよび発現に関する。ヌクレオチド配列が解析されたこの遺伝子のクローニングは1982年に初めて可能になり、種々の宿主‐ベクターシステムにおけるクローニングのための多量のプロテインA‐様物質およびヌクレオチド配列が得られた。
【0007】
組換え系におけるプロテインAの生産が成し遂げられたため、付加的なその遺伝的操作が提案されている。たとえば、米国特許第5,260,373号(Repligen)は支持物への接着、そしてより明確にはアルギニンを介したカップリングを促進するための組換えプロテインAの遺伝的操作を記載する。さらに、米国特許第6,399,750号(Pharmacia Biotech AB)はシステインを介して支持物にカップリングしている、別の組換えプロテインAリガンドを記載する。
【0008】
しかし、感受性および結合キャパシティーを維持するために、先に論じた種類のプロテインAクロマトグラフィーマトリックスは、慣用のCIPより緩和な条件でクリーニングされる必要がある。これに関連して、クリーニングはクロマトグラフィーマトリックスの寿命に密接に関連することが理解される。たとえば、性能低下が許容可能である場合、好感度のマトリックスが標準CIPによりクリーニングされてもよい。それゆえに、選択性のような優れた特性を提示するが、CIPに使用されるアルカリ条件にいっそう耐性のあるプロテインAのクロマトグラフィーマトリックスを提供するための努力がなされてきた。
【0009】
従って、米国特許第6,831,161号(Uhlen et al)は、1つ以上のアスパラギン(Asn)残基が改変されてアルカリ安定性を増している、固定化タンパク質性アフィニティーリガンドを使用したアフィニティー分離の方法に関する。この特許はまた、タンパク質分子内のAsn残基を改変し、アルカリ条件におけるタンパク質の安定性を増すこと、およびタンパク質分子のランダム化により結合特性を改変することにより安定化されたコンビナトリアルタンパク質を作る方法、ならびにランダム化ステップとは別個のステップにおいてアルカリ条件におけるタンパク質の安定性が1つ以上のそのAsn残基の改変によって増しているコンビナトリアルタンパク質を記載する。
【0010】
さらに、WO03/080655(Amersham Biosciences)は、少なくとも1つのアスパラギン残基がグルタミンまたはアスパラギン酸以外のアミノ酸に変異しているイムノグロブリン結合タンパク質に関する。この特許出願に従って、そのようないっそう特殊な突然変異は、約13〜14に至るまでのpH値において親分子に比較して増大した化学的安定性を与える。変異したタンパク質はたとえば、相補性決定領域以外(CDR)のイムノグロブリン分子の領域への結合が可能なプロテインAのようなタンパク質、および好ましくはスタフィロコッカスプロテインAのB−ドメインに由来しうる。本発明はまた、記載された、リガンドしての変異したイムノグロブリン結合タンパク質を含む、アフィニティー分離のためのマトリックスに関する
いっそうアルカリに安定なプロテインAを基礎にしたクロマトグラフィーリガンドに関する先に記載の成果にもかかわらず、この分野における高度に特殊な分離のための改善されたリガンドおよびクロマトグラフィーマトリックス、ならびに抗体のいっそう容易な大規模製造が可能な代わりとなる野生型リガンド構築の必要性が存在する。
【0011】
そのような改善されたクロマトグラフィーマトリックスの一例は米国第2006/0134805号(Berg et al)に記載され、該特許は抗体‐結合タンパク質リガンドが固定化されている多孔性粒子からなる分離マトリックスに関する。より明確には、開示されたクロマトグラフィーマトリックスはとりわけ抗体の高キャパシティー精製に適したマトリックスを提供するために、リガンド密度;ゲル相分布係数(Kav);および粒子サイズに関して最適化されている。開示されたマトリックスのリガンドはプロテインA、プロテインGおよび/またはプロテインLのような抗体‐結合タンパク質を含んでいてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,151,350号
【特許文献2】米国特許第5,260,373号
【特許文献3】米国特許第6,399,750号
【特許文献4】米国特許第6,831,161号
【特許文献5】WO03/080655
【特許文献6】米国出願第2006/0134805号
【特許文献7】米国特許第5,084,559号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Gulich,Linhult,Nygren,Uhlen and Hober(2000)Journal of Biotechnology 80,169−178
【非特許文献2】Jansson,Uhlen and Nygren(1998)FEMS Immunology and Medical Microbiology 20,69−78
【非特許文献3】Biochim Biophys Acta 79(2),393−398(1964)
【非特許文献4】Chimica eL′Industria 70(9),70〜75(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の一側面は、反復した定置洗浄サイクルに耐えることが可能な、新規なクロマトグラフィーマトリックスを提供することである。このことは、添付の特許請求の範囲に定義された、SpA由来のドメインCに基づいたアフィニティーリガンドによって成し遂げられてもよい。
【0015】
本発明の別の側面は、イムノグロブリンを精製する経済的なプロセスを提供することである。このことは、反復した定置洗浄サイクルに耐えることが可能なアフィニティークロマトグラフィーリガンドを使用するプロセスによって成し遂げられてもよい。
【0016】
本発明の付加的な側面および利点は以下の詳細な開示から明らかになる。
定義
ドメインCまたは「その機能的フラグメントもしくは変異体」という用語は、Fc領域においてIgGへの結合特性を有する、SpAドメインCのフラグメントまたは変異体を包含する。
【0017】
「抗体」および「イムノグロブリン」という用語は、本明細書では相互に交換可能に使用され、抗体および抗体のフラグメントを含む融合タンパク質も含むことが理解される。
【0018】
「Fc‐結合タンパク質」という用語は、抗体の結晶化可能な部分(Fc)に結合することが可能なタンパク質を意味し、たとえばプロテインAおよびプロテインG、または上記結合特性を維持しているそのいずれかのフラグメントもしくは融合タンパク質を含む。
【0019】
「Fabフラグメント」という用語は抗体の可変部分を表し;それゆえ「Fab‐結合リガンド」はFab‐結合を介して完全な抗体;またはFabフラグメントとしても公知の可変部分を含む抗体フラグメントのいずれかに結合可能である。
【0020】
「クロマトグラフィー」という用語は、本明細書ではクロマトグラフィーの原理を利用するどんな種類の分離にも使用され、それゆえバッチおよびHPLC法を含む。
【0021】
「アフィニティークロマトグラフィー」という用語は、本明細書ではリガンドが「ロック‐キー」様式で生物学的親和性により標的と相互作用する、特殊な様式のクロマトグラフィーに使用される。アフィニティークロマトグラフィーにおける有用な相互作用の例としては、たとえば酵素‐基質相互作用、ビオチン‐アビジン相互作用、抗体‐抗原相互作用などが挙げられる。
【0022】
「タンパク質を基礎にした」リガンドという用語は、本明細書ではペプチドもしくはタンパク質;またはペプチドの一部もしくはタンパク質の一部を含むリガンドを意味する。
【0023】
抗体の「分離」という用語は、本明細書では他の抗体、および他の成分のような他のタンパク質を含む混合物からの特殊な生成物抗体の精製;ならびに生成物液体からの抗体の分離、すなわち、望ましくない抗体を除去することを包含するように使用される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は他のタンパク質を基にしたリガンドに比較した、本発明に記載のリガンドのアルカリ安定性試験の結果を示す。
【図2】図2は他のタンパク質を基にしたリガンドに比較した、本発明に記載のリガンドのFab‐結合特性試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
従って、本発明は新規クロマトグラフィーリガンドに関する。タンパク質を基礎にし、アフィニティーリガンドとして公知の種類の、本発明に記載のクロマトグラフィーリガンドはスタフィロコッカスプロテインA(SpA)由来のドメインCの全部または一部を含む。第1の側面では、本発明はスタフィロコッカスプロテインA(SpA)の1つ以上のドメインCユニット、またはその機能的フラグメントもしくは変異体を含むクロマトグラフィーリガンドに関する。一態様では、本発明のクロマトグラフィーリガンドは実質的にアルカリに安定である。これに関連して、「実質的にアルカリに安定」という用語は、リガンドがその結合キャパシティーを失わずにアルカリ洗浄を使用した反復した定置洗浄サイクルに耐えることが可能であることを意味すると理解される。
【0026】
特定の態様では、本発明はスタフィロコッカスプロテインA(SpA)由来のドメインCを含むが、SpAの他のドメインはいずれも含まないクロマトグラフィーリガンドである。
【0027】
代わりの側面では、本発明はスタフィロコッカスプロテインA(SpA)由来の1つ以上のドメインCユニット、またはその機能的フラグメントもしくは変異体を含むクロマトグラフィーリガンドに関し、該クロマトグラフィーリガンドは以下でより詳細に論じられるように、抗体のFab部分に結合することが可能である。
【0028】
先に論じたように、JanssonらはドメインCがただプロテインAの一部であるだけでなく、イムノグロブリン吸着剤としての別個の役割を果たしうることをすでに示している。本発明者らは、ドメインCのイムノグロブリン結合特性はクロマトグラフィーリガンドとしてのその使用に対する要求を十分満たしていることを確証している。その上先に論じたように、Gulichらは、アルカリ条件におけるアスパラギンおよびグルタミン残基が、アルカリ溶液中での処理によるプロテインA活性の損失にとっての主要な理由であることを示していた。結果として、6つものアスパラギン残基を含むドメインCリガンドが、プロテインAに比較して多少の実質的なアルカリ安定性を提示することは全く期待されなかった。
【0029】
しかし、以下の実験部分および図1に示すように、本発明者らは非常に驚くべきことに、20時間もの長時間のアルカリ条件におけるインキュベーションにより、SpAドメインCが市販のプロテインA製品(MabSelect(登録商標),GE Healthcare,Uppsala,Sweden)に比較して、はるかに改善されたアルカリ安定性を提示することを示している。実際、ドメインCリガンドはアスパラギン残基が他のアミノ酸に変異していて、アルカリ安定として市販されている製品(MabSelect(登録商標)SuRe,GE Healthcare,Uppsala,Sweden)のアルカリ安定性の値に類似する値を提示する。
【0030】
このことに加え、先に論じたように、とりわけアルカリ‐感受性脱アミド速度は高度に特殊でコンホメーション依存的であること、および最も短い脱アミドハーフタイムは配列‐アスパラギン‐グリシン‐および‐アスパラギン‐セリンに関連していることが示されている。非常に驚くべきことに、本発明のドメインCリガンドは、慣用のドメインC残基の番号付けを使用した残基28と29間の1つのアスパラギン‐グリシン結合にもかかわらず、本明細書で提示された好都合なアルカリ安定性を提示した。
【0031】
一態様では、本発明に記載のリガンドは本来のイムノグロブリン結合キャパシティーから約10%より多くを、そして好ましくはわずか5%を逸脱することなく、0.5M NaOH中で少なくとも10時間耐えることが可能である。それゆえ、5時間後に、該リガンドは本来のイムノグロブリン結合キャパシティーから約10%より多くを、そして好ましくはわずか5%を逸脱しないことになる。言い換えると、本発明の一態様は先に記載のリガンドであり、そしてそれは0.5M NaOH中での5時間インキュベーション後に本来の結合キャパシティーの少なくとも95%を保持している。
【0032】
好都合な態様では、本発明に記載のリガンドは本来のイムノグロブリン結合キャパシティーから約20%より多くを、そして好ましくはわずか10%を失うことなく、0.5M NaOH中で少なくとも15時間耐えることが可能である。いっそう好都合な態様では、本発明に記載のリガンドは本来のイムノグロブリン結合キャパシティーから約30%より多くを、そして好ましくはわずか15%を失うことなく、0.5M NaOH中で少なくとも20時間耐えることが可能である。言い換えると、本発明の一態様は先に記載のリガンドであり、そしてそれは0.5M NaOH中での15時間インキュベーション後に本来の結合キャパシティーの少なくとも80%を、好都合には少なくとも90%を保持している。
【0033】
当業者は、たとえば実施例に記載のように、候補リガンドと水酸化ナトリウムをインキュベーションし、その後慣例のクロマトグラフィー実験により結合キャパシティーを試験することによって、アルカリ安定性を容易に試験することができる。
【0034】
当業者が容易に理解するように、本発明に記載のクロマトグラフィーリガンドは、本明細書でCwtと表され、SEQ ID NO1で示される野生型SpAドメインCアミノ酸配列からなっていてもよい。代わりの態様では、本発明のクロマトグラフィーリガンドはSpAドメインCの機能的フラグメント、たとえば野生型SpAドメインC配列に比較して3〜6位のAsn‐Lys‐Phe‐Asnが欠失している、本明細書でCdelと表される配列を開示するSEQ ID NO2で示されるものからなる。さらに代わりの態様では、SpAドメインCの変異体はたとえば野生型SpAドメインCアミノ酸配列のどちらかの末端に1つ以上のアミノ酸を添加することにより;または突然変異がイムノグロブリン結合およびアルカリ安定性に関連する本明細書に記載の特性を実質的に妨害しないならば、野生型SpAドメインCアミノ酸配列のそのような突然変異により作製される。従って、特定の態様では、本発明に記載のクロマトグラフィーリガンドは付加的に突然変異G29Aを含む、SEQ ID NO1で示されるSpAドメインCを含む。あるいは、この態様に記載のクロマトグラフィーリガンドは、結果として25位における突然変異(すなわちG25A)を含む、SEQ ID NO2で示される欠失したSpAドメインCを含む。当業者が理解するように、野生型配列に比較したアミノ酸のそのような付加、突然変異または欠失は、好ましくはSpAドメインCリガンドのフォールディングパターンに実質的に影響を与えるべきではない。
【0035】
従って、一態様では、本発明に記載のリガンドのアミノ酸配列はSEQ ID NO1によって定義される配列である。特定の態様では、本発明に記載のリガンドはSEQ ID NO1で示されるアミノ酸の少なくとも60%、好都合には少なくとも80%、いっそう好都合には少なくとも90%、そして最も好都合には少なくとも95%、たとえば約98%を含む。特定の態様では、本発明に記載のリガンドはSEQ ID NO1で示されるアミノ酸の少なくとも35、好都合には少なくとも46、いっそう好都合には少なくとも52、そして最も好都合には少なくとも55、たとえば57を含む。
【0036】
代わりの態様では、本発明に記載のリガンドのアミノ酸配列はSEQ ID NO2によって定義される配列である。特定の態様では、本発明に記載のリガンドはSEQ ID NO2で示されるアミノ酸の少なくとも40%、好都合には少なくとも77%、いっそう好都合には少なくとも%、そして最も好都合には少なくとも94%、たとえば約98%を含む。特定の態様では、本発明に記載のリガンドはSEQ ID NO2で示されるアミノ酸の少なくとも31、好都合には少なくとも42、いっそう好都合には少なくとも48、そして最も好都合には少なくとも51、たとえば53を含む。
【0037】
先の背景技術の段落で論じたように、方法はある種のアミノ酸、好ましくは窒素および/またはイオウ原子を含むアミノ酸によるタンパク質リガンドのカップリングに容易に利用可能であり、たとえば米国特許第6,399,750号または米国特許第5,084,559号を参照されたい。従って、一態様では、本発明に記載のリガンドはさらに末端のカップリング基を含み、該基は好ましくは1つ以上の窒素および/またはイオウ原子を含む。好都合な態様では、末端のカップリング基はアルギニンまたはシステインからなる。一態様では、カップリング基はC末端領域の中にある。
【0038】
さらに、本発明はまた、少なくとも2つのドメインCユニット、または先に定義されたその機能的フラグメントもしくは変異体からなる多量体型クロマトグラフィーリガンド(「多量体」とも示す)に関する。一態様では、この多量体はSpAに由来するユニットを全く含まない。特定の態様では、多量体は他のタンパク質を基礎にしたユニットを全く含まない。別の態様では、多量体は抗体またはFabフラグメントのような標的とのいずれかの実質的な相互作用が可能な他のユニットを全く含まず、従ってそれは他のリガンドユニットを全く含まない。当業者が理解するように、多量体を作ることがユニット間のリンカーとして1つ以上のペプチドを添加することを必要としてもよい。従って、本発明に記載のドメインCユニットだけを含むように限定された多量体は、多量体の構築を可能にするリンカーを付加的に含んでいてもよく、そのような多量体では、それぞれのドメインCユニットが標的の結合に関与することが可能であるように十分に暴露されている。
【0039】
別の態様では、多量体は1つ以上の付加的なユニットを含み、それらはドメインCとは異なり、そして好ましくはタンパク質を基礎にし、ドメインCのように等しくアルカリ安定である。従って多量体では、本発明に記載のリガンドは反復されてもよく、および/または他のタンパク質のような他の供給源由来の他のユニットと結合してもよい。一態様では、多量体は2〜8ユニット、たとえば4〜6ユニットからなる。一態様では、1つ以上のリンカー配列が多量体ユニット間に挿入される。そのようなリンカーはたとえば、実際のリガンドユニットがそれらのフォールディングパターンを維持できるように挿入されてもよい。このような状況におけるリンカーは公知であり、当業者は本明細書で論じられたリガンドの特性を妨害しない適切なアミノ酸および鎖長を容易に決定しうる。特定の態様では、本発明に記載のクロマトグラフィーリガンドはドメインC以外の他のSpAドメインを全く含まない。
【0040】
第2の側面では、本発明は先に記載のクロマトグラフィーリガンドをコードする核酸配列に関する。従って、本発明はリガンドをコードするRNAおよびDNAのような本発明のヌクレオチド配列のすべての形態を包含する。本発明はプラスミドのようなベクターを包含し、それはコーディング配列に加え、本発明に記載のリガンドの発現のために必要なシグナル配列を含む。一態様では、ベクターは本発明に記載の多量体リガンドをコードする核酸を含み、ここではそれぞれのユニットをコードする別個の核酸が相同、または非相同DNA配列を有していてもよい。この側面はまた、本発明に記載のリガンドをコードする核酸配列を含む発現系を包含する。発現系はたとえば、本発明のリガンドを発現するように改変されている原核生物宿主細胞系、たとえば大腸菌であってもよい。代わりの態様では、発現系は酵母のような、真核生物宿主細胞系である。
【0041】
当業者が認識するように、本発明に記載のリガンドは代わりにタンパク質合成法によって生産されてもよく、ここではリガンドは予め決定された配列に従って一度に1つずつアミノ酸を添加する自動プロセスによって得られる。好都合な態様では、アミノ酸配列の一部が合成され、お互いに連結されて本発明に記載のリガンドが作製される。そのような合成および連結手順は当業者に公知である。
【0042】
第3の側面では、本発明は不溶性キャリアにカップリングした先に記載のリガンドからなるクロマトグラフィーマトリックスに関する。そのようなキャリアはビーズまたは不規則型のような1つ以上の粒子;膜;フィルター;キャピラリー;モノリス;およびクロマトグラフィーにおいて一般的に使用されるいずれか他の形態であってもよい。従って、マトリックスの好都合な態様では、キャリアは、ビーズとしても公知の、実質的に球状の粒子からなる。適切な粒子サイズは5〜500μm、たとえば10〜100μm、たとえば20〜80μmの直径範囲であってもよい。代わりの態様では、キャリアは膜である。高い吸着キャパシティーを得るために、キャリアは好ましくは多孔性であり、そしてリガンドは外部表面並びに小孔表面にカップリングする。従って、本発明に記載のマトリックスの好都合な態様では、キャリアは多孔性である。
【0043】
キャリアは有機または無機物質から作られてもよい。一態様では、キャリアは架橋された炭水化物物質のような天然のポリマー、たとえばアガロース、寒天、セルロース、デキストラン、キトサン、コンニャク、カラギーナン、ジェラン(gellan)、アルギネートなどから作製される。天然のポリマーキャリアは容易に作製され、場合により標準法、たとえば逆懸濁ゲル化(S Hjerten:Biochim Biophys Acta 79(2),393−398(1964))に従って架橋される。代わりの態様では、キャリアは架橋された合成ポリマーのような合成ポリマーまたはコポリマー、たとえばスチレンまたはスチレン誘導体、ジビニルベンゼン、アクリルアミド、アクリレートエステル、メタクリレートエステル、ビニルエステル、ビニルアミドなどから作製される。そのような合成ポリマーキャリアは容易に作製され、場合により標準法に従って架橋される。たとえば、“Styrene based polymer supports developed by suspension polymerization”(R Arshady:Chimica eL′Industria 70(9),70〜75(1988))を参照されたい。天然または合成ポリマーキャリアはまた、たとえば多孔性粒子の形状で、GE Healthcare Bio−Sciences AB,Uppsala,Swedenのような商業的供給源から得ることができる。さらに代わりの態様では、キャリアはシリカのような無機ポリマーから作製される。無機多孔性および非多孔性キャリアは当該技術分野で公知であり、標準法に従って容易に作製される。
【0044】
第4の側面では、本発明はクロマトグラフィーマトリックスを作製する方法に関し、該方法は先に記載のリガンドを提供すること;およびキャリアにリガンドをカップリングすることを含む。好都合な態様では、カップリングはリガンドの窒素またはイオウ原子を介して実行される。手短に述べると、リガンドは直接的に;またはキャリア表面とリガンド間の適切な距離を提供するスペーサーエレメントを介して間接的にキャリアにカップリングしてもよい。多孔性または非多孔性表面へのタンパク質リガンドの固定化の方法は当該技術分野で公知であり;たとえば先に論じた米国特許第6,399,750号を参照されたい。
【0045】
第5の側面では、本発明は1つ以上の標的化合物を単離するプロセスに関し、該プロセスは上記化合物を含む液体をクロマトグラフィーマトリックスに接触させること;マトリックス上に存在する1つ以上のスタフィロコッカスプロテインA(SpA)ドメインC、および/またはその機能的フラグメントもしくは変異体からなるリガンドに上記化合物を吸着させること;そして場合によりリガンドから化合物を遊離する上記の液体マトリックスを横切ることにより上記化合物を溶出することを含む。従って、この態様では、リガンドはドメインCまたはその機能的フラグメントもしくは変異体以外の他のSpAに由来するドメインを全く含まない。代わりの態様では、上記リガンドは2つ以上のSpAドメインCユニット、またはその機能的フラグメントもしくは変異体を含む多量体である。
【0046】
好都合な態様では、リガンドは先に記載のリガンドである。標的化合物はどんな有機化合物、生物分子または他の生物学的物質、たとえば抗体のようなタンパク質;ペプチド;原核細胞または真核細胞のような細胞;DNA、たとえばプラスミド、およびRNAのような核酸;ウイルス;などであってもよい。好都合な態様では、標的化合物はIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMのような、1つ以上のモノクローナルまたはポリクローナル抗体である。一態様では、標的化合物はFabフラグメントのような、抗体のフラグメントである。さらに別の態様では、標的化合物は、少なくとも一部分が抗体または抗体フラグメントである融合タンパク質である。
【0047】
一態様では、クロマトグラフィーマトリックスは使い捨てが可能な製品であり、そしてプロセスの目的が生成物液体から抗体のような標的化合物を除去することである場合、溶出は必要とされない。この態様は、液体、たとえば、医学的液体、または組換え動物由来のミルクのような多くの抗体が産生される液体からの所望しない抗体の除去に関するものであってもよい。
【0048】
代わりの態様では、吸着された化合物が所望する生成物である場合、溶出ステップはプロセスの中に含まれる。吸着のための最も適切な条件を得るために、液体試料は適切なバッファーまたは水のような他の液体と組み合わせて移動相を提供する。本発明の方法は、好都合にはアフィニティークロマトグラフィー、とりわけ当該技術分野で公知であるプロテインAクロマトグラフィーにとって慣用の条件下でラン(run)される。
【0049】
第6の側面では、本発明はアルカリに安定なイムノグロブリン吸着剤としてのSpAのドメインC、またはその機能的フラグメントもしくは変異体の使用に関する。この状況では、「アルカリに安定な」とは、0.5M NaOH中での初めの5時間のインキュベーション中に吸着剤のアルカリ安定性がMabSelect(登録商標)SuRe(GE Healthcare Bio−Sciences AB,Uppsala,Sweden)のようにアルカリに安定であるとして市販される製品のアルカリ安定性より約10%、たとえば約5%より低くないことを意味すると理解される。好都合な態様では、吸着剤は先に記載のリガンドである。MabSelect(登録商標)SuReは、そのような時間および条件後に最低限の劣化を提示するべきであるため、吸着剤の抗体結合キャパシティーはそのような時間および条件後に本来の結合キャパシティーの約10%、たとえば5%より低いべきではない。この状況では、「本来の」という用語はいずれかのアルカリ再生前のそのキャパシティーを表し、比較は、本明細書に開示された種類の手順を使用した並列実験として実行される。
【0050】
一態様では、本発明に記載の使用は、抗体がマトリックスから溶出される、先に記載のプロセスを含み、そしてそれは少なくとも1回、たとえば2〜300回実行され、場合により間の洗浄ステップ;マトリックスのアルカリ再生;および抗体を単離するプロセスを最後に反復することを伴う。洗浄は適切なバッファー、たとえばカラムを平衡化するために使用されるバッファーによって行われてもよい。好都合な態様では、再生は0.5M NaOHとのインキュベーションによって実行される。
【0051】
本発明はまた、先に論じた1つ以上の標的化合物を精製する方法を包含し、該方法は、本発明に記載のクロマトグラフィーマトリックスを使用した精製に加えて、1つ以上のクロマトグラフィーステップを含む。この側面に記載の方法は、たとえば本発明のマトリックスを使用した第1のクロマトグラフィーステップ;イオン交換または疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を使用した中間クロマトグラフィーステップ;および最後にイオン交換、HICまたは逆相クロマトグラフィーを使用した仕上げステップを含んでいてもよい。特定の態様では、このプロセスは本明細書に記載のドメインCリガンドを有するクロマトグラフィーマトリックスに先行するステップを含む。そのような先行ステップは、たとえば、慣用の濾過、沈殿、凝集、または細胞破片および他の所望しない成分を除去するための他のステップを含んでいてもよい。
【0052】
代わりの態様では、本発明に記載の使用は、イムノアッセイのような分析的または診断的使用である。
図面の詳細な説明
図1は他のタンパク質に基づいたリガンドに比較した本発明に記載のリガンドのアルカリ安定性試験の結果を示す。実施例1に記載のように、X軸はインキュベーション期間を時間で示し;一方Y軸は0.5M NaOH中でX時間後に残っているキャパシティーを表す。より明確には、プロテインA‐含有製品MabSelect(登録商標)(黒菱形):いっそうアルカリ安定として市販される、より最近のプロテインA製品MabSelect(登録商標)SuRe(X);SEQ ID NO1によって定義されるSpA由来のドメインC(白三角);および最後にSEQ ID NO2によって定義されるSpA由来のドメインCの欠失した態様(黒四角)。図1から明らかなように、本発明に記載のドメインCリガンドはアルカリ安定製品MabSelect(登録商標)SuReに十分に匹敵するアルカリ安定性を示す。
【0053】
図2は他のタンパク質に基づいたリガンドに比較した、本発明に記載のリガンドのFab‐結合特性試験の結果を示す。この図から明らかなように、SpAに由来するドメインCを含むクロマトグラフィーリガンド(CwtおよびCdel)は他の試験されたリガンドよりずっと高いレベルのFab‐結合を提示する。
【実施例】
【0054】
本実施例は説明の目的だけに提供され、添付の特許請求の範囲に定義される本発明を限定するものと解釈するべきではない。
実施例1:4種のプロテインA‐由来リガンドのアルカリ安定性のカラム研究
この実施例では、2種が比較用であり、2種が本発明に記載のものである、4種のクロマトグラフィーマトリックスのアルカリ安定性が一連のクロマトグラフィーラン(run)を通して試験される:
‐MabSelect(登録商標)およびMabSelect SuRe(登録商標)(両方はタンパク質を基礎にしたリガンドを含む比較製品、GE Healthcare Bio−sciences,Uppsala,Sweden)および
‐Cwt(SEQ ID NO1で定義される、SpA由来の野生型ドメインC)、およびCdel(SEQ ID NO2で定義される、SpA由来の欠失した野生型ドメインC)。
【0055】
IgG‐結合キャパシティーは初期、および0.5M NaOH中でのインキュベーションステップ後に測定された。インキュベーション時間は1から5時間まで変化し、蓄積インキュベーション時間は20時間であった。
【0056】
本発明に記載のリガンドは標準手順に従ってアガロース粒子状に固定され、カラム(GE Healthcare)に充填された。2つのマトリックス、MabSelect(登録商標)およびMabSelect(登録商標)SuReはGE Healthcareによって製造された、モノクローナル抗体精製のために市販される製品である。両製品のリガンドはIgG‐結合スタフィロコッカスアウレウスプロテインAを基礎にする。MabSelect(登録商標)リガンドは基本的には組換えプロテインAであり、5つの相同ドメイン(E、D、A、B、C)からなる。比較して、MabSelect(登録商標)SuReリガンドはドメインBアナログ「Z」に由来する4つのドメインからなり、そしてそれは今度はタンパク質工学的操作法により高いpHに対して安定化されている。結果として、MabSelect(登録商標)SuReは0.5M NaOHに至るまでの定置洗浄(CIP)条件に耐える。MabSelect(登録商標)およびMabSelect(登録商標)SuReリガンドはアガロース粒子にカップリングしている。
【0057】
リガンドCwtおよびCdelは、標準手順に従ってマトリックスへのカップリングのためのC‐末端システイン残基を持つ同一ドメインのテトラマーとして構築された。
材料&方法
標的化合物
皮下注入または筋肉内注射用の10x10ml 注入液、溶液、GAMMANORM(登録商標)165mg/ml(Octapharma no.008664)、ヒト正常イムノグロブリンがクロマトグラフィー実験における標的化合物として使用された。
クロマトグラフィーカラム
以下の表1に概説されたリガンドカップリングおよびカラム充填が実行された。
表1:実験1で使用されたカラム
【0058】
【表1】

【0059】
「カラムID」はそれぞれのカラムに与えられた特有の番号を表す。これらの番号はクロマトグラフィー法に含まれ、結果ファイルの記録の中に見いだすことができる。たとえば、表1の初めのカラムは「MabSelect SuRe U669082 カラム4 20060310(9.)」と呼ばれた。「カラムno.」は充填番号であり、すなわち同じマトリックスのバッチにより充填されたカラムは、充填時に異なるカラムno.を与えられた。カラム容積はベッド高を測定することにより見積もられた。
バッファーおよび溶液
バッファーA:50mM リン酸ナトリウム、0.15M NaCl、pH7.2
バッファーB:50mM クエン酸、0.15M NaCl、pH2.5
器具および実験室設備
クロマトグラフィーシステム:AKTA(登録商標)explorer 10(GE Healthcare)
カラムハードウェア:Tricon(登録商標)5/100 GL(GE Healthcare)
真空脱気装置:CT2003−2、2チャンネル脱気装置、ChromTech AB
分光光度計:NanoDrop(登録商標)ND−1000分光光度計、NanoDrop Technologies
遠心分離機:Beckman Coulter(登録商標)Avanti(登録商標)J−20 XPI、JLA8.1000ローター
pHメーター(バッファーA):BeckmanΦ360pH/Temp/mV Meter
pHメーター(バッファーB):Laboratory pH Meter CG842、SCHOTT
ヘリウム:AGA Gas AB,101H20577708,Instrument
バッファーおよび試料のためのフィルター:75mmボトルトップフィルター(Bottle Top Filter)−500ml、0.2μmポアサイズ、Nalgene
0.5M NaOHのためのフィルター:75mmボトルトップフィルター−500ml、0.45μmポアサイズ、Nalgene
ソフトウェア
AKTAexplorer(登録商標)10はUNICORN(登録商標)5.01(GE Healthcare)によって制御された。クロマトグラフィーラン(run)間にシステムを制御することとは別に、UNICORNは方法プログラミングおよび結果の評価に使用された。
バッファー作製
バッファーA:リン酸水素ナトリウムおよびNaClは水に溶かした。pHメーターはpH4、pH7およびpH10標準バッファーを使用して較正した。pHはpHが7.2に到達するまでバッファーにNaOH(aq)を添加しながらモニターした。バッファーは濾過し、使用前にヘリウムで脱気した。
【0060】
バッファーB:クエン酸およびNaClを水に溶かした。pHメーターはpH7およびpH2標準バッファーを使用して較正した。pHはpHが2.5に到達するまでバッファーにNaOH(水溶液)を添加しながらモニターした。バッファーは濾過し、使用前にヘリウムで脱気した。
0.5M NaOHの作製
NaOH(固体)は水に溶かして0.5Mにした。溶液は濾過し、使用前にヘリウムで脱気した。
試料作製
実験1
30ml Gammanorm(165mg/ml)は4950mlのバッファーAで1mg/mlに希釈した。試料は0.2μmを通して濾過し、滅菌した5リットルボトルに入れた。
【0061】
NanoDrop分光光度計を使用して3回の280nm測定が試料に対して実行された:1.2573AU、1.2432AUおよび1.2101AU。平均吸光度:1.2369AU。
【0062】
280nmにおける吸光度はAKTAexplorer10でも測定された。試料はバイパスモードでシステムを通してシステムポンプから注入された。10mm UVウェルを使用し、流速は0.83ml/分であった。280nmでの吸光度は1510mAUであった。この値はキャパシティー計算をするときに参照として使用された。
方法の説明
通常、MabSelect SuReのCIPサイクルはCIP溶液(通常0.1〜0.5M NaOH)との10〜15分間の接触時間を含む。この研究におけるCIPサイクルの量を減らすために、より長い接触時間が使用された。カラムは1、2および5時間間隔でインキュベーションされ、全接触時間は20時間であった。これは80〜120サイクル、10〜15分間の接触時間に相当する。
【0063】
CIPインキュベーションの前に、カラム毎に2回の初期キャパシティー測定が実施された。キャパシティー測定後、カラムは0.5M NaOH中でインキュベーションされた。それぞれのCIPインキュベーション後、カラム毎に1回のキャパシティー測定が実行された。
【0064】
概要を述べると、実験は以下のように計画された:
・カラム毎の2回の初期キャパシティー測定
・CIPインキュベーション、1時間。
・カラム毎の1回のキャパシティー測定。
・CIPインキュベーション、2時間。
・カラム毎の1回のキャパシティー測定。
・CIPインキュベーション、2時間。
・カラム毎の1回のキャパシティー測定。
・CIPインキュベーション、5時間。
・カラム毎の1回のキャパシティー測定。
・CIPインキュベーション、5時間。
・カラム毎の1回のキャパシティー測定。
・CIPインキュベーション、5時間。
・カラム毎の1回のキャパシティー測定。
システム設定
実験は室温で実行した。しかし、試料は微生物の増殖を回避するために氷上に保持した。冷たい試料を室温に温めたときの気泡の形成を回避するために、試料とポンプの間に脱気装置が接続された。UV検出のためにAKTAexplorer10は10mm UVセルを備えた。
【0065】
バッファーと試料はシステムポンプから注入した。下記の注入口が使用された:
・試料:Bポンプ(注入口B1)
・バッファーA:Aポンプ(注入口A11)
・バッファーB:Aポンプ(注入口A12)
・0.5M NaOH:Aポンプ(注入口A13)
キャパシティー測定、詳細な説明
(カラム毎に1回のキャパシティー測定からなる)キャパシティー測定の前に、試料はバイパス様式で、すなわちカラムを使用せずにポンプから注入された。この目的はそれぞれのキャパシティー測定にとって「新鮮な」試料を得ること、およびCIPインキュベーション中に、室温でチューブおよびポンプ中に残っていた初めの試料の容量の第1のカラムに対する負荷を回避することである。
【0066】
それぞれのカラムに対するキャパシティー測定法は以下の部分から構成された:
・カラム容積(CV)の5倍のバッファーAによるカラムの平衡化。
・試料負荷。動的結合キャパシティーは関心のあるクロマトグラフィー媒体で充填されたパックに試料を負荷することによって決定される。媒体が試料によって次第に飽和される場合、280nmでの吸光度レベルはカラムを通過する非結合試料のために増加することになる。この方法では、試料はUV280nm曲線が試料の280nmにおける吸光度の15%に到達するまでカラムに負荷された。
・非結合試料の洗い流し。UV280nm曲線が試料の280nmにおける吸光度の10%未満に減少するまでカラムは洗浄された。
・溶出。結合物質は10CVのバッファーBにより溶出された。
・5CVバッファーAによる再平衡化
試料負荷の流速は0.83ml/分であった。
CIPインキュベーション
それぞれのキャパシティー測定後、2回の初期測定のうちの1回目を除いて、CIPインキュベーションが実行された。CIPインキュベーション法では、3CVの0.5M NaOHが0.83ml/分の流速でそれぞれのカラムを通して注入された。この後、システムは中断された。中断の長さはCIPインキュベーション時間の長さ、すなわち1時間、2時間または5時間に依存した。しかし、システムがカラムを通してNaOHを注入するために必要な時間は中断時間から減じられた。CIPインキュベーション後、3CVのバッファーAが0.83ml/分の流速でそれぞれのカラムを通して注入され、NaOHが除去された。この手順により、すべてのカラムが同じ時間、NaOHに暴露された。3CVのバッファーAによるさらに1回の洗浄サイクルが最後に実行された。
クロマトグラフィーの結果の評価
キャパシティーは、280nmにおける吸光度が試料の吸光度の10%に到達するまでカラムに適用された試料の容量を測定することによって決定された。デッドボリューム、すなわちカラム容量、ミキサーおよびポンプからUVセルまでの管は、この容量から減じられた。カラムの無い遅れ容量は1,02mlに決定された。キャパシティー値は蓄積されたCIPインキュベーション時間に対してプロットされた。相対キャパシティー値はCIPサイクル後のキャパシティー値をスタートキャパシティー値の平均で割ることにより獲得された。相対キャパシティー値は異なるマトリックス間のいっそう容易な比較に使用された。
表2.結果 実験1‐キャパシティー(mg Gammanorm/ml クロマトグラフィーマトリックス(ゲル))
【0067】
【表2】

【0068】
実験2:Fab‐結合の試験
異なるクロマトグラフィー媒体のFab‐結合キャパシティーは96‐ウェルフィルタープレートアッセイで評価した。液体およびクロマトグラフィー媒体はプレートボルテックスインストルメントで1分間混合した。ウェルの底は液体とクロマトグラフィー媒体の粒子を保持するフィルターから構成された。遠心分離した場合、液体はフィルターを通過し、フィルタープレートの底に接着した別個の96‐ウェル回収UV‐プレートに集められた。集められた液体の280nmでの吸光度はプレートリーダーで測定され、Fabの検出および見積に使用された。異なるステップ、たとえば洗浄、溶出に由来する液体は異なるプレートに集められ、別個に測定されて、個々の画分のFabの量を測定することを可能にした。
【0069】
10%スラリーがそれぞれのクロマトグラフィー媒体から作製された。
【0070】
フィルタープレートは200μlスラリー/ウェル、すなわち、20μl/ウェルを負荷された。
【0071】
平衡化‐5x200μlPBSで洗浄
試料インキュベーション‐PBS中の100μlヒトポリクローナルFab/カッパ、IgGフラグメント(Bethyl)、15分間
洗浄‐5x100μl PBS
溶出‐3x100μl 0.1M グリシン、pH3.0
CIP‐0.5M NaOHにより2x10分
UV@280nmによる液体を含むプレートの分析
実験2の結果は図2に提示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタフィロコッカス(Staphylococcus)プロテインA(SpA)由来の1つ以上のドメインCユニット、またはその機能的フラグメントもしくは変異体を含む、実質的にアルカリに安定なクロマトグラフィーリガンド。
【請求項2】
0.5M NaOH中で5時間インキュベーション後に、本来の結合キャパシティーの少なくとも95%を保持している、請求項1に記載のリガンド。
【請求項3】
抗体のFab部分への結合が可能である、請求項1または2に記載のリガンド。
【請求項4】
ドメインC配列がSEQ ID NO1によって定義されるアミノ酸配列に対応する、先の請求項のいずれか1項に記載のリガンド。
【請求項5】
ドメインC配列がSEQ ID NO2によって定義されるアミノ酸配列に対応する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリガンド。
【請求項6】
末端カップリング基を付加的に含み、該基が好ましくは少なくとも1つの窒素および/またはイオウ原子を含む、先の請求項のいずれか1項に記載のリガンド。
【請求項7】
末端基がアルギニンまたはシステインを含む、請求項6に記載のリガンド。
【請求項8】
少なくとも2つのドメインCユニット、または少なくとも2つのその機能的フラグメントもしくは変異体を含む、請求項1〜7のいずれか1項に定義された多量体型クロマトグラフィーリガンド。
【請求項9】
少なくとも2つのドメインCユニット、または少なくとも2つのその機能的フラグメントもしくは変異体に加え、さらに好ましくはアルカリに安定である1つ以上の他のタンパク質を基礎にしたユニットを含む、請求項8に記載のリガンド。
【請求項10】
場合によりリンカーセグメントを介してカップリングする2〜8個のドメインCユニットを含む、請求項8に記載のリガンド。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項で定義されたリガンドをコードする核酸配列。
【請求項12】
請求項11に定義された核酸配列を含む発現系。
【請求項13】
少なくとも1つの不溶性キャリアにカップリングした請求項1〜10のいずれか1項に定義されたリガンドからなる、クロマトグラフィーマトリックス。
【請求項14】
少なくとも1つの不溶性キャリアにカップリングした請求項1〜10のいずれか1項に定義されたリガンドを含む、Fabフラグメント‐結合クロマトグラフィーマトリックス。
【請求項15】
キャリアが実質的に球状の粒子からなる、請求項14に記載のマトリックス。
【請求項16】
キャリアが多孔性である、請求項13〜15のいずれか1項に記載のマトリックス。
【請求項17】
請求項1〜10のいずれか1項によって定義されたリガンドを提供すること;および少なくとも1つの多孔性キャリアに該リガンドをカップリングすることを含む、クロマトグラフィーマトリックスを作製する方法。
【請求項18】
カップリングがリガンドの窒素またはイオウ原子を介して実行される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
1つ以上の標的化合物を単離するプロセスであって、該化合物を含む液体とクロマトグラフィーマトリックスを接触させること;該化合物をマトリックス上に存在する1つ以上のスタフィロコッカスプロテインA(SpA)ドメインC、またはその機能的フラグメントもしくは変異体からなるリガンドに吸着させること;および場合によりリガンドからそれらを放出する液体マトリックスを横切ることにより該化合物を溶出することを含む、プロセス。
【請求項20】
1つ以上の標的化合物を単離するプロセスであって、該化合物を含む液体とクロマトグラフィーマトリックスを接触させること;該化合物をマトリックス上に存在する、少なくとも2つのスタフィロコッカスプロテインA(SpA)ドメインCユニット、またはその機能的フラグメントもしくは変異体を含む多量体であるリガンドに吸着させること;および場合により、リガンドから該化合物を放出する液体マトリックスを横切ることにより該化合物を溶出することを含む、方法。
【請求項21】
標的化合物がタンパク質、好ましくは抗体である、請求項19または20に記載のプロセス。
【請求項22】
リガンドが請求項1〜10のいずれか1項に定義された通りである、請求項19〜21のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項23】
アルカリに安定なイムノグロブリン吸着剤としての、SpAのドメインC、またはその機能的フラグメントの使用。
【請求項24】
標的化合物がマトリックスから溶出される請求項19〜22のいずれか1項に記載のプロセスを含む請求項23に記載の使用であって、2〜300回実行され、場合により間の洗浄ステップ;マトリックスのアルカリ再生;および最後に請求項19〜22のいずれか1項に記載のプロセスを反復することを伴う、使用。
【請求項25】
再生が水酸化ナトリウム、好ましくは約0.5M NaOHとのインキュベーションによって実行される、請求項19〜22のいずれか1項に記載の使用。
【請求項26】
Fabフラグメント結合吸着剤としての、SpAのドメインC、またはその機能的フラグメントの使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−504754(P2010−504754A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530310(P2009−530310)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際出願番号】PCT/SE2007/000862
【国際公開番号】WO2008/039141
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(509088240)ジーイー・ヘルスケア・バイオ−サイエンシズ・アーベー (22)
【Fターム(参考)】