説明

抗体精製用のメンブラン及び関連方法

本発明は、抗体含有生体試料から不要な化合物を分離するための装置に関する。この装置は、多孔質担体と、多孔質担体の細孔内に配置されたポリマー樹脂とを含む。この装置は、ポリマー樹脂の上流又は下流にウィルス除去メンブランをさらに含んでもよい。使用方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体精製用のメンブラン及び関連する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内在性不純物(宿主細胞DNA又はタンパク質)又は外在性夾雑物(内毒素、ウイルス又は細菌)からの、抗体、プラスミドDNA、ワクチン又は血漿画分のような治療用又は診断用生体分子又は生物学的存在の精製は、バイオセパレーション及びバイオプロセスにおける成長分野である。大量の純粋な抗体が免疫学的及び治療用途に必要とされることが多い。この数年間で、モノクローナル又は組換え抗体及びそれらの構築物は、治療薬及び診断薬の臨床試験で検討されている分子の最大のクラスになっている。発現系及び生産戦略の補完として、簡単で安価に高純度抗体を得るための効率的な精製プロトコールが必要とされている。安価で拡大縮小可能で迅速な精製技術の開発が必要とされている。
【0003】
塩に基づくタンパク質分画又は超遠心分離のような伝統的な精製方法は、経済的でなく時間がかかる。各々特異的分子相互作用に依拠するビーズ状クロマトグラフィー技術も抗体及びウイルスの精製に用いられており、アフィニティー、疎水性相互作用及びイオン交換クロマトグラフィーが挙げられる。主にビーズでのクロマトグラフィーが、抗体又はウイルスの精製に用いられている。慣用されるクロマトグラフィー技術は、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー又はイオン交換クロマトグラフィーを始めとする、相互作用の原理に基づくものである。従前、個々の特定の分離目的に最適な固定相を設計するための努力がなされてきた。かかる固定相は、担体又はベースマトリックスに、結合基を含むリガンドを結合したものであることが多い。生体高分子を高い純度及び収率で経済的かつ効率的に精製するためのマルチモーダルクロマトグラフィー分離技術を開発するため、様々なクロマトグラフィー技術の組合せを用いることができる。
【0004】
或いは、生体分子の高効率で高流量の分離を達成するために、メンブランクロマトグラフィーが用いられている。しかし、特定の目標分子の精製に関してプロセスを最適化するために、特有の操作条件が必要とされることが多い。さらに、抗体、内毒素又はウイルスのような種々の試料によって最良の分離マトリックスが変動することがある。例えば、バイオテック産業では、ペプチド及びタンパク質(例えば抗体)、核酸、又はウイルスを精製するために特異的なプロセスを設計する必要がある。さらに、抗体の精製では、抗体の種類が、分離マトリックスの選択に重要な意味をもつことがある。そのため、絶え間なく開発されている新規生成物を精製するための選択の幅を広げるために、代替分離マトリックスが必要とされている。
【0005】
微量不純物が、メンブランの容量に影響することがある。DNA、宿主細胞タンパク質又はタンパク質凝集体のような微量不純物を除去するために、従前、様々なメンブラン及びクロマトグラフィー樹脂が用いられてきた。タンパク質は、凍結融解操作又は下流精製におけるプロセス保留工程で、凝集体を形成することがある。そのため、ウィルス除去工程及び目標タンパク質分子の最終処方へと進む前に、凝集タンパク質及び微量不純物を除去することが常に必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第2009/0035552号
【発明の概要】
【0007】
本発明は、広義には、多孔質担体と、多孔質担体の細孔内に配置されたポリマー樹脂とを含む新規な分離装置、並びに該装置を抗体精製に用いる方法に関する。精製プロセスは、同じ単位操作で高度精製工程をウイルス除去工程と組合せることによって、より効率的にできる。このことは、多孔質担体とポリマー樹脂とを含む分離マトリックスを、ウィルス除去メンブランと、同じ装置中で並列させることにより達成できる。
【0008】
一実施形態では、本発明は、抗体含有生体試料から1種以上の不要な化合物を分離するための装置を提供する。本装置は、多孔質担体と、多孔質担体の細孔内に配置されたポリマー樹脂であって、ビニル架橋剤並びに第4級アンモニウム基及び2つ以上の環構造を含む芳香族モノマーに由来する構造単位を含むポリマー樹脂とを含む。
【0009】
一実施形態では、本発明は、抗体含有生体試料から不要な化合物を分離するための装置を提供する。本装置は、多孔質担体と、多孔質担体の細孔内に配置されたポリマー樹脂であって、ビニル架橋剤及び式I、式II、式III又はそれらの組合せに由来する構造単位を有するモノマーに由来する構造単位を含むポリマー樹脂とを含む。
【0010】
【化1】

式中、R1及びR2は独立に水素、C1〜C20アルキル、C1〜C20置換アルキル、アリール、置換アリール又はそれらの組合せであり、m及びnは独立に1〜5の整数であり、R3及びR4は独立に水素、C1〜C20アルキル、C1〜C20置換アルキル、ベンジル又は置換ベンジルである。さらに、ポリマー樹脂は、生物学的溶液中に存在する1種以上の化合物を、マルチモーダル相互作用によって選択的に保持できる。
【0011】
一実施形態では、本装置は、ウイルスを除去できるウィルス除去メンブランをさらに含んでいて、ポリマー樹脂を含有する多孔質担体は、ウィルス除去メンブランの上流又は下流に配置される。
【0012】
一実施形態では、抗体含有生体試料中に存在する不要な化合物から抗体を分離する方法は、生体試料を上記装置に、試料がポリマー樹脂と接触するように添加する工程と、生体試料中に存在する1種以上の化合物を、マルチモーダル相互作用によって選択的に保持する工程と、未結合の抗体を含む通過(フロースルー)流出液を回収する工程とを含む。
【0013】
別の実施形態では、本方法は、同じ装置中でウィルス除去メンブランの上流に、ポリマー樹脂を含有する多孔質担体を組み込んだ高度精製工程を用いることによって、生体試料とのウィルス除去メンブランの容量の改善をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】抗体精製のための伝統的なバイオプロセスと圧縮バイオプロセスとの比較を示す2つのフローチャートを示す。
【図2】装置中での流れの方向に対する、高度精製メンブランの位置及びウィルス除去メンブランの位置を示す構成を示す。
【図3】ウイルスメンブランが、自立型装置であるか又は分離マトリックスを有する装置に組み込まれている、ウイルスメンブラン濾過の容量を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のこれらの及びその他の特徴、態様並びに利点は、図面全体を通して同様の文字が同様の部分を示す添付の図面を参照して以下の詳細な説明を読むことによって、よりよく理解されるようになる。
【0016】
請求される発明の主題をより明確且つ簡潔に記載するために、以下の記載及び添付の特許請求の範囲で用いられる具体的な用語について、以下の定義を用いる。明細書全体を通して、具体的な用語の例示は、非限定的な例とみなされる。
【0017】
そうでないと示さない限り、本明細書及び特許請求の範囲で用いる成分、分子量のような特性、反応条件などの量を表す全ての数字は、全ての場合で用語「約」で修飾されていると理解される。従って、別途記載しない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲で示す数値パラメータは、本発明により得ることを求める所望の特性に依存して変動できる近似値である。最低限でも、そして特許請求の範囲に均等論を適用することを制限することを試みることなく、各数値パラメータは、報告される有効数字の数に鑑みて、且つ通常の丸めの技法を用いることにより少なくとも解釈される。
定義
用語「抗体」及び「免疫グロブリン」は、明細書で互換的に用いられる。
【0018】
用語「分離マトリックス」又は「樹脂」は、担体に含まれる材料であって、該担体が、それに直接的若しくは間接的に結合したリガンドを有するか又は架橋ポリマーで被覆されており、官能基を含む1種以上のリガンドがポリマーと結合している材料のことをいう。より具体的には、本明細書で用いる分離マトリックスは、多孔質担体の細孔内に配置されたポリマー樹脂を有する多孔質担体のことをいう。
【0019】
用語「マルチモーダル分離マトリックス」又は「混合モード分離マトリックス」とは、結合のために1種以上の化合物と相互作用する2つ以上の異なる、しかし協同的な部位を提供できる分離マトリックスのことをいう。例えば、これらの部位のうちの1つは、リガンドと対象の化合物との電荷−電荷相互作用をもたらすことができる。その他の部位(複数可)は、電子受容体−供与体相互作用並びに/又は疎水性及び/若しくは親水性相互作用をもたらすことがある。電子供与体−受容体相互作用は、それらに限定されないが、水素結合相互作用、π−π相互作用、カチオン−π相互作用、電荷移動相互作用、双極子間相互作用又は誘起双極子相互作用を含む。
【0020】
用語「脂肪族基」とは、1以上の結合価を有し、環状でない直鎖状又は枝分れの原子の並びからなる有機基のことをいう。脂肪族基は、1つ以上の炭素原子を含む。脂肪族基を含む原子の並びは、窒素、硫黄、ケイ素、セレン若しくは酸素のような複素原子を有することがあるか、又は炭素及び水素だけで構成されることがある。脂肪族基は、環状でない直鎖状又は枝分れの原子の並びの一部として、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、共役ジエニル基、アルコール基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボン酸基、アシル基(例えばエステル及びアミドのようなカルボン酸誘導体)、アミン基、ニトロ基などのような広範囲の官能基を包含する。例えば、4−メチルペンタ−1−イル基は、メチル基を含むC6脂肪族基であって、該メチル基が、アルキル基である官能基である。同様に、4−ニトロブタ−1−イル基は、ニトロ基を含むC4脂肪族基であって、該ニトロ基が官能基である。脂肪族基は、同じ又は異なっていてよい1種以上のハロゲン原子を含むハロアルキル基であってよい。ハロゲン原子は、例えば、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素を含み得る。1種以上のハロゲン原子を含む脂肪族基は、アルキルハロゲン化物であるトリフルオロメチル、ブロモジフルオロメチル、クロロジフルオロメチル、ヘキサフルオロイソプロピリデン、クロロメチル、ジフルオロビニリデン、トリクロロメチル、ブロモジクロロメチル、ブロモエチル、2−ブロモトリメチレン(例えば−CH2CHBrCH2−)などを含む。脂肪族基のさらなる例は、アリル、アミノカルボニル(すなわち−CONH2)、カルボニル、2,2−ジシアノイソプロピリデン(すなわち−CH2C(CN)2CH2−)、メチル(すなわち−CH3)、メチレン(すなわち−CH2−)、エチル、エチレン、ホルミル(すなわち−CHO)、ヘキシル、ヘキサメチレン、ヒドロキシメチル(すなわち−CH2OH)、メルカプトメチル(すなわち−CH2SH)、メチルチオ(すなわち−SCH3)、メチルチオメチル(すなわち−CH2SCH3)、メトキシ、メトキシカルボニル(すなわちCH3OCO−)、ニトロメチル(すなわち−CH2NO2)、チオカルボニル、トリメチルシリル(すなわち(CH3)3Si−)、t−ブチルジメチルシリル、3−トリメトキシシリルプロピル(すなわち(CH3O)3SiCH2CH2CH2−)、ビニル、ビニリデンなどを含む。さらなる例として、C1〜C10脂肪族基は、1つ以上であるが10個以下の炭素原子を含有する。メチル基(すなわちCH3−)は、C1脂肪族基の例である。デシル基(すなわちCH3(CH2)9−)は、C10脂肪族基の別の例である。
【0021】
用語「表面」は、全ての外部表面を意味し、多孔質担体の場合に細孔の外側の表面及び内側の表面を含む。
【0022】
用語「通過画分」とは、移動相を分離マトリックスに投入した後に分離マトリックスから出てくる液体のことをいう。通過画分は、タンパク質又は分離マトリックスと結合しなかったその他の化合物を含み得る。
【0023】
用語「溶離液」とは、1種以上の化合物を分離マトリックスから遊離させるために用いる適切なpH及び/若しくはイオン強度の溶液又は緩衝液のことをいう。
【0024】
用語「不要な化合物」とは、クロマトグラフィーリガンド又は分離マトリックスと結合できる物質のことをいう。不要な化合物は、タンパク質(これは、抗体のような目標化合物を除外し得る)、溶出プロテインA、DNA、ウイルス、内毒素、栄養素のような生体分子並びに細胞培養培地の成分、消泡剤及び抗生物質であり得る。不要な化合物は、典型的に「不純物」と呼ばれることがあるその他の生成物、例えば凝集体、宿主細胞タンパク質、DNA、ウイルス、内毒素、ミスフォールド種(例えばミスフォールドタンパク質)又は変性された種のことをいうこともある。
【0025】
用語「捕捉工程」とは、液体クロマトグラフィーの関係で、分離手順の最初の工程のことをいう。最も一般的には、捕捉工程は、ある程度の清澄化を含むが、より一般的に、この工程の結果として、濃縮、安定化及び可溶性不純物からの著しい精製が得られる。捕捉工程の後に、中間精製を行うことがあるが、これは、宿主細胞タンパク質、DNA、ウイルス、内毒素、栄養素、細胞培養培地の成分、消泡剤、抗生物質、又は凝集体、ミスフォールド種及び凝集体のような生成物関連不純物のような残存量の不純物をさらに低減する。最後に、一連の高度精製工程を行って、残存宿主細胞タンパク質、DNA、ウイルス、タンパク質凝集体及び内毒素のような微量不純物を除去してよい。
【0026】
用語「高度精製工程」は、液体クロマトグラフィーの関係で、分離手順の最初の精製工程の後のことをいう。最も一般的には、高度精製工程は、宿主細胞タンパク質、DNA、ウイルス、内毒素及びタンパク質凝集体のような微量不純物を低減するために採用される。これらの不純物は、より一般的に、この工程による。高度精製工程は、目標分子が分離マトリックスと結合せず、微量不純物が結合するフロースルーモード操作で行うことができる。別の単位操作として、高度精製工程の後には、最も一般的には、濾過によるウィルス除去が行われる。
【0027】
用語「使い捨ての」とは、本明細書で、装置中のクロマトグラフィーチャンバ及び分離マトリックスの関係で、単回使用又は制限された回数の使用を意図するマトリックスを意味する。使い捨ての装置(例えばカラム、ビーズ若しくは分離マトリックス又は多孔質担体)は、非常に少量でも害を及ぼす夾雑物を除去するために有利に用いられる。使い捨ての装置は、夾雑物及び相互汚染を導入する可能性を低減するために、生体分子の滅菌処理のために望ましい。
【0028】
1種以上の実施形態は、多孔質担体と、多孔質担体の細孔内に配置されたポリマー樹脂とを含む、抗体含有生体試料から不要な化合物を分離するための装置を含む。装置自体は、クロマトグラフィーチャンバ、管状過カラム、モノリス、フィルター又はメンブラン、キャピラリー、マイクロフルイディックチップ、プリーツカートリッジ若しくはカプセル又はカセット、らせん体、中空繊維、シリンジフィルター、マニフォールド、或いはマルチウェルプレートの形態であってよい。全ての装置は、本発明のポリマー樹脂で被覆された多孔質担体を含む。
【0029】
いくつかの実施形態では、ポリマー樹脂は、多孔質担体構造の細孔内に配置される。多孔質担体は、メンブラン、ウェブ、フィルター、繊維又はメッシュの形態で作製してよい。
【0030】
多孔質担体は、複数の細孔を含む。細孔径は、約0.1μm〜約10μmの範囲であってよい。いくつかの具体的な実施形態では、細孔径は、約2μm〜約5μmの範囲である。細孔は、同一のサイズ/形状又は異なるサイズ/形状のものであってよい。細孔は、円形、楕円形、方形、正方形又は三角形の形状であってよい。
【0031】
多孔質担体は、有機又は無機の材料を用いて作製してよい。いくつかの実施形態では、多孔質担体は、ポリマーを用いて作製される。多孔質担体は、天然高分子(例えばアガロース、寒天、セルロース、デキストラン、キトサン、コンニャク、カラギーナン、ゲラン、アルギネート、ペクチン又はデンプン)を用いて、又は合成高分子(例えばポリフェニレンエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンのようなポリアリールエーテル、ポリスチレン、ポリアクリレート若しくはポリメタクリレートのようなポリビニルポリマー、ポリビニルエステル、ポリアクリルアミド、ポリビニルエステル、ポリビニルアミド、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリカーボネート、ポリエステル)から調製してよい。用いられるポリマーは、ホモポリマー、コポリマー、架橋ポリマー、ブロックコポリマー、ランダムポリマー又はポリマーブレンドであってよい。上記のポリマーと水溶性ポリマーとのブレンドが、薄膜凝固により頻繁に加工され、該水溶性ポリマーは、細孔の形態を制御するように作用する。多孔質担体を作製するために用いることができる適切なポリマーは、それらに限定されないが、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、延伸ポリテトラフルオロエチレン(e−PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフェニレンオキシド、ポリカーボネート、ポリエステル、セルロース又はセルロース誘導体を含む。いくつかのその他の実施形態では、担体は、シリカのような無機ポリマーから調製される。
【0032】
いくつかの実施形態では、多孔質担体の細孔内に配置されるポリマー樹脂は、ビニル架橋剤と、式I、式II、式III又はそれらの組合せに由来する構造単位を有するモノマーとに由来する構造単位を含む。
【0033】
【化2】

式Iにおいて、R1及びR2は独立に水素、C1〜C20アルキル、C1〜C20置換アルキル、アリール、置換アリール又はそれらの組合せである。式I及びIIにおいて、m及びnは独立に1〜5の整数である。いくつかの実施形態では、モノマーは、2つ以上の環構造を含む。
【0034】
式(I)に示すように、スチレン置換第4級アミンはR1基を含み、これはアミンの窒素に接続されるが、R2は、ベンゼン環のオルト、メタ又はパラ位に結合し得る置換基である。R1が水素である場合、式(I)は、第3級アミンを表す。R1は、1〜20炭素原子含有アルキル、例えば置換を有するか若しくは有さない2〜16又は3〜18炭素原子含有アルキルを含み得る。置換基R2は、1〜20炭素原子を含む。R2は、2〜18炭素原子のような1〜20炭素原子を含むことができ、これらは適宜置換される。R2が水素である場合、ベンゼン環は、CH2基を介して窒素に結合する。
【0035】
いくつかの実施形態では、R1は、アリール又は置換アリールであり得る。R1のアリール環系は、1種以上の置換又は非置換フェニル基を含んでよいが、但し、置換(複数可)が、結合特性を損なわないことを条件とする。よって、R1は、1種以上の芳香環、例えばフェニレン、ビフェニレン又はナフタレン構造及びその他の芳香環系を含み得る。芳香環は、1種以上の窒素、酸素又は硫黄原子を含有する複素環、例えばピリジン、ピリミジン、ピロール、イミダゾール、チオフェン又はピランであり得る。例示的な置換R1基は、ヒドロキシフェニル(2−、3−及び4−)、2−ベンズイミダゾリル、メチルチオキシフェニル(2−、3−及び4−)、3−インドリル、2−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル、アミノフェニル(2−、3−及び4−)、4−(2−アミノエチル)フェニル、3,4−ジヒドロキシフェニル、4−ニトロフェニル、3−トリフルオロメチルフェニル、4−イミダゾリル、4−アミノピリジン、6−アミノピリミジル、2−チエニル、2,4,5−トリアミノフェニル、4−アミノトリアジニル、及び4−スルホンアミドフェニルからなる群から選択される。具体的な実施形態では、R1は、非置換フェニルである。代替の実施形態では、R1は、1つ以上のOH基で置換されたフェニルである。
【0036】
さらに、R1及びR2は、リガンドの結合特性が損なわれない限りは、任意の適切な置換基で置換されてよい。例えば、より親水性のリガンドが望ましいならば、これは、OH基のような1種以上の親水性基を含んでよい。代わりに、置換は、リガンドの疎水性を増進させてよく、この場合、リガンドは、アルキル基及び/又はフッ素含有基のような1種以上の疎水性基を含んでよい。最後に、置換は、1つ以上の追加の機能、例えばリガンドのマルチモーダル特徴を増進するための荷電された物体を導入するために用いてよい。さらに、R1及びR2は、直鎖状であっても、枝分れがリガンドの結合特性を損なわない限り、枝分れであってよい。
【0037】
式IIに示すように、ピペリジン環は、置換ベンゼン、より具体的にはビニルベンゼンに連結しているCH2に結合している。ピペリジン環は、ビニルベンゼンに結合しているペンダント炭化水素鎖として存在する。m及びnは独立に1〜5の整数である。いくつかの実施形態では、生体試料中に存在する1種以上の化合物と結合するリガンドは、ビニルベンゼン又はスチレンを含む。
【0038】
式(III)において、R3及びR4は各々独立に水素、C1〜C20アルキル、C1〜C20置換アルキル又はそれらの組合せである。ある実施形態では、式IIIは、窒素原子に結合した2つのビニル基を含み、R3及びR4は各々独立に水素原子である。別の実施形態では、R3及びR4は、2〜18炭素原子を含んでよく、これらは適宜置換されている。さらに別の実施形態では、式IIIは、2つ以上の環構造を含む。
【0039】
別の実施形態では、R3及びR4は各々独立に、アリール又は置換アリール基である。アリール環系R3又はR4は、1種以上の置換又は非置換フェニル基を含んでよいが、但し、置換(複数可)がリガンドの結合特性を損なわないことを条件とする。よって、R3又はR4は、1種以上の芳香環、例えばベンジル、フェニレン、ビフェニレン又はナフチレン構造及びその他の芳香環系(結合部分)を含み得る。芳香環は、複素環、すなわち1種以上の複素原子(例えば窒素、酸素又は硫黄原子)を含有するもの、例えばピリジン、ピリミジン、ピロール、イミダゾール、チオフェン又はピランであり得る。例示的な置換R3及びR4基は、ヒドロキシフェニル(2−、3−及び4−)、2−ベンズイミダゾリル、メチルチオキシフェニル(2−、3−及び4−)、3−インドリル、2−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル、アミノフェニル(2−、3−及び4−)、4−(2−アミノエチル)フェニル、3,4−ジヒドロキシフェニル、4−ニトロフェニル、3−トリフルオロメチルフェニル、4−イミダゾリル、4−アミノピリジン、6−アミノピリミジル、2−チエニル、2,4,5−トリアミノフェニル、4−アミノトリアジニル、及び4−スルホンアミドフェニルからなる群から選択される。有利な実施形態では、R3又はR4は、非置換フェニルである。代替の実施形態では、R3又はR4は、1つ以上のOH基で置換されたフェニルである。
【0040】
いくつかの実施形態では、R3は、式IVに由来する構造単位を含む。R5及びR6は独立に水素、C1〜C20アルキル、C1〜C20置換アルキル、アリール、置換アリール又はそれらの組合せであり、m及びnは独立に1〜5の整数である。
【0041】
【化3】

ある実施形態では、ポリマー樹脂は、式Vに由来する構造単位をさらに含んでよい。
【0042】
【化4】

式中、ZはNH又はOであり、R7は、水素若しくはメチル、C1〜C5アルキル、置換アルキル又はそれらの組合せであり、nは、1〜5の整数である。
【0043】
式I、II及びIIIに示すように、本発明によるリガンドは、ビニル置換ベンゼン誘導体を含み、これは、多孔質担体に架橋して接着し、よって第4級アミン及びフェニル基を含む共役リガンドを創出するために適切である。その結果、固定化されると、リガンドは、マルチモーダルアニオン交換リガンドとして機能できる。なぜなら、正に荷電された第4級アミン基に加えて、これは、疎水性である芳香環構造も含むからである。
【0044】
よって、ポリマー樹脂は、一般的に、複数のリガンドを含む。具体的な実施形態では、ポリマーマトリックスは、上記の式I、II又はIIIに由来する第1リガンドを、第2の種類のリガンドと組合せて、又はリガンドの混合物を含み得る。第2リガンドも、式I、II又はIIIから選択してよい。第1リガンドは、リガンドの合計量の約30%以上、好ましくは約50%以上、より好ましくは約70%以上、最も好ましくは約90%以上で存在してよい。このような組合せリガンド分離装置は、1種以上の不要な化合物との相互作用を増進して、分離特性を改善するように設計できる。第2の種類のリガンドは、電荷反発により目標化合物を溶出するために用いられるカチオン交換体のような1種以上の荷電基、疎水性基、水素結合できる基、アフィニティー基などを含み得る。
【0045】
いくつかの実施形態では、ポリマー樹脂は、架橋剤を含み、該架橋剤は、ビニル架橋剤であってよい。ビニル架橋剤は、N’,N”−メチレンビスアクリルアミドを含む。ビニル架橋剤は、熱、光、放射線又はそれらの組合せでの処理により活性化され得る。いくつかのその他の実施形態では、架橋剤は、非ビニル架橋剤であってよい。
【0046】
分離装置は、多孔質担体と、多孔質担体の細孔内に配置されたポリマー樹脂とを含む。本明細書で用いる場合、多孔質担体とポリマー樹脂との組合せは、交換可能に、その作用の形態、分離工程及び/又は高度精製工程に関連して、分離マトリックス又は高度精製マトリックスということがある。
【0047】
装置の分離マトリックスは、ポリエーテルスルホン多孔質担体と、表1に示すモノマー1、モノマー2及び架橋剤の1種以上に由来する構造単位を含むポリマー樹脂とを含む。プロトタイプ1について、モノマー1は、式IV(式中、R5は、メチル基であり、nは、1であり、1つのHは、CH2のCに結合し、(CH2)m−CH2−OH部分は、ここではNに結合している別のメチル基で置き換えられている)に部分的に由来する。プロトタイプIは、表1に示すように、式IIIに由来する構造単位(構造2)をさらに含んでよい。プロトタイプ2について、構造単位(モノマー1)は、式IIに由来する。プロトタイプ3及びプロトタイプ4は、式Iに由来する構造単位(モノマー1)を含む。プロトタイプ4は、式Vに由来する構造単位(モノマー2)をさらに含む。N’,N”−メチレンビスアクリルアミドを、各プロトタイプについてビニル架橋剤として用いた。水及びメタノールを、プロトタイプ2、3及び4について溶媒として用いた。水だけをプロトタイプ1について溶媒として用いた(表1に示すように)。全てのプロトタイプについて、Irgacure2959を開始剤として用い、ポリマーを硬化するためにEビームを用いた。「メンブランプロトタイプ」は、「分離マトリックス」と互換的に用いている。
【0048】
【表1】

本発明による装置は、クロマトグラフィーチャンバ、モノリス、フィルター若しくはメンブラン、キャピラリー、マイクロフルイディックチップ、管状カラム、プリーツカートリッジ若しくはカプセル、カセット、らせん体、中空繊維、シリンジフィルター又はマニフォールドのような、分離において従来用いられる任意のその他の形状をとることができる。例えば、装置は、単層メンブラン又はフィルター装置を構成する複数層のメンブランのようなメンブラン状の構造を含み得る。
【0049】
一実施形態では、分離マトリックスは、使用前又は使用後に乾燥させることができる。乾燥した構造を液体に浸漬して、使用前にその元の形を再生することができる。
【0050】
ポリマー樹脂は、試料中に存在する1種以上の不要な化合物を保持できる。一実施形態では、1種以上の不要な化合物は、メンブラン上に、1種以上の不要な化合物がメンブランと結合することにより保持され得る。ポリマー樹脂は、試料中に存在する1種以上の不要な化合物と結合できる。試料は、抗体のような1種以上の目標化合物と、宿主細胞タンパク質、DNA、ウイルス、内毒素などのような1種以上の不要な化合物とを含むことがある。一実施形態では、ポリマー樹脂は、試料中の1種以上の不要な化合物を、結合により保持できる。不要な化合物は、ポリマー樹脂に、マルチモーダル相互作用によって結合することがある。非限定的な例としてのマルチモーダル相互作用は、イオン性相互作用、静電相互作用、疎水性相互作用、ファンデルワールス相互作用、水素結合相互作用又は双極子間相互作用であってよい。マルチモーダル相互作用は、水素結合相互作用、疎水性相互作用又はイオン性相互作用の2つ以上を含んでよい。一実施形態では、マルチモーダル相互作用は、水素結合相互作用及び疎水性相互作用を含むことがある。別の実施形態では、マルチモーダル相互作用は、水素結合相互作用及びイオン性相互作用を含むことがある。さらに別の実施形態では、マルチモーダル相互作用は、疎水性相互作用及びイオン性相互作用を含むことがある。
【0051】
いくつかの実施形態では、試料は、抗体を含有する生体試料であり、対象の分子とは別に1種以上の化合物を含んでよい。「対象の分子」又は「目標化合物」とは、本明細書で言及する場合、対象の分子とともに不要な化合物を含有する混合物から分離する必要がある分子である。例えば、対象の分子は、抗体と宿主細胞タンパク質とを含有する混合物から分離する必要がある抗体であり得る。対象の分子(目標化合物)は、それらに限定されないが、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、核酸(例えばDNA、RNA)、内毒素、ウイルス及び抗体を含み得る。いくつかの実施形態では、不要な化合物は、DNA、内毒素、ウイルス、タンパク質凝集体又は宿主細胞タンパク質であり得る。ポリマー樹脂のリガンドは、試料中に存在する対象の分子が、ポリマー樹脂と結合せず、マトリックスを通過するような様式で選択できる。対象の分子は、次いで、後続の下流の操作で通過画分からさらに処理できる。生体試料中に存在する1種以上の不要な化合物は、ポリマー樹脂と結合することがある。ポリマー樹脂は、試料中に存在する1種以上の不要な化合物と、特異的結合部位により又は1種以上の化合物上に存在する荷電部位(例えば負電荷)を用いる静電相互作用を介して相互作用することがある。いくらかの不要な化合物が樹脂と結合せず、マトリックスを通過して通過画分流中に入ることが可能である。よって、これらの不要な化合物を対象の分子から除去するために、さらなる精製が必要になることがある。このことは、高度精製工程をさらに改善するために異なるリガンド部分を含む異なるポリマー樹脂を有する別の構造により達成できる。ポリマー樹脂と結合した不要な化合物は、1種以上の疎水性部位を含むことがある。不要な化合物は、ポリマー樹脂中に存在する正荷電基と相互作用し得るアニオン荷電基を含むことがある。
【0052】
小規模精製のために、小面積の構成での言及した装置フォーマットのいずれも、高度精製単位操作として純度を改善するために用いることができる。不純物(又は不要な化合物)を抗体のような治療用又は診断用の生体分子から除去することによる高度精製の工程のために、小さい管状カラム又はシリンジフィルターが有用になり得る。1つ以上の入口及び出口をメンブラン装置に装着して、移動相の内向き流れ及び外向き流れを維持することができる。一実施形態では、装置は、単層又は多層フォーマットの分離マトリックスの形態であってよい。装置を、装置の入口に装着されたポンプ又は圧力容器と接続して、分離マトリックスを通して流速を維持できる。具体的な実施形態では、装置は、単層又は多層フォーマットの分離マトリックスであり、使用前に滅菌できる。
【0053】
装置は、いくつかの実施形態では、追加の分離メンブランをさらに含むことがある。追加のメンブランは、目標分子を、フロースルーモード操作で、生体試料からある化合物を選択的に除去することにより高度精製できるものであってよい。この追加の高度精製工程は、図1の伝統的なプロセスに示すように、中間精製操作の後に配置できる。いくつかの実施形態では、追加の高度精製工程は、宿主細胞タンパク質、DNA、内毒素、ウイルス及び/又は凝集抗体のような微量不純物を除去する能力を有する。図1は、ウィルス除去専用工程と組合せた高度精製工程の実施形態を組み込んだ圧縮プロセスを示す。
【0054】
ある実施形態では、装置は、分離マトリックスと隣接して配置されるウィルス除去メンブランを含み得る。このことは、高度精製メンブラン201及びウィルス除去メンブラン203として機能する分離マトリックスを示す図2に示す。いくつかの実施形態では、一連の分離マトリックス(高度精製用)及びウィルス除去メンブランが、装置中に存在し得る。
【0055】
図2は、装置中の流れ209の方向に対するメンブランの位置をさらに示す。多層の分離マトリックス205は、多層のウィルス除去メンブラン207と接触している。最後の高度精製メンブラン201の層と最初のウィルス除去メンブラン203の層との界面は、装置中の高度精製工程とウィルス除去工程との境界を構成する。
【0056】
一実施形態では、装置は、不純物を高度精製するための分離マトリックスと、ウイルスを除去するためのウィルス除去メンブランとをともに含み、該分離マトリックスは、ウィルス除去メンブランと並列している。一実施形態では、分離マトリックス(又は複数のマトリックス)は、ウィルス除去メンブランの上流で並列してよい。別の実施形態では、分離マトリックス(複数のマトリックス)は、ウィルス除去メンブランの下流で並列してよい。
【0057】
具体的な実施形態では、分離装置は、流速、時間、純度又は塩濃度の詳細を決定できる表示装置に接続できる。分離装置、より具体的にはポリマー樹脂を含有する多孔質担体は、ポリマー樹脂を含有する多孔質担体、コントローラ、コンピュータ、表示装置、液体(移動相)取扱システム、通過画分回収システムの1種以上を含む分離システムの一部であってよい。分離システムは、オペレータの介入あり又はなしでその機能の1種以上を行うように自動化されていてよい。
【0058】
いくつかの実施形態では、分離装置は、滅菌状態で提供され、単回使用の後に処分できる。単回使用メンブラン装置は、使い捨てのメンブラン装置と記載することがある。抗体のような治療用化合物の精製のために使い捨てのメンブラン装置を用いる利点は、2つの異なるプロセス間の相互汚染を回避することが可能になることである。メンブラン装置は、使い捨てのモノリス、使い捨ての管状カラム、使い捨てのプリーツカートリッジ、使い捨てのカプセル、使い捨てのカセット、使い捨てのスパイラルフィルター、使い捨ての中空繊維フィルター、使い捨てのシリンジフィルター又は使い捨てのマニフォールドの形態であり得る。
【0059】
いくつかの実施形態では、分離装置は、再利用可能であってよい。再利用可能な装置の場合では、マトリックスを通して移動相を通過させた後に、溶離液を用いてマトリックスを数回洗浄する。最後の溶離液の通過画分を試験して、溶離液中にタンパク質若しくはペプチド又はその他の化合物が存在しないことを確実にできる。マトリックスは、次いで、さらなる使用のために適切な緩衝液を用いて平衡化してよい。
【0060】
いくつかの実施形態では、装置を、使用前に適切な方法によりさらに滅菌する。滅菌処理は、オートクレーブ処理すること若しくは内部マトリックスを飽和蒸気に曝露することのような熱処理により、45kGry以下の十分な線量での放射線照射により、又は滅菌のための任意のその他の従来の方法を用いることにより行うことができる。
【0061】
一実施形態では、抗体含有生体試料から不要な化合物を分離するための装置を調製する方法が提供され、該方法は、装置中でウィルス除去メンブランと並列された分離マトリックスを用意する工程と、装置を適切な緩衝液で平衡化する工程とを含む。いくつかの実施形態では、本発明の分離マトリックスは、タンパク質精製のために用いることができる。タンパク質は、抗体、抗体断片、又は抗体を含む融合タンパク質であってよい。別の実施形態では、分離マトリックスは、任意のその他の化合物、例えばポリペプチド、オリゴヌクレオチド、核酸(例えばDNA、RNA)、プラスミド、ウイルス、プリオン、細胞(例えば原核又は真核細胞)、脂質、炭水化物、有機分子、目標薬物、又は診断用マーカー分子からなる群から選択されるものの分離のために用いることができる。当業者が気づくように、本出願では、分離との用語は、精製、単離、及び不要な化合物の除去について用いるが、これは、診断目的のための抗体のような目標化合物の同定も包含する。
【0062】
一実施形態では、分離マトリックスとウィルス除去メンブランとを含む装置に試料を加えることを含む、試料中に存在するその他の不要な化合物から抗体を分離する方法が提供される。試料は、分離マトリックスと接触し、分離マトリックスを通過し、その後、ウィルス除去メンブランと接触し、最後にウィルス除去メンブランを通過する。代替の実施形態では、分離マトリックスに先だって、試料をウィルス除去メンブランと接触させ、且つ通過させてよい。結合しなかった抗体を、装置から、フロースルーモード操作で回収できる。上記の実施形態で、重力場、ポンプ、圧力容器又はそれらの組合せの支援を用いて、試料を装置に通過させてよい。
【0063】
装置を通過する試料は、細胞抽出物から得られた上清であってよい。いくつかの実施形態では、試料を分離マトリックスと接触させる前に、1つ以上の予備精製工程を行ってよい。1つ以上の予備精製工程は、機械的濾過、遠心分離、超遠心分離、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー又は電気泳動を含み得る。
【0064】
抗体のような対象の化合物(目標化合物)は、生体試料の1種以上のその他の不要な化合物から、生体試料を含む移動相を上記の分離マトリックスと接触させることにより分離できる。具体的な実施形態では、本方法は、液体クロマトグラフィーの原理を用いて、すなわち移動相を、本発明による分離マトリックスを含む装置に通すことにより行うことができる。代替の実施形態では、本方法は、液体クロマトグラフィーの原理を用いて、すなわち移動相を、本発明による高度精製メンブランとウィルス除去メンブランとを含む装置に通すことにより行うことができる。
【0065】
本方法の一実施形態では、不要な化合物は、分離マトリックスに吸着されるが、抗体のような所望の化合物は、吸着されることなく移動相中に残る。別の実施形態では、凝集若しくはミスフォールドタンパク質又はペプチド或いはウイルスのような不要な化合物は、ウィルス除去メンブランに吸着されるが、抗体のような所望の化合物は、吸着されることなく移動相中に残る。当業者により理解されるように、吸着される化合物の性質及びアイデンティティーは、生体試料の起源に依存する。マトリックスに吸着される不要な化合物の非限定的な例は(所望の抗体が吸着されない場合)、細胞及び細胞細片、タンパク質(所望の抗体以外)及びペプチド、凝集形のタンパク質若しくはペプチド、DNA及びRNAのような核酸、内毒素、ウイルス、培養培地からの残渣などである。具体的な実施形態では、本発明の分離マトリックス若しくはウィルス除去メンブラン又はそれらの両方は、メンブラン装置にもたらされ、移動相は、装置を、重力及び/又はポンプの使用若しくは圧力により通過し、抗体が通過画分中で回収される。具体的な実施形態では、メンブラン装置は、クロマトグラフィー装置であってよい。
【0066】
一実施形態では、本方法は、フロースルーモード操作を用いる高度精製工程を構成する。具体的な実施形態では、生体試料は、粗製の供給原料であり、これは、本発明による高度精製メンブラン(分離マトリックス)及びウィルス除去メンブランと接触させる前に濾過される。その結果、この実施形態は、生体試料が機械的手段により予備精製されていても、高度精製工程を構成する。抗体を生成する宿主細胞は、宿主細胞タンパク質として一般的に知られるいくつかのその他のタンパク質も含むことがある。このような宿主細胞タンパク質は、酵素(例えばプロテアーゼ)及び宿主細胞により生成されるその他のタンパク質を含み得る。よって、一実施形態では、生体試料の宿主細胞タンパク質は、宿主細胞タンパク質を分離マトリックスに吸着させることによって、本発明の方法により実質的に除去される。
【0067】
代替の実施形態では、本方法は、中間精製又は高度精製工程のような清澄化プロトコールにおける第2、第3又は第4のクロマトグラフィー工程としてさえ用いることができる。よって、一実施形態では、移動相は、本分離マトリックスにアプライされた抗体含有生体試料を含む。
【0068】
本方法は、哺乳類宿主、例えばマウス、げっ歯類、霊長類及びヒトを起源とする抗体、若しくはハイブリドーマを起源とする抗体のような任意のモノクローナル又はポリクローナル抗体を分離するために有用である。一実施形態では、分離された抗体は、ヒト又はヒト化抗体から回収される。抗体は、任意のクラスのものであってよく、すなわち、IgA、IgD、IgE、IgG又はIgMからなる群から選択できる。一実施形態では、抗体は、プロテインAと結合できるか、又はFc含有抗体断片若しくは融合タンパク質である。具体的な実施形態では、抗体は、IgG1のような免疫グロブリンG(IgG)である。一実施形態では、本方法は、6〜9の範囲、特に7〜8の範囲内の等電点(pI)を有する抗体の精製に用いられる。具体的な実施形態では、精製された抗体のpIは、約9である。この関係で、用語「抗体」は、抗体断片及び抗体又は抗体断片を含む任意の融合タンパク質も含むことが理解される。よって、本発明は、上記の抗体のいずれか1つの断片及びこのような抗体を含む融合タンパク質の分離も包含する。一実施形態では、抗体は、モノクローナル抗体である。具体的な実施形態では、抗体は、ヒト化抗体である。
【0069】
本方法は、装置中の分離マトリックスからの抗体生成物のいずれの溶出も要求しないことがある。特定の溶出工程を回避することは、プロセスの観点から魅力的である。なぜなら、より少ない数の工程は、より迅速な精製プロトコールをもたらし、その結果、プロセスの経費を低減するからである。さらに、抗体は、それらのフォールディングパターンを損ない得るか又はペプチド結合を切断することによりそれらを分解し得るある条件に対して感受性である。よって、全般的にアニオン交換のための溶出条件はいずれの極端な化学物質も含まないが、塩及び/又はpHの変化は、感受性が高い抗体に影響することがあり、その影響は、pI、電荷分布などに依存して種ごとに変動する。さらに、いくつかの実施形態では、本方法は、溶離液を加え、所望の化合物に対して溶出条件を用いることを回避する。化合物の吸着のための最も適切な条件を得るために、生体試料は、適切な緩衝液又はその他の液体と組合せて、移動相とすることができる。
【0070】
本発明の方法を、アニオン交換クロマトグラフィーのための従来の条件下で採用することも可能であり、これは、一般的に、比較的低い塩濃度での吸着を含む。よって、本方法の一実施形態では、移動相の導電率は、1〜25mS/cmの範囲にある。いくつかの実施形態では、移動相の導電率は、7〜15mS/cmの範囲にある。移動相のpHは、約5〜8であってよい。例えば分離マトリックスを再利用するために、吸着した化合物を後で遊離させることが望ましい場合、溶出は、より高い塩濃度で行ってよい(例えば漸増塩勾配を用いることにより)。pHの値も又は代わりに、例えば漸減pH勾配でシフトさせて、吸着された化合物を溶出してよい。
【0071】
方法は、pH及び/又は導電率を制御することにより有利に、特定の化合物を吸着するように適合できる。例えば、抗体の分離で、異なるクラスの抗体は、異なる電荷及び電荷分布パターンを有する。電荷分布パターンと分離の目的との組合せによって、抗体が吸着されることがより好ましいか、又は吸着されることなく装置を通過させるかが決定される。
【0072】
不要なその他の化合物から分離されることが必要な抗体は、表面で培養された細胞のような任意の公知の供給源、或いは発酵タンク若しくは容器内の回分又は連続細胞培養を起源とすることができる。抗体を含有する試料は、液体、懸濁物又は半固体であってよい。具体的な実施形態では、試料は、液体試料である。試料は、粗細胞抽出物を含むか、又は部分的に精製された細胞抽出物であってよい。試料は、患者の体から回収されてよい。一実施形態では、生体試料は、細胞発酵から得られた上清であってよい。
【実施例】
【0073】
実施例1.構造単位に由来するモノマーの合成
別途記載しない限り、化学物質は、Aldrich社(米国)から購入し、受領したまま用いた。溶媒は、Fisher社(米国)から得た。
【0074】
ビニルベンジルモノマーの合成:塩化ビニルベンジルに由来する第4級アンモニウム塩モノマーを作製するための全般的な合成アプローチを、本明細書に記載する。塩化ビニルベンジルを、第3級アミンと、ジクロロメタン又はメタノールを溶媒として用いて反応させた。反応時間は、嵩高い基を含む第3級アミン(例えばピペリジンエタノール及びN−ベンジル−N−メチル−エタノールアミン)について、室温にて3〜24時間又は65℃にて3.5〜6時間の範囲であった。反応の完了は、反応生成物についての1H NMR分析により決定した。最終生成物を直接用いたか、又は溶媒蒸発により単離して、さらなる精製を行わずに用いた。反応生成物は、典型的に、95%収率で単離され、1H NMR分析により査定して95%を超える純度であった。
【0075】
1−(2−ヒドロキシエチル)−1−(4−ビニルベンジル)ピペリジニウムクロリド又はビニルベンジル[ピペリジン−エタノール]アンモニウムクロリドの合成:塩化ビニルベンジルを、塩基性アルミナを通して濾過し、濾過の直後に用いた。250ml丸底フラスコに、24.83gの塩化ビニルベンジル(162mmol)及び50mlのジクロロメタン(DCM)を加え、その後、20.99g(162mmol)の2−ピペリジンエタノールを加えた。反応混合物を3.5時間、65℃にて撹拌した。溶媒を真空の下で蒸発させ、さらなる精製を行わずに生成物を用いた。生成物は、1H−NMRにより査定して>95%の純度であった。
【0076】
N−ベンジル−2−ヒドロキシ−N−メチル−N−(4−ビニルベンジル)エタンアンモニウムクロリド又はビニルベンジル[N−ベンジル−N−ヒドロキシエチル−N−メチル]アンモニウムクロリドの合成:塩化ビニルベンジルを、塩基性アルミナを通して濾過し、濾過の直後に用いた。250mlの丸底フラスコに、34.0gの塩化ビニルベンジル(220mmol)及び60mlのジクロロメタン(DCM)を加え、その後、36.8g(220mmol)のN−ベンジル−N−ヒドロキシエチル−N−メチルアミンを加えた。反応混合物を、3.5時間、65℃にて撹拌した。溶媒を真空の下で蒸発させ、さらなる精製を行わずに生成物を用いた。生成物は、1H−NMRにより査定して>95%の純度であった。
【0077】
N−ベンジル−2−ヒドロキシ−N−メチル−N−(4−ビニルベンジル)エタンアンモニウムクロリド又はビニルベンジル[N−ベンジル−N−ヒドロキシエチル−N−メチル]アンモニウムクロリドの合成:1Lのフラスコに、101gの塩化ビニルベンジル(661mmol)及び109.3g(661mmol)のN−ベンジル−N−ヒドロキシエチル−N−メチルアミンを加え、その後、60mlのメタノールを加えた。反応混合物を5.5時間、65℃にて撹拌した。さらなる精製を行わずに反応混合物を用いた。生成物は、1H−NMRにより査定して>95%の純度であった。
【0078】
N−ベンジル−N,N−ジアリル−N−メチルアンモニウムクロリドの合成:500mLの1つの丸底フラスコに、36.2g(0.288mol)の塩化ベンジル、16.0gのジアリルメチルアミン(0.144mol)及び140gのアセトニトリルをチャージした。溶液を2日間還流した。溶液を濃縮し、生成物をジエチルエーテル中で沈殿させた。粗製の粘性の油を水(40mL)に溶解し、ジエチルエーテルで3回洗浄した(3×100mL)。水性相を回収し、溶媒を蒸発させ、得られた油を真空の下で50℃にて乾燥させた。30.0g(88%)の粘性の油が、プロセスの後に得られた。1H−NMR(400MHz、CDCl3/CD3OD)は、7.60−7.10ppm(m,5H)、6.05−5.75ppm(m,2H)、5.70−5.40ppm(m,4H)、4.76ppm(s,2H)、4.20−3.80ppm(m,4H)、及び2.94ppm(s,3H)にピークを示す。
【0079】
実施例2.メンブランの組み立て及びeビーム硬化方法
メンブラン組み立て材料:別途記載しない限り、化学物質は、Aldrich社(米国)から購入した。Irgacure2959は、CIBAから得た。ポリエーテルスルホン(PES)メンブランは、GE Water(5ミクロン孔径、150ミクロン厚さ)から得た。PEシート(バッグ)は、Fisher社(米国)(cat#19075388A)から得た。
【0080】
メンブラン上のコーティングを作製するために用いた溶液は、本明細書でコーティング溶液と記載する。メンブランをコーティング溶液に1分間、又はいくつかの実施例では20分間浸漬した。過剰のコーティング溶液を、メンブランを2枚のポリエチレン(PE)シートの間に置き、シリコーンの刃で過剰の溶液を搾り出し、その後、約45〜70分間風乾することにより除去した。メンブランをフレーム上に載せ、eビームチャンバ中に置いた。N2を、チャンバを通じて2分間パージし、メンブランを、50フィート毎分の速度で電子ビームに曝露した。O2レベルが150ppm(±5)に到達したときに、40KGyの線量が送達された。メンブランを裏返し、メンブランの他方の面について曝露手順を反復した(ベンチトップ電子ビームユニット、EB Lab−150、約40平方cmチャンバ、AEB、Wilmington、MA)。
【0081】
一例では(プロトタイプ1)、ポリエーテルスルホンメンブラン(5ミクロン、GE Waterから)を、10gのビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド(0.047mol)、8gのジアリルジメチルアンモニウムクロリド(0.050mol)、3gのメチレンビスアクリルアミド(0.020mol)及び1.0gのIrgacure2959(0.0045mol)を200mlの水の中に含む水性調合物(コーティング溶液)で被覆した。メンブランを、コーティング溶液に20分間浸した。メンブランを、次いで、溶液から取り出し、2枚のポリエステルシートの間で穏やかに搾って空気の泡を除去した。コーティング溶液を、メンブランを通して流し、過剰の溶液をメンブランから除去した。メンブランを、その後、60分間吊るして風乾した後に、両面をeビーム照射(40KGray)に曝露した(150ppm酸素)。
【0082】
別の例では(プロトタイプ2)、ポリエーテルスルホンメンブラン(5ミクロン、GE Waterから)を、26.5gのビニルベンジル[ピペリジンエタノール]アンモニウムクロリド(0.094mol)、1.5gのメチレンビスアクリルアミド(0.010mol)及び0.88gのIrgacure2959(0.004mol)を117mlの水とメタノールとの混液(35:65)中に含む(15wt%モノマー)調合物(コーティング溶液)で被覆した。メンブランを、コーティング溶液に20分間浸した。メンブランを、次いで、溶液から取り出し、2枚のポリエステルシートの間で穏やかに搾って空気の泡を除去した。コーティング溶液を、メンブランを通して流し、過剰の溶液を除去した。メンブランを、その後、45〜60分間吊るして風乾した後に、両面をeビーム照射(40KGray)に曝露した(150ppm酸素)。
【0083】
別の例では(プロトタイプ3)、ポリエーテルスルホンメンブラン(5ミクロン、GE Waterから)を、27.66gのビニルベンジル(N−ベンジル−N−ヒドロキシエチル−N−メチル)アンモニウムクロリド(0.087mol)、1.85gのメチレンビスアクリルアミド(0.010mol)及び0.88gのIrgacure2959(0.004mol)を218mlの水とメタノールとの混液(35:65)中に含む(13wt%モノマー)コーティング溶液で被覆した。メンブランコーティング溶液を、水とメタノールとの混液(35:65)で希釈した(8.5wt%モノマー)。メンブランを、希釈コーティング溶液に20分間浸した。メンブランを、次いで、溶液から取り出し、2枚のポリエステルシートの間で穏やかに搾って空気の泡を除去した。コーティング溶液を、メンブランを通して流し、過剰の溶液を除去した。メンブランを、その後、45〜60分間吊るして風乾した後に、両面をeビーム照射(40KGray)に曝露した(150ppm酸素)。
【0084】
さらに別の例では(プロトタイプ4)、ポリエーテルスルホンメンブラン(5ミクロン、GE Waterから)を、30.0gのビニルベンジル(N−ベンジル−N−ヒドロキシエチル−N−メチル)アンモニウムクロリド(0.09mol)、2.727gのN−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド(0.027M、水中の48wt%溶液として、5.687gの溶液)、4.1487gのメチレンビスアクリルアミド(0.0269mol)及び2.0gのIrgacure2959(0.009mol)を、215mlの水と209mlのメタノールとの混液中に含有する水性/メタノール調合物(約50/50水:メタノール中に7.66wt%モノマー)で被覆した。メンブランを、コーティング溶液に1分間浸し、溶液を除去し、2枚のポリエステルシートの間で穏やかに搾って空気の泡を除去した。コーティング溶液を、次いで、メンブランを通して流し、過剰の溶液を除去した。メンブランを、その後、2分間水平にして風乾し、次いで、ポリエステルシート上で58分間乾燥させた後に、両面をeビーム照射(40KGray)に曝露した(150ppm酸素)。
【0085】
実施例3.メンブラン流量及び透過性
単層のメンブランのメンブラン流量及び透過性を、2種の緩衝液及び脱イオン(DI)水を用いて決定した。100mM NaClを含む10mlのTris緩衝液(25mM)が単層のメンブランを通って流れるのに要求される時間を、ある設定した圧力レベルにて決定した。単層のメンブランを、25mmガラスフィルターホルダ(Millipore)に保持し、真空を、典型的に、27”Hg又は5”mmのHgに設定した。時間は、pH6.5での70mMリン酸緩衝液及びDI水についても測定した。ニードルゲージを用いて、真空を調節した(ガラスフィルターホルダ、ステンレス鋼担体を有する25mm、Millipore Corp XX10 025 30、ニードルゲージ、Cole−Parmer Instrument Corp、K−06393−61、真空ゲージ、Ashcroft Corp、238A 460−02)。
【0086】
実施例4.BSAアッセイ方法
全ての緩衝液は、室温にて貯蔵した。緩衝液を、真空の下で5分以上、連続的に混合しながら脱気した。
【0087】
高導電率緩衝液Aは、100mMのNaClを有する25mM Tris緩衝液、pH8.0である。緩衝液は、25mlの1M Tris、15mlの5M塩化ナトリウム、及び水(1Lの最終体積まで)を含む。緩衝液を濾過し、脱気し、使用前に導電率を測定した。この緩衝液Aの導電率は、12〜13mS/cmと記録された。低導電率緩衝液Aは、15mMのNaClを含有するTris緩衝液、25mM Tris、pH8.0である。緩衝液は、25mlの1M Tris、pH8.0、3mlの5M塩化ナトリウム、及び水(1Lの最終体積まで)を含む。緩衝液を濾過し、脱気し、使用前に導電率を測定した。この緩衝液Aの導電率は、3.1〜3.2mS/cmと記録された。
【0088】
緩衝液Bは、ストリップ緩衝液である(100mMリン酸ナトリウム、pH3.0)。緩衝液Bは、0.698mlのリン酸、12.371gのNaH2PO4、及び水(1Lの最終体積まで)を含む。緩衝液を濾過し、使用前に脱気した。緩衝液Bの導電率は、7〜8mS/cmと記録された。
【0089】
リン酸緩衝液のストック溶液は、次のようにして調製した:0.5Mのリン酸一ナトリウム(FW=119.96)の溶液を、59.98gのリン酸一ナトリウムを1Lの最終体積の水に溶解することにより作製した。0.5Mのリン酸二ナトリウム(FW=141.96)の溶液を、70.98gのリン酸二ナトリウムを1Lの最終体積の水に溶解することにより調製した。0.5Mのリン酸ナトリウム緩衝液のストックを、0.5Mリン酸一ナトリウムと0.5Mリン酸二ナトリウムとを、撹拌し、且つ所望のpHに到達するまで監視しながら混合することにより調製した。ストック緩衝液を、適当であれば所望の濃度に到達するまで希釈し、塩を、必要に応じて所望の導電率に到達するまで加えた。リン酸ナトリウム緩衝液pH6.5は、100mlの0.5Mリン酸ナトリウム緩衝液、pH6.5と、水中の7mlの5M NaClとを、1Lの最終体積まで混合することにより作製した、35mMのNaClを含有する50mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH6.5である。緩衝液を濾過し、脱気し、使用前に導電率を測定した。緩衝液の導電率は、約8mS/cmと記録された。リン酸ナトリウム、pH7.4は、100mlのリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.4と、水中の2mlの5M NaClとを、1Lの最終体積まで混合することにより作製した、10mMのNaClを含有する50mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.4である。緩衝液を濾過し、脱気し、使用前に導電率を測定した。緩衝液の導電率は、約7.2mS/cmと記録された。
【0090】
0.5N NaOH溶液を、40mlの水酸化ナトリウムの濃縮ストック(12.5N)を960mlの水に加えることにより作製した。溶液を濾過し、使用前に脱気した。
【0091】
BSAのストックを、所望の緩衝液A中で、約6mg/mlの濃度にて調製した。ストックを濾過し、脱気し、分光光度計を用いて280nmにて吸光度を決定して、濾過後の実際のタンパク質濃度を確認した。この濃縮ストックを、暗所で4℃にて貯蔵した。濃縮ストックを、同じ緩衝液Aで希釈して、0.025mg/ml〜1.0mg/mlの範囲の作業濃度を達成した。希釈した作業溶液を、暗所で4℃にて貯蔵した。溶液を室温まで温め(暗所で)、濃度を、使用前に分光光度計を用いて測定した。
【0092】
BSAを用いるクロマトグラフィーアッセイは、次のようにして行った。クロマトグラフィー装置を、15mlの緩衝液Aで平衡化した。10mlのBSA溶液(0.025mg/ml〜1mg/ml濃度)を装置に注入した。15mlの緩衝液Aを装置に通し、未結合の試料を洗い流した後に、100%緩衝液B(15ml)を通した。装置を、10mlの0.5N NaOHでさらに洗浄し、最後に、15mlの緩衝液Aで再平衡化した。クロマトグラフィー装置中に存在するマトリックスの結合容量は、Akta Explorer装置(GE Healthcare)を用いて、10%破過で(QB10値ともいう)280nmにて決定した(Bo-Lennart Johansson et al. J. Chromatogr. A 1016 (2003) 21-33)。
【0093】
【表2】

表2は、本発明のマトリックスを用いることによる、BSAのより良好な結合容量を示す。セット5では、商業的に入手可能な第4級アンモニウム吸着材メンブラン(Sartoriusにより製造されるQ吸着材メンブラン)を用いた。表2に示すように、セット2、3及び4は、pH7.5のリン酸緩衝液中で、Sartoriusにより製造される商業的なQ吸着材メンブラン(セット5)よりも良好な結合容量を示す。これらの結果から、タンパク質と7〜8mS/cmにて結合するリガンドの有効性が確認される。セット2及び3は、pH6.5のリン酸緩衝液中で、商業的なQ吸着材(セット5)よりも良好な結合容量を示す。この結果から、7〜8mS/cmでのリガンドタンパク質相互作用の有効性が確認される。同様に、セット4でのイオン強度、導電率及びpHの変動のような3つの異なる条件のセットでの結合容量は、期待されたマルチモーダル効果を示す。ビニルベンジルトリメチルQ(セット1で用いるような)は、異なるイオン強度、異なる導電率及び異なるpHにて、セット5と同様である。セット4で見られるようなマルチモーダル効果を観察するために、フェニル部分が、結合分子のための部位に向かって突出し得る。他の場合では、フェニル部分が結合部位に向かって突出していないならば、挙動は、セット5に記載される従来の第4級アンモニウムメンブラン吸着材のものと同様であり得る。
【0094】
実施例5.宿主細胞タンパク質(HCP)除去
HCPの除去は、7mS/cmにて、表3に示すような比較的低いリガンド密度であっても、商業的なQ吸着材メンブラン(セット6)よりも、本発明のマトリックス(セット7)についてより良好である。
【0095】
【表3】

実施例6.凝集抗体(mAb)の除去
mAb供給原料(mAb濃度=6.4mg/ml)は、およそ2%のmAb凝集体を、プロテインAクロマトグラフィーによる精製の後であるが高度精製の前に含有していた。セット8で用いたメンブランを用いるフロースルー(FT)モードでの高度精製(保持時間=5秒)の後に(流速1.3ml/分)、mAb供給原料中のHCP含量は、30.9E3ng/mlから9.0E3ng/ml(表4に示すように)メンブランまで(FT中に29%)低下し、1.70%mAb凝集体であった。これと比較して、セット9で用いたメンブラン、すなわち商業的なQ吸着材メンブランを用いるフロースルーモードでの精製の後に(1.65ml/分流速)、HCP含量は、30.9E3ng/mlから8.8E3ng/mlメンブランまで(FT中に28%)低下し、2%mAb凝集体であった。これらの条件の下で(1000mg mAb/mlメンブランのmAb投入量、Tris pH7.5、7mS/cm)、両方のメンブランは、ELISAアッセイにより査定して同じ量のHCPを除去したが、マルチモーダル吸着材メンブラン(セット8に示すように)は、mAb凝集体を、サイズ排除クロマトグラフィーにより査定されるように、およそ15%驚くほど減少させるが、商業的なQ吸着材(セット9のように)は、mAb凝集体レベルに対して影響しない。
【0096】
【表4】

実施例7.ウイルスフィルターと組合せた吸着材メンブラン
本明細書で「高度精製メンブラン」というマルチモーダルメンブラン吸着材の高度精製の有効性を証明するために、高度精製フィルターの使用あり(図2に示すように)及びなしで、商業的なウイルス濾過メンブランの容量(L/m2でのVmax)を決定した(Millipore Viresolve NFP)。ポリクローナルIgG(Baxter:PBS緩衝液pH7.4、155mM NaCl中に5mg/ml)を装置に通過させて、ウイルスフィルター容量Vmax(L/m2)を、漸進的細孔閉塞モデルを用いて決定した(参照Jonathan T. Royce, Practical Application of the Cake-Complete, Pore-Plugging Model for Sizing Normal Flow Filters PDA J Pharm Sci Technol September 2009 63:462-471)。
【0097】
2つの実験を行った(表5)、実験1は、高度精製メンブランなしでの通常流れパルボウイルス(NFP)だけについてであり、実験2は、約24μmolのリガンド密度(約22mmの直径、及び約0.162mlのメンブラン体積)を有する本発明のマルチモーダルマトリックスに基づくプロトタイプ装置(表2のセット4と同様)とともに、高度精製モード操作で用いるNFPであった。マルチモーダル高度精製メンブランを用いるNFPメンブランのVmax容量(実験2)を、同一条件下で対照(実験1)のものと比較した。マルチモーダル高度精製メンブランは、NFPの容量(Vmax)の約23倍の増加を示した。高度精製メンブランが、ウィルス除去メンブランの上流に並列される(図2に示すように)構成で、容量の増進が観察される。よって、上記の実験は、本発明の高度精製メンブランの使用が、ウィルス除去メンブランに入るポリクローナル供給原料の凝集体含量を有効に低減できることを明確に示す。この実施例は、高度精製及びウィルス除去の両方の単位操作を、図2に示すように単一の単位操作に組合せることができることをさらに証明する。
【0098】
図3は、高度精製メンブランを用いないウィルス除去メンブランの容量と比較した、高度精製メンブランを用いながらのウィルス除去メンブランの容量の増加を示す。図3に示すように、高度精製メンブランを組み込まないウイルスフィルターの典型的な容量(210)は、22リットル/平方メートル(L/m2)であり、ウイルスメンブランフィルターの上流に並列された高度精製メンブランを有するウイルスメンブランの容量(212)の増加は、503L/m2である。
【0099】
この結果により、単一の単位操作を効率的に提供する、高度精製メンブランがウィルス除去フィルターの上流に並列されたプロセスを有することの利点が確認される。
【0100】
【表5】

本発明のある特徴だけを本明細書で説明して記載したが、多くの改変及び変更が、当業者により見出される。よって、添付の特許請求の範囲は、本発明の範囲内にある全てのそのような改変及び変更をカバーすることを意図することが理解される。
【符号の説明】
【0101】
201 高度精製メンブラン
203 ウィルス除去メンブラン
205 多層の分離マトリックス
207 多層のウィルス除去メンブラン
209 装置中の流れ
210 高度精製メンブランを組み込まないウイルスフィルターの典型的な容量
212 ウイルスメンブランフィルターの上流に並列された高度精製メンブランを有するウイルスメンブランの容量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体含有生体試料から1種以上の不要な化合物を分離するための装置であって、
多孔質担体と、
多孔質担体の細孔内に配置されたポリマー樹脂であって、
ビニル架橋剤、並びに
第4級アンモニウム基及び2つ以上の環構造を含む芳香族モノマー
に由来する構造単位を含むポリマー樹脂と
を含む装置。
【請求項2】
前記芳香族モノマーが、式I、式II、式III又はそれらの組合せに由来する構造単位を有し、前記ポリマー樹脂が、生体試料中に存在する1種以上の不要な化合物を、マルチモーダル相互作用によって選択的に保持できる、請求項1記載の装置。
【化1】

式中、R1及びR2は独立に水素、C1〜C20アルキル、C1〜C20置換アルキル、アリール、置換アリール又はそれらの組合せであり、m及びnは独立に1〜5の整数であり、
3及びR4は独立に水素、C1〜C20アルキル、C1〜C20置換アルキル、ベンジル又はそれらの組合せである。
【請求項3】
3が式IVに由来する構造単位を含む、請求項2記載の装置。
【化2】

式中、R5及びR6は独立に水素、C1〜C20アルキル、C1〜C20置換アルキル、アリール、置換アリール又はそれらの組合せであり、m及びnは独立に1〜5の整数である。
【請求項4】
前記ポリマー樹脂が、式Vに由来する構造単位をさらに含む、請求項2記載の装置。
【化3】

式中、Zは、NH又はOであり、
7は、水素若しくはメチル、C1〜C5アルキル、置換アルキル又はそれらの組合せであり、
nは1〜5の整数である。
【請求項5】
前記ビニル架橋剤が、N’,N”−メチレンビスアクリルアミドを含む、請求項2記載の装置。
【請求項6】
前記マルチモーダル相互作用が、水素結合相互作用、イオン性相互作用、静電相互作用、疎水性相互作用、ファンデルワールス相互作用又は双極子間相互作用の2以上を含む、請求項2記載の装置。
【請求項7】
前記多孔質担体が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、延伸ポリテトラフルオロエチレン(e−PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフェニレンオキシド、ポリカーボネート、ポリエステル、セルロース又はセルロース誘導体から選択される、請求項2記載の装置。
【請求項8】
前記多孔質担体が約0.1μm〜約10μmの範囲の細孔径を有する、請求項2記載の装置。
【請求項9】
前記多孔質担体が約2μm〜約5μmの範囲の細孔径を有する、請求項2記載の装置。
【請求項10】
前記多孔質担体が、メンブラン、ウェブ、フィルター、繊維又はメッシュである、請求項2記載の装置。
【請求項11】
前記不要な化合物が、凝集タンパク質若しくはペプチド、ミスフォールドタンパク質若しくはペプチド、宿主細胞タンパク質、核酸、内毒素又はそれらの組合せを含む、請求項2記載の装置。
【請求項12】
前記凝集タンパク質が凝集抗体を含む、請求項11記載の装置。
【請求項13】
前記多孔質担体の上流又は下流に配置された、ウィルスを除去することができるウィルス除去メンブランをさらに備える、請求項2記載の装置。
【請求項14】
前記ウィルス除去メンブランが、前記多孔質担体の下流に配置され、当該装置が、同等の自立型ウィルス除去メンブランと比較してウィルス除去メンブランの容量を10L/m2以上改善できる、請求項13記載の装置。
【請求項15】
前記ポリマー樹脂が、式Vに由来する構造単位をさらに含む、請求項14記載の装置。
【化4】

式中、Zは、NH又はOであり、
7は、水素若しくはメチル、C1〜C5アルキル、置換アルキル又はそれらの組合せであり、
nは1〜5の整数である。
【請求項16】
クロマトグラフィーチャンバ、管状カラム、カートリッジ、シリンジフィルター、マニフォールド、マルチウェルプレート、モノリス、フィルター、メンブラン、キャピラリー、マイクロフルイディックチップ、プリーツカートリッジ若しくはカプセル、カセット、スパイラルフィルター又は中空繊維の形態である、請求項2記載の装置。
【請求項17】
滅菌可能である、請求項16記載の装置。
【請求項18】
1種以上の不要な化合物と抗体とを含む抗体含有生体試料中に存在する抗体から1種以上の不要な化合物を分離する方法であって、
生体試料を請求項2記載の装置に、試料がポリマー樹脂と接触するように添加する工程と、
生体試料中に存在する1種以上の化合物を、マルチモーダル相互作用によって保持する工程と、
未結合の抗体を含む通過画分流出液を回収する工程と
を含む方法。
【請求項19】
1種以上の不要な化合物が、凝集タンパク質若しくはペプチド、ミスフォールドタンパク質若しくはペプチド、核酸、内毒素又はそれらの組合せを含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
生体試料を、メンブラン装置に、重力流れ、ポンプ、圧力容器又はそれらの組合せにより通過させる、請求項18記載の方法。
【請求項21】
前記接触工程に先だって、生体試料の機械的濾過、遠心分離又はクロマトグラフィー分離を含む1以上の分離工程を含む、請求項18記載の方法。
【請求項22】
抗体含有生体試料から1種以上の不要な化合物を分離する方法であって、
生体試料を請求項13記載の装置に、試料がポリマー樹脂及びウィルス除去メンブランと接触するように添加する工程と、
生体試料中に存在する1種以上の化合物を、マルチモーダル相互作用によってポリマー樹脂上に保持する工程と、
試料中に存在するウイルスを、ウィルス除去メンブランによって除去する工程と、
未結合の抗体を含む通過画分流出液を回収する工程と
を含む方法。
【請求項23】
1種以上の不要な化合物が、凝集タンパク質若しくはペプチド、ミスフォールドタンパク質若しくはペプチド、宿主細胞タンパク質、核酸、内毒素又はそれらの組合せを含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
生体試料を、メンブラン装置に、重力流れ、ポンプ、圧力容器又はそれらの組合せにより通過させる、請求項22記載の方法。
【請求項25】
前記接触工程に先だって、生体試料の機械的濾過、遠心分離又はクロマトグラフィー分離を含む1以上の分離工程を含む、請求項22記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−513623(P2013−513623A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543340(P2012−543340)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【国際出願番号】PCT/US2010/060176
【国際公開番号】WO2011/081898
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】