説明

抗体結合体の使用

本明細書において、対象の癌細胞における増殖停止またはアポトーシスを誘導する方法を提供する。対象において癌細胞の転移を阻害または治療する方法をさらに提供する。これらの方法は、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体の結合特異性を有する抗体、その変種またはその機能的断片と、生物活性分子とを含む抗体結合体を対象に投与する段階を含む。抗体(例えば、mAb 3E10)、その変種またはその機能的断片は、哺乳動物細胞の核への結合体のインビボ伝達を提供し、結合している生物活性分子は、そこでその効果を発揮し得る。特定の態様において、抗体複合物は、p53に結合している、ATCC PTA 2439によって産生されるmAb 3E10の結合特異性を有する抗体の一本鎖Fv断片を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、全体として、癌の治療に関し、より具体的には生物活性化合物を癌細胞に送達するための抗体結合体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多くの癌細胞におけるp53などの細胞タンパク質の欠失または欠陥は、遺伝子療法またはタンパク質療法により置き換えが可能である。遺伝子療法は、外因的に提供されたDNAにコードされる情報を用いて細胞がタンパク質を合成する能力に依存する。数多くのウイルスおよび非ウイルスDNA送達ベクターが調べられており、p53遺伝子療法は、インビトロおよびインビボの両方で様々な程度の成功を収めている。現段階で遺伝子療法を制限する主な要因には、潜在的なベクターの毒性と免疫原性とに対する懸念、細胞に対する遺伝子送達の不十分な効率、ならびに限定的な発現をもたらす導入遺伝子の相対的不安定性が含まれる。遺伝子療法に代わる有望な方法として、タンパク質療法には、細胞へのタンパク質の直接的送達が含まれる。
【0003】
タンパク質療法は、疾患過程を治療または改変するための、細胞および組織への治療用タンパク質の直接的送達と定義される。したがって、タンパク質療法では、外因性遺伝子の発現、および新規タンパク質の合成、およびウイルスベクターの必要性といった遺伝子療法の特定の障害が回避される。しかし、タンパク質療法は、大部分のタンパク質およびペプチドを排除する細胞膜のリン脂質二重層などの特定の技術的障害に直面する。しかし、新規のタンパク質伝達ドメイン(PTD)が形質膜を通過し得ることが示されている。そのようなPTDとは、見かけ上は受容体非依存的様式で、細胞にカーゴタンパク質を輸送する、ペプチド、タンパク質、またはタンパク質の断片である。当技術分野で記載されるPTDには、HIV Tatペプチド、ポリアルギニンペプチド、および抗DNA自己抗体モノクローナル抗体(mAb 3E10)が含まれる。
【0004】
タンパク質p53は、ゲノムの守護者と称される場合も多く、腫瘍抑制において重要な役割を担っている。p53の欠陥は、ヒト癌の>50%と関連しており、多くの研究により、p53欠損癌細胞にp53機能を回復させることで、増殖停止およびアポトーシスが誘導されることが示されている。p53機能を回復させる目的で癌細胞にp53およびp53ペプチドを送達するために、様々な送達ビヒクルが用いられてきた。これらには、単純ヘルペスウイルス1型タンパク質であるVP 22、およびアンテナペディア(Antennapedia)ホメオドメインの第3αヘリックスが含まれる。これらのベクターの潜在的な欠点は、それらが、ヒトにおいて免疫原性となる恐れのある外来タンパク質であることである。インビボにおいて腫瘍細胞にp53活性を安全にかつ効率的に回復させる方法を開発することが、癌研究の重要目標となっている。
【0005】
機能的なp53またはp53ペプチドは、HIV Tatペプチド、ポリアルギニンペプチド、およびmAb 3E10の一本鎖FvなどのPTDを用いて、インビトロにおいて癌細胞に送達されている。しかしながら、インビボにおける全長p53タンパク質療法の成功は報告されていない。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、抗体結合体Fv-p53が癌細胞を選択的に死滅させるという発見に基づいている。さらに、Fv-p53は、p53の欠如、p53における変異、p53についての核排除、およびMDM2の過剰発現を含むp53の種々の欠陥を伴う癌細胞において、細胞死を効率的に誘導する。本明細書において提供されるように、本発明の方法を評価し、本方法は、肝臓への結腸癌細胞の転移を防ぐ上で効果的であることが判明した。
【0007】
本発明の1つの態様により、対象の癌細胞における増殖停止またはアポトーシスを誘導する方法を提供する。本方法は、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体の結合特異性を有する抗体、その変種またはその機能的断片と、増殖停止またはアポトーシスを誘導可能である生物活性分子とを含む抗体結合体を、対象に投与する段階を含む。特定の理論に縛られることはないが、抗体結合体は、癌細胞に輸送され、それによって該癌細胞における増殖停止またはアポトーシスを誘導する。1つの態様において、抗体は、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体mAb 3E10、またはその機能的断片もしくは変種、あるいはmAb 3E10の特異性を有する抗体である。1つの態様において、機能的断片は、scFvまたはFab断片である。さらなる態様において、生物活性分子は、p53タンパク質、p53ペプチド、もしくはその断片、または全長p53タンパク質である。他の態様において、p53タンパク質またはペプチドはヒトp53配列に由来する。特定の態様において、癌細胞は、p53を欠損しているかまたはp53に欠陥がある。
【0008】
本発明の別の態様により、対象において転移を阻害または治療する方法を提供する。本方法は、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体の結合特異性を有する抗体、その変種またはその機能的断片と、転移を阻害可能または治療可能である生物活性分子とを含む抗体結合体を、対象に投与する段階を含む。1つの態様において、抗体は、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体mAb 3E10、またはその機能的断片もしくは変種である。別の態様において、機能的断片はscFv断片である。さらなる態様において、生物活性分子は、p53タンパク質、p53ペプチド、またはその断片、好ましくは全長p53タンパク質である。他の態様において、p53タンパク質またはペプチドはヒトp53配列に由来する。特定の態様において、癌細胞は、p53を欠損しているかまたはp53に欠陥がある。
【0009】
本発明の別の態様により、対象のp53欠損癌細胞またはp53欠陥癌細胞においてp53機能を回復させる方法を提供する。本方法は、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体の結合特異性を有する抗体、その変種またはその機能的断片と、p53機能を回復させ得る生物活性分子とを含む抗体結合体を対象に投与する段階を含む。1つの態様において、抗体は、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体mAb 3E10、またはその機能的断片もしくは変種である。別の態様において、機能的断片はscFv断片である。さらなる態様において、生物活性分子は、p53タンパク質、p53ペプチド、またはその断片、好ましくは全長p53タンパク質である。1つの態様において、p53タンパク質またはペプチドはヒトp53配列に由来する。特定の局面では、p53機能の回復が、増殖停止、細胞周期停止、アポトーシスの誘導、または転移の阻害もしくは治療をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1A〜1Bは、Skov-3細胞(図1A)およびCT26.CL25(図1B)における、Fv-p53のインビトロでの細胞毒性を示すグラフである。図1Cは、CT26.CL25細胞におけるFv-p53(nM)の細胞毒性効果の用量反応を示すプロットである。
【図2】mAb 3E10 VHのヌクレオチド配列(SEQ ID NO:10;GenBankアクセッション番号L16982)およびアミノ酸配列(SEQ ID NO:11)を示す。
【図3】mAb 3E10 Vk軽鎖、3E10VkIII(GenBankアクセッション番号L34051;ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列はそれぞれSEQ ID NO:12および13)および3E10VkSER(GenBankアクセッション番号L16983;ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO:14および15)のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を示す。
【図4】p53(AAA61212(SEQ ID NO:16)(GenBankアクセッション番号M14695に記載されているヌクレオチド配列(SEQ ID NO:17)のオープンリーディングフレームによってコードされる))のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
本方法を説明する前に、本発明が記載の特定の組成物、方法、および実験条件に限定されず、したがって組成物、方法、および条件が変更可能であることが理解されるべきである。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書で使用する専門用語は、特定の態様を説明する目的のためのみのものであり、限定を意図するものではないこともまた理解されるべきである。
【0012】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」とは、特に文脈によって明白に指示されていない限り、その対象物の複数形も含む。したがって、例えば「その方法」への言及は、本開示を読むと当業者に明らかとなるであろう、本明細書に記載される種類の1つまたは複数の方法および/または段階を含み、以下同様である。
【0013】
特記しない限り、本明細書で使用する専門用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。
【0014】
本発明により、対象の癌細胞における増殖停止またはアポトーシスを誘導する方法を提供する。本方法は、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体の結合特異性を有する抗体、その変種またはその機能的断片と、増殖停止またはアポトーシスを誘導可能である生物活性分子とを含む抗体結合体を、対象に投与する段階を含む。抗体結合体は、癌細胞に輸送され、そこで生物活性分子が該癌細胞における増殖停止またはアポトーシスを誘導可能であると考えられる。
【0015】
対象において癌細胞の転移を阻害または治療する方法もまた提供する。本方法は、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体の結合特異性を有する抗体、その変種またはその機能的断片と、増殖停止またはアポトーシスを誘導可能である生物活性分子とを含む抗体結合体を、対象に投与する段階を含む。
【0016】
本発明の方法によって標的化される癌細胞は、結腸直腸癌、食道癌、胃癌、白血病、リンパ腫、肺癌、前立腺癌、子宮癌、皮膚癌、内分泌癌、泌尿器癌、膵癌、他の消化管癌、卵巣癌、子宮頸癌、頭頸部癌、骨癌、腎癌、肝癌、膀胱癌、乳癌、および腺腫からなる群より選択される癌に由来し得る。特定の態様において、癌は結腸癌または卵巣癌である。特定の態様において、本発明の方法によって標的化される癌細胞は、p53を欠損しているかもしくはp53に欠陥があってよく、またはp53の状態が不明であってもよい。他の態様において、標的化される癌細胞は野生型p53を含んでいてもよい。
【0017】
対象のp53欠損癌細胞またはp53欠陥癌細胞においてp53機能を回復させる方法をさらに提供する。本方法は、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体の結合特異性を有する抗体、その変種またはその機能的断片と、p53機能を回復させ得る生物活性分子とを含む抗体結合体を対象に投与する段階を含む。抗体結合体は、p53欠損癌細胞またはp53欠陥癌細胞に輸送され、そこで生物活性分子がp53機能を回復させる。いくつかの態様では、p53機能の回復が、増殖停止、細胞周期停止、アポトーシスの誘導、または転移の阻害もしくは治療をもたらす。
【0018】
ある種類のDNA結合自己抗体を使用して、例えば腎細胞、脳細胞、卵巣細胞、骨細胞等の標的細胞に、生物学的に重要な多種多様な分子を輸送することができる。そのようなDNA結合自己抗体の例には、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体、抗体mAb 3E10の結合特異性を有する抗体、ならびにその変種および/または機能的断片が含まれる。mAb 3E10の重鎖の可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を図2に提供する。mAb 3E10の軽鎖の可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を図3に提供する。特に、VkIIIと命名された軽鎖は、mAb 3E10のDNA結合能力を含む。したがって、VkIIIは、本発明の方法において使用するための3E10の好ましい軽鎖である。
【0019】
生細胞を透過する抗体は、高い頻度で毒性があるかまたは傷害性があり、それらが見出される自己免疫疾患の病的徴候をいくらか示し得るが、抗体mAb 3E10は対照的に、組織培養においてこれが透過した細胞に対して害を示さない。さらに、インビトロでの研究から、mAb 3E10およびmAb 3E10のscFv断片は、組織培養において、カタラーゼなどの比較的大きなタンパク質を細胞の核に輸送することができることが示されている。さらに、mAb 3E10またはその断片(例えば、Fv)は、これに結合している生物活性分子の治療効率を妨げ得る顕著な炎症を、インビボでは生じないはずである。モノクローナル抗体3E10は、ブダペスト条約の条項に従って2000年8月31日にATCCアクセッション番号PTA-2439の下で、アメリカンタイプカルチャーコレクション、10801 University Blvd., Manassas, VA 20110-2209, USAに永久に寄託されたハイブリドーマ3E10によって産生される。そのような株の利用可能性は、あらゆる政府の権限下でその特許法に従って許可された権利に違反して本発明を実施する許諾として解釈されるべきではない。
【0020】
本明細書で使用する「特異的な結合」とは、所定の抗原に対する抗体の結合を指す。典型的には、抗体は、約10-8 Mまたはそれ未満のKDに相当する親和性で結合し、所定の抗原または近縁の抗原以外の非特異的な抗原(例えば、BSA、カゼイン)に対するその結合親和性よりも(KDで表して)少なくとも10倍低い、好ましくは少なくとも100倍低い親和性で所定の抗原に結合する。または、抗体は、約106 M-1、または約107 M-1、または約108 M-1、または約109 M-1、またはそれよりも高いKAに相当する親和性で結合することができ、所定の抗原または近縁の抗原以外の非特異的な抗原(例えば、BSA、カゼイン)に対するその結合親和性よりも(KAで表して)少なくとも10倍高い、好ましくは少なくとも100倍高い親和性で所定の抗原に結合する。いくつかの態様において、抗体の変種または機能的断片は、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体と同じKAまたはKDを有する。特定の態様において、抗体の変種または機能的断片は、mAb 3E10と同じKAまたはKDを有する。
【0021】
本明細書で使用する「kd」(sec-1)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度定数を指すことが意図される。この値は、koff値とも称される。
【0022】
本明細書で使用する「ka」(M-1 sec-1)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の会合速度定数を指すことが意図される。本明細書で使用する「KA」(M)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の会合平衡定数を指すことが意図される。
【0023】
本明細書で使用する「KD」(M-1)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を指すことが意図される。
【0024】
本方法の抗体結合体において使用するための抗体には、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体、抗体mAb 3E10の結合特異性を有する抗体、ならびにその変種および/または機能的断片が含まれる。そのような抗体、その変種または機能的断片を関心対象の生物活性分子に結合させ、細胞内に輸送できる抗体結合体を形成することができる。細胞に侵入すると、抗体結合体は細胞核の内部およびその周辺に局在すると考えられる。抗体または他の標的化ビヒクルを関心対象の生物学的分子に結合させ、インビボまたはインビトロの環境において所望の細胞への送達を提供する、他の複合化送達系と同じ様式で、本発明による抗体結合体を使用することができる。
【0025】
天然の抗体は一般に、軽鎖2本および重鎖2本を含む四量体である。実験的に、抗体をタンパク質分解酵素パパインで切断することができ、これによって各重鎖が切断され、3つの分離したサブユニットが生じる。軽鎖および軽鎖と質量のほぼ等しい重鎖の断片からなる2つの単位は、Fab断片(すなわち、「抗原結合」断片)と称される。第3の単位は、重鎖の2つの等しいセグメントからなり、Fc断片と称される。Fc断片は、典型的には抗原-抗体結合に関与しないが、抗原本体の除去に関与する後の過程において重要である。
【0026】
本明細書で使用する「ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体の結合特異性を有する抗体の機能的断片」という語句は、mAb 3E10と同じ細胞透過特性および結合特異性を保持する断片を指す。したがって、特定の態様では、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体または抗体mAb 3E10の結合特異性を有する抗体の機能的断片を、抗体結合体において使用する。いくつかの態様において、抗体結合体において使用する機能的断片は、Fab、F(ab')2、Fv、および一本鎖Fv(scFv)断片からなる群より選択される。特定の態様において、機能的断片はFv断片またはscFv断片である。1つの例では、機能的断片は、mAb 3E10の少なくとも抗原結合部分を含む。別の例では、機能的断片は、mAb 3E10の重鎖の可変領域(VH)およびκ軽鎖の可変領域(Vκ)を含むscFv断片である。scFv発現用のポリヌクレオチドの発現を増加させるため、mAb E310の鎖をコードする核酸を逆の順序で配置して、VHの5’側にVκ cDNAを配置する。加えて、当技術分野で公知の1つまたは複数のタグ、好ましくはペプチド(例えば、mycまたはHis6)を抗体結合体に組み入れ、抗体結合体のインビトロ精製または組織学的局在確認を容易にすることができる。いくつかの態様では、mycタグおよびHis6タグをVHのC末端に付加する。
【0027】
当業者によって容易に理解される通り、改変抗体(例えば、キメラ、ヒト化、CDR移植、二機能性、抗体ポリペプチド二量体(すなわち、抗体の2つのポリペプチド鎖成分の会合、例えば重鎖および軽鎖を含む抗体の1つのアーム、またはVL、VH、CL、およびCH1抗体ドメインを含むFab断片、またはVLドメインおよびVHドメインを含むFv断片)、一本鎖抗体(例えば、リンカーによってVHドメインに連結されたVLドメインを含むscFv(すなわち、一本鎖Fv(single chain Fv))断片等)もまた、当技術分野で周知の方法により作製することができる。このような抗体はまた、例えば、(参照により本明細書に組み入れられる、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2d Ed. (Cold Spring Harbor Laboratory, 1989)、および参照により本明細書に組み入れられる、Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory, 1988))に記載されているハイブリドーマ法、化学合成法、または組換え法によって作製することができる。抗ペプチド抗体および抗抗体結合体抗体の両方を使用することができる(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Bahouth et al., Trends Pharmacol. Sci. 12:338 (1991);Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology (John Wiley and Sons, NY 1989)を参照されたい)。特に、mAb 3E10と命名された本発明の例示的抗体の特定のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列については、図2および3を参照されたい。
【0028】
例えば、抗体は、抗原結合に直接関与しないFv可変領域の配列を、ヒトFv可変領域由来の相当する配列と置換することによってヒト化することができる。ヒト化キメラ抗体の一般的総説は、Morrison et al., (Science 229:1202-1207, 1985)、およびOi et al. (BioTechniques 4:214, 1986)によって提供される。これらの方法は、重鎖または軽鎖の少なくとも1つに由来する免疫グロブリンFv可変領域のすべてまたは一部をコードする核酸配列を単離する段階、操作する段階、および発現させる段階を含む。そのような核酸の供給源は、当業者に周知であり、例えば抗体産生ハイブリドーマから得ることができる。次いで、ヒト化もしくはキメラ抗体をコードする組換えDNAまたはその断片を、適切な発現ベクターにクローニングすることができる。または、ヒト化抗体は、CDR置換によって作製することもできる 米国特許第5,225,539号;Jones (1986) Nature 321:552-525;Verhoeyan et al. 1988 Science 239:1534;およびBeidler (1988) J. Immunol. 141:4053-4060。したがって、特定の態様において、抗体結合体において使用する抗体は、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体のヒト化型またはCDR移植型である。他の態様において、抗体は、抗体mAb 3E10のヒト化型またはCDR移植型である。例えば、図2および3に示される本発明の例示的抗体のCDR領域は、図中に示されるものと1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10アミノ酸異なるようなアミノ酸置換を含み得る。場合によっては、1〜5アミノ酸異なる箇所がどこかに存在する。
【0029】
本明細書で使用する場合、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体の結合特異性を有する抗体の変種への言及は、mAb 3E10と同じ細胞透過特性および結合特異性を保持する変種、およびその有用性を改善するために(例えば、特定の細胞型を標的化する能力の改善、細胞膜を透過する能力の改善、細胞DNAに局在する能力の改善等)、変異によって改変された変種を含む。そのような変種には、抗体の重鎖、軽鎖、および/または定常領域に1つまたは複数の保存的置換が導入された変種が含まれる。いくつかの態様において、変種は、SEQ ID NO:13に記載されるアミノ酸配列と少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖を有する。他の態様において、変種は、SEQ ID NO:11に記載されるアミノ酸配列と少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有する重鎖を有する。さらに、本発明は、ストリンジェントな条件下で3E10可変領域コード配列(例えば、SEQ ID NO:10および/またはSEQ ID NO:12)にハイブリダイズする核酸配列によってコードされるか、またはSEQ ID NO:11もしくはSEQ ID NO:13に記載されるアミノ酸配列と少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%同一であるアミノ酸配列をコードする抗体を含む。
【0030】
ハイブリダイゼーション反応の「ストリンジェンシー」は、当業者によって容易に決定可能であり、一般的にプローブ長、洗浄温度、および塩濃度に依存する経験的な計算である。一般に、プローブが長くなると適切なアニーリングにより高い温度を必要とし、プローブが短くなるとより低い温度を必要とする。ハイブリダイゼーションは、一般的に、相補鎖がその融解温度よりも低い環境に存在する場合に、変性DNAが再アニールする能力に依存する。プローブとハイブリダイズ可能な配列との間の所望の相同性の程度が高いほど、使用できる相対温度はより高くなる。結果として、より高い相対温度は反応条件をよりストリンジェントにする傾向があり、より低い温度はストリンジェンシーを低下させる傾向がある。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーのさらなる詳細および説明については、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience Publishers, (1995)を参照されたい。
【0031】
本明細書で定義する「ストリンジェントな条件」または「高ストリンジェンシー条件」は、
(1) 洗浄のために低イオン強度および高温、例えば50℃で0.015 M塩化ナトリウム/0.0015 Mクエン酸ナトリウム/0.1%ドデシル硫酸ナトリウムを使用する条件;
(2) ハイブリダイゼーション中にホルムアミドなどの変性剤、例えば、42℃で50%(v/v)ホルムアミドと0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%ポリビニルピロリドン/50 mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH 6.5、および750 mM塩化ナトリウム、75 mMクエン酸ナトリウムを使用する条件;または
(3) 42℃で50%ホルムアミド、5×SSC(0.75 M NaCl、0.075 Mクエン酸ナトリウム)、50 mMリン酸ナトリウム(pH 6.8)、0.1%ピロリン酸ナトリウム、5×デンハルト溶液、超音波処理サケ精子DNA(50 μg/ml)、0.1% SDS、および10%デキストラン硫酸を使用し、42℃で0.2×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)および55℃で50%ホルムアミド中で洗浄した後、EDTAを含む0.1×SSCからなる55℃での高ストリンジェントな洗浄を行う条件
によって特定され得る。
【0032】
「中程度のストリンジェントな条件」は、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, New York: Cold Spring Harbor Press, 1989に記載されているように特定され得、上記のストリンジェンシーよりも低い洗浄溶液およびハイブリダイゼーション条件(例えば、温度、イオン強度、および%SDS)の使用を含む。中程度のストリンジェントな条件の例は、20%ホルムアミド、5×SSC(150 mM NaCl、15 mMクエン酸三ナトリウム)、50 mMリン酸ナトリウム(pH 7.6)、5×デンハルト溶液、10%デキストラン硫酸、および20 mg/ml変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中で37℃で一晩インキュベートし、次いで約37〜50℃の1×SSC中でフィルターを洗浄することである。当業者は、プローブ長などの因子に適合させる必要性に応じて、どのようにして温度、イオン強度等を調節するかを認識するであろう。
【0033】
そのような変種には、抗体の重鎖ヌクレオチド配列、軽鎖ヌクレオチド配列、および/または定常領域に1つまたは複数の置換が導入された変種が含まれる。いくつかの態様において、変種は、SEQ ID NO:12に記載されるヌクレオチド配列と少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有する軽鎖を有する。他の態様において、変種は、SEQ ID NO:10に記載されるヌクレオチド配列と少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有する重鎖を有する。
【0034】
本発明の実施において使用するために意図される1つの例示的な変種は、31位のアスパラギン酸残基のアスパラギンへの単一の変化を含むmAb 3E10 VH(すなわち、mAb 3E10-31)である。この変種およびさらなる変種の調製、ならびにその細胞透過能力の実証は、米国特許第7,189,396号に記載されている。この特有のmAb 3E10変種は、腎細胞および脳細胞に生物学的分子を送達するのに特に適している。他の3E10変種および/またはその機能的断片を使用して、生物活性分子の標的化を提供することもできる。多種多様な変種および/またはその機能的断片は、選択された生物活性分子との結合後にmAb 3E10またはmAb 3E10-31と実質的に同じ細胞透過特性を示す場合には、実行可能である。
【0035】
本発明による抗体(例えば、mAb 3E10ならびにその変種および/または機能的断片)を使用して、多種多様な生物活性分子、例えば核転写因子、酵素、酵素阻害剤、遺伝子等を、種々の治療効果のために細胞核に輸送することができる。無機分子および有機分子、薬剤、薬物、ペプチド、タンパク質、ならびに遺伝物質等を含む薬理学的活性分子を、それらの送達のために本発明による抗体(例えば、mAb 3E10ならびにその変種および/または機能的断片)に結合させることができる。
【0036】
いくつかの態様において、Ab 3E10の重鎖または軽鎖は、種々の生物活性分子、例えば核転写因子、酵素、酵素阻害剤、遺伝物質、無機化合物または有機化合物、薬剤、薬物、ならびにポリペプチド等との抗体結合体として作製することができ、それにより標的細胞の細胞核にこれらのタンパク質を輸送することが可能となる。加えて、mAb 3E10は、DNAと結合する他のタンパク質(例えば、ポリL-リジンなど)との融合タンパク質の形態で作製することもできる。mAb 3E10とのポリL-リジン融合タンパク質は、DNA(例えば、関心対象の遺伝子を含むプラスミド)と結合し、このDNAを標的細胞の核に輸送する。
【0037】
抗体結合体は、抗体の重鎖または軽鎖のいずれかのアミノ末端またはカルボキシ末端に関心対象のポリペプチドを配置するように、設計することができる。mAb 3E10の抗原結合断片(Fab')は、細胞を透過し核内に局在することが示されているため、重鎖全体が必要なわけではない。したがって、潜在的な立体配置は、付着させたタンパク質の機能的完全性を維持するために必要とされるスペーサー配列を用いるまたは用いない、重鎖および軽鎖の切断部分の使用を含む。
【0038】
抗体を生物活性分子に結合させることに加えて、後者を当技術分野で公知の任意の方法によってmAb 3E10と付着させるかまたは会合させることもできる。例えば、本明細書に記載されるmAb 3E10のscFv断片を、スクリーニング用の生物活性ポリペプチドをさらに含む融合タンパク質として、宿主細胞で発現させることができる。または、モノクローナル抗体またはその活性断片を、ペプチド結合により、または当技術分野で周知の種類の化学的リンカー分子もしくはペプチドリンカー分子により、ポリペプチドに化学的に連結することができる。特定の態様では、生物活性ポリペプチドを、ペプチドリンカーを介してmAb 3E10またはその断片に連結させる。リンカーは、1つもしくは複数のタグ(例えば、mycまたはHis6)であってもよいし、または公知のリンカー配列GGGGS(SEQ ID NO:1)の1回または複数回の繰り返しであってもよい。さらなるペプチドリンカーは、当技術分野で公知である。当業者は、リンカー配列が、抗体に連結させようとするポリペプチドに応じて変わり得ることを認識するであろう。
【0039】
薬物または他の小分子調合薬を抗体断片に付着させる方法は周知であり、これには、N-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)-アミノ安息香酸;スルホスクシンイミジル(4-ヨードアセチル)-アミノ安息香酸;4-スクシンイミジル-オキシカルボニル-α-(2-ピリジルジチオ)トルエン;スルホスクシンイミジル-6-[α-メチル-α-(ピリジルジチオール)-トルアミド]ヘキサン酸;N-スクシンイミジル-3-(-2-ピリジルジチオ)-プロピオン酸;スクシンイミジル-6-[3(-(-2-ピリジルジチオ)-プロピオンアミド]ヘキサン酸;スルホスクシンイミジル-6-[3(-(-2-ピリジルジチオ)-プロピオンアミド]ヘキサン酸;3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオニルヒドラジド、エルマン試薬、ジクロロトリアジン酸、S-(2-チオピリジル)-L-システイン等が含まれる。さらなる二官能性連結分子は、米国特許第5,349,066号;同第5,618,528号;同第4,569,789号;同第4,952,394号;および同第5,137,877号に記載されており、これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0040】
本明細書で使用する「生物活性分子」という語句は、細胞に生物学的効果をもたらす分子を指す。例示的な生物活性分子には、核転写因子、酵素阻害剤、遺伝物質、無機分子もしくは有機分子、薬剤、薬物、またはポリペプチドが含まれる。特定の態様において、生物活性分子はポリペプチドである。
【0041】
特定の態様において、生物活性分子は、p53タンパク質またはそのペプチド断片である。p53は、腫瘍抑制遺伝子TP53のタンパク質産物であり、細胞周期の調節および癌の発症からの防御において重要かつ複雑な役割を担っている。p53は、細胞が損傷を修復して正常な機能を回復することができない場合に、細胞周期の停止を開始し、アポトーシスを誘導することによって、正常な細胞環境において異常に対して応答する。p53を活性化することが周知である事象には、DNA損傷、酸化的ストレス、および低酸素が含まれる。変異したDNAを修復できない細胞は、p53が細胞周期の進行を停止する信号を送った後に、p53が媒介するアポトーシス促進性遺伝子の転写活性化により、またはp53とミトコンドリアとの直接的な相互作用により、最終的にアポトーシスに入る。
【0042】
ゲノムに損傷を受けた細胞においてp53がアポトーシスを誘導する能力は、癌の予防に重要である。p53によって細胞が常に監視されていなければ、変異した細胞は組織から除去されず、それどころか細胞分裂の繰り返しにより蓄積し、最終的に腫瘍増殖を引き起こす。p53を欠損している細胞および生物は、変異の蓄積および癌の発症を招く傾向がある。
【0043】
本明細書で使用する「p53を欠損している」という語句は、細胞におけるp53タンパク質のレベルの減少またはp53タンパク質の欠如を指す。加えて、p53欠損は、核排除により、またはp53の負の調節因子であるMDM2などの内部細胞エレメントの過剰発現により、p53がその正常機能を実行できないように妨げられた結果であり得る。本明細書で使用する「p53に欠陥がある」という語句は、変異したp53または翻訳後に不適切に修飾されたp53を有し、その結果p53機能の障害を生じた、細胞を指す。
【0044】
したがって、本方法の特定の態様では、抗体結合体によりp53を癌細胞に送達し、そこでp53は核の内部またはその周囲に局在し、その生物学的作用を発揮することができる。いくつかの態様において、p53は、全長分子、好ましくはヒトp53である。例示的なヒトp53配列は、GenBankアクセッション番号AAA61212(GenBankアクセッション番号M14695に記載されているヌクレオチド配列のオープンリーディングフレームによってコードされる)に提供されている。しかし、他の種、好ましくは哺乳動物に由来するp53タンパク質が、好ましくない免疫応答を誘発しないように、ヒト配列に実質的に類似しているかまたは改変されている場合には、そのようなタンパク質も使用できることを、当業者は認識するであろう。特定の態様では、全長ヒトp53をscFv mAb 3E10に結合させる。1つの態様において、抗体結合体はscFv mAb 3E10融合タンパク質である。特定の態様では、p53ペプチドを抗体結合体において使用することができる。例えば、p53のC末端側30アミノ酸などの特定のp53ペプチドは、変異体p53を有するSW480癌細胞に送達した場合に、細胞毒性効果を示した(米国特許第7,189,396号)。
【0045】
他の態様において、ポリペプチドは、抗体、好ましくはモノクローナル抗体であってもよい。1つの例では、抗体は抗p53抗体である。抗p53抗体の一例は、p53のC末端部分と結合するmAb PAb421である(Weisbart et al., Int J Oncology 25:1113-8, 2004)。
【0046】
抗体結合体は、当技術分野で周知の組換え法により作製されることができる。例えば、生物活性ポリペプチドを含む抗体結合体は、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを構築するために組換え法を用いて、融合タンパク質として作製されることができる。ポリヌクレオチドは、融合タンパク質がリンカーまたはタグ配列を含むように構築されることができる。抗体結合体をコードするポリヌクレオチドを、発現ベクターに連結することができる。ベクターは、ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの適切な宿主細胞での産生を制御および調節し得る、ポリヌクレオチドと機能的に会合している発現調節配列をさらに含み得る。
【0047】
抗体結合体などのポリペプチドの調製における使用に適したベクターには、バキュロウイルス、ファージ、プラスミド、ファージミド、コスミド、フォスミド、細菌人工染色体、ウイルスDNA、P1ベースの人工染色体、酵母プラスミド、および酵母人工染色体から選択されるベクターが含まれる。例えば、ウイルスDNAベクターは、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、仮性狂犬病、およびSV40誘導体から選択され得る。本発明の方法を実行する際の使用に適した細菌ベクターには、pQE70、pQE60、pQE-9、pBLUESCRIPT SK、pBLUESCRIPT KS、pTRC99a、pKK223-3、pDR540、PAC、およびpRIT2Tが含まれる。本発明の方法を実行する際の使用に適した真核生物ベクターには、pWLNEO、pXTI、pSG5、pSVK3、pBPV、pMSG、およびpSVLSV40が含まれる。本発明の方法を実行する際の使用に適した真核生物ベクターには、pWLNEO、pXTI、pSG5、pSVK3、pBPV、pMSG、およびpSVLSV40が含まれる。
【0048】
当業者は、そのようなベクター内に含めるべき適切な調節領域を、例えば、lacI、lacZ、T3、T7、apt、λPR、PL、trp、CMV前初期、HSVチミジンキナーゼ、初期および後期SV40、レトロウイルスLTR、ならびにマウスメタロチオネイン-I調節領域から選択することができる。
【0049】
ポリヌクレオチドを含むベクターを発現できる宿主細胞には、細菌細胞、真核細胞、酵母細胞、昆虫細胞、または植物細胞が含まれる。例えば、大腸菌(E. coli)、バチルス属、ストレプトマイセス属、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、ショウジョウバエS2、スポドプテラ SJ9、CHO、COS(例えば、COS-7)、またはBowes黒色腫細胞はいずれも、本発明の方法を実行する際の使用に適した宿主細胞である。
【0050】
他の態様において、生物活性分子はポリヌクレオチドである。治療タンパク質をコードするもののようなポリヌクレオチドは、mAb 3E10、または例えばscFvもしくはFabといったその機能断片など、本明細書に開示する抗体または断片に該ポリヌクレオチドを化学的に結合させることによって、癌細胞に送達することができる。抗体結合体を用いて対象の癌細胞に送達されたポリヌクレオチドは、癌細胞の核内に安定に組み込まれ得る。ポリヌクレオチドが調節分子以外の遺伝子を含む場合、該遺伝子は、対象の癌細胞において発現され得る。
【0051】
抗体結合体を含む薬学的組成物を、本明細書に記載する方法において使用することができる。したがって、1つの態様では、対象の癌細胞における増殖停止またはアポトーシスを誘導するのに有効な量で存在する抗体結合体を含む、薬学的組成物を、本明細書に記載する方法において使用する。別の態様では、対象において癌細胞の転移を阻害または治療するのに有効な量で存在する抗体結合体を含む、薬学的組成物を、本明細書に記載する方法において使用する。さらなる態様では、対象の癌細胞にp53機能を回復させるのに有効な量で存在する抗体結合体を含む、薬学的組成物を、本明細書に記載する方法において使用する。薬学的組成物は、抗体結合体に加えて他の治療薬を含んでもよく、例えば、薬学的製剤の分野で公知の技術により、従来のビヒクルまたは希釈剤、および所望の投与様式に適した種類の薬学的添加物(例えば、賦形剤、保存剤等)を使用することによって製剤化することができる。
【0052】
化合物の「有効量」という用語は、対象に対してまたは大多数のもしくは正常な細胞に対して毒性はないが、所望の効果(例えば、黒色腫の転移の阻害、アポトーシスに対する細胞の感作、細胞増殖もしくは細胞周期の停止の誘導、アポトーシスの誘導、またはp53機能の回復)を提供するのに十分な化合物の量である量を指す。この量は、対象の種、年齢、および身体的状態、治療される疾患の重症度、抗体結合体の特定の種類、またはより具体的には使用する生物活性分子の特定の種類、その投与様式等に応じて、対象によって異なり得る。したがって、正確な「有効量」を一般化することは難しいが、適切な有効量は、当業者によって決定され得る。
【0053】
「薬学的に許容される」という用語は、担体、希釈剤、または賦形剤が製剤の他の成分と適合しなければならず、そのレシピエントに有害であってはならないということを指す。例えば、担体、希釈剤、もしくは賦形剤、またはその組成物は、望ましくない生物学的効果を引き起こすことなく、またはこれを含む薬学的組成物の他の成分のいずれかと望ましくない様式で相互作用することなく、本発明の抗体結合体と共に対象に投与することができる。
【0054】
抗体結合体を含む薬学的組成物は、毒性のない薬学的に許容されるビヒクルまたは希釈剤を含む投与製剤として、適切な手段により、例えば、皮下、静脈内、筋肉内、髄腔内、または嚢内への注射技術または注入技術(例えば、水性または非水性の無菌注射用溶液または懸濁液)によるなど非経口的に投与することができる。特定の態様において、抗体結合体は、非経口的に、またはより好ましくは静脈内に投与する。
【0055】
本発明による抗体結合体をヒト患者または哺乳動物などの対象に投与するために選択される送達様式は、抗体結合体中に存在する生物活性分子の特定の種類および標的細胞に大きく依存する。一般に、生物活性分子のみを投与するために用いられるのと同じ投与量および投与経路を、抗体結合体の開始点として同様に使用する。しかしながら、生物学的分子の細胞透過の増大が期待されることから、最初はより少ない用量を使用することが好ましい。所与の投与経路用の実際の最終投与量は、日常的な実験により容易に決定される。一般に、抗体ベースの他の標的化結合体に以前に用いられたのと同じ手順およびプロトコール(例えば、非経口、静脈内、髄腔内等)が、本発明の抗体結合体にも適している。
【0056】
抗体結合体の薬学的組成物は、単独でまたは他の治療薬と併用して投与することができ、単位剤形として都合よく提供されてもよく、かつ薬学の分野で周知の方法のいずれかにより調製されてもよい。すべての方法は、1つまたは複数の補助成分を構成する担体と抗体結合体を会合させる段階を含む。一般に、薬学的組成物は、有効成分を液体担体と均一かつ密接に会合させることにより調製する。薬学的組成物中において、抗体結合体を、疾患の過程または状態に所望の効果をもたらすのに十分な量だけ含む。
【0057】
治療される状態に応じて、これらの薬学的組成物を製剤化し、これを全身投与するかまたは局所投与することができる。製剤化および投与の技術は、「Remington's Pharmaceutical Sciences」(Mack Publishing Co, Easton Pa.)の最新版に見出すことができる。適切な経路は、例えば、筋肉内、皮下、髄内、髄腔内、脳室内、静脈内、または腹腔内を含む非経口送達であってもよい。注射用として、本発明の薬学的組成物は、水溶液中に、好ましくはハンクス液、リンゲル液、または生理的緩衝化生理食塩水などの生理的に適合する緩衝液中に製剤化することができる。
【0058】
ここで、以下の非限定的な実施例を参照することにより、本発明をさらに詳細に説明する。
【0059】
実施例1
本試験において、さらなる対照タンパク質を含むようインビトロ実験を拡張し、Fv-p53が癌細胞株において細胞死滅に関与する因子であることを確認した。さらに、Fv-p53タンパク質療法をインビボで試験し、これが、肝臓への結腸癌細胞の転移を防ぐ上で著しく効果的であることが見出された。具体的には、CT26.CL25結腸癌細胞においてインビトロで、および肝臓への結腸癌転移のマウスモデルにおいてインビボで、ピキア・パストリスで産生されたFv-p53融合タンパク質を試験することにより、モノクローナル抗体(mAb) 3E10 Fv抗体媒介性のp53タンパク質療法の臨床的有効性を評価した。インビトロ実験より、Fv-p53によるCT26.CL25細胞の死滅が示されたが、Fvのみまたはp53のみではそのような死滅は示されず、かつ免疫組織化学染色により、p53の細胞への輸送にFvが必要であることが確認された。インビボにおける肝転移の防止は、CT26.CL25癌細胞をBALB/cマウスの門脈に注射してから10分後および1週間後に、100 nmol/L Fv-p53を脾臓に注射することによって試験した。結果より、Fv-p53処置は肝転移の阻害に顕著な効果をもたらすことが示され、これはインビボにおける効果的な全長p53タンパク質療法を初めて実証するものである。
【0060】
プラスミド
pPICZA-Fv-p53
Fv-p53融合タンパク質をコードするcDNAを、以前に記載されている通りにpPICZAに連結した(Weisbart et al., Int J Oncol 25:1867-73, 2004)。簡潔に説明すると、以前に記載されている通りに、3’ mycタグおよびHis6タグを含むmAb 3E10 Fv cDNAを、PCRにより増幅し、融合タンパク質の構築用のカセットとしてpSG5(Stratagene、カリフォルニア州、ラホーヤ)のEcoRIおよびBamHI部位に連結した(Weisbart et al., Cancer Lett 195:211-9, 2003)。p53 cDNAは、以前に記載されている通りにpCD53からPCRにより増幅され、5’-BamHIおよび3’BglII制限部位を含められた。センスプライマーは

であり、アンチセンスプライマーは

であった。PCR断片をPCR2.1(Invitrogen Corp.、カリフォルニア州、カールズバッド)に連結し、BamHIおよびBglIIで切り出し、mAb 3E10 Fv cDNAを含むpSG5に連結して、融合構築物を作製した。Fv-p53 cDNA構築物をPCRにより再度増幅して、5’酵母コンセンサス配列を組み入れ、かつピキア・パストリスでの細胞内発現用のpPicZAに連結するために3’制限部位をSacIIに変更した。センスプライマーは

であり、アンチセンスプライマーは

であった。構築物の設計は、Fv-myc-His6-p53であった。
【0061】
pPICZA-Fv(R95Q)-p53
pPICZA-Fv(R95Q)-p53構築物は、QuickChangeキット(Stratagene、カリフォルニア州、ラホーヤ)と共に突然変異誘発プライマー

を用いる、pPICZA-Fv-p53構築物への部位特異的突然変異誘発により作製した。
【0062】
pPICZA-p53
野生型p53をコードするcDNAは、センスプライマー

およびアンチセンスプライマー

を用いてpPICZA-Fv-p53構築物からPCR増幅した。TA Cloningキット(Invitrogen、カリフォルニア州、カールズバッド)を使用して、PCR産物をpCR2.1ベクターに挿入した。p53 cDNA挿入物を、EcoRIおよびXhoIで切断することによりpCR2.1-p53から放出させ、pPICZAのEcoRIおよびXhoI部位に連結した。
【0063】
pPICZαA-Fv
mAb 3E10の一本鎖断片をコードするcDNAを、以前に記載される通りにpPICZαAに連結した(Int J Oncol 2004;25:1113-8)。
【0064】
組換えタンパク質
以前に記載されている通りに、Fv-p53、Fv(R95Q)-p53、野生型p53、Fv、およびX-33対照タンパク質をピキア・パストリスで産生させて精製し、SDS-PAGE、次いでウェスタンブロット解析により解析した(Weisbart et al. Int J Oncol 25:1867-73, 2004)。Fv-p53およびFv(R95Q)-p53の典型的な収率は、500 mL培養物からでは30μgであった。野生型p53およびFvの典型的な収率は、500 mL培養物からでは3 mgであった。Fv-p53の濃度は、抗p53抗体を使用するELISA捕捉アッセイ法および検量線との比較により決定した。
【0065】
細胞株
Skov-3卵巣癌細胞株およびCT26.CL25結腸癌細胞株は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(メリーランド州、ロックビル)から入手した。
【0066】
核透過アッセイ法
Fv-p53、Fv(R95Q)-p53、または野生型p53(100 nmol/L)をSkov-3細胞に添加した。陽性対照として、100μmol/L Fvも同様に細胞に添加した。1時間インキュベートした後、細胞を洗浄し、固定し、以前に記載されている通りに抗p53 pAb421抗体または抗myc抗体で染色した(Weisbart et al. Int J Oncol 25:1867-73, 2004)。
【0067】
顕微鏡画像
以前に記載されている通りに、RC反射光蛍光アタッチメントおよびMagnaFire SPデジタル画像化システムを備えたOlympus IX70倒立顕微鏡(Olympus、ニューヨーク州、メルビル)を用いて、細胞の顕微鏡画像を取得した(Weisbart et al., J Immunol 164:6020-6, 2000)。
【0068】
インビトロ細胞毒性アッセイ法
Fv-p53、Fv(R95Q)-p53、野生型p53、またはFv(100 nmol/L)を、Skov-3細胞およびCT26.CL25細胞に添加した。対照細胞は、X-33酵母タンパク質と共にインキュベートした。タンパク質を細胞に添加してから24時間後に、以前に記載されている通りにヨウ化プロピジウム染色によって細胞死の割合を決定した(Weisbart et al. Int J Oncol 25:1867-73, 2004)。
【0069】
インビボ肝転移モデル
最初にSchulick et al.(Ann Surg Oncol 10:810-20, 2003)によって記載された「半脾臓(hemispleen)」モデルを最適化した。10週齢のBALB/cマウスを、Jackson Laboratory(メイン州、バーハーバー)から購入した。はさみを用いて、左側腹部の毛を除去した。ハロタンを用いて動物に麻酔をかけ、ポビドンヨードで手術部位の準備をした。左側腹部を1.0 cm〜1.5 cm切開し、腹腔を露出させた。胃をやさしく掴んで、脾臓全体が見えるようにした。2つの中型血管クリップ(Weck、ノースカロライナ州、リサーチ・トライアングル・パーク)を、脾臓の中央部を横切って取り付けた。次いで、これらのクリップの間で脾臓を分割し、それぞれ自身の血管茎を有する2つの半脾臓を生じた。27ゲージ針を用いて、1×105個のCT26.CL25結腸癌細胞を下方の半脾臓に注射した。この注射の前に、シリンジに250μL HBSSを予め添加しておいた。手術中に、細胞懸濁液50μLをシリンジ内に吸引し、このようにして細胞を注射した後に生理食塩水の洗浄を提供した。細胞を注射してから3分後に、中型血管クリップを、血管茎を横切って設置し、下方の半脾臓を除去した。10分後、同様の様式で、処置溶液または対照溶液を上方の半脾臓に注射した。この半脾臓はそのまま残しておき、7日後に2回目の注射を行った。次に、5-0プロレン縫合糸を用いて、腹部を単層で閉鎖した。2週間後に動物を安楽死させ、肝臓を調べた。肝臓全体に、0(肉眼的転移なし)、1(腫瘍部位<1 cm2)、2(腫瘍部位1〜2 cm2)、3(腫瘍部位>2 cm2)、または4(完全浸潤)という転移スコアを割り当てた。
【0070】
「門脈」モデルもまた最適化した(Cai et al., Int J Oncol 27:113-20, 2005)。10週齢のBALB/cマウスを使用した。以前に記載された通りに、動物が準備され、該動物に麻酔をかけた。上部正中線を切開し、腹腔を露出させた。腸を取り出し、右側に反転させた。温生理食塩水に浸漬した2×2インチの大きさのガーゼ1片を、腸に被せた。31ゲージ針を用いて、200μL HBSS中の4×105個のCT26.CL25結腸癌細胞を門脈に注射した。次に、湿ったGelfoam(Pharmacia Corp.、ミシガン州、カラマズー)の小片で注射部位を圧迫した。圧力を2〜3分間持続し、Gelfoamを留置した。次いで腸を腹部に戻し、5-0プロレン縫合糸を用いて腹部を単層で閉鎖した。次に動物をQ2だけ回転させ、左側腹部に2つ目の切開を行った。小さな皮下ポケットを切開し、次いで腹部を露出させた。脾臓全体を、Fv-p53処置またはX-33酵母タンパク質対照のいずれかの注射のために使用した。注射後、その後の注射を容易にするため、脾臓全体を皮下ポケット内に留置した。Kasuya et al.(Cancer Res 65:3823-7, 2005)に記載されている通りに、腹壁を5-0プロレン縫合糸で閉鎖することにより、脾臓をその位置に保持した。次いで、同じ縫合糸を用いて、皮膚を別の層として閉鎖した。7日後に、軽微な手術により、2回目の脾臓注射を行った。動物に麻酔をかけ、左側腹部をポビドンヨードで準備した。切開のごく一部を開放し、直接可視化で物質を脾臓に注射した。2回目の注射から7日後に動物を安楽死させ、脾静脈からドレナージを受けた肝臓の左葉に対して転移スコア(基準については上記を参照されたい)を付与した。
【0071】
統計
両側スチューデントt検定を用いて、P値を決定した。
【0072】
p53の核送達に必要とされるFv断片
以前に記載されている通りに、Fv-p53、Fv(R95Q)-p53、p53のみ、Fvのみ、およびX-33対照タンパク質を作製し、P. パストリスから精製した。R95Qと略されるFv(R95Q)-p53は、Fv中に、このタンパク質を細胞に透過できないようにする変異を含む(Weisbart et al., Int J Oncol 25:1113-8, 2004)。X-33タンパク質は、プラスミドを含まないX-33細胞の溶解物とインキュベートしたNi-NTAアガロース(Qiagen、カリフォルニア州、バレンシア)から溶出した。X-33対照は、Fv-p53の調製物中に見出されるタンパク質と同じパターンを示し、これを、Fv-p53と同時精製されるタンパク質不純物の対照とした。Fv-p53および対照タンパク質を、Skov-3細胞への透過について試験した。X-33酵母タンパク質で処理した対照細胞は、染色の欠如を示した。FvまたはFv-p53で処理した細胞は、核透過を表す異なる核染色を示した。予想通り、R95Qまたはp53のみで処理した細胞は核染色を示さなかった。p53のみではSkov-3細胞に透過できなかったため、これらの結果から、Fv断片がp53の核送達に必要であることが示される。
【0073】
癌細胞における細胞死の誘導に必要とされる機能的Fv-p53
等モル量のタンパク質をSkov-3細胞およびCT26.CL25細胞に添加することにより、Fv-p53による癌細胞における細胞死の誘導を対照タンパク質と比較した。タンパク質の添加から24時間後に、ヨウ化プロピジウム染色を用いて蛍光顕微鏡化で細胞を観察し、細胞死を定量した。R95Qによる5.2±4.3%、p53による4.0±2.8%、Fvによる3.0±1.4%、およびX-33タンパク質による2.2±1.5%と比較して、Skov-3細胞(93.8±8.9%)はFv-p53によって死滅した(図3A)。同様に、R95Qによる13.8±10.9%、p53による3.0±1.4%、Fvによる2.5±0.7%、およびX-33タンパク質による2.5±0.6%と比較して、CT26.CL25細胞の74.6±24.1%がFv-p53によって死滅した(図3B)。野生型p53およびR95Q変異体融合タンパク質はいずれも、細胞に透過することができず、Skov-3細胞もCT26.CL25細胞も死滅させることができず、細胞死滅には伝達可能なp53が必要であることが示唆される。考え合わせると、透過アッセイ法および死滅アッセイ法から、Fv-p53がSkov-3細胞およびCT26.CL25細胞の死滅に関与する機能的試薬であることが示される。
【0074】
CT26.CL25細胞を死滅させるのに必要なFv-p53の濃度を決定するため、12.5 nmol/L、25 nmol/L、50 nmol/L、および100 nmol/LのFv-p53を使用して細胞死アッセイ法を繰り返した。50 nmol/L Fv-p53および100 nmol/L Fv-p53はいずれも、CT26.CL25細胞の死滅に非常に効果的であったが、より低い用量は有意に低い活性を示した(図3C)。この結果から、Fv-p53はCT26.CL25細胞に用量依存的効果をもたらすことが示され、インビボで試験すべきFv-p53の濃度が示唆された。
【0075】
インビボで肝転移を妨げるFv-p53
CT26.CL25結腸癌細胞をBALB/cマウスに注射することによって作製された肝転移モデルを使用して、インビボにおけるFv-p53タンパク質療法の有効性を試験した。最初のマウス実験では「半脾臓」法を使用して、癌細胞の注射後のFv-p53送達のタイミングを最適化した。CT26.CL25結腸癌細胞をBALB/cマウス12匹に投与し、これらを4群に分割した。各群のマウスに、100 nmol/L Fv-p53または対照培地の半脾臓注射を2回施与した。Fv-p53または対照培地の最初の注射は、CT26.CL25細胞の投与の10分後に行い、2回目の注射は1週間後に行った。1群のマウスには、いずれの注射においても対照培地を投与した。2群のマウスには、1回目の注射ではFv-p53を投与し、2回目の注射では対照培地を投与した。3群のマウスには、1回目の注射では対照培地を投与し、2回目の注射ではFv-p53を投与した。最後に、4群のマウスには、1回目および2回目の注射のいずれにおいてもFv-p53を投与した。2回目の注射の2週間後に、マウスを安楽死させ、肝臓を調べて腫瘍量の程度を決定した。1群のマウスは、平均転移スコア2.7±0.5を有した。対照的に、4群は平均転移スコア1.0±0.0を有し、処置マウスにおける腫瘍量の減少が示された。2群および3群のマウスは、それぞれスコア0.7±0.9および2.0±0.8を有した(表1)。これらの結果から、Fv-p53は、特に早期に投与した場合に、転移量を減少させるらしいことが示唆される。このことから、Fv-p53は、肝転移の防止に効果があるように考えられることが示され、予想通り、早期に処置した方が遅れて処置するよりも効果的であった。
【0076】
(表1)Fv-p53送達の最適化

*結果は平均値±SDとして報告する。
【0077】
最初のマウス実験では、脾臓部位近傍の左上腹部における腫瘍の有意な局所再発に注目した。それゆえに、腫瘍の局所再発量を減少させるかまたは排除する試みとして、「門脈」法を第2の実験のために使用した。この実験では、CT26.CL25細胞を門脈に注射することによって肝転移を確立し、10分後および再度7日後に、Fv-p53またはX-33酵母タンパク質対照のいずれかを脾臓に注射することによりマウスを処置した。2回目の注射から7日後に動物を安楽死させ、肝臓を腫瘍量について調べた。Fv-p53で処置したマウスは、X-33対照で処置したマウスよりも有意に低い転移スコアを有した(表2)。3.3±1.3から0.8±0.4への転移スコアの低下は、臨床的に有意な腫瘍量の減少を表している。対照マウスでは、肝臓の浸潤が重篤〜完全であったのに対し、Fv-p53で処置したマウスでは、肝臓の浸潤は最小であった。考え合わせると、2つのマウス実験から、Fv-p53は肝転移を阻害し、インビボにおける効果的な全長p53タンパク質療法の最初の実験的証拠を提供することが示される。
【0078】
(表2)肝転移の発生に及ぼすFv-p53の効果

結果は平均値±SDとして報告する。*P=0.004
【0079】
健常な細胞および組織を残したまま癌細胞を選択的に死滅させる治療薬を開発することにより、癌患者の治癒を達成する可能性が有意に増加すると考えられる。単発性原発性腫瘍は外科的除去が可能であるのに対して、転移性疾患は治癒不能である場合が多い。転移性疾患を治療する現在の試みは、主に放射線療法および化学療法薬に依存しており、これらは顕著な副作用を引き起こし得る。トラスツズマブ(Herceptin)などの、特異的な腫瘍抗原と結合するモノクローナル抗体(mAb)は、典型的に副作用が少なく、通常、より毒性の強い化学療法薬と共に使用した場合に最も高い活性を有する(Mehra et al., Expert Opin Biol Ther 6:951-62, 2006)。p53療法は、少用量のp53が形質転換細胞における増殖停止およびアポトーシスを誘導するが、正常細胞には悪影響を及ぼさないように考えられるという点で、転移性疾患の問題に対して潜在的に見事な解決策を示す(Weisbart et al. Int J Oncol 25:1867-73, 2004)。それはまた、全腫瘍細胞の半数超に適用できる可能性が高いという著しい利点も有する。
【0080】
タンパク質療法は、ほぼすべてのタンパク質欠損疾患を治療する上で効果的であると考えられるが、特に癌の治療に適している。慢性疾患患者は、持続的な補充療法を必要とし得るが、癌患者は、癌細胞を排除するために、潜在的に限定した回数のp53用量を必要とするに過ぎない。さらに、p53は非常に低い細胞内濃度で機能的であり、副作用プロファイルを最小限にするために、p53注入の頻度および継続期間を容易に変更することができる。mAb 3E10のFv断片は、p53タンパク質療法の理想的な輸送ビヒクルである。Fvは、大部分のカーゴタンパク質を核に特異的に送達し、他のタンパク質伝達ドメイン(PTD)よりも炎症を促進しないはずである(El-Amine et al., Int Immunol 14:761-6, 2002;Zambidis et al., PNAS 93:5019-24, 1996)。本試験では、実験マウスのいずれにおいてもFv-p53療法の副作用は認められなかった。Fvはまた細胞内で半減期が短く、一本鎖Fv断片を用いてインビボで腫瘍を可視化する以前の研究から、Fv断片は、正常細胞よりも容易に腫瘍細胞内に局在し、身体から速やかに除去されることが見出された(Yokota et al., Cancer Res 52:3402-8, 1992;Yokota et al., Cancer Res 53:3776-83, 1993;Erratum in: Cancer Res 53:5832, 1993)。Fv断片が腫瘍に局在する傾向により、p53の標的組織への送達が促進され、仮に副作用が問題となっても、Fvの短い半減期およびFv断片の迅速な血漿クリアランスが、療法の持続期間を限定するのに役立つ。転移性疾患の発症と関連して、Fv-p53処置のタイミングが重要であると考えられる。本発明者らのマウスモデルにおいて、癌細胞の注射から10分後に投与したFv-p53は、転移を最大限まで抑制するように考えられた(表1)。7日目の時点でFv-p53を投与したマウスは、10分の時点で最初のFv-p53用量を投与したマウスと比較して、より多くの転移量を有するように考えられたが、そのようなマウスは、両時点で対照注射を施与したマウスと比較してより低い転移スコアを有したという示唆もなお存在した。癌細胞の投与から10分後または1週間後に投与するかにかかわらず、Fv-p53が転移を抑制する能力は、Fv-p53が、最近転移した細胞および確立された腫瘍細胞のいずれをも死滅できることを示唆している。
【0081】
2つ目のインビボ実験から、Fv-p53処置が肝転移に顕著な効果を及ぼすことが示された。X-33酵母タンパク質で処置した対照マウスでは、肝臓の腫瘍浸潤が重篤〜完全であったのに対し、Fv-p53で処置したマウスでは、肝転移は最小〜なしであった。この結果は、統計的に有意であるばかりでなく、対照処置マウスおよびFv-p53処置マウスの肝臓の肉眼的観察においても容易に明白であった(表2)。このことは、Fv-p53が非常に大きな転移量の状況においてさえ活性を有することを示している。本研究の主たる重要性は、初めて、全長p53タンパク質療法がインビボで効果的であり、効果的な癌療法としてFv-p53タンパク質療法の使用を示唆することである。
【0082】
上記の実施例を参照しながら本発明を説明したが、修正および変更を本発明の精神および範囲の範囲内に包含することが理解されよう。したがって、本発明は、以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、対象の癌細胞における増殖停止またはアポトーシスを誘導する方法:
ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体の結合特異性を有する抗体、その変種またはその機能的断片と、増殖停止またはアポトーシスを誘導可能である生物活性分子とを含み、
癌細胞に輸送され、それによって該癌細胞における増殖停止またはアポトーシスを誘導する、
抗体結合体
を対象に投与する段階。
【請求項2】
抗体が、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生されるmAb 3E10である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
変種が、SEQ ID NO:13に記載されるアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖を有する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
変種が、SEQ ID NO:11に記載されるアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有する重鎖を有する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
抗体が、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体のヒト化変種である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
機能的断片が、Fab、F(ab')2、Fv、および一本鎖Fv(scFv)断片からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
機能的断片がmAb 3E10のscFv断片である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
生物活性分子が、核転写因子、酵素阻害剤、遺伝物質、無機分子もしくは有機分子、薬剤、薬物、またはポリペプチドである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
生物活性分子がポリペプチドである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
生物活性分子がp53タンパク質またはその断片である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
機能的断片がmAb 3E10のscFv断片であり、かつ
さらに生物活性分子がp53タンパク質である、
請求項1記載の方法。
【請求項12】
p53タンパク質がヒトp53である、請求項5記載の方法。
【請求項13】
投与段階が非経口投与である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
投与段階が静脈内投与である、請求項1記載の方法。
【請求項15】
癌細胞が、p53を欠損しているかまたはp53に欠陥がある、請求項1記載の方法。
【請求項16】
癌細胞が、結腸直腸癌、食道癌、胃癌、白血病/リンパ腫、肺癌、前立腺癌、子宮癌、皮膚癌、内分泌癌、泌尿器癌、膵癌、他の消化管癌、卵巣癌、子宮頸癌、頭頸部癌、骨癌、腎癌、肝癌、膀胱癌、乳癌、および腺腫からなる群より選択される癌に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項17】
以下の段階を含む、対象における転移を阻害または治療する方法:
ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体の結合特異性を有する抗体、その変種またはその機能的断片と、転移を阻害可能または治療可能である生物活性分子とを含み、
癌細胞に輸送され、それによって該癌細胞の転移を阻害または治療する、
抗体結合体
を対象に投与する段階。
【請求項18】
抗体が、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生されるmAb 3E10である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
変種が、SEQ ID NO:13に記載されるアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖を有する、請求項17記載の方法。
【請求項20】
変種が、SEQ ID NO:11に記載されるアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有する重鎖を有する、請求項17記載の方法。
【請求項21】
抗体が、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体のヒト化変種である、請求項17記載の方法。
【請求項22】
機能的断片が、Fab、F(ab')2、Fv、および一本鎖Fv(scFv)断片からなる群より選択される、請求項17記載の方法。
【請求項23】
機能的断片がmAb 3E10のscFv断片である、請求項17記載の方法。
【請求項24】
生物活性分子が、核転写因子、酵素阻害剤、遺伝物質、無機分子もしくは有機分子、薬剤、薬物、またはポリペプチドである、請求項17記載の方法。
【請求項25】
生物活性分子がポリペプチドである、請求項17記載の方法。
【請求項26】
生物活性分子がp53タンパク質またはその断片である、請求項17記載の方法。
【請求項27】
機能的断片がmAb 3E10のscFv断片であり、かつ
さらに生物活性分子がp53タンパク質である、
請求項17記載の方法。
【請求項28】
p53タンパク質がヒトp53である、請求項17記載の方法。
【請求項29】
投与段階が非経口投与である、請求項17記載の方法。
【請求項30】
投与段階が静脈内投与である、請求項17記載の方法。
【請求項31】
癌細胞が、p53を欠損しているかまたはp53に欠陥がある、請求項17記載の方法。
【請求項32】
癌細胞が、結腸直腸癌、食道癌、胃癌、白血病/リンパ腫、肺癌、前立腺癌、子宮癌、皮膚癌、内分泌癌、泌尿器癌、膵癌、他の消化管癌、卵巣癌、子宮頸癌、頭頸部癌、骨癌、腎癌、肝癌、膀胱癌、乳癌、および腺腫からなる群より選択される癌に由来する、請求項17記載の方法。
【請求項33】
以下の段階を含む、対象のp53欠損癌細胞またはp53欠陥癌細胞においてp53機能を回復させる方法:
ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体の結合特異性を有する抗体、その変種またはその機能的断片と、p53欠損細胞にp53機能を回復させ得る生物活性分子とを含み、
p53欠損癌細胞に輸送され、それによって該癌細胞にp53機能を回復させる、
抗体結合体
を対象に投与する段階。
【請求項34】
抗体が、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生されるmAb 3E10である、請求項33記載の方法。
【請求項35】
変種が、SEQ ID NO:13に記載されるアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖を有する、請求項33記載の方法。
【請求項36】
変種が、SEQ ID NO:11に記載されるアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有する重鎖を有する、請求項33記載の方法。
【請求項37】
p53機能の回復が、増殖停止、細胞周期停止、アポトーシスの誘導、または転移の阻害もしくは治療をもたらす、請求項33記載の方法。
【請求項38】
抗体が、ATCCアクセッション番号PTA 2439を有するハイブリドーマによって産生される抗体のヒト化変種である、請求項33記載の方法。
【請求項39】
機能的断片が、Fab、F(ab')2、Fv、および一本鎖Fv(scFv)断片からなる群より選択される、請求項33記載の方法。
【請求項40】
機能的断片がmAb 3E10のscFv断片である、請求項33記載の方法。
【請求項41】
scFv断片が、mAb 3E10の重鎖の可変領域(VH)およびκ軽鎖の可変領域(Vκ)を含む、請求項33記載の方法。
【請求項42】
scFv断片がVκのシグナルペプチドをさらに含む、請求項33記載の方法。
【請求項43】
生物活性分子が、核転写因子、酵素阻害剤、遺伝物質、無機分子もしくは有機分子、薬剤、薬物、またはポリペプチドである、請求項33記載の方法。
【請求項44】
生物活性分子がポリペプチドである、請求項33記載の方法。
【請求項45】
生物活性分子がp53タンパク質またはその断片である、請求項33記載の方法。
【請求項46】
機能的断片がmAb 3E10のscFv断片であり、かつ
さらに生物活性分子がp53タンパク質である、
請求項33記載の方法。
【請求項47】
p53タンパク質がヒトp53である、請求項33記載の方法。
【請求項48】
p53欠損が、p53の欠如、p53における変異、およびp53についての核排除からなる群より選択される、請求項33記載の方法。
【請求項49】
対象がマウスである、請求項33記載の方法。
【請求項50】
対象がヒトである、請求項33記載の方法。
【請求項51】
投与段階が非経口投与である、請求項33記載の方法。
【請求項52】
投与段階が静脈内投与である、請求項33記載の方法。
【請求項53】
癌細胞が、結腸直腸癌、食道癌、胃癌、白血病/リンパ腫、肺癌、前立腺癌、子宮癌、皮膚癌、内分泌癌、泌尿器癌、膵癌、他の消化管癌、卵巣癌、子宮頸癌、頭頸部癌、骨癌、腎癌、肝癌、膀胱癌、乳癌、および腺腫からなる群より選択される癌に由来する、請求項33記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−516708(P2010−516708A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−546582(P2009−546582)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/051734
【国際公開番号】WO2008/091911
【国際公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(502389630)アメリカ合衆国 (4)
【Fターム(参考)】