抗原提示細胞
本発明は、少なくとも1つのアレルゲン由来の少なくとも一つのポリペプチドを示すために生成された造血(幹)細胞を移植することによって、少なくとも1つのアレルゲン由来の少なくとも1つのポリペプチドに対して、持続性があり頑強な特異的免疫寛容を誘引する方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、アレルゲン及びその誘導体を導入する方法に関し、アレルギー又は過敏症の予防及び治療手段に関する(Coombs RRA, Gell PGH, Clinical Aspects of Immunology, chapter 13. Oxford: Blackwell Science,1997;23-25)。
【0002】
アレルギーは、通常は無害な外来性(すなわち、非自己)物質(「アレルゲン」)に対する反応能力が、遺伝的又は後天的に、特異的に入れ替わることである。アレルギーは、影響を受けた臓器系の炎症反応(皮膚、結膜、鼻、咽頭、気管支粘膜、胃腸管)、アレルギー性鼻炎、結膜炎、皮膚炎、アナフィラキシーショック及び喘息等の即時性病徴、並びに喘息及びアトピー性皮膚炎における後期反応等のような慢性的な疾患症状に関連している。
【0003】
I型アレルギーは、産業化された世界の人口のおよそ20%に影響を及ぼす、遺伝的過敏症疾患を意味している。I型アレルギーの病態生理学的な特徴は、通常無害な抗原(アレルゲン)に対して、免疫グロブリンE(IgE)抗体を産出することである。
【0004】
現在、アレルギーに対する唯一の原因治療法は、アレルゲン特異的免疫療法である。この方法では、特異的アレルゲン無反応を誘発するために、アレルゲンの量を徐々に増やしながら患者に投与する。しかしながら、この方法は、立証されているとおり、例えば部分的にしか有効でなかったり、副作用が起こるリスクがかなり高かったりする等の制限がある。したがって、現在も治療及び予防のための改善された方法は見つかっていない。
【0005】
アレルゲン特異的免疫療法の最大の弱点は、天然のアレルゲン抽出物の利用に依存している点である。これらを、少なくとも工業的に生産できる程度にまで水準を統一することは、たとえ不可能ではなかったとしてもかなり困難である。このような天然のアレルゲン抽出物は、様々なアレルギー性及び非アレルギー性の化合物からなる。したがって、投与された抽出物に特定のアレルゲンが存在していない可能性や、又は、さらにひどい場合には、治療の過程で患者が化合物に対して新たにIgE特異性を発現してしまう可能性がある。抽出物による治療での他の弱点は、生物学的に活性状態のアレルゲン製剤を投与することによって、アナフィラキシー性の副作用が起きる場合があることである。
【0006】
アレルゲンを特徴付ける分野において、分子生物学的技術を応用することによって、全ての関連する環境アレルゲンをコードするcDNAを単離し、組換えアレルゲンを産出することが可能になった。このような組換えアレルゲンを用いることで、生体外で行う診断(すなわち、血清中のアレルゲン特異的IgE抗体の検出)又は生体内検査による、個々の患者の反応形態を決定することができるようになった。この技術をもとに、アレルギー、特にI型アレルギーに対する、患者の感作形態に適合した新しい成分に基づくワクチン接種方法が開発されるかのように思われた。しかし、組換えアレルゲンと天然のそれらの対応物との類似性により、組換えアレルゲンもまた著しいアレルギー活性を有する。組換えアレルゲンが、野生型アレルゲンのアレルギー活性を精確に模倣するため、天然のアレルゲンを用いる免疫療法において、アレルギー活性によって起きる障害が全て、組換えアレルゲンにおいても生じる。免疫療法を改善するためには、アナフィラキシー性の副作用のリスクを低く保ちながらも投与可能なアレルゲンの量を増やせるように、組換えアレルゲンのアレルギー活性を低減する必要がある。
【0007】
別の提案は、遺伝子工学によって低アレルギー性のアレルゲンを産出することである。この提案は、アレルゲンが、わずかなアミノ酸残基のみが異なる、及び/又は低IgE結合能を有する立体構造においてのみ異なるアイソフォームとして、天然に生じ得るという所見に基づいている。例えば、主要なシラカンバ花粉アレルゲンであるBet v 1のオリゴマー形成によって、アレルギー活性が著しく低下した組換え三量体が遺伝子工学的に得られた。あるいは、アレルゲン構造の立体構造上の変化、及びこれによる非連続的なIgEエピトープの分解を引き起こすか、IgE結合能に直接影響を与えるかのいずれかのために、点変異導入することが提案されている(Valenta et al.,Biol.Chem.380(1999),815-824)。
【0008】
アレルゲンをいくつかの部分(例えば、2つの部分)に断片化してアレルゲンの天然様折り畳み構造を失わせることによって、IgE結合能及びアレルギー活性がほぼ完全に失われることも示されている。例えば、Bet v 1について、(Vrtala et al.(J.Clin.Invest.99(1997),1673-1681)、Bet v 4について、Twardosz et al.(BBRC 239(1997),197-204)、Aln g 4について、Hayek et al.(J. Immunol.161(1998),7031-7039)、ウシ鱗屑アレルゲンについて、Zeiler et al.(J.Allergy Clin.Immunol.100(1997),721-727)、Lep d2について、Elfman(Int.Arch.Allergy Immunol.117 (1998),167-173)、Phlp 7について、Westritschnig (J.Immunol.172 (2004), 5684-5692)などが記載されている。主として非連続/立体構造IgEエピトープを含むタンパク質を断片化することは、アレルゲンのIgE結合能の実質的な低下を引き起こす。この知見に基づいて、先行技術では、このような低アレルギー性のアレルゲン断片が、in vivoで防御免疫反応を引き起こし得るか否かの研究が進められてきた(Westritschnig et al.(Curr. Opinion in Allergy and Clin. Immunol. 3(2003),495-500)。
【0009】
現在の免疫療法は、基本的にIgE結合能を低下させたアレルゲンやその誘導体を、経口、粘膜、皮下、又は静脈を介して投与することで行われている。免疫療法は、IgG反応を引き起こす、活性ワクチン接種治療である。このアプローチは、例えばアレルギー反応を完全には取り除く効果がないことや、その効果の持続期間が制限されていることなど、いくつかの欠点に起因した制限がある。
【0010】
WO00/66715は、共同刺激因子受容体が抑制された抗原提示細胞に関する。ここでの抗原提示細胞は、例えば、樹状細胞であり得る。これらの抗原提示細胞は、目的の抗原をコードする遺伝子を運ぶウイルスベクター、微生物ベクター、プラスミド等のような核酸分子を導入することによって処理することができる。これにより、他において通常、IgE反応を引き起こす原因となるアレルゲンとなり得る、抗原を抗原提示細胞に発現させる。これらの細胞中のアレルゲン抗原は、MCH分子において提示される。WO01/51631は、ポリペプチド及びペプチドを組み替え的に発現するように改変した樹状細胞に関する。これらのポリペプチド及びペプチドは抗原性を有し、対応する抗体の形成を引き起こす。このような樹状細胞は、ポリペプチド又はペプチドが関連する疾患を治療するために用いられる。このポリペプチドは、MCH分子において提示される。
【0011】
Sudoweらの文献(Journal of Allergy and Clinical Immunology 117(2006):196-203)では、アレルゲンβ−ガラクトシダーゼで操作的に色づけしたfascinプロモーターを含むベクターを用いた、皮膚由来の樹状細胞のトランスフェクションが記載されている。
【0012】
Amineva S Pらの文献(Official Journal of the Virology Division of the International Union of Microbiological Societies 115(2006):1933-3416)は、アレルギー誘発性タンパク質(オボムコイド)をコードする核酸分子を運ぶピコルナウイルスベクターに関する。このベクターは、アレルギー誘発性タンパク質の細胞間提示に有用な手段であり、アレルギー性感作の予防のために生体内に用いることができるとして記載されている。Forman Daronら(Journal of Immunology 176(2006):3410-3416)、Tian Chaoruiら(Journal of Immunology 173 (2004):7217-7222)及びBagley Jessamynら(Transplantation(Hagerstown)84(2007):38-41)の文献には、臓器移植における許容誘導に関する。IgE媒介アレルギーは、アロ免疫及び自己免疫疾患から根本的に区別される。
【0013】
Nagato Toshihiroら(Journal of Immunology 178(2007):1189-1198)、Akdisら(Journal of Allergy and Clinical Immunology 119(2007):780-789)、及びHochreiter Romanaら(European Journal of Immunology 33(2003):1667-1676)の文献には、許容ストラテジーに関連する免疫機構(特に、制御性T細胞)について、検討している。HSCに基づいたアプローチが、排他的又は優勢に、末梢機構(すなわち、制御性T細胞)ではなく、中央許容機構(すなわち、胸腺内)に依存していることで特徴づけられていることは、ごく一般的に知られている。
【0014】
本発明の目的は、従来のアレルゲン免疫療法とは全く異なる方針に基づいた、アレルギーの予防及び治療に用いられる、改善された方針の手段及び方法を提供することにある。本発明の別の目的は、アレルギー反応の進行をほぼ生涯を通じて予防することが可能な手段を提供することである。
【0015】
そのため、本発明は、少なくとも1つのポリペプチドを、細胞外で発現して提示することによって、造血細胞を生成する方法であって、上記少なくとも1つのアレルゲンに由来する少なくとも1つのポリペプチドをコードするDNA分子又は核酸分子を上記細胞に導入することによって造血細胞を生成し、上記少なくとも1つのポリペプチドは、分泌シグナル配列、膜結合領域及び/又は膜貫通領域に融合している、方法である。
【0016】
本発明の方法によって得られる造血細胞を移植することによって、アレルゲンに対して許容する結果をもたらし、そのアレルゲンに対して生涯にわたって特異的に許容するように誘引される。実施例では、この造血細胞が得られたマウスと、遺伝的に同一のマウスに、当該細胞を移植した。この同系マウスモデルは、ヒトにおいて、ex vivoで自身の細胞を改変し、同一固体に再度移植する(すなわち、自家移植)臨床状況と同等である。
【0017】
本発明は、高度に選択及び標的設定された方法である。導入されたアレルゲンに対して免疫反応が、完全に、特異的に、かつ永久的に発生しないことで特徴づけられる、最も高度な免疫寛容を引き起こすことが、本発明に固有のものである。他の抗原/アレルゲンに対する免疫反応は影響を受けない。文献に記載されている他の方法は、一般に、アレルゲンに対して逸脱した免疫反応を引き起こし、IgEが介在する抗アレルゲン免疫反応を無効にする(臨床的に使用されている免疫療法等)。これと明確に対照的に、実施例では、関連のないアレルゲンに対する免疫反応が影響を受けない状態で、導入した特異的アレルゲンに対する免疫反応が免疫系のいかなるレベルにおいてもない(IgE、IgG1、IgG2a、IgG3、IgA、T細胞応答、エフェクター細胞応答のいずれもない)ことが実証されている。導入されたアレルゲンは自己抗原と同様に被提供者の免疫系によって処理されているため、被提供者に導入されたアレルゲンが繰り返し体外から導入されたとしても、それに対して有害な免疫反応が発生するのを防ぐことができる。
【0018】
造血細胞は、アレルゲンに由来するポリペプチドを生成するように改変された場合に、アレルギーの予防及び治療に有利に用いることができる。本発明に係る造血細胞はポリペプチドを生成及び分泌することが可能であり、免疫システムに曝露されて、T細胞、B細胞、及びエフェクター細胞レベルにおいて、当該ポリペプチドに対して特異的に免疫寛容を誘発する。さらなる有利な点は、造血細胞は、改変された後(自家移植造血細胞)に、個体に移植又は再移植することができる。
【0019】
造血(幹)細胞は特有の特徴を有する(他の細胞種にはない)独特の細胞集団である。すなわち、自己回復能力があり、全ての造血系統(例えば、リンパ球、樹状細胞)に分化することができる。
【0020】
成熟した又は未成熟の造血細胞は、公知の方法で個体から単離することができる。特に、骨髄、臍帯血、又はG−CSF(顆粒球刺激因子)分離末梢血から造血幹細胞又は造血前駆細胞が得ることが好ましい(Shizuru, Negrin and Weissman,Annu Rev Med 56(2005):509-38;Copelan E.A.,N Engl J Med 354(17):1813-1826)。
【0021】
臓器移植の分野では、アロ抗原に対する寛容を誘発する方法として、造血キメラ化の誘発が研究されている(Wekerle and Sykes,Annu Rev Med 2001;52:353-70)。この計画では、ドナーの造血細胞(例えば、骨髄の形態のもの)は、適切に準備された被提供者に移植される。この被提供者は、同一のドナーから臓器移植片の提供も受ける。造血ドナー細胞は、長期的に持続し、被提供者をキメラ化し、特に同種異系のドナーに対して寛容となる。あるいは、被提供者自身の造血細胞が、ドナーMHCアロ抗原を発現するように、in vitoroで改変される(Madsen et al.,Nature 1988,332:161-164;Iacomini et al.Blood 99:4394-4399,2002;Sonntag KC et al.J Clin Invest 107:65-71,2001)。続いて、改変された細胞は元の個体に移植し戻され、いわゆる分子キメラ化及び単一ドナーアロ抗原に対する寛容を誘引する。この方法は、I型糖尿病又は多発性硬化症のマウスモデルにおいて、自己免疫疾患の治療法としても応用されている(Steptoe et al. J Clin Invest 111:1357-1363,2003;Xu et al. Mol Ther 13:42-48,2006)。
【0022】
I型アレルギー反応はアロ免疫及び自己免疫疾患から区別される。これらの区別されたもののそれぞれは、例えば原因及び誘因の相違、並びにエフェクター細胞の種類及びエフェクター機構の相違等、数多くの免疫特性において異なる。その上、アレルギーは全く異なる別の臨床疾患であり、異なる療法を用いて治療される。本発明が得られる以前は、アレルゲンを提示するように改変された自家造血幹細胞の移植は、アレルギーと関連付けて研究も使用もされていない。
【0023】
本発明によれば、上記少なくとも1つのポリペプチドは、分泌シグナル配列、膜アンカー領域、及び/又は膜貫通領域に融合されている。
【0024】
分泌シグナル配列単体、又は分泌シグナル配列と膜アンカー領域もしくは膜貫通領域との組み合わせのいずれかに融合した本発明のポリペプチドは、本発明の少なくとも1つのポリペプチドを細胞外マトリックスに分泌する、又は細胞膜の細胞外側に結合されている本発明の少なくとも1つのポリペプチドを有する、造血細胞の生成を可能にする。このような細胞は、アレルゲンに由来する本発明のポリペプチドを個体の免疫系に提示するのに適している。本発明のポリペプチドは、ポリペプチドが細胞表面に固定されるように、分泌シグナル配列と膜結合領域又は膜貫通領域に融合されているので、が特に有利である。こうすることで、ポリペプチドを細胞から放出することなく、ポリペプチドを免疫系に曝露することができる。その結果、従来の方法に比べて、アレルゲンに対する免疫を確立する細胞をより効率的に得ることができる。
【0025】
分泌シグナル配列、膜アンカー領域、及び膜貫通領域は、当業者に周知のものを用いることが好ましい。(Coloma et al., J Imm Methods 152(1992):89-104;Gronwald et al., Proc Natl Acad Sci USA 85(1988):3435-3439)
本発明において、「少なくとも1つのアレルゲンに由来するポリペプチド」(「アレルゲン誘導体」)とは、アレルゲン又はその断片もしくは誘導体である少なくとも1つのポリペプチドを、DNAベクターのDNA領域がコードしていることを意味する。アレルゲン誘導体は、野生型アレルゲンの誘導体の中で、特にアレルギー誘発性が著しく低下した野生型アレルゲンの誘導体を含んでいる。アレルギー誘発性は、いくつかの手段によって低下させることができ、その手段の全てにおいて、分子内の二硫化ブリッジを分裂させることによってタンパク質の形態を不安定にし、それによって三次元構造を不安定化させることを目的としている。これらの誘導体はT細胞反応性を保持しながらもアレルギー誘発性を低下させることができ、野生型アレルゲンとの結合性においてIgEと競合するアレルゲン特異的IgGを特に誘発する免疫原を、高用量全身投与するのにより適している。したがって、低アレルギー性の誘導体は、療養及び予防目的に適している。
【0026】
アレルゲン誘導体、特に低アレルゲン性ポリペプチドの生成は、ネイティブな配列に変異を導入することにより行われてもよい。これは、以下の方法によって得ることができる。タンパク質の三次元構造に置換、欠失、又は付加を導入する、又はタンパク質が三次元の構成を失うように三次元構造を変性することによって得ることができる。これは、他と同様に、タンパク質を断片的に発現させるか、二硫化ブリッジ形成に関与するシステイン残基を欠失させるか、タンパク質の三次構造が実質的に変性するように残基を付加することにより、得ることができる。
【0027】
低アレルギー性のアレルゲンは、T細胞反応性及び/又は野生型アレルゲンに対する免疫反応を刺激する能力を残しつつ、IgE結合反応性及び/又はそのヒスタミン放出活動を低減又は消滅させるように、変質させることが好ましい。変異アレルゲンのアレルギー誘発性、及び結果としてそのアレルギー誘発性の低下は、ヒスタミン放出活性、又はIgE結合反応性によるいずれかの方法で、野生型と比較されてもよい。。「実質的に低下したアレルギー誘発性」とは、残基IgE結合活性によって計測されたアレルギー誘発性が、ネイティブな無改変又は無変質のタンパク質の活性に比べて最大50%、好ましくは最大20%、より好ましくは最大10%、さらに好ましくは最大5%、さらにより好ましくは5%未満、低下していることを意味する。あるいは,「実質的に」はまた、変異体のヒスタミン放出活性が天然のタンパク質と比べて、少なくとも100倍因子、好ましくは1000倍因子、さらに好ましくは10000倍因子、減少していることを意味する。
【0028】
本発明に係るアレルゲン誘導体は、少なくとも1つのアレルゲン、好ましくは野生型アレルゲンの断片同士をネイティブ配列とは異なる配列で融合させることによって得られる、改造又はモザイクポリペプチドであってもよい(例えば、WO2004/065414参照)。
【0029】
本明細書で用いられる「ポリペプチド」とは、ペプチド結合を介して共有結合された、少なくとも5個(好ましくは少なくとも7個、8個、又は10個)の、アミノ酸残基を有する分子のことである。
【0030】
本明細書において用いる場合、「少なくとも1つのアレルゲンに由来する少なくとも1つのポリペプチド」は、ポリペプチドが、アレルゲンのアミノ酸配列全体又はその断片を有していることを示している。
【0031】
アレルゲンの断片は、その少なくとも1つのアレルゲンの、少なくとも10個、好ましくは少なくとも15個の連続するアミノ酸を有している。さらに、その少なくとも1つのアレルゲンに由来する少なくとも1つのポリペプチドは、アレルゲンに関連する配列又は配列断片と、少なくとも80%(好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、特に100%)の同一性を示す。
【0032】
もちろん、ポリペプチドは、1より多くのアレルゲン又はその断片を融合して有していてもよく、ポリペプチドがIgEと結合しない、又は実質的に結合しない、1以上のT細胞エピトープを有することが好ましい。
【0033】
本発明によれば、「同一性」(「同一」)は、比較時間を通して、2つの最適に位置あわせした配列を比較することによって決定される。比較時間の間、アミノ酸配列の断片は、2つの配列を最適に位置あわせするために、(付加又は失欠を有さない)参考配列と比べて、付加又は失欠(例えば、間隙やはみ出し)を有していてもよい。一般的には、最高次一致が得られるように、配列は位置あわせされている(例えば、Computational Molecular Biology, Lesk, A.M., ed., Oxford University Press, New York,1988;Biocomputing:Informatics and Genome Projects, Smith, D.W., ed., Academic Press, New York, 1993;Computer Analysis of Sequence Data, Part I, Griffin, A.M., and Griffin, H.G., eds.,Humana Press,New Jersey,1994;Sequence Analysis in Molecular Biology, von Heinje, G. , Academic Press,1987;及びSequence Analysis Primer, Gribskov, M. and Devereux, J., eds., M Stockton Press, New York,1991;Carillo et al.(1988) SIAM J Applied Math 48:1073を参照)。
【0034】
いかなる2つのアミノ酸分子においても、例えば、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%「同一」のアミノ配列を有するかどうかは、「FAST A」プログラムのような公知のコンピュータアルゴリズムを用いて、例えば、PearsonらのPNAS USA 85:2444(1988)(他のプログラムは、GCGプログラムパッケージ(Devereux, J., et al., Nucleic Acids Research (1984) Nucleic Acids Res., 12, 387-395)、BLASTP、BLASTN、FASTA(Altschul, S.F., et al., J Molec Biol 215: 403 (1990); Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, ed., Academic Press, San Diego, 1994, and Carilloet al, (1988)SIAM J Applied Math 48 : 1073を有する)に記載のデフォルトパラメータを用いて判断される。例えば、NCBIデータベースのBLASTツールを同一性判断に用いることができる。他の商業的又は公然に提供されているプログラムとして、DNAStarの「MegAlign」プログラム(Madison、WI)及びウィスコンシン大学遺伝子コンピュータグループ(UWG)の「Gap」プログラム(Madison、Wu))が挙げられる。タンパク質及び/又はペプチドの同一性割合は、例えば、GAPコンピュータプログラム(例えばSmith and Waterman(1981)によって改訂された(Adv. Appl. Math.2:482)、Needleman et al.,(1970) J. Mol. Biol. 48:443)を用いて配列情報を比較することで決定することができる。簡単に言えば、GAPプログラムは類似性を、類似する配列記号(すなわち、ヌクレオチド又はアミノ酸)の数を、2つの配列のうちの短い配列にある記号の合計数で割った数として定義している。GAPプログラムのデフォルトパラメーターは、次を含むことができる:(1)単一比較マトリックス(同一性及び非同一性を示す1の値を有する)、及びSchwartz and Dayhoff, eds., ATLAS OF PROTEIN SEQUENCE AND STRUCTURE, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358(1979)に記載のGribskov et al. 14:6745の荷重比較マトリックス;(2)各間隙に3.0のペナルティと、各間隙内の各記号につき、追加で0.10ペナルティ;及び(3)末端間隙にはペナルティ無し。
【0035】
本明細書で用いられているように、「少なくとも80%同一」という表現は、参考アレルゲンに関連して、80から99.99の同一性割合に関する。したがって、本発明のポリペプチドは、また、1以上のアミノ酸修飾(すなわち、置換、欠失、挿入)を含んでいてもよい。
【0036】
80%以上のレベルでの同一性は、100のアミノ酸の試験的ポリペプチドと参考ポリペプチドとにおいて、例示を目的として長さを比較した場合、試験的ポリペプチドのアミノ酸残基の20%(すなわち、100のうちの20)以下が参考ポリペプチドと異なることを示している。このような相違は、アミノ酸配列の全体の長さにわたってランダムに分布された点変異として示すことができる。又は、点変異は、様々な長さの1以上の場所に、可能な最大値、例えば20/100アミノ酸相違(およそ80%同一性)まで集中していてもよい。相違はアミノ酸置換、挿入、又は欠失として定義される。85から90%程度以上の相同又は同一レベルにおいて、結果は、プログラム及び設定された間隙パラメータセットから独立しているべきである。このような高いレベルでの同一性は、しばしばソフトウェアに頼ることなく、容易に評価することができる。
【0037】
造血細胞に導入される核酸又はDNA分子は、少なくとも1つのポリペプチドをコードする一続きの核酸又はDNAを、収容するもしくは含むDNAベクター又は他の核酸運搬媒体であることが好ましい。本発明の方法は、in vitroで行うことが好ましい。
【0038】
本明細書で用いられている「DNAベクター」は、例えば細菌性といったウイルス性、又は非ウイルス性種の、外来性又は異種核酸配列をコードするように設計されたDNA媒体を表している。そのため、この表現には従来の細菌性プラスミドが含まれている。このようなプラスミド又はベクターは、ウイルス又はファージからのプラスミド配列を含むことができる。このようなベクターとして、例えば細菌性プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソーム、イースト染色体成分、及びウイルス(レトロウイルス等)に由来するベクターといった、染色体、エピソーム、及びウイルス由来のベクターが挙げられる。ベクターは、また、例えばプラスミド、ウイルス性及びバクテリオファージの真核性又は原核性遺伝因子、コスミド、並びにファージミドといった、ものを組み合わせたものに由来していてもよい。この表現はまた、1つの細胞から別の細胞へと遺伝子を運搬する非複製ウイルスをも含む。また、例えばポリリシン化合物といった、細胞内の核酸運搬を容易にする非プラスミド化合物及び非ウイルス性化合物も含むように解釈すべきである。そのため、本明細書で用いられる「DNAベクター」という表現は、「DNA媒体」、「ウイルス」、「レトロウイルス」等の表現と交換可能に用いられる。
【0039】
DNAベクターは転写調節因子(又はDNA調節因子)を含んでいてもよい。この転写調節因子は、目的の遺伝子に作動可能に連結されている場合に、その因子に特徴的な方法で目的の遺伝子の転写を変化させることができる。転写調節因子としては、プロモーター、エンハンサー、サプレッサー、転写開始部位、転写終了部位、ポリアデニル化部位等が挙げられる。
【0040】
本発明に係るDNAベクター又はDNA分子を用いて造血細胞を形質転換させるには、異種タンパク質DNAコンストラクトを、宿主細胞染色体DNAに挿入する、または染色体外形態で存在させるかのいずれかに依存したいくつかのシステムを用いることができる。
【0041】
異種タンパク質のDNA配列に作動可能に連結されたプロモーターが、直鎖分子、又はより好ましくは自己複製ができない、閉じられた共有結合環状分子の非複製DNA(又はRNA)分子として造血細胞に導入された場合、導入された配列の一過性発現を通して異種タンパク質が発現する可能性がある。
【0042】
遺伝的に安定した形質転換体は、ベクターシステム又は形質転換システムを含んで構成されていてもよい。このことにより、異種タンパク質のDNAが宿主染色体に統合される。このような統合は細胞内において新たに発生してもよく、又は宿主染色体に機能的に挿入されるベクターを用いた形質転換により補助されて発生してもよい。染色体挿入が可能なベクターは、例えば、レトロウイルスベクター、トランスポゾン、又は染色体におけるDNA配列、特に目的の染色体の挿入部位に異種同型のDNA配列の組込みを促進する他のDNAエレメントが挙げられる。
【0043】
導入されたDNAを染色体に安定して組み込んだ細胞は、所望の配列を有する宿主細胞を選択可能とする1以上のマーカーを導入することによっても、選択される。例えば、マーカーは、例えば抗生物質又は銅等の重金属に対する寛容といったバイオサイドの寛容を提供してもよい。選択可能なマーカー遺伝子は、発現されるようにDNA遺伝子配列に直接結合していてもよく、又は同時トランスフェクションで同じ細胞に導入されてもよい。
【0044】
他の好ましい実施の形態では、導入された配列は被提供者ホストの自己複製可能なプラスミド又はウイルス性ベクターに組み込まれる。以下に説明するように、この目的のために幅広い種類のいかなるベクターを採用することができる。
【0045】
特定のプラスミド又はウイルス性ベクターを選択する際の重要なファクターとして、ベクターを含まない被提供者の細胞中から、ベクターを含む被提供者の細胞を認識及び選択できる容易さ、特定の宿主内におけるベクターの目的の複製数、並びに異なる種類の宿主細胞同士でベクターを入れ替えられることが望ましいかどうか、等が挙げられる。
【0046】
好ましい真核プラスミドは、ウシパピローマウイルス、ワクシニアウイルス、及びSV40に由来するものが含まれる。このようなプラスミドは公知であり、一般に又は市販で入手可能である。プラスミドのコピー数を増幅させ、宿主細胞の染色体にプラスミドを融合させるために、ヘルパーウイルスを用いて同時形質移入することができる哺乳類発現ベクター系がその一例である。(Perkins, A. S. et al., Mol. Cell Biol. 3:1123(1983);クロンテック、米国)。
【0047】
コンストラクトを含むベクター又はDNA配列を発現のために用意した後、トランスフェクション、エレクトロポレーション、又はリポソームを介した運搬等の様々な適した手段によって、DNAコンストラクトを造血細胞に導入する。トランスフェクション実験においては、DEAE−デキストラン又はリン酸カルシウムが好適に用いられる。
【0048】
in vitroでベクターを導入した後、被提供者の細胞を選択培地、すなわち、ベクター含有細胞の培養用に選択された培地で培養される。クローン遺伝子配列が発現することにより、異種タンパク質が生成される。
【0049】
本発明の好ましい実施の形態によれば、造血細胞は単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、造血幹細胞、好酸球、T細胞、B細胞、NK細胞及び樹状細胞からなる群より選択される。
【0050】
アレルゲン又はその断片、もしくは誘導体をコードする核酸分子を有するDNAベクターは、上記の列挙された造血細胞の全ての種類に導入され得る。これら全ての細胞は、アレルゲンに由来するポリペプチドを発現及び分泌することができる。
【0051】
DNAベクターは、好ましくはウイルスベクター、好ましくはレトロウイルスベクター、又はプラスミドベクターである(Papapetrou EP et al., Gene Therapy 12 (2005):118-130)。
【0052】
本発明の好ましい実施の形態によれば、ベクターは、造血細胞に一過性に導入される。
【0053】
ベクターを細胞に一過性に導入することによって、造血細胞からアレルゲン誘導体をコードするDNAを経時的に欠失させることができる。これは、限られた時間しかアレルゲン誘導体の発現が必要でない場合に、特に有利である。例えば、トランスフェクトした造血細胞においてキメラ化を起こしてその個体の生涯にわたってアレルゲン誘導体を生成することになるリスクを負うことなく、個人に投与又は移植することができる。
【0054】
本発明に係る方法は、いかなる種のアレルゲンに由来するポリペプチドを用いて行ってもよい。アレルゲンは、以下からなる群より選択されることが好ましい:Amb a 1,Amb a 2,Amb a 3,Amb a 5,Amb a 6,Amb a 7,Amb a 8,Amb a 9,Amb a 10,Amb t 5,Art v 1,Art v 2,Art v 3,Art v 4,Art v 5,Art v 6,Hel a 1,Hel a 2,Hel a 3,Mer a 1,Che a 1,Che a 2,Che a 3, Sal k 1,Cat r 1,Pla l 1,Hum j 1,Par j 1,Par j 2,Par j 3,Par o 1,Cyn d 1,Cyn d 7,Cyn d 12,Cyn d 15,Cyn d 22w,Cyn d 23,Cyn d 24,Dac g 1,Dac g 2,Dac g 3,Dac g 5,Fes p 4w,Hol l 1,Lol p 1,Lol p 2,Lol p 3,Lol p 5,Lol p 11,Pha a 1,Phl p 1,Phl p 2,Phl p 4,Phl p 5,Phl p 6,Phl p 11,Phl p 12,Phl p 13,Poa p 1,Poa p 5,Sor h 1,Pho d 2,Aln g 1,Bet v 1,Bet v 2,Bet v 3,Bet v 4,Bet v 6,Bet v 7,Car b 1,Cas s 1,Cas s 5,Cas s 8,Cor a 1,Cor a 2,Cor a 8,Cor a 9,Cor a 10,Cor a 11,Que a 1,Fra e 1,Lig v 1,Ole e 1,Ole e 2,Ole e 3,Ole e 4,Ole e 5,Ole e 6,Ole e 7,Ole e 8,Ole e 9,Ole e 10,Syr v 1,Cry j 1,Cry j 2,Cup a 1,Cup s 1,Cup s 3w,Jun a 1,Jun a 2,Jun a 3,Jun o 4,Jun s 1,Jun v 1,Pla a 1,Pla a 2,Pla a 3,Aca s 13,Blo t 1,Blo t 3,Blo t 4,Blo t 5,Blo t 6,Blo t 10,Blo t 11,Blo t 12,Blo t 13,Blo t 19,Der f 1,Der f 2,Der f 3,Der f 7,Der f 10,Der f 11,Der f 14,Der f 15,Der f 16,Der f 17,Der f 18w,Der m 1,Der p 1,Der p 2,Der p 3,Der p 4,Der p 5,Der p 6,Der p 7,Der p 8,Der p 9,Der p 10,Der p 11,Der p 14,Der p 20,Der p 21,Eur m 2,Eur m 14,Gly d 2,Lep d 1,Lep d 2,Lep d 5,Lep d 7,Lep d 10,Lep d 13, Tyr p 2,Tyr p 13,Bos d 2,Bos d 3,Bos d 4,Bos d 5,Bos d 6,Bos d 7,Bos d 8,Can f 1,Can f 2,Can f 3,Can f 4,Equ c 1,Equ c 2, Equ c 3,Equ c 4,Equ c 5,Fel d 1,Fel d 2,Fel d 3,Fel d 4,Fel d 5w,Fel d 6w,Fel d 7w,Cav p 1,Cav p 2,Mus m 1,Rat n 1,Alt a 1,Alt a 3,Alt a 4,Alt a 5,Alt a 6,Alt a 7,Alt a 8,Alt a 10,Alt a 12,Alt a 13,Cla h 2,Cla h 5,Cla h 6,Cla h 7,Cla h 8,Cla h 9,Cla h 10,Cla h 12,Asp fl 13,Asp f 1,Asp f 2,Asp f 3,Asp f 4,Asp f 5,Asp f 6,Asp f 7,Asp f 8,Asp f 9,Asp f 10,Asp f 11,Asp f 12,Asp f 13,Asp f 15,Asp f 16,Asp f 17,Asp f 18,Asp f 22w,Asp f 23,Asp f 27,Asp f 28,Asp f 29,Asp n 14,Asp n 18,Asp n 25,Asp o 13,Asp o 21,Pen b 13,Pen b 26,Pen ch 13,Pen ch 18,Pen ch 20,Pen c 3,Pen c 13,Pen c 19,Pen c 22w,Pen c 24,Pen o 18,Fus c 1,Fus c 2,Tri r 2,Tri r 4,Tri t 1,Tri t 4,Cand a 1,Cand a 3,Cand b 2,Psi c 1,Psi c 2,Cop c 1,Cop c 2,Cop c 3,Cop c 5,Cop c 7,Rho m 1,Rho m 2,Mala f 2,Mala f 3,Mala f 4,Mala s 1,Mala s 5,Mala s 6,Mala s 7,Mala s 8,Mala s 9,Mala s 10,Mala s 11,Mala s 12,Mala s 13,Epi p 1,Aed a 1,Aed a 2,Api m 1,Api m 2,Api m 4,Api m 6,Api m 7,Bom p 1,Bom p 4,Bla g 1,Bla g 2,Bla g 4,Bla g 5,Bla g 6,Bla g 7,Bla g 8,Per a 1,Per a 3,Per a 6,Per a 7,Chi k 10,Chi t 1−9,Chi t 1.01,Chi t 1.02,Chi t 2.0101,Chi t 2.0102,Chi t 3,Chi t 4,Chi t 5,Chi t 6.01,Chi t 6.02,Chi t 7,Chi t 8,Chi t 9,Cte f 1,Cte f 2,Cte f 3,Tha p 1,Lep s 1,Dol m 1,Dol m 2,Dol m 5,Dol a 5,Pol a 1,Pol a 2,Pol a 5,Pol d 1,Pol d 4,Pol d 5,Pol e 1,Pol e 5,Pol f 5,Pol g 5,Pol m 5,Vesp c 1,Vesp c 5,Vesp m 1,Vesp m 5,Ves f 5,Ves g 5,Ves m 1,Ves m 2,Ves m 5,Ves p 5,Ves s 5,Ves vi 5,Ves v 1,Ves v 2,Ves v 5,Myr p 1,Myr p 2,Sol g 2,Sol g 4,Sol i 2,Sol i 3,Sol i 4,Sol s 2,Tria p 1,Gad c 1,Sal s 1,Bos d 4,Bos d 5,Bos d 6,Bos d 7,Bos d 8,Gal d 1,Gal d 2,Gal d 3,Gal d 4,Gal d 5,Met e 1,Pen a 1,Pen i 1,Pen m 1,Pen m 2,Tod p 1,Hel as 1,Hal m 1,Ran e 1,Ran e 2,Bra j 1,Bra n 1,Bra o 3,Bra r 1,Bra r 2,Hor v 15,Hor v 16,Hor v 17,Hor v 21,Sec c 20,Tri a 18,Tri a 19,Tri a 25,Tri a 26,Zea m 14,Zea m 25,Ory s 1,Api g 1,Api g 4,Api g 5,Dau c 1,Dau c 4,Cor a 1.04,Cor a 2,Cor a 8,Fra a 3,Fra a 4,Mal d 1,Mal d 2,Mal d 3,Mal d 4,Pyr c 1,Pyr c 4,Pyr c 5,Pers a 1,Pru ar 1,Pru ar 3,Pru av 1,Pru av 2,Pru av 3,Pru av 4,Pru d 3,Pru du 4,Pru p 3,Pru p 4,Aspa o 1,Cro s 1,Cro s 2,Lac s 1,Vit v 1,Mus xp 1,Ana c 1,Ana c 2,Cit l 3,Cit s 1,Cit s 2,Cit s 3,Lit c 1,Sin a 1,Gly m 1,Gly m 2,Gly m 3,Gly m 4,Vig r 1,Ara h 1,Ara h 2,Ara h 3,Ara h 4,Ara h 5,Ara h 6,Ara h 7,Ara h 8,Len c 1,Len c 2,Pis s 1,Pis s 2,Act c 1,Act c 2,Cap a 1w,Cap a 2,Lyc e 1,Lyc e 2,Lyc e 3,Sola t 1,Sola t 2,Sola t 3,Sola t 4,Ber e 1,Ber e 2,Jug n 1,Jug n 2,Jug r 1,Jug r 2,Jug r 3,Ana o 1,Ana o 2,Ana o 3,Ric c 1,Ses i 1,Ses i 2,Ses i 3,Ses i 4,Ses i 5,Ses i 6,Cuc m 1,Cuc m 2,Cuc m 3,Ziz m 1,Ani s 1,Ani s 2,Ani s 3,Ani s 4,Arg r,Asc s 1,Car p 1,Den n 1,Hev b 1,Hev b 2,Hev b 3,Hev b 4,Hev b 5,Hev b 6.01,Hev b 6.02,Hev b 6.03,Hev b 7.01,Hev b 7.02,Hev b 8,Hev b 9,Hev b 10,Hev b 11,Hev b 12,Hev b 13,Hom s 1,Hom s 2,Hom s 3,Hom s 4,Hom s 5及びTrip s 1。
【0055】
特に、Phl p 1,Phl p 2,Phl p 5,Phl p 6,Der p 1,Der p 2,Der p 5,Der p 7,Der p 21,Fel d 1,Bet v 1,Ole e 1,Par j 2,Can f 1及びCan f 2のアレルゲンが好ましく用いられる。
【0056】
本発明に係る方法において用いられるアレルゲンの誘導体は、低アレルギー性であることが好ましい。アレルギー反応又は他の副作用が発生するリスクを低減した安全なワクチン接種が保障できるのは、低アレルギー性の分子を用いたときのみである。
【0057】
本発明に係る方法によって得られる造血細胞は、免疫系にポリペプチドが曝露されるように、細胞外にアレルゲンの誘導体を分泌することができる。しかしながら、少なくとも1つの膜貫通領域を有するようにアレルゲンの誘導体を設けることも、造血細胞自体が、免疫系に面する表面にアレルゲンの誘導体を提示ことができるため、有利である。そのため、少なくとも1つのポリペプチドは、分泌シグナル配列、膜アンカー領域及び/又は膜貫通領域に融合されている。
【0058】
しかしながら、もちろんのこと、アレルゲンの誘導体を別のペプチド又はポリペプチドに融合させることも可能である。このことによって、免疫刺激効果又は治療効果を得ることができる。
【0059】
DNAベクター、DNA媒体,ポリペプチドアンカー媒体又はウイルスは、化学的方法、好ましくはカチオン性脂質及びカチオン性ポリマーを用いた方法、物理的方法、好ましくは粒子衝突、マイクロインジェクション及びエレクトロポレーションによる方法、細胞表面受容体若しくは多量のリン脂質とのウイルス外被の相互作用によるウイルス法によって、造血細胞に導入されることが好ましい。
【0060】
本発明の別の様態は、アレルゲンに由来するポリペプチドをコードする少なくとも1つの核酸分子を有する哺乳類ウイルスベクターDNAに関する。アレルゲンに由来するポリペプチドをコードする少なくとも1つの核酸分子を有する哺乳類ウイルスベクターDNAにおいて、少なくとも1つのポリペプチドは、分泌シグナル配列、膜アンカー領域、及び/又は膜貫通領域に融合されている。
【0061】
ウイルスベクター及び媒体は、哺乳類細胞を感染させたり、アレルゲンの誘導体をコードするDNA分子を形質導入したりするために、通常用いられている。これらのベクターには、コードDNA分子を細胞にうまく形質導入するために必要なベクター因子を付加的に含んでいてもよい。モロニーマウス白血病系レトロウイルスベクター又はHIV−1系レンチウイルスベクターが、哺乳類細胞感染に一般的に用いられている(Sinn,PL et al., Gene Therapy 12 (2005):1089-1098)。
【0062】
ベクターは、モロニーマウス白血病レトロウイルスの末端反復配列(LTR)若しくは骨髄増殖性肉腫ウイルス(MPSV)の末端反復配列プロモーターエンハンサーエレメントを有していることが好ましい。あるいは、アルブミンプロモーター又はサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター等のプロモーターを選択することによって、組織又は細胞特異的長期発現を容易にすることができる。あるいは、エピソームベクターが、例えばEBVもしくはSV40の複製の起点又はヒト染色体S/MARを有している。
【0063】
本発明の好ましい実施の形態によれば、アレルゲンは、Phl p 1,Phl p 2,Phl p 5,Phl p 6,Der p 1,Der p 2,Der p 5,Der p 7,Der p 21,Fel d 1,Bet v 1,Ole e 1,Par j 2,Can f 1 及びCan f 2からなる群より選択される。
【0064】
ベクターは、いかなる公知のアレルゲンの誘導体を有していてもよい。
【0065】
アレルゲンの誘導体は、低アレルギー性であることが好ましい。
【0066】
本発明のさらに別の様態は、本発明に係る方法によって得られる造血細胞に関する。
【0067】
膜アンカー領域又は膜貫通領域は、このような細胞膜に融合していることが好ましい。
【0068】
本発明の好ましい実施の形態によれば、上記少なくとも1つのポリペプチドは、細胞膜の細胞外側に結合している。
【0069】
本発明の他の好ましい実施の形態によれば、造血細胞は、本発明に係る哺乳類ウイルスベクターDNAを含んでいる。
【0070】
造血細胞は、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、造血幹細胞、好酸球、T細胞、B細胞、NK細胞及び樹状細胞からなる群より選択されることが好ましい。
【0071】
本発明の他の形態は、アレルギーの治療又は予防のための医薬の製造に、本発明に係るベクターDNA又は宿主細胞を使用することに関する。
【0072】
本発明の医薬は、アレルギーを患う又は患うリスクのある個体に対して投与することができる。本発明の医薬は、自家造血細胞を含んでいることが好ましい。したがって、治療のはじめに、個体から造血細胞を単離し、本発明のDNAベクターをトランスフェクトし、細胞を取り出した同じ個体に投与することを意味する。
【0073】
本発明の他の形態は、本発明に係るベクターDNA又は宿主細胞を有する製剤ソ生物に関する。
【0074】
本発明は、アレルギーの予防及び治療のための方法を提供し、次の工程を含んでいることを特徴としている:
−1つ以上のアレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片を用意し、
−上記アレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片を、自家構造(造血細胞等)に提示するために、アレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片を、自家構造に直接取り付ける、又は自家構造に発現させることによって、アレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片を処理し、
−アレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片、を含む自家構造を個体へ移植し、そのアレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片に対する特異的な非応答性を誘引する。
【0075】
本方法は、被提供者内にアレルゲンを保持した多数の自家構造(造血細胞等)を存在させることにつながる。被提供者に、改変した自家構造を長期にわたって存在させることは、この方法を成功させる上で必要不可欠であると考えられる。
【0076】
本方法は、個体において、他の全ての生理的免疫機能を不安定にすることなく、1つ以上のアレルゲンに対して特異的な免疫非応答性を得るための方法を提供する。このいわゆる「寛容状態」は、数々の実験結果によって立証されているとおり、特に強固である。これによって、いかなる個体において発生し得る生理的因子(感染等)によっても、本方法によって得られた寛容は、容易に破壊されることはないという利点が得られる。別の主な利点は、寛容が非常に長期的、おそらく生涯続くという点である。この方法は、単一の野生型アレルゲン、ハイブリッド分子(2つ以上のアレルゲン又はアレルゲンの誘導体)、T細胞エピトープを保持する低アレルギー性の誘導体、ペプチドを含有するT細胞エピトープ、又はB細胞エピトープ由来のペプチド(Linhart and Valenta. Curr Opin Immunol 17: 646-655, 2005に観察される)に対する寛容を得るのに用いることができる。
【0077】
本方法は、予防方法及び治療方法の2つの方法において用いることができる。両方の方法において、本発明の方法は、生涯的にアレルゲン特異的寛容を誘引するために用いられる。
【0078】
−予防方法:産業化された国におけるアレルギーの罹患率は25%を超えており、そこからさらに上昇している。さらに、深刻なアレルギーを発症するリスクが特に高い新生児を識別する精度の向上が可能となってきている。そのため、高いリスクを負った新生児、又はゆくゆくは通常のリスクを負った一般集団が、アレルギーの進行を予防する方法の恩恵を受ける個体の見込み群であるといえる。アレルゲンに対する感作は、通常であれば出生後数年以内に発生する。そのため、予防的処置の理想的な時期は、出生後まもなくとなる。一つの可能性として、未成熟造血細胞(造血幹細胞等)を個体から得ること(例えば、他の目的で現在頻繁に行われている、出生時に臍帯血を採取し、保存すること)が挙げられる。これらの細胞又はそのサブセットは、目的のアレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片を、挿入又は連結させることによって、in vitro(GMP条件下)において処理される。これらの改変された細胞は、次に、個体が適切に準備された後、その同一個体に再導入される(静脈注入等を介して)。あるいは、成熟細胞又は自家構造を、アレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片として改変するか、これらの媒体として用いて、その後上記と同様に同一個体に再導入されてもよい。
【0079】
−治療アプローチ:I型アレルギーのいかなる年齢の患者、特に深刻又は生命を脅かすようなI型アレルギーの亜型の患者が、治療方法として本発明の方法を用いる候補者である。この個体からは、造血細胞又はその他の種類の細胞が得られる(例えば、日常的に他の目的で臨床的に用いられる技術を用いて、骨髄又は移動性末梢血白血球を採取する)。これらの細胞又はその亜型は、遺伝子組み換えによってin vitroで処理され、目的のアレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片が挿入される。あるいは、成熟細胞又は自家構造(抗体等)を、アレルゲン又はペプチドと組み換え又は連結してもよい。これらの組み換えられた細胞又は自家構造は、次に同一個体に、その個体が適切に準備された後に、再導入される(例えば、静脈注入又は皮下もしくは経口を介して投与される)。
【0080】
本発明において、アレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片が形質導入された造血細胞を移植することによって、分子キメラ化(すなわち、組換え自家構造を存在させること)を誘引し、その結果として形質導入されたアレルゲンに対する永久的で強固な寛容が得られる。
【0081】
本発明の好ましい実施の形態によれば、アレルゲン特異的抗体(IgE亜型を含む)の進行の予防、アレルギー媒介物質の放出予防、アレルゲン特異的T細胞反応性の予防、及びアレルギー皮膚反応の予防を、動物モデルにおける生体内実験で確立することができた。
【0082】
アレルゲンに対する寛容は、遺伝子組み換え後に組換えアレルゲンを発現する、遺伝子的に同質な(臨床環境における自家状況に対応して遺伝子的に同一な)造血幹細胞の移植を通した分子キメラ化によって得られる。このマウスモデルでは、寛容が結果として生じ、I型アレルギーの進行を防止する。
【0083】
本技術は、治療方法だけでなく、予防方法としても使用できる。
【0084】
深刻なアレルギーに進展するリスクを負っていると認識されている個体は、I型アレルギーを防止するべく、本技術を用いて予防的に処置を受けてもよい。例えば、保存された臍帯血細胞から得られた血球を精製し、前駆細胞を得てもよい(CD34ポジティブ細胞を選別する等)。骨髄細胞の単離及びCD34ポジティブ前駆細胞の精製は、選択肢の1つとなり得る。単離された自家細胞又は遺伝子的に同一な個体からの細胞を、サイトカインの存在下で培養し、アレルゲン導入媒体で数回処理してもよい。これらの媒体は、レトロウイルス導入遺伝子融合組換え粒子又は他のアレルゲン導入媒体であってもよい。遺伝子的に組み換えられて培養された細胞は、少なくとも一時的に、表面にアレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片を含むか、発現するか、又はこれらのアレルゲンを分泌する。
【0085】
遺伝子的に組み換えられた細胞は、適切に事前処置された個体に静脈から注入される。アレルゲンが発現することで、アレルゲンを自家タンパク質のように認識し、その結果として寛容が引き起こされる。個体は、導入されたアレルゲンを造血細胞の表面に発現するか、導入されたアレルゲンを分泌する。導入されたアレルゲンを発現する細胞の存在は、分子キメラ化として知られている。分子キメラ化によって、導入されたアレルゲンに対して長期的に寛容となるように誘引される。そのため、上記アレルゲンに対して寛容な個体がアレルゲンと繰り返し接触したとしても、I型アレルギーは進行しない。下記の実施例部分では、好ましい方法が示されている。
【0086】
アレルギー患者の治療では、例えばG−CSF(顆粒球コロニー刺激因子)で刺激を与えられた自家移動性末梢血白血球が単離され、収集される。自家骨髄細胞を収集してもよい。例えばCD34ポジティブ前駆細胞のような細胞を精製してもよい。これらの細胞を、生体外においてサイトカイン存在下で培養し、幾度かにわたってアレルゲン導入媒体で処置してもよい。アレルゲンの発現は、例えばフローサイトメトリーによって判断され、アレルゲン保持細胞は静脈注入によって前処理された患者に導入される。分子キメラ化は、白血球におけるアレルゲンの発現により観察することができる。
【0087】
本発明は以下の実施例や図面によってさらに説明されるが、本発明はこれらの実施例や図面に特に制限されない。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】図1は、分泌タンパク質(A)のためのシグナル配列、及び膜アンカータンパク質(B)のための付加的な膜貫通領域(TM)に誘導したPhl p 5及びeGFPをコードするMMP系レトロウイルスベクターを示す図である。LTRは末端反復配列を示し、SDはスプライシングドナーを示し、SAはスプライシング受容体を示している。開始コドンはNcoI部位に挿入されており、停止コドンはBamHI又はBglII部位の直前に挿入されている。
【図2】図2は、生体内におけるアレルゲン特異的寛容を誘引するための実験的なプロトコルを示す図である。Balb/c被提供者に、8 Gy TBI(全身放射線照射)及びT細胞枯渇抗体(抗CD4及び抗CD8モノクローナル抗体)で前処理し、アレルゲンが形質導入されたBM細胞(iv)を、静脈を介して移植した。アレルゲンが形質導入されたBMの移植後、マウスに抗CD40L mAbを与えた。BM移植(BMT)から6,9,12及び22週間後、組換えPhl p 5を5μg、及び水酸化アルミニウムを含む組換えBet v 1を5μg、マウスの皮下に注入した(s.c.)。それぞれの免疫処理の前に、分析用の血清を得るために、マウスから採血した。BM移植から30〜40週間後に、マウスを処分した。
【図3】図3は、レトロウイルスの形質導入及び培養後の、骨髄細胞におけるPhl p 5(A)及びeGFP(B)の発現率を示す図である。骨髄細胞を、VSV−Phl p 5−TM、又はVSV−eGFP−TMで形質導入するか、偽形質導入した。形質導入後、偽形質導入した骨髄細胞及びPhl p 5−TMを形質導入した細胞を、Phl p 5特異的ビオチン化抗体及びフィコエリトリン標識ストレプトアビジン(A)で染色し、フローサイトメトリーで分析した。VSV−eGFP−TMを形質導入した骨髄細胞は、染色せずに分析し、形質導入していない骨髄細胞(B)と比較した。
【図4】図4は、様々な白血球系統の中で、長期的に安定してPhl p 5のキメラ化のレベルの高さを示す図である。末梢白血球(WBC)のサブセットのうちのPhl p 5ポジティブ細胞の割合を、BM移植後の複数の時点において、2色フローサイトメトリーで判断した。キメラ化の割合を、平均(n=3)で示した。末梢血白血球を、系統特異的フルオレセインイソシアネート接合抗体及びPhl p 5特異的抗体で染色した。複数の系統における分子キメラ化の実質的なレベルの長期的な持続性は、もともとの造血幹細胞に生体外でうまくPhl p 5を形質導入したことを示している。□はCD4を示し、●はCD8を示し、○はBを示し、黒四角は単球及び顆粒球を示している。Phl p 5ポジティブ細胞の割合を、2色フローサイトメトリーで判断した。
【図5A】図5は、Phl p 5キメラの血清における、検出可能なPhl p 5特異的抗体レベルの不在を示す図である。血清内のアレルゲン特異的(Phl p 5及びBet v 1)IgG1(A)及びアレルゲン特異的IgE(B)レベルを、ELISAを用いて、BM移植後の複数時点に測定した。免疫前レベル(pi)を、1回目の感作の前に測定した。2つの異なる実験サンプルをプールした。1つ目の実験を40週で終了し、2つめの実験を29週で終了した。Phl p 5を形質導入したBMを移植したマウス群(n=10)、偽形質導入した(n=3)BMを移植したマウス群、及び感作した形質導入していないマウス群(n=10)を分析した。Phl p 5を形質導入したBMを移植したマウスでは、分析中のいかなる時点においても、Phl p 5特異的IgG1及びIgEが検出されなかった。アレルゲンBet v 1を制御する抗体の発達は、影響を受けずに発生した。このことにより、寛容の誘引状態の特異性が示された。
【図5B】図5は、Phl p 5キメラの血清における、検出可能なPhl p 5特異的抗体レベルの不在を示す図である。血清内のアレルゲン特異的(Phl p 5及びBet v 1)IgG1(A)及びアレルゲン特異的IgE(B)レベルを、ELISAを用いて、BM移植後の複数時点に測定した。免疫前レベル(pi)を、1回目の感作の前に測定した。2つの異なる実験サンプルをプールした。1つ目の実験を40週で終了し、2つめの実験を29週で終了した。Phl p 5を形質導入したBMを移植したマウス群(n=10)、偽形質導入した(n=3)BMを移植したマウス群、及び感作した形質導入していないマウス群(n=10)を分析した。Phl p 5を形質導入したBMを移植したマウスでは、分析中のいかなる時点においても、Phl p 5特異的IgG1及びIgEが検出されなかった。アレルゲンBet v 1を制御する抗体の発達は、影響を受けずに発生した。このことにより、寛容の誘引状態の特異性が示された。
【図6】図6は、Phl p 5キメラにおける、好塩基球脱顆粒実験を示している。アレルゲン特異的β−ヘキソサミニダーゼ放出を測定する、ラット好塩基球白血病(RBL)実験を、BM移植から数週間後に、図5において説明した群に対して行った。Phl p 5キメラ(n=3)において、特異的な好塩基球脱顆粒は検出できなかった。一方で、Bet v 1特異的β−ヘキソサミニダーゼ放出はコントロール群(偽形質導入した群:n=3;形質導入しなかった群:n=5)と同様であった。
【図7】図7は、Phl p 5キメラにおける、皮膚プリックテストでのPhl p 5に対する寛容を示す図である。Phl p 5及びBet v 1に対して免疫した、形質導入していないマウスの代表的な皮膚薄片(A)と、Phl p 5及びBet v 1に対して免疫したPhl p 5 キメラマウスの代表的な皮膚薄片(B)とを示した。ネガティブコントロールとして、未処理Balb/cマウスにPBSのみを皮下に注射した(C)。rPhl p 5、rBet v 1、肥満細胞脱顆粒化合物48/80、及びPBSに対する皮膚反応を、皮下注射から20分後に、腹部皮膚の内部で測定した。Dは、皮下注射の一覧表を示している。
【図8】図8は、Phl p 5キメラにおける、Phl p 5特異的T細胞感作の予防について示す図である。様々な群のマウスに由来する脾臓細胞における、生体外でのリンパ球増殖を、移植後29週又は40週において測定した(培地との反応性に関して、SI=刺激指数として示している)。(A)の図では、脾臓細胞を2μg/mlのrPhl p 5で刺激し、(B)の図において、悲壮細胞を2μg/mlのrBet v 1で刺激した。Phl p5を形質導入したキメラは、免疫されたBalb/cマウスと比べて、Phl p 5の刺激に対する応答で増殖に著しい減少が見られたが、Bet v 1の刺激に対する応答では共に強い増殖が見られた。
【図9】図9は、シグナルペプチド(S)及び膜貫通領域(TMD)に融合したBet v 1をコードするMMP系レトロウイルスベクターであるMMP−Bet v 1−TM及びIRESeGFPに融合した導入遺伝子の構成(A)、MMP−Bet v 1−TM−IRESeGFP(B)、さらには空のコントロールベクターであるMMP−IRESeGFP(C)を示す図である。LTRは末端反復配列を示し、SDはスプライシングドナーを示し、SAはスプライシング受容体を示している。開始コドン及び停止コドンは、制限部位NcoI及びXhoIと共に挿入した。Bet v 1は、臨床的に関連性の高い主要なシラカンバ花粉アレルゲンである。Bet v 1は、Phl p 5と関連性を有さない。
【図10】図10は、フローサイトメトリーで測定したGFPポジティブNIH 3T3細胞又はBet v 1ポジティブNIH 3T3細胞の割合を示す図である。グレーの線は、レトロウイルスベクターVSV−Bet v 1−TM−GFPで形質導入した細胞を示している。黒線は、コントロールとして未処理のNIH 3T3細胞を用いたものを示している。形質導入した細胞の94.5%がGFPポジティブであり(A)、55.6%がBet v 1特異的抗体によって検出されるBet v 1を発現した(B)。
【図11】図11は、Bet v 1を形質導入した骨髄細胞を移植する生体内実験の、実験計画を示す図である。BALB/cマウスを、抗CD4 mAb、抗CD8 mAbで処理し、放射線に曝露した(実験開始前日(第−1日目)に8Gy)。実験開始日(第0日目)に、形質導入した骨髄細胞を尾静脈内に移植し、さらに抗CD40Lを腹腔内に注入した。末梢白血球(WBC)のうちのBet v 1+細胞のキメラ化の後、続けてフローサイトメトリーを行った。被提供者は、組換えPhl p 5及びrBet v 1の免疫の有効性を、定められた時間に皮下でテストした。
【図12】図12は、フローサイトメトリー(グレー線)によって測定した、GFPポジティブ細胞の形質導入効率を示す図である。骨髄細胞を、VSV−Bet v 1−TM−GFP(A)又はVSV−GFP(B)を用いて形質導入した。ネガティブコントロール(黒線)は、形質導入していない、培養された骨髄細胞を示している。
【図13】図13は、B細胞及び骨髄造血系統(それぞれB220+及びMac1+)のBet v 1+キメラ化の割合を示す図である。VSV−Bet v 1−TM−GFPで形質導入した骨髄(n=4)の被提供者を、図11で説明したプロトコルにしたがって処置した。骨髄細胞を、VSV−Bet v 1−TM−GFPで形質導入した。末梢白血球を、ビオチン化した系統特異的抗体で培養し、ストレプトアビジン−PE−Cy5で染色した。Mac1+系統の5%がGFPポジティブであり、B220+ポジティブ細胞のおよそ3.5%が、フローサイトメトリーにおいてGFP発現を示した。
【実施例1】
【0089】
膜結合型アレルゲン又は分泌アレルゲンのための融合遺伝子を、哺乳類初期骨髄細胞に組み込むための組換えレトロウイルスの生成
a)膜アンカー型及び分泌型のPhl p 5及びGFPを運ぶ組換えレトロウイルスをコードする、レトロウイルスベクターの構築
分泌型Phl p 5分子を有するレトロウイルスベクターを生成するために、オリジナルのPhl p 5シグナル配列を、ネズミ免疫グロブリン(pDisplay,インビトロジェン)のk短鎖のシグナル配列(S)に置き換え、重複PCR法(Ho et al. Gene 77:51-59, 1989)を用いて完全長Phl p 5及びeGFP(ベクター pEGFP−C1,クロンテック)に融合した(Vrtala et al. J Immunol 151(9):4773-4781,1993)(図1A)。膜アンカー型Phl p 5を生成するために、ヒト血小板由来成長因子(pDisplay,インビトロジェン)の膜貫通領域(TMD)を、シグナル配列及びPhl p 5又はeGFPにさらに融合した(図1B)。Phl p 5融合遺伝子の5’末端における制限部位NcoI及び3’末端における制限部位BamHIを、以下のプライマーによって挿入し、またeGFP融合遺伝子の5’末端における制限部位NcoI及び3’末端における制限部位BglII部位を、以下のプライマーによって挿入した(括弧内は配列番号を示す)。
【0090】
【表1】
【0091】
融合した断片を、受容体ベクターpST−Blue 1(Novagen社)にクローンした。ポジティブ導入を、レトロウイルスベクターpMMP(John Iacomini、ボストンより提供)にサブクローンし、その結果、pMMP−Phl p 5及びpMMP−eGFP(図1A)、並びにpMMP−Phl p 5−TM、及びpMMP−eGFP−TM(図1B)を得た。ポジティブクローンを、二本鎖配列で確認した。
【0092】
b)膜アンカー型Phl p 5及びGFPを有する組換え偽型レトロウイルスの産出
リン酸カルシウム沈殿法(Pear et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:8392-8396, 1993)により、293T細胞(John Iacomini、ボストンより提供)を、pMMP−Phl p 5 −TM(又はpMMP−eGFP−TM),pMD.G及びpMLVで、一過性トランスフェクトし、組換えレトロウイルスを生成した。MMPレトロウイルスベクターは、MFGの誘導体であり(Riviere et al. Proc Natl Acad Sci USA 92 (15):6733-6737,1995)、骨髄増殖性肉腫ウイルス(MPSV)末端反復配列プロモーター−エンハンサー因子を含んでいる。これらの転写因子は、造血細胞系統において発現を可能にすることが示されている(Bowtell et al. Mol Biol Med 4(4):229-50.,1987)。ベクターpMD.Gは、水疱性口内炎ウイルスG(VSV−G)外被タンパク質をコードし、VSV−G/レトロウイルス偽型を生成する(Ory et al.Proc Natl Acad Sci USA 93(21):11400-11406,1996)。トランスフェクトのために、10cmディッシュにおいて、10%ウシ胎児血清(FCS)を含むダルベッコ最少必須培地(DMEM)(GIBCO,インビトロジェン)で4.5×106の細胞を培養した。トランスフェクトの4時間前に、培地を、10%FCS及び25mM HEPES(MPバイオメディカルズ、エッシュウェーゲ、ドイツ)を含むイスコフ改変DMEM培地(GIBCO,インビトロジェン)に、入れ替えた。一つのディッシュを、それぞれpMMP−Phl p 5−TM(又はpMMP−eGFP−TM)(10μg)、pMD.G(5μg)及びpMLV(7.5μg)でトランスフェクトした。トランスフェクトから12〜16時間後、培地を、10%FCS及び10mM HEPESを含むDMEMに入れ替えた。トランスフェクトから72時間後にウイルス上清を回収し、超遠心分離機(製品名:Beckman ultracentrifuge)を用いてろ過及び濃縮した。ウイルス粒子の用量設定濃度を、NIH 3T3細胞の感染により測定し、フローサイトメトリーによって分析した。Epics XL−MCL フローサイトメトリー装置(製品名:Beckman Coulter、IL Alliance社、オーストリア)をデータ収集のために用い、Applied Cytometry Systems社製EXPO32 ADC Software(西シェフィールド、英国)を用いてフローサイトメトリーのデータを分析した。Phl p 5の表面発現を同定するために、完全長組換えPhl p 5に対するウサギポリクローナル抗血清(rPhl p 5)を、製造者の指示に従って、タンパク質Gカラム(Pierce)を用いて精製した。精製した抗体をビオチン化し、Phl p 5発現293T細胞で用量設定した。
【実施例2】
【0093】
アレルゲン特異的寛容の誘引
a)実験計画
本実施例の目的は、遺伝的に組み換えた同質遺伝子的造血細胞の移植を通して、I型アレルギーの寛容誘引の方法を確立することである。BM単離の7日前に、ドナーのBalb/cマウスを、5−FUを用いて処置した(Bodine et al.Exp.Hematol 19:206-212,1991)。BMC(骨髄細胞)を以下に示すように単離して培養し、アレルゲン組み込みウイルス粒子で数回処理した。被提供者となるBalb/cマウスに、致死量の放射線を照射し(8 Gy)、抗CD4及び抗CD8モノクローナル抗体で処置した。骨髄移植(BMT)の直後、被提供者にMR1(抗CD40Lモノクローナル抗体)を与えた。マウスには、組換えPhl p 5及びBet v 1 を繰り返し注入し、免疫後BM移植を行った。一連の生体内及び生体外実験によって、免疫寛容を測定した。アレルゲン形質導入白血球(すなわち、分子キメラ化)の存在を確認する上で、マウスから何度か採血し、フローサイトメトリーでキメラ化を決定した(図4)。
【0094】
年齢の一致したメスBalb/cマウスをチャールズ・リバー・ラボラトリーズ社(ドイツ)より得て、特定病原体のない環境で飼育し、8〜12週齢の間、実験用として利用した。以下に示す表では、Phl p 5を形質導入したBalb/cマウスの群における典型的な実験方法を示している。
【0095】
【表2】
【0096】
コントロールとして、第6週、第9週、第12週及び第22週の、rPhl p 5及びrBet v 1で感作した形質導入していないBalb/cマウス、さらに偽形質導入した(空のpMMPベクターで生成したレトロウイルス)マウス、又はVSV−eGFP−TMで形質導入したBMを委嘱したマウスの群も、上記表に記載のPhl p 5で形質導入したマウスと同様に処理した。
【0097】
b)初期骨髄細胞へのVSV−Phl p 5−TMの形質導入、及び前処理したBalb/cマウスへの移植
7日前に5−フルオロウラシル(5−FU;150mg/kg)で処理したマウスのBMCを採取し、単離したBMCを、製造者の指示にしたがって、RetroNectin(登録商標)(タカラバイオ株式会社、滋賀県、日本)でコートした細胞培養プレートで培養した。100ng/ml ヒトインターロイキン−6(製品名:IL−6;R&D Systems、米国)、100ng/ml 組換えマウス幹細胞因子(製品名:SCF;Biosource International社、米国)、50ng/ml 組換えマウストロンボポエチン(製品名:TPO;R&D Systems)、50ng/ml 組換えマウスFlt−3リガンド(R&D Systems)、及び0.1%ゲンタマイシン(MPバイオメディカルズ、ドイツ)の終濃度になるように15%FCS及びサイトカインを含む、DMEM(製品名:GIBCO、インビトロジェン)中でMNCを培養した。形質導入を、37℃で、5%CO2下において、96時間行った。BMCを1mlあたり4×106細胞の密度で培養し、感染多重度(MOI)1〜5でウイルス粒子に感染させた。24時間後、同じ数のウイルス粒子を用いて、細胞の形質導入を繰り返した。48時間後に、細胞をプレートから回収し、遠心分離機にかけ(Heraeus、1000rpm、RT、5分間)、BM培地、サイトカインカクテル中に再懸濁し、上記のようにウイルス粒子に感染させた。24時間後、細胞をプレートから回収し、小球型にして、M199培地(Sigma)、DNAse(Sigma)0.02U/ml、0.08%ゲンタマイシン(MPバイオメディカルズ社、エッシュウェーゲ、ドイツ)、及びHEPES(MPバイオメディカルズ社、ドイツ)10mMに再懸濁した。細胞を計数し、フローサイトメトリーによってPhl p 5又はGFPの表面発現を決定した(図3)。
【0098】
c)前処理したBalb/cマウスへの、Phl p 5を形質導入したBM細胞の移植
形質導入の後、骨髄の機能を廃絶した(例えば、致死量の放射線が照射された)Balb/cマウスに、2〜4×106のBMCを静脈内に注入した。移植の1日前に、マウスの腹腔内に抗CD4抗体(GK1.5)及び抗CD8抗体(2.43)を0.5mg注入した。移植の直後、マウスに抗CD40L(MR1)(Bioexpress、西レバノン、NH、米国より抗体を購入)を0.5mg注入した。
【実施例3】
【0099】
生体内における、レトロウイルスによってコードされたアレルゲンの骨髄由来細胞内における安定した長期キメラ化
形質導入したBMの被提供者細胞におけるのPhl p 5発現を、フローサイトメトリーを用いて調査した。実験された全ての白血球系統は、調査されている間(38週間)、常に高いレベルでPhl p 5を発現していた。キメラ化は約75%まで到達し、典型的な範囲は20〜40%であった(図4)。白血球を、CD4、CD8、B220、Mac−1に対するフルオレセインイソシアネート(FITC)結合抗体(Becton Dickinson、米国)及びフィコエリトリン−ストレプトアビジン(PEA、Becton Dickinson、米国)で発達させたビオチン化Phl p 5により染色した。Phl p 5を形質導入した宿主細胞を区別するために、二色フローサイトメトリーを用い(ヨウ化プロピジウム染色した死細胞を除く)、Tomitaらの文献に記載されている、Phl p 5ポジティブ細胞の比率として、キメラ化を算出した(Blood 83:939-948,1994)。
【実施例4】
【0100】
分子キメラ化を通して確立したアレルゲンに対する寛容
a)Phl p 5 分子キメラ化が、Phl p 5特異的抗体の発達を特異的に妨げる
BM移植マウスを2種類のアレルゲンに感作した6、9、12、及び22週間後、rPhl p 5及びrBet v 1(Biomay、オーストリア)の5μg/マウスを、Al(OH)3(Alu−Gel−S、Serva、ドイツ)に吸収させ、特異性をテストした。免疫化の1日前に、マウスから血液を採取し、血清を得た。血清を、分析されるまでの間、−20°Cで保管した。そして、抗原特異的IgG1及びIgE血清レベルを、ELISA(Vrtala et al., J Immunol 160 (12):6137-6144,1998)を用いて測定し(図5A及び図5B)、Phl p 5を形質導入したマウスが、Phl p 5に対して寛容であるか否かを分析した。組換えPhl p 5及びrBet v 1(5μg/ml)で、96ウェルプレート(Nunc、Maxisorp、デンマーク)をコートし、マウス血清をインキュベートした(IgG1用に1:500、IgE ELISA用に1:20)。IgG1結合又はIgE結合を、ラット抗マウスIgG1(1:1000)又はラット抗マウスIgE(1:1000)(Pharmingen、サンディエゴ、カルフォルニア)、及びHRP標識化したロバ抗ラット抗血清(1:2000)(アマシャム、バッキンガムシャー、英国)を用いて検出した。呈色反応を、ELISA−reader(Wlac、Perkin Elalmer、オーストリア)を用いて、405nmマイナス490nm波長において測定した。偽形質導入した(上述のように生成したウイルス上清と空のpMMPベクター)及び未処理の感作したBalb/cマウスの血清は、Phl p 5で形質導入したマウスと対照的に、高いPhl p 5特異的IgG1及びIgEレベルを示した。Phl p 5を形質導入したBMCを移植した全てのマウスにおいて、Phl p 5特異的IgG1及びIgEを検出可能レベルでは検出しなかったが、Bet v 1特異的IgG1及びIgEは高いレベルを示し、Phl p 5に対して特異的に寛容であることを示した。別の2つの実験においても、同様のデータが得られた。
【0101】
b)Phl p 5寛容マウスにおけるアレルゲン特異的IgE依存性好塩基球脱顆粒の防止
ラット好塩基球白血病(RBL)実験を行い、因子レベルにおける寛容が得られたか否かを調査した。RBL−2H3細胞を96ウェル細胞培養プレート(4×104細胞/ウェル)に入れ、24時間、37℃及び5%CO2下で培養した。そして、細胞を、Phl p 5寛容マウス、偽形質導入したマウス、及び形質導入していない感作したBalb/cマウスのマウス血清(1:50希釈)で培養した。免疫前血清及び各アレルゲン注射後の血清を、RBL細胞で2時間、37°Cで培養した。上清を取り除き、細胞層を2×タイロード緩衝液(137mM NaCl、2.7mM KCl、0.5mMMgCl2、1.8mM CaCl2、0.4mM NaH2PO4、5.6mM D−グルコース、12mM NaHCO3、10mM HEPES、及び0.1%w/v BSA,pH 7.2)で洗浄した。予め荷重した細胞を、37°Cで30分間、rBet v 1のrPhl p 5(ウェル毎に0.03μg)を用いて刺激した。そして、ポジティブコントロールのために、細胞を、1%トリトン X−100を用いて溶解した。この上清を、クエン酸塩緩衝剤(0.1M、pH4.5)内で80μMの4−メチルウンベリフェリル−N−アセチル−β−D−グルコサミド(Sigma−Aldrich、オーストリア)と共に、37°Cで1時間インキュベートし、β−ヘキソサミニダーゼ活性を分析した。グリシン緩衝剤(0.2Mグリシン、0.2MNaCl、pH10.7)を100μl加えることで反応を停止し、蛍光性マイクロプレートリーダー(Wallac、Perkin Elmer、オーストリア)を用いて、λex:360/λem:465nmで蛍光性を測定した。分析結果を、蛍光性単位及び1%トリトン X−100で細胞を溶解した後に放出された合計β−ヘキソサミニダーゼの割合で求めた。
【0102】
図6に示したように、RBL細胞をrPhl p 5で刺激した後のPhl p 5キメラマウスの血清には、好塩基球脱顆粒が見られなかった。偽形質導入したBalb/cマウスは、形質導入していない、感作したBalb/cマウスと同様に、β−ヘキソサミニダーゼの放出を示したが、Phl p 5キメラマウスの血清は、Bet v 1で刺激した際に好塩基球脱顆粒を示し、Phl p 5で形質導入したBMCを移植することによって、アレルゲン特異的寛容が誘引されたことを示した。
【0103】
c)皮膚プリックテストにおけるPhl p 5に対する寛容
皮膚プリックテストを行い、皮膚I型過敏症反応の寛容を調べた。BM移植の30〜40週後、マウスの尾静脈に0.5% Evans blue(Sigma、米国)を100μl注射した。続いて、Phl p 5及びBet v 1(各0.5μg/ml、PBSで希釈)を30μl、毛の剃られた腹部皮膚の皮内に注射した。ポジティブコントロールとして、肥満細胞脱顆粒化合物48/80(20μg/ml、Sigma)を皮内に注射し、ポジティブコントロールとして、PBSを注射した。注射の20分後、マウスを処分し、転化した皮膚において、反応の青色強度を、個々のポジティブコントロールと比較した。図7において、上述したような、形質導入していない免疫化した、典型的なBalb/cマウスの転化腹部皮膚(A)は、Bet v 1及びPhl p 5の両方に対してポジティブ反応を示している。Phl p 5キメラマウスは、Bet v 1に対してはポジティブ反応を示すものの、Phl p 5に対してはポジティブ反応を示さなかった(B)。未処理のBalb/cマウスは、アレルゲンに対して全くポジティブ反応を示さなかった(C)。図7Dは、組換えアレルゲン及びコントロールの注射一覧表を示している。
【0104】
d)アレルゲン特異的T細胞増殖の著しい減少
B細胞寛容に加えてT細胞寛容をテストするべく、T細胞増殖実験を行った。マウスを処分したとき(BM移植後29又は40週目)に、年齢の一致した未処理Balb/cマウス(n=4)、Phl p 5を形質導入した(n=6)、及び形質導入していない(n=7)感作したマウスの脾臓を単離した。脾臓細胞を、1ウェルあたり2×105細胞の濃度で96丸底プレート(Nunc、デンマーク)に播種し、RPMI1640培地(Biochrome AG、ドイツ)において37°C及び5%CO2下で培養し、コンカナバリンA(Con A;0.5μg/ウェル、Sigma)、rPhl p 5(2μg/ウェル)、及びrBet v 1(2μg/ウェル)で刺激した。5日目の培地に、0.5μCi/ウェルのトリチウム化したチミジン(アマシャム)を用いて、16時間振動を与えて回収し、増殖反応をシンチレーションカウンターにより測定した。抗原(cpm)と培地コントロール値(cpm)との平均増殖の比率を求めた(刺激指数[SI])。形質導入していない、感作したBalb/cマウスと比較して、Phl p 5 キメラマウスではほとんど増殖が検出されなかった。Bet v 1で刺激したリンパ球の増殖は、形質導入していない、感作したマウスと比較して、Phl p 5キメラは同様であった(図8)。
【0105】
このモデルでは、同質遺伝子的に修飾した造血細胞を移植することにより、I型アレルギーにおける分子キメラ化及び持続性のある頑強な寛容を誘引できることが示された。このことは、リンパ球増殖実験に見られるT細胞寛容やB細胞寛容(キメラマウスにおいてアレルゲン特異的IgE及びIgG1が生成されない)につながる。重要なことは、生体外及び生体内における好塩基球/肥満細胞の脱顆粒の不足によって判断できるように、エフェクター細胞レベルにおいて寛容が確立されたことである。
【実施例5】
【0106】
膜アンカー型花粉アレルゲンを骨髄細胞に組み込むための組換えレトロウイルスの生成
a)膜アンカー型Bet v 1を運ぶ組換えレトロウイルスをコードするレトロウイルスベクターの構成
以下の実施例は、アレルゲンBet v 1を用いて行った。Bet v 1は主要なアレルゲンである、カンバの花粉である。Bet v 1は、病原性関連(PR)10タンパク質に属し、アレルゲンPhl p 5とは関連性を有さない。組換えレトロウイルスを生成するために、実施例1aに示すように、Bet v 1の全長cDNAを、シグナルペプチド及び膜貫通領域に融合した。そして、NcoI制限部位(3’末端)及びXhoI制限部位(5’末端)を、以下のプライマーを用いて挿入した(括弧内は配列番号を表す)。
【0107】
【表3】
【0108】
最初に、融合断片を受容体ベクターpST−Blue 1(Novagen)にクローンした。ポジティブ挿入を、レトロウイルスベクターpMMP−f2(John Iacomini、ボストンより提供)にサブクローンし、結果としてMMP−Bet v 1−TMを得た(図9A)。また、pMMP−IRESeGFPベクターにも、レポーター遺伝子緑色蛍光タンパク質(GFP)の共発現のためにサブクローンし、MMP−Bet v 1−TM−IRESeGFPを得た(図9B)。導入遺伝子のないMMP−IRESeGFPベクターを、以下の実験においてコントロールとして用いた(図9C)。
【0109】
b)GFP混合膜結合型Bet v 1を有する組換え偽型レトロウイルスの産出
組換えレトロウイルスを、実施例1Bに記載のように生成した。293T細胞に、pMD.G、pMLV、及びコントロールとしての、プラスミドMMP−Bet v 1−TM−IRESeGFP又はMMP−IRESeGFPをコトランスフェクトし、VSV−Bet v 1−TM−GFP及びVSV−GFP(コントロールウイルス)を得た。ウイルス上清を濃縮し、NIH 3T3細胞を用いて用量設定した(実施例1Bに示すように)。Bet v 1をBet v 1に対するウサギポリクローナル抗血清(全長アレルゲン)を用いて検出し、血清をタンパク質Gカラムで精製し、抗体をビオチン化し、VSV−Bet v 1−TM−GFP感染NIH 3T3細胞によって用量設定した。Bet v 1及びGFP発現を、フローサイトメトリーで検出した。細胞表面におけるBet v 1発現を、ビオチン化Bet v 1抗体で検出し、ストレプトアビジン−PE−Cy5で対比染色した(図10B)。
【実施例6】
【0110】
Bet v 1を形質導入した骨髄細胞の移植
5−FU処置したBALB/cマウスの骨髄細胞を、実施例2Bに記載の方法にしたがって回収し、培養した。培養した骨髄細胞の形質導入を、VSV−Bet v 1−TM−GFP又はVSV−GFPを用いて、三度行った。Bet v 1−TMコンストラクトの発現を、フローサイトメトリーでレポーター遺伝子GFPを検出することによって測定し(図12A及びB)、細胞を計数して、2×106の形質導入した細胞を、致死量の放射線を照射した被提供者の尾静脈に注射した。実験計画は図11に示した。第−1日目に、マウスを抗CD4 mAb及び抗CD8 mAbで処理し、放射線照射した(8Gy)。第0日目には、骨髄を尾静脈に移植し、MR1を注射した。骨髄移植から6、9、15、及び22週間後に、形質導入した被提供者の骨髄を、rPhl p 5及びrBet v 1で感作した。観察期間を通して、Bet v 1のキメラ化を、フローサイトメトリーによって、白血球の異なる系統内において決定した。
【実施例7】
【0111】
生体内の骨髄由来細胞における、レトロウイルスにコードされたアレルゲンのキメラ化
被提供者におけるのキメラ化は、骨髄移植の32日後に検出された。1グループのBALB/cマウスを、VSV−Bet v 1−TM−GFPで形質導入したBMCで再構築し、コントロールグループのマウスを、VSV−GFPを形質導入したBMCで再構築した。フローサイトメトリーに基づく決定によれば、全てのマウスがキメラであった。B細胞及び骨髄系統のキメラ化を検出するために、白血球を、ビオチン化Mac1又はB220とともにインキュベートし、ストレプトアビジン−PE−Cy5で対比染色した。キメラ化を、レポーター遺伝子GFPの発現によって検出した。VSV−Bet v 1−TM−GFPを形質導入した被提供者の骨髄において、およそ2%〜5.5%のGFPポジティブ細胞が示された(図13)。VSV−GFPのが形質導入された被提供者においては、19%〜33.5%のキメラ化に到達した。
【図1A】
【図1B】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、アレルゲン及びその誘導体を導入する方法に関し、アレルギー又は過敏症の予防及び治療手段に関する(Coombs RRA, Gell PGH, Clinical Aspects of Immunology, chapter 13. Oxford: Blackwell Science,1997;23-25)。
【0002】
アレルギーは、通常は無害な外来性(すなわち、非自己)物質(「アレルゲン」)に対する反応能力が、遺伝的又は後天的に、特異的に入れ替わることである。アレルギーは、影響を受けた臓器系の炎症反応(皮膚、結膜、鼻、咽頭、気管支粘膜、胃腸管)、アレルギー性鼻炎、結膜炎、皮膚炎、アナフィラキシーショック及び喘息等の即時性病徴、並びに喘息及びアトピー性皮膚炎における後期反応等のような慢性的な疾患症状に関連している。
【0003】
I型アレルギーは、産業化された世界の人口のおよそ20%に影響を及ぼす、遺伝的過敏症疾患を意味している。I型アレルギーの病態生理学的な特徴は、通常無害な抗原(アレルゲン)に対して、免疫グロブリンE(IgE)抗体を産出することである。
【0004】
現在、アレルギーに対する唯一の原因治療法は、アレルゲン特異的免疫療法である。この方法では、特異的アレルゲン無反応を誘発するために、アレルゲンの量を徐々に増やしながら患者に投与する。しかしながら、この方法は、立証されているとおり、例えば部分的にしか有効でなかったり、副作用が起こるリスクがかなり高かったりする等の制限がある。したがって、現在も治療及び予防のための改善された方法は見つかっていない。
【0005】
アレルゲン特異的免疫療法の最大の弱点は、天然のアレルゲン抽出物の利用に依存している点である。これらを、少なくとも工業的に生産できる程度にまで水準を統一することは、たとえ不可能ではなかったとしてもかなり困難である。このような天然のアレルゲン抽出物は、様々なアレルギー性及び非アレルギー性の化合物からなる。したがって、投与された抽出物に特定のアレルゲンが存在していない可能性や、又は、さらにひどい場合には、治療の過程で患者が化合物に対して新たにIgE特異性を発現してしまう可能性がある。抽出物による治療での他の弱点は、生物学的に活性状態のアレルゲン製剤を投与することによって、アナフィラキシー性の副作用が起きる場合があることである。
【0006】
アレルゲンを特徴付ける分野において、分子生物学的技術を応用することによって、全ての関連する環境アレルゲンをコードするcDNAを単離し、組換えアレルゲンを産出することが可能になった。このような組換えアレルゲンを用いることで、生体外で行う診断(すなわち、血清中のアレルゲン特異的IgE抗体の検出)又は生体内検査による、個々の患者の反応形態を決定することができるようになった。この技術をもとに、アレルギー、特にI型アレルギーに対する、患者の感作形態に適合した新しい成分に基づくワクチン接種方法が開発されるかのように思われた。しかし、組換えアレルゲンと天然のそれらの対応物との類似性により、組換えアレルゲンもまた著しいアレルギー活性を有する。組換えアレルゲンが、野生型アレルゲンのアレルギー活性を精確に模倣するため、天然のアレルゲンを用いる免疫療法において、アレルギー活性によって起きる障害が全て、組換えアレルゲンにおいても生じる。免疫療法を改善するためには、アナフィラキシー性の副作用のリスクを低く保ちながらも投与可能なアレルゲンの量を増やせるように、組換えアレルゲンのアレルギー活性を低減する必要がある。
【0007】
別の提案は、遺伝子工学によって低アレルギー性のアレルゲンを産出することである。この提案は、アレルゲンが、わずかなアミノ酸残基のみが異なる、及び/又は低IgE結合能を有する立体構造においてのみ異なるアイソフォームとして、天然に生じ得るという所見に基づいている。例えば、主要なシラカンバ花粉アレルゲンであるBet v 1のオリゴマー形成によって、アレルギー活性が著しく低下した組換え三量体が遺伝子工学的に得られた。あるいは、アレルゲン構造の立体構造上の変化、及びこれによる非連続的なIgEエピトープの分解を引き起こすか、IgE結合能に直接影響を与えるかのいずれかのために、点変異導入することが提案されている(Valenta et al.,Biol.Chem.380(1999),815-824)。
【0008】
アレルゲンをいくつかの部分(例えば、2つの部分)に断片化してアレルゲンの天然様折り畳み構造を失わせることによって、IgE結合能及びアレルギー活性がほぼ完全に失われることも示されている。例えば、Bet v 1について、(Vrtala et al.(J.Clin.Invest.99(1997),1673-1681)、Bet v 4について、Twardosz et al.(BBRC 239(1997),197-204)、Aln g 4について、Hayek et al.(J. Immunol.161(1998),7031-7039)、ウシ鱗屑アレルゲンについて、Zeiler et al.(J.Allergy Clin.Immunol.100(1997),721-727)、Lep d2について、Elfman(Int.Arch.Allergy Immunol.117 (1998),167-173)、Phlp 7について、Westritschnig (J.Immunol.172 (2004), 5684-5692)などが記載されている。主として非連続/立体構造IgEエピトープを含むタンパク質を断片化することは、アレルゲンのIgE結合能の実質的な低下を引き起こす。この知見に基づいて、先行技術では、このような低アレルギー性のアレルゲン断片が、in vivoで防御免疫反応を引き起こし得るか否かの研究が進められてきた(Westritschnig et al.(Curr. Opinion in Allergy and Clin. Immunol. 3(2003),495-500)。
【0009】
現在の免疫療法は、基本的にIgE結合能を低下させたアレルゲンやその誘導体を、経口、粘膜、皮下、又は静脈を介して投与することで行われている。免疫療法は、IgG反応を引き起こす、活性ワクチン接種治療である。このアプローチは、例えばアレルギー反応を完全には取り除く効果がないことや、その効果の持続期間が制限されていることなど、いくつかの欠点に起因した制限がある。
【0010】
WO00/66715は、共同刺激因子受容体が抑制された抗原提示細胞に関する。ここでの抗原提示細胞は、例えば、樹状細胞であり得る。これらの抗原提示細胞は、目的の抗原をコードする遺伝子を運ぶウイルスベクター、微生物ベクター、プラスミド等のような核酸分子を導入することによって処理することができる。これにより、他において通常、IgE反応を引き起こす原因となるアレルゲンとなり得る、抗原を抗原提示細胞に発現させる。これらの細胞中のアレルゲン抗原は、MCH分子において提示される。WO01/51631は、ポリペプチド及びペプチドを組み替え的に発現するように改変した樹状細胞に関する。これらのポリペプチド及びペプチドは抗原性を有し、対応する抗体の形成を引き起こす。このような樹状細胞は、ポリペプチド又はペプチドが関連する疾患を治療するために用いられる。このポリペプチドは、MCH分子において提示される。
【0011】
Sudoweらの文献(Journal of Allergy and Clinical Immunology 117(2006):196-203)では、アレルゲンβ−ガラクトシダーゼで操作的に色づけしたfascinプロモーターを含むベクターを用いた、皮膚由来の樹状細胞のトランスフェクションが記載されている。
【0012】
Amineva S Pらの文献(Official Journal of the Virology Division of the International Union of Microbiological Societies 115(2006):1933-3416)は、アレルギー誘発性タンパク質(オボムコイド)をコードする核酸分子を運ぶピコルナウイルスベクターに関する。このベクターは、アレルギー誘発性タンパク質の細胞間提示に有用な手段であり、アレルギー性感作の予防のために生体内に用いることができるとして記載されている。Forman Daronら(Journal of Immunology 176(2006):3410-3416)、Tian Chaoruiら(Journal of Immunology 173 (2004):7217-7222)及びBagley Jessamynら(Transplantation(Hagerstown)84(2007):38-41)の文献には、臓器移植における許容誘導に関する。IgE媒介アレルギーは、アロ免疫及び自己免疫疾患から根本的に区別される。
【0013】
Nagato Toshihiroら(Journal of Immunology 178(2007):1189-1198)、Akdisら(Journal of Allergy and Clinical Immunology 119(2007):780-789)、及びHochreiter Romanaら(European Journal of Immunology 33(2003):1667-1676)の文献には、許容ストラテジーに関連する免疫機構(特に、制御性T細胞)について、検討している。HSCに基づいたアプローチが、排他的又は優勢に、末梢機構(すなわち、制御性T細胞)ではなく、中央許容機構(すなわち、胸腺内)に依存していることで特徴づけられていることは、ごく一般的に知られている。
【0014】
本発明の目的は、従来のアレルゲン免疫療法とは全く異なる方針に基づいた、アレルギーの予防及び治療に用いられる、改善された方針の手段及び方法を提供することにある。本発明の別の目的は、アレルギー反応の進行をほぼ生涯を通じて予防することが可能な手段を提供することである。
【0015】
そのため、本発明は、少なくとも1つのポリペプチドを、細胞外で発現して提示することによって、造血細胞を生成する方法であって、上記少なくとも1つのアレルゲンに由来する少なくとも1つのポリペプチドをコードするDNA分子又は核酸分子を上記細胞に導入することによって造血細胞を生成し、上記少なくとも1つのポリペプチドは、分泌シグナル配列、膜結合領域及び/又は膜貫通領域に融合している、方法である。
【0016】
本発明の方法によって得られる造血細胞を移植することによって、アレルゲンに対して許容する結果をもたらし、そのアレルゲンに対して生涯にわたって特異的に許容するように誘引される。実施例では、この造血細胞が得られたマウスと、遺伝的に同一のマウスに、当該細胞を移植した。この同系マウスモデルは、ヒトにおいて、ex vivoで自身の細胞を改変し、同一固体に再度移植する(すなわち、自家移植)臨床状況と同等である。
【0017】
本発明は、高度に選択及び標的設定された方法である。導入されたアレルゲンに対して免疫反応が、完全に、特異的に、かつ永久的に発生しないことで特徴づけられる、最も高度な免疫寛容を引き起こすことが、本発明に固有のものである。他の抗原/アレルゲンに対する免疫反応は影響を受けない。文献に記載されている他の方法は、一般に、アレルゲンに対して逸脱した免疫反応を引き起こし、IgEが介在する抗アレルゲン免疫反応を無効にする(臨床的に使用されている免疫療法等)。これと明確に対照的に、実施例では、関連のないアレルゲンに対する免疫反応が影響を受けない状態で、導入した特異的アレルゲンに対する免疫反応が免疫系のいかなるレベルにおいてもない(IgE、IgG1、IgG2a、IgG3、IgA、T細胞応答、エフェクター細胞応答のいずれもない)ことが実証されている。導入されたアレルゲンは自己抗原と同様に被提供者の免疫系によって処理されているため、被提供者に導入されたアレルゲンが繰り返し体外から導入されたとしても、それに対して有害な免疫反応が発生するのを防ぐことができる。
【0018】
造血細胞は、アレルゲンに由来するポリペプチドを生成するように改変された場合に、アレルギーの予防及び治療に有利に用いることができる。本発明に係る造血細胞はポリペプチドを生成及び分泌することが可能であり、免疫システムに曝露されて、T細胞、B細胞、及びエフェクター細胞レベルにおいて、当該ポリペプチドに対して特異的に免疫寛容を誘発する。さらなる有利な点は、造血細胞は、改変された後(自家移植造血細胞)に、個体に移植又は再移植することができる。
【0019】
造血(幹)細胞は特有の特徴を有する(他の細胞種にはない)独特の細胞集団である。すなわち、自己回復能力があり、全ての造血系統(例えば、リンパ球、樹状細胞)に分化することができる。
【0020】
成熟した又は未成熟の造血細胞は、公知の方法で個体から単離することができる。特に、骨髄、臍帯血、又はG−CSF(顆粒球刺激因子)分離末梢血から造血幹細胞又は造血前駆細胞が得ることが好ましい(Shizuru, Negrin and Weissman,Annu Rev Med 56(2005):509-38;Copelan E.A.,N Engl J Med 354(17):1813-1826)。
【0021】
臓器移植の分野では、アロ抗原に対する寛容を誘発する方法として、造血キメラ化の誘発が研究されている(Wekerle and Sykes,Annu Rev Med 2001;52:353-70)。この計画では、ドナーの造血細胞(例えば、骨髄の形態のもの)は、適切に準備された被提供者に移植される。この被提供者は、同一のドナーから臓器移植片の提供も受ける。造血ドナー細胞は、長期的に持続し、被提供者をキメラ化し、特に同種異系のドナーに対して寛容となる。あるいは、被提供者自身の造血細胞が、ドナーMHCアロ抗原を発現するように、in vitoroで改変される(Madsen et al.,Nature 1988,332:161-164;Iacomini et al.Blood 99:4394-4399,2002;Sonntag KC et al.J Clin Invest 107:65-71,2001)。続いて、改変された細胞は元の個体に移植し戻され、いわゆる分子キメラ化及び単一ドナーアロ抗原に対する寛容を誘引する。この方法は、I型糖尿病又は多発性硬化症のマウスモデルにおいて、自己免疫疾患の治療法としても応用されている(Steptoe et al. J Clin Invest 111:1357-1363,2003;Xu et al. Mol Ther 13:42-48,2006)。
【0022】
I型アレルギー反応はアロ免疫及び自己免疫疾患から区別される。これらの区別されたもののそれぞれは、例えば原因及び誘因の相違、並びにエフェクター細胞の種類及びエフェクター機構の相違等、数多くの免疫特性において異なる。その上、アレルギーは全く異なる別の臨床疾患であり、異なる療法を用いて治療される。本発明が得られる以前は、アレルゲンを提示するように改変された自家造血幹細胞の移植は、アレルギーと関連付けて研究も使用もされていない。
【0023】
本発明によれば、上記少なくとも1つのポリペプチドは、分泌シグナル配列、膜アンカー領域、及び/又は膜貫通領域に融合されている。
【0024】
分泌シグナル配列単体、又は分泌シグナル配列と膜アンカー領域もしくは膜貫通領域との組み合わせのいずれかに融合した本発明のポリペプチドは、本発明の少なくとも1つのポリペプチドを細胞外マトリックスに分泌する、又は細胞膜の細胞外側に結合されている本発明の少なくとも1つのポリペプチドを有する、造血細胞の生成を可能にする。このような細胞は、アレルゲンに由来する本発明のポリペプチドを個体の免疫系に提示するのに適している。本発明のポリペプチドは、ポリペプチドが細胞表面に固定されるように、分泌シグナル配列と膜結合領域又は膜貫通領域に融合されているので、が特に有利である。こうすることで、ポリペプチドを細胞から放出することなく、ポリペプチドを免疫系に曝露することができる。その結果、従来の方法に比べて、アレルゲンに対する免疫を確立する細胞をより効率的に得ることができる。
【0025】
分泌シグナル配列、膜アンカー領域、及び膜貫通領域は、当業者に周知のものを用いることが好ましい。(Coloma et al., J Imm Methods 152(1992):89-104;Gronwald et al., Proc Natl Acad Sci USA 85(1988):3435-3439)
本発明において、「少なくとも1つのアレルゲンに由来するポリペプチド」(「アレルゲン誘導体」)とは、アレルゲン又はその断片もしくは誘導体である少なくとも1つのポリペプチドを、DNAベクターのDNA領域がコードしていることを意味する。アレルゲン誘導体は、野生型アレルゲンの誘導体の中で、特にアレルギー誘発性が著しく低下した野生型アレルゲンの誘導体を含んでいる。アレルギー誘発性は、いくつかの手段によって低下させることができ、その手段の全てにおいて、分子内の二硫化ブリッジを分裂させることによってタンパク質の形態を不安定にし、それによって三次元構造を不安定化させることを目的としている。これらの誘導体はT細胞反応性を保持しながらもアレルギー誘発性を低下させることができ、野生型アレルゲンとの結合性においてIgEと競合するアレルゲン特異的IgGを特に誘発する免疫原を、高用量全身投与するのにより適している。したがって、低アレルギー性の誘導体は、療養及び予防目的に適している。
【0026】
アレルゲン誘導体、特に低アレルゲン性ポリペプチドの生成は、ネイティブな配列に変異を導入することにより行われてもよい。これは、以下の方法によって得ることができる。タンパク質の三次元構造に置換、欠失、又は付加を導入する、又はタンパク質が三次元の構成を失うように三次元構造を変性することによって得ることができる。これは、他と同様に、タンパク質を断片的に発現させるか、二硫化ブリッジ形成に関与するシステイン残基を欠失させるか、タンパク質の三次構造が実質的に変性するように残基を付加することにより、得ることができる。
【0027】
低アレルギー性のアレルゲンは、T細胞反応性及び/又は野生型アレルゲンに対する免疫反応を刺激する能力を残しつつ、IgE結合反応性及び/又はそのヒスタミン放出活動を低減又は消滅させるように、変質させることが好ましい。変異アレルゲンのアレルギー誘発性、及び結果としてそのアレルギー誘発性の低下は、ヒスタミン放出活性、又はIgE結合反応性によるいずれかの方法で、野生型と比較されてもよい。。「実質的に低下したアレルギー誘発性」とは、残基IgE結合活性によって計測されたアレルギー誘発性が、ネイティブな無改変又は無変質のタンパク質の活性に比べて最大50%、好ましくは最大20%、より好ましくは最大10%、さらに好ましくは最大5%、さらにより好ましくは5%未満、低下していることを意味する。あるいは,「実質的に」はまた、変異体のヒスタミン放出活性が天然のタンパク質と比べて、少なくとも100倍因子、好ましくは1000倍因子、さらに好ましくは10000倍因子、減少していることを意味する。
【0028】
本発明に係るアレルゲン誘導体は、少なくとも1つのアレルゲン、好ましくは野生型アレルゲンの断片同士をネイティブ配列とは異なる配列で融合させることによって得られる、改造又はモザイクポリペプチドであってもよい(例えば、WO2004/065414参照)。
【0029】
本明細書で用いられる「ポリペプチド」とは、ペプチド結合を介して共有結合された、少なくとも5個(好ましくは少なくとも7個、8個、又は10個)の、アミノ酸残基を有する分子のことである。
【0030】
本明細書において用いる場合、「少なくとも1つのアレルゲンに由来する少なくとも1つのポリペプチド」は、ポリペプチドが、アレルゲンのアミノ酸配列全体又はその断片を有していることを示している。
【0031】
アレルゲンの断片は、その少なくとも1つのアレルゲンの、少なくとも10個、好ましくは少なくとも15個の連続するアミノ酸を有している。さらに、その少なくとも1つのアレルゲンに由来する少なくとも1つのポリペプチドは、アレルゲンに関連する配列又は配列断片と、少なくとも80%(好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、特に100%)の同一性を示す。
【0032】
もちろん、ポリペプチドは、1より多くのアレルゲン又はその断片を融合して有していてもよく、ポリペプチドがIgEと結合しない、又は実質的に結合しない、1以上のT細胞エピトープを有することが好ましい。
【0033】
本発明によれば、「同一性」(「同一」)は、比較時間を通して、2つの最適に位置あわせした配列を比較することによって決定される。比較時間の間、アミノ酸配列の断片は、2つの配列を最適に位置あわせするために、(付加又は失欠を有さない)参考配列と比べて、付加又は失欠(例えば、間隙やはみ出し)を有していてもよい。一般的には、最高次一致が得られるように、配列は位置あわせされている(例えば、Computational Molecular Biology, Lesk, A.M., ed., Oxford University Press, New York,1988;Biocomputing:Informatics and Genome Projects, Smith, D.W., ed., Academic Press, New York, 1993;Computer Analysis of Sequence Data, Part I, Griffin, A.M., and Griffin, H.G., eds.,Humana Press,New Jersey,1994;Sequence Analysis in Molecular Biology, von Heinje, G. , Academic Press,1987;及びSequence Analysis Primer, Gribskov, M. and Devereux, J., eds., M Stockton Press, New York,1991;Carillo et al.(1988) SIAM J Applied Math 48:1073を参照)。
【0034】
いかなる2つのアミノ酸分子においても、例えば、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%「同一」のアミノ配列を有するかどうかは、「FAST A」プログラムのような公知のコンピュータアルゴリズムを用いて、例えば、PearsonらのPNAS USA 85:2444(1988)(他のプログラムは、GCGプログラムパッケージ(Devereux, J., et al., Nucleic Acids Research (1984) Nucleic Acids Res., 12, 387-395)、BLASTP、BLASTN、FASTA(Altschul, S.F., et al., J Molec Biol 215: 403 (1990); Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, ed., Academic Press, San Diego, 1994, and Carilloet al, (1988)SIAM J Applied Math 48 : 1073を有する)に記載のデフォルトパラメータを用いて判断される。例えば、NCBIデータベースのBLASTツールを同一性判断に用いることができる。他の商業的又は公然に提供されているプログラムとして、DNAStarの「MegAlign」プログラム(Madison、WI)及びウィスコンシン大学遺伝子コンピュータグループ(UWG)の「Gap」プログラム(Madison、Wu))が挙げられる。タンパク質及び/又はペプチドの同一性割合は、例えば、GAPコンピュータプログラム(例えばSmith and Waterman(1981)によって改訂された(Adv. Appl. Math.2:482)、Needleman et al.,(1970) J. Mol. Biol. 48:443)を用いて配列情報を比較することで決定することができる。簡単に言えば、GAPプログラムは類似性を、類似する配列記号(すなわち、ヌクレオチド又はアミノ酸)の数を、2つの配列のうちの短い配列にある記号の合計数で割った数として定義している。GAPプログラムのデフォルトパラメーターは、次を含むことができる:(1)単一比較マトリックス(同一性及び非同一性を示す1の値を有する)、及びSchwartz and Dayhoff, eds., ATLAS OF PROTEIN SEQUENCE AND STRUCTURE, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358(1979)に記載のGribskov et al. 14:6745の荷重比較マトリックス;(2)各間隙に3.0のペナルティと、各間隙内の各記号につき、追加で0.10ペナルティ;及び(3)末端間隙にはペナルティ無し。
【0035】
本明細書で用いられているように、「少なくとも80%同一」という表現は、参考アレルゲンに関連して、80から99.99の同一性割合に関する。したがって、本発明のポリペプチドは、また、1以上のアミノ酸修飾(すなわち、置換、欠失、挿入)を含んでいてもよい。
【0036】
80%以上のレベルでの同一性は、100のアミノ酸の試験的ポリペプチドと参考ポリペプチドとにおいて、例示を目的として長さを比較した場合、試験的ポリペプチドのアミノ酸残基の20%(すなわち、100のうちの20)以下が参考ポリペプチドと異なることを示している。このような相違は、アミノ酸配列の全体の長さにわたってランダムに分布された点変異として示すことができる。又は、点変異は、様々な長さの1以上の場所に、可能な最大値、例えば20/100アミノ酸相違(およそ80%同一性)まで集中していてもよい。相違はアミノ酸置換、挿入、又は欠失として定義される。85から90%程度以上の相同又は同一レベルにおいて、結果は、プログラム及び設定された間隙パラメータセットから独立しているべきである。このような高いレベルでの同一性は、しばしばソフトウェアに頼ることなく、容易に評価することができる。
【0037】
造血細胞に導入される核酸又はDNA分子は、少なくとも1つのポリペプチドをコードする一続きの核酸又はDNAを、収容するもしくは含むDNAベクター又は他の核酸運搬媒体であることが好ましい。本発明の方法は、in vitroで行うことが好ましい。
【0038】
本明細書で用いられている「DNAベクター」は、例えば細菌性といったウイルス性、又は非ウイルス性種の、外来性又は異種核酸配列をコードするように設計されたDNA媒体を表している。そのため、この表現には従来の細菌性プラスミドが含まれている。このようなプラスミド又はベクターは、ウイルス又はファージからのプラスミド配列を含むことができる。このようなベクターとして、例えば細菌性プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソーム、イースト染色体成分、及びウイルス(レトロウイルス等)に由来するベクターといった、染色体、エピソーム、及びウイルス由来のベクターが挙げられる。ベクターは、また、例えばプラスミド、ウイルス性及びバクテリオファージの真核性又は原核性遺伝因子、コスミド、並びにファージミドといった、ものを組み合わせたものに由来していてもよい。この表現はまた、1つの細胞から別の細胞へと遺伝子を運搬する非複製ウイルスをも含む。また、例えばポリリシン化合物といった、細胞内の核酸運搬を容易にする非プラスミド化合物及び非ウイルス性化合物も含むように解釈すべきである。そのため、本明細書で用いられる「DNAベクター」という表現は、「DNA媒体」、「ウイルス」、「レトロウイルス」等の表現と交換可能に用いられる。
【0039】
DNAベクターは転写調節因子(又はDNA調節因子)を含んでいてもよい。この転写調節因子は、目的の遺伝子に作動可能に連結されている場合に、その因子に特徴的な方法で目的の遺伝子の転写を変化させることができる。転写調節因子としては、プロモーター、エンハンサー、サプレッサー、転写開始部位、転写終了部位、ポリアデニル化部位等が挙げられる。
【0040】
本発明に係るDNAベクター又はDNA分子を用いて造血細胞を形質転換させるには、異種タンパク質DNAコンストラクトを、宿主細胞染色体DNAに挿入する、または染色体外形態で存在させるかのいずれかに依存したいくつかのシステムを用いることができる。
【0041】
異種タンパク質のDNA配列に作動可能に連結されたプロモーターが、直鎖分子、又はより好ましくは自己複製ができない、閉じられた共有結合環状分子の非複製DNA(又はRNA)分子として造血細胞に導入された場合、導入された配列の一過性発現を通して異種タンパク質が発現する可能性がある。
【0042】
遺伝的に安定した形質転換体は、ベクターシステム又は形質転換システムを含んで構成されていてもよい。このことにより、異種タンパク質のDNAが宿主染色体に統合される。このような統合は細胞内において新たに発生してもよく、又は宿主染色体に機能的に挿入されるベクターを用いた形質転換により補助されて発生してもよい。染色体挿入が可能なベクターは、例えば、レトロウイルスベクター、トランスポゾン、又は染色体におけるDNA配列、特に目的の染色体の挿入部位に異種同型のDNA配列の組込みを促進する他のDNAエレメントが挙げられる。
【0043】
導入されたDNAを染色体に安定して組み込んだ細胞は、所望の配列を有する宿主細胞を選択可能とする1以上のマーカーを導入することによっても、選択される。例えば、マーカーは、例えば抗生物質又は銅等の重金属に対する寛容といったバイオサイドの寛容を提供してもよい。選択可能なマーカー遺伝子は、発現されるようにDNA遺伝子配列に直接結合していてもよく、又は同時トランスフェクションで同じ細胞に導入されてもよい。
【0044】
他の好ましい実施の形態では、導入された配列は被提供者ホストの自己複製可能なプラスミド又はウイルス性ベクターに組み込まれる。以下に説明するように、この目的のために幅広い種類のいかなるベクターを採用することができる。
【0045】
特定のプラスミド又はウイルス性ベクターを選択する際の重要なファクターとして、ベクターを含まない被提供者の細胞中から、ベクターを含む被提供者の細胞を認識及び選択できる容易さ、特定の宿主内におけるベクターの目的の複製数、並びに異なる種類の宿主細胞同士でベクターを入れ替えられることが望ましいかどうか、等が挙げられる。
【0046】
好ましい真核プラスミドは、ウシパピローマウイルス、ワクシニアウイルス、及びSV40に由来するものが含まれる。このようなプラスミドは公知であり、一般に又は市販で入手可能である。プラスミドのコピー数を増幅させ、宿主細胞の染色体にプラスミドを融合させるために、ヘルパーウイルスを用いて同時形質移入することができる哺乳類発現ベクター系がその一例である。(Perkins, A. S. et al., Mol. Cell Biol. 3:1123(1983);クロンテック、米国)。
【0047】
コンストラクトを含むベクター又はDNA配列を発現のために用意した後、トランスフェクション、エレクトロポレーション、又はリポソームを介した運搬等の様々な適した手段によって、DNAコンストラクトを造血細胞に導入する。トランスフェクション実験においては、DEAE−デキストラン又はリン酸カルシウムが好適に用いられる。
【0048】
in vitroでベクターを導入した後、被提供者の細胞を選択培地、すなわち、ベクター含有細胞の培養用に選択された培地で培養される。クローン遺伝子配列が発現することにより、異種タンパク質が生成される。
【0049】
本発明の好ましい実施の形態によれば、造血細胞は単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、造血幹細胞、好酸球、T細胞、B細胞、NK細胞及び樹状細胞からなる群より選択される。
【0050】
アレルゲン又はその断片、もしくは誘導体をコードする核酸分子を有するDNAベクターは、上記の列挙された造血細胞の全ての種類に導入され得る。これら全ての細胞は、アレルゲンに由来するポリペプチドを発現及び分泌することができる。
【0051】
DNAベクターは、好ましくはウイルスベクター、好ましくはレトロウイルスベクター、又はプラスミドベクターである(Papapetrou EP et al., Gene Therapy 12 (2005):118-130)。
【0052】
本発明の好ましい実施の形態によれば、ベクターは、造血細胞に一過性に導入される。
【0053】
ベクターを細胞に一過性に導入することによって、造血細胞からアレルゲン誘導体をコードするDNAを経時的に欠失させることができる。これは、限られた時間しかアレルゲン誘導体の発現が必要でない場合に、特に有利である。例えば、トランスフェクトした造血細胞においてキメラ化を起こしてその個体の生涯にわたってアレルゲン誘導体を生成することになるリスクを負うことなく、個人に投与又は移植することができる。
【0054】
本発明に係る方法は、いかなる種のアレルゲンに由来するポリペプチドを用いて行ってもよい。アレルゲンは、以下からなる群より選択されることが好ましい:Amb a 1,Amb a 2,Amb a 3,Amb a 5,Amb a 6,Amb a 7,Amb a 8,Amb a 9,Amb a 10,Amb t 5,Art v 1,Art v 2,Art v 3,Art v 4,Art v 5,Art v 6,Hel a 1,Hel a 2,Hel a 3,Mer a 1,Che a 1,Che a 2,Che a 3, Sal k 1,Cat r 1,Pla l 1,Hum j 1,Par j 1,Par j 2,Par j 3,Par o 1,Cyn d 1,Cyn d 7,Cyn d 12,Cyn d 15,Cyn d 22w,Cyn d 23,Cyn d 24,Dac g 1,Dac g 2,Dac g 3,Dac g 5,Fes p 4w,Hol l 1,Lol p 1,Lol p 2,Lol p 3,Lol p 5,Lol p 11,Pha a 1,Phl p 1,Phl p 2,Phl p 4,Phl p 5,Phl p 6,Phl p 11,Phl p 12,Phl p 13,Poa p 1,Poa p 5,Sor h 1,Pho d 2,Aln g 1,Bet v 1,Bet v 2,Bet v 3,Bet v 4,Bet v 6,Bet v 7,Car b 1,Cas s 1,Cas s 5,Cas s 8,Cor a 1,Cor a 2,Cor a 8,Cor a 9,Cor a 10,Cor a 11,Que a 1,Fra e 1,Lig v 1,Ole e 1,Ole e 2,Ole e 3,Ole e 4,Ole e 5,Ole e 6,Ole e 7,Ole e 8,Ole e 9,Ole e 10,Syr v 1,Cry j 1,Cry j 2,Cup a 1,Cup s 1,Cup s 3w,Jun a 1,Jun a 2,Jun a 3,Jun o 4,Jun s 1,Jun v 1,Pla a 1,Pla a 2,Pla a 3,Aca s 13,Blo t 1,Blo t 3,Blo t 4,Blo t 5,Blo t 6,Blo t 10,Blo t 11,Blo t 12,Blo t 13,Blo t 19,Der f 1,Der f 2,Der f 3,Der f 7,Der f 10,Der f 11,Der f 14,Der f 15,Der f 16,Der f 17,Der f 18w,Der m 1,Der p 1,Der p 2,Der p 3,Der p 4,Der p 5,Der p 6,Der p 7,Der p 8,Der p 9,Der p 10,Der p 11,Der p 14,Der p 20,Der p 21,Eur m 2,Eur m 14,Gly d 2,Lep d 1,Lep d 2,Lep d 5,Lep d 7,Lep d 10,Lep d 13, Tyr p 2,Tyr p 13,Bos d 2,Bos d 3,Bos d 4,Bos d 5,Bos d 6,Bos d 7,Bos d 8,Can f 1,Can f 2,Can f 3,Can f 4,Equ c 1,Equ c 2, Equ c 3,Equ c 4,Equ c 5,Fel d 1,Fel d 2,Fel d 3,Fel d 4,Fel d 5w,Fel d 6w,Fel d 7w,Cav p 1,Cav p 2,Mus m 1,Rat n 1,Alt a 1,Alt a 3,Alt a 4,Alt a 5,Alt a 6,Alt a 7,Alt a 8,Alt a 10,Alt a 12,Alt a 13,Cla h 2,Cla h 5,Cla h 6,Cla h 7,Cla h 8,Cla h 9,Cla h 10,Cla h 12,Asp fl 13,Asp f 1,Asp f 2,Asp f 3,Asp f 4,Asp f 5,Asp f 6,Asp f 7,Asp f 8,Asp f 9,Asp f 10,Asp f 11,Asp f 12,Asp f 13,Asp f 15,Asp f 16,Asp f 17,Asp f 18,Asp f 22w,Asp f 23,Asp f 27,Asp f 28,Asp f 29,Asp n 14,Asp n 18,Asp n 25,Asp o 13,Asp o 21,Pen b 13,Pen b 26,Pen ch 13,Pen ch 18,Pen ch 20,Pen c 3,Pen c 13,Pen c 19,Pen c 22w,Pen c 24,Pen o 18,Fus c 1,Fus c 2,Tri r 2,Tri r 4,Tri t 1,Tri t 4,Cand a 1,Cand a 3,Cand b 2,Psi c 1,Psi c 2,Cop c 1,Cop c 2,Cop c 3,Cop c 5,Cop c 7,Rho m 1,Rho m 2,Mala f 2,Mala f 3,Mala f 4,Mala s 1,Mala s 5,Mala s 6,Mala s 7,Mala s 8,Mala s 9,Mala s 10,Mala s 11,Mala s 12,Mala s 13,Epi p 1,Aed a 1,Aed a 2,Api m 1,Api m 2,Api m 4,Api m 6,Api m 7,Bom p 1,Bom p 4,Bla g 1,Bla g 2,Bla g 4,Bla g 5,Bla g 6,Bla g 7,Bla g 8,Per a 1,Per a 3,Per a 6,Per a 7,Chi k 10,Chi t 1−9,Chi t 1.01,Chi t 1.02,Chi t 2.0101,Chi t 2.0102,Chi t 3,Chi t 4,Chi t 5,Chi t 6.01,Chi t 6.02,Chi t 7,Chi t 8,Chi t 9,Cte f 1,Cte f 2,Cte f 3,Tha p 1,Lep s 1,Dol m 1,Dol m 2,Dol m 5,Dol a 5,Pol a 1,Pol a 2,Pol a 5,Pol d 1,Pol d 4,Pol d 5,Pol e 1,Pol e 5,Pol f 5,Pol g 5,Pol m 5,Vesp c 1,Vesp c 5,Vesp m 1,Vesp m 5,Ves f 5,Ves g 5,Ves m 1,Ves m 2,Ves m 5,Ves p 5,Ves s 5,Ves vi 5,Ves v 1,Ves v 2,Ves v 5,Myr p 1,Myr p 2,Sol g 2,Sol g 4,Sol i 2,Sol i 3,Sol i 4,Sol s 2,Tria p 1,Gad c 1,Sal s 1,Bos d 4,Bos d 5,Bos d 6,Bos d 7,Bos d 8,Gal d 1,Gal d 2,Gal d 3,Gal d 4,Gal d 5,Met e 1,Pen a 1,Pen i 1,Pen m 1,Pen m 2,Tod p 1,Hel as 1,Hal m 1,Ran e 1,Ran e 2,Bra j 1,Bra n 1,Bra o 3,Bra r 1,Bra r 2,Hor v 15,Hor v 16,Hor v 17,Hor v 21,Sec c 20,Tri a 18,Tri a 19,Tri a 25,Tri a 26,Zea m 14,Zea m 25,Ory s 1,Api g 1,Api g 4,Api g 5,Dau c 1,Dau c 4,Cor a 1.04,Cor a 2,Cor a 8,Fra a 3,Fra a 4,Mal d 1,Mal d 2,Mal d 3,Mal d 4,Pyr c 1,Pyr c 4,Pyr c 5,Pers a 1,Pru ar 1,Pru ar 3,Pru av 1,Pru av 2,Pru av 3,Pru av 4,Pru d 3,Pru du 4,Pru p 3,Pru p 4,Aspa o 1,Cro s 1,Cro s 2,Lac s 1,Vit v 1,Mus xp 1,Ana c 1,Ana c 2,Cit l 3,Cit s 1,Cit s 2,Cit s 3,Lit c 1,Sin a 1,Gly m 1,Gly m 2,Gly m 3,Gly m 4,Vig r 1,Ara h 1,Ara h 2,Ara h 3,Ara h 4,Ara h 5,Ara h 6,Ara h 7,Ara h 8,Len c 1,Len c 2,Pis s 1,Pis s 2,Act c 1,Act c 2,Cap a 1w,Cap a 2,Lyc e 1,Lyc e 2,Lyc e 3,Sola t 1,Sola t 2,Sola t 3,Sola t 4,Ber e 1,Ber e 2,Jug n 1,Jug n 2,Jug r 1,Jug r 2,Jug r 3,Ana o 1,Ana o 2,Ana o 3,Ric c 1,Ses i 1,Ses i 2,Ses i 3,Ses i 4,Ses i 5,Ses i 6,Cuc m 1,Cuc m 2,Cuc m 3,Ziz m 1,Ani s 1,Ani s 2,Ani s 3,Ani s 4,Arg r,Asc s 1,Car p 1,Den n 1,Hev b 1,Hev b 2,Hev b 3,Hev b 4,Hev b 5,Hev b 6.01,Hev b 6.02,Hev b 6.03,Hev b 7.01,Hev b 7.02,Hev b 8,Hev b 9,Hev b 10,Hev b 11,Hev b 12,Hev b 13,Hom s 1,Hom s 2,Hom s 3,Hom s 4,Hom s 5及びTrip s 1。
【0055】
特に、Phl p 1,Phl p 2,Phl p 5,Phl p 6,Der p 1,Der p 2,Der p 5,Der p 7,Der p 21,Fel d 1,Bet v 1,Ole e 1,Par j 2,Can f 1及びCan f 2のアレルゲンが好ましく用いられる。
【0056】
本発明に係る方法において用いられるアレルゲンの誘導体は、低アレルギー性であることが好ましい。アレルギー反応又は他の副作用が発生するリスクを低減した安全なワクチン接種が保障できるのは、低アレルギー性の分子を用いたときのみである。
【0057】
本発明に係る方法によって得られる造血細胞は、免疫系にポリペプチドが曝露されるように、細胞外にアレルゲンの誘導体を分泌することができる。しかしながら、少なくとも1つの膜貫通領域を有するようにアレルゲンの誘導体を設けることも、造血細胞自体が、免疫系に面する表面にアレルゲンの誘導体を提示ことができるため、有利である。そのため、少なくとも1つのポリペプチドは、分泌シグナル配列、膜アンカー領域及び/又は膜貫通領域に融合されている。
【0058】
しかしながら、もちろんのこと、アレルゲンの誘導体を別のペプチド又はポリペプチドに融合させることも可能である。このことによって、免疫刺激効果又は治療効果を得ることができる。
【0059】
DNAベクター、DNA媒体,ポリペプチドアンカー媒体又はウイルスは、化学的方法、好ましくはカチオン性脂質及びカチオン性ポリマーを用いた方法、物理的方法、好ましくは粒子衝突、マイクロインジェクション及びエレクトロポレーションによる方法、細胞表面受容体若しくは多量のリン脂質とのウイルス外被の相互作用によるウイルス法によって、造血細胞に導入されることが好ましい。
【0060】
本発明の別の様態は、アレルゲンに由来するポリペプチドをコードする少なくとも1つの核酸分子を有する哺乳類ウイルスベクターDNAに関する。アレルゲンに由来するポリペプチドをコードする少なくとも1つの核酸分子を有する哺乳類ウイルスベクターDNAにおいて、少なくとも1つのポリペプチドは、分泌シグナル配列、膜アンカー領域、及び/又は膜貫通領域に融合されている。
【0061】
ウイルスベクター及び媒体は、哺乳類細胞を感染させたり、アレルゲンの誘導体をコードするDNA分子を形質導入したりするために、通常用いられている。これらのベクターには、コードDNA分子を細胞にうまく形質導入するために必要なベクター因子を付加的に含んでいてもよい。モロニーマウス白血病系レトロウイルスベクター又はHIV−1系レンチウイルスベクターが、哺乳類細胞感染に一般的に用いられている(Sinn,PL et al., Gene Therapy 12 (2005):1089-1098)。
【0062】
ベクターは、モロニーマウス白血病レトロウイルスの末端反復配列(LTR)若しくは骨髄増殖性肉腫ウイルス(MPSV)の末端反復配列プロモーターエンハンサーエレメントを有していることが好ましい。あるいは、アルブミンプロモーター又はサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター等のプロモーターを選択することによって、組織又は細胞特異的長期発現を容易にすることができる。あるいは、エピソームベクターが、例えばEBVもしくはSV40の複製の起点又はヒト染色体S/MARを有している。
【0063】
本発明の好ましい実施の形態によれば、アレルゲンは、Phl p 1,Phl p 2,Phl p 5,Phl p 6,Der p 1,Der p 2,Der p 5,Der p 7,Der p 21,Fel d 1,Bet v 1,Ole e 1,Par j 2,Can f 1 及びCan f 2からなる群より選択される。
【0064】
ベクターは、いかなる公知のアレルゲンの誘導体を有していてもよい。
【0065】
アレルゲンの誘導体は、低アレルギー性であることが好ましい。
【0066】
本発明のさらに別の様態は、本発明に係る方法によって得られる造血細胞に関する。
【0067】
膜アンカー領域又は膜貫通領域は、このような細胞膜に融合していることが好ましい。
【0068】
本発明の好ましい実施の形態によれば、上記少なくとも1つのポリペプチドは、細胞膜の細胞外側に結合している。
【0069】
本発明の他の好ましい実施の形態によれば、造血細胞は、本発明に係る哺乳類ウイルスベクターDNAを含んでいる。
【0070】
造血細胞は、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、造血幹細胞、好酸球、T細胞、B細胞、NK細胞及び樹状細胞からなる群より選択されることが好ましい。
【0071】
本発明の他の形態は、アレルギーの治療又は予防のための医薬の製造に、本発明に係るベクターDNA又は宿主細胞を使用することに関する。
【0072】
本発明の医薬は、アレルギーを患う又は患うリスクのある個体に対して投与することができる。本発明の医薬は、自家造血細胞を含んでいることが好ましい。したがって、治療のはじめに、個体から造血細胞を単離し、本発明のDNAベクターをトランスフェクトし、細胞を取り出した同じ個体に投与することを意味する。
【0073】
本発明の他の形態は、本発明に係るベクターDNA又は宿主細胞を有する製剤ソ生物に関する。
【0074】
本発明は、アレルギーの予防及び治療のための方法を提供し、次の工程を含んでいることを特徴としている:
−1つ以上のアレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片を用意し、
−上記アレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片を、自家構造(造血細胞等)に提示するために、アレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片を、自家構造に直接取り付ける、又は自家構造に発現させることによって、アレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片を処理し、
−アレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片、を含む自家構造を個体へ移植し、そのアレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片に対する特異的な非応答性を誘引する。
【0075】
本方法は、被提供者内にアレルゲンを保持した多数の自家構造(造血細胞等)を存在させることにつながる。被提供者に、改変した自家構造を長期にわたって存在させることは、この方法を成功させる上で必要不可欠であると考えられる。
【0076】
本方法は、個体において、他の全ての生理的免疫機能を不安定にすることなく、1つ以上のアレルゲンに対して特異的な免疫非応答性を得るための方法を提供する。このいわゆる「寛容状態」は、数々の実験結果によって立証されているとおり、特に強固である。これによって、いかなる個体において発生し得る生理的因子(感染等)によっても、本方法によって得られた寛容は、容易に破壊されることはないという利点が得られる。別の主な利点は、寛容が非常に長期的、おそらく生涯続くという点である。この方法は、単一の野生型アレルゲン、ハイブリッド分子(2つ以上のアレルゲン又はアレルゲンの誘導体)、T細胞エピトープを保持する低アレルギー性の誘導体、ペプチドを含有するT細胞エピトープ、又はB細胞エピトープ由来のペプチド(Linhart and Valenta. Curr Opin Immunol 17: 646-655, 2005に観察される)に対する寛容を得るのに用いることができる。
【0077】
本方法は、予防方法及び治療方法の2つの方法において用いることができる。両方の方法において、本発明の方法は、生涯的にアレルゲン特異的寛容を誘引するために用いられる。
【0078】
−予防方法:産業化された国におけるアレルギーの罹患率は25%を超えており、そこからさらに上昇している。さらに、深刻なアレルギーを発症するリスクが特に高い新生児を識別する精度の向上が可能となってきている。そのため、高いリスクを負った新生児、又はゆくゆくは通常のリスクを負った一般集団が、アレルギーの進行を予防する方法の恩恵を受ける個体の見込み群であるといえる。アレルゲンに対する感作は、通常であれば出生後数年以内に発生する。そのため、予防的処置の理想的な時期は、出生後まもなくとなる。一つの可能性として、未成熟造血細胞(造血幹細胞等)を個体から得ること(例えば、他の目的で現在頻繁に行われている、出生時に臍帯血を採取し、保存すること)が挙げられる。これらの細胞又はそのサブセットは、目的のアレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片を、挿入又は連結させることによって、in vitro(GMP条件下)において処理される。これらの改変された細胞は、次に、個体が適切に準備された後、その同一個体に再導入される(静脈注入等を介して)。あるいは、成熟細胞又は自家構造を、アレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片として改変するか、これらの媒体として用いて、その後上記と同様に同一個体に再導入されてもよい。
【0079】
−治療アプローチ:I型アレルギーのいかなる年齢の患者、特に深刻又は生命を脅かすようなI型アレルギーの亜型の患者が、治療方法として本発明の方法を用いる候補者である。この個体からは、造血細胞又はその他の種類の細胞が得られる(例えば、日常的に他の目的で臨床的に用いられる技術を用いて、骨髄又は移動性末梢血白血球を採取する)。これらの細胞又はその亜型は、遺伝子組み換えによってin vitroで処理され、目的のアレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片が挿入される。あるいは、成熟細胞又は自家構造(抗体等)を、アレルゲン又はペプチドと組み換え又は連結してもよい。これらの組み換えられた細胞又は自家構造は、次に同一個体に、その個体が適切に準備された後に、再導入される(例えば、静脈注入又は皮下もしくは経口を介して投与される)。
【0080】
本発明において、アレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片が形質導入された造血細胞を移植することによって、分子キメラ化(すなわち、組換え自家構造を存在させること)を誘引し、その結果として形質導入されたアレルゲンに対する永久的で強固な寛容が得られる。
【0081】
本発明の好ましい実施の形態によれば、アレルゲン特異的抗体(IgE亜型を含む)の進行の予防、アレルギー媒介物質の放出予防、アレルゲン特異的T細胞反応性の予防、及びアレルギー皮膚反応の予防を、動物モデルにおける生体内実験で確立することができた。
【0082】
アレルゲンに対する寛容は、遺伝子組み換え後に組換えアレルゲンを発現する、遺伝子的に同質な(臨床環境における自家状況に対応して遺伝子的に同一な)造血幹細胞の移植を通した分子キメラ化によって得られる。このマウスモデルでは、寛容が結果として生じ、I型アレルギーの進行を防止する。
【0083】
本技術は、治療方法だけでなく、予防方法としても使用できる。
【0084】
深刻なアレルギーに進展するリスクを負っていると認識されている個体は、I型アレルギーを防止するべく、本技術を用いて予防的に処置を受けてもよい。例えば、保存された臍帯血細胞から得られた血球を精製し、前駆細胞を得てもよい(CD34ポジティブ細胞を選別する等)。骨髄細胞の単離及びCD34ポジティブ前駆細胞の精製は、選択肢の1つとなり得る。単離された自家細胞又は遺伝子的に同一な個体からの細胞を、サイトカインの存在下で培養し、アレルゲン導入媒体で数回処理してもよい。これらの媒体は、レトロウイルス導入遺伝子融合組換え粒子又は他のアレルゲン導入媒体であってもよい。遺伝子的に組み換えられて培養された細胞は、少なくとも一時的に、表面にアレルゲン/外来抗原、アレルゲン/外来抗原の誘導体、アレルゲン/外来抗原由来のエピトープ/断片を含むか、発現するか、又はこれらのアレルゲンを分泌する。
【0085】
遺伝子的に組み換えられた細胞は、適切に事前処置された個体に静脈から注入される。アレルゲンが発現することで、アレルゲンを自家タンパク質のように認識し、その結果として寛容が引き起こされる。個体は、導入されたアレルゲンを造血細胞の表面に発現するか、導入されたアレルゲンを分泌する。導入されたアレルゲンを発現する細胞の存在は、分子キメラ化として知られている。分子キメラ化によって、導入されたアレルゲンに対して長期的に寛容となるように誘引される。そのため、上記アレルゲンに対して寛容な個体がアレルゲンと繰り返し接触したとしても、I型アレルギーは進行しない。下記の実施例部分では、好ましい方法が示されている。
【0086】
アレルギー患者の治療では、例えばG−CSF(顆粒球コロニー刺激因子)で刺激を与えられた自家移動性末梢血白血球が単離され、収集される。自家骨髄細胞を収集してもよい。例えばCD34ポジティブ前駆細胞のような細胞を精製してもよい。これらの細胞を、生体外においてサイトカイン存在下で培養し、幾度かにわたってアレルゲン導入媒体で処置してもよい。アレルゲンの発現は、例えばフローサイトメトリーによって判断され、アレルゲン保持細胞は静脈注入によって前処理された患者に導入される。分子キメラ化は、白血球におけるアレルゲンの発現により観察することができる。
【0087】
本発明は以下の実施例や図面によってさらに説明されるが、本発明はこれらの実施例や図面に特に制限されない。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】図1は、分泌タンパク質(A)のためのシグナル配列、及び膜アンカータンパク質(B)のための付加的な膜貫通領域(TM)に誘導したPhl p 5及びeGFPをコードするMMP系レトロウイルスベクターを示す図である。LTRは末端反復配列を示し、SDはスプライシングドナーを示し、SAはスプライシング受容体を示している。開始コドンはNcoI部位に挿入されており、停止コドンはBamHI又はBglII部位の直前に挿入されている。
【図2】図2は、生体内におけるアレルゲン特異的寛容を誘引するための実験的なプロトコルを示す図である。Balb/c被提供者に、8 Gy TBI(全身放射線照射)及びT細胞枯渇抗体(抗CD4及び抗CD8モノクローナル抗体)で前処理し、アレルゲンが形質導入されたBM細胞(iv)を、静脈を介して移植した。アレルゲンが形質導入されたBMの移植後、マウスに抗CD40L mAbを与えた。BM移植(BMT)から6,9,12及び22週間後、組換えPhl p 5を5μg、及び水酸化アルミニウムを含む組換えBet v 1を5μg、マウスの皮下に注入した(s.c.)。それぞれの免疫処理の前に、分析用の血清を得るために、マウスから採血した。BM移植から30〜40週間後に、マウスを処分した。
【図3】図3は、レトロウイルスの形質導入及び培養後の、骨髄細胞におけるPhl p 5(A)及びeGFP(B)の発現率を示す図である。骨髄細胞を、VSV−Phl p 5−TM、又はVSV−eGFP−TMで形質導入するか、偽形質導入した。形質導入後、偽形質導入した骨髄細胞及びPhl p 5−TMを形質導入した細胞を、Phl p 5特異的ビオチン化抗体及びフィコエリトリン標識ストレプトアビジン(A)で染色し、フローサイトメトリーで分析した。VSV−eGFP−TMを形質導入した骨髄細胞は、染色せずに分析し、形質導入していない骨髄細胞(B)と比較した。
【図4】図4は、様々な白血球系統の中で、長期的に安定してPhl p 5のキメラ化のレベルの高さを示す図である。末梢白血球(WBC)のサブセットのうちのPhl p 5ポジティブ細胞の割合を、BM移植後の複数の時点において、2色フローサイトメトリーで判断した。キメラ化の割合を、平均(n=3)で示した。末梢血白血球を、系統特異的フルオレセインイソシアネート接合抗体及びPhl p 5特異的抗体で染色した。複数の系統における分子キメラ化の実質的なレベルの長期的な持続性は、もともとの造血幹細胞に生体外でうまくPhl p 5を形質導入したことを示している。□はCD4を示し、●はCD8を示し、○はBを示し、黒四角は単球及び顆粒球を示している。Phl p 5ポジティブ細胞の割合を、2色フローサイトメトリーで判断した。
【図5A】図5は、Phl p 5キメラの血清における、検出可能なPhl p 5特異的抗体レベルの不在を示す図である。血清内のアレルゲン特異的(Phl p 5及びBet v 1)IgG1(A)及びアレルゲン特異的IgE(B)レベルを、ELISAを用いて、BM移植後の複数時点に測定した。免疫前レベル(pi)を、1回目の感作の前に測定した。2つの異なる実験サンプルをプールした。1つ目の実験を40週で終了し、2つめの実験を29週で終了した。Phl p 5を形質導入したBMを移植したマウス群(n=10)、偽形質導入した(n=3)BMを移植したマウス群、及び感作した形質導入していないマウス群(n=10)を分析した。Phl p 5を形質導入したBMを移植したマウスでは、分析中のいかなる時点においても、Phl p 5特異的IgG1及びIgEが検出されなかった。アレルゲンBet v 1を制御する抗体の発達は、影響を受けずに発生した。このことにより、寛容の誘引状態の特異性が示された。
【図5B】図5は、Phl p 5キメラの血清における、検出可能なPhl p 5特異的抗体レベルの不在を示す図である。血清内のアレルゲン特異的(Phl p 5及びBet v 1)IgG1(A)及びアレルゲン特異的IgE(B)レベルを、ELISAを用いて、BM移植後の複数時点に測定した。免疫前レベル(pi)を、1回目の感作の前に測定した。2つの異なる実験サンプルをプールした。1つ目の実験を40週で終了し、2つめの実験を29週で終了した。Phl p 5を形質導入したBMを移植したマウス群(n=10)、偽形質導入した(n=3)BMを移植したマウス群、及び感作した形質導入していないマウス群(n=10)を分析した。Phl p 5を形質導入したBMを移植したマウスでは、分析中のいかなる時点においても、Phl p 5特異的IgG1及びIgEが検出されなかった。アレルゲンBet v 1を制御する抗体の発達は、影響を受けずに発生した。このことにより、寛容の誘引状態の特異性が示された。
【図6】図6は、Phl p 5キメラにおける、好塩基球脱顆粒実験を示している。アレルゲン特異的β−ヘキソサミニダーゼ放出を測定する、ラット好塩基球白血病(RBL)実験を、BM移植から数週間後に、図5において説明した群に対して行った。Phl p 5キメラ(n=3)において、特異的な好塩基球脱顆粒は検出できなかった。一方で、Bet v 1特異的β−ヘキソサミニダーゼ放出はコントロール群(偽形質導入した群:n=3;形質導入しなかった群:n=5)と同様であった。
【図7】図7は、Phl p 5キメラにおける、皮膚プリックテストでのPhl p 5に対する寛容を示す図である。Phl p 5及びBet v 1に対して免疫した、形質導入していないマウスの代表的な皮膚薄片(A)と、Phl p 5及びBet v 1に対して免疫したPhl p 5 キメラマウスの代表的な皮膚薄片(B)とを示した。ネガティブコントロールとして、未処理Balb/cマウスにPBSのみを皮下に注射した(C)。rPhl p 5、rBet v 1、肥満細胞脱顆粒化合物48/80、及びPBSに対する皮膚反応を、皮下注射から20分後に、腹部皮膚の内部で測定した。Dは、皮下注射の一覧表を示している。
【図8】図8は、Phl p 5キメラにおける、Phl p 5特異的T細胞感作の予防について示す図である。様々な群のマウスに由来する脾臓細胞における、生体外でのリンパ球増殖を、移植後29週又は40週において測定した(培地との反応性に関して、SI=刺激指数として示している)。(A)の図では、脾臓細胞を2μg/mlのrPhl p 5で刺激し、(B)の図において、悲壮細胞を2μg/mlのrBet v 1で刺激した。Phl p5を形質導入したキメラは、免疫されたBalb/cマウスと比べて、Phl p 5の刺激に対する応答で増殖に著しい減少が見られたが、Bet v 1の刺激に対する応答では共に強い増殖が見られた。
【図9】図9は、シグナルペプチド(S)及び膜貫通領域(TMD)に融合したBet v 1をコードするMMP系レトロウイルスベクターであるMMP−Bet v 1−TM及びIRESeGFPに融合した導入遺伝子の構成(A)、MMP−Bet v 1−TM−IRESeGFP(B)、さらには空のコントロールベクターであるMMP−IRESeGFP(C)を示す図である。LTRは末端反復配列を示し、SDはスプライシングドナーを示し、SAはスプライシング受容体を示している。開始コドン及び停止コドンは、制限部位NcoI及びXhoIと共に挿入した。Bet v 1は、臨床的に関連性の高い主要なシラカンバ花粉アレルゲンである。Bet v 1は、Phl p 5と関連性を有さない。
【図10】図10は、フローサイトメトリーで測定したGFPポジティブNIH 3T3細胞又はBet v 1ポジティブNIH 3T3細胞の割合を示す図である。グレーの線は、レトロウイルスベクターVSV−Bet v 1−TM−GFPで形質導入した細胞を示している。黒線は、コントロールとして未処理のNIH 3T3細胞を用いたものを示している。形質導入した細胞の94.5%がGFPポジティブであり(A)、55.6%がBet v 1特異的抗体によって検出されるBet v 1を発現した(B)。
【図11】図11は、Bet v 1を形質導入した骨髄細胞を移植する生体内実験の、実験計画を示す図である。BALB/cマウスを、抗CD4 mAb、抗CD8 mAbで処理し、放射線に曝露した(実験開始前日(第−1日目)に8Gy)。実験開始日(第0日目)に、形質導入した骨髄細胞を尾静脈内に移植し、さらに抗CD40Lを腹腔内に注入した。末梢白血球(WBC)のうちのBet v 1+細胞のキメラ化の後、続けてフローサイトメトリーを行った。被提供者は、組換えPhl p 5及びrBet v 1の免疫の有効性を、定められた時間に皮下でテストした。
【図12】図12は、フローサイトメトリー(グレー線)によって測定した、GFPポジティブ細胞の形質導入効率を示す図である。骨髄細胞を、VSV−Bet v 1−TM−GFP(A)又はVSV−GFP(B)を用いて形質導入した。ネガティブコントロール(黒線)は、形質導入していない、培養された骨髄細胞を示している。
【図13】図13は、B細胞及び骨髄造血系統(それぞれB220+及びMac1+)のBet v 1+キメラ化の割合を示す図である。VSV−Bet v 1−TM−GFPで形質導入した骨髄(n=4)の被提供者を、図11で説明したプロトコルにしたがって処置した。骨髄細胞を、VSV−Bet v 1−TM−GFPで形質導入した。末梢白血球を、ビオチン化した系統特異的抗体で培養し、ストレプトアビジン−PE−Cy5で染色した。Mac1+系統の5%がGFPポジティブであり、B220+ポジティブ細胞のおよそ3.5%が、フローサイトメトリーにおいてGFP発現を示した。
【実施例1】
【0089】
膜結合型アレルゲン又は分泌アレルゲンのための融合遺伝子を、哺乳類初期骨髄細胞に組み込むための組換えレトロウイルスの生成
a)膜アンカー型及び分泌型のPhl p 5及びGFPを運ぶ組換えレトロウイルスをコードする、レトロウイルスベクターの構築
分泌型Phl p 5分子を有するレトロウイルスベクターを生成するために、オリジナルのPhl p 5シグナル配列を、ネズミ免疫グロブリン(pDisplay,インビトロジェン)のk短鎖のシグナル配列(S)に置き換え、重複PCR法(Ho et al. Gene 77:51-59, 1989)を用いて完全長Phl p 5及びeGFP(ベクター pEGFP−C1,クロンテック)に融合した(Vrtala et al. J Immunol 151(9):4773-4781,1993)(図1A)。膜アンカー型Phl p 5を生成するために、ヒト血小板由来成長因子(pDisplay,インビトロジェン)の膜貫通領域(TMD)を、シグナル配列及びPhl p 5又はeGFPにさらに融合した(図1B)。Phl p 5融合遺伝子の5’末端における制限部位NcoI及び3’末端における制限部位BamHIを、以下のプライマーによって挿入し、またeGFP融合遺伝子の5’末端における制限部位NcoI及び3’末端における制限部位BglII部位を、以下のプライマーによって挿入した(括弧内は配列番号を示す)。
【0090】
【表1】
【0091】
融合した断片を、受容体ベクターpST−Blue 1(Novagen社)にクローンした。ポジティブ導入を、レトロウイルスベクターpMMP(John Iacomini、ボストンより提供)にサブクローンし、その結果、pMMP−Phl p 5及びpMMP−eGFP(図1A)、並びにpMMP−Phl p 5−TM、及びpMMP−eGFP−TM(図1B)を得た。ポジティブクローンを、二本鎖配列で確認した。
【0092】
b)膜アンカー型Phl p 5及びGFPを有する組換え偽型レトロウイルスの産出
リン酸カルシウム沈殿法(Pear et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:8392-8396, 1993)により、293T細胞(John Iacomini、ボストンより提供)を、pMMP−Phl p 5 −TM(又はpMMP−eGFP−TM),pMD.G及びpMLVで、一過性トランスフェクトし、組換えレトロウイルスを生成した。MMPレトロウイルスベクターは、MFGの誘導体であり(Riviere et al. Proc Natl Acad Sci USA 92 (15):6733-6737,1995)、骨髄増殖性肉腫ウイルス(MPSV)末端反復配列プロモーター−エンハンサー因子を含んでいる。これらの転写因子は、造血細胞系統において発現を可能にすることが示されている(Bowtell et al. Mol Biol Med 4(4):229-50.,1987)。ベクターpMD.Gは、水疱性口内炎ウイルスG(VSV−G)外被タンパク質をコードし、VSV−G/レトロウイルス偽型を生成する(Ory et al.Proc Natl Acad Sci USA 93(21):11400-11406,1996)。トランスフェクトのために、10cmディッシュにおいて、10%ウシ胎児血清(FCS)を含むダルベッコ最少必須培地(DMEM)(GIBCO,インビトロジェン)で4.5×106の細胞を培養した。トランスフェクトの4時間前に、培地を、10%FCS及び25mM HEPES(MPバイオメディカルズ、エッシュウェーゲ、ドイツ)を含むイスコフ改変DMEM培地(GIBCO,インビトロジェン)に、入れ替えた。一つのディッシュを、それぞれpMMP−Phl p 5−TM(又はpMMP−eGFP−TM)(10μg)、pMD.G(5μg)及びpMLV(7.5μg)でトランスフェクトした。トランスフェクトから12〜16時間後、培地を、10%FCS及び10mM HEPESを含むDMEMに入れ替えた。トランスフェクトから72時間後にウイルス上清を回収し、超遠心分離機(製品名:Beckman ultracentrifuge)を用いてろ過及び濃縮した。ウイルス粒子の用量設定濃度を、NIH 3T3細胞の感染により測定し、フローサイトメトリーによって分析した。Epics XL−MCL フローサイトメトリー装置(製品名:Beckman Coulter、IL Alliance社、オーストリア)をデータ収集のために用い、Applied Cytometry Systems社製EXPO32 ADC Software(西シェフィールド、英国)を用いてフローサイトメトリーのデータを分析した。Phl p 5の表面発現を同定するために、完全長組換えPhl p 5に対するウサギポリクローナル抗血清(rPhl p 5)を、製造者の指示に従って、タンパク質Gカラム(Pierce)を用いて精製した。精製した抗体をビオチン化し、Phl p 5発現293T細胞で用量設定した。
【実施例2】
【0093】
アレルゲン特異的寛容の誘引
a)実験計画
本実施例の目的は、遺伝的に組み換えた同質遺伝子的造血細胞の移植を通して、I型アレルギーの寛容誘引の方法を確立することである。BM単離の7日前に、ドナーのBalb/cマウスを、5−FUを用いて処置した(Bodine et al.Exp.Hematol 19:206-212,1991)。BMC(骨髄細胞)を以下に示すように単離して培養し、アレルゲン組み込みウイルス粒子で数回処理した。被提供者となるBalb/cマウスに、致死量の放射線を照射し(8 Gy)、抗CD4及び抗CD8モノクローナル抗体で処置した。骨髄移植(BMT)の直後、被提供者にMR1(抗CD40Lモノクローナル抗体)を与えた。マウスには、組換えPhl p 5及びBet v 1 を繰り返し注入し、免疫後BM移植を行った。一連の生体内及び生体外実験によって、免疫寛容を測定した。アレルゲン形質導入白血球(すなわち、分子キメラ化)の存在を確認する上で、マウスから何度か採血し、フローサイトメトリーでキメラ化を決定した(図4)。
【0094】
年齢の一致したメスBalb/cマウスをチャールズ・リバー・ラボラトリーズ社(ドイツ)より得て、特定病原体のない環境で飼育し、8〜12週齢の間、実験用として利用した。以下に示す表では、Phl p 5を形質導入したBalb/cマウスの群における典型的な実験方法を示している。
【0095】
【表2】
【0096】
コントロールとして、第6週、第9週、第12週及び第22週の、rPhl p 5及びrBet v 1で感作した形質導入していないBalb/cマウス、さらに偽形質導入した(空のpMMPベクターで生成したレトロウイルス)マウス、又はVSV−eGFP−TMで形質導入したBMを委嘱したマウスの群も、上記表に記載のPhl p 5で形質導入したマウスと同様に処理した。
【0097】
b)初期骨髄細胞へのVSV−Phl p 5−TMの形質導入、及び前処理したBalb/cマウスへの移植
7日前に5−フルオロウラシル(5−FU;150mg/kg)で処理したマウスのBMCを採取し、単離したBMCを、製造者の指示にしたがって、RetroNectin(登録商標)(タカラバイオ株式会社、滋賀県、日本)でコートした細胞培養プレートで培養した。100ng/ml ヒトインターロイキン−6(製品名:IL−6;R&D Systems、米国)、100ng/ml 組換えマウス幹細胞因子(製品名:SCF;Biosource International社、米国)、50ng/ml 組換えマウストロンボポエチン(製品名:TPO;R&D Systems)、50ng/ml 組換えマウスFlt−3リガンド(R&D Systems)、及び0.1%ゲンタマイシン(MPバイオメディカルズ、ドイツ)の終濃度になるように15%FCS及びサイトカインを含む、DMEM(製品名:GIBCO、インビトロジェン)中でMNCを培養した。形質導入を、37℃で、5%CO2下において、96時間行った。BMCを1mlあたり4×106細胞の密度で培養し、感染多重度(MOI)1〜5でウイルス粒子に感染させた。24時間後、同じ数のウイルス粒子を用いて、細胞の形質導入を繰り返した。48時間後に、細胞をプレートから回収し、遠心分離機にかけ(Heraeus、1000rpm、RT、5分間)、BM培地、サイトカインカクテル中に再懸濁し、上記のようにウイルス粒子に感染させた。24時間後、細胞をプレートから回収し、小球型にして、M199培地(Sigma)、DNAse(Sigma)0.02U/ml、0.08%ゲンタマイシン(MPバイオメディカルズ社、エッシュウェーゲ、ドイツ)、及びHEPES(MPバイオメディカルズ社、ドイツ)10mMに再懸濁した。細胞を計数し、フローサイトメトリーによってPhl p 5又はGFPの表面発現を決定した(図3)。
【0098】
c)前処理したBalb/cマウスへの、Phl p 5を形質導入したBM細胞の移植
形質導入の後、骨髄の機能を廃絶した(例えば、致死量の放射線が照射された)Balb/cマウスに、2〜4×106のBMCを静脈内に注入した。移植の1日前に、マウスの腹腔内に抗CD4抗体(GK1.5)及び抗CD8抗体(2.43)を0.5mg注入した。移植の直後、マウスに抗CD40L(MR1)(Bioexpress、西レバノン、NH、米国より抗体を購入)を0.5mg注入した。
【実施例3】
【0099】
生体内における、レトロウイルスによってコードされたアレルゲンの骨髄由来細胞内における安定した長期キメラ化
形質導入したBMの被提供者細胞におけるのPhl p 5発現を、フローサイトメトリーを用いて調査した。実験された全ての白血球系統は、調査されている間(38週間)、常に高いレベルでPhl p 5を発現していた。キメラ化は約75%まで到達し、典型的な範囲は20〜40%であった(図4)。白血球を、CD4、CD8、B220、Mac−1に対するフルオレセインイソシアネート(FITC)結合抗体(Becton Dickinson、米国)及びフィコエリトリン−ストレプトアビジン(PEA、Becton Dickinson、米国)で発達させたビオチン化Phl p 5により染色した。Phl p 5を形質導入した宿主細胞を区別するために、二色フローサイトメトリーを用い(ヨウ化プロピジウム染色した死細胞を除く)、Tomitaらの文献に記載されている、Phl p 5ポジティブ細胞の比率として、キメラ化を算出した(Blood 83:939-948,1994)。
【実施例4】
【0100】
分子キメラ化を通して確立したアレルゲンに対する寛容
a)Phl p 5 分子キメラ化が、Phl p 5特異的抗体の発達を特異的に妨げる
BM移植マウスを2種類のアレルゲンに感作した6、9、12、及び22週間後、rPhl p 5及びrBet v 1(Biomay、オーストリア)の5μg/マウスを、Al(OH)3(Alu−Gel−S、Serva、ドイツ)に吸収させ、特異性をテストした。免疫化の1日前に、マウスから血液を採取し、血清を得た。血清を、分析されるまでの間、−20°Cで保管した。そして、抗原特異的IgG1及びIgE血清レベルを、ELISA(Vrtala et al., J Immunol 160 (12):6137-6144,1998)を用いて測定し(図5A及び図5B)、Phl p 5を形質導入したマウスが、Phl p 5に対して寛容であるか否かを分析した。組換えPhl p 5及びrBet v 1(5μg/ml)で、96ウェルプレート(Nunc、Maxisorp、デンマーク)をコートし、マウス血清をインキュベートした(IgG1用に1:500、IgE ELISA用に1:20)。IgG1結合又はIgE結合を、ラット抗マウスIgG1(1:1000)又はラット抗マウスIgE(1:1000)(Pharmingen、サンディエゴ、カルフォルニア)、及びHRP標識化したロバ抗ラット抗血清(1:2000)(アマシャム、バッキンガムシャー、英国)を用いて検出した。呈色反応を、ELISA−reader(Wlac、Perkin Elalmer、オーストリア)を用いて、405nmマイナス490nm波長において測定した。偽形質導入した(上述のように生成したウイルス上清と空のpMMPベクター)及び未処理の感作したBalb/cマウスの血清は、Phl p 5で形質導入したマウスと対照的に、高いPhl p 5特異的IgG1及びIgEレベルを示した。Phl p 5を形質導入したBMCを移植した全てのマウスにおいて、Phl p 5特異的IgG1及びIgEを検出可能レベルでは検出しなかったが、Bet v 1特異的IgG1及びIgEは高いレベルを示し、Phl p 5に対して特異的に寛容であることを示した。別の2つの実験においても、同様のデータが得られた。
【0101】
b)Phl p 5寛容マウスにおけるアレルゲン特異的IgE依存性好塩基球脱顆粒の防止
ラット好塩基球白血病(RBL)実験を行い、因子レベルにおける寛容が得られたか否かを調査した。RBL−2H3細胞を96ウェル細胞培養プレート(4×104細胞/ウェル)に入れ、24時間、37℃及び5%CO2下で培養した。そして、細胞を、Phl p 5寛容マウス、偽形質導入したマウス、及び形質導入していない感作したBalb/cマウスのマウス血清(1:50希釈)で培養した。免疫前血清及び各アレルゲン注射後の血清を、RBL細胞で2時間、37°Cで培養した。上清を取り除き、細胞層を2×タイロード緩衝液(137mM NaCl、2.7mM KCl、0.5mMMgCl2、1.8mM CaCl2、0.4mM NaH2PO4、5.6mM D−グルコース、12mM NaHCO3、10mM HEPES、及び0.1%w/v BSA,pH 7.2)で洗浄した。予め荷重した細胞を、37°Cで30分間、rBet v 1のrPhl p 5(ウェル毎に0.03μg)を用いて刺激した。そして、ポジティブコントロールのために、細胞を、1%トリトン X−100を用いて溶解した。この上清を、クエン酸塩緩衝剤(0.1M、pH4.5)内で80μMの4−メチルウンベリフェリル−N−アセチル−β−D−グルコサミド(Sigma−Aldrich、オーストリア)と共に、37°Cで1時間インキュベートし、β−ヘキソサミニダーゼ活性を分析した。グリシン緩衝剤(0.2Mグリシン、0.2MNaCl、pH10.7)を100μl加えることで反応を停止し、蛍光性マイクロプレートリーダー(Wallac、Perkin Elmer、オーストリア)を用いて、λex:360/λem:465nmで蛍光性を測定した。分析結果を、蛍光性単位及び1%トリトン X−100で細胞を溶解した後に放出された合計β−ヘキソサミニダーゼの割合で求めた。
【0102】
図6に示したように、RBL細胞をrPhl p 5で刺激した後のPhl p 5キメラマウスの血清には、好塩基球脱顆粒が見られなかった。偽形質導入したBalb/cマウスは、形質導入していない、感作したBalb/cマウスと同様に、β−ヘキソサミニダーゼの放出を示したが、Phl p 5キメラマウスの血清は、Bet v 1で刺激した際に好塩基球脱顆粒を示し、Phl p 5で形質導入したBMCを移植することによって、アレルゲン特異的寛容が誘引されたことを示した。
【0103】
c)皮膚プリックテストにおけるPhl p 5に対する寛容
皮膚プリックテストを行い、皮膚I型過敏症反応の寛容を調べた。BM移植の30〜40週後、マウスの尾静脈に0.5% Evans blue(Sigma、米国)を100μl注射した。続いて、Phl p 5及びBet v 1(各0.5μg/ml、PBSで希釈)を30μl、毛の剃られた腹部皮膚の皮内に注射した。ポジティブコントロールとして、肥満細胞脱顆粒化合物48/80(20μg/ml、Sigma)を皮内に注射し、ポジティブコントロールとして、PBSを注射した。注射の20分後、マウスを処分し、転化した皮膚において、反応の青色強度を、個々のポジティブコントロールと比較した。図7において、上述したような、形質導入していない免疫化した、典型的なBalb/cマウスの転化腹部皮膚(A)は、Bet v 1及びPhl p 5の両方に対してポジティブ反応を示している。Phl p 5キメラマウスは、Bet v 1に対してはポジティブ反応を示すものの、Phl p 5に対してはポジティブ反応を示さなかった(B)。未処理のBalb/cマウスは、アレルゲンに対して全くポジティブ反応を示さなかった(C)。図7Dは、組換えアレルゲン及びコントロールの注射一覧表を示している。
【0104】
d)アレルゲン特異的T細胞増殖の著しい減少
B細胞寛容に加えてT細胞寛容をテストするべく、T細胞増殖実験を行った。マウスを処分したとき(BM移植後29又は40週目)に、年齢の一致した未処理Balb/cマウス(n=4)、Phl p 5を形質導入した(n=6)、及び形質導入していない(n=7)感作したマウスの脾臓を単離した。脾臓細胞を、1ウェルあたり2×105細胞の濃度で96丸底プレート(Nunc、デンマーク)に播種し、RPMI1640培地(Biochrome AG、ドイツ)において37°C及び5%CO2下で培養し、コンカナバリンA(Con A;0.5μg/ウェル、Sigma)、rPhl p 5(2μg/ウェル)、及びrBet v 1(2μg/ウェル)で刺激した。5日目の培地に、0.5μCi/ウェルのトリチウム化したチミジン(アマシャム)を用いて、16時間振動を与えて回収し、増殖反応をシンチレーションカウンターにより測定した。抗原(cpm)と培地コントロール値(cpm)との平均増殖の比率を求めた(刺激指数[SI])。形質導入していない、感作したBalb/cマウスと比較して、Phl p 5 キメラマウスではほとんど増殖が検出されなかった。Bet v 1で刺激したリンパ球の増殖は、形質導入していない、感作したマウスと比較して、Phl p 5キメラは同様であった(図8)。
【0105】
このモデルでは、同質遺伝子的に修飾した造血細胞を移植することにより、I型アレルギーにおける分子キメラ化及び持続性のある頑強な寛容を誘引できることが示された。このことは、リンパ球増殖実験に見られるT細胞寛容やB細胞寛容(キメラマウスにおいてアレルゲン特異的IgE及びIgG1が生成されない)につながる。重要なことは、生体外及び生体内における好塩基球/肥満細胞の脱顆粒の不足によって判断できるように、エフェクター細胞レベルにおいて寛容が確立されたことである。
【実施例5】
【0106】
膜アンカー型花粉アレルゲンを骨髄細胞に組み込むための組換えレトロウイルスの生成
a)膜アンカー型Bet v 1を運ぶ組換えレトロウイルスをコードするレトロウイルスベクターの構成
以下の実施例は、アレルゲンBet v 1を用いて行った。Bet v 1は主要なアレルゲンである、カンバの花粉である。Bet v 1は、病原性関連(PR)10タンパク質に属し、アレルゲンPhl p 5とは関連性を有さない。組換えレトロウイルスを生成するために、実施例1aに示すように、Bet v 1の全長cDNAを、シグナルペプチド及び膜貫通領域に融合した。そして、NcoI制限部位(3’末端)及びXhoI制限部位(5’末端)を、以下のプライマーを用いて挿入した(括弧内は配列番号を表す)。
【0107】
【表3】
【0108】
最初に、融合断片を受容体ベクターpST−Blue 1(Novagen)にクローンした。ポジティブ挿入を、レトロウイルスベクターpMMP−f2(John Iacomini、ボストンより提供)にサブクローンし、結果としてMMP−Bet v 1−TMを得た(図9A)。また、pMMP−IRESeGFPベクターにも、レポーター遺伝子緑色蛍光タンパク質(GFP)の共発現のためにサブクローンし、MMP−Bet v 1−TM−IRESeGFPを得た(図9B)。導入遺伝子のないMMP−IRESeGFPベクターを、以下の実験においてコントロールとして用いた(図9C)。
【0109】
b)GFP混合膜結合型Bet v 1を有する組換え偽型レトロウイルスの産出
組換えレトロウイルスを、実施例1Bに記載のように生成した。293T細胞に、pMD.G、pMLV、及びコントロールとしての、プラスミドMMP−Bet v 1−TM−IRESeGFP又はMMP−IRESeGFPをコトランスフェクトし、VSV−Bet v 1−TM−GFP及びVSV−GFP(コントロールウイルス)を得た。ウイルス上清を濃縮し、NIH 3T3細胞を用いて用量設定した(実施例1Bに示すように)。Bet v 1をBet v 1に対するウサギポリクローナル抗血清(全長アレルゲン)を用いて検出し、血清をタンパク質Gカラムで精製し、抗体をビオチン化し、VSV−Bet v 1−TM−GFP感染NIH 3T3細胞によって用量設定した。Bet v 1及びGFP発現を、フローサイトメトリーで検出した。細胞表面におけるBet v 1発現を、ビオチン化Bet v 1抗体で検出し、ストレプトアビジン−PE−Cy5で対比染色した(図10B)。
【実施例6】
【0110】
Bet v 1を形質導入した骨髄細胞の移植
5−FU処置したBALB/cマウスの骨髄細胞を、実施例2Bに記載の方法にしたがって回収し、培養した。培養した骨髄細胞の形質導入を、VSV−Bet v 1−TM−GFP又はVSV−GFPを用いて、三度行った。Bet v 1−TMコンストラクトの発現を、フローサイトメトリーでレポーター遺伝子GFPを検出することによって測定し(図12A及びB)、細胞を計数して、2×106の形質導入した細胞を、致死量の放射線を照射した被提供者の尾静脈に注射した。実験計画は図11に示した。第−1日目に、マウスを抗CD4 mAb及び抗CD8 mAbで処理し、放射線照射した(8Gy)。第0日目には、骨髄を尾静脈に移植し、MR1を注射した。骨髄移植から6、9、15、及び22週間後に、形質導入した被提供者の骨髄を、rPhl p 5及びrBet v 1で感作した。観察期間を通して、Bet v 1のキメラ化を、フローサイトメトリーによって、白血球の異なる系統内において決定した。
【実施例7】
【0111】
生体内の骨髄由来細胞における、レトロウイルスにコードされたアレルゲンのキメラ化
被提供者におけるのキメラ化は、骨髄移植の32日後に検出された。1グループのBALB/cマウスを、VSV−Bet v 1−TM−GFPで形質導入したBMCで再構築し、コントロールグループのマウスを、VSV−GFPを形質導入したBMCで再構築した。フローサイトメトリーに基づく決定によれば、全てのマウスがキメラであった。B細胞及び骨髄系統のキメラ化を検出するために、白血球を、ビオチン化Mac1又はB220とともにインキュベートし、ストレプトアビジン−PE−Cy5で対比染色した。キメラ化を、レポーター遺伝子GFPの発現によって検出した。VSV−Bet v 1−TM−GFPを形質導入した被提供者の骨髄において、およそ2%〜5.5%のGFPポジティブ細胞が示された(図13)。VSV−GFPのが形質導入された被提供者においては、19%〜33.5%のキメラ化に到達した。
【図1A】
【図1B】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのアレルゲンに由来する少なくとも1つのポリペプチドをコードする核酸又はDNA分子を造血細胞に導入することによって、上記少なくとも1つのポリペプチドを細胞外に発現及び提示する造血細胞を生成する方法であって、
上記少なくとも1つのポリペプチドは、分泌シグナル配列、膜アンカー領域、及び/又は膜貫通領域に融合されている、方法。
【請求項2】
上記造血細胞は、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、造血幹細胞、好酸球、T細胞、B細胞、NK細胞及び樹状細胞からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記少なくとも1つのポリペプチドをコードする上記DNA分子は、DNAベクターに含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
上記DNAベクターは、ウイルスベクター、好ましくはレトロウイルスベクター、又はプラスミドベクターであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記ベクターは、上記造血細胞に一過性に導入されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
上記アレルゲンは、Phl p 1,Phl p 2,Phl p 5,Phl p 6,Der p 1,Der p 2,Der p 5,Der p 7,Der p 21,Fel d 1,Bet v 1,Ole e 1,Par j 2,Can f 1及びCan f 2からなる群より選択されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
上記アレルゲンの誘導体が、低アレルギー性であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに1項に記載の方法。
【請求項8】
上記DNA分子は、化学的方法、好ましくはカチオン性脂質及びカチオン性ポリマーを用いた方法、物理的方法、好ましくは粒子衝突、マイクロインジェクション若しくはエレクトロポレーションを用いた方法、細胞表面受容体若しくは多量のリン脂質とのウイルス外被の相互作用によるウイルス法によって、造血細胞に導入されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
アレルゲン由来のポリペプチドをコードする少なくとも1つの核酸分子を含み、
少なくとも1つの上記ポリペプチドは、分泌シグナル配列、膜アンカー領域、及び/又は膜貫通領域に融合されている、哺乳動物ウイルスベクターDNA。
【請求項10】
上記アレルゲンは、Phl p 1,Phl p 2,Phl p 5,Phl p 6,Der p 1,Der p 2,Der p 5,Der p 7,Der p 21,Fel d 1,Bet v 1,Ole e 1,Par j 2,Can f 1及びCan f 2からなる群より選択されることを特徴とする請求項9に記載のベクター。
【請求項11】
上記アレルゲンの誘導体は、低アレルギー性であることを特徴とする請求項9又は10に記載のベクター。
【請求項12】
モロニーマウス白血病レトロウイルスの末端反復配列(LTR)若しくは骨髄増殖性肉腫ウイルス(MPSV)の末端反復配列プロモーター−エンハンサーエレメント、プロモーター、好ましくはアルブミンプロモーター若しくはサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、複製起点、好ましくはEBV若しくはSV40の複製起点、又はヒト染色体S/MARを含んでいることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法によって得られた、造血細胞。
【請求項14】
上記少なくとも1つのポリペプチドが、膜アンカードメイン又は膜貫通ドメインに融合されていることを特徴とする請求項13に記載の細胞。
【請求項15】
上記少なくとも1つのポリペプチドが、細胞膜の細胞外側に結合されていることを特徴とする請求項13又は14に記載の細胞。
【請求項16】
請求項10〜14のいずれか1項に記載の哺乳類ウイルスベクターDNAを含んでいる、請求項13〜15のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項17】
上記造血細胞は、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、造血幹細胞、好酸球、T細胞、B細胞、NK細胞及び樹状細胞からなる群より選択されることを特徴とする請求項13〜16のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項18】
アレルギーの治療又は予防のための医薬を製造するための、請求項9〜12のいずれか1項に記載のベクターDNAの使用、又は請求項13〜17のいずれか1項に記載の造血細胞の使用。
【請求項19】
請求項9〜12のいずれか1項に記載のベクターDNA、又は請求項13〜17のいずれか1項に記載の造血細胞を含んでいる、薬剤組成物。
【請求項1】
少なくとも1つのアレルゲンに由来する少なくとも1つのポリペプチドをコードする核酸又はDNA分子を造血細胞に導入することによって、上記少なくとも1つのポリペプチドを細胞外に発現及び提示する造血細胞を生成する方法であって、
上記少なくとも1つのポリペプチドは、分泌シグナル配列、膜アンカー領域、及び/又は膜貫通領域に融合されている、方法。
【請求項2】
上記造血細胞は、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、造血幹細胞、好酸球、T細胞、B細胞、NK細胞及び樹状細胞からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記少なくとも1つのポリペプチドをコードする上記DNA分子は、DNAベクターに含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
上記DNAベクターは、ウイルスベクター、好ましくはレトロウイルスベクター、又はプラスミドベクターであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記ベクターは、上記造血細胞に一過性に導入されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
上記アレルゲンは、Phl p 1,Phl p 2,Phl p 5,Phl p 6,Der p 1,Der p 2,Der p 5,Der p 7,Der p 21,Fel d 1,Bet v 1,Ole e 1,Par j 2,Can f 1及びCan f 2からなる群より選択されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
上記アレルゲンの誘導体が、低アレルギー性であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに1項に記載の方法。
【請求項8】
上記DNA分子は、化学的方法、好ましくはカチオン性脂質及びカチオン性ポリマーを用いた方法、物理的方法、好ましくは粒子衝突、マイクロインジェクション若しくはエレクトロポレーションを用いた方法、細胞表面受容体若しくは多量のリン脂質とのウイルス外被の相互作用によるウイルス法によって、造血細胞に導入されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
アレルゲン由来のポリペプチドをコードする少なくとも1つの核酸分子を含み、
少なくとも1つの上記ポリペプチドは、分泌シグナル配列、膜アンカー領域、及び/又は膜貫通領域に融合されている、哺乳動物ウイルスベクターDNA。
【請求項10】
上記アレルゲンは、Phl p 1,Phl p 2,Phl p 5,Phl p 6,Der p 1,Der p 2,Der p 5,Der p 7,Der p 21,Fel d 1,Bet v 1,Ole e 1,Par j 2,Can f 1及びCan f 2からなる群より選択されることを特徴とする請求項9に記載のベクター。
【請求項11】
上記アレルゲンの誘導体は、低アレルギー性であることを特徴とする請求項9又は10に記載のベクター。
【請求項12】
モロニーマウス白血病レトロウイルスの末端反復配列(LTR)若しくは骨髄増殖性肉腫ウイルス(MPSV)の末端反復配列プロモーター−エンハンサーエレメント、プロモーター、好ましくはアルブミンプロモーター若しくはサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、複製起点、好ましくはEBV若しくはSV40の複製起点、又はヒト染色体S/MARを含んでいることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法によって得られた、造血細胞。
【請求項14】
上記少なくとも1つのポリペプチドが、膜アンカードメイン又は膜貫通ドメインに融合されていることを特徴とする請求項13に記載の細胞。
【請求項15】
上記少なくとも1つのポリペプチドが、細胞膜の細胞外側に結合されていることを特徴とする請求項13又は14に記載の細胞。
【請求項16】
請求項10〜14のいずれか1項に記載の哺乳類ウイルスベクターDNAを含んでいる、請求項13〜15のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項17】
上記造血細胞は、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、造血幹細胞、好酸球、T細胞、B細胞、NK細胞及び樹状細胞からなる群より選択されることを特徴とする請求項13〜16のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項18】
アレルギーの治療又は予防のための医薬を製造するための、請求項9〜12のいずれか1項に記載のベクターDNAの使用、又は請求項13〜17のいずれか1項に記載の造血細胞の使用。
【請求項19】
請求項9〜12のいずれか1項に記載のベクターDNA、又は請求項13〜17のいずれか1項に記載の造血細胞を含んでいる、薬剤組成物。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2010−528639(P2010−528639A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510798(P2010−510798)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際出願番号】PCT/EP2008/056957
【国際公開番号】WO2008/148831
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(507180423)ビオマイ アクチエンゲゼルシャフト (12)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際出願番号】PCT/EP2008/056957
【国際公開番号】WO2008/148831
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(507180423)ビオマイ アクチエンゲゼルシャフト (12)
【Fターム(参考)】
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