説明

抗原特異的細胞傷害性T細胞拡大培養方法

【課題】養子免疫療法への使用に適した、抗原特異的な細胞傷害活性を高いレベルで保持したCTLを、拡大培養ならびに維持する方法を提供する。
【解決手段】抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞を拡大培養する方法であって、(A)ヒアルロン酸、又は抗CD44抗体、(B)抗成長因子抗体、並びに(C)フィブロネクチン、そのフラグメント又はそれらの混合物、からなる群より選択される少なくとも1種の物質の存在下に、細胞傷害性T細胞をインキュベートする工程を含む方法。ならびに、抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞を維持するための方法であって、上記(A)〜(C)からなる群より選択される少なくとも1種の物質の存在下に、細胞傷害性T細胞を継続培養する工程を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野において有用な、抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞を維持ならびに拡大培養する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体は主として免疫応答により異物から守られており、免疫システムはさまざまな細胞とそれが作り出す可溶性の因子によって成り立っている。なかでも中心的な役割を果たしているのが白血球、特にリンパ球である。このリンパ球はBリンパ球(以下、B細胞と記載することがある)とTリンパ球(以下、T細胞と記載することがある)という2種類の主要なタイプに分けられ、いずれも抗原を特異的に認識し、これに作用して生体を防御する。
【0003】
T細胞は、CD(Cluster Designation)4マーカーを有し、主に抗体産生の補助や種々の免疫応答の誘導に関与するヘルパーT細胞(以下、T)、CD8マーカーを有し、主に細胞傷害活性を示す細胞傷害性T細胞〔T;細胞傷害性Tリンパ球(cytotoxic T lymphocyte)、キラーT細胞とも呼ばれる。以下、CTLと記載することがある〕に亜分類される。腫瘍細胞やウイルス感染細胞等を認識して破壊、除去するのに最も重要な役割を果たしているCTLは、B細胞のように抗原に対して特異的に反応する抗体を産生するのではなく、標的細胞膜表面上に存在する主要組織適合複合体(major histocompatibility complex,MHC:ヒトにおいてはヒト白血球抗原(human leukocyte antigen,HLA)と称することもある。)クラスI分子に会合した標的細胞由来の抗原(抗原性ペプチド)を直接認識して作用する。この時、CTL膜表面のT細胞レセプター(T cell receptor,以下、TCRと称す)が前述した抗原性ペプチド及びMHCクラスI分子を特異的に認識して、抗原性ペプチドが自己由来のものなのか、或は、非自己由来のものなのかを判断する。そして、非自己由来と判断された標的細胞はCTLによって特異的に破壊、除去される。
【0004】
近年、薬剤治療法や放射線治療法のように患者に重い肉体的負担がある治療法が見直され、患者の肉体的負担が軽い免疫治療法への関心が高まっている。特に免疫機能が正常なヒト由来のCTL又はT細胞から目的とする抗原に対して特異的に反応するCTLを生体外(イン・ビトロ)で誘導した後、患者へ移入する養子免疫治療法の有効性が注目されている。例えば、動物モデルを用いた養子免疫療法がウイルス感染及び腫瘍に対して有効な治療法であることが示唆されており(非特許文献1参照)、さらに、免疫不全患者にCTLを投与することにより、毒性を示すことなく、急速かつ持続的にサイトメガロウイルスが排除される特異的CTL応答の再構築が行われた(非特許文献2参照)ことなどから、先天性、後天性及び医原性によるT細胞免疫不全症患者への使用も注目されている。この治療法ではCTLの抗原特異的傷害活性を維持もしくは増強させた状態でその細胞数を維持あるいは増加させることが重要である。
【0005】
またCTLの細胞数の維持及び増加については、動物モデルでの研究からヒトの養子免疫療法において有効な細胞数を推測すると、10〜1010個の抗原特異的T細胞が必要とされている(非特許文献1参照)。すなわち、養子免疫療法においては、イン・ビトロでこれらの細胞数を短時間に得ることが最大の問題であるといえる。
【0006】
CTLの抗原特異的傷害活性の維持及び増強については、CTLの抗原に特異的な応答を誘導する際に、目的とする抗原を用いた刺激を繰り返す方法が一般的である。しかし、この方法は、一時的には細胞数が増える場合もあるが、最終的には、細胞数が減ってしまい、必要とする細胞数が得られない。この対応策としては、抗原による刺激を繰り返す初期の段階において細胞を凍結保存するか、クローニングを行って得られた抗原特異的CTLクローンの、一部を凍結保存した後、長期培養により細胞数や抗原特異的傷害活性が低下した時に、凍結した細胞を融解して再度抗原刺激を繰り返すしかないのが、現状である。
【0007】
マウスT細胞を用いて長期培養でT細胞を樹立する方法(非特許文献3参照)が報告されているが、これはT細胞を単離・株化する方法であり、この方法でT細胞を10〜1010個の細胞まで増殖することは不可能である。次に、特許文献1には、インターロイキン2(IL−2)を高濃度で大量に使用してリンホカイン活性化キラー(LAK)細胞を誘導し、3〜4日間で細胞数を100倍まで増やす方法が開示されている。これは、通常、1個の細胞が分裂して2個に増殖するのに約24時間かかることを考えれば、飛躍的な細胞数である。また、同様に高濃度のIL−2を用いて腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を誘導して養子免疫療法を試みている(非特許文献4、5、6参照)。しかし、前者は抗原に対して非特異的なT細胞の取得法であり、後者は活性化しているポリクローナルなリンパ球集団を用いるために特異性があったとしても僅かである。更に、上記の方法ではともに細胞増殖を促進する為に高濃度のIL−2を用いており、高濃度のIL−2で処理されたT細胞がIL−2非存在下で特異的抗原刺激を受けた場合にアポトーシス(細胞死)を起こす可能性があるとの報告(非特許文献7、8参照)から、上記方法で得られたLAK細胞やTILの有効性には問題がある。
【0008】
また、T細胞をT細胞増殖因子とIL−2存在下で低密度(5×10〜1×10個/ml)で培養すると7日間にわたって急速に増殖し、最終的には細胞数が3〜5×10個/mlという飽和密度まで増殖する。しかしながら、ひとたびこの飽和密度に達すると、細胞が常に死んでしまうという報告もある(非特許文献9参照)。従って、LAK細胞、TIL及び低密度によるT細胞培養方法は、実用面においても、有用面においても問題を有している。
【0009】
次に、抗原特異的なCTLに関しては、同系異種由来のサイトメガロウイルス(CMV)特異的CTLをイン・ビトロにて5〜12週間培養してCTLを増殖させた後、免疫不全の患者に静脈内投与する養子免疫療法(非特許文献10参照)、自己CMV感染線維芽細胞とIL−2(非特許文献11参照)及び抗CD3モノクローナル抗体(抗CD3mAb)とIL−2(非特許文献12参照)を用いてCMV特異的CTLクローンを単離ならびに大量培養する方法が報告されている。しかし、これらの方法には大きな問題点が存在する。すわなち、1×10個/mlの抗原特異的CTLを得るのに約3ヶ月を要してしまい、その間に患者の症状が進行してしまう為、状況に応じた対応をとることが難しい。
【0010】
このような問題点を解決する方法として、特許文献2にはREM法(rapid expansion method)が開示されている。このREM法は、抗原特異的CTL及びTを含むT細胞の初期集団を短期間で増殖(Expand)させる方法である。つまり、個々のT細胞クローンを増殖させて大量のT細胞を提供できる点が特徴であるが、次のような問題点が存在する。REM法においては、抗CD3抗体、IL−2、並びに放射線照射により増殖性をなくしたPBMC(peripheral blood mononuclear cell,末梢血単核細胞)とエプスタイン−バールウイルス(Epstein−Barr virus,以下EBVと略す)感染細胞とを用いて抗原特異的CTL数を増殖させているが、T細胞へのEBVトランスフォームB細胞(EBV−B細胞)の混入の危険性が否定されない点(安全性の問題)、フィーダ細胞として大量のPBMC(必要とする抗原特異的CTL数の少なくとも約40倍のPBMC)が必要である点、増殖したCTLの抗原特異的細胞傷害活性が充分満足しうるものではない点、T細胞クローン以外のT細胞集団を用いて増殖させた場合、T細胞が有する抗原特異的な細胞傷害活性は細胞の増殖と共に低下する点、等の問題を有している。
【0011】
すなわち、従来の抗原特異的CTL調製法では、治療への使用に有効な抗原特異的な細胞傷害活性を有するCTLを、短期間で、かつ充分な量を調製するという、養子免疫療法において必要不可欠な問題が未だ解決されていないのが現状である。
【非特許文献1】グリーンバーグ(Greenberg,P.D.)著、アドバンセズ・イン・イムノロジー(Advances in Immunology)、1992年
【非特許文献2】ロイゼル P.ら(Reusser P.,et al.)、ブラッド(Blood)、第78巻、第5号、第1373〜1380頁(1991)
【非特許文献3】ポール W.E.ら(Paul W.E.,et al.)、ネイチャー(Nature)、第294巻、第5843号、第697〜699頁(1981)
【非特許文献4】ローゼンバーグ S.A.ら(Rosenberg S.A.,et al.)、ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(N.Engl.J.Med.)、第313巻、第23号、第1485〜1492(1985)
【非特許文献5】ローゼンバーグ S.A.ら(Rosenberg S.A.,et al.)、N.Engl.J.Med.、第319巻、第25号、第1676〜1680頁(1988)
【非特許文献6】ホ M.ら(Ho M.,et al.)、Blood、第81巻、第8号、第2093〜2101頁(1993)
【非特許文献7】レナード M.J.ら(Lenardo M.J.,et al.)、Nature、第353巻、第6347号、第858〜861頁(1991)
【非特許文献8】ボーメ S.A.ら(Boehme S.A.,et al.)、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・イムノロジー(Eur.J.Immunol.)、第23巻、第7号、第1552〜1560頁(1993)
【非特許文献9】ギリス S.ら(Gillis S.et al)、イムノロジカル・レビューズ(Immunol.Rev.)、第54巻、第81〜109頁(1981〕
【非特許文献10】リデル S.A.ら(Riddell S.A.et al.)、Science、第257巻、第5067号、第238〜240頁(1992)
【非特許文献11】リデル S.A.ら(Riddell S.A.et al.)、ジャーナル・オブ・イムノロジー(J.Immunol.)、第146巻、第8号、第2795〜2804頁(1991)
【非特許文献12】リデル S.A.ら(Riddell S.A.et al.)、ジャーナル・オブ・イムノロジカル・メソッズ(J.Immunol.Methods)、第128巻、第2号、第189〜201頁(1990)
【特許文献1】米国特許第5,057,423号
【特許文献2】国際公開第96/06929号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、養子免疫療法への使用に適した、抗原特異的な細胞傷害活性を高いレベルで保持したCTLを拡大培養ならびに維持する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下記(A)〜(E)からなる群より選択される少なくとも1種の物質(本発明においては、当該物質を有効成分として使用する)により、CTLの拡大培養及び継続培養において、意外にもCTLの抗原特異的な細胞傷害活性の維持または増強能(以下、作用という場合がある)が発揮されることを見出し、完成するに至ったものである。
(A)CD44に結合活性を有する物質、
(B)CD44リガンドがCD44に結合することにより発せられるシグナルを制御し得る物質、
(C)成長因子の成長因子レセプターへの結合を阻害し得る物質、
(D)成長因子が成長因子レセプターに結合することにより発せられるシグナルを制御し得る物質、並びに
(E)フィブロネクチン、そのフラグメント又はそれらの混合物。
【0014】
即ち、本発明は、
〔1〕 抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞を拡大培養する方法であって、
(A)ヒアルロン酸、又は抗CD44抗体、
(B)抗成長因子抗体、並びに
(C)フィブロネクチン、そのフラグメント又はそれらの混合物、
からなる群より選択される少なくとも1種の物質の存在下に細胞傷害性T細胞をインキュベートする工程を含むことを特徴とする方法、
〔2〕 インキュベート工程において、さらに抗CD3抗体の存在下に細胞傷害性T細胞をインキュベートする前記〔1〕記載の方法、
〔3〕 インキュベート工程において、細胞傷害性T細胞をフィーダ細胞と共にインキュベートする前記〔1〕又は〔2〕記載の方法、
〔4〕 フィーダ細胞が非ウイルス感染細胞である前記〔3〕記載の方法、
〔5〕 フィブロネクチンのフラグメントが、
(a)VLA−4結合ドメイン、
(b)VLA−5結合ドメイン、および
(c)ヘパリン結合ドメイン、
からなる群より選択される少なくとも1種のドメインを有するフラグメントである前記〔1〕記載の方法、
〔6〕 フィブロネクチンのフラグメントが、配列表の配列番号1〜13に記載のアミノ酸配列のいずれか1つからなるフラグメントである前記〔1〕記載の方法、
〔7〕 前記〔1〕に記載の(A)〜(C)からなる群より選択される少なくとも1種の物質の存在下に細胞傷害性T細胞への分化能を有する前駆細胞を抗原提示細胞と共にインキュベートして得られた抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞を拡大培養する、前記〔1〕記載の方法、
〔8〕 抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞を維持するための方法であって、
(A)ヒアルロン酸、又は抗CD44抗体、
(B)抗成長因子抗体、並びに
(C)フィブロネクチン、そのフラグメント又はそれらの混合物、
からなる群より選択される少なくとも1種の物質の存在下に細胞傷害性T細胞を継続培養する工程を含むことを特徴とする方法、
〔9〕 フィブロネクチンのフラグメントが、
(a)VLA−4結合ドメイン、
(b)VLA−5結合ドメイン、および
(c)ヘパリン結合ドメイン、
からなる群より選択される少なくとも1種のドメインを有するフラグメントである前記〔8〕記載の方法、
〔10〕 フィブロネクチンのフラグメントが、配列表の配列番号1〜13に記載のアミノ酸配列のいずれか1つからなるフラグメントである前記〔8〕記載の方法、
〔11〕 前記〔8〕に記載の(A)〜(C)からなる群より選択される少なくとも1種の物質の存在下に細胞傷害性T細胞への分化能を有する前駆細胞を抗原提示細胞と共にインキュベートして得られた抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞を継続培養する、前記〔8〕記載の方法、
〔12〕 前記〔1〕〜〔11〕いずれかに記載の方法によって得られた細胞傷害性T細胞含有培養物から、抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞を高含有する細胞集団を選択する工程を含む細胞傷害性T細胞の回収方法、
〔13〕 前記〔1〕〜〔12〕いずれかに記載の方法で調製された抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞、
〔14〕 前記〔13〕に記載の細胞傷害性T細胞を有効成分として含有することを特徴とする養子免疫療法用治療剤、
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、養子免疫療法への使用に適した、抗原特異的な細胞傷害活性を高いレベルで保持したCTLを拡大培養ならびに維持する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を具体的に説明する。
(1)本発明の細胞傷害性T細胞の誘導方法
通常、抗原提示細胞により誘導されたCTLは、維持、増殖させる間にその抗原特異的な細胞傷害活性を低下させていくことが知られている。本発明により、誘導後の細胞を長期間にわたって維持、あるいはこれを増殖させても、従来観察されたような抗原特異的な細胞傷害活性の著しい低下が生じない抗原特異的なCTLの誘導方法が提供される。
本発明のCTLの誘導方法は前記有効成分の存在下にCTLを誘導することを1つの大きな特徴とする。CTLの誘導は、当該有効成分の存在下、得られるCTLに所望の抗原に対する認識能力を付与するために、適切な抗原提示細胞とともにCTLへの分化能を有する前駆細胞をインキュベートすることにより実施される。前駆細胞はCTLになる前段階で、しかもCTLに分化するように運命付けられている細胞であれば特に限定されるものではなく、例えば末梢血単核球(PBMC)、ナイーブ細胞、メモリー細胞等が挙げられる。抗原提示細胞は、T細胞に対して認識すべき抗原を提示する能力を有する細胞であれば特に限定はない。例えば、単球、B細胞、T細胞、マクロファージ、樹状細胞、線維芽細胞等に所望の抗原を提示させ、本発明に使用することができる。
【0017】
抗原提示細胞は、抗原提示能を有する細胞に抗原ペプチドを付加し、その表面に抗原ペプチドを提示させることにより調製することができる〔例えば、ベドナレク M.A.ら(Bednarek M.A.et al.)、J.Immunol.、第147巻、第12号、第4047〜4053頁(1991)を参照〕。また、抗原提示能を有する細胞が抗原を処理(process)する能力を有している場合には、当該細胞に抗原を付加することにより、抗原が細胞内に取り込まれてプロセッシングを受け、断片化された抗原ペプチドが細胞表面に提示される。なお、抗原ペプチドを、抗原提示能を有する細胞に付加する場合、使用される抗原提示細胞、誘導しようとするCTLのHLA拘束性に合致する抗原ペプチドが使用される。
【0018】
なお、本発明において使用される抗原は特に限定されるものではなく、例えば、細菌、ウィルスなどの外来性抗原や腫瘍関連抗原(癌抗原)などの内在性抗原等が挙げられる。
【0019】
本発明においては、抗原提示細胞は非増殖性とすることが好ましい。細胞を非増殖性とするためには、例えばX線等の放射線照射又はマイトマイシン(mitomycin)等の薬剤による処理を行えばよい。
【0020】
本発明のCTLの誘導方法において使用される培地には特に限定はなく、CTL、その前駆細胞、ならびに抗原提示細胞の維持、生育に必要な成分を混合して作製された公知の培地を使用することができ、たとえば市販の培地であってもよい。これらの培地はその本来の構成成分以外に適当なタンパク質、サイトカイン類、その他の成分を含んでいてもよい。好適には、インターロイキン−2(IL−2)を含有する培地が本発明に使用される。また、これらのタンパク質、サイトカイン類、その他の成分は、本発明の方法に使用する培養器材やマイクロビーズ等の基体に固定化して使用してもよい。それらの成分は、所望の効果が得られるような量にて後述するような公知の固定化方法により培養器材等に固定化すればよい。
【0021】
CD44は造血系細胞、線維芽細胞、マクロファージなどに広く存在している細胞表面レセプターであり、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、オステオポンチン、コラーゲンタイプ1、コラーゲンタイプ4、フィブロネクチン、セルグリシンなどがそのリガンドとして報告されている。その機能としては、細胞−細胞間、および細胞−細胞外基質間の接着を介する細胞内への情報伝達により、他の接着分子の活性化、サイトカイン産生等の機能を発揮することが知られている。CD44はCTLにも存在しており、CD44にヒアルロン酸や抗CD44抗体が結合すると、CD44の細胞内領域に存在するチロシンキナーゼドメインの活性化、これによる細胞内基質タンパク質のチロシンのリン酸化がおこり、細胞内情報伝達が行われることが知られている。すなわち、CD44にそのリガンドや抗CD44抗体が結合することによりシグナルが発せられ、種々の機能へとつながることが知られている。
【0022】
本発明において、CD44に結合活性を有する物質としては、CTLの特異的な細胞傷害活性の維持あるいは増強能を示す限り、特に限定はないが、例えばCD44リガンド及び/又は抗CD44抗体が例示される。CD44リガンドとしては、CTLの特異的な細胞傷害活性の維持あるいは増強能を示す限り、特に限定はないが、例えばヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、オステオポンチン、コラーゲンタイプ1、コラーゲンタイプ4、フィブロネクチン、セルグリシン等が挙げられ、特に好適にはヒアルロン酸が例示される。また、抗CD44抗体としては、CTLの特異的な細胞傷害活性の維持あるいは増強能を示す限り、特に限定はないが、例えば市販の抗CD44抗体が使用でき、誘導体、例えば蛍光標識化誘導体等も、CTLの特異的な細胞傷害活性の維持あるいは増強能を示す限り、特に限定なく使用することができる。
【0023】
また、本発明においては、CD44とCD44に結合活性を有する物質との結合の有無にかかわらず、CD44リガンドがCD44に結合することにより発せられるシグナルを制御することによっても、所望の効果を得ることができる。すなわち、本発明は、CD44に結合活性を有する物質の代わりに、CD44リガンドがCD44に結合することにより発せられるシグナルを制御し得る物質を有効成分として用いても実施することができる。ここでCD44リガンドがCD44に結合することにより発せられるシグナルとしては、当該シグナルを受け取った生体分子から発せられるシグナルをも包含する。すなわち当該シグナルとしては、例えばCD44の細胞内領域に存在するチロシンキナーゼドメインの活性化、活性化された前記チロシンキナーゼによる細胞内基質タンパク質のチロシンのリン酸化等が挙げられ、これらのシグナルを制御する物質としては、例えば各種リン酸化酵素等が挙げられる。なお、本明細書において制御とは、シグナル伝達経路において活性化された情報を下流域へ伝達すること、又は活性化された情報の下流域への伝達を阻害することをいう。
【0024】
成長因子は各種細胞の分裂や発達を促すポリペプチドの総称であり、細胞膜上の特異的レセプターを介して標的細胞に作用し、そのレセプターの多くは細胞内領域に存在するチロシンキナーゼドメインを活性化して標的細胞への情報伝達が行われることが知られている。
【0025】
本発明において、成長因子としては、成長因子の成長因子レセプターへの結合が阻害される、もしくは成長因子の成長因子レセプターへの結合により発せられるシグナルが制御されることにより、CTLの特異的な細胞傷害活性の維持あるいは増強能が示されるものである限り、特に限定はないが、例えば、肝細胞増殖因子(HGF)、インシュリン様増殖因子−1(IGF−1)、インシュリン様増殖因子−2(IGF−2)、神経成長因子(NGF)、神経栄養性因子、上皮成長因子、ミルク由来成長因子、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、脳由来線維芽細胞成長因子、酸性線維芽細胞増殖因子、ケラチノサイト増殖因子、血小板由来成長因子(PDGF)、血小板塩基性タンパク質、血小板第4因子、結合組織活性化ペプチド、コロニー形成刺激因子、エリスロポエチン、スロンボポエチン、T細胞成長因子、B細胞成長因子、軟骨由来因子、軟骨由来成長因子、骨由来成長因子、骨格成長因子、内皮細胞成長因子、内皮細胞由来成長因子、眼由来成長因子、精巣由来成長因子、セルトリ細胞由来成長因子、乳腺刺激因子、脊髄由来成長因子、マクロファージ由来成長因子、リサイクル間葉成長因子、形質転換増殖因子−α、形質転換増殖因子−β、ヘパリン結合性EGF様増殖因子、アンフィレグリン、平滑筋細胞由来成長因子(SDGF)、ベータ−セルリン、エピレグリン、ニューレグリン−1、−2及び−3、血管内皮増殖因子、ニューロトロフィン、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン(NT)−3、−4、−5、−6及び−7、グリア細胞株由来神経栄養性因子、幹細胞因子、ミッドカイン、プレイオトロフィン、Ephrin、Angiopoietin、アクチビン、腫瘍壊死因子等が例示される。本発明によれば、成長因子としては好適には肝細胞増殖因子、インシュリン様増殖因子−1、インシュリン様増殖因子−2が例示される。
【0026】
HGFは肝細胞増殖作用、タンパク質合成促進作用、胆汁うっ滞改善作用、さらには薬剤による腎障害の予防作用などを示す成長因子である。HGFのレセプターとしてはc−Metが知られており、HGFの示す多様な生理作用はすべてc−Metを介して行われている。c−Metはその細胞内ドメインにチロシンキナーゼドメインを有している。
【0027】
インシュリン様増殖因子(IGF)はインシュリン抗体で中和できないインシュリン様の活性物質である。IGFにはIGF−1とIGF−2の2種が存在することが知られている。IGFの結合するレセプターにはインシュリンレセプター、IGF−1レセプター、IGF−2レセプターがあり、特にインシュリンレセプターおよびIGF−1レセプターにはその細胞内ドメインにチロシンキナーゼドメインを有している。
【0028】
本発明において、成長因子の成長因子レセプターへの結合を阻害し得る物質としては、CTLの特異的な細胞傷害活性の維持あるいは増強能を示す限り、特に限定はないが、成長因子に結合活性を有し、成長因子と複合体を形成することにより成長因子が成長因子レセプターに結合するのを阻害する物質、もしくは成長因子レセプターに結合活性を有し、成長因子が成長因子レセプターに結合するのを阻害する物質が挙げられる。前者としては、例えば抗成長因子抗体、好適には抗HGF抗体、抗IGF−1抗体、抗IGF−2抗体が例示される。また後者としては、例えば、抗成長因子レセプター抗体、好適には抗c−Met抗体、抗インシュリンレセプター抗体、抗IGF−1レセプター抗体、抗IGF−2レセプター抗体が例示される。
【0029】
また、本発明においては、成長因子と成長因子レセプターとの結合の有無にかかわらず、成長因子が成長因子レセプターに結合することにより発せられるシグナルを制御することによっても、所望の効果を得ることができる。すなわち、本発明は、成長因子の成長因子レセプターへの結合を阻害し得る物質の代わりに、成長因子が成長因子レセプターに結合することにより発せられるシグナルを制御し得る物質を有効成分として用いても実施することができる。ここで成長因子が成長因子に結合することにより発せられるシグナルとしては、当該シグナルを受け取った生体分子から発せられるシグナルをも包含する。当該シグナルとしては、例えば成長因子の細胞内領域に存在するチロシンキナーゼドメインの活性化、これによる細胞内基質タンパク質のチロシンのリン酸化等が挙げられ、これらのシグナルを制御する物質としては例えば、キナーゼインヒビター等が挙げられる。
【0030】
本明細書中に記載のフィブロネクチンおよびそのフラグメントは、天然から得られたもの、または慣用の遺伝子組換え技術等を用いて人為的に合成されたもののいずれでもよい。フィブロネクチンおよびそのフラグメントは、例えば、ルオスラーティ E.ら〔Ruoslahti E.,et al、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.)、第256巻、第14号、第7277〜7281頁(1981)〕の開示に基づき、天然起源の物質から実質的に純粋な形態で製造することができる。ここで、本明細書に記載された実質的に純粋なフィブロネクチンまたはフィブロネクチンフラグメントとは、これらが天然においてフィブロネクチンと一緒に存在する、その供給源に由来する他のタンパク質等を本質的に含有していないことを意味する。上記のフィブロネクチン、およびそのフラグメントは、それぞれ単独で、もしくは複数の種類のものを混合して本発明に使用することができる。
【0031】
本発明に使用できるフィブロネクチンフラグメント、ならびに該フラグメントの調製に関する有用な情報は、キミヅカ F.ら〔Kimizuka F.,et al.、ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(J.Biochem.)、第110巻、第2号、第284〜291頁(1991)〕、コーンブリット A.R.ら〔Kornblihtt A.R.et al.、EMBO ジャーナル(EMBO J.)、第4巻、第7号、1755〜1759(1985)〕、およびセキグチ K.ら〔Sekiguchi K.,et al、バイオケミストリー(Biochemistry)、第25巻、第17号、第4936〜4941頁(1986)〕等より得ることができる。
【0032】
フィブロネクチンは分子量220〜250kDの巨大な糖タンパク質であり、コラーゲン、ヘパリン、フィブリン、インテグリンファミリーのVLA−4およびVLA−5、細胞、細菌など多くの生体高分子と結合する。また、フィブロネクチン分子はその機能的領域として、いくつかのドメイン構造に分けられている(代謝、Vol.23,No.11(1986))。ドメイン1は分子量約30,000で、ヘパリン、フィブリン、黄色ブドウ球菌などに結合する。ドメイン2は分子量約40,000でコラーゲンに結合する。ドメイン3は分子量約20,000でフィブリンに弱く結合すると考えられている。ドメイン4は分子量約75,000で、細胞結合ドメインである。ドメイン5(ヘパリン結合ドメイン)は分子量約35,000でヘパリンに強く結合する。ドメイン6は分子量約30,000でフィブリンに結合する。ドメイン7はカルボキシル末端の分子量約3,000のドメインである。さらに、ドメイン4にはVLA−5結合ドメインを含み、ドメイン5と6の間にはVLA−4結合ドメインを含んでいる。また、フィブロネクチンは、ED−A、ED−B、IIICSといったの3つのモジュールを有しており、選択的スプライシングが行われることが知られている。さらにIIICSには細胞接着活性を有するCS−1、およびCS−5を有している(FIBRONECTIN,Edited by Deane F.Mosher,ACADEMIC PRESS,INC,(1989))。
【0033】
本発明においては、特に限定するものではないが、フィブロネクチンフラグメントとしては、好適にはこれらのドメイン1〜7、VLA−4結合ドメイン、VLA−5結合ドメイン、ED−A、ED−B、IIICS、CS−1およびCS−5から選択される領域を有するフラグメントが例示される。また、本発明に使用されるフィブロネクチンフラグメントの分子量としては、特に限定はないが、好適には1〜200kD、より好適には5〜190kD、さらに好適には10〜180kDのフラグメントが好適に使用される。
【0034】
本発明においては、特に好適なフィブロネクチンフラグメントとしては、(a)フィブロネクチン由来の細胞結合ドメインであるインテグリンα5β1(VLA−5)結合ドメイン、(b)インテグリンα4β1(VLA−4)結合ドメインおよび(c)ヘパリン結合ドメインからなる群より選択される少なくとも1つのドメインを有するフラグメントが好適に使用される。VLA−5結合ドメインを含むフラグメントとしては配列番号:1に記載のアミノ酸配列を有するフラグメントが、VLA−4結合ドメインを有するフラグメントとしては配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有するフラグメントが、さらにヘパリン結合ドメインを含むフラグメントとしては配列番号:3に記載のアミノ酸配列を有するフラグメントがそれぞれ例示される。
【0035】
なお、本発明において好適に使用されるフラグメントとしては、上記の結合活性を有している範囲において、フィブロネクチン由来のアミノ酸配列に1以上のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加を有していてもよい。例えば、2つの異なるドメイン間にリンカーとして1以上のアミノ酸が挿入されたフラグメントも本発明に使用することができる。
【0036】
本明細書中に記載の実質的に純粋なフィブロネクチンフラグメントは、例えば、米国特許第5,198,423号の記載に基づいて遺伝子組換え体より製造することもできる。特に、下記実施例でH−271(配列番号:3)、H−296(配列番号:4)、CH−271(配列番号:5)およびCH−296(配列番号:6)として記載されている組換えフラグメントならびにこれらを取得する方法は、この特許に詳細に記載されている。また、下記実施例で使用したC−274フラグメント(配列番号:1)は、米国特許第5,102,988号に記載された方法により得ることができる。さらに、C−CS1フラグメント(配列番号:7)は、日本特許第3104178号に記載された方法により得ることができる。
【0037】
上記の、CH−271、CH−296、C−274、C−CS1の各フラグメントはVLA−5に結合する活性を有する細胞結合ドメインを有するポリペプチドである。また、C−CS1、H−296、CH−296はVLA−4に結合する活性を有する細胞結合ドメインを有するポリペプチドである。さらに、H−271、H−296、CH−271およびCH−296はヘパリン結合ドメインを有するポリペプチドである。
【0038】
上記の各ドメインが改変されたフラグメントも本発明に使用することができる。フィブロネクチンのヘパリン結合部位は3つのIII型類似配列(III−12、III−13、III−14)によって構成されている。前記III型類似配列のうちの1つもしくは2つを欠失したヘパリン結合部位を含むフラグメントも本発明に使用することが可能である。例えば、フィブロネクチンの細胞結合部位(VLA−5結合ドメイン、Pro1239〜Ser1515)と1つのIII型類似配列とが結合したフラグメントであるCHV−89(配列番号:8)、CHV−90(配列番号:9)、CHV−92(配列番号:10)、あるいは2つのIII型類似配列とが結合したフラグメントであるCHV−179(配列番号:11)、CHV−181(配列番号:12)が例示される。CHV−89、CHV−90、CHV−92はそれぞれIII−13、III−14、III−12を含むものであり、CHV−179はIII−13とIII−14を、CHV−181はIII−12とIII−13を、それぞれ含んでいる。CHV−89、CHV−90、CHV−179は、日本特許第2729712号に記載された方法により得ることができる。また、CHV−181は国際公開第97/18318号パンフレットに記載された方法により得ることができる。さらに、CHV−92は上記文献に記載されたプラスミドに基づいて定型的にプラスミドを構築し、該プラスミドを用いて遺伝子工学的に取得することができる。
【0039】
また、下記実施例に使用されたH−275−Cys(配列番号:13)は、フィブロネクチンのヘパリン結合ドメインを有し、かつC末端にシステイン残基を有するフラグメントである。当該フラグメントも本発明に使用することができる。
【0040】
これらのフラグメントまたはこれらのフラグメントから定型的に誘導できるフラグメントは、〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センター(旧通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所)に、下記受託番号のもとで寄託された微生物を用いて製造する、あるいは各微生物の保持するプラスミドを公知の方法(例えば、部位特異的変異誘発等)により改変することにより製造することができる;
FERM BP−2799(H−271をコードするプラスミドを保有する大腸菌)、
国際寄託日:1989年5月12日
FERM BP−2800(CH−296をコードするプラスミドを保有する大腸菌)、
国際寄託日:1989年5月12日
FERM BP−5723(C−CS1をコードするプラスミドを保有する大腸菌)、
原寄託日:1990年3月5日
国際寄託への移管請求日:1996年10月23日
FERM P−10721(H−296をコードするプラスミドを保有する大腸菌)、
日本国内寄託日:1989年5月12日
FERM P−12182(CHV−89をコードするプラスミドを保有する大腸菌)、
日本国内寄託日:1991年4月8日
FERM P−12183(CHV−179をコードするプラスミドを保有する大腸菌)
日本国内寄託日:1991年4月8日
【0041】
本発明で使用されるフラグメントの細胞結合ドメインと細胞との結合は、慣用の方法を使用してアッセイすることができる。例えば、このような方法には、ウイリアムズ D.A.らの方法〔Williams D.A.et al.、Nature、第352巻、第6334号、第438〜441頁(1991)〕が含まれる。当該方法は、培養プレートに固定化したフラグメントに対する細胞の結合を測定する方法である。
【0042】
また、上記方法において、細胞に換えてヘパリン、例えば標識ヘパリンを使用することにより、同様の方法でフラグメントのヘパリン結合ドメインの評価を行うことができる。
【0043】
上記に述べたように、フィブロネクチンは巨大分子であることから、その利便性の点では、本発明において使用されるには、フィブロネクチンフラグメントが好適に使用される。また、本発明に使用されるフィブロネクチンまたはそのフラグメントは、動物由来の血漿や臓器から得られるものを使用した場合、動物に由来するウィルス(HCV、HIV等)のコンタミネーション、純度、均一性について注意を払う必要があることから、特に好適には上記のように遺伝子工学的に得られたフィブロネクチンまたはそのフラグメントを使用することが好ましい。
【0044】
本発明において使用する有効成分は、単独でもしくは2種以上混合して用いることができる。
【0045】
本発明においては、CTLへの分化能を有する前駆細胞を抗原提示細胞とともにインキュベート(共培養)してCTLを誘導するための一般的な条件は公知の条件〔例えば、ベドナレク M.A.(Bednarek M.A.)ら、J.Immunol.、第147巻、第12号、第4047〜4053頁(1991)を参照〕に従えばよい。共培養条件には特に限定はなく、通常の細胞培養に使用される条件を使用することができ、例えば、37℃、5%CO等の条件で培養することができる。この共培養は通常、2〜15日程度実施されるが、その間に抗原提示細胞を新たに調製したものに取り替えて再刺激を行ってもよい。また、適当な時間間隔で培地を新鮮なものに交換することができる。
【0046】
共培養を行う培地中における、本発明の有効成分の含有量は所望の効果が得られれば特に限定するものではないが、例えば、好ましくは0.001〜1000μg/ml、より好ましくは0.01〜100μg/mlである。なお、本明細書において、有効成分等の成分を培地中に含有するとは、細胞培養時に培地を入れて使用する培養器材や、培地に入れて使用するマイクロビーズ等の基体に当該成分を固定化しておき、それらの基体と培地とを接触させ、当該成分(培地との接触後、基体に固定化されているか否かを問わず)を培地に含めるという態様も包含する。なお、有効成分は培地中に溶解もしくは培養器材やマイクロビーズ等の基体に固定化して存在させるのが望ましい。また、前記有効成分としては、ヒアルロン酸、抗CD44抗体、抗HGF抗体、抗IGF−1抗体、抗IGF−2抗体、及びフィブロネクチンフラグメントからなる群から選択される少なくとも1種が好適である。
【0047】
こうして誘導されたCTLは所望の抗原を特異的に認識する能力を有しており、例えば該抗原を有する細胞を、その細胞傷害活性により特異的に破壊する。このCTLの細胞傷害活性は公知の方法により評価できる。例えば、抗原提示細胞により提示されたペプチドと放射性物質、蛍光物質等で標識した標的細胞に対する傷害性、放射能の取り込みよって測定できるCTL増殖の抗原特異的な増加若しくはCTLや標的細胞より抗原特異的に遊離されるGM−CSF、IFN−γ等のサイトカイン量を測定することにより評価することができる(後述の実施例1−1−(3)参照)。その他蛍光色素等によって標識された抗原ペプチドや複合体の使用によって直接確認することもできる。この場合、例えばCTLをCTL特異性抗体とカップリングさせた第1蛍光マーカーと接触させてから第2蛍光マーカーとカップリングさせた抗原ペプチド−MHC複合体を接触させ、そして二重標識細胞の存在をFACS(fluorescence−activated cell sorting)分析することにより評価することができる。
【0048】
本発明の方法により誘導されたCTLは誘導後の細胞を長期間にわたって維持、あるいはこれを急速に増殖させても、従来観察されたような抗原特異的な細胞傷害活性の著しい低下がないという優れた性質を有している。従って、誘導されたCTLをクローン化することにより、安定した細胞傷害活性を有するリンパ球として維持することもできる。例えば、誘導されたCTLに抗原、各種サイトカイン、抗CD3抗体刺激を与えることにより増殖させ、拡大培養することができる。このCTLの維持、拡大培養には、特に限定はなく、公知の方法を用いることができ、例えば、後述する本発明の細胞傷害性T細胞の維持方法、拡大培養方法の使用が好適である。
【0049】
(2)本発明の細胞傷害性T細胞の維持方法
本発明の細胞傷害性T細胞の維持方法は、CTLを抗原特異的な細胞傷害活性を保ったままで維持する方法である。該方法は本発明の有効成分を含有する培地中でCTLを継続培養することを1つの大きな特徴としており、該細胞の有する抗原特異的な細胞傷害活性を継続的に維持させることができる。
【0050】
上記方法を適用可能なCTLには限定はなく、公知の方法で得られたCTLをその抗原特異的な細胞傷害活性を維持させたまま、本発明の方法で維持することができる。また、上記(1)に記載の本発明の細胞傷害性T細胞の誘導方法によって得られたCTLの維持にも好適に使用される。
【0051】
本発明においては、CTLの継続培養の一般的な条件は公知の条件〔例えば、カーター J.ら(Carter J.et al.)、イムノロジー(Immunology)、第57巻、第1号、第123〜129頁(1986)を参照〕に従えばよい。本発明の細胞傷害性T細胞の維持方法に使用される培地にも特に限定はなく、たとえば上記のCTLの誘導方法に使用される培地を使用することができる。
【0052】
本発明の方法は前記有効成分を含有する培地により実施される。培養を行う培地中における、本発明の有効成分の含有量は所望の効果が得られれば特に限定されるものではないが、好ましくは0.001〜1000μg/ml、より好ましくは0.01〜100μg/mlである。なお、有効成分は培地中に溶解もしくは培養器材やマイクロビーズ等の基体に固定化して存在させるのが好ましい。また、前記有効成分としては、ヒアルロン酸、抗CD44抗体、抗HGF抗体、抗IGF−1抗体、抗IGF−2抗体およびフィブロネクチンフラグメントからなる群から選択される少なくとも1種が好適である。さらに、培地にはサイトカインやその他の公知の成分を添加することができる。本発明には好適にはIL−2を含有する培地が使用される。また、前記同様に、これらのサイトカインやその他の公知の成分は培養器材やマイクロビーズ等の基体に固定化して使用してもよい。培養条件には特に限定はなく、通常の細胞培養に使用される条件を使用することができ、例えば、37℃ 5%CO等の条件で培養することができる。また、適当な時間間隔で培地を新鮮なものに交換することができる。
【0053】
上記のように、本発明の有効成分を含有する培地中にてCTLを継続的に培養することにより、その特異的な細胞傷害活性の低下を抑制してCTLを維持することができる。このような本発明の効果は、本発明の方法で維持されたCTLの有する細胞傷害活性を、実施例1−1−(3)に記載された方法により測定し、確認することができる。また、該方法で維持されたCTLは公知の拡大培養法により増殖させることができ、こうして増殖されたCTLも特異的な細胞傷害活性を保持している。なお、CTLの拡大培養方法としては、後述する本発明のCTLの拡大培養方法を好適に使用することができる。
【0054】
(3)本発明の細胞傷害性T細胞の拡大培養方法
細胞傷害性T細胞は適切な条件下で培養を行うことにより、細胞数を増加させることができる(拡大培養)。従来、いくつかのCTLの拡大培養方法が開発されているが、短期間で効率よくCTLを増殖させることが可能なものとしてリデル(Riddell)らの開発した前出のREM法が知られている。該方法はX線照射により非増殖性としたPBMC(フィーダ細胞として使用)とEBVで形質転換されたB細胞(EBV−B細胞)とを使用し、IL−2、抗CD3モノクローナル抗体の存在下にCTLを培養する方法である。しかしながら、該方法ではT細胞へのEBV−B細胞の混入の危険性が否定されない点が問題とされていた。
【0055】
本発明の細胞傷害性T細胞の拡大培養方法は、抗原特異的な細胞傷害活性を保ったままで当該細胞数を増加させることが可能な方法である。該方法は本発明の前記有効成分の存在下に細胞をインキュベート(培養)することを特徴とする。
【0056】
本発明の方法において、適用可能なCTLには限定はなく、生体から得られた細胞障害活性を有するCTL、公知の方法で誘導されたCTL、上記(1)に記載の本発明のCTLの誘導方法によって得られたCTL、上記(2)に記載の本発明のCTLの維持方法により維持されたCTLを、本発明のCTLの拡大培養に好適に使用することができる。なお、本発明においては、CTLの拡大培養の一般的な条件は公知の条件〔例えば、ウバーティ J.P.ら(Uberti J.P.et al.)、クリニカル イムノロジー アンド イムノパソーロジー(Clin.Immunol.Immunopathol.)、第70巻、第3号、第234〜240頁(1994)を参照〕に従えばよい。
【0057】
本発明の細胞傷害性T細胞の拡大培養方法においては、前記有効成分に加え、抗CD3抗体、好ましくは抗CD3モノクローナル抗体をさらに含有する培地中でCTLを共培養するのが望ましい。また、さらに好適には、CTLは適切なフィーダ細胞と共培養される。
【0058】
上記方法に使用される培地には特に限定はなく、CTLの培養、生育に必要な成分を混合して作製された公知の培地を使用することができ、たとえば市販の培地であってもよい。なお、CTLをフィーダ細胞と共培養する場合には、CTL、フィーダ細胞の両者の維持、生育に適した培地であることが望ましい。これらの培地は、その本来の構成成分以外に適当なタンパク質、サイトカイン類、その他の公知の成分を含んでいてもよく、例えば、IL−2を含有する培地が本発明に好適に使用される。抗CD3抗体、特に抗CD3モノクローナル抗体はCTL上のT細胞レセプターを活性化する目的で添加することができる。なお、抗CD3抗体の培地中における含有量は公知の条件に従って決定すればよく、例えば0.01〜400μg/mlが好適である。なお、これらのタンパク質、サイトカイン類、その他の公知の成分については、培地中に溶解して含有させてもよく、また、培養器材やマイクロビーズ等の基体に固定化して含有させてもよい。
【0059】
本発明のCTLの拡大培養方法は、前記有効成分を培地に含有させて実施される。なお、前記有効成分としては、ヒアルロン酸、抗CD44抗体、抗HGF抗体、抗IGF−1抗体、抗IGF−2抗体およびフィブロフラグメントからなる群から選択される少なくとも1種が好適である。また、培養を行う培地中における、本発明の有効成分の含有量は所望の効果が得られれば特に限定されるものではないが、好ましくは0.001〜1000μg/ml、より好ましくは0.01〜100μg/mlである。なお、有効成分は培地中に溶解もしくは培養器材やマイクロビーズ等の基体に固定化して存在させるのが好ましい。
【0060】
本発明の方法に使用されるフィーダ細胞は、抗CD3抗体、特に抗CD3モノクローナル抗体と協同してCTLを刺激し、T細胞レセプター又は副刺激受容体(costimulatory signal receptor)を活性化するものであれば特に限定はない。本発明には、例えば、PBMCやEBV−B細胞が使用される。通常、フィーダ細胞は放射線照射のような手段で増殖能を奪ったうえで使用される。なお、フィーダ細胞の培地中における含有量は公知の方法に従って決定すればよく、例えば、1×10〜1×10cells/mlが好適である。
【0061】
本発明の特に好ましい態様においては、フィーダ細胞として、非ウィルス感染細胞、例えば、EBV−B細胞以外のもの、具体的には、自己もしくは非自己由来のPBMC等が使用される。これにより、拡大培養されたCTL中にEBV−B細胞が混在する可能性を排除することができ、養子免疫療法のようなCTLを利用した医療の安全性を高めることが可能となる。
【0062】
本発明のCTLの拡大培養方法において、その培養条件には特に限定はなく、通常の細胞培養に使用される条件を使用することができ、例えば、37℃ 5%CO等の条件で培養することができる。また、適当な時間間隔で培地を新鮮なものに交換することができる。
【0063】
なお、本発明のCTLの拡大培養方法については、前記有効成分を使用されている培地に含有させていれば特に限定は無く、上記以外の従来のCTL拡大培養法において、本発明の有効成分を培地に含有させる態様も本発明に包含される。
【0064】
本発明の拡大培養方法によれば、例えば14日間の拡大培養によって10〜10倍に細胞数の増加したCTLを得ることができる。さらに、こうして得られたCTLは従来のCTL拡大培養法、例えばREM法で得られたものに比べてより高い抗原特異的な細胞傷害活性を保持している。
【0065】
このような本発明の効果は、本発明の方法で拡大培養されたCTLの有する細胞傷害活性を、実施例1−1−(3)に記載された方法により測定し、確認することができる。
【0066】
また、本発明に使用される有効成分は、CTLの抗原特異的な細胞傷害活性の維持または増強に働く、CTL誘導剤、CTL維持剤あるいはCTL拡大培養剤(以下、これらをCTL培養剤という)として使用することができる。当該CTL培養剤は、有効成分そのもの、またはさらにその他の任意の成分、たとえば、CTLの誘導方法において使用される培地、CTLの維持方法において使用される培地またはCTLの拡大培養方法において使用される培地に含まれる、CTLやフィーダ細胞等の培養、生育に必要な成分、ならびに適当なタンパク質、サイトカイン類(好適にはIL−2)、所望のその他の成分とからなる。また、これらのCTL培養剤を含有する培地はCTL誘導用、維持用、あるいは拡大培養用培地(CTL用培地)として使用することができる。また、これらのCTL培養剤は培地に混合(溶解を含む)させておいてもよく、培養器材やマイクロビーズ等の基体に固定化しておいてもよい。これらの培地は細胞培養のための基本的な成分を任意に含むものである。なお、前記CTL培養剤およびCTL用培地は所望の成分を公知の方法により適宜混合することにより製造することができる。
【0067】
さらに本発明によれば、例えば、培養プレート、シャーレ、フラスコ、バッグ等の任意の培養器材(容器)、もしくはビーズ、メンブレン等の支持担体等の基体(詳しくは、細胞培養時に培地が接触する基体の部分)に前記有効成分を固定化してなるCTL誘導用、維持用又は拡大培養用の、それらの基体を提供することもできる。基体への有効成分の固定化量としては、本発明の所望の効果が得られれば特に限定されるものではないが、当該基体を使用してCTLを誘導等する場合に、有効成分が、本発明のCTL誘導方法、維持方法又は拡大培養方法の説明において記載した有効成分の好ましい培地含有量範囲で、基体において使用する任意の培地中に含まれうることとなる量であるのが好ましい。また、前記有効成分に加え、任意に、前記タンパク質、サイトカイン類、その他の成分を固定化してもよい。固定化方法としては、特に限定はないが、例えば、タンパク質吸着、ビオチンとアビジンもしくはストレプトアビジンとの結合、化学的固定化等の公知の固定化方法を使用できる。当該器材は本発明のCTL誘導方法、維持方法又は拡大培養方法において好適に使用される。
【0068】
上記のCTLの誘導方法、維持方法ならびに拡大培養方法を用いることにより得られたCTL含有培養物中には、通常、ヘルパーT細胞等のCTL以外の細胞も混在している。本発明においては、該培養物から遠心分離等により該培養物中の細胞を回収し、本発明の方法により得られたCTLとしてそのまま使用することができる。
【0069】
また、さらに該培養物から公知の方法により、抗原特異的な細胞傷害活性を有するCTLを高含有する細胞集団(あるいは培養物)を分離し、本発明の方法により得られたCTLとして使用することもできる。すなわち、本発明においては、前記CTL含有培養物中のCTL以外の細胞(例えば、ヘルパーT細胞等)とCTLとの分離操作を施すことにより抗原特異的な細胞傷害活性に関して濃縮された細胞集団を調製して使用することができる。このような前記細胞集団を分離することによる抗原特異的な細胞傷害活性の濃縮は従来のREM法ではなしえなかったことである。よって、本発明の一態様として、本発明のCTLの誘導方法、維持方法ならびに拡大培養方法のいずれかにより得られたCTL含有培養物から抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞を高含有する細胞集団を選択する工程を含む細胞傷害性細胞の回収方法が提供される。なお、本発明のCTLの回収方法は、1つには高い抗原特異的な細胞傷害活性を有するCTLの細胞集団を選択的に得る方法をいうが、広義には、当該CTLの細胞集団を生産または獲得する方法をいう。該細胞集団の選択方法については特に限定はないが、例えば上記のCTLの誘導方法、維持方法ならびに拡大培養方法を用いて得られたCTL含有培養物からCTL細胞表面上に発現している細胞表面抗原に対する抗体、例えば抗CD8抗体を結合させた磁気ビーズまたはカラムを用いてCTLのみを選択的に回収し、CTLを高含有する細胞集団を得ることができる。また、フローサイトメーターを用いてCTLを選択的に分離することもできる。また、本発明のCTLの誘導方法、維持方法ならびに拡大培養方法により得られたCTL含有培養物中から、CTL以外の細胞を除去することにより、CTLを高含有する細胞集団を得ることができる。例えば、当該培養物からヘルパーT細胞を除去するためにヘルパーT細胞表面上に発現している細胞表面抗原に対する抗体、例えば抗CD4抗体を結合させた磁気ビーズまたはカラムを用いてヘルパーT細胞を選択的に除去し、CTLを高含有する細胞集団を得ることができる。また、ヘルパーT細胞の除去にはフローサイトメーターを用いることもできる。このようにして得られたCTLを高含有する細胞集団は、CTL含有培養物から非選択的に回収された細胞集団と比較してより強い細胞傷害活性を有しており、本発明の方法により得られたCTLとしてより好適に使用できる。また、本発明においてはCTLを高含有する細胞集団として、CTLのみの細胞集団も包含する。
【0070】
また、本発明のCTLの維持方法ならびに拡大培養方法により得られたCTLを用いて、さらに本発明のCTLの維持方法ならびに拡大培養方法を行うことによりCTLの維持または拡大培養を行うこともできる。例えば、本発明の拡大培養方法により得られたCTLから上記の方法によりCTLを高含有する画分を得、該画分を用いて、再度、本発明の拡大培養方法を行うことにより、さらに細胞傷害活性の高いCTLを得ることもできる。また、本発明の拡大培養方法により得られたCTLを本発明の維持方法を用いてその細胞傷害活性を維持させておくこともできる。
【0071】
さらに本発明は、上記の本発明のCTLの誘導方法、維持方法ならびに拡大培養方法で得られたCTL(これらの方法で得られたCTL含有培養物から前記回収方法により回収されたCTLを含む)を提供する。かかるCTLは、いずれも抗原特異的な細胞傷害活性を有しており、長期間にわたる継続培養や拡大培養を行っても細胞傷害活性の低下が少ないという性質を有する。また、本発明は、当該CTLを有効成分として含有する治療剤を提供する。当該治療剤は、特に養子免疫療法への使用に適している。養子免疫療法においては、患者の治療に適した抗原特異的な細胞傷害活性を有するCTLが、例えば静脈への投与によって患者に投与される。当該治療剤は製薬分野で公知の方法に従い、例えば、本発明の方法により調製されたCTLを有効成分として、たとえば、公知の非経口投与に適した有機または無機の担体、賦形剤、安定剤等と混合することにより調製できる。当該CTLとしては特に、本発明のCTL拡大培養方法によってEBV感染細胞を使用することなく調製されたCTLがこの目的に好適である。なお、治療剤におけるCTLの含有量、治療剤の投与量、当該治療剤に関する諸条件は公知の養子免疫療法に従って適宜、決定できる。
【0072】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら限定されるものではない。
【0073】
実施例1 ヒアルロン酸を用いた特異的細胞傷害活性保持CTLの拡大培養
実施例1−1
(1) PBMCの分離および保存
HLA−A2.1保有ヒト健常人ドナーより成分採血を実施後、採血液をPBS(−)で2倍希釈し、Ficoll−paque〔ファルマシア(Pharmacia)社製〕上に重層後、500g×20分間遠心した。遠心後、中間層の末梢血単核細胞(PBMC)をピペットで回収、洗浄した。採取したPBMCは90%FBS〔バイオ ウイタカー(Bio Whittaker)社製〕/10%DMSO〔シグマ(SIGMA)社製〕からなる保存液に懸濁し、液体窒素中にて保存した。CTL誘導時にはこれら保存PBMCを37℃水浴中にて急速融解し、10μg/ml DNase〔カルビオケム(Calbiochem)社製〕を含むRPMI1640培地(Bio Whittaker社製)で洗浄後、トリパンブルー染色法にて生細胞数を算出して各実験に供した。
【0074】
(2) 抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導
抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導は、ベドナレク(Bednarek)らの方法〔Bednarek M.A.et al.、J.Immunology.、第147巻、第4047〜4053頁(1991)〕を一部改変して実施した。すなわち、5%ヒトAB型血清、0.1mM非必須アミノ酸、1mMピルビン酸ナトリウム、2mM L−グルタミン(全てBio Whittaker社製)、10mM HEPES(ナカライテスク社製)、1%ストレプトマイシン−ペニシリン〔ギブコ ビーアールエル(Gibco BRL)社製〕を含むRPMI1640培地(Bio Whittaker社製)(以下5HRPMIと略す)に1〜4×10cells/mlとなるように実施例1−1−(1)で調製したPBMCを懸濁後、24穴細胞培養プレート〔ファルコン(Falcon)社製〕に1ml/ウェルずつまき、5%CO湿式インキュベーター内にて、37℃で1.5時間インキュベートし、プラスチック接着性の単球を分離した。その後、非接着性の細胞をRPMI1640培地を用いて回収し、レスポンダー細胞として氷上保存した。分離した単球には、抗原ペプチドとして5μg/mlのインフルエンザウイルスタンパク質由来エピトープペプチド(配列表の配列番号:18に記載のマトリックスプロテイン由来−HLA−A2.1結合性ペプチド)および1μg/mlのβ2マイクログロブリン〔スクリプス(Scrips)社製〕を含む5HRPMIを0.5mlづつ添加し、2時間室温にてインキュベート後、X線照射(5500R)して抗原提示細胞とした。各ウェルからペプチド液を吸引除去し、ウェルをRPMI1640培地を用いて洗浄後、氷上保存しておいたレスポンダー細胞を0.5〜2×10cells/mlとなるよう5HRPMIに懸濁し、1ml/ウェルづつ抗原提示細胞上に添加した。このとき、ヒアルロン酸(Calbiochem社製)を終濃度10μg/mlとなるように添加した。コントロールとして、サンプルを添加しない群も設定した。プレートを5%CO中、37℃で培養した。培養開始後2日目に、60U/mlのIL−2(塩野義製薬社製)と10μg/mlのヒアルロン酸を含む5HRPMI 1ml(コントロールは、IL−2のみ含有)を各ウェルに添加、また5日目には培養上清を半分除去後、同様のIL−2およびヒアルロン酸含有培地(コントロールはIL−2のみ含有)を1mlずつ添加した。7日目に上記と同様にして抗原提示細胞を調製したあと、1週間培養したレスポンダー細胞を0.5〜2×10cells/mlとなるように5HRPMIに懸濁し、調製した抗原提示細胞上に1ml/ウェルずつ添加し、再刺激した。このとき、ヒアルロン酸を終濃度10μg/mlとなるように添加した(コントロールは、無添加)。再刺激後2日目に、60U/mlのIL−2および10μg/mlのヒアルロン酸を含む(コントロールは、IL−2のみ含有)5HRPMI 1mlを各ウェルに添加、また5日目には培養上清を半分除去後、除去前と同じ内容の培地を1mlづつ添加し、さらに培養を2日続け、CTLを誘導した。
【0075】
(3) CTL細胞傷害活性の測定
実施例1−1−(2)で調製した誘導開始後14日目のCTLの細胞傷害活性は、Calcein−AMを用いた細胞傷害活性測定法〔リヒテンフェルズ R.ら(Lichtenfels R.et al.)、J.Immunol.Methods、第172巻、第2号、第227〜239頁(1994)〕にて評価した。一晩エピトープペプチドと共培養、もしくはエピトープペプチド非存在下で培養したHLA−A2.1保持EBVトランスフォームB細胞(細胞名 221A2.1)を1×10cells/mlとなるよう5%FBS(fetal bovine serum,ウシ胎児血清、Bio Whittaker社製)を含むRPMI1640培地に懸濁後、終濃度25μMとなるようにCalcein−AM〔ドータイト(Dotite)社製〕を添加し、37℃で1時間培養した。細胞をCalcein−AMを含まない培地にて洗浄後、20倍量のK562細胞(ATCC CCL−243)と混合し、Calcein標識標的細胞とした。なお、K562細胞はレスポンダー細胞中に混入するNK細胞による非特異的傷害活性を排除するために用いた。
【0076】
実施例1−1−(2)で調製したメモリーCTLをエフェクター細胞として1×10〜9×10cells/mlとなるように5HRPMIで段階希釈後、96穴細胞培養プレートの各ウェルに100μl/ウェルずつ分注しておき、これらに1×10/mlに調製したCalcein標識標的細胞を100μl/ウェルずつ添加した。上記細胞懸濁液の入ったプレートを400gで1分間遠心後、37℃の湿式COインキュベーター内で4時間インキュベートした。4時間後、各ウェルから培養上清100μlを採取し、蛍光プレートリーダー(485nm/538nm)によって培養上清中に放出されたCalcein量を測定した。「特異的細胞傷害活性(%)」は以下の式1にしたがって算出した。
式1:特異的細胞傷害活性(%)=
{(各ウェルの測定値−最小放出量)/(最大放出量−最小放出量)}×100
上式において最小放出量は標的細胞およびK562細胞のみ含有するウェルのCalcein放出量であり、標的細胞からのCalcein自然放出量を示す。また、最大放出量は標的細胞に0.1%界面活性剤Triton X−100(ナカライテスク社製)を加えて細胞を完全破壊した際のCalcein放出量を示している。この結果、誘導直後において、特異的細胞傷害活性は誘導されていたが、誘導時のヒアルロン酸添加の有無による細胞傷害活性の差はほとんど無かった。
【0077】
(4) CTLの拡大培養
実施例1−1−(2)で調製したCTLを5HRPMIで洗浄後、3×10cells/mlに調製した。一方、実施例1−1−(1)と同様の方法により採取したHLA−A2.1非保持allogenic PBMCをX線照射(3300R)し、培地で洗浄後、2〜5×10cells/mlに調製した。これら3×10cellsのCTLおよび4〜10×10cellsのallogenic PBMCを10mlの5HRPMIに懸濁し、さらに終濃度50ng/mlの抗CD3抗体〔ヤンセン協和(Janssen Kyowa)社製〕を加えて12.5cmのフラスコ(Falcon社製)に入れ、37℃ 湿式COインキュベーター中で14日間培養した。この際、実施例1−1−(2)のCTL誘導の際に添加したヒアルロン酸を添加する群(終濃度10μg/ml)と添加しない群を設定した。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、培養開始1日目に終濃度120U/mlのIL−2を添加、さらに培養開始後4日目以降は2〜3日ごとに培養上清を半分除去後、60U/mlのIL−2を含む5HRPMI 5mlを各フラスコに添加した。この際、ヒアルロン酸添加群の培地には同濃度のサンプルを添加した。拡大培養開始後、14日目に実施例1−1−(3)と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定した。測定結果を表1に示す。なお、表中においてE/T比は標的細胞数(T)に対するエフェクター細胞数(E)の比を、ペプチド付加は標的細胞に対するペプチド付加の有無を意味する。また、拡大増殖率は拡大培養開始時の細胞数に対する拡大培養終了時点の細胞数の比を増殖率として求めた。
【0078】
【表1】

【0079】
その結果、CTL誘導時および拡大培養時にヒアルロン酸を添加した群においては、CTLは14日間の拡大培養後においても特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。一方、CTL誘導時および拡大培養時のどちらにもサンプルを添加しなかった群では、その活性は、明らかに低下していた。つまり、ヒアルロン酸をCTL誘導時および拡大培養時に添加することにより、特異的で高い細胞傷害活性を長期的に保持した状態で、CTLの拡大培養が可能になることが明らかになった。
【0080】
実施例1−2
(1) 抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導
実施例1−1−(1)に記載の方法で分離、保存したPBMCを用い、実施例1−1−(2)と同様の方法で、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導を行った。その際、ヒアルロン酸を終濃度10μg/mlとなるように添加した。さらに、サンプルを添加しない群も設定した。
【0081】
こうして調製した誘導開始後14日目のCTLの細胞傷害活性は、実施例1−1−(3)と同様の方法にて評価した。この結果、誘導直後において、特異的細胞傷害活性は誘導されていたが、誘導時の抗体添加の有無による細胞傷害活性の差はほとんど無かった。
【0082】
(2) CTLの拡大培養
実施例1−2−(1)で調製したCTLを用い、実施例1−1−(4)と同様の方法で、CTLの拡大培養を行った。この際、実施例1−2−(1)でのCTL誘導の際に添加したヒアルロン酸はまったく添加しなかった。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、培養開始1日目に終濃度120U/mlのIL−2を添加、さらに培養開始後4日目以降は2〜3日ごとに培養上清を半分除去後、60U/mlのIL−2を含む5HRPMI 5mlを各フラスコに添加した。拡大培養開始後、14日目に実施例1−1−(3)と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定した。測定結果を表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
その結果、CTL誘導時のみにヒアルロン酸を添加した群においては、拡大培養時にこれらのサンプルを添加しなくても、14日間の拡大培養後において特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。一方、CTL誘導時および拡大培養時のどちらにもこれらのサンプルを添加しなかった群では、その活性は、明らかに低下していた。つまり、ヒアルロン酸の添加がCTL誘導時のみであっても、特異的で高い細胞傷害活性を長期的に保持した状態で、CTLの拡大培養が可能になることが明らかになった。
【0085】
実施例1−3
(1) 抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導
実施例1−1−(1)に記載の方法で分離、保存したPBMCを用い、実施例1−1−(2)と同様の方法で、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導を行った。その際、ヒアルロン酸(表3中ではHAと称す)を添加する群(終濃度10μg/ml)と全くサンプルを添加しない群を設定した。ヒアルロン酸添加群に関しては、同時に終濃度0.2μg/mlの抗CD44抗体(ヒアルロン酸結合Blocking抗体;表中ではHA Blocking抗CD44抗体と称す)もしくは抗CD44抗体(ヒアルロン酸結合Non−blocking抗体;表中ではHA Non−Blocking抗CD44抗体と称す)(それぞれアンセル(Ancell)社製、モノクローナル抗体)を共添加する群も設定し抗体による阻害効果を検討した。
【0086】
こうして調製した誘導開始後14日目のCTLの細胞傷害活性は、実施例1−1−(3)と同様の方法にて評価した。この結果、誘導直後において、特異的細胞傷害活性は誘導されていたが、誘導時の抗体添加の有無による細胞傷害活性の差はほとんど無かった。
【0087】
(2) CTLの拡大培養
実施例1−3−(1)で調製したCTLを用い、実施例1−1−(4)と同様の方法で、CTLの拡大培養を行った。この際、実施例1−3−(1)でのCTL誘導の際に添加したヒアルロン酸を終濃度10μg/mlとなるように添加する群と誘導時からヒアルロン酸を全く添加しない群を設定した。また誘導時にヒアルロン酸と抗CD44抗体を共添加した群に関しては、拡大培養の際も同様のサンプルおよび抗体を添加した。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、培養開始1日目に終濃度120U/mlのIL−2を添加、さらに培養開始後4日目以降は2〜3日ごとに培養上清を半分除去後、60U/mlのIL−2を含む5HRPMI 5mlを各フラスコに添加した。拡大培養開始後、14日目に実施例1−1−(3)と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定した。測定結果を表3に示す。
【0088】
【表3】

【0089】
その結果、CTL誘導時および拡大培養時にヒアルロン酸を添加した群においては、CTLは14日間の拡大培養後においても特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。一方、CTL誘導時および拡大培養時のどちらにもサンプルを添加しなかった群では、その活性は、明らかに低下していた。また、ヒアルロン酸と抗CD44抗体(ヒアルロン酸結合Blocking抗体)を共添加した群では、ヒアルロン酸によるCTL活性維持効果は完全に阻害された。一方、ヒアルロン酸と抗CD44抗体(ヒアルロン酸結合Non−Blocking抗体)を共添加した群では、ヒアルロン酸によるCTL活性維持効果は阻害されなかった。つまり、ヒアルロン酸による細胞傷害活性維持の効果は細胞表面上のCD44抗原にヒアルロン酸が結合することによって発揮されることが明らかとなった。
【0090】
実施例2 抗ヒトCD44抗体を用いた特異的細胞傷害活性保持CTLの拡大培養
(1) 抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導
実施例1−1−(1)に記載の方法で分離、保存したPBMCを用い、実施例1−1−(2)と同様の方法で、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導を行った。その際、精製マウスIgG1〔ジェンザイム/テクネ(Genzyme/Techne)社製〕もしくは実施例1−3−(1)で使用した2種類の抗ヒトCD44抗体を終濃度0.2μg/mlとなるように添加した。さらに、抗体を添加しない群も設定した。
【0091】
こうして調製した誘導開始後14日目のCTLの細胞傷害活性は、実施例1−1−(3)と同様の方法にて評価した。この結果、誘導直後において、特異的細胞傷害活性は誘導されていたが、誘導時の抗体添加の有無による細胞傷害活性の差はほとんど無かった。
【0092】
(2) CTLの拡大培養
実施例2−(1)で調製したCTLを用い、実施例1−1−(4)と同様の方法で、CTLの拡大培養を行った。この際、実施例2−(1)でのCTL誘導の際に添加したマウスIgG1もしくは上記の2種類の抗ヒトCD44抗体をそれぞれ終濃度0.2μg/mlとなるように添加する群と誘導時から抗体を全く添加しない群を設定した。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、培養開始1日目に終濃度120U/mlのIL−2を添加し、さらに培養開始後4日目以降は2〜3日ごとに培養上清を半分除去後、60U/mlのIL−2および0.2μg/mlのマウスIgG1もしくは上記の2種類の抗ヒトCD44抗体を含む5HRPMI 5mlを各フラスコに添加した。ただし、抗体を添加していない群においては、培地交換の際にも、抗体の添加は行わなかった。拡大培養開始後、14日目に実施例1−1−(3)と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定した。測定結果を表4に示す。
【0093】
【表4】

【0094】
その結果、CTL誘導時および拡大培養時に抗ヒトCD44抗体(ヒアルロン酸結合Non−Blocking抗体)を添加した群においては、CTLは14日間の拡大培養後においても特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。一方、CTL誘導時および拡大培養時のどちらにもこれらの抗体を添加しなかった群および抗ヒトCD44抗体(ヒアルロン酸結合Blocking抗体)添加群では、その活性は、明らかに低下していた。つまり、抗ヒトCD44抗体の中でもヒアルロン酸の結合を阻害しない抗体をCTL誘導時および拡大培養時に添加することにより、特異的で高い細胞傷害活性を長期的に保持した状態で、CTLの拡大培養が可能になることが明らかになった。
【0095】
実施例3 ヒアルロン酸および抗ヒトCD44抗体と可溶性もしくは細胞表面上CD44抗原の結合性
CD44には、培養上清中に可溶性状態で存在するもの(以下、可溶性CD44と称す)、細胞の膜表面上に存在するもの(以下、細胞表面上CD44と称す)の2種類の存在様式がある。CD44はヒアルロン酸のレセプターであり、ヒアルロン酸はCTLの拡大培養の際に添加することにより細胞傷害活性維持効果があることから、この活性維持効果がどちらのCD44抗原に依存するものなのかを検討した。
【0096】
実施例3−1
(1) 可溶性CD44とヒアルロン酸の結合性評価
可溶性CD44とヒアルロン酸の結合性は以下の方法で評価した。すなわち5μg/mlの抗ヒトCD44抗体(可溶性CD44認識抗体、Ancell社製)を含むPBS(ニッスイ社製)100μl/ウェルを入れ、室温で1晩プレインキュベートしたNunc−Immunoプレート〔ヌンク(Nunc)社製〕を0.025%Tween20(SIGMA社製)/PBSで3回洗浄後、ブロックエース(大日本製薬社製)を300μl/ウェル添加し、室温で1時間以上インキュベートした。一方、可溶性CD44(15ng/ml)含有RPMI培地中にヒアルロン酸を終濃度0、0.25、0.5、1μg/mlとなるように添加し、37℃で1時間プレインキュベートした。ブロッキング後のプレートの各ウェルを再度0.025%Tween20/PBSで3回洗浄後、プレインキュベートしておいたヒアルロン酸含有もしくはヒアルロン酸を含まない可溶性CD44含有(15ng/ml)RPMI培地を100μl/ウェルずつ添加した。さらに各ウェルにHRP標識Conjugate〔ベンダーメッド(BenderMed)社製 可溶性CD44測定用ELISAシステム付属試薬〕を50μl/ウェルずつ添加し室温で3時間インキュベートした。インキュベート後、各ウェルを0.025%Tween20/PBSで3回洗浄し、TMB(3,3’,5,5’−tetramethylbenzidine)溶液(SIGMA社製)を100μl/ウェルづつ添加、室温で15分間インキュベート後、2N 硫酸を50μl/ウェルずつ添加し、反応を停止した。各々の吸光度はプレートリーダー(450nm)を用いて測定した。測定結果を第1図に示す。
【0097】
その結果、可溶性CD44含有培地中にヒアルロン酸を添加しても可溶性CD44認識抗体による認識を全く阻害しなかった。つまり、ヒアルロン酸は培地中に存在する可溶性CD44とは全く結合しなかった。このことにより、ヒアルロン酸によるCTL特異的細胞傷害活性維持効果に培地中の可溶性CD44は全く関与しないことが明らかとなった。
【0098】
(2) 抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導
実施例1−1−(1)に記載の方法で分離、保存したPBMCを用い、実施例1−1−(2)と同様の方法で、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導を行った。
【0099】
こうして調製した誘導開始後14日目のCTLの細胞傷害活性は、実施例1−1−(3)と同様の方法にて評価した。この結果、誘導直後において、特異的細胞傷害活性は誘導されていた。
【0100】
(3) CTLの拡大培養
実施例3−1−(2)で調製したCTLを用い、実施例1−1−(4)と同様の方法で、CTLの拡大培養を行った。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、培養開始1日目に終濃度120U/mlのIL−2を添加し、さらに培養開始後4日目以降は2〜3日ごとに培養上清を半分除去後、60U/mlのIL−2を含む5HRPMI 5mlを各フラスコに添加した。拡大培養開始後、14日目に実施例1−1−(3)と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定し、これらのCTLが特異的細胞傷害活性を有することを確認した。
【0101】
(4) ヒアルロン酸と細胞表面上CD44の結合性評価
実施例3−1−(3)で調製した2×10cellsのCTLを1%パラホルムアルデヒド(ナカライ社製)を含むPBS(ニッスイ社製)を用いて固定後、PBSで洗浄した。固定細胞を10μg/mlのFL標識ヒアルロン酸〔モレキュラー プローブス(Molecular Probes)社製〕を含むPBS中に懸濁し、37℃で30分間インキュベートした。ネガティブコントロールとしてFL標識ヒアルロン酸(FL−HA)を含まないPBS中でインキュベートする群も設定した。インキュベート後、PBSで洗浄し、再度1%パラホルムアルデヒドを含むPBS中に懸濁した。調製したCTLをFACS Vantage〔ベクトン・ディッキンソン(Becton,Dickinson)社製〕にかけ、CTL細胞表面上の蛍光強度を測定した。結果を第2図に示す。
【0102】
この結果、FL標識ヒアルロン酸はCTLの細胞表面上に結合していた。つまりヒアルロン酸によるCTL特異的細胞傷害活性維持効果は、CTLの細胞表面上に存在するCD44にヒアルロン酸が結合することによって発揮されることが明らかとなった。
【0103】
実施例3−2
(1) 抗ヒトCD44抗体(HA Non−Blocking 抗CD44抗体)と可溶性CD44の結合性評価
HA Non−Blocking抗CD44抗体と可溶性CD44の結合性は以下の方法で評価した。すなわち1次抗体として、5μg/mlのHA Non−Blocking抗CD44抗体もしくは抗ヒトCD44抗体(可溶性CD44認識抗体)(Ancell社製)を含むPBS(ニッスイ社製)100μl/ウェルを入れ、室温で1晩インキュベートしたNunc−Immunoプレート(Nunc社製)を0.025%Tween20(SIGMA社製)/PBSで3回洗浄後、ブロックエース(大日本製薬社製)を300μl/ウェル添加し、室温で1時間以上インキュベートした。ブロッキング後のプレートの各ウェルを再度0.025%Tween20/PBSで3回洗浄後、可溶性CD44(15ng/ml)含有RPMI培地を100μl/ウェルずつ添加した。さらに各ウェルにHRP標識Conjugate(ベンダーメッド社製 可溶性CD44測定用ELISAシステム付属試薬)を50μl/ウェルずつ添加し室温で3時間インキュベートした。インキュベート後、各ウェルを0.025%Tween20/PBSで3回洗浄し、TMB溶液(SIGMA社製)を100μl/ウェルづつ添加、室温で15分インキュベート後、2N 硫酸を50μl/ウェルずつ添加し反応を停止した。各々の吸光度はプレートリーダー(450nm)を用いて測定した。実験は2連で行い、その平均値を採用した。その結果を第3図、第4図に示す。その結果、1次抗体として用いた可溶性CD44認識抗体は培地中の可溶性CD44を抗体濃度依存的に認識した。一方、HA Non−Blocking抗CD44抗体は培地中の可溶性CD44を全く認識しなかった。つまり、HA Non−Blocking抗CD44抗体は培地中に存在する可溶性CD44とは結合しなかった。このことにより、HA Non−Blocking抗CD44抗体によるCTL特異的細胞傷害活性維持効果に培地中の可溶性CD44は全く関与しないことが明らかとなった。
【0104】
(2) 抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導
実施例1−1−(1)に記載の方法で分離、保存したPBMCを用い、実施例1−1−(2)と同様の方法で、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導を行った。
【0105】
こうして調製した誘導開始後14日目のCTLの細胞傷害活性は、実施例1−1−(3)と同様の方法にて評価した。この結果、誘導直後において、特異的細胞傷害活性は誘導されていた。
【0106】
(3) CTLの拡大培養
実施例3−2−(2)で調製したCTLを用い、実施例1−1−(4)と同様の方法で、CTLの拡大培養を行った。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、培養開始1日目に終濃度120U/mlのIL−2を添加、さらに培養開始後4日目以降は2〜3日ごとに培養上清を半分除去後、60U/mlのIL−2を含む5HRPMI 5mlを各フラスコに添加した。拡大培養開始後、14日目に実施例1−1−(3)と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定し、これらのCTLが特異的細胞傷害活性を有することを確認した。
【0107】
(4) 抗ヒトCD44抗体(HA Non−Blocking抗CD44抗体)と細胞表面上CD44の結合性評価
実施例3−2−(3)で調製した2×10cellsのCTLを、1%パラホルムアルデヒド(ナカライ社製)を含むPBS(ニッスイ社製)を用いて固定後、PBSで洗浄した。固定細胞を1μg/mlの抗−CD44/FITC(FITC標識HA Non−Blocking抗CD44抗体(CD44−FITC)、Ancell社製)を含む1%BSA(SIGMA社製)PBS中に懸濁し、氷上30分インキュベートした。コントロールとして1μg/mlマウスIgG1/FITC(FITC標識マウスIgG抗体(IgG1−FITC)、ダコ(DAKO)社製)を含むPBS中でインキュベートする群も設定した。インキュベート後、PBSで洗浄し再度1%パラホルムアルデヒドを含むPBS中に懸濁した。調製したCTLをFACS Vantageにかけ、CTL細胞表面上の蛍光強度を測定した。結果を第5図に示す。
【0108】
その結果、FITC標識HA Non−Blocking抗CD44抗体はCTLの細胞表面上に結合していた。つまり、抗ヒトHA Non−Blocking抗CD44抗体によるCTL特異的細胞傷害活性維持効果は、CTLの細胞表面上に存在するCD44にヒアルロン酸が結合することによって発揮される可能性が示唆された。
【0109】
実施例3−3
(1) 抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導
実施例1−1−(1)に記載の方法で分離、保存したPBMCを用い、実施例1−1−(2)と同様の方法で、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導を行った。その際、HA Non−Blocking抗CD44抗体を終濃度0.2μg/mlとなるように添加した。さらに、抗体を添加しない群も設定した。
【0110】
こうして調製した誘導開始後14日目のCTLの細胞傷害活性は、実施例1−1−(3)と同様の方法にて評価した。この結果、誘導直後において、特異的細胞傷害活性は誘導されていたが、誘導時の抗体添加の有無による細胞傷害活性の差はほとんど無かった。
【0111】
(2) CTLの拡大培養
実施例3−3−(1)で調製したCTLを用い、実施例1−1−(4)と同様の方法で、CTLの拡大培養を行った。この際、実施例3−3−(1)でのCTL誘導の際に添加したHA Non−Blocking抗CD44抗体をそれぞれ終濃度0.2μg/mlとなるように添加した。また誘導時に抗体を添加していない群についてはここでも抗体は添加しなかった。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、培養開始1日目に終濃度120U/mlのIL−2を添加、さらに培養開始後4日目以降は2〜3日ごとに培養上清を半分除去後、60U/mlのIL−2および0.2μg/mlのHA Non−Blocking抗CD44抗体を含む5HRPMI 5mlを各フラスコに添加した。ただし、抗体を添加していない群においては、培地交換の際にも、抗体の添加は行わなかった。拡大培養開始後、14日目に実施例1−1−(3)と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定した。その結果、CTL誘導時および拡大培養時にHA Non−Blocking抗CD44抗体を添加した群においては、CTLは14日間の拡大培養後においても特異的で高い細胞傷害活性を維持していることを確認した。一方、CTL誘導時および拡大培養時のどちらにもこれらの抗体を添加しなかった群では、その活性は、明らかに低下していることを確認した。
【0112】
(3) HA Non−Blocking抗CD44抗体添加拡大培養後CTLの細胞表面上における抗体結合性評価
実施例3−3−(1)で調製した2×10cellsのCTL(HA Non−Blocking抗CD44抗体添加条件で培養したCTL)を1%パラホルムアルデヒド(ナカライ社製)を含むPBS(ニッスイ社製)を用いて固定後、PBSで洗浄した。固定細胞を1μg/mlのFITC標識マウスIgGまたはFITC標識抗マウスIgG抗体を含む1%BSA(SIGMA社製)PBS中に懸濁し、氷上で30分インキュベートした。インキュベート後、PBSで洗浄し、再度1%パラホルムアルデヒドを含むPBS中に懸濁した。調製したCTLをFACS Vantageにかけ、CTL細胞表面上の蛍光強度を測定した。結果を第6図に示す。
【0113】
この結果、HA Non−Blocking抗CD44抗体添加条件下で拡大培養したCTLの細胞表面上において、この抗体の結合が確認された。つまりHA Non−Blocking抗CD44抗体によるCTL特異的細胞傷害活性維持効果は、CTLの細胞表面上に存在するCD44にこの抗体が結合することによって発揮されることが明らかとなった。
【0114】
実施例4 抗ヒトHGF抗体を用いた特異的細胞傷害活性保持CTLの拡大培養実施例4−1
(1) 抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導
実施例1−1−(1)に記載の方法で分離、保存したPBMCを用い、実施例1−1−(2)と同様の方法で、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導を行った。その際、精製マウスIgG1(Genzyme/Techne社製)もしくは抗ヒトHGF抗体(マウスモノクローナル抗体;Genzyme/Techne社製)を終濃度2μg/mlとなるように添加した。さらに、抗体を添加しない群も設定した。
【0115】
こうして調製した誘導開始後14日目のCTLの細胞傷害活性は、実施例1−1−(3)と同様の方法にて評価した。この結果、誘導直後において、特異的細胞傷害活性は誘導されていたが、誘導時の抗体添加の有無による細胞傷害活性の差はほとんど無かった。
【0116】
(2) CTLの拡大培養
実施例4−1−(1)で調製したCTLを用い、実施例1−1−(4)と同様の方法で、CTLの拡大培養を行った。この際、実施例4−1−(1)でのCTL誘導の際に添加したマウスIgG1もしくは抗ヒトHGF抗体と同じ抗体をそれぞれ終濃度2μg/mlとなるように添加する群と誘導時から抗体を全く添加しない群を設定した。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、培養開始1日目に終濃度120U/mlのIL−2を添加、さらに培養開始後4日目以降は2〜3日ごとに培養上清を半分除去後、60U/mlのIL−2および2μg/mlのマウスIgG1もしくは抗ヒトHGF抗体を含む5HRPMI 5mlを各フラスコに添加した。ただし、抗体を添加していない群においては、培地交換の際にも、抗体の添加は行わなかった。拡大培養開始後、14日目に実施例1−1−(3)と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定した。測定結果を表5に示す。
【0117】
【表5】

【0118】
その結果、CTL誘導時および拡大培養時に抗ヒトHGF抗体を添加した群においては、CTLは14日間の拡大培養後においても特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。一方、CTL誘導時および拡大培養時のどちらにもこれらの抗体を添加しなかった群では、その活性は、明らかに低下していた。つまり、抗ヒトHGF抗体をCTL誘導時および拡大培養時に添加することにより、特異的で高い細胞傷害活性を長期的に保持した状態で、CTLの拡大培養が可能になることが明らかになった。
【0119】
実施例4−2
(1) 抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導
実施例1−1−(1)に記載の方法で分離、保存したPBMCを用い、実施例1−1−(2)と同様の方法で、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導を行った。その際、抗ヒトHGF抗体(マウスモノクローナル抗体;Genzyme/Techne社製)を終濃度2μg/mlとなるように添加した。さらに、抗体を添加しない群も設定した。
【0120】
こうして調製した誘導開始後14日目のCTLの細胞傷害活性は、実施例1−1−(3)と同様の方法にて評価した。この結果、誘導直後において、特異的細胞傷害活性は誘導されていたが、誘導時の抗体添加の有無による細胞傷害活性の差はほとんど無かった。
【0121】
(2) CTLの拡大培養
実施例4−2−(1)で調製したCTLを用い、実施例1−1−(4)と同様の方法で、CTLの拡大培養を行った。この際、実施例4−2−(1)でのCTL誘導の際に添加した抗ヒトHGF抗体はまったく添加しなかった。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、培養開始1日目に終濃度120U/mlのIL−2を添加、さらに培養開始後4日目以降は2〜3日ごとに培養上清を半分除去後、60U/mlのIL−2を含む5HRPMI 5mlを各フラスコに添加した。拡大培養開始後、14日目に実施例1−1−(3)と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定した。測定結果を表6に示す。
【0122】
【表6】

【0123】
その結果、CTL誘導時のみに抗ヒトHGF抗体を添加した群においては、拡大培養時にこれらの抗体を添加しなくても、14日間の拡大培養後において特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。一方、CTL誘導時および拡大培養時のどちらにもこれらの抗体を添加しなかった群では、その活性は、明らかに低下していた。つまり、抗ヒトHGF抗体の添加がCTL誘導時のみであっても、特異的で高い細胞傷害活性を長期的に保持した状態で、CTLの拡大培養が可能になることが明らかになった。
【0124】
実施例5 抗ヒトIGF−1抗体を用いた特異的細胞傷害活性保持CTLの拡大培養
実施例5−1
(1) 抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導
実施例1−1−(1)に記載の方法で分離、保存したPBMCを用い、実施例1−1−(2)と同様の方法で、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導を行った。その際、精製ヤギIgG〔ケミコン インターナショナル(CHEMICON International)社製〕もしくは抗ヒトIGF−1抗体(ヤギポリクローナル抗体;Genzyme/Techne社製)を終濃度2μg/mlとなるように添加した。さらに、抗体を添加しない群も設定した。
【0125】
こうして調製した誘導開始後14日目のCTLの細胞傷害活性は、実施例1−1−(3)と同様の方法にて評価した。この結果、誘導直後において、特異的細胞傷害活性は誘導されていたが、誘導時の抗体添加の有無による細胞傷害活性の差はほとんど無かった。
【0126】
(2) CTLの拡大培養
実施例5−1−(1)で調製したCTLを用い、実施例1−1−(4)と同様の方法で、CTLの拡大培養を行った。この際、実施例5−1−(1)でのCTL誘導の際に添加したヤギIgGもしくは抗ヒトIGF−1抗体をそれぞれ終濃度2μg/mlとなるように添加する群と誘導時から抗体を全く添加しない群を設定した。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、培養開始1日目に終濃度120U/mlのIL−2を添加、さらに培養開始後4日目以降は2〜3日ごとに培養上清を半分除去後、60U/mlのIL−2および2μg/mlのヤギIgGもしくは抗ヒトIGF−1抗体を含む5HRPMI 5mlを各フラスコに添加した。ただし、抗体を添加していない群においては、培地交換の際にも、抗体の添加は行わなかった。拡大培養開始後、14日目に実施例1−1−(3)と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定した。測定結果を表7に示す。
【0127】
【表7】

【0128】
その結果、CTL誘導時および拡大培養時に抗ヒトIGF−1抗体を添加した群においては、CTLは14日間の拡大培養後においても特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。一方、CTL誘導時および拡大培養時のどちらにもこれらの抗体を添加しなかった群では、その活性は、明らかに低下していた。つまり、抗ヒトIGF−1抗体をCTL誘導時および拡大培養時に添加することにより、特異的で高い細胞傷害活性を長期的に保持した状態で、CTLの拡大培養が可能になることが明らかになった。
【0129】
実施例5−2
(1) 抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導
実施例1−1−(1)に記載の方法で分離、保存したPBMCを用い、実施例1−1−(2)と同様の方法で、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導を行った。その際、抗ヒトIGF−1抗体(ヤギポリクローナル抗体;Genzyme/Techne社製)を終濃度2μg/mlとなるように添加した。さらに、抗体を添加しない群も設定した。
【0130】
こうして調製した誘導開始後14日目のCTLの細胞傷害活性は、実施例1−1−(3)と同様の方法にて評価した。この結果、誘導直後において、特異的細胞傷害活性は誘導されていたが、誘導時の抗体添加の有無による細胞傷害活性の差はほとんど無かった。
【0131】
(2) CTLの拡大培養
実施例5−2−(1)で調製したCTLを用い、実施例1−1−(4)と同様の方法で、CTLの拡大培養を行った。この際、実施例5−2−(1)でのCTL誘導の際に添加した抗ヒトIGF−1抗体はまったく添加しなかった。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、培養開始1日目に終濃度120U/mlのIL−2を添加、さらに培養開始後4日目以降は2〜3日ごとに培養上清を半分除去後、60U/mlのIL−2を含む5HRPMI 5mlを各フラスコに添加した。拡大培養開始後、14日目に実施例1−1−(3)と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定した。測定結果を表8に示す。
【0132】
【表8】

【0133】
その結果、CTL誘導時に抗ヒトIGF−1抗体を添加した群においては、拡大培養時に抗体を添加しなくても、14日間の拡大培養後において特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。一方、CTL誘導時および拡大培養時のどちらにもこれらの抗体を添加しなかった群では、その活性は、明らかに低下していた。つまり、抗ヒトIGF−1抗体の添加がCTL誘導時のみであっても、特異的で高い細胞傷害活性を長期的に保持した状態で、CTLの拡大培養が可能になることが明らかになった。
【0134】
実施例6 抗ヒトIGF−2抗体を用いた特異的細胞傷害活性保持CTLの拡大培養
(1) 抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導
実施例1−1−(1)に記載の方法で分離、保存したPBMCを用い、実施例1−1−(2)と同様の方法で、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導を行った。その際、精製マウスIgG1(Genzyme/Techne社製)もしくは抗ヒトIGF−2抗体(マウスモノクローナル抗体;Genzyme/Techne社製)を終濃度2μg/mlとなるように添加した。さらに、抗体を添加しない群も設定した。
【0135】
こうして調製した誘導開始後14日目のCTLの細胞傷害活性は、実施例1−1−(3)と同様の方法にて評価した。この結果、誘導直後において、特異的細胞傷害活性は誘導されていたが、誘導時の抗体添加の有無による細胞傷害活性の差はほとんど無かった。
【0136】
(2) CTLの拡大培養
実施例6−(1)で調製したCTLを用い、実施例1−1−(4)と同様の方法で、CTLの拡大培養を行った。この際、実施例6−(1)でのCTL誘導の際に添加したマウスIgG1もしくは抗ヒトIGF−2抗体と同じ抗体をそれぞれ終濃度2μg/mlとなるように添加する群と誘導時から抗体を全く添加しない群を設定した。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、培養開始1日目に終濃度120U/mlのIL−2を添加、さらに培養開始後4日目以降は2〜3日ごとに培養上清を半分除去後、60U/mlのIL−2および2μg/mlのマウスIgG1もしくは抗ヒトIGF−2抗体を含む5HRPMI 5mlを各フラスコに添加した。ただし、抗体を添加していない群においては、培地交換の際にも、抗体の添加は行わなかった。拡大培養開始後、14日目に実施例1−1−(3)と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定した。測定結果を表9に示す。
【0137】
【表9】

【0138】
その結果、CTL誘導時および拡大培養時に抗ヒトIGF−2抗体を添加した群においては、CTLは14日間の拡大培養後においても特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。一方、CTL誘導時および拡大培養時のどちらにもこれらの抗体を添加しなかった群では、その活性は、明らかに低下していた。つまり、抗ヒトIGF−2抗体をの添加がCTL誘導時にのみであっても、特異的で高い細胞傷害活性を長期的に保持した状態で、CTLの拡大培養が可能になることが明らかになった。
【0139】
実施例7 腫瘍関連抗原特異的細胞傷害活性を保持するCTLの拡大培養
実施例7−1
(1) 抗腫瘍関連抗原(MAGE3)特異的CTLの誘導
実施例1−1−(1)に記載の方法で分離、保存したPBMCを用い、抗腫瘍関連抗原(melanoma−associated antigen 3,MAGE3)特異的CTLの誘導を行った。抗腫瘍関連抗原(MAGE3)特異的CTLの誘導はプレバンスキー M.らの方法〔Plebanski M.et al.、Eur.J.Immunol.、第25巻、第6号、第1783〜1787頁(1995)〕を一部改変して実施した。すなわち、5HRPMIに、2〜4×10cells/mlとなるように実施例1−1−(1)で調製したPBMCを懸濁後、半量に分けた。半量はレスポンダー細胞として氷上保存とし、もう半量は抗原提示細胞として用い、抗原ペプチドとして80μg/mlのメラノーマ抗原MAGE3由来エピトープペプチド(配列表の配列番号:19に記載のメラノーマ抗原MAGE3由来−HLA−A2.1結合性ペプチド)および6μg/mlのβ2マイクログロブリン(Scrips社製)を含む5HRPMIを等量添加し、5%CO湿式インキュベーター内にて、37℃で2時間インキュベートした。その後、5HRPMIを用いて洗浄し、氷上保存していたレスポンダー細胞と混合後、2×10cells/mlに調製した。IL−7およびKLHをそれぞれ終濃度25ng/ml、5μg/mlとなるように添加し、24穴細胞培養プレート(Falcon社製)に2ml/ウェルずつ入れた。このとき、ヒアルロン酸(Calbiochem社製)を終濃度10μg/mlとなるように添加した。またコントロールとして、サンプルを添加しない群も設定した。プレートを5%CO中、37℃で培養した。培養開始後4日目に培養上清を半分除去後、60U/mlのIL−2と10μg/mlのヒアルロン酸を含む5HRPMI 1ml(コントロールは、IL−2のみ含有)を各ウェルに添加した。7日目に上記と同様にして抗原提示細胞を調製した後、X線照射(5500R)し、4×10cells/mlになるように調製した。1週間培養したレスポンダー細胞を2×10cells/mlとなるように5HRPMIに懸濁、調製した抗原提示細胞と等量混合し、1ml/ウェルづつ24穴細胞培養プレートに添加し、さらに終濃度25ng/mlのIL−7を加えて再刺激した。このとき、ヒアルロン酸を終濃度10μg/mlとなるように添加した(コントロールは、無添加)。再刺激後1日目に、60U/mlのIL−2および10μg/mlのヒアルロン酸を含む(コントロールは、IL−2のみ含有)5HRPMI 1mlを各ウェルに添加、また3日目には培養上清を半分除去後、除去前と同じ内容の培地を1mlづつ添加した。同様の再刺激を1週間に1度、計4回実施し、CTLを誘導した。
【0140】
(2) CTL細胞傷害活性の測定
実施例7−1−(1)で調製した誘導開始後35日目のCTLの細胞傷害活性は、実施例1−1−(3)と同様の方法で評価した。ただしこの際、標的細胞として一晩エピトープペプチドと共培養、もしくはエピトープペプチド非存在下で培養したHLA−A2.1保持EBVトランスフォームB細胞(細胞名 221A2.1)を用いた。この結果、誘導直後において、特異的細胞傷害活性は誘導されていたが、誘導時のヒアルロン酸添加の有無による細胞傷害活性の差はほとんど無かった。
【0141】
(3) CTLの拡大培養
実施例7−1−(1)で調製したCTLを用い、実施例1−1−(4)と同様の方法で、CTLの拡大培養を行った。この際、実施例7−1−(1)でのCTL誘導の際に添加したヒアルロン酸を10μg/mlとなるように添加する群と誘導時からサンプルを全く添加しない群を設定した。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、培養開始1日目に終濃度120U/mlのIL−2を添加、さらに培養開始後4日目以降は2〜3日ごとに培養上清を半分除去後、60U/mlのIL−2および10μg/mlのヒアルロン酸を含む5HRPMI 5mlを各フラスコに添加した。ただし、サンプルを添加していない群においては、培地交換の際にも、サンプルの添加は行わなかった。拡大培養開始後、14日目に実施例1−1−(3)と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定した。測定結果を表10に示す。
【0142】
【表10】

【0143】
その結果、CTL誘導時および拡大培養時にヒアルロン酸を添加した群においては、CTLは14日間の拡大培養後においても特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。一方、CTL誘導時および拡大培養時のどちらにもこれらのサンプルを添加しなかった群では、その活性は、明らかに低下していた。つまり、抗腫瘍関連抗原(MAGE3)CTLの拡大培養時においても、ヒアルロン酸をCTL誘導時および拡大培養時に添加することにより、特異的で高い細胞傷害活性を長期的に保持した状態で、CTLの拡大培養が可能になることが明らかになった。
【0144】
実施例7−2
(1) 抗腫瘍関連抗原(MART1)特異的CTLの誘導
実施例1−1−(1)に記載の方法で分離、保存したPBMCを用い、実施例7−1−(1)と同様の方法で抗腫瘍関連抗原(Melanoma antigen recognized by T cell,MART1)特異的CTLの誘導を行った。抗原ペプチドとしてメラノーマ抗原MART1由来エピトープペプチド(配列表の配列番号:20に記載のメラノーマ抗原MART1由来−HLA−A2.1結合性ペプチド)を用いた。このとき、ヒアルロン酸(Calbiochem社製)を終濃度10μg/mlとなるように添加した。またコントロールとして、サンプルを添加しない群も設定した。
【0145】
こうして調製した誘導開始後35日目のCTLの細胞傷害活性は、実施例1−1−(3)と同様の方法にて評価した。ただしこの際、標的細胞として一晩エピトープペプチドと共培養、もしくはエピトープペプチド非存在下で培養したHLA−A2.1保持EBVトランスフォームB細胞(細胞名 221A2.1)、100U/mlのIFN−γ存在化で二晩培養したHLA−A2.1保持ガン細胞株(細胞名 624mel;HLA−A2.1保持MART1発現細胞)もしくはHLA−A2.1非保持ガン細胞株(細胞名 888mel;HLA−A2.1非保持MART1発現細胞)を用いた。
【0146】
この結果、誘導直後において、特異的細胞傷害活性は誘導されていたが、誘導時のサンプル添加の有無による細胞傷害活性の差はほとんど無かった。
【0147】
(2) CTLの拡大培養
実施例7−2−(1)で調製したCTLを用い、実施例1−1−(4)と同様の方法で、CTLの拡大培養を行った。この際、実施例7−2−(1)でのCTL誘導の際に添加したヒアルロン酸を10μg/mlとなるように添加する群と誘導時からサンプルを全く添加しない群を設定した。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、培養開始1日目に終濃度120U/mlのIL−2を添加、さらに培養開始後4日目以降は2〜3日ごとに培養上清を半分除去後、60U/mlのIL−2および10μg/mlのヒアルロン酸を含む5HRPMI 5mlを各フラスコに添加した。ただし、サンプルを添加していない群においては、培地交換の際にも、サンプルの添加は行わなかった。拡大培養開始後、14日目に実施例1−1−(3)と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定した。測定結果を表11に示す。
【0148】
【表11】

【0149】
その結果、CTL誘導時および拡大培養時にヒアルロン酸を添加した群においては、CTLは14日間の拡大培養後においても特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。一方、CTL誘導時および拡大培養時のどちらにもこれらのサンプルを添加しなかった群では、その活性は、明らかに低下していた。また腫瘍細胞株に対する特異的細胞傷害活性についてもCTL誘導時および拡大培養時にヒアルロン酸を添加した群においては、CTLは14日間の拡大培養後においても特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。つまり、抗腫瘍関連抗原(MART1)CTLの拡大培養時においても、ヒアルロン酸をCTL誘導時および拡大培養時に添加することにより、特異的で高い細胞傷害活性を長期的に保持した状態で、CTLの拡大培養が可能になることが明らかになった。
【0150】
実施例8 REM法との比較及びREM法との組み合わせ
(1) 抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導
実施例1−1−(1)に記載の方法で分離、保存したPBMCを用い、実施例1−1−(2)と同様の方法で、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導を行った。その際、サンプルとしてヒアルロン酸を終濃度10μg/mlとなるように添加した。さらに、サンプルを添加しない群も設定した。
【0151】
こうして調製した誘導開始後14日目のCTLの細胞傷害活性は、実施例1−1−(3)と同様の方法にて評価した。抗原ペプチドとして、5μg/mlの実施例1−(2)に記載のインフルエンザウイルスタンパク由来エピトープペプチドを用いた。
【0152】
(2) 特異的活性保持CTLの抗CD3抗体による拡大培養
実施例8−(1)で調製したCTLを5HRPMIで洗浄後、5×10cells/mlに調製した。一方、実施例1−1−(1)と同様に採取したHLA−A24およびA2.1非保持allogenic PBMCをX線照射(3300R)し、培地で洗浄後、5×10cells/mlに調製した。これら3.0×10cellsのCTLおよび4〜10×10cellsのallogenic PBMCを10mlの5HRPMIに懸濁し、さらに終濃度50ng/mlの抗CD3抗体(ヤンセン協和社製)を加えて12.5cmのフラスコ(Falcon社製)に入れ、37℃の湿式COインキュベーター中で14日間培養した。この際、サンプルとしてヒアルロン酸を添加する群(終濃度10μg/ml)と添加しない群を設定した。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、培養開始1日目に終濃度120U/mlのIL−2を添加、さらに培養開始後4日目以降は2〜3日ごとに培養上清を半分除去後、60U/mlのIL−2を含む5HRPMI 5mlを各フラスコに添加した。この際、サンプル添加群の培地には終濃度10μg/mlとなるようにヒアルロン酸を添加した。拡大培養開始後、14日目に、実施例1−1−(3)と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定した。測定結果を表12に示す。
【0153】
一方、REM法による拡大培養は以下のように実施した。HLA−A24およびA2.1非保持allogenic PBMCをX線照射(3300R)し、培地で洗浄後5×10cells/mlに調製した。また、EBV−B細胞をX線照射(8000R)し、培地で洗浄後1×10cells/mlに調製した。実施例8−1−(1)で調製した3.0×10cellsのCTL、4〜10×10cellsのallogenic PBMC、および2.5×10cellsのEBV−B細胞を10mlの5HRPMIに懸濁し、さらに終濃度50ng/mlの抗CD3抗体(ヤンセン協和社製)を加えて12.5cmのフラスコ(Falcon社製)に入れ、37℃の湿式COインキュベーター中で14日間培養した。この際、サンプルとして終濃度10μg/mlとなるようにヒアルロン酸を添加する群と添加しない群を設定した。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、培養開始1日目に終濃度120U/mlのIL−2を添加、さらに培養開始後4日目以降は2〜3日ごとに培養上清を半分除去後、60U/mlのIL−2を含む5HRPMI 5mlを各フラスコに添加した。この際、サンプル添加群の培地には終濃度10μg/mlとなるようにヒアルロン酸を添加した。拡大培養開始後、14日目に、実施例1−1−(3)と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定した。その結果を表12に示す。
【0154】
【表12】

【0155】
その結果、ヒアルロン酸を添加せずに誘導したCTL(CTL活性維持物質無添加)は、REM法で拡大培養した場合には高い細胞傷害活性を維持していた。しかし、EBV−B細胞を使用しない方法で拡大培養を行った場合には細胞傷害活性は著しく低下した。
一方、ヒアルロン酸をCTL誘導時と拡大培養時の両方に添加しておくとEBV−B細胞を添加しなくても14日間の大量培養後におけるCTL細胞傷害活性を十分高く維持させておくことができた。さらに、本発明による拡大培養後の抗原特異的細胞傷害活性は、REM法と比較しても高いものであった。
【0156】
また、REM法で拡大培養する場合、拡大培養に先立ち、CTL誘導時から、本発明の方法のCTL活性維持効果を持つ物質の1つであるヒアルロン酸を添加しておくと、従来技術で誘導したCTL細胞を単にREM法で拡大培養するより、細胞傷害活性を高く維持することができた。
【0157】
つまり、本発明のCTLの拡大培養方法においては、REM法では必須であるEBV−B細胞を必要とせず、EBV−B細胞を用いる危険性を回避することができる。さらに、REM法より高いCTL活性が維持できる。これらのことより、本発明のCTL細胞の拡大培養方法は、REM法より、安全で優れた方法である。
【0158】
さらに、ヒアルロン酸をREM法に導入するとさらに高い活性を保持することができたことから、ヒアルロン酸はあらゆるCTL細胞の拡大培養方法への適応が可能である。すなわち、本発明で使用される物質を様々なCTL拡大培養方法に利用することにより、特異的で高い細胞傷害活性を長期的に保持した状態で、CTLの拡大培養が可能になる。
【0159】
実施例9 フィブロネクチンフラグメントの調製
(1) フィブロネクチンフラグメントの調製
ヒトフィブロネクチン由来のフラグメント、H−271は、Escherichia coli HB101/pHD101(FERM BP−2264)より、米国特許第5,198,423号公報に記載の方法により調製した。
【0160】
また、ヒトフィブロネクチン由来のフラグメント、H−296、CH−271、CH−296はそれぞれ、Escherichia coli HB101/pHD102(FERM P−10721)、Escherichia coli HB101/pCH101(FERM BP−2799)、Escherichia coli HB101/pCH102(FERM BP−2800)を用い、これを上記の公報に記載の方法で培養し、該培養物より調製した。
【0161】
ヒトフィブロネクチン由来のフラグメント、C−274は、Escherichia coli JM109/pTF7221(FERM BP−1915)を用い、これを米国特許第5,102,988号公報に記載の方法で培養し、該培養物より調製した。
【0162】
ヒトフィブロネクチン由来のフラグメント、C−CS1は、Escherichia coli HB101/pCS25(FERM BP−5723)を用い、日本特許3104178号公報に記載の方法で培養し、該培養物より調製した。
【0163】
ヒトフィブロネクチン由来のフラグメント、CHV−89、CHV−179は、それぞれ、Escherichia coli HB101/pCHV89(FERM P−12182)、Escherichia coli HB101/pCHV179(FERM P−12183)を用い、日本特許2729712号公報に記載の方法で培養し、該培養物より調製した。
【0164】
また、ヒトフィブロネクチン由来のフラグメント、CHV−90は上記の公報に記載の方法で調製した。すなわち、当該公報に記載の操作によってプラスミドpCHV90を構築したうえ、該プラスミドを保有する形質転換体を培養し、該培養物よりCHV−90を調製した。
【0165】
ヒトフィブロネクチン由来のフラグメント、CHV−181は、国際公開第97/18318号パンフレットに記載の方法でCHV−181をコードするDNAを含有するプラスミド(pCHV181)を構築した後、該プラスミドを導入された大腸菌(Escherichia coli HB101/pCHV181)を培養し、該培養物より、上記のCHV−179と同様の方法で調製した。
【0166】
(2) CHV−92の調製
上記のポリペプチドCHV−181を発現させるためのプラスミド、pCHV181について、CHV−181をコードする領域中のIII−13領域をコードする領域を欠失したプラスミドCHV92を構築した。欠失操作は日本特許2729712号公報に記載されている、プラスミドpCHV179からのIII−14コード領域の欠失操作に準じて行った。
【0167】
上記のプラスミドpCHV92で形質転換された大腸菌HB101(Escherichia coli HB101/pCHV92)を培養し、該培養物より日本特許第2729712号に記載のCHV−89ポリペプチドの精製方法に準じて精製操作を行い、精製CHV−92標品を得た。
【0168】
(3) H−275−Cysの調製
ポリペプチドH−275−Cysを発現させるためのプラスミドは以下に示す操作に従って構築した。すなわち、Escherichia coli HB101/pCH102(FERM BP−2800)よりプラスミドpCH102を調製した。このプラスミドを鋳型とし、配列表の配列番号:14に塩基配列を示すプライマー12Sと配列表の配列番号:15に塩基配列を示すプライマー14Aとを用いたPCRを行い、フィブロネクチンのヘパリン結合ポリペプチドをコードする約0.8kbのDNA断片を得た。得られたDNA断片をNcoI、BamHI(ともに宝酒造社製)で消化した後、NcoI、BamHIで消化したpTV118N(宝酒造社製)とライゲーションすることにより、プラスミドpRH1を構築した。
【0169】
プラスミドベクターpINIII−ompA〔グーライェプJ.ら(Ghrayeb J.et al.)、EMBO J.、第3巻、第10号、第2437〜2442頁(1984)〕をBamHIとHincII(宝酒造社製)とで消化し、リポプロテインターミネーター領域を含む約0.9kbのDNA断片を回収した。これをBamHIとHincIIで消化した上記のプラスミドpRH1と混合してライゲーションを行い、lacプロモーター、ヘパリン結合ポリペプチドをコードするDNA断片およびリポプロテインターミネーターをこの順に含むプラスミドpRH1−Tを得た。
【0170】
このプラスミドpRH1−Tを鋳型とし、配列表の配列番号:16に塩基配列を示すプライマーCys−Aと配列表の配列番号:17に塩基配列を示すプライマーCys−Sとを用いたPCR反応の後、回収した増幅DNA断片をNotI(宝酒造社製)で消化し、さらに該DNA断片をセルフライゲーションさせた。こうして得られた環状DNAをSpeIとScaI(宝酒造社製)とで消化して得られる2.3kbのDNA断片と、プラスミドpRH1−TをSpeIとScaI(宝酒造社製)とで消化して得られる2.5kbのDNA断片とを混合してライゲーションを行い、プラスミドpRH−Cysを得た。該プラスミドには、前記のH−271のN末端側にMet−Ala−Ala−Serの4アミノ酸が付加され、さらにC末端にCysが付加されたポリペプチド(H−275−Cys)がコードされている。
【0171】
ポリペプチドH−275−Cysは、以下の方法により調製した。上記のプラスミドpRH−Cysで形質転換された大腸菌HB101(Escherichia coli HB101/pRH−Cys)を120mlのLB培地中、37℃で1晩培養した。培養液より回収した菌体を40mlの破砕用緩衝液(50mM Tris−HCl、1mM EDTA、150mM NaCl、1mM DTT、1mM PMSF、pH7.5)に懸濁、超音波処理を行って菌体を破砕した。遠心分離を行って得られた上清を精製用緩衝液(50mM Tris−HCl、pH7.5)で平衡化されたハイトラップ−ヘパリンカラム(Pharmacia社製)にかけた。同緩衝液でカラム内の非吸着画分を洗浄した後、0〜1M NaCl濃度勾配を持つ精製用緩衝液で溶出を行った。溶出液をSDS−PAGEで分析し、H−275−Cysの分子量に相当する画分を集めて精製H−275−Cys標品を得た。
【0172】
実施例10 フィブロネクチンフラグメント(FNfr)を用いた特異的細胞障害活性保持CTLの拡大培養
(1) 抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導
実施例1−1−(1)に記載の方法で分離保存したPMBCを用い、実施例1−1−(2)と同様の方法で、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導を行った。その際、実施例9に記載の各フィブロネクチンフラグメント(以下、FNfrと記載する)を終濃度10μg/mlとなるように添加した。コントロールとして、FNfrを添加しない群も設定した。
【0173】
こうして調製した誘導開始後14日目のCTLの細胞傷害活性は、実施例1−1−(3)と同様の方法にて評価した。この結果、誘導直後において、特異的細胞傷害活性は誘導されていたが、誘導時のFNfr添加の有無による細胞傷害活性の差はほとんど無かった。
【0174】
(2) CTLの拡大培養
実施例10−(1)で調製したCTLを用い、実施例1−1−(4)と同様の方法でCTLの拡大培養を行った。この際、CTL誘導の際に添加したものと同じFNfrを終濃度10μg/mlとなるように添加した。また、FNfrを添加せずに誘導を行ったコントロール群にはFNfrは添加しなかった。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、培養開始1日目に終濃度120U/mlのIL−2を添加、さらに培養開始後4日目以降は2〜3日ごとに培養上清を半分除去後、60U/mlのIL−2を含む5HRPMIもしくは10%Hyclone FBS、0.1mM非必須アミノ酸、1mMピルビン酸ナトリウム、2mM L−グルタミン(全てBio Whittaker社製)、10mM HEPES(ナカライテスク社製)、1%ストレプトマイシン−ペニシリン(Gibco BRL社製)を含むRPMI1640培地(Bio Whittaker社製)(以下、10HycloneRPMIと略す)を5ml各フラスコに添加した。この際、FNfr添加群の培地には同濃度のFNfrを添加した。拡大培養開始後、14日目に実施例1−1−(3)と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定した。拡大培養前の特異的細胞傷害活性をどれだけ維持しているかを「特異的細胞傷害活性維持(%)」として算出した。「特異的細胞傷害活性維持(%)」は以下の式2にしたがって算出した。
式2:特異的細胞傷害活性維持(%)={拡大培養後の特異的細胞傷害活性(%)/拡大培養前の特異的細胞傷害活性(%)}×100
測定結果を表13に示す。
【0175】
【表13】

【0176】
表13に示されるように、誘導時ならびに拡大培養時に各種のフィブロネクチンフラグメントを添加した群のCTLは、フィブロネクチンフラグメントを添加しなかったコントロールに比べて、14日間の拡大培養の後も特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。つまり、フィブロネクチンフラグメントの共存下に誘導、拡大培養を行うことにより、高い細胞傷害活性を長期的に保持した状態でのCTLの拡大培養が可能であることが明らかになった。
【0177】
実施例11 フィブロネクチン存在下でのCTL誘導、拡大培養
(1) 抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導
実施例1−1−(1)に記載の方法で分離、保存したPBMCを用い、実施例1−1−(2)と同様の方法で抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導を行った。このとき、FNfrにかえてフィブロネクチン(Calbiochem社製)を終濃度10μg/mlとなるように添加した(コントロールは無添加)。誘導開始後14日目のCTLの細胞傷害活性を、実施例1−1−(3)に記載の方法で評価したところ、誘導時のFNfr添加の有無による細胞傷害活性の差はほとんどなかった。
【0178】
(2) CTLの拡大培養
実施例11−(1)で調製したCTLを実施例10−(2)と同様の方法で拡大培養した。このとき、誘導時にフィブロネクチンが添加されていたものにはフィブロネクチン(Calbiochem社製)を終濃度10μg/mlとなるように添加した(コントロールは無添加)。得られたCTLの細胞傷害活性を実施例1−1−(3)と同様の方法にて測定し、拡大培養前の特異的細胞傷害活性をどれだけ維持しているかを「特異的細胞傷害活性維持(%)」として算出した。「特異的細胞傷害活性維持(%)」は上記の式2にしたがって算出した。測定結果を表14に示す。
【0179】
【表14】

【0180】
表14に示されるように、フィブロネクチンの存在下にCTL誘導および拡大培養を行った群においては高い細胞傷害活性が保持されていた。一方、CTL誘導時および拡大培養時のどちらにもフィブロネクチンを添加しなかったコントロールの細胞傷害活性は明らかに低下していた。つまり、フィブロネクチンをCTL誘導時および拡大培養時に添加することにより、特異的で細胞傷害活性を長期的に保持した状態でのCTLの拡大培養が可能であることが明らかになった。
【0181】
実施例12 固定化されたフィブロネクチン(FN)フラグメント存在下でのCTL拡大培養
(1) FNフラグメント固定化
以下の実験で使用する培養用器材(容器)にフィブロネクチンフラグメントを固定化した。すなわち、24穴細胞培養プレート、12.5cmフラスコに各種フィブロネクチンフラグメント(終濃度10μg/ml)を含むPBSを1〜2mlずつ添加し、室温で2時間インキュベートした後、使用時まで4℃で保存した。また上記のプレート、フラスコは使用前にPBSで2回洗浄した。
【0182】
(2) 抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導
実施例1−1−(1)に記載の方法で分離、保存したPBMCを用い、実施例1−1−(2)と同様の方法で、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導を行った。このとき、培養器材としてFNfrを固定化したプレートを使用した(コントロールには固定化処理を行っていないプレートを使用)。誘導後のCTLの細胞傷害活性を、実施例1−1−(3)に記載の方法で評価したところ、誘導時に使用したプレートのFNfr固定化の有無による細胞傷害活性の差はほとんどなかった。
【0183】
(3) CTLの拡大培養
実施例12−(2)で調製したCTLを実施例10−(2)と同様の方法で拡大培養した。この際、培養器材として各種FNfrを固定化したフラスコを使用した(コントロールには固定化処理を行っていないフラスコを使用)。また、培地には10Hyclone/RPMIを用いた。
【0184】
こうして拡大培養されたCTLの細胞傷害活性が拡大培養前に比較してどれだけ維持されているかを「特異的細胞傷害活性維持(%)」として評価した。「特異的細胞傷害活性維持(%)」は上記の式2にしたがって算出した。測定結果を表15に示す。
【0185】
【表15】

【0186】
表15に示されるように、CTL誘導時および拡大培養時にフィブロネクチンフラグメントを固定化した培養器材(プレート、フラスコ)を使用した群のCTLは拡大培養後にも特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。一方、CTL誘導時および拡大培養時のどちらにもフィブロネクチンフラグメントを固定化しない器材を使用したコントロールでは、細胞傷害活性は明らかに低下していた。つまり、固定化されたフィブロネクチンフラグメントを使用することにより、培地中に溶解しているフラグメントと同様に高い細胞傷害活性を長期的に保持したCTLを拡大培養することがが可能であることが明らかになった。
【0187】
実施例13 腫瘍関連抗原特異的細胞傷害活性を保持するCTLの拡大培養
(1) 抗腫瘍関連抗原(MART1)特異的CTLの誘導
実施例1−1−(1)に記載の方法で分離、保存したPBMCを用い、実施例7−2−(1)と同様の方法で抗腫瘍関連抗原(Melanoma antigen recognized by T cell,MART1)特異的CTLの誘導を行った。このとき、抗HGF抗体を終濃度2μg/mlとなるように添加した。またコントロールとして、サンプルを添加しない群も設定した。
【0188】
こうして調製した誘導開始後35日目のCTLの細胞傷害活性は、実施例1−1−(3)と同様の方法にて評価した。ただしこの際、標的細胞として一晩エピトープペプチドと共培養、もしくはエピトープペプチド非存在下で培養したHLA−A2.1保持EBVトランスフォームB細胞(細胞名 221A2.1)、100U/mlのIFN−γ存在化で二晩培養したHLA−A2.1保持ガン細胞株(細胞名 624mel;HLA−A2.1保持MART1発現細胞)もしくはHLA−A2.1非保持ガン細胞株(細胞名 938mel;HLA−A2.1非保持MART1発現細胞)を用いた。
【0189】
この結果、誘導直後において、特異的細胞傷害活性は誘導されていたが、誘導時のサンプル添加の有無による細胞傷害活性の差はほとんど無かった。
【0190】
(2) CTLの拡大培養
実施例13−(1)で調製したCTLを用い、実施例1−1−(4)と同様の方法で、CTLの拡大培養を行った。この際、実施例13−(1)でのCTL誘導の際に添加した抗HGF抗体を2μg/mlとなるように添加する群と誘導時からサンプルを全く添加しない群を設定した。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、培養開始1日目に終濃度120U/mlのIL−2を添加、さらに培養開始後4日目以降は2〜3日ごとに培養上清を半分除去後、60U/mlのIL−2および2μg/mlの抗HGF抗体を含む5HRPMI 5mlを各フラスコに添加した。ただし、サンプルを添加していない群においては、培地交換の際にも、サンプルの添加は行わなかった。拡大培養開始後、14日目に実施例1−1−(3)と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定した。測定結果を表16に示す。
【0191】
【表16】

【0192】
その結果、CTL誘導時および拡大培養時に抗HGF抗体を添加した群においては、CTLは14日間の拡大培養後においても特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。一方、CTL誘導時および拡大培養時のどちらにもこれらのサンプルを添加しなかった群では、その活性は、明らかに低下していた。また腫瘍細胞株に対する特異的細胞傷害活性についてもCTL誘導時および拡大培養時に抗HGF抗体を添加した群においては、CTLは14日間の拡大培養後においても特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。つまり、抗腫瘍関連抗原(MART1)CTLの拡大培養時においても、抗HGF抗体をCTL誘導時および拡大培養時に添加することにより、特異的で高い細胞傷害活性を長期的に保持した状態で、CTLの拡大培養が可能になることが明らかになった。
【0193】
なお、本発明の態様として、以下のものが挙げられる。
(1) 抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞を誘導するための方法であって、
(A)CD44に結合活性を有する物質、
(B)CD44リガンドがCD44に結合することにより発せられるシグナルを制御し得る物質、
(C)成長因子の成長因子レセプターへの結合を阻害し得る物質、
(D)成長因子が成長因子レセプターに結合することにより発せられるシグナルを制御し得る物質、並びに
(E)フィブロネクチン、そのフラグメント又はそれらの混合物、
からなる群より選択される少なくとも1種の物質の存在下に細胞傷害性T細胞への分化能を有する前駆細胞を抗原提示細胞と共にインキュベートする工程を含むことを特徴とする方法、
(2) CD44に結合活性を有する物質がCD44リガンド及び/又は抗CD44抗体である前記(1)記載の方法、
(3) CD44リガンドがヒアルロン酸である前記(2)記載の方法、
(4) 成長因子の成長因子レセプターへの結合を阻害し得る物質が成長因子に結合活性を有する物質である前記(1)記載の方法、
(5) 成長因子に結合活性を有する物質が抗成長因子抗体である前記(4)記載の方法、
(6) 成長因子が肝細胞増殖因子、インシュリン様増殖因子−1及びインシュリン様増殖因子−2からなる群より選択される少なくとも1種の成長因子である前記(1)、(4)及び(5)いずれか1項に記載の方法、
(7) フィブロネクチンのフラグメントが、
(a)VLA−4結合ドメイン、
(b)VLA−5結合ドメイン、および
(c)ヘパリン結合ドメイン、
からなる群より選択される少なくとも1種のドメインを有するフラグメントである前記(1)記載の方法、
(8) 抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞を維持するための方法であって、前記(1)に記載の(A)〜(E)からなる群より選択される少なくとも1種の物質の存在下に細胞傷害性T細胞を継続培養する工程を含むことを特徴とする方法、
(9) CD44に結合活性を有する物質がCD44リガンド及び/又は抗CD44抗体である前記(8)記載の方法、
(10) CD44リガンドがヒアルロン酸である前記(9)記載の方法、
(11) 成長因子の成長因子レセプターへの結合を阻害し得る物質が成長因子に結合活性を有する物質である前記(8)記載の方法、
(12) 成長因子に結合活性を有する物質が抗成長因子抗体である前記(11)記載の方法、
(13) 成長因子が肝細胞増殖因子、インシュリン様増殖因子−1及びインシュリン様増殖因子−2からなる群より選択される少なくとも1種の成長因子である前記(8)、(11)及び(12)いずれか1項に記載の方法、
(14) フィブロネクチンのフラグメントが、
(a)VLA−4結合ドメイン、
(b)VLA−5結合ドメイン、および
(c)ヘパリン結合ドメイン、
からなる群より選択される少なくとも1種のドメインを有するフラグメントである前記(8)記載の方法、
(15) 抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞を拡大培養する方法であって、前記(1)に記載の(A)〜(E)からなる群より選択される少なくとも1種の物質の存在下に細胞傷害性T細胞をインキュベートする工程を含むことを特徴とする方法、
(16) 前記工程において、さらに抗CD3抗体の存在下に細胞傷害性T細胞をインキュベートする前記(15)記載の方法、
(17) 前記工程において、細胞傷害性T細胞をフィーダ細胞と共にインキュベートする前記(15)又は(16)記載の方法、
(18) フィーダ細胞が非ウイルス感染細胞である前記(17)記載の方法、
(19) CD44に結合活性を有する物質がCD44リガンド及び/又は抗CD44抗体である前記(15)〜(18)いずれか1項に記載の方法、
(20) CD44リガンドがヒアルロン酸である前記(19)記載の方法、
(21) 成長因子の成長因子レセプターへの結合を阻害し得る物質が成長因子に結合活性を有する物質である前記(15)〜(18)いずれか1項に記載の方法、
(22) 成長因子に結合活性を有する物質が抗成長因子抗体である前記(21)記載の方法、
(23) 成長因子が肝細胞増殖因子、インシュリン様増殖因子−1及びインシュリン様増殖因子−2からなる群より選択される少なくとも1種の成長因子である前記(15)〜(18)、(21)及び(22)いずれか1項に記載の方法、
(24) フィブロネクチンのフラグメントが、
(a)VLA−4結合ドメイン、
(b)VLA−5結合ドメイン、および
(c)ヘパリン結合ドメイン、
からなる群より選択される少なくとも1種のドメインを有するフラグメントである前記(15)記載の方法、
(25) 前記(1)〜(24)いずれかに記載の方法によって得られた細胞傷害性T細胞含有培養物から、抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞を高含有する細胞集団を選択する工程を含む細胞傷害性T細胞の回収方法、
(26) 前記(1)〜(25)いずれかに記載の方法で調製された抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞、ならびに
(27) 前記(26)に記載の細胞傷害性T細胞を有効成分として含有することを特徴とする治療剤、
に関する。
【産業上の利用可能性】
【0194】
本発明により抗原特異的な細胞傷害活性を高活性で保持したまま維持及び/又は拡大培養することのできるCTLの誘導方法、維持方法および拡大培養方法が提供される。
当該方法は大量のCTLを必要とする養子免疫療法等の細胞医療の分野で極めて有用である。また当該方法により調製されるCTLは安全な方法で調製されることから、極めて安全性の高い細胞医薬となる。
【図面の簡単な説明】
【0195】
【図1】第1図は、ヒアルロン酸による可溶性CD44と可溶性CD44認識抗体の結合阻害活性を示す図である。
【図2】第2図は、FL標識ヒアルロン酸とCTL細胞表面上CD44の結合活性を示す図である。
【図3】第3図は、可溶性CD44認識抗体と培地中の可溶性CD44の結合活性を示す図である。
【図4】第4図は、HA Non-Blocking抗CD44抗体と培地中の可溶性CD44の結合活性を示す図である。
【図5】第5図は、HA Non-Blocking抗CD44抗体とCTL細胞表面上CD44の結合活性を示す図である。
【図6】第6図は、HA Non-Blocking抗CD44抗体添加拡大培養後CTLの細胞表面上における本抗体の結合を示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0196】
配列番号:1は、C−274と名付けられたヒトフィブロネクチン由来のペプチドフラグメントのアミノ酸配列である。
配列番号:3は、H−271と名付けられたヒトフィブロネクチン由来のペプチドフラグメントのアミノ酸配列である。
配列番号:4は、H−296と名付けられたヒトフィブロネクチン由来のペプチドフラグメントのアミノ酸配列である。
配列番号:5は、CH−271と名付けられたヒトフィブロネクチン由来のペプチドフラグメントのアミノ酸配列である。
配列番号:6は、CH−296と名付けられたヒトフィブロネクチン由来のペプチドフラグメントのアミノ酸配列である。
配列番号:7は、C−CS1と名付けられたヒトフィブロネクチン由来のペプチドフラグメントのアミノ酸配列である。
配列番号:8は、CHV−89と名付けられたヒトフィブロネクチン由来のペプチドフラグメントのアミノ酸配列である。
配列番号:9は、CHV−90と名付けられたヒトフィブロネクチン由来のペプチドフラグメントのアミノ酸配列である。
配列番号:10は、CHV−92と名付けられたヒトフィブロネクチン由来のペプチドフラグメントのアミノ酸配列である。
配列番号:11は、CHV−179と名付けられたヒトフィブロネクチン由来のペプチドフラグメントのアミノ酸配列である。
配列番号:12は、CHV−181と名付けられたヒトフィブロネクチン由来のペプチドフラグメントのアミノ酸配列である。
配列番号:13は、H−275−Cysと名付けられたヒトフィブロネクチン由来のペプチドフラグメントのアミノ酸配列である。
配列番号:14は、プライマー12Sの塩基配列である。
配列番号:15は、プライマー14Aの塩基配列である。
配列番号:16は、プライマーCys−Aの塩基配列である。
配列番号:17は、プライマーCys−Sの塩基配列である。
配列番号:18は、インフルエンザウイルスのマトリックスプロテイン由来HLA−A2.1結合性ペプチドに基づいてデザインされたペプチドのアミノ酸配列である。
配列番号:19は、メラノーマ抗原MAGE3由来HLA−A2.1結合性ペプチドに基づいてデザインされたペプチドのアミノ酸配列である。
配列番号:20は、メラノーマ抗原MART1由来HLA−A2.1結合性ペプチドに基づいてデザインされたペプチドのアミノ酸配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞を拡大培養する方法であって、
(A)ヒアルロン酸、又は抗CD44抗体、
(B)抗成長因子抗体、並びに
(C)フィブロネクチン、そのフラグメント又はそれらの混合物、
からなる群より選択される少なくとも1種の物質の存在下に細胞傷害性T細胞をインキュベートする工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
インキュベート工程において、さらに抗CD3抗体の存在下に細胞傷害性T細胞をインキュベートする請求項1記載の方法。
【請求項3】
インキュベート工程において、細胞傷害性T細胞をフィーダ細胞と共にインキュベートする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
フィーダ細胞が非ウイルス感染細胞である請求項3記載の方法。
【請求項5】
フィブロネクチンのフラグメントが、
(a)VLA−4結合ドメイン、
(b)VLA−5結合ドメイン、および
(c)ヘパリン結合ドメイン、
からなる群より選択される少なくとも1種のドメインを有するフラグメントである請求項1記載の方法。
【請求項6】
フィブロネクチンのフラグメントが、配列表の配列番号1〜13に記載のアミノ酸配列のいずれか1つからなるフラグメントである請求項1記載の方法。
【請求項7】
請求項1に記載の(A)〜(C)からなる群より選択される少なくとも1種の物質の存在下に細胞傷害性T細胞への分化能を有する前駆細胞を抗原提示細胞と共にインキュベートして得られた抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞を拡大培養する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞を維持するための方法であって、
(A)ヒアルロン酸、又は抗CD44抗体、
(B)抗成長因子抗体、並びに
(C)フィブロネクチン、そのフラグメント又はそれらの混合物、
からなる群より選択される少なくとも1種の物質の存在下に細胞傷害性T細胞を継続培養する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
フィブロネクチンのフラグメントが、
(a)VLA−4結合ドメイン、
(b)VLA−5結合ドメイン、および
(c)ヘパリン結合ドメイン、
からなる群より選択される少なくとも1種のドメインを有するフラグメントである請求項8記載の方法。
【請求項10】
フィブロネクチンのフラグメントが、配列表の配列番号1〜13に記載のアミノ酸配列のいずれか1つからなるフラグメントである請求項8記載の方法。
【請求項11】
請求項8に記載の(A)〜(C)からなる群より選択される少なくとも1種の物質の存在下に細胞傷害性T細胞への分化能を有する前駆細胞を抗原提示細胞と共にインキュベートして得られた抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞を継続培養する、請求項8記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11いずれかに記載の方法によって得られた細胞傷害性T細胞含有培養物から、抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞を高含有する細胞集団を選択する工程を含む細胞傷害性T細胞の回収方法。
【請求項13】
請求項1〜12いずれかに記載の方法で調製された抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞。
【請求項14】
請求項13に記載の細胞傷害性T細胞を有効成分として含有することを特徴とする養子免疫療法用治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−35864(P2008−35864A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210183(P2007−210183)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【分割の表示】特願2003−521820(P2003−521820)の分割
【原出願日】平成14年8月15日(2002.8.15)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】