説明

抗微生物材料

金属種及びポリマーを含み、前記ポリマーが前記金属種を安定化している、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための材料。前記材料を含む組成物及びデバイス。前記材料、組成物、またはデバイスの使用を含む、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための材料、特に抗微生物性の銀の種を含む組成物、いくつかの前記材料、これらの材料または組成物を含む医療用デバイス、前記材料、組成物、及びデバイスの供給方法、並びに前記材料、組成物、またはデバイスを使用する、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀金属及び銀化合物の臨床上の抗微生物活性及び抗微生物効果はよく知られている。このような金属ベースの抗菌を含めた抗微生物材料の活性は、処置されるべき領域へ送達される、しばしば水に可溶性である金属ベースの種の放出によるものである。医療用デバイスの適用のためには、数日にわたる放出のプロファイルが必要とされる。
【0003】
細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための金属ベースの材料は、様々な放出プロファイルを示す。従って、銀金属からの銀の種の例えば水性媒体の中への送達速度(可溶化)は、実に非常に低い。銀の可溶化率を増大させるために、例えば硝酸銀処理等の銀塩が使用されている。しかし、硝酸銀は水に非常に溶けやすく、数日にわたる医療用デバイスの適用にとって、即時の溶解は望ましくない。
【0004】
スルファジアジン銀は、それが適用される局所的な生体環境において、即時に溶解せず、数日にわたる放出プロファイルを有する。しかし、これらの銀塩中の対イオンの存在は、所定質量の材料中に供給され得る銀の量を効果的に希釈する(硝酸銀では総重量の63.5%が銀であるが、スルファジアジン銀ではわずか30.2%である)。
【0005】
酸化銀のin vitro抗微生物効果が、最近商業的関心を引いている。これらの効力は、従来の銀(I)化合物のものを上回り得るものであり、例えばO2-等の低質量の対イオン存在により、所定質量の材料中に提供され得る銀の量は、希釈がより少なくなる。
【0006】
しかしながら、抗菌を含めた抗微生物の金属酸化物(及び銀(I)塩)は、固有の構造不安定性及び/または感光性の欠点があり、このことが、乏しい貯蔵安定性及び乏しいデバイス適合性をもたらし、これらの医療上の活用を制限している。
【0007】
さらに、窒素または硫黄ベースの基または酸化され得る種を含む材料、例えばポリウレタン等の基材の上での銀(I)酸化物の使用は、結果として銀(I)酸化物の著しい劣化をもたらし得る。ポリウレタンベースの材料は、例えば創傷の処置のための局所用手当て用品を含む手当て用品において、並びにカテーテル、ステント、排液管、及びある種の診療器具において、しばしば選択される基材である。
【0008】
金属酸化物の安定性を高め、且つ抗微生物/抗菌活性を保証するための従来のアプローチは、前記金属酸化物中の個々の金属原子またはイオンの錯体形成である。関連する金属錯体を生成するために必要とされる配位子及び/またはこれらの調製方法は、しばしば複雑であり及び/または高価である。
【0009】
ポリ(ビニルサルフェート)及びナトリウムポリ(ホスフェート)等のポリアニオンを使用して、通常の周囲条件下で化学的に安定である、特にコロイド状凝集体の金属ナノクラスターを物理的に安定化させる。これらは、医療用途に使用されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
抗菌を含めた既知の抗微生物材料の限界を克服する、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための材料、すなわち、数日にわたる放出プロファイルを有し、その効力が従来の銀(I)塩のものを上回り、対イオンの存在により所定質量の材料中に供給され得る活性のある金属種の量を比較的わずかしか効果的に希釈せず、通常の周囲条件下で安定であり、粒子サイズが原子クラスターからマクロ粒子までの範囲内にあり、金属酸化物中の個々の金属原子またはイオンよりも、複雑でなく及び/または高価でない種で容易に安定化され得、且つ窒素または硫黄ベースの基または酸化され得る種を含む材料の基材、例えばポリウレタン等を金属酸化物と適合させ得る材料の提供が望まれている。
【0011】
また、これらの材料を含む組成物及びデバイス、前記材料、組成物、及びデバイスの供給方法、並びに前記材料、組成物、またはデバイスを使用する細菌を含めた微生物の感染の処置または予防方法を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様によれば、金属種及びポリマーを含み、前記ポリマーが前記金属種を安定化する、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための材料が提供される。
【0013】
前記金属種は、銀、銅、亜鉛、マンガン、金、鉄、ニッケル、コバルト、カドミウム、パラジウム、及び/または白金の種であってよい。
【0014】
前記金属種は、金属イオン、金属塩、金属クラスター、金属粒子、金属ナノ粒子、及び/または金属結晶であってよい。
【0015】
前記金属種は、金属酸化物であってよい。
【0016】
前記金属種は、銀種であってよい。前記金属種は、銀カチオンであってよい。前記銀種は、硝酸銀、過塩素酸銀、酢酸銀、テトラフルオロホウ酸銀、銀トリフラート、フッ化銀、酸化銀、及び/または水酸化銀であってよい。前記酸化銀は、酸化銀(I)、酸化銀(I、III)、酸化銀(II、III)、及び/または酸化銀(III)であってよい。
【0017】
前記金属種は、金種であってよい。前記金種は、硝酸金、過塩素酸金、酢酸金、テトラフルオロホウ酸金、金トリフラート、フッ化金、酸化金、及び/または水酸化金であってよい。
【0018】
前記ポリマーは、コポリマーであってよい。
【0019】
前記ポリマーは、ポリアニオンであってよい。前記ポリアニオンは、有機系であってよい。前記有機ポリアニオンは、有機ポリ酸及び/またはこれらの誘導体であってよい。
【0020】
前記ポリマーは、金属種と有機ポリ酸及び/またはこれらの誘導体との反応生成物または混合物であってよい。
【0021】
前記有機ポリ酸及び/またはこれらの誘導体は、コポリマーであってよい。
【0022】
前記有機ポリ酸は、ポリカルボキシレートであってよい。前記ポリカルボキシレートは、ポリマー性ポリ(カルボン酸)であってよい。
【0023】
前記ポリカルボキシレートは、ポリマー性ポリ(カルボン酸エステル)であってよい。前記ポリマー性ポリ(カルボン酸エステル)は、ポリ(アクリレート)であってよい。前記ポリマー性ポリ(カルボン酸エステル)は、ポリ(メタクリレート)であってよい。
【0024】
前記ポリアニオンは、無機系であってよい。
【0025】
前記ポリマーは、金属種と無機ポリアニオン及び/またはその誘導体との反応生成物であってよい。
【0026】
前記無機ポリアニオン及び/またはその誘導体は、コポリマーであってよい。
【0027】
前記無機ポリアニオンは、ポリリン酸塩であってよい。
【0028】
前記無機ポリアニオンは、ポリマー性硫酸塩であってよい。前記ポリマー性硫酸塩は、ポリ(ビニルサルフェート)であってよい。
【0029】
前記ポリマーは、飽和ポリオレフィンであってよい。前記飽和ポリオレフィンは、ポリエチレンであってよい。前記飽和ポリオレフィンは、ポリプロピレンであってよい。
【0030】
本発明の第2の態様によれば、少なくとも1つのIA族またはIB族金属酸化物及び有機ポリ酸、及び/またはその誘導体を含むことを特徴とする細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための材料が提供される。
【0031】
本明細書において使用される場合、用語「有機ポリ酸」は、複数の酸基を有する有機種を意味し、「その誘導体」は、前記基が、例えばエステル化されることによってまたは酸塩によって誘導体化されていることを意味する。
【0032】
本発明の第1及び第2の態様の材料は、既知の抗菌を含めた抗微生物材料の限界を克服する。例えば、これらは、数日にわたる放出プロファイルを有する。前記材料は、例えば水性媒体中への関連する活性種の様々な放出プロファイル及びデリバリー速度を示す。
【0033】
材料の組成及び成分を、例えば水性媒体の中への特定の所望される放出速度を生み出すように仕立てることができる。
【0034】
所定質量の材料中に供給され得る銀の量は、酸化物イオンまたは有機ポリ酸誘導体の存在によって、比較的わずかしか効果的に希釈されない。
【0035】
本発明の第1及び第2の態様の金属酸化物−有機ポリ酸誘導体材料は、対応する金属酸化物のみのものと比較して向上した安定性を示す。これらを含む物品は、従来の無菌包装中で、周囲の温度及び圧力で、長期間(数年まで)貯蔵され得る。
【0036】
サイズが原子クラスターからマクロ粒子までの範囲内にある粒子は、金属酸化物中の個々の金属原子またはイオンよりも、複雑でなく及び/または高価でない種で容易に安定化され得る。
【0037】
ポリ酸誘導体錯体のコーティングは、金属酸化物粒子の表面上に効果的に形成される。
【0038】
前記材料の中の金属酸化物は、通常、サイズが、原子クラスター、ナノクラスター、コロイド、凝集体、ナノ粒子、及びミクロ粒子から、例えばマクロ粒子(任意の長距離の秩序性またはより低レベルの周期性を欠いている原子配列から、例えばナノ結晶及びミクロ結晶を含む規則的な単結晶及び多結晶までの範囲内にある構造的秩序のレベルを有する)までの範囲内にある粒子の形態である。
【0039】
前記材料中の金属原子の原子パーセンテージは、好適には1〜100%であってよい。
【0040】
好適な金属酸化物の例は、銀種、例えば酸化銀(I)及び酸化銀(I、III)等;酸化銅(III)を含む銅種;酸化金(III)を含む金種;並びに、酸化亜鉛(IV)を含む亜鉛種を含む。好ましくは、前記金属酸化物は、酸化銀(I)、酸化銀(I、III)、酸化銀(II、III)、酸化銀 (III)、または選択された抗微生物適用に適した水性媒体の中で銀の放出プロファイルを生み出す酸素の組成を組み込んだ任意の構造の酸化銀である。より好ましくは、前記金属酸化物は、酸化銀(I、III)、さもなければ酸化銀(II)として知られているものである。さらに好ましくは、前記金属酸化物は、酸化銀(I)である。
【0041】
好適な有機ポリ酸及び誘導体は、ポリマー性ポリ(カルボン酸)及びポリマー性ポリ(カルボン酸エステル)を含む。好ましくは、前記種は、ポリ(アクリレート)及び/またはポリ(メタクリレート)である。
【0042】
ポリ(アクリレート)及び/またはポリ(メタクリレート)の種の例は、:
【化1】

[式中、R1は、メチルまたは水素であり、
R2は、C1〜6のアルキル、例えばメチル等の直鎖または分岐鎖の脂肪族ヒドロカルビル基;C5〜8シクロアルキル、例えばシクロヘキシル;アリール基において場合により置換されている、ヘテロ芳香脂肪族(heteroaraliphatic)ヒドロカルビル基を含む芳香脂肪族ヒドロカルビル基、例えばフェネチル基において置換されているフェネチル等のフェニル直鎖及び分岐鎖C1〜6アルキル;またはヘテロ芳香族ヒドロカルビル基を含む、場合により置換されている芳香族ヒドロカルビル基、例えば場合によりフェニル基において置換されているフェニルである]
のタイプのモノマーのから生じるポリマーまたはコポリマーである。
【0043】
R2は、好ましくは直鎖または分岐鎖の脂肪族部分である。
【0044】
好ましくは、ポリ酸または誘導体は、これに接着性を付与し、金属酸化物粒子(接着性種を含む流体相中にしばしば分散している)への迅速な付着を可能にするモノマーに基づくコポリマーである。
【0045】
最も好ましくは、アクリレートまたはメタクリレートのモノマーは、アクリル酸、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、及びn-ブチルメタクリレートを含む群から選択される。このようなモノマーは、しばしばエマルジョンまたは溶液として使用され、結果として分散物、エマルジョン、または溶液中で接着性コポリマーを生じる。
【0046】
前記金属酸化物を、金属酸化物の安定性を損なわない、当業者に既知の任意の方法によって、酸または誘導体と結合させることができる。
【0047】
前記金属酸化物とポリ酸または誘導体との緊密な結合は、好ましくは、金属酸化物種とポリ酸または誘導体との、分散物、エマルジョン、または溶液の形態のスラリーとして、これら2つの機械的混合及び攪拌によって達成され得る。
【0048】
酸または誘導体が接着性のものである場合、ポリ酸または誘導体の接着性配合物の中で金属酸化物種のスラリーを混合及び攪拌することによって、金属酸化物を、前記酸または誘導体と都合よく結合させることができる。
【0049】
本発明の第3の態様によれば、少なくとも1つのIA族またはIB族金属酸化物及びポリリン酸塩、並びに/あるいは前記金属酸化物と前記塩との反応生成物を含むことを特徴とする、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための材料が提供される。
【0050】
本発明の第1及び第3の態様の材料は、抗菌を含めた既知の抗微生物材料の限界を克服する。例えば、これらは、数日にわたる放出プロファイルを有する。前記材料は、例えば水性媒体中への関連する活性種の様々な放出プロファイル及びデリバリー速度を示す。材料の組成及び成分を、例えば水性媒体中への特定の所望の放出速度を生み出すように仕立てることができる。
【0051】
所定質量の材料中に供給され得る銀の量は、酸化物イオンまたはポリリン酸塩の存在によって比較的わずかしか効果的に希釈されない。
【0052】
本発明の第1または第3の態様の金属酸化物−ポリリン酸塩材料は、対応する金属酸化物のみのものと比較して向上した安定性を示す。これらを含む物品は、従来の無菌包装中で、周囲の温度及び圧力で、長期間(数年まで)貯蔵され得る。
【0053】
サイズが原子クラスターからマクロ粒子までの範囲内にある粒子は、金属酸化物中の個々の金属原子またはイオンよりも、複雑でなく及び/または高価でない種で容易に安定化され得る。
【0054】
ポリアニオン錯体のコーティングは、複雑でなく及び/または高価でない種で金属酸化物粒子の表面上に効果的に形成される。
【0055】
前記材料の中の金属酸化物は、通常、サイズが、原子クラスター、ナノクラスター、コロイド、凝集体、ナノ粒子、及びミクロ粒子から、例えばマクロ粒子(任意の長距離の秩序性またはより低レベルの周期性を欠いている原子配列から、例えばナノ結晶及びミクロ結晶を含む規則的な単結晶及び多結晶までの範囲内にある構造的秩序のレベルを有する)までの範囲内にある粒子の形態である。
【0056】
前記材料中の金属原子の原子パーセンテージは、好適には1〜100%の範囲であってよい。
【0057】
好適な金属酸化物の例は、銀種、例えば酸化銀(I)及び酸化銀(I、III)等;酸化銅(III)を含む銅種;酸化金(III)を含む金種;並びに、酸化亜鉛(IV)を含む亜鉛種を含む。
【0058】
ポリリン酸塩は、1つより多いホスフェートモノマー部分を含み、且つ直鎖及び分岐鎖のポリマー鎖及び環状構造として存在して、金属酸化物粒子の表面構造において適合し得る柔軟な幾何学形態のオキシアニオンの2-D及び3-D配列を提供し得る。
【0059】
原子クラスターに関して、金属酸化物粒子の正確な原子の幾何学形態が、安定化に使用されるポリリン酸塩の最適なサイズ及び幾何学形態を決定づけると考えられている(本発明を決して制限することなく)。
【0060】
対応する金属酸化物のみのものと比較して向上した安定性及び抗菌を含めた良好な抗微生物効果を有する本発明の第1または第3の態様の好ましい銀酸化物−ポリリン酸塩材料は、その中の錯化ポリリン酸塩が2つより多いリン酸単位を含有するものを含む。
【0061】
金属酸化物とポリリン酸塩の結合は、当業者に既知の任意の方法によって達成され得る。最も好都合には、金属酸化物粒子を、溶液状のポリリン酸塩との錯体形成のための水性媒体の中に供給する。例えば、ポリリン酸ナトリウム溶液を、銀(I、III)酸化物または銀(I)酸化物の粉末へ加え、混合物を磨砕することによって均質化することができる。
【0062】
あるいは、関連した金属酸化物−ポリリン酸塩複合体を生成するポリオキシアニオンの存在下で、金属酸化物粒子をin situで生成することができる。前記方法のこの実施態様において、ポリリン酸塩の幾何学形態は、こうして形成された金属酸化物粒子の構造(及び従って反応性)をある程度決定づける。これは、鋳型合成の例である。
【0063】
本発明はまた、金属カチオン、例えば銀カチオンの安定化のためのポリリン酸塩の使用に関する。
【0064】
実験的な調査はまた、水溶性のポリリン酸塩が、金属カチオン、例えば銀カチオンを安定化させることも示している。これらのカチオンは、例えば水溶液等の溶液中でカチオン−アニオン錯体の一部であってもよく、またはアニオンがなくてもよい。
【0065】
安定化するポリリン酸塩は、:
【化2】

[式中、「n」は、1と等しいかまたはこれを超える整数である。好ましくは、「n」は、2と等しいかまたはこれを超える整数である。より好ましくは、「n」は、9と等しいかまたはこれを超える整数である]
のタイプの直鎖または分岐鎖の水溶性または半水溶性のポリマーである。
【0066】
カチオン「X」は限定されないが、好ましくはナトリウムである。
【0067】
従って、好適なポリリン酸塩は、:二リン酸塩、三リン酸塩、四リン酸塩、五リン酸塩、六リン酸塩、及びメタリン酸塩;例えばヘキサメタリン酸ナトリウム、五塩基性三リン酸ナトリウム、四塩基性ピロリン酸ナトリウムである。好ましくは、ポリリン酸塩は、ヘキサメタリン酸ナトリウムである。
【0068】
「銀カチオン」は、銀原子と比較して電子が不足している銀種を意味する。最も一般的な銀カチオンはAg(1+)であるが、本発明の範囲は、任意の銀カチオン、例えば、Ag(1+)、Ag(2+)及びAg(3+)等を含む。好ましくは、銀カチオンはAg(1+)またはAg(3+)である。
【0069】
これらの銀カチオンは、例えば溶液中で、アニオンとのイオン錯体の一部であってもよく、本質的にアニオンがなくともよい。銀カチオンとのイオン錯体を形成する一般的なアニオンは、:酢酸塩、アセチルアセトネート、ヒ酸塩、安息香酸塩、臭素酸塩、臭化物、炭酸塩、塩素酸塩、塩化物、クロム酸塩、クエン酸塩、シアン酸塩、シクロヘキサン酪酸塩、ジエチルジチオカルバミン酸塩、フッ化物、ヘプタフルオロ酪酸塩、ヘキサフルオロアンチモン酸塩、ヘキサフルオロヒ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヨウ素酸塩、ヨウ化物、乳酸塩、メタバナジン酸塩、メタンスルホン酸塩、モリブデン酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、酸化物、ペンタフルオロプロピオン酸塩、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、過レニウム酸塩、リン酸塩、フタロシアン酸塩、セレン化物、スルファジアジン、硫酸塩、硫化物、亜硫酸塩、テルル化物、テトラフルオロホウ酸塩、テトラタングステン酸塩、チオシアン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、及びトリフルオロメタンスルホン酸塩のアニオンを含むが、これに制限されない。
【0070】
好ましくは、前記アニオンは、生物学的に許容され得、例えば硝酸塩、酢酸塩、またはスルファジアジンである。
【0071】
溶液中でのポリリン酸塩の安定化のために、溶媒和銀カチオンは、銀カチオン−アニオン錯体、例えば硝酸銀(I)、スルファジアジン銀、リン酸銀、または酸化銀等の単塩から供給され得る。医学的応用のために、溶液は、好ましくは水性または部分的に水性である。
【0072】
銀カチオンは、水溶性のポリリン酸塩によって、イオン錯体の一部としてまたは溶液中で本質的に遊離したカチオンとして安定化させ得る。
【0073】
イオン錯体中の銀カチオンを含む銀カチオンの結合を、当業者に利用可能な任意の手段によって、ポリリン酸塩と結合させることができる。最も簡単には、銀カチオンまたはイオン性銀錯体を、恒久的または限定された期間、安定化リン酸塩の溶液中に浸漬させることができる。
【0074】
本発明の第4の態様によれば、本発明の第1、第2、または第3の態様による材料を含む、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための組成物が提供される。
【0075】
好ましくは、前記ポリマーは、金属種と前記組成物の残部との間のバリアとして作用する。好ましくは、前記金属種は、前記組成物の残部とよりも前記ポリマーとの反応性が低い。好ましくは、前記ポリマーは、前記組成物の残部よりも前記金属種による酸化に対して影響を受けにくい。
【0076】
本発明の第1及び第2の態様において、好適な組成物は、例えば流体相中に分散している関連した金属酸化物粒子を含む、それ自体または局所手当て用品の成分として、局所的または内部投与のための液体、ゲル、及びクリームを含む。有機ポリ酸または誘導体が流体相中の分散物、エマルジョン、または溶液の形態の接着性のものである場合、金属酸化物は、接着性種を含む同じ流体相中の分散物の形態であってよい。
【0077】
好適な組成物はまた、例えば人工関節、固定デバイス、縫合糸、ピンまたはネジ、カテーテル、ステント、排液管等の長期移植物を含む、特に移植可能なデバイスのための表面殺菌組成物を含む。
【0078】
前記金属酸化物を、金属酸化物の安定性を損なわない、当業者に既知の任意の方法によって、前記組成物中の酸または誘導体と結合させることができる。
【0079】
前記金属酸化物、ポリ酸または誘導体、及び任意の従来の賦形剤または媒体との緊密な結合は、好ましくは、賦形剤または媒体の中の分散物、エマルジョン、または溶液の形態の金属酸化物種とポリ酸または誘導体とのスラリーとして、機械的混合及び攪拌によって達成され得る。
【0080】
本発明の第1及び第3の態様において、好適な組成物は、外科的な急性及び慢性の創傷及び火傷を含む創傷の処置のための、流体相中に分散している関連した金属酸化物−ポリリン酸塩錯体粒子、例えばヒドロゲル及びキセロゲル、例えば架橋されたカルボキシメチルセルロースヒドロゲル等のセルロースヒドロゲルを含む、それ自体または局所手当て用品の成分としての局所的または内部投与のための液体、ゲル、及びクリーム、並びに例えば人工関節、固定デバイス、縫合糸、ピンまたはネジ、カテーテル、ステント、排液管等の長期移植物を含む、特に移植可能なデバイスのための表面殺菌組成物を含む。
【0081】
本発明の第5の態様によれば、本発明の第1、第2、または第3の態様による材料を含むデバイスが提供される。
【0082】
本発明の第6の態様によれば、本発明の第4の態様による組成物を含むデバイスが提供される。
【0083】
好ましくは、前記ポリマーは、金属種とデバイスとの間のバリアとして作用する。好ましくは、前記金属種は、前記デバイスよりも前記ポリマーとの反応性が低い。好ましくは、前記ポリマーは、前記デバイスより前記金属種による酸化に対して影響を受けにくい。
【0084】
好適なデバイスは、外科的な急性及び慢性の創傷及び火傷を含む創傷の処置のための局所手当て用品を含む手当て用品;例えば人工関節、固定デバイス、縫合糸、ピンまたはネジ、カテーテル、ステント、排液管等の長期移植物を含む移植物;人工臓器及び組織修復のための足場;並びに、例えば手術台を含むデバイス等の診療器具を含む。
【0085】
ポリ酸または誘導体の役割は、前記金属酸化物と適合しない基材、例えば窒素または硫黄ベースの基を含む材料、あるいは酸化されやすい任意の基材、例えばポリウレタンで構成されている不適合性の基材、例えばこのような材料のフォーム、繊維、またはフィルムをしばしば含み得る医療用デバイスに特に関係する。前述のように、ポリ酸または誘導体は、このような基材を前記金属酸化物種と適合させるのに効果的であり得る。
【0086】
本発明の第1、第2、または第3の態様の材料または本発明の第4の態様の組成物は、医療用デバイスの表面上のコーティングとしてまたはその成分としてしばしば存在する。
【0087】
好適な製造方法は、当業者に既知であり、浸漬、流体、または粉末コーティング、及び接着性物質または粉末のコーティングまたは吹き付け(blasting)による付着を含む。
【0088】
ポリ酸または誘導体が接着性のものである場合、その後これが基材へ金属酸化物種を付着させるのに役立ち得、一方、金属酸化物は、ポリ酸または誘導体によって基材から空間的に分離されて保持されることが都合がよい。
【0089】
前記金属酸化物は、本発明の第4の態様の組成物を形成するために、ポリ酸または誘導体の接着性物質またはその配合物中で分散物の形態をとり得、これを本発明の第6の態様のデバイスに適用することができる。
【0090】
あるいは、ポリ酸または誘導体、あるいはこれらの接着性配合物を、金属酸化物の前に前記デバイスに適用することができる。
【0091】
金属酸化物種を医療用デバイスの表面上の基材またはこの構成要素の表面上に付着するのに役立つこのような接着性コーティングは、有利なことには、適合する基材上で、頑強で、均一で、且つ柔軟である。こうして製造された物品は、従来の殺菌包装中で、周囲の温度及び圧力で、数年間までの長期間貯蔵され得る。
【0092】
本発明の第7の態様によれば、本発明の第1、第2、または第3の態様による材料、本発明の第4の態様による組成物、あるいは本発明の第5または第6の態様によるデバイスの使用を含む、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための方法が提供される。
【0093】
細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のためのこのような方法は、外科的な急性及び慢性の創傷及び火傷を含む創傷の処置のために特に有用である。
【0094】
ここで、例証として、添付図面に対して言及がなされる。:
図1は、デバイスと組み合わせた、本発明の実施態様による材料を示し;
図2は、組成物/デバイスと組み合わせた本発明の別の実施態様による材料を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0095】
図1に示されるように、金属種(1)を含む層は、ポリマー(2)を含む層によって基材(3)から分離されている。ポリマー(2)は、金属種(1)と基材(3)の間でバリアとして作用している。基材(3)は、例えば医療用デバイスであってよい。
【0096】
図2に示されるように、金属種(1)は、ポリマー(2)によって媒体(4)から分離されている。図1におけるように、ポリマー(2)は、金属種(1)と媒体(4)の間でバリアとして作用している。媒体(4)は、組成物または医療用デバイスであってよい。
【0097】
図1及び2の両方において、原理は同じである。すなわち、ポリマー(2)は、金属種(1)と基材(3)または媒体(4)の間でバリアとして作用し、それによって、金属種(1)を安定化させる。イオン金属種において不安定化を引き起こす基材(3)/媒体(4)は、酸化(すなわち電子供与体)に対して影響されやすいものである。このような基材は、硫黄原子、窒素原子(ポリウレタンを含む)、芳香族種、不飽和種、及び糖類(多糖を含む)等の電子供与性部分を含有する材料を含む。金属種(1)と基材(3)または媒体(4)との間にバリアを提供することによって、本発明による組成物またはデバイスは、金属種(1)における不安定性を防止する。
【0098】
本発明による材料及び組成物は効果的なバリアを提供し、それによって、金属種を安定化させる。好ましくは、金属種(1)は、基材(3)または媒体(4)よりも、ポリマー(2)との反応性が低い。好ましくは、ポリマー(2)は、基材(3)または媒体(4)よりも、金属種(1)による酸化に対して影響を受けにくい。
【0099】
本発明は、本発明の第1及び第2の態様に関連する以下の実施例によって、さらに例証される。
【実施例】
【0100】
<実施例1:接着性物質中における酸化銀(I、III)の分散>
酸化銀(I、III)(Aldrich Chemical社)500mgを蒸留水6mL中でスラリー化し、次いでこれを接着性エマルジョンK5T(Smith & Nephew Medical社)50g中に激しく混入して、1重量%の組成物を得た。灰色に着色されたエマルジョンを、0.016mmの開口部の拡散ブロックを介してアセテートフィルム上に塗布し、周囲の温度及び圧力で乾燥させた。特別な照明の予防措置は講じなかった。
【0101】
結果として生成した接着性フィルムは、色が透明な灰色であり、酸化銀(I、III)粒子が接着性物質中で完全にカプセル化されていた。
【0102】
<実施例2:接着性物質中における銀(I)酸化物の分散>
酸化銀(I)(Aldrich Chemical社)500mgを蒸留水6mL中でスラリー化し、次いでこれを接着性エマルジョンK5T(Smith & Nephew Medical社)50g中に激しく混入して、1重量%の組成物を得た。灰色に着色されたエマルジョンを、0.016mmの開口部の拡散ブロックを介してアセテートフィルムの上に塗布し、周囲の温度及び圧力で乾燥させた。特別な照明の予防措置は講じなかった。
【0103】
結果として生成した接着性フィルムは、色が透明な茶色であり、酸化銀(I)粒子が接着性物質中で完全にカプセル化されていた。
【0104】
<実施例3>
実施例1及び実施例2で調製された酸化銀(I、III)及び酸化銀(I)の接着性フィルムを、水圧プレス及び打抜型を用いて切断した。この接着性フィルムの切断部を24時間観察した。
【0105】
切断の2時間以内に、実施例2において調製された茶色のフィルムは切断端に沿って激しく変色し、濃い茶色の変色が接着性フィルム内に数ミリメートル拡がった。実施例1において調製された灰色のフィルムは、切断によって影響を受けなかった。
【0106】
<実施例4:A8接着性物質上への酸化銀(I)のブラッシング>
Opsiteフィルム(Smith & Nephew Medical社)から裏貼りを剥がし、接着性の接触層を露出させた。少量の酸化銀(I)粉末(Aldrich Chemical社)200mgを中心に置き、均一なコーティングが達成されるまで、標準的な剛毛ペンキブラシ(ANZA 木材染料及びワニスのブラシ、1.5インチ円形、40mm)を用いてフィルム上にブラシで拡げた。過剰な酸化銀(I)を、表面からブラシで除去した。
【0107】
<実施例5:A8接着性物質上への酸化銀(I、III)のブラッシング>
Opsiteフィルム(Smith & Nephew Medical社)から裏貼りを剥がし、接着性の接触層を露出させた。少量の酸化銀 (I、III)粉末(Aldrich Chemical社)200mgを中心に置き、均一なコーティングが達成されるまで、標準的な剛毛ペンキブラシ(ANZA 木材染料及びワニスのブラシ、1.5インチ円形、40mm)を用いてフィルム上にブラシで拡げた。過剰な酸化銀(I、III)を、表面からブラシで除去した。
【0108】
<実施例6:A8及びK5接着性物質上への酸化銀(I、III)のブラッシング>
両面を被覆された創傷接触層(Smith & Nephew Medical社)を、逆のK5被覆面は剥離紙に付着させたまま、A8接着側を露出させた。少量の酸化銀(I、III)粉末(Aldrich Chemical社)200mgを中心に置き、均一なコーティングが達成されるまで、標準的な剛毛ペンキブラシ(ANZA 木材染料及びワニスのブラシ、1.5インチ円形、40mm)を用いて接着性フィルム上にブラシで拡げた。過剰な酸化銀(I、III)を、表面からブラシで除去した。創傷接触層メッシュを裏貼り剥離紙から剥がして、被覆側を下にして剥離紙の上に移した。次いで、K5接着表面を前述のように酸化銀(I、III)で被覆し、酸化銀(I、III)被覆メッシュを得た。
【0109】
<実施例7:創傷接触層メッシュ上への酸化銀(I、III)のブラッシング及びAllevynフォーム上への移行>
両面を被覆された創傷接触層(Smith & Nephew Medical社)を、逆のK5被覆面は剥離紙に付着させたまま、A8接着側を露出させた。少量の酸化銀(I、III)粉末(Aldrich Chemical社)200mgを中心に置き、均一なコーティングが達成されるまで、標準的な剛毛ペンキブラシ(ANZA 木材染料及びワニスのブラシ、1.5インチ円形、40mm)を用いて接着性フィルム上にブラシで拡げた。過剰な酸化銀(I、III)を、表面からブラシで除去した。創傷接触層メッシュを裏貼り剥離紙から剥がして、接着側を下にし、被覆側を上にして6mm厚のAllevynフォーム上に移した。
【0110】
<実施例8:創傷接触層メッシュ上への酸化銀(I、III)のブラッシング、Allevynフォーム上への移行、及び創傷接触層での被覆>
両面を被覆された創傷接触層(Smith & Nephew Medical社)を、逆のK5被覆面は剥離紙に付着させたまま、A8接着側を露出させた。少量の酸化銀(I、III)粉末(Aldrich Chemical社)200mgを中心に置き、均一なコーティングが達成されるまで、標準的な剛毛ペンキブラシ(ANZA 木材染料及びワニスのブラシ、1.5インチ円形、40mm)を用いて接着性フィルム上にブラシで拡げた。過剰な酸化銀(I、III)を、表面からブラシで除去した。創傷接触層メッシュを裏貼り剥離紙から剥がして、接着側を下にし、被覆側を上にして6mm厚のAllevynフォーム上に移した。得られた複合材料を、両面接着性創傷接触層の層とともに酸化銀(I、III)被覆面の上で重ね合わせ、接着性フォームデバイスを作製した。
【0111】
<実施例9:A8接着性物質上での酸化銀(I、III)のブラッシング及び創傷接触層での被覆>
Opsiteフィルム(Smith & Nephew Medical社)から裏貼りを除去し、接着性接触層を露出させた。
【0112】
少量の酸化銀(I、III)粉末(Aldrich Chemical社)200mgを中心に置き、均一なコーティングが達成されるまで、標準的な剛毛ペンキブラシ(ANZA 木材染料及びワニスのブラシ、1.5インチ円形、40mm)を用いてフィルム上にブラシで拡げた。過剰な酸化銀(I、III)を、表面からブラシで除去した。得られた複合材料を、両面接着性創傷接触層の層とともに酸化銀(I、III)被覆面の上で重ね合わせ、接着性フィルムデバイスを作製した。
【0113】
<実施例10>
実施例1、3、5〜9において調製された型を、円径1cm及び5x5cm正方形のデバイスの型に水圧プレスによって切断した。数週間にわたって周囲の温度及び圧力で長い間放置しても、いずれのデバイスの型も変色しなかった。対照的に、酸化銀をポリウレタン基材に直接露出させた、接着性バリアの被覆を欠くコントロールは、抗微生物効力の同時損失とともに、24時間以内に変色した。
【0114】
本発明は、本発明の第1及び第3の態様に関係する以下の実施例によってさらに例証される。
【0115】
<実施例11:架橋されたカルボキシメチルセルロースヒドロゲル中における、酸化銀(I)及びポリリン酸ナトリウムの結合及び分散>
蒸留水2mL中でポリリン酸ナトリウム(Aldrich Chemical社)0.14gの溶液を調製した。この溶液を大理石乳鉢中の酸化銀(I)粉末(Aldrich Chemical社)0.14gに加えて、混合物を乳棒磨砕によって均質化した。酸化銀(I)−ポリリン酸塩材料をIntraSiteゲル(Smith & Nephew Medical社)14.00gに加えて、機械的に混合した。
【0116】
<実施例12:架橋されたカルボキシメチルセルロースヒドロゲル中における、酸化銀(I、III)*及びポリリン酸ナトリウムの結合及び分散>
蒸留水2mL中でポリリン酸ナトリウム(Aldrich Chemical社)0.14gの溶液を調製した。この溶液を大理石乳鉢中の酸化銀(I、III)粉末(Aldrich Chemical社)0.14gに加えて、混合物を乳棒磨砕によって均質化した。酸化銀(I、III)−ポリリン酸塩材料をIntraSiteゲル(Smith & Nephew Medical社)14.00gに加えて、機械的に混合した。
*さもなければ、酸化銀(II)として知られている。
【0117】
<実施例13:架橋されたカルボキシメチルセルロースヒドロゲル中における、酸化金(III)及びポリリン酸ナトリウムの結合及び分散>
蒸留水2mL中でポリリン酸ナトリウム(Aldrich Chemical社)0.14gの溶液を調製した。この溶液を大理石乳鉢中の酸化金(III)粉末(Aldrich Chemical社)0.14gに加えて、混合物を乳棒磨砕によって均質化した。酸化金(III)−ポリリン酸塩材料をIntraSiteゲル(Smith & Nephew Medical社)14.00gに加えて、機械的に混合した。
【0118】
<実施例14:ヘキサメタリン酸ナトリウムを有する水性多糖ゲル中における、酸化金(III)配合物の安定化>
ヘキサメタリン酸ナトリウム(1g)を含む水溶液10mLに酸化金(III)(1g)を懸濁した。この懸濁物をIntrasiteゲル(Smith & Nephew Medical社)100g中に激しく混入した。得られた混合物を光の非存在下において20℃で保存した。ヘキサメタリン酸ナトリウムなしでコントロールを調製した。これを同じ条件下で保存した。6カ月後に、各サンプルを調べた。ヘキサメタリン酸ナトリウムを含むサンプルは、外観及び粘度において変化していなかったが、一方、ヘキサメタリン酸ナトリウムを欠いたサンプルは、色が変化し、粘度が著しく減少しており、顕著な劣化が起こったことを示した。
【0119】
<実施例15:金属酸化物とポリリン酸ナトリウムの結合物及びポリリン酸塩安定化を欠いたコントロールの安定性比較>
実施例11〜13における調製を、ポリリン酸ナトリウムの非存在下で繰り返した。金属酸化物と対になるペアを、調製の24時間後に観察した。
【0120】
ポリリン酸ナトリウムの非存在下において、金属酸化物−ヒドロゲル結合物は、調製して数時間以内に変色し、分解を示すことが観察された。対照的に、ポリリン酸ナトリウムを含むこれらの配合物は、24時間以内に変色しなかった。さらに、これらの配合物は14日以内では変色しなかった。
【0121】
<実施例16:架橋されたカルボキシメチルセルロースヒドロゲル中における、金属酸化物−ポリリン酸塩分散物の抗微生物活性>
2つの菌株に対する抗微生物活性について、実施例11〜13において調製された組成物を試験した。
【0122】
緑膿菌NCIMB 8626及び黄色ブドウ球菌NCTC 10788を集菌した。連続した1:10の希釈を行い、108細菌/mLの最終濃度にした。接種菌のカウント用に、さらに10-8細菌/mL(混釈平板法を使用して測定した細菌/mLの数)まで希釈を行った。
【0123】
次いで2つの大きなアッセイプレートを設置し、140mLのミューラー・ヒントン(Mueller-Hinton)寒天を、大きなアッセイプレートに均等に加えて乾燥させた(15分間)。対応する試験生物とともにさらに140mLの寒天を播き、前の寒天層上に注いだ。寒天が固まったら(15分間)、プレートの蓋をはずしたまま37℃で30分間乾燥させた。生検パンチによってプレートから8mmの断片を取り出した。
【0124】
三通りに、実施例11〜13において調製された組成物及び実施例15において調製されたコントロールを、寒天接触表面で切断された6mm径の開口部を有する保持カップ中に3mL容量の注射器によって移した。次いでプレートをシールし、24時間37℃インキュベーションした。除去された微生物ゾーンのサイズを、測微器試験ゲージ(Vernier calliper gauge)を用いて測定し、三通りのものを平均化した。
【0125】
<実施例17:ヘキサメタリン酸ナトリウムを用いた、水性多糖ゲル中で配合された銀イオンの安定化>
ヘキサメタリン酸ナトリウム(1g)を含む水溶液10mLに硝酸銀(1g)を溶解した。得られた不透明な懸濁物をIntraSiteゲル(Smith & Nephew Medical社)100g中に激しく混入した。得られた混合物を光の非存在下において20℃で保存した。ヘキサメタリン酸ナトリウムなしでコントロールを調製した。これを同じ条件下で保存した。24時間後に、各サンプルを調べた。ヘキサメタリン酸ナトリウムを含むサンプルは、外観及び粘度において変化していなかったが、ヘキサメタリン酸ナトリウムを欠いたサンプルは、色が暗褐色に変化し、粘度が著しく増大し、顕著な劣化が起こったことを示した。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】デバイスと組み合わせた、本発明の実施態様による材料を示す図である。
【図2】組成物/デバイスと組み合わせた本発明の別の実施態様による材料を示す図である。
【符号の説明】
【0127】
1 金属種
2 ポリマー
3 基材
4 媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属種及びポリマーを含み、前記ポリマーが前記金属種を安定化している、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための材料。
【請求項2】
金属種が、銀、銅、亜鉛、マンガン、金、鉄、ニッケル、コバルト、カドミウム、パラジウム、及び白金の種からなる群から選択される、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
金属種が、金属イオン、金属塩、金属クラスター、金属粒子、金属ナノ粒子、及び金属結晶からなる群から選択される、請求項1または2に記載の材料。
【請求項4】
金属種が金属酸化物である、請求項1から3のいずれか一項に記載の材料。
【請求項5】
金属種が銀種である、請求項1から4のいずれか一項に記載の材料。
【請求項6】
金属種が銀カチオンである、請求項1から5のいずれか一項に記載の材料。
【請求項7】
銀種が、硝酸銀、過塩素酸銀、酢酸銀、テトラフルオロホウ酸銀、銀トリフラート、フッ化銀、塩化銀、酸化銀、及び水酸化銀からなる群から選択される、請求項5に記載の材料。
【請求項8】
酸化銀が、酸化銀(I)、酸化銀(I、III)、酸化銀(II、III)、及び酸化銀(III)からなる群から選択される、請求項7に記載の材料。
【請求項9】
金属種が金種である、請求項1から4のいずれか一項に記載の材料。
【請求項10】
金種が、硝酸金、過塩素酸金、酢酸金、テトラフルオロホウ酸金、金トリフラート、フッ化金、塩化金、酸化金、及び水酸化金からなる群から選択される、請求項9に記載の材料。
【請求項11】
ポリマーがコポリマーである、請求項1から10のいずれか一項に記載の材料。
【請求項12】
ポリマーがポリアニオンである、請求項1から11のいずれか一項に記載の材料。
【請求項13】
ポリアニオンが有機系である、請求項12に記載の材料。
【請求項14】
有機ポリアニオンが、有機ポリ酸及び/またはその誘導体である、請求項13に記載の材料。
【請求項15】
ポリマーが、金属種と有機ポリ酸及び/またはその誘導体との反応生成物または混合物である、請求項14に記載の材料。
【請求項16】
有機ポリ酸及び/またはその誘導体がコポリマーである、請求項14または15に記載の材料。
【請求項17】
有機ポリ酸がポリカルボキシレートである、請求項14から16のいずれか一項に記載の材料。
【請求項18】
ポリカルボキシレートがポリマー性ポリ(カルボン酸)である、請求項17に記載の材料。
【請求項19】
ポリカルボキシレートがポリマー性ポリ(カルボン酸エステル)である、請求項17に記載の材料。
【請求項20】
ポリマー性ポリ(カルボン酸エステル)がポリ(アクリレート)である、請求項19に記載の材料。
【請求項21】
ポリマー性ポリ(カルボン酸エステル)がポリ(メタクリレート)である、請求項19に記載の材料。
【請求項22】
ポリアニオンが無機系である、請求項12に記載の材料。
【請求項23】
ポリマーが、金属種と無機ポリアニオン及び/またはその誘導体との反応生成物である、請求項22に記載の材料。
【請求項24】
無機ポリアニオン及び/またはその誘導体がコポリマーである、請求項22に記載の材料。
【請求項25】
無機ポリアニオンがポリリン酸塩である、請求項22から24のいずれか一項に記載の材料。
【請求項26】
無機ポリアニオンがポリマー性硫酸塩である、請求項22から24のいずれか一項に記載の材料。
【請求項27】
ポリマーが飽和ポリオレフィンである、請求項1から11のいずれか一項に記載の材料。
【請求項28】
飽和ポリオレフィンがポリエチレンである、請求項27に記載の材料。
【請求項29】
飽和ポリオレフィンがポリプロピレンである、請求項27に記載の材料。
【請求項30】
請求項1から29のいずれか一項に記載の材料を含む、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための組成物。
【請求項31】
ポリマーが、金属種と組成物の残部との間のバリアとして作用する、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
金属種が、組成物の残部とよりもポリマーとの反応性が低い、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
ポリマーが、組成物の残部よりも金属種による酸化に対して影響を受けにくい、請求項31または32に記載の組成物。
【請求項34】
請求項1から29のいずれか一項に記載の材料を含むデバイス。
【請求項35】
ポリマーが、金属種とデバイスとの間のバリアとして作用する、請求項34に記載のデバイス。
【請求項36】
金属種が、デバイスとよりもポリマーとの反応性が低い、請求項34または35に記載のデバイス。
【請求項37】
ポリマーが、デバイスよりも金属種による酸化に対して影響を受けにくい、請求項34から36のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項38】
請求項30から33のいずれか一項に記載の組成物を含むデバイス。
【請求項39】
請求項1から29のいずれか一項に記載の材料、請求項30から33のいずれか一項に記載の組成物、または請求項34から38のいずれか一項に記載のデバイスの使用を含む、細菌を含めた微生物の感染の処置または予防のための方法。
【請求項40】
実質的に明細書に記載されている材料。
【請求項41】
実質的に明細書に記載されている組成物。
【請求項42】
実質的に明細書に記載されている医療用デバイス。
【請求項43】
実質的に明細書に記載されている方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−546463(P2008−546463A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−517607(P2008−517607)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【国際出願番号】PCT/GB2006/002365
【国際公開番号】WO2007/000591
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(391018787)スミス アンド ネフュー ピーエルシー (79)
【氏名又は名称原語表記】SMITH & NEPHEW PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】