抗歯周病菌剤及びそれを用いた医療用または歯科用材料
【課題】副作用の心配が無く安全性の高い抗歯周病菌剤、並びに、歯周病原菌の抗菌活性を示すことに加え、水に不溶で良好な賦形性を有する医療用または歯科用材料を提供することである。
【解決手段】プロタミン、又はその誘導体、加水分解物のうち少なくとも1種を有効成分とし、これを必要に応じてアニオン性高分子との複合体として、抗歯周病菌剤及び医療用または歯科用材料を調製する。
【解決手段】プロタミン、又はその誘導体、加水分解物のうち少なくとも1種を有効成分とし、これを必要に応じてアニオン性高分子との複合体として、抗歯周病菌剤及び医療用または歯科用材料を調製する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周病原菌に対し生育阻害活性を示すプロタミン、又はその誘導体、加水分解物を含む抗歯周病菌剤、並びに、それらとアニオン性高分子とから形成された複合体を含む抗歯周病菌剤及び医療用または歯科用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は、複数の歯周病原菌の関与に加え、宿主の要因や喫煙などの生活習慣が原因となって発症し、日本国内の成人の約80%が罹患していると言われている。歯周病は、歯の支持機能を低下させ、歯の喪失に伴う咀嚼機能障害による生活の質(QOL)の低下を引き起こすだけでなく、心循環系疾患(心内膜炎、冠状動脈性心疾患)や肺炎、早産・低体重児出産などの全身疾患のリスクファクターになることが報告されている。従って、高齢化が進む我が国国民のQOLの向上のみならず、他に臨床分野においても、歯周病の予防と治療が果たす役割は非常に大きい。
【0003】
歯周病の直接の原因は歯周病原菌そのもの、あるいは病原菌が産生するプロテアーゼであり、これらによって歯肉炎が起こり、さらに進行すると歯周組織にまで炎症が拡がり歯周炎となる。歯周病原菌はそのほとんどがグラム陰性偏性嫌気性細菌であり、代表的な病原菌としては、ポルフィロモナス ジンジバリスやトレポネーマ デンティコーラ、タンネレラ フォーサイセンシス、プレボテラ インターメディア、アグリゲイティバクター アクチノミセテムコミタンス、などがある。
【0004】
現在、これらの歯周病原菌に対する抗菌剤として、βラクタム系、マクロライド系、キノロン系抗菌剤が使用されているが、その抗菌力にはそれぞれ特徴があるため、病原菌の種類や歯周病の進行具合に応じて、抗菌剤を選択或いは併用する必要があり、一方で投与量、投与回数が増えた場合には副作用の問題が生じる場合がある。そのため、実際に歯周炎治療の主体となっているのは、プラークや歯石、根表面の内毒素などの機械的除去や外科的な炎症性組織の切除などであり、抗菌剤の投与は歯周炎急性発作時を除いて、補助的な治療としてしか用いられていない。
【0005】
こうした背景の中、魚類の精巣(白子)から得られる塩基性タンパク質であるプロタミンが、ジンジバリス菌が産生するプロテアーゼであるアルジンジパインの阻害活性を示すことが報告されている(非特許文献1参照)。さらに、プロタミン又はその誘導体と、トラネキサム酸及び/又はイプシロンアミノカプロン酸とを含有させることで、歯周病原菌による歯周炎症を効果的に抑制できることが開示されている(特許文献1参照)。これらプロタミンは一般に食品保存料として用いられており、安全性が高いことから従来の殺菌剤、抗生剤に代わる薬剤として有望である。
【0006】
一方、プロタミンは齲触原因菌であるストレプトコッカス ミュータンスに対する生育抑制効果(特許文献2参照)や、口腔内細菌の付着抑制効果(特許文献3参照)を示すことが開示されている。また、本出願人らはプロタミンの加水分解物が口腔カンジダ症を引き起こすカンジダ属などの真菌に対して抗真菌活性を示すことを見出した(特許文献4参照)。
【0007】
このように、プロタミン又はその誘導体は抗菌作用を示すだけでなく、歯周病の炎症抑制作用も示すことが知られているが、これまでに歯周病原菌そのものに対する生育阻害作用は知られていない。また、プロタミンは水溶性であるために、口腔内において歯周病原菌に対する生育阻害作用を長時間維持することは困難であると考えられていた。
【0008】
一方、プロタミンはポリカチオンの一種であるため、アニオン性高分子と静電的に結合を生じ、水に不溶性の複合体を形成することが知られている。
【0009】
プロタミンと同じく魚類の精巣から得られるDNAは、DNA分子内にアニオン性の結合要素となるリン酸基を多数有しており、カチオン性物質に対して静電的な親和性を示すため、これらカチオン性物質と静電的な反応物を形成させることが可能である。本来、DNA分子は賦形性に乏しく、水溶性であるために生体内での代謝拡散速度の調整に難点があったが、DNA分子とカチオン性人工脂質を静電的に結合させることで、水不溶性、自己支持性の透明フィルムが調製可能であることが開示されている(特許文献5参照)。
【0010】
また、この公報に開示されているDNA/脂質複合体フィルムは、生体高分子であるDNA分子が規則正しい二重螺旋構造を保持しており、二重螺旋構造のDNA塩基の隙間に種々の低分子化合物をインターカレートさせることや、DNAの持つ2つの溝(主溝、副溝)に同様の低分子化合物をグルーブバインディングさせることが可能であり、ここに薬効成分をインターカレート及び/又はグルーブバインディングさせることによる医療用材料の製造方法が発明されている(特許文献6参照)。
【0011】
本出願人らは、既に医療用及び/又は歯科用材料として利用されているキトサンがカチオン性物質であることに着目し、DNA分子とキトサンの複合体がDNA特有の二重螺旋構造を保持し、且つ水に不溶性で、生体親和性、抗菌性、及び良好な賦形性を有することを発明した(特許文献7参照)。また、DNA/キトサン複合体をリン酸緩衝液中に懸濁することで、容易に糸状、ボール状、ディスク状に成型する方法(特許文献8参照)、加熱下で加圧成型することによるフィルムの製造方法(特許文献9参照)を発明した。これらのDNA/キトサン複合体とその成型物は、優れた生体適合性と生体安定性を有するため医療用及び/又は歯科用材料として有望であった。
【0012】
しかしながら、DNA/キトサン複合体はラット皮下に埋入したところ、埋入初期に急性炎症反応と見られる好中球の発生が確認されたこと、殺菌剤や抗生剤としての効果が十分でないことなどの問題を有していた。そのため、キトサンよりも優れた生体適合性と抗菌作用を示すカチオン性物質との複合体が望まれていた。特に、歯科の領域では歯周病菌に対する抗菌活性を有する素材の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−169201号公報
【特許文献2】特開平11−228526号公報
【特許文献3】特開2001−89436号公報
【特許文献4】特開2008−133253号公報
【特許文献5】特開平8−239398号公報
【特許文献6】特開2001−327591号公報
【特許文献7】特開2005−2892522号公報
【特許文献8】特開2007−97884号公報
【特許文献9】特開2008−110952号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Kotani M、他5名「Inhibitory effects of protamines on proteolytic and adhesive activities of Porphiromonas gingivalis.」、Infection Immunity、1999年、第67巻、第9号、p.4917−4920
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上述した従来技術に鑑みてなされたものであり、本発明の第一の目的は副作用の心配が無く安全性の高い抗歯周病菌剤を提供することであり、本発明の第二の目的は歯周病原菌の抗菌活性を示すことに加え、水に不溶で良好な賦形性を有し、且つ高い生体適合性を有する歯科用材料及び/又は医療用材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明における第一の発明(以下、第一発明と記載する)では、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、プロタミン又はその誘導体や加水分解物が歯周病菌に対して抗菌活性を示すことを見出した。プロタミンは既に食品保存料として利用されている実績があり、人体への安全性が高いことが知られていることから、従来の殺菌剤、抗生剤に代わる素材として歯周病の予防及び治療に有効であることを知見した。
【0017】
本発明における第二の発明(以下、第二発明と記載する)では、プロタミン又はその誘導や加水分解物とアニオン性高分子との複合体が、歯周病菌に対して抗菌活性を示すことに加え、水に不溶性で賦形性に優れることを見出し、これら複合体が口腔内で長期間にわたる効果的な歯周病の予防及び治療に有効であることを知見し、第二発明に至った。
【0018】
本発明における第三の発明(以下、第三発明と記載する)では、第二発明におけるアニオン性高分子としてDNAに着目し、従来のDNA化合物では成し得なかった抗菌作用と、高い生体適合性を示すことを見出し、歯科用材料及び/又は医療用材料として有望であることを知見した。
【0019】
すなわち、本発明の第一発明である抗歯周病菌剤は、プロタミン、又はその誘導体、加水分解物のうち少なくとも1種を有効成分として含み、歯周病原菌に対して生育阻害作用を示す抗歯周病菌剤である。
【0020】
本発明の第二発明である抗歯周病菌剤は、プロタミン、又はその誘導体、加水分解物のうちの少なくとも1種の有効成分と、アニオン性高分子とが静電的に結合した複合体を含み、水に不溶で且つ賦形性を有し、歯周病原菌に対して生育阻害作用を示すことを特徴とする抗歯周病菌剤である。
【0021】
本発明の第三発明である医療用または歯科用材料は、プロタミン、又はその誘導体、加水分解物のうちの少なくとも1種の有効成分と、アニオン性高分子とが静電的に結合した複合体を含み、水に不溶で且つ賦形性を有し、歯周病原菌に対して生育阻害作用を示すことを特徴とする医療用または歯科用材料である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、口腔内の歯周病原菌の生育を直接阻害し、且つ人体への安全性が高いことから、歯周病の予防、治療剤として有効な抗歯周病菌剤を提供することができる。また、アニオン性高分子との化合物は、水不溶性で優れた賦形性を有することから、口腔内での長期間にわたり歯周病原菌の生育を効果的に阻害するものである。
【0023】
本発明に係る複合体の中で、プロタミン/DNA複合体は、生体適合性及び生体内での安定性に優れる上に特に賦形性に優れているため、歯周組織再生誘導(GTR)膜として、骨再生誘導(GBR)法として、抗菌性義歯塗布剤として、その他口腔内用抗菌剤、止血剤、各種衛生用品などとしての利用が可能である。さらには、プロタミン/DNA複合体が低分子化合物をインターカレーションあるいはグルーブバインディングすることができるため、成長因子(b−FGF、BMPなど)や抗生物質などの薬物を保持し、患部など必要な箇所に送達し、供給することのできる送達システム(DDS)用のメンブレン、フィルム、ラインニング材、又はコーティング材として利用することができる。また、歯科用材料にとどまらず、再生医療用の足場材(スキャフォールド材)として、創傷被覆材料として、感染防止膜として、癒着防止膜として、移植材料としてなど、医療用材料として多岐に利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】プロタミン/DNA複合体が黄色ブドウ球菌(スタフィロコッカス アウレウスに対し阻止円を形成した図である。
【図2】プロタミン/DNA複合体が大腸菌(エシェリヒア コリ)に対し阻止円を形成した図である。
【図3】プロタミン/DNA複合体が歯周病菌(ポルフィロモナス ジンジバリス)に対し阻止円を形成した図である。
【図4】プロタミン/DNA複合体が歯周病菌(プレボテラ インターメディア)に対し阻止円を形成した図である。
【図5】プロタミン/DNA複合体をラット皮下に埋入した3日後の組織切片の図である。
【図6】プロタミン/DNA複合体をラット皮下に埋入した10日後の組織切片の図である。
【図7】プロタミン/DNA/炭酸アパタイト複合体表面に付着した骨芽細胞を染色した図である。
【図8】プロタミン/DNA/炭酸アパタイト複合体を埋入した1ヶ月後のラット頭骸骨欠損部のX線CT画像の図であり、(A)はラット頭骸骨欠損部の矢状方向のX線CT画像の図であり、(B)はラット頭骸骨欠損部の冠状方向のX線CT画像の図である。
【図9】プロタミン/DNA/炭酸アパタイト複合体を埋入した1.5ヶ月後のラット頭骸骨欠損部のX線CT画像の図であり、(A)はラット頭骸骨欠損部の矢状方向のX線CT画像の図であり、(B)はラット頭骸骨欠損部の冠状方向のX線CT画像の図である。
【図10】プロタミン/DNA/炭酸アパタイト複合体を埋入した2ヶ月後のラット頭骸骨欠損部のX線CT画像の図であり、(A)はラット頭骸骨欠損部の矢状方向のX線CT画像の図であり、(B)はラット頭骸骨欠損部の冠状方向のX線CT画像の図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明について詳細に説明する。
【0026】
プロタミン又はその誘導体、加水分解物は、ポルフィロモナス ジンジバリスやプレボテラ インターメディアに代表される少なくとも一種の歯周病原菌に対して抗菌活性を示すものであり、口腔内で抗歯周病菌剤として用いることで歯周病の予防、緩和、あるいは治療などの効果を得ることができる。
【0027】
プロタミンは、サケ、ニシン、マス等魚類の精子核中にDNAと結合したヌクレオプロタミンとして存在する強塩基性蛋白質であり、原料の違いによって、例えばサルミン(サケ)、クルペイン(ニシン)等と称され、それぞれ若干構造も異なるが、何れのプロタミンも使用可能である。
【0028】
プロタミン誘導体は、プロタミンと無機酸、もしくは有機酸との塩や無機塩基、若しくは有機塩基との塩を指す。酸や塩基としては、塩の用途に応じて選択できるが、食品、化粧品、医薬品などへの用途を考慮すると、以下に挙げる薬学的に許容される塩が好ましい。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、更にはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、またはフマル酸等のジカルボン酸との塩、更に、酢酸、プロピオン酸、または酪酸等のモノカルボン酸との塩等を挙げる事ができる。又、本発明で得られるペプチド化合物の塩の形成に適した無機塩基は、例えば、アンモニア、ナトリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム等の水酸化物、炭酸塩及び重炭酸塩等である。有機塩基との塩としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミンの様なモノ−、ジ−及びトリ−アルキルアミン塩、モノ−、ジ−及びトリ−ヒドロキシアルキルアミン塩、グアニジン塩、N−メチルグルコサミン塩等を挙げる事ができる。
【0029】
プロタミンの加水分解物は、プロタミンを酸、アルカリ、蛋白質分解酵素、又はそれらの組合せにより加水分解したものであるが、蛋白質分解酵素を用いて加水分解することが望ましい。加水分解の方法は、より詳細には次の通りである。プロタミンに脱イオン水を加え、水酸化ナトリウム又は塩酸を加えてpHを酵素の至適pHに調整する。酵素の至適温度に加温した後、酵素を添加して、攪拌しながら酵素反応を行う。反応終了後、反応液を80〜100℃に加温して5〜60分間加熱失活させpHを中性域となるように調整後、反応液を凍結乾燥し、プロタミン分解物を得ることができる。
【0030】
上述の方法により調製したプロタミン分解物は、プロタミンを完全に分解したものは抗菌性を殆ど示さないため、分子量が500〜4,000の範囲に分布するように部分分解することが望ましい。
【0031】
プロタミンの加水分解に用いることのできる蛋白質分解酵素としては、例えばバシラス属(例えばバシラス サチリス、バシラス サーモプロテオティカス、バシラス リシェニフォルミスなど)の産生する酵素、アスペルギルス属(例えばアスペルギルス オリーゼ、アスペルギルス ニガー、アルペルギルス メレンスなど)の産生する酵素、リゾパス属(例えばリゾパス ニベウス、リゾパス デレマーなど)の産生する酵素、ペプシン、パンクレアチン、パパイン等が挙げられる。これらの酵素は単独、又は2種以上を組み合わせても良い。また、蛋白質分解酵素は、蛋白質の内部配列を特異的に認識して切断するエンドペプチダーゼと、末端から1〜2アミノ酸残基ずつ切断するエキソペプチダーゼに分類される。従って、必要に応じて、エンドペプチダーゼとエキソペプチダーゼの組合せにより、様々なペプチド鎖を生成させることが可能である。酵素により加水分解する場合には、基質に対して、酵素0.001〜10%を添加し、溶液を使用される酵素の至適pHとして加水分解する。
【0032】
本発明にかかる抗歯周病菌剤は、プロタミン又はプロタミン誘導体、あるいはプロタミンの加水分解物の少なくとも1種を有効成分として用い、必要に応じて、担体、希釈剤、各種添加剤などの副次的成分から選択された成分とともに組成物として提供することもできる。歯周病原菌に対する抗菌剤に含まれる担体又は副次的成分(典型的には用途に応じて薬学的に許容され得るもの)としては、用途や形態に応じて適宜異なり得るが、水、種々の有機溶媒、種々の緩衝液その他充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、表面活性剤、賦形剤、色素、香料等が挙げられる。
【0033】
次に、本発明にかかる抗歯周病菌剤は、有効成分であるプロタミン、プロタミン誘導体及びプロタミンの加水分解物の少なくとも1種と、アニオン性高分子との静電的反応物として得られる複合体としての形態とすることができる。当該複合体は歯周病菌に対する抗菌活性を有し、さらに水に不溶であり、かつ賦形性を有する。この複合体を用いて医療用または歯科用材料を得ることができる。
【0034】
上述した複合体の原料となるアニオン性高分子としては、アルギン酸、アルギン酸塩類若しくはアルギン酸誘導体、DNA、RNA、ペクチン、カラギーナン、ジェランガム、またはポリカルボン酸としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルアミロース、ポリグルタミン酸などのアニオン性ポリアミノ酸、カルボキシメチルスターチ、ヒアルロン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等が、ポリ硫酸としては、デキストラン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、ポリビニル硫酸カリウム等の中から選択可能であり、これらのうち一つ乃至は複数の化合物を選択することができる。アルギン酸塩類若しくはアルギン酸誘導体としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸オリゴなどを例示できるが、これらに限定されるわけではない。
【0035】
これらの中でアニオンとしてDNAを用いた複合体は、複合体を形成するDNAの少なくとも一部にDNA特有の二重螺旋構造が保持されており、且つ当該複合体が、水に対する溶解性を実質的に有しておらず、更に生体適合性を有しており、医療用または歯科用材料として特に好ましい材料である。
【0036】
DNAとしては、天然由来DNA及び合成DNAを利用することができる。天然由来DNAとしては、細菌ウイルスのλファージDNA、大腸菌染色体DNA、仔牛胸腺DNA、サケ、ニシン、マスなど魚類精子DNAを挙げることができる。また、合成DNAは、ポリ(dA)、ポリ(dT)、ポリ(dG)、ポリ(dC)、ポリ(dA−dT)、ポリ(dG−dC)などを用いて合成装置によって合成可能な、塩基配列の異なる種々の合成DNA;ポリ(A)、ポリ(T)、ポリ(G)、ポリ(U)、ポリ(A−T)、ポリ(G−U)などを用いて合成装置により合成可能な、塩基配列の異なる種々の合成RNA;ポリ(dG)、ポリ(U)、ポリ(G)、ポリ(dC)ポリ(dA−dT)、ポリ(A−T)などのDNA/RNAハイブリッドを用いて合成装置によって合成可能な、相補的塩基対を有するDNA/RNAハイブリッドを挙げることができる。これらは必要に応じて単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0037】
DNAの分子量は特に制限されず、ある程度の二重螺旋構造を保持していれば良い。DNAの分子量としては、10bp〜30,000bpのDNAを用いることができるが、分子量が大きすぎると水溶液の調製が困難となり、逆に分子量が小さすぎると複合体の回収率が低くなるため、好ましくは300bp〜7,000bpに分子量分布の中心を持つDNAを用いることが望ましい。
【0038】
このようなDNAは、二重らせんを形成している四種類の塩基[シトシン(C)、グアニン(G)、アデニン(A)、チミン(T)]に種々の基(例えばリン酸含有基を末端に有する基)などが結合した構造を有しており、このDNA全体としては、例えば上記の末端に結合したリン酸基などに起因してアニオン性を示す。
【0039】
このようなDNA自体は、二重らせん構造を有する紐状物であり、また、このDNAは水に溶解することから、このDNA自体に成形性はない。DNAがアニオン性を有していることを利用して、アニオン性のDNAと、カチオン性のポリカチオン化合物とを静電的に反応させることでDNA/ポリカチオン複合体を得ることができる。このようにして複合体となることで、DNAは実質的に水に溶解しなくなる。また、有機溶剤に対する溶解性も低くなる。
【0040】
DNAをアニオンとして用いた複合体は、DNAと、プロタミン、プロタミン誘導体及びプロタミン加水分解物の少なくとも1種を、水性媒体中で反応させることにより調製することができる。例えば、DNAの水溶液を、攪拌しているプロタミン水溶液に添加して混合することによりこれらを反応させることができる。
【0041】
DNAと、プロタミン、プロタミン誘導体及びプロタミン加水分解物の少なくとも1種の配合比は、この複合体の用途に応じて選択することができる。例えば、1/9から9/1、好ましくは1/1から1/1.5(重量比)の範囲から選択することができる。
【0042】
DNAと、プロタミン、プロタミン誘導体及びプロタミン加水分解物の少なくとも1種を水性媒体中で反応させることにより複合体の沈殿を生じる。この沈殿を水あるいは各種の緩衝液で洗浄し、必要に応じて、更に水洗し、余分な水分を遠心分離などで除去してから、乾燥することで複合体の乾燥物を得ることができる。乾燥は、常温乾燥法、加熱乾燥法、凍結乾燥法、減圧乾燥法など目的に応じた乾燥方法を適宜選択して行うことができる。
【0043】
沈殿の洗浄用の緩衝液としては、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液、HEPES緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、グリシン緩衝液、バルビツール酸緩衝液、フタル酸緩衝液、カコジル酸緩衝液、炭酸緩衝液、Bis−トリス緩衝液、Bis−トリスープロパン緩衝液、MES緩衝液、ADA緩衝液、PIPES緩衝液、ACES緩衝液、コラミンクロリド緩衝液、BES緩衝液、MOPS緩衝液、TES緩衝液、HEPPS緩衝液、Tricine緩衝液、グリシンアミド緩衝液、Bicine緩衝液、TAPS緩衝液、CHES緩衝液、CAPS緩衝液、リン酸緩衝液などの中から選択することができる。緩衝液の濃度やpHも目的とするDNA/プロタミン複合体の性状や物性が得られるように自由に選択することができる。
【0044】
このようにして得られた複合体乾燥物を必要に応じて粉砕し、目的に応じてペースト状、ゲル状、糊状、紐状、棒状、球状、ディスク状、フィルム状など様々な形態に成型して利用することができる。この複合体では、DNAの二重らせん構造が破壊されずにほぼ完全に残されているので、この複合体を用いることでDNAの機能を安定して効率良く利用することが可能となる。
【0045】
DNAをアニオンとして用いた複合体は、これに例えば適量の水を加えて乳鉢で錬和することにより、その錬和する時間に応じてペースト状、ゲル状、さらに粘着性を示す糊状などの容易に成型可能な状態とすることができる。
【0046】
さらに、DNAをアニオンとして用いた複合体のペースト状物を、シリンジを用いてリン酸緩衝液中に押し出すことにより、紐状の成型物が得られる。また、目的に応じたモールドに充填することによって、容易に棒状、あるいは球状、ディスク状などの各種の形状の成型物を得ることができる。
【0047】
DNAをアニオンとして用いた複合体のフィルム状成型物は、この複合体の乾燥粉末、あるいはペースト状、棒状、球状、ディスク状成型物を、加熱成型機を用いて加圧することにより得ることができる。さらには、上記プロタミン/DNA複合体成型物を、乳鉢で薄く延ばしてやることによっても、容易に透明のフィルムを成型することができる。
【0048】
上記の加熱成型機を用いたフィルムの作成時の温度は、フィルム成形用材料に応じて種々設定可能であるが、好ましくは室温(例えば、15℃〜25℃)〜120℃の範囲から選択するができる。また、フィルム成形時のプレス圧は、2〜20MPaの範囲から選択することができる。加圧時間は、所望の物性のフィルムが得られる程度でよく、上記の温度およびプレス圧であれば、例えば1〜10分間でフィルム化を完了することができる。好ましくは、5〜10分間プレスすることにより、丈夫で破れにくいフィルムを作製可能である。フィルムの厚さは、プレス時の温度、圧、加圧時間により調節することが可能であり、本方法によれば、1〜100μm程度の膜厚の透明な複合体フィルムを得ることもできる。
【0049】
本発明にかかる歯科用材料は、喪失された歯周組織の再生を図る組織再生誘導(GTR)法において、GTR膜として利用することができる。中でも、DNAをアニオンとして用いた複合体を含む歯科用材料は、生体親和性(適合性)に優れ、GTR膜の構成成分として特に好ましい。GTR膜は、欠損部位において先行増殖をする上皮組織から遮蔽して、歯槽骨、歯根膜、セメント質などの再生を図るための環境形成材料である。このメンブレンは、一定期間、生体中に留置されるので、生体親和性の高い素材で形成されていることが好ましく、さらには歯周病菌などに対する抗菌性を有していることがさらに好ましい。こうしたメンブレンとしては、コラーゲンあるいはポリ乳酸を基材とした吸収性のメンブレンとフッ素樹脂を使用した非吸収性メンブレンが使用されている。本発明にかかるDNAをアニオンとして用いた複合体のフィルム状、あるいはゲル状、糊状賦形物から成るGTR膜は、生体親和性が高く、従来のメンブレンよりも長期間にわたって安定に使用することができる。また、本発明の歯科用の材料を用いて製造されたGTRメンブレンを使用すれば、再生期間を従来の吸収性メンブレンを用いた場合よりも長く設定することができる。
【0050】
更に、本発明にかかる歯科用材料は、例えばペースト状あるいはゲル状、糊状の賦形物を形成することによって、義歯などへの抗菌性塗布剤、あるいは洗浄剤として利用することができる。中でも、DNAをアニオンとして用いた複合体は生体内での安定性に優れるため、従来の義歯剤塗布よりも長期間にわたって歯周病菌などに対する抗菌効果を発揮することができる。
【0051】
DNAをアニオンとして用いた複合体では、DNAの有するアニオン性基であるリン酸基の一部と、プロタミンの有するカチオン性基とが静電的に結合して所望の賦形性を発現させているが、DNA分子中にはプロタミンに結合していない多数のリン酸基が残存している。このDNA中のリン酸基を活用して、骨形成因子または成長因子と静電的に結合させて、これらサイトカインや抗生物質などのキャリアーとして使用することもできる。また、DNAの二重螺旋構造によるインターカレーションやグルーブバインディングを利用して、薬剤のキャリアーとすることもできる。
【0052】
骨形成因子及び成長因子としては、DNAをアニオンとして用いた複合体に担持可能であれば特に制限なく利用できる。例えば、骨形成因子としては骨形成タンパク質(BMP)、組換えヒト骨形成タンパク質(rhBMP)を、成長因子としては線維芽細胞増殖因子(FGF)、形質転換増殖因子ベータ(TGF―β)、上皮増殖因子(EGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、神経栄養因子(NGF)などを挙げることができ、これらの少なくとも1種を用いることができる。
【0053】
また、DNAをアニオンとして用いた複合体を、粉末状または顆粒状のリン酸カルシウムと、練り込みなどの方法により混合することにより、賦形性を有する混和物を得ることができる。この混和物の形成においては、必要に応じて適量の水分またはリン酸緩衝液を追加して賦形性のあるペースト状とすることができる。この混和物の形成によってリン酸カルシウムの顆粒や粉末に賦形性を持たせることが出来る。即ち、DNAをアニオンとして用いた複合体とリン酸カルシウム顆粒また粉末の練和物は、モールドに充填することで自由な形に成形可能で、またシリンジに充填して押し出すことで、複雑な形状の骨欠損部にも充填することが可能である。また、ペースト状の混和物を所望の形状とした後に乾燥処理をして、混和物の所望の形状を固定することもできる。この混和物は、歯周組織再生療法における歯周組織(具体的には歯槽骨、歯根膜、セメント質)の再生誘導剤もしくは再生促進剤、あるいは骨欠損部における骨形成の誘導もしくは促進を目的とした骨補填材としての応用が可能であるが、これらの用途に限定されるものではない。
【0054】
リン酸カルシウムとしては、ハイドロキシアパタイト(HA)、リン酸三カルシウム(α―TCP,β―TCP)、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)、リン酸八カルシウム(OCP)、リン酸四カルシウム(TeCP)、炭酸アパタイト(CAP)などを挙げることができ、これらの少なくとも1種を用いることができる。
【0055】
また、DNAをアニオンとして用いた複合体は、上記の歯科用材料としてだけではなく、フィルム、ライニング材、コーティング材に形成し、これを再生医療用の足場材(スキャフォールド材)、創傷被覆材料、あるいは感染防止膜や癒着防止膜として用いることにより、移植した際の生体親和性を向上させたり、あるいは生体の異物に対する生体反応を抑制するようにしたことを特徴とする医療用材料としての利用も可能である。
【実施例】
【0056】
次に実施例を示して本発明を実施するための最良の形態について、詳細に記載するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
〔実施例1〕
(プロタミン塩酸塩、及びその加水分解物の歯周病菌に対する抗菌活性)
(a)試料
シロサケ(オンコリンカス ケタ)の白子由来のプロタミン塩酸塩(プロザーブ;(株)マルハニチロ食品製)、上記プロタミン塩酸塩のブロメライン((株)天野エンザイム製)による加水分解物(HAP100;(株)マルハニチロ食品製)、同じくプロタミン塩酸塩のサモアーゼ((株)天野エンザイム製)による加水分解物(サモアーゼ分解物)を試料として用いた。尚、サモアーゼ分解物は、上記プロザーブ((株)マルハニチロ食品製)50gに脱イオン水80mLを加え、水酸化ナトリウムを加えてpH8.0に調製した後、65℃に加温してサモアーゼ((株)天野エンザイム製)0.4gを添加して2時間攪拌しながら酵素反応を行い、反応終了後に反応液を95℃に加温して30分間加熱失活させpH8.5に調整した後、反応液を凍結乾燥して調製した。このとき、サモアーゼ分解物の重量平均分子量(Mw)は3,587Daであった。
(b)抗菌活性の判定方法
精製水を用いて試料の2倍(w/v)希釈系列溶液を調製し、次に、滅菌・溶解後50±1℃に保ったPEAカブルセラHK寒天培地(極東製薬工業(株)製)に各希釈系列溶液をそれぞれ1/9量加えて十分に混合後、シャーレに分注、固化させて感受性測定用平板とした。次に、ポルフィロモナス ジンジバリスJCM8525を増菌用培地で37±1℃、5〜7日間嫌気培養後、GAMブイヨン培地(日水製薬(株)製)を用いて、菌数が約106cfu (colony forming unit)/mLとなるように調整し、接種用菌液とした。
上記の感受性測定用平板に接種用菌液を樹脂製ループ(内径約1mm)を用いて2cm程度画線塗抹し、37±1℃、5〜7日間嫌気培養した。所定時間培養後、菌の発育が阻止された最低濃度をもって最小発育阻止濃度(MIC)とした。
(c)試験結果
MICの結果を表1に示す。その結果、プロタミンの加水分解物(ブロメライン分解物及びサモアーゼ分解物)のMICは1,250ppm、プロタミン(プロザーブ)は625ppmであり、プロザーブは分解物よりも高い効果を示した。
【0058】
【表1】
【0059】
〔実施例2〕(プロタミン/DNA複合体の抗菌性)
(a)試料
シロサケの白子由来のプロタミン硫酸塩(プロザーブ;(株)マルハニチロ食品製)の57%(w/v)水溶液と、同じくシロサケの白子由来のDNA(分子量分布の中心が300bp、(株)マルハニチロ食品製)の0.5%(w/v)水溶液を用いた。それぞれプロタミン硫酸塩とDNAの重量が1:1となるように、プロタミン硫酸塩水溶液0.875gを100mLの滅菌蒸留水で希釈し、DNA溶液100mLと混合して1時間攪拌した。遠心分離により沈殿物を回収した後、水洗して再度遠心分離して得られた沈殿物をプロタミン/DNA複合体(未乾燥品)として回収した。このプロタミン/DNA複合体(未乾燥品)を更に凍結乾燥し、プロタミン/DNA複合体0.61gを得た。尚、プロタミン/DNA複合体の回収率は、重量%で61%(w/w)であった。試料を粉砕し、水を適量添加した後にモールドに填入した。離型後に再度凍結乾燥し、直径約5mm、厚さ約1mmの円盤状の試料を作成した。
(b)抗菌性の評価方法
抗菌試験は、試験菌液を均一に塗抹した寒天等の培地に試料を静置し、細菌の発育阻止の有無を見る発育阻止帯形成試験で定性的に行った。抗菌性を評価した菌は、黄色ブドウ球菌(スタフィロコッカス アウレウス)、大腸菌(エシェリヒア コリ)、歯周病菌(ポルフィロモナス ジンジバリス、及びプレボテラ インターメディア)である。
(c)試験結果
試験結果を図1〜4に示す。黄色ブドウ球菌に対し、プロタミン/DNA複合体試料の周辺に菌の生育阻止円が観察された。また、大腸菌に対しても、試料周辺に阻止円が観察された。さらに、2種類の歯周病菌に対し、試料周辺に阻止円が観察された。
【0060】
〔実施例3〕(プロタミン/DNA複合体の細胞毒性試験)
(a)試料
実施例2(a)と同じ方法で調製したプロタミン/DNA複合体を用いた。粉砕した粉末を篩にかけて45〜100μmの粉末を回収し、試料とした。尚、試料は放射線滅菌(1.9sec、20KGy、Dynamitron、IBA)して用いた。
(b)細胞毒性の評価方法
細胞は、マウス由来繊維芽細胞L−929を使用した。10%ウシ胎児血清(イントロゲン(株)製)を含むα―MEM培地(Dulbecco's modified Eagle’s medium)にて1(104cell/mLの細胞浮遊液を作成し、6ウェルマルチプレートの各ウェルに2mLずつ分注した。37℃で24時間培養後、培養液を試料1、2、4mgを含むα―MEM培地2mLと交換し、さらに5日間培養した。5日間培養後、培養液を0.4mLのCellTiter 96(R) Aqueous MTS(プロメガ(株))を含む培地2mLと交換し、37℃で2時間培養した後、492nmの吸光度を測定して細胞生存率(試料未添加の対照群に対する比率)を求めた。尚、試験はn=5で行い、平均を取った。
(c)試験結果
細胞毒性試験の結果を表2に示す。0.5〜2.0mg/mLの濃度において細胞生存率は非常に高く、プロタミン/DNA複合体は細胞毒性を示さないことが確認された。
【0061】
【表2】
【0062】
〔実施例4〕(プロタミン/DNA複合体の生体親和性の評価)
(a)試料
実施例2(a)と同じ方法で調製したプロタミン/DNA複合体を用いた。プロタミン/DNA複合体を内径5mm、厚さ0.5mmのテフロンモールドに入れ、両面をテフロン板で挟んで凍結乾燥し、直径約5mm、厚さ約1mmの円盤状の試料を作成した。試料は放射線滅菌(1.9sec、20KGy、Dynamitron、IBA)して用いた。
(b)生体適合性の評価方法
SPFラット(specific pathogen free rat、オス、6週齢)の背部皮下を切開し、試料を埋入した。一定期間(3、10日)の後、組織を採取しHE染色した(ヘマトキシリン エオジン染色)。
(c)試験結果
結果の組織図を図5、6に示す。埋入3日後、試料は周囲を肉芽組織に囲まれた状態で皮下組織に存在し、周囲の正常組織とは完全に分画されていた。埋入した試料は断片化され小片(塊)として存在し、小片周囲には僅かに好中球浸潤が確認されたが、これらの所見は試料埋入による極めて軽度の生体の急性炎症反応と考えられた。また、試料埋入に伴う感染などの惹起は確認されなかった。埋入10日後、皮下の埋入部は全て肉芽組織に置換された。多核巨細胞の貪食反応による埋入試料の断片化が進み、組織学的には典型的な異物肉芽腫の像を呈していた。肉芽組織は線維化が進んでおり、将来的には埋入材料が消失し、完全な器質化(線維性結合組織への置換)により反応が終了することが推測された。埋入3、10日後の組織学的観察において、使用したプロタミン/DNA複合体の生体に対する親和性は、極めて良好であることが示唆された。
【0063】
〔実施例5〕(プロタミン/DNA/炭酸アパタイト複合体の骨芽細胞増殖足場材としての評価)
(a)試料
実施例2(a)と同じ方法で調製したプロタミン/DNA複合体(未乾燥品)に対し、重量ベースで60%の炭酸アパタイトと適量の水を加えて混和し、テフロンモールドを用いて内径5mm、厚さ1mmの円盤状の試料を作成した。
(b)評価方法
試料をα―MEM培地に浸し、MC3T3‐E1細胞を播種した。6時間培養した後、試料を取り出し、PBSバッファーで試料表面を洗浄した。その後、試料に接着した細胞をアクチン染色した。
(c)試験結果
蛍光染色した細胞の画像を図7に示す。細胞がプロタミン/DNA/炭酸アパタイト複合体表面に接着している様子が観察され、当該複合体が骨芽細胞増殖の足場となることが確認された。
【0064】
〔実施例6〕(プロタミン/DNA/炭酸アパタイト複合体のラット頭骸骨欠損部への埋入試験)
(a)試料
実施例2(a)と同じ方法で調製したプロタミン/DNA複合体(未乾燥品)に対し、重量ベースで60%の炭酸アパタイトを加え、適量の水とともに混和した後、テフロンモールドを用いて内径5mm、厚さ1mmの円盤状の試料を作成した。
(b)評価方法
SPラット(specific pathogen free rat、オス、6週齢)の頭骸骨にトレフィンバー(直径5mm)にて骨欠損を形成した。試料を埋入し、埋入1ヶ月後、1.5ヶ月後および2ヶ月後にラットを屠殺して、それぞれX線CT装置(ScanXmate‐RB090SS150、コムスキャンテクノ社製)を用いて頭骸骨欠損部の断層画像を撮影し、骨形成過程の進行の有無を確認した。
(c)試験結果
試料埋入1ヵ月後、矢状方向および冠状方向のCTスキャン画像で不透画像が認められ、骨様組織が形成されていた(図8(A)及び(B))。試料埋入1.5ヵ月後、矢状方向の画像では1ヵ月後と差は認められなかった(図9(A))が、冠状方向の画像からは1ヵ月後よりも骨様組織の形成が進行している様子が観察された(図9(B))。試料埋入2ヵ月後、矢状方向の画像で試料埋入周辺部から中心部へ向って骨様組織の形成が認められ(図10(A))、冠状方向の画像でも1.5ヵ月後よりもさらに骨様組織が形成されている様子が観察された(図10(B))。
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周病原菌に対し生育阻害活性を示すプロタミン、又はその誘導体、加水分解物を含む抗歯周病菌剤、並びに、それらとアニオン性高分子とから形成された複合体を含む抗歯周病菌剤及び医療用または歯科用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は、複数の歯周病原菌の関与に加え、宿主の要因や喫煙などの生活習慣が原因となって発症し、日本国内の成人の約80%が罹患していると言われている。歯周病は、歯の支持機能を低下させ、歯の喪失に伴う咀嚼機能障害による生活の質(QOL)の低下を引き起こすだけでなく、心循環系疾患(心内膜炎、冠状動脈性心疾患)や肺炎、早産・低体重児出産などの全身疾患のリスクファクターになることが報告されている。従って、高齢化が進む我が国国民のQOLの向上のみならず、他に臨床分野においても、歯周病の予防と治療が果たす役割は非常に大きい。
【0003】
歯周病の直接の原因は歯周病原菌そのもの、あるいは病原菌が産生するプロテアーゼであり、これらによって歯肉炎が起こり、さらに進行すると歯周組織にまで炎症が拡がり歯周炎となる。歯周病原菌はそのほとんどがグラム陰性偏性嫌気性細菌であり、代表的な病原菌としては、ポルフィロモナス ジンジバリスやトレポネーマ デンティコーラ、タンネレラ フォーサイセンシス、プレボテラ インターメディア、アグリゲイティバクター アクチノミセテムコミタンス、などがある。
【0004】
現在、これらの歯周病原菌に対する抗菌剤として、βラクタム系、マクロライド系、キノロン系抗菌剤が使用されているが、その抗菌力にはそれぞれ特徴があるため、病原菌の種類や歯周病の進行具合に応じて、抗菌剤を選択或いは併用する必要があり、一方で投与量、投与回数が増えた場合には副作用の問題が生じる場合がある。そのため、実際に歯周炎治療の主体となっているのは、プラークや歯石、根表面の内毒素などの機械的除去や外科的な炎症性組織の切除などであり、抗菌剤の投与は歯周炎急性発作時を除いて、補助的な治療としてしか用いられていない。
【0005】
こうした背景の中、魚類の精巣(白子)から得られる塩基性タンパク質であるプロタミンが、ジンジバリス菌が産生するプロテアーゼであるアルジンジパインの阻害活性を示すことが報告されている(非特許文献1参照)。さらに、プロタミン又はその誘導体と、トラネキサム酸及び/又はイプシロンアミノカプロン酸とを含有させることで、歯周病原菌による歯周炎症を効果的に抑制できることが開示されている(特許文献1参照)。これらプロタミンは一般に食品保存料として用いられており、安全性が高いことから従来の殺菌剤、抗生剤に代わる薬剤として有望である。
【0006】
一方、プロタミンは齲触原因菌であるストレプトコッカス ミュータンスに対する生育抑制効果(特許文献2参照)や、口腔内細菌の付着抑制効果(特許文献3参照)を示すことが開示されている。また、本出願人らはプロタミンの加水分解物が口腔カンジダ症を引き起こすカンジダ属などの真菌に対して抗真菌活性を示すことを見出した(特許文献4参照)。
【0007】
このように、プロタミン又はその誘導体は抗菌作用を示すだけでなく、歯周病の炎症抑制作用も示すことが知られているが、これまでに歯周病原菌そのものに対する生育阻害作用は知られていない。また、プロタミンは水溶性であるために、口腔内において歯周病原菌に対する生育阻害作用を長時間維持することは困難であると考えられていた。
【0008】
一方、プロタミンはポリカチオンの一種であるため、アニオン性高分子と静電的に結合を生じ、水に不溶性の複合体を形成することが知られている。
【0009】
プロタミンと同じく魚類の精巣から得られるDNAは、DNA分子内にアニオン性の結合要素となるリン酸基を多数有しており、カチオン性物質に対して静電的な親和性を示すため、これらカチオン性物質と静電的な反応物を形成させることが可能である。本来、DNA分子は賦形性に乏しく、水溶性であるために生体内での代謝拡散速度の調整に難点があったが、DNA分子とカチオン性人工脂質を静電的に結合させることで、水不溶性、自己支持性の透明フィルムが調製可能であることが開示されている(特許文献5参照)。
【0010】
また、この公報に開示されているDNA/脂質複合体フィルムは、生体高分子であるDNA分子が規則正しい二重螺旋構造を保持しており、二重螺旋構造のDNA塩基の隙間に種々の低分子化合物をインターカレートさせることや、DNAの持つ2つの溝(主溝、副溝)に同様の低分子化合物をグルーブバインディングさせることが可能であり、ここに薬効成分をインターカレート及び/又はグルーブバインディングさせることによる医療用材料の製造方法が発明されている(特許文献6参照)。
【0011】
本出願人らは、既に医療用及び/又は歯科用材料として利用されているキトサンがカチオン性物質であることに着目し、DNA分子とキトサンの複合体がDNA特有の二重螺旋構造を保持し、且つ水に不溶性で、生体親和性、抗菌性、及び良好な賦形性を有することを発明した(特許文献7参照)。また、DNA/キトサン複合体をリン酸緩衝液中に懸濁することで、容易に糸状、ボール状、ディスク状に成型する方法(特許文献8参照)、加熱下で加圧成型することによるフィルムの製造方法(特許文献9参照)を発明した。これらのDNA/キトサン複合体とその成型物は、優れた生体適合性と生体安定性を有するため医療用及び/又は歯科用材料として有望であった。
【0012】
しかしながら、DNA/キトサン複合体はラット皮下に埋入したところ、埋入初期に急性炎症反応と見られる好中球の発生が確認されたこと、殺菌剤や抗生剤としての効果が十分でないことなどの問題を有していた。そのため、キトサンよりも優れた生体適合性と抗菌作用を示すカチオン性物質との複合体が望まれていた。特に、歯科の領域では歯周病菌に対する抗菌活性を有する素材の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−169201号公報
【特許文献2】特開平11−228526号公報
【特許文献3】特開2001−89436号公報
【特許文献4】特開2008−133253号公報
【特許文献5】特開平8−239398号公報
【特許文献6】特開2001−327591号公報
【特許文献7】特開2005−2892522号公報
【特許文献8】特開2007−97884号公報
【特許文献9】特開2008−110952号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Kotani M、他5名「Inhibitory effects of protamines on proteolytic and adhesive activities of Porphiromonas gingivalis.」、Infection Immunity、1999年、第67巻、第9号、p.4917−4920
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上述した従来技術に鑑みてなされたものであり、本発明の第一の目的は副作用の心配が無く安全性の高い抗歯周病菌剤を提供することであり、本発明の第二の目的は歯周病原菌の抗菌活性を示すことに加え、水に不溶で良好な賦形性を有し、且つ高い生体適合性を有する歯科用材料及び/又は医療用材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明における第一の発明(以下、第一発明と記載する)では、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、プロタミン又はその誘導体や加水分解物が歯周病菌に対して抗菌活性を示すことを見出した。プロタミンは既に食品保存料として利用されている実績があり、人体への安全性が高いことが知られていることから、従来の殺菌剤、抗生剤に代わる素材として歯周病の予防及び治療に有効であることを知見した。
【0017】
本発明における第二の発明(以下、第二発明と記載する)では、プロタミン又はその誘導や加水分解物とアニオン性高分子との複合体が、歯周病菌に対して抗菌活性を示すことに加え、水に不溶性で賦形性に優れることを見出し、これら複合体が口腔内で長期間にわたる効果的な歯周病の予防及び治療に有効であることを知見し、第二発明に至った。
【0018】
本発明における第三の発明(以下、第三発明と記載する)では、第二発明におけるアニオン性高分子としてDNAに着目し、従来のDNA化合物では成し得なかった抗菌作用と、高い生体適合性を示すことを見出し、歯科用材料及び/又は医療用材料として有望であることを知見した。
【0019】
すなわち、本発明の第一発明である抗歯周病菌剤は、プロタミン、又はその誘導体、加水分解物のうち少なくとも1種を有効成分として含み、歯周病原菌に対して生育阻害作用を示す抗歯周病菌剤である。
【0020】
本発明の第二発明である抗歯周病菌剤は、プロタミン、又はその誘導体、加水分解物のうちの少なくとも1種の有効成分と、アニオン性高分子とが静電的に結合した複合体を含み、水に不溶で且つ賦形性を有し、歯周病原菌に対して生育阻害作用を示すことを特徴とする抗歯周病菌剤である。
【0021】
本発明の第三発明である医療用または歯科用材料は、プロタミン、又はその誘導体、加水分解物のうちの少なくとも1種の有効成分と、アニオン性高分子とが静電的に結合した複合体を含み、水に不溶で且つ賦形性を有し、歯周病原菌に対して生育阻害作用を示すことを特徴とする医療用または歯科用材料である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、口腔内の歯周病原菌の生育を直接阻害し、且つ人体への安全性が高いことから、歯周病の予防、治療剤として有効な抗歯周病菌剤を提供することができる。また、アニオン性高分子との化合物は、水不溶性で優れた賦形性を有することから、口腔内での長期間にわたり歯周病原菌の生育を効果的に阻害するものである。
【0023】
本発明に係る複合体の中で、プロタミン/DNA複合体は、生体適合性及び生体内での安定性に優れる上に特に賦形性に優れているため、歯周組織再生誘導(GTR)膜として、骨再生誘導(GBR)法として、抗菌性義歯塗布剤として、その他口腔内用抗菌剤、止血剤、各種衛生用品などとしての利用が可能である。さらには、プロタミン/DNA複合体が低分子化合物をインターカレーションあるいはグルーブバインディングすることができるため、成長因子(b−FGF、BMPなど)や抗生物質などの薬物を保持し、患部など必要な箇所に送達し、供給することのできる送達システム(DDS)用のメンブレン、フィルム、ラインニング材、又はコーティング材として利用することができる。また、歯科用材料にとどまらず、再生医療用の足場材(スキャフォールド材)として、創傷被覆材料として、感染防止膜として、癒着防止膜として、移植材料としてなど、医療用材料として多岐に利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】プロタミン/DNA複合体が黄色ブドウ球菌(スタフィロコッカス アウレウスに対し阻止円を形成した図である。
【図2】プロタミン/DNA複合体が大腸菌(エシェリヒア コリ)に対し阻止円を形成した図である。
【図3】プロタミン/DNA複合体が歯周病菌(ポルフィロモナス ジンジバリス)に対し阻止円を形成した図である。
【図4】プロタミン/DNA複合体が歯周病菌(プレボテラ インターメディア)に対し阻止円を形成した図である。
【図5】プロタミン/DNA複合体をラット皮下に埋入した3日後の組織切片の図である。
【図6】プロタミン/DNA複合体をラット皮下に埋入した10日後の組織切片の図である。
【図7】プロタミン/DNA/炭酸アパタイト複合体表面に付着した骨芽細胞を染色した図である。
【図8】プロタミン/DNA/炭酸アパタイト複合体を埋入した1ヶ月後のラット頭骸骨欠損部のX線CT画像の図であり、(A)はラット頭骸骨欠損部の矢状方向のX線CT画像の図であり、(B)はラット頭骸骨欠損部の冠状方向のX線CT画像の図である。
【図9】プロタミン/DNA/炭酸アパタイト複合体を埋入した1.5ヶ月後のラット頭骸骨欠損部のX線CT画像の図であり、(A)はラット頭骸骨欠損部の矢状方向のX線CT画像の図であり、(B)はラット頭骸骨欠損部の冠状方向のX線CT画像の図である。
【図10】プロタミン/DNA/炭酸アパタイト複合体を埋入した2ヶ月後のラット頭骸骨欠損部のX線CT画像の図であり、(A)はラット頭骸骨欠損部の矢状方向のX線CT画像の図であり、(B)はラット頭骸骨欠損部の冠状方向のX線CT画像の図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明について詳細に説明する。
【0026】
プロタミン又はその誘導体、加水分解物は、ポルフィロモナス ジンジバリスやプレボテラ インターメディアに代表される少なくとも一種の歯周病原菌に対して抗菌活性を示すものであり、口腔内で抗歯周病菌剤として用いることで歯周病の予防、緩和、あるいは治療などの効果を得ることができる。
【0027】
プロタミンは、サケ、ニシン、マス等魚類の精子核中にDNAと結合したヌクレオプロタミンとして存在する強塩基性蛋白質であり、原料の違いによって、例えばサルミン(サケ)、クルペイン(ニシン)等と称され、それぞれ若干構造も異なるが、何れのプロタミンも使用可能である。
【0028】
プロタミン誘導体は、プロタミンと無機酸、もしくは有機酸との塩や無機塩基、若しくは有機塩基との塩を指す。酸や塩基としては、塩の用途に応じて選択できるが、食品、化粧品、医薬品などへの用途を考慮すると、以下に挙げる薬学的に許容される塩が好ましい。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、更にはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、またはフマル酸等のジカルボン酸との塩、更に、酢酸、プロピオン酸、または酪酸等のモノカルボン酸との塩等を挙げる事ができる。又、本発明で得られるペプチド化合物の塩の形成に適した無機塩基は、例えば、アンモニア、ナトリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム等の水酸化物、炭酸塩及び重炭酸塩等である。有機塩基との塩としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミンの様なモノ−、ジ−及びトリ−アルキルアミン塩、モノ−、ジ−及びトリ−ヒドロキシアルキルアミン塩、グアニジン塩、N−メチルグルコサミン塩等を挙げる事ができる。
【0029】
プロタミンの加水分解物は、プロタミンを酸、アルカリ、蛋白質分解酵素、又はそれらの組合せにより加水分解したものであるが、蛋白質分解酵素を用いて加水分解することが望ましい。加水分解の方法は、より詳細には次の通りである。プロタミンに脱イオン水を加え、水酸化ナトリウム又は塩酸を加えてpHを酵素の至適pHに調整する。酵素の至適温度に加温した後、酵素を添加して、攪拌しながら酵素反応を行う。反応終了後、反応液を80〜100℃に加温して5〜60分間加熱失活させpHを中性域となるように調整後、反応液を凍結乾燥し、プロタミン分解物を得ることができる。
【0030】
上述の方法により調製したプロタミン分解物は、プロタミンを完全に分解したものは抗菌性を殆ど示さないため、分子量が500〜4,000の範囲に分布するように部分分解することが望ましい。
【0031】
プロタミンの加水分解に用いることのできる蛋白質分解酵素としては、例えばバシラス属(例えばバシラス サチリス、バシラス サーモプロテオティカス、バシラス リシェニフォルミスなど)の産生する酵素、アスペルギルス属(例えばアスペルギルス オリーゼ、アスペルギルス ニガー、アルペルギルス メレンスなど)の産生する酵素、リゾパス属(例えばリゾパス ニベウス、リゾパス デレマーなど)の産生する酵素、ペプシン、パンクレアチン、パパイン等が挙げられる。これらの酵素は単独、又は2種以上を組み合わせても良い。また、蛋白質分解酵素は、蛋白質の内部配列を特異的に認識して切断するエンドペプチダーゼと、末端から1〜2アミノ酸残基ずつ切断するエキソペプチダーゼに分類される。従って、必要に応じて、エンドペプチダーゼとエキソペプチダーゼの組合せにより、様々なペプチド鎖を生成させることが可能である。酵素により加水分解する場合には、基質に対して、酵素0.001〜10%を添加し、溶液を使用される酵素の至適pHとして加水分解する。
【0032】
本発明にかかる抗歯周病菌剤は、プロタミン又はプロタミン誘導体、あるいはプロタミンの加水分解物の少なくとも1種を有効成分として用い、必要に応じて、担体、希釈剤、各種添加剤などの副次的成分から選択された成分とともに組成物として提供することもできる。歯周病原菌に対する抗菌剤に含まれる担体又は副次的成分(典型的には用途に応じて薬学的に許容され得るもの)としては、用途や形態に応じて適宜異なり得るが、水、種々の有機溶媒、種々の緩衝液その他充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、表面活性剤、賦形剤、色素、香料等が挙げられる。
【0033】
次に、本発明にかかる抗歯周病菌剤は、有効成分であるプロタミン、プロタミン誘導体及びプロタミンの加水分解物の少なくとも1種と、アニオン性高分子との静電的反応物として得られる複合体としての形態とすることができる。当該複合体は歯周病菌に対する抗菌活性を有し、さらに水に不溶であり、かつ賦形性を有する。この複合体を用いて医療用または歯科用材料を得ることができる。
【0034】
上述した複合体の原料となるアニオン性高分子としては、アルギン酸、アルギン酸塩類若しくはアルギン酸誘導体、DNA、RNA、ペクチン、カラギーナン、ジェランガム、またはポリカルボン酸としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルアミロース、ポリグルタミン酸などのアニオン性ポリアミノ酸、カルボキシメチルスターチ、ヒアルロン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等が、ポリ硫酸としては、デキストラン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、ポリビニル硫酸カリウム等の中から選択可能であり、これらのうち一つ乃至は複数の化合物を選択することができる。アルギン酸塩類若しくはアルギン酸誘導体としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸オリゴなどを例示できるが、これらに限定されるわけではない。
【0035】
これらの中でアニオンとしてDNAを用いた複合体は、複合体を形成するDNAの少なくとも一部にDNA特有の二重螺旋構造が保持されており、且つ当該複合体が、水に対する溶解性を実質的に有しておらず、更に生体適合性を有しており、医療用または歯科用材料として特に好ましい材料である。
【0036】
DNAとしては、天然由来DNA及び合成DNAを利用することができる。天然由来DNAとしては、細菌ウイルスのλファージDNA、大腸菌染色体DNA、仔牛胸腺DNA、サケ、ニシン、マスなど魚類精子DNAを挙げることができる。また、合成DNAは、ポリ(dA)、ポリ(dT)、ポリ(dG)、ポリ(dC)、ポリ(dA−dT)、ポリ(dG−dC)などを用いて合成装置によって合成可能な、塩基配列の異なる種々の合成DNA;ポリ(A)、ポリ(T)、ポリ(G)、ポリ(U)、ポリ(A−T)、ポリ(G−U)などを用いて合成装置により合成可能な、塩基配列の異なる種々の合成RNA;ポリ(dG)、ポリ(U)、ポリ(G)、ポリ(dC)ポリ(dA−dT)、ポリ(A−T)などのDNA/RNAハイブリッドを用いて合成装置によって合成可能な、相補的塩基対を有するDNA/RNAハイブリッドを挙げることができる。これらは必要に応じて単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0037】
DNAの分子量は特に制限されず、ある程度の二重螺旋構造を保持していれば良い。DNAの分子量としては、10bp〜30,000bpのDNAを用いることができるが、分子量が大きすぎると水溶液の調製が困難となり、逆に分子量が小さすぎると複合体の回収率が低くなるため、好ましくは300bp〜7,000bpに分子量分布の中心を持つDNAを用いることが望ましい。
【0038】
このようなDNAは、二重らせんを形成している四種類の塩基[シトシン(C)、グアニン(G)、アデニン(A)、チミン(T)]に種々の基(例えばリン酸含有基を末端に有する基)などが結合した構造を有しており、このDNA全体としては、例えば上記の末端に結合したリン酸基などに起因してアニオン性を示す。
【0039】
このようなDNA自体は、二重らせん構造を有する紐状物であり、また、このDNAは水に溶解することから、このDNA自体に成形性はない。DNAがアニオン性を有していることを利用して、アニオン性のDNAと、カチオン性のポリカチオン化合物とを静電的に反応させることでDNA/ポリカチオン複合体を得ることができる。このようにして複合体となることで、DNAは実質的に水に溶解しなくなる。また、有機溶剤に対する溶解性も低くなる。
【0040】
DNAをアニオンとして用いた複合体は、DNAと、プロタミン、プロタミン誘導体及びプロタミン加水分解物の少なくとも1種を、水性媒体中で反応させることにより調製することができる。例えば、DNAの水溶液を、攪拌しているプロタミン水溶液に添加して混合することによりこれらを反応させることができる。
【0041】
DNAと、プロタミン、プロタミン誘導体及びプロタミン加水分解物の少なくとも1種の配合比は、この複合体の用途に応じて選択することができる。例えば、1/9から9/1、好ましくは1/1から1/1.5(重量比)の範囲から選択することができる。
【0042】
DNAと、プロタミン、プロタミン誘導体及びプロタミン加水分解物の少なくとも1種を水性媒体中で反応させることにより複合体の沈殿を生じる。この沈殿を水あるいは各種の緩衝液で洗浄し、必要に応じて、更に水洗し、余分な水分を遠心分離などで除去してから、乾燥することで複合体の乾燥物を得ることができる。乾燥は、常温乾燥法、加熱乾燥法、凍結乾燥法、減圧乾燥法など目的に応じた乾燥方法を適宜選択して行うことができる。
【0043】
沈殿の洗浄用の緩衝液としては、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液、HEPES緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、グリシン緩衝液、バルビツール酸緩衝液、フタル酸緩衝液、カコジル酸緩衝液、炭酸緩衝液、Bis−トリス緩衝液、Bis−トリスープロパン緩衝液、MES緩衝液、ADA緩衝液、PIPES緩衝液、ACES緩衝液、コラミンクロリド緩衝液、BES緩衝液、MOPS緩衝液、TES緩衝液、HEPPS緩衝液、Tricine緩衝液、グリシンアミド緩衝液、Bicine緩衝液、TAPS緩衝液、CHES緩衝液、CAPS緩衝液、リン酸緩衝液などの中から選択することができる。緩衝液の濃度やpHも目的とするDNA/プロタミン複合体の性状や物性が得られるように自由に選択することができる。
【0044】
このようにして得られた複合体乾燥物を必要に応じて粉砕し、目的に応じてペースト状、ゲル状、糊状、紐状、棒状、球状、ディスク状、フィルム状など様々な形態に成型して利用することができる。この複合体では、DNAの二重らせん構造が破壊されずにほぼ完全に残されているので、この複合体を用いることでDNAの機能を安定して効率良く利用することが可能となる。
【0045】
DNAをアニオンとして用いた複合体は、これに例えば適量の水を加えて乳鉢で錬和することにより、その錬和する時間に応じてペースト状、ゲル状、さらに粘着性を示す糊状などの容易に成型可能な状態とすることができる。
【0046】
さらに、DNAをアニオンとして用いた複合体のペースト状物を、シリンジを用いてリン酸緩衝液中に押し出すことにより、紐状の成型物が得られる。また、目的に応じたモールドに充填することによって、容易に棒状、あるいは球状、ディスク状などの各種の形状の成型物を得ることができる。
【0047】
DNAをアニオンとして用いた複合体のフィルム状成型物は、この複合体の乾燥粉末、あるいはペースト状、棒状、球状、ディスク状成型物を、加熱成型機を用いて加圧することにより得ることができる。さらには、上記プロタミン/DNA複合体成型物を、乳鉢で薄く延ばしてやることによっても、容易に透明のフィルムを成型することができる。
【0048】
上記の加熱成型機を用いたフィルムの作成時の温度は、フィルム成形用材料に応じて種々設定可能であるが、好ましくは室温(例えば、15℃〜25℃)〜120℃の範囲から選択するができる。また、フィルム成形時のプレス圧は、2〜20MPaの範囲から選択することができる。加圧時間は、所望の物性のフィルムが得られる程度でよく、上記の温度およびプレス圧であれば、例えば1〜10分間でフィルム化を完了することができる。好ましくは、5〜10分間プレスすることにより、丈夫で破れにくいフィルムを作製可能である。フィルムの厚さは、プレス時の温度、圧、加圧時間により調節することが可能であり、本方法によれば、1〜100μm程度の膜厚の透明な複合体フィルムを得ることもできる。
【0049】
本発明にかかる歯科用材料は、喪失された歯周組織の再生を図る組織再生誘導(GTR)法において、GTR膜として利用することができる。中でも、DNAをアニオンとして用いた複合体を含む歯科用材料は、生体親和性(適合性)に優れ、GTR膜の構成成分として特に好ましい。GTR膜は、欠損部位において先行増殖をする上皮組織から遮蔽して、歯槽骨、歯根膜、セメント質などの再生を図るための環境形成材料である。このメンブレンは、一定期間、生体中に留置されるので、生体親和性の高い素材で形成されていることが好ましく、さらには歯周病菌などに対する抗菌性を有していることがさらに好ましい。こうしたメンブレンとしては、コラーゲンあるいはポリ乳酸を基材とした吸収性のメンブレンとフッ素樹脂を使用した非吸収性メンブレンが使用されている。本発明にかかるDNAをアニオンとして用いた複合体のフィルム状、あるいはゲル状、糊状賦形物から成るGTR膜は、生体親和性が高く、従来のメンブレンよりも長期間にわたって安定に使用することができる。また、本発明の歯科用の材料を用いて製造されたGTRメンブレンを使用すれば、再生期間を従来の吸収性メンブレンを用いた場合よりも長く設定することができる。
【0050】
更に、本発明にかかる歯科用材料は、例えばペースト状あるいはゲル状、糊状の賦形物を形成することによって、義歯などへの抗菌性塗布剤、あるいは洗浄剤として利用することができる。中でも、DNAをアニオンとして用いた複合体は生体内での安定性に優れるため、従来の義歯剤塗布よりも長期間にわたって歯周病菌などに対する抗菌効果を発揮することができる。
【0051】
DNAをアニオンとして用いた複合体では、DNAの有するアニオン性基であるリン酸基の一部と、プロタミンの有するカチオン性基とが静電的に結合して所望の賦形性を発現させているが、DNA分子中にはプロタミンに結合していない多数のリン酸基が残存している。このDNA中のリン酸基を活用して、骨形成因子または成長因子と静電的に結合させて、これらサイトカインや抗生物質などのキャリアーとして使用することもできる。また、DNAの二重螺旋構造によるインターカレーションやグルーブバインディングを利用して、薬剤のキャリアーとすることもできる。
【0052】
骨形成因子及び成長因子としては、DNAをアニオンとして用いた複合体に担持可能であれば特に制限なく利用できる。例えば、骨形成因子としては骨形成タンパク質(BMP)、組換えヒト骨形成タンパク質(rhBMP)を、成長因子としては線維芽細胞増殖因子(FGF)、形質転換増殖因子ベータ(TGF―β)、上皮増殖因子(EGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、神経栄養因子(NGF)などを挙げることができ、これらの少なくとも1種を用いることができる。
【0053】
また、DNAをアニオンとして用いた複合体を、粉末状または顆粒状のリン酸カルシウムと、練り込みなどの方法により混合することにより、賦形性を有する混和物を得ることができる。この混和物の形成においては、必要に応じて適量の水分またはリン酸緩衝液を追加して賦形性のあるペースト状とすることができる。この混和物の形成によってリン酸カルシウムの顆粒や粉末に賦形性を持たせることが出来る。即ち、DNAをアニオンとして用いた複合体とリン酸カルシウム顆粒また粉末の練和物は、モールドに充填することで自由な形に成形可能で、またシリンジに充填して押し出すことで、複雑な形状の骨欠損部にも充填することが可能である。また、ペースト状の混和物を所望の形状とした後に乾燥処理をして、混和物の所望の形状を固定することもできる。この混和物は、歯周組織再生療法における歯周組織(具体的には歯槽骨、歯根膜、セメント質)の再生誘導剤もしくは再生促進剤、あるいは骨欠損部における骨形成の誘導もしくは促進を目的とした骨補填材としての応用が可能であるが、これらの用途に限定されるものではない。
【0054】
リン酸カルシウムとしては、ハイドロキシアパタイト(HA)、リン酸三カルシウム(α―TCP,β―TCP)、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)、リン酸八カルシウム(OCP)、リン酸四カルシウム(TeCP)、炭酸アパタイト(CAP)などを挙げることができ、これらの少なくとも1種を用いることができる。
【0055】
また、DNAをアニオンとして用いた複合体は、上記の歯科用材料としてだけではなく、フィルム、ライニング材、コーティング材に形成し、これを再生医療用の足場材(スキャフォールド材)、創傷被覆材料、あるいは感染防止膜や癒着防止膜として用いることにより、移植した際の生体親和性を向上させたり、あるいは生体の異物に対する生体反応を抑制するようにしたことを特徴とする医療用材料としての利用も可能である。
【実施例】
【0056】
次に実施例を示して本発明を実施するための最良の形態について、詳細に記載するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
〔実施例1〕
(プロタミン塩酸塩、及びその加水分解物の歯周病菌に対する抗菌活性)
(a)試料
シロサケ(オンコリンカス ケタ)の白子由来のプロタミン塩酸塩(プロザーブ;(株)マルハニチロ食品製)、上記プロタミン塩酸塩のブロメライン((株)天野エンザイム製)による加水分解物(HAP100;(株)マルハニチロ食品製)、同じくプロタミン塩酸塩のサモアーゼ((株)天野エンザイム製)による加水分解物(サモアーゼ分解物)を試料として用いた。尚、サモアーゼ分解物は、上記プロザーブ((株)マルハニチロ食品製)50gに脱イオン水80mLを加え、水酸化ナトリウムを加えてpH8.0に調製した後、65℃に加温してサモアーゼ((株)天野エンザイム製)0.4gを添加して2時間攪拌しながら酵素反応を行い、反応終了後に反応液を95℃に加温して30分間加熱失活させpH8.5に調整した後、反応液を凍結乾燥して調製した。このとき、サモアーゼ分解物の重量平均分子量(Mw)は3,587Daであった。
(b)抗菌活性の判定方法
精製水を用いて試料の2倍(w/v)希釈系列溶液を調製し、次に、滅菌・溶解後50±1℃に保ったPEAカブルセラHK寒天培地(極東製薬工業(株)製)に各希釈系列溶液をそれぞれ1/9量加えて十分に混合後、シャーレに分注、固化させて感受性測定用平板とした。次に、ポルフィロモナス ジンジバリスJCM8525を増菌用培地で37±1℃、5〜7日間嫌気培養後、GAMブイヨン培地(日水製薬(株)製)を用いて、菌数が約106cfu (colony forming unit)/mLとなるように調整し、接種用菌液とした。
上記の感受性測定用平板に接種用菌液を樹脂製ループ(内径約1mm)を用いて2cm程度画線塗抹し、37±1℃、5〜7日間嫌気培養した。所定時間培養後、菌の発育が阻止された最低濃度をもって最小発育阻止濃度(MIC)とした。
(c)試験結果
MICの結果を表1に示す。その結果、プロタミンの加水分解物(ブロメライン分解物及びサモアーゼ分解物)のMICは1,250ppm、プロタミン(プロザーブ)は625ppmであり、プロザーブは分解物よりも高い効果を示した。
【0058】
【表1】
【0059】
〔実施例2〕(プロタミン/DNA複合体の抗菌性)
(a)試料
シロサケの白子由来のプロタミン硫酸塩(プロザーブ;(株)マルハニチロ食品製)の57%(w/v)水溶液と、同じくシロサケの白子由来のDNA(分子量分布の中心が300bp、(株)マルハニチロ食品製)の0.5%(w/v)水溶液を用いた。それぞれプロタミン硫酸塩とDNAの重量が1:1となるように、プロタミン硫酸塩水溶液0.875gを100mLの滅菌蒸留水で希釈し、DNA溶液100mLと混合して1時間攪拌した。遠心分離により沈殿物を回収した後、水洗して再度遠心分離して得られた沈殿物をプロタミン/DNA複合体(未乾燥品)として回収した。このプロタミン/DNA複合体(未乾燥品)を更に凍結乾燥し、プロタミン/DNA複合体0.61gを得た。尚、プロタミン/DNA複合体の回収率は、重量%で61%(w/w)であった。試料を粉砕し、水を適量添加した後にモールドに填入した。離型後に再度凍結乾燥し、直径約5mm、厚さ約1mmの円盤状の試料を作成した。
(b)抗菌性の評価方法
抗菌試験は、試験菌液を均一に塗抹した寒天等の培地に試料を静置し、細菌の発育阻止の有無を見る発育阻止帯形成試験で定性的に行った。抗菌性を評価した菌は、黄色ブドウ球菌(スタフィロコッカス アウレウス)、大腸菌(エシェリヒア コリ)、歯周病菌(ポルフィロモナス ジンジバリス、及びプレボテラ インターメディア)である。
(c)試験結果
試験結果を図1〜4に示す。黄色ブドウ球菌に対し、プロタミン/DNA複合体試料の周辺に菌の生育阻止円が観察された。また、大腸菌に対しても、試料周辺に阻止円が観察された。さらに、2種類の歯周病菌に対し、試料周辺に阻止円が観察された。
【0060】
〔実施例3〕(プロタミン/DNA複合体の細胞毒性試験)
(a)試料
実施例2(a)と同じ方法で調製したプロタミン/DNA複合体を用いた。粉砕した粉末を篩にかけて45〜100μmの粉末を回収し、試料とした。尚、試料は放射線滅菌(1.9sec、20KGy、Dynamitron、IBA)して用いた。
(b)細胞毒性の評価方法
細胞は、マウス由来繊維芽細胞L−929を使用した。10%ウシ胎児血清(イントロゲン(株)製)を含むα―MEM培地(Dulbecco's modified Eagle’s medium)にて1(104cell/mLの細胞浮遊液を作成し、6ウェルマルチプレートの各ウェルに2mLずつ分注した。37℃で24時間培養後、培養液を試料1、2、4mgを含むα―MEM培地2mLと交換し、さらに5日間培養した。5日間培養後、培養液を0.4mLのCellTiter 96(R) Aqueous MTS(プロメガ(株))を含む培地2mLと交換し、37℃で2時間培養した後、492nmの吸光度を測定して細胞生存率(試料未添加の対照群に対する比率)を求めた。尚、試験はn=5で行い、平均を取った。
(c)試験結果
細胞毒性試験の結果を表2に示す。0.5〜2.0mg/mLの濃度において細胞生存率は非常に高く、プロタミン/DNA複合体は細胞毒性を示さないことが確認された。
【0061】
【表2】
【0062】
〔実施例4〕(プロタミン/DNA複合体の生体親和性の評価)
(a)試料
実施例2(a)と同じ方法で調製したプロタミン/DNA複合体を用いた。プロタミン/DNA複合体を内径5mm、厚さ0.5mmのテフロンモールドに入れ、両面をテフロン板で挟んで凍結乾燥し、直径約5mm、厚さ約1mmの円盤状の試料を作成した。試料は放射線滅菌(1.9sec、20KGy、Dynamitron、IBA)して用いた。
(b)生体適合性の評価方法
SPFラット(specific pathogen free rat、オス、6週齢)の背部皮下を切開し、試料を埋入した。一定期間(3、10日)の後、組織を採取しHE染色した(ヘマトキシリン エオジン染色)。
(c)試験結果
結果の組織図を図5、6に示す。埋入3日後、試料は周囲を肉芽組織に囲まれた状態で皮下組織に存在し、周囲の正常組織とは完全に分画されていた。埋入した試料は断片化され小片(塊)として存在し、小片周囲には僅かに好中球浸潤が確認されたが、これらの所見は試料埋入による極めて軽度の生体の急性炎症反応と考えられた。また、試料埋入に伴う感染などの惹起は確認されなかった。埋入10日後、皮下の埋入部は全て肉芽組織に置換された。多核巨細胞の貪食反応による埋入試料の断片化が進み、組織学的には典型的な異物肉芽腫の像を呈していた。肉芽組織は線維化が進んでおり、将来的には埋入材料が消失し、完全な器質化(線維性結合組織への置換)により反応が終了することが推測された。埋入3、10日後の組織学的観察において、使用したプロタミン/DNA複合体の生体に対する親和性は、極めて良好であることが示唆された。
【0063】
〔実施例5〕(プロタミン/DNA/炭酸アパタイト複合体の骨芽細胞増殖足場材としての評価)
(a)試料
実施例2(a)と同じ方法で調製したプロタミン/DNA複合体(未乾燥品)に対し、重量ベースで60%の炭酸アパタイトと適量の水を加えて混和し、テフロンモールドを用いて内径5mm、厚さ1mmの円盤状の試料を作成した。
(b)評価方法
試料をα―MEM培地に浸し、MC3T3‐E1細胞を播種した。6時間培養した後、試料を取り出し、PBSバッファーで試料表面を洗浄した。その後、試料に接着した細胞をアクチン染色した。
(c)試験結果
蛍光染色した細胞の画像を図7に示す。細胞がプロタミン/DNA/炭酸アパタイト複合体表面に接着している様子が観察され、当該複合体が骨芽細胞増殖の足場となることが確認された。
【0064】
〔実施例6〕(プロタミン/DNA/炭酸アパタイト複合体のラット頭骸骨欠損部への埋入試験)
(a)試料
実施例2(a)と同じ方法で調製したプロタミン/DNA複合体(未乾燥品)に対し、重量ベースで60%の炭酸アパタイトを加え、適量の水とともに混和した後、テフロンモールドを用いて内径5mm、厚さ1mmの円盤状の試料を作成した。
(b)評価方法
SPラット(specific pathogen free rat、オス、6週齢)の頭骸骨にトレフィンバー(直径5mm)にて骨欠損を形成した。試料を埋入し、埋入1ヶ月後、1.5ヶ月後および2ヶ月後にラットを屠殺して、それぞれX線CT装置(ScanXmate‐RB090SS150、コムスキャンテクノ社製)を用いて頭骸骨欠損部の断層画像を撮影し、骨形成過程の進行の有無を確認した。
(c)試験結果
試料埋入1ヵ月後、矢状方向および冠状方向のCTスキャン画像で不透画像が認められ、骨様組織が形成されていた(図8(A)及び(B))。試料埋入1.5ヵ月後、矢状方向の画像では1ヵ月後と差は認められなかった(図9(A))が、冠状方向の画像からは1ヵ月後よりも骨様組織の形成が進行している様子が観察された(図9(B))。試料埋入2ヵ月後、矢状方向の画像で試料埋入周辺部から中心部へ向って骨様組織の形成が認められ(図10(A))、冠状方向の画像でも1.5ヵ月後よりもさらに骨様組織が形成されている様子が観察された(図10(B))。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロタミン、又はその誘導体、加水分解物のうち少なくとも1種を有効成分として含み、歯周病原菌に対して生育阻害作用を示す抗歯周病菌剤。
【請求項2】
プロタミン、又はその誘導体、加水分解物のうちの少なくとも1種の有効成分と、アニオン性高分子とが静電的に結合した複合体を含み、水に不溶で且つ賦形性を有し、歯周病原菌に対して生育阻害作用を示すことを特徴とする抗歯周病菌剤。
【請求項3】
前記有効成分が、ポルフィロモナス ジンジバリス及びプレボテラ インターメディアに対して生育阻害作用を示す請求項1または2に記載の抗歯周病菌剤。
【請求項4】
プロタミン、又はその誘導体、加水分解物のうちの少なくとも1種の有効成分と、アニオン性高分子とが静電的に結合した複合体を含み、水に不溶で且つ賦形性を有すことを特徴とする医療用または歯科用材料。
【請求項5】
前記アニオン性高分子がDNAであり、生体適合性を有し、該DNAに薬効成分をインターカレート及び/又はグルーブバインディングにより取り込み可能である請求項4に記載の医療用または歯科用材料。
【請求項6】
前記アニオン性高分子がDNAであり、さらにリン酸カルシウムを含む請求項4に記載の医療用または歯科用材料。
【請求項7】
骨欠損部または歯槽骨欠損部への充填を可能とする賦形性を有する請求項6に記載の医療用または歯科用材料。
【請求項8】
骨形成因子または成長因子を担持させた請求項6または7に記載の医療用または歯科用材料。
【請求項9】
DNAに、薬効成分が取り込まれている請求項4から8のいずれかに記載の医療用または歯科用材料。
【請求項10】
前記有効成分が、ポルフィロモナス ジンジバリス及びプレボテラ インターメディアに対して生育阻害作用を示す請求項4〜9のいずれかに記載の医療用または歯科用材料。
【請求項1】
プロタミン、又はその誘導体、加水分解物のうち少なくとも1種を有効成分として含み、歯周病原菌に対して生育阻害作用を示す抗歯周病菌剤。
【請求項2】
プロタミン、又はその誘導体、加水分解物のうちの少なくとも1種の有効成分と、アニオン性高分子とが静電的に結合した複合体を含み、水に不溶で且つ賦形性を有し、歯周病原菌に対して生育阻害作用を示すことを特徴とする抗歯周病菌剤。
【請求項3】
前記有効成分が、ポルフィロモナス ジンジバリス及びプレボテラ インターメディアに対して生育阻害作用を示す請求項1または2に記載の抗歯周病菌剤。
【請求項4】
プロタミン、又はその誘導体、加水分解物のうちの少なくとも1種の有効成分と、アニオン性高分子とが静電的に結合した複合体を含み、水に不溶で且つ賦形性を有すことを特徴とする医療用または歯科用材料。
【請求項5】
前記アニオン性高分子がDNAであり、生体適合性を有し、該DNAに薬効成分をインターカレート及び/又はグルーブバインディングにより取り込み可能である請求項4に記載の医療用または歯科用材料。
【請求項6】
前記アニオン性高分子がDNAであり、さらにリン酸カルシウムを含む請求項4に記載の医療用または歯科用材料。
【請求項7】
骨欠損部または歯槽骨欠損部への充填を可能とする賦形性を有する請求項6に記載の医療用または歯科用材料。
【請求項8】
骨形成因子または成長因子を担持させた請求項6または7に記載の医療用または歯科用材料。
【請求項9】
DNAに、薬効成分が取り込まれている請求項4から8のいずれかに記載の医療用または歯科用材料。
【請求項10】
前記有効成分が、ポルフィロモナス ジンジバリス及びプレボテラ インターメディアに対して生育阻害作用を示す請求項4〜9のいずれかに記載の医療用または歯科用材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−163421(P2010−163421A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208631(P2009−208631)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504131378)
【出願人】(000233620)株式会社マルハニチロ食品 (34)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504131378)
【出願人】(000233620)株式会社マルハニチロ食品 (34)
【Fターム(参考)】
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