説明

抗炎症剤

【課題】柑橘類果実を有効利用した優れた抗炎症剤および炎症の予防・改善用食品を提供すること。
【解決手段】柑橘類果実を破砕する工程、該破砕物を水処理する工程、水層を除去する工程を含む方法により得られる水不溶物を含有する、抗炎症剤および炎症の予防・改善用食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘類果実より得られる抗炎症剤およびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は柑橘類果実を水処理して得られる水不溶物を含有する抗炎症剤および炎症の予防・改善用食品、ならびにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
柑橘類は古来より生薬の原料として多岐にわたり用いられてきた。例えば、柑橘類果実に多く含有されるヘスペリジン、ノビレチンは抗炎症効果を有することが知られており(非特許文献1)、柑橘類果実からヘスペリジンを抽出する方法などがすでに報告されている(特許文献1)。しかしながら、この方法はエタノールなどのアルコールを用いて柑橘類果実から有効成分を抽出したものであり、水処理によって得られる柑橘類果実の水不溶物については何ら記載されていない。
【0003】
また、柑橘類の搾汁残渣を水で洗浄し、急速冷凍し、その後解凍して乾燥させ粉末にする、未熟柑橘類の粉末の製造方法も報告されているが(特許文献2)、水処理によって得られる柑橘類の水不溶性の成分が炎症に有効であることについては、今まで知られていなかった。
【0004】
【特許文献1】特開平8−188593号公報
【特許文献2】特開2005−229836号公報
【非特許文献1】Current Medicinal Chemistry, Volume 8, Number 2, 2001, pp. 135-153
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、柑橘類果実を、有効利用した優れた抗炎症剤および炎症の予防・改善用食品を提供することである。また、本発明のさらなる課題は、前記抗炎症剤または炎症に有効な食品を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み、柑橘類果実、特に温州ミカン(Citrus unshiu)またはシークワサー(Citrus depressa)の果実から得た水不溶物の生理活性に注目し、その抗炎症効果について鋭意研究を重ね、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は下記の通りである。
(1)柑橘類果実の水不溶物を含有する抗炎症剤。
(2)柑橘類果実のアルコール可溶性の水不溶物を含有する抗炎症剤。
(3)水不溶物が、柑橘類果実を破砕する工程、該破砕物を水処理する工程、水層を除去する工程を含む方法により得られるものである、(1)または(2)に記載の抗炎症剤。
(4)該破砕物1重量部に対して1〜10重量部の水で水処理する、(3)に記載の抗炎症剤。
(5)水処理の温度が0〜85℃、時間が5分〜48時間である(3)または(4)記載の抗炎症剤。
(6)アルコールで抽出する工程を含む(3)〜(5)のいずれか1項に記載の抗炎症剤。
(7)アルコールがメタノールまたはエタノールである(6)記載の抗炎症剤。
(8)柑橘類が、温州ミカン(Citrus unshiu)またはシークワサー(Citrus depressa)である、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の抗炎症剤。
(9)柑橘類果実が、直径1〜4cmの柑橘類果実である、(8)に記載の抗炎症剤。
(10)柑橘類果実の水不溶物を含有する抗炎症剤の製造方法であって、柑橘類果実を破砕する工程、該破砕物を水処理する工程、水層を除去し水不溶物を得る工程を含む製造方法。
(11)破砕物1重量部に対して1〜10重量部の水で水処理する、(10)記載の製造方法。
(12)水処理の温度が0〜85℃、時間が5分〜48時間である(10)または(11)記載の製造方法。
(13)さらにアルコールで抽出する工程を含む(10)〜(12)のいずれか1項に記載の製造方法。
(14)アルコールがメタノールまたはエタノールである(13)記載の製造方法。
(15)柑橘類果実の水不溶物を含有する、炎症の予防・改善作用を有するものであることを特徴とし、炎症の予防・改善のために用いられる旨の表示を付した食品。
(16)柑橘類果実のアルコール可溶性の水不溶物を含有する、炎症の予防・改善作用を有するものであることを特徴とし、炎症の予防・改善のために用いられる旨の表示を付した食品。
(17)水不溶物が、柑橘類果実を破砕する工程、該破砕物を水処理する工程、水層を除去する工程を含む方法により得られるものである、(15)または(16)に記載の食品。
(18)破砕物1重量部に対して1〜10重量部の水で水処理する、(17)に記載の食品。
(19)水処理の温度が0〜85℃、時間が5分〜48時間である(17)または(18)に記載の食品。
(20)アルコールで抽出する工程を含む(17)〜(19)のいずれか1項に記載の食品。
(21)アルコールがメタノールまたはエタノールである(20)に記載の食品。
(22)柑橘類が、温州ミカン(Citrus unshiu)またはシークワサー(Citrus depressa)である、(15)〜(21)のいずれか1項に記載の食品。
(23)柑橘類果実が、直径1〜4cmの柑橘類果実である、(22)に記載の食品。
(24)柑橘類果実の水不溶物を含有する炎症の予防・改善用食品の製造方法であって、柑橘類果実を破砕する工程、該破砕物を水処理する工程、水層を除去し水不溶物を得る工程を含む製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の、柑橘類果実の水不溶物を含む抗炎症剤は、柑橘類果実のアルコール抽出物を含むものよりはるかに優れた抗炎症効果を有する。さらに、本発明の抗炎症剤は、柑橘類という天然物由来であるため副作用もなく、従来の薬物療法などは適用できなかった患者にも安全に使用することができる。また、その製造方法も水を用いた水処理によるものであるため、煩雑な工程も経る必要がなく、環境的にもコスト的にも有意である。したがって、本発明の抗炎症剤、炎症の予防・改善用食品およびそれらの製造方法は、炎症治療を向上・改善させる上で極めて有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明における抗炎症剤は、柑橘類果実の水不溶物を有効成分とする。本発明における水不溶物とは、柑橘類果実の破砕物を水抽出した際の残渣で、乾燥重量の約75%を占めるものである。通常は、少なくとも破砕物の重量の3倍量の、4℃以上の水で10分以上水に浸漬または振とうした場合に水に溶けないものをいう。
【0011】
本発明における抗炎症剤は、柑橘類果実のアルコール可溶性の水不溶物を有効成分とする。アルコール可溶性とは、室温で、10倍量アルコールで最低1時間の振とうによる抽出を5回行った際抽出されるもので、乾燥重量の約50%を占めるものであり、アルコール可溶性の水不溶物とは、アルコール可溶性物をさらに水抽出した際の残渣または上記水不溶物をアルコール抽出したもので、アルコール可溶性物乾燥重量の約50%を占めるものである。
【0012】
本発明における水不溶物は、柑橘類果実を水処理して、その水を除去した残渣を意味する。具体的には、柑橘類果実を破砕する工程、該破砕物を水処理する工程、水層を除去する工程を含む方法により得られるものである。
【0013】
本発明において、柑橘類果実を破砕する工程とは、柑橘類果実を採取後、外力を加えて、原料よりも小さな固体を大量に作り出す工程である。柑橘類果実は、0.1mm〜30mmに砕くのが抽出の効率が良くなる観点から好ましく、さらに好ましくは1mm〜10mmである。破砕する方法としては、特に限定されないが、例えば、フードプロセッサー、ミキサーなどの機器を用いて行う。
【0014】
本発明において、該破砕物を水処理する工程とは、該破砕物から水可溶性成分を除去するために水を加えて水可溶性成分を水層に抽出する工程である。通常、上記破砕物を水に浸漬させ、好ましくは振とう下に放置することによって行われる。
【0015】
水処理する工程において加える水の量は、高い抗炎症活性が得られ、作業効率が優れている点で、通常該破砕物1重量部に対して水1〜10重量部であり、好ましくは2〜5重量部であり、さらに好ましくは3〜5重量部である。
【0016】
水処理の温度は、高い抗炎症活性が得られ、作業効率が優れている点で通常は0〜85℃であり、好ましくは0〜65℃であり、より好ましくは0〜30℃である。
【0017】
水処理の時間は、高い抗炎症活性が得られ、作業効率が優れている点で通常5分〜48時間であり、好ましくは10分〜12時間であり、さらに好ましくは1〜3時間である。
【0018】
本発明において水層を除去する工程とは、上記水処理した破砕物を含む混合物から、水層を分離して水可溶物を除去する工程である。水層は、水および水可溶性成分を含む。除去の方法としては、ろ過、遠心分離などが挙げられるが、これに限定されない。
除去は、数回行うのが好ましい。すなわち完全に水溶性成分を除去するためには、水処理の工程および除去の工程を2〜5回繰り返すことが好ましい。
【0019】
本発明においては、上記の工程にアルコールで抽出する工程をさらに含んでいてもよい。アルコールで抽出する工程は、上述した柑橘類果実の破砕工程の後であればいずれで行ってもよい。
具体的には、柑橘類果実の破砕物1重量部に対して1〜20重量部のアルコールで抽出して濃縮乾固したものを水処理および水層を除去して水不溶物を得る、または上述の3工程で得られた水不溶物1重量部に対して1〜20重量部のアルコールで抽出して濃縮乾固させて水不溶物を得ることができる。
このようにアルコールで抽出する工程を加えることで有効成分の濃縮効果が得られる。
【0020】
アルコールは、抽出効率、価格および安全性の点でメタノール、エタノールが好ましい。より好ましくは、メタノールが挙げられる。
【0021】
本発明で用いる柑橘類は特に限定されないが、高い抗炎症効果が得られるという点で、温州ミカン(Citrus unshiu)、シークワサー(Citrus depressa)、じゃばら(Citrus jabara)、ゆず(Citrus junos)、はっさく(Citrus hassaku)、いよかん(Citrus iyo)、すだち(Citrus sudachi)、れもん(Citrus limon)が好ましく、温州ミカンおよびシークワサーがより好ましい。
【0022】
本発明において、柑橘類は、未熟な柑橘類果実が好ましい。未熟な柑橘類果実とは、果実の生長過程において、果皮が黄変する前の段階の十分に熟していない果実のことであり、温州ミカンの場合は、直径1cm〜4cmのものが高い抗アレルギー活性が得られるという点で好ましい。より好ましくは2cm〜3cmである。柑橘類は、生のものでも冷凍したものでもよくこれに限定されない。
【0023】
本発明における抗炎症剤は、マクロファージにおいて細菌内毒素(エンドトキシン)や炎症性サイトカインなどの炎症性刺激により産生される活性酸素、一酸化窒素(NO)の生産を抑制する。炎症時に産生される過剰な活性酸素、NOは、炎症、関節炎、リウマチ性関節炎、炎症性腸疾患、がん等の種々の疾病を引き起こすことが明らかになっている。本発明の抗炎症剤は、炎症性疾患の予防および/または治療にも有用である。炎症性疾患としては、関節炎、リウマチ性関節炎、炎症性腸疾患等が挙げられる。
【0024】
本発明における抗炎症剤の投与対象としては炎症を有する個体(例えば、ヒトをはじめウシ、ウマ、イヌ、マウス、ラット等の哺乳動物)、炎症を有する可能性のある個体などが挙げられる。
【0025】
本発明における抗炎症剤は、上記のようにして得られた水不溶物またはアルコール可溶性水不溶物を、そのままで、もしくは乾燥させた粉末状で含有する。本発明の抗炎症剤の投与方法は、経口投与、または経直腸投与(坐薬)、注射投与(経静脈投与)等の非経口投与でも良く、特に限定しないが、有効成分が柑橘類果実由来であることから経口投与であることが好ましい。
【0026】
本発明における抗炎症剤を経口投与する場合の有効成分である水不溶物の投与量は、投与する患者の性別、症状、年齢、投与方法によって異なるが、通常、成人(体重60kg)1日あたりの投与量が全量で、0.2g〜30gである。好ましくは成人1日あたりの投与量が全量で、1〜3gである。上記1日あたりの量を一度にもしくは数回に分けて投与することができる。食前、食後、食間を問わない。また投与期間は特に限定されない。なおアルコール抽出工程を含む方法で調製された水不溶物の場合、上記の投与量の2〜3分の1程度を投与することができる。
【0027】
一方、注射投与(経静脈投与)、経直腸投与(坐薬)または点眼等、非経口投与することも可能であり、その場合の投与量については、前記経口投与についての好ましい投与量範囲の10〜20分の1程度を投与することができる。
【0028】
本発明における抗炎症剤の経口投与剤としては、顆粒剤、細粒剤、錠剤、散剤、カプセル剤、チュアブル剤、液剤、懸濁剤など、また注射剤としては静脈直接注入用、点滴投与用などの医薬製剤一般の剤型を採用することができる。これらは、常法により製剤化することができ、製剤上の必要に応じて、例えば、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、でんぷん、結晶セルロース、炭酸カルシウム、カオリン、ゼラチン等の担体や、溶剤、溶解補助剤、等張化剤等の通常の添加剤を適宜配合することができる。
【0029】
本発明における抗炎症剤中の水不溶物の含有量は、通常1〜95重量%であり、好ましくは5〜90重量%である。なおアルコール抽出工程を含む方法で調製された水不溶物の場合、通常1〜95重量%であり、好ましくは5〜90重量%である。
【0030】
本発明においては、抗炎症剤の製造方法を提供する。該製造方法は、柑橘類果実を破砕する工程、該破砕物を水処理する工程、その水層を除去し水不溶物を得る工程を含む。詳細は上述した通りであり、同様にアルコールで抽出する工程を含んでもよい。
【0031】
本発明においては、柑橘類果実の水不溶物を含有する、炎症の予防・改善作用を有するものであることを特徴とし、炎症の予防・改善のために用いられる旨の表示を付した食品を提供する。
【0032】
本発明における食品は、本発明の水不溶物を含む一般的な食品形態であれば如何なるものでも良い。例えば、適当な風味を加えてドリンク剤、例えば清涼飲料、粉末飲料とすることもできる。具体的には、ジュース、牛乳、菓子、ゼリー等に混ぜて飲食することができる。また、このような食品を保健機能食品として提供することも可能であり、この保健機能食品には、炎症の予防・改善などの本発明の用途に用いるものであるという表示を付した飲食品、特に保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品なども含まれる。
【0033】
さらに、本発明の食品を濃厚流動食や、食品補助剤として利用することも可能である。食品補助剤として使用する場合、例えば錠剤、カプセル、散剤、顆粒、懸濁剤、チュアブル剤、シロップ剤等の形態に調製することができる。本発明における食品補助剤とは、食品として摂取されるもの以外に栄養を補助する目的で摂取されるものをいい、栄養補助剤、サプリメントなどもこれに含まれる。
【0034】
本発明における食品を摂取する場合、成人(体重60kg)1日当たりの水不溶物の摂取量は、通常0.2g〜30g程度、好ましくは1g〜3g程度、より好ましくは2g〜3g程度である。なおアルコール抽出工程を含む方法で調製された水不溶物の場合、上記の投与量の2〜3分の1程度を摂取することができる。
【0035】
本発明における食品中の水不溶物の含有量は、通常1〜95重量%であり、好ましくは5〜90重量%である。なおアルコール抽出工程を含む方法で調製された水不溶物の場合、通常1〜95重量%であり、好ましくは5〜90重量%である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、実施例は本発明の説明のために記載するものであり、本発明を限定するものではない。
【0037】
以下に説明するサンプルを次のとおり調製した。
【0038】
水抽出沈殿のメタノール再抽出(実施例1)
凍結保存していた未熟温州みかん(本実験では、直径:25mm〜27mmのものを使用)10個の表面を水で洗浄し、フードプロセッサーで破砕した。破砕物を50ml遠心チューブに各10gずつ取り分け、水30mlを加え懸濁し、40℃の温浴で1時間振とうすることにより抽出を行った。
抽出後、3,000rpmで20分間遠心分離した。
沈殿(残渣)にメタノール100mlを加え懸濁し、室温で一晩振とうすることにより抽出を行った。翌日、3,000rpmで20分間遠心分離し、上清を別チューブに移した。上清を採取した沈殿に再びメタノール100mlを加え懸濁し、室温で2時間振とう後、3,000rpmで20分間遠心分離し、上清を採取するという操作を4回繰り返し行った。計5回の抽出により得られた上清を合わせ、濃縮乾固した。得られた乾固物をジメチルスルホキシド(DMSO)で50mg/mlになるように溶解し、水抽出沈殿メタノール再抽出サンプルを得た(実施例1)。
比較例として、上記の水30mlを加える代わりに、水を加えずに他は実施例1と同様にしてサンプルを得た(比較例1)。
【0039】
水抽出沈殿のメタノール再抽出(実施例2)
凍結保存していた未熟温州みかん(平均直径28mm)5個の表面を水で洗浄し、フードプロセッサーで破砕した。破砕物を50ml遠心チューブに各1gずつ取り分け、次の条件で水5mlを加え懸濁し、室温で3時間振とうすることにより抽出を行った。抽出後、3,000rpmで20分間遠心分離した。別チューブに移した上清は処分した。
沈殿(残渣)にメタノール20mlを加え懸濁し、室温で一晩振とうすることにより抽出を行った。翌日、3,000rpmで20分間遠心分離し、上清を別チューブに移した。上清を採取した沈殿に再びメタノール20mlを加え懸濁し、室温で1時間振とう後、3,000rpmで20分間遠心分離し、上清を採取するという操作を4回繰り返し行った。計5回の抽出により得られた上清を合わせ、濃縮乾固した。得られた乾固物をDMSOで50mg/mlになるように溶解し、水抽出沈殿メタノール再抽出サンプルを得た(実施例2)。
比較例として、上記の水5mlを加える代わりに、水を加えずに他は実施例2と同様にしてサンプルを得た(比較例2)。
【0040】
(試験例1)マウスマクロファージ様細胞株(RAW264.7細胞)を用いたリポ多糖体 (Lipopolysaccharide:LPS)誘導性一酸化窒素(NO:nitric oxide)産生の定量
上記実施例および比較例の抗炎症作用を測定するにあたり、マウスマクロファージ様細胞株(RAW264.7細胞)を用いて、LPSの刺激で誘発、発現される誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS:inducible nitric oxide synthase )によって産生されるNOをグリース法により亜硝酸の形で定量した。亜硝酸量を指標に抗炎症作用を評価した。
【0041】
RAW264.7細胞をRPMI-1640培地(10%ウシ胎児血清、1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含む)中に、2×105 細胞/mlの濃度で懸濁した。48穴培養プレートに0.2 mlずつ播種し、37 ℃、5% CO2下で一晩培養した。翌日、培地を取り除き、別掲データで示す終濃度になるように希釈したサンプル入り培地に交換し、37℃、5% CO2下で30分間培養し、前処理を行った。なお、コントロールは、1% DMSOを含む培地に交換した。
【0042】
30分後、培地で希釈したLPSを10μl(終濃度0 .1 μg/ml)加え、37 ℃、5% CO2下で30分間培養した。なお、陰性コントロールには培地を10μl/穴加えた。翌日、96穴培養プレートにサンプル別培養上清を各100μlずつ移した。また、亜硝酸量を定量するための濃度既知スタンダードとして、100 mM亜硝酸を培地で希釈し、12.5μM、25μM、50μM溶液を調製し、同じように96穴培養プレートに各100μlずつ移した。
【0043】
ここに1% スルファニルアミド、4.25% リン酸混合液を50μl/穴加えた。5分後、0.1% ナフチルエチレンジアミン水溶液を50μl/穴加えた。10分後、マイクロプレートリーダーで540 nmの吸光度を測定した。コントロール(DMSOで前処理、LPS刺激あり)測定値から陰性コントロール(DMSOで前処理、LPS刺激なし)の測定値を引いた値を100%とし、各サンプルで処理した細胞の活性を調べた。
【0044】
結果を図1に示す。実施例1は、コントロールに対して有意に一酸化窒素(NO:nitric oxide)産生を抑制した。また比較例1と比べてその抑制効果が優れていることが認められた。
【0045】
(試験例2)抗酸化能(ORAC-FL法)
実施例2の抗酸化能を評価するにあたり、ORAC-FL法を用いてビタミンE様物質troloxをスタンダードとし、ラジカルによる蛍光退色の防止作用を指標に抗酸化能を評価した。
【0046】
実施例2および比較例2のサンプルをDMSOで希釈し、500μg/ml溶液を調製した。同溶液を75 mMリン酸カリウムバッファー(pH7.4)で終濃度500 ng/mlになるように希釈した。コントロールには、0.1%DMSOを含む上記バッファーを用いた。
【0047】
ラジカルによる酸化耐性を定量するための濃度既知スタンダードとして、ビタミンE様物質troloxを上記バッファーで希釈し、2.5μM、5μM、10μM溶液を調製した。96穴培養プレートに同trolox溶液及び希釈サンプルをそれぞれ50μl/穴加えた。ここに、上記バッファーで126 nMに調製したフルオレセイン溶液を100μl/穴加えた。なお、ブランクとしてバッファーのみ150μl/穴加えた。
【0048】
蛍光プレートリーダーで37 ℃、15分間プレインキュベーションを行い、この間、485 nmの波長で励起し、538 nmの波長で検出を行った。15分後、ラジカルとして、上記バッファーで51.2 mMに調製した。AAPH (2,2’-Azobis (2-amidinopropane) dihydrochloride)を50μlずつ全穴に加えた。再度、蛍光プレートリーダーにより、上記波長で37 ℃、70分間、経時的に測定を行った。スタンダード及びサンプルのそれぞれの測定値からブランクの測定値を引き、1gあたりのtrolox当量(trolox equivalent/g)に換算し、抗酸化能を評価した。
【0049】
結果は図2に示した。実施例2、比較例2は、抗酸化能を示した。また比較例2に比べて実施例2は有意に高い抗酸化能を示すことが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、水抽出上清サンプル及び水抽出残渣メタノール抽出サンプルの炎症に対する抑制効果を示す(終濃度125μg/ml)。縦軸は(%コントロール)を表わしている。
【図2】図2は、抗酸化能を示す。縦軸は1 gあたりのtrolox当量(trolox equivalent/g)を表わしている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘類果実の水不溶物を含有する抗炎症剤。
【請求項2】
柑橘類果実のアルコール可溶性の水不溶物を含有する抗炎症剤。
【請求項3】
水不溶物が、柑橘類果実を破砕する工程、該破砕物を水処理する工程、水層を除去する工程を含む方法により得られるものである、請求項1または2に記載の抗炎症剤。
【請求項4】
該破砕物1重量部に対して1〜10重量部の水で水処理する、請求項3に記載の抗炎症剤。
【請求項5】
水処理の温度が0〜85℃、時間が5分〜48時間である請求項3または4記載の抗炎症剤。
【請求項6】
アルコールで抽出する工程を含む請求項3〜5のいずれか1項に記載の抗炎症剤。
【請求項7】
アルコールがメタノールまたはエタノールである請求項6記載の抗炎症剤。
【請求項8】
柑橘類が、温州ミカン(Citrus unshiu)またはシークワサー(Citrus depressa)である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗炎症剤。
【請求項9】
柑橘類果実が、直径1〜4cmの柑橘類果実である、請求項8に記載の抗炎症剤。
【請求項10】
柑橘類果実の水不溶物を含有する抗炎症剤の製造方法であって、柑橘類果実を破砕する工程、該破砕物を水処理する工程、水層を除去し水不溶物を得る工程を含む製造方法。
【請求項11】
破砕物1重量部に対して1〜10重量部の水で水処理する、請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
水処理の温度が0〜85℃、時間が5分〜48時間である請求項10または11記載の製造方法。
【請求項13】
さらにアルコールで抽出する工程を含む請求項10〜12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
アルコールがメタノールまたはエタノールである請求項13記載の製造方法。
【請求項15】
柑橘類果実の水不溶物を含有する、炎症の予防・改善作用を有するものであることを特徴とし、炎症の予防・改善のために用いられる旨の表示を付した食品。
【請求項16】
柑橘類果実のアルコール可溶性の水不溶物を含有する、炎症の予防・改善作用を有するものであることを特徴とし、炎症の予防・改善のために用いられる旨の表示を付した食品。
【請求項17】
水不溶物が、柑橘類果実を破砕する工程、該破砕物を水処理する工程、水層を除去する工程を含む方法により得られるものである、請求項15または16に記載の食品。
【請求項18】
破砕物1重量部に対して1〜10重量部の水で水処理する、請求項17に記載の食品。
【請求項19】
水処理の温度が0〜85℃、時間が5分〜48時間である、請求項17または18に記載の食品。
【請求項20】
アルコールで抽出する工程を含む請求項17〜19のいずれか1項に記載の食品。
【請求項21】
アルコールがメタノールまたはエタノールである請求項20に記載の食品。
【請求項22】
柑橘類が、温州ミカン(Citrus unshiu)またはシークワサー(Citrus depressa)である、請求項15〜21のいずれか1項に記載の食品。
【請求項23】
柑橘類果実が、直径1〜4cmの柑橘類果実である、請求項22に記載の食品。
【請求項24】
柑橘類果実の水不溶物を含有する炎症の予防・改善用食品の製造方法であって、柑橘類果実を破砕する工程、該破砕物を水処理する工程、水層を除去し水不溶物を得る工程を含む製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−332119(P2007−332119A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−169350(P2006−169350)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(504015528)南出商事株式会社 (3)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】