説明

抗炎症経口投与剤

【課題】優れた抗炎症経口投与剤、並びに、炎症の予防又は改善用食品の提供。
【解決手段】水不溶性β−グルカンを有効成分として含有する、抗炎症経口投与剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水不溶性β−グルカンを含有する抗炎症経口投与剤及び炎症の予防・改善用食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、β−グルカンには、水可溶性のものと水不溶性のものとがあり、両者の生物活性は著しく異なるものであることが知られている。そのような異なる生物活性としては、例えば、マクロファージからの活性酸素産生活性等が挙げられ、即ち、水不溶性のβ−グルカンは、かかる活性酸素産生活性を示すものであるのに対し、水可溶性のβ−グルカンは、かかる活性酸素産生活性を示さないか、示したとしても非常に弱いものである。他にも種々の生物活性において相違が認められているが、このように水可溶性のβ−グルカンと水不溶性のβ−グルカンとの間で生物活性が異なる要因としては、水不溶性のβ−グルカンの抗原提示細胞による取り込み形態が、飲作用(pinocytosis)ではなく、食作用(phagocytosis)であることによるものであろうとの推測がなされている(非特許文献1)。
【0003】
一方、炎症性腸疾患の治療又は予防、改善等に、5000〜20000の分子量を有する植物由来のβ(1→3)グルカンが有用であることが報告されている(特許文献1)。しかし、水不溶性β−グルカンが炎症性腸疾患に有用であることは今まで知られてなく、また、特許文献1記載のβ(1→3)グルカンは水可溶性であって、抗原提示細胞による取り込み形態が飲作用(pinocytosis)であることから、水不溶性β−グルカンとは、生物活性が全く異なるものである。従って、水可溶性のβ(1→3)グルカンが炎症性腸疾患の治療又は予防、改善等に有用であることは、水不溶性β−グルカンが炎症性腸疾患に対する有用性について、何ら示唆するものでないばかりか、むしろ、水不溶性β−グルカンは、マクロファージからの活性酸素産生活性を示すものであることから、炎症を増悪させると考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2002/098433号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】International Immunopharmacology 2(2002)1109−1122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、水不溶性β−グルカンを含有する優れた抗炎症経口投与剤、並びに、炎症の予防又は改善用食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み、水不溶性β−グルカンの生理活性に注目し、鋭意研究を重ねた結果、高い活性酸素産生活性を示すことから、抗炎症効果を示すどころか、むしろ炎症を増悪させると従来考えられていた水不溶性β−グルカンが、驚くべきことに、優れた抗炎症効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は下記の通りである。
【0008】
(1)水不溶性β−グルカンを有効成分として含有する、抗炎症経口投与剤。
(2)β−グルカンが、長鎖β−1,6−結合を側鎖に有するβ−グルカンである、上記(1)に記載の剤。
(3)β−グルカンが、酸化処理したβ−グルカンである、上記(1)又は(2)に記載の剤。
(4)炎症が、腸における炎症である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の剤。
(5)腸が、大腸である、上記(4)に記載の剤。
(6)β−グルカンが、微生物類、海草類、原虫類からなる群より選択される一種由来のβ−グルカンである、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の剤。
(7)微生物が、酵母菌である、上記(6)に記載の剤。
(8)酵母菌が、カンジダ(Candida)属の酵母菌である、上記(7)に記載の剤。
(9)水不溶性β−グルカンを添加してなる、食品。
(10)β−グルカンが、長鎖β−1,6−結合を側鎖に有するβ−グルカンである、上記(9)に記載の食品。
(11)β−グルカンが、酸化処理したβ−グルカンである、上記(9)又は(10)に記載の食品。
(12)炎症の予防又は改善用である、上記(9)〜(11)のいずれかに記載の食品。
(13)β−グルカンが、微生物類、海草類、原虫類からなる群より選択される一種由来のβ−グルカンである、上記(9)〜(12)のいずれかに記載の食品。
(14)微生物が、酵母菌である、上記(13)に記載の食品。
(15)酵母菌が、カンジダ(Candida)属の酵母菌である、上記(14)に記載の食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水不溶性β−グルカンを含有する抗炎症経口投与剤は、優れた抗炎症効果を有する。また、経口投与が可能であるので、多くの患者に簡便に使用し得る。したがって、本発明の抗炎症経口投与剤、炎症の予防又は改善用食品は、炎症治療を向上及び改善させる上で極めて有益である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】DSS誘導炎症性腸疾患モデルの飼育計画を示す表。
【図2】DSS誘導炎症性腸疾患モデルを用いた実験の結果を示す表(体重の経時的変化)。
【図3】DSS誘導炎症性腸疾患モデルを用いた実験の結果を示す表(直腸からの出血スコア)。
【図4】DSS誘導炎症性腸疾患モデルを用いた実験の結果を示す表(大腸の長さ)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明は、水不溶性β−グルカンを含有する抗炎症経口投与剤を提供する。
【0013】
本発明のβ−グルカンは、水不溶性であることが重要である。ここで「水不溶性」とは、25℃の水100gに懸濁させたときに、その溶解度が1重量%未満であることをいい、好ましくは、全く溶解しないことをいう。このような水不溶性のβ−グルカンは、熱水にもほとんど溶解することはなく、水に添加した場合、通常は、ゲル形成せず、粒子状となる。
【0014】
本発明のβ−グルカンは分子間相互作用によって水不溶性となっているものであって単分子ごとの分子量について特に制限を設けないが、数平均分子量が少なくとも20000を超え、好ましくは100,000〜500,000であるものが好ましい。
【0015】
本発明の抗炎症経口投与剤が有効成分として含有するβ−グルカンの構造は、長鎖β−1,6−結合を側鎖に有するものであることが好ましい。ここで、「長鎖β−1,6−結合を側鎖に有する」とは、主鎖(通常、β−1,3−結合のグルコース残基等)の少なくとも一箇所以上において、長鎖β−1,6−結合のグルコース残基が分岐していることをいう。また、「長鎖β−1,6−結合」とは、重合度が少なくとも2以上であるものをいい、好ましくは10以上、より好ましくは10〜50であるものをいう。
【0016】
本発明のβ−グルカンの由来は特に制限されず、例えば、微生物類、海草類、原虫類から得られるものが挙げられるが、中でも、微生物から得られるものが好ましい。
【0017】
微生物類は、従来より食用に供せられている微生物類が安全性が高く好ましく、例えば、酵母菌、乳酸菌、納豆菌、酢酸菌、麹菌、クロレラやスピルリナなどの藻類、糸状菌、アウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する微生物等が挙げられるが、中でも、酵母菌が好ましい。これらは、環境中(例えば食品、土壌、室内など)より分離された当該微生物を用いることができる。また、単菌分離された保存株あるいは分離株、さらにはそれらを常法に従い変異操作を実施した変異株を用いることができる。変異操作の例としては、例えばUV照射、あるいはニトロソグアニジン、エチジウムブロマイド、メタンスルホン酸エチル、亜硝酸ナトリウムなどによる化学処理などが挙げられる。
【0018】
酵母菌としては、例えば、ビール、発泡酒、焼酎、日本酒、ワイン、ウイスキーなどのアルコール醸造や製パン工程で使用されるサッカロマイセス(Saccharomyces)属に分類される酵母類や、圧搾パン酵母、醤油醸造で使用される酵母類、微生物蛋白質生産に使用されるカンジダ(Candida)属の酵母菌などが挙げられる。
【0019】
乳酸菌としては、例えば、桿菌のラクトバシラス(Lactobacillus)属やビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、球菌のロイコノストック(Leuconostoc)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属の乳酸菌が通常使用されるが、その他、エンテロコッカス(Enterococcus)属、バゴコッカス(Vagococcus)属、カルノバクテリウム(Carnobacterium)属、アエロコッカス(Aerococcus)属、テトラゲノコッカス(Tetragenococcus)属の乳酸菌を利用することができる。具体的な乳酸菌株としては、ラクトバシルスブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバシルスヘルベティカス(L.helveticus)、ラクトバシルスアシドフィルス(L.acidophilus)、ラクトバシルスラクティス(L.lactis)、ラクトバシルスカゼイ(L.casei)、ラクトバシルスブレビス(L.brevis)、ラクトバシルスプランタラム(L.plantarum)、ラクトバシルスサケ(L.sake)、ストレプトコッカスサーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカスラクティス(S.lactis)、ストレプトコッカスクレモリス(S.cremoris)、ビィフィドバクテリウムロンガム(Bifidobacterium longum)、ビィフィドバクテリウムビィフィダム(B.bifidum)、ビィフィドバクテリウムブレーベ(B.breve)、ビィフィドバクテリウムインファンティス(B.infantis)、ロイコノストッククレモリス(Leuconostoc cremoris)、ロイコノストックメセンテロイデス(Ln.mesenteroides)、ロイコノストックオクノス(Ln.ocnos)、ペディオコッカスアシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)、ペディオコッカスセレビシエ(P.cerevisiae)、ペディオコッカスペントサセウス(P.pentosaceus)などの従来使用されている乳酸菌の1種類または2種類以上を使用できる。これらは単品で使用してもよく、2種類以上を共生させてもよい。また、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の乳酸菌の培養とその他の乳酸菌の培養とを別々に行い、これらを混合してもよい。
【0020】
その他、納豆菌であるバシルス(Bacillus)属の菌株、酢酸菌であるアセトバクター(Acetobactor)属の菌株、麹菌類であるアスペルギルス(Aspergillus)属やペニシリウム(Penicillium)属の菌株、クロレラやスピルリナなどの藻類、乾燥クロレラ粉末、プルランを菌体外に分泌生産することが知られているアウレオバシジウム(Aureobasidium)属の菌株、その他食品添加物として使用される増粘多糖類を生産することが知られているキサントモナス(Xanthomonas)属、アエロモナス(Aeromonas)属、アゾトバクター(Azotobactor)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、エルウィニア(Erwinia)属、エンテロバクター(Enterobactor)属、スクレロティウム(Sclerotium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、マクロホモプシス(Macrophomopsis)属の菌株を用いることができる。
【0021】
海草類は、特に制限されず、例えば、アオサ、アオノリ、アサクサノリ、アラメ、エゴノリ、オゴノリ、ガゴメ、カジメ、クビレズタ、クロメ、コンブ、スサビノリ、ツルアラメ、テングサ、ハバノリ、ヒジキ、ヒトエグサ、フノリ、メカブ、モズク、ワカメが挙げられる。
【0022】
本発明のβ−グルカンの抽出、単離、精製方法としては特に制限されず、濾過、遠心分離等の自体公知の方法を制限無く用いることができるが、具体的には、例えば、酸抽出、アルカリ抽出、熱水抽出と次亜塩素酸酸化を併用すること等により、本発明の水不溶性β−グルカンを抽出、単離、精製し得る。
【0023】
本発明のβ−グルカンは、抽出、単離、精製後に酸化処理、酵素処理、物理的処理等を施されたものであってもよい。ここで「酸化処理」は、たんぱく質、脂質、核酸等を酸化分解するものであり、例えば、特開2003−176304号公報記載の方法に準じ、適当な酸化剤(例えば次亜塩素酸塩、過ヨウ素酸塩など)を用いて行うことができる。かかる酸化剤としては、特に次亜塩素酸塩(例えば次亜塩素酸リチウム、次亜塩素酸ナトリウム及び次亜塩素酸カリウムなど)が好ましく、次亜塩素酸ナトリウムが最も好ましい。
具体的には、例えば、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウム溶液を用いる場合、適当量の次亜塩素酸ナトリウム溶液に植生物の脱脂乾燥物(例えば、カンジダ(Candida)属の酵母菌の脱脂乾燥菌体等)を混合した後、攪拌して反応を進めることが好ましい。その際の温度と処理時間によって酸化の程度の異なる種々の酸化物が得られるが、通常は0〜37℃、好ましくは2〜8℃、例えば4℃の温度条件下で、1〜24時間、好ましくは5〜15時間程度反応させることがより好ましいが、特に限定はされない。反応時間は種々の条件の変化により変化し得る。
酸化処理したβ−グルカンは上記酸化処理溶液中で不溶性であり、酸化処理液から不溶性画分を回収することにより、夾雑物質である水溶性画分との分離がなされる。不溶性画分の回収は、通常の固液分離手段、例えば濾過、或いは遠心分離などの公知の一般的な方法によって行うことができるが、特に遠心分離処理が好ましい。
更に、反応溶液を透析などの脱塩手段による脱塩や、「不溶性画分」の水による洗浄を行い、上記固液分離手段により「不溶性画分」を回収することが好ましい。
次亜塩素酸酸化は水不溶性β−グルカン以外の成分を悉く分解することができるので、用いる原料によっては、前処理なしに、次亜塩素酸酸化を行うだけで水不溶性β−グルカンを調整することも可能である。
【0024】
本発明における抗炎症経口投与剤の剤型は、医薬製剤一般の剤型を制限なく採用することができ、具体的には、例えば、顆粒剤、細粒剤、錠剤、散剤、カプセル剤、チュアブル剤、液剤、懸濁剤等が挙げられる。これらは、常法により製剤化することができ、製剤上の必要に応じて、例えば、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、コーティング剤、着色剤、凝集防止剤、吸収促進剤、溶解補助剤、安定化剤、香料、甘味剤、保存剤、抗酸化剤などの通常の添加剤を適宜配合することができる。
【0025】
賦形剤は特に限定されず、例えば、白糖、乳糖、ブドウ糖、コーンスターチ、マンニトール、結晶セルロース、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムなどが挙げられる。
【0026】
崩壊剤は特に限定されず、例えば、澱粉、寒天、クエン酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、デキストリン、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、トラガントなどが挙げられる。
【0027】
滑沢剤は特に限定されず、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸マグネシウム、オレイン酸、オレイン酸カリウム、カプリル酸、フマル酸ステアリルナトリウム、パルミチン酸マグネシウムまたはそのような潤滑剤の配合物等が挙げられる。
【0028】
結合剤は特に限定されず、例えば、でんぷん及びその誘導体(アルファー化デンプン、デキストリン等)、セルロース及びその誘導体(エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、糖類(ブドウ糖、白糖等)、エタノール、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0029】
コーティング剤は特に限定されず、例えば、セルロース誘導体(ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等)、セラック、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン類(ポリ−2−ビニルピリジン、ポリ−2−ビニル−5−エチルピリジン等)、ポリビニルアセチルジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコールフタレート、メタアクリレート・メタアクリル酸共重合体等が挙げられる。
【0030】
着色剤は特に限定されず、医薬品あるいは食品に添加することが許可されているものなどを使用することができ、例えば、青色1号、黄色4号、緑色3号、赤色5号、レーキ色素、二酸化チタン、赤キャベツ色素、紅麹色素、ムラサキイモ色素、クチナシ色素、コチニール色素などが挙げられる。
【0031】
凝集防止剤は特に限定されず、医薬品あるいは食品に添加することが許可されているものを使用することができ、例えば、ステアリン酸、タルク、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ酸等などが挙げられる。
【0032】
吸収促進剤は特に限定されず、例えば、高級アルコール類、高級脂肪酸類、グリセリン脂肪酸エステルなどの界面活性剤などが挙げられる。
【0033】
溶解補助剤は特に限定されず、例えば、アジピン酸、L−アルギニン、安息香酸ナトリウム、安息香酸ベンジル、エステル化トウモロコシ油、エタノール、塩化マグネシウム、塩酸、オリーブ油、カルメロースナトリウム、乾燥炭酸ナトリウム、希塩酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、グリシン、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、ゲラニオール、ゴマ油、酢酸フタル酸セルロース、サリチル酸ナトリウム、酸化マグネシウム、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、ジブチルヒドロキシトルエン、酒石酸、ショ糖脂肪酸エステル、水酸化ナトリウム、セスキオレイン酸ソルビタン、ソルビタン脂肪酸エステル、D−ソルビトール、D−ソルビトール液、ダイズ油、大豆レシチン、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、中鎖脂肪酸トリグリセリド、トリアセチン、トリオレイン酸ソルビタン、ニコチン酸アミド、乳酸、濃グリセリン、白銅、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒマシ油、氷酢酸、ブドウ糖、プロピレングリコール、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポビドン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリソルベート、ポリビニルアルコール、マクロゴール、D−マンニトール、ミリスチン酸イソプロピル、無水エタノール、無水クエン酸、モノオレイン酸ソルビタン、ラウリルマクロゴール、リドカイン、リン酸、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムなどが挙げられる。
【0034】
安定化剤は特に限定されず、例えば、安息香酸、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エチルなどが挙げられる。
【0035】
香料は特に限定されず、例えば、メントール、カルボン、アネトール、シネオール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、3,1−メントキシプロパン−1,2−ジオール、チモール、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、N−置換−パラメンタン−3−カルボキサミド、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルエチニルグリシデート、バニリン、ウンデカラクトン、ヘキサナール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール、イソアミルアルコール、ヘキセノール、ジメチルサルファイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラゾン、エチルラクテート、エチルチオアセテートなどの単品香料、更に、ペパーミント油、スペアミント油、アニス油、ユーカリ油、ウインターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、カモミール油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、オリガナム油、パインニードル油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油、イリスコンクリート、アブソリュートペパーミント、アブソリュートローズ、オレンジフラワーなどの天然香料、ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、フルーツミックスフレーバー、トロピカルフルーツフレーバーなどの調合香料などが挙げられる。
【0036】
甘味剤は特に限定されず、例えば、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビオサイド、ステビアエキス、パラメトキシシンナミックアルデヒド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチンなどが挙げられる。
【0037】
保存剤は特に限定されず、例えば、安息香酸、安息香酸ナトリウム、エタノール、エデト酸ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム、クエン酸、グリセリン、サリチル酸、サリチル酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、D−ソルビトール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸メチル、プロピレングリコール、リン酸などが挙げられる。
【0038】
抗酸化剤は特に限定されず、例えば、クエン酸、クエン酸誘導体、ビタミンCおよびその誘導体、リコペン、ビタミンA、カロテノイド類、ビタミンBおよびその誘導体、フラボノイド類、ポリフェノール類、グルタチオン、セレン、チオ硫酸ナトリウム、ビタミンEおよびその誘導体、αリポ酸およびその誘導体、ピクノジェノール、フラバンジェノール、スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、グルタチオン還元酵素、カタラーゼ、アスコルビン酸ペルオキシダーゼ、およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0039】
本発明の抗炎症経口投与剤は、腸(小腸(十二指腸、空腸、回腸を含む)又は大腸(盲腸、結腸、直腸を含む))における炎症に有効であり、特に、大腸における炎症に有効である。ここで、本発明でいう「炎症」、すなわち本発明の抗炎症経口投与剤が対象とする「炎症」とは、内的要因または細菌感染、外傷、熱・寒冷・放射線・電気等の物理的刺激あるいは化学物質等の外的要因に限定されない種々要因による生体組織の傷害あるいは機能不全において、白血球が血管内皮細胞上でのローリング、接着を経て血流中から血管外組織へと浸潤することに起因する血管及び隣接する組織の細胞学的・組織学的反応の動的な複合体からなる基本的な病理学上の局所反応を意味する。
また、本発明の抗炎症経口投与剤は、炎症性腸疾患の予防及び/又は治療に有用である。炎症性腸疾患としては、例えば、クローン病や潰瘍性・肉芽腫性・虚血性・放射性・感染性結腸炎等の大腸炎が挙げられる。
【0040】
本発明の抗炎症経口投与剤の投与対象としては炎症を有する個体(例えば、ヒトをはじめウシ、ウマ、イヌ、マウス、ラット等の哺乳動物)、炎症を有する可能性のある個体などが挙げられる。
【0041】
本発明の抗炎症経口投与剤の有効成分である水不溶性β−グルカンの投与量は、投与する患者の性別、症状、年齢、投与方法によって異なるが、通常、成人(体重60kg)1日あたりの投与量が全量で、50mg〜50gであり、好ましくは、成人1日あたりの投与量が全量で、500mg〜10gである。上記1日あたりの量を一度にもしくは数回に分けて投与することができ、投与時は、食前、食後、食間を問わない。また投与期間は特に限定されない。
【0042】
本発明は、水不溶性β−グルカンを添加してなる、炎症の予防又は改善用の食品を提供する。
【0043】
本発明の食品は、本発明の水不溶性β−グルカンを添加してなる一般的な食品形態であれば如何なるものでも良い。例えば、適当な風味を加えてドリンク剤、例えば清涼飲料、粉末飲料とすることもできる。具体的には、ジュース、牛乳、菓子、ゼリー等に混ぜて飲食することができる。また、このような食品を保健機能食品として提供することも可能であり、この保健機能食品には、炎症の予防又は改善などの本発明の用途に用いるものであるという表示を付した飲食品、特に保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品なども含まれる。
【0044】
さらに、本発明の食品を濃厚流動食や、食品補助剤として利用することも可能である。食品補助剤として使用する場合、例えば錠剤、カプセル、散剤、顆粒、懸濁剤、チュアブル剤、シロップ剤等の形態に調製することができる。本発明における食品補助剤とは、食品として摂取されるもの以外に栄養を補助する目的で摂取されるものをいい、栄養補助剤、サプリメントなどもこれに含まれる。
【0045】
本発明の食品を摂取する場合、成人(体重60kg)1日当たりの水不溶性β−グルカンの摂取量は、通常50mg〜50g程度、好ましくは500mg〜10g程度である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0047】
(OX−CAの調製)
カンジダ・アルビカンス(Candida albicans:IFO1385)を5LのC−制限培地(炭素源としてショ糖を含む培地)にて27℃で48〜72時間液体培養し(ジャーファメンター使用;攪拌速度:400rpm)、アセトン処理した後、乾燥菌体(脱脂乾燥菌体)16〜20gを得た。
当該脱脂乾燥菌体2gに0.1mol/L NaOH 200mLを加えて懸濁し、次亜塩素酸ナトリウム(アンチホルミン、和光純薬工業株式会社製)を有効塩素濃度が0.5〜1.5となるように添加して、4℃で一夜撹拌し酸化分解した。得られた酸化物を3,000rpm、10分間遠心分離し沈殿物を得、β−グルカンを含まない蒸留水200mLを加え、撹拌後遠心分離(3,000rpm、10分)し、その沈殿物にアセトン200mLを加え脱水沈殿物としてカンジダ属酵母菌由来酸化処理β−グルカン(OX−CA)を得た。収量は350mg程度であった。
ここで、上記OX−CAは水不溶性であり、また、β−1,3−結合のグルコース残基の主鎖から分岐するβ−1,6−結合のグルコース残基の重合度は、2〜50程度と広範囲に分布するが、重合度が10〜50程度のものが多い(Carbohydrate Research 316(1999)161−172、International Immunopharmacology 2(2002)1109−1122)。
【0048】
(炎症性腸疾患モデルマウスの作製とOX−CA経口投与)
炎症性腸疾患モデルマウスの飼育計画を図1に示す。具体的には、以下のとおりに飼育を行った。
OX−CA経口投与マウスは、2週に渡りβ−グルカンを含まない粉末飼料を与えたBALB/cマウス(7週齢)に、3週目から5%のOX−CA粉末をβ−グルカンを含まない粉末飼料に混合し自由接種させ、かつ4週目より7日間、4%デキストラン硫酸(以下、「DSS」と略記する場合がある)を自由飲水させた。対照として、β−グルカンを含まない粉末飼料を自由接種させ、水道水を自由飲水させたマウス(DSS(−)群)、β−グルカンを含む粉末飼料を与えたマウスに7日間4%DSSを自由飲水させたマウス(Control群)を用いた。
各群のマウスについて、以下の各項目を評価した。
【0049】
炎症性腸疾患の程度を示す指標としてマウスの体重の経時的変化を測定し、DSS投与開始日の体重を100としたときの体重の割合(%)を算出した。結果を図2に示す。
【0050】
図2に示す結果から明らかなとおり、Control群ではDSS投与により大幅な体重の減少が認められたが、5重量%OX−CA投与群では、体重の顕著な減少は認められなかった。
【0051】
炎症性腸疾患の程度を示す指標としてマウスの直腸からの出血状態を、以下に示す基準に従って各スコアに分類し、各群のマウスの平均値を求めた。結果を図3に示す。
[スコア分類基準]
スコア0:正常
スコア1:目視で便に血が混じっている
スコア2:肛門に血液が付着している
スコア3:肛門から常に出血している
【0052】
図3に示す結果から明らかなとおり、DSS投与により出血スコアの上昇が認められたが、5重量%OX−CA経口投与により有意に改善した。
【0053】
炎症性腸疾患の程度を示す指標として各群のマウスの大腸の長さを測定し、平均値を算出した。結果を図4に示す。
【0054】
図4に示す結果から明らかなとおり、DSS投与によりマウス大腸は有意に短くなったが、5重量%OX−CA経口投与により腸管短縮の有意な改善が認められた。
【0055】
以上の結果から明らかなように、炎症性腸疾患モデルマウスにおいて、水不溶性β−グルカンを経口投与することにより、炎症性腸疾患が有意に抑制されることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性β−グルカンを有効成分として含有する、抗炎症経口投与剤。
【請求項2】
β−グルカンが、長鎖β−1,6−結合を側鎖に有するβ−グルカンである、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
β−グルカンが、酸化処理したβ−グルカンである、請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
炎症が、腸における炎症である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の剤。
【請求項5】
腸が、大腸である、請求項4に記載の剤。
【請求項6】
β−グルカンが、微生物類、海草類、原虫類からなる群より選択される一種由来のβ−グルカンである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の剤。
【請求項7】
微生物が、酵母菌である、請求項6に記載の剤。
【請求項8】
酵母菌が、カンジダ(Candida)属の酵母菌である、請求項7に記載の剤。
【請求項9】
水不溶性β−グルカンを添加してなる、食品。
【請求項10】
β−グルカンが、長鎖β−1,6−結合を側鎖に有するβ−グルカンである、請求項9に記載の食品。
【請求項11】
β−グルカンが、酸化処理したβ−グルカンである、請求項9又は10に記載の食品。
【請求項12】
炎症の予防又は改善用である、請求項9〜11のいずれか1項に記載の食品。
【請求項13】
β−グルカンが、微生物類、海草類、原虫類からなる群より選択される一種由来のβ−グルカンである、請求項9〜12のいずれか1項に記載の食品。
【請求項14】
微生物が、酵母菌である、請求項13に記載の食品。
【請求項15】
酵母菌が、カンジダ(Candida)属の酵母菌である、請求項14に記載の食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−41312(P2012−41312A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185439(P2010−185439)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「消化管免疫細胞の活性化と機能成熟機構の解明」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】