説明

抗痙縮剤の至適投与方法を決定するための伸張反射測定装置の作動方法

【課題】 患者への抗痙縮剤の至適投与方法を客観的かつ簡易に決定するための方法を提供すること。
【解決手段】 腱の叩打で誘発される伸張反射の程度を定量的に測定可能な装置を作動させ、(1)患者の伸張反射の程度のデータを取得する工程、(2)前記工程によって取得された患者のデータと抗痙縮剤の投与方法と関連付けられた伸張反射の程度の標準データを比較する工程、(3)前記工程によって比較された結果から標準データと関連付けられた抗痙縮剤の投与方法に基づいて患者に対する至適投与方法を判定する工程を少なくとも実行させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者への抗痙縮剤の至適投与方法を決定するための伸張反射測定装置の作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バクロフェンなどのGABA受容体作動薬は、脳脊髄疾患に由来する痙性麻痺に対する抗痙縮剤として有効であることは周知の通りであり、近年では抗痙縮剤を髄腔内に持続的に投与するためのポンプシステムも実用に供せられ、患者のQOLの向上に寄与している。しかしながら、抗痙縮剤の投与量、投与間隔、投与パターンといった投与方法についての決定は、医師が患者の痙性の程度を主観的に評価することで行われているため、時として過剰投与や過少投与が起こり、その結果、副作用が発現したり、望むべき治療効果が得られなかったりすることがある。また、痙性の程度の評価は、医師によって結果のバラツキが大きいことも否めない。従って、抗痙縮剤の至適投与方法を客観的かつ簡易に決定するための方法が望まれているが、これまでそのような方法は提案されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、患者への抗痙縮剤の至適投与方法を客観的かつ簡易に決定するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、腱の叩打で誘発される伸張反射の程度を定量的に測定可能な装置を、痙性の程度を定量化して評価するための装置として利用することにより、患者への抗痙縮剤の至適投与方法を客観的かつ簡易に決定することに想到した。
【0005】
上記の点に鑑みてなされた本発明は、請求項1記載の通り、患者への抗痙縮剤の至適投与方法を決定するための腱の叩打で誘発される伸張反射の程度を定量的に測定可能な装置の作動方法であって、(1)患者の伸張反射の程度のデータを取得する手段がデータを取得する工程、(2)前記工程によって取得された患者のデータと抗痙縮剤の投与方法と関連付けられた伸張反射の程度の標準データを比較する手段が両データを比較する工程、(3)前記工程によって比較された結果から標準データと関連付けられた抗痙縮剤の投与方法に基づいて患者に対する至適投与方法を判定する手段が至適投与方法を判定する工程を少なくとも実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、患者への抗痙縮剤の至適投与方法を客観的かつ簡易に決定するための方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、患者への抗痙縮剤の至適投与方法を決定するための腱の叩打で誘発される伸張反射の程度を定量的に測定可能な装置の作動方法であって、(1)患者の伸張反射の程度のデータを取得する手段がデータを取得する工程、(2)前記工程によって取得された患者のデータと抗痙縮剤の投与方法と関連付けられた伸張反射の程度の標準データを比較する手段が両データを比較する工程、(3)前記工程によって比較された結果から標準データと関連付けられた抗痙縮剤の投与方法に基づいて患者に対する至適投与方法を判定する手段が至適投与方法を判定する工程を少なくとも実行させることを特徴とするものである。
【0008】
本発明において、痙性の程度を定量化して評価するための装置として利用する、腱の叩打で誘発される伸張反射の程度を定量的に測定可能な装置としては、例えば、本発明者らが開発した、力センサーを内蔵した打腱器と、被測定者の関節に取り付ける慣性センサー(加速度センサーやジャイロセンサーや磁界センサーなどが例示される)と、前記打腱器の力センサーと前記慣性センサーのデータを解析処理する解析装置と、前記解析装置で処理されたデータを表示するコンピュータとからなる伸張反射測定装置が挙げられる(必要であれば特開2006−34809号公報を参照のこと)。以下、本発明の方法をこの伸張反射測定装置を利用して行う場合を例にとって説明する。
【0009】
工程(1)は、患者の伸張反射の程度のデータを取得する工程である。図1は伸張反射測定装置の一例の全体概略図である。伸張反射測定装置1は、力センサーを内蔵した打腱器2と、患者10の関節に取り付ける慣性センサー3と、前記打腱器2の力センサーと前記慣性センサー3のデータを解析処理する解析装置4と、前記解析装置4で処理されたデータを表示するコンピュータ5とからなる。図1では慣性センサー3は患者10の足首の関節11に固定具6を介して取り付けられている。打腱器2によって患者10の膝12を叩打することで誘発された伸張反射を慣性センサー3で検知し、打腱器2の力センサーのデータと慣性センサー3のデータを解析装置4によって解析処理することで、痙性の程度を伸張反射の程度として定量的にデータ化する。なお、伸張反射は筋肉の伸張と収縮により起こるので、伸張反射の程度の定量的なデータ化に際しては、図1に示したように、筋電計7を伸張反射測定装置の一部を構成するように接続し、筋電図のデータを打腱器2の力センサーのデータと慣性センサー3のデータと併せて解析処理してもよい。
【0010】
工程(2)は、工程(1)によって取得された患者のデータと抗痙縮剤の投与方法と関連付けられた伸張反射の程度の標準データを比較する工程である。抗痙縮剤の投与方法と関連付けられた伸張反射の程度の標準データとしては、例えば、本発明の方法を行うことによってフィードバックの手法で導き出されたデータであって、どの程度の伸張反射の程度であれば抗痙縮剤の投与量、投与間隔、投与パターンといった投与方法をどのようにすればよいかの関係を明らかにしたデータが挙げられる。この標準データは、複数の患者の治療履歴をもとに求められた平均的なものであってもよいし、対象患者個人の治療履歴のみをもとにしたものであってもよい。なお、この標準データは、予め伸張反射測定装置1のコンピュータ5に記憶されたものであってもよいし、測定の都度、入力されるものであってもよい。
【0011】
工程(3)は、工程(2)によって比較された結果から標準データと関連付けられた抗痙縮剤の投与方法に基づいて患者に対する至適投与方法を判定する工程である。例えば、標準データが複数存在する場合には、複数の標準データの中から患者のデータに合致する標準データを見つけ出し、合致した標準データと関連付けられた抗痙縮剤の投与方法をその患者に対する至適投与方法と判定する。標準データが1つの場合には、患者の伸張反射の程度が標準データで示される伸張反応の程度よりも強いか弱いかを識別し、その結果に基づいて標準データと関連付けられた抗痙縮剤の投与方法に対して、例えば、投与量を増量した方がよいか減量した方がよいか(患者の伸張反射の程度の方が強ければ増量し弱ければ減量する)、投与間隔を縮めた方がよいか空けた方がよいか、投与パターンを朝晩で変えた方がよいか一定の方がよいかといった判断をもとにその患者に対する至適投与方法を判定する。
【0012】
以上の方法によって、医師は患者への抗痙縮剤の至適投与方法を客観的かつ簡易に決定することができ、また、患者自身がこの方法を利用することで、例えば、自宅で現在の抗痙縮剤の投与方法が自身にとって至適投与方法であるかどうかを認識することができ、検査結果に基づいて必要に応じて至適投与方法を調整することができる。結果として、患者のQOLのよりいっそうの向上を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明は、患者への抗痙縮剤の至適投与方法を客観的かつ簡易に決定するための方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明において利用する伸張反射測定装置の一例の全体概略図である。
【符号の説明】
【0015】
1 伸張反射測定装置
2 打腱器
3 慣性センサー
4 解析装置
5 コンピュータ
6 固定具
7 筋電計
10 患者
11 足首の関節
12 膝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者への抗痙縮剤の至適投与方法を決定するための腱の叩打で誘発される伸張反射の程度を定量的に測定可能な装置の作動方法であって、(1)患者の伸張反射の程度のデータを取得する手段がデータを取得する工程、(2)前記工程によって取得された患者のデータと抗痙縮剤の投与方法と関連付けられた伸張反射の程度の標準データを比較する手段が両データを比較する工程、(3)前記工程によって比較された結果から標準データと関連付けられた抗痙縮剤の投与方法に基づいて患者に対する至適投与方法を判定する手段が至適投与方法を判定する工程を少なくとも実行させることを特徴とする方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−200225(P2008−200225A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38752(P2007−38752)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】