説明

抗癌作用を有する組換えタンパク質、それをコードする遺伝子、及びそれらの使用

【課題】抗癌作用を持つ組換えタンパク質、そのコード遺伝子、およびそれらの用途を提供すること。
【解決手段】(1)配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質と、(2)配列番号2との配列相同性が90%を超え、同等の活性を有する、配列番号2に由来するタンパク質と、(3)配列番号2のアミノ酸配列のN末端での15個以下のアミノ酸残基の付加または欠失によって得られ、同等の活性を有する、配列番号2に由来するタンパク質と、(4)配列番号2のアミノ酸配列のC末端での15個以下のアミノ酸残基の付加または欠失によって得られ、同等の活性を有する、配列番号2に由来するタンパク質と、(5)配列番号2のアミノ酸配列にある1個または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、または付加によって得られ、同等の活性を有する、配列番号2に由来するタンパク質とからなる群から選択される組換えタンパク質である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子工学及び薬理学の分野に関する。本発明は、組換えタンパク質、そのコード遺伝子、及び活性成分として上記組換えタンパク質を含む遺伝子組換え医薬品に関する。特に、本発明は抗癌作用を有する組換えタンパク質、それをコードする遺伝子、及び活性成分として上記組換えタンパク質を含む癌治療用遺伝子組換え医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
進化の過程で、哺乳類は、個々の細胞のプログラム細胞死を誘導することができるアポトーシスのための一連の情報伝達機構を徐々に確立した。根底をなす理論は、キラー細胞のリガンドが、細胞表面上にあるデスレセプターと相互作用し、細胞のアポトーシスを誘導するというものである。そのような有益なアポトーシスは、免疫応答の終わりにおける活性化されたリンパ球の排除や、ウイルス感染細胞及び腫瘍形成的にトランスフォーメーションした細胞の排除に、重要な生理学的役割を果たす。その例として、TNF及び受容体であるTNFRの相互作用、ならびにFasL及び受容体であるFas/Apo1/CD95の相互作用が挙げられる。
【0003】
活性化されたデスレセプターは、細胞アポトーシスのカスケード反応に直接関与する。活性化されたデスレセプターは、種々の癌細胞のアポトーシスを誘導するものであり、潜在的な抗癌因子である。TNF及びFasLは、癌細胞のアポトーシスを誘導することが可能ではあるけれども、それらは著しい毒性を有しており、抗癌療法で副作用を生じさせる。TNFの注射は、敗血症性ショックに類似の致命的な炎症反応をもたらす。この反応は、血管内皮細胞及びマクロファージ中に位置し、TNFによって活性化されるNF−κB(プレ転写因子)によって、主に媒介される。抗Fas抗体は、肝臓組織でのFas依存型細胞のアポトーシスを誘導し、致命的な肝障害を誘導する。
【0004】
Wiley他は、1995年に、TNF及びFasLとの配列の同一性に基づいてTNF関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)を発見した。TRAILは、デスレセプターDR4又はDR5と相互作用することで、アポトーシスを誘導する。TNF及びFasLとは異なり、TRAILのmRNAは、多くの正常なヒト組織で構成的に発現している。このことは、TRAILが正常細胞には影響を与えずに癌細胞のアポトーシスを誘導する生理学的機構を示唆する。これらのメカニズムとして、リガンドとの結合を巡ってDR4及びDR5と拮抗する抑制性受容体の発現、3種類の受容体DcR1、DcR2、及びDPGとTRAILとの相互作用能が挙げられる。したがって、TRAILの毒性は、TNF及びFasLよりも低い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、抗癌作用を有する組換えタンパク質と、該組換えタンパク質を有効成分として含み、癌を効果的に治療する医薬品とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にもとづく抗癌作用を有する組換えタンパク質は、
(1)配列表に示される配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質と、
(2)配列番号2との配列相同性が90%を超え、かつ配列番号2の活性と同等の活性を有する、配列番号2に由来するタンパク質と、
(3)配列番号2のアミノ酸配列のN末端での15残基以下のアミノ酸残基の付加又は欠失によって得られ、かつ配列番号2の活性と同等の活性を有する、配列番号2に由来するタンパク質と、
(4)配列番号2のアミノ酸配列のC末端での15残基以下のアミノ酸残基の付加又は欠失によって得られ、かつ配列番号2の活性と同等の活性を有する、配列番号2に由来するタンパク質と、
(5)配列番号2のアミノ酸配列にある1残基又は数残基のアミノ酸残基の置換、欠失、又は付加によって得られ、かつ配列番号2の活性と同等の活性を有する、配列番号2に由来するタンパク質と、
からなる群から選択されるものである。
【0007】
配列表に示される配列番号2のタンパク質は、166残基のアミノ酸残基からなるヒト組換え環状置換TRAIL(CPT;circularly permuted TRAIL)である。
【0008】
本発明によって提供される癌治療用医薬品の有効成分(CPT)は、上述したタンパク質の一つである。
【0009】
必要に応じて、一種類以上の医薬的に許容される担体を上記医薬品に添加することが可能である。担体として、医薬の分野で一般に用いられる希釈剤、賦形剤、充填剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、吸収促進剤、界面活性剤、吸着剤担体、及び潤滑剤が挙げられる。必要に応じて、香料及び甘味料等も添加してもよい。
【0010】
本発明にもとづく医薬品を種々の形態に製剤化することが可能であり、該形態として注射剤、錠剤、粉末、顆粒、カプセル、経口投与流体、軟膏、及びクリームが挙げられる。医薬品の上記調剤形態のいずれも製薬分野で通常用いられる方法によって調製可能である。
【0011】
本発明によって提供される癌治療用医薬品の有効成分(タンパク質)(CPT)のコード配列は、
(1)配列表に示す配列番号1と、
(2)配列表に示す配列番号2のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと、
(3)配列番号1によって定義されるDNA配列との配列相同性が90%を超え、かつ配列番号1によってコードされるタンパク質の活性と同等の活性を有するタンパク質をコードするDNA配列と、
(4)配列番号2に由来するタンパク質をコードするDNA配列であって、上記配列番号2に由来するタンパク質が、配列番号2のアミノ酸配列のN末端での15残基以下のアミノ酸残基の付加又は欠失によって得られ、かつ配列番号2によってコードされるタンパク質の活性と同等の活性を有するタンパク質である、DNA配列と、
(5)配列番号2に由来するタンパク質をコードするDNA配列であって、上記配列番号2に由来するタンパク質が、配列番号2のアミノ酸配列のC末端での15残基以下のアミノ酸残基の付加又は欠失によって得られ、かつ配列番号2によってコードされるタンパク質の活性と同等の活性を有するタンパク質である、DNA配列と、
(6)配列番号2に由来するタンパク質をコードするDNA配列であって、上記配列番号2に由来するタンパク質が、配列番号2のアミノ酸配列にある1残基又は数残基のアミノ酸残基の置換、欠失、又は付加によって得られ、かつ配列番号2によってコードされるタンパク質の活性と同等の活性を有するタンパク質である、DNA配列と、
からなる群から選択されるものである。
【0012】
配列表にある配列番号1は、501塩基対からなる。そのリーディング・フレームは、5’末端側からヌクレオチド1〜498である。
【0013】
本発明の遺伝子を含む発現ベクター及び細胞株(例えば、大腸菌及び酵母発現系)は、本発明の範囲内である。
【実施例1】
【0014】
<ヒト組換え環状置換TRAILをコードする遺伝子の構築及び発現>
ヒトTRAILの121残基から281残基にあるアミノ酸残基をコードする、遺伝子配列を、ヒト脾臓cDNAライブラリーから得た。ヒトTRAILの121残基〜281残基のアミノ酸残基をコードする遺伝子を、ヒトTRAIL遺伝子をテンプレートとして用いて、通常行われるPCR法によって生成した。つぎに、TRAILのアミノ酸残基122残基〜135残基をコードするDNA配列を、PCR法によってTRILの135〜381位にあるアミノ酸残基をコードするDNA配列の3’末端と結合させた。アミノ酸残基135残基〜281残基をコードするDNA配列とTRAILのアミノ酸残基122〜135をコードするDNA配列との間に、5個のグリシン残基をコードするDNA配列を挿入した。グリシンの柔軟性により、タンパク質の折り畳みを容易にすることができる。このようにして得られるCPTコード遺伝子を、NcoI及びBamHIを用いてベクタープラスミドpet28b(又は他のベクター)に連結して、発現ベクターとした。そのDNA配列は、塩基配列決定によって正しいことが確認された。
【0015】
発現プラスミドを大腸菌BL21株(DE3)に形質転換した。形質転換された大腸菌を、20μg/mlカナマイシン含有LB液体培地10mlに接種した。細胞を37℃で12時間にわたり振とう機上でインキュベートした。つぎに、1Lの20μg/mlカナマイシン含有LB液体培地に10mlの培地を接種して、さらに培養を続けた。OD600が0.6に達した時に、0.2mlの1M IPTGを1Lの培地に加えてタンパク質発現を誘導した。発現誘導を3時間おこなった後、遠心により細胞を回収した。ペレットを、100mMトリス(pH7.9)及び100mM NaClを含む100mlの緩衝液に、懸濁した。
【0016】
細胞を4℃の超音波処理で溶菌させ、Beckman JA20ローターを用いて15,000rpmで遠心した。発現タンパク質が金属キレート樹脂と結合可能であることから、金属キレート・クロマトグラフィーを用いて発現タンパク質の精製をおこなうことができる。遠心後、上清を固定化Ni2+キレート・クロマトグラフィー・カラムに投入した。このカラムを、50mMトリス(pH7.9)、0.5M NaCl、及び200mMイミダゾールを含む緩衝液によって洗浄し、このカラムに吸着した夾雑タンパク質を除去した。つぎに、結合タンパク質を、50mMトリス(pH7.9)、0.5M NaCl、及び50mMイミダゾールを含む緩衝液によって溶出させた。溶出タンパク質をPBS緩衝液で透析した。
【0017】
最後に、タンパク質を、AKTA・HPLCシステム(Pharmacia社)に設置されたイオン交換カラム及びゲル濾過カラムSuperdex 200(Pharmacia社)によって精製した。タンパク質の分析は、そのようにして得られたタンパク質が本発明の抗癌作用を有する医薬品である配列番号2のアミノ酸配列を有することを示した。最終産物は、白色粉末であり、また水溶性であった。
【実施例2】
【0018】
<テトラゾリウム還元法(MTT)を用いた癌細胞に対する本発明の医薬品の細胞毒性効果の測定>
試薬:RPM1640は、GIBCO社から入手。MTTはBenco社から入手。ウシ胎児血清は、杭州四季青生物工程材料有限公司(中華人民共和国)から購入。
【0019】
細胞株:COLO205(ヒト大腸癌細胞)、NCI−H460(ヒト肺癌細胞)、RPMI8226(ヒト多発性骨髄腫細胞)、及びU251(ヒト脳神経膠腫細胞)は、米国ATCC社から入手。HL−60(ヒト前骨髄性白血病細胞)、MDA−MB−231、MDA−MB−435(ヒト乳癌細胞)、SCLC(ヒト小細胞肺癌細胞)、H125(ヒト肺癌細胞)、及びPC−3(ヒト膵臓癌細胞)。
【0020】
発育が良い腫瘍細胞を集め、10%ウシ胎児血清含有RPMI1640培地による細胞懸濁液(1×10/ml)を調製した。細胞懸濁液を96穴プレートに接種して、各穴あたり100μl(1,000個の腫瘍細胞を含む)とした。37℃の5%COインキュベータで24時間にわたってプレートを培養した後、医薬品を添加した。
【0021】
ブランクコントロールと5−フルオロウラシル又はアドリアマイシンを用いたポジティブコントロールとを実験で採用した。CPT試料の濃度を5通りにして、各濃度に対して3穴を対応させた。細胞を、37℃で5%COであるインキュベータで4日間にわたって培養した。次に、培地を取り除き、100μlのMTT溶液(RPMI−1640中、0.4mg/ml)を各穴に添加した。プレートをさらに4時間にわたって37℃でインキュベートした。
【0022】
上清を捨てた。フォマザン(Fomazan)粒状物を可溶化するために、150μlのDMSOを各穴に添加した。穏やかに振とう後、OD値をBIORAD 550 enzyme analyzerによって、検出波長を540nm、また参照波長を450nmとして測定した。
【0023】
用量反応曲線は、医薬品の細胞阻害率及び異なる濃度をプロットすることで得られ、50%阻害濃度(IC50)を計算した。結果を図1に示した。ヒト腫瘍細胞U251、COLO205、NCI−H460、及びMDA−MB−435に対して、CPTが非常に強い致死効果を有することがわかった(IC50<0.01μg/ml)。CPTはまた、HL−60、MDA−MB−231、PC−3、及びHL125細胞に対して相当に強い致死効果を有する(IC50<0.1μg/ml)。CPTは、RPMI8226細胞に対して良好な効果を有する(IC50<1μg/ml)。また、それはSCLC細胞の成長に対するある程度の阻害効果も示す。癌細胞のアポトーシスを誘導するCPTの活性は、野生型TRAILのものよりも6から11倍強い。
【0024】
【表1】

【実施例3】
【0025】
<ヌードマウスへのヒト癌異種移植片の増殖に対する本発明の医薬品の阻害効果>
この実施例では、使用した動物はBALB/c−nuヌードマウス、6〜8週齢であった。各々の実験に対して、全ての動物の性を同一にした。
【0026】
腫瘍細胞株:ヒト脳神経膠腫U251、ヒト肺癌細胞株NCI−H460、ヒト大腸癌細胞株COLO205を試験管内での培養からヌードマウスへ皮下接種し、腫瘍を二次培養して維持した。
【0027】
実験手順:発育が良い腫瘍を担持する発育が良いヌードマウスを選択し、頚椎脱臼により安楽死させた。腫瘍を無菌的に取り出し、メスによって直径2〜3mmの断片に切り刻んだ。この断片を、針を用いてヌードマウスの腋窩に皮下接種した。腫瘍を、約7〜10日後、動物の腋窩に見出すことができた。腫瘍の長さ及び幅を副尺付きカリパスで測定した。つぎに、腫瘍サイズに基づいて動物のグループ分けをおこなった。各々の群は7から8匹の動物を含んだ。
【0028】
腫瘍の長さ及び幅とマウスの体重とを週2回測定した。腫瘍体積(TV)及び相対腫瘍体積(RTV)を計算した。腫瘍サイズの変化を示すグラフをプロットした。この実験の最後に、マウスを安楽死させた後、腫瘍を取り出して重さを計り、腫瘍成長に対する医薬品の阻害率を計算した。
【0029】
腫瘍体積(TV)を計算するための式は、
【数1】

である。
【0030】
相対腫瘍体積(RTV)を計算するための式は、
【数2】

(式中、Voは投与開始時に測定されたTV値であり、Vtはその後に測定されたTV値である)である。
【0031】
T検定を用いて、異なる動物群間の腫瘍重量、腫瘍体積、RTV等の統計学的差を測定した。抗腫瘍活性を評価するために用いた指標は、相対腫瘍成長率T/C(%)であり、その式は:
【数3】

である。
【0032】
効率に関する評価基準は、
T/C(%)>60は、効果がない。
統計分析後のT/C(%)≦60及びP<0.05は、有効である。
【0033】
<1.ヒト脳神経膠腫U251に対する阻害効果>
カルムスチン(Renmin Pharmaceuticals、Amino Acid Inc.、天津、中華人民共和国)をポジティブコントロールとして用い、腹腔内注射によって一度だけ40mg/kg投与した。CPTを、0.6mg/kg、1.7mg/kg、5.0mg/kg、15.0mg/kgの用量で、腹腔内注射により、4つの群に投与した。処置では10回の注射を行った。
【0034】
実験結果を表1及び表2ならびに図1及び図2に示す。ヌードマウスに移植された腫瘍(ヒト脳神経膠腫U251)の成長に対する著しい阻害効果をCPTが示したことが分かる。4つの処置群について体重により計算した腫瘍阻害率は、それぞれ30.5%、44.5%、64.8%、及び87.5%であった。対照群と比較して、処置群の腫瘍重量は、有意又は相当有意な統計差を示した。CPTの抗腫瘍効果は、有意に用量依存的であった。5.0mg/kg及び15mg/kgの群についての相対腫瘍成長率T/C(%)の値は、<60であった。15mg/kgの群についての相対腫瘍用量(RTV)は、対照群のものと比較して統計学的に有意な差があった。
【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
<2.ヒト肺癌NCI−H460に対する阻害効果>
シクロホスファミド(Shanghai Hualian Pharma Inc.、中華人民共和国)をポジティブコントロールとして用い、100mg/kgの用量で腹腔内注射により投与した。2週間後、80mg/kgでさらに1回注射をおこなった。CPTを、1.7mg/kg、5.0mg/kg、及び15.0mg/kgのそれぞれの用量で、3つの処置群に対して与え、1日1回、腹注により投与した。処置は、合計10回の注射に及んだ。
【0038】
実験結果を表4及び表5ならびに図3及び図5に示す。ヌードマウスに移植された腫瘍(ヒト肺癌NCI−H460)の成長に対する著しい阻害効果をCPTが示したことが分かる。3つの処置群について体重により計算した腫瘍阻害率は、それぞれ52.2%、74.5%、及び87.0%であった。対照群と比較して、処置群の腫瘍重量は、有意又は相当有意な統計差を示した。5.0mg/kg及び15mg/kgの群についての相対腫瘍成長率(%)の値は、<60であった。相対腫瘍用量(RTV)は、対照群のものと比較して統計学的に有意な差があった。
【0039】
【表4】

【0040】
【表5】

【0041】
組織病理学的試験の結果を図4−1から図4−6に示した。図4−1、図4−3、及び図4−5は、ネガティブコントロールのものであった。図4−1は、腫瘍組織が広がり、束のようになっていることを示した。大きな液化性のネクローシスが腫瘍の中心部分にあった。腫瘍は、薄い結合組織膜によって囲まれ、またリンパ球によってあまり浸潤されていなかった。図4−3は、腫瘍細胞が固まった束のような構造及び綱のような構造に配置されることを示した。腫瘍組織は、毛細血管が多く、リンパ球による浸透はおこらなかった。図4−5は、腫瘍細胞は円形又は多角であり、大きな核を有し、細胞質が少ししかないことを示した。クロマチンの凝縮状態はルーズであり、核小体が明瞭であって、2ないし3の核小体があるなど、細胞分裂を示す複数の兆候を示した。図4−2、図4−4、及び図4−6は、15mg/kgのCPTにより処置された群に関するものであった。図4−2は、腫瘍組織が固まった束であり、シート状のネクローシスが中心部に現れたことを示した。腫瘍には非常に増殖した結合組織が存在し、又は腫瘍の周りに薄い結合組織包膜が存在した。腫瘍は、リンパ球による浸潤が不十分であった。図4−4では、腫瘍細胞が綱状構造に配置された。腫瘍組織は毛細血管が少なく、中央部分にネクローシスが現れていた。腫瘍組織は結合組織包膜によって囲まれ、わずかなリンパ球が浸透した。図4−6は、腫瘍細胞は円形又は多角であり、大きな核小体を有し、細胞質が少ししかないことを示した。クロマチンの凝縮状態はルーズであり、さらに細胞分裂の兆候を有した。腫瘍は、ほとんど毛細血管を持たず、多数の点状の小さなネクローシスの塊があった。
【0042】
本発明の医薬品がヒト肺癌NCI−H460細胞に対して強い阻害効果を有していることが明らかである。
【0043】
<3.ヒト大腸癌COLO205の成長に対する阻害効果>
注射用ヒドロキシカンプトセシン(商品名:喜素、Wuhan Lishizhen Pharmaceuticals Inc.、ならびにHuangshi Lishizhen Pharmaceuticals Group、中華人民共和国)をポジティブコントロールとして用い、1日1回、1mg/kgの用量で腹腔内注射により投与した。連続15日間にわたる投与後に、投与を止めた。腫瘍の成長が著しいことが観察され、そのため、ヒドロキシカンプトセシンを8日後100mg/kgの用量で腹腔内注射によりさらに1週間投与した。2週間後、80mg/kgのヒドロキシカンプトセシンの1回投与をさらにおこなった。CPTを1日1回、腹腔内注射で、それぞれ1.7mg/kg、5.0mg/kg、及び15.0mg/kgの用量で3つの処置群に与えた。処置は、合計15回の注射を含んだ。
【0044】
実験結果を表6及び表7ならびに図6及び図7−1から図7−5に示した。ここで、図7−1はネガティブコントロール、図7−2は15.0mg/kgのCPTによる処置群、図7−3は5.0mg/kgのCPTによる処置群、図7−4は1.7mg/kgのCPTによる処置群、さらに図7−5はヒドロキシカンプトセシンによるポジティブコントロールについてである。結果は、ヌードマウスでの移植された腫瘍(ヒト大腸菌COLO205)の成長に対する有意な阻害をCPTが表したことを示している。処置5日後に高用量のCPTによって処置された群で、腫瘍のサイズが有意に減少した。いくつかの腫瘍は、投与回数が増すことで、さらに消失した。それらのマウスに対する観察を投与終了後4週間にわたっておこない、動物の1/3に何ら腫瘍は観られなかった。それらのマウスの全体的な解剖学的検査によって、皮膚下の接種のいくつかの徴候のみを見いだした。3つの処置群の重量による腫瘍の阻害率は、それぞれ79.6%、90.8%、及び97.4%であった。対照群と比較して、処置群全ての腫瘍重量は、有意又は相当有意な統計学的差を示した。全ての処置群の相対腫瘍成長率T/C(%)値は、<60であった。相対腫瘍体積(RTV)は、対照群のものと比較して統計学的に非常に有意な差があった。具体的には、高用量のCPTで処置した群のT/C(%)値は<10であり、CPTがこの種の腫瘍に対して高い活性を有することを示している。
【0045】
【表6】

【0046】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0047】
テトラゾリウム還元法(MTT)アッセイを用いて、医薬品の抗癌作用を測定した。医薬品の細胞阻害率及び異なる濃度をプロットすることによって用量依存曲線を作り、さらに50%の阻害率を示す濃度(IC50)を計算した。多くのヒト腫瘍細胞株に対する観察は、CPT製剤が腫瘍細胞の成長に対してかなり有意な阻害効果を持つことを証明する。CPTは、ヒト肺癌、大腸癌、乳癌、胃癌、膵臓癌、神経膠腫、血液細胞癌、膀胱癌、精巣癌、直腸癌、子宮頸癌、及び脳腫瘍細胞を含む10種類を越える腫瘍細胞に対して、かなり有意な試験管内での致死活性を生ずる。U251(ヒト脳神経膠腫細胞)、COLO205(ヒト大腸癌細胞)、MCI−H460(ヒト肺癌細胞)、及びMDA−MB−435(ヒト乳癌細胞)に対するCPTの50%の阻害率を示す濃度(IC50)は、<0.01μg/mlである。HL−60(ヒト前骨髄球性白血病細胞)、MDA−MB−231(ヒト乳癌細胞)、PC−3(ヒト脾臓癌細胞)、及びH125(ヒト肺癌細胞)に対するCPTのIC50は、<0.1μg/mlである。RPMI8226(ヒト多発性ミエローマ細胞)に対するCPTのIC50は、<1μg/mlである。CPTはまた、SCLC(ヒト小細胞肺癌細胞)の成長に対してある程度の阻害効果を示す。
【0048】
生体内実験結果は、15mg/kg/日の用量でCPTの腹腔内投与を10〜15日間連続しておこなうことで、ヒト大腸癌COLO205、ヒト肺癌NCI−H460、ヒト神経膠腫U251等を含む腫瘍細胞の成長に対して、かなり有意な阻害効果を表したことを示す。
【0049】
いずれの医薬品も投与されなかった陰性対照群と比較して、CPTは動物での腫瘍の成長を有意に遅くすることができ、移植腫瘍の成長初期段間での高用量投与は、腫瘍の容積を減少させるか、腫瘍を消し去ることさえも可能である。CPTの効果は、明らかに用量依存性である。また、その有効性は、ある程度、処置過程と関連している。ヒト大腸癌COLO205を移植されたヌードマウス・モデルでは、たとえ投与を止めてから4週間であっても投与前の腫瘍サイズよりも依然として腫瘍サイズが小さいことが観察された(マウスは15mg/kg/日の用量でCPT注射を連続15日間にわたって受けた)。腫瘍の存在は、1/3の動物で接種部位において確認することができず、接種によって生じた徴候のみが解剖学的分析の過程で観察された。
【0050】
全てのデータは、CPTの投与がヌードマウスでの移植ヒト腫瘍の成長に対して有意な阻害効果を表したことを示した。対照群と比較して、U251に関しては、腫瘍重量に基づいた15mg/kgCPTの阻害率がそれぞれ87.5%及び87.7%、NCI−H460に関しては、阻害率がそれぞれ87.0%及び88.8%、COLO205に関しては、阻害率がそれぞれ97.4%及び97.8%であり、統計学的に相当の有意差があることを示した。3つのモデルを用いて、この発明の実験をおこなった。結果は、3つの動物モデルの相対腫瘍体積(RTV)がネガティブコントロールのものに対して統計学的な有意差を示し、ここでは動物に対してCPTを10〜15日間にわたって5.0mg/kgの用量で連続的に投与した。15mg/kgのCPTによる処置を受けた群に関するデータは、ネガティブコントロールのものと比べて相当の有意差があり、ここでは全てのT/C(%)値が25未満であり、しばしば10未満であることもあり、このことはCPTが高い抗腫瘍活性を有すること、また実験が良好な再現性を有することを示した。
【0051】
CPTは、動物に対して明らかな副作用又は毒作用をなんら示さなかった。マウスの生存状態に関するパラメータ、例えば処置群の体重及び生存率での有意差は、処置を受けたマウスの腫瘍サイズが小さかったことを除けば、ネガティブコントロールのものとの比較で観察されなかった。上記のことから、CPTは腫瘍細胞に対して有意な選択的阻害効果を有し、CPTは正常組織の細胞のアポトーシスを引き起こさないことが示された。したがって、癌を処置するための有効かつ安全な医薬品として、CPTを使用することが可能である。CPTは、理論上及び産業上重要であり、その市場に明るい未来を持つ。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】異なる処置条件下でのヒト神経膠腫U251の腫瘍体積曲線を示す。
【図2】異なる処置条件下でのヒト神経膠腫U251の腫瘍サイズを示す。
【図3】異なる処置条件下でのヒト肺癌NCI−H460の腫瘍体積曲線を示す。
【図4】図4−1から図4−6は、異なる処置条件下でのヒト肺癌NCI−H460の組織病理学的切片を示す(HE染色、100倍)。
【図5】異なる処置条件下でのヒト肺癌NCI−H460の腫瘍サイズを示す。
【図6】異なる処置条件下でのヒト大腸癌COLO205の腫瘍体積曲線を示す。
【図7】図7−1から図7−5は、ヒト大腸癌COLO205を接種した後に異なる処置が施されたBALB/c−nuヌードマウスを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗癌作用を持つ組換えタンパク質であって、
(1)配列表に示す配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質と、
(2)配列番号2との配列相同性が90%を超え、かつ配列番号2の活性と同等の活性を有する、配列番号2に由来するタンパク質と、
(3)配列番号2のアミノ酸配列のN末端での15残基以下のアミノ酸残基の付加又は欠失によって得られ、かつ配列番号2の活性と同等の活性を有する、配列番号2に由来するタンパク質と、
(4)配列番号2のアミノ酸配列のC末端での15残基以下のアミノ酸残基の付加又は欠失によって得られ、かつ配列番号2の活性と同等の活性を有する、配列番号2に由来するタンパク質と、
(5)配列番号2のアミノ酸配列にある1残基又は数残基のアミノ酸残基の置換、欠失、又は付加によって得られ、かつ配列番号2の活性と同等の活性を有する、配列番号2に由来するタンパク質と、からなる群から選択される組換えタンパク質である、抗癌作用を持つ組換えタンパク質。
【請求項2】
前記タンパク質が配列表に示す配列番号2である、請求項1に記載の組換えタンパク質。
【請求項3】
抗癌作用を持つ組換えタンパク質をコードする遺伝子であって、
(1)配列表に示す配列番号1と、
(2)配列表に示す配列番号2のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと、
(3)配列番号1によって定義されるDNA配列との配列相同性が90%を超え、かつ配列番号1によってコードされるタンパク質と同等の活性を有するタンパク質をコードするDNA配列と、
(4)配列番号2に由来するタンパク質をコードするDNA配列であり、配列番号2に由来する前記タンパク質が、配列番号2のアミノ酸配列のN末端での15残基以下のアミノ酸残基の付加又は欠失によって得られ、かつ配列番号2によってコードされるタンパク質と同等の活性を有するDNA配列と、
(5)配列番号2に由来するタンパク質をコードするDNA配列であり、配列番号2に由来する前記タンパク質が、配列番号2のアミノ酸配列のC末端での15残基以下のアミノ酸残基の付加又は欠失によって得られ、かつ配列番号2によってコードされるタンパク質と同等の活性を有するDNA配列と、
(6)配列番号2に由来するタンパク質をコードするDNA配列であり、配列番号2に由来する前記タンパク質が、配列番号2のアミノ酸配列にある1残基又は数残基のアミノ酸残基の置換、欠失、又は付加によって得られ、かつ配列番号2によってコードされるタンパク質と同等の活性を有するDNA配列と、からなる群から選択される遺伝子である、抗癌作用を持つ組換えタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項4】
前記遺伝子が配列表に示す配列番号1である、請求項3に記載の遺伝子。
【請求項5】
請求項1に記載の組換えタンパク質を活性成分として含む、癌を治療するための医薬品。
【請求項6】
前記タンパク質が配列表に示す配列番号2である、請求項5に記載の医薬品。
【請求項7】
ヒトに許容される薬学的に許容できる担体をさらに含む、請求項5又は6に記載の医薬品。
【請求項8】
請求項4に記載の遺伝子を含む、発現ベクター。
【請求項9】
請求項4に記載の遺伝子を含む、細胞株。
【請求項10】
癌を治療するための医薬品に用いる、請求項1に記載の組換えタンパク質の使用。
【請求項11】
癌を治療するための医薬品に用いる、請求項2に記載の組換えタンパク質の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

image rotate


【公表番号】特表2007−536891(P2007−536891A)
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−510086(P2005−510086)
【出願日】平成15年11月3日(2003.11.3)
【国際出願番号】PCT/CN2003/000928
【国際公開番号】WO2005/042744
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(506152829)北京沙東生物技術有限公司 (1)
【Fターム(参考)】