説明

抗癌剤増感剤

【課題】安全性および安定性に優れ、低濃度で癌細胞の抗癌剤感受性を増強する抗癌剤増感剤を提供すること。
【解決手段】本発明の抗癌剤増感剤は、S−ニトロソ基含有アルブミンを有効成分として含有する。本発明はまた、抗癌剤増感剤と抗癌剤とを含有する、医薬用組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤増感剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高濃度の一酸化窒素(NO)はアポトーシスを誘導することが知られている。この現象を利用し、化学修飾によりNOを多量にヒト血清アルブミン(HSA)に付加して得られたS−ニトロソ基含有HSA(SNO−HSA)を癌細胞に投与することにより、癌を治療する試みが報告されている(特許文献1)。HSAは内因性の物質であるため、SNO−HSAを体内に投与しても、副作用が少なく、ニトロソ基も安定して存在することから、SNO−HSAは有効な抗癌剤として期待されている。しかし、癌を効果的に治療するには10mg/mL程度以上のSNO−HSAが必要とされる。
【0003】
ところで、抗癌剤による癌の薬物療法において、多剤併用療法のように、副作用の異なる複数の抗癌剤を併用して各薬物の副作用を軽減するとともに、各薬物の使用量を少量に抑える試みが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−57318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、安全性および安定性に優れ、低濃度で癌細胞の抗癌剤感受性を増強する抗癌剤増感剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、S−ニトロソ基含有ヒト血清アルブミンが高い抗癌剤増感作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明の抗癌剤増感剤は、S−ニトロソ基含有アルブミンを有効成分として含有する。
【0008】
1つの実施態様では、上記S−ニトロソ基含有アルブミンは、2〜10μMの濃度で含有される。
【0009】
本発明はまた、上記抗癌剤増感剤と抗癌剤とを含有する、医薬用組成物を提供する。
【0010】
1つの実施態様では、上記抗癌剤増感剤に含有される上記S−ニトロソ基含有アルブミンは、ヒトに対して2〜10mg/kg・回の量で投与される。
【0011】
1つの実施態様では、上記抗癌剤増感剤と上記抗癌剤とは、同時にまたは別々に投与される。
【0012】
1つの実施態様では、上記抗癌剤はドキソルビシンである。
【0013】
1つの実施態様では、上記抗癌剤は、悪性リンパ腫、肺癌、消化器癌、乳癌、膀胱腫瘍、骨肉腫、脳腫瘍、皮膚癌からなる群より選択される少なくとも1種に適用される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安全性および安定性に優れ、低濃度で癌細胞の抗癌剤感受性を増強する抗癌剤増感剤を提供することができる。本発明の抗癌剤増感剤と抗癌剤とを組み合わせることによって、高い抗癌作用を有する医薬品組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】K562およびK562/dxに対するdxの増殖阻害効果を示すグラフである。
【図2】K562およびK562/dxに対するdxおよび/またはSNO−HSAの増殖阻害効果を示すグラフである。
【図3】K562およびK562/dxに対するSNO−HSAの増殖阻害効果を示すグラフである。
【図4】dxおよび/またはSNO−HSAを投与したK562(a)およびK562/dx(b)由来担癌マウスの癌の進行を経時的に測定した結果を示すグラフである。
【図5】dxおよび/またはSNO−HSAを投与したK562およびK562/dx由来担癌マウスの癌組織におけるHE染色およびアポトーシスが誘導された細胞を示すTUNEL染色の写真である。
【図6】K562およびK562/dxに対するdxおよび/またはSNO−HSAおよび/またはODQの増殖阻害効果を示すグラフである。
【図7】K562およびK562/dxの細胞内のdxの蓄積に対するSNO−HSAの効果を示すグラフである。
【図8】K562およびK562/dxの細胞内のP−gpの発現に対するSNO−HSAの効果を示すグラフである。
【図9】K562の細胞内のHIF−1αの発現に対するSNO−HSAの効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の抗癌剤増感剤は、S−ニトロソ基含有アルブミン(SNO−HSA)を有効成分として含有する。
【0017】
本発明のSNO−HSAとは、少なくとも1つ、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上のS−ニトロソ基が導入されているアルブミンをいう。
【0018】
本発明におけるアルブミンは、天然のアルブミンであってもよいし、遺伝子組換え法によって生産されたアルブミンであってもよい。
【0019】
天然のアルブミンとは、ヒトや哺乳動物などの体内に存在するアルブミンをいい、卵白アルブミンや筋アルブミン(ミオゲン)も含む。
【0020】
遺伝子組換え法によって生産されたアルブミンは、天然のアルブミンと同等の機能を有する限り、天然のアルブミンのアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるアルブミンも含む。例えば、天然のアルブミンのアミノ酸配列中の410番目のアルギニンをシステインに置換したアルブミンが挙げられる。
【0021】
本発明のSNO−HSAは、天然のSNO−HSAであってもよいし、人為的にS−ニトロソ基をアルブミンに導入して得られたSNO−HSAであってもよい。
【0022】
S−ニトロソ基は、アルブミンを構成するアミノ酸中に存在する硫黄原子、例えば、チオール基における硫黄原子がニトロソ基で置換されることにより、アルブミンに導入される。チオール基を含有するアミノ酸としては、例えば、システイン、シスチン、メチオニンが挙げられる。
【0023】
通常、天然のアルブミンは35個のシステインを含有し、そのうち34個はアルブミンの二次構造の形成のためにジスルフィド結合を形成している。このため、例えば、天然のアルブミンにシステインのチオール基を介してS−ニトロソ基を導入する場合には、ジスルフィド結合に関与しない1個のシステインにS−ニトロソ基を導入することができる。
【0024】
アルブミンのチオール基に人為的にS−ニトロソ基を導入する方法としては、特に限定されず、当該分野で公知の方法が挙げられる。例えば、ニトロソ化試薬(亜硝酸イオン、イソアミルナイトライト、n−ブチルナイトライトなど)を用いる方法が挙げられる。
【0025】
アルブミンに人為的にチオール基を導入して、このチオール基にS−ニトロソ基を導入することもできる。アルブミンに人為的にチオール基を導入する方法としては、特に限定されず、当該分野で公知の方法が挙げられる。例えば、チオール化試薬(2−イミノチオランまたはその塩など)を用いて、リジンのε−アミノ基にチオール基を導入する方法が挙げられる。
【0026】
本発明の抗癌剤増感剤の投与経路としては、特に限定されないが、例えば、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、経皮、経粘膜、経口、吸入が挙げられ、好ましくは非経口投与経路、より好ましくは注射による投与経路である。
【0027】
本発明の抗癌剤増感剤の剤形としては、特に限定されないが、例えば、注射剤、パッチ剤、パップ剤、点眼剤、点鼻剤、噴霧剤、錠剤、カプセル剤、トローチ、舌下錠、クリーム剤、ローション剤、粉剤が挙げられる。
【0028】
特に、注射剤とする場合には、SNO−HSAを含有する溶液または懸濁液とすればよく、さらに、例えば、pH調整剤、電解質、糖類、ビタミン類、薬理学的に許容される塩もしくは脂肪酸および/またはアミノ酸などの当該分野で通常用いられる添加剤を適宜添加してもよい。
【0029】
溶液または懸濁液とする場合には、例えば、日本薬局方で規定される水(注射用水)、生理食塩水、各種緩衝液(例えば、リン酸緩衝液)などを用いることができる。
【0030】
pH調節剤としては、一般に注射剤のpH調節剤として用いられるものであればよい。例えば、クエン酸、酒石酸、酢酸、乳酸などの有機酸、例えば、塩酸、リン酸などなどの無機酸、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの無機塩基が挙げられる。
【0031】
電解質としては、従来より輸液に用いられている各種水溶性塩を用いることができる。例えば、生体の機能や体液の電解質バランスを維持するうえで必要とされる各種無機成分(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン)の水溶性塩(例えば、塩化物、硫酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩、乳酸塩)が挙げられる。
【0032】
糖類としては、従来より各種の輸液に用いられているものを用いることができる。例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトースなどの単糖類、ラクトース、マルトースなどの二糖類、グリセロールなどの多価アルコール、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなどの糖アルコール、デキストラン40またはデキストラン80などのデキストラン類、蔗糖が挙げられる。
【0033】
ビタミン類としては、水溶性/脂溶性の各種ビタミンを用いることができる。例えば、ビタミンA、プロビタミンA、ビタミンD、プロビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6群、パントテン酸、ビオチン、ミオ−イノシトール、コリン、葉酸、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンPまたはビタミンUが挙げられる。
【0034】
薬理学的に許容される塩もしくは脂肪酸としては、例えば、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属、ギ酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、カプリル酸、コハク酸、リンゴ酸などの有機酸、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシククロヘキシルアミンなどの有機塩基が挙げられる。
【0035】
アミノ酸としては、例えば、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリンが挙げられる。また、N−アセチルメチオニンなどのアミノ酸誘導体を添加してもよい。
【0036】
本発明の抗癌剤増感剤は、通常の製剤学的方法に従って製造することができる。すなわち、水、各種緩衝液、一般に市販されている輸液(例えば、総合アミノ酸輸液、電解質輸液)またはそれらと同様の成分を含む水溶液などに、pHが4.5〜8.7程度となるように、SNO−HSAを希釈および/または溶解することによって製造することができる。
【0037】
本発明の抗癌剤増感剤に含有されるSNO−HSAの濃度は、通常0.5〜10μM、好ましくは2〜10μMである。
【0038】
本発明の抗癌剤増感剤と併用する抗癌剤としては、特に限定されないが、例えば、アクチノマイシンD、カンプトテシン、シスプラチン、ドキソルビシン、エトポシド、5−フルオロウラシル、マイトマイシンC、シクロホスファミドが挙げられる。抗癌剤が適用される癌としては、特に限定されないが、例えば、悪性リンパ腫、肺癌、消化器癌、乳癌、膀胱腫瘍、骨肉腫、脳腫瘍、皮膚癌が挙げられる。
【0039】
これらの抗癌剤の単独投与は、癌細胞において薬剤排出機能を有するP糖タンパク質(P−gp)の発現を誘導し、癌細胞が抗癌剤を細胞外に排出することにより抗癌剤耐性を獲得するが、本発明の抗癌剤増感剤の有効成分であるSNO−HSAは、癌細胞におけるP−gpの発現を阻害し、癌細胞における抗癌剤の細胞外排出を阻害することにより、抗癌剤耐性を克服する。
【0040】
本発明はまた、上記抗癌剤増感剤と抗癌剤とを含有する、医薬用組成物を提供する。本発明の医薬用組成物の剤形、製造方法などは、特に限定されず、本発明の抗癌剤増感剤に準じる。
【0041】
本発明の医薬用組成物の投与において、抗癌剤増感剤は、有効成分のSNO−HSAがヒトに対して通常1〜10mg/kg・回、好ましくは2〜10mg/kg・回の量となるように投与される。抗癌剤増感剤は、SNO−HSAがヒトに対して10mg/kg・回の量となるように投与される場合、通常1〜2回/週、好ましくは2回/週投与される。
【0042】
本発明の医薬用組成物の投与方法としては、特に限定されず、上記抗癌剤増感剤と抗癌剤とを同時に投与してもよく、抗癌剤増感剤と抗癌剤とを別々に投与してもよい。別々に投与する場合は、抗癌剤増感剤を先に投与し、抗癌剤を後に投与してもよいし、抗癌剤を先に投与し、抗癌剤増感剤を後に投与してもよい。上記抗癌剤増感剤の投与と抗癌剤の投与との間隔は、通常2〜6時間以内、好ましくは2〜3時間以内である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0044】
(参考例1:in vitro試験)
ヒト慢性骨髄性白血病細胞株(K562)およびK562の抗癌剤ドキソルビシン(dx)耐性細胞株(K562/dx)(熊本大学医学薬学研究部細胞機能分子解析学分野にて作製した。K562を500nMのdx(SIGMA社)存在下で60日間培養し、生き残った細胞株をK562/dxとした。)を培地(RPMI−1640/10%FCS/抗生物質−抗真菌剤混合溶液;ナカライテスク株式会社)に懸濁し、それぞれ1×10細胞を96穴プレートの各穴に播種した。次いで、各穴にdx(最終濃度:0.5μM、1μM、5μM、10μMおよび50μM)を添加し、細胞を5%COインキュベーター内で37℃にて24時間培養した。次いで、各穴にWST−8試薬(同仁化学株式会社)10μLを添加し、2〜3時間後に450nmにて各穴の吸光度を測定した。コントロール(dx無添加)の吸光度に対する割合(%)を生存率として算出した。結果を図1に示す。
【0045】
図1より明らかなように、1〜50μMのdxは、K562の増殖を阻害したが、562/dxの増殖をほとんど阻害しなかった。このことから、K562/dxはdx耐性を有することが確認できた。
【0046】
(調製例1:SNO−HSAの調製)
特許文献1の実施例1に記載の方法により、アルブミン1分子あたりS−ニトロソ基が約7個導入されたS−ニトロソ基含有アルブミン(SNO−HSA)の濃度が1mMの滅菌水溶液を調製した。
【0047】
(実施例1:in vitro試験)
K562およびK562/dxを培地(RPMI−1640/10%FCS/抗生物質−抗真菌剤混合溶液)に懸濁し、それぞれ1×10細胞を96穴プレートの各穴に播種した。次いで、各穴に上記調製例1で調製したSNO−HSA(最終濃度:0μM(無添加)、0.5μM、5μMおよび10μM)を添加し、細胞を5%COインキュベーター内で37℃にて2時間培養した。さらに、各穴にdx(最終濃度:0μM(無添加)および5μM)を添加し、細胞を5%COインキュベーター内で37℃にて24時間培養した。次いで、各穴にWST−8試薬10μLを添加し、2〜3時間後に450nmにて各穴の吸光度を測定した。コントロール(SNO−HSA無添加,dx無添加)の吸光度に対する割合(%)を生存率として算出した。結果を図2に示す。
【0048】
図2より明らかなように、5μMのdxはK562/dxの増殖をほとんど阻害しなかったが、5μMのdxと0.5〜10μMのSNO−HSAとの併用はSNO−HSAの濃度依存的にK562/dxの増殖を阻害した。
【0049】
(比較例1:in vitro試験)
K562およびK562/dxを培地(RPMI−1640/10%FCS/抗生物質−抗真菌剤混合溶液)に懸濁し、それぞれ1×10細胞を96穴プレートの各穴に播種した。次いで、各穴にSNO−HSA(最終濃度:0.5μM、5μM、10μM、25μMおよび50μM)を添加し、細胞を5%COインキュベーター内で37℃にて24時間培養した。次いで、各穴にWST−8試薬10μLを添加し、2〜3時間後に450nmにて各穴の吸光度を測定した。コントロール(SNO−HSA無添加)の吸光度に対する割合(%)を生存率として算出した。結果を図3に示す。
【0050】
図3より明らかなように、0〜10μMのSNO−HSAは、K562およびK562/dxの増殖をほとんど阻害しなかったが、10〜50μMのSNO−HSAは濃度依存的にK562/dxの増殖を阻害した。
【0051】
図2および図3より、0.5〜10μMのSNO−HSAはK562/dxのdx耐性を克服し、dxの抗癌効果を回復させることがわかった。
【0052】
(実施例2:in vivo試験)
K562およびK562/dxそれぞれ2×10細胞を培地(RPMI−1640/10%FCS/抗生物質−抗真菌剤混合溶液)0.1mLに懸濁し、Matrigel(登録商標)(Becton, Dickinson and Company社製)0.1mLと混合後、BALB/cA Jcl−nu/nuマウス(4週齢、雌)の後肢皮下に移植して担癌マウスを作製した。
【0053】
K562またはK562/dxに由来する担癌マウスに対して、dx(4mg/kg;腹腔注射)、SNO−HSA(2mg/kg;静脈注射)、またはdx(4mg/kg;腹腔注射)/SNO−HSA(2mg/kg;静脈注射)を投与し、経時的に癌の体積を測定した。結果を図4に示す。
【0054】
図4より明らかなように、dxのみの投与はK562/dx由来担癌マウスの癌の進行をほとんど阻害しなかったが、dxとSNO−HSAとの併用投与はK562/dx由来担癌マウスの癌の進行を阻害した。このことから、SNO−HSAはK562/dx由来担癌マウスのdx耐性を克服し、dxの抗癌効果を回復させることがわかった。
【0055】
次に、抗癌剤を投与して42日後のマウスから癌組織を取り出し、組織切片を調製し、アポトーシスが誘導された細胞を、TUNEL染色キット(In Situ Cell Death Detection Kit, Fluorescein, Boehringer Mannheim;Roche社)を用いて検出した。結果を図5に示す。
【0056】
図5より明らかなように、dxのみの投与はK562/dx由来担癌マウスでアポトーシスをほとんど誘導しなかったが、dxとSNO−HSAとの併用投与はK562/dx由来担癌マウスでアポトーシスを誘導した。このことから、SNO−HSAはK562/dxのdx耐性を克服し、dxの抗癌効果を回復させることがわかった。
【0057】
(実施例3:SNO−HSAによるdx耐性克服のメカニズム解析1)
K562/dxを培地に懸濁し、1×10細胞を96穴プレートの各穴に播種した。次いで、各穴にSNO−HSA(最終濃度:0μM(無添加)および10μM)および1H−[1,2,4]オキサジアゾール[4,3−a]キノキサリン−1−オン(ODQ)(SIGMA社)(最終濃度:0μM(無添加)、0.01μM、1μMおよび100μM)を添加し、細胞を5%COインキュベーター内で37℃にて2時間培養した。さらに、各穴にdx(最終濃度:0μM(無添加)および5μM)を添加し、細胞を5%COインキュベーター内で37℃にて24時間培養した。次いで、各穴にWST−8試薬10μLを添加し、2〜3時間後に450nmにて各穴の吸光度を測定した。コントロール(SNO−HSA無添加,ODQ無添加,dx無添加)の吸光度に対する割合(%)を生存率として算出した。結果を図6に示す。
【0058】
図6より明らかなように、cGMP経路の阻害剤であるODQがSNO−HSAによるK562/dxのdx耐性克服を阻害したことから、SNO−HSAによるK562/dxのdx耐性克服にはcGMP経路が関与していることが示唆された。
【0059】
(実施例4:SNO−HSAによるdx耐性克服のメカニズム解析2)
K562およびK562/dxを培地に懸濁し、それぞれ5×10細胞を96穴プレートの各穴に播種した。次いで、各穴にSNO−HSA(最終濃度:0μM(無添加)、0.5μM、5μMおよび10μM)を添加し、細胞を5%COインキュベーター内で37℃にて2時間培養した。さらに、各穴にdx(最終濃度:5μM)を添加し、細胞を5%COインキュベーター内で37℃にて24時間培養した。次いで、各穴から細胞を回収し、細胞内に蓄積したdxの蛍光をフローサイトメトリー(Becton Dickinson社製;励起波長:488nm;測定波長:585nm)で解析した。K562(SNO−HSA無添加,dx5μM)の蛍光強度に対する割合(%)を蛍光単位として算出した。結果を図7に示す。
【0060】
図7より明らかなように、5μMのdxと0.5〜10μMのSNO−HSAとの併用はSNO−HSAの濃度依存的にK562/dx細胞内のdxの蓄積を誘導したことから、SNO−HSAによるK562/dxのdx耐性克服にはdxの細胞内蓄積が関与していることが示唆された。
【0061】
(実施例5:SNO−HSAによるdx耐性克服のメカニズム解析3)
K562およびK562/dxを培地に懸濁し、それぞれ1×10細胞を96穴プレートの各穴に播種した。次いで、各穴にSNO−HSA(最終濃度:0μM(無添加)、5μMおよび10μM)を添加し、細胞を5%COインキュベーター内で37℃にて24時間培養した。次いで、各穴から細胞を回収し、細胞内のP糖タンパク質(P−gp)の発現量をウェスタンブロッティングにより解析した。P−gpの検出には、抗P−gpマウス抗体(Santa Cruz Biotechnology社;sc-59591)を用いた。K562/dx(SNO−HSA無添加)のバンドの濃さに対する割合(%)を蛍光単位として算出した。結果を図8に示す。
【0062】
図8より明らかなように、5〜10μMのSNO−HSAはSNO−HSAの濃度依存的にK562/dxでのP−gpの発現を阻害したことから、SNO−HSAによるK562/dxのdx耐性克服にはP−gpの発現阻害が関与していることが示唆された。
【0063】
(実施例6:SNO−HSAによるdx耐性克服のメカニズム解析4)
K562を培地に懸濁し、それぞれ1×10細胞を96穴プレートの各穴に播種した。次いで、各穴にSNO−HSA(最終濃度:0μM(無添加)、5μMおよび10μM)を添加し、細胞を5%COインキュベーター内で37℃にて、酸素濃度20%(通常酸素濃度)または0.1%(低酸素濃度)の条件下で24時間培養した。次いで、各穴から細胞を回収し、細胞内の低酸素誘導因子(Hypoxia Inducible Factor:HIF−1α)の発現量をウェスタンブロッティングにより解析した。HIF−1αの検出には、抗HIF−1αマウス抗体(BD Transduction Laboratories社;610958)を用いた。K562(SNO−HSA無添加,低酸素濃度)のバンドの濃さに対する割合(%)を蛍光単位として算出した。結果を図9に示す。
【0064】
図9より明らかなように、5〜10μMのSNO−HSAはSNO−HSAの濃度依存的に低酸素下のK562でのHIF−1αの発現を阻害したことから、SNO−HSAによるK562/dxのdx耐性克服にはHIF−1αの発現阻害、すなわち低酸素条件の改善が関与していることが示唆された。
【0065】
以上より、SNO−HSAは、dx耐性のK562/dxにおいて、HIF−1αの発現阻害を介して、薬剤排出機能を有するP−gpの発現を阻害することにより、dxの細胞外排出を阻害し、dx耐性を克服することが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、安全性および安定性に優れ、低濃度で癌細胞の抗癌剤感受性を増強する抗癌剤増感剤を提供することができる。本発明の抗癌剤増感剤と抗癌剤とを組み合わせることによって、高い抗癌作用を有する医薬品組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
S−ニトロソ基含有アルブミンを有効成分として含有する、抗癌剤増感剤。
【請求項2】
前記S−ニトロソ基含有アルブミンが、2〜10μMの濃度で含有される、請求項1に記載の抗癌剤増感剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の抗癌剤増感剤と抗癌剤とを含有する、医薬用組成物。
【請求項4】
前記抗癌剤増感剤に含有される前記S−ニトロソ基含有アルブミンが、ヒトに対して2〜10mg/kg・回の量で投与される、請求項3に記載の医薬用組成物。
【請求項5】
前記抗癌剤増感剤と前記抗癌剤とが、同時にまたは別々に投与される、請求項3または4に記載の医薬用組成物。
【請求項6】
前記抗癌剤がドキソルビシンである、請求項3から5のいずれかの項に記載の医薬用組成物。
【請求項7】
前記抗癌剤が、悪性リンパ腫、肺癌、消化器癌、乳癌、膀胱腫瘍、骨肉腫、脳腫瘍、皮膚癌からなる群より選択される少なくとも1種に適用される、請求項3から6のいずれかの項に記載の医薬用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−219050(P2012−219050A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85108(P2011−85108)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2010年10月7日 日本薬物動態学会発行の「日本薬物動態学会第25回年会 要旨集」および2010年11月25日 日本薬学会九州支部発行の「第27回 日本薬学会九州支部大会 講演要旨集」に発表
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】