説明

抗癌療法に対する応答を予測するための組み合わせ方法

本発明は、癌を有する個体においてトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測する方法であって、該方法は、TOP2AとHER2とを含む染色体17q21上のTOP2A/HER2アンプリコン中のDNAの異常、又はTOP2AとErbB2タンパク質発現の異常の測定と組合せて、TIMP−1 DNA異常/TIMP−1タンパク質異常を測定する工程を含む。さらに、該トポイソメラーゼIIαインヒビター療法を使用して、癌を治療する方法が提供される。本発明はまた、癌を有する個体においてトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測する方法の応用のためのキットを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌療法の分野に関する。特に本発明は、様々な種類の抗癌療法に対する応答を予測するための方法に関する。特に本発明は、癌に罹っている個体の治療法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
メタロプロテアーゼ組織阻害因子−1(TIMP−1)
メタロプロテアーゼ組織阻害因子−1(TIMP−1)は、マトリックス金属プロテアーゼ(MMP)の4つの内因性インヒビターの群の1つであり、その遺伝子はX染色体上に存在する。TIMP−1は、ほとんどのMMPに1:1の化学量論比で結合する25kDaのタンパク質である。TIMP−1は種々の組織や体液中に存在し、血小板のα顆粒中に貯蔵され、活性化により放出される。TIMP−1の主要な機能はMMP阻害と考えられているが、TIMP−1のいくつかの代替機能(例えばアポトーシスの阻害と細胞増殖や血管形成の制御)が記載されている。さらにいくつかの研究は、TIMP−1が悪性表現型に至る早期プロセスでも役割を果たしていることを示唆している。
【0003】
本発明者らは、血漿TIMP−1の測定が、早期結腸直腸癌の検出において高い特異性と高い感度を与えることを記載した。さらに本発明者は、術前又は術後試料中の血漿TIMP−1レベルの測定が、早期結腸直腸癌患者において、強くかつステージ非依存性の予後情報を与えることを証明した。原発性乳癌組織中のTIMP−1タンパク質を測定することにより、本発明者らは、腫瘍組織の総TIMP−1の高レベルが、患者生存期間の短さに関連していることを証明した。
【0004】
アポトーシスの制御におけるTIMP−1の役割が報告されており、このうち可能性のある2つの方法が示唆されている。これらの両方とも、TIMP−1がアポトーシスを阻害するという考えを支持している。
【0005】
第1に、細胞外マトリックスのタンパク質分解は、インビトロとインビボの両方で乳房上皮細胞中の分化の喪失とアポトーシスとを引き起こす。これは、細胞外マトリックスの完全性と細胞−マトリックス相互作用の防御とが、乳房上皮の生存を確実にするのに決定的に重要な要因であることを示す。MMPの阻害を通して、TIMP−1は細胞外マトリックスの分解を阻害することができ、こうしておそらくアポトーシスを阻害する。乳腺中にMMP−3を過剰発現したマウスとTIMP−1トランスジェニックマウスとを交配することにより、Alexanderと共同研究者は、MMP−3に誘導される乳房上皮のアポトーシスがTIMP−1により低下することを観察して、TIMP−1のそのようなアポトーシス阻害作用を証明した。単なる基底膜の分解が、タンパク質分解活性で誘導されるアポトーシスの原因である可能性もあるが、インテグリン介在シグナル伝達が一翼を担っていることも推測されている。
【0006】
第2に、MMP阻害とは独立に起きるTIMP−1のアポトーシス阻害作用も証明されている。ヒトの乳房上皮細胞では、細胞接着の排除により誘導されるアポトーシスを阻害する内因性TIMP−1の能力が証明されている。これはTIMP−1が、細胞外マトリックスや細胞−マトリックス相互作用を安定化することなく、アポトーシスから細胞をレスキューできることを示している。アポトーシスの阻害におけるMMP阻害の独立性は、低下しアルキル化されたTIMP−1(これは、すべてのMMP阻害作用を喪失している)が、バーキットリンパ腫細胞株のアポトーシスをまだ有効に阻害するという事実により支持される。このアポトーシス阻害作用の機序は現在不明であるが、おそらくTIMP−1により制御されるシグナル伝達経路に関して、異なる考えが提案されている。ヒト乳房上皮細胞中のTIMP−1の過剰発現は、接着斑(focal adhesion)キナーゼ(通常は細胞生存のシグナル伝達に関与しているキナーゼ)のより効率的な活性化と構成性活性に関連している。またバーキットリンパ腫におけるTIMP−1タンパク質発現のアップレギュレーションは、抗アポトーシスタンパク質Bcl−XLの発現を上昇させた。バーキットリンパ腫細胞中のTIMP−1の抗アポトーシス作用が、分泌されたTIMP−1のモノクローナル抗体による中和により排除されるため、細胞シグナル伝達の調節が、TIMP−1と細胞表面受容体との相互作用を介して仲介されることが推測された。この見解は、乳房上皮細胞の表面に局在化するCD63へのTIMP−1の結合を証明する研究により、さらに支持されている。
【0007】
従ってTIMP−1は、2つの異なる機序によりアポトーシスを阻害することができるようである。MMPを阻害することにより、TIMP−1は細胞外マトリックスと細胞−マトリックス相互作用とを安定化し、こうして細胞外マトリックスの分解により誘導されるアポトーシスを阻害する。しかしTIMP−1はまた、細胞外マトリックスのタンパク質分解を阻害する能力には依存しない機序を介してアポトーシスを阻害する。この後者の機序は、アポトーシスに関与する細胞内シグナル伝達経路を制御する、細胞表面上の受容体とのTIMP−1の相互作用により仲介される可能性がある。
【0008】
本発明者らによる2つの臨床研究は、TIMP−1タンパク質測定の予測的価値を示唆している(Schrohl et al., 2006 and Sorensen et al. 2007)。Schrohl et al.による研究では、TIMP−1タンパク質はELISAを使用して乳癌抽出物中で測定された。著者らは、TIMP−1タンパク質の高レベルが、転移性乳癌患者における化学療法に対する応答の欠如に関連していることを記載する。Sorensen et al.による研究では、著者らは、ELISAにより測定される血漿TIMP−1タンパク質レベルの予測的価値を記載している。この試験の結果は、転移性結腸直腸癌を有し高レベルの血漿TIMP−1を有する患者が、血漿中のTIMP−1タンパク質レベルが低い患者と比較して、イノテカンに基づく化学療法後に、客観的応答率が低下し生存率が低下していることを示す。これらの2つの研究は、TIMP−1遺伝子を欠乏させた癌細胞での化学療法に対する感受性の上昇を示す本発明者が作成した前臨床データと一致する(Davidsen et al., 2006)。
【0009】
トポイソメラーゼIIα
TOP2A遺伝子は、染色体17q21上でHER2と同じアンプリコン中に存在し、ここでトポイソメラーゼIIα酵素をコードする。この酵素は、DNAトポロジーの制御に関与し、転写、複製、及び組換えプロセス中の遺伝物質の完全性に重要である。これらのプロセス中、トポイソメラーゼIIαは2本鎖DNAの切断と再結合を触媒する。トポイソメラーゼIIαの発現は細胞サイクル依存性であり、静止細胞株中より指数増殖している細胞中で顕著に高レベルである。酵素量は細胞増殖に相関することが、証明されている。癌遺伝子活性化の主要な遺伝機構は遺伝子の増幅を介し、これはタンパク質の過剰発現を引き起こし、腫瘍に選択的増殖の利益を与える。TOP2A遺伝子の増幅は、乳癌患者の7〜14%で報告され、欠失が同様の頻度で報告されている。比較すると、HER2癌遺伝子は、乳癌患者の20〜30%で増幅されている(Harris et al. 2002)。
【0010】
トポイソメラーゼIIαはアントラサイクリン類の薬理学的標的であり、いくつかの研究は、TOP2A遺伝子の異常(特に増幅)が、原発性乳癌患者でアントラサイクリンに基づく化学療法への応答に対して予測的であることを証明している(Park et al. 2003, Press et al. 2005, Tanner et al. 2005, Knoop et al. 2005)。TOP2A欠失を有する患者についてはほとんどデータが無いが、この患者群で良好な治療結果も観察されている。しかしTOP2A増幅又は欠失について分析しても、乳癌患者集団の約20%しかアントラサイクリン感受性であると同定できない。この数値は、補助アントラサイクリン類が有効であるとされる約50%の高リスク乳癌患者を考慮して見るべきである。
【0011】
ある試験で、TOP2A増幅とトポイソメラーゼIIαタンパク質との有意な相関が見られた。TOP2Aの増幅を有する症例の93%で、トポイソメラーゼIIαタンパク質の過剰発現が存在した。しかし反対に、過剰発現を有する症例のわずかに20%のみが増幅を有した。他の研究は、同様の相関を証明していない(Petit et al. 2004, Mueller et al. 2004, Durbecq et al. 2004)。
【0012】
Jorgensenらは、TOP2AとHER−2遺伝子異常の予測的価値を含む乳癌の治療法選択について、薬理診断的可能性の総説を開示している。この総説は、いくつかの臨床研究が、TOP2A遺伝子異常(特に増幅)のある腫瘍を有する患者は、正常なTOP2A遺伝子状態を有する患者より、アントラサイクリンに基づく化学療法から顕著に良好な作用を受けることを証明したと記載している。WO2007/112746は、TOP2A遺伝子異常を使用して、高リスク乳癌患者について予後的評価を行う方法を開示する。予後的評価を行う方法は、TOP2A遺伝子の異常状態を測定し、測定された状態に対応するあらかじめ決められた危険率又はあらかじめ決められたKaplan-Meierプロットに基づいて、後に患者の再発の無い生存又は全生存率の確率を推定することを含んでなる。予後という用語は、未治療患者の疾患の運命を包含し、従って予後的評価は、予測的評価とは同じではなく、後者は、特定の治療から利益を受ける患者の可能性を包含することは公知である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
すなわち上記より、当該分野には、アントラサイクリン治療から利益を受ける追加の患者を同定できる追加の予測マーカーに対するニーズがある。
【0014】
すなわち本発明の目的は、トポイソメラーゼIIαインヒビター療法(例えば、アントラサイクリンを含むトポイソメラーゼIIαインヒビター療法)による治療のための、患者選択の改善に関する。
【0015】
特に本発明の目的は、トポイソメラーゼIIαインヒビター療法から利益を受ける可能性が高い乳癌患者の適切な比率を同定することを含む、先行技術の上記問題を解決する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
すなわち本発明のある態様は、癌を有する個体においてトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測する方法であって、
【0017】
a.該個体から得られた試料で、該試料に含まれる腫瘍細胞中のTIMP−1タンパク質の欠如、又は該試料の腫瘍細胞中のTIMP−1 DNA異常の存在を測定する工程、
b.染色体17q21上のTOP2A/HER2アンプリコン中の染色体DNAの異常の存在、又は該アンプリコンに含まれる遺伝子の異常タンパク質発現を測定する工程、
c.染色体17q21上のTOP2A/HER2アンプリコン中に染色体DNA異常が存在する場合、及び/又は該アンプリコン中に含まれる遺伝子のタンパク質発現が、該腫瘍細胞中で異常な場合、及び/又は腫瘍細胞にTIMP−1タンパク質が欠如している場合、及び/又は該腫瘍細胞が、TIMP−1遺伝子の対立遺伝子の1つ若しくは両方に該TIMP−1 DNA異常を含む場合は、個体がトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に応答する可能性が高いと分類する工程、そして
d.TOP2A/HER2アンプリコン中に染色体DNA異常が存在しないか、又は該アンプリコンに含まれる任意の遺伝子にコードされるどのタンパク質も、腫瘍細胞中で異常に発現されていない場合、及び腫瘍細胞中にTIMP−1タンパク質が存在する場合、及び/又はTIMP−1対立遺伝子のいずれも該TIMP−1 DNA異常を含まない場合は、個体がトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に応答する可能性が低いと分類する工程、
を含んでなる方法に関する。
【0018】
第2の態様は、癌を有する個体のトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測する方法であって、
【0019】
a.該個体から得られる試料で、該試料中に含まれる腫瘍細胞中にTIMP−1タンパク質が存在しないことを測定する工程、
b.該試料の腫瘍細胞中にTOP2A DNA異常が存在することを測定する工程、
c.TOP2A DNA異常が存在する場合、及び/又は腫瘍細胞にTIMP−1タンパク質が欠如している場合に、個体がトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に応答する可能性が高いと分類する工程、そして
d.TOP2A DNA異常が存在しない場合、及び腫瘍細胞中にTIMP−1タンパク質が存在する場合に、個体がトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に応答する可能性が低いと分類する工程、
を含んでなる方法に関する。
【0020】
ある実施態様において癌は、乳癌、肉腫、卵巣癌、及び肺癌よりなる群から選択される。好適な実施態様において、癌は乳癌である。
【0021】
本発明の別の態様は、ある個体の癌を治療する方法であって、
a.上記請求項のいずれかに従って、トポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測し、
b.該個体が応答する可能性の高いトポイソメラーゼIIαインヒビター療法を選択し、
c.該個体を該トポイソメラーゼIIαインヒビター療法に付す、
ことを含んでなる方法に関する。
【0022】
ある実施態様において、該治療法で使用されるトポイソメラーゼIIαインヒビターは、アントラサイクリン類(例えば4−エピルブリシン)であり、これは、さらなる実施態様において、シクロホスファミド及び5−フルオロウラシル又はタキサンと組合せて使用される。
【0023】
本発明のさらに別の態様は、トポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測するためのキットであって、
a.生物学的試料中の、TOP2A又はHER2 DNA異常のようなTOP2A/HER2アンプリコン中の染色体DNA異常の測定に適した試薬と、
b.生物学的試料中の、TIMP−1 DNA異常の測定又はTIMP−1タンパク質レベルの測定に適した試薬とを、
含んでなるキットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】補助CEFを受けている患者の無病生存率を示すカプランマイヤープロットを示す。患者は、癌細胞中で+又は−免疫反応性としてスコア化された腫瘍細胞TIMP−1免疫反応性に従って層別された。選択された時点でリスクのある患者の数が、x軸の下に示される。
【図1B】補助CMFを受けている患者の無病生存率を示すカプランマイヤープロットを示す。患者は、癌細胞中で+又は−免疫反応性としてスコア化された腫瘍細胞TIMP−1免疫反応性に従って層別された。選択された時点でリスクのある患者の数が、xジクロロの下に示される。
【図1C】CEF又はCMFで治療された癌細胞中にTIMP−1免疫反応性の無い患者の無病生存率を示すカプランマイヤー曲線を示す。
【0025】
【図2A】補助CEFを受けている患者の無病生存率を示すカプランマイヤープロットを示す。患者は、腫瘍細胞TOP2A DNA異常の有無に従って層別された。選択された時点でリスクのある患者の数が、x軸の下に示される。
【図2B】補助CMFを受けている患者の無病生存率を示すカプランマイヤープロットを示す。患者は、腫瘍細胞TOP2A DNA異常の有無に従って層別された。選択された時点でリスクのある患者の数が、x軸の下に示される。
【図2C】CEF又はCMFで治療された癌細胞中にTOP2A DNA異常を有する患者の無病生存率を示すカプランマイヤー曲線を示す。
【0026】
【図3A】補助CEFを受けている患者の無病生存率を示すカプランマイヤープロットを示す。患者は、癌細胞中で+又は−免疫反応性としてスコア化された腫瘍細胞TIMP−1免疫反応性と、TOP2A DNA異常の有り(Ab)又は無し(正常)に従って層別された。選択された時点でリスクのある患者の数が、x軸の下に示される。
【図3B】補助CMFを受けている患者の無病生存率を示すカプランマイヤープロットを示す。患者は、癌細胞中で+又は−免疫反応性としてスコア化された腫瘍細胞TIMP−1免疫反応性と、TOP2A DNA異常の有り(Ab)又は無し(正常)に従って層別された。選択された時点でリスクのある患者の数が、x軸の下に示される。
【図3C】CEF又はCMFで治療された癌細胞中に、TIMP−1免疫反応性が無いか及び/又はTOP2A DNA異常を有する患者の無病生存率を示すカプランマイヤー曲線を示す。
【0027】
【図4A】CMF又はCEFによる治療とHT(HER2とTIMP−1)状態(パネル4A)、及び2T(TOP2AとTIMP−1)状態(パネル4B)の無侵襲性疾患生存率のカプランマイヤー曲線。
【図4B】CMF又はCEFによる治療とHT(HER2とTIMP−1)状態(パネル4A)、及び2T(TOP2AとTIMP−1)状態(パネル4B)の無侵襲性疾患生存率のカプランマイヤー曲線。
【0028】
【図5A】HER2陽性腫瘍とHER2陰性腫瘍、TOP2A DNA異常腫瘍とTOP2A DNA異常ではない(正常)腫瘍、TIMP−1陽性腫瘍とTIMP−1陰性腫瘍、HT応答性腫瘍と非応答性腫瘍、及び2T応答性と非応答性腫瘍との、無侵襲性疾患生存率(パネル5A)と全生存率(パネル5B)比較についての、治療効果の危険率推定を示すフォレストプロット。
【図5B】HER2陽性腫瘍とHER2陰性腫瘍、TOP2A DNA異常腫瘍とTOP2A DNA異常ではない(正常)腫瘍、TIMP−1陽性腫瘍とTIMP−1陰性腫瘍、HT応答性腫瘍と非応答性腫瘍、及び2T応答性と非応答性腫瘍との、無侵襲性疾患生存率(パネル5A)と全生存率(パネル5B)比較についての、治療効果の危険率推定を示すフォレストプロット。
【0029】
【図6】TIMP−1免疫組織化学試験の例を示す。6A:高率の上皮癌細胞がTIMP−1陽性である。6B:上皮癌細胞中の分散した免疫反応性と集中化した免疫反応性。6C:陰性対照。6D:繊維芽細胞中の免疫反応性、しかし上皮癌細胞ではない。
【0030】
【図7A】公知のTIMP−1状態を有する乳癌患者の無侵襲性疾患生存率(IDFS)(図7A)と全生存率(OS)(図7B)の確率。T+とT−は、その乳癌細胞中に、それぞれTIMP−1免疫反応性が有ること及び無いことを意味する。CEFとCMFは、受けた補助化学療法を示す。
【図7B】公知のTIMP−1状態を有する乳癌患者の無侵襲性疾患生存率(IDFS)(図7A)と全生存率(OS)(図7B)の確率。T+とT−は、その乳癌細胞中に、それぞれTIMP−1免疫反応性が有ること及び無いことを意味する。CEFとCMFは、受けた補助化学療法を示す。
【0031】
【図8A】患者のTIMP−1亜集団とER亜集団における、CMFをベースラインとして有するCEFの効果の、多変量モデルからの危険率を示すフォレストプロット。図8A:IDFS;図8B:OS。
【図8B】患者のTIMP−1亜集団とER亜集団における、CMFをベースラインとして有するCEFの効果の、多変量モデルからの危険率を示すフォレストプロット。図8A:IDFS;図8B:OS。
【0032】
【図9】上皮乳癌細胞中のTIMP−1 DNA増幅を示すTIMP−1 FISH解析。
【発明を実施するための形態】
【0033】
乳癌細胞中のTOP2A DNA異常の測定は、化学療法剤処方を含む補助アントラサイクリンからの有効性を予測することができることは公知である(Knoop et al. JCO 2005)。しかし、腫瘍細胞中では原発性乳癌患者の約20%のみしかTOP2A DNA異常を示さないため、この方法は、補助アントラサイクリン治療から利益を受ける可能性が高い、乳癌集団の20%のみしか同定できない。この数値は、原発性乳癌患者の約50%が、アントラサイクリン治療から利益を受けることがわかっていることを考慮して、見るべきである。
【0034】
多くの他の可能性のある予測マーカー(例えばHER2)がTOP2A DNA異常の測定と組合わされているが、同定された亜集団中の無病生存率又は全生存率に関して、これらの2つのバイオマーカーの間に付加的作用は見られない(Knoop et al., JCO 2005)。すなわち、現在TOP2A DNA異常の測定単独よりも、TOP2A DNA異常と組合せた時、アントラサイクリン治療から利益を受けると優れた予測を示すバイオマーカー(DNA、mRNA、又はタンパク質)は存在しない。これは、TOP2AとHER DNA測定を組合せることが、この2つのマーカーのそれぞれにより得られる価値以上に予測価値を改善することは無いことを示す、O'Malley et al. 2009により支持される。
【0035】
転移性乳癌患者から得られる原発性腫瘍中のTIMP−1タンパク質の高腫瘍抽出タンパク質レベルが、化学療法(アントラサイクリンを含まない場合と、アントラサイクリンを含む薬剤組合せ)に対する客観的応答を得る可能性の低下と関連することが、すでに報告されている。この可能性は、TIMP−1の発現が上昇すると低下する。TIMP−1タンパク質はELISAにより測定された(Schrohl et al., Clin. Cancer Res. 2006)。
【0036】
Sorensen et al. Clin Cancer Res 2007は、転移性結腸直腸癌を有する患者に対する化学療法の効果に関する。この研究では、TIMP−1はCEAと組合わされ、CEAの組合せが付加的効果を与えないことを示している。
【0037】
本発明者らは、乳癌細胞におけるTIMP−1免疫反応性の欠如が、補助アントラサイクリン治療から利益を受ける可能性に関連するが、アントラサイクリンを含まない化学療法には関連しないことを、初めて開示する。649人の高リスク乳癌患者を含む後向き研究において本発明者らは、その腫瘍細胞にTIMP−1免疫反応性が欠如しており、アントラサイクリンを含まない化学療法処方(CMF)で補助治療を受けている患者、又はその腫瘍細胞がTIMP−1免疫反応性を示し、アントラサイクリン含有若しくはアントラサイクリンを含まない化学療法で補助治療を受けている患者と比較して、その腫瘍細胞にTIMP−1免疫反応性が欠如している患者が、補助アントラサイクリン治療が最も有益である患者であることを示す。
【0038】
すなわち、本発明は、補助アントラサイクリン治療から利益を受ける可能性の高い高リスク乳癌患者の同定を可能にする:乳癌細胞中のTIMP−1免疫反応性の欠如は、補助アントラサイクリン治療から利益を受ける可能性の高い患者の約20%を同定する。実際には、TIMP−1免疫組織化学試験により、治療から利益を受ける可能性の高い、補助治療を計画されている患者の約20%を同定することができる。一方、TIMP−1免疫組織化学試験はまた、はるかに毒性の低いCMFによる治療でも同様に有効と考えられる、補助アントラサイクリンを含む治療を計画されている患者の約80%の同定を可能にする。あるいはこれらの80%の患者は、乳癌の補助治療で使用されるアントラサイクリン類以外の任意の他の活性薬剤(例えば、タキサン類、メソトレキセート、シクロホスファミド、5−フルオロウラシル、及びゲムシタビン(実施例1))により、治療できるであろう。
【0039】
本発明者らは、同じ腫瘍細胞中のTIMP−1乳癌細胞の免疫反応性測定とTOP2A DNA異常の測定の組合せが付加的予測値を与えること、すなわち2つの試験のそれぞれが、補助アントラサイクリン含有化学療法から利益を受ける可能性の高い患者の約20%を同定し、この2つの患者集団の間には4%の重複しかないため、組合せアッセイの作用は付加的であることを、初めて報告する。
【0040】
すなわち本発明は、補助アントラサイクリン治療から利益を受ける可能性の高いほとんど2倍の乳癌患者の同定を可能にする:TOP2A DNA異常の測定は、補助アントラサイクリン治療から利益を受ける可能性の高い患者の約20%を同定し、TIMP−1免疫反応性欠如の測定が約20%を同定する。実際には、組合せアッセイにより、治療から利益を受ける可能性の高い、補助治療を計画している患者の約40%を同定することができるであろう。一方、組合せアッセイはまた、はるかに毒性の低いCMFによる治療でも同様に有効と考えられる補助アントラサイクリンを含む治療を計画されている患者の約60%の同定を可能にする。あるいはこれらの60%の患者は、乳癌の補助治療で使用されるアントラサイクリン類以外の任意の他の活性薬剤(例えば、タキサン類、メソトレキセート、シクロホスファミド、5−フルオロウラシル、及びゲムシタビン(実施例3))により、治療できるであろう。
【0041】
本発明者らは最近、乳癌細胞中のTIMP−1遺伝子異常(欠失と増幅)を見つけた。
【0042】
本出願は、シクロホスファミド、メソトレキセート、及び5−フルオロウラシル(CMF)、又はシクロホスファミド、4−エピルブリシン、及び5−フルオロウラシル(CEF)を用いる補助治療を受けるように無作為化した641人の乳癌患者における、TOP2A遺伝子異常とTIMP−1タンパク質腫瘍細胞含量の研究を開示する。終点は、無病生存(DFS)であった。この患者群についてすでに報告されたように(Knoop et al.)、CEFが有効性(DFSの延長)について予測的であったが、CMFはそうではなかった。VT7抗TIMP−1モノクローナル抗体を用いるTIMP−1免疫組織化学試験を行うことにより、本発明は、約80%の患者が腫瘍細胞中でTIMP−1免疫反応性を示すことを見いだした。腫瘍の残りの20%は、TIMP−1腫瘍細胞の免疫反応性がなかった。統計的生存解析を行うと、腫瘍細胞中のTIMP−1免疫反応性の欠如は、終点(DFS:患者のより長いDFS)と強く関連していた。これに対して、CMFを投与されている患者では、TIMP−1免疫反応性に関連してDFSの差は観察されなかった。
【0043】
TOP2A分析とTIMP−1分析の結果を組合せると、CEFへの応答を予測するのにこれらの2つのバイオマーカーは付加的であったが、CMF治療患者ではこれらの2つのバイオマーカーの組合せの効果は観察されなかった。付加的作用は、TOP2A遺伝子異常を有する患者とその腫瘍細胞中にTIMP−1免疫反応性が欠如している患者との間にほとんど重複がなかった(4%の重複)という事実に基づく。2つの群はほとんど同じ大きさであり、これらの2つのバイオマーカーの組合せは、それぞれのバイオマーカーの予測的価値の力を失うことなく、CEFレスポンダーとして予測できる患者の数を2倍にした。
【0044】
これは、TOP2A検査とTIMP−1検査の組合せ使用により、補助アントラサイクリン治療が最も有益である患者を同定できることを意味する。一方、組合せ試験はまた、アントラサイクリンを含まない化学療法処方を受けることにより同様に有効と考えられるか、又はおそらく別の薬剤組合せ(例えば、タキサン類を含む組合せ)を受けることによってさらに有効と考えられる約60%の患者を同定するのに使用することもできる。本発明は、TOP2AとHER2を組合せた時の付加的作用の欠如(Knoop et al. 2005)、及び結腸直腸癌の薬剤予測でTIMPとCEAを組合せた時の付加的作用の欠如(Sorensen et al. 2007)を考慮して見るすべきである。
【0045】
当該分野で現在利用可能な方法以外に、乳癌患者について治療有効性の予測を行うための利用可能な方法を拡張するために、そのような予測を行うための新規方法が本明細書で開示され、ここで予測は、腫瘍細胞中のTIMP−1タンパク質又はTOP2A DNA異常の測定とともに、TOP2A遺伝子異常又はTOP2Aタンパク質の測定された状態[ここで「状態」は、異常の有無を意味し、異常が存在するなら、異常の種類(増幅又は欠失)を意味する]に基づく。本発明の実施態様は、患者から採った乳癌組織試料中のTIMP−1遺伝子又はタンパク質の状態とともに、TOP2A遺伝子の異常の状態を測定する工程を含んでよく、そのような試験の結果に基づいて、アントラサイクリンを含まない化学療法と比較して、アントラサイクリンを含む化学療法から利益を受ける可能性を、個々の患者について推定することができる。
【0046】
例えば、癌細胞中にTOP2A異常を有するか及び/又はTIMP−1免疫反応性が欠如している患者は、アントラサイクリンを含む化学療法を受けるべきであり、残りの患者は、アントラサイクリンを投与されてもアントラサイクリン以外を投与されても同様に有効であろう。アントラサイクリンの重い毒性を考えると、患者にはアントラサイクリンを含まない化学療法処方を提供することが正しいであろう。
【0047】
すなわち本発明の方法は、乳癌患者中のTIMP−1腫瘍細胞の反応性の分析を加えることにより、乳癌患者のTOP2A測定の予測価値をほとんど2倍にすることができるという驚くべき発見に依存する。
【0048】
本発明は、癌患者の抗癌療法の有効性を予測する方法に基づき、ここで該抗癌療法の効率は、癌細胞中のTIMP−1免疫反応性の欠如と組合せた腫瘍細胞中の腫瘍組織TOP2A遺伝子異常に依存し、この方法は、患者の腫瘍組織の細胞がTOP2A遺伝子異常を有するか、又はTIMP−1免疫反応性が欠如しているかを測定し、TOP2A DNA異常又はTIMP−1免疫反応性の欠如が観察される場合は、患者は特定の抗癌療法から利益を受ける可能性が非常に高いと確定することを含んでなる。
【0049】
本出願において、抗癌療法は好ましくはトポイソメラーゼIIインヒビター療法を意味する。
【0050】
本発明の予測法は好ましくは、患者の腫瘍組織の細胞がTOP2A遺伝子異常を有するか及び/又はTIMP−1免疫反応性が欠如しているかの測定が、腫瘍組織試料、血液試料、血漿試料、血清試料、尿試料、便試料、唾液試料、及び胸腔及び腹腔からの漿液の試料よりなる群から選択される試料を測定することにより行われることを含む。この測定法は、DNAレベル測定、mRNAレベル測定(例えば、インサイチューハイブリダイゼーション、ノーザンブロッティング、QRT−PCR、及び示差的表示)、及びタンパク質レベル測定(例えば、ウェスタンブロッティング、免疫組織化学試験、免疫細胞学試験、ELISA、及びRIA)により、便利に行われる。
【0051】
個々の患者のトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する耐性/感受性を決定できるように、TIMP−1タンパク質の閾値レベルを確立するために、後向き/前向き臨床治験を行うことができる。
【0052】
後向き研究では、癌の再発を経験した患者で特定の抗癌療法にどのように応答したかわかっている患者から、保存された腫瘍組織、血液、尿、唾液、又は任意の他の体液が得られる。腫瘍組織抽出物の場合は、組織はホモジナイズされ、個々の患者試料についてTIMP−1タンパク質レベルが測定される。体液の場合、試料は希釈され、次に本明細書に記載のいずれかの方法により、TIMP−1タンパク質の濃度が測定される。ホルマリン固定パラフィン包埋腫瘍組織の場合は、原発性腫瘍又は転移病変から得られる組織について、従来の免疫組織化学試験を行うことができる。
【0053】
従って本発明のある態様は、癌を有する個体においてトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測する方法であって、
【0054】
a.該個体から得られた試料で、該試料に含まれる腫瘍細胞中のTIMP−1タンパク質の欠如、又は該試料の腫瘍細胞中のTIMP−1 DNA異常の存在を測定する工程、
b.染色体17q21上のTOP2A/HER2アンプリコン中の染色体DNAの異常の存在、又は該アンプリコンに含まれる遺伝子の異常タンパク質発現を測定する工程、
c.染色体17q21上のTOP2A/HER2アンプリコン中に染色体DNA異常が存在する場合、及び/又は該アンプリコン中に含まれる遺伝子のタンパク質発現が、該腫瘍細胞中で異常な場合、及び/又は腫瘍細胞にTIMP−1タンパク質が欠如している場合、及び/又は該腫瘍細胞が、TIMP−1遺伝子の対立遺伝子の1つ若しくは両方に該TIMP−1 DNA異常を含む場合は、個体がトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に応答する可能性が高いと分類する工程、そして
d.TOP2A/HER2アンプリコン中に染色体DNA異常が存在しないか、又は該アンプリコンに含まれる任意の遺伝子にコードされるどのタンパク質も、腫瘍細胞中で異常に発現されていない場合、及び腫瘍細胞中にTIMP−1タンパク質が存在する場合、及び/又はTIMP−1対立遺伝子のいずれも該TIMP−1 DNA異常を含まない場合は、個体がトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に応答する可能性が低いと分類する工程、
を含んでなる方法に関する。
【0055】
上記の染色体17q21上のTOP2A/HER2アンプリコンは、TOP2A遺伝子とHER2遺伝子とを含む。
【0056】
すなわち本発明のある実施態様は、癌を有する個体のトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測する方法であって、染色体17q21上のTOP2A/HER2アンプリコン中の染色体DNA異常がTOP2A DNA異常であり、該アンプリコン中に含まれる遺伝子のタンパク質発現がトポイソメラーゼIIα発現であることを特徴とする方法に関する。
【0057】
本発明の別の実施態様は、癌を有する個体のトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測する方法であって、染色体17q21上のTOP2A/HER2アンプリコン中の染色体DNA異常がHER2 DNA異常であり、該アンプリコン中に含まれる遺伝子のタンパク質発現がErbB2発現であることを特徴とする方法に関する。
【0058】
好適な実施態様において該方法は、
a.該個体から得られる試料で、該試料中に含まれる腫瘍細胞中にTIMP−1タンパク質が存在しないことを測定する工程、
b.該試料の腫瘍細胞中にTOP2A DNA異常が存在することを測定する工程、
c.TOP2A DNA異常が存在する場合、及び/又は腫瘍細胞にTIMP−1タンパク質が欠如している場合に、個体がトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に応答する可能性が高いと分類する工程、そして
d.TOP2A DNA異常が存在しない場合、及び腫瘍細胞中にTIMP−1タンパク質が存在する場合に、個体がトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に応答する可能性が低いと分類する工程、
を含んでなる。
【0059】
本発明のある実施態様は、癌を有する個体のトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測する方法であって、該方法は、
【0060】
a.該個体から得られる試料で、該試料中に含まれる腫瘍細胞中にTIMP−1タンパク質が存在しないことを測定する工程、
b.該試料の腫瘍細胞中にHER2 DNA異常が存在することを測定する工程、
c.HER2 DNA異常が存在する場合、及び/又は腫瘍細胞にTIMP−1タンパク質が欠如している場合に、個体がトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に応答する可能性が高いと分類する工程、そして
d.HER2 DNA異常が存在しない場合、及び腫瘍細胞中にTIMP−1タンパク質が存在する場合に、個体がトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に応答する可能性が低いと分類する工程、
を含んでなる。
【0061】
本発明のある実施態様は、癌を有する個体のトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測する方法であって、該方法は、
【0062】
a.該個体から得られる試料で、該試料の腫瘍細胞中にTIMP−1 DNA異常が存在することを測定する工程、
b.該試料の腫瘍細胞中にTOP2A DNA異常が存在することを測定する工程、
c.TOP2A DNA異常が存在する場合、及び/又はTIMP−1遺伝子の対立遺伝子の1つ若しくは両方に該TIMP−1 DNA異常を含む場合は、個体がトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に応答する可能性が高いと分類する工程、そして
d.TOP2A DNA異常が存在しない場合、及びTIMP−1対立遺伝子のいずれも該TIMP−1 DNA異常を含まない場合は、個体がトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に応答する可能性が低いと分類する工程、
を含んでなる。
【0063】
本発明のある実施態様は、癌を有する個体のトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測する方法であって、該方法は、
【0064】
a.該個体から得られる試料で、該試料の腫瘍細胞中にTIMP−1 DNA異常が存在することを測定する工程、
b.該試料の腫瘍細胞中にHER2 DNA異常が存在することを測定する工程、
c.HER2 DNA異常が存在する場合、及び/又は該腫瘍細胞が、TIMP−1遺伝子の対立遺伝子の1つ若しくは両方に該TIMP−1 DNA異常を含む場合は、個体がトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に応答する可能性が高いと分類する工程、そして
d.HER2 DNA異常が存在しない場合、及びTIMP−1対立遺伝子のいずれも該TIMP−1 DNA異常を含まない場合は、個体がトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に応答する可能性が低いと分類する工程、
を含んでなる。
【0065】
TOP2A遺伝子とHER2遺伝子はいずれも、染色体17q21上のTOP2A/HER2アンプリコン中に存在し、TIMP−1遺伝子は染色体X上に存在する。
【0066】
本方法は、危険率を低下させることなく、CEF治療のような抗癌療法から利益を受ける可能性が高い、従来法と比較してほとんど2倍の数の癌患者を同定する手段を提供する。
【0067】
本発明のある実施態様において、バイオマーカー(HER2、TOP2A、及びTIMP−1)を含む試料は、腫瘍組織試料、血液試料、血漿試料、血清試料、尿試料、便試料、唾液試料、及び胸腔及び腹腔からの漿液の試料よりなる群から選択される。
【0068】
本発明のある実施態様は、乳癌、肉腫、卵巣癌、及び肺癌よりなる群から選択される癌を有する個体の、抗癌療法に対する応答を予測する方法に関する。
【0069】
ある実施態様において、肉腫は軟組織肉腫である。
別の実施態様において、肺癌は非小細胞肺癌である。
【0070】
ある好適な実施態様において本発明は、乳癌を有する個体の、抗癌療法に対する応答を予測する方法に関する。
【0071】
DNA異常を測定する方法
DNA異常に関する異常は、特に限定されないが、インサイチューハイブリダイゼーション、PCR法、示差的表示、DNAドットブロッティング、サザンブロッティング、又はこれらの組合せのようなDNA測定手段により測定される。
【0072】
すなわちある実施態様において、DNA遺伝子異常のレベルは、特に限定されないが、インサイチューハイブリダイゼーション、PCR法、示差的表示、DNAドットブロッティング、サザンブロッティング、又はこれらの組合せのようなDNA測定手段により測定される。
【0073】
好適な実施態様において、該インサイチューハイブリダイゼーションは、FISH(蛍光インサイチューハイブリダイゼーション)手段により測定される。
【0074】
さらに好適な実施態様において、DNA異常は、TOP2A遺伝子領域の一部、及び/又はHER2遺伝子領域、及び/又はTIMP−1遺伝子領域の一部を標的とする標識DNAプローブを含むプローブ混合物と、それぞれ染色体17及びX染色体の動原体領域を標的とするフルオレセイン標識プローブを含むプローブ混合物との、使用を含んでなるFISHにより測定される。
【0075】
タンパク質発現異常に関する異常は、ウェスタンブロッティング、免疫組織化学試験、ELISA、又はRIA手段により測定される。
【0076】
すなわちある実施態様において、異常タンパク質発現は、ウェスタンブロッティング、免疫組織化学試験、免疫細胞学試験、ELISA、又はRIAのようなタンパク質レベル測定手段により測定される。
【0077】
DNA異常及び/又は異常タンパク質発現はまた、問題の遺伝子のmRNA転写体のようなRNAレベル(例えば非機能的転写体を与える一次転写体の異常スプライシング)に反映される。
【0078】
すなわちRNA異常を引き起こすDNA異常は、特に限定されないがノーザンブロッティング、RNAドット法、及び定量的PCR法のようなmRNA測定のような、RNAの手段により測定される。
【0079】
すなわちある実施態様において、腫瘍細胞中のDNA異常又はタンパク質発現は、該試料の腫瘍細胞中の異常mRNAレベルと相関する。
【0080】
DNA異常
DNA異常は、染色体の特定の領域(例えばアンプリコン)を含む染色体内のDNA異常、及び遺伝子又は遺伝子領域内のDNA異常を意味する。DNA異常は、DNA増幅、DNA欠失、遺伝子点突然変異、及び転座、DNAの後成的修飾(例えばDNAメチル化)、及びこれらの組合せを含む。DNA異常は、該DNAの下流の異常転写、又は該DNAによりコードされるタンパク質の発現を引き起こすDNA異常を含む。欠失又は増幅の意味においてDNA異常は、全遺伝子又は該遺伝子の一部の欠失又は増幅を意味する。後成的異常は、問題の遺伝子のサイレンス化を引き起こし、該遺伝子によりコードされるタンパク質の欠如、又は少なくとも異常タンパク質発現に反映される。
【0081】
すなわちある実施態様は、TOP2A遺伝子異常の測定を含む、癌を有する個体のトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測する方法に関し、ここで該遺伝子異常は、TOP2A DNA増幅、TOP2A DNA欠失、TOP2A遺伝子点突然変異、及びTOP2A DNA転座、TOP2A DNAの後成的修飾(例えばDNAメチル化)、及びこれらの組合せよりなる群から選択される。
【0082】
具体的な実施態様において、TOP2A DNA異常又は腫瘍細胞中のトポイソメラーゼIIαタンパク質の増加は、該試料の腫瘍細胞中の異常なTOP2A mRNAレベルと相関する。
【0083】
さらなる実施態様は、HER2遺伝子異常の測定を含む、癌を有する個体のトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測する方法に関し、ここでHER2遺伝子異常は、HER2遺伝子増幅、HER2 DNA欠失、HER2遺伝子点突然変異、及びHER2 DNA転座、HER2 DNAの後成的修飾(例えばDNAメチル化)、及びこれらの組合せよりなる群から選択される。
【0084】
具体的な実施態様において、HER2 DNA異常又は腫瘍細胞中のErbB2タンパク質の増加は、該試料の腫瘍細胞中の異常なHER2 mRNAレベルと相関する。
【0085】
さらなる実施態様は、TIMP−1遺伝子異常の測定を含む、癌を有する個体のトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測する方法に関し、ここで腫瘍細胞は、TIMP−1対立遺伝子の1つの欠失、TIMP−1対立遺伝子の両方の欠失、TIMP−1対立遺伝子の1つの部分的欠失、TIMP−1対立遺伝子の両方の部分的欠失、TIMP−1 DNA点突然変異、TIMP−1 DNA反転、TIMP−1 DNA転座、TIMP−1 DNAの後成的修飾(例えばDNAメチル化)、及びこれらの組合せからなるリストから選択される、TIMP−1タンパク質発現の欠如を引き起こす少なくとも1個のTIMP−1 DNA異常を含む。
【0086】
好適な実施態様において、腫瘍細胞中のTIMP−1 DNA異常又はTIMP−1タンパク質の欠如は、該試料中のTIMP−1 mRNAの欠如のような、該試料の腫瘍細胞中の異常TIMP−1 mRNAレベルと相関する。
【0087】
本文脈において用語「TIMP−1タンパク質の欠如」は、癌細胞及び/又は腫瘍組織間質細胞中のTIMP−1免疫反応性の完全な欠如であると理解すべきである。しかし、癌細胞及び/又は腫瘍組織間質細胞中に弱いTIMP−1免疫反応性を有する患者は、癌細胞及び/又は腫瘍組織間質細胞中に強いTIMP−1免疫反応性を有する患者より、アントラサイクリン類がより有効であり、一方、弱いTIMP−1免疫反応性を有する患者は、癌細胞及び/又は腫瘍組織間質細胞中のTIMP−1免疫反応性が完全に欠如した患者より、アントラサイクリン治療が有効ではない。TIMP−1免疫反応性(陽性細胞の数及び/又は強度)の評価は、簡単な顕微鏡観察により評価できるが、デジタル化アナライザーにより客観的に評価することもできる。
【0088】
細胞は、0、+1、+2、及び+3として分類される。0はTIMP−1免疫反応性が欠如した癌細胞及び/又は腫瘍組織間質細胞であり、+1は弱いTIMP−1免疫反応性を有する癌細胞及び/又は腫瘍組織間質細胞であり、+2は、TIMP−1免疫反応性を有する癌細胞及び/又は腫瘍組織間質細胞であり、+3は強いTIMP−1免疫反応性を有する癌細胞及び/又は腫瘍組織間質細胞であると理解すべきである。
【0089】
TIMP−1免疫反応性を分類し区別する方法は、客観的に評価される本発明の実施態様である。評価は、TIMP−1免疫反応性細胞(癌細胞及び/又は腫瘍組織間質細胞)、及び/又は免疫反応性の強さに基づく。TIMP−1免疫反応性(陽性細胞の数及び/又は強度)の評価は、簡単な顕微鏡観察により評価できるが、デジタル化アナライザーにより客観的に評価することもできる。
【0090】
すなわち本発明の好適な実施態様において、免疫反応性が、+1未満、例えば+0.9未満、例えば+0.8未満、例えば+0.7未満、例えば+0.6未満、例えば+0.5未満、例えば+0.4未満、例えば+0.3未満、例えば+0.2未満、例えば+0.1未満である場合、癌細胞及び/又は腫瘍組織間質細胞はTIMP−1が欠如している。
【0091】
すなわち本発明の好適な実施態様において、免疫反応性が0である場合、癌細胞及び/又は腫瘍組織間質細胞はTIMP−1が欠如している。
【0092】
すなわち本発明の好適な実施態様において、TIMP−1免疫反応性のレベルが、+2未満、例えば+1.9未満、例えば+1.8未満、例えば+1.7未満、例えば+1.6未満、例えば+1.5未満、例えば+1.4未満、例えば+1.3未満、例えば+1.2未満、+1未満、例えば+0.9未満、例えば+0.8未満、例えば+0.7未満、例えば+0.6未満、例えば+0.5未満、例えば+0.4未満、例えば+0.3未満、例えば+0.2未満、例えば+0.1未満である場合、患者は、アントラサイクリン類(例えばトポイソメラーゼIIα)から利益を受ける可能性がある。好ましくは、0〜+2の範囲、例えば0.1〜+1.5の範囲、例えば+0.5〜+1.2の範囲、例えば0〜+0.5の範囲、例えば0〜+1の範囲。
【0093】
好適な実施態様において、TIMP−1免疫反応性のレベルが、+1未満、例えば+0.9未満、例えば+0.8未満、例えば+0.7未満、例えば+0.6未満、例えば+0.5未満、例えば+0.4未満、例えば+0.3未満、例えば+0.2未満、例えば+0.1未満である場合、患者は、アントラサイクリン類(例えばトポイソメラーゼIIα)から利益を受ける可能性がある。
【0094】
好適な実施態様において、TIMP−1タンパク質のレベルが0である場合、患者は、アントラサイクリン類(例えばトポイソメラーゼIIα)から利益を受ける可能性がある。
【0095】
TIMP−1免疫反応性は、癌細胞及び/又は腫瘍組織間質細胞中に存在するTIMP−1タンパク質の量に似ている。
【0096】
好適な実施態様において、TIMP−1遺伝子は、標準試料に対して、1.1倍より多く増幅され、例えば標準試料の1.2倍より多く、例えば1.3倍より多く、例えば1.4倍より多く、例えば1.5倍より多く、例えば1.6倍より多く、例えば1.7倍より多く、例えば1.8倍より多く、例えば1.9倍より多く、例えば2倍より多く、例えば3倍より多く、例えば4倍より多く、例えば5倍より多く、例えば6倍より多く、例えば7倍より多く、例えば8倍より多く、例えば9倍より多く、例えば10倍より多く、例えば15倍より多く、例えば20倍より多く、例えば30倍より多く、例えば40倍より多く、例えば50倍より多く、例えば100倍より多く増幅される。本発明のある実施態様において、TIMP−1遺伝子は、標準試料に対して1.1〜2.0倍増幅され、例えば標準試料に対して、1.2〜1.9倍の範囲、例えば1.3〜1.8倍の範囲、例えば1.4〜1.7倍の範囲、例えば1.5〜1.7倍の範囲、例えば1.7〜1.9倍の範囲、例えば1.8〜1.9倍の範囲で増幅される。
【0097】
別の実施態様においてTOP2A遺伝子は、標準試料に対して、1.1倍より多く増幅され、例えば標準試料の1.2倍より多く、例えば1.3倍より多く、例えば1.4倍より多く、例えば1.5倍より多く、例えば1.6倍より多く、例えば1.7倍より多く、例えば1.8倍より多く、例えば1.9倍より多く、例えば2倍より多く、例えば3倍より多く、例えば4倍より多く、例えば5倍より多く、例えば6倍より多く、例えば7倍より多く、例えば8倍より多く、例えば9倍より多く、例えば10倍より多く、例えば15倍より多く、例えば20倍より多く、例えば30倍より多く、例えば40倍より多く、例えば50倍より多く、例えば100倍より多く増幅される。本発明のある実施態様において、TOP2A遺伝子は、標準試料に対して1.1〜2.0倍増幅され、例えば標準試料に対して、1.2〜1.9倍の範囲、例えば1.3〜1.8倍の範囲、例えば1.4〜1.7倍の範囲、例えば1.5〜1.7倍の範囲、例えば1.7〜1.9倍の範囲、例えば1.8〜1.9倍の範囲で増幅される。
【0098】
別の実施態様においてHER2遺伝子は、標準試料に対して、1.1倍より多く増幅され、例えば標準試料の1.2倍より多く、例えば1.3倍より多く、例えば1.4倍より多く、例えば1.5倍より多く、例えば1.6倍より多く、例えば1.7倍より多く、例えば1.8倍より多く、例えば1.9倍より多く、例えば2倍より多く、例えば3倍より多く、例えば4倍より多く、例えば5倍より多く、例えば6倍より多く、例えば7倍より多く、例えば8倍より多く、例えば9倍より多く、例えば10倍より多く、例えば15倍より多く、例えば20倍より多く、例えば30倍より多く、例えば40倍より多く、例えば50倍より多く、例えば100倍より多く増幅される。本発明のある実施態様において、HER2遺伝子は、標準試料に対して1.1〜2.0倍増幅され、例えば標準試料に対して、1.2〜1.9倍の範囲、例えば1.3〜1.8倍の範囲、例えば1.4〜1.7倍の範囲、例えば1.5〜1.7倍の範囲、例えば1.7〜1.9倍の範囲、例えば1.8〜1.9倍の範囲で増幅される。
【0099】
異常なタンパク質発現
異常タンパク質発現は、例えば該タンパク質レベル、該タンパク質の欠如、非機能性タンパク質を引き起こす突然変異のような機能不全、該タンパク質の細胞局在化の不全のような、タンパク質発現の異常を意味する。
【0100】
欠如は通常、試料中の又は該試料の腫瘍細胞中の検出可能なタンパク質の欠如を意味する。
【0101】
ある実施態様において、異常タンパク質発現は、対照試料の標準レベルに対する倍数として測定される。別の実施態様において異常タンパク質発現は、標準レベルより低い倍数として測定される。
【0102】
異常なトポイソメラーゼIIαタンパク質発現に関する第2の実施態様において、トポイソメラーゼIIαタンパク質は、標準試料に対して2倍より多く過剰発現され、例えば標準試料の3倍より多く、例えば4倍より多く、例えば5倍より多く、例えば6倍より多く、例えば7倍より多く、例えば8倍より多く、例えば9倍より多く、例えば10倍より多く、例えば15倍より多く、例えば20倍より多く、例えば30倍より多く、例えば40倍より多く、例えば50倍より多く、例えば100倍より多く過剰発現される。
【0103】
異常なErbB2タンパク質発現に関する第2の実施態様において、ErbB2タンパク質は、対照試料に対して2倍より多く過剰発現され、例えば対照試料の3倍より多く、例えば4倍より多く、例えば5倍より多く、例えば6倍より多く、例えば7倍より多く、例えば8倍より多く、例えば9倍より多く、例えば10倍より多く、例えば15倍より多く、例えば20倍より多く、例えば30倍より多く、例えば40倍より多く、例えば50倍より多く、例えば100倍より多く過剰発現される。
【0104】
好適な実施態様において本発明は、腫瘍細胞にTIMP−1タンパク質が欠如していることを特徴とする、癌を有する個体において、トポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測する方法である。
【0105】
標準
「標準」は、非癌個体から腫瘍中の非悪性細胞(例えば腫瘍組織間質細胞)までの、対応する生物学的試料のプールについての対応する測定値のような、任意の適切な標準を意味する。
【0106】
集団から得られる標準は、DNA異常又はタンパク質発現のレベルを測定するために使用されることを特徴とする、癌を有する個体でトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測する方法。
【0107】
該標準は、TIMP−1、ErbB2、又はトポイソメラーゼIIαタンパク質が、試料(例えばELISAアッセイに適用された試料)中で異常に発現されているかどうかを測定するために、試料中のTIMP−1、ErbB2、又はトポイソメラーゼIIαタンパク質免疫反応性のようなシグナルのベースラインを設定するのに使用される。
【0108】
具体的な実施態様において標準は、例えばウェスタンブロッティング、免疫組織化学試験、ELISA、フローサイトメトリー、又はRIAの手段により、TIMP−1タンパク質の有無を測定するように、試料中のTIMP−1タンパク質の有無を測定するための、ベースライン/カットオフ値を設定するために使用される。
【0109】
ある実施態様において標準は、試料内標準、試料間標準、及び内部標準よりなる群から選択される。
【0110】
同じ染色体を標的とする標準が含まれることを特徴とする、問題の遺伝子のDNA異常の測定を含む本発明の方法の1つの例。すなわち染色体17q21上のTOP2A/HER2アンプリコン中のDNA異常(例えば、TOP2A遺伝子又はHER2遺伝子中のDNA異常)について、問題の遺伝子の対立遺伝子が欠失されているか又は増幅されているかを測定するために、染色体17の領域の動原体を標的とする標準が使用される。
【0111】
従ってある実施態様は、DNA異常が、FISH(蛍光インサイチューハイブリダイゼーション)のようなインサイチューハイブリダイゼーション手段により測定されることを特徴とする、本発明のトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測するための方法に関する。
【0112】
別の実施態様において該DNA異常は、該試料中に含まれる内部標準配列との平均比率として測定される。ある実施態様において該内部標準は、腫瘍組織試料のような試料中に含まれる二倍体の非悪性細胞である。本発明の好適な実施態様において、腫瘍組織試料は腫瘍組織間質細胞である。
【0113】
さらなる実施態様において標準は、染色体17又はX染色体の動原体領域を標的とするフルオレセイン標識又はテキサスレッド5標識のような、標識プローブのシグナルである。具体的な実施態様においてプローブは、ペプチド核酸(PNA)に基づくプローブである。この種の標準は、染色体17q21上のTOP2A/HER2アンプリコン中のDNA異常(例えば、TOP2A遺伝子又はHER2遺伝子中のDNA異常)を測定するためのFISHアッセイのようなFISH応用に適している。別の実施態様において、TIMP−1遺伝子中のDNA異常を測定するためのFISHアッセイで、同様の種類の標準が使用される。
【0114】
DNA異常は、該試料中に含まれる標準配列に対する平均比率として測定される。
すなわちある実施態様においてDNA異常は、該試料中に含まれる内部標準配列に対する平均比率として測定される。
【0115】
ある実施態様において内部標準配列は、染色体17の動原体領域上に存在する。
具体的な実施態様において内部標準配列は、染色体X αサテライト(CenX)である。
【0116】
DNA遺伝子の対立遺伝子の欠失又は遺伝子増幅のようなDNA異常は、遺伝子特異的プローブの結合に対応するシグナルと、標準プローブの動原体領域プローブの結合に対応するシグナルとの比率を使用して測定される。
【0117】
従ってある実施態様において試料の腫瘍細胞は、TIMP−1/CenXの平均比が0.8未満である場合、TIMP−1遺伝子欠失を含み、該比が、0.8より大きく2.0未満である場合、正常である。本発明のある実施態様において、TIMP−1/CenXの平均比は、0.7未満、例えば0.6未満、例えば0.5未満、例えば0.4未満、例えば0.3未満、例えば0.2未満、例えば0.1未満、例えば0.1〜0.8の範囲、例えば0.2〜0.7の範囲、例えば0.3〜0.6の範囲、例えば0.4〜0.5の範囲であり、該比が、0.8より大きく2.0未満である場合、正常である。
【0118】
別の実施態様において腫瘍細胞は、TOP2A/CenXの平均比が0.8未満である場合、TOP2A遺伝子欠失を含み、又はTOP2A/CenXの平均比が2.0より大きい場合、増幅を含み、該比が、0.8より大きく2.0未満である場合、正常である。本発明のある実施態様において、TOP2A/CenXの平均比は、0.7未満、例えば0.6未満、例えば0.5未満、例えば0.4未満、例えば0.3未満、例えば0.2未満、例えば0.1未満、例えば0.1〜0.8の範囲、例えば0.2〜0.7の範囲、例えば0.3〜0.6の範囲、例えば0.4〜0.5の範囲であり、該比が、0.8より大きく2.0未満である場合、正常である。
【0119】
第3の実施態様において腫瘍細胞は、TOP2A/CenXの平均比が0.8未満である場合、HER2遺伝子欠失を含み、又はHER2/CenXの平均比が2.0より大きい場合、増幅を含み、該比が、0.8より大きく2.0未満である場合、正常である。本発明のある実施態様において、HER2/CenXの平均比は、0.7未満、例えば0.6未満、例えば0.5未満、例えば0.4未満、例えば0.3未満、例えば0.2未満、例えば0.1未満、例えば0.1〜0.8の範囲、例えば0.2〜0.7の範囲、例えば0.3〜0.6の範囲、例えば0.4〜0.5の範囲であり、該比が、0.8より大きく2.0未満である場合、正常である。
【0120】
別の実施態様において標準は、DNA異常又はタンパク質発現のレベルを測定するために使用される。該標準は、非癌個体の集団、又は癌個体の組合せ群、例えばCMF治療した癌個体の群のような集団から得られる。
【0121】
さらに別の実施態様において、該標準は正常な二倍体遺伝子バックグランドである。
【0122】
例えば、TOP2A DNA遺伝子増幅又はTOP2A DNA遺伝子欠失の意味において、TOP2A DNA異常レベルを測定するのに適した標準は、非癌個体からの対応する生物学的試料中のTOP2A DNA対立遺伝子からの平均シグナル、又は該腫瘍試料中の非悪性細胞中の平均シグナルである。
【0123】
ある実施態様において、DNA異常又はタンパク質異常の測定は、個体からの保存物質、例えば腫瘍組織を含むパラフィンブロックについて行われる。
【0124】
トポイソメラーゼIIαインヒビター療法
ある実施態様においてトポイソメラーゼIIαインヒビター療法は、癌を有する個体への、少なくとも1個のトポイソメラーゼIIαインヒビターを含む組成物の投与を含む。好適な実施態様において、トポイソメラーゼIIαインヒビター療法に使用される組成物は、4−エピルブリシン、ダウノルビシン、ダウノルビシン(リポソーム)、ドキソルビシン、ドキソルビシン(リポソーム)、エピルビシン、イダルビシン、及びミトキサントロンよりなる群から選択される少なくとも1個のアントラサイクリンを含む。
【0125】
トポイソメラーゼIIαインヒビターは、単独で、又は少なくとも1個の他の化学療法剤とともに投与される。本発明のある実施態様において、トポイソメラーゼIIαインヒビター療法はCEF治療であり、ここでCEFは、シクロホスファミド、4−エピルブリシン、及び5−フルオロウラシルを意味する。さらに別の実施態様において、トポイソメラーゼIIαインヒビター療法は、トポイソメラーゼIIαインヒビター以外に、シクロホスファミド、タキサン類、及び/又は5−フルオロウラシルを用いる治療である。
【0126】
トポイソメラーゼIIαインヒビター療法で使用される任意の化合物が、プロドラッグとして投与される。すなわちある実施態様において、シクロホスファミド、タキサン類、5−フルオロウラシル、トポイソメラーゼIIαインヒビター(例えばアントラサイクリン)よりなる群から選択される少なくとも1個の薬剤は、該薬剤のプロドラッグの形である。
【0127】
トポイソメラーゼIIαインヒビター療法は、リポソーム封入してもよい。
【0128】
ある実施態様において、トポイソメラーゼIIαインヒビター療法は、アポトーシス又は有糸分裂破局のインデューサーを含む。
【0129】
別の実施態様においてトポイソメラーゼIIαインヒビター療法は、術前補助療法、補助療法、及び転移疾患の治療よりなる群から選択される。
【0130】
癌の治療法
本発明の別の態様は、トポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対して応答する可能性の予測に基づく癌の治療に関する。
【0131】
該態様は、個体の癌を治療する方法であって、
a.前記請求項のいずれかのトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測し、
b.該個体が応答する可能性の高いトポイソメラーゼIIαインヒビター療法を選択し、そして
c.該個体を該トポイソメラーゼIIαインヒビター療法に付す、
ことを含んでなる方法に関する。
【0132】
該治療法のある実施態様において、トポイソメラーゼIIαインヒビターは、特に限定されないが、4−エピルブリシン、ダウノルビシン、ダウノルビシン(リポソーム)、ドキソルビシン、ドキソルビシン(リポソーム)、エピルビシン、イダルビシン、及びミトキサントロン、又はこれらの組合せよりなる群から選択される少なくとも1個のアントラサイクリンである。
【0133】
さらなる実施態様において、トポイソメラーゼIIαインヒビター療法は、シクロホスファミドと5−フルオロウラシルとをさらに含む組成物中に含まれる。
【0134】
さらなる実施態様において、トポイソメラーゼIIαインヒビター療法は、タキサンをさらに含む組成物中に含まれる。
【0135】
キット
本発明の第3の態様は、トポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測するためのキットであって、
a.生物学的試料中の、TOP2A又はHER2 DNA異常のようなTOP2A/HER2アンプリコン中の染色体DNA異常の測定に適した試薬と、
b.生物学的試料中の、TIMP−1 DNA異常の測定又はTIMP−1タンパク質レベルの測定に適した試薬とを、
含んでなるキットに関する。
【0136】
本発明の態様の1つの文脈に記載される実施態様と特徴はまた、本発明の他の態様にも適用されることに注意されたい。
【0137】
本出願で引用される特許文献及び非特許文献は、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0138】
本発明は、以下の非限定例によりさらに詳細に説明される。
【0139】
危険率
「危険率」(HR)は、トポイソメラーゼIIαインヒビター療法のような治療から、無病生存期間の延長のような利益が得られる可能性に関する。
【0140】
本発明のある実施態様において、HRは、標準としてのCMF治療からの有効性とともに、CEF治療からの有効性を有する可能性を記載する。HRが1であることは、治療を受けている群と標準群との間に差が無いことを意味する。従ってHRが0.5であることは、CEF治療された患者が、CMF治療された患者と比較して、再発を経験するリスクが50%低下していることを意味する。評価の統計的検出力を改善するために、信頼区間が含まれる。
【0141】
実施例1の表1は、トポイソメラーゼIIαインヒビター療法のような治療から利益を受ける可能性を評価するための危険率の使用を例示する。標準群のHR(CMF治療患者の場合)は、1に設定される。
【0142】
従って、本発明の好適な実施態様は、癌を有する個体で、トポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測する方法であって、トポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対して応答する可能性は、危険率を用いて測定されることを特徴とする方法に関する。
【0143】
定義
本発明を詳細に考察する前に、以下の用語と慣習をまず定義する:
【0144】
「抗癌療法」は、癌を治療し緩和することを目的とする非手術的治療処方について使用される用語である。以下に例を示すが、抗癌療法は、化学療法、及び/又は放射線療法、及び/又は抗ホルモン療法、及び/又は生物学的療法でもよい。
【0145】
「トポイソメラーゼIIαインヒビター療法」は、少なくとも1個のトポイソメラーゼIIαインヒビターの使用を含む化学療法的抗癌療法を意味する。トポイソメラーゼIIαインヒビターは、シクロホスファミド、タキサン類、及び/又は5−フルオロウラシルのような他の化学療法剤と組合せて投与してもよい。
【0146】
「アントラサイクリン」は、4−エピルブリシン、ダウノルビシン、ダウノルビシン(リポソーム)、ドキソルビシン、ドキソルビシン(リポソーム)、エピルビシン、イダルビシン、及びミトキサントロンの群を意味する。
【0147】
以下で本発明を、非限定的図面と実施例により説明する。
【実施例】
【0148】
本文脈において、以下の略語が使用される:
DBCG:デンマーク乳癌共同研究グループ(Danish Breast Cancer Cooperative Group)
CMF:シクロホスファミド、メソトレキセート、及び5−フルオロウラシル
CEF:シクロホスファミド、4.エピ−アドリアマイシン、及び5−フルオロウラシル
CAF:シクロホスファミド、4.エピ−アドリアマイシン、及び5−フルオロウラシル
TOP2A正常:TOP2A遺伝子中にDNA異常は無し
HER2正常:HER2遺伝子中にDNA異常は無し
HT感受性:HER2増幅、又はHer2免疫組織化学試験について3+、及びTIMP−1陰性
2T感受性:TOP2A遺伝子異常、及びTIMP−1陰性
TMA:組織マイクロアレイ
ER又はER免疫染色:エストロゲン又はプロゲステロン受容体についての免疫染色
FISH:蛍光インサイチューハイブリダイゼーション
IHC:免疫組織化学試験
IDFS:無侵襲性疾患生存率
OS:全生存率
【実施例1】
【0149】
原発性乳癌を有する患者(n=647)においてTIMP−1腫瘍細胞免疫反応性の欠如は、補助アントラサイクリンに基づく化学療法の効果を予測する
【0150】
方法
患者と方法
簡単に説明すると、DBCG(デンマーク乳癌共同研究グループ(Danish Breast Cancer Cooperative Group))治験89Dは、CEF(シクロホスファミド、エピルビシン、及びフルオロウラシル)をCMF(シクロホスファミド、メソトレキセート、及びフルオロウラシル)に対して比較した非盲検無作為化第III相治験であった。89D治験の適格患者は、節陽性(又は腫瘍サイズ≧5cm)でホルモン受容体陰性乳癌の患者と、節陰性で悪性グレードII又はIII腫瘍を有する更年期前患者であった。すべての患者がインフォームドコンセントに同意した。DBCG 89D治験は、節陽性でホルモン受容体陽性腫瘍の患者は含まなかった。これらの患者は、内分泌治療の治験に含まれた。DBCGは、元々のプロトコールとバイオマーカーの追加を準備し、デンマーク国立生物医学研究倫理委員会(Danish National Committee on Biomedical Research Ethics)は、その実施前に元々のプロトコールとバイオマーカーの追加を認可した。
【0151】
病理評価
病理的方法は、WHOによる組織型の分類、腫瘍境界の観察、皮膚若しくは深在筋膜への浸潤、肉眼的腫瘍サイズの測定、同定された転移節の数とリンパ節の数の測定を含んだ。すべての浸潤性腺管癌を、悪性度についてグレード分類した。次にすべての切片を、免疫組織化学試験によりERについて中央で分析し、これらの中央で得られたERデータを本解析で使用した。染色された腫瘍細胞が10%以上の腫瘍を、ER陽性と見なした。
【0152】
1990年6月〜1998年1月に行った保管腫瘍組織の遡及的採取とTMAの作成において、1224人の患者をDBCG治験89Dで無作為化し、これらのうちの980人はデンマークで集めた。治験に参加した806人のデンマーク人患者からの保管パラフィン包埋組織ブロックは、2001年9月〜2002年8月に試験場所で集め、中央で保存した。Histopathology Ltd (AH-diagnostics, Denmark)のTMA-builderを用いてまだ評価できる797ブロックのうちの707ブロックから、組織マイクロアレイ(TMA)がうまく作成された。ヘマトキシリン染色切片上のドナーブロック中で標的部位を確定し、2つの2mm組織コアを、受容TMAブロックに移した。配置決めのために、腎組織のコアを使用して、上の角に印を付けた。本試験用に、全部で659個の腫瘍がTIMP−1分析のために利用できた。腫瘍が無いもの(6549〜707)は、他の試験ですでに使用されて、本試験用に残りがなかったためである。表7は、試験中の患者の流れを示す。
【0153】
TIMP−1免疫染色
組換えヒトTIMP−1に対して作成したマウスモノクローナル抗体(クローンVT7)を含めた。本発明者らは、この抗体をすでに免疫染色用に評価してあった。VT7抗体はIgG1サブタイプであり、0.25μg/mlの濃度で使用した。さらにトリニトロフェノールハプテンに対して作成した無関係のIgG1モノクローナル抗体(抗TNP)を対照として使用した。各免疫組織化学実験のために、陽性対照(TIMP−1を含むことがわかっているヒト乳癌)を含めた。IHC染色に使用した試薬は、Dako A/Sから得て、製造業者の説明書に従って使用した。
【0154】
簡単に説明すると、パラフィン切片(4μm)からキシレンでパラフィンを除去し、連続濃度勾配のエタノールで再水和した。通常の電子レンジで10mMクエン酸緩衝液(pH6.00)中で切片を10分間沸騰させ、次に室温で熱緩衝液中で30分間沸騰して、抗原を採取した。内因性ペルオキシダーゼ活性を阻止するために、切片を1%過酸化水素で10分間処理した。切片を一次抗体と4℃で一晩インキュベートした。モノクローナル抗体をAdvance HRP(Code no K4068)を用いて検出し、切片をDAB+(Code No K5007)と5分間インキュベートさせて、反応物を視覚化した。インキュベーションの間に、0.5%トリトンX−100含有TBS(pH7.6)を用いて洗浄を行った。切片をマイヤー・ヘマトキシリンで対比染色し、すべての染色操作は用手法で行った。
【0155】
組織切片の免疫染色は、上皮乳癌細胞中のTIMP−1免疫反応性の尺度として+と−記号を使用して、半定量的に評価した。シグナル強度のスコア化は含めなかった。組織切片のスコア化は、2人の独立した病理学者(GWとEB)によりブラインドで行われた。不一致がある場合は、一緒にスライドを観察して合意に達した。
【0156】
統計的方法
免疫染色結果を、統計解析のためにDBCGに渡した。
【0157】
追跡調査時間を、可能な追跡調査のカプランマイヤー推定値により定量化した。IDFS(無侵襲性疾患生存率)が一次終点であり、OS(全生存率)が2次終点であった。IDFSは、何らかの原因による局在化、2回目の原発性侵襲癌、又は死亡には無関係に、無作為化から侵襲性乳癌再発までの経過時間として規定した。OSは、無作為化から、何らかの原因による死亡までの経過時間として規定した。IDFSとOSは、カプランマイヤー推定値と対数順位検定とを使用して解析した。IDFSとOSに対する治療処方ならびに中央で評価したTIMP−1の効果は、調整せずに推定した危険率、及びCox比例ハザードモデル(Cox proportional hazard model)を使用して調整した危険率により、定量化した。多変量Cox比例ハザードモデルはまた、ワルド検定(Wald test)を使用して治療法とTIMP−1との交互作用を調べるために応用した。この多変量モデルは、TIMP−1、更年期状態、腫瘍サイズ、陽性リンパ節、組織型とグレード、中央のERホルモン受容体状態、治療処方、及びTIMP−1と治療との相互作用項を含んだ。組織型とグレード、及びER受容体状態については比例ハザード推定を行わず、これらは、層別変数としてモデル中に含めた。バイオマーカーについて情報が有る患者と無い患者との差、治療法間の差、及びTIMP−1状態と臨床−病理的変数との相関は、未知数を排除したχ2検定により検定した。P値は両側検定とした。統計解析は、SAS 9-1プログラムパッケージを使用して行った。
【0158】
結果
調べた腫瘍試料の総数は659であり、このうち12はCMFもCEFも投与されておらず、従って最終的な数647人の患者について以後の解析を行った。これらの患者のうち357人はCMFを投与され、290人の患者はCEFを投与された。表7は、DBCG 89D試験のデンマーク部分に参加した元々の患者と、最終的に647人の患者が最終解析に含まれることになった流れを示す。本解析の時点(2007年8月1日)で、308人(48%)は死亡しており、312人(48%)は、IDFSに対応する症状があった。CEFを投与されている患者については、123人(42%)が死亡しており、129人(44%)はIDFSに対応する症状があった。CMF治療患者では、185人(52%)が死亡しており、183人(51%)がIDFS症状があった。IDFSに関して可能な追跡調査時間中央値は9,8年であり、OSについては13.8年であった。
【0159】
表5は、集団を治療する目的のベースライン特性を示す。明らかなように、本試験に含まれた患者は、残りの患者より有意に大きな腫瘍(p<0.0001)と有意に高グレードの悪性腫瘍(p=0.02)とを有した。他の古典的ベースライン特性については有意差はなかった。647人の患者を2群(CMF対CEF)に分けると、ベースライン特性に差は観察されず、本試験の患者の3分の1は死亡したが、含まれた患者がバランスの取れた分布を保持した。
【0160】
腫瘍試料の75%は、陽性のTIMP−1免疫反応性を示した。免疫反応性のパターンは、TIMP−1免疫反応性を示すほとんどすべての上皮癌細胞(図6A)から、分散及び集中したTIMP−1免疫反応性(図6B)(TIMP−1陽性)、そしてTIMP−1腫瘍細胞免疫反応性の完全な欠如(示していない)まであった。ある腫瘍では、顕著な腫瘍組織間質細胞TIMP−1免疫反応性が観察されたが、これらの腫瘍に上皮癌細胞TIMP免疫反応性が欠如している場合は、これらはTIMP−1陰性とした(図6D)。図6Cは陰性対照である。図6は、TIMP−1陽性腫瘍細胞を有する患者と、TIMP−1陰性腫瘍細胞を有する患者とのベースライン特性を示す。TIMP−1陽性腫瘍細胞を有する患者は、有意に多い腫瘍陽性腋窩リンパ節(p=0.02)と、有意に多いER陽性腫瘍(p=0.04)とを有した。TIMP−1陰性腫瘍(n=160)のうちで、大半はER陰性であった(n=107)。しかしTIMP−1陽性腫瘍(n=487)では、高率にER陰性(n=294)があった。これは、TIMP−1陰性が主にER陰性腫瘍中にあるが、TIMP−1がERの一般的な代理物ではないことを示す。TIMP−1陰性/陽性患者間のベースライン特性について他の差は、証明されなかった。
【0161】
多変量解析(調整済み)は、治療群、更年期状態、腫瘍サイズ、陽性腋窩リンパ節の数、組織型と悪性度グレード、中央測定したER、及びTIMP−1腫瘍細胞免疫反応性を含んだ。上記したように、組織型とグレード及びER受容体状態については比例ハザード推定を行わず、これらは、層別変数として多変量モデル中に含めた。本発明者らは、まず本試験に含めた647人の患者で、CEF対CMFのIDFSとOSに対する効果を解析した。すなわち癌細胞中のTIMP−1免疫反応性を考慮した。CEFを投与された患者は、CMFを投与された患者(示していない)と比較すると、優れたIDFS(調整済みHR:0.78(95%CI:0.62〜0.98;p=0.03)と優れたOS(調整済みHR:0.77(95%CI:0.61〜0.97;p=0.03)を有した。これらの数値は、元々の試験の数値(IDFS:HR=0.76、及びOS:HR=0.73)と異ならず、試験した亜集団が全試験群を代表していることを示唆している。
【0162】
次に本発明者らは、試験に含めたすべての患者群(n=647)について、TIMP−1癌細胞の免疫反応性と、IDFS及びOSとの関連を解析した。IDFSについてTIMP−1陽性患者とTIMP−1陰性患者との間で有意差は見られなかった:未調整HR=1.18(95%CI:0.91〜1.54;p=0.22)、及び調整済みHR=0.95(95%CI:0.72〜1.24;p=0.69)。OSについての数値は:未調整HR=1.17(95%CI:0.89〜1.53;p=0.25)、及び調整済みHR=0.97(95%CI:0.73〜1.28;p=0.82)であった。
【0163】
次に、2つの異なる治療群と腫瘍細胞TIMP−1の免疫反応性を考慮して、亜集団解析を行った。CEF治療患者(n=290)では、TIMP−1陽性腫瘍を有する個体は、TIMP−1陰性腫瘍の患者より有意に短いIDFSを有した:未調整HR=1.56(95%CI:1.01〜2.41;p=0.047)(図7A)。これに対して、CMF治療患者(n=347)では、TIMP−1陽性患者と陰性患者の間でIDFSに差は見られなかった:未調整HR=0.97(95%CI:0.69〜1.35;p=0.84)(図7AA)。OSの対応する数値は:CEF:未調整HR=1.41(95%CI:0.91〜2.18;p=0.13)、及びCMF:未調整HR=1.02(95%CI:0.72〜1.43;p=0.93)(図7B)。
【0164】
多変量解析では、CEFで治療したTIMP−1陽性患者と陰性患者の間で、IDFSについて有意差は見られなかった:調整済みHR=1.30(95%CI:0.83〜2.02;p=0.25)、及びOS:調整済みHR=1.21(95%CI:0.77〜1.90;p=0.42)。CMFで治療した患者でも有意差は見られなかった;IDFS:調整済みHR=0.76(95%CI:0.54〜1.07;p=0.12)、及びOS:調整済みHR=0.84(95%CI:0.59〜1.19;p=0.32)。
【0165】
TIMP−1免疫反応性癌細胞を有する群でCEF治療患者とCMF治療患者のIDFSを比較すると、2つの治療群の間のHRは:調整済みHR=0.88(95%CI:0.68〜1.13;p=0.32)(図8A)であった。OSの対応する数値は:調整済みHR=0.83(95%CI:0.64〜1.08;p=0.17)(図8B)であった。これに対して、TIMP−1癌細胞免疫反応性の無いCEF治療患者とCMF治療患者のIDFSを比較すると、調整済みHR=0.51(95%CI:0.31〜0.84;p=0.0085)(図8A)、及びOS調整済みHR=0.58(95%CI:0.35〜0.96;p=0.03)(図8B)であり、CEFで治療した患者の方がよかった。IDFSとOSについて、治療効果とTIMP−1の間の交互作用について、非縮小Cox比例ハザードモデルを使用して検定した。IDFS(p=0.06)(図8A)とOS(p=0.21)(図8B)について、有意ではないTIMP−1プロフィール(陽性又は陰性免疫反応性)対治療法(CEF又はCMF)交互作用が検出された。
【0166】
考察
本試験は、TIMP−1癌細胞の免疫反応性の欠如が、CMFと比較して、原発性乳癌で補助エピルビシン含有補助療法の好適な効果と関連していることを初めて示し、アントラサイクリン類についてTIMP−1免疫反応性の予測価値を示唆する。CMFと比較して、TIMP−1陰性患者のアントラサイクリンに基づく補助療法は、再発リスクを49%そして死亡率を42%有意に低下させる。
【0167】
免疫染色についてより優れたものとして、抗TIMP−1抗体のパネルの中から、VT7抗TIMP−1モノクローナル抗体をあらかじめ選択した。VT7は、アミノ酸169〜174間に存在する線状のTIMP−1エピトープを認識する。VT7免疫染色は、感度と特異性について完全に検証(VT7はTIMP−2、3、又は4に結合しない)され、染色条件は、抗原採取プロトコール、抗体濃度、及びインキュベーション時間などについて最適化された。さらに固定時間(24〜72時間)の影響の可能性も試験した。各TMAについて、同じIgG1サブタイプの陰性対照抗体(抗TNP)を使用し、既知のTIMP−1陽性乳癌のスライドを、陽性対照として各アッセイに含めた。
【0168】
元々の89D治験に含めた980人のデンマーク人患者と比較して、本解析に含めた647人の患者の特性には、ほんのわずかの差しか見られず、これは、この647人の患者が全DBCG 89Dデンマーク試験群を代表していることを示す。元々の89D治験で報告された全体的効果が本サブセットでも再現され、これは、647人の患者がDBCG治験89D中のデンマーク人の全群の代表であることをさらに支持している。
【0169】
本発明者らは、TIMP−1遺伝子欠損マウスから得られたマウス線維肉腫細胞が、TIMP−1を発現する野生型マウス線維肉腫細胞より、インビトロでエトポシド(トポイソメラーゼIIインヒビター)に対して、有意に高い感受性を有することをすでに公表した。アポトーシスアッセイを応用して、TIMP−1がアポトーシスに対して線維肉腫細胞を防御することが証明された。TIMP−1が化学療法誘導性アポトーシスを防御できることは、他の研究者によっても証明された。なぜ本試験のTIMP−1が、CMFではなくCEFに対する感受性/耐性を予測するかは現在不明である。TIMP−1により制御される可能性のあるシグナル伝達経路について、提案がされている。MCF10A乳房上皮細胞株ではTIMP−1の過剰発現が、チロシンリン酸化を介して焦点接着キナーゼ(FAK)の構成性活性化を誘導することが証明された。FAKは、ホスファチジルイノシトール−3キナーゼ(PI−3キナーゼ)の上流レギュレーターであり、bcl−2ファミリーメンバーの制御(細胞生存に至る詳細に性状解析されたシグナル伝達経路)を引き起こすことが、すでに証明されている。リン酸化FAKは、PI−3キナーゼと結合しこうしてこれを活性化し、これが次にAktキナーゼを活性化する。Aktはタンパク質Badをリン酸化し、その結果これは、捕捉タンパク質14−3−3により細胞質中に隔離され、従ってもうbcl−2やbcl−XLと相互作用して阻害することができない。bcl−2とbcl−XLは、ミトコンドリア膜中に存在するタンパク質であり、活性化されるとこれらの抗アポトーシスタンパク質はBaxを阻害し、従ってミトコンドリアからのチトクロームcの放出を妨害する。これは次に、カスパーゼカスケードの活性化を妨害し、従ってアポトーシスを妨害する。次にこれは、カスパーゼカスケードの活性化を阻止し、従ってアポトーシスを阻止する。すなわちTIMP−1は栄養素のように作用して、FAK、PI−3、Akt、及びbcl−2ファミリーメンバーを含む生存経路を開始させ、カスパーゼ活性化の阻害を引き起こしこうしてアポトーシスの阻害を引き起こすことにより、アポトーシスを阻害する。
【0170】
DBCG 89D治験に参加した患者から得られた腫瘍組織中のTIMP−1免疫反応性を試験することにより、本発明者らは、その乳癌細胞中のTIMP−1免疫反応性が欠如しアントラサイクリンを含む併用化学療法で治療されている患者が、CMFで治療されている患者より有意に優れた結果を有することを証明した。多変量解析では、TIMP−1陰性腫瘍を有する患者は、CMFで治療するよりCEFで治療すると、49%低い再発リスクと42%低い死亡リスクを有した。従ってこれらの臨床結果は、TIMP−1タンパク質がアントラサイクリン治療に対する感受性/耐性に関連しているという、我々の仮説のさらに別の支持である。しかし、補助療法の場でTIMP−1免疫反応性とアントラサイクリン感受性/耐性の間の有意な相関を確認する、独立にした研究が待たれる。さらに我々は現在、TIMP−1の結果を、HER2とTOP2A遺伝子異常アッセイの結果(両方ともアントラサイクリンに対する感受性と関連している)と比較している。
【0171】
本発明者らは、原発性乳癌中のTIMP−1タンパク質のレベルが予知的情報を有することを、すでに公表している。従って、IDFSに対するTIMP−1免疫反応性の観察された作用が予知的又は予測的であると、推測することができる。CMF患者中ではTIMP−1免疫反応性の作用は観察されず、CEF治療患者中にわずかに観察されたのみであるため、本結果はTIMP−1免疫反応性が何らかの予測価値を有することを示唆し、本試験は我々の前臨床観察結果と一致する。以前の予知的試験では、TIMP−1タンパク質は腫瘍全体から抽出され、従って測定されたTIMP−1タンパク質は、汚染血液、腫瘍組織間質細胞、細胞外マトリックス、及び癌細胞から得られたものかも知れない。これに対して本試験では、上皮癌細胞中の局在化TIMP−1タンパク質のみが最終解析に含まれ、これが本試験と以前の試験との差のもう1つの理由である。
【0172】
結論として本試験は、上皮癌細胞中でTIMP−1タンパク質免疫反応性の無い腫瘍が、CMF治療よりアントラサイクリン治療に対してより感受性であることを初めて証明する。将来の試験は、TIMP−1免疫反応性、HER2、TOP2Aと、アントラサイクリン類の効果との関係を確立することを目指している。さらに本結果は、独立した患者群で評価されるであろう。
【実施例2】
【0173】
TOP2A及びTIMP−1腫瘍細胞遺伝子異常とTIMP−1腫瘍細胞タンパク質免疫反応性との組合せ予測価値の臨床試験
方法
高リスク乳癌患者をCMF又はCEFによる補助療法に無作為化した、無作為化試験から647の患者試料を得た。終点は無侵襲性疾患生存率(IDFS)であった。
【0174】
患者試料は、患者の原発性腫瘍からのホルマリン固定パラフィン包埋組織から作成した組織マイクロアレイからなった。すべての試料に識別番号があった。
【0175】
TOP2A遺伝子異常は、既に記載されているように試験した(Koop et al. 2005)。
【0176】
TIMP−1遺伝子異常は、標準的FISH技術を使用して試験した。UCSCゲノムブラウザー(http://genome.ucsc.edu)を使用してTIMP−1遺伝子の周りの400kb領域を分析することにより、BAC(細菌性人工染色体)クローン(RP11-466C12)を同定した。BACクローンは、すでに同定された遺伝子を包含している:ARAF野生型対立遺伝子(ARAF)、ヒトシナプシンI(SYN1)、メタロプロテイナーゼ組織阻害因子−1(TIMP−1)、補体因子プロペルジン(CFP)、ELK1、遍在発現転写体(UXT)、及びAK094108。このクローンを、12.5μg/ml クロラムフェニコール(Sigma-Aldrich, Denmark)を補足したLB培地(Sigma-Aldrich, Denmark)中で培養し、BAC DNAのアルカリ精製法に従って精製した(Poulsen 2004)(Poulsen TS, 2004)。このクローンをUCSCからのDNA配列のコンピューター内BamHI消化物を使用して証明し、酵素の製造業者(Invitrogen, Denmark)が薦めるように、精製BACクローンのBamHIエンドヌクレアーゼ消化と比較した。
【0177】
プローブBAC DNAをテキサスレッド−5−dCTP(Millipore Corporation, Temecula, California, USA)を用いて、製造業者(Roche Diagnostics GmBH, Mannheim, Germany)が記載したようにニック翻訳により標識した。FISH用に全部で10ng/mlの標識DNAを使用し、特異的PNAオリゴ(Nielsen, KV et al., 2004)を使用して、反復配列から得られる不要なバックグランド染色の抑制を行った。染色体X αサテライト配列に特異的なPNAのフルオレセイン標識混合物(CenX PNAプローブ)を、染色体Xのコピー数の標準として使用した。PNAはDako A/Sから供給された。図1は、染色体Xの略図、BAC DNAに包含される領域Xp11の一部の局在化、ならびにCenX PNAプローブにより包含される動原体Xの領域を示す。FISHは、Histology FISH accessoryキットを使用して、製造業者(K5599, Dako A/S, Denmark)の記載を若干変更して行った。前処理工程は、水浴は使用せず、電子レンジ(Whirlpool, Denmark, model JT356 with 6th sense)を使用して行った。スライドを、充分な1×前処理緩衝液中にスライドが完全に覆われるように沈め、スチーム機能(6th sense)を使用して10分間処理し、次に室温(RT)で15分間処理した後、Histology FISH accessoryキットとともに提供されたプロトコールに従って続けた。
【0178】
FISHの評価
100×油浸対物レンズ(開口数)を取り付けたLeica顕微鏡(Leica, Denmark)を使用して、ハイブリダイゼーションシグナルをスコア化した。二重バンドパス蛍光フィルター(Chromotechnology, Brattleboro, VT)を使用して、FITCとテキサスレッドシグナルを同時に視覚化した。DAPI対比染色に基づいて、完全な形態を有する60個の重複していない中間期核をスコア化して、各TIMP−1とCenXプローブについてハイブリダイゼーションシグナルの数を測定した。TIMP−1の増幅は、TIMP−1対CenXシグナルの平均比(=増幅レベル)が2以上(比≧2)として規定した。この比率が0.8未満(比<0.8)の場合は、TIMP−1が欠失していると規定した。従って正常なTIMP−1遺伝子/CenX比は、この間(0.8≦比<2)として規定した。
【0179】
TIMP−1免疫反応性の評価
TIMP−1タンパク質の免疫組織化学試験は、VT7抗TIMP−1モノクローナル抗体(Sorensen et al. 2005)を使用して、すでに公表された方法(Sorensen et al. 2005)に従って行った。組換えヒトTIMP−1に対して作成したマウスモノクローナル抗体(クローンVT7、IgG1)(Moller Sorensen et al. 2005; Sorensen et al. 2006)を0.4μg/mlの濃度で使用した。
【0180】
すべての切片を、患者の病歴を知らされていない2人の独立した病理学者が評価した。各試料を腫瘍細胞免疫反応性の有無について評価し、+又は−としてスコア化した。
【0181】
次にすべてのデータを、統計解析のためにデンマーク乳癌共同研究グループ(Danish Breast Cancer Cooperative Group)に渡した。
【0182】
結果
290人の患者がCEFを投与され、357人がCMFを投与された。これらのうち、216/290と271/357はTIMP−1免疫反応性が陽性であり、61/290と78/357はTOP2A遺伝子異常(増幅又は欠失)があった。24人の患者は、TOP2A DNA状態が不明であった。
【0183】
TIMP−1腫瘍細胞免疫反応性に従って層別した患者の無病生存率のカプランマイヤープロットを、図1AとBに示す。図1Bは、CMFを投与されている患者では、TIMP−1腫瘍細胞反応性はDFSに影響がなかったことを示す(p=0.84)。これに対して、CEFを投与されている患者では、腫瘍細胞TIMP−1免疫反応性の欠如は、DFSの有意な上昇と関連していた(p=0.047)(図1A)。これに対して、腫瘍細胞中にTIMP−1免疫反応性を有する患者は、CMFで治療した患者に匹敵するDFSを有した(p=0.46)。
【0184】
CEFで治療した患者の無病生存率を示す図1Aから明らかなように、腫瘍細胞中にTIMP−1免疫反応性の無い患者は、無病生存率については有意に良好である。例えば5年間の追跡調査で、約72%のTIMP−1陰性患者は疾患の再発を経験していないが、TIMP−1陽性患者の60%のみが無病であった。
【0185】
図1Bは、CMFを投与され、腫瘍細胞がTIMP−1免疫反応性を示すかどうかで層別された患者の無病生存率を示す。2つの群間で無病生存率に差はなかった。
【0186】
TOP2A遺伝子異常について測定すると、CMFを投与されている患者では、TOP2A遺伝子異常状態はDFS(図2B)に影響が無いことがわかった(図2AとB)。これに対してCEFを投与されている患者では、TOP2A遺伝子異常(増幅又は欠失)を有する患者は、CMFを投与されたTOP2A DNA異常を有する患者と比較して、DFSが有意に改善された(図2A)。
【0187】
CEFで治療した患者の無病生存率を示す図2Bから明らかなように、TOP2A DNA異常を有する患者は、TOP2A DNA異常の無い患者よりはるかに悪い。しかし、CEFを投与されておりTOP2A DNA異常について層別された患者の無病生存率を示す図2Aを見ると、CMFを投与された患者より曲線(TOP2A DNA異常を有する患者)が良いことがわかる(図2B)。
【0188】
その癌細胞中で陰性TIMP−1免疫反応性を有する患者のうちで、わずかに24/160(15%)のみがTOP2A遺伝子異常を有するようであった。従って我々は、TOP2A遺伝子異常を有するか又はTIMP−1免疫反応性が欠如していることの、DFSに対する組合せ影響を分析した。結果は、TOP2A分析単独から確定されるCEF治療(CMF治療と比較して)から利益を受ける可能性が高く、危険率が低下することなく、ほとんど2倍の数の患者を同定することができることを示した。表1は、95%信頼限界を含む個々に調整した危険率を示す。すべての値は、危険率を1に設定したCMF群に基づく。
【0189】
HRが1であることは、群間に差が無いことを意味する。我々は、組合せたCMF群を標準として使用した。すなわち表は、亜集団中のCMFを用いる治療と比較して、CEF治療から受ける利益を示す。
【0190】
表1から、CEFで治療されたTOP2A DNA異常を有するかTIMP−1陰性の患者は、HRが1未満であり、95%信頼限界が1を超えないことがわかる。これは、これらの患者(TOP2A DNA異常及び/又はTIMP−1陰性)が、CMFによる治療と比較してCEF治療から有意に優れた利益を受けることを意味する。HRが0.54であることは、これらの患者(TOP2A DNA異常及び/又はTIMP−1陰性)にとって利益の確率が46%であることを意味する。また表から、TOP2A DNA異常(増幅又は欠失)と、その腫瘍細胞がTIMP−1免疫反応性が欠如している患者のHRは、ほとんど同じHRを有することがわかる。本発明では、TOP2A DNA異常を有する患者又はTIMP−1タンパク質免疫反応性が欠如した患者は、必ずしも同じではない。次に、TOP2A DNA異常を有する患者及び/又はTIMP−1免疫反応性が無い患者群についてHRを見ると、この亜集団内の患者の数が、TOP2A DNA異常単独で同定される患者の数のほとんど2倍であるにもかかわらず、HRはほとんど同じである(0.48(95%信頼限界:034〜069)。すなわち、TOP2A DNA異常の測定をTIMP−1タンパク質免疫反応性測定と組合せることにより、TOP2A DNA異常の測定単独と比較して、CEFから利益を受ける可能性の高いほとんど2倍の患者が同定される。
【0191】
組合せ法により、CMF治療から受ける利益(危険率0.48)と比較して、CEF治療から利益を受ける確率が50%を超えて増加している患者の43%を同定することができ、これは、TOP2A DNA異常単独を分析することにより得られる数のほぼ2倍である。
【0192】
図3AとBは、TOP2A DNA異常とTIMP−1免疫反応性を組合せた時の、DFSのカプランマイヤー曲線を示す。
【0193】
図3Bを見ると、CMFで治療した時、TOP2A DNA異常及び/又は腫瘍細胞TIMP−1タンパク質免疫反応性の欠如を有する患者は、腫瘍細胞中にTOP2A DNA異常が無くTIMP−1タンパク質免疫反応性を有する患者より、悪いことがわかる。しかし患者をCEFで治療すると(図3A)、TOP2A DNA異常を有するか及び/又はTIMP−1タンパク質免疫反応性が欠如した患者は、CMFで治療したものよりはるかに良い。すなわち、TOP2A DNA異常を有するか及び/又はTIMP−1タンパク質免疫反応性が欠如し、CEFで治療した患者は、CMFで治療したTOP2A DNA異常を有するか及び/又はTIMP−1タンパク質免疫反応性が欠如した患者より、良い。
【0194】
図9は、上皮乳癌細胞中にTIMP−1 DNA異常を示すTIMP−1 FISH分析を示す。
【0195】
考察
本試験は、TIMP−1タンパク質及び/又はTOP2A遺伝子異常の欠如又は低下した濃度は、ある種類の化学療法に感受性を付与することを示す。
【0196】
本試験は、完全な臨床的追跡調査のある大規模な前向き研究から得られた試料について行われた(Ejlertsen et al., Eur J Cancer 2005)。使用したTOP2A FISH分析とTIMP−1免疫組織化学技術の両方とも、既に記載されている。
【0197】
本試験の結果は、原発性の高リスク乳癌患者で、CEFを用いる補助治療から受ける利益(IDFSの延長)を予測するのに、TOP2A遺伝子異常測定とTIMP−1免疫組織化学試験の組合せの付加的効果があるが、CMFで治療された患者では効果が無いことを明瞭に示し、アントラサイクリンを含む化学療法から受ける利益の予測において、組合せ試験の価値を示唆している。
【実施例3】
【0198】
高リスク乳癌患者におけるHER2、TOP2A、及びTIMP−1と、補助アントラサイクリンを含む化学療法に対する応答性
方法
DBCG 89D治験とその生物学的サブ研究は、すでに詳細に記載されている(Ejlertsen et al., 2007、及びKnoop et al. 2005)。簡単に説明すると、DBCG治験89Dは、CEF(シクロホスファミド 600mg/m2、エピルビシン 60mg/m2、及びフルオロウラシル 600mg/m2)をCMF(シクロホスファミド 600mg/m2、メソトレキセート 40mg/m2、及びフルオロウラシル 600mg/m2)に対して比較する、いずれも静脈内投与して3週間間隔で9サイクル行う非盲検無作為化第III相治験であった。89D治験の適格患者は、ホルモン受容体陰性で節陽性(又は腫瘍サイズ>5cm)の乳癌患者と、節陰性で悪性グレードII又はIII腫瘍を有する更年期前患者であった。高度にホルモン応答性腫瘍の患者を、一致した適格性標準でDBCG治験(89Bと89C)に含めた。DBCGは、元々のプロトコールとバイオマーカーの追加を準備し、デンマーク国立生物医学研究倫理委員会(Danish National Committee on Biomedical Research Ethics)は、その実施前に元々のプロトコールとバイオマーカーの追加を認可した(V.200.1616/89, KF12295003)。
【0199】
HER2、ER、及びTIMP−1免疫反応性の中央評価
ホルマリン固定しパラフィン包埋した腫瘍ブロックから、TMA-builder(Histopathology Ltd, AH-diagnostics)を用いて組織マイクロアレイ(TMA)を作成した。ヘマトキシリン染色切片上のドナーブロック中で標的部位を確定し、2つの2mm組織コアを、受容TMAブロックに移した。ER免疫染色は、室温で3μ TMA切片について、ER1D5(Dako)抗体とTech-mate 500(Dako)を用いて行った。ER発現は、強度は無視して、染色される腫瘍細胞のパーセントとして記録し、結果を陽性(≧10%の染色細胞)又は陰性(<10%)として2群に分けた。HER2の発現は、切片全体についてHercepTest(Dako)を使用して測定し、0、1+、2+、又は3+としてスコア化した。TIMP−1免疫染色は、既に記載されているように(Sorensen et al. 2006)行った。簡単に説明すると、切片を抗TIMP−1マウスモノクローナル抗体VT7とともにインキュベートした。VT7はマウス/ウサギEnvision+(Code No K5007, DAKO A/S)を用いて検出し、切片をDAB+(Code No K5007, DAKO A/S)と2回3分間インキュベートして、反応物を視覚化した。組織切片の免疫染色は、上皮乳癌細胞中のTIMP−1免疫反応性の尺度として+及び−記号を使用して、半定量的に評価した。シグナル強度のスコア化は含めなかった。組織切片のスコア化は、2人に独立した病理学者(GWとEB)によりブラインドで行われた。不一致がある場合は、一緒にスライドを観察して合意に達した。
【0200】
TOP2AとHER2 FISH
TOP2AとHER2コピー数は、FISH(TOP2A pharmDXとHER2 pharmDX, DAKO A/S)により視覚化した。少なくとも60個の遺伝子シグナルがスコア化され、核が含まれていた場合は、すべてのシグナルがスコア化された。さらに同じ核中で動原体17シグナルがスコア化され、動原体17に対する遺伝子の比を計算した。腫瘍は、比率が<0.8、0.8〜1.9、及び>2.0に従って、TOP2A/HER2が欠失しているか、正常か、又は増幅されたとしてスコア化した。
【0201】
統計的方法
追跡調査時間を、可能な追跡調査のカプランマイヤー推定値により定量化した。無侵襲性疾患生存率(IDFS)が一次終点であり、何らかの原因による局在化、同側若しくは対側の乳房を含む侵襲性乳癌、2回目の原発性非乳房侵襲癌、又は死亡には無関係に、無作為化から侵襲性乳癌再発までの経過時間として規定した。2次終点であるOS(全生存率)は、無作為化から、何らかの原因による死亡までの経過時間として規定した。IDFSとOSは、カプランマイヤー推定値と対数順位検定とを使用して解析した。IDFSとOSに対する、HER2又はTOP2Aバイオマーカー状態と組合せたTIMP−1の効果は、Cox比例ハザードモデル(Cox proportional hazard model)を使用して調整せずに推定した危険率により定量化した。Cox比例ハザードモデルはまた、同じ患者材料についてすでに開発されたモデルに基づいて、多変量解析に応用した。この多変量モデルは、TIMP−1、TOP2A、HER2、ER、腫瘍サイズ、陽性リンパ節、組織型とグレード、更年期状態、およびCMF若しくはCEFを用いる治療を含んだ。IDFSとOSに対するCox比例ハザードモデルは、適合度(goodness-of-fit)法の結果に従って調整し、及びERホルモン受容体状態ならびに組織型とグレードは、層別変数として含めた。バイオマーカー(HT、2T、TIMP−1、TOP2A、及びHER2)と治療処方(CMF又はCEF)との交互作用は別々のモデルで試験し、ワルド検定(Wald test)を応用した。
【0202】
バイオマーカーについて情報が有る患者と無い患者との差、治療法間の差、及びHT(HER2陽性及び/又はTIMP−1免疫反応性欠如)又は2Tバイオマーカー状態と臨床及び病理的変数(HER2状態を含む)との相関は、χ2検定により検定した。P値は両側検定とした。腫瘍は、HER2陽性及び/又はTIMP−1免疫反応性欠如がある場合、HT応答性として分類し、その他の場合はHT非応答性とした。腫瘍は、TOP2A異常及び/又はTIMP−1免疫反応性欠如がある場合、2T応答性と分類し、その他の場合は2T非応答性とした。統計解析は、SAS 9-1プログラムパッケージを使用して行った。
【0203】
DBCGは、試験計画と調整、組織採取、バイオマーカー分析、データ採取、解析、及び報告に関与した。ER1D5抗体、HercepTest、HER2 pharmDXとTOP2A pharmDXキット、及び技術援助は、DAKO A/S(Glostrup, Denmark)から無償で提供された。
【0204】
結果
DBCG 89D治験は、1990年6月〜1998年1月の間に1224人の患者を集めた。IDFSに関して推定される可能な追跡調査時間の中央値は9,8年であり、OSについては13.8年であった。2001年にDBCGは、デンマークで集めた980人の参加者のうち821人(84%)から入手できたホルマリン固定パラフィン包埋した原発性乳房腫瘍組織ブロックの遡及的採取を完了し、708人(72%)の患者でTMAの作成に成功した。全部で623人の患者について、HER2、TOP2A、及びTIMP−1分析が可能であった。評価可能な623人の患者は、更年期状態、腫瘍サイズ、悪性グレード、ER状態に関して、357人の評価不可能者とは有意に異なった(p<0.05)。陽性リンパ節の数と組織型は、評価可能患者と評価不可能患者との間で有意差を示さなかった。治療効果は同様であり、危険率は元々の試験で観察された効果(IDFS:危険率0.76、及びOS:危険率0.73)(Ejlertsenet al. 2007)に対して、IDFS(調整済み危険率、0.80(95%信頼限界(CI)、0.63〜1.01;p=0.06)及びOS(調整済み危険率、0.79;95%CI,0.62〜1.00;p=0.05)で、CEFがよかった。
【0205】
評価可能な623人の患者のうちで、188人(30%)はHER2陽性であり、139人(22%)はTOP2A異常であり、154人(25%)はTIMP−1陰性腫瘍を有した。TOP2A異常は、435人のHER2陰性患者の33人(8%)にのみ検出された(表2)。これに対してTIMP−1免疫反応性は、HER陰性の123人(28%)と、484人のTOP2A正常患者の130人(27%)に検出された。表2は、HER2、TOP2A、及びTIMP−1がうまく実施できる623人の患者についての2T状態に従うベースライン特性を示す。
【0206】
TIMP−1をTOP2A又はHER2と組合せる
HER2とTIMP−1を用いて、311人(50%)の患者を、HTアントラサイクリン応答性として、例えばHER2陽性、TIMP−1陰性、又はHER2陽性、及びTIMP−1陰性腫瘍プロフィールを有するとして分類した。HT応答性プロフィールを有する患者は、更年期後である頻度が有意に(p<0.05)多く、陽性リンパ節、2cmより大きい腫瘍、及びER陰性腫瘍を有した。HT応答性プロフィールを有する患者は、その腫瘍がHT非応答性である患者と比較して、同様のIDFS(危険率、1.22;95%CI、0.97〜1.52;p=0.09)、及び劣ったOS(危険率、1.33;95%CI、1.06〜1.67;p=0.01)を有した。多変量解析で更年期状態、腫瘍サイズ、陽性リンパ節の数、組織型とグレード、ERとTOP2A状態について調整すると、IDFS(危険率、1.03;95%CI、0.80〜1.33;p=0.81)とOS(危険率、1.05;95%CI、0.81〜1.36;p=0.73)の危険率が変化した。
【0207】
TOP2AとTIMP−1を組合せて使用して、269人(43%)の患者は、2Tアントラサイクリン応答性、例えばTOP2A異常を有するか及び/又はTIMP−1免疫反応性が欠如すると分類された(表2)。2T応答性プロフィールは、ER陰性、HER2陽性、及び大きな腫瘍サイズと相関した(すべてp<0.01)。2T応答性プロフィールを有する患者は、2T非応答性プロフィール患者と比較して、低いIDFS(危険率、1.26;95%CI、1.01〜1.58;p=0.04)とOS(危険率、1.34;95%CI、1.07〜1.69;p=0.01)を有した。多変量解析で更年期状態、腫瘍サイズ、陽性リンパ節の数、組織型とグレード、ER発現とHER2状態について調整すると、IDFS(危険率、1.19;95%CI、0.93〜1.51;p=0.71)とOS(危険率、1.18;95%CI、0.927〜1.51;p=0.18)の危険率が変化した。
【0208】
単一のバイオマーカーとプロフィールに従う治療の不均一性
多変量Cox回帰分析で我々は、HER2状態、TOP2A状態、TIMP−1免疫反応性、HTプロフィール、又は2Tプロフィールに従う治療効果の不均一性を調べた。統計的に有意な交互作用は無く、HER2及びTIMP−1について、CMFと比較してCEFによるIDFSとOSの改善を示した。すでに報告されているように、TOP2A状態と治療効果の間の有意な交互作用が、IDFS(p=0.004)とOS(p=0.03)について観察された。
【0209】
CEFで治療すると、HT応答性(HER2陽性又はTIMP−1陰性)と分類される腫瘍を有する患者は、IDFSで境界の有意な改善(図4A、表4)とOSで統計的に有意な改善を有した。これに対して、HT非応答性プロフィールを有する患者では、CMFと比較してCEFから有意な利益は無かった。節状態、腫瘍サイズ、組織学、グレード、ER状態、TOP2A状態、HER2状態、TIMP−1発現、及び更年期状態について調整後、HT応答性プロフィールを有する患者では、CEFの使用によりさらに好適なIDFSとOSが維持された(それぞれ、p値=0.036と0.047;図5)。
【0210】
2T応答性プロフィールを有する患者では、2T非応答性患者とは反対に、CMFと比較してCEFは、IDFSとOSを有意に改善した(図4B、表4)。患者と腫瘍特性について調整する多変量解析は、2T応答性プロフィールを有する患者が、IDFS(図5A)とOS(図5B)に関して、CMFと比較してCEFから利益を受けることを確認した。これに対して、2T非応答性プロフィールを有する患者では、CMFの使用により、さらに好適な結果への有意ではない傾向が存在した(図5)。2Tプロフィールと治療効果との間に高度に統計的に有意な交互作用があり、2T応答性(TOP2A異常、又はTIMP−1陰性)プロフィールを有する269人(43%)の患者は、IDFS(ワルド検定(Wald test)、p<0.0001)とOS(ワルド検定(Wald test)、p=0.004)に関して、CMFと比較してCEFの使用により、さらに好適な結果を経験した(図5)。
【0211】
考察
治療法の選択は、可能な場合は、個々の乳癌患者の腫瘍内の特異的標的に対して行われるべきであることは、一般に認められている。しかし、しばしば化学療法の追加が必要であり、化学療法は標的特異性が低いと考えられている。補助療法における有意性が証明されているにもかかわらず、アントラサイクリン類の作用機序はいまだに完全には解明されていない。しかし、提唱された機序のうちで、トポイソメラーゼIIαとアポトーシス誘導との相互作用は、臨床的に適切なアントラサイクリン濃度で起きるようである。本発明者らは、TOP2AとTIMP−1プロフィールの組合せの開発に従事し、DBCG 89D治験内で、すでにその予測性を個々に調べた。
【0212】
本研究では、HER2陽性腫瘍を有する188人の患者のうちで、106人(56%)は、HER2陰性腫瘍を有する8%(435人中33人)と比較して、異常TOP2A状態を有した。HER2陽性集団内にはTOP2A異常腫瘍を有する多くの患者が含まれているため、これらの2つのマーカーを組合せることは現実的ではなかった。TOP2A単独を使用して得られる22%と、TIMP−1単独を使用して得られる25%と比較して、2Tプロフィール中にTOP2AとTIMP−1を取り込むことにより、43%の患者がアントラサイクリン応答性と分類された。2T応答性プロフィールを有する43%の患者について、CEFの使用は、IDFS事象の52%の相対的低下と、死亡率の46%の相対的低下に関連していた。
【0213】
これに対して、2T非応答性プロフィールを有する残りの57%の患者で、CMFからの有意ではない利益が見られた。2T応答性プロフィールと非応答性プロフィールを有する患者内の差の大きさと、これらの推定値の正確度は、臨床的に重要な差を強調するのに充分に高い。治療と2Tプロフィールとの高度に統計的に有意な交互作用の知見は、この記載を支持する。TOP2AとTIMP−1応答性プロフィールとを有する4%は、異なる結果は無いようであった。
【0214】
HER2は、アントラサイクリン類に対する感受性について、最も頻繁に使用されるバイオマーカーであり、TOP2A異常の大半は、HER2陽性腫瘍中で観察される。比較のために、本発明者らはHER2とTIMP−1とを組合せて、腫瘍がTIMP−1免疫反応性を欠如しているか及び/又はHER2陽性である場合は、患者はHTアントラサイクリン応答性であるとして分類した。
【0215】
CMFと比較してCEFからの利益は、HT応答性プロフィールを有する50%の患者で実質的に大きく、この不均一性は、HTプロフィールと治療との統計的に有意な交互作用により確認された。本発明者らは、単一のマーカーとしてのTIMP−1又はHER2に従う鑑別的治療効果についての証拠は見つけられず、これはバイオマーカーを組合せることの効果を強調している。
【0216】
結論として、TOP2AとTIMP−1とに基づく2Tプロフィールの組合せ解析は、これらの2つのバイオマーカーを組合せると、CMF中でメソトレキセートの代わりにエピルブシンを使用することにより有意に利益を受ける大部分(ほとんどすべてではない)の患者を同定できることを示す。2Tプロフィールは、HER2、TOP2A、及びTIMP−1が単独に行うより、より大きなアントラサイクリン応答性亜集団を区別する。
【0217】

【0218】
【表1】

【0219】
【表2】

【0220】
【表3】

【0221】
【表4】

【0222】
【表5】

【0223】
【表6】

【0224】
【表7】

分析に含まれる
【0225】
【化1】

【0226】
【化2】

【0227】
【化3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌を有する個体においてトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測する方法であって、
a.該個体から得られた試料で、該試料に含まれる腫瘍細胞中のTIMP−1タンパク質の欠如、又は該試料の腫瘍細胞中のTIMP−1 DNA異常の存在を測定する工程、
b.染色体17q21上のTOP2A/HER2アンプリコン中の染色体DNAの異常の存在、又は該アンプリコンに含まれる遺伝子の異常タンパク質発現を測定する工程、
c.染色体17q21上のTOP2A/HER2アンプリコン中に染色体DNA異常が存在する場合、及び/又は該アンプリコン中に含まれる遺伝子のタンパク質発現が、該腫瘍細胞中で異常な場合、及び/又は腫瘍細胞にTIMP−1タンパク質が欠如している場合、及び/又は該腫瘍細胞が、TIMP−1遺伝子の対立遺伝子の1つ若しくは両方に該TIMP−1 DNA異常を含む場合は、個体がトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に応答する可能性が高いと分類する工程、そして
d.TOP2A/HER2アンプリコン中に染色体DNA異常が存在しないか、又は該アンプリコンに含まれる任意の遺伝子にコードされるどのタンパク質も、腫瘍細胞中で異常に発現されていない場合、及び腫瘍細胞中にTIMP−1タンパク質が存在する場合、及び/又はTIMP−1対立遺伝子のいずれも該TIMP−1 DNA異常を含まない場合は、個体がトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に応答する可能性が低いと分類する工程、
を含んでなる方法。
【請求項2】
染色体17q21上のTOP2A/HER2アンプリコン中の染色体DNAの異常が、TOP2A DNA異常であり、該アンプリコンに含まれる遺伝子のタンパク質発現が、トポイソメラーゼIIα発現であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
染色体17q21上のTOP2A/HER2アンプリコン中の染色体DNAの異常が、HER2 DNA異常であり、該アンプリコンに含まれる遺伝子のタンパク質発現が、ErbB2発現であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
癌を有する個体のトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測する方法であって、
a.該個体から得られる試料で、該試料中に含まれる腫瘍細胞中にTIMP−1タンパク質が存在しないことを測定する工程、
b.該試料の腫瘍細胞中にTOP2A DNA異常が存在することを測定する工程、
c.TOP2A DNA異常が存在する場合、及び/又は腫瘍細胞にTIMP−1タンパク質が欠如している場合に、個体がトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に応答する可能性が高いと分類する工程、そして
d.TOP2A DNA異常が存在しない場合、及び腫瘍細胞中にTIMP−1タンパク質が存在する場合に、個体がトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に応答する可能性が低いと分類する工程、
を含んでなる方法。
【請求項5】
DNA異常又はタンパク質発現のレベルを測定するために、集団から得られる標準を使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該標準は腫瘍組織間質細胞中に存在する正常な二倍体遺伝子バックグランドであることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
TOP2A遺伝子異常は、TOP2A DNA増幅、TOP2A DNA欠失、TOP2A遺伝子点突然変異、及びTOP2A DNA転座、TOP2A DNAの後成的修飾(例えばDNAメチル化)、及びこれらの組合せよりなる群から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
トポイソメラーゼIIαタンパク質は、標準試料に対して2倍より多く過剰発現され、例えば標準試料の3倍より多く、例えば4倍より多く、例えば5倍より多く、例えば6倍より多く、例えば7倍より多く、例えば8倍より多く、例えば9倍より多く、例えば10倍より多く、例えば15倍より多く、例えば20倍より多く、例えば30倍より多く、例えば40倍より多く、例えば50倍より多く、例えば100倍より多く過剰発現されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
TOP2A遺伝子は、標準試料に対して2倍より多く増幅され、例えば標準試料の3倍より多く、例えば4倍より多く、例えば5倍より多く、例えば6倍より多く、例えば7倍より多く、例えば8倍より多く、例えば9倍より多く、例えば10倍より多く、例えば15倍より多く、例えば20倍より多く、例えば30倍より多く、例えば40倍より多く、例えば50倍より多く、例えば100倍より多く増幅されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
TOP2A DNA異常又は腫瘍細胞中のトポイソメラーゼIIαタンパク質の増加は、該試料の腫瘍細胞中の異常なTOP2A mRNAレベルと相関することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
HER2遺伝子異常は、HER2 遺伝子増幅、HER2 DNA欠失、HER2遺伝子点突然変異、及びHER2 DNA転座、HER2 DNAの後成的修飾(例えばDNAメチル化)、及びこれらの組合せよりなる群から選択されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
ErB2タンパク質は、対照試料に対して2倍より多く過剰発現され、例えば対照試料の3倍より多く、例えば4倍より多く、例えば5倍より多く、例えば6倍より多く、例えば7倍より多く、例えば8倍より多く、例えば9倍より多く、例えば10倍より多く、例えば15倍より多く、例えば20倍より多く、例えば30倍より多く、例えば40倍より多く、例えば50倍より多く、例えば100倍より多く過剰発現されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
HER2遺伝子は、対照試料に対して2倍より多く増幅され、例えば対照試料の3倍より多く、例えば4倍より多く、例えば5倍より多く、例えば6倍より多く、例えば7倍より多く、例えば8倍より多く、例えば9倍より多く、例えば10倍より多く、例えば15倍より多く、例えば20倍より多く、例えば30倍より多く、例えば40倍より多く、例えば50倍より多く、例えば100倍より多く増幅されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項14】
TIMP−1遺伝子は、対照試料に対して2倍より多く増幅され、例えば対照試料の3倍より多く、例えば4倍より多く、例えば5倍より多く、例えば6倍より多く、例えば7倍より多く、例えば8倍より多く、例えば9倍より多く、例えば10倍より多く、例えば15倍より多く、例えば20倍より多く、例えば30倍より多く、例えば40倍より多く、例えば50倍より多く、例えば100倍より多く増幅されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
HER2 DNA異常、又は腫瘍細胞中のErbB2タンパク質の増加は、該試料の腫瘍細胞中の異常なHER2 mRNAレベルと相関することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項16】
前記請求項のいずれかに記載の方法であって、腫瘍細胞は、TIMP−1対立遺伝子の1つの欠失、TIMP−1対立遺伝子の両方の欠失、TIMP−1対立遺伝子の1つの部分的欠失、TIMP−1対立遺伝子の両方の部分的欠失、TIMP−1 DNA点突然変異、TIMP−1 DNA反転、TIMP−1 DNA転座、TIMP−1 DNAの後成的修飾(例えばDNAメチル化)、及びこれらの組合せからなるリストから選択される、少なくとも1つのTIMP−1 DNA異常を含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
腫瘍細胞はTIMP−1タンパク質が欠如していることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
請求項1に記載の方法であって、DNA遺伝子異常のレベルは、特に限定されないが、インサイチューハイブリダイゼーション、PCR法、示差的表示、DNAドットブロッティング、サザンブロッティング、又はこれらの組合せのようなDNA測定手段により測定されることを特徴とする方法。
【請求項19】
インサイチューハイブリダイゼーションは、FISH(蛍光インサイチューハイブリダイゼーション)手段により測定されることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、FISHは、TOP2A遺伝子領域の一部、又はHER2遺伝子領域、又はTIMP−1遺伝子領域の一部を標的とする標識DNAプローブを含むプローブ混合物、及びそれぞれ染色体17及びX染色体の動原体領域を標的とするフルオレセイン標識プローブを含むプローブ混合物とを使用することを特徴とする方法。
【請求項21】
DNA異常は、試料に含まれる内部標準配列に対する平均比として測定されることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
内部標準配列は染色体X αサテライト(CenX)であることを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
腫瘍細胞は、TIMP−1/CenXの平均比が0.8未満である場合、TIMP−1遺伝子欠失を含み、該比が、0.8より大きく2.0未満である場合、正常であることを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
腫瘍細胞は、TOP2A/CenXの平均比が0.8未満である場合、TOP2A遺伝子欠失を含み、又はTOP2A/CenXの平均比が2.0より大きい場合、増幅を含み、該比が、0.8より大きく2.0未満である場合、正常であることを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
腫瘍細胞は、HER2/CenXの平均比が0.8未満である場合、HER2遺伝子欠失を含み、又はHER2/CenXの平均比が2.0より大きい場合、増幅を含み、該比が、0.8より大きく2.0未満である場合、正常であることを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
遺伝子発現のレベルは、特に限定されないがノーザンブロッティング、RNAドット、及び定量的PCR法のようなmRNA測定により測定されることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
異常タンパク質発現は、ウェスタンブロッティング、免疫組織化学試験、免疫細胞学試験、ELISA、又はRIAのようなタンパク質レベル測定手段により測定されることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
DNA異常又はタンパク質異常の測定は、個体からの保存物質、例えば腫瘍組織を含むパラフィンブロックについて行われることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
癌は、乳癌、肉腫、卵巣癌、及び非小細胞肺癌よりなる群から選択されることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
試料は、腫瘍組織試料、血液試料、血漿試料、血清試料、尿試料、便試料、唾液試料、及び胸腔及び腹腔からの漿液の試料、及びこれらの組合せよりなる群から選択されることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
トポイソメラーゼIIαインヒビター療法は、アポトーシス又は有糸分裂破局のインデューサーを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
トポイソメラーゼIIαインヒビター療法は、術前補助療法、補助治療法、及び転移疾患の治療よりなる群から選択されることを特徴とする、請求項1と31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
トポイソメラーゼIIαインヒビターはアントラサイクリンであることを特徴とする、請求項1及び31〜32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
アントラサイクリンは、特に限定されないが、4−エピルブリシン、ダウノルビシン、ダウノルビシン(リポソーム)、ドキソルビシン、ドキソルビシン(リポソーム)、エピルビシン、イダルビシン、及びミトキサントロン、又はこれらの組合せよりなる群から選択されることを特徴とする、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
トポイソメラーゼIIαインヒビターは、シクロホスファミド、タキサン類、及び/又は5−フルオロウラシルをさらに含む組成物中に含まれることを特徴とする、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
シクロホスファミド、タキサン類、及び/又は5−フルオロウラシルの少なくとも1つは、プロドラッグの形であることを特徴とする、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
トポイソメラーゼIIαインヒビター療法は4−エピルブリシンであることを特徴とする、請求項1〜32のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
トポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対して応答する可能性は、危険率により測定されることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
個体の癌を治療する方法であって、
a.前記請求項のいずれかのトポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測し、
b.該個体が応答する可能性の高いトポイソメラーゼIIαインヒビター療法を選択し、そして
c.該個体を該トポイソメラーゼIIαインヒビター療法に付す、
ことを含んでなる方法。
【請求項40】
トポイソメラーゼIIαインヒビターは、特に限定されないが、4−エピルブリシン、ダウノルビシン、ダウノルビシン(リポソーム)、ドキソルビシン、ドキソルビシン(リポソーム)、エピルビシン、イダルビシン、及びミトキサントロン、又はこれらの組合せよりなる群から選択されるアントラサイクリン類であることを特徴とする、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
トポイソメラーゼIIαインヒビターは、シクロホスファミド、5−フルオロウラシル、及び/又はタキサンをさらに含む組成物中に含まれることを特徴とする、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
トポイソメラーゼIIαインヒビター療法に対する応答を予測するためのキットであって、
a.生物学的試料中の、TOP2A又はHER2 DNA異常のようなTOP2A/HER2アンプリコン中の染色体DNA異常の測定に適した試薬と、
b.生物学的試料中の、TIMP−1 DNA異常の測定又はTIMP−1タンパク質レベルの測定に適した試薬とを、
含んでなるキット。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6A−D】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2011−520456(P2011−520456A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509855(P2011−509855)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【国際出願番号】PCT/DK2009/050116
【国際公開番号】WO2009/140973
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(500297502)ダコ デンマーク アクティーゼルスカブ (2)
【Fターム(参考)】