説明

抗腫瘍剤

【課題】植物成分であって、抗腫瘍活性がより高く、副作用が少ない抗腫瘍剤を提供すること。
【解決手段】(a)センダン科植物又はその抽出物、(b-1)ヒガンバナ科植物又はその抽出物及び/又は(b-2)キョウチクトウ科植物又はその抽出物を含有する抗腫瘍剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍剤、特に、植物由来の成分を含有し、ヒトの大腸癌、胃癌、肺癌、脳腫瘍及び腎癌に対して優れた効果を有する抗腫瘍剤、及び食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療技術が進歩し、高齢化が更新されている現在において、癌は依然として重大な病気として存在している。もちろん、癌の治療技術も大いに進歩し、合成医薬、漢方、天然物からの抽出物などをベースとする数多くの医薬が開発されている。合成医薬に対して、天然物からの抽出物は副作用の点で優れており、例えば、西洋イチイからタキソールが発見され、抗癌剤の有効成分として用いられている(特許文献1及び2)が、その副作用は依然として大きいものである。
これに対して、本発明者は、植物成分に着目し、特定の植物に含まれている成分が優れた抗腫瘍を有することを見出し、センダン科植物又はその抽出物を含有する抗腫瘍剤(特許文献3)、ヒガンバナ科植物、アジサイ科植物又はそれらの抽出物を含有する抗腫瘍剤(特許文献4)及びキョウチクトウ科植物、ユリ科植物又はそれらの抽出物を含有する抗腫瘍剤(特許文献5)について特許出願している。
【0003】
【特許文献1】特開昭63−30478号公報
【特許文献2】特開平7−233064号公報
【特許文献3】特開2004−256426号公報
【特許文献4】特開2004−300082号公報
【特許文献5】WO2005087246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、植物成分であって、抗腫瘍活性がより高く、副作用が少ない抗腫瘍剤を提供することを目的とする。
本発明は、又、植物成分を含有する食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、これまでに見出した抗腫瘍活性を有する植物成分のうち、センダン科植物又はその抽出物に、ヒガンバナ科植物又はその抽出物及び/又はキョウチクトウ科植物又はその抽出物を併用すると、相乗効果により一層抗腫瘍効果が向上すると知見に基づいてなされたのである。
すなわち、本発明は、(a)センダン科植物又はその抽出物及び(b-1)ヒガンバナ科植物又はその抽出物又は(b-2)キョウチクトウ科植物又はその抽出物を含有することを特徴とする抗腫瘍剤を提供する。
本発明は、又、(a)センダン科植物又はその抽出物、(b-1)ヒガンバナ科植物又はその抽出物、及び(b-2)キョウチクトウ科植物又はその抽出物を含有することを特徴とする抗腫瘍剤を提供する。
本発明は、又、(a)センダン科植物又はその抽出物、(b-1)ヒガンバナ科植物又はその抽出物及び/又は(b-2)キョウチクトウ科植物又はその抽出物を含有することを特徴とする食品を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明で用いるセンダン科植物は、センダン科(Meliaceae)に属する植物であって、太い枝先に羽状複葉をもち、円錐花序を有する常緑または落葉の高木が中心であるが、低木や草本状のものも存在している。これらのうち、特に、センダン(Melia Azedarach L.やMelia Azedarach var. subtripinnata)を用いるのが好ましい。本発明では、センダン科植物の葉、茎、枝、樹皮及び実を用いることができる。又、根皮を用いることもできる。センダン科植物自体を抗腫瘍剤の有効成分として使用する場合には、これらを乾燥した後、微細に粉砕して用いるのが好ましい。
本発明では、センダン科植物の葉、茎、枝、樹皮及び実を、例えば、乾燥し、粉砕した後、又は未乾燥の生の状態で、水、例えば、蒸留水やイオン交換水で、又は親水性若しくは疎水性有機溶媒で抽出した液自体又はその乾燥物を用いることができる。
【0007】
本発明で用いるヒガンバナ科植物(Amaryllidaceae)は、ヒガンバナ目(Amaryllidales)に属する植物であり、ネギ・ニラ(Agapanthus, Allium)、ユキノハナ(Galanthus)、ハマオトモ(Amarylilis Crinum)、タマスダレ(Zephyranthes)、マユハケオモト(Haemanthus)、ヒガンバナ・ショウキラン(Hymenocallis, Lycoris)、アマリリス(Hippeastrum)及びスイセン(Narcissus)があげられる。より具体的には、スイセン(Narcissus tazetta L.)、ショウキズイセン(Lycoris traubii Hayward)、ヒガンバナ(Lycoris radiata Herb.)、サクヤカニユリ(Hymenocallis americana Roem.)、タマスダレ(Zephyranthes candida Herb.)、シロスジアマリリス(Hippeastrum reticulatum Herb. var striatifolium Herb.)、アマリリス(Hippeastrum hybridum Hort.)、オオマンネンラン(Furcraea gigantea Vent.)、フィリオオマンネンラン(Furcraea gigantea Vent.)、エンレイハマオモト(Crinum amabile Donne)、チュベローズ(Polianthes tuberosa L.)、ハツミドリ(Agave attenuata Salm-Dyck)、ホリダリュウゼツラン(Agave horrida Lam.)、フィリウスバリュウゼツラン(Agave angustifolia Haw. cv. Marginata)、フタバナリュウゼツラン(Agave geminiflora Ker-Gaul)、アオノリュウゼツラン(Agave americana L.)などがあげられる。これらのうち、スイセン(Narcissus tazetta L.)、ショウキズイセン(Lycoris traubii Hayward)及びヒガンバナ(Lycoris radiata Herb.)が好ましく、特にショウキズイセンが好ましい。
本発明では、これらの植物の葉、花、茎及び球根を用いることができる。植物自体を抗腫瘍剤の有効成分として使用する場合には、これらを乾燥した後、微細に粉砕して用いるのが好ましい。
本発明では、ヒガンバナ科植物の葉、花、茎及び球根を、例えば、乾燥し、粉砕した後、又は未乾燥の生の状態で、水、例えば、蒸留水やイオン交換水で、又は親水性若しくは疎水性有機溶媒で抽出した液自体又はその乾燥物を用いることができる。
【0008】
本発明で用いるキョウチクトウ科植物(Apocynaceae)は、フジウツギ目(Gentianales, Apocynales)に属する植物であり、キョウチクトウ(Nerium Oleander L.)、ヒメアリアケカズラ(Allamanda Oenotheraefolia Pohl)、メキシカーナインドソケイ(Plumeria Mexicana)、ニチニチソウ(Lochnera)、アイリキョウチクトウ(Nerium olender L. c.v. Variegatum)、アコン、オキナワキョウチクトウ(Cerbera manghas L.)、キバナキョウチクトウ(Thevetia peruviana L.)、マンデビーラ(Mandevilla splendens Woodson hybrid)、チョウジソウ(Amsonia)、バシクルモン(Apocynum)などがあげられる。これらのうち、キョウチクトウ(Nerium Oleander L.)が好ましい。又、アイリキョウチクトウ、アコン、オキナワキョウチクトウ、キバナキョウチクトウは50%細胞致死率がlog104.5以上の活性を示すので、これらも好ましい。
本発明では、これらの植物の葉、花、実、茎及び(球)根を用いることができる。これらのうち、茎又は葉を用いるのが好ましい。植物自体を抗腫瘍剤の有効成分として使用する場合には、これらを乾燥した後、微細に粉砕して用いるのが好ましい。
本発明では、キョウチクトウ科植物の葉、花、実、茎及び(球)根を、例えば、乾燥し、粉砕した後、又は未乾燥の生の状態で、水、例えば、蒸留水やイオン交換水で、又は親水性若しくは疎水性有機溶媒で抽出した液自体又はその乾燥物を用いることができる。
【0009】
抽出に用いる有機溶媒としては、酢酸エチル、四塩化炭素、クロロフォルム、ジクルロメタン、メタノール、エタノール、(イソ)プロピルアルコール、ブタノール、アセトン又はDMSOがあげらる。ここで親水性溶媒は、含水形態で用いることもできる。使用する水や溶媒の量は任意とすることができるが、5分の1〜5倍量で用いるのがよく、特に約等量で用いるのが好ましい。又、抽出は、60℃以下であるのがよく、さらに室温で行うのが好ましく、特に、ミキサーなどで攪拌しながら行うのがよい。
抽出物中の有効成分の分子量が30万未満であるのが好ましく、分子量が10万以下であるのがより好ましく、最も好ましくは1万以下である。
特にセンダン科植物の抽出物中の有効成分については、分子量10000以下のものであるのが好ましく、より好ましくは、分子量4000〜10000又は3000以下であり、最も好ましくは約5千である。
水又は溶媒抽出物は、そのままの液体状態で使用することもできるが、乾燥し、粉末、顆粒などの固形状で用いることもできる。
本発明では特に水又は溶媒抽出物を用いるのが好ましく、さらに分子ふるい膜により精製したものが好ましく、特に、分子量10,000の限外ろ過膜を用いて精製したものを用いるのが好ましい。
【0010】
尚、上記植物又はその抽出物を含有する抗腫瘍剤とする場合、これらに加えて、医薬上許容される各種の製剤用物質、例えば、賦形剤、希釈剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤等を補助剤として含むことができる。具体的には、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、ラクトース、マンニトール及びその他の糖類、タルク、ミルク蛋白、ゼラチン、澱粉、セルロース及びその誘導体、動物及び植物油、ポリエチレングリコール、グリセロールなどがあげられる。
本発明の抗腫瘍剤は、経口投与によるのが好ましいが、これに限定されるものではない。本発明の抗腫瘍剤は、体重1Kg当たり、0.25〜2g程度の量で用いるのがよい。
又、上記植物又はその抽出物を含有する食品とする場合、健康食品や抗腫瘍活性を有する機能食品とすることができる。食品中の上記植物又はその抽出物は、特に限定されないが、0.01〜5質量%程度含有させるのがよい。
本発明によれば、各種腫瘍、特に、大腸癌、胃癌、肺癌、脳腫瘍及び腎癌に対して優れた抗腫瘍剤が提供される。
次に本発明を実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0011】
実施例1
植物成分の抽出
(a)センダン(Melia azedarach L.)の葉を採集して無乾燥の生の状態で秤量した後、60〜65℃の乾燥機で一晩乾燥させた。この乾燥葉をだし袋に入れ11倍(重量基準)の熱水を加え、3時間浸漬した。その後、袋を取り出し、市販の洗濯機で脱水し抽出液を得た。この抽出液をプラスチックの遠沈管に分注し、遠心分離機を用いて毎分6,500回転で30分遠心し、得られた上清をセンダンの粗画総成分とした。熱水による成分抽出に加え、クロロフォルム、イソプロピルアルコール、ベンゼン、エーテルの溶媒等も抽出実験に使用した。
(b)ショウキズイセン(Lycoris traubii Hayward)の根茎を生の状態で秤量した後、2〜3mmに細切し、60〜65℃の乾燥機で乾燥させた。この乾燥葉をだし袋に入れ11倍(重量基準)の熱水を加え、3時間浸漬した。その後、袋を取り出し、市販の洗濯機で脱水し抽出液を得た。この抽出液をプラスチックの遠沈管に分注し、遠心分離機を用いて毎分6,500回転で30分遠心し、得られた上清をショウキズイセンの粗画総成分とした。熱水による成分抽出に加え、クロロフォルム、イソプロピルアルコール、ベンゼン、エーテルの溶媒等も抽出実験に使用した。
(c)キョウチクトウ(Nerium indicum Mill)の葉を採集して無乾燥の生の状態で秤量した後、60〜65℃の乾燥機で一晩乾燥させた。この乾燥葉をだし袋に入れ11倍(重量基準)の熱水を加え、3時間浸漬した。その後、袋を取り出し、市販の洗濯機で脱水し抽出液を得た。この抽出液をプラスチックの遠沈管に分注し、遠心分離機を用いて毎分6,500回転で30分遠心し、得られた上清をキョウチクトウの粗画総成分とした。熱水による成分抽出に加え、クロロフォルム、イソプロピルアルコール、ベンゼン、エーテルの溶媒等も抽出実験に使用した。
【0012】
粗画総成分からの精製
上記方法で得られたそれぞれの粗画総成分から毒性成分の除去を行うために分子ふるい膜を利用して精製を行った。精製にはPellicon 2 ミニホルダー(MILLIPORE)に分子量10,000の限外ろ過膜(MILLIPORE)を装着しペリスタルチックポンプ(MILLIPORE)で粗画総成分を入口圧と出口圧の圧力を運転マニュアルの運転条件内(入口圧;0.5〜4kg/cm2, 出口圧;0.2〜1kg/cm2)に調節しながら送液し、透過側出口より出てきた液を回収した。さらにザルトリウスのミニザルト(0.22μm)でろ過滅菌後以下の試験に被検体として使用した。
【0013】
抗癌活性の測定
比較対照
比較対照として、すでに抗癌剤として広く使用されている市販のマイトマイシンC(協和発酵)を1mlあたり1mgとなるようにPBSに溶解させた。
細胞と培養
ヒトの大腸癌細胞(HT-29)、胃癌細胞(MKN1)および肺癌細胞(A549)は(財)癌研究会癌化学療法センター分子薬理部の矢守隆夫博士から分与を受け、それぞれの細胞を、5%ウシ胎児血清を含む市販のRPMI 1640(GIBCO)の培地を用い25cm2フラスコ(IWAKI)で継代維持した。
評価用細胞の培養
直径100mmのプラスチックシャーレ(IWAKI)に上記HT-29、MKN1およびA549細胞を5%ウシ胎児血清を含むRPMI 1640で培養し、2日後に細胞をマイナス燐酸緩衝食塩水(-PBS)で洗滌、これにトリプシン-EDTA(GIBCO)を加えて細胞を分散、次いで5%ウシ胎児血清を含むRPMI 1640に浮遊させ細胞数を算定した。上記3種の細胞濃度は1×105cells/mlに調製し、96穴(ウェル)の細胞培養用のプラスチックプレート(IWAKI)の1ウェルにつき0.1mlずつ分注し、37℃で24時間培養した。
【0014】
評価方法
試験管内(in vitro)での評価
センダン、ショウキズイセンおよびキョウチクトウ成分と比較対照のマイトマイシンCを血清の入っていないGIBCOのMinimum Essential Medium(MEM)で10-1から10-8まで希釈して評価に用いた。各検体の各希釈点につき前日に細胞を培養していたプラスチックプレートの2つのウェルに1ウェルあたり100μlずつ添加した。検体を分注して2日間培養後、各ウェルに50%のトリクロロ酢酸(TCA)を50μl加えて4℃で1時間静置した。次に水道水を200μl加えて洗滌してプレートを乾燥、それぞれのウェルにスルフォローダミン染色液を50μl加えて10分間静置、続いて1%酢酸を100μlずつ加えて洗滌してプレートを乾燥させた。最後に10mMのトリス(Tris[hidroxymethyl] aminomethane)液150μlを加えて毎分750回転で5分間振り、525nmの波長で吸光度を測定した。細胞の生存率は次のように算定した。
細胞の生存率=100×(各希釈点の被検体の平均吸光度−各希釈点に対応する培地対照の平均吸光度)/(細胞対照の平均吸光度−各希釈点に対応する培地対照の平均吸光度)
【0015】
実験動物(in vivo)での評価
実験動物をもちいて3種のヒト癌細胞(HT-29、MKN1およびA549)に対する被検体のin vivoでの抗腫瘍効果試験を行った。実験動物には日本エスエルシーより購入した4〜5週令のメスのヌードマウス(BALB/c nu/nu)を用いた。
移植細胞の調整および移植
上記3種の培養細胞を2×107cells/mlに調製しマウスの右背部皮下に0.05ml移植した。移植後、腫瘍が確認できる大きさに達した時点で腫瘍体積をデジタルノギスで計測し50〜150cm3に達したものをばらつきが少なくなるように群わけし、被検体の投与を開始した。腫瘍体積の算出は次のように算出した。
腫瘍体積=1/2×長径×短径2
被検体の投与および腫瘍測定
投与量はマウスの体重10gに対して0.1mlとし、経口ゾンデを用いて経口投与を28日間毎日行った。腫瘍体積の測定は4日に1回計測した。
効果の評価
腫瘍の増殖程度は腫瘍増殖率を用いて評価した。腫瘍増殖率は次の通り算出した。
腫瘍増殖率=X日における腫瘍体積 / 0日目における腫瘍体積
そして抗腫瘍効果の判定は対照群の腫瘍増殖率に対する被検体投与群の比を求めて判定した。
【0016】
副作用物質を排除したセンダン、ショウキズイセン並びにキョウチクトウ中に含有される抗癌成分の大腸癌、胃癌、肺癌細胞に対する殺傷効果を表1にまとめて示す。
【表1】

【0017】
表1の結果から、センダンの場合、大腸癌(HT-29)、胃癌(MKN1)、肺癌(A549)への50%細胞致死効果(log10-n)はそれぞれ3.43、2.31、<2であった。各活性の値はサンプルの調製時において少しずつ変動するが、いずれにしろ、3つの癌細胞に対する作用の程度はこの実験系では決して高いものではなかった。一方、ショウキズイセン単独では、大腸癌に対しての細胞致死率は4.11、胃癌には3.66そして肺癌細胞には3.88であるが、両者を併用すると細胞致死率は4.41、胃癌には3.94そして肺癌細胞には4.10となって、センダン単独の場合に比べて、癌細胞に対する効果は10倍から100倍近くまで活性が増強されることが示された。さらに興味がもたれたのは、ショウキズイセン単独の活性もセンダン成分を加えたことで大腸癌と胃癌細胞に対する効果が僅かに上昇していたことである。というのは、センダン成分との混合によってショウキズイセンの活性は希釈によって低下することが予想されたが、逆に上昇傾向が認められたことの意義は大きい。このことは、2つの成分による相乗効果の現われと考えられる。さらに、センダンにキョウチクトウの成分を加えた場合にも同様の効果が認められ、活性の増加は100倍近くから1,000倍以上にもなっていた。このことはキョウチクトウの成分単独よりも活性が強化されていることも確認された。このようなことを考えると、センダン、ショウキズイセン、キョウチクトウの3種混合による活性の強化は、例えば大腸癌に4.70、胃癌に4.67という高い数値は抗癌成分の相乗効果によるものであることが明らかである。
【0018】
抗癌スペクトルを表2に示す。
【表2】

【0019】
表2から、抗癌成分の混合により抗癌スペクトルが拡大することがわかる。すなわち、センダンの成分の各癌細胞への作用範囲は5種の大腸癌中3種で(KM-12、HT-29、HCT-116)、5種の肺癌中2種(DMS273、DMS114)、6種の胃癌中1種(MKN45)、2種の脳腫瘍中1種(SF-295)、並びに2つの腎臓癌中1種(RXF-631L)というように狭いスペクトルであることが示されたが、ショウキズイセン成分を加えると、使用した20種の癌細胞すべてを殺傷することが明らかになった。また、センダン成分とキョウチクトウ成分を混合すると、20種の癌細胞中19種に作用することも示された。以上のことから、3種の抗癌成分の組み合わせを変えることによって抗癌効果は、活性を強化するだけではなく、抗癌効果のスペクトルの拡大にも有意義に作用していることが明らかになった。
【0020】
抗癌メカニズムの病理学的解析
in vivoでの評価試験の終了時に実験に使用したヌードマウスを麻酔下で安楽死させ、移植した腫瘍部を採取しホルマリンあるいはグルタールアルデヒドで固定し病理学的解析に用いた。3〜4日間ホルマリン固定した材料は水洗し、脱水、透徹後にパラフィンで包埋し、ミクロトームで薄切後、ヘマトキシリン・エオジン染色を行い光学顕微鏡で観察した。また必要に応じて、抗Ki67抗体を用いた免疫染色あるいはアポトーシス検出のためにTUNEL染色を行った。グルタールアルデヒドで固定した材料はエポン樹脂で包埋しウルトラミクロトームで薄切し、電子顕微鏡観察に用いた。得られた電子顕微鏡写真を図1〜図3に示す。
図1は、センダン成分の治療によって殺傷されたマウスの腫瘍を形態学的に調べたものであるが、殺傷した腫瘍の周辺には多数のリンパ系細胞が集積し、電子顕微鏡によって調べた結果、これらの細胞の大部分はナチュラルキラー(Natural Killer, NK)細胞であることが明らかになった。図2はセンダンの成分で治療した癌細胞を形態学的に調べたものである。図からも明らかなように、癌細胞の核分裂は阻止され、最終的にこれらの細胞はアポトーシス(細胞死)の運命をたどっていることが明らかになった。図3は、キョウチクトウ成分で治療したマウスに形成されたヒトの胃癌であるが、致死した癌細胞は矢印で示したようにDNAが完全に崩壊していることが分かった。
これらの結果から、部分精製した複数の植物抗癌成分の併用により、抗癌活性が強化されるとともに抗癌スペクトルが大きく拡大することが明らかになったこと、さらにこの原因が異なるメカニズムによる相乗効果にあることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】センダン投与群の移植胃癌細胞(MKN1)に観察されたNK細胞の電子顕微鏡写真である。
【図2】センダン投与群の移植大腸癌細胞(HT-29)に観察された核分裂阻害(矢印)を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】キョウチクトウ投与群の移植胃癌細胞(MKN1)に観察されたアポトーシス(矢印)を示す電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)センダン科植物又はその抽出物及び(b-1)ヒガンバナ科植物又はその抽出物又は(b-2)キョウチクトウ科植物又はその抽出物を含有することを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項2】
(a)センダン科植物又はその抽出物、(b-1)ヒガンバナ科植物又はその抽出物、及び(b-2)キョウチクトウ科植物又はその抽出物を含有することを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項3】
センダン科植物の抽出物が、センダン科植物の葉、実、枝又樹皮の水性抽出物又は有機溶剤抽出物である請求項1又は2記載の抗腫瘍剤。
【請求項4】
ヒガンバナ科植物の抽出物が、ヒガンバナ科植物の葉、実、枝又樹皮の水性抽出物又は有機溶剤抽出物である請求項1又は2記載の抗腫瘍剤。
【請求項5】
キョウチクトウ科植物の抽出物が、キョウチクトウ科植物の葉、実、枝又樹皮の水性抽出物又は有機溶剤抽出物である請求項1又は2記載の抗腫瘍剤。
【請求項6】
センダン科植物がセンダンである請求項1、2又は3記載の抗腫瘍剤。
【請求項7】
ヒガンバナ科植物がショウキズイセンである請求項1、2又は4記載の抗腫瘍剤。
【請求項8】
キョウチクトウ科植物がキョウチクトウである請求項1、2又は5記載の抗腫瘍剤。
【請求項9】
抽出物が分子ふるい膜により精製されたものである請求項1〜8のいずれか1項記載の抗腫瘍剤。
【請求項10】
大腸癌、胃癌、肺癌、脳腫瘍又は腎癌を治療するためのものである請求項1〜9のいずれか1項記載の抗腫瘍剤。
【請求項11】
(a)センダン科植物又はその抽出物、(b-1)ヒガンバナ科植物又はその抽出物及び/又は(b-2)キョウチクトウ科植物又はその抽出物を含有することを特徴とする食品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−31071(P2008−31071A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205214(P2006−205214)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(503075459)
【Fターム(参考)】